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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-12
(45)【発行日】2024-01-22
(54)【発明の名称】車両用複合表皮材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B60N 2/58 20060101AFI20240115BHJP
   B32B 27/12 20060101ALI20240115BHJP
   B32B 7/12 20060101ALI20240115BHJP
   B32B 5/04 20060101ALI20240115BHJP
   A47C 31/02 20060101ALI20240115BHJP
   D06N 3/00 20060101ALN20240115BHJP
【FI】
B60N2/58
B32B27/12
B32B7/12
B32B5/04
A47C31/02 J
D06N3/00
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020141032
(22)【出願日】2020-08-24
(65)【公開番号】P2022036694
(43)【公開日】2022-03-08
【審査請求日】2022-11-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000000550
【氏名又は名称】オカモト株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000626
【氏名又は名称】弁理士法人英知国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡田 晋也
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 雅雄
(72)【発明者】
【氏名】中屋 真
(72)【発明者】
【氏名】上村 知行
【審査官】齊藤 公志郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-165209(JP,A)
【文献】特開2006-188773(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第102012011221(DE,A1)
【文献】特許第6667057(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60N 2/00-90
B32B 27/12
B32B 7/12
B32B 5/04
A47C 31/02
D06N 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
座席の表面側に用いられる合成皮革を有する車両用複合表皮材であって、
前記合成皮革は、複数の開口部を有する表面樹脂層と、
前記表面樹脂層の裏面に有してなる接着層と、
前記接着層を挟んで前記表面樹脂層の前記裏面に有してなる繊維質基材と、を備え、
前記接着層は、前記表面樹脂層の前記裏面において前記複数の開口部を除いた被着部のみに有してなり、前記繊維質基材の基材表面を前記表面樹脂層に対して接着させており、
前記繊維質基材は開口部を有しない、車両用複合表皮材。
【請求項2】
前記繊維質基材が立体編物であることを特徴とする請求項1記載の車両用複合表皮材。
【請求項3】
前記接着層は、印刷により前記表面樹脂層の前記裏面の前記被着部のみに、接着剤を部分的に有することを特徴とする請求項1又は2記載の車両用複合表皮材。
【請求項4】
前記接着剤の粘度が1000mPa・sを超えて30000mPa・s未満であることを特徴とする請求項3記載の車両用複合表皮材。
【請求項5】
座席の表面側に用いられる合成皮革を有する車両用複合表皮材の製造方法であって、
前記合成皮革の表面樹脂層を形成するシート成型工程と、
前記表面樹脂層に複数の開口部を形成する穿孔工程と、
前記複数の開口部を有する前記表面樹脂層の裏面に沿って接着層を形成する糊付け工程と、
前記接着層を挟んで前記表面樹脂層の前記裏面に繊維質基材が接着される貼り合わせ工程と、を含み、
前記糊付け工程では、前記表面樹脂層の前記裏面において前記複数の開口部を除いた被着部のみに前記接着層が部分的に形成されることを特徴とする車両用複合表皮材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両内装材として車両に適した座席の表面側に用いられる合成皮革を有する車両用複合表皮材、及び、車両用複合表皮材を製造するための製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の車両用複合表皮材として、繊維質基材の表面側にポリウレタン樹脂層が設けられ、繊維質基材とポリウレタン樹脂層とで合成皮革を形成しており、合成皮革の通気性を向上するために複数の開口部が、ポリウレタン樹脂層の表面から繊維質基材を貫通して設けられ、繊維質基材の裏面側には接着剤層を介して織物が接着されることで、合成皮革と織物を複合一体化した表皮材がある(例えば、特許文献1参照)。
繊維質基材としては、織物、編物、不織布等、用途に合わせて適宜選択され、繊維質基材を構成する繊維の素材は合成繊維(ポリエステル)を用いることが好ましい
ポリウレタン樹脂層は、ポリウレタン樹脂で形成された表皮樹脂層(表皮層)と、ポリウレタン樹脂の接着剤を用いた接着樹脂層(接着層)とからなり、繊維質基材上に接着樹脂層を介して表皮樹脂層が積層されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-165209号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、車両の座席に用いられる合成皮革は、車両内装材用途として問題のない程度に引裂き強度などの強度を有するだけでなく、長時間着座した際の発汗により蒸れやベタツキが生じない程度の通気性が必要である。
しかし乍ら、特許文献1では、繊維質基材を含めた合成皮革の全体に複数の開口部が貫通されて通気性を高めるため、繊維質基材の全体的な強度が低下する。長時間着座した際の発汗による蒸れやベタツキを確実に解決するには、繊維質基材の全面に多数の開口部を開穿する必要があるため、車両内装材用途に必要な強度を得られないという問題があった。
詳しく説明すると、織物や編物などの繊維質基材が積層された合成皮革に対して、複数の開口部を穿孔加工することにより、繊維質基材の繊維が複数の開口部で断裂されるため、使用に伴う繊維質基材の摩擦などで繊維が解けてしまい、強度が低下して耐久性に劣るだけでなく、解けた繊維が複数の開口部から見えて外観を低下させるという問題があった。
そこで、補強材などにより繊維質基材の強度低下を補うことが考えられる。しかし、この場合には、補強材などで繊維質基材が全体的に硬くなるため、合成皮革としての風合いが損なわれ、商品価値が低下するという問題がある。
また、繊維質基材の裏側にウレタンフォームなどのクッション材を備えた場合には、複数の開口部により繊維質基材を通して、ウレタンフォームなどのクッション材が外側から見えることや、抜け出す恐れがある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
このような課題を達成するために、本発明に係る車両用複合表皮材は、以下の独立請求項に係る構成を少なくとも具備するものである。
席の表面側に用いられる合成皮革を有する車両用複合表皮材であって、
前記合成皮革は、複数の開口部を有する表面樹脂層と、
前記表面樹脂層の裏面に有してなる接着層と、
前記接着層を挟んで前記表面樹脂層の前記裏面に有してなる繊維質基材と、を備え、
前記接着層は、前記表面樹脂層の前記裏面において前記複数の開口部を除いた被着部のみに有してなり、前記繊維質基材の基材表面を前記表面樹脂層に対して接着させていることを特徴とする車両用複合表皮材。
席の表面側に用いられる合成皮革を有する車両用複合表皮材の製造方法であって、
前記合成皮革の表面樹脂層を形成するシート成型工程と、
前記表面樹脂層に複数の開口部を形成する穿孔工程と、
前記複数の開口部を有する前記表面樹脂層の裏面に接着層を形成する糊付け工程と、
前記接着層を挟んで前記表面樹脂層の前記裏面に繊維質基材が接着される貼り合わせ工程と、を含み、
前記糊付け工程では、前記表面樹脂層の前記裏面において前記複数の開口部を除いた被着部のみに前記接着層が部分的に形成されることを特徴とする車両用複合表皮材の製造方法。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】本発明の実施形態に係る車両用複合表皮材の全体構成を示す説明図であり、合成皮革を部分拡大した縦断正面図である。
図2】車両用複合表皮材の製造過程を示す縦断正面図である。
図3】本発明の実施形態に係る車両用複合表皮材の製造方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
本発明の実施形態に係る車両用複合表皮材Aは、車両内装材として車両に適した座席の表面側に用いられ、合成皮革(合成樹脂レザー)Lを有しており、合成皮革Lの裏面側には用途に応じて織物Fやクッション材(図示しない)などが設けられる複合一体化された表皮材である。
詳しく説明すると、本発明の実施形態に係る車両用複合表皮材Aの合成皮革Lは、図1図2に示すように表面樹脂層1と、表面樹脂層1の裏面1bに有してなる接着層2と、接着層2を挟んで表面樹脂層1の裏面1bに有してなる繊維質基材3と、を主要な構成要素として備えている。
さらに表面樹脂層1の表面側には、表面処理層4を備えることが好ましい。
【0008】
表面樹脂層1は、熱可塑性ポリウレタン(TPU)などのポリウレタン樹脂やポリ塩化ビニル(PVC:塩化ビニル樹脂)又はそれに類似する合成樹脂を主成分とした材料で、適宜厚み(0.10~1.00mm、詳しくは0.20~0.80mm)の膜状に形成される。
表面樹脂層1を構成する主成分には、必要に応じて、従来公知の添加剤、例えば着色剤、可塑剤、安定剤、充填剤、滑剤、塗料、発泡剤、離型材などを含有させてもよい。これらは、1種単独または2種以上組み合わせて用いることができる。
さらに表面樹脂層1は、複数の開口部1aを有している。複数の開口部1aは、表面樹脂層1に対し、パンチング加工機で穿孔(孔開け)加工を施すことにより、それぞれ所定間隔毎に開穿している。複数の開口部1aの配置としては、格子状又は千鳥状などが挙げられる。複数の開口部1aの孔径は、平均0.8~3.0mm程度で、所定の開口率(約3~20%)に設定されている。
【0009】
接着層2は、表面樹脂層1の裏面1bにおいて複数の開口部1aを除いた被着部1cのみに、接着剤2aを塗布することで部分的に形成される。
接着層2の接着剤2aとしては、表面樹脂層1の主成分と親和性が高いポリウレタン樹脂などからなるホットメルトタイプを用いることが好ましい。特に加熱温度によって比較的容易に粘度調整が可能な反応型ホットメルト接着剤を用いることが好ましい。
接着剤2aの塗布方法は、印刷などにより表面樹脂層1の裏面1bの一部、詳しくは複数の開口部1aが除かれた被着部1cのみに沿って、接着剤2aを部分的に転写することが好ましい。
接着剤2aの部分的な転写に適した印刷方法としては、図2に示されるグラビア印刷などの凹版印刷が挙げられる。
図示例では、転写ロールR1の印刷面に供給された接着剤2aを、表面樹脂層1の裏面1bと接触させることにより、複数の開口部1aを除いた被着部1cのみに接着剤2aが転写される。複数の開口部1aと対向する部位の接着剤2aは、表面樹脂層1の裏面1bに対して非接触であるために転写されず、転写ロールR1の印刷面に残るように構成されている。このため、接着層2において複数の開口部1aと対向する部位は、貫通部2bとなる。
また、その他の印刷方法として図示しないが、図示例以外の転写構造を用いることや、凹版印刷に代えて凸版印刷や平版印刷などの有版式、インクジェット印刷などの無版式(プリント)に変更することも可能である。
【0010】
ところで、接着剤2aの粘度や塗布量(塗布厚み)は、転写の実現性,転写後の流動性,後述する繊維質基材3との十分な接着強度に影響するため、所定の範囲に設定する必要がある。
実験によれば、接着剤2aの粘度が例えば1000mPa・s以下で低過ぎると、被着部1cのみに転写した接着剤2aが硬化して定着するまでの間に流動して複数の開口部1aを塞いで通気性を阻害する可能性がある。これと逆に接着剤2aの粘度が、例えば30000Pa・s以上で高過ぎると、表面樹脂層1の裏面1bに対する接着剤2aの転写が困難になる。また無理に接着剤2aの転写を行っても、接着剤2aがフィルム状に転写されて複数の開口部1aを塞いでしまい、通気性を阻害する可能性がある。
接着剤2aの塗布厚みは、例えば15μm未満で少な過ぎると、後述する繊維質基材3と十分な接着強度が得られない。これと逆に接着剤2aの塗布量が、100μm以上で多過ぎると、転写後の接着剤2aが定着するまでの間に流動して複数の開口部1aを塞ぐ可能性がある。
そこで、接着剤2aの粘度は、1000mPa・sを超えて30000mPa・s未満、詳しくは5000~25000mPa・sに設定することが好ましい。接着剤2aの塗布厚みは、15μm以上で100μm未満、詳しくは30~80μmに設定することが好ましい。
【0011】
繊維質基材3は、ポリエチレンテレフタラート(PET)やポリトリメチレンテレフタレート(PTT)又はその他のポリエステル若しくはそれに類似する合成繊維、天然繊維、再生繊維、半合成繊維等を1種単独または2種以上を組み合わせて使用し、通気性を有する構造に形成された編物や織物や不織布などからなる。繊維質基材3には、複数の開口部1aが開穿されず、その穿孔加工で合成繊維を断裂することはない。
繊維質基材3のとしては、立体編物を用いることが好ましい。立体編物とは、表裏両面の基布(編地)をモノフィラメントなどの連結糸で編みこんだ三層の立体構造(三次元立体編物)である。このため、繊維質基材3として立体編物を用いた場合には、基布のメッシュ(網目)の大きさを変えることにより、繊維質基材3の適度な通気性を保つことが可能になる。
繊維質基材3において接着層2と対向する基材表面3aは、図1図2に示されるように、表面樹脂層1の裏面1bの一部(被着部1c)に形成された接着剤2aで接合される。
図示例では、一対の加圧ロールR2,R3の間に、表面樹脂層1と繊維質基材3を挟み込んで加圧することにより、表面樹脂層1の裏面1bに表面樹脂層1の基材表面3aを圧接させ、両者が接合して積層される。
【0012】
表面処理層4は、表面樹脂層1の表面1dに沿って所定厚みで形成される。
表面処理層4としては、艶消し剤や艶出し剤などを用いた艶の調整処理や、表面に保護性皮膜を作成するための処理などが挙げられる。表面処理層4の形成方法としては、表面処理剤の印刷やコーティングなどが挙げられ、グラビ印刷やインクジェットプリンターなどのプリント機を用いた印刷,スプレーガンによるスプレーコートなどを用いて塗工することが好ましい。
さらに、表面処理層4には、シボ模様などの所定の凹凸模様を付けるための型押しが行われる。
【0013】
合成皮革Lの裏面側に接合される織物Fとしては、特開2017-165209号公報などに記載される平織などを用いている。
図示例の場合には、繊維質基材3の基材裏面3bに対し、反応性ホットメルトポリウレタン樹脂などからなる接着剤Bを塗布して形成されてから、織物Fに圧着することにより、両者が接合して積層される。
また、その他の例として図示しないが、合成皮革Lの用途に応じて織物Fに代え、ウレタンフォームなどのクッション材を配置することなどの変更も可能である。
【0014】
そして、本発明の実施形態に係る車両用複合表皮材Aの製造方法において合成皮革Lを生産する方法は、図3に示すフローチャートのように、シート成型工程と、穿孔工程と、糊付け工程と、貼り合わせ工程と、を主要な工程として含んでいる。
さらに、シート成型工程と穿孔工程の間に、表面処理工程と型押し工程を含むことが好ましい。
シート成型工程では、ロール成型機などにより合成皮革Lの表面樹脂層1などが形成される。
表面処理工程では、表面樹脂層1の表面側に表面処理層4を形成するなど、必要な表面処理が行われる。
型押し工程では、表面処理層4にシボ模様などの所定の凹凸模様を付けるなど、必要な型押し加工が行われる。
穿孔工程では、表面樹脂層1や表面処理層4に対して、パンチング加工機などにより、複数の開口部1aの穿孔(孔開け)加工が行われる。
糊付け工程では、複数の開口部1aが開穿された表面樹脂層1の裏面1bに対し、印刷などにより接着剤2aが、複数の開口部1aを除いた被着部1cのみに転写されて、接着層2が部分的に形成される。
貼り合わせ工程では、接着層2を挟んで表面樹脂層1の裏面1bに、通気性を有する繊維質基材3が接着される。
【0015】
このような本発明の実施形態に係る車両用複合表皮材A及びその製造方法によると、複数の開口部1aを有する表面樹脂層1の裏面1bにおいて、複数の開口部1aを除いた被着部1cのみに接着層2を有してなることにより、接着層2で複数の開口部1aが塞がれずに表面樹脂層1の裏面1bを繊維質基材3の基材表面3aに接着して接合される。
このため、表面樹脂層1に接着層2を挟んで繊維質基材3が接着された接合状態では、表面樹脂層1が有する複数の開口部1a,接着層2の貫通部2bと、繊維質基材3の内部空間を通って通気性が確保される。
したがって、繊維質基材3に穿孔加工を施さずに十分な通気性と十分な強度を得ることができる。
その結果、繊維質基材3に穿孔加工が必要な従来のものに比べ、通気性を高めるために開口部1aの数を増やしても繊維質基材3の全体的な強度が低下せず、車両内装材用途に必要な強度を得られる。
さらに、繊維質基材3の繊維が穿孔加工で断裂されないため、使用に伴う繊維質基材3の摩擦などで繊維が解れず、耐久性が向上して商品価値の向上が図れるとともに、解けた繊維質基材3の繊維が複数の開口部1aから見える外観の低下も防止できる。
また、表面樹脂層1の開孔率が変化しても合成皮革Lとしての強度変化は少ないため、従来では困難であった多種多様なパターンのデザインにも対応できる。
【0016】
特に、繊維質基材3が立体編物であることが好ましい。
この場合には、繊維質基材3となる立体編物(三次元立体編物)が、表裏両面となる基布のメッシュ(網目)の大きさを変えることにより、適度な通気性が保たれる。
したがって、蒸れを軽減して快適な座り心地を得ることができる。
その結果、長時間に亘って着座しても発汗による蒸れやベタツキを確実に防止できる。
【0017】
さらに、接着層2は、印刷により表面樹脂層1の裏面1bの被着部1cのみに、接着剤2aを部分的に有することが好ましい。
この場合には、複数の開口部1aを有する表面樹脂層1の裏面1bにおいて、複数の開口部1aを除いた被着部1cのみに対し、接着剤2aが簡単で素早く且つ正確に塗布可能になる。
したがって、複数の開口部1aへの接着剤2aの食み出しを防止することができる。
その結果、複数の開口部1aが接着剤2aの食み出しで塞がれず十分な通気性を確実に確保できる。さらに接着剤2aの塗布が高速化されるため、大量生産が可能でコストの低減化も図れる。
【0018】
また、接着剤2aの粘度が1000mPa・sを超えて30000mPa・s未満であることが好ましい。
この場合には、接着剤2aの粘度が30000mPa・s未満で高過ぎないため、表面樹脂層1の裏面1bに対して接着剤2aが転写可能になるとともに、接着剤2aがフィルム状に転写されて複数の開口部1aを塞ぐことがない。さらに接着剤2aの粘度が1000mPa・sを超えて低過ぎないため、転写後の接着剤2aが硬化して定着するまでの間に流動せず、複数の開口部1aを塞ぐことがない。
したがって、接着剤2aの過度な低粘度による転写後の接着剤2aの流動と、接着剤2aの過度な高粘度による転写不能を同時に防ぐことができる。
その結果、最適な条件で接着剤2aの転写を行って、転写後の流動による通気性の阻害を確実に抑制できる。
【実施例
【0019】
以下に、本発明の実施例を説明する。
[実施例1~7及び比較例1~4]
表1に示す実施例1~7と表2に示す比較例1~4は、主成分がTPUで厚みが0.23mmの表面樹脂層と、反応型ホットメルトタイプの接着剤を部分的に塗布して形成された接着層と、PET製の立体編物からなる繊維質基材と、からなる合成皮革を用いており、共通の構成にしている。
実施例1~7及び比較例1~4では、複数の開口部1aの孔径,表面樹脂層1の開口率,接着剤2aの粘度,接着層2の厚みのいずれかが異なる。
【0020】
実施例1では、接着剤の粘度が9000mPa・sであり、接着層の厚みを50μmにした点が、実施例4などと共通しており、複数の開口部の孔径を1.1mmとし、表面樹脂層の開口率を7.6%にしたところが異なっている。
実施例2では、接着剤の粘度が9000mPa・sであり、接着層の厚みを50μmした点が、実施例4などと共通しており、複数の開口部の孔径を1.5mmとし、表面樹脂層の開口率を11.0%にしたところが異なっている。
実施例3では、接着層の厚みを50μmにした点が、実施例1や実施例4などと共通しており、複数の開口部の孔径を1.0mmとし、表面樹脂層の開口率を12.8%とし、接着剤の粘度を5000mPa・sにしたところが実施例1と異なっている。
実施例4では、接着剤の粘度を9000mPa・sとした点のみが、実施例3と異なっており、それ以外は共通している。
実施例5では、接着剤の粘度を25000mPa・sとした点のみが、実施例3や実施例4と異なっており、それ以外は共通している。
実施例6では、接着層の厚みを15μmとした点のみが、実施例4と異なっており、それ以外は共通している。
実施例7では、接着層の厚みを90μmとした点のみが、実施例4や実施例6と異なっており、それ以外は共通している。
【0021】
比較例1では、接着層の厚みを13μmとした点のみが、実施例4や実施例6や実施例7と異なっており、それ以外は共通している。
比較例2では、接着層の厚みを100μmとした点のみが、実施例4や実施例6や実施例7と異なっており、それ以外は共通している。
比較例3では、接着剤の粘度を1000mPa・sとした点のみが、実施例3~実施例5と異なっており、それ以外は共通している。
比較例4では、接着剤の粘度を30000mPa・sとした点のみが、実施例3~実施例5と異なっており、それ以外は共通している。
【0022】
表1及び表2に示される評価結果(合成皮革の引張強度、合成皮革の引張伸び、合成皮革の接着強度、合成皮革の通気度、総合評価)は、以下の指標に基づくものである。
「合成皮革の引張強度」は、実施例1~7及び比較例1~4から同一サイズの試験片を採取し、引張試験機で同じ条件下においてそれぞれの引張試験を行うことにより、各試験片の引張強度(N/cm)を計測した。
「合成皮革の引張伸び」は、引張試験機で同じ条件下においてそれぞれの引張伸び試験を行うことにより、各試験片の引張伸び(%)を計測した。
「合成皮革の接着強度」は、実施例1~7及び比較例1~4から同一サイズの試験片を採取し、剥離試験機で同じ条件下においてそれぞれの剥離試験を行うことにより、各試験片の接着強度(N/cm)を計測した。
「合成皮革の引張強度」は、実施例1~7及び比較例1~4から同一サイズの試験片を採取し、通気性試験機で同じ条件下においてそれぞれの通気度試験を行うことにより、各試験片の通気度(cm3/cm2・s)を計測した。
「総合評価」とは、前述した「引張強度」「引張伸び」「接着強度」「通気度」の評価結果に基づいて総合的に三段階で評価した。
この「総合評価」の評価結果において、◎:最適、○:良、×:不向き、のように評価した。






【0023】
【表1】


【0024】
【表2】
【0025】
[評価結果]
実施例1~7と比較例1~4を比較すると、実施例1~7は、引張強度,引張伸び,接着強度,通気度の全てにおいて良好な評価結果が得られている。
この評価結果から明らかなように、実施例1~7は、優れた引張強度と引張伸びと接着強度と通気度を併せ持った車両用複合表皮材であることが実証できた。
これに対して、比較例1~4は、引張強度,引張伸び,接着強度,通気度のいずれかで不良な評価結果になっている。
詳しく説明すると、比較例1は、接着層の厚みが13μmで塗布量が少なな過ぎたため、接着強度で不良な評価結果になった。
比較例2は、接着層の厚みが100μmで塗布量が多過ぎたため、接着剤が流動して複数の開口部を塞ぎ、通気度で不良な評価結果になった。
比較例3は、接着剤の粘度が1000mPa・sで低過ぎたため、接着剤が流動して複数の開口部を塞ぎ、通気度及び接着強度で不良な評価結果になった。
比較例4は、接着剤の粘度が30000mPa・sで高過ぎたため、表面樹脂層に対する接着剤の転写不良が発生して繊維質基材との貼り合わせを行えず、不良な評価結果になった。
【0026】
なお、前示の実施形態において図示例では、合成皮革Lの表面に表面処理層4を備えたが、これに限定されず、表面処理層4を備えなくてもよい。
この場合においても、前述した実施形態と同様な作用や利点が得られる。
【符号の説明】
【0027】
A 車両用複合表皮材 L 合成皮革
1 表面樹脂層 1a 開口部
1b 裏面 1c 被着部
2 接着層 2a 接着剤
3 繊維質基材 3a 基材表面
図1
図2
図3