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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-12
(45)【発行日】2024-01-22
(54)【発明の名称】加速器
(51)【国際特許分類】
   H05H 13/00 20060101AFI20240115BHJP
【FI】
H05H13/00
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020060886
(22)【出願日】2020-03-30
(65)【公開番号】P2021163530
(43)【公開日】2021-10-11
【審査請求日】2022-12-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100162640
【弁理士】
【氏名又は名称】柳 康樹
(72)【発明者】
【氏名】上口 長昭
【審査官】鳥居 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2015/0359081(US,A1)
【文献】特開2015-179585(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0056099(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第107846770(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05H 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加速空間において、荷電粒子を旋回させて荷電粒子線を生成する加速器であって、
前記加速空間にて、前記荷電粒子線を第1方向へ曲げる第1のデフレクタと、
前記第1方向へ曲げられた前記荷電粒子線の一部を削るダンパと、
前記加速空間にて、前記第1のデフレクタで曲げられた前記荷電粒子線を前記第1方向とは異なる第2方向へ曲げる曲げ部と
前記加速空間にて、前記曲げ部で曲げられた前記荷電粒子線を前記第1方向へ曲げる第3のデフレクタと、を備える、加速器。
【請求項2】
前記第1方向と前記第2方向とは互いに反対向きである、請求項1に記載の加速器。
【請求項3】
前記加速空間は、互いに対向して配置された一対の磁極間に形成され、
前記第1方向は、一対の前記磁極の一方から他方へ向かう方向であり、
前記第2方向は、一対の前記磁極の他方から一方へ向かう方向である、請求項2に記載の加速器。
【請求項4】
前記曲げ部は、前記第1のデフレクタとは周方向における異なる位置に設けられた他の第2のデフレクタによって構成される、請求項1~3の何れか一項に記載の加速器。
【請求項5】
加速空間において、荷電粒子を旋回させて荷電粒子線を生成する加速器であって、
前記加速空間にて、前記荷電粒子線を第1方向へ曲げるデフレクタと、
前記第1方向へ曲げられた前記荷電粒子線の一部を削るダンパと、
前記加速空間にて、前記デフレクタで曲げられた前記荷電粒子線を前記第1方向とは異なる第2方向へ曲げる曲げ部と、を備え、
前記曲げ部は、前記荷電粒子線を前記第1方向へ曲げるときの印加電圧の向きとは、印加電圧の向きが反対側とされた前記デフレクタによって構成される、加速器。
【請求項6】
加速空間において、荷電粒子を旋回させて荷電粒子線を生成する加速器であって、
前記加速空間にて、前記荷電粒子線を第1方向へ曲げる第1のデフレクタと、
前記第1方向へ曲げられた前記荷電粒子線の一部を削るダンパと、
前記加速空間にて、前記第1のデフレクタで曲げられた前記荷電粒子線を前記第1方向とは異なる第2方向へ曲げる第2のデフレクタと
前記加速空間にて、前記第2のデフレクタで曲げられた前記荷電粒子線を前記第1方向へ曲げる第3のデフレクタと、を備える、加速器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加速器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、加速器として、特許文献1に記載されたものが知られている。この加速器は、中心軸が延びる軸方向に互いに対向して配置された一対の磁極間の加速空間にて、中心軸周りに荷電粒子を旋回させて荷電粒子線を生成する装置である。この加速器は、加速空間にて、荷電粒子線を一対の磁極の一方から他方へ向かう方向へ曲げるデフレクタ(チョッパー)を備えている。加速器は、デフレクタのON/OFFを切り替えることによって、荷電粒子線の出射と停止を切り替えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-179585号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、上述のようなデフレクタが、出射される荷電粒子線の電流の変調に用いられる場合がある。例えば、デフレクタが、荷電粒子線を軸方向における一方側へ曲げ、荷電粒子線の一部をダンパで削ることで、荷電粒子線の電流を変調させることができる。しかしながら、当該構成では、加速器出口での荷電粒子線の軌道がずれてしまうという問題がある。これにより、ビーム輸送系においてビームロスが生じる場合がある。
【0005】
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであり、出射される荷電粒子線の軌道のずれを抑制しながら、荷電粒子線の電流を変調できる加速器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一形態に係る加速器は、加速空間において、荷電粒子を旋回させて荷電粒子線を生成する加速器であって、加速空間にて、荷電粒子線を第1方向へ曲げるデフレクタと、第1方向へ曲げられた荷電粒子線の一部を削るダンパと、加速空間にて、デフレクタで曲げられた荷電粒子線を第1方向とは異なる第2方向へ曲げる曲げ部と、を備える。
【0007】
この加速器は、加速空間にて、荷電粒子線を第1方向へ曲げるデフレクタと、第1方向へ曲げられた荷電粒子線の一部を削るダンパと、を備える。従って、加速器は、デフレクタで第1方向へ曲げると共に、ダンパで荷電粒子線の一部を削ることで、荷電粒子線の電流を変調することができる。ここで、加速器は、加速空間にて、デフレクタで曲げられた荷電粒子線を第1方向とは異なる第2方向へ曲げる曲げ部を更に備える。これにより、加速器は、変調後の荷電粒子線を曲げ部で第2方向へ曲げることによって、軌道のずれを抑制できる。従って、加速器は、軌道のずれを抑制した状態で、荷電粒子線を出射することができる。以上より、出射される荷電粒子線の軌道のずれを抑制しながら、荷電粒子線の電流を変調できる。
【0008】
第1方向と第2方向とは互いに反対向きであってよい。これにより、曲げ部は、変調後の荷電粒子線を元の軌道に戻すことができる。
【0009】
加速空間は、互いに対向して配置された一対の磁極間に形成され、第1方向は、一対の磁極の一方から他方へ向かう方向であり、第2方向は、一対の磁極の他方から一方へ向かう方向であってよい。これにより、加速器は、一対の磁極が対向する方向に荷電粒子線の軌道を曲げて電流を変調できる。
【0010】
曲げ部は、デフレクタとは周方向における異なる位置に設けられた他のデフレクタによって構成されてよい。これにより、デフレクタに印加する電圧を特段調整することなく、他のデフレクタを追加するだけで、荷電粒子線を元の軌道に戻すことができる。
【0011】
曲げ部は、荷電粒子線を第1方向へ曲げるときの印加電圧の向きとは、印加電圧の向きが反対側とされたデフレクタによって構成されてよい。これにより、一つのデフレクタで、荷電粒子線の電流の変調と、荷電粒子線を元の軌道に戻すことを行うことができる。
【0012】
本発明の一形態に係る加速器は、加速空間において、荷電粒子を旋回させて荷電粒子線を生成する加速器であって、加速空間にて、荷電粒子線を第1方向へ曲げる第1のデフレクタと、第1方向へ曲げられた荷電粒子線の一部を削るダンパと、加速空間にて、第1のデフレクタで曲げられた荷電粒子線を第1方向とは異なる第2方向へ曲げる第2のデフレクタと、を備える。
【0013】
この加速器によれば、上述の加速器と同趣旨の作用・効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、出射される荷電粒子線の軌道の変化を抑制しながら、荷電粒子線の電流を変調できる加速器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施形態に係る加速器の概略断面図である。
図2】本発明の実施形態に係る加速器の概略平面図である。
図3】磁極、第1のデフレクタ、ダンパ、及び第2のデフレクタを軌道に沿って延びて軸方向に広がる仮想面で切断し、その断面を平面状に展開した様子を示す模式図である。
図4】(a)は、本実施形態における荷電粒子線Bの様子を示し、(b)は、比較例における荷電粒子線の様子を示す。
図5】変形例に係る加速器の概略平面図である。
図6】磁極、デフレクタ、及びダンパを軌道に沿って延びて軸方向に広がる仮想面で切断し、その断面を平面状に展開した様子を示す模式図である。
図7】変形例に係る加速器の概略平面図である。
図8】荷電粒子線の軌道を直線状に延ばしたと仮定した場合の、第1のデフレクタ、ダンパ、第2のデフレクタ、及び荷電粒子線の様子を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施形態について図面を参照して説明するが、以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明を以下の内容に限定する趣旨ではない。説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。
【0017】
なお、以降の説明においては、本発明の一実施形態に係る加速器として、サイクロトロンを例示する。しかし、加速器は、サイクロトロンに限定されず、シンクロサイクロトロン、シンクロトロン等であってもよい。
【0018】
図1及び図2を参照して、本発明の一実施形態に係る加速器100について説明する。図1は、本発明の実施形態に係る加速器100の概略断面図である。図2は、本発明の実施形態に係る加速器100の概略平面図である。加速器100は、中心軸CL周りに荷電粒子を旋回させて荷電粒子線Bを生成する装置である。加速器100は、例えば、荷電粒子線Bを照射してがん治療を行う治療装置の加速器、ホウ素中性子捕捉療法(BNCT:Boron Neutoron Capture Therapy)を用いたがん治療を行う中性子捕捉療法システムの加速器、PET用加速器、RI製造用加速器、及び原子核実験用加速器など、様々な用途に用いることができる。
【0019】
図1及び図2に示すように、加速器100は、コア10と、イオン源装置2と、コイル3と、ディー電極4と、第1のデフレクタ30(デフレクタ)と、ダンパ40と、第2のデフレクタ50(他のデフレクタ)と、を備える。コア10は、中心軸CLが延びる方向に互いに対向して主磁場を形成する上側の磁極10a及び下側の磁極10bと、磁極10a,10bを磁気的に接続するヨーク部10cと、を有する。磁極10a,10bは、内部が真空にされた真空箱(図示せず)内に位置している。
【0020】
イオン源装置2は、負イオン等の荷電粒子を生成する装置である。イオン源装置2で生成された荷電粒子が導管2aを通じて加速器100の中心部に到達すると、導管2aの先端部に位置するインフレクタ2bによってその向きが上下方向から水平方向に屈曲される。なお、荷電粒子線Bのオンオフは、一対のチョッパ電極11(図1参照)によって切り替えられる。次に、コア10及びコイル3が形成する磁場により、荷電粒子は、所定の軌道面MH(図4参照)に沿って円軌道T(加速器100の中心軸CLから外側に向かう渦巻き状の軌道)を描きながら旋回しつつ加速される(図2参照)。これにより、荷電粒子線Bが生成される。すなわち、真空箱内で、且つ、磁極10a,10b間の領域は、荷電粒子の加速空間S(図1参照)として機能する。その後、荷電粒子線の円軌道Tがデフレクタ16や磁気チャンネル18によって微調整され、四極磁石21で収束されて、ビーム出口19を介して出射された荷電粒子線Bがビーム輸送部20に導入される(図2参照)。なお、イオン源装置2が加速器100の内部に配置されていてもよい。この場合、インフレクタ2b等は不要である。
【0021】
図1に示すように、コイル3は、主磁場を形成するために用いられる。コイル3は、上側の磁極10aの外周を囲むように配置された第1の部分と、下側の磁極10bの外周を囲むように配置された第2の部分とを含む。第1及び第2の部分は、電気的に直列に接続されている。
【0022】
ディー電極4は、扇形状の形状を有する電極である。ディー電極4は、磁極10aと磁極10bとの間、すなわち加速空間S内に配置されている。ディー電極4は、軌道面を間において位置するように中心軸CLが延びる方向に対向している。ディー電極4は、高周波電源(図示せず)に接続されている。高周波電源は、ディー電極4に高周波の電力を供給して、ディー電極4の間に一定の周期で電場の周期が入れ替わる交流電場(高周波電場)を発生させる。荷電粒子がディー電極4間を通過するタイミングと高周波電場の周期とを同期させることにより、ディー電極4を通過するごとに荷電粒子が加速される。
【0023】
第1のデフレクタ30は、ディー電極4とは周方向における異なる位置に設けられる。第2のデフレクタ50は、ディー電極4及び第1のデフレクタ30とは周方向における異なる位置に設けられる。ダンパ40は、周方向における第1のデフレクタ30と第2のデフレクタ50との間に設けられる。ダンパ40は、荷電粒子線Bの進行方向において、第1のデフレクタ30の下流側であって、第2のデフレクタ50の上流側に配置される。デフレクタ30,50は、軌道面を挟むように中心軸CLが延びる方向に対向する一対の電極によって構成される(図3参照)第1のデフレクタ30には、一対の電極に電圧を印加する電源35が接続されている。第2のデフレクタ50には、一対の電極に電圧を印加する電源55が接続されている。
【0024】
次に、図3及び図4を参照して、第1のデフレクタ30、ダンパ40、及び第2のデフレクタ50の詳細な構成について説明する。図3は、磁極10a,10b、第1のデフレクタ30、ダンパ40、及び第2のデフレクタ50を円軌道Tに沿って延びて中心軸CLが延びる方向に広がる仮想面で切断し、その断面を平面状に展開した様子を示す模式図である。なお、図3においては、周方向における所定の基準位置を「0」とし、当該基準位置から荷電粒子線Bの進行方向に180°進んだ位置を「π」とし、360°進んだ位置を「2π」としている。図4は、ダンパ40の位置における荷電粒子線Bを周方向から見た時の様子を示す概念図である。図4(a)は、本実施形態における荷電粒子線Bの様子を示し、図4(b)は、比較例における荷電粒子線Bの様子を示す。
【0025】
図3に示すように、第1のデフレクタ30は、加速空間Sにて、荷電粒子線Bを一対の磁極10a,10bの一方の磁極10bから他方の磁極10aへ向かう方向(第1方向)へ曲げる。ここでは、第1のデフレクタ30は、軌道面MH上を旋回している荷電粒子線Bを上方向(第1方向)へ向かうように曲げる。すなわち、電源35(図2参照)の第1のデフレクタ30に対する印加電圧の向きは、電極間に荷電粒子線Bを上方向へ向かわせる電場E1が発生するように設定される。
【0026】
ダンパ40は、上方向へ曲げられた荷電粒子線Bの一部を削る部材である。例えば、図4(a)に示すように、荷電粒子線Bは、周回位置R1において軌道面MH上を旋回しており、第1のデフレクタ30で上方向へ曲げられることで、周回位置R2において軌道面MHより上側を旋回する。周回位置R2では、荷電粒子線Bの一部が、ダンパ40と干渉する。これにより、ダンパ40は、干渉した部分の進行を遮断することで、当該部分を荷電粒子線Bから削り取ることができる。
【0027】
図3へ戻り、第2のデフレクタ50は、加速空間Sにて、第1のデフレクタ30で曲げられた荷電粒子線Bを一対の磁極10a,10bの他方の磁極10aから一方の磁極10bへ向かう方向(第2方向)へ曲げる曲げ部として機能する。すなわち、曲げ部は、第1のデフレクタ30とは周方向における異なる位置に設けられた第2のデフレクタ50によって構成される。ここでは、第2のデフレクタ50は、上方向へ向かっていた荷電粒子線Bを周回位置R3(図4参照)で示される軌道面MHへ戻すように、下方向(第2方向)へ向かうように曲げる。すなわち、電源55(図2参照)の第2のデフレクタ50に対する印加電圧の向きは、電極間に荷電粒子線Bを下方向へ向かわせる電場E2が発生するように設定される。
【0028】
なお、磁極10aは、軌道面MH側へ突出するヒルHとバレーVを周方向に交互に有している。第1のデフレクタ30と第2のデフレクタ50とは、180°の間隔を空けて、バレーVの位置に配置されている。ダンパ40は、第2のデフレクタ50と上流側で隣り合うヒルHの位置に配置されている。ただし、各構成要素の位置は特に限定されるものではない。
【0029】
次に、本実施形態に係る加速器100の作用・効果について説明する。
【0030】
まず、比較例に係る加速器について説明する。比較例に係る加速器は、加速器100から第2のデフレクタ50を除いた構成を有しており、一つの第1のデフレクタ30だけで荷電粒子線Bの軸方向への曲げを行う。この比較例に係る加速器では、図4(b)に示すように、第1のデフレクタ30で荷電粒子線Bを周回位置R1から周回位置R2へと上方向に曲げて、ダンパ40で削った後に、周回位置R3に示されるように荷電粒子線Bの軌道を軌道面MHに戻すことができない。従って、加速器の出口において、荷電粒子線Bは、軌道がずれたままで出射されてしまう場合がある。この場合、ビーム輸送系においてビームロスが発生する可能性がある。
【0031】
一方、本実施形態に係る加速器100は、加速空間Sにて、荷電粒子線Bを上方向へ曲げる第1のデフレクタ30と、上方向へ曲げられた荷電粒子線Bの一部を削るダンパ40と、を備える。従って、加速器100は、第1のデフレクタ30で上方向へ曲げると共に、ダンパ40で荷電粒子線Bの一部を削ることで、荷電粒子線Bの電流を変調することができる。このように、第1のデフレクタ30を用いて荷電粒子線Bの変調を行うことで、高速な電流制御が可能となる。ここで、加速器100は、加速空間Sにて、第1のデフレクタ30で曲げられた荷電粒子線Bを軸方向における他方側へ曲げる第2のデフレクタ50(曲げ部)を更に備える。これにより、加速器100は、変調後の荷電粒子線Bを第2のデフレクタ50で下方向へ曲げることによって、元の軌道である軌道面MH側に戻すことができる(図4(a)の周回位置R3も参照)。従って、加速器100は、軌道のずれを抑制した状態で、荷電粒子線Bを出射することができる。これにより、ビーム輸送系において、ビームロスを低減した状態で荷電粒子線Bの輸送を行うことができる。また、軌道のずれを抑制することで、ビーム輸送系でのパターメータの調整を不要とすることができる。以上より、出射される荷電粒子線Bの軌道のずれを抑制しながら、荷電粒子線Bの電流を変調できる。
【0032】
ここで、第1のデフレクタ30が荷電粒子線Bを曲げる方向を「第1方向」とし、第2のデフレクタ50が荷電粒子線Bを曲げる方向を第1方向と異なる「第2方向」とする。本実施形態では、第1方向と第2方向とは互いに反対向きとなる。これにより、第2のデフレクタ50は、変調後の荷電粒子線Bを元の軌道に戻すことができる。
【0033】
加速空間Sは、互いに対向して配置された一対の磁極10a,10b間に形成され、第1方向は、一対の磁極10a,10bの一方の磁極10bから他方の磁極10aへ向かう方向であり、第2方向は、一対の磁極10a,10bの他方の磁極10aから一方の磁極10bへ向かう方向である。これにより、加速器100は、一対の磁極10a,10bが対向する方向に荷電粒子線Bの軌道を曲げて電流を変調できる。

【0034】
曲げ部は、第1のデフレクタ30とは周方向における異なる位置に設けられた他の第2のデフレクタ50によって構成される。これにより、デフレクタ50に印加する電圧を特段調整することなく、他の第2のデフレクタ50を追加するだけで、荷電粒子線Bを元の軌道に戻すことができる。
【0035】
本実施形態に係る加速器100は、加速空間Sにて、荷電粒子を旋回させて荷電粒子線Bを生成する加速器100であって、加速空間Sにて、荷電粒子線Bを第1方向である上方向へ曲げる第1のデフレクタ30と、上方向へ曲げられた荷電粒子線Bの一部を削るダンパ40と、加速空間Sにて、第1のデフレクタ30で曲げられた荷電粒子線Bを第2方向である下方向へ曲げる第2のデフレクタ50と、を備える。
【0036】
この加速器100によれば、上述の加速器100と同趣旨の作用・効果を得ることができる。
【0037】
本発明は、上述の実施形態に限定されるものではない。
【0038】
例えば、変形例に係る加速器200として、図5及び図6に示すものを採用してもよい。加速器200において、曲げ部は、荷電粒子線Bを上方向へ曲げるときの印加電圧の向きとは、印加電圧の向きが反対側とされたデフレクタ130によって構成される。これにより、一つのデフレクタ130で、荷電粒子線Bの電流の変調と、荷電粒子線Bを元の軌道に戻すことを行うことができる。
【0039】
デフレクタ130には、高周波の電源70が接続される。これにより、デフレクタ130は、高周波で駆動する共振空洞として機能する。電源70は、荷電粒子の加速周期に合わせて、デフレクタ130の印加電圧の向きを切り替える。
【0040】
図6に示すように、デフレクタ130は、加速空間Sにて、荷電粒子線Bを上方向へ曲げる。ここでは、デフレクタ130は、軌道面MH上を旋回している荷電粒子線Bを上方向へ向かうように曲げる。すなわち、電源70(図5参照)のデフレクタ130に対する印加電圧の向きは、荷電粒子が到達したとき(一周目と称する)に、電極間に荷電粒子線Bを上方向へ向かわせる電場E1が発生するように周波数が合わせられる。これにより、ダンパ40が、荷電粒子線Bの一部を削る。
【0041】
二周目においては、デフレクタ130は、加速空間Sにて、一周目にデフレクタ130で曲げられた荷電粒子線Bを軸方向における他方側へ曲げる曲げ部として機能する。すなわち、曲げ部は、一周目の印加電圧の向きとは、印加電圧の向きが反対側とされたデフレクタ130によって構成される。ここでは、デフレクタ130は、上方向へ向かっていた荷電粒子線Bを軌道面MHへ戻すように、下方向へ向かうように曲げる。すなわち、電源70(図5参照)のデフレクタ130に対する印加電圧の向きは、荷電粒子が到達したときに、電極間に荷電粒子線Bを下方向へ向かわせる電場E2が発生するように周波数が合わせられる。
【0042】
なお、図6では、二つのデフレクタ130が示されているが、部品としては、一周目のデフレクタ130と二周目のデフレクタ130とは、同一のものである。ダンパ40は、デフレクタ130に対して下流側に180°の間隔を空けて、バレーVの位置に配置されている。ただし、各構成要素の位置は特に限定されるものではない。
【0043】
図3に示す例においては、荷電粒子線Bは、第2のデフレクタ50で下方向へ曲げられることで、元の軌道に戻されていた。ここで、第2のデフレクタ50の下流側に、第3のデフレクタを設けてもよい。当該第3のデフレクタは、第1のデフレクタ30と同じ方向へ荷電粒子線Bを曲げる機能を有する。第3のデフレクタを設けることで、荷電粒子線Bを更に元の軌道に戻し易くなる。
【0044】
ここで、上述の実施形態及び変形例では、第1方向は、一対の磁極10a,10bの一方の磁極10bから他方の磁極10aへ向かう方向であり、第2方向は、一対の磁極10a,10bの他方の磁極10aから一方の磁極10bへ向かう方向であった。これに代えて、第1方向は、一対の磁極10a,10bの一方の磁極10aから他方の磁極10bへ向かう方向であり、第2方向は、一対の磁極10a,10bの他方の磁極10bから一方の磁極10aへ向かう方向であってもよい。
【0045】
また、上述の実施形態及び変形例では、荷電粒子線Bを曲げる第1方向及び第2方向は、一対の磁極10a,10bが対向する方向であったが、荷電粒子線Bを曲げる方向は当該方向に限定されない。荷電粒子線Bは、一対の磁極10a,10bが対向する方向に対して交差する方向、例えば水平方向に曲げられてもよい。例えば、図7に示すような加速器200を採用してよい。加速器300は、第1のデフレクタ330と、ダンパ340と、第2のデフレクタ350と、を備える。図8は、荷電粒子線Bの軌道を直線状に延ばしたと仮定した場合の、第1のデフレクタ330、ダンパ340、第2のデフレクタ350、及び荷電粒子線Bの様子を示す模式図である。図8に示すように、第1のデフレクタ330は、荷電粒子線Bを外周側へ向かう方向(第1方向)へ曲げる。ダンパ340は、外周側へ向かう方向へ曲げられた荷電粒子線Bの一部を削る。そして、第2のデフレクタ350は、荷電粒子線Bを内周側へ向かう方向(第2方向)へ曲げる。
【0046】
上述の実施形態及び変形例では、第1方向と第2方向とは互いに反対向きとなっていたが、必ずしも互いに反対向きでなくともよく、少なくとも第2方向が第1方向と異なる方向であればよい。
【符号の説明】
【0047】
10a,10b…磁極、30,330…第1のデフレクタ(デフレクタ)40,340…ダンパ、50,350…第2のデフレクタ(他のデフレクタ、曲げ部)、100,200,300…加速器、130…デフレクタ(曲げ部)。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8