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特許7419262抗PCSK9抗体を含む製剤およびその使用
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-12
(45)【発行日】2024-01-22
(54)【発明の名称】抗PCSK9抗体を含む製剤およびその使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/395 20060101AFI20240115BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20240115BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20240115BHJP
   A61K 47/10 20170101ALI20240115BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20240115BHJP
   A61K 47/18 20170101ALI20240115BHJP
   A61K 47/20 20060101ALI20240115BHJP
   A61P 3/06 20060101ALI20240115BHJP
   C07K 16/40 20060101ALN20240115BHJP
【FI】
A61K39/395 N
A61K9/08
A61K47/02
A61K47/10
A61K47/12
A61K47/18
A61K47/20
A61P3/06
C07K16/40 ZNA
【請求項の数】 28
(21)【出願番号】P 2020563465
(86)(22)【出願日】2019-05-10
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-09-16
(86)【国際出願番号】 CN2019086388
(87)【国際公開番号】W WO2019214707
(87)【国際公開日】2019-11-14
【審査請求日】2022-03-15
(31)【優先権主張番号】201810450088.5
(32)【優先日】2018-05-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】518049935
【氏名又は名称】イノベント バイオロジックス (スウツォウ) カンパニー,リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(72)【発明者】
【氏名】ワン、インチュエ
(72)【発明者】
【氏名】リウ、シャオリン
(72)【発明者】
【氏名】シエ、ルイシア
【審査官】春日 淳一
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-525915(JP,A)
【文献】特表2014-516953(JP,A)
【文献】特表2020-506670(JP,A)
【文献】国際公開第2018/067987(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K,A61P
MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体抗体製剤であって、
(i)抗PCSK-9抗体またはその抗原結合断片と、
(ii)緩衝剤と、
(iii)粘度低下剤と、
(iv)界面活性剤とを含み、
前記抗PCSK-9抗体またはその抗原結合断片が重鎖可変領域(VH)および軽鎖可変領域(VL)を含み、
(a)前記VHが相補性決定領域(CDRs)HCDR1、HCDR2およびHCDR3を含み、
前記HCDR1は配列番号10のアミノ酸配列からなり、前記HCDR2は配列番号17のアミノ酸配列からなり、かつHCDR3は配列番号19のアミノ酸配列からなるか;または
前記HCDR1は配列番号1のアミノ酸配列からなり、前記HCDR2は配列番号2のアミノ酸配列からなり、かつHCDR3は配列番号3のアミノ酸配列からなるか;または
前記HCDR1は配列番号1のアミノ酸配列からなり、前記HCDR2は配列番号2のアミノ酸配列からなり、かつHCDR3は配列番号18のアミノ酸配列からなるか;または
前記HCDR1は配列番号1のアミノ酸配列からなり、前記HCDR2は配列番号14のアミノ酸配列からなり、かつHCDR3は配列番号19のアミノ酸配列からなるか;または
前記HCDR1は配列番号7のアミノ酸配列からなり、前記HCDR2は配列番号15のアミノ酸配列からなり、かつHCDR3は配列番号18のアミノ酸配列からなるか;または
前記HCDR1は配列番号8のアミノ酸配列からなり、前記HCDR2は配列番号16のアミノ酸配列からなり、かつHCDR3は配列番号19のアミノ酸配列からなるか;または
前記HCDR1は配列番号9のアミノ酸配列からなり、前記HCDR2は配列番号17のアミノ酸配列からなり、かつHCDR3は配列番号19のアミノ酸配列からなるか;または
前記HCDR1は配列番号11のアミノ酸配列からなり、前記HCDR2は配列番号17のアミノ酸配列からなり、かつHCDR3は配列番号18のアミノ酸配列からなるか;または
前記HCDR1は配列番号12のアミノ酸配列からなり、前記HCDR2は配列番号17のアミノ酸配列からなり、かつHCDR3は配列番号18のアミノ酸配列からなるか;または
前記HCDR1は配列番号13のアミノ酸配列からなり、前記HCDR2は配列番号17のアミノ酸配列からなり、かつHCDR3は配列番号18のアミノ酸配列からなり;かつ
(b)前記VLが相補性決定領域(CDRs)LCDR1、LCDR2およびLCDR3を含み、前記LCDR1は配列番号4に示されるアミノ酸配列からなり、前記LCDR2は配列番号5に示されるアミノ酸配列からなり、かつ前記LCDR3は配列番号6に示されるアミノ酸配列からなる、
前記液体抗体製剤。
【請求項2】
前記抗PCSK9抗体またはその抗原結合断片が重鎖可変領域VHおよび/または軽鎖可変領域VLを含み、
(a)前記重鎖可変領域VHが、
(i)配列番号30、23、25、26、27、28、29、31、32および33から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列を含むかまたはそれからなるか、または
(ii)配列番号30、23、25、26、27、28、29、31、32および33から選択されるアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、
かつ、
(b)前記軽鎖可変領域VLが、
(i)配列番号24のアミノ酸配列に対して少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列を含むかまたはそれからなるか、または
(ii)配列番号24のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなる、
請求項1に記載の液体抗体製剤。
【請求項3】
前記抗PCSK9抗体またはその抗原結合断片が重鎖および軽鎖を含み、
(a)前記重鎖が、
(i)配列番号41、34、36、37、38、39、40、42、43および44から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%の同一性を有するアミノ酸配列を含むかまたはそれからなるか、または
(ii)配列番号41、34、36、37、38、39、40、42、43および44から選択されるアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、
かつ、
(b)前記軽鎖が、
(i)配列番号35のアミノ酸配列に対して少なくとも85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%の同一性を有するアミノ酸配列を含むかまたはそれからなるか、または
(ii)配列番号35のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなる、
請求項1または2に記載の液体抗体製剤。
【請求項4】
前記液体抗体製剤における抗PCSK9抗体またはその抗原結合断片の濃度が50~200mg/mLである、請求項1~3のいずれか一項に記載の液体抗体製剤。
【請求項5】
前記液体抗体製剤における抗PCSK9抗体またはその抗原結合断片の濃度が100mg/mL~200mg/mLである、請求項4に記載の液体抗体製剤。
【請求項6】
前記液体抗体製剤における前記緩衝剤の濃度が0.01~50mg/mlである、請求項1~5のいずれか一項に記載の液体抗体製剤。
【請求項7】
前記液体抗体製剤における前記緩衝剤の濃度が0.1~50mg/mlである、請求項6に記載の液体抗体製剤。
【請求項8】
前記緩衝剤がヒスチジン、グルタミン酸塩、リン酸塩、酢酸塩、クエン酸塩およびトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンから選択される、請求項1~7のいずれか一項に記載の液体抗体製剤。
【請求項9】
前記緩衝剤がヒスチジン緩衝液である、請求項8に記載の液体抗体製剤。
【請求項10】
前記粘度低下剤の濃度が10mmol/L~1000mmol/Lである、請求項1~9のいずれか一項に記載の液体抗体製剤。
【請求項11】
前記粘度低下剤の濃度が20mmol/L~500mmol/Lである、請求項1~9のいずれか一項に記載の液体抗体製剤。
【請求項12】
前記粘度低下剤が糖アルコール、アルギニン、アルギニン塩酸塩、チオシアン酸ナトリウム、チオシアン酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、塩化カルシウム、塩化亜鉛、酢酸ナトリウム、およびこれらの組み合わせから選択される、請求項1~11のいずれか一項に記載の液体抗体製剤。
【請求項13】
前記糖アルコールがソルビトールである、請求項12に記載の液体抗体製剤。
【請求項14】
前記粘度低下剤が、濃度が1%~6%(w/v)のソルビトールである、請求項1~11のいずれか一項に記載の液体抗体製剤。
【請求項15】
前記粘度低下剤がソルビトールとアルギニンまたはアルギニン塩との組み合わせである、請求項1~11のいずれか一項に記載の液体抗体製剤。
【請求項16】
前記アルギニン塩がアルギニン塩酸塩である、請求項15に記載の液体抗体製剤。
【請求項17】
前記ソルビトールの濃度が1%~6%(w/v)であり、前記アルギニンまたはアルギニン塩の濃度が50mmol/L~180mmol/Lである、請求項15に記載の液体抗体製剤。
【請求項18】
前記ソルビトールの濃度が2%~4%(w/v)であり、前記アルギニンまたはアルギニン塩の濃度が70mmol/L~150mmol/Lである、請求項17に記載の液体抗体製剤。
【請求項19】
前記界面活性剤の濃度が0.01~5mg/mlである、請求項1~18のいずれか一項に記載の液体抗体製剤。
【請求項20】
前記界面活性剤の濃度が0.05~1mg/mlである、請求項19に記載の液体抗体製剤。
【請求項21】
前記界面活性剤がプルロニクス、ポリソルベート-80、ポリソルベート-60、ポリソルベート-40およびポリソルベート-20からなる群から選択される非イオン性界面活性剤である、請求項1~20のいずれか一項に記載の液体抗体製剤。
【請求項22】
前記液体製剤のpH値が5.0~6.0である、請求項1~21のいずれか一項に記載の液体抗体製剤。
【請求項23】
前記液体製剤のpH値が5.2~5.8である、請求項22に記載の液体抗体製剤。
【請求項24】
前記液体製剤の25℃における粘度が1.0~20センチポアズである、請求項1~23のいずれか一項に記載の液体抗体製剤。
【請求項25】
前記液体製剤が医薬製剤である、請求項1~24のいずれか一項に記載の液体抗体製剤。
【請求項26】
請求項1~25のいずれか一項に記載の液体抗体製剤を凍結乾燥することによって得られる、固体製剤。
【請求項27】
対象におけるコレステロールレベルを低下させるための薬物の製造における、請求項1~25のいずれか一項に記載の液体抗体製剤の使用。
【請求項28】
コレステロール関連疾患を治療するための薬物の製造における、請求項1~25のいずれか一項に記載の液体抗体製剤の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗体製剤の分野に関し、特にプロタンパク質転換酵素枯草菌プロテアーゼ/kexin型9(Proprotein convertase subtilisin/kexin type9)(PCSK9)と特異的に結合する抗体(以下、抗PCSK9抗体と呼ばれる)および/またはその抗体断片を含む医薬製剤に関する。また、本発明は、これらの製剤の治療・診断のための使用に関する。
【背景技術】
【0002】
血清コレステロールレベルの上昇は心血管イベントを招く重要な危険因子であり、現在、多種の作用機序を持つコレステロールを低下させる薬物が発売されたり、研究されたりしている。中でも抗PCSK-9モノクローナル抗体は、良好な安全性と治療効果を備えていることから、広く注目されている(趙水平ら、中国成人血中脂質異常予防治療ガイドライン(2016年改訂版)。中国循環雑誌31(10):937-953,2016)。
【0003】
モノクローナル抗体薬物は作用特異性が強く、副作用が小さいなどの利点によりすでに多くの疾患分野の薬物の発展主流になっており、LDLRのエンドサイトーシスを減少させることでLDL-Cを低下させる抗PCSK-9モノクローナル抗体薬物は現在の研究の焦点である。抗PCSK-9モノクローナル抗体はLDL-Cを低下させる効果が顕著で、安全性が良好で、投与しやすく、脂質降下治療分野の重大な画期的薬物である。
【0004】
現在も代替PCSK9抗体が求められている。具体的には、PCSK9との親和力が高く、細胞株由来が確実で、安定性に優れ、LDL-Cを高効率で低下できる代替PCSK9抗体が求められている。さらに具体的には、LDL-Cを高効率で低下させ、持続的な有効化期間(例えば、持続的なLDL-Cレベルの抑制)を提供する代替PCSK9抗体が求められている。かかる抗体はまた、好ましくは、開発、製造または製剤化を容易にする良好な物理化学的特性を有するであろう。
【0005】
現在市販されている多くのモノクローナル抗体薬物は静脈注射であるが、一部の慢性疾患では患者が自宅で自ら投与できることが望ましいため、皮下注射が最も好ましい注射方式となっている。皮下注射の体積は一般に1.0~1.5mlに制限されるため、抗体製剤は高濃度(≧100mg/ml)に達して臨床投与量の要求を満たす必要がある。しかし、高粘度は高濃度抗体製剤の大きな挑戦でもある。なぜならば、高粘度製剤は、下流のプロセスと注射器による薬物の皮下投与に大きな困難をもたらすからである。タンパク質は、高濃度では常に安定性が低く、凝集体および粒子を生じやすく、タンパク質コンフォメーションの不安定性はまた、電荷不均一性などの化学的安定性の著しい変化を引き起こす。
【0006】
また、モノクローナル抗体は生体高分子であり、その構造は非常に複雑である。製造中、発現された抗体分子は、N末端環化、グリコシル化、脱アミド化、異性化、酸化、断片化、ジスルフィド結合ミスマッチなどの様々な翻訳後修飾および分解反応を受ける。これらの品質属性は最終製品の安全性や有効性に影響を及ぼす可能性があるため、製品の品質の正確性や一貫性を制御することも重要である。
【0007】
本分野では低粘度、安定、高濃度の抗PCSK-9抗体液体製剤を提供する必要がある。
【発明の概要】
【0008】
PCSK9は、重要で有利な治療標的として提示される。本発明はまた、抗PCSK9抗体またはその断片(例えば、本明細書で定義される抗PCSK9抗体)を含む液体抗体製剤を提供する。本発明はまた、PCSK9に対する抗体を提供する。
【0009】
I.本発明の抗体製剤
1つの態様において、本発明は、
(i)抗PCSK-9抗体またはその断片(例えば、抗原結合断片)と、
(ii)緩衝剤と、
(iii)粘度低下剤と、
(iv)界面活性剤とを含む、液体抗体製剤を提供する。
【0010】
1つの実施形態において、本発明の液体抗体製剤中の抗PCSK9抗体またはその断片の濃度は、約50~約200mg/mLである。別の実施形態において、本発明の液体抗体製剤中の抗PCSK9抗体またはその断片の濃度は、約100mg/mL~約200mg/mLである。別の実施形態において、本発明の液体抗体製剤中の抗PCSK9抗体またはその断片の濃度は、約100mg/mLである。別の実施形態において、本発明の液体抗体製剤中の抗PCSK9抗体またはその断片の濃度は、約125mg/mLである。別の実施形態において、本発明の液体抗体製剤中の抗PCSK9抗体またはその断片の濃度は、約150mg/mLである。別の実施形態において、本発明の液体抗体製剤中の抗PCSK9抗体またはその断片の濃度は、約175mg/mLである。別の実施形態において、本発明の液体抗体製剤中の抗PCSK9抗体またはその断片の濃度は、約200mg/mLである。
【0011】
1つの実施形態において、前記抗PCSK9抗体は、PCSK9タンパク質(例えば、ヒトPCSK9)と結合する任意の抗体、例えば、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体またはそれらの組み合わせである。好ましくは、1つの実施形態において、前記抗PCSK9抗体は、モノクローナル抗体である。1つの実施形態において、前記抗PCSK9抗体またはその断片は、本明細書で定義される抗PCSK9抗体またはその断片である。
【0012】
1つの実施形態において、本発明の液体抗体製剤中の緩衝剤の濃度は、約0.01~50mg/mlである。1つの実施形態において、本発明の液体抗体製剤中の緩衝剤の濃度は、約0.1~50mg/mlである。1つの実施形態において、本発明の液体抗体製剤中の緩衝剤の濃度は、約0.2~10mg/mlである。1つの実施形態において、本発明の液体抗体製剤中の緩衝剤の濃度は、約0.5~2.5mg/mlである。1つの実施形態において、本発明の液体抗体製剤中の緩衝剤の濃度は、約1.0~2.0mg/mlである。1つの実施形態において、本発明の液体抗体製剤中の緩衝剤の濃度は、約1.5mg/mlである。
【0013】
1つの実施形態において、前記緩衝剤は、ヒスチジン、グルタミン酸塩、リン酸塩、酢酸塩、クエン酸塩、およびトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンから選択される。1つの実施形態において、前記緩衝剤は、ヒスチジン。
【0014】
1つの実施形態において、本発明の液体抗体製剤中の粘度低下剤の濃度は、約10mmol/L~1000mmol/Lである。1つの実施形態において、本発明の液体抗体製剤中の粘度低下剤の濃度は、約20mmol/L~500mmol/Lである。1つの実施形態において、本発明の液体抗体製剤中の粘度低下剤の濃度は、約50mmol/L~300mmol/Lである。1つの実施形態において、本発明の液体抗体製剤中の粘度低下剤の濃度は、約50mmol/L~200mmol/Lである。
【0015】
1つの実施形態において、前記粘度低下剤は、糖アルコール(例えば、ソルビトール)、アルギニン、アルギニン塩酸塩、チオシアン酸ナトリウム、チオシアン酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、塩化カルシウム、塩化亜鉛、酢酸ナトリウム、およびこれらの組み合わせから選択される。1つの実施形態において、前記粘度低下剤は、ソルビトールである。1つの実施形態において、前記粘度低下剤は、約1%~6%(w/v)の濃度のソルビトールである。1つの実施形態において、前記粘度低下剤は、約1%~6%(w/v)の濃度のソルビトールであり、前記液体製剤は、他の粘度低下剤を含まない。1つの実施形態において、前記粘度低下剤は、ソルビトールとアルギニンまたはアルギニン塩(好ましくはアルギニン塩酸塩)との組み合わせである。1つの実施形態において、前記粘度低下剤は、ソルビトールとアルギニンまたはアルギニン塩(好ましくはアルギニン塩酸塩)との組み合わせであり、ここで、ソルビトールの濃度は約1%~6%(w/v)であり、好ましくは約2%~4%(w/v)であり、より好ましくは約3%(w/v)であり、ここで、アルギニンまたはアルギニン塩(好ましくはアルギニン塩酸塩)の濃度は約50mmol/L~180mmol/Lであり、好ましくは約70mmol/L~150mmol/Lであり、より好ましくは約90mmol/Lである。1つの実施形態において、前記粘度低下剤は、ソルビトールとアルギニンまたはアルギニン塩(好ましくはアルギニン塩酸塩)との組み合わせであり、ここで、ソルビトールの濃度は約1%~6%(w/v)であり、好ましくは約2%~4%(w/v)であり、より好ましくは約3%(w/v)であり、ここで、アルギニンまたはアルギニン塩の濃度は約50mmol/L~180mmol/Lであり、好ましくは約70mmol/L~150mmol/Lであり、より好ましくは約90mmol/Lであり、かつ前記液体製剤は、他の粘度低下剤を含まない。
【0016】
1つの実施形態において、前記界面活性剤の濃度は、約0.01~5mg/mlである。1つの実施形態において、前記界面活性剤の濃度は、約0.05~1mg/mlである。1つの実施形態において、前記界面活性剤の濃度は、約0.1~0.5mg/mlである。1つの実施形態において、前記界面活性剤の濃度は、約0.3mg/mlである。
【0017】
1つの実施形態において、前記界面活性剤は、非イオン性界面活性剤である。1つの実施形態において、前記界面活性剤は、例えばプルロニクス(pluronics)、ポリソルベート-80、ポリソルベート-60、ポリソルベート-40、またはポリソルベート-20などである。
【0018】
1つの実施形態において、本発明の液体製剤は、好ましくは注射用水、注射用有機溶媒(注射用油、エタノール、プロピレングリコールなどを含むがこれらに限定されない)、またはこれらの組み合わせから選択される溶媒を含む。
【0019】
1つの実施形態において、前記液体製剤のpH値は、約5.0~6.0である。1つの実施形態において、前記液体製剤のpH値は、約5.2~5.8である。1つの実施形態において、前記液体製剤のpH値は、約5.4~5.6である。1つの実施形態において、前記液体製剤のpH値は、約5.5である。
【0020】
1つの実施形態において、前記液体製剤は、25℃で約1.0~20センチポアズの粘度を有する。1つの実施形態において、前記液体製剤は、25℃で約1.0~10センチポアズの粘度を有する。1つの実施形態において、前記液体製剤は、25℃で約1.0、2.0、3.0、4.0、5.0、6.0、7.0、8.0、9.0または10.0センチポアズの粘度を有する。1つの実施形態において、前記液体製剤は、25℃で約5.0~7.0センチポアズの粘度を有する。1つの実施形態において、前記液体製剤は、25℃で約5.2センチポアズの粘度を有する。1つの実施形態において、前記液体製剤は、25℃で約6.0センチポアズの粘度を有する。
【0021】
1つの実施形態において、前記液体製剤は、医薬製剤であり、好ましくは注射剤であり、より好ましくは皮下注射剤である。
【0022】
1つの好ましい実施形態において、本発明の液体抗体製剤は、
(i)約100mg/mL~約200mg/mLの抗PCSK-9抗体またはその断片と、
(ii)約0.2~10mg/mlのヒスチジンと、
(iii)約1%~6%(w/v)のソルビトールと、
(iv)約0.05~1mg/mlのポリソルベート-80またはポリソルベート-20とを含み、
ここで、前記液体製剤のpHは約5.0~6.0である。
【0023】
1つのより好ましい実施形態において、本発明の液体抗体製剤は、注射用水をさらに含む。
【0024】
1つの好ましい実施形態において、本発明の液体抗体製剤は、
(i)約100mg/mL~約200mg/mLの抗PCSK-9抗体またはその断片と、
(ii)約0.2~10mg/mlのヒスチジンと、
(iii)約1%~6%のソルビトールおよび約50mmol/L~180mmol/Lのアルギニンまたはアルギニン塩と、
(iv)約0.05~1mg/mlのポリソルベート-80またはポリソルベート-20とを含み、
ここで、前記液体製剤のpHは約5.0~6.0である。
【0025】
1つのより好ましい実施形態において、本発明の液体抗体製剤は、注射用水をさらに含む。
【0026】
1つの実施形態において、本発明の抗PCSK9抗体を含む液体製剤は、約-80℃~約45℃、例えば-80℃、約-30℃、約-20℃、約0℃、約5℃、約25℃、約35℃、約37℃、約42℃または約45℃の条件下で少なくとも14日間、少なくとも28日間、少なくとも1か月、少なくとも2か月、少なくとも3か月、少なくとも4か月、少なくとも5か月、少なくとも6か月、少なくとも7か月、少なくとも8か月、少なくとも9か月、少なくとも10か月、少なくとも11か月、少なくとも12か月、少なくとも18か月、少なくとも24か月、少なくとも36か月、またはそれ以上の期間保存した後、抗PCSK-9抗体またはその断片の純度低下は10%以下であり、例えば5%、4%、3%、2%、1%、0.5%または0.1%以下であるとSEC-HPLC法で測定される。
【0027】
1つの実施形態において、本発明の抗PCSK9抗体を含む液体製剤は、約-80℃~約45℃、例えば-80℃、約-30℃、約-20℃、約0℃、約5℃、約25℃、約35℃、約37℃、約42℃または約45℃の条件下で少なくとも14日間、少なくとも28日間、少なくとも1か月、少なくとも2か月、少なくとも3か月、少なくとも4か月、少なくとも5か月、少なくとも6か月、少なくとも7か月、少なくとも8か月、少なくとも9か月、少なくとも10か月、少なくとも11か月、少なくとも12か月、少なくとも18か月、少なくとも24か月、少なくとも36か月、またはそれ以上の期間保存した後、抗PCSK-9抗体またはその断片の純度低下は10%以下であり、例えば5%、4%、3%、2%、1%、0.5%または0.1%以下であると非還元型CE-SDS法で測定される。
【0028】
1つの実施形態において、本発明の抗PCSK9抗体を含む液体製剤は、約-80℃~約45℃、例えば-80℃、約-30℃、約-20℃、約0℃、約5℃、約25℃、約35℃、約37℃、約42℃または約45℃の条件下で少なくとも14日間、少なくとも28日間、少なくとも1か月、少なくとも2か月、少なくとも3か月、少なくとも4か月、少なくとも5か月、少なくとも6か月、少なくとも7か月、少なくとも8か月、少なくとも9か月、少なくとも10か月、少なくとも11か月、少なくとも12か月、少なくとも18か月、少なくとも24か月、少なくとも36か月、またはそれ以上の期間保存した後、抗PCSK-9抗体またはその断片の電荷不均一性の変化は10%以下であり、例えば5%、4%、3%、2%、1%、0.5%または0.1%以下であるとCEX-HPLC法で測定される。
【0029】
本発明の製剤は、高い抗体濃度を有する一方で、投与、特に皮下投与に適する低い粘度を有し、高い物理的および化学的安定性を有し、保存時に凝集体および粒子が発生しにくく、電荷不均一性の変化が生じにくい。これらの利点は、完全で、効率的で、一貫性の高い臨床薬剤を製造するために非常に有益である。
【0030】
本発明者らは、驚くべきことに、ソルビトールを抗PCSK9抗体の液体製剤における粘度低下剤として用いることができ、他の粘度低下剤を添加することなく、低粘度、高濃度の抗PCSK-9抗体またはその断片の液体製剤が得られ、前記液体製剤が高い安定性を有することを見出した。また、本発明者らは、驚くべきことに、ソルビトールとアルギニンとの組み合わせが、粘度低下剤として、抗PCSK9抗体の液体製剤の粘度をより低くすることができ、高濃度の抗PCSK-9抗体またはその断片の液体製剤の皮下注射を容易にする粘度をより低くすることができ、前記PCSK-9抗体の液体製剤の安定性を向上させることができることを見出した(実施例10~12参照)。
【0031】
したがって、別の態様において、本発明は、抗PCSK9抗体を含む液体製剤における粘度低下剤としての糖アルコールの使用を提供する。
【0032】
1つの実施形態において、抗PCSK9抗体を含む液体製剤中の前記糖アルコールの濃度は、約1%~6%(w/v)であり、好ましくは約2%~4%(w/v)であり、より好ましくは約3%(w/v)である。1つの実施形態において、前記糖アルコールは、好ましくはソルビトールである。
【0033】
別の態様において、本発明は、抗PCSK9抗体を含む液体製剤の製造における粘度低下剤としての糖アルコールの使用を提供する。
【0034】
1つの実施形態において、本発明は、抗PCSK9抗体を含む液体製剤の製造における唯一の粘度低下剤としての糖アルコールの使用を提供する。
【0035】
1つの実施形態において、抗PCSK9抗体を含む液体製剤中の前記糖アルコールの濃度は、約1%~6%(w/v)であり、好ましくは約2%~4%(w/v)であり、より好ましくは約3%(w/v)である。1つの実施形態において、前記糖アルコールは、好ましくはソルビトールである。
【0036】
別の態様において、本発明は、抗PCSK9抗体を含む液体製剤における粘度低下剤としての糖アルコールとアルギニン(またはアルギニン塩、好ましくはアルギニン塩酸塩)との組み合わせの使用を提供する。
【0037】
1つの実施形態において、抗PCSK9抗体の液体製剤中の前記糖アルコールの濃度は、約1%~6%(w/v)であり、好ましくは約2%~4%(w/v)であり、より好ましくは約3%(w/v)であり、アルギニンまたはアルギニン塩(好ましくはアルギニン塩酸塩)の濃度は、約50mmol/L~180mmol/Lであり、好ましくは約70mmol/L~150mmol/Lであり、より好ましくは約90mmol/Lである。1つの実施形態において、前記糖アルコールは、好ましくはソルビトールである。
【0038】
別の態様において、本発明は、抗PCSK9抗体を含む液体製剤の製造における粘度低下剤としての糖アルコールとアルギニン(またはアルギニン塩、好ましくはアルギニン塩酸塩)との組み合わせの使用を提供する。
【0039】
1つの実施形態において、本発明は、抗PCSK9抗体を含む液体製剤の製造における唯一の粘度低下剤としての糖アルコールとアルギニン(またはアルギニン塩、好ましくはアルギニン塩酸塩)との組み合わせの使用を提供する。
【0040】
1つの実施形態において、抗PCSK9抗体の液体製剤中の前記糖アルコールの濃度は、約1%~6%(w/v)であり、好ましくは約2%~4%(w/v)であり、より好ましくは約3%(w/v)であり、アルギニンまたはアルギニン塩(好ましくはアルギニン塩酸塩)の濃度は、約50mmol/L~180mmol/Lであり、好ましくは約70mmol/L~150mmol/Lであり、より好ましくは約90mmol/Lである。1つの実施形態において、前記糖アルコールは、好ましくはソルビトールである。
【0041】
別の態様において、本発明は、上記の液体製剤を凍結乾燥することによって得られる固体製剤を提供する。使用前に、該固体製剤を適切な溶媒に再構成し、本発明の液体製剤を形成することができる。
【0042】
別の態様において、本発明は、
a.抗PCSK-9抗体またはその断片を用意するステップと、
b.緩衝剤および粘度低下剤を添加するステップと、
c.界面活性剤を添加するステップと、
d.場合により無菌濾過して、本発明の液体製剤を得るステップとを含む、本発明による液体製剤の製造方法を提供する。
【0043】
1つの実施形態において、ステップa.における抗PCSK-9抗体またはその断片は、単離精製された抗PCSK9抗体である。
【0044】
1つの実施形態において、ステップa.における抗PCSK-9抗体またはその断片は、溶液、好ましくは水溶液の形態で提供される。
【0045】
1つの実施形態において、ステップb.の前に限外濾過遠心分離管(例えば、約30KDのカットオフ分子量)を用いて抗PCSK-9抗体またはその断片を遠心分離により濃縮する。
【0046】
1つの実施形態において、ステップb.の緩衝剤および粘度低下剤は、溶液、好ましくは水溶液の形態で提供される。
【0047】
1つの実施形態において、ステップb.の後に、限外濾過遠心分離により濃縮し、緩衝剤および粘度低下剤溶液、好ましくは水溶液で希釈し、置換が完了するまでこのように繰り返す。
【0048】
1つの実施形態において、ステップc.の前に、PCSK-9抗体またはその断片の濃度を調整する。
【0049】
前記抗PCSK-9抗体またはその断片、緩衝剤、粘度低下剤、および界面活性剤は、本明細書に記載のとおり、その投与量および/または濃度が本発明の液体製剤について記載のとおりであり、またはそれによって適切に決定され得る。
【0050】
1つの実施形態において、本発明の液体製剤の製造方法は、
i.単離精製された抗PCSK9抗体を用意し、場合によりカットオフ分子量が約30KDの限外濾過遠心分離管に添加し、遠心分離により濃縮するステップと、
ii.緩衝剤および粘度低下剤溶液、好ましくは水溶液(好ましくは、緩衝剤および粘度低下剤の種類、濃度および溶液のpHは、上記および定義部分で本発明の液体製剤について定義したとおりであり、より好ましくは、緩衝剤はヒスチジンであり、粘度低下剤はアルギニンおよび/またはソルビトールである)を添加して希釈した後に濃縮を継続し、置換が完了するまでこのように繰り返すステップと、
iii.置換後のタンパク質の濃度を、本発明の液体製剤について定義した濃度に調整するステップと、
iv.界面活性剤の最終濃度が本発明の液体製剤について定義した濃度となるように、界面活性剤またはその溶液、好ましくは水溶液を添加するステップと、
v.場合によりステップivの溶液を無菌濾過するステップと、
vi.場合によりバイアル瓶に分注し、ゴム栓およびアルミニウム製プラスチック蓋をして完成品を得るステップとを含む。
【0051】
実施形態において、抗PCSK9抗体は、本明細書で定義される抗PCSK9抗体である。
【0052】
II.本発明の抗PCSK9抗体
いくつかの実施形態において、PCSK9またはその断片(好ましくはヒトPCSK9タンパク質)と結合する抗PCSK9抗体または抗体断片(好ましくは抗原結合断片)を提供する。
【0053】
本発明の1つの態様において、本明細書は、抗PCSK9抗体、およびその断片(例えば、抗原結合断片)を提供する。いくつかの実施形態において、抗PCSK9抗体は、PCSK9活性を抑制または阻害する。いくつかの実施形態において、本発明の抗PCSK9抗体は、以下の1つ以上の特性を有する:
(1)PCSK9(好ましくはヒトPCSK9タンパク質)と結合し、好ましくは、平衡解離定数(K)が約1μM以下、約100nM以下、約10nM以下、約1nM以下、約0.1nM以下、約0.01nM以下、または約0.001nM以下(例えば10-8M以下、例えば10-8M~10-13M、例えば10-9M~10-13M)であること、
(2)PCSK9(例えば、ヒトPCSK9)とLDLR(例えば、ヒトLDLR)との結合を阻害すること、
(3)LDLRの回復能力を増加させ、および/またはPCSK9により誘導されるLDL-C取り込み減少を抑制し、それにより細胞(例えば、肝細胞)によるLDL-C取り込みを増加させることであって、好ましくは、前記抗体濃度は、約10、15、20、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95または100nM以上、例えば約10~100nM、15~70nMであり、好ましくは、前記抗体の細胞によるLDLC取り込み増加能力が、対照抗体よりも少なくとも2倍高く、好ましくは、対照抗体はIgG、またはアリロクマブ(Alirocumab)、エボロクマブ(Evolocumab)またはロデルシズマブ(Lodelcizumab)等の本分野で既知の抗体であること、
(4)細胞のLDLR内在化を効果的に阻止すること、
(5)血清中のLDL-Cレベルおよび/または総コレステロール(TC)レベルを(投与量依存的に)低下させること、
(6)血清中のLDL-Cレベルを長い期間、例えば15、16、17、18、19、20または21日数超の持続期間にわたって有意に低下させること。
【0054】
いくつかの実施形態において、本発明の抗PCSK9抗体またはその抗原結合断片は、重鎖可変領域(VH)を含み、前記VHは、
(i)表IIに示されるいずれかの抗体のVHに含まれる3つの相補性決定領域(CDR)、または
(ii)、(i)の配列に対して、前記3つのCDR領域に合計で少なくとも1個であり、かつ、5個以下、4個以下、3個以下、2個以下もしくは1個以下のアミノ酸変異(好ましくはアミノ酸置換、より好ましくは保存的な置換)が含まれる配列を含む。
【0055】
いくつかの実施形態において、本発明の抗PCSK9抗体またはその抗原結合断片は、軽鎖可変領域(VL)を含み、前記VLは、
(i)配列番号24に示されるVLに含まれる3つの相補性決定領域(CDR)、または
(ii)、(i)の配列に対して、前記3つのCDR領域に合計で少なくとも1個であり、かつ、5個以下、4個以下、3個以下、2個以下もしくは1個以下のアミノ酸変異(好ましくはアミノ酸置換、より好ましくは保存的な置換)が含まれる配列を含む。
【0056】
いくつかの実施形態において、本発明の抗PCSK9抗体またはその抗原結合断片は、重鎖可変領域VHおよび軽鎖可変領域VLを含み、
(a)前記VHが、
(i)表IIに示されるいずれかの抗体のVHに含まれる3つの相補性決定領域(CDR)、または
(ii)、(i)の配列に対して、前記3つのCDR領域に合計で少なくとも1個であり、かつ、5個以下、4個以下、3個以下、2個以下もしくは1個以下のアミノ酸変異(好ましくはアミノ酸置換、より好ましくは保存的な置換)が含まれる配列を含み、および/または
(b)前記VLが、
(i)配列番号24に示されるVLに含まれる3つの相補性決定領域(CDR)、または
(ii)、(i)の配列に対して、前記3つのCDR領域に合計で少なくとも1個であり、かつ、5個以下、4個以下、3個以下、2個以下もしくは1個以下のアミノ酸変異(好ましくはアミノ酸置換、より好ましくは保存的な置換)が含まれる配列を含む。
【0057】
好ましい実施形態において、VHは、配列番号23、25、26、27、28、29、30、31、32または33に示されるアミノ酸配列から選択されるアミノ酸配列を含み、または前記アミノ酸配列からなる。
【0058】
好ましい実施形態において、VLは、配列番号24に示されるアミノ酸配列を含み、または前記アミノ酸配列からなる。
【0059】
好ましい実施形態において、本発明の抗PCSK9抗体またはその抗原結合断片は、
(a)配列番号23、25、26、27、28、29、30、31、32または33に示される重鎖可変領域の3つの相補性決定領域HCDR、および/または
(b)配列番号24に示される軽鎖可変領域の3つの相補性決定領域LCDRを含む。
【0060】
好ましい実施形態において、本発明の抗PCSK9抗体またはその抗原結合断片は、
(a)配列番号23、25、26、27、28、29、30、31、32または33に示される重鎖可変領域の3つの相補性決定領域HCDR、および
(b)配列番号24に示される軽鎖可変領域の3つの相補性決定領域LCDRを含む。
【0061】
いくつかの実施形態において、本発明の抗PCSK9抗体またはその抗原結合断片は、重鎖可変領域(VH)および/または軽鎖可変領域(VL)を含み、
(i)前記VHは、相補性決定領域(CDR)であるHCDR1、HCDR2およびHCDR3であって、配列番号1、7、8、9、10、11、12、13および20から選択されるアミノ酸配列を含むかまたは前記アミノ酸配列からなるHCDR1、または配列番号1、7、8、9、10、11、12、13および20から選択されるアミノ酸配列に対して1個、2個もしくは3個の変異(好ましくはアミノ酸置換、より好ましくは保存的な置換)を有するアミノ酸配列を含むHCDR1、配列番号2、14、15、16、17および21から選択されるアミノ酸配列を含むかまたは前記アミノ酸配列からなるHCDR2、または配列番号2、14、15、16、17および21から選択されるアミノ酸配列に対して1個、2個もしくは3個の変異(好ましくはアミノ酸置換、より好ましくは保存的な置換)を有するアミノ酸配列を含むHCDR2、ならびに配列番号3、18、19および22から選択されるアミノ酸配列を含むかまたは前記アミノ酸配列からなるHCDR3、または配列番号3、18、19および22から選択されるアミノ酸配列に対して1個、2個もしくは3個の変異(好ましくはアミノ酸置換、より好ましくは保存的な置換)を有するアミノ酸配列を含むHCDR3、を含み
および/または、
(ii)前記VLは、相補性決定領域(CDR)であるLCDR1、LCDR2およびLCDR3であって、配列番号4のアミノ酸配列を含むかまたは前記アミノ酸配列からなるLCDR1、または配列番号4のアミノ酸配列に対して1個、2個もしくは3個の変異(好ましくはアミノ酸置換、より好ましくは保存的な置換)を有するアミノ酸配列を含むLCDR1、配列番号5のアミノ酸配列を含むかまたは前記アミノ酸配列からなるLCDR2、または配列番号5のアミノ酸配列に対して1個、2個もしくは3個の変異(好ましくはアミノ酸置換、より好ましくは保存的な置換)を有するアミノ酸配列を含むLCDR2、ならびに配列番号6のアミノ酸配列を含むかまたは前記アミノ酸配列よりからなるLCDR3、または配列番号6のアミノ酸配列に対して1個、2個もしくは3個の変異(好ましくはアミノ酸置換、より好ましくは保存的な置換)を有するアミノ酸配列を含むLCDR3を含む。
【0062】
好ましい実施形態において、本発明の抗PCSK9抗体またはその抗原結合断片は、重鎖可変領域(VH)および/または軽鎖可変領域(VL)を含み、
(a)前記VHが、
(i)表Iに示されるHCDR1、HCDR2とHCDR3の組み合わせ、または
(ii)前記3つのCDR領域に合計で少なくとも1個であり、かつ、5個以下、4個以下、3個以下、2個以下もしくは1個以下のアミノ酸変異(好ましくはアミノ酸置換、より好ましくは保存的な置換)が含まれる(i)のHCDRの組み合わせの変異体を含む。
および/または、
(b)前記VLが、
(i)それぞれ配列番号4、5および6に示されるアミノ酸配列を含むかまたは前記アミノ酸配列からなるLCDR1、LCDR2およびLCDR3の組み合わせ、または
(ii)前記3つのCDR領域に合計で少なくとも1個であり、かつ、5個以下、4個以下、3個以下、2個以下もしくは1個以下のアミノ酸変異(好ましくはアミノ酸置換、より好ましくは保存的な置換)が含まれる(i)のLCDRの組み合わせの変異体を含む。
【0063】
好ましい実施形態において、本発明の抗PCSK9抗体またはその抗原結合断片は、重鎖可変領域(VH)および/または軽鎖可変領域(VL)を含み、前記VHは相補性決定領域(CDR)のHCDR1、HCDR2、HCDR3を含み、前記VLは(CDR)のLCDR1、LCDR2、LCDR3を含み、前記抗体またはその抗原結合断片に含まれるHCDR1、HCDR2、HCDR3、LCDR1、LCDR2とLCDR3の組み合わせは下表(表I)に示されるとおりである。
【0064】
【表1】
【0065】
好ましい実施形態において、本発明の抗PCSK9抗体またはその抗原結合断片は、表Iに示されるHCDR1、HCDR2、HCDR3、LCDR1、LCDR2とLCDR3の組み合わせを含む。
【0066】
いくつかの実施形態において、本発明の抗PCSK9抗体またはその抗原結合断片は、重鎖可変領域VHおよび/または軽鎖可変領域VLを含み、
(a)重鎖可変領域VHが、
(i)配列番号23、25、26、27、28、29、30、31、32および33から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%の同一性を有するアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、または
(ii)配列番号23、25、26、27、28、29、30、31、32および33から選択されるアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、または
(iii)配列番号23、25、26、27、28、29、30、31、32および33から選択されるアミノ酸配列に対して1個以上(好ましくは10個以下、より好ましくは5個以下、4個以下、3個以下、2個以下または1個以下)のアミノ酸変異(好ましくはアミノ酸置換、より好ましくは保存的なアミノ酸置換)を有するアミノ酸配列を含み、好ましくは、前記アミノ酸変異はCDR領域に生じず、
および/または、
(b)軽鎖可変領域VLが、
(i)配列番号24のアミノ酸配列に対して少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%の同一性を有するアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、
(ii)配列番号24のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、または
(iii)配列番号24のアミノ酸配列に対して1個以上(好ましくは10個以下、より好ましくは5個以下、4個以下、3個以下、2個以下または1個以下)のアミノ酸変異(好ましくはアミノ酸置換、より好ましくは保存的なアミノ酸置換)を有するアミノ酸配列を含み、好ましくは、前記アミノ酸変異はCDR領域に生じない。
【0067】
好ましい実施形態において、本発明の抗PCSK9抗体またはその抗原結合断片は、重鎖可変領域(VH)と、軽鎖可変領域(VL)とを含み、前記抗体またはその抗原結合断片に含まれる重鎖可変領域VHと軽鎖可変領域VLの組み合わせは、下表(表II)に示されるとおりである。
【0068】
【表2】
【0069】
いくつかの実施形態において、本発明の抗PCSK9抗体またはその抗原結合断片は、重鎖および/または軽鎖を含み、
(a)重鎖が、
(i)配列番号34、36、37、38、39、40、41、42、43および44から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%の同一性を有するアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、
(ii)配列番号34、36、37、38、39、40、41、42、43および44から選択されるアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、または
(iii)配列番号34、36、37、38、39、40、41、42、43および44から選択されるアミノ酸配列に対して1個以上(好ましくは20個以下または10個以下、より好ましくは5個以下、4個以下、3個以下、2個以下または1個以下)のアミノ酸変異(好ましくはアミノ酸置換、より好ましくは保存的なアミノ酸置換)を有するアミノ酸配列を含み、好ましくは、前記アミノ酸変異は重鎖のCDR領域に生じず、より好ましくは、前記アミノ酸変異は重鎖可変領域に生じず、
および/または、
(b)軽鎖が、
(i)配列番号35のアミノ酸配列に対して少なくとも85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%の同一性を有するアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、
(ii)配列番号35のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、または
(iii)配列番号35のアミノ酸配列に対して1個以上(好ましくは20個以下または10個以下、より好ましくは5個以下、4個以下、3個以下、2個以下または1個以下)のアミノ酸変異(好ましくはアミノ酸置換、より好ましくは保存的なアミノ酸置換)を有するアミノ酸配列を含み、好ましくは、前記アミノ酸変異は軽鎖のCDR領域に生じず、より好ましくは、前記アミノ酸変異は軽鎖可変領域に生じない。
【0070】
好ましい実施形態において、本発明の抗PCSK9抗体またはその抗原結合断片は、重鎖と、軽鎖とを含み、前記抗体またはその抗原結合断片に含まれる重鎖と軽鎖の組み合わせは下表(表III)に示されるとおりである。
【0071】
【表3】
【0072】
いくつかの実施形態において、本発明の抗体は、抗PCSK9抗体のアミノ酸配列の変異体、および、上記の任意の抗体と同じエピトープを結合する抗体をさらに含む。
【0073】
一部の実施形態において、PCSK9またはその断片と結合する抗体または抗体断片(好ましくは、抗原結合断片)を提供し、前記抗体はPCSK9の断片内のエピトープと結合する。一部の実施形態において、PCSK9またはその断片と結合する抗体または抗体断片を提供し、前記抗体はヒトPCSK9アミノ酸配列配列番号53を含むアミノ酸断片内のエピトープと結合する。
【0074】
いくつかの実施形態において、本発明の抗PCSK9抗体またはその断片の重鎖および/または軽鎖は、シグナルペプチド配列、例えば、METDTLLLWVLLLWVPGSTGをさらに含む。
【0075】
本発明の1つの実施形態において、本明細書に記載のアミノ酸変異は、アミノ酸の置換、挿入または欠失を含む。好ましくは、本発明において前記アミノ酸変異はアミノ酸置換であり、保存的な置換であることが好ましい。
【0076】
好ましい実施形態において、本発明において前記アミノ酸変異はCDR外の領域(例えば、FR)に生じる。より好ましくは、本発明において前記アミノ酸変異は重鎖可変領域外および/または軽鎖可変領域外の領域に生じる。
【0077】
いくつかの実施形態において、置換は保存的な置換である。前記保存的な置換とは、1つのアミノ酸が同種の別のアミノ酸によって置換されたことを指す。例えば、1つの酸性アミノ酸が別の酸性アミノ酸によって置換されたこと、1つの塩基性アミノ酸が別の塩基性アミノ酸によって置換されたこと、または1つの中性アミノ酸が別の中性アミノ酸によって置換されたことを指す。例示的な置換は下表IVに示されるとおりである。
【0078】
【表4】
【0079】
一部の実施形態において、置換は抗体のCDR領域に生じる。通常、得られる変異体は、親抗体に対して特定の生物学的特性(例えば、増加した親和力)において修飾(例えば、改善)を有し、および/または親抗体の特定の生物学的特性を実質的に保持する。例示的な置換変異体は、親和力成熟抗体である。
【0080】
一部の実施形態において、本明細書で提供される抗体は、抗体のグリコシル化の程度が増大または低減するように改変される。抗体のグリコシル化部位の追加または欠失は、アミノ酸配列を改変させて1つ以上のグリコシル化部位を生成または除去することによって容易に実現できる。抗体がFc領域を含む場合、それに付着する糖類を改変させることができる。いくつかの使用では、抗体依存性細胞毒性(ADCC)機能を改善するためにフコースモジュールを除去するなど、望ましくないグリコシル化部位を除去する修飾が有用であり得る(Shield et al.(2002)JBC277:26733参照)。他の使用では、ガラクトシド化修飾を行って補体依存性細胞毒性(CDC)を修飾することができる。
【0081】
一部の実施形態において、本明細書で提供される抗体のFc領域に1つ以上のアミノ酸修飾を導入してFc領域変異体を生成することによって、疾患の治療における抗体の有効性などを増強させることができる。Fc領域変異体は、1つ以上のアミノ酸位置にアミノ酸修飾(例えば、置換)を含むヒトFc領域配列(例えば、ヒトIgGl、IgG2、IgG3またはIgG4 Fc領域)を含み得る。Fc変異体の例については、米国特許第7,332,581号、米国特許第6,737,056号、米国特許第6,737,056号、WO 2004/056312およびShields et al.,J. Biol. Chem. 9(2):6591-6604(2001)、米国特許第6,194,551号、WO 99/51642およびIdusogie et al.J. Immunol. 164:4178-4184(2000)、米国特許第7,371,826号、Duncan&Winter,Nature 322:738-40(1988)、米国特許第5,648,260号、米国特許第5,624,821号、およびWO 94/29351を参照されたい。
【0082】
一部の実施形態において、システイン操作された抗体、例えば、抗体の1つ以上の残基がシステイン残基で置換された「チオMAb」の産生が望ましい場合がある。例えば、米国特許第7,521,541号に記載されているように、システイン操作された抗体を生成することができる。
【0083】
一部の実施形態において、本明細書で提供される抗体は、本分野で既知の事項として容易に得られる他の非タンパク質の部分を含有するようにさらに修飾されてもよい。抗体の誘導作用に適する部分の非限定的な例は、水溶性ポリマーを含む。水溶性ポリマーの非限定的な例は、ポリエチレングリコール(PEG)、エチレングリコール/プロピレングリコールコポリマー、カルボキシメチルセルロース、デキストラン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリ-1,3-ジオキサン、ポリ-1,3,6-トリオキサン、エチレン/無水マレイン酸コポリマー、ポリアミノ酸(ホモポリマーまたはランダムコポリマー)、デキストランまたはポリ(n-ビニルピロリドン)、ポリエチレングリコール、プロピレングリコールホモポリマー、ポリプロピレンオキシド/エチレンオキシドコポリマー、ポリオキシエチル化ポリオール(例えば、グリセリン)、ポリビニルアルコール、これらの混合物を含む。
【0084】
いくつかの実施形態において、本発明の抗PCSK9抗体またはその抗原結合断片は、以下の1つ以上の特性を有する。
(i)表Cに示されるいずれか1つの抗体とPCSK9(例えばヒトPCSK9、好ましくは配列番号53に示されるアミノ酸配列を有する)に対して同じまたは類似の結合親和力および/または特異性を示すこと、
(ii)表Cに示されるいずれか1つの抗体とPCSK9(例えばヒトPCSK9、好ましくは配列番号53に示されるアミノ酸配列を有する)との結合を抑制(例えば、競合的に抑制)すること、
(iii)表Cに示されるいずれか1つの抗体と同じまたは重複するエピトープと結合すること、
(iv)表Cに示されるいずれか1つの抗体とPCSK9(例えばヒトPCSK9、好ましくは配列番号53に示されるアミノ酸配列を有する)と競合的結合すること、
(v)表Cに示されるいずれか1つの抗体の1つ以上の生物学的特性を有すること。
【0085】
いくつかの実施形態において、本発明の抗PCSK9抗体は、IgG1形態の抗体、IgG2形態の抗体またはIgG4形態の抗体である。
【0086】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載の抗PCSK9抗体は、モノクローナル抗体である。いくつかの実施形態において、本明細書に記載の抗PCSK9抗体はヒト化された抗体である。いくつかの実施形態において、本明細書に記載の抗PCSK9抗体はヒト抗体である。いくつかの実施形態において、本明細書に記載の抗PCSK9抗体のフレームワーク配列の少なくとも一部は、ヒトに共有するフレームワーク配列である。1つの実施形態において、本明細書に記載の抗PCSK9抗体はその抗体断片をさらに含む。抗体断片の例は、Fv、Fab、Fab′、Fab’-SH、F(ab’)、ダイアボディ、線形抗体、単鎖抗体分子(例えば、scFv)、および抗体断片より形成された多重特異性抗体を含むが、これらに限定されない。
【0087】
パパイン消化抗体は、それぞれが単一の抗原結合部位を有する「Fab」断片と呼ばれる2つの同一の抗原結合断片と、結晶化しやすいその能力を反映する名称の残りの「Fc」断片とを生成する。ペプシン処理は、2つの抗原結合部位を有し、依然として抗原を架橋することができるF(ab’)断片を生成する。
【0088】
いくつかの実施形態において、本発明の抗PCSK9抗体はヒト化抗体である。抗体のヒト化のための各種の方法は、例えば、Almagro&Franssonに記載の当該方法の概要は当業者が知っている内容であり、当該内容の全体が引用によって本明細書に組み込まれる(Almagro JC&Fransson J(2008)Frontiers inBioscience13:1619-1633)。Almagro&Franssonでは、定量的アプローチと経験的アプローチに区別されている。定量的アプローチは、少量の人工抗体の変異体を生成しその結合または任意の他の対象特性を評価することを特徴とする。設計された変異体に所望の効果が得られない場合は、再度の設計と結合評価を行う。定量的アプローチは、CDRグラフト、リサーフェイシング(Resurfacing)、超ヒト化(Superhumanization)、ヒト文字列内容の最適化(Human String Content Optimization)を含む。これに対して、経験的アプローチは、大量のヒト化変異体ライブラリーを生成し富化技術またはハイスループットスクリーニングを利用して最適なクローンを選択することに基づく。したがって、経験的アプローチは、大量の抗体変異体に対する検索が可能な、確実な選択および/またはスクリーニングシステムに基づく。例えば、ファージディスプレイ、リボソームディスプレイなどのインビトロディスプレイ技術は、上記の要件を満たしており、当業者が知っている内容でもある。経験的アプローチは、FRライブラリー、案内選択(Guided selection)、フレームワークシャッフリング(Framework-shuffling)、およびHumaneeringを含む。
【0089】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載の抗PCSK9抗体はヒト抗体である。本分野で既知の様々な技術を利用してヒト抗体を製造できる。ヒト抗体に関しては、van Dijk&van de Winkel,Curr.Opin.Pharmacol 5 :368-74(2001)、およびLonberg,Curr.Opin.Immunol 20 :450-459(2008)の説明が参照される。
【0090】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載の抗PCSK9抗体はキメラ抗体である。
【0091】
組み合わせライブラリーにおいて、所望の活性を有する抗体をスクリーニングすることによって本発明の抗体を単離することができる。例えば、本分野において、ファージディスプレイライブラリーを生成しこれらのライブラリーにおいて所望の結合特性を有する抗体をスクリーニングする方法として、いくつかが知られている。これらの方法は、例えば、Hoogenboom et al.,Methods in Molecular Biology 178:1-37(edited by O’ Brien et al.,Human Press,Totowa,NJ,2001)に記載の内容が参照され、その更なる説明として、例えば、McCafferty et al.,Nature 348:552-554、Clackso et al.,Nature 352:624-628(1991)、Marks et al.,J.Mol.Biol.222:581-597(1992)、Marks&Bradbury,Methods in Molecular Biology 248:161-175(edited by Lo,Human Press,Totowa,NJ,2003)、Sidhu et al.,J.Mol.Biol.338(2):299-310(2004)、Lee et al.,J.Mol.Biol340(5):1073-1093(2004)、Fellouse,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 101(34):12467-12472(2004)、Lee et al.,J.Immunol.Methods284(1-2):119-132(2004)が参照される。
【0092】
いくつかの実施形態において、本発明は、例えば、検出可能なマーカー(例えば、蛍光色素、酵素、基質、生物発光物質、放射性物質および化学発光部分)、細胞傷害剤または免疫抑制剤などの他の物質と複合された抗PCSK9モノクローナル抗体(「複合体または免疫複合体」)をさらに含む。細胞傷害剤は、細胞に対して傷害性を有する任意の薬剤を含む。免疫複合体の生成に適する細胞傷害剤(例えば、化学療法剤)としては、例えばWO05/103081が参照され、本分野で既知の内容である。
【0093】
いくつかの実施形態において、本発明の抗体は、単一特異性抗体、二重特異性抗体または多重特異性抗体であり得る。多重特異性モノクローナル抗体は、1つの標的ポリペプチドの異なるエピトープに特異的であってもよいし、1つを超える標的ポリペプチドに特異的な抗原結合ドメインを含んでいてもよい。例えば、Tutt et al.(1991)J.Immunol.147:60-69を参照する。抗PCSK9モノクローナル抗体は、別の機能性分子(例えば、別のペプチドまたはタンパク質)と連結または共発現することができる。例えば、抗体またはその断片は、二次以上の結合特異性を有する二重特異性または多重特異性抗体を生成するために、別の抗体または抗体断片などの1つ以上の他の分子に(例えば、化学的結合、遺伝的融合、非共有結合、または他の方法で)機能的に連結されてもよい。
【0094】
いくつかの実施形態において、本発明の抗体は、ヒトPCSK9タンパク質、例えば配列番号53に示されるヒトPCSK9タンパク質と結合する。
【0095】
III.本発明の抗体またはその製剤の治療方法および使用
別の態様において、本発明は、対象におけるPCSK9とLDL-受容体(LDLR)の結合を抑制する方法に関し、前記方法は、有効量の本明細書に記載の任意の抗PCSK9抗体製剤または本発明の抗PCSK9抗体を前記対象に投与することを含む。本発明はまた、対象におけるPCSK9とLDL-受容体(LDLR)の結合を抑制するための薬物の製造における、本明細書に記載の任意の抗PCSK9抗体製剤または本発明の抗PCSK9抗体の使用に関する。
【0096】
別の態様において、本発明は、対象のコレステロールレベルを低下させる方法に関し、前記方法は、有効量の本明細書に記載の任意の抗PCSK9抗体製剤または本発明の抗PCSK9抗体を前記対象に投与することを含む。1つの実施形態において、コレステロールはLDL-コレステロール、好ましくは血清コレステロールである。別の態様において、本発明は、対象のLDL-コレステロールレベルを低下させる方法に関し、前記方法は、有効量の本明細書に記載の任意の抗PCSK9抗体製剤または本発明の抗PCSK9抗体を前記対象に投与することを含む。いくつかの実施形態において、本発明は、対象の血清LDL-コレステロールレベルを低下させる方法に関し、前記方法は、有効量の本明細書に記載の任意の抗PCSK9抗体製剤または本発明の抗PCSK9抗体を前記対象に投与することを含む。別の態様において、本発明はまた、対象における対象のコレステロールレベル(1つの実施形態において、LDL-コレステロールレベルまたは血清LDL-コレステロールレベルである)を低下させるための薬物の製造における、本明細書に記載の任意の抗PCSK9抗体製剤または本発明の抗PCSK9抗体の使用に関する。
【0097】
別の態様において、本発明は、LDL-コレステロールレベルの上昇に関連する対象の病的状態を予防または治療する方法に関し、前記方法は、有効量の本明細書に記載の任意の抗PCSK9抗体製剤または本発明の抗PCSK9抗体を前記対象に投与することを含む。本発明はまた、対象におけるLDL-コレステロールレベルの上昇に関連する対象の病的状態を治療するための薬物の製造における、本明細書に記載の任意の抗PCSK9抗体製剤または本発明の抗PCSK9抗体の使用に関する。
【0098】
1つの態様において、本発明は、コレステロール関連疾患を予防または治療する方法に関し、前記方法は、有効量の本明細書に記載の任意の抗PCSK9抗体製剤または本発明の抗PCSK9抗体を前記対象に投与することを含む。本発明はまた、コレステロール関連疾患を治療するための薬物の製造における、本明細書に記載の任意の抗PCSK9抗体製剤または本発明の抗PCSK9抗体の使用に関する。コレステロール関連疾患の例示的かつ非限定的な例は、以下に提供される。いくつかの実施形態において、コレステロール関連疾患は、高コレステロール血症(hypercholesterolemia)または高脂血症である。いくつかの実施形態において、本発明は、高コレステロール血症および/または高脂血症を治療する方法に関し、前記方法は、有効量の本明細書に記載の任意の抗PCSK9抗体製剤または本発明の抗PCSK9抗体を前記対象に投与することを含む。いくつかの実施形態において、本発明はまた、高コレステロール血症および/または高脂血症を治療するための薬物の製造における、本明細書に記載の任意の抗PCSK9抗体製剤または本発明の抗PCSK9抗体の使用に関する。
【0099】
1つの態様において、本発明は、PCSK9活性を除去、抑制または低下させることによって改善、緩和、抑制または予防され得る任意の疾患または病的状態を予防または治療する方法に関する。いくつかの実施形態において、スタチン(statins)を用いて治療または予防することができる疾患または病的状態は、本明細書に記載の任意の抗PCSK9抗体製剤または本発明の抗PCSK9抗体を用いて治療または予防することもできる。いくつかの実施形態において、コレステロール合成の防止またはLDLR発現の増加から利益を得ることができる疾患または病的状態は、本明細書に記載の任意の抗PCSK9抗体製剤または本発明の抗PCSK9抗体を用いて治療することもできる。
【0100】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載の方法は、前記対象に有効量の他の治療剤を組み合わせて適用することをさらに含む。1つの実施形態において、本発明はまた、本明細書に記載の抗体製剤または抗体および他の治療剤を含む組み合わせ製品に関する。1つの実施形態において、他の治療剤は、LDLRタンパク質のレベルを上昇させる。別の実施形態において、他の治療剤は、LDL-コレステロールのレベルを低下させる。別の実施形態において、他の治療剤は、スタチンを含む。別の実施形態において、他の治療剤は、スタチンである。いくつかの実施形態において、スタチンは、アトルバスタチン(atorvastatin)、フルバスタチン(fluvastatin)、ロバスタチン(lovastatin)、メバスタチン(mevastatin)、ピタバスタチン(pitavastatin)、プラバスタチン(pravastatin)、ロスバスタチン(rosuvastatin)、シンバスタチン(simvastatin)、およびこれらの任意の組み合わせから選択される。一部の実施形態において、前記他の治療剤は、アテローム性動脈硬化症および/または心血管疾患を予防および/または治療するために使用される。一部の実施形態において、前記他の治療剤は、再発する心血管イベントのリスクを低減するための方法である。一部の実施形態において、前記他の治療剤は、対象のHDL-コレステロールレベルを上昇させるために使用される。いくつかの実施形態において、対象または個体は、哺乳類であり、好ましくは、ヒトである。
【0101】
上記併用療法には、併用投与(2種以上の治療剤が同一または別の製剤に含まれる)と、別の投与とが含まれ、任意の抗PCSK9抗体製剤または本発明の抗PCSK9抗体の投与は、他の治療剤および/またはアジュバントの投与の前、同時および/または後に行うことができる。
【0102】
疾患を予防または治療するために、本発明の製剤または抗体の適切な投与量(単独で投与される場合または1種以上の他の治療剤と組み合わせて投与される場合)が、治療対象疾患の種類、抗体のタイプ、疾患の重症度とその経過、前記抗体の投与が予防目的であるか治療目的であるか、これまでの治療歴、患者の臨床病歴、前記製剤または抗体に対する応答、主治医の判断によって決定される。前記抗体は、単回の治療として、または一連の治療において患者に適切に投与される。前記抗体の例示的な投与量の範囲は、3~30mg/kgを含む。
【0103】
他の態様において、本発明は、薬物を生産または製造するための、任意の抗PCSK9抗体製剤または本発明の抗PCSK9抗体の使用を提供し、前記薬物は、上記の関連の疾患または病的状態の治療に用いられる。
【0104】
一部の実施形態において、本発明の任意の抗PCSK9抗体製剤または本発明の抗PCSK9抗体は、高コレステロール血症、高脂血症、心血管疾患および/または任意のコレステロール関連疾患の出現を予防または緩和するために、予防的に投与され得る。一部の実施形態において、本発明の任意の抗PCSK9抗体製剤または本発明の抗PCSK9抗体は、既存の高コレステロール血症および/または高脂血症および/または心血管疾患および/または任意のコレステロール関連疾患を治療するために投与することができる。いくつかの実施形態において、本発明の任意の抗PCSK9抗体製剤または本発明の抗PCSK9抗体は、病的状態および/または病的状態に関連する症状の出現を遅延することができる。
【0105】
IV.その他
1つの態様において、本発明は、上記の任意の抗PCSK9抗体またはその断片をコードする核酸を提供する。1つの実施形態において、前記核酸を含むベクターを提供する。1つの実施形態において、ベクターは発現ベクターである。1つの実施形態において、前記ベクターを含む宿主細胞を提供する。1つの実施形態において、宿主細胞は真核細胞である。別の実施形態において、宿主細胞は、酵母細胞、哺乳動物細胞または抗体もしくはその抗原結合断片の製造に適する他の細胞から選択される。別の実施形態において、宿主細胞は原核細胞である。
【0106】
1つの実施形態において、本発明は、抗PCSK9抗体またはその断片(好ましくは、抗原結合断片)の製造方法を提供し、前記方法は、前記抗体またはその断片(好ましくは、抗原結合断片)をコードする核酸の発現に適する条件において前記宿主細胞を培養することと、場合により前記抗体またはその断片(好ましくは、抗原結合断片)を単離することとを含む。ある実施形態において、前記方法は、宿主細胞から抗PCSK9抗体またはその断片(好ましくは、抗原結合断片)を回収することをさらに含む。
【0107】
1つの態様において、本発明は、試料中のPCSK9タンパク質の検出方法に関し、前記方法は、(a)試料を本明細書に記載の任意の抗PCSK9抗体製剤または本発明の抗体と接触させることと、(b)抗PCSK9抗体またはその断片とPCSK9タンパク質における複合物の形成を検出することとを含む。1つの実施形態において、抗PCSK9抗体は、検出可能に標識される。
【0108】
本発明は、本明細書に記載の任意の実施形態の任意の組み合わせをさらに含む。本明細書に記載の任意の実施形態またはその任意の組み合わせは、本明細書に記載の本発明の任意のおよび全ての製剤または抗PCSK9抗体またはその断片、方法および使用に適用する。
【図面の簡単な説明】
【0109】
図1図1は、異なる濃度の各抗PCSK9抗体がPCSK9とLDLRの結合を阻害する能力を示す。
図2図2は、異なる濃度の各抗PCSK9抗体がHepG2細胞のLDLR回復を増加させる能力を示す。
図3図3は、異なる濃度の各抗PCSK9抗体が細胞のLDLR内在化を低下させる能力を示す。
図4図4Aは、本発明の例示的な抗体の重鎖のFRおよびCDRの配列情報を示し、図4Bは、本発明の例示的な抗体の軽鎖のFRおよびCDRの配列情報を示す。
図5図5Aは、本発明の例示的な抗体の重鎖可変領域を示す配列情報を示し、図5Bは、本発明の例示的な抗体の軽鎖可変領域を示す配列情報を示す。
図6図6は、ラットにおける抗PCSK-9抗体またはEvolocumabの皮下または静脈内投与後の血清中のLDL-Cの、投与前レベル(D1投与前、基線)に対する%変化率(平均)vs時間のプロットを示す。
図7図7は、ラットにおける抗PCSK-9抗体またはEvolocumabの皮下または静脈内投与後の血清中の%HDL-Cの、投与前レベル(D1投与前、基線)に対する%変化率(平均)vs時間のプロットを示す。
図8図8は、カニクイザルにおける抗PCSK-9抗体またはEvolocumabの投与後の血清LDL-Cの、投与前レベル(D1投与前、基線)に対する%変化率(平均)vs時間のプロットを示す。
図9図9は、カニクイザルにおける抗PCSK-9抗体またはEvolocumabの投与後の血清HDL-Cの、投与前レベル(D1投与前、基線)に対する%変化率(平均)vs時間のプロットを示す。
図10図10は、カニクイザルにおける抗PCSK-9抗体またはEvolocumabの投与後の血清TCの、投与前レベル(D1投与前、基線)に対する%変化率(平均)vs時間のプロットを示す。
【0110】
定義
本発明において使用されている用語は、以下に列挙される定義を有する。定義が本明細書に記載されていない場合、本発明において使用されている用語は、本分野において一般的に理解される意味を有する。
【0111】
本明細書で解釈のために以下の定義を使用し、しかも矛盾がなければ、単数形で使用される用語は複数の場合をも含み、逆の場合については同様である。なお、本明細書で使用されている用語は、特定の実施形態を説明するためのものに過ぎず、限定を加えるものではない。
【0112】
本明細書で使用される用語「および/または」は選択可能オプションのうちのいずれか一項または選択可能オプションのうちの2項または複数項を指すと理解すべきである。
【0113】
本明細書で使用される用語「包含する」または「含む」とは、前記要素、整数またはステップを含むが、他の要素、整数またはステップを排除しないことを意味する。本明細書において、用語「包含する」または「含む」を用いる場合、特記しない限り、述べられた要素、整数またはステップからなる場合を含む必要がある。例えば、ある具体的な配列の抗体可変領域を「包含する」ことを言及する場合、当該配列からなる抗体可変領域を含むことを指す。
【0114】
特記しない限り、用語「プロタンパク質転換酵素枯草菌プロテアーゼ/kexin型9(Proprotein convertase subtilisin/kexin type9)(PCSK9)」、「PCSK9」または「NARC-1」は、本明細書で使用される場合、任意の天然PCSK9、任意の脊椎動物源(霊長類(例えば、ヒト)およびげっ歯類(例えば、マウスおよびラット)などの哺乳類を含む)からの任意の天然PCSK9が好ましい。当該用語は、「完全長」の未処理PCSK9、ならびに細胞内処理によって生成される任意の形態のPCSK9またはその任意の断片を包含する。当該用語はまた、天然に存在するPCSK9の変異体、例えばスプライシング変異体または対立遺伝子変異体を含む。
【0115】
用語「PCSK9活性」またはPCSK9の「生物学的活性」は、本明細書で使用される場合、PCSK9の任意の生物学的作用を含む。いくつかの実施形態において、PCSK9活性は、PCSK9が基質または受容体と相互作用または結合する能力を含む。いくつかの実施形態において、PCSK9の生物学的活性は、PCSK9がLDL-受容体(LDLR)と結合する能力である。いくつかの実施形態において、PCSK9は、結合し、LDLRに関連する反応を触媒する。いくつかの実施形態において、PCSK9活性は、PCSK9がLDLRの利用を低下または減少させる能力を含む。いくつかの実施形態において、PCSK9の生物学的活性は、PCSK9が対象のLDLの量を増加させる能力を含む。いくつかの実施形態において、PCSK9の生物学的活性は、PCSK9がLDLと結合するために使用され得る対象のLDLRの量を減少させる能力を含む。いくつかの実施形態において、PCSK9の生物学的活性は、PCSK9がLDLと結合するために使用され得るLDLRの量を減少させる能力を含む。いくつかの実施形態において、PCSK9の生物学的活性は、PCSK9シグナル伝達に起因する任意の生物学的活性を含む。
【0116】
語「抗PCSK9抗体」、「抗PCSK9」、「PCSK9抗体」または「PCSK9と結合する抗体」とは、標的PCSK9中の診断剤および/または治療剤として使用できるように、十分な親和性でPCSK9タンパク質またはその断片と結合する抗体を指す。1つの実施形態において、抗PCSK9抗体は、例えば、放射免疫測定(RIA)によって測定して、PCSK9と結合する抗体の約10%未満の程度で、非関連の非PCSK9タンパク質と結合する。いくつかの実施形態において、抗PCSK9の抗体の平衡解離定数(K)が1μM以下、100nM以下、10nM以下、1nM以下、0.1nM以下、0.01nM以下、または0.001nM以下(例えば10-8M以下、例えば10-8M~10-13M、例えば10-9M~10-13M)である。
【0117】
「抗体断片」とは、完全抗体の一部を含みかつ完全抗体によって結合された抗原と結合する、完全抗体とは異なる分子を指す。抗体断片の非限定的な例は、Fv、Fab、Fab’、Fab’-SH、F(ab’)2、ダイアボディ、線形抗体、単鎖抗体(例えば、scFv)、単一ドメイン抗体、二価抗体もしくは二重特異性抗体もしくはその断片、ラクダ科由来の抗体、抗体断片により形成された二重特異性抗体もしくは多重特異性抗体を含む。
【0118】
本明細書で使用される用語「エピトープ」とは、抗原(例えば、PCSK9)における抗体分子と特異的に相互作用する部分を指す。
【0119】
参照抗体と「同一のまたは重複するエピトープと結合する抗体」とは、競合測定において50%以上の前記参照抗体とその抗原の結合を阻害する抗体を指し、言い換えれば、参照抗体が競合測定において50%以上の当該抗体とその抗原の結合を阻害する。
【0120】
参照抗体に対してその抗原と競合的に結合する抗体とは、競合測定において50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上または95%以上の前記参照抗体とその抗原の結合を阻害する抗体を指す。言い換えれば、参照抗体が競合測定において50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上または95%以上の当該抗体とその抗原の結合を阻害する。1種の抗体が別の抗体と競合関係にあるかどうかを決定するためには様々な競合的結合測定を用いることができる。これらの測定の例としては、固相直接放射免疫測定または間接放射免疫測定(RIA)、固相直接酵素免疫測定または間接酵素免疫測定(EIA)、サンドイッチ競合測定(例えば、Stahli et al.,1983,Methods in Enzymology 9:242-253)が挙げられる。
【0121】
参照抗体とその抗原の結合を抑制(例えば、競合的抑制)する抗体とは、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上または95%以上の前記参照抗体とその抗原の結合を抑制する抗体を指す。言い換えれば、参照抗体が50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上または95%以上の当該抗体とその抗原の結合を抑制する。抗体とその抗原の結合は親和力(例えば、平衡解離定数)として計測できる。親和力の測定方法は、本分野で既知の内容である。
【0122】
参照抗体と同じまたは類似の結合親和力および/または特異性を示す抗体とは、参照抗体の少なくとも50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上または95%以上の結合親和力および/または特異性を有する抗体を指す。これに関しては、本分野の既知の任意の結合親和力および/または特異性の測定方法で測定できる。
【0123】
「相補性決定領域」または「CDR領域」または「CDR」は、抗体可変ドメインでは、配列において超可変でありかつ構造上に形成された所定のループ(「超可変ループ」)および/または抗原接触残基(「抗原接触点」)を含む領域である。CDRは、主に抗原エピトープに結合する役割を果たす。重鎖と軽鎖のCDRは通常、CDR1、CDR2とCDR3と呼ばれ、N-末端から順に番号付ける。抗体の重鎖可変ドメイン内に位置するCDRはHCDR1、HCDR2、HCDR3と呼ばれ、抗体の軽鎖可変ドメイン内に位置するCDRはLCDR1、LCDR2、LCDR3と呼ばれる。1つの特定の軽鎖可変領域または重鎖可変領域のアミノ酸配列において、各CDRにおけるアミノ酸配列の境界は、公知の各種の抗体CDR割り当てシステムのいずれか1種またはその組み合わせにより正確に決定できる。前記割り当てシステムの例は、抗体の三次元的構造とCDRリングのトポロジーに基づくChothia(Chothia et al.(1989)Nature 342:877-883,Al-Lazikani et al.,「Standard conformations for the canonical structures of immunoglobulins」,Journal of Molecular Biology,273,927-948(1997))、抗体配列の可変性に基づくKabat(Kabat et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,4th edition,U.S.Department of Health and Human Services,National Institutes of Health(1987))、AbM(University of Bath)、Contact(University College London)、国際的ImMunoGeneTics database(IMGT)(www.imgt.cines.fr/にて利用可能)、大量の結晶構造が利用されるアフィニティ伝播クラスタリング(affinity propagation clustering)に基づくNorth CDR定義を含む。
【0124】
ただし、異なる割り当てシステムから得られた同一抗体の可変領域のCDRの境界には、差異がある可能性があることを認識すべきである。即ち、異なる割り当てシステムで定義された同一抗体の可変領域のCDR配列には違いがある。したがって、本発明で定義された具体的なCDR配列により抗体が限定される場合、前記抗体の範囲には、可変領域配列が前記した具体的なCDR配列を含むが、異なる手段(例えば、異なる割り当てシステムのルールまたは組み合わせ)が使用されることにより、かかるCDR境界が本発明で定義された具体的なCDR境界と異なるような抗体も含まれる。
【0125】
異なる特異性(即ち、異なる抗原に対する異なる結合部位)を有する抗体は、異なるCDRを有する。しかし、抗体と抗体との間にあるCDRが異なるにもかかわらず、CDRには限られた数のアミノ酸位置のみを抗原との結合に直接参与する。Kabat、Chothia、AbM、ContactおよびNorth方法のうちの少なくとも2種を用いて、最小重複領域を決定し、それによって抗原結合用の「最小結合単位」を提供することができる。最小結合単位は、CDRの1つのサブ部分であることができる。当業者が明らかにしたように、抗体の構造とタンパク質のフォールディングによって、CDR配列の残り部分の残基を確定することができる。従って、本発明は、本出願に提供される如何なるCDRの変異体も考慮する。例えば、1つのCDRの変異体において、最小結合単位のアミノ酸残基はそのまま保持することができ、KabatまたはChothiaに基づいて定義された残りのCDR残基は保守的なアミノ酸残基で置換されることができる。
【0126】
「機能性Fc領域」は、天然配列のFc領域の「エフェクター機能」を有する。例示的な「エフェクター機能」は、C1q結合、CDC、Fc受容体結合、ADCC、貪食作用、細胞表面受容体(例えば、B細胞受容体、BCR)の下方調節などを含む。かかるエフェクター機能には一般に、Fc領域と結合ドメイン(例えば、抗体可変ドメイン)の関連が求められ、それに例えば、本発明に開示されている複数種の測定手法を用いて評価できる。
【0127】
本明細書で使用される用語「Fc領域」は、免疫グロブリン重鎖のC末端領域を定義しており、前記領域は少なくとも一部の定常領域を含む。該用語は、天然配列Fc領域および変異体Fc領域を含む。一部の実施形態において、ヒトIgG重鎖のFc領域がCys226またはPro230から重鎖のカルボニル基末端に延長している。一方、Fc領域のC末端リジン(Lys447)は存在してもよいし、または存在しなくてもよい。別途説明が行われる場合を除き、Fc領域または定常領域におけるアミノ酸残基の番号が、Kabat et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th Ed.Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,MD,1991に記載のEU番号付けシステム(別称EUインデックス)に準じる。
【0128】
本発明に適用される「抗体およびその抗原結合断片」の非限定的な例は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、一価抗体、二重特異性抗体、ヘテロ複合体抗体、多重特異性抗体、組換え抗体、ヘテロ抗体、ヘテロ接合抗体、キメラ抗体、ヒト化(特にCDRがグラフトされている)抗体、脱免疫抗体、またはヒト由来の抗体、Fab断片、Fab’断片、F(ab’)断片、Fab発現ライブラリーによって生成された断片、Fd、Fv、二硫化物によって連結されているFv(dsFv)、単鎖抗体(例えば、scFv)、ダイアボディまたはトラボディ(Holliger P.et al.,(1993)Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.90(14),6444-6448)、ナノボディ(nanobody)(単一ドメイン抗体とも呼ばれる)、抗イディオタイプ(抗Id)抗体(例えば、本発明の抗体に対する抗Id抗体を含む)、上記のいずれか1種のエピトープ結合断片を含む。
【0129】
「ヒトに共有するフレームワーク」とは、ヒト免疫グロブリンのVLまたはVHフレームワーク配列を選択するに当たり最も頻繁に出現するアミノ酸残基を示すフレームワークを指す。一般に、ヒト免疫グロブリンのVLまたはVH配列に対する選択は、可変ドメイン配列のサブタイプに対する選択である。
【0130】
「IgG形態の抗体」とは、抗体の重鎖定常領域がIgG形態を有することを指す。全ての同一のアイソタイプの抗体はその重鎖定常領域が同じであり、異なるアイソタイプの抗体において、その重鎖定常領域が異なる。例えば、IgG1形態の抗体とは、その重鎖定常領域のIgドメインがIgG1のIgドメインであることを指す。
【0131】
本明細書に記載の用語「治療剤」は、細胞傷害剤、他の抗体、小分子薬物または免疫調節剤などを含むコレステロール関連疾患の予防または治療に有効な任意の物質を含む。
【0132】
「ヒト抗体」とは、ヒトまたはヒト細胞より生成されたまたはヒト以外に由来するものであって、ヒト抗体ライブラリーまたはヒト抗体をコードする他の配列を利用する抗体のアミノ酸配列に対応するアミノ酸配列を有するものを指す。ヒト抗体に対する当該定義において、非ヒト抗原結合残基を含むヒト化抗体が明確に除外されている。
【0133】
「ヒト化」抗体とは、非ヒトCDR由来のアミノ酸残基とヒトFR由来のアミノ酸残基を含むキメラ抗体を指す。いくつかの実施形態において、ヒト化抗体は、ほぼ全ての可変ドメインの少なくとも1つ、一般に2つを含む。なお、全てのまたはほぼ全てのCDRが非ヒト抗体に由来する部分に対応し、全てのまたはほぼ全てのFRがヒト抗体に由来する部分に対応する。ヒト化抗体は、ヒト抗体に由来する抗体定常領域の少なくとも一部を含むことが好ましい。抗体(例えば、非ヒト抗体)の「ヒト化形態」とは、ヒト化が行われている抗体を指す。
【0134】
「個体」または「対象」は、哺乳類を含む。哺乳類の非限定的な例は、家畜(例えば、ウシ、ヤギ(ヒツジ)、ネコ、イヌ、ウマ)、霊長類(例えば、ヒト、サルなどの非ヒト霊長類)、ウサギ、げっ歯類(例えば、マウス、ラット)を含む。いくつかの実施形態において、前記個体または前記対象はヒトである。
【0135】
「単離された」抗体とは、その存在する自然環境の成分と単離している抗体である。いくつかの実施形態において、抗体は、電気泳動(例えば、SDS-PAGE、等電点電気泳動(IEF)、キャピラリー電気泳動)またはクロマトグラフィー(例えば、イオン交換もしくは逆相HPLC)によって決定される純度が95%以上または99%以上であるように精製される。抗体純度の評価方法の概要は、例えば、Flatman et al.,J.Chromatogr.B848:79-87(2007)が参照される。
【0136】
参照ポリペプチド配列に対する「パーセント(%)アミノ酸配列同一性」は、前記配列を照合し(必要に応じてギャップを導入し)、配列同一性の最大パーセントを得て、いかなる保存的置換を配列同一性の一部とみなさない場合、候補配列中のアミノ酸残基と参照ポリペプチド配列中の同じアミノ酸残基の割合と定義される。アミノ酸配列同一性のパーセントを決定するために、本分野での様々な方法を使用して、例えば、BLAST、BLAST-2、ALIGNまたはMEGALIGN(DNASTAR)ソフトウェアなどの公衆利用可能なコンピュータソフトウェアを使用して、配列照合を行うことができる。当業者は、比較している全長配列範囲内の最大の照合に必要とするいかなるアルゴリズムを含む、照合を測定するための適切なパラメータを確定することができる。
【0137】
より好ましくは、さらに例えば、本発明に記載の核酸配列とタンパク質配列を「参照配列」としてパブリックデータベースにおいて検索を実行することによって、他のメンバー配列または関連の配列を同定することもできる。
【0138】
用語「組み合わせ製品」は、2つ以上の治療剤が、特に、組み合わせパートナーが相乗効果などの相乗効果を示すことを可能にする時間間隔内で、独立して同じ時間または時間間隔内で別々に投与され得る、投与量単位形態の固定組み合わせまたは非固定組み合わせ、または組み合わせて投与される部分のためのキットを指す。用語「固定組み合わせ」は、本発明の抗体および組み合わせパートナー(例えば、スタチンなどの他の治療剤)が、単一の実体または投与量として患者に同時に投与されることを意味する。用語「非固定組み合わせ」は、本発明の抗体および組み合わせパートナー(例えば、スタチンなどの他の治療剤)が、特定の時間的制限なしに、別個の実体として患者に同時に、並行して、または連続して投与されることを意味し、そのような投与は、患者における2つの化合物の治療上有効なレベルを提供する。後者はまた、カクテル療法、例えば3つ以上の治療剤の投与にも適している。好ましい実施形態において、薬物の組み合わせは、非固定組み合わせである。
【0139】
用語「併用療法」は、本開示に記載のコレステロール関連疾患を治療するための2つ以上の治療剤の投与を意味する。そのような投与は、活性成分の一定の割合を有する単一のカプセルのような、実質的に同時にこれらの治療剤を同時投与することを含む。あるいは、そのような投与は、複数のまたは別個の容器中での各活性成分(例えば、錠剤、カプセル、粉末および液体)の同時投与を含む。粉末および/または液体は、投与前に所望の投与量に再構成または希釈することができる。さらに、そのような投与は、各タイプの治療剤を実質的に同じ時間または異なる時間に連続的に使用することを含む。いずれの場合においても、治療案は、本明細書に記載の病的状態または病状の治療における医薬の組み合わせの有益な効果を提供するであろう。
【0140】
本明細書で使用される用語「治療」とは、出現している症状、病的状態、病状または疾患の進行または重症度に対する軽減、中断、遅延、寛解、停止、低減、または逆転を指す。
【0141】
本明細書で使用される用語「予防」は、疾患、病的状態、特定の疾患もしくは病的状態に係る症状の発生または進行に対する抑制を含む。いくつかの実施形態において、家族歴がある対象は、予防性計画の候補である。一般に、用語「予防」は病的状態または症状が生じる前に、特に、リスクのある対象に生じる前の薬物投与を指す。
【0142】
用語「コレステロール関連疾患」は、高コレステロール血症、高脂血症、心臓病、メタボリックシンドローム(metabolic syndrome)、糖尿病、冠動脈心疾患(coronary heart disease)、卒中(stroke)、心血管疾患(cardiovascular diseases)、アルツハイマー病(Alzheimers disease)、および一般的な異常脂血症(dyslipidemia)(例えば、総血清コレステロールの上昇、LDLの上昇、トリグリセリドの増加、VLDLの増加および/またはHDLの低下を示す)のいずれか1つ以上を含む。抗PCSK9抗体を(単独でまたは1つ以上の他の薬物と組み合わせて)用いて治療できる原発性および二次性異脂血症のいくつかの非限定的な例は、メタボリックシンドローム、糖尿病(diabetes mellitus)、家族性混合性高脂血症(familial combined hyperlipidemia)、家族性高トリグリセリド血症(familial hypertriglyceridemia)、家族性高コレステロール血症(familial hypercholesterolemias)、ヘテロ接合性高コレステロール血症(heterozygous hypercholesterolemia)、ホモ接合性高コレステロール血症(homozygous hypercholesterolemia)、家族性欠陥性アポリポタンパク質(familial defective apoplipoprotein)B-100、多遺伝子性高コレステロール血症(polygenic hypercholesterolemia)、残粒除去障害症(remnant removal disease)、肝リパーゼ欠損(hepatic lipase deficiency)、食事不注意(dietary indiscretion)、甲状腺機能障害(hypothyroidism)、薬物(エストロゲンとプロゲステロン療法、β阻害剤とチアジン系利尿剤(thiazide diuretics)を含む)、ネフローゼ症候群(nephrotic syndrome)、慢性腎不全(chronic renal failure)、クッシング症候群(Cushing′s syndrome)、原発性胆汁性肝硬変(primary biliary cirrhosis)、グリコーゲン沈着症(glycogen storage diseases)、肝細胞腫瘍(hepatoma)、胆汁うっ滞(cholestasis)、肢端肥大症(acromegaly)、インスリノーマ(insulinoma)、単純性オーキシン欠乏症(isolated growth hormone deficiency)とアルコールによる高トリグリセリド血症(alcohol-induced hypertriglyceridemia)のいずれかに続発する異常脂血症を含む。
【0143】
用語「高コレステロール血症」は、本明細書で使用される場合、コレステロールレベルがあるレベル以上に上昇する病的状態を指す。いくつかの実施形態において、LDL-コレステロールレベルは、あるレベルを超えて上昇する。いくつかの実施形態において、血清LDL-コレステロールレベルは、あるレベルを超えて上昇する。
【0144】
本明細書で使用される用語「ベクター」とは、それに連結された別の核酸を増殖させる核酸分子を指す。当該用語は、核酸の自己複製が可能な構造としてのベクター、それを導入していた宿主細胞のゲノムに結合されたベクターを含む。一部のベクターは、それに操作可能に連結された核酸の発現をガイドすることができる。本明細書で、かかるベクターは「発現ベクター」と呼ばれる。
【0145】
「対象/患者試料」とは、患者または対象より得た細胞または液体の集まりである。組織または細胞試料の由来としては、新鮮な、冷凍されたおよび/または保存された器官、組織試料、生検試料もしくは穿刺試料などの固形組織、血液もしくは任意の血液成分、脳脊髄液、羊膜液(羊水)、腹腔内液(腹水)もしくは間質液などの体液、対象における妊娠もしくは発育の任意の段階に由来する細胞が挙げられる。組織試料は、防腐剤、抗凝固剤、緩衝剤、固定剤、栄養素、抗生物質などの自然界に存在する組織に溶けない化合物を含んでもよい。
【0146】
用語「有効量」とは、本発明の製剤、抗体または断片の1回分または複数回分の量を患者に投与した後、治療される患者に所望の効果が得られるという量または投与量を指す。有効量は、当業者である主治医が、例えば、哺乳類の生物種、投与対象の大きさ、年齢、健康状態と、適用される疾患、疾患の程度または重症度、個体患者における応答、投与される抗体、投与方式、投与製剤の生物学的利用能の特徴、選択される投与計画、併用療法の適用の複数種の要因を考慮して容易に決定することができる。
【0147】
「治療的有効量」とは、所定の期間に亘って所定の用量で所望の治療結果を達成するために有効な量を指す。本発明の製剤、抗体または抗体断片またはその複合体または組成物の治療有効量は、例えば、疾患の状態、個体の年齢、性別、重量、抗体または抗体の部分が個体に所望の反応を起こす能力の複数種の要因によって変化する可能性がある。また治療有効量は、製剤、抗体または抗体断片またはその複合体または組成物の任意の毒性または有害作用が有益な治療効果に及ばないという量である。
【0148】
「予防的有効量」は、所定の期間に亘って所定の用量で所望の予防結果を達成するために有効な量を指す。一般に、予防目的の投与量は対象における疾患の早期段階よりも前にまたは疾患の早期段階に適用されるため、予防有効量が治療有効量を下回る。
【0149】
用語「宿主細胞」、「宿主細胞株」、「宿主細胞培養物」は、外因性核酸が導入された細胞、かかる細胞の子孫を指すように入れ替えて使用される。宿主細胞は、「形質転換体」、「形質転換細胞」を含み、初代形質転換細胞、および継代数に関係なくそれに由来する子孫を含む。子孫は、突然変異が含まれる可能性があるため、核酸の内容において親細胞と同じではない。本発明では、初代の形質転換細胞からスクリーニングまたは選択された同じ機能または生理活性を有する突然変異体子孫が含まれる。
【0150】
本明細書で使用される用語「製剤」は、少なくとも1つの活性成分および少なくとも1つの不活性成分を含む、動物、好ましくは哺乳類(ヒトを含む)への投与に適した組成物を指す。「液体製剤」は液体形態の製剤を指す。本発明の液体製剤は、(i)抗PCSK-9抗体またはその断片と、(ii)緩衝剤と、(iii)粘度低下剤と、(iv)界面活性剤と、(v)溶媒とを含む。本発明の製剤の組成は、上記の液体製剤の実施形態に示されるようにすることができる。本発明の液体製剤は、好ましくは注射剤であり、より好ましくは皮下注射剤である。
【0151】
本明細書で使用される「緩衝剤」は、pH緩衝剤を指す。好ましくは、前記緩衝剤は、本発明の液体製剤のpHを約5.0~6.0、好ましくは約5.2~5.8、より好ましくは約5.4~5.6、最も好ましくは約5.5に保持することができる。液体製剤中の緩衝剤の濃度は、例えば、約0.01~50mg/ml、約0.1~50mg/ml、約0.2~10mg/ml、約0.5~2.5mg/ml、約1.0~2.0mg/mlまたは約1.5mg/mlである。好ましくは、緩衝剤は、ヒスチジン、グルタミン酸塩、リン酸塩、酢酸塩、クエン酸塩およびトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンから選択される。
【0152】
本明細書で使用される「粘度低下剤」は、抗PCSK-9抗体液体製剤の粘度を低下させることができる物質を指す。液体製剤中の粘度低下剤の濃度は、例えば、約10mmol/L~1000mmol/L、約20mmol/L~500mmol/L、約50mmol/L~300mmol/Lまたは約50mmol/L~200mmol/Lである。好ましくは、粘度低下剤は、糖アルコール、アルギニン、アルギニン塩酸塩、チオシアン酸ナトリウム、チオシアン酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、塩化カルシウム、塩化亜鉛、酢酸ナトリウム、およびこれらの組み合わせから選択される。より好ましくは、粘度低下剤は、ソルビトールであり、あるいは粘度低下剤は、ソルビトールとアルギニンまたはアルギニン塩(好ましくはアルギニン塩酸塩)の組み合わせである。好ましくは、液体製剤中のソルビトールの濃度は、約1%~6%(w/v)であり、液体製剤中のアルギニンまたはアルギニン塩(好ましくはアルギニン塩酸塩)の濃度は、約50mmol/L~180mmol/Lであり、好ましくは約70mmol/L~150mmol/Lであり、より好ましくは約90mmol/Lである。
【0153】
本明細書に記載されるように、「界面活性剤」は、少量の添加によって溶液系の界面状態を著しく変化させることができる物質を指す。液体製剤中の界面活性剤の濃度は、例えば、約0.01~5mg/ml、約0.05~1mg/mlまたは約0.1~0.5mg/mlであり、より好ましくは約0.3mg/mlである。好ましくは、界面活性剤は非イオン性界面活性剤であり、例えばプルロニクス(pluronics)、ポリソルベート-80、ポリソルベート-60、ポリソルベート-40またはポリソルベート-20などである。
【0154】
本明細書で使用される用語「溶媒」は、活性成分および不活性成分を溶解または懸濁させて液体製剤を形成するために使用される液体を指す。本発明において有用な溶媒は、注射用水、注射用有機溶媒(注射用油、エタノール、プロピレングリコールなどを含むがこれらに限定されない)、またはこれらの組み合わせを含むがこれらに限定されない。
【0155】
本明細書で使用される用語「糖アルコール」糖アルコールは、接触水素化などの還元反応によって単糖を得られる対応するポリオールである。糖アルコールは、ソルビトール、マンニトール、エリスリトール、マルチトール、ラクチトール、キシリトールなどを含むが、これらに限定されない。
【0156】
用語「約」は数値と共に使用されるとき、下限として記載数値より10%小さく上限として記載数値より10%大きい範囲における数値を含むことを意味する。
【0157】
本明細書で使用される「w/v」は、「重量/体積」を指し、例えば、「1%w/v」は1g/100ml=0.01g/ml=10mg/mlである。
【実施例
【0158】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに説明するが、以下の実施例は本発明を限定するものと解釈されるべきではない。
略語の意味:
SEC-HPLC:サイズ排除高速液体クロマトグラフィー
CE-SDS:ラウリル硫酸ナトリウムキャピラリーゲル電気泳動法
CZE:毛管ゾーン電気泳動法
【0159】
実施例1.抗PCSK9の抗体スクリーニングによる親抗体の決定
抗原ビオチン標識
メーカーの説明に従い、Pierce社のスクシンイミドスルホン酸基ビオチン標識キットを用いてPCSK9抗原(配列番号53)をビオチン標識した。FITC標識ヤギ抗ヒト免疫グロブリンF(ab’)kappa鎖抗体(LC-FITC)は(Southern Biotech)、ポリエチレンアビジン(SA-PE)は(Sigma)、ストレプトアビジン-633(SA-633)は(Molec ular Probes)から購入した。ストレプトマイシンマイクロビーズおよび細胞免疫磁気ビーズ分離カラムは、Miltenyi LSから購入した。
【0160】
予備スクリーニング
従来の方法(Xu et al. 2013;WO2009036379;WO 2010105256;W02012009568)を用いて、8つの酵母ベースの抗体ディスプレイ(yeast-based antibody presentation)ライブラリー(Adimabから)に対して、各ライブラリーの多様性が1×10になるよう増幅させる。簡単に説明すると、最初の2回のスクリーニングにおいて、Miltenyi社のMACSシステムを利用して磁気活性化による細胞選別を行う。最初に、FACS洗浄緩衝液(リン酸塩緩衝液、0.1%ウシ血清アルブミン含有)において、各ライブラリーの酵母細胞(最大1×1010個の細胞/ライブラリー)をそれぞれ室温で15minインキュベートし、緩衝液が上記のように製造した100nMのビオチンで標識されたPCSK9抗原を含有する。予め冷却されたFACS洗浄緩衝液50mlで洗浄し、次に同洗浄緩衝液40mlで細胞を再懸濁し、ストレプトマイシンビーズ500μlを加えて4℃で15minインキュベートする。1000rpmで5min遠心分離して上清を捨て、FACS洗浄緩衝液5mlで細胞を再懸濁し、細胞溶液をMiltenyi LSカラムに加えた。試料をロードした後、カラムを3回洗浄し、各回にFACS洗浄緩衝液3mlを使用した。磁気領域からMiltenyi LSカラムを取り外し、成長培地5mlで溶出し、溶出された酵母細胞を回収し、37℃で一晩成長させた。
【0161】
フローサイトメーターを利用して、次回の選別を行い、MACSシステムによってスクリーニングされた約1×10の酵母細胞に対してFACS緩衝液で3回洗浄し、室温で低濃度のビオチン(100-1nM)標識を含有するPCSK9抗原またはPCSK9-Fc融合抗原において培養した。培養液を捨て、FACS洗浄緩衝液で細胞を2回洗浄した後、細胞をLC-FITC(1:100希釈)と混合し、SA-633(1:500希釈)またはEA-PE(1:50希釈)試薬と混合し、4℃で15min培養した。予め冷却されたFACS洗浄緩衝液で2回溶出し、緩衝液0.4mlに再懸濁し、フィルターを備える分離管に細胞を移した。FACS ARIA(BD Biosciences)を用いて細胞を選別した。
【0162】
次に、競合的リガンドを得て、非特異的結合体(例えば、CHO細胞の膜タンパク質)を除去するためにさらに数回のスクリーニングを行う。最後の数回の選別の後、収集した酵母細胞をプレートに塗布し、37℃で一晩培養し、標的モノクローナルを選別した。sanger法を用いて得られた抗体の可変領域を配列決定した。約310個の可変領域配列に対して特異的な抗体を合計で得て、1つずつ同定した。
【0163】
酵母が発現しProtein A親和クロマトグラフィーの方法を用いて精製してこれらの抗PCSK9抗体タンパク質を得る。
【0164】
抗体の製造および精製
30℃で、スクリーニングして得られた抗PCSK9抗体を発現する酵母細胞を振とうし48時間誘導することによって、抗PCSK9抗体を発現させた。誘導完了後、1300rpmで10min遠心分離して酵母細胞を除去し、上清液を得た。上清液における抗PCSK9抗体に対して、Protein Aを用いて精製し、pH2.0の酢酸溶液で溶出して、抗PCSK9抗体を得た。パパイン消化およびKappaSelect(GE生命医療集団)による精製を用いて対応するFab断片を得ることができる。
【0165】
上記抗PCSK9抗体を発現する酵母細胞から抗PCSK9抗体をコードする遺伝子DNAを本分野の常法に従って取得し、常法に従ってこの遺伝子DNAを新たな発現ベクター(pCDNA3.1)にクローニングした。
【0166】
メーカーが提供する方法に従って、目的抗体遺伝子を含有する上記発現ベクターとトランスフェクション試薬Lipofectamine TM2000(Invitrogenから購入)を培養されたヒト胎児腎293細胞に一過性トランスフェクションし、培地を捨て、新鮮な培地で細胞を4×10/mlに希釈する。37℃、5%COの条件において、細胞を7日間培養し、48時間ごとに新鮮な培地を流加する。7日後に、13000rpmで20min遠心分離する。上清液を採取し、抗体の純度が95%を上回るように、Protein Aで上清液を精製した。
【0167】
ForteBio KD測定(バイオレイヤー干渉法)
ForteBio親和力測定は従来の方法(Estep,P et al.,High throughput solution Based measurement of antibody-antigen affinity and epitope binning.MAbs,2013.5(2):p.270-8)で行った。簡単に説明すると、分析緩衝液においてオフラインでセンサを30min平衡化し、次にオンラインで60秒間検出して基線を作成し、オンラインで上述したように精製された抗体をAHQセンサにロードする。センサを100nMのPCSK9抗原に曝露させて5min作用させた後、センサを分析緩衝液に移して5min解離させる。1:1結合モデルを利用して動力学的分析を行った。
【0168】
MSD-SET動力学測定
平衡親和力の測定は前述のとおりである(Estep et al.2013)。IgGフリーのBSAを0.1%含有するリン酸塩緩衝生理食塩水(PBSF)に、終濃度が10~100pMである前述のようにして得られたビオチンで標識されるPCSK9抗原(b-PCSK9)を添加し、上記のようにして得られた抗PCSK9 FabまたはmAbを3~5倍連続希釈して、濃度が5~100nMのFabまたはmAb溶液を得た。抗体(20nMリン酸塩緩衝生理食塩水で希釈)4℃を、MSD-ECLプレート上に一晩または室温で30minコーティングした。3%BSAを加え、700rpmで30min室温で密閉した後、洗浄緩衝液(PBSF+0.05%トゥイーン20)で3回洗浄した。試料をプレートに添加し、振盪器に入れて700rpm、室温で150sインキュベートした後、1回洗浄した。sulfotagで標識されるストレプトアビジン(PBSFで希釈)250ng/mlを加え、室温で3minインキュベートした。緩衝液を3回洗浄した後、MSD Sector Imager 2400装置を用いて読み取り、プレートに結合する抗原を決定した。結合しない抗原のパーセントは、抗体滴定法によって得られ、その結果、抗PCSK9 FabまたはmAbと抗原の結合は、代謝動態の二次方程式に一致することが見出された。
【0169】
Octet Red384 結合エピトープ同定
結合エピトープ同定に関連して、標準的なサンドイッチ式の相互阻害解析法を使用した。標的特異的対照IgGをAHQセンサに固定し、センサの上空のFc結合部位を無関係なヒトIgG1抗体でブロックした。センサを100nMの目的抗原PCSK9溶液に120s入れ、上記のように製造した第2種の100nMの抗PCSK9の抗体またはリガンド溶液に入れた。データを読み取り、ForteBioデータ解析ソフトウェア7.0(ForteBioから)で処理した。抗原が抗体と結合した後、第2種の抗体またはリガンドと結合することができることは、1つの未結合エピトープ(非競合的)を示唆し、結合しないことはエピトープ阻害(競合的またはリガンド阻害)を意味する。
【0170】
上記のスクリーニングおよび同定によって、PCSK9とLDLRの結合を阻害し、ヒトマウスPCSK9の両方と結合することができるいくつかの抗体を得た。親和力がより高い抗PCSK9抗体を得るために、次の方法により抗体ADI-02396に対し最適化を行った。
【0171】
実施例2.抗PCSK9抗体の親和力の最適化
VHmutスクリーニング
当該方法は、通常のミスマッチPCR方法により抗体重鎖領域に突然変異を導入することである。PCRを行った過程で、1μMの高頻度突然変異の塩基類似体dPTPと8-oxo-dGTPを利用して、塩基ミスマッチの概率を約0.01bpに上げた。
【0172】
得られたミスマッチPCR生成物に対し、相同組換えの方法により重鎖定常領域を含有するベクターに導入した。当該方法により、PCSK9抗原価を含み、非標識抗原による競合と親抗体競合を用いるスクリーニング条件において、ライブラリーの容量が1×10の二次ライブラリーを得た。FACS方法により3回のスクリーニングに成功している。
【0173】
CDRH1/CDRH2スクリーニング
VHmut方法により得られた子孫抗体のCDRH3遺伝子を、多様性が1×10のCDRH1/CDRH2遺伝子ライブラリーに導入し、それに対し3回のスクリーニングを行った。1回目でMACS方法を用い、2回目、3回目でFACS方法を用いて、抗体抗原結合物に対して親和力加圧を行って、親和力が最大の抗体をスクリーニングした。
【0174】
1回目の最適化:第1のステップは、ヒトマウス交差活性、リガンド競合性を有する抗PCSK9抗体 ADI-02396(「親」抗体と命名)の親和力を向上させることである。簡単に言えば、親抗体に突然変異(「ミスマッチPCR」を利用する方法)を導入し、二次の酵母ベースの抗体ディスプレイ(yeast-based antibody presentation)ライブラリーを構築することである。最終的に、約1×10サイズの二次プールが生成され、より高い親和力抗体の濃縮に使用される。スクリーニング条件には、PCSK9抗原価、未標識抗原競合、および親抗体の使用競合が含まれる。FACS技術は目的集団のスクリーニングにも用いられる(具体的な操作方法はChao et al. Nature Protocols,2006を参照)。2~3回の濃縮を経て、得られた酵母をプレートにコーティングしてモノクローナルを得ることができる。この操作の結果、ADI-09111、ADI-09112とADI-09113の合計3つの親和力改善子孫が得られた。ForteBio Octetにより測定した3つの抗体のK範囲は1~10nMである。2つの子孫抗体ADI-09112とADI-09113を、2回目の親和力最適化に使用した。
【0175】
2回目の親和力最適化:第2のステップは、2つのヒトマウス交差活性、リガンド競合性を有する抗PCSK9モノクローナルADI-09112とADI-09113(「親」抗体と命名)の親和力を向上させることである。簡単に言えば、各親抗体について、二次の酵母ベースの抗体ディスプレイ(yeast-based antibody presentation)ライブラリーを構築することである。親抗体のCDR-H3および軽鎖(LC)を、既存の酵母ライブラリー中の遺伝子のCDR-H1およびCDR-H2と組み合わせた(「H1/H2」最適化と命名)。これにより、最終的に、後のより高い親和力抗体の濃縮のために、約1×10サイズの5つのライブラリーを生成した。スクリーニング方法は1回目のスクリーニングと同じである。2~3回の濃縮を経て、酵母をプレート上にコーティングしてモノクローナルを得た。この作業の後、ADI-10085、ADI-10086およびADI-10087がADI-09912のCDR-H1およびCDR-H2領域の変異体であり、ADI-10088、ADI-10089およびADI-10090がADI-09113のVH領域変異体である、親和性が改善された子孫抗体が得られた。前記抗体に関する配列情報は、表A~Cを参照されたい。これらの抗体のヒトPCSK9に対する親和力は10倍向上し、ForteBio法およびMSD-SET測定によって、K範囲が4-17pM~200pMの範囲にあることが示された(表1、表2)。一部の抗体の親和力は対照抗体より10倍程度高かった。他の抗体機能の同定は、前臨床開発を容易にするために抗体の数をさらに減らすことができる。
【0176】
本出願に係る各抗PCSK-9抗体の配列情報および番号は下表A~Cに示されるとおりである。
【0177】
【表5】
【0178】
【表6】
【0179】
【表7】
【0180】
【表8】
【0181】
【表9】
【0182】
実施例3.抗PCSK-9抗体によるPCSK-9とLDLRの結合抑制実験
実施例1に記載のPCSK9タンパク質(ビオチンで標識されるPCSK9タンパク質)を、作動液としてPBS溶液(リン酸塩緩衝溶液)で400nmol/Lに希釈した。それぞれPBS溶液で実施例2で得られた抗PCSK9抗体(ADI-10085、ADI-10086、ADI-10087、ADI-10088、ADI-10089およびADI-10090)を1000nmol/L、100nmol/L、10nmol/L、1nmol/L、0.1nmol/Lの濃度に希釈し、同様の方法で対照抗体(Alirocumab、Evolocumab、BococizumabおよびLodelcizumab)の各濃度の溶液を製造した。PCSK9作動液を、勾配希釈された各抗PCSK9抗体試料または対照試料と等体積混合した。PBS溶液でヒトLDLRを過剰発現するCHO細胞(CHO-LDLR)を再懸濁して計数し、その細胞濃度をPBS溶液で4×10個/mlに調整し、96ウェルU型細胞培養プレートに接種して1ウェル当たり50μlの細胞培養液を加え、50μlのPCSK9と抗PCSK9抗体の混合液を加え、1ウェル当たりの細胞数が2.0×10個であり、200gを室温で5min遠心分離し、上清を捨てる。PBS溶液で1:200の割合で抗-His-FITC(R&D Systems)を終濃度が2.5μg/mlになるまで希釈し、96ウェルプレートに100μl/ウェルで30min氷浴した。200gを室温で5min遠心分離し、上清液を軽く捨て、各ウェルに150μlのPBS溶液を加え、200gを室温で5min遠心分離し、上清液を軽く捨て、3回繰り返した。各実験ウェルに80μl/ウェルのPBS溶液を加え、ピペットで数回かけて細胞を再懸濁した。フローサイトメーターで細胞蛍光シグナルの強度値を検出した。
【0183】
実験で検出された蛍光シグナルは、下記の表3を参照されたい。
【0184】
【表10】
【0185】
表3のオリジナルデータをGraphPad Prism6ソフトウェアで解析してプロットし、図1を得た。
【0186】
実験の結果、抗PCSK9抗体は、対照抗体と比較して、PCSK9とLDLRの結合を阻害する同等の能力を有することが示された。
【0187】
実施例4.細胞LDL-c取り込み解析実験
液体窒素保存タンクからHepG2細胞凍結保存管を取り出し、37℃で快速水浴で融解し、細胞懸濁液を15mlの遠心分離管に移し、4mlの室温成長培地(90%DMEM+10%FBS、そのうちDMEMとFBSはすべてGibco社から購入)、1000r/min、室温で5min遠心分離した後、新鮮な成長培地で沈殿細胞を再懸濁し、培養瓶に移して37℃、5%CO条件で培養した。対数増殖期のHepG2細胞を、PBS溶液で2回洗浄した後、0.25%トリプシン(Gibcoから購入)1mlを加えて3min消化し、6mlの増殖培地を加えて細胞を再懸濁して反応を停止した。成長培地を用いてHepG2細胞を0.8×10個/mlに調整し、黒色で底部が透明なポリ-D-リジンコーティング96ウェル細胞培養プレート(Nuncから購入)に接種し、1ウェル当たり100μL、37℃、5%COインキュベーターで6~7hインキュベートした。成長培地を捨て、解析培地(DMEM+5%FBS)に置き換え、1ウェル当たり100μL、37℃、5%COインキュベーターで一晩培養した。抗体試料(ADI-10085、ADI-10087、ADI-10088、ADI-10089)をそれぞれ解析培地で66.7nmol/Lに希釈した。さらに66.7nmol/Lの試料を開始濃度として4倍勾配希釈を行い、陽性対照抗体(Alirocumab、EvolocumabおよびLodelcizumab)および陰性対照(LDL、PCSK9+LDLおよびIgG)は同じ操作を行った。得られた各濃度勾配試料のそれぞれ60μlを66.7nmol/LのPCSK960μlと等体積混合して各混合液を得た。ブランク対照は120μlの解析培地である。96ウェルプレート内の液体を吸引廃棄し、1ウェル当たり50μlの上記混合液とブランク対照試料を加え、37℃、5%COインキュベーターで1hインキュベートした。培養プレートを取り出し、1ウェル当たり50μlを加え、解析培地で希釈した6μg/mlのBODIPY標識LDL溶液(life technologiesより購入)を加え、培養プレートを37℃に置き、5%CO条件下で4h培養した。培地を捨て、各ウェルに100μlのPBS溶液を加えてプレートを洗浄した後、捨てた。2回洗浄し、各ウェルに100μlのPBS溶液を加えた。Spectra Max I3酵素マーカーを用いて、蛍光値を読み取った。
【0188】
得られた蛍光値のオリジナルデータを下表4に示し、表4に開示したデータをGraphPad Prism6ソフトウェアで解析してプロットし、図2を得た。実験結果から、抗PCSK9抗体(ADI-10085、ADI-10087、ADI-10088、ADI-10089)は、抗PCSK9抗体を加えない蛍光値と比較して、HepG2細胞に作用した場合、蛍光値が約2倍増強することがわかった。これらのデータは、本出願に開示される各抗PCSK9抗体がHepG2細胞においてLDLRの回復能力を増加させ、PCSK9により誘導されるLDL-c取り込みの低下を抑制し、それによりHepG2細胞がLDL-c取り込みを増加させ、そして16.8nMと66.7nMの勾配では、その効果はいずれも陽性対照抗体よりも優れていた。
【0189】
【表11】
【0190】
実施例5.細胞LDLR内在化解析実験
PCSK9はLDLRと直接結合してLDLR内在化を促進でき、肝細胞に入ってからリソソーム分解に運ばれ、それによって細胞表面発現のLDLRを減少させ、血清中のLDL-cのレベルを増加させる。抗PCSK9抗体はPCSK9とLDLRの結合を阻害し、それによってPCSK9がLDLRを消費する能力を低下させ、本実験はCHO-LDLR細胞を抗PCSK9抗体およびPCSK9タンパク質溶液と共同でインキュベートすることにより、上述のフローサイトメトリーを用いてLDLRの蛍光値を測定し、抗PCSK9抗体と陽性対照抗体(Evolocumab)の蛍光値を比較し、細胞LDLR内在化に対する抗PCSK9抗体の生物活性を判断した。
【0191】
実施例1に記載のPCSK9タンパク質を、RPMI 1640細胞培地(Gibco)を用いて50μg/mlの濃度で構成し、60μl、1000nmの抗PCSK9抗体(ADI-10085およびADI-10087)をPCSK9(50μg/ml)溶液と混合し、均質化した後に30minインキュベートし、陽性抗体対照を同じように処理した。CHO細胞とCHO-LDLR細胞をそれぞれ遠心分離し、500gを室温で3min遠心分離し、PBS溶液で細胞を再懸濁し、細胞密度を2×10個/mlに調整し、96ウェルUプレートに、100μl/ウェルで加え、上記の混合した試料100μl/ウェルを培養プレートに添加し、4つのバッチに分け、均一に吹き込み、4℃で4hインキュベートした。その後、200μlのPBS溶液で3回洗浄し、500gを室温で3min遠心分離した。抗-LDLR-PE(北京義翹公司、品番20131-R301-P)5μlを100μlのPBS溶液に加えて希釈し、その後100μlずつ96ウェルUプレートに加え、光を避けて30minインキュベートした。さらに200μlのPBS溶液で3回洗浄し、500gを3min遠心分離し、得られた細胞を細胞培地で再懸濁し、CHO-LDLR細胞表面にPE蛍光を標識したLDLRタンパク質の蛍光シグナルを、フローサイトメトリーを用いて検出し、実験結果は表5を参照されたい。表5のオリジナルデータをGraphPad Prism6ソフトウェアで解析してプロットし、図3を得た。
【0192】
表5の結果から、本出願で得られた抗体は、細胞のLDLR内在化を阻害するのに有効であることが分かる。
【0193】
【表12】
【0194】
実施例6.健康なSDラットに対する抗PCSK9抗体の血中脂質低下効果
試験抗体(抗PCSK9抗体ADI-10087)を本分野の常法に従ってSPF級SDラット(北京維通利華実験動物技術有限公司)に投与し、雌ラットは体重が約254~294gで、約9~12週齢であり、雄ラットは体重が約369~420gで、約9~12週齢である。各群とも単回投与であり、投与計画の詳細は表6を参照されたい。
【表13】
【0195】
各群の動物は、投与前0h(D1)、投与後72h(D4)、168h(D8)、336h(D15)、504h(D22)、672h(D29)、840h(D36)の時点で常法に従って頸静脈採血を行った。抗凝固剤のない試験管に採取し、氷上に放置して凝固させた後、2~8℃、5000rpm/minで10min遠心分離し、血清を採取し、Hitachi 7060型自動生化学分析器を用いてLDL-CおよびHDL-Cの測定を行った。血中脂質分析データに基づいて、各時点におけるLDL-CおよびHDL-Cの投与前(基線)に対する変化率(%LDL-Cおよび%HDL-C)を計算した。実験結果によれば、ラットに本願の抗PCSK9抗体3~30mg/kgを単回皮下投与すると、血清LDL-CおよびHDL-Cレベルを投与量依存的に低下させることができることがわかった(図6および図7)。例えば投与後3日目、7日目、14日目、21日目のそれぞれにおいて、基線レベルより有意に低下した。さらに、出願人は、ラットに10mg/kgのEvolocumabを単回皮下投与した後、血清LDL-CおよびHDL-Cレベルが有意に低下しないことを同時に発見した。
【0196】
本発明の他の抗体についても、同様の方法を適用して上記測定を行うことができる。
【0197】
実施例7.健康なカニクイザルに対する抗PCSK9抗体の血中脂質低下効果
試験抗体(抗PCSK9抗体ADI-10087)を本分野の常法に従ってカニクイザル(広東春盛生物科技発展有限公司)に投与し、雌動物は体重が約2~4kgで、年齢が約3~5歳であり、雄動物は体重が約3~5kgで、年齢が約3~5歳である。投与案は表7を参照されたく、ここで、群1~5は単回投与であり、群6は週1回投与であり、合計4回投与した。
【0198】
【表14】
【0199】
群1~5の場合、投与前0hおよび投与後24h(D2)、72h(D4)、120h(D6)、168h(D8)、336h(D15)、504h(D22)、672h(D29)、840h(D36)、1008h(D43)、1176h(D50)および1344h(D57)の時点で、常法に従って動物の投与肢の反対側前肢または後肢から、皮下静脈または鼠径動脈/鼠径静脈採血を行った。群6については、初回投与前0hおよび投与後24h(D2)、72h(D4)、120h(D6)、168h(D8、2回目の投与前)、336h(D15、3回の投与前)の時点で上記のように採血した。最終投与は、投与前0h、投与開始後24h(D2)、72h(D4)、120h(D6)、168h(D8)、336h(D15)、504h(D22)、672h(D29)、840h(D36)、1008h(D43)、1176h(D50)および1344h(D57)で採血した。
【0200】
凝固促進剤および分離ゲルを含有する試験管に全血を収集し、氷上に放置して凝固させた後、2~8℃で遠心分離し、5000rpm/minで、10min遠心分離し、血清を収集した。全血液試料採取終了後、総コレステロール(TC)、LDL-C、HDL-Cの測定を行った。血中脂質分析データから、各時点におけるLDL-CおよびHDL-Cの投与前(基線)に対する変化率(%LDL-Cおよび%HDL-C)を算出した。実験結果によると、カニクイザルは3、10、30mg/kgの本出願の抗PCSK9抗体(ADI-10087)を単回皮下投与した後、血清LDL-C(図8)とTC(図10)のレベルがいずれも著しく低下し、そして比較的明らかな量的効果の関係を示し、投与後3~28日で基線レベルより著しく低下した。本出願に開示される抗体は、LDL-CおよびTCに関連する状況および/または病的状態、例えば血中脂質を低下させるのに有用であり得ることが示される。
【0201】
抗PCSK9抗体投与後のカニクイザル血清HDL-Cレベルには全体的に明らかな影響はなかった(図9)。
【0202】
しかし、本出願人は驚くべきことに、カニクイザルが本出願の抗PCSK9抗体とEvolocumabをそれぞれ10mg/kgずつ単回皮下投与した後、Evolocumab投与後にLDL-Cが基線レベルより著しく低下する期間が14日しかないことを発見し、同一投与量の本出願の抗体投与後21日未満、すなわち、本出願の抗PCSK9抗体が、EvolocumabよりもLDL-Cを有意に低下させる時間が長い。
【0203】
本発明の他の抗体についても、同様の方法を適用して上記測定を行うことができる。
【0204】
実施例8:本発明の抗PCSK9抗体液体製剤(製剤A)の製造
抗PCSK9液体製剤を処方Aに従って150mg/mlの濃度で調製した。
処方A
抗PCSK9抗体 150mg/ml
(ADI-10087)
ヒスチジン 1.5g/L
アルギニン 90mmol/L
ソルビトール 3%
ポリソルベート80 0.3g/L
pH 5.5
【0205】
実施例2で得られた抗PCSK9抗体(ADI-10087)を限外濾過遠心分離管(カットオフ分子量30KD)に加え、遠心分離により濃縮した後、ポリソルベート80および抗PCSK9抗体を含まない処方A水溶液(1.5g/Lヒスチジン、90mmol/Lアルギニン、3%ソルビトール、pH5.5)を加えて希釈した後に濃縮を継続し、置換が完了するまでこのように繰り返した。置換後のタンパク質を150mg/mlに調整した後、1/100体積のポリソルベート80水溶液(30g/L)を加え、ポリソルベート80の終濃度を0.3g/Lとした。この半製品を無菌濾過した後、バイアル瓶に分注し、ゴム栓とアルミニウム製プラスチック蓋をして完成品を得た。
【0206】
実施例9:本発明の抗PCSK9抗体液体製剤の比較例(製剤B)の製造
比較例:抗PCSK9液体製剤を処方Bに従って150mg/mlの濃度で調製した。
処方B
抗PCSK9抗体 150mg/ml
(ADI-10087)
ヒスチジン 1.5g/L
アルギニン 180mmol/L
ポリソルベート80 0.3g/L
pH 5.5
【0207】
実施例2で得られた抗PCSK9抗体(ADI-10087)を限外濾過遠心分離管(カットオフ分子量30KD)に加え、遠心分離により濃縮した後、ポリソルベート80および抗PCSK9抗体を含まない処方B水溶液(1.5g/Lヒスチジン、180mmol/Lアルギニン、pH5.5)を加えて希釈した後に濃縮を継続し、置換が完了するまでこのように繰り返した。置換後のタンパク質を150mg/mlに調整した後、1/100体積のポリソルベート80水溶液(30g/L)を加え、ポリソルベート80の終濃度を0.3g/Lとした。この半製品を無菌濾過した後、バイアル瓶に分注し、ゴム栓とアルミニウム製プラスチック蓋をして完成品を得た。
【0208】
実施例10:抗PCSK9抗体液体製剤の粘度測定
コーンプレート粘度計(Brookfield、CAP1000+/2000+、詳細はhttp://www.sinoinstrument.com/product_details-4-83-401-60.htmlを参照)を用いて室温20~25℃で粘度測定を行った。ローターおよび速度を選択した(ローター:cp-40、回転数:25rpm)。ローターを連結ナットに取り付け、位置を調節し、試料を添加した。Runボタンを押し、試料粘度測定を行った。上記の実験に従って製剤Aの粘度が5.2センチポアズであり、製剤Bの粘度が6.0センチポアズであると測定した。驚くべきことに、製剤Aの粘度は製剤Bの粘度よりも著しく低く、アルギニンとソルビトールの組み合わせが高濃度抗体製剤の粘度を低下させるのにより有利であることを示している。
【0209】
実施例11:抗PCSK9抗体液体製剤のタンパク質純度変化
製剤Aと製剤Bの安定性を調べるために加速安定性実験を行った。バイアル瓶に分注し、プラグで蓋をした製剤Aと製剤Bの完成品を40℃±2℃/60%RH±5%RHの条件下で加速安定性の考察を行い、考察期間は2か月間継続した。この間、タンパク質純度の変化を下記のSEC-HPLC法、非還元型CE-SDS法により測定した。
【0210】
SEC-HPLC法:
試料濃度を2mg/mlに希釈し、親水性シリカゲル体積排除カラムTSKG 3000SWxl、タンパク質注入量100μg、移動相20mmol/L NaHPO・12HO、150mmol/LのNaCl、200mmol/Lのアルギニン、pH6.8、流速0.5ml/min、検出波長280nm、カラム温度25℃で面積正規化法により算出した。
【0211】
CE-SDS法:
試料約100μgに、pH7.0試料緩衝液を加えて総体積を95μlとし、還元試料に5μlのβ-メルカプトエタノールを加え、非還元試料に5μlの250mmol/LのNEMを加え、混合した後に70℃で10min加熱し、測定を行った。
【0212】
SEC-HPLC法において、タンパク質純度の変化は、SEC主ピークの減少パーセントに基づいて測定され、製剤Aのタンパク質純度は、1か月で2.6%、2か月で3.7%低下した。製剤Bのタンパク質純度は、1か月で4.1%、2か月で7.0%低下した。タンパク質純度の変化は、非還元CE-SDSの減少パーセントに基づいて測定され、製剤Aのタンパク質純度は、2週間で0.4%低下し、1か月で2.0%低下した。製剤Bのタンパク質純度は、2週間で2.5%低下し、1か月で7.3%低下した。製剤Aの純度変化速度は、製剤Bに比べて著しく遅いことがわかる。製剤Bと比較して、製剤Aは、より高い安定性を有する。
【0213】
実施例12:抗PCSK9抗体液体製剤の電荷不均一性測定
実施例11において加速安定性試験を行った製剤Aおよび製剤Bから異なる時点で試料を採取し、電荷不均一性の測定を行った。Beckman Uncoated Capillaryキャピラリー、Beckman PA800 plusキャピラリー電気泳動器を用い、サンプリング電圧は0.5psi、サンプリング時間は10.0s、単離電圧は30kV、解析時間は30minであった。面積正規化法を用いて、総ピーク面積に対する酸性成分、塩基性成分および主ピークのピーク面積のパーセントを算出した。製剤Aは2週間でCZEの主ピークが0%低下し、1か月で2.9%低下した。一方、製剤Bは2週間でCZEの主ピークが2.0%低下し、1か月で7.6%低下した。
【0214】
製剤Aの電荷不均一性の変化速度は、製剤Bよりも著しく遅く、アルギニンとソルビトールの組み合わせは、製剤の電荷不均一性の変化をより少なくすることがわかる。
【0215】
以上、本発明の例示的な実施形態について説明したが、これらの開示は例示に過ぎず、本発明の範囲内で様々な他の代替、適応、および修正が可能であることを当業者は理解するであろう。したがって、本発明は、本明細書に列挙した特定の実施形態に限定されない。
図1
図2
図3
図4-1】
図4-2】
図4-3】
図4-4】
図5-1】
図5-2】
図6
図7
図8
図9
図10
【配列表】
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