IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社日立ビルシステムの特許一覧

特許7419159ロボットの動力伝達機構、及びこれを用いたロボット
<>
  • 特許-ロボットの動力伝達機構、及びこれを用いたロボット 図1
  • 特許-ロボットの動力伝達機構、及びこれを用いたロボット 図2
  • 特許-ロボットの動力伝達機構、及びこれを用いたロボット 図3
  • 特許-ロボットの動力伝達機構、及びこれを用いたロボット 図4
  • 特許-ロボットの動力伝達機構、及びこれを用いたロボット 図5
  • 特許-ロボットの動力伝達機構、及びこれを用いたロボット 図6
  • 特許-ロボットの動力伝達機構、及びこれを用いたロボット 図7A
  • 特許-ロボットの動力伝達機構、及びこれを用いたロボット 図7B
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-12
(45)【発行日】2024-01-22
(54)【発明の名称】ロボットの動力伝達機構、及びこれを用いたロボット
(51)【国際特許分類】
   B25J 19/06 20060101AFI20240115BHJP
【FI】
B25J19/06
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020087167
(22)【出願日】2020-05-19
(65)【公開番号】P2021181135
(43)【公開日】2021-11-25
【審査請求日】2022-07-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000232955
【氏名又は名称】株式会社日立ビルシステム
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】照沼 智明
(72)【発明者】
【氏名】中村 亮介
(72)【発明者】
【氏名】関根 英則
【審査官】稲垣 浩司
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-190656(JP,A)
【文献】特開2017-48880(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 1/00 - 21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動モータの回転部と可動リンク機構の被回転部との間に介装されたトルクリミッタ機構を備えるロボットの動力伝達機構において、
前記トルクリミッタ機構が、前記電動モータの前記回転部に連結され、プランジャ本体筒部に内蔵された圧縮ばねによって付勢されたボール本体を備えるボールプランジャと、前記可動リンク機構の前記被回転部に連結され、前記ボールプランジャの前記ボール本体が嵌まり込んで係合状態とされると共に、前記ボール本体に所定の制限トルクが作用すると前記係合状態が解除される傾斜を有する係合凹部とを備えていると共に、
前記トルクリミッタ機構は、更に前記ボールプランジャの前記ボール本体と前記係合凹部との前記係合状態が解除される前記制限トルクを調整するトルク調整手段を備え、
前記トルク調整手段は、前記プランジャ本体筒部と前記係合凹部との間の距離を調整することによって前記圧縮ばねのばね圧を調整するばね圧調整手段であり、
更に前記ばね圧調整手段は、前記プランジャ本体筒部と前記係合凹部との間の前記距離を予め定めた前記距離に設定するストッパ手段を備えている
ことを特徴とするロボットの動力伝達機構。
【請求項2】
請求項1に記載のロボットの動力伝達機構において、
前記ボールプランジャ、及び又は前記ストッパ手段は、前記制限トルクの値と関連付けられた色に着色されているか、又は前記制限トルクの値と関連付けられた形状に形成されている
ことを特徴とするロボットの動力伝達機構。
【請求項3】
電動モータの回転部と可動リンク機構の被回転部との間に介装されたトルクリミッタ機構を備えるロボットの動力伝達機構において、
前記トルクリミッタ機構が、前記電動モータの前記回転部に連結され、圧縮ばねによって付勢されたボール本体を備えるボールプランジャと、前記可動リンク機構の前記被回転部に連結され、前記ボールプランジャの前記ボール本体が嵌まり込んで係合状態とされると共に、前記ボール本体に所定の制限トルクが作用すると前記係合状態が解除される傾斜を有する係合凹部とを備える共に、
前記トルクリミッタ機構は、更に前記ボールプランジャの前記ボール本体と前記係合凹部との前記係合状態が解除される前記制限トルクを調整するトルク調整手段を備え、
前記トルク調整手段は、前記係合凹部の傾斜角を変えて前記制限トルクを調整する交換可能な係合凹部形成基台からなる
ことを特徴とするロボットの動力伝達機構。
【請求項4】
請求項3に記載のロボットの動力伝達機構において、
前記係合凹部形成基台は、前記制限トルクの値と関連付けられた色に着色されているか、又は前記制限トルクの値と関連付けられた形状に形成されている
ことを特徴とするロボットの動力伝達機構。
【請求項5】
電動モータの回転部と可動リンク機構の被回転部とをトルクリミッタ機構によって連結したロボットの動力伝達機構を備えるロボットにおいて、
前記ロボットの動力伝達機構は、請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載された前記ロボットの動力伝達機構である
ことを特徴とするロボット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はロボットの動力伝達機構、及びこれを用いたロボットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ロボットに使用される、電動モータ、及びこの電動モータに連結された可動リンク機構からなるロボットの動力伝達機構においては、可動リンク機構が障害物に衝突したりして動きが制限される、或いは電動モータに何らかの異常でトルクが過大に発生されると、駆動部である電動モータと、この電動モータの動力が伝達される被駆動部である可動リンク機構との間に過大な負荷(トルク)が発生し、電動モータと可動リンク機構を連結する部分(いわゆる関節部)に損傷を生じてしまうことがある。このため、電動モータと可動リンク機構を連結する部分に機械的な「トルクリミッタ機構」が配設されている。
【0003】
このトルクリミッタ機構の例としては、例えば以下の特許文献1(特開2006-255829号公報)に記載されている。特許文献1のトルクリミッタ機構は、電動モータの回転軸からの回転を可動リンク機構側に伝達すると共に、予め設定された所定トルク(以下、制限トルクと表記する)以上のトルクが、電動モータの回転軸と可動リンク機構との間に発生した場合に、スリップ(空転)を発生させることでトルクの伝達を所定トルク未満に制限するものである。
【0004】
そして、この特許文献1のトルクリミッタ機構においては、凸部を有する第1回転力伝達部と、凸部に対応する凹部を有する第2回転力伝達部とを有し、凸部が凹部に対して付勢された状態で嵌り込むことで、第1回転力伝達部と第2回転力伝達部とを介してトルクの伝達がなされ、制限トルク以上のトルクが作用した場合には、凸部と凹部との嵌り込み状態が外れる(脱調する)ことにより、第1回転力伝達部と第2回転力伝達部との間に空転が生じるように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2006-255829号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1にはロボットの電動モータと可動リンク機構の間の連結部分に生じる過大な負荷(トルク)を低減するトルクリミッタ機構の具体的な構成については何らの開示や示唆等は認められない。特に、ロボットにおける電動モータと可動リンク機構が配置される空間(腕部や脚部の関節部が配置される)は狭く、小型に纏められたトルクリミッタ機構が要請されている。
【0007】
本発明の目的は、ロボットの電動モータと可動リンク機構の間に生じる過大な負荷(トルク)を低減し、しかも狭い空間にも配置することができる小型のトルクリミッタ機構を備えたロボットの動力伝達機構、及びこれを用いたロボットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の特徴は、電動モータの回転部と可動リンク機構の被回転部との間に介装されたトルクリミッタ機構を備えるロボットの動力伝達機構において、トルクリミッタ機構が、電動モータの回転部に連結され、圧縮ばねによって付勢されたボール本体を備えるボールプランジャと、可動リンク機構の被回転部に連結され、ボールプランジャのボール本体が嵌まり込んで係合状態にされると共に、ボール本体に所定のトルクが作用すると係合状態が解除される傾斜を有する係合凹部とを備えているところにある。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ロボットの電動モータと可動リンク機構の間に生じる過大な負荷(トルク)を低減し、しかも狭い空間にも配置することができる小型のトルクリミッタ機構を備えたロボットの動力伝達機構、及びこれを用いたロボットを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】ロボットの可動リンク機構の構成を示す構成図である。
図2図1のロボットの可動リンク機構を斜めから見た斜視図である。
図3図1のロボットの可動リンク機構を分解した分解斜視図である。
図4図1に示すトルクリミッタ機構の拡大図である。
図5】ボールプランジャの付勢力を調整する調整手段を説明する断面図である。
図6】ボールプランジャの付勢力を効率よく調整する調整手段を説明する断面図である。
図7A】ボールプランジャが係合する傾斜角が大きい係合凹部を説明する断面図である。
図7B】ボールプランジャが係合する傾斜角が小さい係合凹部を説明する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されることなく、本発明の技術的な概念の中で種々の変形例や応用例をもその範囲に含むものである。
【0012】
先ず、本発明が適用されるロボットの動力伝達機構とトルクリミッタ機構の構成について、図1乃至図2に基づいて簡単に説明する。尚、動力伝達機構は、電動モータと、この電動モータによって駆動される可動リンク機構の組み合わせである。また、可動リンク機構は、ロボットの腕部や脚部を構成するものである。
【0013】
ロボットの動力伝達機構は、駆動部10と、この駆動部10によって駆動される可動リンク機構11から構成されている。駆動部10は電動モータ12を備え、電動モータ12は回転部13によって回転力を出力する。また、可動リンク機構11は、伝達リンク14を備えており、この伝達リンク14によって可動リンク機構11は回転動作、或いは揺動動作が行われる。伝達リンク14は回転部13によって回転される被回転部とされており、この伝達リンク14と電動モータ12の回転部13とはトルクリミッタ機構15によって機械的に連結されている。
【0014】
トルクリミッタ機構15は、電動モータ12の回転部13にボルト21によって結合されたプランジャ保持部16と、このプランジャ保持部16に保持されたボールプランジャ17と、伝達リンク14に形成されたボールプランジャ17のボール本体19が嵌まり込む係合凹部18とより構成されている。ボール本体19は、後述する図4からわかるように、球面部と円柱部の組みあわせから形成されているが、球状のボールとしても良い。尚、伝達リンク14の形状は図3に示されている通りであり、詳細は後述する。
【0015】
伝達リンク14に形成された係合凹部18は、所定の傾斜角を備える「窪み」形状に形成されており、この窪みにボールプランジャ17のボール本体19の先端が嵌まり込んで係合される構成とされている。また、ボールプランジャ17の内部には、弾発手段としての圧縮ばね20が収納されており、この圧縮ばね20によってボール本体19が係合凹部18の側に突き出すように付勢されている。
【0016】
この結果、ボール本体19が係合凹部18に所定の圧力で圧接されることになる。この圧接される圧力を調整することで、制限トルクを調整することができるが、この調整方向や調整のための構成については後述する。
【0017】
そして、電動モータ12の回転部13の回転は、プランジャ保持部16に伝達されて、同時にボールプランジャ17を回転させる。更に、ボールプランジャ17のボール本体19は、伝達リンク14の係合凹部18に係合されているので、ボールプランジャ17の回転は伝達リンク14に伝達される。これによって、伝達リンク14が回転され、この伝達リンク14によって可動リンク機構11は回転動作、或いは揺動動作が行われることになる。
【0018】
図3に、本発明が適用されるトルクリミッタ機構15の詳細を示している。電動モータ12の回転部13の端面には、プランジャ保持部16がボルト21(図2参照)によって固定されている。これによって、回転部13とプランジャ保持部16とは一体的に回転することができる。
【0019】
プランジャ保持部16には、2個のプランジャ固定筒部22が形成されており、このプランジャ固定筒部22の孔部22Hにボールプランジャ17が挿入されて固定されている。
【0020】
伝達リンク14は、回転部13の端面とプランジャ保持部16の間に配置される平面状の伝達プレート23と、この伝達プレート23から電動モータ12とは反対側に、ほぼ垂直方向に折り曲げられて形成された固定リンク24とから構成されている。固定リンク24は、可動リンク機構11を構成する他の構成部材に固定され、伝達プレート23の回転を可動リンク機構11に伝達するものである。
【0021】
伝達プレート23のプランジャ保持部16の側の表面には、プランジャ固定筒部22の位置に対応する位置に、係合凹部18が形成されており、この係合凹部18に、上述したようにボールプランジャ17のボール本体19が嵌まり込むように係合している。これによって、ボールプランジャ17の回転は、係合凹部18を介して伝達プレート23に伝えられることになる。
【0022】
次にトルクリミッタ機構のボールプランジャ17と伝達プレート23の詳細を更に説明する。
【0023】
図4において、プランジャ固定筒部22に固定されたボールプランジャ17は、有底のプランジャ本体筒部25と、プランジャ本体筒部25の内部に形成された空間に配置された圧縮ばね20と、圧縮ばね20によって伝達プレート23の側に向けて付勢されたボール本体19とから構成されている。
【0024】
また、伝達プレート23に形成された係合凹部18は、所定の傾斜角を備える「窪み」形状に形成されており、この窪みにボールプランジャ17のボール本体19の先端が嵌まり込んで係合状態とされる構成になっている。この窪み形状は、皿もみ加工によって形成することができる。
【0025】
また、この係合凹部18の傾斜角(θ)を変えることによって、制限トルクを調整することができる。係合凹部18の180°対向した表面の角度(傾斜角θ)が大きいほど制限トルクは小さくなり、角度(傾斜角θ)が小さいほど制限トルクは大きくなる。尚、この係合凹部18の傾斜角を調整することで、制限トルクを調整することができるが、この調整方向や調整のための構成については後述する。
【0026】
ボール本体19は、上述したように、伝達プレート23に形成された係合凹部18に圧縮ばね20によって圧接されており、ボール本体19が係合凹部18に係合されている状態の下で、電動モータ12の回転部13の回転を伝達プレート23に伝達することができる。
【0027】
ここで、可動リンク機構11が障害物に衝突したりして動きが制限される、或いは電動モータ12に何らかの異常でトルクが過大に発生すると、駆動部である電動モータ12と、この電動モータ12の動力が伝達される伝達リンク14との間に過大な負荷(トルク)が発生し、電動モータ12と可動リンク機構11の連結部分に損傷を生じてしまうことがある。
【0028】
このため、トルクリミッタ機構15においては、電動モータ12の回転部13と、この回転が伝達される伝達リンク14との間に過大な負荷(トルク)が生じると、ボールプランジャ17のボール本体19が、圧縮ばね20を圧縮して伝達プレート23に形成された係合凹部18の傾斜面(SLP)を移動して、係合凹部18との係合状態を解除するように動作する。
【0029】
係合状態が解除されると、電動モータ12の回転部13と伝達リンク14の連結が切り離されるので、トルクの伝達が遮断される。尚、このボール本体19と係合凹部18の係合が解除されるときのトルクが制限トルクとなる。
【0030】
これによって駆動部である電動モータ12と、この電動モータ12の動力が伝達される伝達リンク14との間に過大な負荷(トルク)が発生しても、電動モータ12と可動リンク機構11の間の連結部分に損傷を生じるのを回避することができる。
【0031】
このように、本実施形態では、電動モータの回転部と可動リンク機構の被回転部との間に介装されたトルクリミッタ機構を備えるロボットの動力伝達機構において、トルクリミッタ機構が、電動モータの回転部に連結され、圧縮ばねによって付勢されたボール本体を備えるボールプランジャと、可動リンク機構の被回転部に連結され、ボールプランジャのボール本体が嵌まり込んで係合状態にされると共に、ボール本体に所定のトルクが作用すると係合状態が解除される傾斜を有する係合凹部とを備える構成とした。
【0032】
これによれば、ロボットの電動モータと可動リンク機構の間に生じる過大な負荷(トルク)を低減し、しかも狭い空間にも配置することができる小型のトルクリミッタ機構を得ることができる。
【0033】
ところで上述したように、この種のトルクリミッタ機構ではロボットの製品仕様によって、制限トルクを調整することが求められている。例えば、ロボットの腕部や脚部においては、同じトルクリミッタ機構15を使用することが生産上の観点から好ましい。しかしながら、ロボットの腕部や脚部での制限トルクが異なっている場合や、制限トルクの再調整が必要な場合があり、制限トルクを調整することが求められている。このような要請に対応するため、以下に示す実施形態を提案するものである。
【0034】
本実施形態の基本的な考え方は、トルクリミッタ機構が、電動モータの回転部に連結され、圧縮ばねによって付勢されたボール本体を備えるボールプランジャと、可動リンク機構の被回転部に連結され、ボールプランジャのボール本体が嵌まり込んで係合状態にされると共に、ボールプランジャのボール本体と係合凹部との係合状態が解除される制限トルクを調整するトルク調整手段を備えていることである。以下、具体的な実施形態を説明する。
【0035】
図5は、ボールプランジャ17が係合凹部18との係合状態を解除される制限トルクを調整するトルク調整手段として、圧縮ばね20のばね圧を調整する例を示している。尚、圧縮ばね20のばね圧の調整には2通りあり、以下では2通りの例を説明する。図5では、2つの例を一緒に描いているが、少なくとも、どちらか一方を採用すればよいものである。
【0036】
先ず第1の例であるが、この例はボールプランジャ17自体をプランジャ固定筒部22に対して移動させることで、圧縮ばね20のばね圧を調整する方法である。図5において、プランジャ固定筒部22の孔部22Hの内部には、ねじ溝が形成されており、このねじ溝に螺合するように、ボールプランジャ17のプランジャ本体筒部25の外周にもねじ溝が形成されている。
【0037】
そして、ボールプランジャ17を回転させて、プランジャ固定筒部22との相対位置を調整すると、伝達プレート23に形成された係合凹部18との圧接状態が調整される。つまり、ボールプランジャ17が伝達プレート23に近づいて、ボールプランジャ17と伝達プレート23の距離が短くなると、ボール本体19がプランジャ本体筒部25の内部に形成された空間に押し込まれる。これによって、圧縮ばね20のばね圧(圧縮力)が大きくなり、ボールプランジャ17が係合凹部18との係合状態を解除される制限トルクが大きくなる。
【0038】
一方、ボールプランジャ17が伝達プレート23から遠ざかって、ボールプランジャ17と伝達プレート23の距離が長くなると、ボール本体19がプランジャ本体筒部25の内部に形成された空間から押し出される。これによって、圧縮ばね20のばね圧が小さくなり、ボールプランジャ17が係合凹部18との係合状態を解除される制限トルクが小さくなる。
【0039】
次に、第2の例であるが、この例はボールプランジャ17の内部空間に収納されている圧縮ばね20のボール本体19とは反対側に、ばね圧調整ねじ26を配設することで、圧縮ばね20のばね圧を調整する方法である。図5において、プランジャ本体筒部25の内部には、ねじ溝が形成されており、このねじ溝に螺合するように、ばね圧調整ねじ26の外周にもねじ溝が形成されている。
【0040】
そして、ばね圧調整ねじ26を回転させて、プランジャ本体筒部25との相対位置を調整すると、伝達プレート23に形成された係合凹部18との圧接状態が変化する。つまり、ばね圧調整ねじ26を回転させて、ばね圧調整ねじ26がボール本体19に近づいて、ばね圧調整ねじ26とボール本体19の距離が短くなると、圧縮ばね20のばね圧が大きくなり、ボールプランジャ17が係合凹部18との係合状態を解除される制限トルクが大きくなる。
【0041】
一方、ばね圧調整ねじ26がボール本体19から遠ざかって、ばね圧調整ねじ26とボール本体19の距離が長くなると、圧縮ばね20のばね圧が小さくなり、ボールプランジャ17が係合凹部18との係合状態を解除される制限トルクが小さくなる。
【0042】
このように、圧縮ばね20のばね圧を調整することにより、ボールプランジャ17が係合凹部18との係合状態を解除される制限トルクを調整することができる。このため、ロボットの腕部や脚部での制限トルクが異なっている場合、或いは制限トルクの再調整が必要な場合においても十分に対応することができる。
【0043】
第1の例、及び第2の例からわかるように、トルクリミッタ機構15のトルク調整手段は、圧縮ばね20のばね圧を調整するばね圧調整手段である。
【0044】
尚、上述した第1の例において、作業現場での圧縮ばね20のばね圧の調整を効率よく行うためには、上述した第1の例において、図6に示す構成を採用することもできる。
【0045】
図6において、ボールプランジャ17のボール本体19と反対側に径大部27を形成し、この径大部27とプランジャ固定筒部22の端面(伝達プレート23の反対側の端面)の間にはストッパ部材28が、挟み込まれるように介装されている。このストッパ部材28の厚みによって、ボールプランジャ17とプランジャ固定筒部22との相対位置が決定され、伝達プレート23に形成された係合凹部18との圧接状態が調整される。
【0046】
例えば、ボールプランジャ17を交換する際に、現在のボールプランジャ17を抜き取り、交換すべき新たなボールプランジャ17をストッパ部材28によって回らなくなる位置まで螺合させることにより、簡単に所定のボールプランジャ17の突出し量に調整することができる。突き出し量は、圧縮ばね20のばね圧と等価であり、これによって制限トルクを調整することができる。
【0047】
このように、本実施形態で、トルクリミッタ機構15のばね圧調整手段は、ボールプランジャ17と係合凹部18との間の距離を予め定めた距離に設定するストッパ手段28を備えていることを特徴としている。
【0048】
ストッパ部材28としては、ナット、ワッシャ、シム、及びOリング等を使用することができる。また、例えば、ロボットの腕部や脚部の関節部で異なるプランジャ突出し量(=制限トルク)に設定する場合は、予めストッパ部材28を取り付けたボールプランジャ17を用意しておけば効率よく作業を行うことができる。
【0049】
更に、制限トルクが異なっているロボットの腕部や脚部の識別を行う場合は、例えば、ボールプランジャ17及びまたはストッパ部材28を塗料等によって着色しておくことが有利である。例えば、腕部用はボールプランジャ17やストッパ部材28が青に着色され、脚部用にはボールプランジャ17やストッパ部材28が赤に着色されている。これによって、素早く腕部用のボールプランジャ17や脚部用のボールプランジャ17の見極めができ、作業効率を高めることができる。更には異なった色の代わりに形状を変えることも可能である。
【0050】
このように、ボールプランジャ17、及び又はストッパ部材28は、制限トルクの値と関連付けられた色に着色されているか、又は制限トルクの値と関連付けられた形状に形成されている。
【0051】
以上の説明は、制限トルクを調整するトルク調整手段として、圧縮ばね20のばね圧を調整する例を示しているが、係合凹部18の傾斜面の傾斜角によっても、制限トルクを調整することができる。
【0052】
上述したように、係合凹部18の傾斜角(θ)を変えることによって、制限トルクを調整することができる。係合凹部18の180°対向した表面の角度(傾斜角θ)が大きいほど制限トルクは小さくなり、角度(傾斜角θ)が小さいほど制限トルクは大きくなる。そこで、本実施形態では係合凹部18を交換可能な構成にすることよって、制限トルクを調整するようにしたものである。
【0053】
図7A図7Bは、ボールプランジャ17のボール本体19が係合する、係合凹部18付近を拡大して示している。係合凹部18は、係合凹部形成基台29に形成されており、この係合凹部形成基台29は、伝達プレート23に対して交換可能な構成とされている。
【0054】
係合凹部形成基台29は、伝達プレート23とは脱着可能(交換可能)な構成とされている。具体的には、係合凹部形成基台29の外周には、ねじ溝が形成され、また、係合凹部形成基台29が収納される伝達プレート23の収納孔にも、ねじ溝が形成されている。
【0055】
したがって、必要とされる係合凹部形成基台29を選択して伝達プレート23に螺合して取り付けることで、容易に制限トルクを調整することができる。
【0056】
図7Aは、係合凹部18の180°対向した表面の角度(傾斜角θ1)が大きい例を示しており、図7Bは、係合凹部18の180°対向した表面の角度(傾斜角θ2)が小さい例を示している。このように、必要とされる制限トルクに対応した係合凹部形成基台29を選択して、伝達プレート23に取り付ければ、容易に制限トルクを調整することができる。これによれば、トルクリミッタ機構15の大半の構成部材を共通化できるので、生産コストを低減できる効果がある。
【0057】
また、制限トルクが異なっているロボットの腕部や脚部の識別を行う場合は、例えば係合凹部形成基台29を塗料等によって着色しておくことも可能である。例えば、腕部用は係合凹部形成基台29が青に着色され、脚部用には係合凹部形成基台29が赤に着色されている。これによって、素早く腕部用、或いは脚部用の係合凹部形成基台29の見極めができ、作業効率を高めることができる。更には異なった色の代わりに形状を変えることも可能である。
【0058】
このように、係合凹部形成基台29は、制限トルクの値と関連付けられた色に着色されているか、又は制限トルクの値と関連付けられた形状に形成されている。
【0059】
尚、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0060】
10…駆動部、11…可動リンク機構、12…電動モータ、13…回転部、14…伝達リンク、15…トルクリミッタ機構、16…プランジャ保持部、17…ボールプランジャ、18…係合凹部、19…ボール本体、20…圧縮ばね、21…固定ボルト、22…プランジャ固定筒部、23…伝達プレート、24…固定リンク、25…プランジャ本体筒部、26…ばね圧調整ねじ、27…径大部、28…ストッパ部材、29…係合凹部形成基台。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B