IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ストライカー・ユーロピアン・ホールディングス・I,リミテッド・ライアビリティ・カンパニーの特許一覧

特許7419256経外耳道耳科手術を行うためのシステムおよび方法
<>
  • 特許-経外耳道耳科手術を行うためのシステムおよび方法 図1
  • 特許-経外耳道耳科手術を行うためのシステムおよび方法 図2
  • 特許-経外耳道耳科手術を行うためのシステムおよび方法 図3
  • 特許-経外耳道耳科手術を行うためのシステムおよび方法 図4
  • 特許-経外耳道耳科手術を行うためのシステムおよび方法 図5
  • 特許-経外耳道耳科手術を行うためのシステムおよび方法 図6
  • 特許-経外耳道耳科手術を行うためのシステムおよび方法 図7
  • 特許-経外耳道耳科手術を行うためのシステムおよび方法 図8
  • 特許-経外耳道耳科手術を行うためのシステムおよび方法 図9
  • 特許-経外耳道耳科手術を行うためのシステムおよび方法 図10
  • 特許-経外耳道耳科手術を行うためのシステムおよび方法 図11
  • 特許-経外耳道耳科手術を行うためのシステムおよび方法 図12
  • 特許-経外耳道耳科手術を行うためのシステムおよび方法 図13
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-12
(45)【発行日】2024-01-22
(54)【発明の名称】経外耳道耳科手術を行うためのシステムおよび方法
(51)【国際特許分類】
   A61F 11/20 20220101AFI20240115BHJP
【FI】
A61F11/20
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020555837
(86)(22)【出願日】2019-04-12
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-08-26
(86)【国際出願番号】 US2019027223
(87)【国際公開番号】W WO2019200259
(87)【国際公開日】2019-10-17
【審査請求日】2022-03-29
(31)【優先権主張番号】62/657,281
(32)【優先日】2018-04-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】514318275
【氏名又は名称】ストライカー・ユーロピアン・ホールディングス・I,リミテッド・ライアビリティ・カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【氏名又は名称】松島 鉄男
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【識別番号】100170379
【弁理士】
【氏名又は名称】徳本 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100180231
【弁理士】
【氏名又は名称】水島 亜希子
(74)【代理人】
【氏名又は名称】有原 幸一
(72)【発明者】
【氏名】オシェイ,コナー
(72)【発明者】
【氏名】ヴォーン,エイダン
(72)【発明者】
【氏名】コノリー,オーエン
(72)【発明者】
【氏名】カーティン,ダミアン マイケル
【審査官】沼田 規好
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2004/0102770(US,A1)
【文献】特表2007-521916(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0036918(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0087908(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0023914(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外耳道を介して行われる外科処置時に、患者の頭部から延びかつ前記外耳道に通じる開口部を画定する耳介を含む耳の中に冠水環境を形成するためのシステムであって、
前記患者の頭部に装着されるように適合されたハウジングであって、
外側面と、
前記外側面に連結する上面と、
前記上面の反対側に位置する下面であって、前記耳介を受け入れる大きさの開口部が画定され、かつ、前記外側面および前記上面とともに流体リザーバ容積を画定する、下面と、
前記上面に設けられ前記流体リザーバ容積と連通するアクセス開口であって、1つ以上の外科器具が入る大きさのアクセス開口と、
を備えた、ハウジングと、
前記流体リザーバ容積に連通し、かつ、灌流ポンプおよび流体源と流体連通する灌流管に接続されるように適合された灌流ポートと、
前記外科処置時に前記ハウジングが前記耳介を取り囲み前記流体リザーバ容積が前記外耳道内の流体の体積を維持するような流体密封状態を形成するために、前記耳介周囲の頭部に当接して配置されるように適合されたシール面と、
を備え、
前記ハウジングの前記アクセス開口が、前記冠水環境を流体表面にて周囲の大気圧にさらして過剰な圧力を逃がしうるように、周囲環境に開放されている、システム。
【請求項2】
前記流体リザーバ容積に連通しているとともに、吸引源と流体連通する吸引管に接続されるように適合された吸引ポートをさらに備える、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記システムは、前記灌流ポンプおよび前記吸引源に接続されるように適合された制御装置をさらに備え、
前記制御装置は、
前記灌流ポートを介して、所定流量で前記流体源から前記流体を送るように前記灌流ポンプを動作させることと、
前記吸引ポートを介して、前記所定流量に基づく吸引流量で吸引を行うように前記吸引源を動作させることと、
を行うように構成されている、請求項2に記載のシステム。
【請求項4】
外耳道を介して行われる外科処置時に、患者の頭部から延びかつ前記外耳道に通じる開口部を画定する耳介を含む耳の中に冠水環境を形成する外科手術システムであって、
前記患者の頭部に装着されるように適合されたハウジングであって、
外側面と、
前記外側面に連結する上面と、
前記上面の反対側に位置する下面であって、前記耳介を受け入れる大きさの開口部が画定され、かつ、前記外側面および前記上面とともに流体の体積を前記外科処置の間維持するための流体リザーバ容積を画定する、下面と、
前記上面に設けられ前記流体リザーバ容積と連通するアクセス開口と、
を備えた、ハウジングと、
前記ハウジングに設けられるとともに、ポンプおよび流体源と流体連通する灌流管に接続されるように適合された灌流ポートと、
前記ハウジングの前記アクセス開口に通して配置することが可能な切削器具であって、回転式の切削部材と、吸引源と流体連通する吸引ポートと、を備え、前記切削部材が、前記外科処置の間に前記流体の体積の内部に浸されるように適合されている、切削器具と、
前記ポンプおよび前記吸引源に接続されるように適合された制御装置であって、
前記ハウジングの前記灌流ポートを介して、所定流量で前記流体源から前記流体を供給するように前記ポンプを動作させることと、
前記外耳道内における前記流体の体積が維持されるように、前記切削器具の前記吸引ポートを介して、前記所定流量に基づく吸引流量で吸引を行うように前記吸引源を動作させることと、
を行うように構成されている制御装置と、
を備え、
前記ハウジングの前記アクセス開口が、前記冠水環境を流体表面にて周囲の大気圧にさらして過剰な圧力を逃がしうるように、周囲環境に開放されている、
外科手術システム。
【請求項5】
外耳道を介して行われる外科処置時に、患者の頭部から延びかつ前記外耳道に通じる開口部を画定する耳介を含む耳の中に冠水環境を形成する外科手術システムであって、
前記患者の頭部に装着されるように適合されたハウジングであって、
外側面と、
前記外側面に連結する上面と、
前記上面の反対側に位置する下面であって、前記耳介を受け入れる大きさの開口部(54)が画定され、かつ、前記外側面および前記上面とともに流体の体積を前記外科処置の間維持するための流体リザーバ容積を画定する、下面と、
前記上面に設けられ前記流体リザーバ容積と連通するアクセス開口と、
吸引管を吸引源と流体連通させる吸引ポートと、
を備えた、ハウジングと、
灌流口を有する灌流シースであって、灌流ポンプおよび流体源と流体連通する灌流管に接続されるように適合された灌流シースを有する内視鏡と、
前記ハウジングの前記アクセス開口に通して配置することが可能な切削器具であって、回転式の切削部材を備え、前記切削部材が、前記外科処置の間に前記流体の体積の内部に浸されるように適合されている、切削器具と、
前記灌流ポンプおよび前記吸引源に接続されるように適合された制御装置であって、
前記内視鏡の前記灌流口を介して、所定流量で前記流体源から前記流体を供給するように前記灌流ポンプを動作させることと、
前記外耳道内における前記流体の体積が維持されるように、前記ハウジングの前記吸引ポートを介して、前記所定流量に基づく吸引流量で吸引を行うように前記吸引源を動作させることと、
を行うように構成されている制御装置と、
を備え、
前記ハウジングの前記アクセス開口が、前記冠水環境を流体表面にて周囲の大気圧にさらして過剰な圧力を逃がしうるように、周囲環境に開放されている、
外科手術システム。
【請求項6】
外耳道を介して耳の中で外科処置を行うシステムであって、
前記外耳道は、患者の頭部から延び、かつ、蝸牛を有する内耳と、鼓室を有する中耳と、鼓膜によって前記中耳から隔てられて前記外耳道に通じる開口部を画定する耳介を有する外耳と、前記耳の複数の部位を取り囲む側頭骨と、を有しており、
少なくとも部分的に前記耳介を取り囲むように前記患者の頭部に装着するように構成されたハウジングを備えたリザーバシステムであって、前記ハウジングが、流体源から流体を受けて前記外耳道内の前記流体の体積を維持することにより冠水環境が形成されるように構成された流体リザーバ容積を画定し、かつ、前記流体リザーバ容積と流体連通するアクセス開口が前記ハウジングに設けられているリザーバシステムと、
前記リザーバシステムの前記アクセス開口に通して前記冠水環境内に浸すように構成された回転式の切削部材であって、前記冠水環境内に浸した状態で回転させて前記耳の中の組織を切除するように構成された切削部材を有する切削器具と、
を備え、
前記ハウジングの前記アクセス開口が、前記冠水環境を流体表面にて周囲の大気圧にさらして過剰な圧力を逃がしうるように、周囲環境に開放されている、
システム。
【請求項7】
前記リザーバシステムに設けられた灌流ポートを介して、流体源から前記外耳道内に前記流体を送るように構成された灌流ポンプをさらに備える、請求項6に記載のシステム。
【請求項8】
前記切削器具に設けられた灌流口を介して、流体源から前記外耳道内に前記流体を送るように構成された灌流ポンプをさらに備える、請求項6または7に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本特許出願は、2018年4月13日に出願した米国仮特許出願第62/657281号の優先権およびすべての利益を主張するものであり、そのすべての開示内容は引用することによって本明細書の一部をなすものとする。
【背景技術】
【0002】
高速切削器具を用いた骨または組織の切除は、多くの外科処置において行われており、そのような切除の多くが、身体の小開口や小腔の内部や、小切開を通して、限られた視野の中で行われる。ここで、高速切削器具で骨や組織を切除すると、熱や残屑が発生する。そして、熱の発生は、壊死や組織損傷のリスクを高め、残屑の発生は、手術部位の視野不良を引き起こす。このような可視化不良の問題は、内視鏡処置においては、残屑の発生によって内視鏡の視野が妨げられてしまうという形でよく見られる問題である。
【0003】
ここで特に注目すべきは、耳の外耳道(external auditory canal,ear canal)を介して行われる内視鏡下外科処置である。上述のような処置において、内視鏡は、中耳や内耳の可視化の点で手術用顕微鏡よりも優れている。術者は、片手で内視鏡を支えながら、内視鏡の視野内で耳鼻科用切削器具を用いて組織切除を行う。そのような内視鏡下切除の例として、真珠腫などの異常増殖組織の切除、中耳へのアクセスを改善するための外耳道壁または側頭骨の切除(切開)、および鼓室形成手術時における上鼓室側壁(scutum、外耳道の上壁に形成される鋭い骨棘)の縮小、が挙げられる。図1に、本開示において参照される特定の構造および領域を有するヒトの耳を示す。
【0004】
身体の小腔内で高速切削器具を使用する他の外科処置の場合と同様、耳の中の骨や組織を切除する場合にも、熱が発生するとともに残屑が堆積する。そのため、公知のシステムでは、灌流や吸引を行うことにより、クリアな視野の確保と切削バーの冷却と図っている。しかしながら、灌流や吸引を行っても、血液や骨の残屑によって視野不良が生じてしまう場合があった。また、切除時に発生する温度上昇によって壊死や組織損傷が生じるリスクは、依然よく見られる問題として残っていた。さらに、灌流、吸引、またはその両方を行うシステムの多くでは、そのための器具を耳の中に別途入れる必要があり、外耳道内の貴重なスペースが奪われてしまっていた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、本技術分野においては、上述の欠点のうちの1つ以上を解決する、経外耳道的内視鏡下耳科手術を行うためのシステムおよび方法が必要とされている。
【0006】
本開示の利点は、以下の詳細な説明を添付の図面と関連させて考察することにより、よりよく理解され、容易に理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】特定の構造および領域を示す、ヒトの耳の説明図である。
図2】本開示の例示的な一実施態様に係る、リザーバシステムで外耳道内に冠水環境を形成した状態で、切削器具を用いて経外耳道的内視鏡下外科処置を行うための外科手術システムを示す説明図である。
図3】外耳道およびリザーバシステム内への冠水環境の形成を容易に行うための吸引管が切削器具に関連付けられた状態で、切削器具を用いて内視鏡下外科処置を行うための外科手術システムの説明図である。
図4】外耳道およびリザーバシステム内への冠水環境の形成を容易に行うための吸引管および灌流管がいずれも切削器具に関連付けられている、外科手術システムの説明図である。
図5A図2のリザーバシステムのハウジングを示す図である。
図5B図2のリザーバシステムのハウジングを示す図である。
図5C図2のリザーバシステムのハウジングを示す図である。
図6A】本開示の他の例示的な一実施態様に係るハウジングを示す図である。
図6B】本開示の他の例示的な一実施態様に係るハウジングを示す図である。
図6C】本開示の他の例示的な一実施態様に係るハウジングを示す図である。
図7A】本開示のさらに他の例示的な一実施態様に係るハウジングを示す図である。
図7B】本開示のさらに他の例示的な一実施態様に係るハウジングを示す図である。
図7C】本開示のさらに他の例示的な一実施態様に係るハウジングを示す図である。
図8A】側臥位にされた患者の頭部に装着されたリザーバシステムの斜視図である。
図8B】仰臥位にされた患者の頭部に装着された図8Aのリザーバシステムの斜視図である。
図9】リザーバシステムの模式図である。
図10】外耳道へのアクセスと可視化を実現する検鏡を有する、本開示のさらなる一実施態様を示す図である。
図11】例示的な切削器具の断面図である。
図12図2図4に示すリザーバシステムで外耳道内に冠水環境を形成した状態の外科手術システムを図示する、本開示の例示的な方法の一工程を実行するための説明図である。
図13図2図4に示すリザーバシステムで外耳道内に冠水環境を形成した状態の外科手術システムを図示する、上記例示的な方法の他の工程を実行するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本開示は、一般的には、外科処置のためのデバイス、システムおよび方法に関し、より具体的には、患者の外耳道を介して行われる外科処置、すなわち、経外耳道耳科手術のためのデバイス、システムおよび方法に関するが、これらに限定されるものではない。
【0009】
図1は、特定の構造および領域を有するヒトの耳(右耳)の説明図である。これらの構造および領域は、本開示全体に亘り参照するものとする。なお、図1の四方向矢印に示す通り、以下の説明においては、各解剖学的方向を、標準的な医学的慣例に従って示すものとする。すなわち、「内側(ないそく,medial)」は身体の中心に向かう方向を、「外側(がいそく,lateral)」は身体の側部に向かう方向を、「上(superior)」は上側(above)を、「下(inferior)」は下側(below)を指すことに留意されたい。一般に、ヒトの耳は、内耳(IE)、中耳(ME)、外耳(OE)の3つの領域に分けられる。内耳は、正円窓(図示せず)と呼ばれる構造によって中耳から隔てられており、図1では、正円窓の内外方向の(mediolateral)位置を略近似的に示している。内耳は、蝸牛(CO)、前庭神経(VN)、蝸牛神経(CN)、耳管(ET)、および内頸動脈(ICA)の内側面などの構造を備えている。なお、耳管は鼻咽頭に続く管である。鼓膜の内側には鼓室(TC)があり、この鼓室は、中耳の内部に位置している。また、中耳は、ツチ骨(MA)、キヌタ骨(IN)、アブミ骨(ST)、半規管(SC)、内頸動脈の外側面、および頸静脈(JV)の一部などの構造をさらに備えている。頸静脈の上面によって、後述する頸静脈球(JB)が形成される。頸静脈球は、鼓室の下側に位置している。中耳は、鼓膜(tympanic membrane:TM、一般名称eardrum)によって外耳から隔てられている。外耳は、外耳道(external auditory canal、一般名称ear canal:EC)を備えている。また、患者の頭部(H)の外部には、一般に耳たぶとも呼ばれる耳介(A)がある(図2図4参照)。図1に示すように、耳介と外耳道とは、本開示において参照される耳の開口部(O)によって分られている。そして、耳の中の各部を取り囲んでいるのが側頭骨(TB)であり、例えば、外耳道や鼓室の上側および下側などに位置している。ここで特に注目すべきは、真珠腫(cholesteatomas)の治療である。真珠腫とは、耳の中で発生する異常増殖であり、側頭骨の部分的破壊を引き起こす場合も多い。詳細については後述するが、真珠腫の顕著な発生位置の1つとして、鼓室の上面の鼓膜近傍位置を挙げることができる。
【0010】
外耳道を介して耳の疾患を治療するという課題に対する公知の解決法には、(例えば、キュレットなどの)手動の外科ツール、または(例えば、シェーバーまたはバーなどの)動力付きの外科ツールを、原因組織の部位まで移動させることが含まれており、多くの場合、そのような移動は、顕微鏡126または内視鏡40で可視化しながら行われる。上述したように、動力付きの外科ツールを用いて骨または組織を切除する場合には、熱が発生するとともに残屑が堆積するが、熱の発生には組織損傷のリスクがあり、残屑の堆積は可視化の妨げとなってしまう。しかしながら、手術部位に灌流を行う公知のシステムでは、十分な冷却や可視化を実現することはできなかった。ここで、図2図4を参照すると、図2図4は、本開示の例示的実施態様に係る外科手術システム20を示している。外科手術システム20は、切削器具30と、内視鏡40と、リザーバシステム50とを備えている。以下、これらの各要素についてより詳細に説明する。リザーバシステム50は、または特定の実施態様ではリザーバシステム50および切削器具30が、耳の中に、より特定的には外耳道内部に、冠水環境(flooded environment)22を形成する。冠水環境22には、特に、切削器具30およびその近傍の組織の冷却の向上、内視鏡40による手術部位の可視化の向上、またはその両方を実現できるという利点がある。
【0011】
冠水環境22には、水、生理食塩水などの適切な流体、好ましくは液体、が供給される。この流体の供給は、流体源98(図9参照)から耳の中に対して行われる。そして、耳の中の流体の体積を維持して、冠水環境22を形成する。特定的には、図2図4に示すように、外耳道内の流体の体積が維持されるように、流体源98から外耳道内に流体を供給することができる。冠水環境22を形成する流体の体積は、適用対象によって異なり得るが、一般的には、切削器具30の切削部材32を部分的または完全に流体に浸すことができる体積であれば十分である。一例では、冠水環境22を形成する耳の中の流体の体積は、約0.2~9ミリリットル(mL)の範囲内であり、より特定的には約0.35~6mLの範囲内であり、さらに特定的には約0.5~3mLの範囲内である。例えば、外耳道内の流体の体積が約0.5~3mLあれば、切削ツール30の切削部材32を浸すのに十分であることが、擬似ヒトモデルの外耳道データに基づいて経験的に特定されている。他の例では、図2図4に示すように、流体は、外耳道の外部、つまり耳の開口部より高い位置に、(例えば、流体の体積の一面などの)流体水位24を有している。具体的には、図2図4は、耳介が浸る流体水位24を示している。流体水位24が耳の外部にあるとき、外耳道全体が流体で満たされ、冠水環境22が形成される。ただし、本方法の特定の態様においては、必ずしも外耳道全体を満たす必要はないことが理解される。外耳道の一部分、例えば、外耳道の長さの20%、30%、40%、または50%以上の部分、を流体で満たして、冠水環境22を形成することもできる。ここで、外耳道の長さは、鼓膜と耳の開口部(図1参照)の間の長さと定義される。
【0012】
そして、冠水環境22を形成することは、以下に詳述する各方法によって、外耳道内の流体の体積を一定状態に維持することを含んでもよい。特定の実施態様においては、所定流量(流速)で流体源98から流体を供給し、当該灌流流量と実質的に等しい吸引流量(吸引速度)で冠水環境22から吸引を行ってもよい。引き続き図2図4を参照すると、図2図4において、流体源98から流体を供給することを「I」で示す灌流と見なすことができ、冠水環境22から吸引を行うことを「S」で示す。図2は、灌流および吸引を行うリザーバシステム50を示している。図3は、灌流を行うリザーバシステム50と、吸引を行う切削器具30とを示している。図4は、灌流および吸引を行う切削器具30を示している。さらに、特定の実施態様では、切削器具30が灌流を行い、リザーバシステム50が吸引を行うことも企図されている。また、内視鏡40が、灌流、吸引、またはその両方を行うこともできる。
【0013】
特定の実施態様では、灌流および吸引を互いに同時かつ外科処置の間連続しで行ってもよい。例えば、吸引流量が灌流流量と実質的に等しい場合には、灌流と吸引を同時かつ連続的に行って流体の体積を一定状態に維持することが望ましい場合がある。他の特定の実施態様では、所定流量で灌流を行い、当該灌流流量とは異なる吸引流量で吸引を行うことにより、外耳道およびリザーバ内の流体の体積を可変とすることもできる。さらに他の構成では、所定流量で灌流を行い、当該灌流流量とは異なる吸引流量で吸引を行いながら、外耳道内の流体の体積を実質的に一定状態に維持することもできる。例えば、灌流と吸引のうち、大きな灌流流量または吸引流量で行われる方を断続的に行い、他方を連続的に行ってもよい。このような例では、灌流と吸引のうち一方をより高い流量で断続的に行なうことと、灌流と吸引のうち他方をより低い流量で連続的に行なうことと、を(例えば、1分、2分、または3分以上、または外科処置の継続時間などの)十分な時間行うことによって、灌流と吸引とが実質的に互いに相殺し合うことになる。特定の実施態様では、灌流流量、吸引流量、またはその両方は、約5~100ミリリットル/分(mL/分)の範囲内であってもよく、より特定的には約5~50mL/分の範囲内であってもよく、さらに特定的には約5~30mL/分の範囲内であってもよいことが企図されている。また、灌流流量、吸引流量、またはその両方の初期値を14mL/分に設定してもよく、灌流流量、吸引流量をそのような初期値から選択的に変更することもできる。また、流体の体積を一定状態に維持する方法としてはさらに他の方法も企図される。
【0014】
外耳道内に冠水環境22を形成すると、冠水環境22内に切削器具30の切削部材32が浸される。本明細書において、「浸される(submerged)」とは、流体の体積の内部に配置すること、流体水位の下に配置すること、の何れかまたは両方を意味する。切削器具30は、冠水環境22内で切削部材32を回転させて耳の中の組織を切除するように動作される。バーヘッド(図10および図11参照)を備える切削部材32を有する切削器具30の場合、本方法は、バーヘッド全体と、該バーヘッドに連結される駆動シャフトの一部のみと、を流体に浸すことを含むことができる。冠水環境22内で組織切除を行うことによって、切削部材32のほぼ全体およびその周辺組織を流体と直接接触させて、流体への熱伝達を最大化した状態で、組織を切除することができるという利点を容易に実現することができる。これにより、切削部材32およびその周辺組織に見込まれる温度上昇が抑えられるため、切削部材32の切削効率の向上、周辺組織の損傷可能性の低減、またはその両方が可能となり得る。
【0015】
引き続き図2図4を参照すると、内視鏡40の遠位端44を冠水環境22内に浸してもよい。本出願に記載の発明に適した内視鏡の一例として、Stryker Corporation(ミシガン州カラマズー)製の1188HD3チップカメラが挙げられる。また、図10を参照して後述するように、内視鏡40に代えて顕微鏡126を使用してもよいことが企図されている。図2図4に示す内視鏡40はシャフト42を備えている。ここで、遠位端44から遠位端44の反対側の近位端46までがシャフト42と定義される。シャフト42の近位端46は、医師が把持して操作するように適合されたハンドピース48に装着することができる。シャフト42の遠位端44は、冠水環境22内に浸される。特定の構成では、切削器具30は、外科処置の少なくとも一部の時間の間、内視鏡40の視野内で切削部材32を回転させるように動作されてもよい。冠水環境22に対して灌流と吸引とを行うことにより流体交換が行われるため、内視鏡40の視野の妨げが最小限に抑えられ、冠水環境22内で組織切除を行うことによる利点がさらに実現される。例えば、灌流および吸引を行うと、これらをリザーバシステム50内に維持される流体の体積に対して行う場合には特に、渦流効果によって、残屑を内視鏡40の視野から遠ざけることができる。
【0016】
特定の構成では、リザーバシステム50によって、冠水環境22の形成を容易に行うことができる。ただし、本開示全体を通して企図される特定の方法は、リザーバシステム50がなくても実行できるものであることを理解されたい。図2図4を引き続き参照するとともに、さらに図5A図5Cも参照すると、リザーバシステム50は、患者の頭部に装着されるように構成されている(図8Aおよび図8Bも参照)。最も一般的な意味では、リザーバシステム50とは、実質的に流体密封状態で患者の頭部にぴったり合うように配置され、それにより得られる流体リザーバ容積52で、冠水環境22を構成する体積の流体を収容するものである。リザーバシステム50は、非侵襲的に患者の頭部に装着されるように構成されている。図2図5Cに示すように、リザーバシステム50は開口部54を備えている。開口部54は、耳介が入る大きさを有しており、これによりリザーバシステム50が少なくとも部分的に(特定の実施態様では完全に)耳介を包む(取り囲む)ようになっている。リザーバシステム50が耳介を取り囲んで、耳介より高い位置までさらに延びることにより、流体リザーバ容積52が、外耳道全体を満たす体積を超える流体をさらに収容している。換言すれば、冠水環境22は、外耳道全体を満たす体積の流体と、流体リザーバ容積52内の耳より高い位置にある追加の流体とを含み得る。
【0017】
また、リザーバシステム50は、ハウジング56を備えている。図2図5Cに示すリザーバシステム50の例示的な実施態様において、ハウジング56は、上側ハウジング58と下側ハウジング60とを備えている。上側ハウジング58および下側ハウジング60は、図2図5Cに示すように連結された別体の構造であってもよく、または射出成形などの適切な製造工程によって一体的に形成されてもよい。図示の実施態様における上側ハウジング58および下側ハウジング60は、上側ハウジング58および下側ハウジング60に関連付けられた連結部材により、互いに連結されている。特定的には、下側ハウジング60から上に向かって環状フランジ62が延びており、環状フランジ62は、外方に延出する凸部64を備えている。一方、上側ハウジング58は、周方向に延びる環状溝66を内面に有している。環状溝66に凸部64が入ることで、上側ハウジング58と下側ハウジング60との間に締まり嵌めが形成される。また、他の接合手段として、例えば、(溶剤接合、接着剤接合などの)接着、(熱溶接、超音波溶接などの)溶接、(ねじ、ボルト、リベットなどの)締結具なども企図される。上側ハウジング58によって、または図示の実施態様では上側ハウジング58と下側ハウジング60の間に、少なくとも部分的に流体リザーバ容積52が画定される。
【0018】
上面68から外側面70までを上側ハウジング58と定義することができる。上面68は、概略的にはハウジング56の上壁と見なすことができ、外側面70は、概略的にはハウジング56の直立側壁と見なすことができる。上面68および外側面70は、連結された別体の構造であってもよく、または図2図5Cに示すように一体的に形成されてもよい。上面68および外側面70は、剛性材料、半剛性材料、柔軟材料、またはそれらの任意の組み合わせによって形成することができる。図示の実施態様に示す上面68および外側面70は適切な剛性を有しており、これにより、特に流体の体積が流体リザーバ容積52を完全には満たしていない場合でも、上側ハウジング58の形状が保たれるようになっている。図2図5Cに示す上面68と外側面70とによって全体として、略半球形状を有する上側ハウジング58が形成されており、これにより、ハウジング56が耳介を実質的に包み込む形状となっている。外側面70は、耳介が入る大きさの開口部54を少なくとも部分的に画定している。上側ハウジング58が柔軟材料で形成されている特定の実施態様では、ハウジング56は、患者の耳と頭部に概ねフィットすることができる。一例では、ハウジング56は、曲がって患者の頭部と密着する形状となるように構成されている。他の例では、少なくとも上側ハウジング58が、高い可撓性を有しており、自重で形状が崩れる。その場合、ハウジング56の外形は、冠水環境22の流体水位に応じて小さくなる。換言すれば、この場合、例えば外耳道に流体が供給されていない状態では、重力の影響により、上側ハウジング58はその形状を維持することができず、上面68および外側面70が耳介の上にほぼ乗った状態となり得る。そして、十分な流体が供給されて流体水位24が外耳道より高い位置まで来ると、この柔軟性のある上側ハウジング58は、流体水位24に合わせて変形する。
【0019】
外側面70および上面68は、流体リザーバ容積52の少なくとも部分的な画定を行う。換言すれば、流体リザーバ容積52は、外側面70と、上面68より下側と、耳の開口部より上側とによって定まる境界の内部に画定され得る。ただし、上側ハウジング58の上面68は、特定の実施態様では任意選択的であり、外側面70が耳より十分に高い位置まで延びて冠水環境22を収容するものであればよい(例えば、上壁のない円筒状の側壁であってもよい)ことが理解される。このような代替的な実施態様では、流体リザーバ容積52は、外側面70と耳の開口部より上側とによって定まる境界の内部に画定され得る。さらに、上側ハウジング58が略半球形状または円筒形状である代わりに、円錐型の形状(すなわち、円錐台形状)、直方体、立方体、ドーナツ状、より高次の多面体などの他の形状であってもよいことも企図されている。さらに、本明細書において具体的には検討していない他の構成をハウジングが有していてもよい。
【0020】
さらに、平面視(図5B)では、ハウジング56は、擬似ヒトモデルデータに基づく耳の寸法と概ね対応する寸法を有する略楕円形であると考えられ得る。例えば、楕円形についての公知の幾何学的技法によれば、ハウジング56の短半径は、約20~60ミリメートル(mm)の範囲内であってもよく、より特定的には約35~45mmの範囲内であってもよい。ハウジング56の長半径は、約30~70mmの範囲内であってもよく、より特定的には約40~60mmの範囲内であってもよい。そして、例えば、短半径が約40mmで長半径が約50mmの場合に、耳介を取り囲む頭部の平坦部位との間に流体密性を有しながら耳介を入れるのに十分な容積が得られることが、擬似ヒトモデルの耳介データに基づいて経験的に特定されている。但し、これらの寸法は、本発明を適用する特定の対象の解剖学的寸法(頭部の大きさ、耳の大きさ、耳介の形状など)に基づいて変化させてもよいと考えられる。
【0021】
下側ハウジング60は、下面72を画定することができる。図2図5Cに示す実施態様では、下面72が、流体リザーバ容積52のさらなる画定を行っている。つまり、上面68と外側面70と下面72とによって全体としてそれらの間に流体リザーバ容積52が形成されるように、下面72は上面68に対向して配置されている。環状フランジ62は下面72から上に向かって延びており、溝66と係合して上側ハウジング58と下側ハウジング60とを連結するように適合されている。また、後述する特定の実施態様(図6A図7Cを参照)では、下面72は、(別体の上側ハウジング58と下側ハウジング60とで構成されない)一体型ハウジング56の一部である。下面72は、耳介が入る大きさの開口部54の少なくとも部分的な画定を行い得る。特定的には、図2図5Cの下面72は円盤状であり、開口部54の少なくとも部分的な画定を行っている。
【0022】
リザーバシステム50は、シール面74をさらに備えてもよい。最も一般的な意味では、シール面74は、リザーバシステム50と患者の頭部との間の界面である。特定的には、シール面74は、図2図5Cに示すように、耳介周囲の頭部に当接して配置されている。他の部分の中でも特にシール面74が、リザーバシステム50と患者の頭部との間に流体密または略流体密封状態を担っている。ハウジング56が流体密な配置で耳介を取り囲むことにより、ハウジング56は、外科処置の間、外耳道および流体リザーバ容積52内の流体の体積を維持する。特定の実施態様では、下面72が耳介周囲の頭部に当接して配置されることにより、シール面74を形成する。図示の実施態様では、リザーバシステム50がシール部材76を備えており、シール部材76がハウジング56の下面72に連結されて、シール面74を形成している。シール部材76は、リザーバシステム50と患者の頭部との間に流体密封状態を形成するように構成された、可撓性、変形可能性、フィット性の少なくともいずれかを有する1つ以上の材料によって形成することができる。例えば、シール部材76は、流体源からの流体を受けるように適合された膨張式ブラダーであってもよいし、弾性ゴムまたは弾性シリコンなどの適切な材料によって形成されたガスケットであってもよい。シール部材76は、接着、溶接、締結具などの任意の適切な接合手段を介してハウジング56に連結することができる。図示の実施態様では、複数の矢尻状部(barb)78が、下側ハウジング60の下面72から下向きに延びている。シール部材76は、孔80を備えてもよい。孔80は、各矢尻状部78が摩擦嵌めまたは締まり嵌めによって孔80と係合する大きさを有している。シール面74(または、患者の頭部のシール面74に当接する部位)にシール剤(図示せず)を塗布して、リザーバシステム50と患者の頭部との間の流体密な密封度をさらに高くすることも企図されている。本出願の発明に適したシール剤の例としては、ワックス、ゲル、フォーム、マスクシール、ワセリンなどが挙げられる。
【0023】
シール部材74は、耳介が入る大きさの開口部54の少なくとも部分的な画定を行う。引き続き図2図5Cを参照すると、シール部材74は、リング状またはドーナツ状であり、概ね下側ハウジング60の下面72に沿った形状をしている。換言すれば、シール部材74が下面72に連結されると、シール部材74と下面72とは(上面68の極(pole)82を通って延びる軸線を中心に)同軸配置されて、シール部材74が少なくとも部分的に、または特定の実施態様では完全に、耳介を包む(取り囲む)ことができるようになっている。
【0024】
リザーバシステム50は、リザーバシステム50と患者の頭部との間の流体密封状態を容易に維持できるように構成された保持部材84をさらに含んでもよい。保持部材84は、図8Aおよび図8Bに示すように、患者の頭部に装着されるように適合されており、より特定的には、患者の頭部の頭蓋(C)に対して装着、または患者の頭部の頭蓋の周囲に装着されるように適合されている。図示の実施態様では、保持部材84は伸縮性バンドであり、ハウジング56に連結されて、患者の頭蓋周囲に沿って延在している。あるいは、保持部材84が、流体密な配置で患者の頭部にリザーバシステム50を装着するのに適した、ストラップ、接着剤などの他の手段を備えてもよいことが企図されている。図5に示すハウジング56は、保持部材84に着脱可能に連結されるように適合された複数の連結部材86を備えている。図示の実施態様の各連結部材86は、上側ハウジング58の外側面70の外面に連結された細長い棒を備えている。この細長い棒は、例えば伸縮性バンドなどの保持部材84の両端部(図示せず)が差し込めるように構成されている。また、保持部材84とハウジング56を連結する他の手段として、例えば、ボタン、スナップ、ジッパー、クリップ、かぎホック留め、接着剤、結び付けなども企図されており、そのような連結手段は、保持部材84とハウジング56の一方または両方に設けられる。換言すれば、特定の構成では、保持部材84は、ハウジング56のいかなる部分も生体構造に貫通しない非侵襲性の装着デバイスである。そして、保持部材84が、耳介を取り囲むとともに完全に耳の外側にある患者の頭部の部位と、互いに平坦な状態で接触するシール面74を形成する。ただし、リザーバシステム50を、1つ以上のネジまたは1つ以上のピンなどの侵襲性の保持デバイスで患者の頭部に装着してもよいことも企図されている。
【0025】
図2図5Cに戻ると、リザーバシステム50はアクセス開口88を備えている。アクセス開口88は、上面68内に形成される。アクセス開口88は、例えば、切削器具30、内視鏡40またはその両方などの1つ以上の外科器具を入れるのに適した大きさを有している。例えば、アクセス開口88の(極82を通って延びる軸線を中心とする)半径は、約5~約30mmの範囲内であってもよく、より特定的には約10~約20mmの範囲内であってもよく、さらに特定的には約15mmであってもよい。図示の実施態様では、アクセス開口88は、上面68の極82を通って延びる軸線を中心とする円形を有する1つの開口である。特定の実施態様では、アクセス開口88は、例えば、約20mmの短半径と約20mmの長半径とを有する楕円形(円形)であってもよく、より特定的には、約15mmの短半径と約20mmの長半径とを有する楕円形であってもよい。図2図4では、切削器具30と内視鏡40の両方を同時にアクセス開口88に通すように配置して、冠水環境22内に浸している様子が示されている。ただし、1つ以上のアクセス開口88の大きさ、形状、位置、およびそれらの組み合わせについては、上述した構成以外であってもよいことが企図されている。例えば、アクセス開口88を、上面68を貫通する2つの開口で構成し、これらの開口を、極82を介して対向するように偏心配置してもよい。例えば、これらの2つの開口のうち一方の開口に切削器具30を入れ、他方の開口に内視鏡40を入れることになる。さらに、上側ハウジング58が(例えば、上壁のない円筒状の側壁であるなど、)上面68を備えない実施態様においては、アクセス開口88は、外側面70の上端の境界によって画定され得ることが企図されている。
【0026】
変形可能なバルブ(図示せず)をハウジング56に連結し、アクセス開口88内に設けてもよい。変形可能なバルブは、アクセス開口88を介した流体リザーバ容積52からの流体の流出を防止するものである。一例では、変形可能なバルブは、ダックビルバルブである。他の例では、変形可能なバルブはダイヤフラムである。その場合のダイヤフラムは、1つまたは複数の外科器具が突き刺せるように適合されるとともに、バルブと突き刺す器具との間の密封状態が実質的に維持されるように適合された(例えば、エラストマーなどの)材料から形成される。また、このような例では、流体リザーバ容積52を加圧状態としてもよい。
【0027】
上述したように、図2は、図中では模式的にそれぞれ「I」と「S」で示す灌流と吸引とを行って、外耳道内の流体の体積を維持し冠水環境22を形成するリザーバシステム50を示している。さらに図5A図5Cおよび図9も参照すると、リザーバシステム50は、1つ以上の灌流ポート90、1つ以上の吸引ポート92、またはその両方を備えてもよい。灌流ポート90は、灌流管94を受け入れて灌流ポンプ96および流体源98と流体連通し、灌流流路を形成するように適合されており、一方、吸引ポート92は、吸引管100に接続されて吸引源102および廃棄物処理リザーバ104などの廃棄物処理システムと流体連通し、吸引流路を形成するように適合されている。図5A図5Cは、ハウジング56に連結する、より特定的には、ハウジング56の外側面70に連結する灌流ポート90と吸引ポート92とを示している。なお、灌流ポート90および吸引ポート92は、ハウジング56の同じ側に配置されているが、他の位置や配置も本開示の範囲に含まれる(図7参照)。一構成では、吸引ポート92を、灌流ポート90よりも高い位置でハウジング56に配置して、冠水環境22からのオーバフローに対する安全措置を講じることもできる。ハウジング56が2つ以上の灌流ポート90、2つ以上の吸引ポート92、またはその両方を有する構成では、これら2つ以上の灌流ポート90や吸引ポート92を、ハウジング56の両側にそれぞれ配置してもよい。これにより、ハウジング56が水平になっていない場合でも、円滑に動作が行われて冠水環境22を維持することができるようになっている。灌流ポート90と吸引ポート92とは、適切な接続部によってそれぞれ灌流管94と吸引管100とに着脱可能に連結されるように適合されている。そのような適切な接続部は、ルアー継手やバヨネット式マウントなど、流体リザーバ容積52と灌流流路や吸引流路との間に流体連通を確保するものである。
【0028】
一例では、吸引管100、吸引源102、および廃棄物処理リザーバ104は、「NEPTUNE」という商標で販売されているStryker Corporation(ミシガン州カラマズー)製の外科用廃棄物管理システムが備えるものである。当該外科用廃棄物管理システムは、共同所有特許である米国特許第7621898号、米国特許第8216199号、米国特許第8740866号、米国特許第8915897号、米国特許第9579428号の各明細書に開示されており、そのすべての開示内容は引用することによって本明細書の一部をなすものとする。灌流ポンプ96および吸引源102は、灌流ポンプ96および吸引源102の動作を制御するように適合された制御装置106に動作可能に接続されている。米国特許第7238010号明細書には、例示的な吸引/灌流システムが開示されており、そのすべての開示内容は引用することによって本明細書の一部をなすものとする。リザーバシステム50は、1つ以上のバルブ108を含んでもよい。バルブ108は、灌流流路、吸引流路、またはその両方の内部の適切な位置に設けられ得る。その場合、制御装置106はバルブ108の動作を制御するように適合され、バルブ108は、制御装置106に動作可能に接続される。
【0029】
後述する1つ以上のセンサ110を、ハウジング56に接続するとともに、制御装置106に動作可能に接続することもできる。リザーバシステム50は、ディスプレイ112とユーザ入力部114とをさらに備えてもよい。ディスプレイ112とユーザ入力部114は、いずれも制御装置106に動作可能に接続される。ディスプレイ112は、リザーバシステム50に関連づけられたパラメータを出力することができる。そのようなパラメータとしては、例えば、灌流流量、吸引流量、流体水位、流体体積、流体リザーバ容積52内の圧力レベル、またはそれらの任意の組み合わせが挙げられる。ユーザ入力部114は、ユーザからの入力を受けて、リザーバシステム50の特定の機能を実行するように構成されている。そのような機能としては、例えば、システム電源の投入や切断、灌流流量の増減、吸引流量の増減など、またはそれらの任意の組み合わせが挙げられる。ディスプレイ112およびユーザ入力部114を、スマートフォン、タブレット、携帯情報端末(PDA)などのモバイル機器、またはノートパソコン、デスクトップパソコン、などの適切な入出力デバイスに実装することもできる。
【0030】
リザーバシステム50の例示的動作が、患者を側臥位(図8A参照)にして、患者の中耳に向かって重力の井戸(gravity well)を形成することを含んでもよい。上述の通り、リザーバシステム50は、例えば、保持部材84によって患者の頭部に装着される。制御装置106は、灌流ポンプ96を動作させて、流体源98から灌流管94と灌流ポート90とを介して流体を送り込むとともに、吸引源102を動作させて、吸引ポート92と吸引管100とを介して吸引を行う。灌流ポンプ96および吸引源102の動作は、流体水位24が流体リザーバ容積52内の耳より高い位置となるように行われ得る。換言すれば、外耳道全体を流体で満たすとともに、リザーバシステム50のハウジング56の少なくとも一部も流体で満たす。図2に示す実施態様では、流体水位24は流体リザーバ容積52内の耳介より高い位置にあり、外耳道全体が流体で満たされた冠水環境22が形成されている。一例では、制御装置106は、外耳道および流体リザーバ容積52内に維持される流体の体積が約10~750mLの範囲内、より特定的には約20~500mLの範囲内、さらに特定的には約30~250mLの範囲内となるように、灌流ポンプ96および吸引源102を動作させる。
【0031】
1つ以上のセンサ110をハウジング56の適切な位置に接続して、各位置に流体が存在するか否かを検出してもよい。一実施態様では、これらのセンサ110が、ハウジング56に接続されて流体を電気的に検知する部材を含んでもよい。この流体を電気的に検知する部材は、インピーダンスまたは抵抗を検知するように構成することができる。他の実施態様では、センサ110が、ハウジング56に連通する測定容器をさらに備えてもよい。その場合、センサ110は、測定容器内の圧力を測定するように構成された圧力センサを備える。さらに他の実施態様では、センサ110は、ハウジング56内の流体の存在を光学的に判定する光学センサであってもよい。センサ110は、流体水位信号を制御装置106に送信してもよく、その場合、制御装置106は、流体水位信号に基づき灌流ポンプ96、吸引源102、またはその両方を適宜動作させて、冠水環境22の調整または維持を行う。
【0032】
特定の実施態様では、2つ以上のセンサ110を、外耳道を挟んで離間した様々な位置でハウジング56に接続してもよい。この実施態様では、センサ110は、各位置で流体が存在するか否かを検出し、流体水位信号を制御装置106に送信してもよい。そして、制御装置106は、これら2つ以上のセンサの流体水位信号に基づいて、ハウジング56のある位置における流体水位がハウジング56の他の位置における流体水位よりも低くなっている可能性を確認することができる。この実施態様には、例えば、ハウジング56が若干傾いた患者の頭部上に配置されている場合などの、ハウジング56が完全に水平には配置されていない場合に、制御装置106がそのような傾斜を補償することができるという利点がある。これにより、あるセンサ110での流体水位が他の1つ以上のセンサ110での流体水位よりも低い場合でも、制御装置106は、流体水位信号に基づき灌流ポンプ96、吸引源102、またはその両方をより正確に制御して、外耳道内の冠水環境22の調整または維持を適宜行うことができる。
【0033】
特定の例示的動作では、制御装置106は、外耳道および流体リザーバ容積52内の流体の体積が、外耳道全体が流体で満たされた一定状態に保たれるように灌流ポンプ96および吸引源102を動作させる。制御装置106は、所定流量で流体を供給するように灌流ポンプ96を動作させるとともに、当該灌流流量に基づく吸引流量で冠水環境22から流体を吸引するように吸引源102を動作させる。一例では、吸引流量と灌流流量とが実質的に等しくなるように設定した上で、灌流と吸引を同時かつ連続的に行ってもよい。他の例では、灌流流量と吸引流量のうちいずれかを変化させた上で、灌流ポンプ96と吸引源102のうち一方を断続的に動作させて、流体リザーバ容積52への供給体積と排出体積が等しい場合と実質的に等しい効果が得られるようにする。
【0034】
そして、外耳道内に冠水環境22を形成した状態で、あるいは特定の実施態様では外耳道および流体リザーバ容積52内に冠水環境22を形成した状態で、ハウジング56のアクセス開口88に1つ以上の外科器具が通される。引き続き図2を参照すると、切削器具30の切削部材32がアクセス開口88に通して冠水環境22内に浸される。さらに、特定の実施態様では、これに加えて、内視鏡40の遠位端44もアクセス開口88に通して冠水環境22内に浸される。切削器具30をアクセス開口88に通して配置している状態で、内視鏡40を同じアクセス開口88に通してもよい。一例では、切削部材32をアクセス開口88に通して冠水環境22内に浸した状態で、(医師の)片手で切削器具30が支えられるとともに、内視鏡40をアクセス開口88に通して冠水環境22内に浸した状態で、もう片方の手で内視鏡40が支えられる。切削器具30の切削部材32を冠水環境22内に浸した状態で、切削器具30は耳の中の組織を切除するように動作される。また、特定の例示的な外科手術法においては、組織切除を行う前に、切削部材32が冠水環境22内に浸されることも考えられる。
【0035】
上述の開示内容によって、リザーバシステム50はいくつかの利点を実現することができる。まず、リザーバシステム50によって冠水環境22が維持されることにより、特定的には、制御装置106によって灌流ポンプ96と吸引源102とを動作させることにより、医師は、外科処置の特に重要な部分、すなわち耳の中の組織を切除すること、に意識を的確に集中させることができる。さらに、特定の構成では、リザーバシステム50によって冠水環境22が維持されることによって、外耳道内に吸引ツールや灌流ツールを別途挿入する必要がなくなるため、外耳道内の貴重なスペースが奪われることがない。さらに、上述したように、冠水環境22を形成することにより、切削部材32の切削効率の向上、周辺組織の損傷可能性の低減、内視鏡40の視野の妨げの最小限化、のうち少なくとも1つが得られる。また、リザーバシステム50のこれらの利点は、例えば、鼓室形成手術、アブミ骨切除手術、蝸牛インプラント手術(人工内耳手術)などのいくつかの外科処置においても得られる場合がある。
【0036】
図6A図7Cは、本開示の代替的な例示的実施態様に係るハウジング56を示している。少なくともいくつかの点において、以下に説明する実施態様のハウジング56は、上述の実施態様と同様の構成を有しており、同様の構成には同様の符号を付している。説明の効率化のため、以下では、このような同様の構成については特定の側面のみ説明するが、説明を省略した同様の側面は引用することによって本明細書の一部をなすことが理解される。図6A図7Bは、上面68、外側面70、下面72が一体形成された構造を示している。別体の上側ハウジングと下側ハウジングとによる構成ではないため、製造の簡素化やコスト低減が図られるとともに、上側ハウジングと下側ハウジングとの間の連結界面で流体漏れが発生してしまう可能性がなくなる。上面68と外側面70とによって全体として、略半球形状を有するハウジング56が形成されており、これにより、ハウジング56が耳介を実質的に包み込む形状となっている。下面72は、外側面70から半径方向外方に延びている。これにより、流体リザーバ容積52が、外側面70と、上面68より下側と、耳の開口部より上側とによって定まる境界の内部に概ね画定される。本実施態様では、下面72は、流体リザーバ容積52を有意に画定するものではなく、どちらかというと、シール部材76を連結するための構造として機能する。従って、図2図5Cに示す実施態様の流体リザーバ容積52の方が、図6A図7Cに示す実施態様の流体リザーバ容積52より大きくなり得る。また、図6A図7Cでは、連結部材86が下面72の上側の表面に連結されていることにも留意されたい。
【0037】
特に図7A図7Cを参照すると、シール部材84は1つ以上のフィン85を備える。フィン85は、ハウジング56に、より特定的には、下面72に連結している。フィン85は、シール面74を形成して、ハウジング56と患者の頭部との間に流体密封状態を形成するように構成されている。フィン85は、下面72の下側の表面から下方に延びている。フィン85は、下面72とは別体の構造を下面72に連結したものであってもよいし、下面72と一体形成されていてもよい。図7A図7Cに示すように、フィン85は、断面視で細長い形状を有している。フィン85は、上面68の極82を通って延びる軸線に対して外方に若干湾曲した、先端の尖ったテーパ状とすることができる。フィン85は、患者の頭部に当接して配置されたときに、外側に若干たわんでシール面74を形成するように、弾性材料で形成することができる。具体的には、フィン85が湾曲していることにより、伸縮性バンドなどの保持部材84によってハウジング56に圧迫が加わると、フィン85は外側に若干たわむ。フィン85が持つ弾力性によって患者の頭部に力が加えられ、この反発力によってリザーバシステム50と患者の頭部との間の流体密封状態が促進される。さらに、ハウジング56の平面視で、フィン85は略リング形状に形成されており、これにより、ハウジング56を患者の頭部に装着したときに、フィン85が耳介を取り囲むようになっている。これらのフィン85は、上面68の極82を通って延びる軸線を中心に同軸配置してもよい。なお、図7A図7Cには、同心配置された3つのフィン85が示されているが、シール部材84は、1つ、2つ、または4つ以上のフィンを備えてもよいことが理解される。また、図7A図7Cに示すハウジング56の例示的な実施態様では、ハウジング56の外側面70において、灌流ポート90と吸引ポート92とが、極82を通って延びる軸線の両側にそれぞれ配置されていることにも留意されたい。
【0038】
ここで、図3および図4に戻ると、図3は、灌流を行うリザーバシステム50と、吸引を行う切削器具30とを示している。図4は、灌流および吸引を行う切削器具30を示している。具体的には、図3に示す例示的な実施態様では、切削器具30が吸引口34を備えている。さらに図9を参照すると、吸引口34は、吸引管100、吸引源102、および廃棄物処理リザーバ104に連通接続するように構成されている。一方、図4に示す実施態様では、切削器具30が吸引口34と灌流口35とを備えている。
【0039】
他の実施態様では、内視鏡40が灌流シース41を備えており、灌流シース41が灌流口35を有している。内視鏡に適した灌流シースについては、米国特許第10028644号に開示されており、その開示内容は引用することによって本明細書の一部をなすものとする。灌流口35は、灌流管94、灌流ポンプ96、および流体源98に連通接続するように構成されている。吸引口34は、切削ツール、切削器具、またはその両方に設けることができる。特定の実施態様では、切削器具30に設けられる吸引口34、灌流口35、またはその両方が、切削部材32の近傍に配置される。
【0040】
図3および図4に示す実施態様の例示的動作は、多くの点で上述の動作と同様である。図3のリザーバシステム50では、ハウジング56が患者の頭部に装着され、制御装置106が、灌流ポンプ96を動作させて、流体源98から灌流管94と灌流ポート90とを介してハウジング56内に流体を送る。制御装置106(または切削器具30に関連付けられた別体の制御装置)は、吸引源102を動作させて、吸引口34と吸引管100とを介して廃棄物処理リザーバ104内に流体を引き込む吸引を行う。灌流ポンプ96および吸引源102の動作は、上記と同様に冠水環境22が維持されるように行われる。灌流ポート90は、冠水環境22内に浸される吸引口34より高い位置に配置されると認められる。従って、灌流ポート90から冠水環境22への流体の流入は、流体水位24の近傍、流体水位24の線上、または流体水位24より高い位置から行われる一方、冠水環境22からの吸引は、流体水位24より低い位置から、より特定的には、外耳道内の流体水位24より低い位置から行われる。これにより、実質的な効果として、流体および残屑を手術部位から取り除くことと、そこから時間をおかずに「新鮮な」流体を重力によって上から手術部位に補充することとを含む効果が得られる。さらに、ハウジング56に連結される灌流ポート90が、切削器具30に設けられる吸引口34から概ね遠い位置に配置されていることにより、上述した渦流効果によって、残屑を内視鏡40の視野からさらに遠ざけることができる。図4のリザーバシステム50では、ハウジング56が患者の頭部に装着され、制御装置106が、灌流ポンプ96を動作させて、流体源98から灌流管94と灌流口35を介して流体を送る。制御装置106(または切削器具30に関連付けられた別体の制御装置)は、吸引源102を動作させて、吸引口34と吸引管100とを介して廃棄物処理リザーバ104内に流体を引き込む吸引を行う。灌流ポンプ96および吸引源102の動作は、上記と同様に冠水環境22が維持されるように行われる。冠水環境22に対する流体の供給と吸引とが、流体水位24より低い位置、より特定的には、外耳道内の流体水位24より低い位置で行われることにより、上述の渦流効果が得られるとともに手術部位で撹拌効果または乱流効果が得られ、冷却効果を向上する、残屑を内視鏡40の視野から遠ざける、またはその両方を実現できる。
【0041】
特定の実施態様では、吸引ポート92を「過充填排出口」として機能するように配置することも企図されている。例えば、リザーバシステム50が吸引ポート92から吸引を行い、切削器具30が灌流を行ってもよい。灌流口35から冠水環境22への流体の供給は、流体水位24より低い位置から、より特定的には、外耳道内の流体水位24より低い位置から行われる一方、冠水環境22からの吸引は、流体水位24の近傍、流体水位24の線上、または流体水位24より高い位置から行われる。他の例では、吸引ポート92は、ハウジング56に連結される灌流ポート90よりも上の位置でハウジング56に連結されている。灌流ポート90を介した冠水環境22への流体の供給は、第1の高さから行われる一方、吸引ポート92を介した冠水環境22からの吸引は、第1の高さとは異なる第2の高さから行われる。流体水位24が第2の高さ以下である場合には、吸引ポート92からの流体の吸引は行われない(制御装置106は、吸引源102の動作をオフにしてよい)。流体水位24が第2の高さに達すると、流体が吸引ポート92から吸引されて、流体水位は第2の高さで一定状態に維持される。ハウジング56に灌流ポート90と吸引ポート92とを設けるとともに、切削器具30に吸引口34と灌流口35とを設けてもよいことが企図されている。換言すれば、灌流源、吸引源、またはその両方を、それぞれ1つ以上設けてもよい。これらの複数の灌流源および吸引源は、制御装置106によって、所望の冠水環境22が維持されるように互いに協調して動作され得る。
【0042】
さて、処置中に、耳の生体構造における繊細な部位に過度の圧力が加わらないようにすれば有益である場合がある。特定の実施態様では、ハウジング56のアクセス開口88が、アクセス開口88周辺の外界に開口していてもよい。これにより、流体表面において冠水環境22が周囲の大気圧にさらされ、過剰な圧力を手術部位から逃がすことができる。圧力の観点では、耳は無視できる程度の深さしか有していないため、耳の底部における静水圧は、流体の深さによる水圧を実質的には含まない。したがって、特定の構成では、冠水環境内の静水圧は、通常1.00気圧±0.05気圧である周囲の大気圧と実質的に差異はないことになる。さらに、本開示のさらなる一実施態様においては、耳の中の圧力が1.00気圧±0.05気圧を超えてしまうことがないよう、灌流口35と灌流ポンプ96とは、灌流口35から耳の中に実質的に大気圧で流体が送られるように構成される。
【0043】
図10を参照すると、本開示は、外耳道を介して行われる外科処置時に耳の中で切除を行うさらなる方法を含んでいる。本方法は、作業管腔(working lumen)121と2次管腔122とを画定する検鏡120を準備するステップと、作業管腔121を介して容易に外耳道にアクセスしたり、外耳道を可視化したりできるように、検鏡120を耳の中に配置するステップと、を含む。外耳道の可視化は、顕微鏡126などの様々な光学デバイスまたは電子デバイスによって実現することができる。本方法はまた、切削器具30を作業管腔121に通すことと、外耳道の組織を切除するように切削器具30を動作させることと、を含む。また、本方法は、流体源98から流体を外耳道内に送るように灌流ポンプ96を動作させることと、外耳道内から吸引を行うように吸引源102を動作させることと、をさらに含む。吸引源102および灌流ポンプ96のうち少なくとも一方が、検鏡の2次管腔122と流体連通している。
【0044】
上述の外耳道を介して行われる外科処置時に耳の中で切除を行うさらなる方法の構成を図10に示す。灌流ポンプ96による流体源98から外耳道までの流体の送達は、灌流ポンプ96と流体連通する灌流管94および検鏡120の2次管腔122、灌流ポンプ96と流体連通する切削器具30の灌流口124、灌流ポンプ96と流体連通する灌流口124を有する補助デバイス123、またはそれらの組み合わせを介して行われ得る。さらに、吸引源102による外耳道内からの吸引は、吸引源102と流体連通する吸引管100および検鏡120の2次管腔122、吸引源102と流体連通する切削器具30の吸引口125、吸引源102と流体連通する吸引口125を有する補助デバイス123、またはそれらの組み合わせを介して行われ得る。さらなる一実施態様では、検鏡120が3次管腔127を備えてもよい。これにより、検鏡120は、2次管腔122と3次管腔127の両方を使用して、検鏡120から吸引と灌流とを同時に行うことができるように構成される。
【0045】
本開示全体に記載されているように、外科手術システム20は、耳の中の組織を切除するように適合された切削部材32を有する切削器具30を備えている。また、切削器具30は、バー、シェーバー、ドリルなどの回転式の切削部材32を有する任意の適切な外科器具を備えてもよい。例示的な切削器具30として、Stryker Corporation(ミシガン州カラマズー)製のS2 πDrive(登録商標)ドリルシステム、Sumex(登録商標)ドリルシステム、Maestro(登録商標)ドリルシステム、Saberドリルシステム、Arilドリルシステムが挙げられる。また、例示的なシェーバーとして、ESSx(登録商標)マイクロデブライダーシステムや、共同所有特許である米国特許第6152941号、米国特許第6689146号、米国特許第7717931号、および米国特許第8475481号に開示されているシェーバーが挙げられる。なおこれらの文献のすべての開示内容は引用することによって本明細書の一部をなすものとする。シェーバーは、外側チューブと、外側チューブ内に回転可能に配置されるチューブ状の駆動シャフトと、を備えており、外側チューブに設けられる窓とチューブ状の駆動シャフトに設けられる窓との間で切削部材32を形成している。吸引口34は、切削部材32を形成するこれらの窓に連通していてもよい。これらの窓は、切削器具30がチューブ状の駆動シャフトを回転させることにより、組織を切除するように適合されている。他の好適な切削器具30として、ルータ、高周波(RF)アブレーション用電極、鋸駆動装置に装着するように構成された鋸またはブレード、外科用メス、超音波手術器(sonopet)に装着するように構成された超音波チップ、キュレット、やすり、トロカールスリーブ、生検鉗子、結紮器、組織縫合器、組織剪刀などの、内視鏡用ハンドピースに装着するように構成された任意の内視鏡用切削デバイス、またはそれらの任意の組み合わせを挙げることができる。
【0046】
上述のドリルシステムおよびシェーバーシステムは、一直線状であってもよいし、傾斜がついていてもよい。しかしながら、経外耳道的内視鏡下耳科手術の場合に特に注目すべきは、湾曲した切削器具30である。図11を参照して、切削器具30は、ノーズチューブ31と、ノーズチューブ31内に回転可能に配置される駆動シャフト33と、をさらに備えてもよい。切削部材32は、駆動シャフト33の遠位端に配置されている。ノーズチューブ31は、近位区間37から延びる遠位区間36を含んでもよい。遠位区間36は、近位区間37に対して傾斜または湾曲しており、これにより屈曲部が形成されている。駆動シャフト33は可撓性を有しており、あるいは特定の実施態様では非中空(solid)かつ可撓性を有しており、ノーズチューブ31の遠位区間36および近位区間37の内部に回転可能に配置されている。駆動シャフト33の近位端は、ハンドピース(図示せず)内に配置されたモータ(図示せず)に着脱可能に装着されるように構成されたチャック38に連結されている。ハブ39は、ノーズチューブ31に連結されるとともにノーズチューブ31から近位側に延びる。ハブ39は、ハンドピースに着脱可能に装着されるように構成されている。
【0047】
切削器具30が灌流口35を備えていてもよく、その場合、灌流口35は、ノーズチューブ31内の切削部材32近傍位置に配置される。灌流口35は、灌流ポンプ96および流体源98と流体連通する灌流管94(図9参照)に接続されるように構成されたポート91に連通している。図11に示す切削器具30を用いた灌流の実施についての詳細は、共同所有特許である国際公開第2016/054140号に開示されており、そのすべての開示内容は引用することによって本明細書の一部をなすものとする。さらに、ノーズチューブ31を通って延びる管腔(図示せず)を介して、灌流を行ってもよいことも企図されている。切削器具30が灌流および吸引を行う実施態様では、灌流を送るための管腔と吸引を行うための管腔から成る2つの管腔が、ノーズチューブ31を通って延びていてもよい。これら2つの管腔のうちの一方は、ノーズチューブ31と駆動シャフト33との間に設けられる遠位ブッシュ(図示せず)を通って延びていてもよい。遠位ブッシュは、駆動シャフト33の遠位端に連結される切削部材32の近傍に配置される。
【0048】
湾曲した切削器具30を備える本開示の外科手術システム20を利用することにより、外耳道を介した内視鏡的処置を何度も行うことができる。上述したように、特に注目すべきは、鼓室の上面の鼓膜近傍位置に発生する真珠腫の治療である。図8Aに示すように、患者は、外耳道がほぼ鉛直の向きとされて中耳に向かって重力の井戸が形成されるように側臥位とされる。そして、リザーバシステム50は、上述の方法で患者の頭部に装着される。1つ以上のナビゲーションマーカ116を患者の適切な位置に装着して、手術室内の光学カメラがナビゲーションマーカ116を検出できるようにしてもよい。この点については、共同所有特許である米国特許第9901407号に記載されており、そのすべての開示内容は引用することによって本明細書の一部をなすものとする。ナビゲーションマーカ116によって、手術中における外耳道内での切削器具30の切削部材32の位置の特定を容易に行うことができるようになる。これに加えてまたは代えて、切削器具30および内視鏡40がいずれも、コンピュータ実装型ナビゲーションシステムのコンポーネントや機能を備えてもよい。コンピュータ実装型ナビゲーションシステムについては、共同所有特許である米国特許第8657809号、米国特許出願公開第2014/0135617号、米国特許出願公開第2014/0243658号の各明細書に開示されており、そのすべての開示内容は引用することによって本明細書の一部をなすものとする。さらに、リザーバシステムが1つ以上のナビゲーションマーカを備えてもよい。
【0049】
次に、リザーバシステム50が患者の頭部に装着された状態で、冠水環境22が上述の方法で形成される。そして、切削器具30、または特定の実施態様では切削器具30および内視鏡40が、外耳道に入れられて、切削部材32が冠水環境22内に浸される。さらに、ノーズチューブ31の遠位区間36の少なくとも一部を冠水環境22内に浸してもよいことが理解される。切削器具30の切削部材32は、冠水環境内に浸した状態で、側頭骨に隣接した位置、より特定的には、原因部位である真珠腫に隣接した位置に配置される。一例では、切削部材32は、鼓膜の外側かつ外耳道の上にある側頭骨にできた真珠腫に隣接した位置に配置される。切削器具30は、冠水環境22内に浸した状態で切削部材32を回転させて真珠腫を切除するように動作される。原因部位である真珠腫が鼓膜の内側(すなわち、鼓室内)にある場合には、鼓膜を切開して鼓室へのアクセスを確保するよう指示される場合がある。鼓膜の切開は、耳に冠水環境22を形成する前に行ってもよいし、その後に行ってもよい。鼓室へのアクセスが確保された状態では、冠水環境22を構成する流体によって中耳も冠水してしまう可能性もある。ただし、そのような中耳の冠水は、耳の中の圧力によって抑制または防止され得ることが理解される。切削部材32は、鼓膜の内側かつ外耳道の上にある原因部位としての真珠腫に隣接した位置に配置され、切削部材32を回転させて真珠腫を切除するように動作される。
【0050】
図12および図13は、中耳の中または内耳の中の組織を切除する外科処置のさらなる工程(ステップ)を示している。図12は、内視鏡40で可視化しながら、冠水環境22内で切削部材32をより内側に進めた状態を示している。ノーズチューブ31の遠位区間36は下向きとなっている。切削器具30は、切削部材32を冠水環境内に浸した状態で切削部材32を回転させるように動作されて、中耳の中または内耳の中の組織、例えば、耳管の内側かつ蝸牛の下にある側頭骨の部位を切除する。ここでさらに図13を参照すると、特定の方法では、ノーズチューブ31の遠位区間36を上向きにするように切削器具30が反転される。例えば、切削器具30は、その長手方向軸を中心に約180°、例えば150°~210°回転される。ノーズチューブ31の遠位区間36は、切削器具30を引き戻したり、頸静脈球に近位の側頭骨の部位を予め切除しておいたりしなくても、反転することができる。これに対し、湾曲した切削器具を使用する公知の方法では、多くの場合、切削器具30の遠位区間を上向きにするためのスペースを十分に確保するために、頸静脈球に近位の側頭骨の部位を切除する必要があった。一方、本開示の切削器具30における遠位区間36と近位区間37との間の屈曲部は、公知のシステムに比べて小さい曲率半径を有しているため、切削器具30を引き戻したり頸静脈球に近位の側頭骨の部位を切除したりしなくても、遠位区間36を反転させることができる。これにより、例えば、内耳道への経路確保などのために行う組織切除のための、内耳へのアクセス、より特定的には蝸牛下部へのアクセスが広がる。なお、経外耳道的内視鏡下耳科手術を行う他の方法でも、冠水環境22を形成することによって効用が得られるものがあることが企図されている。
【0051】
以上、冠水環境22内で内視鏡手術を行うシステムおよび方法を説明したが、これらのシステムおよび方法は、人体内の他の開口(orifice)、腔(cavity)、管(canal)、またはそれらの任意の組み合わせに関連する他の処置、または外科処置中に患者の皮膚や骨の切開による開口部を経由して行う他の処置にも好適であり得る。例えば、鼻腔、口腔、または眼腔に冠水環境22を形成してもよい。さらに、例えば、冠水環境22は、脳神経外科手術中の開頭時に形成したり、整形外科手術中に関節腔に形成したり、または心臓外科手術中に軟組織の欠損による空隙部に形成したりすることもできる。
【0052】
本発明の追加項を、以下のローマ数字で示す各項目に示す。
I.
外耳道を介して患者の頭部から延びる耳の中で外科処置を行う方法であって、
流体源から前記外耳道内に流体を送るステップと、
前記外耳道内に冠水環境が形成されるように、前記外耳道内の前記流体の体積を維持するステップと、
ノーズチューブと、前記ノーズチューブ内に回転可能に配置される駆動シャフトと、を備える切削器具の前記駆動シャフトの遠位端にある切削部材を前記冠水環境内に浸すステップと、
前記切削部材を前記冠水環境内に浸した状態で、前記冠水環境によってカメラの視野の妨げが最小限に抑えられるように、前記冠水環境内に内視鏡を浸すステップと、
前記切削部材を前記冠水環境内に浸した状態で、前記切削部材を回転させて前記内視鏡の視野内の組織を切除するように、前記切削器具を動作させるステップと、
を含む方法。
II.
前記方法は、少なくとも部分的に耳介を取り囲むように、リザーバシステムを前記頭部に装着するステップをさらに含み、
前記リザーバシステムは、
前記リザーバシステムが前記頭部に装着されたときに流体リザーバ容積を画定するハウジングであって、前記流体リザーバ容積と流体連通するアクセス開口を備えるハウジング
を備えている、項目Iに記載の方法。
III.
前記切削器具の前記切削部材を前記リザーバシステムの前記アクセス開口に通して前記冠水環境に浸した状態で、前記切削器具を片手で支えるステップと、
前記内視鏡を前記リザーバシステムの前記アクセス開口に通して前記冠水環境に浸した状態で、前記内視鏡をもう片方の手で支えるステップと、
をさらに含む、項目IIに記載の方法。
IV.
前記流体の体積が流体水位を有しており、
前記方法が、前記外耳道全体を前記流体で満たして前記冠水環境が形成されるように、前記流体リザーバ容積内において前記流体水位を維持するステップをさらに含む、項目IIまたはIIIに記載の方法。
V.
外耳道を介して行われる外科処置時に、患者の頭部から延びかつ前記外耳道に通じる開口部を画定する耳介を含む耳の中に冠水環境を形成する外科手術システムであって、
前記患者の頭部に装着されるように適合されたハウジングであって、
前記耳の前記耳介が入る大きさの開口部が形成された外側面と、
前記外側面に連結する上面と、を備え、
前記外側面と前記上面との間に、前記流体の体積を前記外科処置の間維持するための流体リザーバ容積を画定し、
前記流体リザーバ容積と流体連通するアクセス開口が前記上面に形成されている、ハウジングと、
前記ハウジングに設けられるとともに、ポンプおよび流体源と流体連通する灌流管に接続されるように適合された灌流ポートと、
前記ハウジングの前記アクセス開口に通して配置することが可能な切削器具であって、
回転式の切削部材と、
吸引源と流体連通する吸引ポートと、
を備え、
前記切削部材が、前記外科処置の間に前記流体の体積の内部に浸されるように適合されている、切削器具と、
前記ポンプおよび前記吸引源に接続されるように適合された制御装置であって、
前記ハウジングの前記灌流ポートを介して、前記流体源から前記流体を供給するように前記ポンプを動作させることと、
前記外耳道内における前記流体の体積が維持されるように、前記切削器具の前記吸引ポートを介して、前記流量に基づく吸引流量で吸引を行うように前記吸引源を動作させることと、
を行うように構成されている制御装置と、
を備える外科手術システム。
VI.
前記ハウジングの前記アクセス開口に通して、前記流体の体積の内部に浸るように配置することが可能な内視鏡をさらに備える、項目Vに記載の外科手術システム。
VII.
前記アクセス開口が、前記内視鏡と前記切削器具とが同時に入る大きさを有している、項目VIに記載の外科手術システム。
VIII.
前記切削器具が、
ノーズチューブと、
前記ノーズチューブ内に回転可能に配置される非中空の駆動シャフトと、
をさらに備え、
前記切削部材が前記非中空の駆動シャフトの遠位端にある、項目V~VIIの何れか一項に記載の外科手術システム。
IX.
前記ノーズチューブが、近位区間に対して傾斜した遠位区間を備え、
前記駆動シャフトが、可撓性の駆動シャフトで構成され、前記近位区間および前記遠位区間の内部に回転可能に配置されて、湾曲した切削器具を形成している、項目VIIIに記載の外科手術システム。
X.
前記切削器具が、
外側チューブと、
前記外側チューブ内に回転可能に配置されるチューブ状の駆動シャフトと、
をさらに備え、
切削部材が、前記外側チューブに設けられる窓と前記チューブ状の駆動シャフトに設けられる窓との間に形成される、項目V~VIIの何れか一項に記載の外科手術システム。
XI.
前記耳介周囲の前記頭部に当接するように配置されて、流体密封状態を形成するように適合されたシール面をさらに備える、項目V~IXの何れか一項に記載の外科手術システム。
XII.
前記ハウジングに連結されて前記シール面を画定するシール部材をさらに備える、項目XIに記載の外科手術システム。
XIII.
外耳道を介して行われる外科処置時に、耳の中に冠水環境を形成する外科手術システムであって、
回転式の切削部材と、ポンプと流体連通するように適合された灌流口と、吸引源と流体連通するように適合された吸引口と、を備える切削器具と、
前記ポンプおよび前記吸引源に接続されるように適合された制御装置であって、
前記切削器具の前記灌流口を介して、前記流体源から流体を供給するように前記ポンプを動作させることと、
外科処置の間、前記外耳道内における前記流体の前記冠水環境が維持されるように、前記切削部材を前記冠水環境内に浸した状態で、前記切削器具の前記吸引口を介して、所定流率に基づく吸引流量で吸引を行うように前記吸引源を動作させることと、
を行うように構成されている制御装置と、
を備える外科手術システム。
XIV.
外耳道を介して行われる外科処置時に、患者の頭部から延びかつ前記外耳道に通じる開口部を画定する耳介を含む耳の中に冠水環境を形成する外科手術システムであって、
前記患者の頭部に装着されるように適合されたハウジングであって、
前記耳の前記耳介が入る大きさの開口部が形成された外側面と、
前記外側面に連結する上面と、を備え、
前記外側面と前記上面との間に、前記流体の体積を前記外科処置の間維持するための流体リザーバ容積を画定し、
前記流体リザーバ容積と流体連通するアクセス開口が前記上面に形成され、
吸引管を吸引源と流体連通させる吸引ポートが前記ハウジングに設けられている、ハウジングと、
灌流口を有する灌流シースであって、ポンプおよび流体源と流体連通する灌流管に接続されるように適合された灌流シースを有する内視鏡と、
前記ハウジングの前記アクセス開口に通して配置することが可能な切削器具であって、
回転式の切削部材を備え、
前記切削部材が、前記外科処置の間に前記流体の体積の内部に浸されるように適合されている、切削器具と、
前記灌流ポンプおよび前記吸引源に接続されるように適合された制御装置であって、
前記内視鏡の前記灌流口を介して、前記流体源から前記流体を供給するように前記灌流ポンプを動作させることと、
前記外耳道内における前記流体の体積が維持されるように、前記ハウジングの前記吸引ポートを介して、前記流量に基づく吸引流量で吸引を行うように前記吸引源を動作させることと、
を行うように構成されている制御装置と、
を備える外科手術システム。
XV.
外耳道を介して行われる外科処置時に、患者の頭部から延びかつ前記外耳道に通じる開口部を画定する耳介を含む耳の中で切除を行う外科手術システムであって、
作業管腔と2次管腔とを画定する検鏡と、
前記作業管腔に通して配置することが可能な回転式の切削部材を有する切削器具と、
流体源から前記外耳道に流体を送るための灌流ポンプと、
前記外耳道内から吸引を行うための吸引源であって、前記吸引源と前記灌流ポンプのいずれか一方が前記2次管腔と流体連通している、吸引源と、
前記灌流ポンプおよび前記吸引源に接続されるように適合された制御装置であって、
前記検鏡の前記2次管腔を介して、前記流体源から前記流体を供給するように前記灌流ポンプを動作させることと、
前記検鏡の前記2次管腔を介して吸引を行うように前記吸引源を動作させることと、
のうちの一方またはそれらの組み合わせを行うように構成されている制御装置と、
を備える外科手術システム。
XVI.
外耳道を介して行われる外科処置時に、患者の頭部から延びかつ前記外耳道に通じる開口部を画定する耳介を含む耳の中に冠水環境を形成する方法であって、
ハウジングと、前記ハウジングに設けられたアクセス開口と、前記ハウジングに設けられ、ポンプおよび流体源と流体連通する灌流ポートと、前記ハウジングに設けられ、吸引源と流体連通する吸引ポートと、を備えるリザーバシステムを準備するステップと、
前記患者を側臥位にするステップと、
少なくとも部分的に前記耳介を取り囲むように、前記リザーバシステムを前記患者の頭部に装着するステップであって、これにより、前記アクセス開口と流体連通する流体リザーバ容積を画定するステップと、
前記灌流ポートを介して、所定流量で前記流体源から前記外耳道内に流体を送るように前記ポンプを動作させるステップと、
前記外耳道および前記流体リザーバ容積内における前記流体の体積が維持されるように、前記吸引ポートを介して、前記所定流量に基づく吸引流量で前記冠水環境から吸引を行うように前記吸引源を動作させるステップであって、これにより、前記外耳道全体を前記流体で満たして前記外耳道内に前記冠水環境を形成するステップと、
前記ハウジング内に設けられた前記アクセス開口から切削器具を入れるステップと、
前記耳の中の組織を切除するように前記切削器具を動作させるステップと、
を含む方法。
XVII.
外耳道を介して行われる外科処置時に、患者の頭部から延びかつ前記外耳道に通じる開口部を画定する耳介を含む耳の中に冠水環境を形成する方法であって、
ハウジングと、前記ハウジングに設けられたアクセス開口と、前記ハウジングに設けられ、ポンプおよび流体源と流体連通する灌流ポートと、を備えるリザーバシステムを準備するステップと、
吸引源と流体連通する吸引口を備える切削器具を準備するステップと、
前記患者を側臥位にするステップと、
少なくとも部分的に前記耳介を取り囲むように、前記リザーバシステムを前記患者の頭部に装着するステップであって、これにより、前記アクセス開口と流体連通する流体リザーバ容積を画定するステップと、
前記灌流ポートを介して、所定流量で前記流体源から前記外耳道内に流体を送るように前記ポンプを動作させるステップと、
前記外耳道および前記流体リザーバ容積内における前記流体の体積が維持されるように、前記吸引口を介して、前記所定流量に基づく吸引流量で前記冠水環境から吸引を行うように前記吸引源を動作させるステップであって、これにより、前記外耳道全体を前記流体で満たして前記外耳道内に前記冠水環境を形成するステップと、
前記ハウジングに設けられた前記アクセス開口から切削器具を入れるステップと、
前記耳の中の組織を切除するように前記切削器具を動作させるステップと、
を含む方法。
XVIII.
外耳道を介して行われる外科処置時に、患者の頭部から延びかつ前記外耳道に通じる開口部を画定する耳介を含む耳の中に冠水環境を形成する方法であって、
ハウジングと、前記ハウジングに設けられたアクセス開口と、を備えるリザーバシステムを準備するステップと、
ポンプおよび流体源と流体連通する灌流口と、吸引源と流体連通する吸引口と、を備える切削器具を準備するステップと、
前記患者を側臥位にするステップと、
少なくとも部分的に前記耳介を取り囲むように、前記リザーバシステムを前記患者の頭部に装着するステップであって、これにより、前記アクセス開口と流体連通する流体リザーバ容積を画定するステップと、
前記灌流口を介して、所定流量で前記流体源から前記外耳道内に流体を送るように前記ポンプを動作させるステップと、
前記外耳道および前記流体リザーバ容積内における前記流体の体積が維持されるように、前記吸引口を介して、前記所定流量に基づく吸引流量で前記冠水環境から吸引を行うように前記吸引源を動作させるステップであって、これにより、前記外耳道全体を前記流体で満たして前記外耳道内に前記冠水環境を形成するステップと、
前記ハウジングに設けられた前記アクセス開口から切削器具を入れるステップと、
前記耳の中の組織を切除するように前記切削器具を動作させるステップと、
を含む方法。
【0053】
以上、いくつかの実施態様について説明してきたが、本明細書に記載の実施態様は、本発明を包括的に説明することを意図したものではなく、また本発明を特定の形態に限定することを意図したものでもない。また、上述の記載内の各用語も、限定的な意味ではなく説明的な意味で用いていることが意図されている。さらに、上述の教示に基づいて多くの変更および変形が可能であり、上述において具体的に記載したものとは異なる方法によって本発明を実施することも可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13