(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-12
(45)【発行日】2024-01-22
(54)【発明の名称】粘膜感染症治療用エマルション
(51)【国際特許分類】
A61K 9/107 20060101AFI20240115BHJP
A61K 9/06 20060101ALI20240115BHJP
A61K 31/196 20060101ALI20240115BHJP
A61K 31/405 20060101ALI20240115BHJP
A61K 31/192 20060101ALI20240115BHJP
A61K 31/542 20060101ALI20240115BHJP
A61K 31/4174 20060101ALI20240115BHJP
A61K 45/06 20060101ALI20240115BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20240115BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20240115BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20240115BHJP
A61P 31/10 20060101ALI20240115BHJP
A61P 31/02 20060101ALI20240115BHJP
A61P 15/02 20060101ALI20240115BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20240115BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240115BHJP
【FI】
A61K9/107
A61K9/06
A61K31/196
A61K31/405
A61K31/192
A61K31/542
A61K31/4174
A61K45/06
A61K45/00
A61P29/00
A61P31/04
A61P31/10
A61P31/02
A61P15/02
A61P17/00
A61P43/00 121
(21)【出願番号】P 2020544154
(86)(22)【出願日】2018-11-14
(86)【国際出願番号】 EP2018081253
(87)【国際公開番号】W WO2019096857
(87)【国際公開日】2019-05-23
【審査請求日】2021-11-10
(32)【優先日】2017-11-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2017-11-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】520165375
【氏名又は名称】プロフェム・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ProFem GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100150500
【氏名又は名称】森本 靖
(74)【代理人】
【識別番号】100176474
【氏名又は名称】秋山 信彦
(74)【代理人】
【識別番号】100136696
【氏名又は名称】時岡 恭平
(72)【発明者】
【氏名】マリオン・ノエ
(72)【発明者】
【氏名】クリスティアン・ノエ
【審査官】平井 裕彰
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2009/028650(WO,A1)
【文献】特表2004-528317(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/00~ 9/72
31/00~33/44
A61P 1/00~43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗真菌剤およびNSAIDを含有し、水相と油相を有するエマルションであって、(a)NSAIDが、0.1~0.5重量%の濃度のジクロフェナク、0.1~0.4重量%の濃度のインドメタシン、1~5重量%の濃度のナプロキセン、0.5~2.5重量%の濃度のイブプロフェン、0.25~1.25重量%の濃度のデキシブプロフェン、0.25~1.25重量%の濃度のケトプロフェン、0.5~4重量%の濃度のメフェナム酸、または、0.02~0.04重量%の濃度のロルノキシカムであって、NSAIDが塩の形態で水相中に存在し、(b)該エマルションにおける、油相に対する水相の重量比が、
2.1~
2.6であり、および、(c)エマルションのpH値が、6.5~8.5の範囲であることを特徴とする、エマルション。
【請求項2】
軟膏またはクリームの形態であることを特徴とする、請求項1に記載のエマルション。
【請求項3】
エマルションが半固体であることを特徴とする、請求項1または2に記載のエマルション。
【請求項4】
抗真菌剤が、ナイスタチン、シクロピロクスまたはシクロピロクスオラミン、クロトリマゾール、フルコナゾール、ミコナゾール、イトラコナゾール、チオコナゾール、ボリコナゾール、ビホナゾール、エコナゾール、イソコナゾール、フェンチコナゾール、セルタコナゾール、ケトコナゾール、ポサコナゾール、キルセコナゾール(quilseconazole)、オテセコナゾール(VT-1161)またはアイブレキサフンジェルプ(SCY-078)から選ばれる抗真菌剤、であることを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載のエマルション。
【請求項5】
抗真菌剤がクロトリマゾールであることを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載のエマルション。
【請求項6】
NSAIDがジクロフェナクであり、エマルションに0.2~0.4重量%の濃度範囲で含まれることを特徴とする、請求項1~5のいずれか1項に記載のエマルション。
【請求項7】
保存剤が含まれている、請求項1~6のいずれか1項に記載のエマルション。
【請求項8】
保存剤が、フェノキシエタノールまたはプロピレングリコール、またはその2つの組み合わせである、請求項7に記載のエマルション。
【請求項9】
保存剤が、デカリニウム塩化物である、請求項7に記載のエマルション。
【請求項10】
細菌に対して作用する抗生物質をさらに含むことを特徴とする、請求項1~9のいずれか1項に記載のエマルション。
【請求項11】
抗生物質が、ホスホマイシン、クリンダマイシン、メトロニダゾール、ニトロフラントイン、ニトロフラゾン、ニトロフラントイン、ニフラテル、ニフロキサシン(nifuroxacin)、ニトロキソリン、トリメトプリム、スルファジアジン、または、コトリモキサゾールである、請求項10に記載のエマルション。
【請求項12】
防腐剤をさらに含むことを特徴とする、請求項1~11のいずれか1項に記載のエマルション。
【請求項13】
防腐剤が、塩化ベンザルコニウム、デカリニウム塩化物およびフェノキシエタノールからなる群から選択されることを特徴とする、請求項12に記載のエマルション。
【請求項14】
膣真菌感染症の治療用の、請求項1~
13のいずれか1項に記載のエマルション。
【請求項15】
治療が局所治療であることを特徴とする、請求項
14に記載のエマルション。
【請求項16】
膣真菌感染症が、カンジダ・アルビカンス、および他の細菌による、混合膣感染症であることを特徴とする、請求項
14または
15に記載のエマルション。
【請求項17】
他の細菌が、エンテロバクター、大腸菌、肺炎桿菌、ガードネレラ・バギナリス、およびプレボテラ属菌から選ばれるものである、請求項
16に記載のエマルション。
【請求項18】
膣真菌感染症が、カンジダ真菌症である、請求項
14~
17のいずれか1項に記載のエマルション。
【請求項19】
エマルションの製造中に、NSAIDを、水相を介して導入することを特徴とする、請求項1~
13のいずれか1項に記載のエマルションの製造方法。
【請求項20】
NSAIDを、抗真菌剤を含有するエマルションに、微結晶または微粒塩として導入することを特徴とする、請求項1~
13のいずれか1項に記載のエマルションの製造方法。
【請求項21】
NSAIDを、抗真菌剤を含有するエマルションに、ヒドロゲルを介して導入することを特徴とする、請求項1~
13のいずれか1項に記載のエマルションの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘膜感染症、特に炎症性膣感染症を治療するためのエマルションに関する。
【背景技術】
【0002】
WO2007/131253A2は、外陰膣カンジダ症、口腔咽頭カンジダ症(鵝口瘡)、おむつ皮膚炎(おむつかぶれ)および間擦性湿疹から選択されるカンジダ真菌症の局所治療用の併用薬を製造するための、抗真菌活性物質、および上皮または内皮の細胞接着阻害剤の使用、に関する。
【0003】
WO02/0768648A2は、抗真菌剤、例えばテルビナフィン、および第2の活性物質、例えばジクロフェナクまたはインドメタシンを含有する、局所投与のための医薬組成物に関する。組成物は、真菌感染症、特に皮膚糸状菌により引き起こされる感染症の、予防または治療に使用することができる。
【0004】
US5686089Aは、抗微生物活性物質および保湿成分を含む、局所投与のための医薬組成物に関する。組成物は、例えば、膣真菌感染症に使用することができる。
【0005】
Mendlingら(Mendling, Werner, et al. "Use of locally delivered dequalinium chloride in the treatment of vaginal infections: a review." Archives of gynecology and obstetrics 293.3 (2016): 469-484)は、膣感染症をデカリニウム塩化物で治療する可能性について記載している。
【発明の概要】
【0006】
本発明の目的は、粘膜の感染症および炎症の治療に特に適する、改良されたNSAID製剤を提供することである。特に、本発明の目的は、膣および皮膚の真菌感染症の局所治療に特によく適している抗真菌剤およびNSAIDの組み合わせ製剤を提供することである。このようなエマルションは、特に膣部位で発生する治癒しにくい真菌感染症にも有効であり、微生物学的および化学的に安定でなければなない。
【0007】
したがって、本発明は、NSAIDを含有し、水相および油相(脂肪相)を含む、好ましくは軟膏またはクリームの形態の、エマルションであって、(a)水相中のNSAIDが、単回用量において、他の製剤におけるこれらの活性物質の標準濃度の半分から10分の1に相当する濃度範囲にあり、(b)前記エマルションにおける、油相に対する水相の重量比が、2.0~2.7であり、および、(c)エマルションのpH値が、6.5~8.5、好ましくは7.0~8.0の範囲であることを特徴とする、好ましくは、粘膜感染症および粘膜炎症の治療のための、特に、粘膜感染症および粘膜炎症の局所治療用の、エマルションに関する。
【0008】
さらに、本発明は、抗真菌剤およびNSAIDを含有し、水相および油相(脂肪相)を含む、好ましくは軟膏またはクリームの形態の、エマルションであって、(a)NSAIDが、単回用量において、他の製剤におけるこれらの活性物質の標準濃度の半分から10分の1に相当する濃度範囲で、水相に存在し、(b)該エマルションにおける、油相に対する水相の重量比が、2.0~2.7であり、および、(c)エマルションのpH値が、6.5~8.5、好ましくは7.0~8.0の範囲であることを特徴とする、好ましくは、皮膚および膣の真菌感染症の治療のための、特に、膣真菌感染症の局所治療用の、エマルションに関する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、冒頭において記載した種類の改良製剤を提供する。特に、本発明による製剤は、感染部位で直接攻撃することによって最適な薬物動態を示すだけでなく、最適な薬力学も示す。本発明による製剤は、低濃度で使用したときにNSAIDの十分な効能が得られ、したがって副作用がほとんどない。本発明による組み合わせ製剤の場合、抗真菌剤の特に優れた効能が発揮するだけでなく、生じ得る副作用(刺激、ほてりなど)を招く必要なく、低濃度のNSAIDによって十分な効能を確保することにより、NSAIDとの相互作用が著しく向上する。実際、これにより、副作用に関するこれらの理由のために以前は使用できなかった抗真菌剤とNSAIDの組み合わせを、本発明の教示により患者が利用できるようになり、これらの患者は、現在、治療の成功を享受している、という事実がもたらされている。しかしながら、本発明によれば、水相中のNSAIDの濃度は、最適な薬力学的効能にとって極めて重要であることが示されている。導入されたNSAIDの利用可能性は、NSAIDが塩の形態で主に存在することを確実にする、製造方法、水/油の比率、およびpH値の相互作用によって実現される。
【0011】
本発明で用いる好ましいNSAIDは、ジクロフェナク、ブフェキサマク、イブプロフェン、デキシブプロフェン、ケトプロフェン、フルルビプロフェン、ピロキシカム、メロキシカム、ロルノキシカム、フルフェナム酸、メフェナム酸、ナプロキセン、およびインドメタシンからなる群から選択される。局所治療用に承認された医薬品に使用されるジクロフェナクの標準濃度は、1~2%(10mg/gまたは20mg/g)の範囲である。本発明によれば、ジクロフェナクは、0.1%~0.5%(クリーム1gあたり1~5mg)の濃度、好ましくは0.2%~0.35%の濃度で使用される。局所治療用に承認された医薬品において使用されるイブプロフェンの通常の濃度は、5%(50mg/gクリーム/ゲル)である。本発明によれば、イブプロフェンは、好ましい量が0.5~2.5%(クリーム1gあたり5~25mg)、好ましくは1~2%で使用される。「標準」用量に関する、好ましいNSAIDおよびそれらの好ましい量(「本発明による濃度」)のさらなる例は、表Aを参照することができる。
【0012】
【0013】
本発明の趣旨において、以下のNSAIDが特に好ましい:
【表2】
【0014】
本発明によれば、真菌性疾患、特にカンジダ真菌症の治療が、微生物の付着に同時に影響を与える薬剤と、抗真菌剤との組み合わせ製剤を用いて、特に効果的に実施できることが示された。作用部位に直接到達し、同時に全身的負荷が最小となるので、薬剤は局所投与が有利である。このような活性物質の組み合わせは、WO2007/131253A2に基づく特許によって保護されている。
【0015】
本発明の主題は、膣適用に特に適した薬剤の組み合わせ、ならびにその製造および使用に関する。膣の特別な生理学的および病態生理学的な状態を考慮することにより、特定の組成物および特定の製造方法の両方が、特に有利であることが証明されている。特定のパラメータの測定によって、膣感染症の治療に特に優れた治療効果がもたらされる。
【0016】
付着抑制成分に関しては、本化合物は、NSAID(非ステロイド系抗炎症剤)の群にのみ関連し、それは、この群の薬剤は、付着を防ぐ付着防止作用に加えて、鎮痛および抗炎症作用を有するからである。両方の作用、特に抗炎症作用は、慢性炎症と激しい痛みに関連するため、再発性のカンジダ真菌症において特に有用である。
【0017】
好ましいNSAIDは、ジクロフェナク、イブプロフェン、デキシブプロフェン、ケトプロフェン、フルルビプロフェン、メフェナム酸、ナプロキセン、ロルノキシカム、およびインドメタシンである。好ましい抗真菌剤は、ナイスタチン、シクロピロクスまたはシクロピロクスオラミン、または、アゾール(イミダゾール、トリアゾール、テトラアゾール)の群から選ばれる抗真菌剤、例えば、クロトリマゾール、フルコナゾール、ミコナゾール、イトラコナゾール、チオコナゾール、ボリコナゾール、ビホナゾール、エコナゾール、イソコナゾール、フェンチコナゾール、セルタコナゾール、ケトコナゾール、ポサコナゾール、キルセコナゾール(quilseconazole)、オテセコナゾール(VT-1161)、アイブレキサフンジェルプ(SCY-078)、である。
【0018】
アイブレキサフンジェルプ(SCY-078)の構造式
【化1】
【0019】
オテセコナゾール(VT-1161)の構造式
【化2】
【0020】
驚くべきことに、適用の際、最適な効果を得るために、抗真菌剤とNSAIDとの割合比率が特に重要であることが示された。抗真菌剤とNSAIDの組み合わせでは、抗真菌剤は、標準的な用量で使用することができる(クロトリマゾール1~10%、ケトコナゾール1~5%、好ましくは2%、ナイスタチン100,000IE/mlまたはg)。NSAIDは、膣内の病原体と膣上皮とに同じようにその効果を発揮するので、一方では、作用部位に直接適用される薬剤の局所投与は、全身投与よりも明らかに優れており、他方では、そのため、NSAIDは、鎮痛剤としての標準的な全身投与よりもかなり低い用量で使用される。膣投与において、NSAIDの標準的な皮膚用製剤に使用される活性物質の濃度の10分の1、好ましくは5分の1から、治療効果がすでに得られる(ジクロフェナク200~500mg/100g軟膏の場合)。したがって、NSAIDの全身への取り込みが無視でき、全身的な副作用のリスクがないため、活性物質の濃度が低いことも特に有利である。同時に、粘膜への局所適用によってNSAIDの過剰投与が容易に起きる可能性があることを考慮しなければならない(例えば、ジクロフェナクを含むクリームは、0.5%から痛みを伴い、即効性の鎮痛効果はもはや生じない)。市場で入手可能なNSAID含有クリーム(1~2%ジクロフェナク、5%イブプロフェン)の粘膜への塗布は、粘膜が炎症を起こし、抗炎症効果を妨げるため、さまざまな使用説明書(例えば、ボルタレンエマルゲル(voltaren emulgel)、イブトップゲル(ibutop-gel)の使用説明書)によって警告されている。したがって、本発明によれば、NSAIDは、皮膚投与のための標準的な最小量の製剤の50%を超える量で使用するべきではない。刺激はすでにこの濃度で発生する可能性がある。したがって、使用するNSAIDの活性物質濃度は、局所製剤における通常の値の10~60%、好ましくは20~40%の、比較的小さい治療域内で動かすことが好ましい。したがって、本発明による特に好ましいエマルションは、NSAIDとしてジクロフェナクを含み、ジクロフェナクが、エマルションの0.2~0.4重量%の濃度範囲で含まれる。ジクロフェナクは、エマルションの0.2~0.35重量%の濃度範囲で存在することがさらに好ましい。最も好ましくは、0.25~0.35重量%の濃度範囲である。エタノールやイソプロパノールなどの低級アルコールの比率が高くなると(>10%)、刺激作用が高まり、そのため、痛みや炎症の緩和効果が妨げられる。
【0021】
膣での局所投与のための剤形を見つけることは、薬剤が投与中に容易に漏れる可能性があるという事実から難しく、このため、信頼性ある投薬は難しく、十分な接触時間が妨げられることが知られている。比較的狭い治療域の観点から、本発明による薬剤は、所望の治療効果を得るために、活性物質、とりわけNSAID成分が、作用部位に安全に留まることを前提とする。このため、薬剤における、NSAIDを含む水相に対する抗真菌剤を含む油相の比率は、比較的狭い範囲内である。水および/またはアルコールの含有量が高い、溶液、エマルションまたはゲルは、膣からの漏出による制御不能な喪失が予想されるため、本発明による剤形として除外されるべきである。
【0022】
半固形のエマルション(水中油型または油中水型)は、好ましくはクリームの形態であって、活性物質を、効率的かつ濃縮された形でバイオフィルムの表面にもたらすのに特に適している。エマルションの粘度は、水と油の比率によっておもに決まる。驚くべきことに、水と油の比率は、エマルションの製剤において特に重要であることが分かった。脂肪成分の比率が高くなると、効果の発現が妨げられる。対照的に、脂肪の比率が低くなると、刺激作用が強くなる。最適な治療効果を得るためには、水と油の比率(水/油)が2.7の値を超えないようにすべきである。このレベルを超えると、活性物質が膣分泌物によりきわめて速やかに洗い流され、これは、真菌の付着する膣上皮の外層に対して付着抑制効果を発揮するのに十分な時間がないことを意味する。(水と油の比率が高すぎる場合にきわめて速やかに洗い流される活性物質は、かえって副作用として刺激作用を引き起こすこともあり得る)。
【0023】
驚くべきことに、膣の慢性真菌症はしばしば、病原体の強い耐性によって引き起こされるのではなく、むしろ感染によって初期に引き起こされる膣上皮の同時発生の慢性炎症によって引き起こされることが分かってきた。このような慢性の場合には、NSAIDが膣内に留まることが確実な場合にのみ、治癒を達成することができる。
【0024】
エマルション中の水分が多すぎると否定的な作用をもたらすのと同じように、脂肪が多すぎることも避けるべきである。NSAIDを低濃度で使用する観点から、治療効果を得るために、活性物質が、作用部位において長引かず速やかに放出されることが特に重要である。油相などからの放出がゆっくりであると、求められる治療濃度を作用部位で到達させることが保証できない。このため、エマルションの水と油の重量比(水/油)は、2.0未満となるべきでない。その結果、本発明によるエマルションの水と油の重量比(水/油)の値は、2.0~2.7、好ましくは2.1~2.6、さらに好ましくは2.2~2.55の範囲である。
【0025】
本発明において、配合中および使用中の両方において、NSAIDは、塩の形態(すなわちイオンの形態)であることが不可欠である。したがって、それらの製剤への組み込みが重要である。NSAIDが、その遊離形態で組み込まれる場合、またはそれが塩として油相に組み込まれる場合、治療効果は大幅に損なわれる。抗真菌剤は、好ましくは油相に組み込まれ、そこに存在するが、本発明による方法は、一般的に、エマルションを製造する前に、NSAIDを水相に導入することを含む。あるいは、NSAIDの固体塩を、微結晶または微粒形態で、またはヒドロゲルとして、(大部分)完成したエマルションに組み込むことができる。
【0026】
活性物質がエマルションの水相に存在する場合、NSAIDが塩として存在することを前提として、迅速な放出が確実になる。ほとんどのNSAIDは、pKa値が4~5の弱酸である(ジクロフェナク4.15、イブプロフェン4.91、メフェナム酸4.2、インドメタシン4.5、ナプロキセン4.2)。したがって、それらは、弱酸性環境において一部遊離した形態ですでに存在し、そのため、油相に抽出され、効果の低下または効果の喪失をもたらす可能性がある。pH値の低下により、遊離酸として存在するNSAIDの活性物質の割合が油相内で増加することから、本発明による活性物質濃度で薬剤に治療効果をもたらすためには、pH=6以上のpH値が適切である。
【0027】
好ましくは、本発明によるエマルションは、膣への適用に適している。例えば、エタノールまたはイソプロパノールなどの粘膜損傷性物質の含有量が高い組成物は、膣への適用に適していない。したがって、本発明によるエマルションは、エタノールの含有量が、10重量%以下、特に5重量%以下であることが好ましい。また、本発明によるエマルションは、イソプロパノールの含有量が、15重量%以下、特に7.5重量%以下であることが好ましい。
【0028】
クロトリマゾールの構造タイプの親油性抗真菌剤と、弱酸のNSAIDとの組み合わせは、その組み合わせが、比較的狭いpH範囲内でのみ安定であることも意味する。pH6未満では、クロトリマゾールが不安定になるが、NSAIDでは、アルカリ環境において化学的安定性が低下する可能性がある(ジクロフェナクの場合はpH8.00~8.5)。さらに、化学的安定性は、水と油の比率、およびアルコール性物質の割合によっても影響を受ける。アゾールと酸性のNSAIDの組み合わせ薬では、活性物質の直接的な反応性により、安定性に好ましくない状態が生じる。エマルションのpH値は、基本的な生理学的適合性に影響を与えることにも注意すべきである。このため、製剤のpH値に関して、比較的狭い限定も設定される。したがって、本発明によれば、(エマルションの水相は)pH値が、6.5~8.5、好ましくは7~8の範囲である。
【0029】
NSAIDの塩を抗真菌剤の薬剤に導入すると、pH値がよりアルカリ性になるため、クロトリマゾールのみを含む対応するエマルションにおいて通常使用される保存剤は、必ずしも十分に有効であるとは限らない。したがって、本発明による半固体の抗真菌剤の薬剤は、好ましくは、エマルションのpH範囲で有効な保存剤および防腐剤によって、微生物の攻撃から保護される。真菌感染症のみの治療に使用される本発明による薬剤において、防腐剤の含有量は、正常な膣内細菌叢を損なわないように適切な方法で低く保たれる。真菌の成長によって形成されるバイオフィルムは、真菌だけでなく他の病原性微生物も含むことが多い。そのため、防腐剤の濃度を増加させるだけで、そのような混合感染でさえ治療に利用することができる。したがって、特許請求された薬剤に、即効性の抗微生物効果に十分な高い量の防腐剤を添加することは、本発明のさらなる主題を構成する。好ましい防腐剤は、塩化ベンザルコニウムおよびデカリニウム塩化物などの第四級アンモニウム塩、ならびに、フェノキシエタノールである。好ましい濃度は、塩化ベンザルコニウムでは0.2重量%以上であり、デカリニウム塩化物では0.2重量%以上であり、フェノキシエタノールでは2重量%以上である。
【0030】
膣のバイオフィルムに見られる細菌微生物の中で、エンテロバクター、大腸菌、および/または、例えば肺炎桿菌などの典型的な腸内細菌、ならびに、ガードネレラ・バギナリスおよびプレボテラ属などの嫌気性菌は、特定の役割を果たす。これらも特許請求された防腐剤によってカバーされるが、そのような感染が証明されたケースでは、防腐剤の代わりに、またはそれに加えて、嫌気性菌に対して有効な抗生物質を使用することが勧められる。したがって、嫌気性菌に対して有効な抗生物質の添加は、本発明のさらなる主題を構成する。好ましい抗生物質は、ホスホマイシン、クリンダマイシン、メトロニダゾール、ニトロフラントイン、ニトロフラゾン、ニトロフラントイン、ニフラテル、ニフロキサシン(nifuroxacin)、ニトロキソリン、トリメトプリム、スルファジアジン、およびコトリモキサゾールである。
【0031】
NSAIDが、記載の組成および記載の割合のエマルションに、記載の濃度および条件において存在することが、バイオフィルムの破壊のために決定的である。
【0032】
粘膜表面は、特に治療に耐性があるバイオフィルムの形成にとって、理想的な条件を提供する。薬剤の利用可能性がpH依存的であるため、膣の湿潤した生理学的に酸性の環境に影響を与えることにより、膣の微生物叢は、局所的に適用される剤形の有効性に大きく寄与する。これらの状態は、現在市販されている局所抗真菌剤が、慢性外陰膣炎の治療において、特に細菌による混合感染の場合において、非常に限られた成功しか収めていない原因の1つである。本発明による薬剤の組み合わせの組成物は、記載の組み合わせにおいて、複雑な慢性膣炎症の治療にも特に適している。
【0033】
バイオフィルムの形成は多くの皮膚真菌感染症でも起こるので、本発明によるエマルションは、真菌症、特にカンジダ真菌症の治療だけでなく、マラセチア感染症にも非常に適している。
【0034】
したがって、本発明によるエマルションは、好ましくは、皮膚および膣の真菌感染症の治療での使用、特に、膣真菌感染症の局所治療での使用が、意図されている。一般に、本発明によるエマルションは、感染症、特にカンジダ・アルビカンスによって引き起こされる膣感染症、または、カンジダ・アルビカンス、および、エンテロバクター、大腸菌、肺炎桿菌、ガードネレラ・バギナリス、およびプレボテラ属などの細菌による、混合膣感染症、の治療に使用することができる。本発明の特定の実施形態は、細菌性膣炎の治療におけるその適用にある。本発明のさらなる特定の実施形態は、皮膚および粘膜の真菌および混合感染症、好ましくはカンジダ真菌症、特に外陰膣カンジダ症、口腔咽頭カンジダ症(鵝口瘡)、おむつ皮膚炎(おむつかぶれ)、肛門湿疹、間擦性湿疹、およびマラセチア真菌症(癜風)、の治療におけるその適用にある。
【0035】
慢性感染症の場合、上皮の炎症が持続する可能性があるため、本発明はまた、抗真菌性または抗微生物性の活性物質を含まないエマルションにも関する。特定の組成物によって得られるNSAIDの信頼性ある放出により、これらのエマルションは、粘膜感染症、特に膣炎のアフターケアでの使用に非常に適している。そのような半固体のエマルションは、他の原因の慢性炎症、特に粘膜およびその近傍組織の炎症の治療にも非常に適している。その例は、慢性膀胱炎、萎縮性膣炎または肛門粘膜炎症のアフターケアに見られる。したがって、本発明によるエマルションは、粘膜炎症および粘膜感染症、特に膣感染症および膣炎症、特に慢性の炎症および感染症、の治療における使用に特に適している。
【実施例】
【0036】
以下、本発明を図面および実施例によってより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0037】
図面:
図1:フェーズII臨床試験。異なる濃度のジクロフェナクNa(CP1:0.2重量%、CP2:0.3重量%、CP3:0.4重量%)を含有する本発明のエマルションで、または、本発明によるジクロフェナクNaを含まない対照組成物(「比較対照」)で、治療された、再発性外陰膣カンジダ症(RVVC)の患者の痛み日記。痛みの強さは、0~10の痛みスケールで、記録時に患者によって記録された。図は、治療過程中の治療群の平均値を示している。CP1では、痛みの強さが急速に減少するが、1日の用量が半分になる(4日目以降)とすぐに治癒曲線が平坦になっている。CP2は最適な治療プロセスを示している。2日目にすでに、痛みのレベルは初期値の50%に減少している。
【0038】
実施例:
予備的記述
基本製剤Aに対応する水中油型混合物の製造方法および組成パーセンテージの変化は、臨床効果において、通常の用量-効果の関係からかけ離れた驚くべき変化を示した。有効性の著しい向上、または起こり得る低下は、特に迅速な作用の開始(局所的な鎮痛)、あるいは、作用の開始の遅延、または既存の痛みの増強、からもたらされる可能性がある。
【0039】
【0040】
NSAIDの濃度が変化する場合、いずれの場合も精製水に交換され、特に断りのない限り、脂質成分の含有量は同じである。以下の製剤の臨床効果は、臨床的に有効な基本製剤Aに関するものである。
【0041】
実施例2:pH範囲の変化と臨床効果
保存剤に関する変化は、pH値の変化と関連している。記載の実施例は、一般的な製造仕様1に従って製造した。問題となる保存剤の最適な効果を得るためのpH値の調整は、適切な緩衝液を、同量の精製水と交換して追加することによって実施した。
【0042】
pH値は、塩として存在する割合に対する、遊離する活性物質の割合をシフトさせることから、局所的に生物学的利用可能な活性物質の量に大きな影響を与える。使用する非ステロイド系抗炎症剤のpKa値に応じて、本発明によれば、本発明による組み合わせ製剤の最適なpHが得られる。
【0043】
【0044】
実施例3:水相/油の重量比の影響
驚くべきことに、粘度の変化は、小さな範囲の変化であっても、臨床効果に明らかな影響を示す。記載の実施例は、一般的な製造仕様1に従って、脂肪成分の量と水の量とを変えることにより製造した。
【0045】
水の量の増加とそれによる粘度の低下は、放出の増加と粘膜の湿潤性の増加とによって、局所的な刺激と臨床効果の低下をもたらす。
【0046】
表3:臨床効果に対する水相/油の重量比の影響
【表5】
【0047】
油相に対する水相の重量比を計算するために、表に示すように、水相と油相の個々の割合を合計する。乳化剤、例えば、ソルビタンモノステアレートおよびポリソルベート60は、2つの相の間の界面にあるため、水相と油相のどちらにも該当しない。
【0048】
WO02/0768648A2の実施例2における濃縮したエマルション(すなわち、成分A、B、J、C、E、G、H、およびKの半分の、中間体生成物)の、油相に対する水相の比を計算すると、3.1の比率が得られる(油相:テルビナフィン、ブチルヒドロキシトルエン、ベンジルアルコール、ミリスチン酸イソプロピル、合計11.52g/100g;水相:ジクロフェナクナトリウムおよび水、合計35.94g/100g;比率3.1)。したがって、そのようなエマルションは、水/油の比が本発明の範囲外であり、そのため、本発明の趣旨において適切ではない。
【0049】
あるいは、油相に対する水相の重量比は、相に溶解した物質(クロトリマゾール、ジクロフェナクNa、ベンジルアルコール、セチルステアリルアルコール)を含めずに計算できる。この計算方法では、水とプロピレングリコールのみが、表3の水相に帰属し、セチルパルミテート、2-オクチルドデカノール、およびセチルステアリルアルコールが、油相に帰属する。表3に示した水/油の比率、2.7、3.1、2.4、2.4、2.0、1.7は、この計算方法によれば、2.9、3.4、2.6、2.6、2.1、1.8の値に対応する。本発明による2.0~2.7という範囲は、この計算方法によれば、2.1~2.9の範囲に対応する。
【0050】
しかしながら、本発明の趣旨において、油相に対する水相の重量比の計算は、表3に示すように、すなわち、相に溶解した物質を含めて、行われるものである。
【0051】
実施例4:非ステロイド系抗炎症剤の変化
ジクロフェナクの代わりに、他の様々な非ステロイド系抗炎症剤を基本製剤Aに添加し、それらの臨床効果を試験した。
【0052】
【0053】
実施例5:最適濃度
基本製剤Aに従って、ジクロフェナクNaを様々な濃度で含むエマルションを製造し、その臨床効果を試験した。
【0054】
表5:NSAIDの濃度に対する臨床効果の依存性
【表7】
【0055】
実施例6:保存剤の変化と微生物学的安定性
クロトリマゾールとNSAIDの併用は、エマルション系のpHのシフトにより、対応するクロトリマゾール製剤と比較すると、微生物学的および化学的な安定性(薬局方)がどちらも変化する。
【0056】
【0057】
実施例7:
基本製剤Aの製造
一般的な製造仕様1:
構成成分である、ソルビタンモノステアレート、ポリソルベート60、セチルパルミテート、2-オクチルドデカノール、およびセトステアリルアルコールを、70~75℃の温度で溶融させる。60℃~70℃の温度で撹拌しながら、クロトリマゾール、次いでベンジルアルコールを、透明な溶融物に加える。同時に、ジクロフェナクナトリウムを精製水に加熱しながら溶解させる。撹拌しながら水溶液を油相に加え、均一化させる。形成されたw/oエマルションをさらに均一化させながらゆっくり冷却すると、転相が起こり、親水性の均一なクリームが得られる。
【0058】
【0059】
表8の製剤の臨床効果は同じである。
【0060】
一般的な製造仕様2
構成成分である、ソルビタンモノステアレート、ポリソルベート60、セチルパルミテート、2-オクチルドデカノール、およびセトステアリルアルコールを、70~75℃の温度で溶融させる。60℃~70℃の温度で撹拌しながら、クロトリマゾールを透明な溶融物に加え、溶解させる。同時に、ジクロフェナクナトリウムを精製水に加熱しながら溶解させる。フェノキシエタノール、および必要に応じてプロピレングリコールを添加した後、60℃~70℃の温度で撹拌しながら水溶液を油相に加え、均一化させる。はじめに形成されたw/oエマルションをさらに均一化させながらゆっくり冷却すると、o/wエマルションへの転相が起こり、親水性の均一なクリームが得られる。(臨床結果は表6を参照)。
【0061】
NSAIDを水に溶解させる代わりに、ヒドロゲルに溶解したNSAIDを撹拌することによって、またはエマルションの製造中に固体としての(微粒化)NSAIDを撹拌することによって、組み込むこともできる。
【0062】
実施例9:NSAIDを油相に組み込むことによる基本製剤Aの製造
ジクロフェナクNaを様々な濃度で含むクリームを、基本製剤Aに従い、一般的な製造仕様2によって製造し、その臨床効果を試験した。精製水をジクロフェナクナトリウムと交換し、脂質成分、O/W乳化剤のポリソルベート60、および保存剤のベンジルアルコールの含有量は、製剤中で同じとした。
【0063】
一般的な製造仕様3
構成成分である、ソルビタンモノステアレート、ポリソルベート60、セチルパルミテート、2-オクチルドデカノール、およびセトステアリルアルコールを溶融させる。透明な溶融物にベンジルアルコールを撹拌しながら加える(脂質相)。精製水を沸点まで加熱し、製剤に応じて必要な質量の70%を撹拌しながら脂質相に加える(転相およびO/Wプレエマルションの形成)。プレエマルションの約30%を容器から取り出し、その中でクロトリマゾールとジクロフェナクナトリウムを分散させる。活性物質を含むプレエマルションを、容器内の活性物質を含まないプレエマルションに加え、最終質量まで精製水(残量30%)を入れる。室温になるまでクリームを撹拌し、最後に、均一化のために、3本ロールミルに2回通す(pH6.99)。
【0064】
【0065】
製造仕様3の実施例から、製造方法によって重要な影響が生じており、このことから、非ステロイド系抗炎症剤は、水相を介して組み込まれ、主に水相に存在するように設計しなければならない。
【0066】
実施例10:基本製剤Aの製造
一般的な製造仕様4に従って非ステロイド系抗炎症剤(ジクロフェナクNa)を組み込んだ基本製剤Aの製造
構成成分である、ソルビタンモノステアレート、ポリソルベート60、セチルパルミテート、2-オクチルドデカノール、およびセトステアリルアルコールを溶融させる。透明な溶融物にベンジルアルコールを撹拌しながら加える(脂質相)。精製水を沸点まで加熱し、製剤に応じて必要な質量の70%を撹拌しながら脂質相に加える(転相およびO/Wプレエマルションの形成)。プレエマルションの約30%を容器から取り出し、その中でクロトリマゾールを分散させる。活性物質を含むプレエマルションを、容器内の活性物質を含まないプレエマルションに加え、最終質量まで精製水(残量30%)を入れる。クリームに、微粒化したジクロフェナクナトリウムを数回に分けて加え、室温になるまで撹拌し、最後に、均一化のために、3本ロールミルに2回通す。
【0067】
例11:フェーズII臨床試験
慢性膣感染症の治療用の本発明のエマルションの臨床効果を、フェーズII臨床試験で調査した。
一般的な製造仕様1に従って、異なる濃度でジクロフェナクNaを含む、3つの本発明のエマルションを製造した。NSAIDを含まないエマルションを対照として使用した。
・ エマルションCP1: 0.2重量% ジクロフェナクNa
・ エマルションCP2: 0.3重量% ジクロフェナクNa
・ エマルションCP3: 0.4重量% ジクロフェナクNa
・ 比較対照エマルション: 0重量% ジクロフェナクNa
【0068】
慢性再発性膣感染症(慢性再発性外陰膣カンジダ症、RVVC)の患者31人を治療した。真菌感染の陽性検出後、重症度が中程度以上の臨床症状を有する患者が、研究に参加した。最初の3日間、2.5mlのクリームを投与器によって1日2回、膣内投与し、次の3日間、2.5mlのクリームを1日1回、投与した。7~10日後、診察を行った。
【0069】
本発明の3つの各エマルションは、NSAIDを含まない対照よりも、良好な治癒成果をもたらした。0.3重量%のジクロフェナクNaを含むエマルション2は、特に有用であることが証明された。この群のすべての患者で、完全な臨床的治癒(治療する医師による診察において症状が完全になくなる)を達成した。対照群では、40%の患者のみが治癒した。
【0070】
治癒効果に加えて、さらなる臨床パラメーターとして、慢性患者の痛みの発症(痛み日記)を使用した。痛みの強さは、0から10までの痛みスケールで、記録時に患者が記入した。
図1に、治療過程中の治療群の平均値を示す。一定の濃度の抗真菌剤では、NSAIDの濃度が最も高いもの(エマルション3)は、対照と比較して治療の経過はよかったが、痛みの強さの低下は対照群と比較して有意な差を示さなかった。すべての患者が治癒した最適の濃度のもの(エマルション2)は、すぐに痛みが完全におさまった。明確な用量依存性は、濃度が最も低いもの(エマルション1)の患者においても明らかであり、痛みが著しく低下したのは1日2回から1日1回の用量に変更するまでであり、それにより、治療過程が遅くなっている(
図1参照)。
【0071】
並行して実施された微生物学的試験では、耐性カンジダ株に感染した患者はいなかったが、RVVC患者の大多数は抗真菌療法に反応がなかったことが示された。
【0072】
以上より、本発明は、以下の好ましい実施形態に関する。
1. NSAIDを含有し、水相と油相を有するエマルションであって、(a)水相中のNSAIDが、これらの活性物質の標準濃度の半分から10分の1に相当する濃度範囲にあり、(b)該エマルションにおける、油相に対する水相の重量比が、2.0~2.7であり、および、(c)エマルションのpH値が、6.5~8.5、好ましくは7.0~8.0の範囲であることを特徴とする、エマルション。
2. 抗真菌剤およびNSAIDを含有し、水相と油相を有するエマルションであって、(a)水相中のNSAIDが、これらの活性物質の標準濃度の半分から10分の1に相当する濃度範囲にあり、(b)該エマルションにおける、油相に対する水相の重量比が、2.0~2.7であり、および、(c)エマルションのpH値が、6.5~8.5、好ましくは7.0~8.0の範囲であることを特徴とする、エマルション。
3. 該エマルションにおける、油相に対する水相の重量比が、2.1~2.6であり、好ましくは2.2~2.55であることを特徴とする、実施形態1または2に記載のエマルション。
4. エマルションのpH値が、7.0~8.5、好ましくは7.5~8.0の範囲であることを特徴とする、実施形態1~3のいずれか1つに記載のエマルション。
5. 軟膏またはクリームの形態であることを特徴とする、実施形態1~4のいずれか1つに記載のエマルション。
6. エマルションが半固体であることを特徴とする、実施形態1~5のいずれか1つに記載のエマルション。
7. 抗真菌剤が、ナイスタチン、シクロピロクスまたはシクロピロクスオラミン、または、アゾールの群、好ましくはクロトリマゾール、フルコナゾール、ミコナゾール、イトラコナゾール、チオコナゾール、ボリコナゾール、ビホナゾール、エコナゾール、イソコナゾール、フェンチコナゾール、セルタコナゾール、ケトコナゾール、ポサコナゾール、キルセコナゾール(quilseconazole)、オテセコナゾール(VT-1161)またはアイブレキサフンジェルプ(SCY-078)から選ばれる抗真菌剤、であることを特徴とする、実施形態1~6のいずれか1つに記載のエマルション。
8. 抗真菌剤がクロトリマゾールであることを特徴とする、実施形態1~7のいずれか1つに記載のエマルション。
9. NSAIDが、好ましくは0.2~0.5重量%の濃度の、ジクロフェナク、好ましくは0.5~2.5重量%の濃度の、イブプロフェン、ブフェキサマク、デキシブプロフェン、フルルビプロフェン、ケトプロフェン、ピロキシカム、メロキシカム、ロルノキシカム、フルフェナム酸、メフェナム酸、好ましくは0.1~0.4重量%の濃度の、インドメタシン、または、好ましくは0.5~2.5重量%の濃度の、ナプロキセン、であること、を特徴とする、実施形態1~8のいずれか1つに記載のエマルション。
10. NSAIDがジクロフェナクであり、エマルションに0.2~0.4重量%の濃度範囲で含まれることを特徴とする、実施形態1~9のいずれか1つに記載のエマルション。
11. エマルションのpH範囲で活性な保存剤が含まれている、実施形態1~10のいずれか1つに記載のエマルション。
12. 保存剤が、フェノキシエタノールまたはプロピレングリコール、またはその2つの組み合わせである、実施形態11に記載のエマルション。
13. 保存剤が、デカリニウム塩化物である、実施形態11に記載のエマルション。
14. 細菌に対して作用する抗生物質をさらに含むことを特徴とする、実施形態1~13のいずれか1つに記載のエマルション。
15. 抗生物質が、ホスホマイシン、クリンダマイシン、メトロニダゾール、ニトロフラントイン、ニトロフラゾン、ニトロフラントイン、ニフラテル、ニフロキサシン(nifuroxacin)、ニトロキソリン、トリメトプリム、スルファジアジン、または、コトリモキサゾールであることを特徴とする、実施形態14に記載のエマルション。
16. 防腐剤を、好ましくは即効性の抗微生物効果に十分な量で、さらに含むことを特徴とする、実施形態1~15のいずれか1つに記載のエマルション。
17. 防腐剤が、第四級アンモニウム塩であることを特徴とする、実施形態16に記載のエマルション。
18. 防腐剤が、好ましくは0.2重量%以上の濃度の、塩化ベンザルコニウム;好ましくは0.2重量%以上の濃度の、デカリニウム塩化物;および、好ましくは2重量%以上の濃度の、フェノキシエタノール、からなる群から選択されることを特徴とする、実施形態16または17に記載のエマルション。
19. 皮膚または膣の真菌感染症の治療用の、実施形態1~18のいずれか1つに記載のエマルション。
20. 膣真菌感染症の局所治療用の、実施形態1~19のいずれか1つに記載のエマルション。
21. 尿生殖路の慢性感染症の治療用の、実施形態1~20のいずれか1つに記載のエマルション。
22. 慢性膣真菌感染症の治療用の、実施形態1~21のいずれか1つに記載のエマルション。
23. 感染症、特にカンジダ・アルビカンスによる膣感染症の治療用の、実施形態1~22のいずれか1つに記載のエマルション。
24. 感染症、特に、カンジダ・アルビカンス、および、エンテロバクター、大腸菌、肺炎桿菌、ガードネレラ・バギナリス、およびプレボテラ属などの細菌による、混合膣感染症の治療用の、実施形態1~23のいずれか1つに記載のエマルション。
25. 細菌性膣炎の治療用の、実施形態1~24のいずれか1つに記載のエマルション。
26. 皮膚または粘膜の真菌感染症、好ましくは、カンジダ真菌症、特に外陰膣カンジダ症、口腔咽頭カンジダ症(鵝口瘡)、おむつ皮膚炎(おむつかぶれ)、肛門湿疹、間擦性湿疹、およびマラセチア真菌症、の治療用の、実施形態1~25のいずれか1つに記載のエマルション。
27. 粘膜炎症、特に慢性粘膜炎症の治療用の、実施形態1~26のいずれか1つに記載のエマルション。
28. 粘膜感染症、特に慢性粘膜感染症の治療用の、実施形態1~27のいずれか1つに記載のエマルション。
29. 粘膜感染症、特に膣炎症の後治療用の、実施形態1~28のいずれか1つに記載のエマルション。
30. 膣炎症が慢性であることを特徴とする、実施形態29に記載のエマルション。
31. 粘膜およびその近傍組織の炎症の治療用の、実施形態1~30のいずれか1つに記載のエマルション。
32. 慢性膀胱炎の後治療用の、実施形態1~31のいずれか1つに記載のエマルション。
33. 萎縮性膣炎の治療用の、実施形態1~32のいずれか1つに記載のエマルション。
34. 肛門粘膜の炎症の治療用の、実施形態1~33のいずれか1つに記載のエマルション。
35. エマルションの製造中に、NSAIDを、水相を介して導入することを特徴とする、実施形態1~34のいずれか1つに記載のエマルションの製造方法。
36. NSAIDを、抗真菌剤を含有するエマルションに、微結晶または微粒塩として導入することを特徴とする、実施形態1~35のいずれか1つに記載のエマルションの製造方法。
37. NSAIDを、抗真菌剤を含有するエマルションに、ヒドロゲルを介して導入することを特徴とする、実施形態1~36のいずれか1つに記載のエマルションの製造方法。
38. 治療上有効な抗菌効果が得られる方法で物質を添加する、実施形態1~37のいずれか1つに記載のエマルションの製造方法。