(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-12
(45)【発行日】2024-01-22
(54)【発明の名称】原子炉格納容器用酸素濃度計
(51)【国際特許分類】
G01N 27/41 20060101AFI20240115BHJP
G01N 27/419 20060101ALI20240115BHJP
G21C 17/00 20060101ALI20240115BHJP
【FI】
G01N27/41 325Z
G01N27/419 327N
G21C17/00 040
(21)【出願番号】P 2020166664
(22)【出願日】2020-10-01
【審査請求日】2023-03-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】弁理士法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柳生 基茂
(72)【発明者】
【氏名】岡部 寛史
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 幸基
(72)【発明者】
【氏名】図子 直城
(72)【発明者】
【氏名】羽生 大仁
【審査官】黒田 浩一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第93/021521(WO,A1)
【文献】特開平03-120456(JP,A)
【文献】特開平05-180798(JP,A)
【文献】特開2019-086338(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/41
G01N 27/419
G21C 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子炉格納容器内の酸素濃度を測定するための原子炉格納容器用酸素濃度計であって、
第1酸素透過膜と、前記第1酸素透過膜の表裏を繋ぐ第1電気回路と、前記第1電気回路の電気抵抗を調整するための電気抵抗体と、を有する酸素透過回路と、
第2酸素透過膜と、前記第2酸素透過膜の表裏を繋ぐ第2電気回路と、前記第2電気回路に設けられた直流電源及び電流計と、を有する酸素ポンプ回路と、
前記酸素透過回路及び前記酸素ポンプ回路を加熱するヒータと、
前記第1酸素透過膜と、前記第2酸素透過膜との間を一定の間隙を空けて閉塞する壁材と、
を有する酸素センサ部と、
前記原子炉格納容器外に配設され、前記電流計からの電流信号により、酸素濃度を算出する酸素濃度算出部と、
を具備したことを特徴とする原子炉格納容器用酸素濃度計。
【請求項2】
請求項
1記載の原子炉格納容器用酸素濃度計であって、
前記酸素透過回路の前記電気抵抗体と並列に接続された電圧計を具備したことを特徴とする原子炉格納容器用酸素濃度計。
【請求項3】
請求項
1記載の原子炉格納容器用酸素濃度計であって、
前記酸素透過回路の前記電気抵抗体と直列に接続された電流計を具備したことを特徴とする原子炉格納容器用酸素濃度計。
【請求項4】
請求項
1乃至
3の何れか1項記載の原子炉格納容器用酸素濃度計であって、
前記第1酸素透過膜は、
酸化物イオンの選択透過性を持つ透過回路固体電解質と、
酸素ガスを酸化物イオンへ変換する透過回路カソードと、
酸化物イオンを酸素ガスへ変換する透過回路アノードと
を有し、前記透過回路カソードは、少なくともランタンを含む層状ペロブスカイト構造を持つ酸化物からなる原子炉格納容器用酸素濃度計。
【請求項5】
請求項
1乃至
4の何れか1項記載の原子炉格納容器用酸素濃度計であって、
前記第2酸素透過膜は、
酸化物イオンの選択透過性を持つポンプ回路固体電解質と、
酸素ガスを酸化物イオンへ変換するポンプ回路カソードと、
酸化物イオンを酸素ガスへ変換するポンプ回路アノードと、
を有し、少なくとも前記ポンプ回路アノードは酸化物イオンと電子の混合導電性を持つペロブスカイト構造または、層状ペロブスカイト構造を持つ酸化物からなる原子炉格納容器用酸素濃度計。
【請求項6】
請求項
1乃至
5の何れか1項記載の原子炉格納容器用酸素濃度計であって、
前記電気抵抗体が可変抵抗からなる原子炉格納容器用酸素濃度計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、原子炉格納容器用酸素濃度計に関する。
【背景技術】
【0002】
発電用原子炉施設には、過酷事故発生時に原子炉および施設の安全性を確保するための機器があり、事故の状況把握および収束に向けた対応が採れるような機構を有している。特に、福島第一原子力発電所での過酷事故では、水素と酸素の反応による水素爆発により原子炉施設を損なう事象が発生しており、水素爆発防止のための気相濃度監視が求められている。
【0003】
従来の原子炉施設において、格納容器雰囲気モニタにより気相中の水素および酸素濃度などを測定している。当該機器は、原子炉格納容器外部に設置されており、原子炉格納容器内部の気相をブロワにより当該機器まで移送し、冷却器などを用いて湿度、温度、圧力などを調整し測定を実施している。
【0004】
しかしながら、東日本大震災に伴う福島第一原子力発電所での事故より、既設施設のみでは十分な対応が採れないことが明らかになっている。従来の原子炉施設において、過酷事故発生時に交流電源を失った場合は、格納容器雰囲気モニタを動作させることができず、現状では常時監視を達成できていない。特に、福島第一原子力発電所での過酷事故では、水素と酸素の反応による水素爆発により原子炉施設を損なう事象が発生しており、水素爆発防止のための気相濃度監視が重要である。
【0005】
そこで、交流電源を必要とするガスの移送や除湿、冷却、降圧などの調整等を行わず、事故時の格納容器内の気相組成を直接測定するシステムが求められている。特に、酸素は水素と共存することで燃焼、爆発を引き起こし、格納容器の健全性に大きな影響を与える事象を引き起こす可能性があるため、その測定はアクシデントマネジメント上、重要な位置づけとなる。
【0006】
また、当該の計測システムは、当然ながら事故時環境でも正常に動作する必要があるが、正常に動作していることを把握するための機構については提案されていなかった。さらに、事故時の格納容器内は事故進展の状況に応じて、温度、圧力が大きく変動するので、このような状況の変化に対応することが求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2019-132685号公報
【文献】特許第2868913号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したとおり、原子力発電所での過酷事故が発生した際にも対応することができ、過酷な環境下でも酸素濃度を正確に測定することのできる酸素濃度計の開発が望まれていた。
【0009】
本発明は、上記した従来の事情に対処してなされたもので、原子力発電所での過酷事故が発生した際にも対応することができ、過酷な環境下でも酸素濃度を正確に測定することのできる原子炉格納容器用酸素濃度計を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
実施形態の原子炉格納容器用酸素濃度計は、原子炉格納容器内の酸素濃度を測定するための原子炉格納容器用酸素濃度計であって、第1酸素透過膜と、前記第1酸素透過膜の表裏を繋ぐ第1電気回路と、前記第1電気回路の電気抵抗を調整するための電気抵抗体と、を有する酸素透過回路と、第2酸素透過膜と、前記第2酸素透過膜の表裏を繋ぐ第2電気回路と、前記第2電気回路に設けられた直流電源及び電流計と、を有する酸素ポンプ回路と、前記酸素透過回路及び前記酸素ポンプ回路を加熱するヒータと、前記第1酸素透過膜と、前記第2酸素透過膜との間を一定の間隙を空けて閉塞する壁材と、を有する酸素センサ部と、前記原子炉格納容器外に配設され、前記電流計からの電流信号により、酸素濃度を算出する酸素濃度算出部と、を具備したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の実施形態によれば、原子力発電所での過酷事故が発生した際にも対応することができ、過酷な環境下でも酸素濃度を正確に測定することのできる原子炉格納容器用酸素濃度計を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施形態に係る原子炉格納容器内の取付け位置を示す模式図。
【
図2】第1実施形態に係る原子炉格納容器用酸素濃度計の構成を示す模式図。
【
図3】第2実施形態に係る原子炉格納容器用酸素濃度計の構成を示す模式図。
【
図4】第3実施形態に係る原子炉格納容器用酸素濃度計の構成を示す模式図。
【
図5】実施形態に係る酸素濃度計素子内の酸素透過膜の構成を示す模式図。
【
図6】実施形態に係る酸素濃度計素子内の酸素透過膜の構成を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、実施形態に係る原子炉格納容器用酸素濃度計について、図面を参照して説明する。
【0014】
まず、実施形態の原子炉格納容器用酸素濃度計の2つの原理について以下に説明する。
1つ目は、酸素が酸素透過膜を透過する際の反応式である。実施形態で用いる酸素透過膜は、以下の2つの反応式で表される電気化学反応により酸素を選択透過する。
O2+4e-→2O2- … 式(1)
2O2-→O2+4e- … 式(2)
【0015】
上記の2式が示す通り、酸素透過膜内を酸素が移動するためには、電子の授受によるイオン化が必要であり、酸化物イオン伝導性に対して電子伝導性が十分に小さい酸素透過膜を用いた場合、これらの反応で生じる電流は、酸化物イオンの移動により発生した電流であるとみなすことができ、電流値より酸素の移動量を換算することが可能である。逆に、電気抵抗が大きな回路とすることで電流を制限し、酸素の移動量を制限することも可能となる。
【0016】
2つ目は、フィックの法則で示される拡散の原理である。フィックの第一法則より、濃度差による拡散は、濃度勾配に比例することが示されており、一次元の場合は以下の式で表される。
J=‐Ddc/dx …式(3)
J:流束 D:拡散係数 c:濃度 x:位置
【0017】
上記式(3)より拡散係数および移動距離が一定の環境において、移動元もしくは移動先どちらか一方の濃度が一定であれば、拡散する物質の流束は他の一方の濃度に比例することが示唆される。
【0018】
これらの原理により、酸素濃度を測定する際は、酸素透過膜に電位差を与え酸素を移動させている状態で式(1)が示す反応が起こっているカソード側を覆うなどして酸素の拡散を制限し、カソード近傍の酸素濃度を低下させる。
【0019】
酸素の拡散速度を調整し、式(1)、式(2)で示す一連の電気化学反応の速度を拡散速度に対して十分に速くした場合、拡散律速状態となりカソード近傍に拡散した酸素は直ちに酸素透過膜を透過する。この際、カソード近傍の酸素濃度は周囲に対して十分に小さく、一定とみなせるため、酸素透過膜を透過する酸素量は外部の酸素濃度に比例する。透過した酸素量は電流に比例するため、電流の計測により酸素濃度を換算することが可能となる。
【0020】
カソードへの酸素拡散を、微細孔により制限する場合は、限界電流式と呼ばれる酸素濃度計測方法となるが、本実施形態では、微細孔の替わりに酸素透過膜と電気抵抗体を回路化し、酸素透過回路全体の電気抵抗を調整することで酸素の移動量を制限する。
【0021】
以下、実施形態の構成について説明する。
まず、
図1を参照して、原子炉格納容器用酸素濃度計の取付け位置および測定結果の表示方法等について説明する。
図1は原子炉圧力容器を中心に周辺施設を簡略化して示した模式図の一例である。
【0022】
原子炉格納容器内酸素センサ1は、原子炉圧力容器3を納める原子炉格納容器2の内部のドライウェル31内またはウェットウェル32内もしくはその両方に取付けられる。原子炉格納容器内酸素センサ1は、原子炉格納容器2外に設置した制御盤に設けられた酸素濃度算出部4に得られた信号を伝送し、酸素濃度算出部4にて信号の換算を行い、原子炉格納容器2内の酸素濃度および故障判断結果を表示する。また、原子炉格納容器内酸素センサ1の運転に必要な電力は、原子炉格納容器2外に設置した電源5より供給する。
【0023】
次に、第1実施形態に係る原子炉格納容器用酸素濃度計の基本構成について
図2を参照して説明する。
図2は、原子炉格納容器用酸素濃度計の構成を簡略化して示す模式図の一例である。
【0024】
原子炉格納容器用酸素濃度計は、電位差によって酸素を移動させる酸素ポンプ回路11と、酸素濃度差によって酸素を移動させる酸素透過回路12と、を具備している
【0025】
酸素ポンプ回路11は、酸素ガスを電位差により選択的に透過するポンプ回路内酸素透過膜15を具備しており、このポンプ回路内酸素透過膜15の表裏(アノードとカソード)を繋ぐように電気回路が形成されている。そして、この電気回路に、ポンプ回路内酸素透過膜15に電位差を与えるための直流電源16と、酸素ポンプ回路11内で流れる電流を測定するためのポンプ回路電流計17とが設けられている。
【0026】
酸素透過回路12は、酸素ガスを濃度差により選択的に透過する透過回路内酸素透過膜18を具備しており、この透過回路内酸素透過膜18の表裏(アノードとカソード)を繋ぐように電気回路が形成されている。そして、この電気回路に、透過回路内酸素透過膜18を透過する酸素の量を制限するための電気抵抗体19が設けられている。
【0027】
上記ポンプ回路内酸素透過膜15と、透過回路内酸素透過膜18との間には、これらの間を一定の間隙を空けて気密に閉塞する壁材30が設けられており、ポンプ回路内酸素透過膜15と、透過回路内酸素透過膜18との間が、密閉空間である検知室14とされている。また、これらのポンプ回路内酸素透過膜15及び透過回路内酸素透過膜18を加熱するためのヒータ13が設けられている。
図2に示すように、ポンプ回路内酸素透過膜15、透過回路内酸素透過膜18、検知室14、ヒータ13等の原子炉格納容器内酸素センサ1を構成する部分は、原子炉格納容器内に配置され、残りの部分は電気ケーブル等によって原子炉格納容器の外に引き出されている。
【0028】
酸素濃度測定時は、ヒータ13により、ポンプ回路内酸素透過膜15及び透過回路内酸素透過膜18を加熱し、酸素の選択透過に必要な温度に制御した状態で、直流電源16によりポンプ回路内酸素透過膜15に所定の電位差を与え、検知室14内部からポンプ回路内酸素透過膜15を通じ外部へ酸素を移動させる。その際に生じる電流を、ポンプ回路電流計17にて測定し、測定結果を制御盤に設けられた酸素濃度算出部4(
図1参照。)へ伝送して、得られた電流値を酸素濃度へ換算する。
【0029】
この際、検知室14内外の酸素濃度差により、酸素が透過回路内酸素透過膜18を通じて検知室14内へ移動するが、透過回路内酸素透過膜18および電気抵抗体19の抵抗により電子の移動量を制限し、検知室14内の酸素濃度を、外部に対して十分に低く維持した状態とする。この際、ポンプ回路内酸素透過膜15および透過回路内酸素透過膜18の温度は、電気化学反応が実効的に進む250℃以上かつ水素の自然燃焼温度である500℃以下とすることが望ましい。
【0030】
また、直流電源16によりポンプ回路内酸素透過膜15に与える電位差は、ポンプ回路内酸素透過膜15の種類および温度によって調整が必要であるが、酸素透過膜内の材料が分解する2V以下で運転し、より好適には水の電気分解が実効的に進行する電圧である1.5V以下で運転することが望ましい。
【0031】
更に、電気抵抗体19の抵抗値は、透過回路内酸素透過膜18の膜厚、温度によって調整が必要であるが、透過回路内酸素透過膜18の膜厚1mmあたり100Ω以上であることが望ましい。なお、実際に使用する透過回路内酸素透過膜18の膜厚は、例えば0.01mm程度とされるが、この場合に電気抵抗体19の抵抗値を100Ω程度とする場合がある。
【0032】
このような構成とした第1実施形態の原子炉格納容器用酸素濃度計では、検知室14へ拡散する酸素量を、酸素透過回路12の抵抗値により調整することが可能となる。この場合、電気抵抗体19を可変抵抗としてもよい。事故発生時には、事故進展の状況に応じて、格納容器内は温度、圧力が大きく変動し、酸素濃淡差で流入する酸素量が所定の範囲を逸脱する可能性があるが、可変抵抗を用いた場合、電気抵抗体19の抵抗値を調整することによって、流入する酸素量を所定の範囲に維持することができる。
【0033】
次に、第2実施形態について、
図3を参照して説明する。
図3に示すように、第2実施形態は、
図2に示した第1実施形態の構成に、酸素透過回路12内の電気抵抗体19と並列となるように、電圧計20を加えた構成となっている。
【0034】
電圧計20は、式(4)に示すネルンストの式から導かれる検知室14内部の酸素濃度と外部の酸素濃度の比によって生じる起電力に応じた電圧を出力するため、ポンプ回路内酸素透過膜15で発生する電極反応が拡散律速の場合、外部酸素分圧に準じたある範囲の電位差を示す。一方で、原子炉格納容器用酸素濃度計に破損があった場合は、検知室14の酸素濃度が上昇するなどして電圧が所定の範囲から逸脱するため、故障判断が可能となる。
【0035】
E=RT/4Fln(P1/P2) …式(4)
E:起電力 R:気体定数 F:ファラデー定数 P1:検知室内の酸素分圧
P2:検知室外の酸素分圧
【0036】
この際、酸素透過回路12内の回路抵抗が低く電流が流れやすい場合、発生した電位差が変化するため、酸素透過回路12内の電気抵抗体19の抵抗値は電圧計20が持つ内部抵抗と同等の抵抗値であることが望ましい。
【0037】
第2実施形態の構成を採用することによって、原子炉格納容器用酸素濃度計は、電圧計20の指示値より故障の判断を行うことが可能となる。
【0038】
次に、第3実施形態について
図4を参照して説明する。
図2に示した第1実施形態の構成に、酸素透過回路12内の電気抵抗体19と直列となるように透過回路電流計21を加えた構成である。
【0039】
透過回路電流計21は、透過回路内酸素透過膜18を透過した酸素量に比例した電流値を指示し、ポンプ回路内酸素透過膜15で発生する電気化学反応が拡散律速状態であれば、ポンプ回路電流計17が示す電流値と一致する。一方で、原子炉格納容器用酸素濃度計に破損があった場合は、透過回路内酸素透過膜18のみであった検知室14への酸素流入経路が増加し、透過回路電流計21とポンプ回路電流計17の指示値にずれが生じるため、故障判断が可能である。
【0040】
上記構成の第3実施形態の原子炉格納容器用酸素濃度計は、ポンプ回路電流計17と透過回路電流計21の電流値から故障の判断を行うことが可能となる。
【0041】
次に、原子炉格納容器用酸素濃度計に用いる酸素透過膜の構成について、
図5および
図6を参照して説明する。
図5はポンプ回路内酸素透過膜15の構成の一例を示した概略図であり、
図6は透過回路内酸素透過膜18の構成の一例を示した概略図である。
【0042】
図5および
図6に示す通り、実施形態に使用するいずれの酸素透過膜も、酸化物イオンを選択的に透過させる固体電解質、酸素ガスを電気化学反応により酸化物イオンに変化させるためのカソード、酸化物イオンを電気化学反応により酸素ガスに変化させるためのアノードを有し、カソードとアノードで固体電解質を挟み込む構造を持つ。
【0043】
ポンプ回路内酸素透過膜15に用いるポンプ回路固体電解質151、透過回路内酸素透過膜18に用いる透過回路固体電解質181は、ともに想定される運転環境において、測定の原理から電子伝導性に対して酸化物イオン伝導性が有意に大きな材料であることが必要であり、酸化物イオン伝導体として一般に広く用いられるイットリア安定化ジルコニア(YSZ)、スカンジア安定化ジルコニア(ScSZ)、ガドリニアドープドセリア(GDC)などが適応可能である。
【0044】
透過回路内酸素透過膜18に用いる透過回路カソード183は、酸素を検知室14に取り込む部位であり、当該部位で水素と酸素の燃焼反応等の酸素量の変化を伴う副反応が発生した場合、測定対象の雰囲気の酸素濃度と指示値の乖離が発生する。そのため、副反応を抑制する必要があり、250℃程度から酸素ガスを酸化物イオン化することが可能かつ副反応に対する触媒活性が小さな材料が必要である。具体的には層状ペロブスカイト構造と呼ばれる結晶構造を持つ酸化物が適応可能であり、より具体的にはLa2NiO4の化学式を持つランタンニッケル酸化物やその類縁物を適応することが望ましい。
【0045】
ポンプ回路内酸素透過膜15に用いるポンプ回路アノード152およびポンプ回路カソード153、透過回路内酸素透過膜18に用いる透過回路アノード182は、250℃程度で透過回路カソード183を運転する都合上、同等温度で酸素ガスの酸化物イオン化および酸化物イオンの酸素ガスを進めることができる材料であることが望ましい。
【0046】
具体的には、層状ペロブスカイト構造またはペロブスカイト構造を持つ酸化物が適応可能である。層状ペロブスカイト構造の酸化物を適応する場合は、透過回路カソード183と同一の材料を適応することが可能であり、ペロブスカイト構造の酸化物を適応する場合には、ABO3(A、Bは金属元素)で表されるサマリウム・ストロンチウム・コバルト酸化物やランタン・サマリウム・ストロンチウム・コバルト酸化物やその類縁物を適応することが望ましい。上記の酸素透過膜を有する原子炉格納容器用酸素濃度計を用いることで酸素濃度の変化を伴う副反応を抑制しながら酸素濃度の測定が可能である。
【0047】
なお、以上の実施形態では、原子炉格納容器用酸素濃度計の例について説明したが、原子炉格納容器以外で使用する酸素濃度計についても、同様の構成によって適用することができる。
【0048】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0049】
1……原子炉格納容器内酸素センサ、2……原子炉格納容器、3……原子炉圧力容器、4……酸素濃度算出部、5……電源、11……酸素ポンプ回路、12……酸素透過回路、13……ヒータ、14……検知室、15……ポンプ回路内酸素透過膜、16……直流電源、17……ポンプ回路電流計、18……酸素透過回路内酸素透過膜、19……電気抵抗体、20……電圧計、21……透過回路電流計、30……壁材、31……ドライウェル、32……ウェットウェル、151……ポンプ回路固体電解質、152……ポンプ回路アノード、153……ポンプ回路カソード、181……酸素透過回路固体電解質、182……透過回路アノード、183……透過回路カソード。