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特許7419120角層剥離改善剤及びそのスクリーニング方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-12
(45)【発行日】2024-01-22
(54)【発明の名称】角層剥離改善剤及びそのスクリーニング方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/68 20060101AFI20240115BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20240115BHJP
   G01N 33/15 20060101ALI20240115BHJP
   C12Q 1/37 20060101ALI20240115BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20240115BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20240115BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240115BHJP
   A61K 8/9789 20170101ALI20240115BHJP
   A61Q 19/08 20060101ALI20240115BHJP
   A61K 36/185 20060101ALI20240115BHJP
【FI】
G01N33/68
G01N33/50 Z
G01N33/15 Z
G01N33/50 Q
C12Q1/37
A61P17/00
A61K45/00
A61P43/00 105
A61K8/9789
A61Q19/08
A61K36/185
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020046374
(22)【出願日】2020-03-17
(65)【公開番号】P2021148492
(43)【公開日】2021-09-27
【審査請求日】2022-10-19
(73)【特許権者】
【識別番号】591230619
【氏名又は名称】株式会社ナリス化粧品
(72)【発明者】
【氏名】森田 哲史
【審査官】倉持 俊輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-119665(JP,A)
【文献】特開平08-068791(JP,A)
【文献】特開2016-037501(JP,A)
【文献】国際公開第2004/095022(WO,A1)
【文献】Keigo KAWABATA et al.,The presence of Nε-(Carboxymethyl) lysine in the human epidermis,Biochimica et Biophysica Acta (BBA) - Proteins and Proteomics,2011年10月,Vol.1814, No.10,pp.1246-1252,https://doi.org/10.1016/j.bbapap.2011.06.006
【文献】Keigo KAWABATA et al.,THE PRESENCE OF Nε-(CARBOXYMETHYL) LYSINE IN THE EPIDERMIS AND ADVERSE EFFECTS ON SKIN FUNCTIONS,IFSCC 2012ヨハネスブルグ大会講演要旨,2012年
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/50,33/68,
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)角層細胞接着因子と、候補素材を含む被験溶液または候補素材を含まないブランク溶液を混合する工程
(2)タンパク質を修飾する反応を施す工程
及び、
(3)角層細胞接着因子の状態を測定する工程
を含む角層剥離改善剤のスクリーニング方法。
【請求項2】
(1)角層細胞接着因子と、候補素材を含む被験溶液または候補素材を含まないブランク溶液を混合する工程
(2)タンパク質を修飾する反応を施す工程
(3)角層細胞接着因子の分解酵素を添加する工程
及び、
(4)角層細胞接着因子の状態を測定する工程
を含む角層剥離改善剤のスクリーニング方法。
【請求項3】
タンパク質を修飾する反応が、糖化、カルボニル化、またはニトロ化の中から選ばれる1種以上である請求項1又は2に記載のスクリーニング方法。
【請求項4】
角層細胞接着因子がデスモグレインである請求項1~3のいずれか一項に記載のスクリーニング方法。
【請求項5】
角層細胞接着因子の状態が、以下から選択される少なくとも1種以上である請求項1~4のいずれか一項に記載のスクリーニング方法。
(1)角層細胞接着因子の凝集及び/又は高分子化
(2)可視的に凝集高分子化していない角層細胞接着因子に対する角層細胞接着因子分解酵素処理により生じた角層細胞接着因子の分解
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の方法を用いて候補素材の角層剥離改善効果を評価する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、角層剥離改善剤及びそのスクリーニング方法に関する。より詳細には、タンパク質の修飾による角層細胞接着因子の状態変化の制御作用等を有する角層剥離改善剤、及び当該制御作用等指標として角層剥離改善剤をスクリーニングする方法、に関する。
【背景技術】
【0002】
角層は皮膚の最表層に位置し、生体と外部環境の間の物理的・化学的バリアとして機能するほか、皮膚の質感や外観を調整し、健康的な生体や皮膚の維持にとって、健常な角層の維持は不可欠である。この健常な角層の維持においては、表皮ターンオーバー、すなわち、表皮基底層における表皮細胞の増殖と角化、角層剥離の過程(角層剥離の過程は落屑とも呼ばれる)が適切に進行することが重要である。中でも角層剥離は、種々の酵素によって細胞接着因子の分解が複雑に制御された過程であり、それら分子の量や機能が精密に制御されている必要がある。
【0003】
正常な皮膚では、角層の細胞同士を接着している細胞接着因子の分解がスムーズに行われるため、角層の最外層では角層の細胞同士の接着が弱くなり、自然な剥離が行なわれる。一方、表皮細胞の異常な増殖亢進や酵素活性の低下、角層剥離酵素抑制因子の異常などは、細胞接着因子分解過程の精密な制御を乱し、皮膚の粗い質感や外観、皮膚疾患の原因となる。また、上記異常などが局所的に生じることによって、異常を来していない、周囲の皮膚との違いが外観上明確に認識されるため、角層剥離の異常は美容上、特に好ましくない。従って、健康的な生体や皮膚の維持にとって、正常な角層剥離過程の維持は極めて重要である。
【0004】
特許文献1において、保湿剤は、角層の落屑にも関与し、健全な皮膚を維持する上で、一定の効果を果たすことが知られているが、皮膚上のキモトリプシン様酵素やトリプシン様酵素の酵素活性が低下しているような場合には、保湿剤の使用のみによっては、十分に角層が剥離させることが困難な場合が多く認められることが開示されている。また、特許文献2において、皮膚表面形状のケアとして、一般的には保湿剤や角質ケア剤が使われるが、それぞれ、保湿剤は効果発現が比較的遅く効果実感が得られにくい、角質ケア剤は刺激性がある等が課題となっており、皮膚表面形状を早期に改善し、その改善効果を実感でき、安全に使用できる改善技術が必要であることが述べられている。しかしながら、どちらの特許文献においても、角層剥離酵素の活性化を作用対象とし、生体由来の角層剥離酵素を含むと目される日焼けしたヒト皮膚から得た角層あるいは健常なヒト皮膚そのものに被験試料を1週間という長期間適用し、細胞接着因子であるデスモグレインの残存度を測定することによって被験試料の有用性を評価しており、そもそも生体に備わった角層剥離酵素の人為的な活性化によらない作用の影響が除去できないため、被験者毎に試験前のデスモグレイン量が異なること、角層剥離改善剤適用の必要性の高い皮膚トラブルを有するヒトと異なり、試験に参加していただきやすい健常なヒトではデスモグレイン残存度は比較的少ないこと、日焼けしたヒト皮膚等からの角層の取得が容易ではないこと、また、測定可能な程度の酵素活性の発現に長期間を要することなど、有用な角層剥離改善剤を多数の試料から精度よく見出すには困難があった。このような背景を踏まえ、有用な角層剥離促進剤、およびその探索手段が求められていた。
【0005】
角層細胞には、細胞接着因子の一種、コルネオデスモソームが存在する。コルネオデスモソームとは、角化細胞が顆粒細胞から角層細胞になるときにデスモゾームが構造変化したものである。コルネオデスモソームは、顆粒細胞のデスモゾーム構成の主要素であるデスモグレイン1(DSG1)とデスモコリン1(DSC1)に加えて、細胞内の層板顆粒から供給されるコルネオデスモシン(CDSN)が細胞外部分に加わり構成される。
【0006】
コルネオデスモソームの分解には kallikrein-related peptidases (KLK)、カテプシンV(別名カテプシンL2、もしくはstratum corneum thiol protease)、カテプシンL様酵素、カテプシンD様酵素、カテプシンE様酵素などのタンパク分解酵素が関与しており、タンパク質分解酵素以外では、細胞間脂質の分解に関わるセラミダーゼ、その他にステロイドスルファターゼ、ヘパラナーゼ1も角層剥離の過程で関わっていることが知られている。
カリクレインはカリクレイン1からカリクレイン15までの15種類からなるセリンプロテアーゼに属する酵素ファミリーである。皮膚ではコルネオデスモソーム成分を分解する作用が証明されているカリクレイン5、カリクレイン7、カリクレイン14を含む少なくとも8つのカリクレインが発現しており、角層においてはトリプシン様セリンプロテアーゼであるカリクレイン5がデスモグレイン1とデスモコリン1を、キモトリプシン様セリンプロテアーゼであるカリクレイン7はデスモコリン1を分解し、さらに両者はコルネオデスモシンを分解することがin vitroの研究から明らかにされている。
この働きを調節する因子としては、LEKTIをはじめとする剥離酵素のインヒビター、相対湿度、硫酸コレステロール、遊離脂肪酸、pH、Ca2+、酸化などがある(非特許文献2)。
角層剥離には、コルネオデスモソームに対するカリクレインの作用の寄与が大きく、LEKTIがカリクレインの作用を抑制すると角層剥離も抑制される。
【0007】
一方で、角層では糖化やカルボニル化、ニトロ化などのタンパク質修飾が起こっていることが知られている。
糖化については、角層中の終末糖化産物(AGEs)と表皮粘弾性や皮膚表面形態の平均粗さとの関連性(非特許文献3)、表皮中ケラチン10の糖化による角層細胞の形成異常(特許文献3)、カルボニル化については、角層中ケラチンのカルボニル化による皮膚の乾燥(特許文献4)、露光部角層のカルボニル化タンパク質による光学的透過性低下(非特許文献4)、角層タンパク質の酸化(カルボニル化)による肌の柔軟性・弾力性の低下(特許文献5)が報告されている。また、角層のニトロ化と肌状態については、黄ぐすみの原因となっていることが報告されている(特許文献6)。
以上のように、角層においてタンパク質修飾が生じ、皮膚状態に関与することは知られていたものの、角層細胞接着因子においてタンパク質修飾が生じることやタンパク質修飾が角層剥離の過程に及ぼす影響は全く知られていなかった。
さらに、特許文献3には、表皮中ケラチン10の糖化はケラチン繊維の凝集を阻害することで角層細胞の形成異常を引き起こすことが報告されているが、角層におけるタンパク質修飾が凝集を引き起こす可能性、延いては角層細胞接着因子におけるタンパク質修飾が、角層細胞接着因子の凝集を引き起こす可能性や接着が弱くなるのではなく逆に強くなる可能性については全く想定されていなかった。したがって、角層剥離促進剤のスクリーニングに際して、ヒト皮膚やヒト皮膚から得た角層を必ずしも必要とせず、角層細胞接着因子に着目し、タンパク質修飾によって変化する角層細胞接着因子の状態のみでも指標にできうることは、全く知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2004-10480
【文献】特開2019-214520
【文献】特開2017-20833
【文献】特開2004-107269
【文献】特開2006-349372
【文献】特開2017-181423
【非特許文献】
【0009】
【文献】正木仁, 手塚正, 加齢によって表皮細胞および角層細胞にみられた変化, 日皮会誌, 96(3), 189-193, 1986
【文献】山本明美,角層コルネオデスモゾーム分解過程の免疫電顕的解析,コスメトロジー研究報告, Vol.18, 45-48, 2010
【文献】フレグランスジャーナル 40巻 9号 57-62頁 2012年
【文献】Iwai I. et al., Int J Cosmet Sci. 30:41-46, 2008
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、角層細胞接着因子の状態を指標とした角層剥離改善剤の探索を可能にする方法及びその効果に優れた角層剥離改善剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
より具体的には下記の発明に関する:
〔1〕角層細胞接着因子の状態を指標とする、角層剥離改善剤のスクリーニング方法。
〔2〕(1)角層細胞接着因子と、候補素材を含む被験溶液または候補素材を含まないブランク溶液を混合する工程
(2)タンパク質を修飾する反応を施す工程
(3)角層細胞接着因子の状態を測定する工程
を含む〔1〕に記載の方法。
〔3〕(1)角層細胞接着因子と、候補素材を含む被験溶液または候補素材を含まないブランク溶液を混合する工程
(2)タンパク質を修飾する工程
(3)角層細胞接着因子の分解酵素を添加する工程
(4)角層細胞接着因子の状態を測定する工程
を含む〔1〕に記載の方法。
〔4〕角層細胞接着因子がデスモグレインである〔1〕~〔3〕いずれかに記載のスクリーニング方法。
〔5〕タンパク質を修飾する反応が、糖化、カルボニル化、またはニトロ化の中から選ばれる1種以上である〔1〕~〔4〕いずれかに記載のスクリーニング方法。
〔6〕角層細胞接着因子の状態が、以下から選択される少なくとも1種以上である〔1〕~〔5〕のいずれかに記載のスクリーニング方法。
(1)角層細胞接着因子の凝集・高分子化
(2)凝集・高分子化していない角層細胞接着因子に対する角層細胞接着因子分解酵素処理により生じた角層細胞接着因子の分解
〔7〕〔1〕~〔6〕いずれかに記載のスクリーニング方法により選択された角層剥離改善剤。
〔8〕〔7〕の角層剥離改善剤を含むことを特徴とする皮膚外用剤。
〔9〕〔1〕~〔6〕いずれかに記載の方法を用いて角層剥離改善効果を評価する方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、作用が発揮されやすい角層剥離促進剤を多数の試料から精度よく短時間でスクリーニングすることが可能になる。このことにより、角層剥離の改善による皮膚状態の健全性の維持や健全化が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】タンパク質を修飾する反応を施す工程を経た角層細胞接着因子デスモグレイン1の状態を示す画像である。
図2】候補素材のスクリーニングに際して角層細胞接着因子の状態の評価に用いた図である。
図3】スクリーニングした候補素材の角層剥離改善効果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明者は、鋭意研究した結果、角層剥離改善剤及びそのスクリーニング方法を研究する過程で、糖化、カルボニル化、またはニトロ化により角層細胞接着因子の凝集・高分子化物の生成やタンパク質構造の変化等が生じ、このことにより分解酵素による分解が阻害される、という驚くべき知見を得た。
【0015】
上記知見に基づけば、角層剥離の正常性が低下した皮膚では、何らかの理由により角層細胞接着因子が糖化、カルボニル化、またはニトロ化等のタンパク質修飾を受け、驚くべきことにこのようなタンパク質修飾が角層細胞接着因子の接着作用を妨害するのではなく、これによりタンパク質の凝集や高分子化を生じ、結果として角層接着因子の分解酵素が十分に機能しにくいことで、円滑な角層剥離が阻害された状態になっていることが考えられた。即ち、これらの状態が解消できれば、角層剥離の遅延を改善できるとの結論に達し、本発明の角層剥離改善剤をスクリーニングする方法を開発するに至った。以下に詳細を述べる。
【0016】
本発明でいう角層剥離を改善するとは、角層剥離を促進することにより角層剥離の遅延の予防や遅延した角層剥離の円滑化によって皮膚の質感や外観を調整し皮膚の状態を健全に保つ、あるいは健全化すること、角層細胞接着因子のタンパク質修飾を防ぐことにより皮膚状態を健全に保つ、あるいは健全化することを意味する。
【0017】
本発明で用いられる角層細胞接着因子は、特に限定されない。角層細胞接着因子としては、デスモソームの構成成分であるデスモグレイン1、2、3、4、デスモコリン1、2、3、コルネオデスモシン、プラコグロビン、プラコフィリン、デスモプラキン1、2等を挙げることができる。
【0018】
角層細胞接着因子は市販の試料などであってよく、遺伝子組み換え体などが使用できる。例えば、デスモグレイン1であれば、Recombinant Human Desmoglein-1 Fc Chimera (R&D SYSTEMS), Recombinant Human DSG1(Creative BioMart)等が、デスモコリン1であればRecombinant Human Desmocollin-1(R&D SYSTEMS), Desmocollin-1 Overexpression Lysate (NOVUS BIOLOGICALS)等が使用できる。
【0019】
角層細胞接着因子は細胞や皮膚等から抽出されたものであってもよい。採取した角層に溶解バッファー(例えば、8M Urea, 100mM Tris-HCl, 2% SDS, 5mM EDTA,1% Mercaptoethanol)を加えて得られる角層細胞接着因子を豊富に含む溶液等が使用できる。皮膚等からの抽出に際しては、複数名・複数個所から収集した採取物を混合したり、濃縮や精製を行ったりすることによって、試験結果の安定化や感度の調整を行ってよい。
【0020】
細胞や皮膚、採取した角層等から角層細胞接着因子を抽出して試料とする場合は、タンパク質を修飾する反応を施す工程は角層細胞接着因子を抽出する前に施してもよく、該工程後に角層細胞接着因子を抽出して試料とすることもできる。
【0021】
角層細胞接着因子の状態とは、構造的、または化学的な状態もしくは形態であって、例えばタンパク質の分子量、分子サイズや立体構造で現される形状もしくは形態が挙げられる。より具体的には、角層細胞接着因子が化合物もしくは他のタンパク質と共有結合した凝集・高分子化した後の形状、角層細胞接着因子が分解酵素等により分解された後の形状、ジスルフィド結合等の結合により変化した立体構造が例に挙げられる。
【0022】
「角層細胞接着因子の状態を指標とする」とは、 任意の方法を用いて角層細胞接着因子の状態が変化した量を効果判定の基準にするという趣旨である。
具体的には、角層細胞接着因子の凝集・高分子化物が生成した量を判定基準にする、またはタンパク質修飾反応を施す前の分子量や分子サイズの角層細胞接着因子が分解酵素等により分解された量を判定基準にするということである。
【0023】
例えば、角層細胞接着因子の凝集・高分子化物が生成した量を判定基準にする場合は、任意の方法を用いて角層細胞接着因子の分子量や分子サイズを測定し、角層細胞接着因子の本来の分子量や分子サイズよりも大きい分子量や分子サイズの物質が存在した場合には異常と判定でき、存在しない場合には良好な状態と判定できる。
候補素材のスクリーニングにおいては、糖化、カルボニル化、またはニトロ化のタンパク質を修飾する反応を施す工程を経た角層細胞接着因子において、タンパク質修飾反応を施す前の角層細胞接着因子の分子量や分子サイズより分子量や分子サイズが大きくなった物質の量が増加した場合、凝集・高分子化したと判断することができる。さらには、角層細胞接着因子を糖化、カルボニル化、またはニトロ化の処理をする場合において、候補素材の存在により、角層細胞接着因子の凝集・高分子化した物質の量を無添加群より減少させることができる場合、効果ありと判定することができる。なお、この時の凝集・高分子化した物質の量の減少は、凝集・高分子化した物質の新規生成の抑制による場合、または既存の凝集・高分子化した物質の分解による場合のどちらでもあり得る。
角層細胞接着因子の凝集・高分子化物の生成した量を判定基準にする場合は、例えば、凝集・高分子化物の量を用いて生成率や抑制率として数値化することで客観的に評価することができる。
【0024】
また、例えば、角層細胞接着因子が分解酵素等により分解された量を判定基準にする場合は、任意の方法を用いて、凝集・高分子化していない、もしくは分子量や分子サイズがほとんど変化していないような見かけ上凝集・高分子化していない角層細胞接着因子に対する角層細胞接着因子分解酵素の処理によって生じた分解産物の量を測定し、角層細胞接着因子の本来の分子量や分子サイズよりも小さい分子量や分子サイズの物質が存在した場合に良好な状態と判定できる。
候補素材のスクリーニングにおいては、角層細胞接着因子の糖化、カルボニル化、またはニトロ化の処理により凝集・高分子化していない物質の量に対して角層細胞接着因子分解酵素の処理によって生じた分解産物の量が増加した場合、効果ありと判定できる。さらには、無添加群における角層細胞接着因子の糖化、カルボニル化、またはニトロ化の処理により凝集・高分子化していない物質に対する角層接着因子分解酵素の処理によって生じた分解産物の量よりも、候補素材の存在により凝集・高分子化していない物質に対する角層細胞接着因子分解酵素の処理によって生じた分解産物の量が多ければ、効果ありと判定することができる。
角層細胞接着因子の分解物の量を判定基準にする場合は、例えば、分解物の量を用いて分解率として数値化することにより、客観的に評価することができる。
【0025】
角層細胞接着因子の凝集・高分子化とは、タンパク質の分子又は複合体を含む重合集合体を形成することであり、可視的な沈殿物が形成される程度にまで進行することも含む。タンパク質の重合集合体は、単一または複数種のタンパク質からなるものを含み、重合形態は分子間架橋等の共有結合、イオン結合、疎水相互作用、ファンデルワールス力等の非共有結合によるものを含む。凝集・高分子化物、または凝集・高分子化した物質とは、上記の状態を示すタンパク質のことであり、例えば糖化、カルボニル化、またはニトロ化の処理により角層細胞接着因子の分子量や分子サイズが増大したタンパク質が増加した場合、分子量や分子サイズが増大したタンパク質を凝集・高分子化物と判断することができる。
【0026】
角層細胞接着因子の状態を把握する方法は、任意の手法を用いて把握することができる。SDS-PAGEが例に挙げられるが、電気泳動による測定方法の他に特異的な抗体を利用する周知の方法、例えば蛍光物質、色素、酵素などを利用する免疫染色法やウェスタンブロット法などの免疫測定方法、液体クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィー、質量分析法、タンパク質の立体構造決定に用いられるX線結晶構造解析法、核磁気共鳴法や電子顕微鏡法など、様々な方法が使用できる。免疫学的測定法においては、角層細胞接着因子に特異的な抗体は、モノクローナル抗体でもポリクローナル抗体でもよい。またそれぞれの手法を用いて検出したシグナルやバンドは、目視により判断することも可能であるが、任意の方法により数値化することができる。例えば、SDS-PAGEを用いて測定した場合は、検出したバンドを画像解析装置やソフトを用いてバンド強度を数値化することにより、凝集・高分子化した角層細胞接着因子、凝集・高分子化していない角層細胞接着因子、分解酵素により分解された産物を数値化することができ、生成率や分解率を角層細胞接着因子の状態を把握する指標として算出することもできる。
【0027】
凝集・高分子化物の生成率は、例えば角層細胞接着因子に糖化、カルボニル化、またはニトロ化の処理を施した場合、凝集・高分子化しない物質、つまり修飾された角層細胞因子の通常想定される分子量や分子サイズを示す物質と凝集・高分子化した物質が存在することから、凝集・高分子化しない物質(例えば〔図1〕(1)に示される110kDaの角層細胞接着因)の量に対する凝集・高分子化した物質(例えば〔図1〕(1)に生じた黒矢印で示される角層細胞接着因子)の量から算出することができる。または、角層細胞接着因子が糖化、カルボニル化、またはニトロ化の処理をしない場合の角層細胞接着因子の量、つまり本来の分子量や分子サイズを示す角層細胞接着因子(例えば〔図1〕(7)に示される角層細胞接着因子)の量に対する、角層細胞接着因子を糖化、カルボニル化、またはニトロ化の処理することで凝集・高分子化した角層細胞接着因子(例えば〔図1〕(1)に生じた黒矢印で示される角層細胞接着因子)の量から算出することができる。上記に挙げた算出方法に限定されるものではない。
【0028】
凝集・高分子化物の生成抑制率は、例えば無添加群における角層細胞接着因子の糖化、カルボニル化、またはニトロ化の処理により凝集・高分子化した物質の量に対して、候補素材の存在下により減少した凝集・高分子化した物質の量から算出することができる。無添加群における凝集・高分子化した物質の量よりも、候補素材の存在により凝集・高分子化した物質の量が少なければ抑制したと言える。凝集・高分子化の生成抑制率は、無添加群の凝集・高分子化物の生成率と候補素材添加群の凝集・高分子化物の生成率から算出することも可能であり、上記に挙げた算出方法に限定されるものではない。
【0029】
角層細胞接着因子の分解率は、角層細胞接着因子の糖化、カルボニル化、またはニトロ化の処理により凝集・高分子化していない物質に対して角層細胞接着因子分解酵素の処理によって生じた分解産物の量から算出することができる。例えば、角層細胞接着因子を糖化、カルボニル化、またはニトロ化処理した場合、凝集・高分子化物(例えば〔図2〕(1)もしくは(3)に生じた黒矢印で示される角層細胞接着因子)と凝集・高分子化しない本来の分子量や分子サイズを示す物質(例えば〔図2〕(1)もしくは(3)に示される110kDaの角層細胞接着因)が生じるが、さらに角層細胞接着因子分解酵素で処理した場合では角層細胞接着因子の分解物はほとんど生じない(例えば〔図2〕(2))。一方で、候補素材存在下で角層細胞接着因子をカルボニル化処理した場合、さらに角層細胞接着因子分解酵素で処理すると角層細胞接着因子の分解物が生じる(例えば〔図2〕(4))。角層細胞接着因子の分解率は、凝集・高分子化しない本来の分子量や分子サイズを示す物質の量に対する分解物の量から算出され、無添加群に対して候補素材の存在により分解率が高くなれば効果ありと判定することができる。また、同一試料内におけるタンパク質全体量に対して、角層細胞接着因子分解酵素の処理によって生じた分解産物の量から算出することも可能である。上記に挙げた算出方法に限定されるものではない。
さらには、分解が抑制されている点を捉えて、分解率を100から引いた差として算出される値や無添加群の分解率と候補素材添加群の分解率から算出される値、上記に挙げた算出方法に限定されず分解率を基にして算出される値を分解抑制率として判定に用いることができるのは言うまでもない。
【0030】
タンパク質を修飾する反応を施す工程は、タンパク質に対する様々な化学的修飾を施す工程であって、例えば角層細胞接着因子を糖化、カルボニル化またはニトロ化する工程等が挙げられる。
【0031】
本発明で用いられる糖化の方法は、公知の手法を用いることができる。糖類の種類には特に制限は無く、単糖類、単糖類の縮合体であるオリゴ糖類および多糖類等を用いることができるが、好ましくは還元糖(例えば、グルコース、リボース、またはフルクトース)であり、上記の糖類の少なくとも1種類以上を用いることができる。反応に用いる上記糖類の濃度は、タンパク質が糖化できる濃度であれば特に限定されないが、好ましくは100mM~5000mMである。また、糖化反応においては、タンパク質が糖化できるpHであれば特に限定されないが、好ましくは5.0~9.0である。糖化の反応温度および反応時間は特に限定されないが、好ましくは、反応時間は10~150時間、反応温度は40~80℃である。
【0032】
本発明で用いられるカルボニル化の方法は、公知の手法を用いることができる。周知の酸化剤(例えば、次亜塩素酸ナトリウム、ベンゾイルペルオキシドなど)やアルデヒド類(例えば、アクロレイン、4-ヒドロキシ-2-ノネナールなど)、不飽和脂肪酸(例えば、リノール酸やオレイン酸など)を用いて処理するによりカルボニル化することができる。カルボニル化反応においては、反応を早めるためにタンパク質に影響を与えない範囲で加温することができ、好ましくは30~40℃である。また、角層試料であれば、紫外線等の光を照射することでもカルボニル化することができ、例えば、不飽和脂肪酸を塗布後に紫外線を照射することによりカルボニル化させてもよい。また、タンパク質にカルボニル化以外の影響を与えない範囲であれば、生体分泌物中に含まれる酵素なども用いることができる。
【0033】
本発明で用いられるニトロ化の方法は、公知の手法を用いることができる。
ペルオキシナイトライト等の活性窒素種によってニトロ化させてもよいし、一酸化窒素とスーパーオキシドアニオンを混合する、またはミエロペルオキシダーゼ(MPO)とNaNO2、過酸化水素等と混合し、試験系中に活性窒素種を発生させてニトロ化させてもよい。また、ニトロニウムイオンを発生させるテトラニトロメタンや硝酸などの試薬等を用いてニトロ化してもよいし、塩化ニトロイルやニトロソペルオキシカルボキシレート、またアジ化ナトリウムおよびカタラーゼ等の処理によりニトロ化しても良い。
【0034】
本発明の候補素材は、特に制限されない。動植物由来の抽出物、細胞由来の抽出物、菌類の培養物またはこれらの酵素処理物、化合物またはその誘導体等を用いることができ、これらの混合物も用いることができる。また性状は、液状の他、粉末状、ジェル状、シート状等であってもろ過や限外ろ過、遠心分離等で除去できるのであれば差し支えない。さらに、候補素材の各原体からの抽出方法や添加濃度も特に限定されない。
【実施例
【0035】
以下、本発明を実施例について具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。また、特記しない限り配合量は質量%で示す。
【0036】
<実験方法>
1.角層細胞接着因子の糖化、カルボニル化およびニトロ化
糖化したデスモグレイン1は以下のように調製した。組み換え体デスモグレイン1(944-DM-100,R&D SYSTEMS)に糖化溶液(1M グルコース,100mM リボース)を加えて、60℃で3日間処理した。処理後、精製水を適量加えて遠心濃縮チューブvivaspin500(sartorius)に投入し、遠心分離して糖化デスモグレイン1を得た。
カルボニル化したデスモグレイン1は以下のように調製した。組み換え体デスモグレイン1に0.5% アクロレイン溶液を加えて、37℃で24時間処理した。処理後、精製水を適量加えてvivaspin500に投入し、遠心分離してカルボニル化デスモグレイン1を得た。
また、ニトロ化したデスモグレイン1は以下のように調製した。組み換え体デスモグレイン1に20mMテトラニトロメタン水溶液を加えて、室温で16時間処理した。処理後、精製水を適量加えてvivaspin500に投入し、遠心分離してニトロ化デスモグレイン1を得た。
ブランクとして、組み換え体デスモグレイン1に精製水を加えた後、vivaspin500に投入し、遠心分離して無処理デスモグレイン1を得た。
【0037】
2.分解酵素処理
糖化デスモグレイン1、カルボニル化デスモグレイン1、ニトロ化デスモグレイン1、および無処理デスモグレイン1にカリクレイン5(1108-SE-010, R&D SYSTEMS)を加えて、37℃で3時間処理した。
【0038】
3.SDS-PAGE
アクリルアミド7.5%濃度のLower gelおよび、4.5%濃度のStacking gelを作製した。糖化デスモグレイン1またはニトロ化デスモグレイン1に、それと3倍量のサンプリングバッファー(0.5M-Tris-HCl(PH6.8)2mL, 10% SDS 4mL, β-メルカプトエタノール 1.2mL, グリセロール 2mL, 蒸留水 0.8mL, 1% BPB 適量)を添加し、100℃で5分間加熱し、ゲルに添加する試料を調製した。ランニングバッファー(Tris塩 30.3g, グリシン 144.0g, SDS 10.0g, 蒸留水で10L)中で、30mAで電気泳動を行った。電気泳動後にゲルを取り出し、CBB染色液でゲルを染色後、脱色液を用いて適度にゲルを脱色した。
【0039】
SDS-PAGEのサンプル
(1) 糖化処理デスモグレイン1のサンプル
(2) 糖化処理デスモグレイン1にカリクレイン5で処理したサンプル
(3) カルボニル化処理デスモグレイン1のサンプル
(4) カルボニル化処理デスモグレイン1にカリクレイン5で処理したサンプル
(5) ニトロ化処理デスモグレイン1のサンプル
(6) ニトロ化処理デスモグレイン1にカリクレイン5で処理したサンプル
(7) 無処理のデスモグレイン1のサンプル
(8) 無処理デスモグレイン1にカリクレイン5で処理したサンプル
【0040】
図1より、糖化処理を施したデスモグレイン1は、何も処理をしていないデスモグレイン1よりも分子サイズが増大した物質の量が増加することが示され、デスモグレイン1は糖化により分子サイズが増大し、その物質量が増加することが初めてわかった。さらに、分解酵素カリクレイン5で処理した糖化デスモグレイン1では分解産物が生成しなかったことから、糖化されたデスモグレイン1においては、分解酵素による分解が阻害されることが初めてわかった。これらのことから、デスモグレイン1は、糖化により分子サイズが増大することにより、分解酵素による分解が阻害されることが考えられた。
【0041】
また、カルボニル化処理を施したデスモグレイン1は、一部分では分子サイズが増大した物質の量が増加していることが初めて分かった。しかしながら、糖化処理や後述するニトロ化に比べると、分子サイズが増大した物質の量が増加する割合は低かった。また、分子サイズの増大が見られない物質も確認され、その物質の量は分子サイズが増大した物質の量よりも多かった。さらに、分解酵素カリクレイン5で処理したカルボニル化デスモグレイン1では分解産物が生成しなかったことから、カルボニル化されたデスモグレイン1においては、分子サイズが増大した物質および分子サイズが変化しなかった物質ともに分解酵素による分解が阻害されることが初めてわかった。これらのことから、デスモグレイン1は、カルボニル化により分子サイズが増大することに加えて、分子サイズが変化しない物質においても分解酵素による分解が阻害されることが考えられた。以上のことから、カルボニル化においては、分子サイズは増大していないが、立体構造が変化している物質も生じていると言える。
【0042】
同様に、ニトロ化処理を施したデスモグレイン1は、何も処理をしていないデスモグレイン1よりも分子サイズが増大した物質の量が増加することが示され、デスモグレイン1はニトロ化により分子サイズが増大し、その物質量が増加することが初めてわかった。さらに、分解酵素カリクレイン5で処理したニトロ化デスモグレイン1では分解産物が生成しなかったことから、ニトロ化されたデスモグレイン1においては、分解酵素による分解が阻害されることが初めてわかった。これらのことから、デスモグレイン1は、ニトロ化により分子サイズが増大することにより、分解酵素による分解が阻害されることが考えられた。
【0043】
結果として、糖化、カルボニル化、またはニトロ化処理することにより、デスモグレイン1は凝集・高分子化することにより分子サイズが増大し、凝集・高分子化物の量が増加することがわかった。また、凝集・高分子化したデスモグレイン1においては分解酵素による分解が阻害されることがわかった。同時に、例えばカルボニル化処理の時のように、分子サイズに変化がなく凝集・高分子化していないように見える場合であっても、分解酵素による分解が阻害される場合があることもわかった。
【0044】
このことから、角層細胞接着因子に対する糖化、カルボニル化、またはニトロ化を抑制することができれば、角層剥離を改善できると言える。また、糖化、カルボニル化またはニトロ化し凝集・高分子化した角層細胞接着因子に対して、糖化、カルボニル化またはニトロ化を分解し、角層細胞接着因子分解酵素によって分解することができれば、角層剥離を改善できると言える。
【0045】
本発明における角層細胞接着因子の凝集・高分子化を指標とする角層剥離剤のスクリーニング方法は、例えば、デスモグレイン1を用いる場合は、以下のように行うことができる。
(1)デスモグレイン1と、候補素材含む被験溶液または含まないブランク溶液を混合する。
(2)前記混合溶液を糖化、カルボニル化またはニトロ化処理する。
(3)糖化、カルボニル化、またはニトロ化処理物に角層細胞接着因子の分解酵素であるカリクレイン5で処理する。
(4)分解酵素処理物を用いてSDS-PAGEを行い、バンドを検出する。
(5)それぞれ検出されたバンドを、画像解析ソフトを用いて数値化する。
(6)ブランク溶液における凝集・高分子化したデスモグレイン1の量と候補素材を含む溶液の凝集・高分子化したデスモグレイン1の量を比較し、凝集・高分子化したデスモグレイン1の量の変化から生成率や抑制率、分解率、分解抑制率等を算出する。
(7)目的に応じて、凝集・高分子化したデスモグレイン1の量を減少させる素材を有効素材として選別する。
更に詳しくは、段落0036~0039に記載の方法に準じて行うことができる。
【0046】
なお、糖化、カルボニル化またはニトロ化により凝集・高分子化したデスモグレイン1の分解作用を有する素材をスクリーニングする場合は、あらかじめ糖化、カルボニル化またはニトロ化したデスモグレイン1に候補素材を混合して処理した溶液を用いることもできる。
(1)デスモグレイン1を糖化、カルボニル化またはニトロ化処理する。
(2)糖化、カルボニル化またはニトロ化デスモグレイン1と、候補素材含むまたは含まないブランク溶液を混合する。
(3)前記混合物に角層細胞接着因子の分解酵素であるカリクレイン5で処理する。
(4)分解酵素処理物を用いてSDS-PAGEを行い、バンドを検出する。
(5)それぞれ検出されたバンドを、画像解析ソフトを用いて数値化する。
(6)候補素材を含まないブランク溶液における凝集・高分子化したデスモグレイン1の量と、候補素材を含むブランク溶液の凝集・高分子化したデスモグレイン1の量を比較し、凝集・高分子化したデスモグレイン1の量の変化から生成率や抑制率、分解率、分解抑制率等を算出する。
(7)目的に応じて、凝集・高分子化したデスモグレイン1の量を減少させる素材を有効素材として選別する。
【0047】
<候補素材の調製>
ハイビスカス(Hibiscus sabdariffa L.)の花 5gに15倍の重量の蒸留水 75gを加えて60℃、3時間加熱抽出した。抽出後、ろ過をし、植物原体を取り除いた後、固形蒸発残分が5%になるように蒸留水に溶解した。最後に、最終全量の30%量の1,3ブチレングリコールを加えたエキスを候補素材として得た。
レモングラス(Cymbopogon Schoenanthus)の葉 5gに10倍の重量の蒸留水 50gを加えて60℃、3時間加熱抽出した。抽出後、ろ過をし、植物原体を取り除いた後、固形蒸発残分が5%になるように蒸留水に溶解した。最後に、最終全量の30%量の1,3ブチレングリコールを加えたエキスを候補素材として得た。
ハトムギ(Coix Lacryma-Jobi Ma-yuen)の種実(ヨクイニン) 5gに10倍の重量の蒸留水 50gを加えて60℃、3時間加熱抽出した。抽出後、ろ過をし、植物原体を取り除いた後、固形蒸発残分が5%になるように蒸留水に溶解した。最後に、最終全量の30%量の1,3ブチレングリコールを加えたエキスを候補素材として得た。
【0048】
<角層細胞接着因子の凝集・高分子化抑制剤のスクリーニング>
組み換え体デスモグレイン1(944-DM-100,R&D SYSTEMS)に、エキス最終濃度が1%になるようにハイビスカス花エキスを加えた。ブランク溶液として、ハイビスカス花エキスの代わりに精製水を加えたサンプルも準備した。最終濃度が500μMになるようにペルオキシナイトライトを加えた。1分間室温で放置した後、ペルオキシナイトライト溶液と等量の0.3 N HCl 溶液を混合した。処理後、精製水を適量加えてvivaspin500(sartorius)に投入し、遠心分離してニトロ化デスモグレイン1を得た。ニトロ化デスモグレイン1にカリクレイン5(1108-SE-010, R&D SYSTEMS)を加えて、37℃で3時間処理した。ニトロ化デスモグレイン1に、1/3倍量のサンプリングバッファー(0.5M-Tris-HCl(PH6.8)2mL, 10% SDS 4mL, β-メルカプトエタノール 1.2mL, グリセロール 2mL, 蒸留水 0.8mL, 1% BPB 適量)を添加し、100℃で10分間加熱し、ゲルに添加する試料を調製した。SDS-PAGEは、アクリルアミド7.5%濃度のLower gelおよび、4.5%濃度のStacking gelを作製し、ランニングバッファー(Tris塩 30.3g, グリシン 144.0g, SDS 10.0g, 蒸留水で10L)中で、30mAで電気泳動を行った。電気泳動後にゲルを取り出し、CBB染色液でゲルを染色後、脱色液を用いて適度にゲルを脱色した。ゲルをカメラで撮影し、画像解析ソフト ImageJ(オープンソース)にてバンド強度を数値化した。
【0049】
SDS-PAGEのサンプル
(1) ニトロ化処理デスモグレイン1のサンプル
(2) ニトロ化処理デスモグレイン1にカリクレイン5で処理したサンプル
(3) デスモグレイン1とハイビスカス花エキス混合物をニトロ化処理したサンプル
(4) デスモグレイン1とハイビスカス花エキス混合物をニトロ化処理後にカリクレイン5で処理したサンプル
(5) 無処理のデスモグレイン1のサンプル
(6) 無処理デスモグレイン1にカリクレイン5で処理したサンプル
【0050】
【数1】
【0051】
【数2】
【0052】
図2より、デスモグレイン1をニトロ化しカリクレイン5で処理した場合のデスモグレイン1分解率は8.8%であった。一方で、デスモグレイン1とハイビスカス花エキスの混合物をニトロ化しカリクレイン5で処理した場合のデスモグレイン1分解率は35.8%であった。したがって、ハイビスカス花エキスには、角層細胞接着因子の凝集・高分子化を抑制する効果があると言える。
以上のことから、角層細胞接着因子が分解酵素等により分解された量を判定基準とする、すなわち、分解酵素の処理によって生じた分解産物の量を用いて、たとえば、分解率として数値化することで同様の判定を行うことができることが示された。
なお、他の角層細胞接着因子であるデスモコリン1を用いた場合でも同様の結果が得られたことから、デスモグレイン1に限らず、他の角層細胞接着因子においても上述の判定を行うことができると言える。
【0053】
<候補素材のスクリーニング>
組み換え体デスモグレイン1(944-DM-100,R&D SYSTEMS)に、エキス最終濃度が2%になるように候補素材またはブランク物質(精製水)を加えた。最終濃度が2mMになるようにペルオキシナイトライトを加えた。2分間室温で放置した後、ペルオキシナイトライト溶液と等量の0.3 N HCl 溶液を混合した。処理後、1/3倍量のサンプリングバッファー(0.5M-Tris-HCl(PH6.8)2mL, 10% SDS 4mL, β-メルカプトエタノール 1.2mL, グリセロール 2mL, 蒸留水 0.8mL, 1% BPB 適量)を添加し、100℃で10分間加熱し、ゲルに添加する試料を調製した。SDS-PAGEは、アクリルアミド7.5%濃度のLower gelおよび、4.5%濃度のStacking gelを作製し、ランニングバッファー(Tris塩 30.3g, グリシン 144.0g, SDS 10.0g, 蒸留水で10L)中で、30mAで電気泳動を行った。電気泳動後にゲルを取り出し、CBB染色液でゲルを染色後、脱色液を用いて適度にゲルを脱色した。ゲルをカメラで撮影し、画像解析ソフト ImageJ(オープンソース)にてバンド強度を数値化した。
【0054】
数1を用いて凝集・高分子化物の生成率(%)を算出した結果を表1に示す。デスモグレイン1をニトロ化した場合の凝集・高分子化物の生成率は68.9%、デスモグレイン1とハイビスカス花エキスの混合物をニトロ化した場合の凝集・高分子化物の生成率は52.1%、デスモグレイン1とレモングラス葉エキスの混合物の凝集・高分子化物の生成率は82.8%、デスモグレイン1とハトムギ種子エキスの混合物の凝集・高分子化物の生成率は79.7%であった。
以上のことから、ハイビスカス花エキスには、角層細胞接着因子の凝集・高分子化物の生成を抑制する効果があることが示され、本発明のスクリーニング方法を利用することにより角層剥離を改善する素材を選択することが可能であることが分かった。
【0055】
【表1】
【0056】
<角層細胞接着因子の凝集・高分子化を抑制することが確認された候補素材を用いた、人での角質改善試験>
前記in vitro試験で用いたハイビスカス花エキスを1%配合した乳液を調製し、20~30代の10名の女性による2ヶ月間の実使用試験を行い、角層改善度を確認した。ハイビスカス花エキスを水に置き換えた乳液をプラセボ群として比較例とした。乳液の処方を表2に示す。製法は常法に従った。
【0057】
【表2】
【0058】
角層改善度は、重層剥離率として算出した。使用開始前、使用開始後4週間後、8週間後にほほ中央部よりテープストリッピング法にて角層細胞を採取した。この角層細胞を角層染色液(ナフトールブルーブラック 0.1g、酢酸ナトリウム0.82g、酢酸 9g、蒸留水 残部)に30分間浸漬した。30分間流水にて洗浄後一晩風乾し、光学顕微鏡にて観察した。角層の重層剥離率は全角層面積に占める重層している部分の面積の割合として算出し、プラセボ群に対するエキス配合群の比率として算出した。
【0059】
測定の結果を図3に示す。結果から、使用開始前と比較して4週間後および8週間後では角層重層率がそれぞれ0.71、0.53であり、角層の重層が減少していることから、ハイビスカス花エキスを塗布することにより角層が剥がれやすくなっていることが明らかとなった。このことは、角層中の角層細胞接着因子の経時的な糖化、カルボニル化、ニトロ化の修飾がハイビスカス花エキスにより抑えられることで角層が剥がれにくい状態になることなく正常に角層細胞接着因子分解酵素が作用できたこと、もしくは糖化、カルボニル化、ニトロ化の修飾を受けていた既存の角層細胞接着因子がハイビスカス花エキスの作用により修飾が解消して正常に角層細胞接着因子分解酵素が作用できたことが要因であると考えられた。
【0060】
以上の結果から、本発明の角層細胞接着因子の変化を指標とした角層剥離改善剤の探索を可能にする方法を用いることにより、効果に優れた皮膚剥離改善剤を提供すること可能になることが明らかとなった。
【0061】
上記記載と同様の方法を用いることにより、糖化、カルボニル化およびニトロ化による角層細胞接着因子の凝集・高分子化を抑制し角層剥離を改善する素材を選択することが可能である。
【0062】
上記の実施例は、本発明の元となる原理・現象を証拠付けるデータの取得のための実験の例を説明するものであり、当業者であれば、これらの実験例に記載された情報、及び、前述した実施形態に関する記載を基に、容易に本発明を実施可能であることは明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0063】
以上の結果から、本願のスクリーニング方法を用いることで、角層剥離を改善する素材を見出すことができる。すでに述べたとおり、角層中の角層細胞接着因子の分解酵素による分解は、角層剥離に寄与していることから、このスクリーニング方法で見出すことができる素材には、角層剥離改善効果があることが期待される。

図1
図2
図3