(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-12
(45)【発行日】2024-01-22
(54)【発明の名称】排気ブレーキ制御方法及び排気ブレーキ装置
(51)【国際特許分類】
F02D 9/06 20060101AFI20240115BHJP
F02D 45/00 20060101ALI20240115BHJP
【FI】
F02D9/06 G
F02D9/06 K
F02D45/00 345
F02D45/00 372
(21)【出願番号】P 2020087586
(22)【出願日】2020-05-19
【審査請求日】2023-02-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000003333
【氏名又は名称】ボッシュ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】石川 成昭
【審査官】津田 真吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-111910(JP,A)
【文献】特開平10-184397(JP,A)
【文献】特開2012-180780(JP,A)
【文献】特開平5-302541(JP,A)
【文献】特開2019-183701(JP,A)
【文献】特開2019-183762(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 9/06
F02D 45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転者のクラッチ操作によって排気ブレーキの不用意な動作を停止可能に構成されたマニュアルトランスミッション式車両に設けられ、
アクチュエータの駆動により排気管を開閉可能に設けられた排気フラップと、前記アクチュエータの動作制御を実行する電子制御ユニットとを有し、前記電子制御ユニットによる前記アクチュエータの動作制御によって前記排気フラップの開閉成に応じた排気ブレーキの制御を可能としてなり、前記電子制御ユニットは中央処理装置と、Hブリッジ回路と、
強制駆動停止回路とを有してなる排気ブレーキ装置における排気ブレーキ制御方法であって、
前記電子制御ユニットにおいて、
少なくともアクセルの開閉成と排気ブレーキスイッチのオン・オフに基づいて前記排気ブレーキの要否を判定する第1の処理を実行せしめると共に、
前記第1の処理と別個に少なくともアクセルの開閉成と排気ブレーキスイッチのオン・オフに基づいて前記排気ブレーキの要否を判定する第2の処理を実行せしめ、
前記第1の処理の実行によって前記排気ブレーキが必要と判定され、かつ、前記第2の処理の実行によって前記排気ブレーキが必要と判定された場合に、前記アクチュエータを駆動して排気ブレーキの制御を実行せしめると共に、
前記中央処理装置において、
前記第1及び第2の処理を1つの処理実行領域において実行せしめ、前記処理実行領域を、少なくとも前記排気ブレーキの制御処理が実行される第1のレベル領域と、前記第1のレベル領域における処理の適否を監視する処理が実行される第2のレベル領域と、第3のレベル領域の3つに区分し、
前記第1のレベル領域において前記第1の処理を、
前記第2のレベル領域において前記第2の処理を、それぞれ実行せしめると共に、前記第2のレベル領域においては、前記第1のレベル領域における処理の適否を監視する処理として、前記第1のレベル領域における前記第1の処理の実行の適否を監視する処理を実行せしめ、
さらに、前記電子制御ユニットにおいて、
排気ブレーキの強制停止が必要と前記第2のレベル領域において判定された場合に、前記第3のレベル領域により前記アクチュエータの駆動を強制的に停止せしめ、前記排気フラップを開位置に復帰せしめると共に、
前記第2のレベル領域においては、
前記第1のレベル領域において排気ブレーキが必要と判定されていない場合、前記第2のレベル領域において排気ブレーキが必要と判定されていない場合、又は、前記第1のレベル領域において予め定められた排気ブレーキ停止条件が成立していると判定された場合のいずれかに該当し、かつ、前記第1のレベル領域により前記アクチュエータが駆動状態にあると前記第2のレベル領域において判定された場合に、排気ブレーキの強制停止が必要と判定せしめる一方、
前記第1の処理の実行によって前記排気ブレーキが必要と判定され、かつ、前記第2の処理の実行によって前記排気ブレーキが必要と判定された場合に、前記中央処理装置に前記アクチュエータの駆動に必要な駆動制御要求信号を出力せしめ、
前記第2のレベル領域において排気ブレーキの強制停止が必要と判定された場合に、前記第2のレベル領域から前記第3のレベル領域に対して強制遮断要求信号
を出力せしめ、次いで、前記第3のレベル領域から前記強制遮断要求信号に応じて前記強制駆動停止回路に対して強制遮断要求制御信
号を出力せしめ、
前記中央処理装置から前記Hブリッジ回路に前記駆動制御要求信号が入力された場合に、前記Hブリッジ回路に駆動制御信号を出力せしめて前記アクチュエータを駆動せしめる一方、
前記中央処理装置から前記強制遮断要求制御信号が入力された場合、前記Hブリッジ回路を強制的に動作停止とする強制遮断信号を、前記強制駆動停止回路に出力せしめて、前記Hブリッジ回路を動作停止せしめるよう構成されてなることを特徴とする排気ブレーキ制御方法。
【請求項2】
運転者のクラッチ操作によって排気ブレーキの不用意な動作を停止可能に構成されたマニュアルトランスミッション式車両に設けられ、
アクチュエータの駆動により排気管を開閉可能に設けられた排気フラップと、前記アクチュエータの動作制御を実行する電子制御ユニットとを有し、前記電子制御ユニットによる前記アクチュエータの動作制御によって前記排気フラップの開閉成に応じた排気ブレーキの制御を可能としてなる排気ブレーキ装置であって、
前記電子制御ユニットは、
少なくともアクセルの開閉成と排気ブレーキスイッチのオン・オフに基づいて前記排気ブレーキの要否を判定する第1の処理を実行すると共に、
前記第1の処理と別個に少なくともアクセルの開閉成と排気ブレーキスイッチのオン・オフに基づいて前記排気ブレーキの要否を判定する第2の処理を実行し、
前記第1の処理の実行によって前記排気ブレーキが必要と判定され、かつ、前記第2の処理の実行によって前記排気ブレーキが必要と判定された場合に、前記アクチュエータを駆動して排気ブレーキの制御を可能に構成されてなる
と共に、
前記電子制御ユニットは、前記第1及び第2の処理を実行する中央処理装置を有し、前記中央処理装置は、前記第1及び第2の処理が実行される1つの処理実行領域を有し、前記処理実行領域は、少なくとも前記排気ブレーキの制御処理が実行される第1のレベル領域と、前記第1のレベル領域における処理の適否を監視する処理が実行される第2のレベル領域と、第3のレベル領域の3つに区分され、
前記第1のレベル領域において前記第1の処理が、
前記第2のレベル領域において前記第2の処理が、それぞれ実行可能に構成されると共に、前記第2のレベル領域においては、前記第1のレベル領域における処理の適否を監視する処理として、前記第1のレベル領域における前記第1の処理の実行の適否を監視する処理が実行されるよう構成され、
さらに、前記電子制御ユニットは、
排気ブレーキの強制停止が必要と前記第2のレベル領域において判定された場合に、前記第3のレベル領域により前記アクチュエータの駆動が強制的に停止せしめられて前記排気フラップを開位置に復帰可能に構成されてなると共に、
前記第2のレベル領域においては、
前記第1のレベル領域において排気ブレーキが必要と判定されていない場合、前記第2のレベル領域において排気ブレーキが必要と判定されていない場合、又は、前記第1のレベル領域において予め定められた排気ブレーキ停止条件が成立していると判定された場合のいずれかに該当し、かつ、前記第1のレベル領域により前記アクチュエータが駆動状態にあると前記第2のレベル領域において判定された場合に、排気ブレーキの強制停止が必要と判定されるよう構成される一方、
前記電子制御ユニットは、前記中央処理装置に加えて、Hブリッジ回路と強制駆動停止回路とを有し、
前記中央処理装置は、前記第1の処理の実行によって前記排気ブレーキが必要と判定され、かつ、前記第2の処理の実行によって前記排気ブレーキが必要と判定された場合に、前記アクチュエータの駆動に必要な駆動制御要求信号を出力する一方、
前記第2のレベル領域において排気ブレーキの強制停止が必要と判定された場合に、前記第2のレベル領域から前記第3のレベル領域に対して強制遮断要求信号が出力し、次いで、前記第3のレベル領域から前記強制遮断要求信号に応じて前記強制駆動停止回路に対して強制遮断要求制御信号が出力するよう構成され、
前記Hブリッジ回路は、前記中央処理装置から前記駆動制御要求信号が入力された場合に駆動制御信号を出力し、前記アクチュエータは前記駆動制御信号に応じて駆動可能に設けられる一方、
前記強制駆動停止回路は、前記中央処理装置から前記強制遮断要求制御信号が入力された場合、前記Hブリッジ回路を強制的に動作停止とする強制遮断信号を出力し、前記Hブリッジ回路は前記強制遮断信号の入力により動作停止となるよう構成されてなることを特徴とする排気ブレーキ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排気ブレーキ装置に係り、特に、安全性、信頼性の向上等を図ったものに関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジンを搭載する車両においては、いわゆる排気ブレーキ装置が装備されることがあることは良く知られている通りである(例えば、特許文献1等参照)。
かかる排気ブレーキ装置は、排気管の管路を開閉成可能に設けられた排気フラップの開閉成により排気量を調整してエンジンの回転抵抗を増減させることによってブレーキの作用向上を可能としたものである。
このような排気ブレーキ装置は、車両の安全性、信頼性等の観点から、不用意に動作することなく必要な時にのみ確実に動作するものであることが要求される。
【0003】
上述のような要求に対応する方策としては、例えば、排気ブレーキの起動の要否を判断する際の判断要素となる排気ブレーキ要求スイッチやアクセル開閉を検出するセンサ等を2重化し、それらが全て正常と判断される場合にのみ、排気ブレーキを有効とする方法が考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述のような部品の2重化は、車両全体の構成を複雑にするばかりか、2重化された判断要素を用いて排気ブレーキの要否を判定するソフトウェア処理の複雑化を招き、ひいては装置の高価格化を招くこととなるという問題がある。
【0006】
本発明は、上記実状に鑑みてなされたもので、部品の2重化を要することなく、2重化構成と同程度の信頼性、安全性の高い排気ブレーキ制御方法及び排気ブレーキ装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記本発明の目的を達成するため、本発明に係る排気ブレーキ制御方法は、
運転者のクラッチ操作によって排気ブレーキの不用意な動作を停止可能に構成されたマニュアルトランスミッション式車両に設けられ、
アクチュエータの駆動により排気管を開閉可能に設けられた排気フラップと、前記アクチュエータの動作制御を実行する電子制御ユニットとを有し、前記電子制御ユニットによる前記アクチュエータの動作制御によって前記排気フラップの開閉成に応じた排気ブレーキの制御を可能としてなり、前記電子制御ユニットは中央処理装置と、Hブリッジ回路と、強制駆動停止回路とを有してなる排気ブレーキ装置における排気ブレーキ制御方法であって、
前記電子制御ユニットにおいて、
少なくともアクセルの開閉成と排気ブレーキスイッチのオン・オフに基づいて前記排気ブレーキの要否を判定する第1の処理を実行せしめると共に、
前記第1の処理と別個に少なくともアクセルの開閉成と排気ブレーキスイッチのオン・オフに基づいて前記排気ブレーキの要否を判定する第2の処理を実行せしめ、
前記第1の処理の実行によって前記排気ブレーキが必要と判定され、かつ、前記第2の処理の実行によって前記排気ブレーキが必要と判定された場合に、前記アクチュエータを駆動して排気ブレーキの制御を実行せしめると共に、
前記中央処理装置において、
前記第1及び第2の処理を1つの処理実行領域において実行せしめ、前記処理実行領域を、少なくとも前記排気ブレーキの制御処理が実行される第1のレベル領域と、前記第1のレベル領域における処理の適否を監視する処理が実行される第2のレベル領域と、第3のレベル領域の3つに区分し、
前記第1のレベル領域において前記第1の処理を、
前記第2のレベル領域において前記第2の処理を、それぞれ実行せしめると共に、前記第2のレベル領域においては、前記第1のレベル領域における処理の適否を監視する処理として、前記第1のレベル領域における前記第1の処理の実行の適否を監視する処理を実行せしめ、
さらに、前記電子制御ユニットにおいて、
排気ブレーキの強制停止が必要と前記第2のレベル領域において判定された場合に、前記第3のレベル領域により前記アクチュエータの駆動を強制的に停止せしめ、前記排気フラップを開位置に復帰せしめると共に、
前記第2のレベル領域においては、
前記第1のレベル領域において排気ブレーキが必要と判定されていない場合、前記第2のレベル領域において排気ブレーキが必要と判定されていない場合、又は、前記第1のレベル領域において予め定められた排気ブレーキ停止条件が成立していると判定された場合のいずれかに該当し、かつ、前記第1のレベル領域により前記アクチュエータが駆動状態にあると前記第2のレベル領域において判定された場合に、排気ブレーキの強制停止が必要と判定せしめる一方、
前記第1の処理の実行によって前記排気ブレーキが必要と判定され、かつ、前記第2の処理の実行によって前記排気ブレーキが必要と判定された場合に、前記中央処理装置に前記アクチュエータの駆動に必要な駆動制御要求信号を出力せしめ、
前記第2のレベル領域において排気ブレーキの強制停止が必要と判定された場合に、前記第2のレベル領域から前記第3のレベル領域に対して強制遮断要求信号を出力せしめ、次いで、前記第3のレベル領域から前記強制遮断要求信号に応じて前記強制駆動停止回路に対して強制遮断要求制御信号を出力せしめ、
前記中央処理装置から前記Hブリッジ回路に前記駆動制御要求信号が入力された場合に、前記Hブリッジ回路に駆動制御信号を出力せしめて前記アクチュエータを駆動せしめる一方、
前記中央処理装置から前記強制遮断要求制御信号が入力された場合、前記Hブリッジ回路を強制的に動作停止とする強制遮断信号を、前記強制駆動停止回路に出力せしめて、前記Hブリッジ回路を動作停止せしめるよう構成されてなるものである。
また、上記本発明の目的を達成するため、本発明に係る排気ブレーキ装置は、
運転者のクラッチ操作によって排気ブレーキの不用意な動作を停止可能に構成されたマニュアルトランスミッション式車両に設けられ、
アクチュエータの駆動により排気管を開閉可能に設けられた排気フラップと、前記アクチュエータの動作制御を実行する電子制御ユニットとを有し、前記電子制御ユニットによる前記アクチュエータの動作制御によって前記排気フラップの開閉成に応じた排気ブレーキの制御を可能としてなる排気ブレーキ装置であって、
前記電子制御ユニットは、
少なくともアクセルの開閉成と排気ブレーキスイッチのオン・オフに基づいて前記排気ブレーキの要否を判定する第1の処理を実行すると共に、
前記第1の処理と別個に少なくともアクセルの開閉成と排気ブレーキスイッチのオン・オフに基づいて前記排気ブレーキの要否を判定する第2の処理を実行し、
前記第1の処理の実行によって前記排気ブレーキが必要と判定され、かつ、前記第2の処理の実行によって前記排気ブレーキが必要と判定された場合に、前記アクチュエータを駆動して排気ブレーキの制御を可能に構成されてなると共に、
前記電子制御ユニットは、前記第1及び第2の処理を実行する中央処理装置を有し、前記中央処理装置は、前記第1及び第2の処理が実行される1つの処理実行領域を有し、前記処理実行領域は、少なくとも前記排気ブレーキの制御処理が実行される第1のレベル領域と、前記第1のレベル領域における処理の適否を監視する処理が実行される第2のレベル領域と、第3のレベル領域の3つに区分され、
前記第1のレベル領域において前記第1の処理が、
前記第2のレベル領域において前記第2の処理が、それぞれ実行可能に構成されると共に、前記第2のレベル領域においては、前記第1のレベル領域における処理の適否を監視する処理として、前記第1のレベル領域における前記第1の処理の実行の適否を監視する処理が実行されるよう構成され、
さらに、前記電子制御ユニットは、
排気ブレーキの強制停止が必要と前記第2のレベル領域において判定された場合に、前記第3のレベル領域により前記アクチュエータの駆動が強制的に停止せしめられて前記排気フラップを開位置に復帰可能に構成されてなると共に、
前記第2のレベル領域においては、
前記第1のレベル領域において排気ブレーキが必要と判定されていない場合、前記第2のレベル領域において排気ブレーキが必要と判定されていない場合、又は、前記第1のレベル領域において予め定められた排気ブレーキ停止条件が成立していると判定された場合のいずれかに該当し、かつ、前記第1のレベル領域により前記アクチュエータが駆動状態にあると前記第2のレベル領域において判定された場合に、排気ブレーキの強制停止が必要と判定されるよう構成される一方、
前記電子制御ユニットは、前記中央処理装置に加えて、Hブリッジ回路と強制駆動停止回路とを有し、
前記中央処理装置は、前記第1の処理の実行によって前記排気ブレーキが必要と判定され、かつ、前記第2の処理の実行によって前記排気ブレーキが必要と判定された場合に、前記アクチュエータの駆動に必要な駆動制御要求信号を出力する一方、
前記第2のレベル領域において排気ブレーキの強制停止が必要と判定された場合に、前記第2のレベル領域から前記第3のレベル領域に対して強制遮断要求信号が出力し、次いで、前記第3のレベル領域から前記強制遮断要求信号に応じて前記強制駆動停止回路に対して強制遮断要求制御信号が出力するよう構成され、
前記Hブリッジ回路は、前記中央処理装置から前記駆動制御要求信号が入力された場合に駆動制御信号を出力し、前記アクチュエータは前記駆動制御信号に応じて駆動可能に設けられる一方、
前記強制駆動停止回路は、前記中央処理装置から前記強制遮断要求制御信号が入力された場合、前記Hブリッジ回路を強制的に動作停止とする強制遮断信号を出力し、前記Hブリッジ回路は前記強制遮断信号の入力により動作停止となるよう構成されてなるものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、従来の排気ブレーキの要否判定の処理を実行すると共に、別個に新たに排気ブレーキの要否判定を実行するようにし、双方の要否判定処理において排気ブレーキが必要であると判定された場合に排気ブレーキを使用できるようにしたので、排気ブレーキを要する状態ではないにも拘わらず、何らかの原因により従来の排気ブレーキの要否判定の処理において排気ブレーキを要するとの判定結果が出ても、別個に新たに実行される排気ブレーキの要否判定処理において不要との判定結果が得られれば、従来の排気ブレーキの要否判定処理のみの場合と異なり、不必要な排気ブレーキの使用を確実に回避することが可能となる。その結果、従来に比してより信頼性、安定性の高い排気ブレーキ装置を提供することができるという効果を奏するものである。
また、排気ブレーキの要否判定処理に必要とされる排気ブレーキスイッチ等のハードウェアを2重化することなく、排気ブレーキの要否判定処理の2重化、すなわち、ソフトウェアの2重化のみで実現できるので、装置構成の複雑化を招くことなく、しかも既存の車両にも適用でき汎用性が高い、比較的簡易な構成で、信頼性、安定性の高い排気ブレーキ装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施の形態における排気ブレーキ装置の構成例を示す構成図である。
【
図2】
図1に示された排気ブレーキ装置を構成する電子制御ユニットの構成例を示す構成図である。
【
図3】本発明の実施の形態における排気ブレーキ装置を構成する電子制御ユニットにおいて実行される排気ブレーキ制御処理における排気ブレーキの要否判断の処理手順を示すサブルーチンフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について、
図1乃至
図3を参照しつつ説明する。
なお、以下に説明する部材、配置等は本発明を限定するものではなく、本発明の趣旨の範囲内で種々改変することができるものである。
最初に、本発明の実施の形態における排気ブレーキ装置の構成例について、
図1を参照しつつ説明する。
本発明の実施の形態における排気ブレーキ装置Sは、排気フラップ11と、フラップ駆動用アクチュエータ14と、電子制御ユニット(
図1においては「ECU」と表記)100とを主たる構成要素として構成されてなるものである。
【0011】
ここで、本発明の実施の形態における排気ブレーキ装置Sが適用される車両について説明する。
まず、運転手が意図してないにも拘わらず何らかの原因による不用意な排気ブレーキの動作を防ぐ方策としては、方策自体の明確さや、動作の確実性、信頼性等の観点から、例えば、排気ブレーキの要否判定の要素の二重化、すなわち、排気ブレーキ要求スイッチやアクセルスイッチ等の二重化によって排気ブレーキの動作の適否を判断する方法を挙げることができる。
【0012】
かかる方策は、オートマチックトランスミッションを搭載し、部品の二重化に対する配置スペースやコスト等の面で余裕のある車両には、適用の容易性等の観点から好適である。
しかしながら、例えば、いわゆるマニュアルトランスミッション式の車両の場合、意図しない排気ブレーキの動作状態であると運転者が判断した場合に、自らクラッチを断とすることで排気ブレーキの不用意な動作停止に対応できる余地がある。そのため、マニュアルトランスミッション式車両のユーザによっては、上述のような部品の二重化による信頼性の高い方策よりも、装置価格の上昇を極力抑えつつ、しかも、相応の信頼性を確保できる方策を切望する場合がある。
【0013】
本願発明は、上述のような実状に鑑みて、特に、マニュアルトランスミッション式車両において、意図しない排気ブレーキの動作状態であると運転者が判断した場合に、自らクラッチを断とすることで排気ブレーキの不用意な動作停止に対応できるという前提条件の下で、さらに、運転者のそのようなクラッチ操作による対応に加えて、比較的簡易な構成で排気ブレーキの不用意な動作を回避可能とする方策を提供するという観点で創出されたものである。したがって、本願発明に係る排気ブレーキ装置は、上述したような運転者によるクラッチ断による排気ブレーキの不用意な動作回避との相乗効果によって、先の部品の二重化と同程度の信頼性、安全性等の確保が期待できるものである。
それ故、本願発明に係る排気ブレーキ装置は、特に、マニュアルトランスミッション式車両への適用が好適なものである。
【0014】
ここで、再び
図1に戻って
図1に示された構成について説明する。
排気フラップ11は、排気管13の適宜な部位に設けられて、後述するように排気管13を開閉成可能としている。
排気フラップ11は、いわゆる戻りばね等のばね部材(図示せず)を備えており、後述するように電子制御ユニット100から第1の駆動制御信号S1が入力されていない通常時においては、ばね部材により排気管13を開状態とする開位置に付勢されるものとなっている。
【0015】
排気フラップ11は、フラップ駆動用アクチュエータ14の駆動制御により所望の位置に位置せしめられるようになっている。
フラップ駆動用アクチュエータ14は、電子制御ユニット100から入力される第1の駆動制御信号S1に応じて駆動され、排気フラップ11が所要の位置へ移動されるようになっている。
【0016】
また、排気フラップ11には、位置センサ15が設けられている。かかる位置センサ15は、排気フラップ11の駆動位置に応じた位置信号S3を出力するよう構成されたものである。この位置センサ15からの位置信号S3は、電子制御ユニット100に入力されて、フラップ駆動用アクチュエータ14の駆動制御に供されるようになっている。
【0017】
電子制御ユニット100は、例えばマイクロコンピュータを用いてなる中央処理装置(
図1においては「CPU(Central Processing Unit)」と表記)51と、Hブリッジ回路(
図1においては「H-CR」と表記)52と、強制駆動停止回路(
図1においては「DR-ST」と表記)53、さらに、図示されないRAMやROM等の記憶素子を主たる構成要素として構成されたものとなっている。
【0018】
かかる電子制御ユニット100は、後述する排気ブレーキ制御処理や車両の動作に必要な他の種々の制御処理を実行可能に構成されたもので、基本的な構成は従来と同様のものである。
電子制御ユニット100には、アクセル信号(
図1においては「ACC-SIG」と表記)と排気ブレーキスイッチ信号(
図1においては「EX-SW」と表記)が入力され、後述する排気ブレーキ制御処理に供されるようになっている。
【0019】
アクセル信号は、その信号レベルがアクセル(図示せず)の踏み込み量に応じて変化する信号である。
排気ブレーキスイッチ信号は、例えば、インストルメントパネルに設けられ、排気ブレーキの起動を行う排気ブレーキスイッチ(図示せず)の開閉成(オン・オフ)に対応した信号である。
【0020】
なお、電子制御ユニット100には、他の種々の制御処理の実行に必要な各種センサ等の信号も入力されるが、その詳細については説明を省略し、以下、電子制御ユニット100の動作の説明については、排気ブレーキ制御処理に関する説明を中心に行うこととする。
【0021】
中央処理装置51は、電子制御ユニット100の全体の動作を統括的に制御するものとなっている。
まず、中央処理装置51は、後述するように排気フラップ11の開閉位置を制御すべきと判定された場合に、排気フラップ11に設けられた位置センサ15からの位置信号S3に基づいて、Hブリッジ回路52へ第1の駆動制御要求信号S11を出力する(詳細は後述)。
また、同時に、中央処理装置51は、強制駆動停止回路53に対して第2の駆動制御要求信号S12を出力する(詳細は後述)。
【0022】
さらに、中央処理装置51は、後述するようにフラップ駆動用アクチュエータ14の駆動停止とすべきと判定された場合に、強制駆動停止回路53に対して強制遮断要求制御信号S13を出力する。
【0023】
Hブリッジ回路52は、トランジスタによるハイサイドスイッチ回路が構成された従来から良く知られた駆動回路である。
Hブリッジ回路52は、中央処理装置51から第1の駆動制御要求信号S11が入力されると、第1の駆動制御要求信号S11に基づいて排気フラップ11の開閉位置を制御する第1の駆動制御信号S1をフラップ駆動用アクチュエータ14へ出力する。フラップ駆動用アクチュエータ14は、第1の駆動制御信号S1に基づいて駆動され、その結果、排気フラップ11の開閉位置が制御されることとなる。
【0024】
また、Hブリッジ回路52は、後述するように強制駆動停止回路53から強制遮断信号S2が入力された場合、回路動作が強制的に停止されるよう構成されている。なお、Hブリッジ回路52の回路動作が強制的に停止されると、排気フラップ11は、先に述べたようにばね部材(図示せず)により開位置に復帰せしめられるものとなっている。
【0025】
次に、強制駆動停止回路53は、Hブリッジ回路52の回路動作を強制的に停止させるための回路である。
強制駆動停止回路53は、中央処理装置51から強制遮断要求制御9信号S13が入力されると、Hブリッジ回路52に対して強制遮断信号S2を出力する。
また、強制駆動停止回路53は、中央処理装置51から第2の駆動制御要求信号S12が入力された場合には、強制遮断信号S2の非出力状態となる。
【0026】
次に、本発明の実施の形態における中央処理装置51について、
図2を参照しつつ説明する
本発明の実施の形態における中央処理装置51は、各種の制御のための処理が実行される処理実行領域が、レベル1の第1の処理部(第1のレベル領域)51A、レベル2の第2の処理部(第2のレベル領域)51B、レベル3の第3の処理部(第3のレベル領域)51Cの3つに区分形成された構成となっている。
【0027】
このレベル分けは、ソフトウェアの実行における機能や処理範囲等の違いに基づくものである。
まず、レベル1の第1の処理部(
図2においては「PR1」と表記)51Aは、排気フラップ11の開閉動作を実質的に制御する処理が実行される領域である。第1の処理部51Aは、次述するようにしてHブリッジ回路52に対して第1の駆動制御要求信号S11を出力し、Hブリッジ回路52を介してフラップ駆動用アクチュエータ14の駆動制御を行うことによって排気フラップ11の開閉を制御するようになっている。
【0028】
第1の処理部51Aは、まず、少なくともアクセル信号ACC-SIGと排気ブレーキスイッチ信号EX-SWに基づいて、排気ブレーキの要否、すなわち、換言すれば、第1の駆動制御要求信号S11の出力の要否を判定する。そして、第1の処理部51Aは、第1の駆動制御要求信号S11の出力が必要との判定結果が得られ、かつ、第2の処理部(
図2においては「PR2」と表記)51Bからレベル2駆動制御要求信号S61が得られた場合にのみ、第1の駆動制御要求信号S11を出力する。
また、第1の処理部51Aは、第1の駆動制御要求信号S11を出力する際に、同時に、第2の駆動制御要求信号S12を出力する。
【0029】
ここで、第2の処理部51Bから入力されるレベル2駆動制御要求信号S61は、後述するように第2の処理部51Bにおいて実行される排気フラップ11の駆動の要否判定処理において得られる排気フラップ11の駆動が必要との判定結果に対応する信号である。
すなわち、第1の処理部51Aは、上述のアクセル信号ACC-SIGと排気ブレーキスイッチ信号EX-SWに基づく第1の駆動制御要求信号S11の出力が必要とする判定結果と、第2の処理部51Bからのレベル2駆動制御要求信号S61との論理積の結果として論理積”1”が得られた場合に、Hブリッジ回路52に対して第1の駆動制御要求信号S11を、強制駆動停止回路53に対して第2の駆動制御要求信号S12を、それぞれ出力する。
【0030】
ここで、少なくともアクセル信号ACC-SIGと排気ブレーキスイッチ信号EX-SWに基づく第1の駆動制御要求信号S11の出力が必要と判定する際の条件は、アクセル信号ACC-SIGがアクセル開放に対応する信号状態にあって、かつ、排気ブレーキスイッチ信号EX-SWが排気ブレーキスイッチのオンに対応する信号状態にあることである。
【0031】
なお、第1の駆動制御要求信号S11の出力の要否の判定条件は、上述の判定条件に限定される必要はなく、さらに、他の判断要素を加えて判断しても良いことは勿論である。この場合、如何なる他の判断要素を加えるかについても任意であり、特定の判断要素に限定される必要はない。
【0032】
次に、レベル2の第2の処理部51Bは、レベル1の第1の処理部51Aにおいて実行される種々の処理動作の適否を監視する機能を果たす領域である。
かかる第2の処理部51Bは、まず、第1の処理部51A同様、少なくともアクセル信号ACC-SIGと排気ブレーキスイッチ信号EX-SWに基づいて、排気ブレーキの要否、すなわち第1の駆動制御要求信号S11の出力の要否を判定する。
【0033】
アクセル信号ACC-SIGと排気ブレーキスイッチ信号EX-SWの2つの信号に基づいて第1の駆動制御要求信号S11の出力が必要と判定する際の判定条件は、第1の処理部51Aで説明したと同様、アクセル信号ACC-SIGがアクセル開放に対応する信号状態にあって、かつ、排気ブレーキスイッチ信号EX-SWが排気ブレーキスイッチのオンに対応する信号状態にあることである。
【0034】
第2の処理部51Bにおける第1の駆動制御要求信号S11の出力要否の判定は、上述の2つの信号のみに基づく方法に限定される必要はなく、さらに、他の判断要素を加味しても良いことは勿論である。
また、第2の処理部51Bにおける第1の駆動制御要求信号S11の出力要否の判定方法は、必ずしも第1の処理部51Aと同一である必要はなく、それぞれ異なるものであっても良い。
【0035】
第2の処理部51Bは、上述のように第2の処理部51Bにおける判定処理に基づいて第1の駆動制御要求信号S11の出力が必要とする判定が得られた場合、第1の処理部51Aに対してレベル2駆動制御要求信号S61を出力する。
【0036】
また、第2の処理部51Bは、次述するように、排気ブレーキの強制停止が必要と判定された場合に第3の処理部(
図2においては「PR3」と表記)51Cへ対して強制遮断要求信号S62を出力する。
すなわち、本発明の実施の形態において、第2の処理部51Bは、第1の処理部51Aにおいて排気フラップ11の駆動が必要と判定されてない場合、第2の処理部51Bにおいて排気フラップ11の駆動が必要と判定されてない場合、又は、排気ブレーキを用いることが車両動作に却って不都合な状態を生むことになるような事態等の検出、判定がなされた場合のいずれかにおいて、第1の駆動制御要求信号S11又は第2の駆動制御要求信号S12が出力されていると判定された場合に、第3の処理部51Cへ対して強制遮断要求信号S62を出力する。
【0037】
ここで、排気ブレーキを用いることが車両動作に却って不都合な状態を生むことになるような事態とは、例えば、車両のスリップ発生が検出された場合等である。なお、具体的に如何なる場合とするかは、上述した例に限定される必要はなく、個々の車両の走行性能等に応じて任意に定められるべきものである。
【0038】
レベル3の第3の処理部51Cは、レベル2の第2の処理部51Bにおける処理動作の適否を監視する機能を果たす領域である。
特に、本発明の実施の形態における第3の処理部51Cは、第2の処理部51Bから上述の強制遮断要求信号S62が入力された場合、強制駆動停止回路53に対して強制遮断要求制御信号S13を出力する。
【0039】
図3には、第2の処理部51Bにおける強制遮断要求信号S62の出力の要否判定の手順を概括的に説明するサブルーチンフローチャートが示されており、以下、同図を参照しつつ、その内容について説明する。
なお、
図3において、”LV1”の表記はレベル1の第1の処理部51Aにおいて実行される処理であることを、”LV2”の表記はレベル2の第2の処理部51Bにおいて実行される処理であることを、それぞれ意味するものとする。
【0040】
最初に、排気ブレーキ起動条件演算が行われる(
図3のステップS100参照)。
すなわち、例えば、先に説明したように、アクセル信号ACC-SIGと排気ブレーキスイッチ信号EX-SWの2つの信号に基づいて強制遮断要求信号S62の出力の要否を判定する場合を例に採り、その演算例について説明する。
この例の場合、アクセル信号ACC-SIGと排気ブレーキスイッチ信号EX-SWの論理積が演算される。
【0041】
例えば、アクセル信号ACC-SIGの信号レベルがアクセル(図示せず)の開放状態に対応する場合を論理値”1”とし、排気ブレーキスイッチ信号EX-SWの信号レベルが排気ブレーキスイッチ(図示せず)がオンに対応する場合を論理値”1”とすると、いずれの信号も論理値”1”に対応する状態である場合、論理積は”1”と求められる。また、いずれか一方の信号が論理値”1”ではない場合、すなわち、論理値”0”である場合には、論理積は”0”と求められる。
【0042】
次いで、排気ブレーキの起動条件が成立しているか否かが判断される(
図3のステップS110参照)。
すなわち、ステップ100における演算結果が排気ブレーキの起動を可とする値を満たしているか否かが判定される。
先に挙げた例の場合、論理積が1の場合、すなわち、アクセル信号ACC-SIGが論理値”1”(図示されないアクセルが開)で、かつ、排気ブレーキスイッチ信号EX-SWが論理値”1”(図示されない排気ブレーキスイッチがオン)の場合に、排気ブレーキの起動条件が成立したと判定されることとなる。
【0043】
しかして、ステップS110において、排気ブレーキの起動条件が成立したと判定された場合(YESの場合)、ステップS120の処理へ進む一方、排気ブレーキの起動条件は成立していないと判定された場合(NOの場合)、ステップS130の処理へ進むこととなる。
【0044】
ステップS120においては、排気ブレーキの起動が必要とされることとなる。
すなわち、先に述べたように、第2の処理部51Bから第1の処理部51Aに対してレベル2駆動制御要求信号S61が出力され、第1の処理部51Aへ入力される。そして、第1の処理部51Aにおいては、レベル2駆動制御要求信号S61の入力に加えて、第1の駆動制御要求信号S11を出力する必要があるとの判定結果が得られている場合に、排気フラップ11が開位置から所望する位置へ駆動されることとなる。
【0045】
一方、ステップS130においては、排気ブレーキの起動は不要、或いは、不可とされる。
すなわち、第2の処理部51Bから第1の処理部51Aに対してレベル2駆動制御要求信号S61は出力されないため、第1の処理部51Aにおいて、例えば、第1の駆動制御要求信号S11を出力する必要有りとの判定結果が得られても、第1の駆動制御要求信号S11は出力されない。したがって、排気ブレーキの起動不可とされて、排気フラップ11は開位置に停止されたままとされる。
【産業上の利用可能性】
【0046】
部品の2重化を要することなく、2重化構成と同程度の信頼性、安全性の高い排気ブレーキ制御が所望される排気ブレーキ装置に適用できる。
【符号の説明】
【0047】
11…排気フラップ
13…排気管
14…フラップ駆動用アクチュエータ
50…中央処理装置
52…Hブリッジ回路
53…強制駆動停止回路
100…電子制御ユニット