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特許7419205回転子、かご形誘導電動機及びドライブシステム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-12
(45)【発行日】2024-01-22
(54)【発明の名称】回転子、かご形誘導電動機及びドライブシステム
(51)【国際特許分類】
   H02K 17/16 20060101AFI20240115BHJP
   H02K 1/22 20060101ALI20240115BHJP
【FI】
H02K17/16 A
H02K1/22 Z
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020161508
(22)【出願日】2020-09-25
(65)【公開番号】P2022054355
(43)【公開日】2022-04-06
【審査請求日】2023-02-06
(73)【特許権者】
【識別番号】502129933
【氏名又は名称】株式会社日立産機システム
(74)【代理人】
【識別番号】110001689
【氏名又は名称】青稜弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】西濱 和雄
(72)【発明者】
【氏名】阿部 敦
(72)【発明者】
【氏名】竹田 高広
(72)【発明者】
【氏名】三石 健央
【審査官】保田 亨介
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/244240(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/244238(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/001601(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K1/00-1/16
1/18-1/26
1/28-1/34
17/00-17/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転子導体を有する回転子であって、
前記回転子導体は、
前記回転子導体の周方向の幅が前記回転子導体の内周側に向かって小さくなる第1の部位と、
前記第1の部位の内周側と連なって前記回転子導体の周方向の幅が前記回転子導体の内周側に向かって大きくなる第2の部位とを有し、
前記回転子導体の外周側の端から前記回転子導体の内周側の端までの距離をh0、
前記回転子導体の外周側の端から前記第1の部位の外周側の端までの距離をh1、
前記回転子導体の外周側の端から前記第2の部位の内周側の端までの距離をh2とし、
前記回転子導体は
h1/h0<N<h2/h0(Nは0.38以上0.45以下の定数)の関係を満たす回転子。
【請求項2】
請求項1に記載の回転子において、
前記回転子導体は、
前記第1の部位の内周側の端と前記第2の部位の外周側の端との間に、
周方向の幅が一定となる区間を有する回転子。
【請求項3】
請求項1に記載の回転子において、
前記回転子導体は、
前記第1の部位の外周側の端および前記第2の部位の内周側の端において、
周方向の幅が階段状に変化した回転子。
【請求項4】
請求項1に記載の回転子において、
前記回転子導体は、
前記第1の部位よりも外周側に前記回転子導体の周方向の幅が前記第1の部位の外周側の端よりも小さい第3の部位と、
前記第3の部位の内周側に連なって前記回転子導体の周方向の幅が前記回転子導体の内周側に向かって大きくなる第7の部位とを有する回転子。
【請求項5】
請求項1に記載の回転子において、
前記回転子導体は、
前記第1の部位よりも外周側に前記回転子導体の周方向の幅が外周側に向かって徐々に小さくなる第5の部位を有し、
前記第5の部位の外周側の端における周方向の幅は、
前記第1の部位の外周側の端における周方向の幅より小さくした回転子。
【請求項6】
請求項1に記載の回転子において、
前記回転子導体は、
前記第1の部位よりも外周側に前記回転子導体の周方向の幅が外周側に向かって徐々に大きくなる第6の部位を有し、
前記第6の部位の外周側の端における周方向の幅は、前記第1の部位の外周側の端における周方向の幅よりも大きくした回転子。
【請求項7】
請求項1に記載の回転子において、
単位をΩ・mとする前記回転子導体の抵抗率をρ、単位をHzとする電源周波数をfとした場合に、
前記h0は、
h0<1200(ρ/f)0.5の関係を満たす回転子。
【請求項8】
請求項1に記載の回転子において、
回転子鉄心を有し、
前記回転子導体は、
前記回転子鉄心に形成される回転子スロットに配置され、
前記回転子鉄心の内周側にシャフトを有する回転子。
【請求項9】
請求項1に記載の回転子を有するかご形誘導電動機。
【請求項10】
請求項に記載のかご形誘導電動機と、電源と、負荷設備とを有するドライブシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転子に関する。
【背景技術】
【0002】
かご形誘導電動機は、商用電源を直に投入して始動できるが、始動中のトルクは一定値ではなく、ある回転速度で落ち込みが発生し、加速の停滞を引き起こす場合がある。かご形誘導電動機の始動中のトルク特性が改善される回転子構造が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1に記載されるかご形誘導電動機の回転子は、回転子に、外周側より順次抵抗値の高い材質から成る複数の回転子導体と、回転子導体が配置される収容孔(回転子スロット)と、収容孔(回転子スロット)を連結するスリットが設けられている。
【0004】
特許文献2に記載されているかご形誘導電動機の回転子は、第1のスロットと、第1のスロットよりも回転子鉄心の外周面の側に位置して第1のスロットと繋がれた第2のスロットを有し、電流の駆動周波数成分の表皮深さよりも、第1のスロットは外周面の側とは逆側に、第2のスロットは外周面の側に配置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平6-205570号公報
【文献】WO2019/244238号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1のかご形誘導電動機の回転子は、始動中に生じるトルクの落ち込みが抑制されるが、スリットの径方向高さと周方向幅を、回転子導体の材質や形状、電源の周波数に応じて、適切に調整する必要がある。
【0007】
特許文献2のかご形誘導電動機の回転子は、始動トルクを増大しつつ、駆動効率を向上させられるが、第1のスロットと第2のスロットの配置する位置を、回転子導体の材質や、駆動周波数(電源周波数)に応じて、適切に調整する必要がある。
【0008】
本発明の目的は、回転子導体の寸法を、材質や形状並びに電源周波数に応じて調整することなく、回転子導体の寸法比を一定値としたまま、始動中に生じるトルクの落ち込みを抑制できる、回転子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の好ましい一例としては、回転子導体を有する回転子であって、
前記回転子導体は、
前記回転子導体の周方向の幅が前記回転子導体の内周側に向かって小さくなる第1の部位と、
前記第1の部位の内周側と連なって前記回転子導体の周方向の幅が前記回転子導体の内周側に向かって大きくなる第2 の部位とを有し、
前記回転子導体の外周側の端から前記回転子導体の内周側の端までの距離をh0、
前記回転子導体の外周側の端から前記第1の部位の外周側の端までの距離をh1、
前記回転子導体の外周側の端から前記第2の部位の内周側の端までの距離をh2とし、
前記回転子導体は
h1/h0<N<h2/h0(Nは0.38以上0.45以下の定数)の関係を満たす回転子である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、回転子導体の寸法を、材質や形状並びに電源周波数に応じて調整することなく、回転子導体の寸法比を一定値としたまま、始動中に生じるトルクの落ち込みを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例1としての、かご形誘導電動機とその一部拡大図である。
図2】かご形誘導電動機の等価回路を示す図である。
図3】表皮効果の影響を表す係数を示す図である。
図4】トルクの落ち込みが生じる回転速度(ξ)を示す図である。
図5】起動トルクの計算機実験結果である。
図6】かご形誘導電動機のドライブシステムである。
図7】実施例4としての、かご形誘導電動機の回転子の1スロット分を示す図である。
図8】実施例5としての、かご形誘導電動機の回転子の1スロット分を示す図である。
図9】実施例6としての、かご形誘導電動機の回転子の1スロット分を示す図である。
図10】実施例7としての、かご形誘導電動機の回転子の1スロット分を示す図である。
図11】実施例8としての、かご形誘導電動機の回転子の1スロット分を示す図である。
図12】実施例9としての、かご形誘導電動機の回転子の1スロット分を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、実施例について図面を参照しながら説明する。
【実施例1】
【0013】
かご形誘導電動機の回転子の一例である二重かご形回転子を用いて実施例1を説明する。図1の左側は、かご形誘導電動機の主要部を示す図であり、図1の右側は回転子の1スロット分の拡大図である。実施例1のかご形誘導電動機は、固定子1と回転子5とがギャップ10を隔てて径方向Rに対向する回転電機である。
【0014】
固定子1は、固定子鉄心2と、固定子鉄心2に形成される固定子スロット3に巻装された固定子巻線4を備える。
【0015】
回転子5は、回転子鉄心6と、回転子鉄心6に形成される回転子スロット7に配置される回転子導体8と、回転子鉄心6の内周側に配置されたシャフト9を備える。
【0016】
図1の右側に示すように、径方向Rに延びた回転子導体8は、回転子導体8の周方向Xの幅が回転子導体8の内周側に向かって小さくなる第1の部位81と、第1の部位81の内周側と連なって回転子導体8の周方向の幅が回転子導体8の内周側に向かって大きくなる第2の部位82とを備える。内周側とは、図1の右側の図において、下方の側である。
【0017】
第1の部位81と第2の部位82を含む回転子導体8は、回転子導体8の外周側の端から回転子導体8の内周側の端までの距離をh0、回転子導体8の外周側の端から第1の部位81の外周側の端までの距離をh1、回転子導体8の外周側の端から第2の部位82の内周側の端までの距離をh2とした場合に、h1/h0<N<h2/h0(Nは定数)の関係を満たす。ここで、定数Nは、起動中にトルクの落ち込みが生じる回転速度において回転子導体8に浸透する渦電流の深さに基づいて算出される。また、外周側とは、図1の右側の図において、上方の側である。
【0018】
回転子導体8は、回転子スロット7にダイカスト製法によって例えばアルミを圧入して成形される。したがって、回転子導体8は、回転子スロット7の中でアルミ以外の部位(例えばスリット)により分断されることなく一体の構造となる。ただし、ダイカストで生まれる気泡は、回転子導体8に発生することもある。
【0019】
実施例1では、二重かご形回転子に、第1の部位81と第2の部位82を設けている。すなわち、回転子導体8は、第1の部位81よりも外周側に回転子導体8の周方向の幅が第1の部位81の外周側の端よりも小さい第3の部位83を備え、第3の部位83の外周側と連なって回転子導体8の周方向の幅が回転子導体8の外周側に向かって大きくなる第4の部位84を備えている。
【0020】
図2は、かご形誘導電動機の等価回路を示す図である。かご形誘導電動機の等価回路を用いて、トルクと等価回路定数の関係式を導出する。
【0021】
Vは相電圧(V)、I2’は二次電流(A)、r1は一次抵抗(Ω)、r2’は二次抵抗(Ω)、xMは励磁リアクタンス(Ω)、rMは鉄損抵抗(Ω)、x1は一次漏れリアクタンス(Ω)、x2’は二次漏れリアクタンス(Ω)、sはすべり(p.u.)である。
【0022】
二次入力P2(W)は、次の(式1)で表される。
P2 = 3 × I2'2 × r2'/ s (式1)
【0023】
二次銅損W2(W)は次の(式2)で表される。
W2 = 3 × I2'2 × r2' (式2)
【0024】
出力Pout(W)は、二次入力から二次銅損を差し引いた値であり、次の(式3)で表される。
Pout = P2 - W2
= 3 × I2'2 × r2'/ s - 3 × I2'2 × r2'
= 3 × I2'2 × r2' (1 / s - 1)
= 3 × I2'2 × r2' (1 - s) / s (式3)
【0025】
トルクT(N・m)は、出力を回転子の角回転速度ω(rad/sec)で割った商であり、次の(式4)で表される。
T = Pout / ω
= Pout / (2πN / 60)
= Pout / (2πNs (1 - s) / 60)
= (3 × I2'2 × r2' (1 - s) / s) / (2πNs (1 - s) / 60)
= (3 × I2'2 × r2' / s) / (2πNs / 60)
= (90 × I2'2 × r2' / s) / (πNs)
∝ I2'2 × (r2' / s) (式4)
ここに、N: 回転速度 (r/min)、Ns: 同期速度 (r/min)
トルクの落ち込みを改善させたいすべりsの範囲では、I2’はx1+x2’に概ね反比例する。したがって、トルクTの比例関係は、次の(式5)で表される。
T ∝ (r2' / s) / (x1 + x2')2 (式5)
【0026】
図3は、表皮効果の影響を表す係数を示す図である。図3の縦軸は、表皮効果の影響を表す係数である後述する(式8)のφ1と(式9)のφ2を図示したものであり、単位は(p.u.)である。図3の横軸はξ(等価的な回転子導体高さの逆数比 )で単位は(p.u.)である。
【0027】
トルクの落ち込みを改善させたいすべりsの範囲では、回転子導体8に浸透する渦電流の深さは、表皮効果によって回転子導体8のh0よりも浅くなる。表皮効果の影響を考慮すると、二次抵抗r2’と漏れリアクタンスxは、次の(式6)と(式7)で表される。
【0028】
r2' = φ1 × r2'dc (式6)
x = x1 + x2’
= φ2 × xdc × K2 + xdc × (1 - K2)
= ((φ2 - 1) K2 + 1) × xdc (式7)
φ1 = ξ(sinh(2ξ) + sin(2ξ)) / (cosh(2ξ) - cos(2ξ)) (式8)
φ2 = 3(sinh(2ξ) - sin(2ξ)) / (cosh(2ξ) - cos(2ξ)) / (2ξ) (式9)
ξ = α × h0 (式10)
α = 2π(10-7 × sf/ρ)0.5 (式11)
ここに、
φ1、φ2: 表皮効果の影響を表す係数 (p.u.)
r2'dc: すべり0の二次抵抗 (Ω)
xdc: すべり0の漏れリアクタンス (Ω)
K2: 漏れリアクタンス全体に占める二次スロット漏れの比 (p.u.)
ξ: 等価的な回転子導体高さの逆数比 (p.u.)
α: 表皮深さを表す数 (1/m)
h0: 回転子導体高さ (m)
s: すべり (p.u.)
f: 電源周波数 (Hz)
ρ: 回転子導体の抵抗率 (Ω・m)
【0029】
図3の横軸ξは、表皮効果を考慮したときに電磁気的に等価になる回転子導体高さの逆数比である。(式11)のように、回転速度が高い(すべりsが小さい)とαが小さく、(式10)のように、αが小さいとξは小さい。同様に、回転速度が低いとξは大きい。
【0030】
すなわち、等価的な回転子導体高さは、回転速度の減少に伴い小さくなり、回転速度の増加に伴い大きくなる。回転速度が同期速度に等しい(すべりが0)ときに、(式11)のようにαは0で、(式10)のようにαが0であればξは0となる。ξが0のときは、表皮効果の影響を表す係数φ1とφ2は1であり、表皮効果の影響がない状態を表す。
【0031】
図3は、回転子導体の抵抗率ρが、回転子導体8の中で均一な場合を表しており、例えば、特許文献1に記載されるかご形誘導電動機の回転子のように、回転子に、外周側より順次抵抗値の高い材質から成る複数の回転子導体が設けられている場合や、回転子スロットを連結するスリットが設けられている場合は、当てはまらない。
【0032】
回転子導体8は、全て同じ材質(アルミ)で構成され、回転子スロット7の中でアルミ以外の部位(例えばスリット)により分断されることなく一体の構造であり、回転子導体の抵抗率ρが、回転子導体8の中で均一となる。
【0033】
図4は、トルクの落ち込みが生じる回転速度(ξ)を示す図である。トルクTがξの累乗に比例するとしたときの累乗数n(ξ)(縦軸)と、ξ(横軸)の関係である。トルクの落ち込みが生じる回転速度でのξを導出していく。
【0034】
(式5)に(式6)と(式7)を代入すると、トルクTの比例関係は、次の(式12)で表される。
T ∝ (r2' / s) / (x1 + x2')2
∝ (φ1 / ξ2) / ((φ2 - 1) K2 + 1)2 (式12)
(式12)のトルクTがξの累乗に比例するとしたとき、トルクTの比例関係は、次の(式13)で表される。
T ∝ ξn(ξ) (式13)
(式13)のn(ξ)が正の数のとき、回転速度の増加(ξの減少)に従いトルクTは減少し、n(ξ)が負の数のとき、回転速度の増加(ξの減少)に従いトルクTは増加する。したがって、(式13)のn(ξ)が正の数になる範囲が存在すると、トルクに落ち込みが生じることになる。
【0035】
図4のように、漏れリアクタンス全体に占める二次スロット漏れの比K2が大きくなると、n(ξ)が正になることがある。すなわち、漏れリアクタンス全体に占める二次スロット漏れの比K2が大きくなると、トルクに落ち込みが生じやすくなる。
【0036】
図4では、K2が0.5以上になると、n(ξ)が正になることがある。すなわち、K2が0.5以上になると、トルクに落ち込みが生じる。K2が0.5のとき、n(ξ)が最大となるのは、ξが2.2のときである。K2は最大でも1であり、K2が1のとき、n(ξ)が最大となるのは、ξが2.6のときである。
【0037】
このように、K2が0.5~1.0であり、ξが2.2~2.6のとき、n(ξ)が大きい(トルクの減少が大きい)。すなわち、ξが2.2~2.6となる回転速度でのトルクを優先して増加させられれば、トルクの落ち込みを効果的に改善できる。
回転子導体高さh0を1.0としたとき、表皮深さδは、次の(式14)で表される。
δ = 1/(αh0) = 1/ξ (式14)
K2が0.5~1.0であり、ξが2.2~2.6のとき、トルクの減少が大きくなり、ξが2.2のときの表皮深さは、(式14)にξが2.2を代入すると0.45であり、同様にξが2.6のときは0.38であり、ξが平均の2.4のときは0.42となる。
【0038】
起動中にトルクの落ち込みが生じる回転速度において、回転子導体に浸透する渦電流の深さに基づいて算出される定数N(表皮深さδ)は、0.38以上0.45以下の範囲となる。その範囲の典型例として定数N(表皮深さδ)が、0.42の場合について説明する。
【0039】
以上より、本実施例は、表皮深さδが0.42となる回転速度でのトルクを優先して増加させるために、回転子導体8の外周側の端から回転子導体8の内周側の端までの距離h0に対して0.42倍の位置にくびれを設けて、r2’を効果的に大きくしてトルクの落ち込みを改善させる。
【0040】
本実施例は、h0に対して0.42倍の位置にくびれを設けることで、トルクの落ち込みを改善させることができ、この寸法比は、回転子導体の材質や形状並びに電源周波数を変更した場合においても、調整することなく一定値としたままで良い。
【0041】
一方、一般には、始動中のトルク特性を改善させるためには、例えば特許文献1のように、スリットの径方向高さと周方向幅を、回転子導体の材質や形状、電源の周波数に応じて、適切に調整する必要があることや、特許文献2のように、第1のスロットと第2のスロットの配置する位置を、回転子導体の材質や、駆動周波数(電源周波数)に応じて、適切に調整する必要がある。特許文献1および特許文献2からは、回転子導体の材質や形状並びに電源周波数を変更した場合においても、回転子導体の寸法比を調整することなく一定値としたまま、始動中のトルク特性を改善できるという本実施例の発想はない。
【0042】
図5は、起動トルクの計算機実験結果である。図1の本実施例1のときと、h1/h0とh2/h0のどちらも0.42よりも小さいとき(くびれ位置が外周側に浅い場合)と、h1/h0とh2/h0のどちらも0.42よりも大きいとき(くびれ位置が内周側に深い場合)と、くびれを設けていないときを示している。対象機は4極で、回転子導体8はアルミを想定しており抵抗率ρは3.65×10-8Ω・mで、回転子導体高さh0は51mm、電源周波数fは50Hzである。トルクは定格を100%としている。
【0043】
本実施例は、トルクの落ち込みが改善されており、くびれ位置が外周側に浅い場合よりも高回転速度側でトルクが大きく、くびれ位置が内周側に深い場合よりも低回転速度側でトルクが大きくなっている。それによって、本実施例は、くびれの位置が外周側に浅い場合と、くびれの位置が内周側に深い場合のどちらに対しても、トルクの最小値が大きくなっている。
【実施例2】
【0044】
実施例2について説明する。実施例1と共通する点は説明を省略する。かご形誘導電動機の多くは、回転速度が0から同期速度までの範囲で使われる。すべりsは、回転速度が0のとき1で、回転速度が同期速度と等しいときは0である。
【0045】
したがって、トルクの落ち込みが生じるすべりsを1よりも大きくすることでも、トルクの落ち込みを抑制することができ、以下の様に、導出できる。
(式10)より、αは次の(式15)で表される。
α = ξ / h0 (式15)
(式11)より、すべりsは次の(式16)で表される。
s = ρα2 / (4π2×10-7×f) (式16)
(式16)に(式15)を代入すると、次の(式17)で表される。
s = ρξ2 / (4π2×10-7×f×h02) (式17)
すべりが1よりも大きいとき、(式17)は次の(式18)で表される。
1 < ρξ2 / (4π2×10-7×f×h02) (式18)
(式18)からh0を導出すると、次の(式19)で表される。
h0 < ρ0.5×ξ/ (2π×10-3.5×f0.5) (式19)
トルクの落ち込みが生じるξは2.2~2.6であり、その平均値となる2.4を(式19)に代入すると、次の(式20)で表される。
h0 < 1200(ρ/f)0.5 (式20)
【0046】
したがって、(式20)によって、単位をΩ・mとする回転子導体8の抵抗率ρと、単位をHzとする電源周波数fに応じて、回転子導体高さh0を調整することで、トルクの落ち込みが生じるすべりsを1よりも大きくすることができる。その結果、トルクの落ち込みを抑制することができる。
【実施例3】
【0047】
図6は、実施例3としての、かご形誘導電動機のドライブシステムを示す図である。上記の実施例と共通する点は説明を省略する。
【0048】
電源101から商用電圧・商用周波数をかご形誘導電動機100に直に投入して始動される。かご形誘導電動機100は、負荷設備102に機械的に接続されている。
【0049】
かご形誘導電動機は、商用電源を直に投入して始動できるが、始動中の電流は、定格電流の6倍から10倍程度もの大きさにもなり、電源設備の容量は、始動時の電流と、始動時間で決まる。本発明によるかご形誘導電動機を用いることで、トルクの落ち込みが抑制され、始動時間が短くなり、電源設備の容量を削減できる。
【実施例4】
【0050】
図7は、実施例4としての、かご形誘導電動機の回転子の1スロット分を示す図である。上記の実施例と共通する点は説明を省略する。
【0051】
回転子導体8の第1の部位81と第2の部位82の位置は、第1の部位81と第2の部位82の境界位置(第1の部位81と第2の部位82の周方向幅が最小となる位置)が、回転子導体高さh0の0.42倍になることは必ずしも必要はない。例えば、図7(a)のように、第2の部位82に0.42倍となる位置があっても、図7(b)のように、第1の部位81に0.42倍となる位置があっても良い。
【0052】
また、図7(a)と図7(b)の回転子導体8を、周方向に交互に配置しても良い。交互に配置することで、より広い回転速度の範囲で、トルクの落ち込みを抑制する効果が得られる。
【実施例5】
【0053】
図8は、実施例5としての、かご形誘導電動機の回転子の1スロット分を示す図である。上記の実施例と共通する点は説明を省略する。
【0054】
回転子導体8は、第1の部位81の内周側の端と第2の部位82の外周側の端との間に、周方向の幅が一定となる区間を有する。周方向の幅の小さい区間が大きくなるため、トルクの落ち込みを抑制する効果が高まる。
【実施例6】
【0055】
図9は、実施例6としての、かご形誘導電動機の回転子の1スロット分を示す図である。上記の実施例と共通する点は説明を省略する。
【0056】
第1の部位81の外周側の端と第2の部位82の内周側の端において、周方向の幅が階段状に変化した回転子導体8となっている。徐々に変化させるよりも、周方向の幅の小さい区間が大きくなるため、トルクの落ち込みを抑制する効果が高まる。
【実施例7】
【0057】
図10は、実施例7としての、かご形誘導電動機の回転子の1スロット分を示す図である。上記の実施例と共通する点は説明を省略する。
【0058】
かご形誘導電動機の回転子の一例である凸形回転子を用いて実施例7を説明する。実施例7では、凸形回転子に、第1の部位81と第2の部位82を設けている。すなわち、回転子導体8は、第1の部位81よりも外周側に回転子導体8の周方向の幅が第1の部位81の外周側の端よりも小さい第3の部位83を備えている。
【0059】
また、第3の部位の内周側に連なって回転子導体8の周方向の幅が回転子導体の内周側に向かって大きくなる第7の部位87を備えている。
【0060】
回転子導体8の周方向幅を小さくすると、すべりが大きいときの電流が低減される。回転子導体8の周方向幅を小さくする位置が、回転子導体8の外周側ほど、その効果が大きいため、二重かご形回転子よりも、凸形回転子に第1の部位81と第2の部位82を設けることで、すべりが大きいときの電流が低減される。
【実施例8】
【0061】
図11は、実施例8としての、かご形誘導電動機の回転子の1スロット分を示す図である。上記の実施例と共通する点は説明を省略する。
【0062】
かご形誘導電動機の回転子の一例である菱形回転子を用いて実施例8を説明する。実施例8では、菱形回転子に、第1の部位81と第2の部位82を設けている。すなわち、回転子導体8は、第1の部位81よりも外周側に回転子導体8の周方向の幅が外周側に向かって徐々に小さくなる第5の部位85を備える。第5の部位85の外周側の端における周方向の幅は、第1の部位81の外周側の端における周方向の幅よりも小さくしている。
【0063】
回転子導体8の周方向幅を小さくすると、すべりが大きいときの電流が低減される。回転子導体8の周方向幅を小さくする位置が、回転子導体8の外周側ほど、その効果が大きいため、二重かご形回転子よりも、菱形回転子に第1の部位81と第2の部位82を設けることで、すべりが大きいときの電流が低減される。
【実施例9】
【0064】
図12は、実施例9としての、かご形誘導電動機の回転子の1スロット分を示す図である。上記の実施例と共通する点は説明を省略する。
【0065】
かご形誘導電動機の回転子の一例である茄子形回転子を用いて実施例9を説明する。実施例9では、茄子形回転子に、第1の部位81と第2の部位82を設けている。すなわち、回転子導体8は、第1の部位81よりも外周側に回転子導体8の周方向の幅が外周側に向かって徐々に大きくなる第6の部位86を備える。
【0066】
第6の部位86の外周側の端における周方向の幅は、第1の部位81の外周側の端における周方向の幅よりも大きくしている。
【0067】
回転子導体8の周方向の幅を小さくすると、すべりの小さい定常運転時の力率が低下する。回転子導体8の周方向幅の小さい区間が、二重かご形回転子や凸形回転子並びに菱形回転子よりも少ない茄子形回転子に、第1の部位81と第2の部位82を設けることで、すべりが小さいときの力率が向上する。
【0068】
以上、実施例について説明したが、上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加、削除、置換をすることも可能である。
【符号の説明】
【0069】
1…固定子、2…固定子鉄心、3…固定子スロット、4…固定子巻線、5…回転子、6…回転子鉄心、7…回転子スロット、8…回転子導体、9…シャフト、10…ギャップ、100…かご形誘導電動機、101…電源、102…負荷設備
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