(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-12
(45)【発行日】2024-01-22
(54)【発明の名称】無機系潜熱蓄熱材組成物
(51)【国際特許分類】
C09K 5/06 20060101AFI20240115BHJP
F28D 20/02 20060101ALI20240115BHJP
【FI】
C09K5/06 D
C09K5/06 E
C09K5/06 B
C09K5/06 G
C09K5/06 F
F28D20/02 D
(21)【出願番号】P 2020063886
(22)【出願日】2020-03-31
【審査請求日】2023-01-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】片野 千秋
【審査官】中野 孝一
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-113775(JP,A)
【文献】特開2018-077035(JP,A)
【文献】特開2015-218212(JP,A)
【文献】特開平09-095668(JP,A)
【文献】特開2019-137854(JP,A)
【文献】特開昭61-085486(JP,A)
【文献】国際公開第2017/164304(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/221006(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K5/00-5/20
F28D20/00-20/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機系潜熱蓄熱材組成物の製造方法であって、
水溶性無機塩および増粘剤を含む水溶液中に主剤前駆体を添加する主剤前駆体添加工程、を有し、
前記無機系潜熱蓄熱材組成物は、主剤100重量部、前記増粘剤1重量部~10重量部および前記水溶性無機塩を含
み、
前記増粘剤は、セルロース誘導体である、無機系潜熱蓄熱材組成物の製造方法。
【請求項2】
前記主剤前駆体添加工程より前に、前記水溶液を調製する水溶液調製工程をさらに含み、
当該水溶液調製工程は、水および前記水溶性無機塩を含む混合液に、(a)前記増粘剤、並びに(b)難水溶性無機塩および/または相分離防止剤を分散させる分散工程を含み、
前記無機系潜熱蓄熱材組成物は、前記難水溶性無機塩および/または前記相分離防止剤をさらに含み、
前記相分離防止剤の量は、前記主剤100重量部に対して1重量部~10重量部である、請求項1に記載の無機系潜熱蓄熱材組成物の製造方法。
【請求項3】
前記主剤前駆体は、酢酸ナトリウム無水物、硫酸ナトリウム無水物、塩化カルシウム無水物、塩化カルシウム2水和物、リン酸水素二ナトリウム無水物および炭酸ナトリウム無水物からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1
または2に記載の無機系潜熱蓄熱材組成物の製造方法。
【請求項4】
前記相分離防止剤は、融点が20℃以下である脂肪酸、グリセリン、植物油、パラフィン、および非イオン系界面活性剤からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項2
または3に記載の無機系潜熱蓄熱材組成物の製造方法。
【請求項5】
前記無機系潜熱蓄熱材組成物の融解温度+10℃~融解温度+35℃において、振動粘度計により測定したときの前記無機系潜熱蓄熱材組成物の粘度は2~25Pa・sである、請求項1~
4の何れか1項に記載の無機系潜熱蓄熱材組成物の製造方法。
【請求項6】
前記無機系潜熱蓄熱材組成物は15℃~30℃の融解温度を有する、請求項1~
5の何れか1項に記載の無機系潜熱蓄熱材組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機系潜熱蓄熱材組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境性の観点から、壁材、床材、天井材、屋根材等の建材の技術分野において、室内暖房時に発生する熱エネルギーや、日射光等の自然エネルギーをより有効に活用するための研究および開発が盛んに取り組まれている。具体的には、壁材、床材、天井材等に適用するための、潜熱蓄熱材組成物が多く開発されている。
【0003】
これまで、潜熱蓄熱材組成物(「PCM:Phase Change Materials(相変化材料)」と称される場合もある。)としては、主に有機系潜熱蓄熱材組成物が使用されてきた(特許文献1)。
【0004】
しかし、有機系潜熱蓄熱材組成物は、高コストであったり、可燃性等の問題があるため、近年では、有機系潜熱蓄熱材組成物に代わる部材の利用が注目されてきている。そのような新たな部材として、例えば、無機系潜熱蓄熱材組成物を用いた部材が挙げられる。無機系潜熱蓄熱材組成物に関連する技術としては、例えば、特許文献2~4に挙げるような技術が開示されている。
【0005】
特許文献2には、潜熱蓄熱物質(イ)を主成分とし、融点調整剤(ロ)、微細結晶生成作用および過冷却防止作用および増粘作用を有する相分離防止剤(ハ)および/または微細結晶生成作用を有する融点調整剤(ロ’)、過冷却防止剤(ニ)を必須成分として所定量配合した潜熱蓄熱材組成物が開示されている。
【0006】
特許文献3には、塩化カルシウム6水和物、融点調整剤、過冷却防止剤および増粘剤を含む無機系潜熱蓄熱材組成物が開示されている。
【0007】
特許文献4には、無機塩として硫酸ナトリウム10水和物、臭化ナトリウムおよび塩化ナトリウムを含む蓄熱材組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2017-145381号
【文献】特開2015-218212号
【文献】国際公開第2019/221006号
【文献】国際公開第2017/164304号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上述のような従来技術は、無機系潜熱蓄熱材組成物の製造工程が煩雑であるか、かつ/または、当該製造工程が時間を要するものであり、無機系潜熱蓄熱材組成物の製造方法にさらに改善の余地があった。
【0010】
本発明の一実施形態は、前記問題点に鑑みなされたものであり、その目的は、ゲル状の無機系潜熱蓄熱材組成物を効率的に提供することができる、無機系潜熱蓄熱材組成物の新規の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、水溶性無機塩および増粘剤を含む水溶液中に主剤前駆体を添加することにより、ゲル状の無機系潜熱蓄熱材組成物を効率的に提供することができることを初めて見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
すなわち本発明の一実施形態は、以下の構成を含む。
〔1〕無機系潜熱蓄熱材組成物の製造方法であって、
水溶性無機塩および増粘剤を含む水溶液中に主剤前駆体を添加する主剤前駆体添加工程、を有し、前記無機系潜熱蓄熱材組成物は、主剤100重量部、前記増粘剤1重量部~10重量部および前記水溶性無機塩を含む、無機系潜熱蓄熱材組成物の製造方法。
〔2〕前記主剤前駆体添加工程より前に、前記水溶液を調製する水溶液調製工程をさらに含み、当該水溶液調製工程は、水および前記水溶性無機塩を含む混合液に、(a)前記増粘剤、並びに(b)難水溶性無機塩および/または相分離防止剤を分散させる分散工程を含み、前記無機系潜熱蓄熱材組成物は、前記難水溶性無機塩および/または前記相分離防止剤をさらに含み、前記相分離防止剤の量は、前記主剤100重量部に対して1重量部~10重量部である、〔1〕に記載の無機系潜熱蓄熱材組成物の製造方法。
〔3〕前記増粘剤は、セルロース誘導体である、〔1〕または〔2〕に記載の無機系潜熱蓄熱材組成物の製造方法。
〔4〕前記主剤前駆体は、酢酸ナトリウム無水物、硫酸ナトリウム無水物、塩化カルシウム無水物、塩化カルシウム2水和物、リン酸水素二ナトリウム無水物および炭酸ナトリウム無水物からなる群より選択される少なくとも1種である、〔1〕~〔3〕の何れか1つに記載の無機系潜熱蓄熱材組成物の製造方法。
〔5〕前記相分離防止剤は、融点が20℃以下である脂肪酸、グリセリン、植物油、パラフィン、および非イオン系界面活性剤からなる群より選択される少なくとも1種である、〔2〕~〔4〕の何れか1つに記載の無機系潜熱蓄熱材組成物の製造方法。
〔6〕前記無機系潜熱蓄熱材組成物の融解温度+10℃~融解温度+35℃において、振動粘度計により測定したときの前記無機系潜熱蓄熱材組成物の粘度は2~25Pa・sである、〔1〕~〔5〕の何れか1つに記載の無機系潜熱蓄熱材組成物の製造方法。
〔7〕前記無機系潜熱蓄熱材組成物は15℃~30℃の融解温度を有する、〔1〕~〔6〕の何れか1つに記載の無機系潜熱蓄熱材組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の一実施形態によれば、ゲル状の無機系潜熱蓄熱材組成物を効率的に提供することができる、無機系潜熱蓄熱材組成物の新規の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の一実施形態について以下に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。本発明は、以下に説明する各構成に限定されるものではなく、請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能である。また、異なる実施形態または実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態または実施例についても、本発明の技術的範囲に含まれる。さらに、各実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を組み合わせることにより、新しい技術的特徴を形成することができる。なお、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考文献として援用される。また、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上(Aを含みかつAより大きい)B以下(Bを含みかつBより小さい)」を意図する。
【0015】
〔1.本発明の一実施形態の技術的思想〕
本発明者が鋭意検討した結果、上述した特許文献2~4に記載の技術には、以下に示すような改善の余地があることを見出した。
【0016】
特許文献2に記載の技術では、組成物の大部分を占める無機塩(すなわち主剤)そのものを、組成物の製造の原料として用いている。本発明者らは、特許文献2に記載の技術では、主剤を溶解させるために、混合物を加熱する必要があり、結果として、組成物の製造工程は煩雑となり、時間を要し、かつ高コストとなることを独自に見出した。
【0017】
特許文献3に記載の技術では、組成物の大部分を占める無機塩(すなわち主剤)の前駆体を、製造工程の最初の段階で他の材料と混合し、溶解した後、得られた混合物にさらに他の化合物(例えば無機塩)を溶解させている。本発明者らは、特許文献3に記載の技術では、他の化合物を溶解させるために、主剤の前駆体を溶解させた溶液を加熱する必要があり、結果として、組成物の製造工程は煩雑となり、時間を要し、かつ高コストとなることを独自に見出した。
【0018】
特許文献4に記載の技術では、組成物の全ての原料を乳鉢ですりつぶしながら混合し、組成物を製造している。本発明者らは、特許文献4に記載の技術では、組成物に含まれている全ての成分を均一に混合するためには、原料を乳鉢で十分にすりつぶす必要があり、結果として、組成物の製造工程は時間および技術を要することを独自に見出した。
【0019】
以上のように、特許文献2~4に記載の技術は、無機系潜熱蓄熱材組成物の製造方法にさらに改善の余地があった。本発明の一実施形態は、前記問題点に鑑みなされたものであり、その目的は、ゲル状の無機系潜熱蓄熱材組成物を効率的に提供できる新規の製造方法を提供することである。
【0020】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、以下の点を初めて見出し、本発明を完成させるに至った:水溶性無機塩および増粘剤を含む水溶液中に主剤前駆体を添加することにより、主剤前駆体が主剤となるときに生じる溶解熱または水和熱(発熱)を利用でき、その結果、ゲル状の無機系潜熱蓄熱材組成物を効率的に提供することができる。
【0021】
〔2.無機系潜熱蓄熱材組成物の製造方法〕
本発明の一実施形態に係る無機系潜熱蓄熱材組成物の製造方法は、無機系潜熱蓄熱材組成物の製造方法であって、水溶性無機塩および増粘剤を含む水溶液中に主剤前駆体を添加する主剤添加工程、を有し、前記無機系潜熱蓄熱材組成物は、前記主剤100重量部、前記増粘剤1重量部~10重量部および前記水溶性無機塩を含む。本発明の一実施形態に係る無機系潜熱蓄熱材組成物の製造方法により得られる無機系潜熱蓄熱材組成物もまた、本発明の一実施形態である。
【0022】
無機系潜熱蓄熱材組成物の製造方法を、以下、「製造方法」と称する場合もあり、無機系潜熱蓄熱材組成物を、以下、「組成物」と称する場合もあり、本発明の一実施形態に係る無機系潜熱蓄熱材組成物の製造方法を、以下、「本製造方法」と称する場合もあり、本発明の一実施形態に係る無機系潜熱蓄熱材組成物を、以下、「本組成物」と称する場合もある。
【0023】
本製造方法は、前記構成を有するため、ゲル状の無機系潜熱蓄熱材組成物を効率的に提供することができるという利点を有する。
【0024】
(2-1.主剤前駆体添加工程)
本明細書において、「主剤前駆体」とは、得られる組成物中で、(a)主たる成分、すなわち主剤となり、かつ(b)潜熱型の蓄熱剤の成分として機能し得る、化合物を意図する。本明細書において、「主剤」とは、組成物中の主たる成分を意図し、具体的には、組成物100重量%中、50重量%以上を占める成分を意図する。
【0025】
本明細書において、「水溶性無機塩」とは、25℃の水に対する溶解度が0.01g/ml以上である無機塩を意図する。
【0026】
主剤前駆体としては、特に限定されず、組成物の所望の融解温度および粘度などに基づき適宜選択され得る。主剤前駆体は、得られる組成物中の主剤と同一の物質であってもよい。主剤前駆体としては、(a1)水との接触により水和物を形成し、かつ(b1)水和物の形成に伴い発熱する、すなわち正の溶解熱を示す、無機塩であることが好ましい。当該構成によると、組成物をより効率的かつ安定的に製造できるという利点を有する。より具体的に、前記(a1)および(b1)を満たす主剤前駆体を使用する場合、当該製造方法は以下のような利点を有する:(a)主剤前駆体を添加する前の水溶液がゲル化しないという利点、および(b)水溶液中への主剤前駆体の添加により、加熱を必要とすることなく、または少しの加熱により、増粘剤の作用により得られる組成物を容易にゲル状態にできるという利点。前記(a1)を満たす主剤前駆体を使用する場合、得られる組成物は、主剤として、主剤前駆体から形成された水和物を含み得る。
【0027】
主剤前駆体添加工程において、水溶液中に主剤前駆体を添加する方法としては特に限定されない。前記(a1)および(b1)を満たす主剤前駆体を使用する場合、主剤前駆体の添加による発熱を最大限利用するために、水溶液中に添加する主剤前駆体は容器状態ではなく、固体であることが好ましい。
【0028】
主剤前駆体添加工程では、水溶液中に主剤前駆体を添加した後、得られた混合物を攪拌することが好ましい。当該攪拌に用いる装置としては特に限定されず、公知の装置を適宜使用することができる。当該攪拌には、例えば、インテンシブミキサーなどのミキサー、スターラーおよび振とう機などを使用できる。当該攪拌の条件としては特に限定されない。例えば、攪拌装置としてインテンシブミキサーを使用する場合、ローター回転数は、100rpm~2000rpmが好ましく、200rpm~1800rpmがより好ましく、300rpm~1500rpmがさらに好ましく、500rpm~1500rpmが特に好ましい。例えば、攪拌装置としてインテンシブミキサーを使用する場合、パン回転数は、5rpm~40rpmが好ましく、10rpm~35rpmがより好ましく、15rpm~30rpmが特に好ましい。
【0029】
水溶液中に主剤前駆体を添加した後、得られた混合物を加熱してもよい。当該加熱に用いる装置としては特に限定されず、公知の装置を適宜使用することができる。当該加熱は、例えば、混合物の攪拌に用いる装置に備えられた加熱手段を使用してもよい。混合物の加熱温度としては、特に限定されず、25℃~70℃が好ましく、30℃~70℃がより好ましく、35℃~70℃がより好ましく、40℃~70℃がより好ましく、45℃~65℃がより好ましく、50℃~60℃が特に好ましい。
【0030】
前記(a1)および(b1)を満たす主剤前駆体を使用する場合、水溶液中に主剤前駆体を添加して得られる混合物の温度は上昇し得る。そのため、当該混合物を加熱する必要はないが、生産効率を向上させるために、当該混合物を加熱してもよい。水溶液中に主剤前駆体を添加して得られる混合物の温度は、熱による増粘剤の分解を抑えるため、および熱により混合物の粘度を低下させすぎないために、高すぎないことが好ましく、例えば、混合物中の水が蒸発しにくい温度であることが好ましい。具体的に、水溶液中に主剤前駆体を添加して得られる混合物の温度は、100℃以下が好ましく、90℃以下がより好ましく、85℃以下がさらに好ましく、80℃以下が特に好ましい。それ故、前記(a1)および(b1)を満たす主剤前駆体を使用する場合、水溶液中に主剤前駆体を添加して得られる混合物が、上述の温度範囲(例えば100℃)を超えないよう、当該混合物の攪拌を終了させるか、または当該混合物を冷却するなどして、主剤前駆体添加工程を終了することが好ましい。
【0031】
(2-2.水溶液調製工程)
本製造方法は、主剤前駆体添加工程より前に、水溶液を調製する水溶液調製工程をさらに含むことが好ましい。水溶液調製工程は、水および前記水溶性無機塩を含む混合液に、(a)前記増粘剤、並びに(b)難水溶性無機塩および/または相分離防止剤を分散させる分散工程を含むことが好ましい。また、水溶液調製工程は、水および水溶性無機塩を含む混合液を調製する混合液調製工程をさらに含むことが好ましい。本製造方法が、主剤前駆体添加工程に加えて水溶液調製工程、混合液調製工程および分散工程をさらに含む場合、水溶液調製工程そして主剤前駆体添加工程がこの順で実施され、水溶液調製工程において、混合液調製工程そして分散工程がこの順で実施される。本製造方法が、水溶液調製工程、混合液調製工程および/または分散工程をさらに含む場合、当該製造方法は、組成物をより効率的かつ安定的に提供できるという利点を有する。また、本製造方法が、水溶液調製工程、混合液調製工程および/または分散工程をさらに含む場合、難水溶性無機塩および/または相分離防止剤をさらに含む無機系潜熱蓄熱材組成物を得ることができる。
【0032】
本明細書において、「難水溶性無機塩」とは、25℃の水に対する溶解度が0.01g/ml未満である無機塩を意図する。
【0033】
(2-2-1.混合液調製工程)
混合液調製工程の具体的な態様は、特に限定されず、単に水と水溶性無機塩とを混合する態様であってもよい。混合液調製工程で得られる混合液中において、水溶性無機塩は完全に溶解していることが好ましい。水溶性無機塩が完全に溶解している混合液を調製するために、水と水溶性無機塩とを混合して得られた混合液を攪拌および/または加熱することが好ましい。
【0034】
混合液調製工程において、混合液の攪拌に用いる装置としては特に限定されず、公知の装置、例えば主剤前駆体添加工程で混合物の攪拌に用いる装置として列挙した装置、を適宜使用することができる。例えば、攪拌装置としてインテンシブミキサーを使用する場合、ローター回転数は、100rpm~2000rpmが好ましく、200rpm~1800rpmがより好ましく、300rpm~1500rpmがさらに好ましく、500rpm~1500rpmが特に好ましい。例えば、攪拌装置としてインテンシブミキサーを使用する場合、パン回転数は、5rpm~40rpmが好ましく、10rpm~35rpmがより好ましく、15rpm~30rpmが特に好ましい。
【0035】
混合液調製工程において、混合液の加熱に用いる装置としては特に限定されず、公知の装置を適宜使用することができる。混合液の加熱に用いる装置としては、混合液の攪拌に用いる装置に備えられた加熱手段を使用してもよい。混合液の加熱温度としては、特に限定されず、30℃~60℃が好ましく、35℃~55℃がより好ましく、40℃~50℃が特に好ましい。
【0036】
(2-2-2.分散工程)
分散工程では、主剤前駆体添加工程で使用する水溶液を得ることができる。分散工程の具体的な態様は、増粘剤、並びに、難水溶性無機塩および/または相分離防止剤が分散している水溶液を得ることができる限り、特に限定されない。本明細書において、「増粘剤、並びに、難水溶性無機塩および/または相分離防止剤が分散している水溶液」とは、16メッシュの篩の上部から下部にかけて、1Lの水溶液を孔径50mmの管を通して流速1L/分以下で流したときに、篩を通過できる、換言すれば篩上に固体が残存しない水溶液を意図する。
【0037】
分散工程の態様としては、例えば、混合液に(a)増粘剤、並びに(b)難水溶性無機塩および/または相分離防止剤を添加し、増粘剤、並びに、難水溶性無機塩および/または相分離防止剤が分散するまで、得られた水溶液を混合する態様であってもよい。分散工程で得られる水溶液中における、(a)増粘剤、並びに(b)難水溶性無機塩および/または相分離防止剤の分散状態は、均一であるほど好ましい。(a)増粘剤、並びに(b)難水溶性無機塩および/または相分離防止剤の分散状態が良好である水溶液を得るために、水溶液を攪拌および/または加熱することが好ましい。
【0038】
分散工程において、水溶液の攪拌に用いる装置としては特に限定されず、公知の装置、例えば主剤前駆体添加工程で混合物の攪拌に用いる装置として列挙した装置、を適宜使用することができる。例えば、攪拌装置としてインテンシブミキサーを使用する場合、ローター回転数は、100rpm~2000rpmが好ましく、200rpm~1800rpmがより好ましく、300rpm~1500rpmがさらに好ましく、500rpm~1500rpmが特に好ましい。例えば、攪拌装置としてインテンシブミキサーを使用する場合、パン回転数は、5rpm~40rpmが好ましく、10rpm~35rpmがより好ましく、15rpm~30rpmが特に好ましい。
【0039】
分散工程において、水溶液の加熱に用いる装置としては特に限定されず、公知の装置を適宜使用することができる。水溶液の加熱に用いる装置としては、水溶液の攪拌に用いる装置に備えられた加熱手段を使用してもよい。水溶液の加熱温度としては、特に限定されず、10℃~50℃が好ましく、10℃~45℃がより好ましく、10℃~40℃がより好ましく、15℃~40℃がより好ましく、20℃~40℃がより好ましく、25℃~40℃がより好ましく、30℃~40℃がさらに好ましく、30℃~35℃が特に好ましい。水溶液の加熱温度は35℃~45℃であってもよい。続く主剤前駆体添加工程で、水溶液と主剤前駆体とを均一に混合するために、分散工程で得られる水溶液は、ゲル化していないことが好ましい。分散工程で得られる水溶液の熱によるゲル化を抑制するために、分散工程で得られる水溶液の温度は高すぎないことが好ましい。分散工程で得られる水溶液の温度は、例えば10℃~50℃以下が好ましく、45℃以下がより好ましく、40℃以下がさらに好ましく、35℃以下が特に好ましい。
【0040】
分散工程において、増粘剤を難水溶性無機塩および/または相分離防止剤よりも先に混合液に添加する場合(場合Aとする)と、難水溶性無機塩および/または相分離防止剤を増粘剤よりも先に混合液に添加する場合(場合Bとする)と、について説明する。場合Aでは、水溶性無機塩が完全に溶解している透明な混合液中に増粘剤を添加することになる。一方、場合Bでは、水溶性無機塩が完全に溶解している透明な混合液中に難水溶性無機塩および/または相分離防止剤を添加し、難水溶性無機塩および/または相分離防止剤が分散している混合液中に増粘剤を添加することとなる。従い、場合Bよりも場合Aの方が増粘剤の分散の程度を目視で確認しやすい。従って、増粘剤が均一に分散している水溶液を容易に得るために、分散工程において、増粘剤は、難水溶性無機塩および/または相分離防止剤よりも先に、混合液に添加することが好ましい。換言すれば、分散工程において、難水溶性無機塩および/または相分離防止剤は、増粘剤を含む(例えば増粘剤が分散されている)混合液中に含むことが好ましい。
【0041】
分散工程において、難水溶性無機塩および相分離防止剤を使用する場合(場合Cとする)について説明する。場合Cにおいて、難水溶性無機塩および相分離防止剤を予め混合し、相分離防止剤中に難水溶性無機塩を分散させた分散物を調製し、当該分散物を混合液に添加することが好ましい。また、場合Cにおいて、難水溶性無機塩および相分離防止剤を予め混合し、相分離防止剤中に難水溶性無機塩を分散させた分散物を調製し、当該分散物を、増粘剤を含む(例えば増粘剤が分散されている)混合液中に添加することがより好ましい。分散工程において、(a)難水溶性無機塩および相分離防止剤を使用し、かつ(b)当該相分離防止剤が粘度の低い液体である場合、例えば、無機系潜熱蓄熱材組成物の融解温度+10℃~融解温度+35℃である相分離防止剤を、振動粘度計により測定して得られた粘度が2Pa・s未満である場合(場合Dとする)、について説明する。場合Dにおいては特に、難水溶性無機塩および相分離防止剤を予め混合し、相分離防止剤中に難水溶性無機塩を分散させた分散物を調製し、当該分散物を、(a)混合液、または(b)増粘剤を含む混合液中に添加することが好ましい。場合CおよびDにおいて、相分離防止剤中に難水溶性無機塩を分散させた分散物を(a)混合液、または(b)増粘剤を含む混合液中に添加することにより、得られる水溶液中で難水溶性無機塩をより確実に分散できるという利点を有する。
【0042】
以下、本製造方法で使用する各化合物、すなわち本組成物に含まれる各成分ついて詳細に説明する。
【0043】
(2-3.主剤前駆体)
主剤前駆体は無機塩である。本製造方法では、主剤前駆体として無機塩を使用する。そのため、本製造方法により得られる組成物、すなわち本組成物は、主剤として無機塩を含む。その結果、本組成物は、有機系潜熱蓄熱材組成物と比較して、難燃性であるという利点を有する。
【0044】
主剤前駆体としては、酢酸ナトリウム無水物、硫酸ナトリウム無水物、塩化カルシウム無水物、塩化カルシウム2水和物、リン酸水素二ナトリウム無水物および炭酸ナトリウム無水物からなる群(以下、群(A)とも称する。)より選択される少なくとも1種であることが好ましい。群(A)に属する無機塩は、(a)水との接触により水和物を形成し、かつ(b)水和物の形成に伴い発熱する、すなわち正の溶解熱を示す。例えば、水和物の形成に伴い発熱する主剤前駆体としては、(a)酢酸ナトリウム無水物は水との接触により酢酸ナトリウム3水和物を形成し、かつ酢酸ナトリウム3水和物の形成に伴い発熱する;(b)硫酸ナトリウム無水物は水との接触により硫酸ナトリウム10水和物を形成し、かつ硫酸ナトリウム10水和物の形成に伴い発熱する;(c)塩化カルシウム無水物および/または塩化カルシウム2水和物は水との接触により塩化カルシウム6水和物を形成し、かつ塩化カルシウム6水和物の形成に伴い発熱する;(d)リン酸水素二ナトリウム無水物は水との接触によりリン酸水素二ナトリウム12水和物を形成し、かつリン酸水素二ナトリウム12水和物の形成に伴い発熱する;(e)炭酸ナトリウム無水物は水との接触により炭酸ナトリウム10水和物を形成し、かつ炭酸ナトリウム10水和物の形成に伴い発熱する。主剤前駆体が群(A)に属する無機塩から選択される少なくとも1種である場合、水溶性無機塩との組合せにより15℃~30℃の融解温度を有する組成物を容易に製造することができる、という利点を有する。
【0045】
主剤前駆体として、上述した化合物の1種類のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0046】
本組成物に含まれる主剤の量は特に限定されず、所望の融解温度および粘度などに基づき適宜設定され得る。本組成物は、無機塩の総重量100重量部中、主剤を50重量部以上含むことが好ましく、55重量部以上含むことがより好ましく、60重量部以上含むことがより好ましく、65重量部以上含むことがさらに好ましく、70重量部以上含むことが特に好ましい。当該構成によると、得られる組成物は、重量あたりの潜熱量が大きくなるため、蓄熱材として効率良く機能する、という利点を有する。本製造方法における主剤前駆体の使用量としては特に限定されず、得られる組成物中の主剤の量が上述の範囲内となるように、適宜設定され得る。
【0047】
(a)得られる組成物を人間の住環境を想定した温度帯で使用できること、および(b)得られる組成物が耐久性に優れ、かつ臭いが少ないこと等から、本組成物は、主剤として塩化カルシウム6水和物を含むことが好ましい。本組成物は、無機塩の総重量100重量部中、塩化カルシウム6水和物を55重量部以上含むことがより好ましく、60重量部以上含むことがより好ましく、65重量部以上含むことがさらに好ましく、70重量部以上含むことが特に好ましい。本製造方法では、得られる組成物中の主剤である塩化カルシウム6水和物の量が上述の範囲内となるように、主剤前駆体として塩化カルシウム6水和物を使用することが好ましい。本組成物において、主剤は塩化カルシウム6水和物であることが最も好ましく、換言すれば、本製造方法では、主剤前駆体は塩化カルシウム無水物、塩化カルシウム2水和物および/または塩化カルシウム4水和物であることが最も好ましい。
【0048】
本発明の一実施形態において、使用する主剤前駆体が硫酸ナトリウム無水物であり、すなわち得られる組成物中の主剤が硫酸ナトリウム10水和物である態様を「態様A」とする。本発明の一実施形態において、使用する主剤前駆体が塩化カルシウム無水物、塩化カルシウム2水和物および/または塩化カルシウム4水和物であり、すなわち得られる組成物中の主剤が塩化カルシウム6水和物である態様を「態様B」とする。
【0049】
(2-4.水溶性無機塩)
本明細書において、「水溶性無機塩」とは、25℃の水に対する溶解度が0.01g/ml以上である無機塩、である。
【0050】
水溶性無機塩は、組成物中で、(a)組成物の融解温度および/もしくは凝固温度を調節する機能、並びに/または(b)組成物の過冷却を防止する機能、を有し得る。「組成物の融解温度および/または凝固温度を調節し得る無機塩」は、「融点調整剤」または「凝固点降下剤」と称される場合もある。「組成物の過冷却を防止し得る無機塩」は、「過冷却防止剤」、「過冷却抑制剤」、「結晶核剤」、「核剤」または「核形成剤」と称される場合もある。なお、本明細書において、「融点調整剤」とは、「組成物の融解温度および/または凝固温度を調節し得る水溶性無機塩」を意図し、「凝固点降下剤」と称される場合もある。また、本明細書において、「組成物の過冷却を防止し得る水溶性無機塩」を、「第1の過冷却防止剤」とも称する。
【0051】
水溶性無機塩としては、特に限定されるものではないが、(a)組成物の融解温度および/もしくは凝固温度を調節する機能、並びに/または(b)組成物の過冷却を防止する機能、を有する化合物であることが好ましい。すなわち、水溶性無機塩としては、「融点調整剤」および/または「第1の過冷却防止剤」であることが好ましい。当該構成によると、所望の融解温度および/または凝固温度を有し、かつ過冷却が小さい組成物を得ることができる。
【0052】
(2-5.融点調整剤)
融点調整剤としては、組成物の融解温度および/または凝固温度を調節する機能を有する限り、特に限定されない。融点調整剤としては、金属臭化物および/または金属塩化物が好ましく、(a)臭化リチウム、臭化ナトリウム、臭化カリウム、臭化カルシウム、臭化マグネシウム、臭化鉄、臭化亜鉛、臭化バリウム等の金属臭化物、および(b)塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、塩化鉄、塩化亜鉛、塩化コバルト等の金属塩化物、からなる群より選ばれる1種以上がより好ましい。
【0053】
融点調整剤としては、金属臭化物および金属塩化物以外の化合物であってもよい。金属臭化物および金属塩化物以外の融点調整剤としては例えば、(c)アンモニウム塩、(d)金属臭化物および金属塩化物以外の金属ハロゲン化物、(e)金属非ハロゲン化物、(f)尿素等を挙げることができる。
【0054】
融点調整剤であるアンモニウム塩としては、臭化アンモニウム、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、カルバミン酸アンモニウム、ギ酸アンモニウム、クエン酸三アンモニウム、および酢酸アンモニウム等を挙げることができる。
【0055】
融点調整剤である、金属臭化物および金属塩化物以外の金属ハロゲン化物としては、ヨウ化リチウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウム等を挙げることができる。
【0056】
融点調整剤である金属非ハロゲン化物としては、硫酸ナトリウム、硝酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、水素化ホウ素ナトリウム、ギ酸ナトリウム、シュウ酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、グルタミン酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、硫酸カリウム、硝酸カリウム、酢酸カリウム、リン酸カリウム、水素化ホウ素カリウム、ギ酸カリウム、シュウ酸カリウム、炭酸カリウム、グルタミン酸カリウム、水酸化カリウム、硝酸カルシウム、グルタミン酸カルシウム、硫酸アルミニウム、硝酸アルミニウム、硫酸マグネシウム、硝酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、グルタミン酸マグネシウム等を挙げることができる。
【0057】
上述した、融点調整剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0058】
臭化ナトリウム、臭化カリウム、臭化アンモニウム等は、少量の使用で、得られる組成物の融解温度および/または凝固温度を所望の温度(例えば15℃~30℃)に調節することができる。そのため、融点調整剤は、臭化ナトリウム、臭化カリウムおよび臭化アンモニウムからなる群から選択される1種以上であることがさらに好ましい。
【0059】
融点調整剤は、使用する主剤前駆体に合わせて適宜選択されることが好ましく、すなわち得られる組成物中の主剤に合わせて適宜選択されることが好ましい。態様Aにおいて、融点調整剤は、(a)臭化ナトリウムと塩化ナトリウムとの混合物、および/または(b)尿素であることが好ましい。態様Bにおいて、融点調整剤は、(a)臭化ナトリウムと臭化カリウムとの混合物、または(b)臭化ナトリウムであることが好ましい。
【0060】
本組成物に含まれる融点調整剤の量は、特に限定されず、主剤の種類に合わせて適宜選択され得る。換言すれば、本製造方法における融点調整剤の使用量としては特に限定されず、使用する主剤前駆体の種類に合わせて適宜選択され得る。
【0061】
態様Aにおいて、組成物中の融点調整剤の合計含有量は、主剤1.0モルに対して、0.05モル~2.00モルが好ましく、0.10モル~1.50モルがより好ましく、0.50モル~1.50モルがさらに好ましい。当該構成であれば、得られる組成物を壁材、床材、天井材、屋根材等の建材に用いるとき、当該建材部材の近傍の空間、または当該建材で覆われた空間の温度を適切な温度に高精度で維持できる。態様Aにおいて、組成物が、主剤1.0モルに対して融点調整剤を合計量で0.50モル~1.50モル含む場合について説明する。この場合、得られる組成物を壁材、床材、天井材、屋根材等の建材に用いるとき、当該建材部材の近傍の空間、または当該建材部材で覆われた空間の温度を、15~30℃の温度範囲で安定的に維持できる。態様Aにおいて、本製造方法における融点調整剤の合計使用量は、得られる組成物中の融点調整剤の合計含有量が上述の範囲内となるように、適宜設定され得る。
【0062】
態様Bにおいて、組成物中の融点調整剤の合計含有量は、主剤1.0モルに対して、0.05モル~2.00モルが好ましく、0.10モル~1.50モルがより好ましく、0.15モル~1.00モルがさらに好ましい。当該構成であれば、得られる組成物を壁材、床材、天井材、屋根材等の建材に用いるときに、当該建材部材の近傍の空間、または当該建材で覆われた空間の温度を適切な温度に高精度で維持できる。態様Bにおいて、組成物が、主剤1.0モルに対して融点調整剤を合計量で0.05モル~2.00モル含む場合について説明する。この場合、得られる組成物を壁材、床材、天井材、屋根材等の建材に用いるとき、当該建材部材の近傍の空間、または当該建材部材で覆われた空間の温度を、15~30℃の温度範囲で安定的に維持できる。態様Bにおいて、本製造方法における融点調整剤の合計使用量は、得られる組成物中の融点調整剤の合計含有量が上述の範囲内となるように、適宜設定され得る。
【0063】
なお、態様AおよびB以外の場合、本製造方法における融点調整剤の合計使用量、および、本組成物中の融点調整剤の合計含有量は、適宜設定され得る。
【0064】
取り扱い性に優れ、環境負荷が小さく、かつ臭いが少ないことから、本組成物に含まれるアンモニウム塩の含有量は、少ないことが好ましい。本組成物に含まれるアンモニウム塩の含有量は、当該組成物100重量%に対して、1重量%以下であることが好ましく、0.5重量%以下であることがより好ましく、0.1重量%以下であることがさらに好ましく、0.01重量%以下であることがさらに好ましく、0重量%であることが特に好ましい。本製造方法におけるアンモニウム塩の使用量は、得られる組成物中のアンモニウム塩の含有量が上述の範囲内となるように、適宜設定され得る。すなわち、本製造方法では、アンモニウム塩を使用しないことが特に好ましい。
【0065】
態様Bにおいて、融点調整剤として、金属臭化物および/または金属塩化物に加えて金属臭化物および金属塩化物以外の金属ハロゲン化物を使用する場合について説明する。この場合、組成物に含まれる、融点調整剤でありかつ金属臭化物および金属塩化物以外の金属ハロゲン化物の量は、主剤1.0モルに対して1.0モル以下であることが好ましく、0.5モル以下であることがより好ましく、0.3モル以下であることがさらに好ましい。当該構成によると、得られる組成物を壁材、床材、天井材、屋根材等の建材に用いるときに、当該建材部材の近傍の空間、または当該建材で覆われた空間の温度を所望の温度により精度良く調節することができる。本製造方法における、融点調整剤でありかつ金属臭化物および金属塩化物以外の金属ハロゲン化物の使用量は、得られる組成物中の当該金属ハロゲン化物の含有量が上述の範囲内となるように、適宜設定され得る。
【0066】
なお、態様B以外の場合、(a)本製造方法における、融点調整剤でありかつ金属臭化物および金属塩化物以外の金属ハロゲン化物の使用量、および(b)本組成物に含まれる、融点調整剤でありかつ金属臭化物および金属塩化物以外の金属ハロゲン化物の量は、適宜設定され得る。
【0067】
(2-6.第1の過冷却防止剤)
第1の過冷却防止剤としては、水溶性無機塩であり、かつ、組成物の過冷却を防止する機能限り、特に限定されない。第1の過冷却防止剤としては、比較的少量の使用で組成物の過冷却を防止でき、かつ入手が容易である化合物を使用することが好ましい。
【0068】
第1の過冷却防止剤としては、例えば、ピロリン酸ナトリウム10水和物、四ホウ酸ナトリウム10水和物、炭酸ナトリウム、炭酸ナトリウム1水和物、炭酸ナトリウム10水和物、臭素酸バリウム1水和物、硫酸カルシウム2水和物、ミョウバン、ピロリン酸二水素二ナトリウム6水和物、塩化カルシウム、臭化カルシウム、塩化アルミニウム、リン酸水素二ナトリウム12水和物、亜リン酸水素二ナトリウム5水和物、リン酸三ナトリウム12水和物、リン酸二水素ナトリウム2水和物、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化リチウム、塩化バリウム、塩化ストロンチウム、塩化ストロンチウム6水和物、硫化バリウム、酒石酸カルシウム、水酸化ストロンチウム8水和物、水酸化バリウム8水和物、臭化ナトリウム、臭化カリウム、臭化マグネシウム6水和物、炭酸カルシウム、酸化カルシウム、酸化バリウムおよびケイ酸塩等からなる群より選ばれる1種以上を挙げることができる。これら第1の過冷却防止剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0069】
第1の過冷却防止剤は、使用する主剤前駆体に合わせて適宜選択されることが好ましく、すなわち得られる組成物中の主剤に合わせて適宜選択されることが好ましい。主剤前駆体が酢酸ナトリウム無水物であり、すなわち得られる組成物中の主剤が酢酸ナトリウム3水和物である場合、第1の過冷却防止剤はピロリン酸ナトリウム10水和物であることが好ましい。態様Aにおいて、第1の過冷却防止剤は四ホウ酸ナトリウム10水和物であることが好ましい。態様Bにおいて、第1の過冷却防止剤は、塩化ナトリウム、バリウム塩およびストロンチウム塩(例えば、塩化ストロンチウム6水和物)からなる群から選択される1種以上であることが好ましい。
【0070】
(2-7.増粘剤)
本製造方法では増粘剤を使用するため、得られる組成物、すなわち本組成物は増粘剤を含む。その結果、本組成物は、当該組成物の融解温度を超える温度環境下において、ゲル状態であるという利点を有する。
【0071】
増粘剤は、組成物の粘度を増加させることができる物質であり、組成物をゲル状にできる物質ともいえる。用語「増粘剤」は「ゲル化剤」ともいえる。「増粘剤」および「ゲル化剤」は相互置換可能である。
【0072】
増粘剤としては、組成物の粘度を増加させることができる限り、特に限定されない。増粘剤としては、吸水性樹脂、ゼラチン、寒天、キサンタンガム、アラビアガム、グアーガム、カラギーナン、蒟蒻などが挙げられる。吸水性樹脂としては、澱粉系樹脂、アクリル酸塩系樹脂、ポバール系樹脂、カルボキシメチルセルロース系樹脂等が挙げられる。シリカとしては、ヒュームドシリカ、沈降性シリカ、シリカゲル等が挙げられる。
【0073】
増粘剤としては、イオン性増粘剤であってもよく、ノニオン性増粘剤であってもよい。組成物に含まれている主剤および水溶性無機塩等は、組成物中で溶解してイオンの状態になっていることが多い。そのため、増粘剤としては、組成物中に溶解している無機イオンに影響を与えないことから、ノニオン性増粘剤が好ましい。
【0074】
ノニオン性増粘剤としては、例えば、グアーガム、デキストリン、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシエチルセルロース等が挙げられる。ノニオン性増粘剤の中でも、組成物のゲル状態の安定性に優れており、環境適合性が高いヒドロキシエチルセルロースが特に好ましい。
【0075】
増粘剤としては、セルロース誘導体も好適に使用できる。セルロース誘導体としては、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースおよびヒドロキシプロピルメチルセルロースなどが挙げられる。
【0076】
増粘剤は、吸水性樹脂、ゼラチン、寒天、キサンタンガム、アラビアガム、グアーガム、カラギーナン、蒟蒻およびセルロース誘導体からなる群(以下、群(B)とも称する。)より選択される少なくとも1種であることが好ましく、セルロース誘導体であることがより好ましく、カルボキシメチルセルロースおよび/またはヒドロキシエチルセルロースであることが特に好ましい。群(B)に属する化合物は熱硬化型の増粘剤である。それ故、増粘剤が群(B)に属する化合物から選択される少なくとも1種である場合、特にセルロース誘導体である場合、組成物を効率的かつ安定的に製造できるという利点を有する。
【0077】
増粘剤は、使用する主剤前駆体に合わせて適宜選択されることが好ましく、すなわち得られる組成物中の主剤に合わせて適宜選択されることが好ましい。態様Aにおいて、増粘剤はカルボキシメチルセルロースであることが好ましく、態様Bにおいて、増粘剤はヒドロキシエチルセルロースであることが好ましい。
【0078】
組成物は、含有する無機塩の濃度に依存して、温度変化により、経時的に、無機塩の析出が起こる場合がある。組成物が増粘剤を含む場合、増粘剤は、(a)当該組成物をゲル状にできるだけでなく、(b)当該組成物中に溶解している無機塩(例えば主剤および水溶性無機塩など)のイオンを効率的に分散することができる。これにより、増粘剤は、組成物における無機塩の析出を抑止することができる。
【0079】
本組成物中に含まれている増粘剤は、当該組成物の融解および/または凝固挙動に影響を与えず、かつ当該組成物が高い融解潜熱量を維持することを可能とする。また、本組成物が増粘剤を含むことにより、当該組成物の使用が想定される環境温度下でのヒートサイクル試験後も当該組成物がゲル状態であるという利点を有する。さらに、本組成物が増粘剤を含むことにより、組成物が溶融状態(ゲル状態)であっても、組成物の形状を一定の形状に留めることができる。その結果、組成物が溶融状態(ゲル状態)であっても、環境を汚染する虞が無く、環境負荷を低減することが可能となる。
【0080】
なお、本発明の一実施形態では、ポリエステルと、常温(例えば15℃~30℃)にて揮発性を有する有機溶剤と金属酸化物とを主成分とする混合物は、増粘剤の範囲に含めない。また、組成物の難燃性をより高くするために、増粘剤における常温にて揮発性を有する有機溶剤の含有量は少ないことが好ましく、増粘剤は常温にて揮発性を有する有機溶剤を実質的に含まないことが好ましい。具体的には、増粘剤における、常温にて揮発性を有する有機溶剤の含有量は、1000ppm以下であることが好ましい。常温にて揮発性を有する有機溶剤としては、単環芳香族化合物が挙げられ、例えば、ベンゼル、トルエン、キシレン、エチレンベンゼン、クメン、パラシメン、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジプロピルなどが挙げられる。増粘剤における、単環芳香族化合物の合計の含有量は、1000ppm以下であることが好ましい。増粘剤における、ベンゼル、トルエン、キシレン、エチレンベンゼン、クメン、パラシメン、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチルおよびフタル酸ジプロピルからなる群より選択される1種以上の化合物の合計の含有量は、1000ppm以下であることが好ましい。
【0081】
本製造方法における増粘剤の使用量は、得られる組成物中の主剤の量に応じて適宜設定され得る。本組成物における増粘剤の含有量は、主剤100重量部に対して、1重量部~10重量部であり、2重量部~6重量部が好ましい。当該構成によると、(i)組成物中に溶解している塩の凝集および析出を防ぐことができ、(ii)組成物のハンドリング性が良く、(iii)組成物の融解温度を超える温度環境下において、組成物がゲル状態であるという利点を有する。
【0082】
上述した特許文献2では、増粘作用を有する相分離防止剤として、長繊維状パリゴルスカイトおよび/または長繊維状セピオライトを使用している。ここで、特許文献2の相分離防止剤は増粘作用を有するため、本発明の一実施形態における増粘剤と考えられる。長繊維状パリゴルスカイトおよび/または長繊維状セピオライトは、日本国内生産量が非常に少ないものであり、希少で、汎用的ではない物質といえる。本発明の一実施形態では、長繊維状パリゴルスカイトおよび長繊維状セピオライトのような希少な物質を使用することなく、上述したような容易に入手可能な物質を増粘剤として用いることで、ゲル状の無機系潜熱蓄熱材組成物を得ることができる。
【0083】
(2-8.第2の過冷却防止剤)
本製造方法では第2の過冷却防止剤を使用することが好ましく、すなわち本組成物は第2の過冷却防止剤を含むことが好ましい。当該構成によると、過冷却がより少ない組成物を得ることができる。
【0084】
第2の過冷却防止剤としては、難水溶性無機塩であり、かつ、組成物の過冷却を防止する機能限り、特に限定されない。第1の過冷却防止剤としては、比較的少量の使用で組成物の過冷却を防止でき、かつ入手が容易である化合物を使用することが好ましい。
【0085】
第2の過冷却防止剤としては、例えば、硫酸バリウム、炭酸バリウム、フッ化リチウム、フッ化カルシウム、二酸化ケイ素(シリカ)、カオリナイト、氷晶石、フライアッシュ、セピオライト、グラファイトおよびカーボンブラックからなる群より選ばれる1種以上を挙げることができる。本明細書においては、フライアッシュ、グラファイトおよびカーボンブラックも難水溶性無機塩とみなす。これら第2の過冷却防止剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0086】
第2の過冷却防止剤は、使用する主剤前駆体に合わせて適宜選択されることが好ましく、すなわち得られる組成物中の主剤に合わせて適宜選択されることが好ましい。
【0087】
(2-9.相分離防止剤)
本製造方法では相分離防止剤を使用することが好ましく、すなわち本組成物は相分離防止剤を含むことが好ましい。当該構成によると、溶融状態(ゲル状態)である組成物の相分離を防止することができる。その結果、溶融状態(ゲル状態)である組成物のゲル状態を長期間維持することができ、すなわち、組成物のゲル状態の安定性を向上させることができる。
【0088】
相分離防止剤としては、溶融状態(ゲル状態)である組成物の相分離を防止する機能を有する限り、特に限定されない。相分離防止剤としては、使用する主剤前駆体および/または増粘剤、並びに組成物の所望する粘度などに基づき適宜選択され得る。相分離防止剤としては、融点が20℃以下である脂肪酸、グリセリン、植物油、パラフィンおよび非イオン系界面活性剤などが挙げられる。
【0089】
融点が20℃以下である脂肪酸としては、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、リシノール酸、エルカ酸などの不飽和脂肪酸などを挙げることができる。また、上述した脂肪酸を40重量%以上含んだ脂肪酸混合物を用いてもよい。脂肪酸混合物としては、後述する植物油の一部も含まれる。
【0090】
植物油としては、常温で液体である融点10℃以下のものが好ましく、例えば、ひまわり油、とうもろこし油、綿実油、ごま油、なたね油、落花生油、オリーブ油、大豆油、あまに油およびひまし油などを好適に挙げることができる。
【0091】
パラフィンとしては、常温で液体である融点10℃以下のものが好ましく、例えば、流動パラフィン、ペンタデカン、テトラデカン、トリデカン、ドデカン、ウンデカンおよびデカンなどを好適に挙げることができる。
【0092】
上述した相分離防止剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0093】
相分離防止剤は、融点が20℃以下である脂肪酸、グリセリン、植物油、パラフィン、および非イオン系界面活性剤からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。当該構成によると、相分離防止剤が無機系潜熱蓄熱材組成物中で均一に分散しやすいという利点を有する。
【0094】
相分離防止剤は、融点が20℃以下である脂肪酸およびグリセリンからなる群より選択される少なくとも1種であることがより好ましい。当該構成によると、相分離防止剤が無機系潜熱蓄熱材組成物中で均一により分散しやすいという利点を有する。この理由は定かではないが、次のように推測される。脂肪酸は-COOHで表される極性基を持ち、グリセリンはヒドロキシ基(-OH)を持つため、脂肪酸およびグリセリンは主剤のヒドロキシ基に対して親和性が強く、結果として相分離防止剤と無機系潜熱蓄熱材組成物とがなじみやすいと推測される。なお、本発明の一実施形態は、かかる推測により限定されない。
【0095】
相分離防止剤として市販品を用いることもできる。相分離防止剤として使用できる市販品としては、NAA(登録商標)-34(日油株式会社社製、主成分としてオレイン酸を含む混合物)、NAA(登録商標)-35(日油株式会社社製、主成分としてオレイン酸を含む混合物)、エキストラオレイン(日油株式会社社製、主成分としてオレイン酸を含む混合物)、Nsp(ホープ製薬株式会社製、脂肪酸混合物)などを挙げることができる。
【0096】
本組成物における相分離防止剤の含有量は、主剤100重量部に対して、0.1重量部~5.0重量部であり、0.2重量部~4.0重量部であることが好ましく、0.3重量部~3.0重量部であることがより好ましく、0.5重量部~2.0重量部であることがさらに好ましい。当該構成によると、溶融状態(ゲル状態)である組成物の相分離を長期間防止することができ、結果として組成物のゲル状態を長期間維持できるという利点を有する。
【0097】
(2-10.有機溶剤)
組成物の難燃性をより高くするために、本製造方法における、常温(例えば15℃~30℃)にて揮発性を有する有機溶剤の使用量は少ないことが好ましい。換言すれば、本組成物における、常温(例えば15℃~30℃)にて揮発性を有する有機溶剤の含有量は少ないことが好ましい。具体的には、本組成物100重量部中における常温にて揮発性を有する有機溶剤の含有量は、50重量部以下であることが好ましく、10重量部以下であることがより好ましく、5重量部以下であることがより好ましく、1重量部以下であることがより好ましく、0.5重量部以下であることがさらに好ましく、0.1重量部以下であることが特に好ましい。本組成物100重量部中における単環芳香族化合物の含有量は、50重量部以下であることが好ましく、10重量部以下であることがより好ましく、5重量部以下であることがより好ましく、1重量部以下であることがより好ましく、0.5重量部以下であることがさらに好ましく、0.1重量部以下であることが特に好ましい。本組成物100重量部中における、ベンゼル、トルエン、キシレン、エチレンベンゼン、クメン、パラシメン、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチルおよびフタル酸ジプロピルからなる群より選択される1種以上の化合物の合計の含有量は、50重量部以下であることが好ましく、10重量部以下であることがより好ましく、5重量部以下であることがより好ましく、1重量部以下であることがより好ましく、0.5重量部以下であることがさらに好ましく、0.1重量部以下であることが特に好ましい。
【0098】
(2-11.その他成分)
本製造方法では、本発明の一実施形態に係る効果を損なわない限り、必要に応じて、主剤前駆体、水溶性無機塩、難水溶性無機塩、増粘剤および相分離防止剤以外のその他化合物を使用してもよい。換言すれば、本組成物は、本発明の一実施形態に係る効果を損なわない限り、必要に応じて、主剤前駆体、水溶性無機塩、難水溶性無機塩、増粘剤および相分離防止剤以外のその他化合物(「その他成分」と称する場合もある。)を含んでいてもよい。当該その他成分としては、溶媒、アルコール類、保存料、香料、着色剤、難燃剤、耐光性安定剤、紫外線吸収剤、貯蔵安定剤、気泡調整剤、潤滑剤、防カビ剤、抗菌剤、高分子ポリマー、その他の有機化合物、または、その他の無機化合物等が挙げられる。
【0099】
本組成物の溶媒としては、組成物の難燃性をより高くするために、水が好ましい。
【0100】
アルコール類としては、低級アルコール(例えば、メタノール、エタノール、2-プロパノール、エチレングリコール、グリセロール等)、および高級アルコール(例えば、カプリルアルコール、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、オレイルアルコール、リノリルアルコール等)を挙げることができる。アルコール類は、組成物の融解温度および/もしくは凝固温度を調節する機能を有し得る。
【0101】
(2-12.無機系潜熱蓄熱材組成物)
本製造方法により得られる組成物、すなわち本組成物は、(i)組成物が凝固状態(固体)から溶融状態(ゲル状態)に相転移する間に熱エネルギーを吸収すること、および、(ii)組成物が溶融状態(ゲル状態)から凝固状態(固体)に相転移する間に熱エネルギーを放出すること、を利用した潜熱型の蓄熱材に好適に利用できるものである。「溶融状態」は、「融解状態」ともいえる。
【0102】
例えば、本組成物は、凝固状態から溶融状態に相転移する間に熱エネルギーを吸収することによって、高温環境下(例えば、夏)においても、例えば室内の温度を、環境温度以下の所望の温度に保持することができる。さらに、本組成物は、溶融状態から凝固状態に相転移する間に熱エネルギーを放出することによって、低温環境下(例えば、冬)においても、例えば室内の温度を、環境温度以上の所望の温度に保持することができる。つまり、本発明の一実施形態にかかる無機系潜熱蓄熱材組成物によれば、高温環境下および低温環境下の何れであっても、例えば室内の温度を、所望の温度(例えば、15~30℃)に維持することができる。
【0103】
(2-12-1.ゲル状態)
本組成物は、当該組成物の融解温度を超える温度環境下において、ゲル状態であることが好ましい。
【0104】
本明細書において、「無機系潜熱蓄熱材組成物は、無機系潜熱蓄熱材組成物の融解温度を超える温度環境下において、ゲル状態である」とは、無機系潜熱蓄熱材組成物の融解温度を超える無機系潜熱蓄熱材組成物が、2Pa・s~25Pa・sの範囲の粘度を有することを意図する。ゲル状態の定義における粘度の測定は、振動粘度計(音叉振動式レオメーターとも称される。)により測定された値とする。
【0105】
本明細書において、「無機系潜熱蓄熱材組成物は、無機系潜熱蓄熱材組成物の融解温度を超える温度環境下において、ゲル状態である」とは、(a)無機系潜熱蓄熱材組成物を無機系潜熱蓄熱材組成物の融解温度を超える温度まで加熱したとき、無機系潜熱蓄熱材組成物が固液分離していない、ともいえ、(b)無機系潜熱蓄熱材組成物の融解温度を超える温度である無機系潜熱蓄熱材組成物が固液分離していない、ともいえる。本明細書において、「無機系潜熱蓄熱材組成物が固液分離する」とは、例えば、無機系潜熱蓄熱材組成物を適当な容器に入れて一定時間静置したときに、以下の状態を示すことをいう:無機系潜熱蓄熱材組成物中の固体部分が沈殿し、無機系潜熱蓄熱材組成物中の水分が上澄みとして漏出し、固体部分と水分とが分離する状態。組成物が固液分離する場合、当該組成物中に含まれている、主剤の構造が変化するため、蓄熱性能が失われる可能性がある。本組成物は、上述したように、当該組成物の融解温度を超える温度環境下においてもゲル状態であり、すなわち固液分離しないという性質を有し得る。そのため、本組成物は、当該組成物の融解温度を超える温度環境下においても、蓄熱性能が失われず、かつ流動しないという利点を有する。
【0106】
また、本組成物は、当該組成物の融解温度を超える温度環境下と融解温度以下の温度環境下とに繰り返し晒された場合であっても、当該組成物が当該組成物の融解温度を超える温度環境下においてゲル状態であることが好ましい。当該構成によると、組成物の融解温度を超える温度環境下と融解温度以下の温度環境下とに繰り返し晒された場合であっても、得られる組成物の蓄熱性能が変化することなく、すなわち当該組成物は耐久性に優れるという利点を有する。
【0107】
本組成物は、当該組成物の融解温度+10℃以上の温度環境下において、ゲル状態であることが好ましく、当該組成物の融解温度+20℃以上の温度環境下において、ゲル状態であることがより好ましく、当該組成物の融解温度+25℃以上の温度環境下において、ゲル状態であることがより好ましく、当該組成物の融解温度+30℃以上の温度環境下において、ゲル状態であることがさらに好ましく、当該組成物の融解温度+35℃以上の温度環境下において、ゲル状態であることがよりさらに好ましく、当該組成物の融解温度+40℃以上の温度環境下において、ゲル状態であることが特に好ましい。
【0108】
なお、本組成物の使用環境下の温度に特に制限はない。本組成物に含まれる、主剤としての無機塩と増粘剤との適当な混合比率の観点から、当該組成物は、当該組成物の融解温度+40℃以下で使用されることが好ましい。
【0109】
本明細書において「無機系潜熱蓄熱材組成物は、無機系潜熱蓄熱材組成物の融解温度+X℃以上の温度環境下において、ゲル状態である」とは、無機系潜熱蓄熱材組成物の融解温度+X℃以上である無機系潜熱蓄熱材組成物が、振動粘度計により測定された値として、2Pa・s~25Pa・sの範囲の粘度を有することを意図する。本明細書において「無機系潜熱蓄熱材組成物は、無機系潜熱蓄熱材組成物の融解温度+X℃以上の温度環境下において、ゲル状態である」とは、(a)無機系潜熱蓄熱材組成物を無機系潜熱蓄熱材組成物の融解温度+X℃以上の温度まで加熱したとき、無機系潜熱蓄熱材組成物が固液分離していない、ともいえ、(b)無機系潜熱蓄熱材組成物の融解温度+X℃以上である無機系潜熱蓄熱材組成物が固液分離していない、ともいえる。
【0110】
本組成物は、長時間にわたり、当該組成物の融解温度を超える温度環境下において、ゲル状態であることが好ましい。本組成物は、製造から7日経過後において、当該組成物の融解温度を超える温度環境下において、ゲル状態であることが好ましく、製造から30日経過後において、当該組成物の融解温度を超える温度環境下において、ゲル状態であることがより好ましく、製造から180日経過後において、当該組成物の融解温度を超える温度環境下において、ゲル状態であることがさらに好ましく、製造から360日経過後において、当該組成物の融解温度を超える温度環境下において、ゲル状態であることが特に好ましい。
【0111】
(2-12-2.粘度)
無機系潜熱蓄熱材組成物の融解温度+10℃~融解温度+35℃における、振動粘度計により測定された無機系潜熱蓄熱材組成物の粘度(以下、「組成物の粘度」と称する場合もある。)について説明する。組成物の粘度は、「無機系潜熱蓄熱材組成物の融解温度+10℃~融解温度+35℃である無機系潜熱蓄熱材組成物を、振動粘度計により測定して得られた粘度」ともいえる。振動粘度計としては、音叉振動式粘度計または音叉振動式レオメーター等が挙げられる。組成物の粘度は、2Pa・s~25Pa・sであることが好ましく、5Pa・s~25Pa・sであることがより好ましく、5Pa・s~20Pa・sであることがさらに好ましく、5Pa・s~17Pa・sであることが特に好ましい。当該構成によると、無機系潜熱蓄熱材組成物の融解温度+10℃~融解温度+35℃において、当該無機系潜熱蓄熱材組成物は、(a)ゲル状態であるという利点、および(b)粘度が高すぎないため操作性が良いという利点、を有する。また当該構成によると、相分離防止剤による相分離防止(離水防止)の効果が発揮されやすいため、得られる組成物がゲル状態の安定性により優れるという利点を有する。
【0112】
(2-12-3.融解温度)
本明細書において、固体状の無機系潜熱蓄熱材組成物が融解してゲル状になる間に、当該無機系潜熱蓄熱材組成物が呈する温度範囲の中間の温度を、無機系潜熱蓄熱材組成物の「融解温度」とする。「融解温度」は、「融点」、「相変化温度」、または「相転移温度」と称される場合もある。
【0113】
本組成物が有する融解温度は特に限定されない。本組成物は、15℃~30℃の融解温度を有することが好ましく、17℃~28℃の融解温度を有することがより好ましく、20℃~25℃の融解温度を有することがさらに好ましい。当該構成によると、得られる組成物を住宅に好適に適応することにより、当該組成物の潜熱を利用して住環境を快適な環境に容易に整えることができる。
【0114】
(2-12-4.融解潜熱量)
本組成物は、融解潜熱量が高いことが好ましい。本組成物の融解潜熱量は、80J/g以上が好ましく、100J/g以上がより好ましく、120J/g以上が特に好ましい。無機系潜熱蓄熱材組成物の融解潜熱量は、示差走査型熱量計を用いて測定することができる。例えば、示差走査型熱量計(セイコーインスツルメント社製:SII EXSTAR6000 DSC)を用いて、無機系潜熱蓄熱材組成物の温度を、3.0℃/分の速度にて-20℃から50℃へ昇温させた後、同じ速度にて50℃から-20℃へ降温させる。このときに得られるDSC曲線から、組成物の融解潜熱量を求めることができる。
【0115】
〔3.用途〕
本発明の一実施形態に係る無機系潜熱蓄熱材組成物は、蓄熱性能が求められる種々の用途、例えば、壁材、床材、天井材、屋根材等の建材部材において好適に利用され得る。
【0116】
その他の実施形態として、無機系潜熱蓄熱材組成物は、フロアマット用下地材などにおいて利用することも可能である。
【実施例】
【0117】
本発明の実施例および比較例について以下に説明する。
【0118】
実施例および比較例における測定方法および評価方法は以下の通りである。
【0119】
(分散状態の確認方法)
混合物、混合液および/または水溶液中の増粘剤、難水溶性無機塩および/または相分離防止剤の分散状態を以下のように確認した。1Lの混合物、混合液および/または水溶液を、16メッシュの篩の上部から下部にかけて、孔径50mmの管を通して流速1L/分以下で流した。その後、篩上の固体の有無を確認した。篩上に固体が存在しない(すなわち固体が残存していない)場合、混合物、混合液および/または水溶液中で、使用した増粘剤、難水溶性無機塩および/または相分離防止剤は分散していると判定した。篩上に固体が存在する(すなわち固体が残存している)場合、混合物、混合液および/または水溶液中で、使用した増粘剤、難水溶性無機塩および/または相分離防止剤が分散していないと判定した。
【0120】
(粘度)
実施例および比較例にて得られた無機系潜熱蓄熱材組成物の融解温度+10℃~融解温度+35℃における、当該無機系潜熱蓄熱材組成物の粘度は、振動粘度計(音叉振動式レオメーター、型式:RV-10000A、エー・アンド・デイ社製)を用いて測定した。
【0121】
(融解温度)
実施例および比較例にて得られた無機系潜熱蓄熱材組成物を容積2mlのポリプロピレン製クライオバイアルに、熱電対と共に、充填した。当該クライオバイアルを、超低温恒温槽(サイニクス社製、超低温アルミブロック恒温槽 クライオポーター(登録商標)CS-75CP)内に静置し、0℃~50℃の温度範囲内で、0.5℃/分の昇温速度にて、温度上昇を行った。この間、恒温槽の温度上昇過程において、恒温槽内の蓄熱材組成物の温度を熱電対にてモニターし、得られた結果(温度)を時間に対してプロットし、グラフを得た。得られたグラフにおいて、無機系潜熱蓄熱材組成物の温度は、一定速度で上昇する恒温槽の温度と比較して、次の(1)~(3)の順で変化した:(1)一定速度で上昇した;(2)ある温度(温度T1とする)において蓄熱材組成物の潜熱によりほとんど変化しなくなり、温度T1からある温度(温度T2とする)まで、定温を保持した;(3)温度T2を境に、上昇を再開した。温度T1と温度T2との中点の温度を、蓄熱材組成物における「融解温度」とした。
【0122】
(融解潜熱量)
実施例および比較例にて得られた無機系潜熱蓄熱材組成物の融解潜熱量は、示差走査型熱量計(セイコーインスツルメント社製:SII EXSTAR6000 DSC)を用いて測定した。具体的には以下の通りである。示差走査型熱量計を用いて、(a)無機系潜熱蓄熱材組成物の温度を、3.0℃/分の速度にて-20℃から50℃へ昇温させた後、3.0℃/分の速度にて50℃から-20℃へ降温させるとともに、(b)当該無機系潜熱蓄熱材組成物の融解/凝固挙動を解析し、DSC曲線を得た。得られたDSC曲線における融解ピークの面積から、無機系潜熱蓄熱材組成物の融解潜熱量を算出した。
【0123】
以下、実施例および比較例について説明する。なお、全ての実施例、および、比較例1以外の全ての比較例において、主剤前駆体として塩化カルシウム2水和物を用いた。全ての実施例、および、比較例1以外の全ての比較例において、主剤前駆体である塩化カルシウム2水和物は、水との接触によって塩化カルシウム6水和物を形成し、かつ塩化カルシウム6水和物の形成に伴い発熱した。従い、全ての実施例、および、比較例1以外の全ての比較例で得られる無機系潜熱蓄熱材組成物は、主剤として塩化カルシウム6水和物を含むものであった。なお、全ての実施例、および、比較例1以外の全ての比較例において、得られる無機系潜熱蓄熱材組成物が主剤として塩化カルシウム6水和物を含むよう、換言すれば、塩化カルシウム2水和物が塩化カルシウム6水和物を形成するよう、使用する水の量を調整した。
【0124】
[実施例1]
(水溶液調製工程)
(混合液調製工程)
50Lインテンシブミキサー(日本アイリッヒ株式会社製)に、(a)水12.26kg、および(b)水溶性無機塩として、(b-1)融点調整剤である、臭化ナトリウム3.5kgおよび臭化カリウム1.42kg、並びに(b-2)第1の過冷却防止剤である、塩化ナトリウム1.49kgおよび塩化ストロンチウム6水和物0.44kgを添加した。続いて、インテンシブミキサー内の原料を、ローター回転数500rpmおよびパン回転数15rpmの条件にて、全ての原料が水に完全に溶解して、無色透明の混合液が得られるまで攪拌した。かかる操作により、水および水溶性無機塩を含む混合液を得た。
【0125】
(分散工程)
得られた混合液が35℃であることを接触式温度計により確認した。次に、インテンシブミキサー内の35℃の混合液中に、増粘剤としてヒドロキシエチルセルロース(ダイセルファインケム株式会社製、HEC SE900)1.1kgを添加した。続いて、インテンシブミキサー内の混合物を、ローター回転数500rpmおよびパン回転数15rpmの条件にて、1分間攪拌した。かかる操作により、水溶性無機塩および増粘剤を含み、かつ、増粘剤が分散している水溶液を得た。上述の方法により、水溶液中の増粘剤が分散していることを確認した。なお、以下の実施例2~6並びに比較例2~5で使用したヒドロキシエチルセルロースは、実施例1で使用したヒドロキシエチルセルロースと同じである。
【0126】
(主剤前駆体添加工程)
インテンシブミキサー内の得られた水溶液中に、主剤前駆体として塩化カルシウム2水和物25kgを添加した。続いて、インテンシブミキサー内の混合物を、ローター回転数1350rpm、パン回転数30rpm、およびヒーターの設定温度60℃の条件にて、攪拌した。その後、インテンシブミキサー内部の温度計の指示値が75℃に到達したところで攪拌を終了した。かかる操作により、ゲル状の無機系潜熱蓄熱材組成物を得た。得られた無機系潜熱蓄熱材組成物の40℃における粘度は12.5Pa・sであり、融解温度は21.2℃であり、かつ融解潜熱量は136J/gであった。得られた無機系潜熱蓄熱材組成物のゲル状態を観察したところ、無機系潜熱蓄熱材組成物は全体を通してゲル状であり、かつ均一な粘度を保っていた。すなわち、実施例1の評価結果は「均一なゲル状」といえる。
を上述の方法で評価し、その結果を表1に示した。
【0127】
[実施例2]
(水溶液調製工程)
(混合液調製工程)
実施例1と同じ方法により、水および水溶性無機塩を含む混合液を得た。
【0128】
(分散工程)
得られた混合液が32℃であることを接触式温度計により確認した。次に、インテンシブミキサー内の32℃の混合液中に、増粘剤としてヒドロキシエチルセルロース1.31kgを添加した。続いて、インテンシブミキサー内の混合物を、ローター回転数500rpmおよびパン回転数15rpmの条件にて、1分間攪拌した。次いで、インテンシブミキサー内の混合物中に、相分離防止剤としてオレイン酸(日油株式会社製、製品名:NAA(登録商標)-34)0.33kgを添加した。続いて、インテンシブミキサー内の混合物を、ローター回転数500rpmおよびパン回転数15rpmの条件にて、30秒間攪拌した。かかる操作により、水溶性無機塩および増粘剤を含み、かつ、増粘剤および相分離防止剤が分散している水溶液を得た。上述の方法により、水溶液中の増粘剤および相分離防止剤が分散していることを確認した。なお、以下の実施例3、4および6、並びに比較例1~6で使用したオレイン酸は、実施例2で使用したオレイン酸と同じである。
【0129】
(主剤前駆体添加工程)
インテンシブミキサー内の得られた水溶液中に、主剤前駆体として塩化カルシウム2水和物25kgを添加した。続いて、インテンシブミキサー内の混合物を、ローター回転数1350rpm、パン回転数30rpm、およびヒーターの設定温度60℃の条件にて、攪拌した。その後、インテンシブミキサー内部の温度計の指示値が71℃に到達したところで攪拌を終了した。かかる操作により、ゲル状の無機系潜熱蓄熱材組成物を得た。得られた無機系潜熱蓄熱材組成物の40℃における粘度は13.7Pa・sであり、融解温度は20.8℃であり、かつ融解潜熱量は135J/gであった。得られた無機系潜熱蓄熱材組成物のゲル状態を観察したところ、無機系潜熱蓄熱材組成物は全体を通してゲル状であり、かつ均一な粘度を保っていた。すなわち、実施例2の評価結果は「均一なゲル状」といえる。
【0130】
[実施例3]
(水溶液調製工程)
(混合液調製工程)
実施例1と同じ方法により、水および水溶性無機塩を含む混合液を得た。
【0131】
(分散工程)
得られた混合液が37℃であることを接触式温度計により確認した。次に、インテンシブミキサー内の37℃の混合液中に、(a)増粘剤としてヒドロキシエチルセルロース1.1kg、および(b)保存料として安息香酸ナトリウム0.23kgを添加した。続いて、インテンシブミキサー内の混合物を、ローター回転数500rpmおよびパン回転数15rpmの条件にて、1分間攪拌した。次いで、インテンシブミキサー内の混合物中に、相分離防止剤としてオレイン酸0.33kgを添加した。続いて、インテンシブミキサー内の混合物を、ローター回転数500rpmおよびパン回転数15rpmの条件にて、30秒間攪拌した。かかる操作により、水溶性無機塩および増粘剤を含み、かつ、増粘剤および相分離防止剤が分散している水溶液を得た。上述の方法により、水溶液中の増粘剤および相分離防止剤が分散していることを確認した。
【0132】
(主剤前駆体添加工程)
インテンシブミキサー内の得られた水溶液中に、主剤前駆体として塩化カルシウム2水和物25kgを添加した。続いて、インテンシブミキサー内の混合物を、ローター回転数1350rpm、パン回転数30rpm、およびヒーターの設定温度60℃の条件にて、攪拌した。その後、インテンシブミキサー内部の温度計の指示値が65℃に到達したところで攪拌を終了した。かかる操作により、ゲル状の無機系潜熱蓄熱材組成物を得た。得られた無機系潜熱蓄熱材組成物の40℃における粘度は11.4Pa・sであり、融解温度は21.8℃であり、かつ融解潜熱量は144J/gであった。得られた無機系潜熱蓄熱材組成物のゲル状態を観察したところ、無機系潜熱蓄熱材組成物は全体を通してゲル状であり、かつ均一な粘度を保っていた。すなわち、実施例3の評価結果は「均一なゲル状」といえる。
【0133】
[実施例4]
(水溶液調製工程)
(混合液調製工程)
実施例1と同じ方法により、水および水溶性無機塩を含む混合液を得た。
【0134】
(分散工程)
得られた混合液が30℃であることを接触式温度計により確認した。次に、インテンシブミキサー内の30℃の混合液中に、(a)増粘剤としてヒドロキシエチルセルロース1.1kg、および(b)保存料として安息香酸ナトリウム0.23kgを添加した。続いて、インテンシブミキサー内の混合物を、ローター回転数500rpmおよびパン回転数15rpmの条件にて、1分間攪拌した。次に、相分離防止剤としてのオレイン酸0.33kg中に、難水溶性無機塩として、第2の過冷却防止剤である硫酸バリウム0.22kgを分散させた分散物を調製した。次いで、インテンシブミキサー内の混合物中に、分散物を添加した。続いて、インテンシブミキサー内の混合物を、ローター回転数500rpmおよびパン回転数15rpmの条件にて、30秒間攪拌した。かかる操作により、水溶性無機塩および増粘剤を含み、かつ、増粘剤および相分離防止剤が分散している水溶液を得た。上述の方法により、水溶液中の増粘剤、難水溶性無機塩および相分離防止剤が分散していることを確認した。
【0135】
(主剤前駆体添加工程)
インテンシブミキサー内の得られた水溶液中に、主剤前駆体として塩化カルシウム2水和物25kgを添加した。続いて、インテンシブミキサー内の混合物を、ローター回転数1350rpm、パン回転数30rpm、およびヒーターの設定温度60℃の条件にて、攪拌した。その後、インテンシブミキサー内部の温度計の指示値が73℃に到達したところで攪拌を終了した。かかる操作により、ゲル状の無機系潜熱蓄熱材組成物を得た。得られた無機系潜熱蓄熱材組成物の40℃における粘度は11.7Pa・sであり、融解温度は20.6℃であり、かつ融解潜熱量は141J/gであった。得られた無機系潜熱蓄熱材組成物のゲル状態を観察したところ、無機系潜熱蓄熱材組成物は全体を通してゲル状であり、かつ均一な粘度を保っていた。すなわち、実施例4の評価結果は「均一なゲル状」といえる。
【0136】
[実施例5]
(水溶液調製工程)
(混合液調製工程)
実施例1と同じ方法により、水および水溶性無機塩を含む混合液を得た。
【0137】
(分散工程)
使用する相分離防止剤をオレイン酸0.33kgからグリセリン0.33kgに変更した以外は、実施例4と同じ方法により、水溶性無機塩および増粘剤を含み、かつ、増粘剤および相分離防止剤が分散している水溶液を得た。上述の方法により、水溶液中の増粘剤、難水溶性無機塩および相分離防止剤が分散していることを確認した。
【0138】
(主剤前駆体添加工程)
インテンシブミキサー内の得られた水溶液中に、主剤前駆体として塩化カルシウム2水和物25kgを添加した。続いて、インテンシブミキサー内の混合物を、ローター回転数1350rpm、パン回転数30rpm、およびヒーターの設定温度60℃の条件にて、攪拌した。その後、インテンシブミキサー内部の温度計の指示値が68℃に到達したところで攪拌を終了した。かかる操作により、ゲル状の無機系潜熱蓄熱材組成物を得た。得られた無機系潜熱蓄熱材組成物の40℃における粘度は14.6Pa・sであり、融解温度は20.4℃であり、かつ融解潜熱量は137J/gであった。得られた無機系潜熱蓄熱材組成物のゲル状態を観察したところ、無機系潜熱蓄熱材組成物は全体を通してゲル状であり、かつ均一な粘度を保っていた。すなわち、実施例5の評価結果は「均一なゲル状」といえる。
【0139】
[実施例6]
(水溶液調製工程)
50Lインテンシブミキサーに、(a)水12.26kg、(b)増粘剤としてヒドロキシエチルセルロース1.1kg、および(c)保存料として安息香酸ナトリウム0.23kgを添加した。続いて、インテンシブミキサー内の混合物を、ローター回転数500rpmおよびパン回転数15rpmの条件にて、1分間攪拌した。次に、相分離防止剤としてのオレイン酸0.33kg中に、難水溶性無機塩として、第2の過冷却防止剤である硫酸バリウム0.22kgを分散させた分散物を調製した。次いで、インテンシブミキサー内の混合物中に、分散物を添加した。続いて、インテンシブミキサー内の混合物を、ローター回転数500rpmおよびパン回転数15rpmの条件にて、30秒間攪拌した。
【0140】
次に、水溶性無機塩として、(a)融点調整剤である、臭化ナトリウム3.5kgおよび臭化カリウム1.42kg、並びに(b)第1の過冷却防止剤である、塩化ナトリウム1.49kgおよび塩化ストロンチウム6水和物0.44kgを、インテンシブミキサー内の混合物中に添加した。続いて、インテンシブミキサー内の混合物を、ローター回転数500rpmおよびパン回転数15rpmの条件にて15分間攪拌した。かかる操作により、水溶性無機塩および増粘剤を含み、かつ、増粘剤および相分離防止剤が分散している水溶液を得た。得られた水溶液中で水溶性無機塩が溶解しており、かつ上述の方法により水溶液中の増粘剤および相分離防止剤は分散していることを確認した。また、接触式温度計により、得られた水溶液が28℃であり、ゲル化が進行していないことを確認した。
【0141】
(主剤前駆体添加工程)
インテンシブミキサー内の得られた水溶液中に、主剤前駆体として塩化カルシウム2水和物25kgを添加した。続いて、インテンシブミキサー内の混合物を、ローター回転数1350rpm、パン回転数30rpm、およびヒーターの設定温度60℃の条件にて、攪拌した。その後、インテンシブミキサー内部の温度計の指示値が70℃に到達したところで攪拌を終了した。かかる操作により、ゲル状の無機系潜熱蓄熱材組成物を得た。得られた無機系潜熱蓄熱材組成物の40℃における粘度は11.1Pa・sであり、融解温度は20.5℃であり、かつ融解潜熱量は131J/gであった。得られた無機系潜熱蓄熱材組成物のゲル状態を観察したところ、無機系潜熱蓄熱材組成物は全体を通してゲル状であり、かつ均一な粘度を保っていた。すなわち、実施例6の評価結果は「均一なゲル状」といえる。
【0142】
[比較例1]
(a)主剤として硫酸ナトリウム10水和物100g、(b)水溶性無機塩として、(b-1)融点調整剤である、臭化ナトリウム23.2gおよび塩化ナトリウム5.81g、並びに(b-2)過冷却防止剤である、四ホウ酸ナトリウム10水和物5.0g、(c)増粘剤としてカルボキシメチルセルロースナトリウム(ダイセルファインケム社製CMC2260)3.0g、および(d)相分離防止剤としてオレイン酸3.0gを、乳鉢を使用してすりあわせ、混合した。かかる操作により、無機系潜熱蓄熱材組成物を得た。得られた無機系潜熱蓄熱材組成物のゲル状態を確認したところ、実施例1~5で得られた無機系潜熱蓄熱材組成物と比較すると、比較例1で得られた無機系潜熱蓄熱材組成物は全体を通してゲル状ではあったものの、粘度がやや不均一あり、熱特性もやや不安定であり、かつ保存安定性にもやや劣るものであった。なお「熱特性がやや不安定である」とは、(a)上記(融解温度)の項に記載の方法で、複数回、融解温度を測定したとき、得られる融解温度の値に±2℃以上のばらつきが存在し、かつ(b)上記(融解潜熱量)の項に記載の方法で、複数回、各回毎に試料(無機系潜熱蓄熱材組成物)を採取し直し融解潜熱量を測定したとき、試料の無機系潜熱蓄熱材組成物からの採取部分によって増粘剤の含有量が異なるために、得られる融解潜熱量に±20J/g以上30J/g未満のばらつきが存在すること、を意図する。すなわち、比較例1の評価結果は「やや不均一かつやや不安定」といえる。
【0143】
[比較例2]
実施例1と同じ方法により、水および水溶性無機塩を含む混合液を得た。
【0144】
次にインテンシブミキサー内の得られた混合液中に、主剤前駆体として塩化カルシウム2水和物25kgを添加した。続いて、インテンシブミキサー内の混合物を、ローター回転数1350rpm、パン回転数30rpmの条件にて、攪拌した。その後、インテンシブミキサー内部の温度計の指示値が60℃に到達したところで攪拌を終了した。
【0145】
得られた混合物が63℃であることを接触式温度計により確認した。その後、インテンシブミキサーの蓋を開け、混合液が40℃以下となるまで放冷した。放冷には3時間以上を要した。放冷後、混合液が39℃であることを接触式温度計により確認した。
【0146】
次に、インテンシブミキサー内の混合物中に、(a)増粘剤としてヒドロキシエチルセルロース1.1kg、および(b)保存料として安息香酸ナトリウム0.23kgを添加した。続いて、インテンシブミキサー内の混合物を、ローター回転数500rpmおよびパン回転数15rpmの条件にて、1分間攪拌した。次に、相分離防止剤としてのオレイン酸0.33kg中に、難水溶性無機塩として、第2の過冷却防止剤である硫酸バリウム0.22kgを分散させた分散物を調製した。次いで、インテンシブミキサー内の混合物中に、分散物を添加した。続いて、インテンシブミキサー内の混合物を、ローター回転数500rpmおよびパン回転数15rpmの条件にて、30秒間攪拌した。さらに、インテンシブミキサー内の混合物を、ローター回転数1350rpm、パン回転数30rpm、およびヒーターの設定温度60℃の条件にて、攪拌した。その後、インテンシブミキサー内部の温度計の指示値が75℃に到達したところで攪拌を終了した。かかる操作により、無機系潜熱蓄熱材組成物を得た。
【0147】
比較例2の製造方法は、上述のように3時間以上も要する放冷の工程が必要であり、かつ増粘剤添加後に再度加温する必要があった。また、比較例2の製造方法における混合物の放冷について、放冷により混合物の温度が20℃を下回ると、混合物の凝固点を下回る可能性があり、混合物が凝固する可能性があった。それ故、混合物の放冷は、混合物が凝固しないように慎重に行う必要があった。従い、比較例2の製造方法は、非効率な方法であったといえる。また、比較例2では、増粘剤を添加する前に主剤前駆体を添加している。それ故、比較例2では、放冷をしなかった場合、主剤前駆体の添加による発熱(反応熱)のため、増粘剤が十分に分散せず、増粘剤が塊(ダマ)のまま残り、組成物のゲル化が不均一に進行した。従い、比較例2の評価結果は「放冷および再加熱要」といえる。
【0148】
[比較例3]
50Lインテンシブミキサーに、(a)水12.26kg、および(b)主剤前駆体として塩化カルシウム2水和物25kgを添加した。続いて、インテンシブミキサー内の原料を、ローター回転数1350rpmおよびパン回転数30rpmの条件にて、攪拌した。その後、インテンシブミキサー内部の温度計の指示値が60℃に到達したところで攪拌を終了した。
【0149】
得られた混合物が63℃であることを接触式温度計により確認した。その後、インテンシブミキサーの蓋を開け、混合液が40℃以下となるまで放冷した。放冷には3時間以上を要した。放冷後、混合液が39℃であることを接触式温度計により確認した。次に、インテンシブミキサー内の混合物中に、(a)増粘剤としてヒドロキシエチルセルロース1.1kg、および(b)保存料として安息香酸ナトリウム0.23kgを添加した。続いて、インテンシブミキサー内の混合物を、ローター回転数500rpmおよびパン回転数15rpmの条件にて、1分間攪拌した。次に、相分離防止剤としてのオレイン酸0.33kg中に、難水溶性無機塩として、第2の過冷却防止剤である硫酸バリウム0.22kgを分散させた分散物を調製した。次いで、インテンシブミキサー内の混合物中に、分散物を添加した。続いて、インテンシブミキサー内の混合物を、ローター回転数500rpmおよびパン回転数15rpmの条件にて、30秒間攪拌した。
【0150】
次に、インテンシブミキサー内の混合物中に、水溶性無機塩として、(a)融点調整剤である、臭化ナトリウム3.5kgおよび臭化カリウム1.42kg、並びに(b)第1の過冷却防止剤である、塩化ナトリウム1.49kgおよび塩化ストロンチウム6水和物0.44kgを添加した。続いて、インテンシブミキサー内の混合物を、ローター回転数500rpmおよびパン回転数15rpmの条件にて15分間攪拌した。ここで、得られた混合物中に溶け残りの固体が存在していることが確認され、かつ、混合物のゲル化の開始が確認された。次に、インテンシブミキサー内の混合物を、ローター回転数1350rpm、パン回転数30rpm、およびヒーターの設定温度60℃の条件にて攪拌した。かかる操作により、無機系潜熱蓄熱材組成物を得た。
【0151】
比較例3の製造方法は、上述のように3時間以上も要する放冷の工程が必要であり、かつ増粘剤添加後に再度加温する必要があった。また、比較例3の製造方法における混合物の放冷について、放冷により混合物の温度が20℃を下回ると、混合物の凝固点を下回る可能性があり、混合物が凝固する可能性があった。それ故、混合物の放冷は、混合物が凝固しないように慎重に行う必要があった。従い、比較例3の製造方法は、非効率な方法であったといえる。また、比較例3では、放冷をしなかった場合、主剤前駆体の添加による発熱(反応熱)のため、増粘剤が十分に分散せず、増粘剤が塊(ダマ)のまま残り、組成物のゲル化が不均一に進行した。さらに、主剤前駆体の溶解度は高く、かつ主剤前駆体は組成物全体の80重量%を占めるため、比較例3のように主剤前駆体添加後に水溶性無機塩を添加する場合は水溶性無機塩が溶解可能な水溶媒が減り、溶け残りができる可能性が高いものであった。従い、比較例3で得られた無機系潜熱蓄熱材組成物では、当該無機系潜熱蓄熱材組成物中の主剤前駆体および水溶性無機塩が完全に溶解しているか否か、また増粘剤、難水溶性無機塩および相分離防止剤が均一に分散しているか否かを目視で確認できなかった。従い、比較例3の評価結果は、「(a)放冷要または増粘剤の塊有、および(b)溶け残り有」といえる。
【0152】
[比較例4]
50Lインテンシブミキサーに、(a)水12.26kg、および(b)主剤前駆体として塩化カルシウム2水和物25kgを添加した。続いて、インテンシブミキサー内の原料を、ローター回転数1350rpmおよびパン回転数30rpmの条件にて、攪拌した。その後、インテンシブミキサー内部の温度計の指示値が60℃に到達したところで攪拌を終了した。
【0153】
次に、インテンシブミキサー内の混合物中に、水溶性無機塩として、(a)融点調整剤である、臭化ナトリウム3.5kgおよび臭化カリウム1.42kg、並びに(b)第1の過冷却防止剤である、塩化ナトリウム1.49kgおよび塩化ストロンチウム6水和物0.44kgを添加した。続いて、インテンシブミキサー内の混合物を、ローター回転数500rpmおよびパン回転数15rpmの条件にて15分間攪拌した。ここで、得られた混合物中に溶け残りの固体(水溶性無機塩)が存在していることが確認された。さらに同じ条件で混合物のしばらく攪拌を続けたが、溶け残りの固体(水溶性無機塩)は溶解しなかった。その後、インテンシブミキサー内の混合物を、ローター回転数500rpm、パン回転数15rpm、およびヒーターの設定温度60℃の条件にて30分間以上攪拌した。得られた混合物において、水溶性無機塩が完全に溶解していることを確認した。
【0154】
得られた混合物が63℃であることを接触式温度計により確認した。次に、インテンシブミキサー内の混合物中に、(a)増粘剤としてヒドロキシエチルセルロース1.1kg、および(b)保存料として安息香酸ナトリウム0.23kgを添加した。続いて、インテンシブミキサー内の混合物を、ローター回転数500rpmおよびパン回転数15rpmの条件にて、1分間攪拌した。次に、相分離防止剤としてのオレイン酸0.33kg中に、難水溶性無機塩として、第2の過冷却防止剤である硫酸バリウム0.22kgを分散させた分散物を調製した。次いで、インテンシブミキサー内の混合物中に、分散物を添加した。続いて、インテンシブミキサー内の混合物を、ローター回転数500rpmおよびパン回転数15rpmの条件にて、30秒間攪拌した。ここで、得られた混合物中には、混合物の温度が高いことに起因する増粘剤の塊(ダマ)が局所的に発生し、増粘剤が均一に分散していないことが確認された。次に、インテンシブミキサー内の混合物を、ローター回転数1350rpm、パン回転数30rpm、およびヒーターの設定温度60℃の条件にて攪拌した。かかる操作により、無機系潜熱蓄熱材組成物を得た。
【0155】
比較例4の製造方法は、上述のように水溶性無機塩を溶解させるために長時間を要し、かつ加温する必要があり、非効率な方法であった。比較例4では、主剤前駆体の溶解度は高く、かつ主剤前駆体は組成物全体の80重量%を占める。そのため、比較例4のように主剤前駆体添加後に水溶性無機塩を添加する場合は、比較例3と同様に、水溶性無機塩が溶解可能な水溶媒が減り、溶け残りができる可能性が高いものであった。それ故に、比較例4では、長時間攪拌する必要があった。また、比較例4では、主剤前駆体の添加時に増粘剤を含んでいないため、主剤前駆体の添加による発熱(反応熱)を利用したゲル化を行うことができず、組成物の製造に長時間を要した。さらに、比較例4で得られた無機系潜熱蓄熱材組成物はゲル状態であったが、無機系潜熱蓄熱材組成物中に増粘剤の塊が残存していることが確認され、すなわち得られた無機系潜熱蓄熱材組成物はゲル状態が均一ではなかった。従って、比較例4の評価結果は、「長時間攪拌要かつ増粘剤の塊有」といえる。
【0156】
[比較例5]
50Lインテンシブミキサーに、(a)水12.26kg、(b)増粘剤としてヒドロキシエチルセルロース1.1kg、および(c)保存料として安息香酸ナトリウム0.23kgを添加した。続いて、インテンシブミキサー内の混合物を、ローター回転数500rpmおよびパン回転数15rpmの条件にて、1分間攪拌した。次に、相分離防止剤としてのオレイン酸0.33kg中に、難水溶性無機塩として、第2の過冷却防止剤である硫酸バリウム0.22kgを分散させた分散物を調製した。次いで、インテンシブミキサー内の混合物中に、分散物を添加した。続いて、インテンシブミキサー内の混合物を、ローター回転数500rpmおよびパン回転数15rpmの条件にて、30秒間攪拌した。
【0157】
次に、インテンシブミキサー内の混合物中に主剤前駆体として塩化カルシウム2水和物25kgを添加した。続いて、インテンシブミキサー内の混合物を、ローター回転数1350rpm、パン回転数30rpmの条件にて、攪拌した。その後、インテンシブミキサー内部の温度計の指示値が60℃に到達したところで攪拌を終了した。得られた混合物の温度が高いことに起因し、得られた混合物がゲル状であることが確認された。
【0158】
次に、インテンシブミキサー内の混合物中に、水溶性無機塩として、(a)融点調整剤である、臭化ナトリウム3.5kgおよび臭化カリウム1.42kg、並びに(b)第1の過冷却防止剤である、塩化ナトリウム1.49kgおよび塩化ストロンチウム6水和物0.44kgを添加した。続いて、インテンシブミキサー内の混合物を、ローター回転数500rpmおよびパン回転数15rpmの条件にて15分間攪拌した。かかる操作により、無機系潜熱蓄熱材組成物を得た。
【0159】
比較例5で得られた無機系潜熱蓄熱材組成物は、ゲル状態であったが、水溶性無機塩を添加する前の混合物が既にゲル状態であったため、水溶性無機塩が溶解せず固体のままゲルに取り込まれていた。それ故、比較例5で得られた無機系潜熱蓄熱材組成物は、無機塩が不均一であり、かつ熱特性が不安定であった。なお「熱特性が不安定である」とは、(a)上記(融解温度)の項に記載の方法で、複数回、融解温度を測定したとき、得られる融解温度の値に±2℃以上のばらつきが存在し、かつ(b)上記(融解潜熱量)の項に記載の方法で、複数回、各回毎に試料(無機系潜熱蓄熱材組成物)を採取し直し融解潜熱量を測定したとき、試料の無機系潜熱蓄熱材組成物からの採取部分によって増粘剤の含有量が異なるために、得られる融解潜熱量に±30J/g以上のばらつきが存在すること、を意図する。することを意図する。従って、比較例5の評価結果は、「不均一かつ不安定」といえる。
【0160】
【0161】
【0162】
表1に示すように、実施例1~5の製造方法、すなわち本発明の一実施形態に係る製造方法で得られる組成物は、「均一なゲル状」であった。また、実施例1~5の製造方法、すなわち本発明の一実施形態に係る製造方法は、長時間の攪拌等を必要とせず、放冷の必要なく、かつ過剰な加熱も必要ないものであった。それ故、実施例1~5の製造方法、すなわち本発明の一実施形態に係る製造方法では、全ての工程が20分程度で、少なくとも25分以内に終了し、ゲル状の無機系潜熱蓄熱材組成物が得られた。従い、実施例1~5の製造方法、すなわち本発明の一実施形態に係る製造方法は、効率的にゲル状の無機系潜熱蓄熱材組成物を提供できることがわかる。
【0163】
表2に示すように、比較例1~6の製造方法、すなわち本発明の範囲外の製造方法は非効率であり、かつ当該製造方法で得られる組成物は、品質に劣る組成物であった。
【産業上の利用可能性】
【0164】
本発明の一実施形態に係る無機系潜熱蓄熱材組成物の製造方法は、ゲル状の無機系潜熱蓄熱材組成物を効率的に提供することができる。本発明の一実施形態に係る無機系潜熱蓄熱材組成物の製造方法によって得られる無機系潜熱蓄熱材組成物は、蓄熱材として、例えば、壁材、床材、天井材、屋根材およびフロアマット用下地材等において好適に利用することができる。