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特許7419267ニッケル基超合金、単結晶ブレード及びターボ機械
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-12
(45)【発行日】2024-01-22
(54)【発明の名称】ニッケル基超合金、単結晶ブレード及びターボ機械
(51)【国際特許分類】
   C22C 19/05 20060101AFI20240115BHJP
   F01D 25/00 20060101ALI20240115BHJP
   F02C 7/00 20060101ALI20240115BHJP
   F01D 5/28 20060101ALI20240115BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20240115BHJP
   C22F 1/10 20060101ALN20240115BHJP
【FI】
C22C19/05 C
F01D25/00 L
F02C7/00 C
F01D5/28
C22F1/00 602
C22F1/00 606
C22F1/00 607
C22F1/00 613
C22F1/00 640A
C22F1/00 650A
C22F1/00 651B
C22F1/00 640B
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/10 H
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2020568378
(86)(22)【出願日】2019-06-04
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-09-27
(86)【国際出願番号】 FR2019051319
(87)【国際公開番号】W WO2019234345
(87)【国際公開日】2019-12-12
【審査請求日】2022-06-02
(31)【優先権主張番号】1854819
(32)【優先日】2018-06-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】502255911
【氏名又は名称】サフラン
(73)【特許権者】
【識別番号】501089863
【氏名又は名称】サントル ナシオナル ドゥ ラ ルシェルシェ サイアンティフィク
(73)【特許権者】
【識別番号】508034934
【氏名又は名称】ユニベルシテ ドゥ ポワティエール
(73)【特許権者】
【識別番号】520476547
【氏名又は名称】エコール ナシオナル シュペリウール ドゥ メカニク エアロテクニク
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100153729
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 有一
(74)【代理人】
【識別番号】100211177
【弁理士】
【氏名又は名称】赤木 啓二
(72)【発明者】
【氏名】ジェレミー ラム
(72)【発明者】
【氏名】ジョナタン コルミエ
【審査官】櫻井 雄介
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-248955(JP,A)
【文献】特開平11-310839(JP,A)
【文献】米国特許第05843586(US,A)
【文献】特開2006-057182(JP,A)
【文献】特表2000-512341(JP,A)
【文献】特開昭55-047351(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 19/05
F01D 25/00
F02C 7/00
F01D 5/28
C22F 1/00
C22F 1/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量百分率で、アルミニウムを5.0~6.0%、タンタルを6.0~9.5%、チタンを0~1.50%、コバルトを8.0~10.0%、クロムを6.0~7.0%、モリブデンを0.30~0.90%、タングステンを5.5~6.5%、レニウムを0~2.50%、ハフニウムを0.05~0.15%、白金を0.70~4.30%、シリコンを0~0.15%を含み、残りがニッケル及び不可避不純物である、ニッケル基超合金。
【請求項2】
質量百分率で、アルミニウムを5.0~6.0%、タンタルを6.0~9.5%、チタンを0~1.50%、コバルトを8.0~10.0%、クロムを6.0~7.0%、モリブデンを0.30~0.90%、タングステンを5.5~6.5%、レニウムを0~2.50%、ハフニウムを0.05~0.15%、白金を1.70~4.30%、シリコンを0~0.15%を含み、残りがニッケル及び不可避不純物である、請求項1に記載の超合金。
【請求項3】
質量百分率で、アルミニウムを5.0~6.0%、タンタルを6.0~7.0%、チタンを0~1.50%、コバルトを8.0~10.0%、クロムを6.0~7.0%、モリブデンを0.30~0.90%、タングステンを5.5~6.5%、レニウムを0~2.50%、ハフニウムを0.05~0.15%、白金を1.70~4.30%、シリコンを0~0.15%を含み、残りがニッケル及び不可避不純物である、請求項1に記載の超合金。
【請求項4】
質量百分率で、アルミニウムを5.0~6.0%、タンタルを8.5~9.5%、チタンを0~1.50%、コバルトを8.0~10.0%、クロムを6.0~7.0%、モリブデンを0.30~0.90%、タングステンを5.5~6.5%、レニウムを0~1.50%、ハフニウムを0.05~0.15%、白金を1.70~3.30%、シリコンを0~0.15%を含み、残りがニッケル及び不可避不純物である、請求項1に記載の超合金。
【請求項5】
質量百分率で、アルミニウムを5.0~6.0%、タンタルを6.0~9.5%、コバルトを8.0~10.0%、クロムを6.0~7.0%、モリブデンを0.30~0.90%、タングステンを5.5~6.5%、ハフニウムを0.05~0.15%、白金を2.70~4.30%、シリコンを0~0.15%を含み、残りがニッケル及び不可避不純物である、請求項1に記載の超合金。
【請求項6】
質量百分率で、アルミニウムを5.0~6.0%、タンタルを6.0~9.5%、チタンを0.50~1.50%、コバルトを8.0~10.0%、クロムを6.0~7.0%、モリブデンを0.30~0.90%、タングステンを5.5~6.5%、ハフニウムを0.05~0.15%、白金を2.70~4.30%、シリコンを0~0.15%を含み、残りがニッケル及び不可避不純物である、請求項1に記載の超合金。
【請求項7】
質量百分率で、アルミニウムを5.0~6.0%、タンタルを6.0~9.5%、チタンを0.80~1.20%、コバルトを8.0~10.0%、クロムを6.0~7.0%、モリブデンを0.30~0.90%、タングステンを5.5~6.5%、レニウムを0~2.50%、ハフニウムを0.05~0.15%、白金を0.70~3.30%、シリコンを0~0.15%を含み、残りがニッケル及び不可避不純物である、請求項1に記載の超合金。
【請求項8】
質量百分率で、アルミニウムを5.0~6.0%、タンタルを6.0~9.5%、チタンを0~1.50%、コバルトを8.0~10.0%、クロムを6.0~7.0%、モリブデンを0.30~0.90%、タングステンを5.5~6.5%、レニウムを0~2.50%、ハフニウムを0.05~0.15%、白金を0.70~4.30%、シリコンを0.10%含み、残りがニッケル及び不可避不純物である、請求項1に記載の超合金。
【請求項9】
質量百分率で、アルミニウムを5.0~6.0%、タンタルを6.0~7.0%、チタンを0.80~1.20%、コバルトを8.0~10.0%、クロムを6.0~7.0%、モリブデンを0.30~0.90%、タングステンを5.5~6.5%、ハフニウムを0.05~0.15%、白金を2.70~3.30%、シリコンを0~0.15%を含み、残りがニッケル及び不可避不純物である、請求項1に記載の超合金。
【請求項10】
質量百分率で、アルミニウムを5.0~6.0%、タンタルを6.0~7.0%、チタンを0.80~1.20%、コバルトを8.0~10.0%、クロムを6.0~7.0%、モリブデンを0.30~0.90%、タングステンを5.5~6.5%、レニウムを0.70~1.30%、ハフニウムを0.05~0.15%、白金を1.70~2.30%、シリコンを0~0.15%を含み、残りがニッケル及び不可避不純物である、請求項1に記載の超合金。
【請求項11】
質量百分率で、アルミニウムを5.0~6.0%、タンタルを6.0~7.0%、チタンを0.80~1.20%、コバルトを8.0~10.0%、クロムを6.0~7.0%、モリブデンを0.30~0.90%、タングステンを5.5~6.5%、レニウムを1.70~2.30%、ハフニウムを0.05~0.15%、白金を0.70~1.30%、シリコンを0~0.15%を含み、残りがニッケル及び不可避不純物である、請求項1に記載の超合金。
【請求項12】
質量百分率で、アルミニウムを5.0~6.0%、タンタルを6.0~7.0%、コバルトを8.0~10.0%、クロムを6.0~7.0%、モリブデンを0.30~0.90%、タングステンを5.5~6.5%、ハフニウムを0.05~0.15%、白金を3.70~4.30%、シリコンを0~0.15%を含み、残りがニッケル及び不可避不純物である、請求項1に記載の超合金。
【請求項13】
質量百分率で、アルミニウムを5.0~6.0%、タンタルを8.5~9.5%、チタンを0.80~1.20%、コバルトを8.0~10.0%、クロムを6.0~7.0%、モリブデンを0.30~0.90%、タングステンを5.5~6.5%、レニウムを0.70~2.30%、ハフニウムを0.05~0.15%、白金を1.70~2.30%、シリコンを0~0.15%を含み、残りがニッケル及び不可避不純物である、請求項1に記載の超合金。
【請求項14】
質量百分率で、アルミニウムを5.0~6.0%、タンタルを8.5~9.5%、コバルトを8.0~10.0%、クロムを6.0~7.0%、モリブデンを0.30~0.90%、タングステンを5.5~6.5%、ハフニウムを0.05~0.15%、白金を2.70~3.30%、シリコンを0~0.15%を含み、残りがニッケル及び不可避不純物である、請求項1に記載の超合金。
【請求項15】
質量百分率で、アルミニウムを5.0~6.0%、タンタルを8.5~9.5%、チタンを0.80~1.20%、コバルトを8.0~10.0%、クロムを6.0~7.0%、モリブデンを0.30~0.90%、タングステンを5.5~6.5%、ハフニウムを0.05~0.15%、白金を2.70~3.30%、シリコンを0.10%含み、残りがニッケル及び不可避不純物である、請求項1に記載の超合金。
【請求項16】
請求項1~15の何れか一項に記載の超合金を含む、ターボ機械用単結晶ブレード(20A、20B)。
【請求項17】
前記超合金に堆積させた金属ボンドコート及び前記金属ボンドコートに堆積させたセラミック遮熱バリアを備える保護コーティングを備える、請求項16に記載のブレード(20A、20B)。
【請求項18】
前記超合金が<001>結晶方向に配向した構造を有する、請求項16又は17に記載のブレード(20A、20B)。
【請求項19】
請求項16~18の何れか一項に記載のブレード(20A、20B)を備える、ターボ機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、例えば航空宇宙産業において、ガスタービン用の、特にガスタービンのノズル若しくは整流器としても知られている静翼又は動翼用の、ニッケル基超合金に関する。
【背景技術】
【0002】
ニッケル基超合金は、航空機及びヘリコプターエンジン用の単結晶ガスタービン固定翼又は動翼の製造に使用されることが知られている。
【0003】
これらの材料の主な利点は、高温での高いクリープ強度と、酸化及び腐食に対する耐性とを兼ね備えていることである。
【0004】
長年にわたって、単結晶ブレード用ニッケル基超合金は、これらの超合金が使用される非常に過酷な環境に対する耐性を維持しつつ、特に高温でのクリープ特性を向上させることを目的として、その化学組成が大きく変化してきた。
【0005】
さらに、耐酸化性及び耐腐食性を含む、これらの合金が使用される過酷な環境に対する耐性が増加するように、これら合金に適合する金属コーティングが開発されてきた。くわえて、金属表面の温度を下げるために、遮熱機能を満たす低熱伝導率のセラミックコーティングを加えることができる。
【0006】
典型的には、完全な保護システムは少なくとも2つの層で構成される。
【0007】
第1の層は、副層又はボンドコートとも呼ばれ、基材としても知られる、保護対象のニッケル基超合金部品、例えばブレードに直接堆積させる。堆積工程の後に、ボンドコートの超合金への拡散工程が続く。堆積及び拡散は、単一の工程で行うこともできる。
【0008】
このボンドコートを作るために一般的に使用される材料としては、MCrAlY型のアルミナ形成金属合金(M=Ni(ニッケル)若しくはCo(コバルト)、若しくはNiとCoの混合物、Cr=クロム、Al=アルミニウム及びY=イットリウム)又はニッケルアルミナイド(NixAly)型合金が挙げられ、白金(NixAlyPtz)を含有するものもある。
【0009】
一般に遮熱コーティング(TBC)と呼ばれる第2の層は、例えばイットリア安定化ジルコニア(YSZ)又はイットリア部分安定化ジルコニア(YPSZ)とも呼ばれるイットリア化ジルコニアを含み、かつ多孔質構造を有するセラミックコーティングである。この層は、電子ビーム物理蒸着(EB-PVD)、大気プラズマ溶射(APS)、懸濁プラズマ溶射(SPS)又は低熱伝導率を有する多孔質セラミックコーティングを生成するための他の方法などのさまざまな方法によって堆積させることができる。
【0010】
これらの材料を高温、例えば650℃~1150℃で使用することにより、基材のニッケル基超合金とボンドコートの金属合金との間に微視的相互拡散現象が生じる。これらの相互拡散現象は、ボンドコートの酸化に関連し、コーティングが製造されるとすぐに、次いでタービンのブレードの使用中に、特にボンドコートの化学組成、微細構造及び結果的に機械的特性を変化させる。これらの相互拡散現象はまた、コーティング下の基材の超合金の化学組成、微細構造及び結果的に機械的特性も変化させる。したがって、難揮発性元素、特にレニウムを多く含有する超合金では、二次反応層(SRZ)が数十マイクロメーター、それどころか数百マイクロメーターもの深さにわたってコーティング下の超合金に形成されうる。このSRZの機械的特性は、超合金基材の機械的特性より顕著に低い。SRZの形成は超合金の機械的強度の著しい低下をもたらすので望ましくない。
【0011】
ボンドコートのこれらの変化は、このボンドコートの表面上に使用中に形成する熱成長酸化物(TGO)としても知られるアルミナ層の成長及び相異なる層の間の熱膨張係数の差異に関連する応力場とあわせて、副層とセラミックコーティングの間の界面層において凝集力低下(de-cohesions)を生み出し、セラミックコーティングの部分的又は全体的な剥離(flaking)につながる可能性がある。次いで、金属部分(超合金基材と金属ボンドコート)は、燃焼ガスに曝露されて直接曝露され、これは、ブレード、ひいてはガスタービンに対する損傷のリスクを増大させる。
【0012】
さらに、これらの合金の複雑な化学的性質は、これらの合金から形成された部品の高温メンテナンスの間に、望ましくない相粒子の出現による最適微細構造の不安定化につながる可能性がある。この不安定化はこれら合金の機械的特性に悪い結果をもたらす。複雑な結晶構造と脆性のこれらの望ましくない相は、位相稠密(topologically close-packed)(TCP)相と呼ばれる。
【0013】
さらに、ブレードなどの部品が一方向凝固によって製造される場合、それらの部品に鋳造欠陥が生じることがある。これらの欠陥は通常「フレッケル」型の結晶粒欠陥であり、その存在は使用中の部品の早期故障を引き起こす可能性がある。これらの欠陥の存在は、超合金の化学組成に関連し、概して部品の不採用につながり、製造コストを増大させる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本開示は、寿命及び機械的強度の点で性能が向上し、既存の合金に比べて部品製造コストの低減(スクラップ率の低下)を可能にする、単結晶部品の製造用のニッケル基超合金組成物を提案することを目的とする。これらの超合金は、高温での耐クリープ性が既存の合金よりも高く、超合金の体積中で良好な微細構造安定性(TCP形成に対する低い感度)、遮熱コーティングボンドコート下の良好な微細構造安定性(SRZ形成に対する低い感度)、酸化及び腐食に対する良好な耐性を呈し、一方で「フレッケル」型の寄生粒(parasitic grains)の形成を回避する。
【課題を解決するための手段】
【0015】
この目的のために、本開示は、質量百分率で、アルミニウムを5.0~6.0%、タンタルを6.0~9.5%、チタンを0~1.50%、コバルトを8.0~10.0%、クロムを6.0~7.0%、モリブデンを0.30~0.90%、タングステンを5.5~6.5%、レニウムを0~2.50%、ハフニウムを0.05~0.15%、白金を0.70~4.30%、シリコンを0~0.15%含み、残りがニッケル及び不可避不純物からなるニッケル基超合金に関する。
【0016】
この超合金は、固定翼や動翼などの単結晶ガスタービン部品の製造向けのものである。
【0017】
このニッケル(Ni)基超合金の組成のおかげで、特に1200℃までの温度において、既存の超合金と比べて耐クリープ性が向上している。
【0018】
したがって、この合金は高温耐クリープ性が向上している。この合金はまた、耐腐食性と耐酸化性も向上している。
【0019】
これらの超合金は、密度が9.00g/cm(グラム毎立方センチメートル)以下、好ましくは8.85g/cm以下である。
【0020】
単結晶ニッケル基超合金部品は、インベストメント鋳造における熱勾配下での定方向凝固のプロセスによって得られる。この単結晶ニッケル基超合金は、面心立方構造を有するオーステナイトマトリックスと、ガンマ(γ)相として知られるニッケル基固溶体とを含む。そのマトリックスはNiAl型のL1秩序立方構造のガンマプライム(γ’)硬化相析出物を含有する。したがって、このセット(マトリックスと析出物)はγ/γ’超合金と呼ばれる。
【0021】
さらに、ニッケル基超合金のこの組成によって、超合金の凝固中に形成されるγ’相析出物及びγ/γ’共晶相を溶液中に戻す熱処理が実行できるようになる。したがって、制御されたサイズ、好ましくは300~500ナノメートル(nm)のγ’析出物を含有し、少量のγ/γ’共晶相を含有する単結晶ニッケル基超合金を得ることができる。
【0022】
さらに、熱処理によって、単結晶ニッケル基超合金中に存在するγ’相析出物の体積分率を制御することも可能である。γ’相析出物の体積百分率は、50%以上、好ましくは60%以上、さらにより好ましくは70%であることができる。
【0023】
主な添加元素は、コバルト(Co)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、レニウム(Re)、タングステン(W)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、タンタル(Ta)及び白金(Pt)である。
【0024】
微量添加元素は、ハフニウム(Hf)及びシリコン(Si)であり、その最大質量含有率は1質量%未満である。
【0025】
不可避不純物としては、例えば、硫黄(S)、炭素(C)、ホウ素(B)、イットリウム(Y)、ランタン(La)、及びセリウム(Ce)が挙げられる。不可避不純物は、組成物に意図的に添加されたものではなく、他の元素とともに取り込まれたものと定義される。例えば、超合金は炭素を0.005質量%含みうる。
【0026】
タングステン、クロム、コバルト、レニウム又はモリブデンの添加は、主に、固溶硬化によって面心立方(fcc)結晶構造のオーステナイトマトリックスγを強化するために用いられる。
【0027】
アルミニウム(Al)、チタン(Ti)又はタンタル(Ta)の添加は、硬化相γ’-Ni(Al,Ti,Ta)の析出を促進する。
【0028】
レニウム(Re)は超合金内の化学種の拡散を遅くし、高温での使用中のγ’相析出物の合体を制限する。この現象は機械的強度の低下につながる。したがって、レニウムは、ニッケル基超合金の高温での耐クリープ性を向上させる。しかし、レニウム濃度が高すぎると、超合金の機械的性特性に悪影響を及ぼすTCP金属間相、例えばσ相、P相又はμ相の析出をもたらす可能性がある。過剰なレニウム濃度はまた、ボンドコートの下の超合金中に、超合金の機械的特性に悪影響を及ぼす二次反応層の形成をもたらす可能性もある。
【0029】
シリコンとハフニウムの同時添加は、高温で超合金の表面に形成するアルミナ(Al)層の付着を増加させることによって、ニッケル基超合金の耐高温酸化性を向上させる。このアルミナ層は、ニッケル基超合金の表面に不動態化層を形成し、ニッケル基超合金の外部から内部への酸素の拡散に対するバリアを形成する。しかし、ハフニウムはシリコンをさらに加えることなく添加でき、逆に、シリコンはハフニウムをさらに加えることなく添加でき、それでもやはり超合金の耐高温酸化性を向上させることができる。
【0030】
くわえて、クロム又はアルミニウムの添加が、超合金の耐酸化性や耐高温腐食性を向上させる。特に、クロムはニッケル基超合金の耐高温腐食性を上げるのに必須である。しかし、クロム含有量が高すぎると、ニッケル基超合金のγ’相のソルバス温度、すなわちγ’相がγマトリックス中に完全に溶解する温度が低下する傾向があり、これは望ましくない。したがって、ニッケル基超合金のγ’相の高いソルバス温度、例えば1250℃以上を維持するために、また、レニウム、モリブデン又はタングステンなどの合金元素で高度に飽和されたγマトリックス中の位相的にコンパクトな(topologically compact)相の形成を避けるために、クロム濃度は6.0~7.0質量%である。
【0031】
白金の添加は、温度が上昇するにつれてγ’相の硬化析出物の割合が著しく減少する一般的な合金と比較して、その割合を高く維持することによって、γ’相の温度安定性を増加させる。高温でのγ’析出物の割合を高く維持することにより、合金のγ’ソルバス温度に近い温度での合金の機械的特性の維持を可能になる(図2を参照)。くわえて、白金の添加は、酸化及び腐食に対する超合金の耐性を向上させる。したがって、超合金への白金の添加は、遮熱バリアをもつ金属被覆超合金を含むシステムの寿命を向上させる。NixPtyAlz型金属コーティングをもつ超合金を使用する場合、超合金の化学組成への白金の追加は、コーティング中の白金の添加を低減又は排除する。
【0032】
ニッケルに近い元素であり、ニッケルの一部を置換するコバルトを添加すると、ニッケルとの固溶体がγマトリックス中に形成される。コバルトはγマトリックスを強化し、保護コーティング下の超合金中のTCP析出とSRZ形成に対する感度を低下させる。しかし、コバルト含有量が高すぎると、ニッケル基超合金のγ’相のソルバス温度が下がる傾向があり、これは望ましくない。
【0033】
モリブデン、タングステン、レニウム又はタンタルのような難揮発性元素の添加は、超合金への化学元素の拡散に依存するニッケル基超合金のクリープを制御する機構を遅くする。
【0034】
ニッケル基超合金中の非常に低い硫黄含有量は、酸化及び高温腐食に対する耐性並びに遮熱バリアの剥離に対する耐性を増加させる。したがって、2質量ppm(質量百万分率)未満又は理想的には0.5質量ppm未満という低い硫黄含有量は、これらの特性を最適化することを可能にする。そのような硫黄の質量含有量は、低硫黄母溶融体(mother melt)を製造することによって、又は鋳造後に実施される脱硫プロセスによって得ることができる。特に、超合金製造プロセスを適応させることによって、低い硫黄含有量を維持することが可能である。
【0035】
ニッケル基超合金は、質量百分率で大部分がニッケル分である超合金と定義される。したがって、ニッケルは合金中で最も高い質量百分率をもつ元素であることが理解される。
【0036】
本発明の超合金は、質量百分率で、アルミニウムを5.0~6.0%、タンタルを6.0~9.5%、チタンを0~1.50%、コバルトを8.0~10.0%、クロムを6.0~7.0%、モリブデンを0.30~0.90%、タングステンを5.5~6.5%、レニウムを0~2.50%、ハフニウムを0.05~0.15%、白金を1.70~4.30%、シリコンを0~0.15%含むことができ、残りがニッケル及び不可避不純物である。
【0037】
本発明の超合金は、質量百分率で、アルミニウムを5.0~6.0%、タンタルを6.0~7.0%、チタンを0~1.50%、コバルトを8.0~10.0%、クロムを6.0~7.0%、モリブデンを0.30~0.90%、タングステンを5.5~6.5%、レニウムを0~2.50%、ハフニウムを0.05~0.15%、白金を1.70~4.30%、シリコンを0~0.15%含むことができ、残りがニッケル及び不可避不純物である。
【0038】
本発明の超合金は、質量百分率で、アルミニウムを5.0~6.0%、タンタルを8.5~9.5%、チタンを0~1.50%、コバルトを8.0~10.0%、クロムを6.0~7.0%、モリブデンを0.30~0.90%、タングステンを5.5~6.5%、レニウムを0~1.50%、ハフニウムを0.05~0.15%、白金を1.70~3.30%、シリコンを0~0.15%含むことができ、残りがニッケル及び不可避不純物である。
【0039】
本発明の超合金は、質量百分率で、アルミニウムを5.0~6.0%、タンタルを6.0~9.5%、コバルトを8.0~10.0%、クロムを6.0~7.0%、モリブデンを0.30~0.90%、タングステンを5.5~6.5%、ハフニウムを0.05~0.15%、白金を2.70~4.30%、シリコンを0~0.15%含むことができ、残りがニッケル及び不可避不純物である。
【0040】
本発明の超合金は、質量百分率で、アルミニウムを5.0~6.0%、タンタルを6.0~9.5%、チタンを0.50~1.50%、コバルトを8.0~10.0%、クロムを6.0~7.0%、モリブデンを0.30~0.90%、タングステンを5.5~6.5%、ハフニウムを0.05~0.15%、白金を2.70~4.30%、シリコンを0~0.15%含むことができ、残りがニッケル及び不可避不純物である。
【0041】
本発明の超合金は、質量百分率で、アルミニウムを5.0~6.0%、タンタルを6.0~9.5%、チタンを0.80~1.20%、コバルトを8.0~10.0%、クロムを6.0~7.0%、モリブデンを0.30~0.90%、タングステンを5.5~6.5%、レニウムを0~2.50%、ハフニウムを0.05~0.15%、白金を0.70~3.30%、シリコンを0~0.15%含むことができ、残りがニッケル及び不可避不純物である。
【0042】
本発明の超合金は、質量百分率で、アルミニウムを5.0~6.0%、タンタルを6.0~9.5%、チタンを0~1.50%、コバルトを8.0~10.0%、クロムを6.0~7.0%、モリブデンを0.30~0.90%、タングステンを5.5~6.5%、レニウムを0~2.50%、ハフニウムを0.05~0.15%、白金を0.70~4.30%、シリコンを0.10%含むことができ、残りがニッケル及び不可避不純物である。
【0043】
本発明の超合金は、質量百分率で、アルミニウムを5.0~6.0%、タンタルを6.0~7.0%、チタンを0.80~1.20%、コバルトを8.0~10.0%、クロムを6.0~7.0%、モリブデンを0.30~0.90%、タングステンを5.5~6.5%、ハフニウムを0.05~0.15%、白金を2.70~3.30%、シリコンを0~0.15%含むことができ、残りがニッケル及び不可避不純物である。
【0044】
本発明の超合金は、質量百分率で、アルミニウムを5.0~6.0%、タンタルを6.0~7.0%、チタンを0.80~1.20%、コバルトを8.0~10.0%、クロムを6.0~7.0%、モリブデンを0.30~0.90%、タングステンを5.5~6.5%、レニウムを0.70~1.30%、ハフニウムを0.05~0.15%、白金を1.70~2.30%、シリコンを0~0.15%含むことができ、残りがニッケル及び不可避不純物である。
【0045】
本発明の超合金は、質量百分率で、アルミニウムを5.0~6.0%、タンタルを6.0~7.0%、チタンを0.80~1.20%、コバルトを8.0~10.0%、クロムを6.0~7.0%、モリブデンを0.30~0.90%、タングステンを5.5~6.5%、レニウムを1.70~2.30%、ハフニウムを0.05~0.15%、白金を0.70~1.30%、シリコンを0~0.15%含むことができ、残りがニッケル及び不可避不純物である。
【0046】
本発明の超合金は、質量百分率で、アルミニウムを5.0~6.0%、タンタルを6.0~7.0%、コバルトを8.0~10.0%、クロムを6.0~7.0%、モリブデンを0.30~0.90%、タングステンを5.5~6.5%、ハフニウムを0.05~0.15%、白金を3.70~4.30%、シリコンを0~0.15%含むことができ、残りがニッケル及び不可避不純物である。
【0047】
本発明の超合金は、質量百分率で、アルミニウムを5.0~6.0%、タンタルを8.5~9.5%、チタンを0.80~1.20%、コバルトを8.0~10.0%、クロムを6.0~7.0%、モリブデンを0.30~0.90%、タングステンを5.5~6.5%、レニウムを0.70~2.30%、ハフニウムを0.05~0.15%、白金を1.70~2.30%、シリコンを0~0.15%含むことができ、残りがニッケル及び不可避不純物である。
【0048】
本発明の超合金は、質量百分率で、アルミニウムを5.0~6.0%、タンタルを8.5~9.5%、コバルトを8.0~10.0%、クロムを6.0~7.0%、モリブデンを0.30~0.90%、タングステンを5.5~6.5%、ハフニウムを0.05~0.15%、白金を2.70~3.30%、シリコンを0~0.15%含むことができ、残りがニッケル及び不可避不純物である。
【0049】
本発明の超合金は、質量百分率で、アルミニウムを5.0~6.0%、タンタルを8.5~9.5%、チタンを0.80~1.20%、コバルトを8.0~10.0%、クロムを6.0~7.0%、モリブデンを0.30~0.90%、タングステンを5.5~6.5%、ハフニウムを0.05~0.15%、白金を2.70~3.30%、シリコンを0.10%含むことができ、残りがニッケル及び不可避不純物である。
【0050】
本発明の超合金は、質量百分率で、アルミニウムを5.6%、タンタルを6.5%、チタンを1.00%、コバルトを9.0%、クロムを6.5%、モリブデンを0.60%、タングステンを6.0%、ハフニウムを0.10%、白金を3.00%含むことができ、残りがニッケル及び不可避不純物である。
【0051】
本発明の超合金は、質量百分率で、アルミニウムを5.6%、タンタルを6.5%、チタンを1.00%、コバルトを9.0%、クロムを6.5%、モリブデンを0.60%、タングステンを6.0%、レニウムを1.00%、ハフニウムを0.10%、白金を2.00%含むことができ、残りがニッケル及び不可避不純物である。
【0052】
本発明の超合金は、質量百分率で、アルミニウムを5.6%、タンタルを6.5%、チタンを1.00%、コバルトを9.0%、クロムを6.5%、モリブデンを0.60%、タングステンを6.0%、レニウムを2.00%、ハフニウムを0.10%、白金を1.00%含むことができ、残りがニッケル及び不可避不純物である。
【0053】
本発明の超合金は、質量百分率で、アルミニウムを5.6%、タンタルを6.5%、コバルトを9.0%、クロムを6.5%、モリブデンを0.60%、タングステンを6.0%、ハフニウムを0.10%、白金を4.00%含むことができ、残りがニッケル及び不可避不純物である。
【0054】
本発明の超合金は、質量百分率で、アルミニウムを5.6%、タンタルを9.0%、チタンを1.00%、コバルトを9.0%、クロムを6.5%、モリブデンを0.60%、タングステンを6.0%、レニウムを1.00%、ハフニウムを0.10%、白金を2.00%含むことができ、残りがニッケル及び不可避不純物である。
【0055】
本発明の超合金は、質量百分率で、アルミニウムを5.6%、タンタルを9.0%、コバルトを9.0%、クロムを6.5%、モリブデンを0.60%、タングステンを6.0%、ハフニウムを0.10%、白金を3.00%含むことができ、残りがニッケル及び不可避不純物である。
【0056】
本発明の超合金は、質量百分率で、アルミニウムを5.6%、タンタルを6.5%、チタンを1.00%、コバルトを9.0%、クロムを6.5%、モリブデンを0.60%、タングステンを6.0%、レニウムを1.00%、ハフニウムを0.10%、白金を2.00%含むことができ、残りがニッケル及び不可避不純物である。
【0057】
本発明の超合金は、質量百分率で、アルミニウムを5.6%、タンタルを9.0%、チタンを1.00%、コバルトを9.0%、クロムを6.5%、モリブデンを0.60%、タングステンを6.0%、ハフニウムを0.10%、白金を3.00%、シリコンを0.10%含むことができ、残りがニッケル及び不可避不純物である。
【0058】
本開示はまた、上記の超合金を含む、ターボ機械用の単結晶ブレードに関する。
【0059】
したがって、このブレードは高温での耐クリープ性が向上している。したがって、このブレードは耐酸化性及び耐食性が向上している。
【0060】
このブレードは、超合金上に堆積させた金属ボンドコート及び金属ボンドコート上に堆積させたセラミック遮熱バリアを備える保護コーティングを備えうる。
【0061】
ニッケル基超合金の組成により、超合金とボンドコートの間の相互拡散現象から生じる超合金中の二次反応層の形成が回避又は制限される。
【0062】
金属ボンドコートは、MCrAlY型合金またはニッケルアルミナイド型合金であることもできる。
【0063】
ニッケル基超合金の組成に起因して、NiAlPt型コーティングの金属ボンドコートにおいて白金の添加は低減されるか、又は排除さえされる。
【0064】
セラミック遮熱バリアは、イットリア化ジルコニアをベースとする材料又は熱伝導率の低い他の何れかのセラミック(ジルコニアをベースとする)コーティングであることができる。
【0065】
ブレードは、<001>結晶方向に配向した構造を有しうる。
【0066】
一般に、この配向はブレードに最適な機械的特性を与える。
【0067】
本開示はまた、上記のブレードを備えるターボ機械に関する。
【図面の簡単な説明】
【0068】
本開示の対象の他の特徴及び利点は、添付の図を参照して、非限定的な例として与えられる本発明の実施形態の以下の説明から明らかになるであろう。そこにおいて、
図1図1はターボ機械の概略縦断面図である。
図2図2は、γ’相体積分率の変化を温度の関数として表すグラフである。
図3図3は、さまざまな超合金の非フレッケルパラメーター(NFP)を表すグラフである。
図4図4は、さまざまな温度及び異なる超合金のγ’相体積分率を表すグラフである。
図5図5は、2つの超合金について、0.2%での降伏強度を温度の関数として表すグラフである。
図6図6は、図5の2つの超合金について、引張強度を温度の関数として表すグラフである。
図7図7は、3つの超合金について、1000℃での質量増加を時間の関数として表すグラフである。
図8図8は、超合金の微細構造を表す顕微鏡写真である。
【0069】
すべての図において、共通の要素は同一の符号によって識別される。
【発明を実施するための形態】
【0070】
ニッケル基超合金は、熱勾配中での定方向凝固プロセスによる単結晶ブレードの製造向けである。この単結晶構造は、凝固初期に単結晶種又は結晶粒セレクタ(grain selector)を使用することによって得ることができる。例えば、この構造は、一般に超合金に最適な機械的特性を与える配向である<001>結晶方向に配向される。
【0071】
凝固した単結晶ニッケル基超合金はデンドライト状構造を有し、ニッケル基固溶体である面心立方構造のγマトリックス中に分散したγ’Ni(Al,Ti,Ta)析出物から構成される。これらのγ’相析出物は、凝固プロセスから生じる化学的偏析に起因して、単結晶の体積中に不均一に分布している。くわえて、γ/γ’共晶相が樹間部に存在し、先行して亀裂が発生する場所である。これらのγ/γ’共晶相は凝固終了時に形成される。さらに、γ/γ’共晶相は、γ’硬化相の微細析出物(1マイクロメートルより小さいサイズ)を損なって形成される。これらのγ’相析出物はニッケル基超合金の硬化の主な原因である。また、残留するγ/γ’共晶相が存在することによって、ニッケル基超合金の耐高温クリープ性を最適化することができない。
【0072】
超合金の機械的特性、特に耐クリープ性は、γ’析出物の析出が秩序化された場合、すなわちγ’相析出物が300~500nmの範囲のサイズで規則的に配列された場合及びγ/γ’共晶相の全体が溶液に戻された場合、最適であったことが実際に示されている。
【0073】
したがって、未加工の凝固ニッケル基超合金は、相異なる相の所望の分布を得るために熱処理される。第1の熱処理は、微細構造の均一化処理であり、γ’相析出物を溶解して、γ/γ’共晶相を除去すること又はその体積率を大幅に低減することを目的とする。この処理は、γ’相のソルバス温度よりも高く、超合金の溶融開始温度よりも低い温度(T固相線(Tsolidus))で行われる。その後、この第1の熱処理の終了時に焼入れが行われ、γ’析出物の微細で均一な分散体が得られる。次いで、焼戻し熱処理が、γ’相のソルバス温度未満の温度で、2段階で行われる。第1の段階では、γ’析出物を所望のサイズまで成長させ、次いで第2の段階では、この相の体積分率を室温で約70%まで成長させる。
【0074】
図1は、主軸線(main axis)Aを通る垂直面におけるバイパスターボファンエンジン10の垂直断面を示す。ターボファンエンジン10は、空気の流れに従って上流から下流に向かって、ファン12、低圧圧縮機14、高圧圧縮機16、燃焼器18、高圧タービン20及び低圧タービン22を備える。
【0075】
高圧タービン20は、ロータとともに回転する複数の動翼20A及び固定子に取り付けられた整流装置20B(静翼)を備える。タービン20の固定子は、タービン20の動翼20Aに対向して配置された複数の固定子リング24を備える。
【0076】
したがって、これらの特性によって、これらの超合金はターボジェットエンジンの高温部品用の単結晶部品の製造に向けの興味深い候補となる。
【0077】
したがって、上記の超合金を含むターボ機械用の動翼20A又は整流装置20Bを製造することができる。
【0078】
代替的に、上記の超合金を含むターボ機械用の動翼20A又は整流器20Bは金属ボンドコートを含む保護コーティングで被覆される。
【0079】
ターボ機械は、特にターボファンエンジン10などのターボジェットエンジンであることができる。ターボ機械はまた、単流ターボジェットエンジン、ターボプロップエンジン又はターボシャフトエンジンであってもよい。
【実施例
【0080】
実施例
【0081】
本開示の8つの単結晶ニッケル基超合金(例1(Ex1)~例8(Ex8))を検討し、5つの市販単結晶超合金、Rene N5(例9(Ex9))、CMSX-4(例10(Ex10))、CMSX-4 Plus Mod C(例11(Ex11))、Rene N6(例12(Ex12))、CMSX-10 K(例13(Ex13)、及び論文J. S. Van Sluytman, C. J. Moceri, and T. M. Pollock, "A Pt-modified Ni-base superalloy with high temperature precipitate stability," Mater. Sci. Eng. A, vol. 639, pp. 747-754, Jul. 2015に言及されている実験的な白金含有超合金(例14(Ex14))と比較した。各単結晶超合金の化学組成を表1に示す。例7の組成物はさらに炭素を0.03質量%含み、例13はさらにニオブ(Nb)を0.10質量%含み、例12はさらに、炭素(C)を0.05質量%、ホウ素(B)を0.004質量%含み、例14はさらに、炭素を0.02質量%、ホウ素を0.015質量%、ジルコンを0.02質量%含む。これらの超合金はすべてニッケル基超合金であり、すなわち、示された組成の100%に対する残りはニッケル及び不可避不純物から成る。
【0082】
例1~例8の超合金は、温度の関数として図2の曲線Bに沿ったγ’相の体積分率の変化を示し、一方で例9~例14の超合金は、温度の関数として図2の曲線Aに沿ったγ’相の体積分率の変化を示す。
【0083】
【表1】
【0084】
密度
【0085】
各超合金の室温での密度を、Hullの式(Hull formula)(F.C. Hull, Metal Progress, November 1969, pp139-140)の改変バージョンを用いて推定した。密度はg.cm-3(グラム/立方センチメートル)で表される。この経験式はHullによって提案された。この経験式は複合則に基づいており、235種の超合金とステンレス鋼の実験データ(化学組成と測定密度)の線形回帰分析から導き出された補正項目を包含する。このHull式は、特にレニウムやルテニウムなどの元素を考慮するように改変されてきた。P. Carondans "High gamma prime solvus New Generation Nickel-Based Superalloys for Single Crystal Turbine Blade Applications", 2000, pp737-746によって示された改変Hull式は次の通りである。
(1) d=8.29604-0.00435 重量%Co-0.0164 重量%(Cr+Mo)+0.06274 重量%W+0.0593 重量%(Re+Pt)+0.01811 重量%Ru-0.06595 重量%Al-0.0236 重量%Ti+0.05441 重量%Ta
ここで、重量%Co、重量%(Cr+Mo)、...、重量%Taは、元素Co、(Cr+Mo)、...、Taの質量百分率であり、
dはg/cmで表された超合金の密度である。
【0086】
例えば、例5の超合金の密度は8.81g/cmと推定され、実測値は8.83g/cmである。密度はヘリウムピクノメーターで測定する。したがって、上記の改変Hull式は超合金の実測密度と良く一致する。
【0087】
本発明の合金及び参照合金に関する計算密度は、8.90g/cm未満、好ましくは8.85g/cm未満である(表2を参照)。
【0088】
表2に例1~例12の超合金のさまざまなパラメーターを示す。
【0089】
【表2】
【0090】
非フレッケルパラメーター(No-Freckles Parameter)(NFP)
(2)NFP=[%Ta+1.5%Hf+0.5%Mo-0.5%Ti)]/[%W+1.2%Re)]
ここで、%Cr、%Ni、...%Xは、質量百分率で表された、超合金元素Cr、Ni、...、Xの含有量である。
【0091】
NFPを用いて、構成要素の定方向凝固中のフレッケルの形成に対する感度を定量化した(文献米国特許第5,888,451号明細書)。フレッケルの形成を防ぐには、NFPは0.7以上でなければならない。
【0092】
表2及び図3に見られるように、例1(Ex1)~例8(Ex8)の超合金はすべて、NFPが0.7以上であり、一方で例10(Ex10)~例13(Ex13)の市販超合金はNFPが0.7未満である。
【0093】
SRZの形成に対する感度
【0094】
SRZ形成に対するレニウム含有ニッケル基超合金の感度を評価するために、Walstonは次の式を確立した(文献米国特許第5,270,123号明細書)。
(3)[SRZ(%)]1/2=13.88(%Re)+4.10(%W)-7.07(%Cr)-2.94(%Mo)-0.33(%Co)+12.13
ここでSRZ(%)は、コーティング下の超合金中のSRZの線形百分率割合であり、合金元素の濃度は原子百分率である。
【0095】
この式(3)は、NiPtAlコーティング下で例12の組成に近い組成をもつさまざまな合金試料を1093℃(摂氏度)で400時間時効させた後に行った観察からの重線形回帰分析によって得た。
【0096】
パラメーター[SRZ(%)]1/2の値が高いほど、超合金はSRZ形成に敏感である。したがって、表2に見られるように、例1~例8の超合金については、パラメーター[SRZ(%)]1/2の値はすべて負であり、したがってこれらの超合金は、NiPtAlコーティング下でのSRZ形成に対して感度が低く、SRZ形成に対する感度が低いことが知られている市販の例12の超合金、並びに例9、例10及び例14の超合金も同様である。例として、NiPtAlコーティング下でのSRZの形成に対して感度が非常に高いことが知られている市販の例13の超合金は、[SRZ(%)]1/2パラメーター値が比較的高い。
【0097】
合金のコスト(Cost)
【0098】
例1~例14の超合金の1キログラム当たりのコストは、超合金の組成と各化合物のコスト(2018年2月最新版)に基づいて計算する。このコストを例として示す。
【0099】
結晶パラメーターの差δ’
【0100】
γ相とγ’相の結晶パラメーターの差δ’は、「ミスマッチ(Mismatch)」とも呼ばれ、パーセントで表される。このパラメーターは、これら2つ相の異なる熱膨張係数に起因して、温度の関数として変化する。これは機械的特性、特にクリープ特性に影響すると考えられる。δ’が負、又はわずかに正であっても、所与の温度での微細構造の安定性は増進される。
【0101】
γ’相のソルバス温度
【0102】
CALPHAD法をベースとするThermoCalcソフトウェア(Ni25データベース)を用いて、平衡におけるγ’相のソルバス温度を計算した。
【0103】
表3に見られるように、例1~例8の超合金のγ’ソルバス温度は、例9~例14の超合金のγ’ソルバス温度に類似する。
【0104】
固相線温度及び液相線温度
【0105】
CALPHAD法をベースとするThermoCalcソフトウェア(Ni25データベース)を用いて、例1~例14の超合金の固相線温度及び液相線温度を計算した。
【0106】
γ’相の体積分率
【0107】
CALPHAD法をベースとするThermoCalcソフトウェア(Ni25データベース)を用いて、950℃、1050℃及び1200℃での例1~例14の超合金の平衡におけるγ’相の体積分率(体積百分率)を計算した。
【0108】
表3及び図4に見られるように、例1(Ex1)~例8(Ex8)の超合金は、例9(Ex9)~例14(Ex14)の市販超合金のγ’相体積分率より大きいか又はそれに匹敵するγ’相体積分率を含む。
【0109】
したがって、例1~例8の超合金の高いγ’ソルバス温度と高いγ’相体積分率の組み合わせは、高温及び超高温、例えば1200℃での良好な耐クリープ性に有利である。したがって、この耐性は、例9~例12の市販超合金のクリープ強度よりも高く、例11の市販超合金のクリープ強度に近いはずである。
【0110】
【表3】
【0111】
TCP型σの体積分率
【0112】
CALPHAD法をベースとするThermoCalcソフトウェア(ニッケルデータベース)を用いて、950℃及び1050℃での例1~例14の超合金の平衡における相σの体積分率(体積百分率)を計算した(表4を参照)。
【0113】
σ相の計算体積分率は比較的小さく、TCP析出に対する低い感度を反映している。
【0114】
γマトリックスに溶解したクロムの質量濃度
【0115】
CALPHAD法をベースとするThermoCalcソフトウェア(Ni25データベース)を用いて、950℃及び1200℃での例1~例14の超合金の平衡におけるγ相のクロム含有量を(質量百分率で)計算した。
【0116】
表4に見られるように、例1~例8の超合金のγ相のクロム濃度は、例9~例13の市販超合金のγ相のクロム濃度と比較して、より高いか又は類似し、これは、より良好な耐腐食性及び耐高温酸化性に有利である。
【0117】
【表4】
【0118】
機械的特性
【0119】
図5は、650℃、760℃及び950℃での例5の超合金及び例11の超合金について、0.2%での降伏強度(単位MPa)の変化を温度(単位℃)の関数として表す。
【0120】
図6は、650℃、760℃及び950℃での例5(Ex5)の超合金及び例11(Ex11)の超合金について、破断点引張強度(単位MPa)の変化を温度(単位℃)の関数として表す。
【0121】
0.2%降伏強度及び引張強度は、室温ではISO6892-1規格、室温より高い温度ではISO6892-2規格に従って測定する。
【0122】
図5に見られるように、例5(Ex5)の超合金は、0.2%の降伏強度及び引張強度が例11(Ex11)の超合金に類似する。
【0123】
酸化特性
【0124】
例5(Ex5)、例9(Ex9)及び例10(Ex10)の超合金の酸化特性を図7に示す。時間(数時間)の関数としての超合金の質量増加(単位g/m)を1000℃で測定した。図7に示されるように、1000℃で10時間未満の試験後、例5の超合金は、例9及び例10の超合金よりも質量増加が低いことがわかる。
【0125】
試験は、直径14mm、厚さ1.2~1.4mmの試験材料のペレットについて実施する。酸化試験は熱重量分析試験とも呼ばれ、アルキメデスの原理の変形を補整した熱天秤を用いて、合成空気(21%O+79%N)の一定流量下で行う。したがって、質量増加は試験の温度で連続的に測定される。試料ホルダーは、試料と反応せず、酸化しないようにあらかじめ安定化されていることに留意されたい。
【0126】
微細構造
【0127】
図8は、溶液化焼鈍及び焼戻し後の例5の超合金の微細構造を、走査型電子顕微鏡によって5000×倍率で示したものである。この微細構造は、ニッケル基超合金の機械的特性に最適な微細構造の典型であり、γ/γ’相をもつ微細構造を示している。図8では、γ’析出物は濃い灰色の立方体である。
【0128】
特定の実施形態の特定の例を参照して本開示を説明してきたが、特許請求の範囲によって定められる本発明の一般的範囲を超えることなく、さまざまな修正及び変更をこれらの例に対して行うことができることは明らかである。さらに、参照される異なる実施形態の個々の特徴は、追加の実施形態において組み合わせることができる。したがって、明細書及び図面は、限定的な意味ではなく、例示的な意味で考慮されるべきである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8