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特許7419213アブラナ科属間雑種の苗の生産方法及びアブラナ科属間雑種の苗の抽苔抑制方法
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  • 特許-アブラナ科属間雑種の苗の生産方法及びアブラナ科属間雑種の苗の抽苔抑制方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-12
(45)【発行日】2024-01-22
(54)【発明の名称】アブラナ科属間雑種の苗の生産方法及びアブラナ科属間雑種の苗の抽苔抑制方法
(51)【国際特許分類】
   A01G 2/10 20180101AFI20240115BHJP
   A01G 22/25 20180101ALI20240115BHJP
   A01G 22/15 20180101ALI20240115BHJP
【FI】
A01G2/10
A01G22/25 Z
A01G22/15
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020184074
(22)【出願日】2020-11-04
(65)【公開番号】P2022074215
(43)【公開日】2022-05-18
【審査請求日】2022-12-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000104113
【氏名又は名称】カゴメ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 亮太
(72)【発明者】
【氏名】市川 恵里子
【審査官】吉原 健太
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-162459(JP,A)
【文献】特開2014-226096(JP,A)
【文献】特開2014-030368(JP,A)
【文献】特開2002-262657(JP,A)
【文献】特開2011-121878(JP,A)
【文献】国際公開第2020/196388(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0295741(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 2/00 - 2/38
A01G 5/00 - 7/06
A01G 9/28
A01G 17/00 - 17/02
A01G 17/18
A01G 20/00 - 22/67
A01G 24/00 - 24/60
A01G 31/00 - 31/06
A01H 1/00 - 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アブラナ科属間雑種の苗の生産方法であって、それを構成するのは、少なくとも、次の工程である:
摘出:ここで摘出されるのは、アブラナ科属間雑種の芽であり、
摘出される芽の大きさは、2cm乃至12cmであり、
前記芽が摘出されるアブラナ科属間雑種は、抽苔していない状態であり、
挿し芽:ここで挿し芽されるのは、アブラナ科属間雑種の芽である。
【請求項2】
請求項1の生産方法であって、
前記摘出される芽は、頂芽、腋芽及び/又は不定芽である。
【請求項3】
請求項1又は2の生産方法であって、それを構成するのは、更に、次の工程である:
頂芽除去:ここで除去されるのは、アブラナ科属間雑種の頂芽である。
【請求項4】
請求項3の生産方法であって、
前記摘出される芽は、腋芽である。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れかの生産方法であって、
前記アブラナ科属間雑種は、アブラナ科属植物及びダイコン属植物の交雑種である。
【請求項6】
請求項5の生産方法であって、
前記アブラナ科属植物は、ケールであり、かつ、前記ダイコン属植物は、ダイコンである。
【請求項7】
請求項6の生産方法であって、
前記アブラナ科属間雑種は、サンテヴェール48(農林水産省品種登録出願番号第33291号)である。
【請求項8】
アブラナ科属間雑種の苗の抽苔抑制方法であって、それを構成するのは、少なくとも、次の工程である:
摘出:ここで摘出されるのは、アブラナ科属間雑種の芽であり、
摘出される芽の大きさは、2cm乃至12cmであり、
挿し芽:ここで挿し芽されるのは、アブラナ科属間雑種の芽である。
【請求項9】
請求項の方法であって、
前記摘出される芽は、頂芽、腋芽及び/又は不定芽である。
【請求項10】
請求項8又は9の方法であって、
前記芽が摘出されるアブラナ科属間雑種は、抽苔していない状態である。
【請求項11】
請求項8乃至10の何れかの方法であって、
前記アブラナ科属間雑種は、アブラナ科属植物及びダイコン属植物の交雑種である。
【請求項12】
請求項11の方法であって、
前記アブラナ科属植物は、ケールであり、かつ、前記ダイコン属植物は、ダイコンである。
【請求項13】
請求項12の生産方法であって、
前記アブラナ科属間雑種は、サンテヴェール48(農林水産省品種登録出願番号第33291号)である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明が関係するのは、アブラナ科属間雑種の苗の生産方法及びアブラナ科属間雑種の
苗の抽苔抑制方法である。
【背景技術】
【0002】
近年、市場で求められているのは、新しい価値をもった野菜である。特許文献1に開示
されているのは、十字花科(アブラナ科)植物の新芽であり、例示すると、ブロッコリー
スプラウトである。この新芽に多く含まれているのは、スルフォラファングルコシノレー
ト(以下、「SGS」という。)である。SGSが代謝されると、スルフォラファンにな
る。特許文献2に開示されているのは、ケールの一種「ハイパール」(登録商標、農林水
産省品種登録第20555号)である。このケールに多く含まれているのは、グルコシノ
レート類である。前述のとおり、グルコシノレート類は、スルフォラファンの前駆体であ
る。特許文献3に開示されているのは、スルフォラファンの作用であり、具体的には、解
毒作用や抗酸化作用等である。
【0003】
新規な野菜の開発にあたり、その候補の一つは、アブラナ科野菜である。アブラナ科野
菜を一つの候補とするのは、食経験のある野菜が多く存在しているからである。アブラナ
科野菜に含まれるのは、アブラナ属の野菜(例えば、ハクサイ、カブ、キャベツ、ブロッ
コリー、ケールなど)、ダイコン属の野菜(例えば、ダイコンなど)、オランダガラシ属
の野菜(例えば、クレソンなど)、キバナスズシロ属の野菜(例えば、ルッコラなど)、
ワサビ属の野菜(例えば、山葵など)である。
【0004】
アブラナ科の野菜を開発する方法は、様々であるが、例示すると、種間交配や属間交配
などである。アラブナ科の種間雑種は、広く普及しており、例示すると、菜種などである
。例えば、特許文献4に開示されているのは、アラブナ科の種間雑種「プチヴェール」で
ある。他方、アラブナ科の属間雑種は、普及していない。
【0005】
アラブナ科の属間雑種が普及していないのは、不稔性を示すからである。不稔性を示す
植物を増殖させることは難しい。これを解決する方法の一つは、栄養繁殖である。アブラ
ナ科野菜の栄養繁殖は、稀である。なぜなら、アブラナ科野菜を増殖させる一般的な方法
は、種子繁殖である。敢えて栄養繁殖を例示すると、特許文献5に開示されているのは、
花茎を利用したワサビの苗大量増殖法である。特許文献6に開示されているのは、杉、カ
ルミア、アザレア、ラベンダー等の挿し木・挿し芽による育苗方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開WO97/09889
【文献】国際公開WO2015/163442
【文献】特開2009‐148240号
【文献】特開2009‐213451号
【文献】特開平02-190112号
【文献】特開2010-124743号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、アブラナ科属間雑種の苗化と抽苔抑制とを両立させ
ることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以上を踏まえて、本願発明者が鋭意検討して見出したのは、アブラナ科属間雑種の苗化
の可否及び抽苔の有無を決める要素が、挿し芽する芽の大きさであることである。この観
点から、本発明を定義すると、以下のとおりである。
【0009】
本発明に係るアブラナ科属間雑種の苗の生産方法を構成するのは、少なくとも、摘出と
挿し芽である。摘出において、アブラナ科属間雑種の芽が摘出される。摘出される芽の大
きさは、2cm乃至12cmである。挿し芽において、アブラナ科属間雑種の芽が挿し芽
される。
【0010】
本発明に係るアブラナ科属間雑種の苗の抽苔抑制方法を構成するのは、少なくとも、摘
出と挿し芽である。摘出において、アブラナ科属間雑種の芽が摘出される。摘出される芽
の大きさは、2cm乃至12cmである。挿し芽において、アブラナ科属間雑種の芽が挿
し芽される。
【発明の効果】
【0011】
本発明が可能にするのは、アブラナ科属間雑種の苗の生育と抽苔抑制との両立である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本実施の形態に係る生産方法の流れ図
【発明を実施するための形態】
【0013】
<アブラナ科属間雑種>アブラナ科属間雑種とは、アブラナ科(Brassicace
ar)に属する植物であって、互いに異なる属に属する植物同士を交雑して生まれた植物
を表す。アブラナ科に属する植物を例示すると、アブラナ属植物(ハクサイ、カブ、チン
ゲンサイ、コマツナ、タカナ、ミズナ、キャベツ、ブロッコリー、カリフラワー、メキャ
ベツ、コールラビ、ケール等)、ダイコン属植物(ダイコン等)、オランダガラシ属植物
(クレソン等)、シロガラシ属植物(シロガラシ等)、キバナスズシロ属植物(ルッコラ
等)、セイヨウワサビ属植物(ホースラディッシュ等)、ワサビ属植物(ワサビ等)であ
る。好ましくは、アブラナ属植物とダイコン属植物の属間雑種であり、さらに好ましくは
、ケールとダイコンの属間雑種である。最も好ましくは、農林水産省品種登録出願番号第
33291号(出願品種の名称:サンテヴェール48)である。
【0014】
<芽>芽とは、生長点とその周囲の幼葉を含む組織である。具体例を挙げると、植物の
茎の頂端に生じる頂芽、葉腋に生じる腋芽(側芽ともいう。)、それ以外の部位に生じる
不定芽等である。
【0015】
<本苗の生産方法>図1が示すのは、本苗の生産方法(以下、「本生産方法」という。
)の流れである。本生産方法を構成するのは、主に、頂芽除去(S11)、摘出(S12
)、除菌(S13)、挿し芽(S14)、苗化(S15)である。
【0016】
<頂芽除去(S11)>アブラナ科属間雑種の植物体から頂芽を除去する。頂芽を除去
する目的は、頂芽優勢の打破である。頂芽優勢が打破されると、腋芽の成長が活発になる
。腋芽のつく部位の数は、頂芽のつく部位に比べ、多い。そのため、短期間に多くの芽を
摘出することが可能になる。頂芽除去の具体的な方法は、公知の方法でよい。例示すると
、メス、ナイフ、ハサミ等による切除である。好ましくは、切除に用いる道具は、除菌さ
れている。
【0017】
<摘出(S12)>アブラナ科属間雑種の植物体から芽を摘出する。芽を摘出する目的
は、植物体の増殖である。芽は、生長点を含んでいる。生長点は細胞分裂が活発な組織を
含み、他の組織に分化する能力を有しているため、植物体を増殖することができる。摘出
する芽の種類は、特に限定されない。例示すると、頂芽、腋芽、不定芽である。好ましく
は、腋芽である。摘出の具体的な方法は、公知の方法でよい。例示すると、メス、ナイフ
、ハサミ等による切除である。好ましくは、切除に用いる道具は、除菌されている。
【0018】
<摘出する芽の大きさ>摘出する芽の大きさは、2cm乃至12cmである。より好ま
しくは、摘出する芽の大きさは、3cm乃至9cmである。摘出する芽の大きさが、1c
m以下の場合、苗化しにくくなる。摘出する芽の大きさが、13cm以上である場合、抽
苔が起きやすくなる。摘出する芽の大きさとは、当該芽と植物体の接合部を底部とした場
合の縦方向の長さを意味する。
【0019】
<抽苔>抽苔とは、花の付いた茎(花茎)が伸びてくる現象をいう。抽苔は、植物の生
長が栄養成長から生殖成長へ切り替わることで起こる。苗において、栄養成長から生殖成
長への切り替わりが起こると、栄養成長は抑制されてしまう。つまり、収穫対象である葉
が十分に成長しなくなってしまう。育苗において抽苔は、望ましくない現象である。
【0020】
<芽が摘出される植物体>芽が摘出される植物体は、好ましくは、抽苔していない。抽
苔している植物体から芽を摘出すると、苗が抽苔してしまう可能性がある。その理由の一
つは、推察ではあるが、抽苔した植物体に、抽苔を促すシグナルが残存することである。
【0021】
<除菌(S13)>摘出された芽を除菌する。芽を除菌する目的は、病害の抑制である
。除菌の具体的な方法は、公知の方法でよい。例示すると、エタノール、次亜塩素酸等の
除菌剤である。除菌剤の種類、濃度、浸漬時間、噴霧量等は、芽の除菌が適切に行われる
よう、適宜設定される。除菌剤は単体で使用してもよい。除菌剤は複数種類を組合せても
よい。必要に応じて、芽を除菌した後、清水等で洗浄する。除菌工程は、省略可能である
。除菌工程が省略可能なのは、病害を抑制する必要性が低い場合等である。
【0022】
<挿し芽(S14)>摘出された芽を挿す。挿し芽する目的は、苗の増殖である。挿し
芽の具体的な方法は、公知の方法でよい。例示すると、以下のとおりである。摘出された
芽を支持体に挿す。支持体は、有機質でも無機質でも良い。例示すると、赤玉土、黒ぼく
土、焼成赤玉土、バーミキュライト、ゼオライト、モンモリロナイト等である。支持体は
単独で用いてもよい。支持体は複数を混合して用いても良い。また、直接圃場等に挿し芽
してもよい。また、支持体を用いずに、水耕栽培用の養液に挿し芽してもよい。
【0023】
<苗化(S15)>挿し芽された芽を苗へ成長させる。苗化の目的は、芽から発根させ
ることである。苗化の具体的な方法は、公知の方法でよい。例示すると、以下のとおりで
ある。温度は、植物の生長に適した温度であればよい。具体的には、20℃から30℃で
ある。相対湿度は、植物の生長に適した相対湿度であればよい。具体的には、60%から
90%である。照度は、植物の生長に適した照度であればよい。具体的には、2000ル
クスから15000ルクスである。日長は、植物の生長に適した日長であればよい。具体
的には、12時間から16時間である。必要に応じて、肥料を与える。
【実施例
【0024】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定さ
れるものではない。
【0025】
<芽の大きさと苗の生育及び抽苔の関係>ケールを花粉親、ダイコンを柱頭親とした属
間雑種(品種登録出願番号第33291号、出願品種の名称:サンテヴェール48)の植
物体から、メスを用いて腋芽を摘出した。メスは、予め70%エタノール溶液で除菌した
。前記植物体は、抽苔していないものであった。摘出した腋芽の大きさは、1cmから1
5cmだった。摘出した腋芽を70%エタノール溶液に5秒間浸漬して、除菌した。育苗
トレーに市販のバーミキュライトを充填し、水を十分に浸透させた。除菌した腋芽をバー
ミキュライトに挿し芽した。育苗トレーの底面から市販の水耕栽培用肥料(OATハウス
A処方、OTAアグリオ社製)を潅水し、3週間苗化させた。
【0026】
<苗化率>苗化率とは、挿し芽した芽のうち、発根したものの割合である。3週間苗化
させた後の苗化率を算出した。苗化率の評価は、以下の基準で行った。50%未満の場合
「×」、50%以上80%未満の場合「△」、80%以上の場合「〇」とした。
【0027】
<抽苔率>抽苔率とは、挿し芽した芽のうち、抽苔したものの割合である。3週間苗化
させた後の抽苔率を算出した。抽苔率の評価は、以下の基準で行った。50%以上の場合
「×」、20%以上50%未満の場合「△」、20%未満の場合「〇」とした。
【0028】
<総合評価>総合評価は、以下の基準で行った。苗化率又は抽苔率の何れか一方が「×
」の場合「×」、苗化率又は抽苔率の何れか一方が「△」の場合「△」、苗化率及び抽苔
率の両方が「〇」の場合「〇」とした。
【0029】
【表1】
【0030】
表1が示すのは、摘出した芽の大きさごとの苗化率と抽苔率の結果及び評価である。こ
れによれば、摘出した芽の大きさが1cmの場合、苗化しない。また、摘出した芽の大き
さが13cm~15cmの場合、苗化はするものの、60%が抽苔する。すなわち、2c
mから12cmの芽を摘出することで、苗化と抽苔抑制の両立が可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明が有用な分野は、種苗の生産である。
図1