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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-12
(45)【発行日】2024-01-22
(54)【発明の名称】撓み噛合い式歯車装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 1/32 20060101AFI20240115BHJP
   F16C 19/16 20060101ALI20240115BHJP
   F16C 33/60 20060101ALI20240115BHJP
   F16C 33/58 20060101ALI20240115BHJP
【FI】
F16H1/32 B
F16C19/16
F16C33/60
F16C33/58
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020143140
(22)【出願日】2020-08-27
(65)【公開番号】P2022038565
(43)【公開日】2022-03-10
【審査請求日】2023-02-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 良男
(72)【発明者】
【氏名】石塚 正幸
【審査官】畔津 圭介
(56)【参考文献】
【文献】実開平04-078328(JP,U)
【文献】特開平01-150045(JP,A)
【文献】国際公開第2020/004005(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 1/32
F16C 19/16
F16C 33/60
F16C 33/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
起振体と、前記起振体により撓み変形する外歯歯車と、内歯歯車と、前記内歯歯車とケーシングとの間に配置される主軸受と、を備えた撓み噛合い式歯車装置であって、
前記内歯歯車と軸方向に隣接して配置されて当該内歯歯車に連結される隣接部材を有し、
前記主軸受の内輪は、前記内歯歯車と前記隣接部材とにより構成され
前記内歯歯車の外周に当該内歯歯車と一体に第1内輪側転走面が設けられ、前記内歯歯車の内歯が設けられない前記隣接部材の外周に第2内輪側転走面が設けられる、
撓み噛合い式歯車装置。
【請求項2】
前記隣接部材は前記内歯歯車の内歯の径方向外側に配置される、
請求項1に記載の撓み噛合い式歯車装置。
【請求項3】
前記隣接部材は、当該撓み噛合い式歯車装置の内部空間を軸方向から覆っている、
請求項1又は請求項2に記載の撓み噛合い式歯車装置。
【請求項4】
前記隣接部材には、前記起振体を含む起振体軸を支持する軸受が配置されない、
請求項3に記載の撓み噛合い式歯車装置。
【請求項5】
前記隣接部材には、前記起振体と摺動するオイルシールが配置されない、
請求項3又は請求項4に記載の撓み噛合い式歯車装置。
【請求項6】
前記起振体と前記外歯歯車の間に配置される起振体軸受の軸方向への移動を規制する規制部材を有し、
前記規制部材は、前記起振体を有する起振体軸と一体的に設けられる、
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の撓み噛合い式歯車装置。
【請求項7】
前記起振体軸は、軸方向に突出して前記規制部材に当接する当接部を有し、
前記起振体は、軸方向端面と前記規制部材との間に隙間を有する、
請求項6に記載の撓み噛合い式歯車装置。
【請求項8】
前記隣接部材に被駆動部材が連結される、
請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の撓み噛合い式歯車装置。
【請求項9】
起振体と、前記起振体により撓み変形する外歯歯車と、内歯歯車と、前記内歯歯車とケーシングとの間に配置される主軸受と、を備えた撓み噛合い式歯車装置であって、
前記内歯歯車と軸方向に隣接して配置されて当該内歯歯車に連結される隣接部材を有し、
前記主軸受の内輪は、前記内歯歯車と前記隣接部材とにより構成され、
当該噛合い式歯車装置は、前記内歯歯車として、第1内歯歯車と第2内歯歯車を有する筒型の撓み噛合い式歯車装置であり、
前記第2内歯歯車が前記主軸受の内輪を構成し、
前記第1内歯歯車が前記主軸受の外輪と一体化され、
前記第1内歯歯車と前記主軸受の外輪は中間部材を介して連結され、
前記中間部材は、前記主軸受の外輪及び前記第1内歯歯車の少なくとも一方と異なる素材により構成される、
撓み噛合い式歯車装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撓み噛合い式歯車装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、撓み変形する外歯歯車と、外歯歯車と噛み合う内歯歯車とを備える撓み噛合い式歯車装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。内歯歯車は、主軸受を介してケーシングに支持されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5337008号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来の撓み噛合い式歯車装置では、内歯歯車を主軸受に単純に支持させた場合、内歯歯車が軸方向に長くなり、ひいては装置全体が軸方向に大型化してしまう場合があった。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、装置を軸方向にコンパクトに構成することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、起振体と、前記起振体により撓み変形する外歯歯車と、内歯歯車と、前記内歯歯車とケーシングとの間に配置される主軸受と、を備えた撓み噛合い式歯車装置であって、
前記内歯歯車と軸方向に隣接して配置されて当該内歯歯車に連結される隣接部材を有し、
前記主軸受の内輪は、前記内歯歯車と前記隣接部材とにより構成され
前記内歯歯車の外周に当該内歯歯車と一体に第1内輪側転走面が設けられ、前記内歯歯車の内歯が設けられない前記隣接部材の外周に第2内輪側転走面が設けられる。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、装置を軸方向にコンパクトに構成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】第1実施形態に係る撓み噛合い式歯車装置を示す断面図である。
図2】第2内歯歯車とカバー部材を一体化させた撓み噛合い式歯車装置を示す断面図である。
図3】第2実施形態に係る撓み噛合い式歯車装置を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[第1実施形態]
以下、本発明の第1実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0010】
<撓み噛合い式歯車装置の構成>
図1は、第1実施形態に係る撓み噛合い式歯車装置1を示す断面図である。
この図に示すように、撓み噛合い式歯車装置1は、筒型の撓み噛合い式歯車装置であり、起振体軸10、外歯歯車12、第1内歯歯車22、第2内歯歯車23、起振体軸受15を備える。さらに、撓み噛合い式歯車装置1は、第1ケーシング33、第2ケーシング34、カバー部材35、主軸受36を備える。
【0011】
起振体軸10は、回転軸O1を中心に回転する中空筒状の軸であり、回転軸O1に垂直な断面の外形が非円形(例えば楕円状)の起振体11を有する。楕円状は、幾何学的に厳密な楕円に限定されるものではなく、略楕円を含む。起振体軸10の内径側(径方向内側)部分(内周縁部)には、起振体11よりも軸方向の両側に突出し、後述の規制部材41、42に当接して当該規制部材41、42を軸方向に位置決めする当接部10bが、軸方向の両側に設けられている。
起振体軸10には、駆動源であるモータ(図示省略)のモータ出力軸60の先端部61が挿通されて、キー62を介して動力伝達可能に連結されている。モータは、撓み噛合い式歯車装置1の一方側(図中の右側)に配置され、モータ出力軸60を駆動する。
なお、以下の説明では、回転軸O1に沿った方向を「軸方向」、回転軸O1に垂直な方向を「径方向」、回転軸O1を中心とする回転方向を「周方向」という。また、軸方向のうち、減速された回転運動が出力される側(図中の左側)を「出力側」といい、出力側とは反対側(図中の右側)を「反出力側」という。
【0012】
外歯歯車12は、可撓性を有するとともに回転軸O1を中心とする円筒状の部材であり、外周に歯が設けられている。
【0013】
第1内歯歯車22と第2内歯歯車23とは、それぞれ内径部に歯22g、23gを有する。歯22g、23gは、軸方向に並び、一方が外歯歯車12の軸方向の中央より片側の歯に噛合し、他方が外歯歯車12の軸方向の中央よりもう一方の片側の歯に噛合する。歯22g、23gは、例えばギヤシェーパーやスカイビング盤などにより歯切り加工される。
このうち、第2内歯歯車23は、主軸受36の内輪のうち反出力側の一方を構成しており、外周面のうち出力側の端部に第1内輪側転走面23aを有している。
【0014】
起振体軸受15は、例えばコロ軸受であり、起振体11と外歯歯車12との間に配置される。起振体軸受15は、外歯歯車12の内側に嵌入される外輪15aと、複数の転動体(コロ)15bと、複数の転動体15bを保持する保持器15cとを有する。複数の転動体15bは、起振体11の外周面と外輪15aの内周面とを転動面(軌道面ともいう)として転動する。なお、起振体軸受15は、起振体11とは別体の内輪を有してもよい。
【0015】
外歯歯車12と、起振体軸受15との軸方向の両側には、これらに当接して、これらの軸方向の移動を規制する規制部材41、42が設けられている。
規制部材41、42は、起振体軸10を挟むようにその軸方向両側の当接部10bに当接した状態で、起振体軸10に挿通されたモータ出力軸60の先端部61に、Cリング43により取り付けられている。これにより、規制部材41、42は、キー62を介してモータ出力軸60に連結された起振体軸10と一体的に設けられる(一体的に回転する)。
規制部材41、42は、起振体11の軸方向端面との間に隙間Cを有している。この隙間Cにグリース(潤滑剤)が溜まることで、起振体軸受15等の潤滑が良化する。
【0016】
第1ケーシング33は、第1内歯歯車22の外径側に配置されている。第1ケーシング33の反出力側には、モータ出力軸60を支持するフランジ部材63が、図示しない連結部材により連結されている。モータ出力軸60は、フランジ部材63の内径側に挿通され、軸受64を介してフランジ部材63に支持されている。フランジ部材63は、第1内歯歯車22に対して芯出し(径方向の位置決め)された状態で第1ケーシング33に連結されている。
撓み噛合い式歯車装置1が外部の相手装置(図示省略)と接続される際、第1ケーシング33とフランジ部材63が共締めにより相手装置に連結される。
【0017】
第2ケーシング34は、第2内歯歯車23及びカバー部材35の外径側であって第1ケーシング33の出力側に配置され、第1ケーシング33及び第1内歯歯車22と連結されて一体化されている。具体的に、第2ケーシング34は、第1ケーシング33とともに第1内歯歯車22の外周面22aに篏合して芯出しされ、第1ケーシング33を介して第1内歯歯車22のうち反出力側の張り出し部分と軸方向に当接している。そして、第2ケーシング34、第1ケーシング33及び第1内歯歯車22は、軸方向に当接した部分においてボルト51により連結されている。
また、第2ケーシング34は、内径部に主軸受36の外輪34a(すなわち、主軸受36のコロ36aの外輪側転走面)を有している。
【0018】
カバー部材35は、本発明に係る隣接部材の一例であり、第2内歯歯車23とその軸方向の出力側に隣接して配置されて、当該第2内歯歯車23に連結されている。より詳しくは、カバー部材35は、第2内歯歯車23の出力側の内径部に突設されたインロー部23bの外周面に篏合(好ましくは締り嵌め)して、当該第2内歯歯車23に対して芯出しされている。カバー部材35は、この状態で当該第2内歯歯車23と軸方向に当接しており、この当接した部分においてボルト52により連結されている。カバー部材35と第2内歯歯車23との当接面は、第2内歯歯車23の歯23gの外径側であって、主軸受36の内径側に位置している。
カバー部材35は、主軸受36の内輪のうち出力側の一方を構成しており、外周面のうち反出力側の端部に第2内輪側転走面35aを有している。
撓み噛合い式歯車装置1が外部の相手装置と接続される際、カバー部材35は、相手装置の被駆動部材(図示省略)に連結され、減速された回転を当該被駆動部材に出力する。
【0019】
また、カバー部材35は、略円板状に形成され、撓み噛合い式歯車装置1の内部空間を軸方向の出力側から覆っている。すなわち、カバー部材35はホロー構造(中空構造)を採っておらず、ホロー構造の場合に配置される、起振体11を支持する軸受や、起振体11と摺動するオイルシールが配置されていない。そのため、これら軸受やオイルシールを省いた分だけ装置を軸方向にコンパクトに構成できるとともに、オイルシールによる動力損失を排除できる。
【0020】
主軸受36は、本実施形態ではクロスローラ軸受であり、第2内歯歯車23の歯23gの外径側に配置されている。主軸受36は、第2ケーシング34に設けられた外輪34aと、第2内歯歯車23及びカバー部材35により構成される内輪と、その間に配置されたコロ(転動体)36aとを有して構成されている。主軸受36は、第2内歯歯車23とカバー部材35を、第2ケーシング34に対して相対回転可能に支持する。
【0021】
さらに、撓み噛合い式歯車装置1は、シール用のオイルシール45及びOリング46,47を備える。
オイルシール45は、軸方向の出力側の端部で、カバー部材35と第2ケーシング34との間に配置され、出力側への潤滑剤の流出を抑制する。
Oリング46,47は、第1ケーシング33とフランジ部材63との間、第1ケーシング33と第2ケーシング34との間にそれぞれ設けられ、これらの間で潤滑剤が移動することを抑制する。
【0022】
<各部材の素材>
各部材の素材は、特に限定はされないが、本実施形態では以下のように構成されている。
起振体軸10、外歯歯車12、第1内歯歯車22、第2内歯歯車23、第2ケーシング34、カバー部材35、規制部材41、42は、鉄鋼素材等の金属素材から構成される。特に制限されないが、より具体的には、起振体軸10が例えばクロムモリブデン鋼等の鉄鋼素材から構成され、外歯歯車12が例えばニッケルクロムモリブデン鋼等の鉄鋼素材から構成され、規制部材41、42が例えば高炭素クロム軸受鋼鋼材等の鉄鋼素材から構成される。また、第2内歯歯車23、第2ケーシング34およびカバー部材35は、主軸受36の内輪や外輪を構成することから、例えば高炭素クロム軸受鋼鋼材等の鉄鋼素材から構成され、第1内歯歯車22も、例えば高炭素クロム軸受鋼鋼材等の鉄鋼素材から構成される。
【0023】
第1ケーシング33は、第2ケーシング34及び第1内歯歯車22の少なくとも一方と異なる素材により構成されており、本実施形態では、鉄鋼素材により構成される第2ケーシング34及び第1内歯歯車22の両方と異なる素材により構成されており、例えば樹脂又はアルミニウムなど、鉄鋼素材よりも比重が小さい素材から構成されている。外径サイズの大きい(体積の大きい)第1ケーシング33を樹脂又はアルミニウム製とすることにより、装置の軽量化を図ることができる。
【0024】
<歯車装置の動作>
駆動源のモータによりモータ出力軸60を介して起振体軸10の回転駆動が行われると、起振体11の運動が外歯歯車12に伝わる。このとき、外歯歯車12は、起振体11の外周面に沿った形状に規制され、軸方向から見て、長軸部分と短軸部分とを有する楕円形状に撓んでいる。さらに、外歯歯車12は、固定された第1内歯歯車22と長軸部分で噛合っている。このため、外歯歯車12は起振体11と同じ回転速度で回転することはなく、外歯歯車12の内側で起振体11が相対的に回転する。そして、この相対的な回転に伴って、外歯歯車12は長軸位置と短軸位置とが周方向に移動するように撓み変形する。この変形の周期は、起振体軸10の回転周期に比例する。
【0025】
外歯歯車12が撓み変形する際、その長軸位置が移動することで、外歯歯車12と第1内歯歯車22との噛み合う位置が回転方向に変化する。ここで、例えば、外歯歯車12の歯数が100で、第1内歯歯車22の歯数が102だとすると、噛み合う位置が一周するごとに、外歯歯車12と第1内歯歯車22との噛み合う歯がずれていき、これにより外歯歯車12が回転(自転)する。上記の歯数であれば、起振体軸10の回転運動は減速比100:2で減速されて外歯歯車12に伝達される。
【0026】
一方、外歯歯車12は第2内歯歯車23とも噛合っているため、起振体軸10の回転によって外歯歯車12と第2内歯歯車23との噛み合う位置も回転方向に変化する。ここで、第2内歯歯車23の歯数と外歯歯車12の歯数とが同数であるとすると、外歯歯車12と第2内歯歯車23とは相対的に回転せず、外歯歯車12の回転運動が減速比1:1で第2内歯歯車23へ伝達される。これらによって、起振体軸10の回転運動が減速比100:2で減速されて、第2内歯歯車23及びカバー部材35へ伝達され、この回転運動がカバー部材35に連結された被駆動部材に出力される。
【0027】
<第1実施形態の技術的効果>
以上のように、本実施形態によれば、第2内歯歯車23とカバー部材35とが軸方向に隣接して配置されて互いに連結され、主軸受36の内輪が第2内歯歯車23とカバー部材35とにより構成されている。
このように、主軸受36の内輪を軸方向に分割することで、その一方の第2内歯歯車23の歯切り加工時の工具逃げを不要にし、装置を軸方向にコンパクトに構成できる。
すなわち、部品点数の削減を図って第2内歯歯車23をカバー部材35と一体化させつつ、当該第2内歯歯車23を主軸受36に支持させようとすると、図2に示すように、この第2内歯歯車23が歯23gよりも内径側の部分を有する。そのため、例えばギヤシェーパーやスカイビング盤などによる歯23gの歯切り加工時に、軸方向への工具の逃げが必要となる結果、第2内歯歯車23が軸方向に長くなってしまう。
この点、本実施形態では、主軸受36の内輪が第2内歯歯車23とこれに隣接するカバー部材35とに分割されているため、第2内歯歯車23の内周を貫通させ、歯23gの歯切り加工時における工具の逃げ幅を不要にできる。
したがって、上述のように第2内歯歯車23単体を主軸受36の内輪とする場合に比べ、装置を軸方向にコンパクトに構成できる。また、被駆動部材が取り付けられるカバー部材35の出力側の面と主軸受36との軸方向距離を短縮でき、被駆動部材の荷重に起因する主軸受36への負荷を低減できる。
【0028】
また、本実施形態によれば、カバー部材35が撓み噛合い式歯車装置1の内部空間を軸方向から覆っており、当該カバー部材35には、起振体11を支持する軸受や、起振体11と摺動するオイルシールが配置されていない。
そのため、撓み噛合い式歯車装置1を軸方向にコンパクトに構成できるとともに、オイルシールによる動力損失を排除できる。
【0029】
また、本実施形態によれば、第1ケーシング33が、連結された第2ケーシング34及び第1内歯歯車22の少なくとも一方と異なる素材により構成されている。
これにより、第1ケーシング33を樹脂又はアルミニウムなどの軽量素材から構成するなどして、撓み噛合い式歯車装置1の軽量化を図ることができる。
【0030】
また、本実施形態によれば、起振体軸受15の軸方向への移動を規制する規制部材41、42が、起振体軸10と一体的に設けられ、起振体11の軸方向端面との間に隙間Cを有している。
そのため、この隙間Cにグリース(潤滑剤)を溜めることで、起振体軸受15等の潤滑を良化させることができる。
【0031】
[第2実施形態]
続いて、本発明の第2実施形態に係る撓み噛合い式歯車装置について説明する。以下、上記第1実施形態と同様の構成要素については同一の符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0032】
図3は、第2実施形態に係る撓み噛合い式歯車装置1Aを示す断面図である。
この図に示すように、第2実施形態に係る撓み噛合い式歯車装置1Aは、上記第1実施形態の撓み噛合い式歯車装置1と異なり、シルクハット型の撓み噛合い式歯車装置である。具体的に、撓み噛合い式歯車装置1Aは、起振体軸10A、外歯歯車12A、内歯歯車23A、起振体軸受15Aを備える。さらに、撓み噛合い式歯車装置1Aは、第1ケーシング33、第2ケーシング34、カバー部材35、主軸受36を備える。
【0033】
起振体軸10Aは、回転軸O1を中心に回転する中空筒状の軸であり、回転軸O1に垂直な断面の外形が非円形(例えば楕円状)の起振体11Aを有する。楕円状は、幾何学的に厳密な楕円に限定されるものではなく、略楕円を含む。
起振体軸10Aには、駆動源であるモータ(図示省略)のモータ出力軸60Aの先端部61Aが挿通されて、キー62Aを介して動力伝達可能に連結されている。
【0034】
外歯歯車12Aは、軸方向に所定の長さを有する円筒部121Aと、フランジ部122Aと、インロー部123Aとを有する。
円筒部121Aは、可撓性を有するとともに回転軸O1を中心とする円筒状の部材であり、出力側の略半部の外周に歯が設けられている。
フランジ部122Aは、円筒部121Aの反出力側の端部から外径側に張り出している。フランジ部122Aの出力側の面が第1ケーシング33と当接しており、当該フランジ部122Aにおいて第1ケーシング33及び第2ケーシング34とボルト51により連結されている。
インロー部123Aは、円筒部121Aよりも外径側の径方向位置において、フランジ部122Aの出力側の面から全周に亘って出力側に延出した円筒状に形成されている。インロー部123Aの外周面は、第1ケーシング33と第2ケーシング34が篏合されるインロー面となっている。
円筒部121Aと、円筒部121Aの反出力側の端部から外径側に張り出した部分と、インロー部123Aとは、出力側に開口する断面U字状の空間Sを全周に亘って画成している。この空間Sは、主軸受36と連通しており、内圧上昇を抑制するとともに、グリース溜まりとして機能してグリース漏れに対するロバスト性を向上させる。
【0035】
内歯歯車23Aは、上記第1実施形態の第2内歯歯車23と同様に構成され、内径部に歯23gを有する。歯23gは、外歯歯車12の外周の歯に噛合する。
内歯歯車23Aは、主軸受36の内輪のうち反出力側の一方を構成しており、外周面のうち出力側の端部に第1内輪側転走面23aを有している。
【0036】
起振体軸受15Aは、例えば玉軸受であり、起振体11Aと外歯歯車12Aとの間に配置される。
起振体軸受15Aの出力側には、起振体軸受15Aの軸方向の移動を規制する規制部材42Aが設けられている。規制部材42Aは、外径が起振体軸受15Aの外輪の径方向位置と対応している。そのため、規制部材42Aにより、起振体軸受15Aに封入されたグリースの出力側への漏れを抑制できる。
【0037】
第1ケーシング33は、内歯歯車23Aのフランジ部122A及びインロー部123Aの外径側に配置されている。第1ケーシング33には、モータ出力軸60を支持するフランジ部材63が、内歯歯車23Aのフランジ部122Aに対して芯出しされた状態で連結されている。また、第1ケーシング33は、鉄鋼素材により構成される外歯歯車12Aや第2ケーシング34よりも比重の小さい素材、例えばアルミ合金や樹脂により構成されてもよい。
【0038】
カバー部材35は、内歯歯車23Aとその軸方向の出力側に隣接して配置されて、当該内歯歯車23Aに連結されている。より詳しくは、カバー部材35は、内歯歯車23Aの出力側の内径部に突設されたインロー部23bの外周面に篏合(好ましくは締り嵌め)して、当該内歯歯車23Aに対して芯出しされ、ボルト52により連結されている。
【0039】
主軸受36は、第2ケーシング34に設けられた外輪34aと、内歯歯車23A及びカバー部材35により構成される内輪と、その間に配置されたコロ(転動体)36aを有して構成されている。主軸受36は、内歯歯車23Aとカバー部材35を第2ケーシング34に対して相対回転可能に支持する。
【0040】
以上の構成を具備するシルクハット型の撓み噛合い式歯車装置1Aにおいても、上記第1実施形態における筒形の撓み噛合い式歯車装置1と同様の効果を得ることができる。
すなわち、内歯歯車23Aとカバー部材35とが軸方向に隣接して配置されて互いに連結され、主軸受36の内輪が内歯歯車23Aとカバー部材35とにより構成されているので、内歯歯車23A単体を主軸受36の内輪とする場合(図2参照)に比べ、装置を軸方向にコンパクトに構成できる。
【0041】
[その他]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態及びその変形例に限られない。
例えば、上記第1実施形態では、第2内歯歯車23の外周に第1内輪側転走面23aが設けられ、カバー部材35の外周に第2内輪側転走面35aが設けられることとした。しかし、主軸受36の内輪が第2内歯歯車23とカバー部材35とにより構成されていればよく、これら各々が主軸受36のコロ36aの転走面を有していなくともよい。
【0042】
また、主軸受36は、内輪を出力側と反出力側とに分割可能な四点接触軸受であればよく、クロスローラ軸受に限定されない。例えば、四点接触玉軸受でもよい。
【0043】
また、上記実施形態では、本発明に係る撓み噛合い式歯車装置を筒型とシルクハット型に適用した例について説明した。しかし、本発明に係る撓み噛合い式歯車装置は、カップ型にも同様に適用可能である。
その他、上記実施形態で示した細部は、発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0044】
1、1A 撓み噛合い式歯車装置
10、10A 起振体軸
10b 当接部
11、11A 起振体
12、12A 外歯歯車
15、15A 起振体軸受
22 第1内歯歯車
22g 歯
23 第2内歯歯車
23a 第1内輪側転走面
23A 内歯歯車
23b インロー部
23g 歯
33 第1ケーシング(中間部材)
34 第2ケーシング
35 カバー部材(隣接部材)
35a 第2内輪側転走面
36 主軸受
36a コロ
41、42、42A 規制部材
51、52 ボルト
60、60A モータ出力軸
63 フランジ部材
121A 円筒部
122A フランジ部
123A インロー部
C 隙間
O1 回転軸
S 空間
図1
図2
図3