(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-12
(45)【発行日】2024-01-22
(54)【発明の名称】作業機械
(51)【国際特許分類】
G01S 19/28 20100101AFI20240115BHJP
E02F 9/20 20060101ALI20240115BHJP
【FI】
G01S19/28
E02F9/20 N
(21)【出願番号】P 2020045822
(22)【出願日】2020-03-16
【審査請求日】2023-01-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】弁理士法人開知
(72)【発明者】
【氏名】菅原 一宏
(72)【発明者】
【氏名】泉 枝穂
(72)【発明者】
【氏名】小竹 伸一
【審査官】▲高▼場 正光
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-139933(JP,A)
【文献】特開2016-079677(JP,A)
【文献】特開平04-062490(JP,A)
【文献】特開平07-325141(JP,A)
【文献】特開2016-188792(JP,A)
【文献】特開2003-004838(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0258759(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0283674(US,A1)
【文献】特開2012-172427(JP,A)
【文献】国際公開第2015/173920(WO,A1)
【文献】特表2010-534849(JP,A)
【文献】国際公開第2015/167022(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 5/00 - G01S 5/14
G01S 19/00 - G01S 19/55
E02F 1/00 - E02F 9/28
A01B 1/00 - A01B 79/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下部走行体と、
前記下部走行体の上に旋回可能に取り付けられた上部旋回体と、
前記上部旋回体の前方に取り付けられ所定の動作平面上で動作する作業装置と、
前記作業装置及び前記上部旋回体に取り付けられた複数の姿勢センサと、
前記上部旋回体に固定され、複数の測位衛星からの衛星信号を受信するための2つのGNSSアンテナと、
前記2つのGNSSアンテナで受信される複数の衛星信号及び基準局から送信される補正データに基づいて、前記2つのGNSSアンテナのうち少なくとも1つのGNSSアンテナの位置と前記2つのGNSSアンテナ間の方位とを演算
する受信機と、
前記少なくとも1つのGNSSアンテナの位置、前記2つのGNSSアンテナ間の方位、及び前記複数の姿勢センサの検出信号に基づいて、前記作業装置の方位及び位置を演算するコントローラとを備えた作業機械において、
前記2つのGNSSアンテナは、それぞれ前記上部旋回体の上面における前記作業装置の後方の領域に位置し,前記作業装置の前後方向に間隔を介して配置されており、
前記コントローラは、前記2つのGNSSアンテナが前記複数の測位衛星から衛星信号を受信する際に前記作業装置が障害物となり得る範囲にマスク範囲を設定し、
前記受信機は、前記複数の測位衛星から前記コントローラで設定された前記マスク範囲に位置する測位衛星を除いた残りの測位衛星から送信される衛星信号に基づいて、前記少なくとも1つのGNSSアンテナの位置と前記2つのGNSSアンテナ間の方位を演算する
ことを特徴とする作業機械。
【請求項2】
請求項1の作業機械において、
前記コントローラは、演算された前記作業装置の方位に基づいて、前記複数の測位衛星から送信される衛星信号が前記2つのGNSSアンテナに到達するまでに前記作業装置によって遮蔽される得る第1の方位角の範囲と、前記複数の測位衛星から送信される衛星信号が前記作業装置に反射して前記2つのGNSSアンテナに受信され得る第2の方位角の範囲とに前記マスク範囲を設定する
ことを特徴とする作業機械。
【請求項3】
請求項1の作業機械において、
前記コントローラは、
前記複数の姿勢センサの検出信号に基づいて前記作業装置の上面の傾斜角を演算し、
演算された前記作業装置の方位と、前記複数の姿勢センサの検出信号とに基づいて、前記複数の測位衛星から送信される衛星信号が前記2つのGNSSアンテナに到達するまでに前記作業装置によって遮蔽される得る第1の方位角及び仰角の範囲を決定し、
演算された前記作業装置の方位と、演算された前記作業装置の上面の傾斜角とに基づいて、前記複数の測位衛星から送信される衛星信号が前記作業装置の上面に反射して前記2つのGNSSアンテナに受信され得る第2の方位角及び仰角の範囲を決定し、
前記第1の方位角及び仰角の範囲と前記第2の方位角及び仰角の範囲とに前記マスク範囲を設定する
ことを特徴とする作業機械。
【請求項4】
請求項1の作業機械において、
前記2つのGNSSアンテナは、それぞれ、前記作業装置の左右方向における左側最外端を通り前記動作平面に平行な第1仮想平面と、前記作業装置の左右方向における右側最外端を通り前記動作平面に平行な第2仮想平面とに挟まれた領域に位置し、前記作業装置の前後方向に間隔を介して配置されている
ことを特徴とする作業機械。
【請求項5】
請求項1の作業機械において,
前記2つのGNSSアンテナは、それぞれ、前記上部旋回体の上面と前記動作平面との交線の上方に配置されている
ことを特徴とする作業機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土木工事等に使用され、GNSSを用いて作業装置の位置検出を行う作業機械に関する。
【背景技術】
【0002】
ブーム,アーム及びバケットなどの複数のフロント部材を連結して構成される作業装置を備えた作業機械(例えば油圧ショベル)として、3次元施工図面から生成され施工目標の完成形状を規定する施工目標面を作業装置とともに運転室内のモニタに表示するマシンガイダンス機能や,作業装置が施工目標面を超えないように作業装置の動作(すなわちフロント部材を駆動するアクチュエータの動作)に制限をかけるマシンコントロール機能を備えたものが土木工事等で利用されている。
【0003】
この種の作業機械には、施工目標面と共通の座標系における作業装置の位置(例えばバケット先端位置)を演算するために、各フロント部材及び作業機械本体の姿勢を検出する複数の姿勢センサ(例えばIMU(Inertial Measurement Unit))と、GNSS(Global Navigation Satellite System)用の2つのアンテナ(GNSSアンテナ)とが搭載されることがある。作業装置の位置を演算する場合、2つのGNSSアンテナが受信した複数の衛星信号から、少なくとも一方のGNSSアンテナの位置と当該2つのGNSSアンテナ間の方位が演算される。そして、演算された位置と方位に、複数の姿勢センサの検出結果を組合わせることで作業装置の位置(例えば、作業現場に設定される現場座標系や地理座標系(グローバル座標系)における位置)が演算される。
【0004】
また、高い測位精度が要求されるGNSS測位では、RTK(Real Time Kinematic)-GNSS測位の利用が好ましい。この測位方式は、既知点に設置したGNSS基準局から無線送信される補正データを作業機械(移動局)で受信し、補正データを受信した作業機械(移動局)にて基準局との相対位置を算出し、既知点(基準局)の座標とあわせて作業機械(移動局)の3次元座標を求めるものである。2つのGNSSアンテナの方位は、2つのGNSSアンテナで受信したデータ(衛星信号)を比較することにより算出する。また、1つのGNSSアンテナで受信したデータから補正データを生成し、その補正データをもう1つのGNSSアンテナの受信機に送信して2つのGNSSアンテナ間の方位演算を行う方式であるムービングベースRTKの利用も可能である。
【0005】
施工目標面に対して精度の良い施工を行うためには、少なくとも一方のGNSSアンテナの位置と2つのGNSSアンテナ間の方位を高精度に求める必要がある。しかしながら、GNSS測位では、2つのGNSSアンテナの周囲に存在する障害物の影響により測位精度が低下することが知られている。このような課題に対して特許文献1では、カメラで取得した画像から建築物を抽出し、第1位置と第2位置間の距離及び第1位置及び第2位置における当該建築物の画像上の仰角θ1、θ2から当該建築物の実際の高さHを算出し、算出した建築物の実際の高さHと第2位置においてGNSS受信機10で取得したGNSS衛星の位置情報とに基づき、当該建築物がGNSS衛星からの電波を受信する際に障害になるか否かを判定し、障害になると判定した場合には当該GNSS衛星から受信している電波をマルチパスと判定して、当該GNSS衛星受信した電波の情報を用いないで測位演算を行う移動体測位装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで作業機械では、可動部位であるブームやアームがGNSSアンテナより高所に位置することがある。この場合のブームやアームは測位精度を悪化させる障害物となり得るが、これらの可動部位を特許文献1のようにカメラで検出するのはカメラの設置位置や処理負荷の関係で好適とは言えない。また、一般的にカメラを屋外で使用する場合、昼間の太陽光や夜間の作業灯のような強い光の影響により障害物を検出できないことがあり、そもそも安定的に障害物を検出できないという課題もある。
【0008】
本発明は、上記の課題を鑑みてなされたものであり、GNSSアンテナより高所に位置しうる作業装置を有する作業機械において、高精度で可用性の高い位置と方位を検出できる作業機械を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願は上記課題を解決する手段を複数含んでいるが、その一例を挙げるならば、下部走行体と、前記下部走行体の上に旋回可能に取り付けられた上部旋回体と、前記上部旋回体の前方に取り付けられ所定の動作平面上で動作する作業装置と、前記作業装置及び前記上部旋回体に取り付けられた複数の姿勢センサと、前記上部旋回体に固定され、複数の測位衛星からの衛星信号を受信するための2つのGNSSアンテナと、前記2つのGNSSアンテナで受信される複数の衛星信号及び基準局から送信される補正データに基づいて、前記2つのGNSSアンテナのうち少なくとも1つのGNSSアンテナの位置と前記2つのGNSSアンテナ間の方位とを演算する受信機と、前記少なくとも1つのGNSSアンテナの位置、前記2つのGNSSアンテナ間の方位、及び前記複数の姿勢センサの検出信号に基づいて、前記作業装置の方位及び位置を演算するコントローラとを備えた作業機械において、前記2つのGNSSアンテナは、それぞれ前記上部旋回体の上面における前記作業装置の後方の領域に位置し,前記作業装置の前後方向に間隔を介して配置されており、前記コントローラは、前記2つのGNSSアンテナが前記複数の測位衛星から衛星信号を受信する際に前記作業装置が障害物となり得る範囲にマスク範囲を設定し、前記受信機は、前記複数の測位衛星から前記コントローラで設定された前記マスク範囲に位置する測位衛星を除いた残りの測位衛星から送信される衛星信号に基づいて、前記少なくとも1つのGNSSアンテナの位置と前記2つのGNSSアンテナ間の方位を演算することとする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、測位結果から演算される作業装置の方位に基づいてマスク範囲を容易に設定できるとともに、GNSSアンテナの配置によってマスク範囲をコンパクトにできるで、高精度で可用性の高い位置と方位の検出が容易に可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施形態に係る作業機械の側面図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る作業機械の上面図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る作業機械のシステム構成図である。
【
図4】本発明の実施形態に係るブームに関する角度の説明図である。
【
図7】ブームを備える作業機械でのGNSS測位結果の一例を示す図。
【
図8】従来のアンテナ配置で設定すべきマスク範囲の説明図。
【
図9】比較例のアンテナ配置で設定すべきマスク範囲の説明図。
【
図10】本実施形態のアンテナ配置で設定すべきマスク範囲の説明図。
【
図11】従来のアンテナ配置で設定すべきマスク範囲の説明図。
【
図12】比較例のアンテナ配置で設定すべきマスク範囲の説明図。
【
図13】本実施形態のアンテナ配置で設定すべきマスク範囲の説明図。
【
図14】本実施形態のアンテナ配置で設定すべきマスク範囲の一例。
【
図15】従来のアンテナ配置で設定すべきマスク範囲(方位角の範囲)の一例。
【
図16】日本で観察可能なGNSS衛星軌道の天空図。
【
図17】GNSS衛星の配置と測位精度の目安となるDOPを算出した例である。
【
図18】本実施形態のアンテナ配置のときに作業装置によって衛星が遮蔽され得る仰角の範囲の説明図。
【
図19】本実施形態のアンテナ配置のときに作業装置によって衛星が反射され得る仰角の範囲の説明図。
【
図20】本実施形態のアンテナ配置で設定すべきマスク範囲(方位角と仰角の範囲)の一例。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下,本発明の実施の形態について図面を用いて説明する。以下の実施の形態は,作業機械としてクローラ式の油圧ショベルに本発明を適用したものであり,バケット先端と施工目標面の位置関係を運転室内のモニタに表示するマシンガイダンス機能と、バケット先端が施工目標面を超えないように作業装置の動作(すなわちフロント部材を駆動するアクチュエータの動作)に制限をかけるマシンコントロール機能とを有している。なお,各図において同じ部分には同じ符号を付し,重複した説明は適宜省略するものとする。
【0013】
(第1の実施形態)
<対象機械>
図1は第1の実施形態に係る油圧ショベル1及びGNSS基準局8の側面図であり、
図2は
図1の油圧ショベル1の上面図である。これらの図に示す油圧ショベル1は,クローラ式の走行体(下部走行体)2と,走行体2の上部に旋回可能に取り付けられた旋回体(上部旋回体)3と,一端(基端)が旋回体3の前方に取り付けられた多関節型のリンク機構よりなるフロント作業装置(単に「作業装置」と称することもある)6とを備えている。図中の符号30は地面を表す。
【0014】
フロント作業装置6は,一端が旋回体3に連結されたブーム6Aと,一端がブーム6Aの他端に連結されたアーム6Bと,一端がアーム6Bの他端に連結されたバケット6Cとを有しており,これら各フロント部材6A,6B,6Cは,それぞれ上下方向に回動するように構成されている。
【0015】
また,各フロント部材6A,6B,6Cの回動を行う駆動アクチュエータとして,ブームシリンダ11A,アームシリンダ11B,バケットシリンダ11Cが備えられている。旋回体3は図示しない旋回モータによって旋回中心軸Oを中心に旋回駆動される。
【0016】
ブーム6A、アーム6B及びバケット6Cは,フロント作業装置6を含む共通の平面上で動作し,以下ではこの平面を動作平面と称することがある。つまり動作平面とは,ブーム6A、アーム6B及びバケット6Cの回動軸に直交する平面であり,例えばブーム6A、アーム6B及びバケット6Cの幅方向の中心(すなわち各フロント部材6A,6B,6Cの回動軸の中心)に設定できる。本実施形態では,ブーム6A、アーム6B及びバケット6Cの幅方向の中心を通過する面を動作平面Po(
図2参照)とする。
【0017】
<姿勢センサ>
油圧ショベル1には,フロント作業装置6と旋回体3の姿勢を検出するための複数の姿勢センサ75A,75B,75C,23が備えられている。本実施形態では各姿勢センサに,角度(または角速度)と加速度を検出可能な慣性計測装置(IMU:Inertial Measurement Unit)を用いている。これら姿勢センサのうち,ブーム6Aにはブーム姿勢センサ75Aが,アーム6Bにはアーム姿勢センサ75Bが,バケット6Cにはバケット姿勢センサ75Cが取り付けられている(
図1参照)。また,旋回体3には旋回体姿勢センサ23が取り付けられており(
図1参照),それにより旋回体3の傾斜角度(ピッチ角及びロール角),旋回速度及び旋回角度を計測である。姿勢センサ75A,75B,75C,23の出力(検出信号)は,接続線を介して車載コントローラ40に入力されている。なお,フロント作業装置6の姿勢センサとしては,各フロント部材の回動角度を検出する角度センサを用いても良い。
【0018】
旋回体3には,オペレータによって操作される操作装置(図示せず),バケット6Cと施工目標面の位置関係等が表示されるモニタ60が設けられた運転席4と,複数の測位衛星(GNSS衛星)から衛星信号を受信するための2つのGNSSアンテナ50A,50Bと,基準局8から送信されるGNSS補正データを受信するための無線機7と,2つのGNSSアンテナ50A,50Bのうち少なくとも1つのGNSSアンテナの地理座標系(グローバル座標系)における位置座標と,2つのGNSSアンテナ50A,50B間の方位(すなわち旋回体3の方位)とを演算するGNSS受信機51と,GNSS受信機51で演算された位置及び方位と、複数の姿勢センサ75A,75B,75C,23の検出信号とに基づいて、フロント作業装置6上の所望の位置座標を演算するコンピュータである車載コントローラ40とが備えられている。なお,本実施形態では2つのGNSSアンテナ50A,50Bの位置及び旋回体3の方位角を1つのGNSS受信機で演算する構成を採っているが、2つのGNSSアンテナ50A,50Bのそれぞれに対応する2つのGNSS受信機51A,51Bを搭載する構成を採っても良い。
【0019】
<GNSS基準局>
油圧ショベル1の無線機7に対してGNSS補正データを無線送信するGNSS基準局8について説明する。地理座標系における座標位置が既知であるGNSS基準局8には,複数の測位衛星(GNSS衛星)から衛星信号を受信するためのGNSSアンテナ80と,GNSSアンテナ80で受信された衛星信号に基づいてGNSSアンテナ80の地理座標系における位置座標を演算するGNSS受信機81と,GNSSアンテナ80で受信された複数の衛星信号に基づいて無線機7に無線送信するためのGNSS補正データを生成する基準局コントローラ82と,基準局コントローラ82で生成されたGNSS補正データを無線機7に送信する無線機87が備えられている。GNSS基準局アンテナ80に接続したGNSS受信機81は,基準局コントローラ82を経由して無線機87よりGNSS補正データを無線送信する。無線機7で受信されたGNSS補正データをGNSS受信機51での測位に利用するとセンチメートル級の高精度な測位が可能となる。
【0020】
<GNSSアンテナ50の配置>
2つのGNSSアンテナ50A,50Bは,それぞれマスト(アンテナ支持部材)52a,52bを介して上部旋回体3に固定されており,上部旋回体3の上面におけるフロント作業装置6の後方の領域の上方にそれぞれ位置し,フロント作業装置6の前後方向に所定の間隔を介して配置されている。本実施形態の2つのGNSSアンテナ50A,50Bは,
図1等に示すように,上部旋回体3の上面(第1領域)と動作平面Poとの交線の上方に中心が位置するように配置されており,フロント作業装置6の前後方向に沿って配置されている。このように2つのGNSSアンテナ50A,50Bを配置すると,衛星からの電磁波がフロント作業装置6に遮蔽される領域を動作平面Poの延長面の近傍に限定でき,他の領域ではフロント作業装置6による電磁波の遮蔽は略行われないこととなる。
【0021】
2本のマスト52a,52bはそれぞれ上部旋回体3の上方でGNSSアンテナ50A,50Bを支持するためのポール状の支持部材である。本実施形態の2本のマスト52a,52bは,GNSSアンテナ50A,50Bと同様に上部旋回体3の上面(第1領域)と動作平面Poの交線上に配置されている。
図2に示した例では,各マスト52a,52bの基端は上部旋回体3の上面に固定されており,各マスト52a,52bは当該基端から略垂直に伸びている。そして各マスト52a,52bの先端には,中心部が軸方向に膨らんだ略円盤状の外形を有するGNSSアンテナ50A,50Bが取り付けられており,各マスト52a,52bは自身の中心軸心が各GNSSアンテナ50A,50Bの中心軸心を通過するように各アンテナ50A,50Bを支持している。なお,GNSSアンテナ50A,50Bの支持部材は,ポール状のマスト52a,52bに限らず,種々の形状の支持部材による支持が可能である。
【0022】
なお、2つのGNSSアンテナ50A,50Bの配置は次の場合も許容される。まず,2つのGNSSアンテナ50A,50Bは,フロント作業装置6の左右方向における左側最外端を通り動作平面Poに平行な第1仮想平面Pv1と,フロント作業装置6の左右方向における右側最外端を通り動作平面Poに平行な第2仮想平面Pv2とに挟まれた領域に位置するように配置することができる。ここで「フロント作業装置6の左右方向における左側最外端」とは,動作平面Poの左側(
図1の紙面上では動作平面Poの下側)に位置するフロント作業装置6を構成する全ての部材上の点で動作平面Poから最も遠い位置に存在する点であり,同様に「フロント作業装置6の左右方向における右側最外端」とは,動作平面Poの右側(
図1の紙面上では動作平面Poの上側)に位置するフロント作業装置6を構成する全ての部材上の点で動作平面Poから最も遠い位置に存在する点である。バケット6Cの左右方向の幅にもよるが,例えば,フロント作業装置6の左右方向における左側最外端と右側最外端は,
図2に示すようにバケット6Cの左側最外端と右側最外端となることがある。
【0023】
ただし,2つのGNSSアンテナ50A,50Bは,ブーム6Aの左右方向における左側最外端を通り動作平面Poに平行な第3仮想平面Pv3と,ブーム6Aの左右方向における右側最外端を通り動作平面Poに平行な第4仮想平面Pv4とに挟まれた領域に位置するように配置することが好ましい。すなわち、GNSSアンテナ50(50A,50B)はフロント作業装置6の後方のブーム6Aの最大幅内の「幅B」の内側に配置することが好ましい。このとき、GNSSアンテナ50A,50Bの中心点が「幅B」内にあればよい。これはフロント作業装置6を構成する部材の中で通常ブーム6Aが最も大きいため衛星からの電磁波(航法信号)を遮蔽する力が強く,GNSSアンテナ50A,50Bの測位誤差に与える影響が大きいためである。なお,「ブーム6Aの左右方向における左側最外端(右側最外端)」とは動作平面Poの左側(右側)に位置するブーム6A上の点で動作平面Poから最も遠い位置に存在する点である。
図1ではブーム6Aの左右幅は前後方向に一定であり第3,第4仮想平面Pv3,4はブーム6Aの左右側面に位置している。なお,例えば基端に向かって左右方向の幅が拡大しているブーム6Aであればブーム幅は基端で最大となるため,第3,第4仮想平面Pv3,4はそれぞれブーム6Aの基端における左右端を通過する平面となる。
【0024】
さらに,上記のような油圧ショベル1の左右方向の領域に2つのGNSSアンテナ50A,50Bを配置したうえで,2つのGNSSアンテナ50A,50Bはさらに次のように配置することが好ましい。すなわち,2つのGNSSアンテナ50A,50Bは,上部旋回体3の上面(すなわち第1領域及び第2領域)と動作平面Poとの交線の上方,または,上部旋回体3の上面(すなわち第1領域及び第2領域)と動作平面Poに平行な面との交線の上方に各GNSSアンテナ50A,50Bの中心が一直線上に位置するようにマスト52a,52bで支持して配置することが好ましい。
【0025】
<GNSS受信機51>
GNSS受信機51は、2つのGNSSアンテナ50A,50Bで受信される複数の衛星信号と、無線機7で受信されたGNSS補正データとに基づいて、2つのGNSSアンテナ50A,50Bのうち少なくとも1つのGNSSアンテナ(例えば、GNSSアンテナ50B)の地理座標系(グローバル座標系)における位置座標と,2つのGNSSアンテナ50A,50B間の方位(すなわち旋回体3の方位)とを演算する。
【0026】
複数の測位衛星からは送信時刻情報を含んだ電磁波(衛星信号)が送信されている。GNSS受信機51は,各GNSS衛星からの電磁波の受信時刻とその電磁波に含まれた送信時刻とから到達時間差を演算し,その到達時間差を基に各GNSS衛星とGNSSアンテナ50A,50B,80との距離を推測してGNSSアンテナ50A,50B,80の位置を算出する。GNSS衛星は精巧な時計を搭載しており,各衛星からの電磁波を復調して得られる到達時間差に電磁波の速度を乗算することにより各GNSS衛星とGNSSアンテナ間の距離が算出される。
【0027】
また,電磁波には各衛星の軌道情報を変調したものが含まれており,これを復調することで各GNSS衛星の位置情報をGNSS受信機51にて算出することができる。例えば3基の衛星からの電磁波をGNSSアンテナ50Aで受信した場合を平面で示すと,各衛星の軌道情報より求めた衛星位置を中心とし距離L1,L2,L3を半径とする3つの球を描いても1点には収束しない。これは距離L1,L2,L3に誤差が含まれるためであるが,最小二乗法によりGNSSアンテナ50Aの位置を推定できる。
【0028】
合計3基の衛星からの電磁波で平面上の位置(X,Y)を求めることができるが,合計で4基の衛星からの電磁波が受信できれば3次元空間での位置(X,Y,Z)が計測可能である。衛星が4基の場合は衛星位置を中心とし距離L1,L2,L3,L4を半径とする球は必ずしも1点で交差しないが,各球からの差が最も少なくなる点をGNSSアンテナ50Aの位置と推測できる。また,衛星数が4個以上ある場合も同様に各球からの差が最も少なくなる点をGNSSアンテナの位置と推測することができる。
【0029】
ここで,各衛星からの距離に応じた球の交点が1点にならない理由は,算出した各GNSS衛星と各GNSSアンテナとの距離に誤差が含まれるためである。この誤差は,GNSS衛星とGNSSアンテナ間に存在する電離層や水蒸気によって発生する電磁波の速度変化が方位や仰角が異なる各GNSS衛星の位置毎に異なることや,各GNSS衛星より電磁波で送られる軌道情報が実際の位置と若干異なることや,各GNSS衛星間の時計情報に若干の誤差があること等の要因により発生する。
【0030】
このような誤差はRTK-GNSS(リアルタイムキネマティックGNSS)を利用することで低減できる。例えば,油圧ショベル1の近くに(数km以内)設置した絶対位置が既知の基準局GNSSアンテナ80の測位とGNSS補正データの演算を基準局GNSS受信機81で行い,その補正データを無線機87にてショベル1の受信機51に送信する。そして2つのGNSSアンテナ50A(50B),80間の絶対位置ではなく相対位置(ベクトル)を測定することで誤差を低減することができる。
【0031】
無線機87より送信された補正データは,油圧ショベル1に搭載された無線機7で受信されGNSS受信機51に送信される。GNSS受信機51ではGNSSアンテナ50A(移動局)で受信した衛星信号と補正データより得た基準局GNSSアンテナ80の信号を比較演算することにより,基準局GNSSアンテナ80とGNSSアンテナ50A間の相対的な位置(方向と距離)を算出する。このとき,補正情報として基地局アンテナ80が受信した衛星からの衛星信号の搬送波位相情報を送信し,これを移動局アンテナ50Aが受信した衛星信号の搬送波位相情報とGNSS受信機51で比較演算する。これにより数cmオーダーの移動局アンテナ50Aの測位が可能となり,ほぼ一点に収束した高精度の相対測位が可能となる。さらに,前述した補正データのなかに基準局GNSSアンテナ80の位置情報を含めることで,移動局であるGNSSアンテナ50Aの絶対位置を求めることが可能となる。また,基準局GNSSアンテナ80とGNSSアンテナ50Aの距離が近距離(一般的に数km以内)の場合は,前述した誤差要因(電磁波の速度変化,各GNSS衛星間の時計情報誤差)をよく相殺することが可能となる。2つのGNSSアンテナ50A,50B間の方位や、もう1つのGNSSアンテナ50Bの位置についても同様に演算できる。GNSS受信機51はそれぞれのGNSSアンテナ50A,50Bの緯度,経度,ジオイド高さを含むNMEAフォーマットなどでGNSSアンテナ50A,50Bの測位結果を出力可能である。
【0032】
ところで,本実施形態のGNSS受信機51の測位対象には2つのGNSSアンテナ50A,50Bが存在するため,一方のGNSSアンテナ50Aを基準局とし他方のGNSSアンテナ50Bを移動局とみなすことができる。このような手法がムービングベース方式である。GNSSアンテナ50Aの受信信号にて生成した補正データをGNSSアンテナ50Bとの相対位置(ベクトル)の測定に利用することで2つのGNSSアンテナ50A,50B間の相対位置(ベクトル)を測定することが可能となる。ムービングベース方式では無線機87から送信される補正データを利用することなく相対位置(ベクトル)を演算可能である。
【0033】
また,別の方向算出方法として,基準局GNSSアンテナ80からGNSSアンテナ50AとGNSSアンテナ50Bの位置をそれぞれ演算して,その位置の差分から方向を求める方法もある。そして,このようにして演算した2つのGNSSアンテナ50A,50B間の方向に,ショベル1における2つのGNSSアンテナ50A,50Bの取り付け位置に起因した定数を考慮することにより,上部旋回体2(車体)及びフロント作業装置6の方角(方向)が算出可能である。
【0034】
また,本実施形態では基準局GNSSアンテナ80から補正データを無線送信して上部旋回体3やフロント作業装置6の方向を演算するシステムについて説明したが,VRS(仮想基準点方式)や準天頂衛星等の補正データをネットワークで配信するサービスを用いても良い。
【0035】
<車載コントローラ>
図3は
図1の油圧ショベルに搭載された車載コントローラ40の機能ブロック図である。
【0036】
車載コントローラ40は、GNSS受信機51で演算された2つのGNSSアンテナ50A,50Bの位置と旋回体3の方位と、複数の姿勢センサ75A,75B,75C,23の検出信号に基づいて、フロント作業装置6を構成する各フロント部材6A,6B,6Cの位置座標を演算するコンピュータである。
【0037】
車載コントローラ40は,演算処理装置(例えばCPU(図示せず)),記憶装置(例えば,ROM,RAM等の半導体メモリ)56,インタフェース(入出力装置(図示せず))を備えており,記憶装置56内に予め保存されているプログラム(ソフトウェア)を演算処理装置で実行し,プログラム内で規定されているデータとインタフェースから入力されたデータに基づいて演算処理装置が演算処理を行い,インタフェースから外部に信号(演算結果)を出力する。なお,GNSS受信機51,81も車載コントローラ40と同種のハードウェアを備えることができる。また、記憶装置56はコントローラ40から独立した装置としても良い。
【0038】
車載コントローラ40は,インタフェースを介して,GNSS受信機51,姿勢センサ75A,75B,75C,23,モニタ60,及び無線機7と接続されており、データの入出力が可能になっている。
【0039】
車載コントローラ40の記憶装置56には、例えば、油圧ショベル1の施工対象である施工目標面の位置を定義した施工目標面データ55と、車体形状寸法データと、演算処理装置によって実行される各種プログラム等が記憶されている。
【0040】
車載コントローラ40は,記憶装置56内に格納されたプログラムを実行することで,作業装置位置・姿勢演算部41、測位結果入力部42、衛星位置抽出部43、除外衛星決定部44、マスク範囲演算部45、マスク除去範囲演算部46、及びブーム背面角演算部47として機能する。
【0041】
ブーム背面角演算部47は,ブーム姿勢センサ75Aの出力から演算されたブーム角度値と、旋回体姿勢センサ23の傾斜角値(ピッチ角)と、記憶装置56に記憶されたブームのブーム背面オフセット角(車体形状寸法データ)の値とに基づいて、ブーム背面角を演算し、演算したブーム背面角をマスク除去範囲演算部46に出力する。ブーム背面角は水平面を基準としたブーム背面(ブーム上面)の角度である。ブーム背面角の演算に利用される車体寸法データとして、ブーム角度値とブーム背面角との差分であるブーム背面オフセット角θ1,θ2,θ3,θ4(
図4参照)が格納されている。
図1に示すように本実施形態のブームの形状は直線ではなく曲がった形状をしているため、複数のブーム背面オフセット角が格納されており、本実施形態では複数のブーム背面角を計算する場合がある。
図4はブーム背面とブーム背面オフセット角の説明図である。本実施形態のブーム6Aの背面は、
図4に例を示すよう、2つの直線(平面)と、当該2つの直線を補完するような曲線(曲面)で構成されているものとする。ブーム角度値は、ブーム6Aを上部旋回体3に接続する基端側の回動部のピン(ブームピン)と、ブーム6Aをアーム6Bに接続する先端側の回動部のピン(アームピン)とを動作平面Po上で結ぶ直線61が水平面となす角度である。ブーム背面オフセット角は、このピン間を結ぶ直線61と各ブーム背面がなす角度である。
図4の例では直線部分のオフセット角はθ1,θ4となる。一方,曲線部分は2つの直線(近似直線)で近似して各近似直線のオフセット角をθ2,θ3とした。このようにブーム背面オフセット角をブーム背面の形状に合わせて予め記憶しておき、それらと、検出した旋回体3の傾斜角(ピッチ角)及びブーム角度値とを利用すれば、ブーム背面角演算部47により各ブーム背面の角度であるブーム背面角を算出できる。
【0042】
マスク除去範囲演算部46は、複数の姿勢センサ(75A、75B、75C、23)の出力から演算される各フロント部材6A,6B,6Cの角度値に基づいて、衛星信号がブーム6Aによって遮蔽されることなくGNSSアンテナ50A,50Bに到達し得るGNSS衛星の位置(方位及び仰角)の範囲を演算する。また、ブーム背面角演算部47で演算されたブーム背面角に基づいて、衛星信号がブーム6Aの背面で反射されることなくGNSSアンテナ50A,50Bに到達し得るGNSS衛星の位置(方位及び仰角)の範囲を演算する。そして、演算した上記の2つの範囲を合併した範囲(マスク除去範囲)をマスク範囲演算部45に出力する。マスク除去範囲は、方位及び仰角の範囲で規定されており、油圧ショベル1に設定された車体座標系に設定できる。
【0043】
測位結果入力部42は、GNSS受信機51で演算される地理座標系における2つのGNSSアンテナ50A,50Bの位置データと,2つのGNSSアンテナ50A,50B間の方位データ(上部旋回体3の方位データ)とを入力する。
【0044】
マスク範囲演算部45は、測位結果入力部42から入力する上部旋回体3の方位データ(地理座標系における方位角)と、マスク除去範囲演算部46で演算されたマスク除去範囲(方位及び仰角)とに基づいて、2つのGNSSアンテナ50A,50Bが複数の測位衛星から衛星信号を受信する際に作業装置6が障害物となり得る範囲であるマスク範囲(方位及び仰角)を地理座標系において演算し、演算したマスク範囲を除外衛星決定部44に出力する。この「作業装置6が障害物となり得る範囲」には、複数の測位衛星から送信される衛星信号が2つのGNSSアンテナ50A,50Bに到達するまでに作業装置6によって遮蔽される範囲(第1の範囲)と、複数の測位衛星から送信される衛星信号が作業装置6に反射して2つのGNSSアンテナに受信され得る範囲(第2の範囲)とが含まれる。第1の範囲と第2の範囲は、方位角の範囲で定義される場合と、方位角及び仰角の範囲で定義される場合がある(詳細は後述)。
【0045】
衛星位置抽出部43は、GNSS受信機51が衛星信号を捕捉している複数の衛星の位置(地理座標系における仰角及び方位角)を抽出し、除外衛星決定部44に出力する。
【0046】
除外衛星決定部44は、マスク範囲演算部45で演算されたマスク範囲と、衛星位置抽出部43から入力するGNSS受信機51が捕捉している測位衛星の位置(仰角・方位角)とに基づいて、GNSS受信機51が測位演算に利用しない除外衛星を決定する。具体的には、除外衛星決定部44は、衛星位置抽出部43で抽出された複数の衛星の中からマスク範囲に位置する衛星を除外衛星として決定し、その除外衛星のリストをGNSS受信機51に出力する。
【0047】
GNSS受信機51は、除外衛星決定部44から出力される除外衛星のリストを取得し、その時点で衛星信号を捕捉可能な複数の測位衛星の中から当該リストに含まれる衛星を除外した衛星の衛星信号に基づいて、地理座標系における少なくとも1つのGNSSアンテナ50の位置と,2つのGNSSアンテナ50A,50B間の方位(上部旋回体3の方位)とを演算する。演算された位置と方位は測位結果入力部42に入力される。
【0048】
作業装置位置・姿勢演算部41は、測位結果入力部42から入力するGNSSアンテナ50A,50Bの位置及び上部旋回体3の方位と、複数の姿勢センサ(75A、75B、75C、23)の出力から演算される各フロント部材6A,6B,6Cの角度値及び上部旋回体3の傾斜角(ピッチ角及びロール角)と、記憶装置56に記憶された車体形状寸法データとに基づいて、作業装置6の位置及び姿勢(例えば、現場座標系におけるバケット6Cの先端位置及び姿勢)を演算する。作業装置6の位置及び姿勢の演算に利用される車体形状寸法データとしては、例えば、ブーム6Aの両端に位置する2つのピン間の長さ(ブームピン間長LB(
図4参照))と、アーム6Bの両端に位置する2つのピン間の長さ(アームピン間長)と、バケット6Cの先端とバケットピン間の長さ(バケット先端長)と、上部旋回体3における2つのGNSSアンテナ50A,50Bの位置関係を車体座標系における方位角で規定したGNSS取付オフセット方位角がある。
【0049】
モニタ60は、作業装置位置・姿勢演算部41で演算された現場座標系における作業装置6の位置及び姿勢データと、記憶装置56に記憶された現場座標系における施工目標面の位置データとに基づいて演算される作業装置6と施工目標面の位置関係を表示できる。この表示によりオペレータは施工目標面に対する作業装置6の位置・姿勢を容易に把握することができる。
【0050】
なお、車載コントローラ40により、作業装置位置・姿勢演算部41で演算された現場座標系における作業装置6の位置及び姿勢データと、記憶装置56に記憶された現場座標系における施工目標面の位置データとに基づいて、バケット先端が施工目標面を超えないように作業装置6の動作(すなわちフロント部材6A,6B,6Cを駆動するアクチュエータ11A,11B,11Cの動作)に制限をかけるマシンコントロールを実行しても良い。
【0051】
また、上記のマスク範囲演算部45はマスク範囲を方位角と仰角で規定したが、方位角だけでマスク範囲を規定しても良い。
【0052】
<マスク範囲の設定>
マスク範囲の説明に入る前に、GNSSでの位置計測原理を簡略化して説明する。GNSSでの位置は
図5のように複数のGNSS衛星200A,200B,200CからGNSSアンテナ50Aまでの距離L1,L2,L3を求めることで測定するものである。実際にはL1,L2,L3の距離は正確に測定することが困難であるため最小二乗法等で最も誤差が少なくなる位置が決定される。これはL1,L2,L3での誤差が均等に発生すると考えると妥当な位置になるが,どれか1つの衛星からの距離に大きな誤差が発生すると計測位置も大きな誤差が生ずる。
【0053】
例えば
図5の衛星配置でのGNSS衛星200CとGNSSアンテナ50Aの距離L3の演算に関し、GNSS衛星200CとGNSSアンテナ50Aとの間にブーム6Aが位置して電波を一部遮るので測位結果に誤差が発生する。また、
図6の衛星配置での距離L3の演算に関し、GNSS衛星200CとGNSSアンテナ50Aとの間にブーム6Aは位置しないが、GNSS衛星200CとGNSSアンテナ50A間を直線で伝搬する電波と、ブーム6Aに反射してGNSSアンテナ50Aに伝搬する電波とがあると、距離L3の誤差が大きくなり測位結果に誤差が生じる。このようにして発生する誤差は
図7の測位結果が示すようにブーム6Aのような障害物がある方位に大きくなることからも分かる。このような誤差は、各GNSSアンテナ50A,50Bからみて、ブーム6AがGNSS衛星を遮る方向(方位)に位置する衛星と、ブーム6AにてGNSS衛星からの信号がGNSSアンテナに反射される方向(方位)に位置する衛星とを使用せずに測位演算をすることで大幅に軽減できる。
【0054】
次に、マスク範囲演算部45によるマスク範囲設定の詳細について説明する。マスク範囲は、フロント作業装置6の方位と姿勢を考慮しながら、フロント作業装置6による測位信号の遮蔽と反射を考慮して設定することが好ましい。しかし、以下では、まず、フロント作業装置6の姿勢(さらに具体的には、マスク除去範囲演算部46で演算されるマスク除去範囲)は考慮せず、フロント作業装置6の方位のみを考慮することで、方位角の範囲にマスク範囲を設定する場合から説明する。
【0055】
(1)作業装置6の方位を考慮したマスク範囲の設定
(1-1)作業装置6により衛星信号が遮蔽される範囲に基づくマスク範囲
まず、作業装置6によって衛星信号が「遮蔽」される方位角の範囲とアンテナ配置の関係について
図8,9,10を用いて説明する。
図8は2つのGNSSアンテナの配置が従来の場合に設定すべきマスク範囲Ram1の説明図であり、
図9は2つのGNSSアンテナをブーム側面の延長面上に配置した場合に設定すべきマスク範囲Ram2の説明図であり、
図10は2つのGNSSアンテナの配置が
図2の場合(すなわち本実施形態の場合)に設定すべきマスク範囲Ram3の説明図である。
【0056】
図8に示す従来技術のように、上部旋回体の左右方向にブーム幅(
図2のB参照)より大きい間隔をあけて配置された2つのGNSSアンテナ50a,50bが搭載されている場合には、いずれかのGNSSアンテナ50a,50bに到達する衛星からの電波(衛星信号)に障害物(例えばブーム)による遮蔽があっても測位精度が悪化する。このため,電波が障害物に遮蔽される範囲に位置する衛星は、測位に利用する衛星から除外することが好ましい。そこで
図8の場合に設定すべきマスク範囲は図中の矢印で示した範囲Raz1となる。この範囲Raz1は、2つのアンテナ50a,50bに到達するGNSS衛星電波の一部をブームが遮蔽し得る方位角の範囲を示している。このように従来技術では比較的広い範囲の衛星が遮蔽される可能性がある。
【0057】
次に
図9に示すように、2つのGNSSアンテナ50a,50bをブームの後ろ側においてブームの左右の側面の延長面上に位置するように配置した場合(この場合の両アンテナの左右方向の間隔はブーム幅Bとなる)には、ブームがGNSS衛星電波の一部を遮蔽する方位角の範囲(すなわちマスク範囲)は範囲Raz2となる。範囲Raz2は従来の範囲Raz1(
図8)より小さくなる。
【0058】
図10に示すように、2つのGNSSアンテナ50A,50Bをブーム6Aの後方の領域に収まるように油圧ショベル1の前後方向に一列に配置した場合(本実施の形態の場合)には、ブームがGNSS衛星電波の一部を遮蔽する方位角の範囲は
図9の場合よりも狭い範囲Raz3となる。そこで本実施形態のマスク範囲演算部45は、範囲Raz3にマスク範囲を設定する。なお、マスク範囲Raz3は、各GNSSアンテナ50A,50Bの中心から延びる放射状の直線を描くとき、作業装置6(ブーム6Aだけでも良い)と交差する直線が描ける方位角の範囲に設定できる。本実施形態のようなアンテナ配置にすれば、
図8,9,10に示した3つの例の中でマスク範囲を最も狭くできる。
【0059】
(1-2)作業装置6により衛星信号が反射される範囲に基づくマスク範囲
次に、作業装置6によって衛星信号が「反射」される方位角の範囲とアンテナ配置の関係について
図11,12,13を用いて説明する。なお、
図11,12,13のアンテナ配置は
図8,9,10のアンテナ配置に一致する。
【0060】
図11の従来技術のようなアンテナ配置の場合には、ブームだけでなくアームでの反射波も影響を与える可能性がある。また、ブームやアームの側面での反射波も影響を与えるためブーム(油圧ショベル1)の前方の衛星も考慮する必要がある。そのため、設定すべきマスク範囲は、ショベル後方の範囲Rar11と、ショベル前方の範囲Rar12の2つとなる。なお、ショベル後方の範囲Rar11はアンテナ50a,50bが作業装置6の動作平面Po(
図2参照)から離れるにつれて大きくなる傾向がある。
【0061】
次に
図12のアンテナ配置の場合には、アームでの反射波はブームにて遮られるために影響はなく、ブームやアームの側面の反射波もブームの幅内にアンテナ50a,50bを配置したため到達しない。このため、設定すべきマスク範囲はショベル後方の範囲Rar2のみとなる。
【0062】
最後に
図13に示す本実施形態のアンテナ配置の場合には、反射波が到達し得る範囲が
図12に示したマスク範囲Rar2よりもさらに狭い範囲Rar3となる。そこで本実施形態のマスク範囲演算部45は、範囲Rar3にマスク範囲を設定する。なお、マスク範囲Rar3は、複数の測位衛星から送信される衛星信号が作業装置6(ブーム6Aだけでも良い)に反射して2つのGNSSアンテナ50A,50Bのいずれかに受信され得る方位角の範囲に設定できる。本実施形態のようなアンテナ配置にすれば、
図11,12,13に示した3つの例の中でマスク範囲を最も狭くできる。
【0063】
(1-3)作業装置6による遮蔽と反射に基づくマスク範囲(方位角の範囲)
上記を踏まえて、本実施形態のマスク範囲演算部45が作業装置6の方位を考慮して設定するマスク範囲は
図14に示した範囲Ram3と範囲Rar3を合併した範囲となる。ただし、
図14は作業装置6(上部旋回体3)の方位が東を向いているときのマスク範囲であり、実際の処理ではマスク範囲演算部45は、測位結果入力部42から入力される上部旋回体3の方位に合わせてマスク範囲を回転させる。すなわち、例えば作業装置6が北を向いている場合には、
図14のマスク範囲を左回りに90度回転させたものが実際のマスク範囲となる。
【0064】
なお、
図14のマスク範囲では、測位精度を向上させる観点から、仰角がゼロに近い所定の範囲(図の例で仰角がゼロから15度の範囲)Rel0をマスク範囲に加えているが、この範囲Rel0はマスク範囲演算部45が設定するマスク範囲から削除可能である。
【0065】
(1-4)本実施形態の効果1
以上のように、本実施形態の油圧ショベル1では、2つのGNSSアンテナ50A,50Bを、それぞれ上部旋回体3の上面における作業装置6の後方の領域に位置して、作業装置6の前後方向に間隔を介して配置しつつ、GNSS受信機51で演算された作業装置6の方位に基づいて、複数の測位衛星から送信される衛星信号が2つのGNSSアンテナ50A,50Bに到達するまでに作業装置6によって遮蔽される得る方位角の範囲(第1の範囲)Ram3と、複数の測位衛星から送信される衛星信号が作業装置6に反射して2つのGNSSアンテナ50A,50Bに受信され得る方位角の範囲(第2の範囲)Rar3とにマスク範囲を設定することとした。
【0066】
このような構成した油圧ショベル1によれば、GNSS受信機51の測位結果から演算される作業装置6の方位に基づいてマスク範囲を容易に設定できるので、例えば特許文献1のようにカメラによる障害物検出に基づいてマスク範囲を設定する場合に比べてコントローラの処理負荷を小さくでき、昼間の太陽光や夜間の作業灯のような強い光の影響等を受けることなくマスク範囲が設定できるので、高精度な位置と方位角の検出が容易に可能となる。さらに、GNSSアンテナ50A,50Bをブーム6Aの後方の領域に作業装置6の前後方向に沿って配置したことにより、従前のアンテナ配置で設定される
図15のマスク範囲(
図8の範囲Ram1と
図11の範囲Rar11を合併した範囲)よりも狭小なマスク範囲(
図14参照)が設定されるので、測位演算の際に除外される衛星数を最小限に抑えることができ、衛星数の減少による測位精度の劣化が発生し難く、可用性の高い高精度な位置と方位の検出が可能となる。
【0067】
ところで、一般的に、GNSS衛星の衛星軌道は北極や南極の高緯度地域上空には飛来せず中緯度地域上空を周回する。
図16に日本で観察可能なGNSS衛星軌道の天空図を示す。この図に示すように、北半球に位置する日本では北方向の低仰角で衛星の観察ができず、衛星が飛来しない範囲も存在し得る。したがって、実際に測位演算に利用可能な衛星が存在する範囲は、マスク範囲を除外した範囲からさらに限定されることになる。このような観点からも、本実施形態のように狭小なマスク範囲が設定されることは大きなメリットとなる。
【0068】
また、
図17はGNSS衛星の配置と測位精度の目安となるDOP(Dilution Of Precision(精度低下率))を算出した例である。図中の黒丸が衛星位置を示す。
図17の右図のように衛星が3方向以上に概ね均等に配置された場合は水平方向のDOP(HDOP)が1.1であるのに対して、
図17の左図のように衛星配置が2方向に偏る場合はHDOPが2.42となっており、右図に比して2倍以上精度が劣化する。従前のアンテナ配置をして
図15に示すマスク範囲に基づいて衛星を除外する場合、
図17の左図のような偏りが生じる可能性が大きい。これに対して本実施形態のアンテナ配置では、設定されるマスク範囲が狭小なため、
図17の左図のような偏りは生じにくく、衛星数の減少により測位精度が劣化しにくく可用性の高い高精度な位置と方位の検出が可能となる。
【0069】
なお、マスク範囲は2つGNSSアンテナ50A,50Bごとに異なるものを設定しても良いが、2つのGNSSアンテナ50A,50Bで共通のものを設定することが好ましい。後者の場合には2つのGNSSアンテナ50A,50Bの測位に共通の衛星を利用できるので測位精度が向上し得る。従前のアンテナ配置で2つのアンテナに共通のマスク範囲を設定すると測位に利用可能な衛星が極端に減少して測位精度に大きな影響を与える可能性があるが、本実施形態で設定されるマスク範囲は
図14に示すように従前に比して極めて狭小なので2つのアンテナに共通のマスク範囲を設定しやすく、測位精度を向上しやすいというメリットがある。
【0070】
(2)フロント作業装置6の方位と姿勢を考慮したマスク範囲の設定
次に、フロント作業装置6の姿勢(具体的にはブーム背面角演算部47で演算されるブーム背面角)と方位の双方を考慮することで、方位角及び仰角の範囲にマスク範囲を設定する場合について説明する。
【0071】
ここでは、マスク範囲演算部45は、上記(1)の説明に従ってフロント作業装置6の方位を考慮して設定したマスク範囲(
図14の範囲Ram3と範囲Rar3を合併した範囲)から、フロント作業装置6の姿勢を考慮してマスク除去範囲演算部46で演算されるマスク除去範囲を除去することで、フロント作業装置6の方位と姿勢を考慮したマスク範囲(後述の
図20参照)を設定する。
【0072】
(2-1)作業装置6により衛星信号が遮蔽される範囲に基づくマスク範囲
図18は本実施形態のアンテナ配置のときに作業装置6によって衛星が遮蔽され得る仰角の範囲の説明図である。この図に示すように、ブーム6Aやアーム6Bによって衛星が遮蔽される範囲は、ブーム6Aやアーム6Bの姿勢によって変化する。この場合、衛星が遮蔽され得る仰角の範囲の最大値(上限値)は、2つのGNSSアンテナ50A,50Bのうち作業装置6(ブーム6A)に近いGNSSアンテナ50Aの基準点(例えば、アンテナ50Aの中心点)を通過し、作業装置6に接する直線(作業装置6に対する接線)Lcが水平面となす角度θeに一致する。すなわち、
図18の例では、マスク除去範囲演算部46は、アンテナ50Aの中心点を通過し、作業装置6と接点Pc1で接する破線で示した直線Lcを算出し、その直線Lcが水平面となす角度θeを「衛星が遮蔽される仰角の範囲の最大値」とする。そして、マスク除去範囲演算部46は、GNSSアンテナ50Aからショベル前方側において仰角がθeを超える範囲をマスク除去範囲として演算する。その際、複数の姿勢センサ(75A、75B、75C、23)の出力から演算される各フロント部材6A,6B,6Cの角度値からその時刻の作業装置6の姿勢が特定でき、これに既知の各フロント部材6A,6B,6Cの形状を考慮することで接線Lcと角度θeが特定できる。
【0073】
なお、
図18の例では、その時刻の各フロント部材6A,6B,6Cの姿勢からマスク除去範囲を決定したが、各フロント部材6A,6B,6Cの最大可動範囲を基準にして接線Lc及び角度θeを決定しても良い。後者の場合、作業中に各フロント部材6A,6B,6Cが動作してもマスク範囲が変化することが無いので測位精度が安定し得る。
【0074】
(2-2)作業装置6により衛星信号が反射される範囲に基づくマスク範囲
次に作業装置6により衛星信号が反射される仰角の範囲の算出方法について
図19を用いて説明する。ここではブーム背面角演算部47の説明で触れたようにブーム6Aを4本の線分(直線)で近似し、各線分の端点を
図19に示すようにPB1~PB5と設定した。ここで、2点PB1,PB2を通過する直線(直線PB1-PB2)で規定されるブーム背面で衛星信号が反射する場合を検討すると、ブーム6Aに近いGNSSアンテナ50Aの測位に影響を与える反射波は点PB1から点PB2の間で反射する。この場合、GNSSアンテナ50Aよりも高い点PB2で反射してGNSSアンテナ50Aに到達する衛星信号の仰角θsを演算すればマスク除去範囲を演算できる。まず、直線PB1-PB2の傾斜角θbはブーム背面角演算部47にて算出可能である。同様に車体座標系における点PBの位置とGNSSアンテナ50Aの取付位置とから、GNSSアンテナ50Aの中心点と点PB2を通過する直線の仰角θgが算出可能である。このとき、マスク除去範囲演算部46は、直線PB1-PB2と点PB2で反射しGNSSアンテナ50Aに到達する可能性のある衛星の仰角θsを次式(1)に基づいて算出する。
【0075】
θs=θg+(90-θb) …式(1)
【0076】
仰角θsの範囲は0~90度で考えればよい。点PB1での仰角は0以下になるため、直線PB1-PB2で反射する反射波が影響を及ぼす仰角範囲は0~θsである。したがって、マスク除去範囲演算部46は、ブーム背面角演算部47で演算されたブーム背面角に基づいて、衛星信号がブーム6Aの背面(ただし、直線PB1-PB2の間)で反射されることなくGNSSアンテナ50Aに到達し得るGNSS衛星の方位及び仰角の範囲として、仰角がθsを超える範囲を演算する。同様に直線PB2-PB3、直線PB3-PB4、直線PB4-PB5で衛星信号が反射されことなくGNSSアンテナ50Aに到達し得る範囲を演算し、マスク除去範囲を演算する。
図19の作業装置6(ブーム6A)の姿勢では、マスク除去範囲演算部46は、GNSSアンテナ50Aからショベル後方側において仰角がθsを超える範囲を最終的なマスク除去範囲として演算する。
【0077】
(2-3)作業装置6による遮蔽と反射に基づくマスク範囲(方位角及び仰角の範囲)
上記を踏まえて、本実施形態のマスク範囲演算部45が作業装置6の方位と姿勢を考慮して設定するマスク範囲は
図20に示した範囲Ram3’と範囲Rar3’を合併した範囲となる。
図20は、
図18の仰角θeが60度、
図19の仰角θsが45度の場合を示し、範囲Ram3’は
図14の範囲Ramから仰角が60度を超える領域を除去した範囲であり、範囲Rar3’は
図14の範囲Rarから仰角θsが45度を超える領域を除去した範囲である。
【0078】
なお、
図20は
図14と同様に作業装置6(上部旋回体3)の方位が東を向いているときのマスク範囲であり、実際の処理ではマスク範囲演算部45は、測位結果入力部42から入力される上部旋回体3の方位に合わせてマスク範囲を回転させる。また、範囲Rel0は削除可能である。
【0079】
(2-4)本実施形態の効果2
以上のように、本実施形態の油圧ショベル1では、前記複数の姿勢センサ(75A、75B、75C、23)の検出信号に基づいてブーム6A(作業装置6)の上面の傾斜角を演算し、GNSS受信機51の測位結果から演算された作業装置6の方位と、複数の姿勢センサ(75A、75B、75C、23)の検出信号とに基づいて、複数の測位衛星から送信される衛星信号が2つのGNSSアンテナ50A,50Bに到達するまでに作業装置6によって遮蔽される得る方位角及び仰角の範囲(第1の範囲)Ram3’を決定し、演算された作業装置6の方位と、演算されたブーム6Aの上面の傾斜角とに基づいて、複数の測位衛星から送信される衛星信号がブーム6Aの上面に反射して2つのGNSSアンテナ50A,50Bに受信され得る方位角及び仰角の範囲(第2の範囲)Rar3’を決定し、第1の範囲Ram3’と第2の範囲Rar3’とにマスク範囲を設定することとした。
【0080】
このような構成した油圧ショベル1によれば、作業装置6の方位のみを考慮して設定した
図14のマスク範囲と比較して、仰角の範囲においてマスク範囲を縮小できるので、測位計算に使用しない衛星数を少なくできる。そのためより測位精度が劣化しにくく可用性の高い高精度な位置と方位の検出が可能となる。
【0081】
<その他>
なお、本発明は、上記の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内の様々な変形例が含まれる。例えば、本発明は、上記の実施の形態で説明した全ての構成を備えるものに限定されず、その構成の一部を削除したものも含まれる。また、ある実施の形態に係る構成の一部を、他の実施の形態に係る構成に追加又は置換することが可能である。
【0082】
例えば、上記では
図20のマスク範囲(作業装置6の方位と姿勢を考慮したマスク範囲)を測位に利用したが、
図14のマスク範囲(作業装置6の方位を考慮したマスク範囲)を利用してもよい。この場合、コントローラ40からブーム背面角演算部47と、マスク除去範囲演算部46は省略可能である。
【0083】
また、上記では作業装置6の方位に基づいてまず
図14のマスク範囲を設定し、
図18及び
図19を用いて説明したマスク除去範囲を決定し、そのマスク除去範囲を
図14のマスク範囲から除去することで最終的な
図20のマスク範囲を決定したが、
図14のマスク範囲を経由することなく最初から
図20のマスク範囲を決定しても良い。
【0084】
また、上記のコントローラ40に係る各構成や当該各構成の機能及び実行処理等は、それらの一部又は全部をハードウェア(例えば各機能を実行するロジックを集積回路で設計する等)で実現しても良い。また、上記のコントローラ40に係る構成は、演算処理装置(例えばCPU)によって読み出し・実行されることでコントローラ40の構成に係る各機能が実現されるプログラム(ソフトウェア)としてもよい。当該プログラムに係る情報は、例えば、半導体メモリ(フラッシュメモリ、SSD等)、磁気記憶装置(ハードディスクドライブ等)及び記録媒体(磁気ディスク、光ディスク等)等に記憶することができる。
【0085】
また、上記の各実施の形態の説明では、制御線や情報線は、当該実施の形態の説明に必要であると解されるものを示したが、必ずしも製品に係る全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には殆ど全ての構成が相互に接続されていると考えて良い。
【符号の説明】
【0086】
1…油圧ショベル、2…走行体(下部走行体)、3…旋回体(上部旋回体)、4…運転席、6…フロント作業装置(作業装置)、6A…ブーム、6B…アーム、6C…バケット、7…無線機、8…基準局、10…GNSS受信機、11A…ブームシリンダ、11B…アームシリンダ、11C…バケットシリンダ、23…旋回体姿勢センサ(姿勢センサ)、40…車載コントローラ(制御装置)、41…作業装置位置・姿勢演算部、42…測位結果入力部、43…衛星位置抽出部、44…除外衛星決定部、45…マスク範囲演算部、46…マスク除去範囲演算部、47…ブーム背面角演算部、50A…GNSSアンテナ、50B…GNSSアンテナ、51…GNSS受信機、52a…マスト(アンテナ支持部材)、52b…マスト(アンテナ支持部材)、55…施工目標面データ、56…記憶装置、60…モニタ、75A…ブーム姿勢センサ、75B…アーム姿勢センサ、75C…バケット姿勢センサ、80…GNSS基準局アンテナ、81…基準局GNSS受信機、82…基準局コントローラ、87…無線機、200A…GNSS衛星、200B…GNSS衛星、200C…GNSS衛星