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特許7419126情報処理装置、情報処理方法、及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-12
(45)【発行日】2024-01-22
(54)【発明の名称】情報処理装置、情報処理方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G06Q 40/06 20120101AFI20240115BHJP
【FI】
G06Q40/06
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020050237
(22)【出願日】2020-03-19
(65)【公開番号】P2021149688
(43)【公開日】2021-09-27
【審査請求日】2022-12-05
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成31年3月22日 ウェブサイト(https://www.yieldbook.com/m/indices/single.shtml?ticker=NOMUCARD)にて、債券銘柄の投資ポートフォリオの構築を支援する情報処理方法に関するルールブックを公開した。
(73)【特許権者】
【識別番号】302005020
【氏名又は名称】野村證券株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】520098372
【氏名又は名称】エフティーエスイー フィックスト インカム エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】菊川 匡
(72)【発明者】
【氏名】売野 隆一
(72)【発明者】
【氏名】シェン ショーン
【審査官】太田 龍一
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-503927(JP,A)
【文献】特表2005-500612(JP,A)
【文献】特表2005-525614(JP,A)
【文献】特開2010-118083(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
債券銘柄の投資ポートフォリオの構築を支援する情報処理装置が実行する情報処理方法であって、
所定の債券インデックスを構成する複数の債券銘柄を取得する取得ステップと、
前記複数の債券銘柄のそれぞれについて、期待収益率を算出する期待収益率算出ステップと、
前記複数の債券銘柄を、複数のセクターに分類する分類ステップと、
債券銘柄毎の前記期待収益率に基づいて、前記複数のセクターのそれぞれに関するセクター期待収益率を求め、所定の制約条件の下で前記セクター期待収益率の合計が最大となるように、前記複数のセクターのそれぞれに対する投資のウェイトを算出するセクターウェイト算出ステップと、
算出された前記複数のセクターのそれぞれに対する投資のウェイトに基づいて、前記複数の債券銘柄それぞれに対する投資のウェイトを算出する債券ウェイト算出ステップと、
を含む、情報処理方法。
【請求項2】
前記分類ステップでは、前記複数の債券銘柄のそれぞれの発行国、残存年限、及び発行国の信用度の少なくとも1つに基づいて、前記複数のセクターに分類する、請求項1に記載の情報処理方法。
【請求項3】
前記期待収益率算出ステップは、
前記複数の債券銘柄のそれぞれを保有した場合における利金の運用益に基づいて、前記複数の債券銘柄のそれぞれのキャリーを算出するステップと、
前記複数の債券銘柄のそれぞれの債券の利回りの低下に基づいてロールダウンを算出するステップと、
前記キャリー及び前記ロールダウンを合算してキャリー・アンド・ロールダウンを算出するステップと、
前記キャリー・アンド・ロールダウンに基づいて前記期待収益率を算出するステップと、を含む、請求項1又は2に記載の情報処理方法。
【請求項4】
前記期待収益率算出ステップは、発行国通貨ベースの前記キャリー・アンド・ロールダウンを為替ヘッジすることにより得られる値を前記期待収益率として算出するステップ、を含む、請求項3に記載の情報処理方法。
【請求項5】
前記所定の制約条件は、前記複数のセクターのうちの少なくとも1つのセクターを含むセクター群毎に、前記投資ポートフォリオに係る該セクター群に含まれる債券銘柄の金利感応度が、前記所定の債券インデックスに係る該セクター群に含まれる債券銘柄の金利感応度に等しいことを含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の情報処理方法。
【請求項6】
前記金利感応度は、前記複数の債券銘柄の発行国毎の前記セクター群の金額デュレーションの平均値である、請求項5に記載の情報処理方法。
【請求項7】
前記所定の制約条件は、前記複数のセクターのそれぞれに対する投資のウェイトはいずれもゼロ以上であることを含む、請求項1から6のいずれか一項に記載の情報処理方法。
【請求項8】
前記セクターウェイト算出ステップでは、線形計画法によって、前記複数のセクターのそれぞれに対する投資のウェイトを算出する、請求項1から7のいずれか一項に記載の情報処理方法。
【請求項9】
債券銘柄の投資ポートフォリオの構築を支援する情報処理装置であって、
所定の債券インデックスを構成する複数の債券銘柄を取得する取得部と、
前記複数の債券銘柄のそれぞれについて、期待収益率を算出する期待収益率算出部と、
前記複数の債券銘柄を、複数のセクターに分類する分類部と、
債券銘柄毎の前記期待収益率に基づいて、前記複数のセクターのそれぞれに関するセクター期待収益率を求め、所定の制約条件の下で前記セクター期待収益率の合計が最大となるように、前記複数のセクターのそれぞれに対する投資のウェイトを算出するセクターウェイト算出部と、
算出された前記複数のセクターのそれぞれに対する投資のウェイトに基づいて、前記複数の債券銘柄それぞれに対する投資のウェイトを算出する債券ウェイト算出部と、を含む、情報処理装置。
【請求項10】
情報処理装置に、債券銘柄の投資ポートフォリオの構築を支援する情報処理方法を実行させるプログラムであって、
前記情報処理装置を、
所定の債券インデックスを構成する複数の債券銘柄を取得する取得部と、
前記複数の債券銘柄のそれぞれについて、期待収益率を算出する期待収益率算出部と、
前記複数の債券銘柄を、複数のセクターに分類する分類部と、
債券銘柄毎の前記期待収益率に基づいて、前記複数のセクターのそれぞれに関するセクター期待収益率を求め、所定の制約条件の下で前記セクター期待収益率の合計が最大となるように、前記複数のセクターのそれぞれに対する投資のウェイトを算出するセクターウェイト算出部と、
算出された前記複数のセクターのそれぞれに対する投資のウェイトに基づいて、前記複数の債券銘柄それぞれに対する投資のウェイトを算出する債券ウェイト算出部と、として機能させる、プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、情報処理装置、情報処理方法、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、金融商品のポートフォリオを設計するための種々の支援システムが提案されている。例えば、特許文献1には、ユーザが有する金融商品情報を収集・分析して、ユーザが目標とするポートフォリオを設計するためのポートフォリオ設計支援システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-95724号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、投資ポートフォリオにマイナス金利の年限や所定の発行国における超長期債など、割高なセクターが含まれている場合、多通貨の国債や様々な債券を対象とした市場インデックスの運用において、インデックスどおりにすべてのセクターに投資を行うと、十分な投資効率とならない。
【0005】
そこで、本発明は、投資効率が向上し得る債券銘柄の投資ポートフォリオの構築を支援することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る情報処理方法は、債券銘柄の投資ポートフォリオの構築を支援する情報処理方法であって、所定の債券インデックスを構成する複数の債券銘柄を取得する取得ステップと、複数の債券銘柄のそれぞれについて、期待収益率を算出する期待収益率算出ステップと、複数の債券銘柄を、複数のセクターに分類する分類ステップと、債券銘柄毎の期待収益率に基づいて、複数のセクターのそれぞれに関するセクター期待収益率を求め、所定の制約条件の下でセクター期待収益率の合計が最大となるように、複数のセクターのそれぞれに対する投資のウェイトを算出するセクターウェイト算出ステップと、算出された複数のセクターのそれぞれに対する投資のウェイトに基づいて、複数の債券銘柄それぞれに対する投資のウェイトを算出する債券ウェイト算出ステップと、を含む。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、投資効率を向上し得る債券銘柄の投資ポートフォリオを構築することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の一実施形態に係るサーバ10等を含むネットワークの構成を概略的に示す構成図である。
図2】本実施形態に係るサーバ10による動作処理の一例を示す動作フロー図である。
図3】ベース・インデックスのデータ構成の一例を示す図である。
図4】利回り曲線の概念図を示す図である。
図5A】各債券銘柄を発行国及び残存年限によるセクターに分類した結果を示す図である。
図5B】各債券銘柄を発行国及び残存年限によるセクターに分類した結果を示す図である。
図6】本実施形態に係るサーバ10により算出された債券銘柄ポートフォリオの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明する。(なお、各図において、同一の符号を付したものは、同一又は同様の構成を有する。)
【0010】
(1)構成
図1は、本発明の一実施形態に係る情報処理装置としてのサーバ10を含むネットワークの構成を概略的に示す構成図である。サーバ10は、図示するように、インターネット等の通信ネットワークを介してユーザ端末20と通信可能に接続されている。
【0011】
サーバ10は、ユーザ端末20からの要求に応じて、債券銘柄の投資ポートフォリオの構築を支援する。サーバ10は、一般的なコンピュータとしての構成を有する。具体的には、サーバ10は、図1に示すように、CPU又はGPUとして構成されるプロセッサ11と、DRAM等によって構成されデータやプログラムを一時的に記憶するメインメモリ12と、有線又は無線の通信を制御する通信インタフェース13と、磁気ディスク又はフラッシュメモリ等によって構成されデータやプログラムを記憶するストレージ14とを備える。
【0012】
プロセッサ11は、ストレージ14等に記憶されているプログラムをメインメモリ12に読み込んで、当該プログラムに含まれる命令を実行する。
【0013】
本実施形態に係るプログラムは、コンピュータに読み取り可能な記憶媒体に記憶された状態で提供されてもよい。記憶媒体は、「一時的でない有形の媒体」に、プログラムを記憶可能である。プログラムは、限定でなく例として、ソフトウェアプログラムやコンピュータプログラム等であってよい。また、本実施形態に係るプログラムは、当該プログラムを伝送可能な任意の伝送媒体(通信ネットワークや放送波等)を介して、サーバ10又はユーザ端末20に提供されてもよい。
【0014】
通信I/F13は、ネットワークアダプタ等のハードウェア、各種の通信用ソフトウェア、又はこれらの組み合わせとして実装される。
【0015】
サーバ10は、ストレージ14等に記憶されているプログラムに含まれる命令をプロセッサ11が実行することによって、図示するように、取得部112、算出部114、分類部116、出力部118、として機能するように構成されている。取得部112は、各種の情報をサーバ10の外部/内部のデータベース等の記憶部から取得する。取得部112は、例えば、インデックス構成銘柄DB30から、ベースとなるインデックス(ベース・インデックス)の構成銘柄と、各構成銘柄のウェイトとを取得する。また、取得部112は、例えば、ベース・インデックスに含まれる銘柄コードをキーとして、債券銘柄DB40から各銘柄の属性情報を取得する。また、取得部112は、例えば、市場情報DB50から各銘柄に関連する市場情報を取得する。算出部114は、例えば、所定のパラメータから各種の値を算出する。分類部116は、例えば、ベース・インデックスに含まれる複数の債券銘柄を所定のセクターに分類する。所定のセクターは、任意に設定可能であるが、例えば、発行国、残存年限、及び発行国の信用度の少なくとも1つに基づいて規定されてもよい。ここで、発行国の信用度は、任意の格付機関によって付された信用度(クレジット・レーティング)であってよい。出力部118は、例えば、各種のデータを出力する。例えば、出力部118は、算出部114により算出された各債券銘柄の投資加重をユーザ端末20等に送信する。
【0016】
ここで、算出部114について更に説明する。算出部114は、例えば、期待収益率算出部1141、セクターウェイト算出部1142、及び債券ウェイト算出部1143を含む。期待収益率算出部1141は、例えば、複数の債券銘柄のそれぞれについて、期待収益率を算出する。ここで、期待収益率は、各債券銘柄を所定期間だけ保有した場合に期待される収益率である。当該所定期間は、例えば1年間であるが、これに限られるものではない。期待収益率は、例えば、各債券銘柄の利回り曲線に基づいて算出されてもよく、例えば、債券銘柄の債券価格の上昇に基づいて算出されるロールダウンを含んでもよい。また、期待収益率は、債券銘柄を保有した場合における利金の運用益に基づいて算出されるキャリーを含んでもよい。また、期待収益率算出部1141は、例えば、期待収益率を発行国通貨ベースから為替ヘッジベースに変換する。セクターウェイト算出部1142は、例えば、債券銘柄毎の期待収益率に基づいて、複数のセクターのそれぞれに関するセクター期待収益率を求め、所定の制約条件の下でセクター期待収益率の合計が最大となるように、複数のセクターのそれぞれに対する投資のウェイトを算出する。ここで、セクター期待収益率は、例えば、当該セクターの期待収益率の平均に当該セクターに対する投資のウェイトを乗じて得られた値であってよい。ここで、所定の制約条件は、例えば、各債券銘柄の金利の変化に対する感応度の指標を金利感応度とした場合、少なくとも1つのセクターを含む任意のセクター群毎に、構築すべき投資ポートフォリオの金利感応度と、所定の債券インデックス(ベース・インデックス)の金利感応度とが等しいことを含んでもよい。金利感応度は、金利の変化に対する感応度を示す任意の指標であってよく、例えば、各債券銘柄の各種のデュレーションの(セクター群における)平均値であってよい。デュレーションは、例えば、マコーレー・デュレーション、修正デュレーション、及び金額デュレーション等を含んでよいが、これらに限られない。これにより、構築すべき投資ポートフォリオの金利リスクを、所定の債券インデックス(ベース・インデックス)の金利リスクに実質的に合わせることが可能となる。また、所定の制約条件は、例えば、構築すべき投資ポートフォリオに関する時価総額が、所定の債券インデックスに関する時価総額に等しいことを含んでもよい。また、所定の制約条件は、例えば、構築すべき投資ポートフォリオにおける複数のセクターのそれぞれに対する投資のウェイトはいずれもゼロ以上であること(いずれの債券銘柄についてもショートポジションは認めないことと)を含んでもよい。債券ウェイト算出部1143は、例えば、算出された複数のセクターのそれぞれに対する投資のウェイトに基づいて、複数の債券銘柄それぞれに対する投資のウェイトを算出する。複数の債券銘柄それぞれに対する投資のウェイトの算出方法は、特に限定されないが、例えば、各債券銘柄のウェイトを按分して、各債券銘柄に対する投資のウェイトを算出してもよい。また、各債券銘柄に関するクーポンの額、満期、発行体の信用度等に基づいて、各債券銘柄に対する投資のウェイトを算出してもよい。
【0017】
また、サーバ10は、インデックス構成銘柄DB30、債券銘柄DB40、及び市場情報DB50等の各種のデータベースに所定の通信ネットワークを介してアクセス可能である。インデックス構成銘柄DB30には、例えば、任意の債券インデックスを構成する構成銘柄テーブル(例えば国債銘柄テーブル)が記憶されている。インデックス構成銘柄DB30が記憶する債券インデックスは、特に限定されないが、FTSE世界国債インデックスやブルームバーグ・バークレイズ・インデックスその他の、国債や社債を含む債券インデックスであってよい。債券銘柄DB40は、債券の銘柄毎の属性情報を記憶している。属性情報は、例えば、発行通貨、償還年限、残存年限、利率、及び経過利子起算日等を含む。市場情報DBは、種々の市場情報を記憶する。市場情報は、例えば、各債券銘柄の時価、利回り曲線等を含む。
【0018】
ユーザ端末20は、一般的なコンピュータとしての構成を有する。具体的には、ユーザ端末20は、図1に示すように、CPU又はGPUとして構成されるプロセッサ21と、DRAM等によって構成されデータやプログラムを一時的に記憶するメインメモリ22と、ユーザ等との間で情報のやり取りを行う入出力インタフェース23と、有線又は無線の通信を制御する通信インタフェース24と、磁気ディスク又はフラッシュメモリ等によって構成されデータやプログラムを記憶するストレージ25とを備える。プロセッサ21は、ストレージ25等に記憶されているプログラムをメインメモリ22に読み込んで、当該プログラムに含まれる命令を実行する。
【0019】
入出力インタフェース23は、例えば、キーボード、マウス、及びタッチパネル等の情報入力装置、マイクロフォン等の音声入力装置、カメラ等の画像入力装置、ディスプレイ等の画像出力装置、及びスピーカ等の音声出力装置を含む。通信I/F24は、ネットワークアダプタ等のハードウェア、各種の通信用ソフトウェア、又はこれらの組み合わせとして実装される。
【0020】
ユーザ端末20は、例えば、スマートフォン、タブレット端末、又はウェアラブルデバイス等として構成される。ユーザ端末20は、ストレージ25等にインストールされているウェブブラウザ又はその他のアプリケーションを介したサーバ10との間の通信を伴って各種の画面を表示する。
【0021】
(2)動作
図2を参照して、本実施形態に係るサーバ10による動作処理を説明する。一般的に債券インデックスは、時間の経過とともに残存期間が変化し、また定期的に新規銘柄が発行されることから、月ごとに構成銘柄の入れ替えが行われる。図2に示す動作処理は、一例として、翌月の構成銘柄を構築するための入れ替え作業(例えば、各月末)よりも所定期間(例えば、3営業日)前の時点において実行される。このとき、例えば、作業者がユーザ端末20を操作することにより、債券銘柄の投資ポートフォリオの要求がサーバ10に送信され、当該要求を受けたサーバ10が図2に示す動作処理を実行してもよい。
【0022】
(S101)まず、取得部112は、インデックス構成銘柄DB30から、ベースとなるインデックス(ベース・インデックス)の構成銘柄と、各構成銘柄のウェイトとを取得する。図3は、ベース・インデックスのデータ構成の一例を示す図である。図3には、インデックス構成銘柄DB30から取得されるベース・インデックスの一例として、FTSE世界国債インデックスを構成する構成銘柄の一部が示されている。当該ベース・インデックスには、銘柄毎に、ISIN(銘柄コード)、ティッカー、クーポン、満期、発行国、通貨、及びウェイト等が含まれる。なお、図3に示したインデックス構成銘柄DB30から取得されるベース・インデックスは一例であって、取得部112は、他の国債インデックス、社債インデックス、その他の債券インデックスをインデックス構成銘柄DB30から取得してもよい。
【0023】
(S102)次に、取得部112は、ベース・インデックスに含まれる銘柄コードをキーとして、債券銘柄DB40から各銘柄の属性情報を取得する。属性情報は、例えば、発行通貨、償還年限、残存年限、利率、経過利子起算日等を含む。なお、算出部114は、所望の属性情報(例えば、残存年限)を、例えば他の属性情報(償還年限)を用いて算出してもよい。また、取得部112は、市場情報DB50から各銘柄に関する市場情報を取得する。市場情報は、例えば、時価、最終利回り、利回り曲線等を含む。
【0024】
(S103)次に、セクターウェイト算出部1142は、各債券銘柄について、金利感応度として金額デュレーションを算出する。金額デュレーションは、例えば、「PV01」と称される値、すなわち、金利が1パーセント・ポイント変化した際の時価総額の変化を基準通貨ベースで計算して得られる値であってよい。金額デュレーション(PV01)は、例えば、時価(市場価値)と修正デュレーションとの積であってよい。ここで、修正デュレーションは、例えば、金利が所定の割合で変化した場合における、債券価格の変化の度合いを示す指標として定義され得る。修正デュレーションは、例えば、マコーレー・デュレーションを(1+利回り)で割った値として求められる。なお、マコーレー・デュレーションは、例えば、債券投資の平均回収期間であり、債券によって得られる各キャッシュフローのタイミングを、該タイミングで得られるキャッシュの現在価値で加重平均した値であってよい。
【0025】
なお、上述したS103では、セクターウェイト算出部1142は、PV01を算出するものとしたが、セクターウェイト算出部1142は、PV01以外の金額デュレーションや、修正デュレーションを、各債券銘柄の金利感応度として算出してもよい。
【0026】
(S104)次に、期待収益率算出部1141は、ベース・インデックスに含まれる個別銘柄の期待収益率として、キャリー・アンド・ロールダウンを、例えば以下に説明する要領で算出する。なお、期待収益率の算出については次の仮定を置くものとする。すなわち、各債券の保有期間を1年間とし、金利の利回り曲線の変化がなく、為替は1年後のフォワードレートが実現するものと仮定する。更に、保有期間(例えば1年間)の間は、利回り曲線およびスプレッド(該銘柄の残存年限に等しい年限の利回りと、該銘柄の最終利回りとの金利差)が一定とする。なお、現時点の当該銘柄の残存期間から1年短い年限の水準の利回り曲線の金利にスプレッドを加えた値を、1年後の当該銘柄の最終利回りとする。
【0027】
まず、期待収益率算出部1141は、キャリーを算出する。キャリーは、例えば、保有期間中に支払いが想定される利金を短期金利で所定期間(例えば、1年間)だけ運用した場合の利金運用額であってよい。短期金利の種類は特に限定されないが、例えば、1か月物ユーロ預金金利等であってよい。図4には、対象となる債券の利回り曲線YCの一例が示されている。図4の横軸は残存年限(年)を、縦軸は1年間の利回り(%)をそれぞれ示している。図4に示す利回り曲線を実現する5年債の場合、所定期間を1年間として、残存年限5年の利回りに該当する0.9%がキャリーとなる。
【0028】
また、期待収益率算出部1141は、ロールダウンを算出する。一般に、債券の利回りが低下すると、債券価格は上昇する。ロールダウンは、所定期間(例えば、1年間)の経過によって利回りが低下することに伴う、債券価格の上昇によるキャピタル・ゲインを示す指標であり、例えば、当該所定期間における利回りの低下に修正デュレーションを乗じて得られる値として定義され得る。図4に示す利回り曲線を実現する5年債の場合、所定期間を1年間として、残存年限が4年の利回りが0.7%であるため、当該5年債が4年債となった場合の利回りの低下は0.2(=0.9-0.7)%である。そして、修正デュレーションを4(年)とすると、ロールダウンは0.2%×4、すなわち0.8%となる。
【0029】
そして、期待収益率算出部1141は、上述したキャリー及びロールダウンを合算して、キャリー・アンド・ロールダウンを算出する。ここで、キャリー・アンド・ロールダウンは、CaRDやローリング・イールドとも称され、各債券銘柄について所定期間(例えば、1年間)保有した場合の期待収益率(現地通貨ベース)を示す指標であると言える。図4に示す利回り曲線における5年債の場合、キャリー・アンド・ロールダウン(CaRD)は、キャリーである0.9%と、ロールダウンである0.8%の和である、1.7%となる。
【0030】
なお、上述したS104では、期待収益率算出部1141は、期待収益率としてキャリー及びロールダウンの和であるキャリー・アンド・ロールダウンを算出するものとした。しかしながら、期待収益率算出部1141が算出する期待収益率は、キャリー・アンド・ロールダウンに限らず、例えば、キャリーのみ、或いはロールダウンのみであってもよい。また、期待収益率の算出についての仮定は、上述した仮定に限られなくてもよい。例えば、各債券の保有期間や為替のフォワードレートの期間は、1年間に限らず、1週間等の週単位や1ヶ月等の月単位であってもよく、また、2年間以上の年単位であってもよい。なお、各債券の保有期間と為替のフォワードレートの期間とは、同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0031】
(S105)次に、期待収益率算出部1141は、市場情報DB50から基準通貨(例えば、日本円)と、各銘柄の発行通貨のスポットレート及び12ヶ月物為替予約レートとを読込み、全額を為替ヘッジしたと仮定して、上述した現地通貨ベースの期待収益率を為替ヘッジベースの期待収益率に変換する。なお、為替予約レートは、上述したS104における各債券の保有期間に対応しないレートを採用してもよい。
【0032】
(S106)次に、分類部116は、各債券銘柄を発行国及び残存年限によるセクターに分類する。図5A及び図5Bは、各債券銘柄を発行国及び残存年限によって規定されるセクターに分類した結果を示す図である。本実施形態におけるセクターを規定する残存年限は、1~3年、3~5年、5~7年、7~10年、10年~15年、及び15年以上とするが、これらは一例であって、より短い期間又は長い期間で残存年限を分けてもよい。また、本実施形態におけるセクターを規定する発行国は、ベース・インデックス(FTSE世界国債インデックス)に準じた22カ国とするが、発行国はベース・インデックスに採用する国債インデックスに含まれる国であればこれらに限られない。本実施形態では、図5A及び図5Bに示すとおり、138のセクターに分類されることになる。図5A及び図5Bには、セクター毎に、投資のウェイト、時価、修正デュレーション、及び金額デュレーション(PV01)が示されている。
【0033】
(S107)次に、セクターウェイト算出部1142は、上述した債券銘柄毎の為替ヘッジベースの期待収益率に基づいて、各セクターに関するセクター期待収益率を求め、所定の制約条件の下で、線形計画法によって、セクター期待収益率の合計が最大となるように、複数のセクターのそれぞれへの投資のウェイト(配分比率)を算出する。ここで、セクター期待収益率は、例えば、当該セクターの期待収益率の平均に当該セクターに対する投資のウェイトを乗じて得られた値であってよい。所定の制約条件は、例えば、以下の制約条件1~3の論理積であってよい。
【0034】
制約条件1は、求めるべき投資ポートフォリオの時価総額がベース・インデックスの時価総額に等しいこととする。すなわち、iを発行国の通し番号、jを残存年限セクターの通し番号、Mを求めるべき投資ポートフォリオにおける各セクターへの投資のウェイト、mをベース・インデックスにおける各セクターのウェイトとすると、制約条件1は次の式(1)のように表される。
【0035】
【数1】
【0036】
制約条件2は、セクターを少なくとも1つ含むセクター群毎に、求めるべき投資ポートフォリオ及びベース・インデックスそれぞれにおける金利感応度が一致することとする。例えば、セクター群を発行国が同一であるセクターの群とし、金利感応度としてセクター群における金額デュレーション(PV01)の平均値を採用するものとする。この場合、金利感応度は、複数の債券銘柄の発行国毎のセクター群の金額デュレーションの平均値となる。このとき、Di,jをi番目の発行国且つj番目の残存年限のセクターにおける修正デュレーションとすると、制約条件2は、次の式(2)のように表される。
【0037】
【数2】
【0038】
式(2)の左辺は、求めるべき投資ポートフォリオにおける、i番目の発行国のセクター群(すなわち、i番目の発行国によって発行される任意の残存年限の債券銘柄によって構成されるセクター群であってセクター数はj)の金額デュレーション(PV01)の平均値を示している。また、同様に、式(2)の右辺は、ベース・インデックスにおける、i番目の発行国のセクター群の金額デュレーション(PV01)の平均値を示している。
【0039】
制約条件3は、求めるべき投資ポートフォリオにおける各セクターの投資のウェイトは常にゼロ以上とすること(いずれの債券銘柄についてもショートポジションを含めないこと)とする。すなわち、制約条件3は、次の式(3)のように表される。
【0040】
【数3】
【0041】
上述したとおり、セクターウェイト算出部1142は、制約条件1~3の下で、線形計画法により、為替ヘッジベースの期待収益率の合計が最大となる各セクターへの投資のウェイトを算出する。図6は、本実施形態に係るサーバ10によって算出された各セクターへの投資のウェイトの一例を示す図である。図6に示すとおり、当該投資ポートフォリオは、所定のセクターと、セクター毎の投資のウェイトとを含む。なお、図6においては、投資のウェイトがゼロであるセクターについては、図示を省略している。
【0042】
なお、各セクターへの投資のウェイトの算出における所定の制約条件は、上述した制約条件1~3の論理積に限られなくてもよい。例えば、制約条件3を含めずに、少なくとも1つ以上の債券銘柄についてショートポジションを認めてもよい。
【0043】
また、所定の制約条件は、上述した制約条件2に限らず、金利感応度に基づく他の任意の制約条件を含めてもよい。例えば、上述した式(2)では、セクター群を発行国によって規定されるものとしたが、これに限らず、セクター群は発行国の信用度や債券の残存年限によって規定されてもよい。また、金利感応度として、PV01の平均値に限らず、PV01以外の金額デュレーションの平均値や、修正デュレーションの平均値を採用してもよい。
【0044】
(S108)次に、債券ウェイト算出部1143は、算出された各セクターに対する投資のウェイトに基づいて、個別の債券銘柄それぞれに対する投資のウェイトを算出する。なお、当該算出方法は、特に限定されないが、例えば、各債券銘柄のウェイトを按分して、各債券銘柄に対する投資のウェイトを算出してもよい。また、各債券銘柄に関するクーポンの額、満期、発行体の信用度等に基づいて、各債券銘柄に対する投資のウェイトを算出してもよい。算出された個別の債券銘柄それぞれに対する投資のウェイトを以て、求めるべき債券銘柄の投資ポートフォリオとする。
【0045】
(S109)次に、出力部118は、求められた債券銘柄の投資ポートフォリオを出力する。具体的には、例えば、出力部118は、債券銘柄の投資ポートフォリオに関連する情報(例えば、債券銘柄毎の投資のウェイト)を、ユーザ端末20に送信する。これにより、ユーザ端末20は、サーバ10から受信した債券銘柄の投資ポートフォリオに関連する情報を入出力I/F23(例えば、ディスプレイ等の画像出力装置)に出力することが可能となる。以上で、動作処理が終了する。
【0046】
本実施形態に係る上述した各セクターへの投資のウェイトの算出方法によれば、配分比率の制約をベース・インデックスのウェイトに一致させる必要がないため、柔軟な配分が可能となる。また、特定の満期セクターのみに集中的に投資を行うことが可能となる。これにより、投資効率が向上し得る債券銘柄の投資ポートフォリオの構築の支援が可能となる。また、債券銘柄の投資ポートフォリオを構成する銘柄数も、例えばベース・インデックス等よりも少なくて済むため、売買オペレーションも容易となる。
【0047】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。開示技術は、上述した実施形態に限定されるものではなく、開示技術の要旨を逸脱しない範囲内において、他の様々な形で実施することができる。例えば、上述した各処理ステップは処理内容に矛盾を生じない範囲で任意に順番を変更し、または並列に実行することができる。
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6