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特許7419129筆記具用洗浄液およびそれを収容した筆記具用洗浄液包装体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-12
(45)【発行日】2024-01-22
(54)【発明の名称】筆記具用洗浄液およびそれを収容した筆記具用洗浄液包装体
(51)【国際特許分類】
   C11D 17/08 20060101AFI20240115BHJP
   B43K 13/02 20060101ALI20240115BHJP
   C11D 1/72 20060101ALI20240115BHJP
   C11D 3/30 20060101ALI20240115BHJP
【FI】
C11D17/08
B43K13/02
C11D1/72
C11D3/30
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020050809
(22)【出願日】2020-03-23
(65)【公開番号】P2020189962
(43)【公開日】2020-11-26
【審査請求日】2023-01-06
(31)【優先権主張番号】P 2019091980
(32)【優先日】2019-05-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】303022891
【氏名又は名称】株式会社パイロットコーポレーション
(72)【発明者】
【氏名】菅井 洋典
【審査官】井上 恵理
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-033497(JP,A)
【文献】国際公開第2013/180074(WO,A1)
【文献】特表2017-524764(JP,A)
【文献】特開2005-146224(JP,A)
【文献】特開2007-169314(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0172278(US,A1)
【文献】特開2017-196590(JP,A)
【文献】特開平03-151295(JP,A)
【文献】特開平11-263022(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C11D 1/00-19/00
B43K 1/00- 8/24
B43K 11/00-19/18
B41F 31/00-35/06
B08B 3/00- 3/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水、pH調整剤、ノニオン系界面活性剤を含んでなる筆記具用洗浄液であって、ノニオン系界面活性剤のHLB値が15以下であることを特徴とする、筆記具用洗浄液。
【請求項2】
前記筆記具用洗浄液の20℃における表面張力が、20~50mN/mであることを特徴とする、請求項1に記載の筆記具用洗浄液。
【請求項3】
前記ノニオン系界面活性剤が、ポリオキシアルキレン基を有することを特徴とする、請求項1または2に記載の筆記具用洗浄液。
【請求項4】
前記ノニオン系界面活性剤のアルキル基の炭素数が、1~20であることを特徴とする、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の筆記具用洗浄液。
【請求項5】
前記pH調整剤が、水溶性のアミン化合物であることを特徴とする、請求項1ないし4のいずれか1項に記載の筆記具用洗浄液。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項に記載の筆記具用洗浄液を、包装体に収容したことを特徴とする、筆記具用洗浄液包装体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筆記具用洗浄液およびそれを収容した筆記具用洗浄液包装体に関する。さらに詳しくは、くし溝をインキ流量調節機構として配設した筆記具の、くし溝、ペン先、コンバーター(インキ瓶のようなインキ収容体から、筆記具のインキ貯蔵体内に直接インキを吸入することができる機能をもつインキ貯蔵体(万年筆用インキ吸入器))などの筆記具部材を洗浄する筆記具用洗浄液およびそれを収容した筆記具用洗浄液包装体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、万年筆や製図用ペンなどの、インキカートリッジやコンバーター(インキ瓶のようなインキ収容体から、インキ貯蔵体内に直接インキを吸入することができる機能をもつインキ貯蔵体(万年筆用インキ吸入器))を接続して使用する筆記具はよく知られている。
このような万年筆や製図用ペンは、筆記によりインキが無くなった場合には、新たにインキが充填されたインキカートリッジに交換したり、ペン先からコンバーター内にインキを吸入することにより、筆記具本体を廃棄せずに、繰り返し使用し続けることができる。
【0003】
前記のような筆記具では、長期間使用せずに放置しておくと、インキ中の水分が徐々に蒸発し、筆記具のくし溝、ペン先、コンバーターなどの筆記具部材に、染料や顔料などのインキの成分が固まり、インキ乾固してしまうと、筆記不良や、コンバーターの作動不良にもなり得る。
したがって、長期間使用しなくなる前、あるいは長期間放置した後に再び使用する際には、筆記具のくし溝、ペン先、コンバーターなどの筆記具部材を水やぬるま湯で洗浄することが行われている。
また、例えば黒色インキを使用していた筆記具に、黒色インキに替えてあらたに赤色インキを使用する場合には、黒色インキと赤色インキとが筆記具部材の内部で混ざり、混色の筆跡になったり、あるいは種類の異なるインキが混ざることでの凝集や析出物の発生を防止するため、筆記具のくし溝、ペン先、コンバーター(万年筆用インキ吸入器)などの筆記具部材に、残った黒色インキを水やぬるま湯で洗浄することも行われている。
【0004】
耐水性や耐光性に優れ、良好な発色を示す優れた筆跡を得るために、着色剤や樹脂などを含む筆記具用インキ組成物においては、インキ中に樹脂成分が含有されているために、一旦インキが乾固してしまうと、筆記具のくし溝、ペン先、コンバーターを水やぬるま湯に浸漬しただけでは乾固したインキを取り除くことが極めて困難であるため、浸漬した状態でさらに超音波をかける洗浄方法(例えば特許文献1および2)があったが、洗浄する際の装置が大がかりになり、特に、着色剤として顔料を用いたインキ組成物(顔料インキ)を使用した筆記具を洗浄する場合には、インキが乾燥すると、筆記具の、ペン先、コンバーターなどの筆記具部材に、強く乾固しやすくなる問題があった。
特に、万年筆では、筆記によりインキが無くなった場合には、ペン先からコンバーター(万年筆用インキ吸入器)内にインキを吸入することにより、筆記具本体を廃棄せずに繰り返し使用し続けるため、長期に渡って同じ筆記具部材である、くし溝、ペン先、コンバーターなどを使い続ける。そのため、インキ吸入時に、前記筆記具部材に装着傷や摺動傷などの擦り傷などができてしまい、その擦り傷などにインキが入り込んで、インキ乾固してしまうと、乾固したインキを取り除くことが極めて困難となってしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
実開昭56-76092号公報
特開2001-96974号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、上記のような従来の問題を解決するもので、くし溝をインキ流量調節機構として配設した筆記具のくし溝、ペン先、コンバーター(インキ瓶のようなインキ収容体から、筆記具のインキ貯蔵体内に直接インキを吸入することができる機能をもつインキ貯蔵体(万年筆用インキ吸入器))などの筆記具部材を効率よく洗浄することができ、洗浄後の再筆記性も良好である、くし溝、ペン先、コンバーターなどの筆記具部材の洗浄用の筆記具用洗浄液(以下、単に「洗浄液」と表すことがある)およびそれを収容した筆記具用洗浄液包装体を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、
「1.水、pH調整剤、ノニオン系界面活性剤を含んでなる筆記具用洗浄液であって、ノニオン系界面活性剤のHLB値が15以下であることを特徴とする、筆記具用洗浄液。
2.前記筆記具用洗浄液の20℃における表面張力が、20~50mN/mであることを特徴とする、第1項に記載の筆記具用洗浄液。
3.前記ノニオン系界面活性剤が、ポリオキシアルキレン基を有することを特徴とする、第1項または第2項に記載の筆記具用洗浄液。
4.前記ノニオン系界面活性剤のアルキル基の炭素数が、1~20であることを特徴とする、第1項ないし第3項のいずれか1項に記載の筆記具用洗浄液。
5.前記pH調整剤が、水溶性のアミン化合物であることを特徴とする、第1項ないし第4項のいずれか1項に記載の筆記具用洗浄液。
6.第1項ないし第5項のいずれか1項に記載の筆記具用洗浄液を、包装体に収容したことを特徴とする、筆記具用洗浄液包装体。」である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、くし溝をインキ流量調節機構として配設した筆記具のくし溝、ペン先、コンバーター(インキ瓶のようなインキ収容体から、筆記具のインキ貯蔵体内に直接インキを吸入することができる機能をもつインキ貯蔵体(万年筆用インキ吸入器))などの筆記具部材を効率よく洗浄することができ、洗浄後の再筆記性も良好である筆記具用洗浄液およびそれを収容した筆記具用洗浄液包装体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
本明細書において、配合を示す「部」、「%」、「比」等は特に断らない限り質量基準である。
【0010】
<筆記具用洗浄液>
本発明の特徴は、水、pH調整剤、HLB値が15以下であるノニオン系界面活性剤を含んでなる筆記具用洗浄液とすることを特徴とする。
前記筆記具用洗浄液を用いることで、くし溝をインキ流量調節機構として配設した筆記具の、細いくし溝や精密なペン先、コンバーター(インキ瓶のようなインキ収容体から、筆記具のインキ貯蔵体内に直接インキを吸入することができる機能をもつインキ貯蔵体(万年筆用インキ吸入器))などの内部に乾固したインキの洗浄性に優れ、洗浄後の再筆記性も良好である筆記具用洗浄液を得ることができる。
特に、万年筆では、筆記によりインキが無くなった場合には、ペン先からコンバーター内にインキを吸入することにより、筆記具本体を廃棄せずに繰り返し使用し続けるため、長期に渡って筆記具部材である、くし溝、ペン先、コンバーターなどを交換せずに使い続ける。そのため、インキ吸入時や日常的に使用していると、前記部材に装着傷や摺動傷などの擦り傷などができてしまい、その擦り傷などにインキが入り込んで、乾固してしまうと、乾固したインキを取り除くことが極めて困難になるが、そのような場合でも、洗浄性に優れることが可能となる。
【0011】
<ノニオン系界面活性剤>
本発明の筆記具用洗浄液は、HLB値が15以下であるノニオン系界面活性剤を含んでなる。これは、HLB値が15以下であるノニオン系界面活性剤は、筆記具のくし溝、ペン先、コンバーター(万年筆用インキ吸入器)に、インキ成分が固まるなどして、インキ乾固した場合でも、洗浄することが可能であり、さらに、HLB値が15以下であるノニオン系界面活性剤は、筆記具用洗浄液中でも安定しているため、長期間の洗浄効果が得られるためである。さらに、くし溝、ペン先、コンバーター(万年筆用インキ吸入器)などの筆記具部材を洗浄後も、筆記性能に問題なく、再筆記性も良好である
これは、理由は定かではないが下記のように推測する。
HLB値が15以下であるノニオン系界面活性剤のはたらきにより、筆記具用洗浄液の表面張力が下がって、筆記具のくし溝、ペン先、コンバーターへのぬれ性が向上すると共に、乾固したインキ中に含まれる着色剤や樹脂が、洗浄液への溶解後に前記界面活性剤により当該洗浄液中に効率的に分散され、また洗浄液中に分散された着色剤や樹脂が、くし溝、ペン先、コンバーターに再付着することが防止されるため、高い洗浄性を発揮するものと推測する。さらに、筆記具部材を洗浄後も、洗浄液が筆記具部材に付着し続けて、筆記性能に影響することがないため、再筆記性も良好となると推測する。
特に、ペン先・くし溝を具備した首軸、コンバーター(インキ収容体から、筆記具のインキ貯蔵体内に直接インキを吸入することができる機能をもつインキ貯蔵体(万年筆用インキ吸入器))を装着した万年筆の場合は、くし溝は、細かい複雑な構造をしているため、インキ乾固した場合では、洗浄してもインキ汚れが取れにくいため、本発明の筆記具用洗浄液を用いると効果的であり、好ましい。
【0012】
HLB値が15以下であるノニオン系界面活性剤の中でも、水への溶解性や洗浄性を考慮して、HLB値4~15が好ましく、より考慮すれば、HLB値6~15が好ましい。さらに、くし溝、ペン先、コンバーターなどの筆記具部材に擦り傷がある場合を考慮すれば、洗浄性に優れるHLB値8~14が好ましく、より考慮すれば、HLB値11~14が好ましい。
上記のHLB値は、グリフィン法から算出される値であり、下記式によって算出される。
HLB値=20×(親水基の質量%)=20×(親水基の式量の総和/界面活性剤の分子量)
【0013】
筆記具用洗浄液を用いた筆記具の洗浄方法としては、筆記具からキャップ、軸、ならびにコンバーターなどを取り外して、くし溝・ペン先(首軸)の状態とした後に、当該くし溝・ペン先(首軸)、コンバーターを洗浄液中に浸漬する方法や、洗浄液を、スポイトなどを用いてくし溝・ペン先(首軸)、コンバーターに流す方法や、インキ貯蔵体として用いるコンバーターを利用して、洗浄液を、インキを補充するようにペン先から吸入して洗浄する方法などが挙げられる。
【0014】
ノニオン系界面活性剤については、 ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、アルキルグリコシド、アルキルグリセリルグリコシド、メチルグルコシド脂肪酸エステル等が挙げられる。これらの中でも、ポリオキシエチレンなどのポリオキシアルキレン基を有するノニオン系界面活性剤を用いることが好ましい。これは、着色剤や樹脂との親和性が高く、くし溝、ペン先、コンバーターから着色剤や樹脂を効率よくひきはがす効果が得られやすいためで、さらにポリオキシアルキレン基を有すると、水に対する溶解性が良く、水性インキ中で安定しており、長期間安定して、洗浄効果を得られやすいためである。その中でも、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステルの中から1種以上を用いることが好ましく、より好ましくは、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルである。これは、浸透性に優れ、起泡力が低いため、くし溝、ペン先、コンバーターなどの筆記具部材に擦り傷がある場合や、細い複雑な構造のくし溝、精密なペン先、コンバーターであっても、入り込んで洗浄するため、取れにくい汚れでも洗浄効果が得られるためである。
特に、ペン先・くし溝を具備した首軸、コンバーター(インキ収容体から、筆記具のインキ貯蔵体内に直接インキを吸入することができる機能をもつインキ貯蔵体(万年筆用インキ吸入器))を装着した万年筆の場合は、インキ乾固した場合では、洗浄してもインキ汚れが取れにくいため、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルを用いると効果的であり、好ましい。
【0015】
前記ポリオキシアルキレン基を有するノニオン系界面活性剤については、前記ポリオキシアルキレン基を有するノニオン系界面活性剤のアルキル基の炭素数が1~20であることが好ましい。これは、上記範囲であると、筆記具部材の擦り傷、細かい複雑な構造などでも、前記洗浄液が、浸透しやすくする効果が得られるのに適したアルキル基の炭素数での長さであり、高い洗浄効果を得られやすいためである。一方、前記アルキル基の炭素数が多くて、長すぎると、水に対して溶解しづらく、洗浄効果に影響しやすく、また、前記アルキル基の炭素数が少なくて、短すぎても、洗浄効果が十分に得られづらいため、前記アルキル基の炭素数が4~16であることが好ましく、より考慮すれば、前記アルキル基の炭素数が8~14であることが好ましい。
【0016】
前記ポリオキシアルキレン基を有するノニオン系界面活性剤のアルキル基については、直鎖構造、分岐構造を有するものがあるが、分岐構造を有するアルキル基である方が、嵩高い構造をするため、筆記具部材に擦り傷がある場合や、細い複雑な構造をしているくし溝、精密なペン先、コンバーターであっても、入り込んで効果的に洗浄しやすいため、取れにくい汚れが取れやすい効果が得られるため好ましい。
前記ポリオキシアルキレン基を有するノニオン系界面活性剤として、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステルの具体例としては、ポリオキシアルキレンイソデシルエーテル(アルキル基:分岐構造)、ポリオキシアルキレンイソトリデシルエーテル(アルキル基:分岐構造)、ポリオキシアルキレントリデシルエーテル(アルキル基:直鎖構造)、ポリオキシアルキレンデシルエーテル(アルキル基:直鎖構造)、ポリオキシアルキレンラウリルエーテル(アルキル基:直鎖構造)、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビタントリラウレエート、ポリオキシエチレンソルビタントリオレエート、ポリオキシエチレンソルビタントリステアレート、ポリエチレングリコールモノラウレート、ポリエチレングリコールモノステアレート、ポリエチレングリコールモノオレートなど挙げられるが、動的表面張力を低下させることで、浸透性に優れることで、洗浄力を向上しやすいことを考慮すれば、ポリオキシアルキレンイソデシルエーテルを用いることが好ましい。
【0017】
前記ポリオキシアルキレンアルキルエーテルのポリオキシアルキレン基については、エチレンオキシド基、または、プロピレンオキシド基を有することが好ましい。これは、水に対する溶解性が良く、水性インキ中で安定しており、洗浄効果を得られやすいためであり、より考慮すれば、少なくともエチレンオキシド基を有することが好ましい。さらに、前記ポリオキシアルキレン基については、アルキレンオキシドの平均付加モル数が1~20であることが好ましい。これは、上記範囲であると、筆記具部材の擦り傷などに浸透しやすい、アルキレンオキシドの長さであるため、高い洗浄効果を得られやすいためである。一方、前記アルキレンオキシドの平均付加モル数が多く、長すぎると、水に対して溶解しづらく、洗浄効果に影響しやすく、前記アルキレンオキシドの平均付加モル数が少なく、短すぎても、洗浄効果が得られづらいため、前記アルキレンオキシドの平均付加モル数が3~15であることが好ましく、前記アルキレンオキシドの平均付加モル数が5~10であることが好ましい。
【0018】
前記ポリオキシアルキレンアルキルエーテルの曇点については、洗浄効果を考慮すれば、90℃以下であることが好ましく、より考慮すれば、30~80℃が好ましく、さらに40~80℃であることが好ましい。
【0019】
本発明の筆記具用洗浄液における、前記ノニオン系界面活性剤の含有量は、筆記具用洗浄液の総質量を基準として、0.01~10質量%が好ましく、0.5~8質量%が好ましく、1~5質量%であることがより好ましい。これは、上記範囲より含有量が少ないと、洗浄効果を十分に発揮しづらく、上記範囲より多いと、水への溶解性が劣りやすく、前記効果の向上は認められにくいので、これ以上の含有することは要しないためである。
【0020】
前記ノニオン系界面活性剤については、具体的には、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルとしては具体的には、ノイゲンLFシリーズ(ポリオキシアルキレンイソデシルエーテル、第一工業製薬(株)製)、ノイゲンSDシリーズ(ポリオキシエチレンイソデシルエーテル、第一工業製薬(株)製))、ノイゲンTDXシリーズ(ポリオキシアルキレンイソトリデシルエーテル、第一工業製薬(株)製))、ノイゲンXLシリーズ(ポリオキシアルキレンイソデシルエーテル、第一工業製薬(株)製))、ノイゲンTDSシリーズ(ポリオキシエチレントリデシルエーテル、第一工業製薬(株)製))、ノイゲンLPシリーズ(ポリオキシエチレンラウリルエーテル、第一工業製薬(株)製))、ソルゲン シリーズ(ソルビタン脂肪酸エステル、第一工業製薬(株)製))、ソルゲンTWシリーズ(ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、第一工業製薬(株)製))、レオドール シリーズ(ソルビタン脂肪酸エステル・ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、花王 (株)製))、エマノーン シリーズ(ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、花王 (株)製))などが挙げられる。
【0021】
<pH調整剤>
本発明の筆記具用洗浄液は、pH調整剤を含有する。
pH調整剤としては、塩基性成分であるアンモニア、炭酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、水酸化ナトリウムなどの塩基性無機化合物、酢酸ナトリウム、トリエタノールアミン、ジエタノールアミンなどの塩基性有機化合物や、酸性成分である乳酸およびクエン酸などが挙げられる。本発明において、前記HLB値が15以下であるノニオン系界面活性剤との相性を考慮すれば、塩基性成分を用いることが好ましい。これらのpH調整剤は単独又は2種以上混合して使用してもかまわない。
【0022】
塩基性成分の中でも、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどに代表される水溶性のアミン化合物は、前記ノニオン系界面活性剤との親和性がよく、長期保存安定性に優れた筆記具洗浄液になることから好ましく、より考慮すれば、アルカノールアミンが好ましく、その中でも、弱塩基性であるトリエタノールアミンがより好ましい。
【0023】
本発明の筆記具用洗浄液における、前記pH調整剤の含有量は、筆記具用洗浄液の総質量を基準として、0.01~50質量%が好ましく、0.1~15質量%が好ましく、0.1~5質量%が好ましく、筆記具のくし溝、ペン先、コンバーターの洗浄性と筆記具用洗浄液のpHの上昇の両方を考慮すると、0.5~5質量%であることが好ましい。
pH調整剤は、含有量が少なすぎると本発明が本来の目的とする効果を十分に発揮することができない場合があり、逆に含有量が多すぎると、洗浄液のpHによる安全性に懸念が生じてしまう場合がある。
【0024】
本発明の筆記具用洗浄液は、くし溝をインキ流量調節機構として配設した筆記具部材の、細い複雑な構造をしているくし溝、精密なペン先の内部、コンバーター(万年筆用インキ吸入器)などに、乾固したインキを洗浄するために、筆記具用洗浄液の20℃環境下の表面張力は50mN/m以下が好ましく、40mN/m以下がより好ましく、35mN/m以下がより好ましい。また20mN/m以上であると、筆記具のくし溝やペン先、コンバーターに洗浄液が残った場合であっても、筆記具に新たに入れるインキへの影響が出にくいため、好ましく、23mN/m以上がより好ましい。
表面張力は、20℃環境下において、協和界面科学株式会社製の表面張力計測器を用い、白金プレートを用いて、垂直平板法によって測定して求めることができる。
特に、ペン先・くし溝を具備した首軸、コンバーター(インキ収容体から、筆記具のインキ貯蔵体内に直接インキを吸入することができる機能をもつインキ貯蔵体(万年筆用インキ吸入器))を装着した万年筆の場合は、くし溝は、細かい複雑な構造をしているため、インキ乾固した場合では、洗浄してもインキ汚れが取れにくいため、本発明の筆記具用洗浄液を用いると効果的であり、好ましい。
【0025】
また、本発明による筆記具用洗浄液は、浸透性に優れることで、くし溝、ペン先、コンバーターなどの筆記具部材に擦り傷がある場合や、細いくし溝、精密なペン先であっても、入り込んで洗浄性が優れるため、ブルックフィールド社製DV-II粘度計(CPE-42ローター)を用いて、20℃、剪断速度380sec-1(回転数100rpm)で測定した筆記具用洗浄液の粘度が、12mPa・s以下であることが好ましく、より浸透性を向上し、洗浄性を向上することを考慮して、6mPa・s以下であることが好ましく、より考慮すれば、3mPa・s以下であることがより好ましい。
【0026】
本発明のHLB値が15以下であるノニオン系界面活性剤を含んでなる筆記具用洗浄液は、20℃環境下のpHが10以下であることが好ましい、これは、筆記具用洗浄液がpH10を超えて、アルカリ性が強くなると、インキ中に含まれる染料などの着色剤の析出や、変色を抑制しやすく、洗浄時に、使用者の手や衣服などに洗浄液が付着した場合でも、安全性に優れるためである。
さらに、洗浄性、安定性を考慮すれば、筆記具用洗浄液の20℃環境下のpHは、pH7~10が好ましく、pH8~10がより好ましい。
また、筆記具用洗浄液のpHについては、後述する高濃度の原液でのpHを測定しても良く、当該原液を水などで希釈した時の洗浄液のpHを測定してもよい。
特に、筆記具のくし溝ならびにペン先の洗浄時におけるpHを測定することがよい。
本発明において、pH値は、市販のpHメーター(たとえば、IM-40S型pHメーター/東亜ディーケーケー株式会社製)によって、20℃環境下において測定される。
【0027】
本発明の筆記具用洗浄液は、筆記具の洗浄に適した濃度で販売してもよく、水で希釈することにより筆記具の洗浄に適した濃度となる高濃度の原液で販売してもよく、筆記具部材を洗浄する時のpHが、20℃環境下のpHが10以下であることが好ましい。
高濃度の原液で販売することにより、容器が小さく収納に場所をとらないことや、輸送コストを削減できること、使用後のゴミを削減できること、などの利点がある。
本発明の筆記具用洗浄液は、高濃度の原液でも20℃環境下のpHが10以下のため、仮に使用者の手や衣服などに高濃度の原液が付着した場合でも、安全性に優れる。
【0028】
また、本発明の筆記具用洗浄液は、フィルムやシートなどの包装体に収容して、筆記具用洗浄液包装体とすることが好ましいが、携帯性や簡便性の点で、1回の使用量をフィルムやシートの包装体に個別包装することが好ましく、さらに、水分蒸発などの長期保存性の向上を考慮すれば、金属材のフィルムで包装することが好ましく、特にアルミ化合物材のフィルムで包装することが好ましい。また、包装体に収容する洗浄液の含有量については、洗浄性と携帯性とを考慮すれば、3~15mlを包装体に収容した筆記具用洗浄液包装体とすることが好ましく、より考慮すれば、5~10mlを包装体に収容した筆記具用洗浄液包装体とすることが好ましい。
また、筆記具用洗浄液包装体は2個以上とする場合は、繋ぎ目又はミシン目で切り離し可能とした状態で、筆記具用洗浄液包装体を販売することが好ましく、3~12個の筆記具用洗浄液包装体をセットとして販売しても良い。また、筆記具用洗浄液包装体と筆記具を一緒にした、筆記具セットとして販売することが好ましい。。
また、筆記具用洗浄液包装体は、万年筆、ボールペン、マーキングペン(サインペン)、筆ペン、カリグラフィー用のペン、製図用のペンなどの筆記具と一緒に筆記具セットとして販売することが好ましく、筆記具用洗浄液を採取するスポイトなどの吸入器と一緒にした、筆記具用洗浄液セットとして販売することが好ましい。
【0029】
前述した筆記具の洗浄方法により、くし溝やペン先に乾固したインキを取り除いた後は、一般的に洗浄液を水で洗い流す手順、すなわち「すすぎ」が行われるが、当該すすぎが不十分だと、筆記具のくし溝やペン先に洗浄液が残り、この状態のまま、筆記具のくし溝・ペン先(首軸)に新たなインキが充填されたコンバーターを装着し、ペン先からコンバーター内に新たなインキを吸入すると、筆記具のくし溝、ペン先、コンバーターに残った洗浄液が、新たなインキ中に混入する場合がある。
このとき、仮にすすぎが不十分で、筆記具のくし溝、ペン先、コンバーターに洗浄液が残った場合は、新たに吸入されるインキに混ざってしまい、悪影響を及ぼす可能性があるため、その影響が出にくいことを考慮すれば、筆記具用洗浄液の20℃環境下のpHは10以下が好ましく、表面張力は20~50mN/mが好ましい。より好ましくは、筆記具用洗浄液の20℃環境下で、pH7~10が好ましく、表面張力は23~40mN/mが好ましい。
【0030】
特に、着色剤として顔料を用いたインキ組成物(顔料インキ)を使用した筆記具を洗浄する場合、前記ノニオン系界面活性剤は顔料インキ中に含まれる顔料や顔料分散剤に対して親和性が高いため、好ましい。
顔料インキの顔料分散剤としては、酸性樹脂、塩基性樹脂、ノニオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤などがあるが、前記HLB値が15以下であるノニオン系界面活性剤は、特にアクリル樹脂、スチレン-アクリル樹脂、スチレン-マレイン酸樹脂、フェノール樹脂などの酸性樹脂を用いたインキを使用した筆記具に対して洗浄効果が得られやすく、さらに、アクリル樹脂、スチレン-アクリル樹脂を用いたインキを使用した筆記具に対して、より洗浄効果が得られやすいため、好ましい。
そのため、前記ノニオン系界面活性剤を用いた本発明の筆記具洗浄液は、顔料インキを使用した筆記具の洗浄液に好ましく用いられる。
【0031】
顔料を用いたインキ組成物(顔料インキ)とした場合は、くし溝、ペン先、コンバーターにインキが乾固すると、一般的に洗浄しても汚れが取れにくいため、本発明の筆記具用洗浄剤を用いると効果的である。インキ組成物(顔料インキ)に用いられる顔料としては、無機、有機、加工顔料などが挙げられるが、その中でも、有機顔料は、洗浄しても汚れが取れにくいため、本発明の洗浄剤を用いると効果的であり、さらに、考慮すれば、フタロシアニン系の有機顔料であり、最も効果的なのは、フタロシアニングリーン、フタロシアニンブルーを用いたインキ組成物では、効果的であり、好ましい。フタロシアニングリーンとしては、例えばPigment Green7、36、58が挙げられ、フタロシアニンブルーとしては、例えばPigment Blue 16、15、15:1、15:2、15:3、15:4、15:6、75、79などが挙げられ、特に、Pigment Blue 15、15:1、15:2、15:3、15:4、15:6を用いた場合は、効果的である。
【0032】
<水>
本発明の筆記具用洗浄液は、水を含有する。
水としては、特に制限はなく、たとえば、イオン交換水、限外ろ過水、蒸留水、などを用いることができる。
【0033】
また、本発明の筆記具用洗浄液は、洗浄液としての物性や機能を向上させる目的で、防腐剤、防錆剤、キレート剤などの各種添加剤を含んでなることが好ましい。
【0034】
防腐剤(防菌剤)としては、フェノール、安息香酸ナトリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、ソルビン酸カリウム、パラオキシ安息香酸プロピル、2,3,5,6-テトラクロロ-4-(メチルスルフォニル)ピリジン、2-ピリジンチオール-1-オキシドナトリウム、1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オン、2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オンなどが挙げられる。これらの防腐剤は、1種または2種以上の混合物として使用してもよい。
これらの防腐剤(防菌剤)の中でも、防腐剤(防菌剤)効果を考慮すれば、イソチアゾリン系化合物を用いることが好ましく、より考慮すれば、1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オン、2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オンの中から選択することが好ましい。さらに、本発明のように、前記ノニオン系界面活性剤などの他成分との相性によって、洗浄液の安定性(経時変化、加温経時変化、色の変化)の影響を考慮すれば、1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オンを用いることが好ましい。
【0035】
防錆剤としては、ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、ジシクロヘキシルアンモニウムナイトライト、ジイソプロピルアンモニウムナイトライト、チオ硫酸ナトリウム、サポニン、またはジアルキルチオ尿素などが挙げられる。本発明に用いる、防錆効果や、前記ノニオン性界面活性剤の相溶性などを考慮すると、前記防錆剤の中でも、ベンゾトリアゾールを用いることが好ましく、これらの防錆剤は、1種または2種以上の混合物として使用してもよい。
【0036】
また、本発明による筆記具用洗浄液は、筆記具に含まれるインキ組成物の着色剤のイオン物質や、筆記具部材に付着した洗浄液を水で洗い流す、すなわち「すすぎ」が行わった後に、水に含まれるイオン物質による析出物を抑制するために、キレート剤を含んでなることが好ましい。
【0037】
キレート剤としては、アミノカルボン酸などのエチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ヒドロキシエチレンジアミン三酢酸(HEDTA)、グリコールエーテルジアミン四酢酸(GEDTA)、ニトリロ三酢酸(NTA)、ヒドロキシエチルイミノ二酢酸(HIDA)、ジヒドロキシエチルグリシン(DHEG)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、トリエチレンテトラミン六酢酸(TTHA)及びそれらのアルカリ金属塩、アンモニウム塩またはアミン塩などが挙げられる。
筆記具用洗浄液に、キレート剤の配合前後の物性に大きく影響を及ぼしにくい傾向にあること、また、本発明に用いるノニオン性界面活性剤の相溶性などを考慮すると、前記キレート剤の中でも、アミノカルボン酸またはその塩を用いることが好ましく、中でも、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)またはその塩を用いることが好ましい。
【0038】
本発明の筆記具洗浄液におけるキレート剤の含有量は、インキ組成物の総質量を基準として、0.01~1質量%が好ましい。これは、1質量%以下であれば、前記洗浄液の性能や物性に影響しにくく、0.01質量%以上であれば、析出物の発生を抑制しにくいためであり、より好ましくは0.01~0.5質量%である。
【0039】
また、本発明の筆記具用洗浄液は、水溶性有機溶剤を含んでいてもよい。
水溶性有機溶剤としては、(i)エチレングリコール、ポリエチレングリコール、またはグリセリンなどのグリコール類、(ii)メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、イソプロパノール、イソブタノール、t-ブタノール、プロパギルアルコール、アリルアルコール、3-メチル-1-ブチン-3-オール、エチレングリコールモノメチルエーテルアセタートやその他の高級アルコールなどのアルコール類、および(iii)エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、3-メトキシブタノール、または3-メトキシ-3-メチルブタノールなどのグリコールエーテル類などが挙げられる 。
これらの水溶性有機溶剤は、1種または2種以上の混合物として使用してもよい。
【実施例
【0040】
<実施例1>
ノニオン系界面活性剤 1.0質量%
(第一工業製薬株式会社製、商品名:ノイゲンXL-70、ポリオキシアルキレン分岐デシルエーテル、HLB値13.2)
トリエタノールアミン 3.0質量%
防腐剤 0.2質量%
(1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オン)
防錆剤 0.1質量%
(ベンゾトリアゾール)
キレート剤 0.1質量%
(アミノカルボン酸)
イオン交換水 95.7質量%
イオン交換水にノニオン系界面活性剤、トリエタノールアミン、防腐剤、防錆剤、キレート剤を添加し、プロペラ攪拌により混合して、筆記具用洗浄液を得た。
また、得られた筆記具用洗浄液のpH値を、IM-40S型pHメーター(20℃環境下、東亜ディーケーケー株式会社製)により測定したところ、pH値は9.2であった。
なお、得られた筆記具用洗浄液の表面張力を、表面張力計測器(20℃環境下、白金プレート、垂直平板法、協和界面科学株式会社製)により測定したところ、表面張力は27.2mN/mであった。
また、得られた筆記具用洗浄液の筆記具用洗浄液の粘度を、ブルックフィールド社製DV-II粘度計(CPE-42ローター)、20℃、剪断速度380sec-1(回転数100rpm)で測定したところ、筆記具用洗浄液の粘度は、1.1mPa・sであった。
【0041】
<実施例2~29、比較例1~5>
実施例2~29、および比較例1~5は、筆記具用洗浄液に含まれる成分の種類や配合量を表において表される組成に変更した以外は、実施例1と同じ方法で筆記具用洗浄液を得た。
【0042】
実施例1~29、比較例1~5で得られた筆記具用洗浄液について、下記のような評価を行い、結果を表に示した。
株式会社パイロットコーポレーション製万年筆(商品名:カスタムNS)に、ペン先・くし溝(首軸)と、実施例1の筆記具用水性顔料インキ組成物を0.5ml充填した押圧部材を用いてインキ吸入するプッシュ式のコンバーター(インキ収容体から、筆記具のインキ貯蔵体内に直接インキを吸入することができる機能をもつインキ貯蔵体(万年筆用インキ吸入器))とを装着し、試験用の万年筆とした。その後、万年筆を使用し、インキがなくなるまで筆記使用した。
その後、インキ瓶から、インキをプッシュ式のコンバーターで吸引し、インキを補充した。これを、10回繰り返し使用したところ、同じ筆記具部材を繰り返し使い続けたため、ペン先、コンバーターに装着傷や摺動傷などの擦り傷ができていた。
このような、インキで汚れた擦り傷があるペン先・くし溝(首軸)、コンバーターに、水を吸入し洗浄した。
その後、ペン先・くし溝(首軸)、コンバーターに、筆記具用洗浄液を吸入し洗浄した。
このペン先・くし溝(首軸)からコンバーターを取り外し、ペン先・くし溝(首軸)、コンバーターを20℃環境下において100mlの筆記具用洗浄液に浸漬した状態で24時間放置した。
次に、ペン先、くし溝、コンバーターをイオン交換水で洗浄し、インキ付着しているかを目視で評価した。
さらに、0.5mlの筆記具用水性顔料インキ組成物を充填したコンバーターを装着し、再筆記性能を評価した。
また、得られた筆記具用洗浄液の筆記具用洗浄液の粘度を、ブルックフィールド社製DV-II粘度計(CPE-42ローター)、20℃、剪断速度380sec-1(回転数100rpm)で測定したところ、実施例6、実施例17、実施例18の筆記具用洗浄液の粘度は、それぞれ、1.3mPa・s、5.5mPa・s、10.7mPa・sであった。
【0043】
<筆記具用水性顔料インキ組成物>
・顔料分散体(アクリル樹脂分散) 18.0質量%
(富士色素株式会社製、Pigment Blue15:3含有、17質量%水分散体)
・保湿剤 2.0質量%
(グリセリン)
・pH調整剤 0.5質量%
(トリエタノールアミン)
・防腐剤 0.2質量%
(ロンザジャパン株式会社製、商品名:プロキセルXL-2)
・イオン交換水 79.3質量%
イオン交換水、保湿剤、pH調整剤、防腐剤を添加し、プロペラ撹拌により混合してベース液を得た。その後、当該ベース液に顔料分散体を添加し、プロペラ撹拌により混合して、筆記具用水性顔料インキ組成物を得た。
【0044】
【表1】
【表2】
【表3】
【0045】
<コンバーター(擦り傷あり)の洗浄性>
◎:コンバーターにインキ汚れが、ほとんど見られなかった。
○:コンバーターにインキ汚れが、少し見られた。
△:コンバーターにインキ汚れが、見られたが実用上問題ないレベルであった。
×:コンバーターにインキ汚れが、多く残っていた。
【0046】
<ペン先(擦り傷あり)の洗浄性>
◎:ペン先にインキ汚れが、ほとんど見られなかった。
○:ペン先にインキ汚れが、少し見られた。
△:ペン先にインキ汚れが、見られたが実用上問題ないレベルであった。
×:ペン先にインキ汚れが、多く残っていた。
【0047】
<くし溝の洗浄性>
◎:くし溝にインキ汚れが、ほとんど見られなかった。
○:くし溝にインキ汚れが、少し見られた。
△:くし溝にインキ汚れが、見られたが実用上問題ないレベルであった。
×:くし溝にインキ汚れが、多く残っていた。
【0048】
<再筆記性能>
◎:良好な筆跡であった。
〇:実用上問題ない筆跡であった。
×:筆跡にカスレなどがあり、問題になるレベルであった。
【0049】
<洗浄液の安定性試験>
実施例1~29、比較例1~5で得られた筆記具用洗浄液100mlをガラス管に採取し、50℃、2週間放置後、洗浄液を目視にて観察した。
◎◎:洗浄液の安定性が良好であった。
◎:洗浄液の安定性に若干の影響が見られたが、実用上問題ないレベルであった。
〇:洗浄液の安定性に影響が見られたが、実用上問題ないレベルであった。
【0050】
表により、実施例1~29の筆記具用洗浄液は、比較例1~5の筆記具用洗浄液と比較して、コンバーター、ペン先、くし溝の内部で顔料インキが乾固した場合でも洗浄効果が高く、擦り傷があったとしても、コンバーター、ペン先の洗浄にも優れた効果を発揮すると共に、再筆記性にも影響がないことがわかった。
また、実施例2~4は、前記ノニオン系界面活性の含有量が1%未満と少ないため、洗浄液中での安定性がやや劣っていた影響もあり、洗浄液を目視したところ、やや白濁しており、実施例1の方が洗浄力は高かった。実施例14は、前記ノニオン系界面活性のHLB値が10未満であったため、洗浄液中での溶解性がやや劣っていた影響もあり、洗浄液を目視したところ、白濁しており、実施例1の方が洗浄力は高かった。
【0051】
一方、比較例1~5の筆記具用洗浄液は、HLB値が15以下であるノニオン系界面活性剤を用いなかったため、コンバーター(擦り傷あり)を洗浄しても、インキ汚れが残ってしまった。また、比較例1、2、4は、くし溝についても、インキ汚れが残ってしまった。
以上の結果から明らかなように、本発明の筆記具用洗浄液は、洗浄液として優れていることが明らかとなった。
【0052】
なお、実施例では、万年筆のペン先、くし溝、コンバーターを筆記具部材として、洗浄剤を用いて洗浄したが、それ以外の筆記具部材を用いても良く、例えば、ボールペンのプラスチック製チップ、金属製チップなどのペン先、ボールペンチップ保持材(チップホルダー)、インキ収容筒(インキカートリッジ)、筆記具の軸筒、筆記具キャップなどの筆記具部材を洗浄しても良い。
また、コンバーターについては、押圧部材を用いてインキ吸入するプッシュ式のコンバーター、摺動部材を用いてインキ吸入するスライド式コンバーター、回転体を用いてインキ吸入する回転式コンバーターなどがあり、特に限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の筆記具用洗浄液は、万年筆、ボールペン、マーキングペン(サインペン)、筆ペン、カリグラフィー用のペン、製図用のペンなどの、くし溝をインキ流量調節機構として配設した筆記具の洗浄液として好適に用いることができる。