(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-12
(45)【発行日】2024-01-22
(54)【発明の名称】超電導電流リード及び超電導磁石装置
(51)【国際特許分類】
H01F 6/06 20060101AFI20240115BHJP
H01B 12/06 20060101ALI20240115BHJP
H10N 60/82 20230101ALI20240115BHJP
【FI】
H01F6/06 510
H01B12/06
H10N60/82
(21)【出願番号】P 2020164293
(22)【出願日】2020-09-30
【審査請求日】2023-02-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】弁理士法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大谷 安見
(72)【発明者】
【氏名】岩井 貞憲
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 寛史
【審査官】木下 直哉
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-297025(JP,A)
【文献】特開2008-251564(JP,A)
【文献】特開2019-012815(JP,A)
【文献】特開2017-011204(JP,A)
【文献】実開昭55-147765(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 6/06
H01B 12/06
H10N 60/80
H10N 60/82
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空容器内の超電導コイルへの外部電源からの通電に供すると共に、冷却源により伝導冷却方式にて冷却される超電導電流リードであって、
超電導層上に金属保護層が形成されてなる高温超電導線材の両端部における前記金属保護層に電極が接続されて電流リードユニットが構成され、
前記電流リードユニットの複数本が共通の絶縁ケース内に電気的に絶縁状態で配置されて構成され
、
複数本の前記電流リードユニットの各前記電極は電気的に絶縁状態で配置され、これらの電極のそれぞれが、前記超電導電流リードに対する外部の異なる電流経路に同一の金属製締結部材を用いて電気的に接続される際に、前記電極と前記締結部材との間に絶縁部材が介在されて、複数の前記電極が前記締結部材を介して電気的に短絡しないよう構成されたことを特徴とする超電導電流リード。
【請求項2】
前記絶縁ケース内での複数本の電流リードユニットの絶縁状態は、前記電流リードユニットの離間配置と、前記絶縁ケース内への絶縁樹脂の充填と、前記電流リードユニット間への絶縁層の介在との少なくとも1つにより実施されるよう構成されたことを特徴とする請求項1に記載の超電導電流リード。
【請求項3】
前記電流リードユニットの2本が共通の絶縁ケース内に電気的に絶縁状態で配置され、1本の前記電流リードユニットが、外部電源からの電流を超電導コイルへ供給する供給電流経路を構成し、他の1本の前記電流リードユニットが、前記超電導コイルからの戻り電流を前記外部電源へ戻す戻し電流経路を構成することを特徴とする請求項1または2に記載の超電導電流リード。
【請求項4】
真空容器内
に複数の超電導コイルが配置され、
複数の前記超電導コイルにそれぞれ個別の外部電源から超電導電流リードを介して通電がなされる超電導磁石装置であって、
超電導層上に金属保護層が形成されてなる高温超電導線材の両端部における前記金属保護層に電極が接続されて電流リードユニットが構成され、
前記超電導電流リードは、複数の前記超電導コイルに通電するそれぞれの前記電流リードユニットが、共通した同一の絶縁ケース内に電気的に絶縁状態で配置されて構成されたことを特徴とする超電導磁石装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、真空容器内の超電導コイルへの外部電源からの通電に供する超電導電流リード、及びこの超電導電流リードを備えた超電導磁石装置に関する。
【背景技術】
【0002】
超電導磁石装置は、極低温冷凍機の開発及び普及により、高価で取り扱いの煩雑な液体ヘリウム等の冷媒による従来の冷却が不要になり、極低温冷凍機による伝導冷却によって所定の温度までの冷却が可能になっている。但し、所定の温度までの冷却を可能とするためには、極低温冷凍機の冷凍能力以下の熱侵入量にする必要があり、クライオスタット等の真空容器への低熱侵入化が要請されている。
【0003】
一方、超電導コイルへの外部電源からの電流供給のためには、室温部から低温部までの電流リードが必要であり、この電流リードからの伝導熱侵入量と、電流リードの発熱量を抑える必要がある。銅等の金属による電流リードは、定格通電時に熱侵入量を最小値とする最適化設計があり、逆にこの最小値以下にすることは原理上できない。
【0004】
近年、電流リード経路の中に、高温超電導線材を入れることで、大電流通電と低熱侵入化を両立できる技術が開発されて、伝導冷却方式による超電導磁石装置の普及が更に進んだ。
図13に、高温超電導電流リード100の構成の一例を、
図12にその高温超電導電流リード100を用いた超電導磁石装置Mの構成の一例を示す。
【0005】
図13において、高温超電導線材101は両端に電極103がハンダ接続されている。高温超電導線材101は通常、テープ状で機械的強度が小さな形状であるため、絶縁補強ケース102等に収容されている。高温超電導線材101の超電導材料(超電導層)はYBCO等のセラミックであり、熱伝導率が小さく低熱侵入化に寄与できる。ところが、高温超電導線材101は通常、超電導層に金属保護層が施されており、熱侵入量の大半は、この金属保護層からの熱侵入である。それに加えて、上述の絶縁補強ケース102を介した熱侵入も存在する。
【0006】
また、電流リードは、通常、電流の供給、戻りの2系統が必要になるため、2本で一対の高温超電導電流リード100が必要になる。
図13に示す左側の高温超電導電流リード100は、電極103が、銅製の電流リード200(
図12)等の供給電流経路104に接続されて、外部電源116からの電流を超電導コイル114へ供給するためのものである。また、右側の高温超電導電流リード100は、電極103が、銅製の電流リード200等の戻し供給電流経路105に接続されて、超電導コイル114からの戻し電流を外部電源116へ戻すためのものである。従って、これらの2本の高温超電導電流リード100から全熱侵入量を低減する必要がある。
【0007】
図12の高温超電導電流リード100を用いた超電導磁石装置Mは、真空容器112内に収納された超電導コイル114を極低温冷凍機111により伝導冷却材115を介して冷却し、外部電源116から超電導コイル114へ電流リード(高温超電導電流リード100、電流リード200)等を介して電流を供給することで、超電導コイル114に磁場を発生させる構成となっている。なお、符号113は輻射シールドである。
【0008】
特に、超電導コイル114に電流を供給する電流リード(高温超電導電流リード100、電流リード200)のうち、真空容器112及び輻射シールド113内には、
図13で示した高温超電導電流リード100を一対用いている。この高温超電導電流リード100は、一端が、極低温冷凍機111の1段冷却ステージ117で臨界温度以下に冷却され、他端が、極低温冷凍機111の2段冷却ステージ118によって、超電導コイル114と同レベルの冷却温度にまで冷却される。このように、高温超電導電流リード100を臨界温度以下の冷却状態にして通電することで、発熱が少なく且つ低熱侵入の電流経路を形成することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2009-211899号公報
【文献】特開2011-211110号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
但し、高温超電導電流リード100を介した熱侵入量は、上述のように最小に抑えながらもゼロにすることはできず、特に、複数個の超電導コイル114に個別に電流を通電するような構成の超電導磁石装置Mにおいては、高温超電導電流リード100の本数も増加するため、その分熱侵入量が増大して、1台の極低温冷凍機111では超電導コイル114を所定の温度に冷却できないことが想定される。従って、高温超電導電流リード100からの熱侵入量は極力低減した方がよい。
【0011】
本発明の実施形態は、上述の事情を考慮してなされたものであり、超電導コイルへの熱侵入量を低減できる超電導電流リード、及びこの超電導電流リードを備えた超電導磁石装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の実施形態における超電導電流リードは、真空容器内の超電導コイルへの外部電源からの通電に供すると共に、冷却源により伝導冷却方式にて冷却される超電導電流リードであって、超電導層上に金属保護層が形成されてなる高温超電導線材の両端部における前記金属保護層に電極が接続されて電流リードユニットが構成され、前記電流リードユニットの複数本が共通の絶縁ケース内に電気的に絶縁状態で配置されて構成され、複数本の前記電流リードユニットの各前記電極は電気的に絶縁状態で配置され、これらの電極のそれぞれが、前記超電導電流リードに対する外部の異なる電流経路に同一の金属製締結部材を用いて電気的に接続される際に、前記電極と前記締結部材との間に絶縁部材が介在されて、複数の前記電極が前記締結部材を介して電気的に短絡しないよう構成されたことを特徴とするものである。
【0013】
また、本発明の実施形態における超電導磁石装置は、真空容器内に複数の超電導コイルが配置され、複数の前記超電導コイルにそれぞれ個別の外部電源から超電導電流リードを介して通電がなされる超電導磁石装置であって、超電導層上に金属保護層が形成されてなる高温超電導線材の両端部における前記金属保護層に電極が接続されて電流リードユニットが構成され、前記超電導電流リードは、複数の前記超電導コイルに通電するそれぞれの前記電流リードユニットが、共通した同一の絶縁ケース内に電気的に絶縁状態で配置されて構成されたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の実施形態によれば、超電導コイルへの熱侵入量を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】第1実施形態に係る超電導磁石装置を示す構成図。
【
図2】
図1の高温超電導電流リードを示す縦断面図。
【
図3】
図2の高温超電導電流リードの主要部を示す縦断面図。
【
図4】
図3の高温超電導線材の構造を示す斜視断面図。
【
図5】
図3の高温超電導電流リードの第1変形形態を示す縦断面図。
【
図6】
図3の高温超電導電流リードの第2変形形態を示す縦断面図。
【
図7】
図3の高温超電導電流リードの第3変形形態を示す縦断面図。
【
図8】高温超電導電流リードを構成する高温超電導線材と絶縁補強ケースのそれぞれについて、高温超電導電流リードの高温端温度と熱侵入量との関係を示すグラフ。
【
図9】第2実施形態に係る超電導磁石装置を示す構成図。
【
図10】
図9における高温超電導電流リードを示し、(A)が側面図、(B)が縦断面図。
【
図11】高温超電導電流リードからの熱侵入量と高温超電導線材の本数との関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態を、図面に基づき説明する。
[A]第1実施形態(
図1~
図8)
図1は、第1実施形態に係る超電導磁石装置を示す構成図である。この
図1に示す超電導磁石装置10は、被冷却物としての超電導コイル1を、冷却源としての極低温冷凍機13を用いて伝導冷却方式により極低温に冷却し、外部電源14から電流系統15を経て超電導コイル1に電流を供給することで超電導コイル1に磁場を発生させるものであり、真空容器11及び輻射シールド12を更に有する。
【0017】
真空容器11は、超電導コイル1及び輻射シールド12を内部に収容すると共に、極低温冷凍機13を支持する。超電導コイル1は、真空容器11内で更に輻射シールド12の内部に収容される。この超電導コイル1は、真空容器11内に配置されることで、真空断熱により熱の侵入が抑制される。また、超電導コイル1は、輻射シールド12内に配置されることで、熱の侵入量が更に低減される。極低温冷凍機13は、1段冷却ステージ17及び2段冷却ステージ18を有し、1段冷却ステージ17が輻射シールドト12を冷却し、2段冷却ステージ18が伝導冷却材16を介して超電導コイル1を冷却する。
【0018】
電流系統15は、電源側通電ケーブル19、電流リード20、高温超電導電流リード21及びコイル側通電ケーブル22を備える。電源側通電ケーブル19及び電流リード20は例えば銅製であり、電源側通電ケーブル19が真空容器11外の室温に設置され、電流リード20が真空容器11の内部で且つ輻射シールド12の外部に配置される。高温超電導電流リード21及びコイル側通電ケーブル22は、輻射シールド12内に配置され、このうちの高温超電導電流リード21が高温超電導線材23(後述)を備えて構成される。
【0019】
高温超電導電流リード21は、上述のように、真空容器11内の超電導コイル1への外部電源14からの通電に供すると共に、極低温冷凍機13により伝導冷却方式にて冷却される。つまり、高温超電導電流リード21は、一端が、極低温冷凍機13の1段冷却ステージ17により臨界温度以下に冷却され、他端が、極低温冷凍機13の2段冷却ステージ18により超電導コイル1と同レベルに冷却される。高温超電導電流リード21は、臨界温度以下の冷却状態で通電されることで、発熱量が少なく且つ低熱侵入量の電流経路となる。
【0020】
高温超電導電流リード21は、
図2及び
図3に示すように、高温超電導線材23の両端に電極24が、ハンダ等により接続されて電流リードユニット25が構成される。この電流リードユニット25は複数本(例えば2本)が、共通した同一の絶縁補強ケース26内に、電気的に絶縁状態で配置され収容されて構成される。絶縁補強ケース26内に配置される2本の電流リードユニット25のうちの1本は、外部電源14からの電流を超電導コイル1へ供給する供給電流経路27を構成し、他の1本の電流リードユニット25は、超電導コイル1からの戻り電流を外部電源14へ戻す戻し電流経路28を構成する。
【0021】
ここで、高温超電導線材23は、
図4に示すように、基材30の上に、面内配向性を有する配向層31が形成され、この配向層31の上に希土類酸化物等の中間層32が蒸着され、この中間層32の上に超電導層33が形成され、この超電導層33上に、超電導層33を湿分等から保護する金属保護層34が形成されて構成される。ここで、超電導層33は、YBCO等のセラミック(酸化物)にて構成される。このように構成された高温超電導線材23の両端部における金属保護層34に電極24がハンダ等により接続されて、電流リードユニット25が構成される。
【0022】
図3に示す絶縁補強ケース26は、例えばガラス繊維強化プラスチック(GFRP)などにて構成される。この絶縁補強ケース26内に配置される複数本(例えば2本)の電流リードユニット25の特に高温超電導線材23の絶縁状態は、
図3に示すように、両高温超電導線材23間にスペースを設けることで実現される。また、絶縁補強ケース26内での電流リードユニット25の高温超電導線材23の絶縁状態は、
図5に示すように、絶縁補強ケース26内にエポキシ樹脂等の絶縁樹脂35を充填することで実現され、更にこの場合には、絶縁樹脂35によって高温超電導線材23の振動による劣化防止も果たされる。
【0023】
また、絶縁補強ケース26内での電流リードユニット25の高温超電導線材23の絶縁状態は、
図6及び
図7に示すように、電流リードユニット25の高温超電導線材23間に絶縁層36を介在させることでも実現される。この絶縁層36の介在に際しては、絶縁補強ケース26内に絶縁樹脂35が充填されることが好ましいが、絶縁樹脂35が存在しなくてもよい。また、絶縁層36は、電流リードユニット25の高温超電導線材23に対して、
図6に示すように離間していても、
図7に示すように高温超電導線材23に接合されていてもよい。絶縁層36が電流リードユニット25の高温超電導線材23に接合されることで、絶縁補強ケース26の厚さT2(後述)を薄くすることが可能になる。
【0024】
図3~
図7に示す高温超電導電流リード21では、複数本(例えば2本)の電流リードユニット25が、共通した同一の絶縁補強ケース26内に配置されるが、これらの電流リードユニット25の電極24間に絶縁板37が介在されて、これらの電極24が絶縁状態に維持される。上記絶縁板37は、それぞれの電流リードユニット25に想定される最大発生電圧に対しても耐電圧特性を保持可能な材質や形状、寸法(厚さなど)に設定される。
【0025】
高温超電導電流リード21の寸法について、超電導磁石装置10の高温超電導電流リード21では数十~数百A(アンペア)程度の電流を流すため、高温超電導電流リード21の両端の電極24及び絶縁板37を含む電極部分は、厚さT1も幅(
図3の紙面に垂直方向の長さ)も、数mm~数十mm程度である。また、絶縁補強ケース26の厚さT2と幅も、電極24と同程度の寸法が必要になる。
【0026】
一方、高温超電導電流リード21を構成する高温超電導線材23の厚さT0は0.1mm程度であり、
図6及び
図7に示す絶縁層36の厚さも高温超電導線材23と同程度である。従って、高温超電導線材23と絶縁層36が接合された厚さは0.2mm程度になる。このため、高温超電導線材23と絶縁層36を複数重ね合せても1mm程度になるので、絶縁補強ケース26内に電流リードユニット25の高温超電導線材23を絶縁層36と共に複数配置した構成としても、絶縁補強ケース26の寸法は、絶縁層36が存在しない場合と同様に、厚さT2及び幅が数mm~数十mm程度である。
【0027】
図2に示すように、高温超電導電流リード21では、共通の絶縁補強ケース26内に複数本、例えば2本の電流リードユニット25が配置され、このうちの1本の電流リードユニット25が供給電流経路27を構成し、他の1本の電流リードユニット25が戻し電流経路28を構成している。そして、供給電流経路27側の電流リードユニット25の電極24が、高温超電導電流リード21に対する外部の電流経路としての電流リード20の供給電流経路38、コイル側通電ケーブル22の供給電流経路39におけるそれぞれの圧着端子に電気的に接続されている。また、戻し電流経路28側の電流リードユニット25の電極24が、高温超電導電流リード21に対する外部の電流経路としての電流リード20の戻し電流経路40、コイル側通電ケーブル22の戻し電流経路41におけるそれぞれの圧着端子に電気的に接続されている。
【0028】
この場合、供給電流経路27側の電流リードユニット25の高温端の電極24及び電流リード20の供給電流経路38の接続と、戻し電流経路28側の電流リードユニット25の高温端の電極24及び電流リード20の戻し電流経路40の接続とは、金属製の同一の締結部材(ボルト及びナット等)42が、これらの高温端の電極24に形成された締結用孔43に挿入されて締結されることで、共締め構成で実施される。この際、例えば供給電流経路27側の電流リードユニット25の電極24及び電流リード20の供給電流経路38と締結部材42との間に、絶縁部材としての絶縁カラー44が介在される。これにより、締結部材42を介して、供給電流経路27側の電流リードユニット25の高温端の電極24と、戻し電流経路28側の電流リードユニット25の高温端の電極24との電気的な短絡が防止される。
【0029】
なお、絶縁カラー44は、供給電流経路27側の電流リードユニット25の高温端の電極24及び電流リード20の供給電流経路38と締結部材42との間、更に戻し電流経路28側の電流リードユニット25の高温端の電極24及び電流リード20の戻し電流経路40と締結部材42との間に、共に介在されてもよい。
【0030】
同様に、供給電流経路27側の電流リードユニット25の低温端の電極24及びコイル側通電ケーブル22の供給電流経路39の接続と、戻し電流経路28側の電流リードユニット25の低温端の電極24及びコイル側通電ケーブル22の戻し電流経路41の接続とは、金属製の同一の締結部材(ボルト及びナットなど)45が、これらの低温端の電極24に形成された締結用孔46に挿入されて締結されることで、共締め構成で実施される。この際、例えば供給電流経路27側の電流リードユニット25の電極24及びコイル側通電ケーブル22の供給電流経路39と締結部材45との間に絶縁カラー44が介在される。これにより、締結部材45を介して、供給電流経路27側の電流リードユニット25の低温端の電極24と、戻し電流経路28側の電流リードユニット25の低温端の電極24との電気的な短絡が防止される。
【0031】
なお、締結部材45は、供給電流経路27側の電流リードユニット25の低温端の電極24及びコイル側通電ケーブル22の供給電流経路39と締結部材45との間、更に戻し電流経路28側の電流リードユニット25の低温端の電極24及びコイル側通電ケーブル22の戻し電流経路41と締結部材45との間に、共に介在されてもよい。
【0032】
上述のように、高温超電導電流リード21では複数本(例えば2本)の電流リードユニット25の高温超電導線材23が絶縁補強ケース26内に絶縁状態で配置され、且つ複数本(例えば2本)の電流リードユニット25の電極24が絶縁板37により絶縁状態で配置されている。このため、1個の絶縁補強ケース26内に複数の電流経路(例えば供給電流経路27、戻し電流経路28)が独立して存在することになり、高温超電導電流リード21を見かけ上1本にすることが可能になる。
【0033】
例えば、
図1に示す超電導磁石装置10における1段冷却ステージ17と2段冷却ステージ18間の高温超電導電流リード21の見かけ上の本数を、
図12に示す高温超電導電流リード100と比べて半減させることが可能になり、これにより、高温超電導電流リード21の特に絶縁補強ケース26からの熱侵入量を抑制、例えば半減させることが可能になる。
【0034】
この高温超電導電流リード21による熱侵入量について、
図8を用いて更に説明する。
図8は、横軸を、高温超電導電流リード21の高温端の電極24の温度とし、縦軸を、高温超電導電流リード21の低温端の電極24への熱侵入量として、高温超電導電流リード21を構成する高温超電導線材23からの熱侵入量Aと絶縁補強ケース26からの熱侵入量Bの計算設計値を示す。この
図8の計算に用いられる高温超電導電流リード21は、低温端の電極24が5Kに冷却維持された状態であり、また、絶縁補強ケース26が、ガラス繊維強化プラスチック(GFRP)製で、内部にエポキシ樹脂製の絶縁樹脂35が充填されている。
【0035】
図8によれば、例えば高温端の電極24の温度が80Kでは、高温超電導線材23の1本からの熱侵入量が0.04Wであるに対し、1個の絶縁補強ケース26からの熱侵入量は0.056W程度であり、高温超電導線材23の1.4倍程度の熱侵入量になっている。
【0036】
ここで、従来の高温超電導電流リード100では、1本の高温超電導線材101が1個の絶縁補強ケース102内に配置されているので、高温超電導電流リード100の熱侵入量は、0.04W+0.056W=0.096Wになる。高温超電導電流リード100は、通常2本が一対になるので、一対の高温超電導電流リード100の熱侵入量は2倍の0.192W程度になる。
【0037】
これに対し、第1実施形態の高温超電導電流リード21では、例えば2本の電流リードユニット25(高温超電導線材23)が1個の絶縁補強ケース26内に配置されているので、この1本の高温超電導電流リード25からの熱侵入量は、2本の高温超電導線材23からの熱侵入量(0.04W×2=0.08W)と1個の絶縁補強ケース26からの熱侵入量0.056Wとを合わせて0.136W程度になり、2本で一対の従来の高温超電導電流リード100の熱侵入量0.192Wに対し、71%程度に低減されることが分かる。また、高温超電導電流リード21による熱侵入量の抑制は、第2実施形態において詳説するが、共通した同一の絶縁補強ケース26内に配置される高温超電導線材23の本数が増加するほど向上する。
【0038】
以上のように構成されたことから、第1実施形態によれば、次の効果(1)~(3)を奏する。
(1)
図2、
図3、
図5~
図7に示すように、高温超電導電流リード21は、高温超電導線材23を備えて単一の電流経路を構成する電流リードユニット25が複数本(例えば2本)、共通の同一の絶縁補強ケース26内に配置されて構成される。このため、1本の高温超電導線材101が1個の絶縁補強ケース102内に収容される従来の高温超電導電流リード100が複数本(例えば2本)用いられる場合に比べて、絶縁補強ケース26の個数を減少できる。この結果、第1実施形態の高温超電導電流リード21は、見かけ上の本数を減少でき、特に、絶縁補強ケース26を介して超電導コイル1へ侵入する熱侵入量を低減でき、従って、極低温冷凍機13の負荷を低減することができる。
【0039】
(2)高温超電導電流リード21では、高温超電導線材23を含む複数本の電流リードユニット25が、共通した同一の絶縁補強ケース26内に配置されて、
図1に示すように、高温超電導電流リード21の見かけ上の本数を減少させることができるので、真空容器11内に占める高温超電導電流リード21の容積を低減できる。このため、真空容器11のコンパクト化を実現でき、従って、超電導磁石装置10の製作工程、製作時間及び製作コストを低減することができる。
【0040】
(3)高温超電導電流リード21では、高温超電導線材23を含む複数本(例えば2本)の電流リードユニット25が、共通した同一の絶縁補強ケース26内に配置されることで、電流リードユニット25により構成される複数の電流経路(例えば供給電流経路27、戻し電流経路28)が近接する。このため、これらの電流経路への通電時に外部に及ぼす磁場を相殺(キャンセル)する効果が高い。従って、磁場共鳴画像診断装置(MRI)等のように均一磁場の発生が必要な超電導磁石装置10においては、超電導コイル1以外からの不正磁場を低減でき、被験体をより高い精度で撮影することができる。
【0041】
[B]第2実施形態(
図9~
図11)
図9は、第2実施形態に係る超電導磁石装置を示す構成図であり、
図10は、
図9における高温超電導電流リードを示し、(A)が側面図、(B)が縦断面図である。この第2実施形態において第1実施形態と同様な部分については、第1実施形態と同一の符号を付すことにより説明を簡略化し、または省略する。
【0042】
本第2実施形態の超電導磁石装置50が第1実施形態と異なる点は、同一の真空容器11内に複数の超電導コイル1A、1B、1Cが設置され、これらの超電導コイル1A、1B、1Cが、それぞれ異なった外部電源51A、51B、51Cから電流系統52を用いて通電がなされるよう構成された点である。
【0043】
同一の真空容器11内に設置される超電導コイル1Aは強磁場発生用の主コイルであり、超電導コイル1B及び1Cは、磁場の均一度を向上させるために設置される超電導シムコイルである。更に、より強い強磁場を発生させるためのインサート高温超電導コイルが設置されてもよい。
【0044】
電流系統52は、電源側通電ケーブル53A、53B、53Cと、電流リード54A、54B、54Cと、高温超電導電流リード55と、コイル側通電ケーブル56A、56B及び56Cと、を有して構成される。電源側通電ケーブル53A、電流リード54A、高温超電導電流リード55及びコイル側通電ケーブル56Aが、外部電源51Aと超電導コイル1A間の通電用である。また、電源側通電ケーブル53B、電流リード54B、高温超電導電流リード55及びコイル側通電ケーブル56Bが、外部電源51Bと超電導コイル1B間の通電用である。更に、電源側通電ケーブル53C、電流リード54C、高温超電導電流リード55及びコイル側通電ケーブル56Cが、外部電源51Cと超電導コイル1C間の通電用である。
【0045】
このうちの電流リード54A、54B及び54Cは例えば銅にて構成された電流経路であり、高温超電導電流リード55は、高温超電導線材23にて構成された電流リードである。また、この高温超電導電流リード55は、
図10に示すように、共通した同一の絶縁補強ケース57内に、2本で一対の電流リードユニット58A、58B及び58Cが配置されて構成される。電流リードユニット58Aは外部電源51Aと超電導コイル1A間の、電流リードユニット58Bは外部電源51Bと超電導コイル1B間の、電流リードユニット58Cは外部電源51Cと超電導コイル1C間の、それぞれ通電に供される。
【0046】
電流リードユニット58A、58B、58Cのそれぞれは、第1実施形態と同様に、高温超電導線材23の両端に電極24がハンダ等により接続されて構成される。2本の電流リードユニット58Aのそれぞれは、電極24の締結用孔43、46にそれぞれ挿入された締結部材42、45を用いて、第1実施形態と同様に、電流リード54Aとコイル側通電ケーブル56Aに接続される。また、2本の電流リードユニット58Bのそれぞれは、電極24の締結用孔43、46にそれぞれ挿入された締結部材42、45を用いて、第1実施形態と同様に、電流リード54Bとコイル側通電ケーブル56Bに接続される。更に、2本の電流リードユニット58Cのそれぞれは、電極24の締結用孔43、46にそれぞれ挿入された締結部材42、45用いて、第1実施形態と同様に、電流リード54Cとコイル側通電ケーブル56Cとに接続される。
【0047】
なお、絶縁補強ケース57内には絶縁樹脂35が充填されていてもよく、また、電流リードユニット58A、58B、58Cの各高温超電導線材23間に絶縁層36が介在されてもよい。
【0048】
本第2実施形態の高温超電導電流リード55による熱侵入量の抑制は、共通した同一の絶縁補強ケース57内に配置される電流リードユニット58A、58B、58C(高温超電導線材23)の本数が増加するほど向上する効果に基づくものである。
【0049】
つまり、
図11は、高温超電導電流リードの低音端の電極温度を5Kとし、高温端の電極温度を80Kとした場合に、高温超電導電流リードによる熱侵入量と高温超電導線材の本数との関係を、第2実施形態の高温超電導電流リード55と従来の高温超電導電流リード100とで計算し比較して示すグラフである。例えば、1本の絶縁補強ケース102内に1本の高温超電導線材101が配置された従来の高温超電導電流リード100を6本用意した場合の熱侵入量は、0.6W程度である。これに対し、1個の絶縁補強ケース57内に6本の高温超電導線材23が配置された見かけ上1本の第2実施形態の高温超電導電流リード55は、熱侵入量が0.3W程度になり、従来の6本の高温超電導電流リード100による熱侵入量に比べ半分程度の熱侵入量になっている。
【0050】
以上のように構成されたことから、第2実施形態によれば、第1実施形態の効果(1)~(3)と同様な効果を奏する。特に、高温超電導電流リード55は絶縁補強ケース57が1個であり、しかも熱侵入量に影響する絶縁補強ケース57の断面積が超電導コイルの数がN倍になった場合でもそのN倍よりも小さくできる。従って、高温超電導電流リード55による超電導コイル1A、1B、1Cへの熱侵入量を、これらの超電導コイル1A、1B、1Cに個別の高温超電導電流リード100が用いられる場合に比べて、大幅に低減することができる。
【0051】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これらの実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができ、また、それらの置き換えや変更は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0052】
1、1A、1B、1C…超電導コイル、10…超電導磁石装置、11…真空容器、13…極低温冷凍機(冷却源)、14…外部電源、15…電流系統、21…高温超電導電流リード、23…高温超電導線材、24…電極、25…電流リードユニット、26…絶縁補強ケース、27…供給電流経路、28…戻し電流経路、33…超電導層、34…金属保護層、35…絶縁樹脂、36…絶縁層、37…絶縁板、38、39…供給電流経路(外部の電流経路)、40、41…戻し電流経路(外部の電流経路)、42、45…締結部材、44…絶縁カラー(絶縁部材)、50…超電導磁石装置、51A、51B、51C…外部電源、52…電流系統、55…高温超電導電流リード、57…絶縁補強ケース、58A、58B、58C…電流リードユニット