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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-12
(45)【発行日】2024-01-22
(54)【発明の名称】異常予測装置及び異常予測方法
(51)【国際特許分類】
   G05B 23/02 20060101AFI20240115BHJP
【FI】
G05B23/02 R
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020163296
(22)【出願日】2020-09-29
(65)【公開番号】P2022055715
(43)【公開日】2022-04-08
【審査請求日】2023-02-22
(73)【特許権者】
【識別番号】301078191
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテクソリューションズ
(74)【代理人】
【識別番号】110001689
【氏名又は名称】青稜弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】小山 晃広
【審査官】松本 泰典
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-92355(JP,A)
【文献】特開2020-57289(JP,A)
【文献】特開2019-45905(JP,A)
【文献】特開2016-7169(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録部、学習部推論部および判定部を有する異常予測装置であって、
前記記録部は予め定められた時間毎にプラントから得られる製品の連続した生産プロセスに関する縦方向に時間、横方向にデータ変数が格納された学習用データセットもしくは推論用データセットを記録し、
前記学習部は、
前記記録部が記録した前記学習用データセットに対し、所定の時間幅でシフトさせながら切り出した学習用のフレームデータを作成する第1のフレームデータ抽出部と、
前記学習用のフレームデータからデータ変数の時系列的変化を学習した時間軸学習モデルを作成する第1の回帰計算部と、
前記学習用のフレームデータの縦方向と横方向を入れ替える第1の転置処理部と、
前記第1の転置処理部で転置した前記学習用のフレームデータからデータ変数間の前記生産プロセスにかかる特徴量を学習した変数軸学習モデルを作成する第2の回帰計算部とを有し、
前記推論部は、
前記記録部が記録した前記推論用データセットに対し、所定の時間幅でシフトさせながら切り出した推論用のフレームデータを作成する第2のフレームデータ抽出部と、
前記推論用のフレームデータと前記学習部から入力された前記時間軸学習モデルを用いて前記製品に関するデータ変数の第1の予測値を求める第1の演算部と、
前記推論用のフレームデータに対して、縦方向と横方向を入れ替える第2の転置処理部と、
前記入れ替えをした前記推論用のフレームデータと、
前記学習部から入力された変数軸学習モデルを用いて前記製品に関するデータ変数の第2の予測値を求める第2の演算部と、
前記製品に関する第1の予測値と第2の予測値の少なくともいずれかが異常であるかどうかを判定する判定部を備える異常予測装置。
【請求項2】
請求項1に記載の異常予測装置において、前記学習部は、第1の回帰計算部の前記時間軸学習モデルと前記第2の回帰計算部の前記変数軸学習モデルの回帰計算結果を入力とした第3の回帰計算部を有し、前記第3の回帰計算部は、前記時間軸学習モデルの回帰計算結果と、前記変数軸学習モデルの回帰計算結果のそれぞれの回帰計算に対する重みを計算した1つの融合モデルデータを取得するとともに
前記推論部は、前記学習部から入力された融合モデルデータから得られる前記製品に関する予測値を出力する異常予測装置。
【請求項3】
記録部、学習部、推論部および判定部を有する異常予測方法であって、
前記記録部は予め定められた時間毎にプラントから得られる製品の連続した生産プロセスに関する縦方向に時間、横方向にデータ変数が格納された学習用データセットもしくは推論用データセットを記録し、
前記学習部の第1のフレームデータ抽出部が前記記録部が記録した前記学習用データセットに対し、所定の時間幅でシフトさせながら切り出した学習用のフレームデータを作成し、
第1の回帰計算部が前記学習用のフレームデータからデータ変数の時系列的変化を学習した時間軸学習モデルを作成し、
第1の転置処理部が前記学習用のフレームデータの縦方向と横方向を入れ替え、
第2の回帰計算部が前記第1の転置処理部で転置した前記学習用のフレームデータからデータ変数間の前記生産プロセスにかかる特徴量を学習した変数軸学習モデルを作成し、
前記推論部の第2のフレームデータ抽出部が前記記録部が記録した前記推論用データセットに対し、所定の時間幅でシフトさせながら切り出した推論用のフレームデータを作成し、
第1の演算部が前記推論用のフレームデータと前記学習部から入力された前記時間軸学習モデルを用いて前記製品に関するデータ変数の第1の予測値を求め、
第2の転置処理部が前記推論用のフレームデータに対して、縦方向と横方向を入れ替え、
第2の演算部が転置処理をした前記推論用のフレームデータと、前記学習部から入力された変数軸学習モデルを用いて前記製品に関するデータ変数の第2の予測値を求め、
前記製品に関する第1の予測値と第2の予測値の少なくともいずれかが異常であるかどうかを判定し、異常があったときアラートを出力する異常予測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異常予測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、工場やプラントの原単位や品質など連続的に変動する運転指標の低下を予測し、オペレーションを支援する技術として、とくに、特定のセンサデータの閾値や分類処理などで運転指標の変動を評価することが困難である場合に、プロセスデータの過去の挙動に基づいて運転指標の変動を回帰的に予測し、異常を検知する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-45905号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
多変量時系列データとして表現されるプロセスデータから、一定時間ごとに2次元データを切り出し、演算を行うことで、目的変数の将来予測値を算出し、その値をもとに異常の発生を判断する場合がある。
【0005】
特許文献1では、時間軸方向の系列特徴を抽出するために、任意の時間幅(期間)を切り出し、特徴点を畳み込みなどの手法を用いて学習させ目的変数を予測させる。一方でデータによっては学習に利用可能な十分な期間、粒度のデータが用意できず、切り出す時間幅を長く設定できない場合がある。
【0006】
切り出す時間幅を長く設定できない場合に、特許文献1では、時間幅を超えた長期に渡る周期性や規則性成分を抽出できない。
【0007】
すなわち、不定期なデータ欠損により十分な連続時系列データが得られず時間幅を短く設定せざるを得ない場合には、特許文献1では時間幅を超えた長期に渡る系列特徴を抽出できないため、良好な学習精度が得られない場合がある。
【0008】
本発明の目的は、時間幅が十分にとれない場合においても、効果的に運転指標の予測を行うことができる異常予測装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の好ましい一例としては、記録部学習部、推論部および判定部を有する異常予測装置であって、前記記録部は予め定められた時間毎にプラントから得られる製品の連続した生産プロセスに関する縦方向に時間、横方向にデータ変数が格納された学習用データセットもしくは推論用データセットを記録し、前記学習部は、前記記録部が記録した前記学習用データセットに対し、所定の時間幅でシフトさせながら切り出した学習用のフレームデータを作成する第1のフレームデータ抽出部と、前記学習用のフレームデータからデータ変数の時系列的変化を学習した時間軸学習モデルを作成する第1の回帰計算部と、前記学習用のフレームデータの縦方向と横方向を入れ替える第1の転置処理部と、前記第1の転置処理部で転置した前記学習用のフレームデータからデータ変数間の前記生産プロセスにかかる特徴量を学習した変数軸学習モデルを作成する第2の回帰計算部とを有し、前記推論部は、前記記録部が記録した前記推論用データセットに対し、所定の時間幅でシフトさせながら切り出した推論用のフレームデータを作成する第2のフレームデータ抽出部と、前記推論用のフレームデータと前記学習部から入力された前記時間軸学習モデルを用いて前記製品に関するデータ変数の第1の予測値を求める第1の演算部と、前記推論用のフレームデータに対して、縦方向と横方向を入れ替える第2の転置処理部と、前記入れ替えをした前記推論用のフレームデータと、前記学習部から入力された変数軸学習モデルを用いて前記製品に関するデータ変数の第2の予測値を求める第2の演算部と、前記製品に関する第1の予測値と第2の予測値の少なくともいずれかが異常であるかどうかを判定する判定部を備える異常予測装置である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、時間幅が十分にとれない場合においても、効果的に運転指標の予測を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例1の全体構成を示すブロック図である。
図2】実施例2の全体構成を示すブロック図である。
図3】実施例3の全体構成を示すブロック図である。
図4】実施例4の全体構成を示すブロック図である。
図5】実施例5の全体構成を示すブロック図である。
図6】実施例1におけるフレームデータの抽出範囲を示した概略図である。
図7】実施例1における回帰計算部の処理内容を示した概略図である。
図8】実施例1における演算部の処理内容を示した概略図である。
図9】実施例3における回帰計算部の処理内容を示した概略図である。
図10】実施例3における演算部の処理内容を示した概略図である。
図11】実施例4における推論部の再帰演算処理を示した概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下図面に基づいて、本発明の実施例を詳述する。
【実施例1】
【0013】
まず、図1を用いて、異常予測装置100の構成を説明する。図1は、実施例1の異常予測装置100の構成例を示したブロック図である。異常予測装置100は、監視対象である工場やプラントなどに設置されるセンサ等で定期的に収集されるプロセスデータや、運転履歴、生産管理データ、品質管理データなど生産量などの運転指標データで構成される学習用データセット104および推論用データセット109から、フレームデータを抽出し、回帰計算と推論演算を実施する。
【0014】
図1に示すように、この異常予測装置100は、記録部101、学習部102、推論部103を有する。ここで、記録部101は、データを記録する機能を有し、一般的なコンピュータの補助記憶装置やメモリである。学習部102、推論部103は、データ処理部である。記録部101にはプログラム(ソフトウェア)の形で格納(記録)され、図示を省略したCPU(Central Processing Unit)などのデータ処理部であるプロセッサが、記録部101から読み出したプログラムをメモリに展開して、データ処理を実行する。異常予測装置100における学習部102や推論部103を構成する各処理部は、プロセッサがプログラムを読み出すことで実行される。異常予測装置100は、計算機(コンピュータまたはサーバ)でもある。CPU、補助記憶装置、およびメモリは、例えば回路で構成されている。
【0015】
以下に異常予測装置100が有する各部の処理を詳述する。記録部101には、工場やプラントなどに設置されるセンサから定期的に収集されるデータや、運転履歴、生産管理データ、品質管理データなどで構成される多変量時系列データで構成された学習用データセット104および推論用データセット109を記録する。学習部102、推論部103は、記録部101に記録されたデータを取得するか、学習部102、推論部103が作成したデータを、記録部101に記録させる。
【0016】
フレームデータ抽出部112は、任意の設定値として、時間幅の大きさや目的変数を指定するフレームデータ設定値105を取得する。回帰計算部114と回帰計算部115は、回帰計算のモデルや計算数などを指定する回帰計算設定値106を取得する。
【0017】
学習部102は、回帰計算実施後に時間軸学習モデルデータ107および変数軸学習モデルデータ108を記録部101に記録する。
【0018】
また、推論部103の演算実施後に出力される、時間軸学習モデルデータによる推論演算結果と変数軸学習モデルデータによる推論演算結果、およびこれら推論演算結果を平均化などの処理によって1つの値に融合した結果の3つの指標を含む演算結果110を、推論部103は記録部101に記録する。
【0019】
学習部102は、記録部101から取得した学習用データセット104を、1つの多変量時系列データに成形する前処理部111、フレームデータ設定値105に従い、所定の時間幅で決定される2次元の要因データと任意の変数の要因データから次時点の値で決定される目的データで構成されたデータを抽出するフレームデータ抽出部112、フレームデータの時間軸と変数軸を入れ替える転置処理部113、時間軸方向の学習を実施する回帰計算部114、変数軸方向の学習を実施する回帰計算部115、回帰計算結果をもとにして、計算の継続かもしくは推論部へ学習モデルを送信するかを選択する判定部116および判定部117を有する。転置処理部113の有無で、回帰計算部114と判定部116の処理と、回帰計算部115と判定部117の処理の2つの処理に、学習部102において処理が分岐されている。
【0020】
前処理部111では、プラント停止期間などの外れ値が含まれる期間を除外するクレンジング処理、変数ごとの規格化、相互相関分析や主成分分析などを通じた変数列並び替えもしくは必要変数の選別、平均化や線形補間などの手法によるダウン・アップサンプリングによる時間や粒度の統一を実施し、1つの多変量時系列データを成形する。
【0021】
フレームデータ抽出部112では、多変量時系列データから回帰計算で用いるフレームデータの抽出を実施する。図6はフレームデータの抽出範囲の概要を示したものである。X1,X2,X3はデータ変数を、T-5,T-4,T-3,T-2,T-1,Tは連続する時間を表している。データ変数は時間の変数とは異なる変数である。例えば、生産管理データ、品質管理に関する変数である。
【0022】
フレームデータ設定値105で決定される時間幅と目的変数に従って、フレームデータ抽出部112は、多変量時系列データの始点から2次元の要因データと要因データの次時点における目的変数の1次元の目的データで構成されるフレームデータを取得する。フレームデータ抽出部112は、時間軸方向に1単位時間ずつシフトさせながら、複数の学習フレームデータを取得する。
【0023】
図7は、取得したフレームデータの回帰計算処理概要を示すものである。図7内のX1,X2,X3はフレームデータ内のデータ変数を、T-5,T-4,T-3,T-2はフレームデータ内の連続する時間を表している。回帰計算部114では、図7の時間軸系列特徴学習700に示したように、フレームデータの要因データから目的データに対する回帰計算を実施し、時間軸方向の系列特徴を含む、時間軸方向の依存性を抽出した時間軸学習モデル(時間軸学習モデルデータ)を作成する。同様に、図7の変数軸系列特徴学習701に示したように、回帰計算部115ではフレームデータの要因データから目的データに対する回帰計算を実施し、変数軸方向の系列特徴を含む、変数軸方向の依存性を抽出した変動軸学習モデル(変動軸学習モデルデータ)を作成する。
【0024】
なお、学習モデルは、Recurrent Neural Network (RNN)、Long Short Term Memory (LSTM)、Gated Recurrent Unit (GRU)、Convolutional Neural Network (CNN)、CNN-LSTMなどの非線形モデルに限定されるものではなく、Auto Regressive Model(AR Model)、Moving Average Model (MA Model)、Auto Regressive Moving Average Model(ARMA Model)、Auto Regressive Integrated Moving Average Model(ARIMA Model)などの線形モデルを適用したものでもよい。
【0025】
回帰計算部114、回帰計算部115の精度が十分な値と判断された場合、もしくは回帰計算設定値で入力した計算数の上限に達した場合に、判定部116は回帰計算部114で得られる時間軸学習モデルデータ107を演算部121に送信し、判定部117は回帰計算部115で得られる変数軸学習モデルデータ108を演算部122へと送信する。
【0026】
推論部103は、記録部101から取得した推論用データセット109のクレンジング、規格化、成形処理を実施する前処理部118、学習部102で入力された時間幅に従い2次元の要因データを取得するフレームデータ抽出部119、フレームデータ内要因データの時間軸と変数軸を入れ替える転置処理部120、学習部102で得られた時間軸方向の回帰計算結果である時間軸学習モデルデータ107とフレームデータから目的変数の将来予測値を算出する演算部121、学習部102で得られた変数軸方向の回帰計算結果である変数軸学習モデルデータ108と転置したフレームデータから目的変数の将来予測値を算出する演算部122、演算部121と演算部122で得られる将来予測値とその融合結果を、異常予測に関する演算結果110として記録部に記録する判定部123を有する。目的変数の将来予測値は、異常予測装置100が予測する対象である監視対象の運転指標についての変動予測値である。
【0027】
前処理部118では、プラント停止期間などの外れ値が含まれる期間を除外するクレンジング処理を実施した上で、粒度など学習部102の前処理部111に対応する形式の多変量時系列データを成形する。フレームデータ抽出部119では、学習部102のフレームデータ抽出部112で使用した時間幅を利用し要因データを抽出する。
【0028】
演算部121では、図8の時間軸推論演算800に示すようにフレームデータを時間軸学習モデルデータ107に入力し、次時点の予測値を算出する。回帰計算部115では、図8の時間軸推論演算801に示すように転置したフレームデータを変数軸学習モデルデータ108に入力し、一定時間後の運転指標の予測値を算出する。
【0029】
演算部121で得られる時間軸系列特徴に従う運転指標の将来予測値と演算部122で得られる変数軸系列特徴に従う運転指標の将来予測値の2つの予測値と、これら2つの予測値を平均や回帰計算精度に基づく重みづけ平均など任意の判断論理に従って、判定部123は判定する。判定部123は1つの予測値に融合した演算結果110と演算部121と演算部122で得られる2つの予測値を、記録部101に記録する。ここで、任意の判断論理に従った1つの予測値に融合した演算結果110としては、時間軸系列特徴に従う運転指標の将来予測値と変数軸系列特徴に従う運転指標の将来予測値との平均以外に、学習精度が高いモデルの予測値を選択し閾値処理した演算結果も含まれる。
【0030】
実施例1の異常予測装置100は、監視対象設備から得られる複数の時系列データを取得し、所定の時間幅に含まれる多変量データから、一定時間後の運転指標などの目的変数を再現する学習モデルデータを作成し、所定の時点から未来にあたる次時点の目的変数の予測値を算出する。このため、異常予測装置100は未来に運転指標が悪化するかどうかの予測を得ることが可能であり、現状の運転状態に改善が必要かを判断することができる。
【0031】
また、実施例1によれば、学習モデルデータは、時間軸と変数軸の2方向に分けて周期性や規則性を学習させ、推定値を比較・融合し判定値を出力させることが可能である。切り出す時間幅が十分にとれない場合、データサイズの制約で十分な時間幅が取れず予測精度が低い場合においても、各時刻におけるプロセス変数軸方向の周期性や規則性の変化から原単位や品質など運転指標の長期的な変動に影響する特徴を抽出することで予測精度が向上する。
【0032】
2軸方向の学習モデルの構成は、要因変数を変数方向と時間方向のそれぞれについて、目的変数に影響の強い変数、時点を特徴として抽出できる。加えて、学習結果の精度をもとに目的変数の変動に時間軸と変数軸のどちらの系列特徴が強く反映されているかという知見を得ることができる。そのため、現状の運転状態に対し、どの工程制御値をどのタイミングで変更するべきかという指針が得られる。
【0033】
また、プロセスデータの予測値に対して、オペレータ自身の経験則に基づくプロセス挙動予測が一致しているかどうかを知ることができ、プロセス変数の値が正常かどうかを判断することができる。
【実施例2】
【0034】
上述した実施例1の異常予測装置100は、記録部101に記録するデータについて、学習用データセットから、時間軸、変数軸各方向の系列特徴を反映した、2つの新しい学習モデルデータの作成を実施する場合を説明したが、すでに過去に、学習済みの学習モデルデータをもとに、追加の学習用データセットの系列特徴から学習モデルデータを更新するような形式にしてもよい。
【0035】
そこで、以下では、図2を用いて、実施例2の異常予測装置200が、過去の学習済モデルデータと追加の学習用データセットをもとに回帰計算を行う処理を説明する。
【0036】
異常予測装置200の構成を説明する。図2は、実施例2の異常予測装置200の構成例を示したブロック図である。
【0037】
異常予測装置200は、時間軸学習過去モデルデータ224および、変数軸学習過去モデルデータ225が記録部201から学習部202の回帰計算部214および回帰計算部215にそれぞれ取得され、回帰計算部214および回帰計算部215が監視対象から取得されるフレームデータ抽出部212からの多変量時系列データでモデルを更新する点を除き、実施例1と構成は同じであり、実施例1と同様の構成や処理についての詳細な説明は省略する。
【0038】
過去の学習モデルデータに対して、工場やプラントなどに設置されるセンサや、運転履歴、生産管理データ、品質管理データなどの定期的に収集される追加データで構成された多変量時系列である学習用データセット204によりモデルの更新を行い、推論部203で推論用データセット209から将来の生産量や品質などの基準とする運転指標の変動の予測値を出力する。
【0039】
学習部202は、記録部201から取得した学習用データセット204を成形し、クレンジング処理を実施する前処理部211、フレームデータ設定値205に従って時間幅ごとの要因データと目的データの組を取得するフレームデータ抽出部212、フレームデータの時間軸と変数軸を入れ替える転置処理部213、時間軸方向の学習を実施する回帰計算部214、変数軸方向の学習を実施する回帰計算部215、回帰計算結果をもとに、計算の継続かもしくは推論部へ学習モデルを送信するかを選択する判定部216および判定部217を有する。
【0040】
なお、フレームデータ設定値205、回帰計算設定値226は時間軸学習過去モデルデータ224、変数軸学習過去モデルデータ225を作成した際のものと同一の設定値とする。
【0041】
推論部203は、記録部201から取得した推論用データセット209のクレンジング、規格化、成形処理を実施する前処理部218、推論用の時間幅ごとの要因データを取得するフレームデータ抽出部219、フレームデータの時間軸と変数軸を入れ替える転置処理部220、学習部202で得られた時間軸方向の回帰計算結果である時間軸学習モデルデータ207とフレームデータから目的変数の将来予測値を算出する演算部221、学習部202で得られた変数軸方向の回帰計算結果である変数軸学習モデルデータ208と転置したフレームデータから目的変数の将来予測値を算出する演算部222、演算部221と演算部222で得られる2つの予測値と、これら予想値を平均や回帰計算精度に基づく重みづけ平均など任意の論理に従って融合した1つの予測値を、演算結果210として記録部201に記録する判定部223を有する。
【0042】
実施例1では過去に収集したデータセットから静的な学習モデルを作成するため、プロセスの定期的な変更によりデータの特徴が変わると、予測精度が低下してしまう。新たなモデルの作り直しには、多くの過去データが必要とされ、プロセス変更直後などデータの蓄積が不十分な際には現実的ではない。
【0043】
そこで実施例2では、過去に学習したモデルを入力として利用し、追加データをもとに定期的にモデルを更新させる学習部を構成することで、プロセスの変化などに柔軟に対応したモデルを作ることが可能となり、推論部における予測精度の劣化を回避することが可能となる。
【実施例3】
【0044】
実施例1の異常予測装置100は、学習部102および推論部103について、任意の変数の次の1時点の値を目的変数として設定したが、目的変数を1時点の単変数から多変数・多時点へと拡張し、期間単位でプロセス要因変数全体を予測できるようにしてもよい。これを実現するためには、学習部、推論部において、目的データを任意の期間の要因変数全体に拡張した多出力モデルに変更する必要がある。
【0045】
図9に示すように、学習部で回帰計算に使用する目的データを要因データの連続する多時点における要因変数全体の値に設定する。図10の時間軸推論演算1000に示すようにフレームデータを時間軸学習モデルに入力し、多時点の要因変数全体の予測値を算出するとともに、図10の変数軸推論演算1001に示すようにフレームデータを変数軸学習モデルに入力し、連続する多時点の要因変数全体の予測値を算出する。
【0046】
時間軸系列特徴に従う要因変数全体の将来予測値と変数軸系列特徴に従う要因変数全体の将来予測値の2組の予測値から、平均や回帰計算精度に基づく重みづけ平均など任意の論理に従って融合した1組の予測値1002を算出する。
【0047】
以下では、図3を用いて、実施例3の異常予測装置300が、推論部303で多変量期間推論を行う処理を説明する。
【0048】
異常予測装置300の構成を説明する。図3は、実施例3の異常予測装置300の構成例を示したブロック図である。異常予測装置300では、フレームデータ抽出部312が、予測する期間や変数を表す任意の予測時間幅設定値324を、記録部301から取得する点を除き、実施例1と構成は同じであり、実施例1と同様の構成や処理についての詳細な説明は省略する。
【0049】
学習部302は、工場やプラントなどに設置されるセンサや、運転履歴、生産管理データ、品質管理データなどで構成された多変量時系列である学習用データセット304によりモデルデータの作成を行う。推論部303は、推論用データと学習モデルデータに基づき、将来の運転指標や運転状態の予測値を出力する。また、実施例2に基づき、過去の学習モデルデータを学習部302の回帰計算部314と回帰計算部315に入力として与え、更新させる形式にしてもよい。
【0050】
学習部302は、記録部301から取得した学習用データセット304にクレンジング、規格化、成形処理を実施する前処理部311、フレームデータ設定値305と予測時間幅設定値324に従って時間幅ごとの要因データ群と目的データの組を取得するフレームデータ抽出部312、フレームデータの時間軸と変数軸を入れ替える転置処理部313、予測時間幅設定値324に従ったフレームデータから時間軸方向の学習を実施する回帰計算部314、予測時間幅設定値324に従ったフレームデータから変数軸方向の学習を実施する回帰計算部315、回帰計算精度をもとに、計算の継続かもしくは推論部へ学習モデルを送信するかを選択する判定部316および判定部317を有する。
【0051】
推論部303は、記録部301から取得した推論用データセット309のクレンジング、規格化、成形処理を実施する前処理部318、推論用の時間幅ごとの要因データを取得するフレームデータ抽出部319、フレームデータの時間軸と変数軸を入れ替える転置処理部320、学習部302で得られた時間軸方向の回帰計算結果である時間軸学習モデルデータ307とフレームデータから目的変数の将来予測値を算出する演算部321、学習部302で得られた変数軸方向の回帰計算結果である変数軸学習モデルデータ308と転置したフレームデータから目的変数の将来予測値を算出する演算部322、演算部321と演算部322で得られる将来予測値を表示するために、記録部301に演算結果310として記録する判定部323を有する。
【0052】
実施例3によれば、運転状態全体の予測値が得られることで、各工程の担当オペレータがどのような制御をするべきかの指針が把握できるようになるとともに、長期的な運転指標の増減予測を把握することができる。
【実施例4】
【0053】
実施例1の異常予測装置100は、学習部102および推論部103について、任意の変数の次の一時点の値を目的変数として設定したが、図11の左の図に示すように得られた予測値に任意の工程制御設定値(仮工程状態設定値)を反映させる。そして、図11の右の図に示すように推論用データとして再帰的にモデルに入力し、推論演算を実施することで、予測値がどのように変動するかの試行探索ができるようにしてもよい。
【0054】
以下では、図4を用いて、実施例4の異常予測装置400が行う処理を説明する。図4は、実施例4の異常予測装置400の構成例を示したブロック図である。異常予測装置400には、推論部403の演算部421および演算部422が、試行のための仮工程状態設定値424を、記録部401から取得する点を除き、実施例1と構成は同じであり、実施例1と同様の構成や処理についての詳細な説明は省略する。
【0055】
工場やプラントなどに設置されるセンサや、運転履歴、生産管理データ、品質管理データなどで構成された多変量時系列である学習用データセット404によりモデルの作成を行い、推論部では推論用データに基づき、将来の運転指標や運転状態の予測値を出力する。また、実施例2に基づき、過去の学習モデルデータを学習部402の回帰計算部414と回帰計算部415に入力として与え、更新させる形式にしてもよい。また、実施例4は、実施例3に基づき、単変数一時点推論から多変量期間推論に移行してもよい。
【0056】
推論部403の判定部423において、演算部421、演算部422の結果から再帰計算への移行判定を実施する。具体的には、演算部421および演算部422における将来の予測値が、判定部423で閾値など任意の判断論理に従い悪化すると判断された場合に、推論部403は、アラートを発報する。それとともに、再帰的に演算部421、演算部422に予測値を入力として使用することで、その先の期間を繰り返し予想できるようにする。この際、再帰入力する予想値には、オペレータの仮の工程状態設定値424を反映させることができ、改善に向けたオペレーション指針を試行探索可能となる。
【0057】
実施例4によれば、予測した運転状態に対し、任意の変更を加え、その変更による予測値の変動を調べることで、運転指標と予測される運転状態に対して、どのような制御、オペレーションをするべきかの仮想試行探索が可能となる。また、予測に用いるデータに任意の工程制御設定値を反映させて予測値の変動傾向を調査することで、改善方針の検討試行ができ、経験の浅いオペレータでもプロセス挙動の本質を自ら習得していくことができる。
【実施例5】
【0058】
実施例1の異常予測装置100は、学習用データセットから、時間軸、変数軸各方向の系列特徴を反映した、2つの新しい学習モデルの作成を実施する場合を説明したが、これら2モデルによる回帰計算結果を入力とした第3の回帰計算部518を新たに追加することで、1つの学習モデルに融合する形式にしてもよい。この際、推論部の演算部で得られる予測値は1つとなる。
【0059】
以下では、図5を用いて、実施例5の異常予測装置500が、学習部502で2つの回帰計算結果を入力とした回帰計算を行い、1つのモデルに融合する処理を説明する。まず、異常予測装置500の構成を説明する。図5は、実施例5の異常予測装置500の構成例を示したブロック図である。
【0060】
異常予測装置500は、学習部502の回帰計算部514および回帰計算部515の回帰計算結果が第3の回帰計算部518に入力されるとともに、第3の回帰計算部518の学習精度をもとに、計算の継続かもしくは推論部へ学習モデルを送信するかを選択する判定部519が追加されており、判定部519で回帰計算終了判定後には融合モデルデータ525が送信される。また推論部では演算部523に推論用データセット509から抽出されたフレームデータと転置処理を介したフレームデータおよび融合モデルデータ525が入力され、将来の運転指標や運転状態の予測値を出力する。
【0061】
なお実施例1と同様の構成や処理についての詳細説明は省略する。なお実施例5は、実施例2に基づき、過去の学習モデルデータを学習部502の回帰計算部514および回帰計算部515に入力として与え、更新させる形式にしてもよい。また、実施例5は、実施例3に基づき、単変数一時点推論から多変量期間推論に移行してもよい。また、実施例5は、実施例4に基づき、推論部において演算結果を再帰的に演算部に入力することで、任意の工程制御条件などを反映して予想値がどのように変動するかを継続的に試行探索可能な形式にしてもよい。
【0062】
学習部502は、記録部501から取得した学習用データセット504を成形し、クレンジング処理を実施する前処理部511、フレームデータ設定値505に従って時間幅ごとのデータ群を構成するフレームデータ抽出部512、フレームデータの時間軸と変数軸を入れ替える転置処理部513、時間軸方向の学習を実施する回帰計算部514、変数軸方向の学習を実施する回帰計算部515と、これら回帰計算結果をもとに、計算の継続かを選択する判定部516および判定部517、時間軸方向の回帰計算結果と変数軸方向の回帰計算結果を入力とした回帰計算部518とこの回帰計算結果をもとに計算の継続もしくは推論部503へ融合モデルデータ525を送信するかを選択する判定部519を有する。
【0063】
推論部503は、記録部501から取得した推論用データセット509のクレンジング、規格化、成形処理を実施する前処理部520、推論用の時間幅ごとの要因データを取得するフレームデータ抽出部521、フレームデータの時間軸と変数軸を入れ替える転置処理部522、学習部502で得られた回帰計算結果である融合モデルデータ525とフレームデータから目的変数の将来予測値を算出する演算部523、演算部523で得られる将来予測値を表示するために、記録部501に演算結果510として記録する判定部524で構成されている。
【0064】
実施例1の実施例5によれば、異常予測装置100では、2軸による学習モデルの2つの推論値について、どちらを選択するか、もしくは2つを融合するかは推論部で平均化など任意の判断論理に従って実施される必要があった。一方で属人的に決定された判断論理では判定部で不適当な予想値が出力されてしまう可能性があった。
【0065】
そこで、実施例5では、2つの予測値を入力とした回帰計算部を、学習部に追加することで、時間軸学習モデルと変数軸学習モデルのどちらを重要視すべきかという部分も回帰計算の重みとして計算した1つの学習モデル作成が可能となる。これにより推論部の判定部では2値の平均化処理などが不要となり、ただ1つの推論値を取得可能となる。
【0066】
上記した実施例では、監視対象として工場やプラントの異常を予測する異常予測装置の例を示したが、監視対象としては、工場やプラントに限らない。
【符号の説明】
【0067】
100、200、300、400、500・・・異常予測装置
102、202、302、402、502・・・学習部
103、203、303、403、503・・・推論部
101、201、301、401、501・・・記録部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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図11