(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-12
(45)【発行日】2024-01-22
(54)【発明の名称】可変減衰器、信号解析装置、及び誘電体ブロックの固定方法
(51)【国際特許分類】
H01P 1/22 20060101AFI20240115BHJP
【FI】
H01P1/22
(21)【出願番号】P 2021040627
(22)【出願日】2021-03-12
【審査請求日】2022-12-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000000572
【氏名又は名称】アンリツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003694
【氏名又は名称】弁理士法人有我国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】臼井 智紀
(72)【発明者】
【氏名】丸尾 友彦
【審査官】赤穂 美香
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-144501(JP,A)
【文献】特開2008-199404(JP,A)
【文献】実開平06-029206(JP,U)
【文献】特開平10-242716(JP,A)
【文献】特開2001-298302(JP,A)
【文献】米国特許第06043556(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01P 1/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
信号入力端子(21)と信号出力端子(22)間に高周波信号の伝送路を構成するための伝送路用溝(23)が形成される金属製のベース基板(20)と、前記ベース基板の前記伝送路用溝が形成される側の面全体を覆うアース板(20a)と、を有し、
前記伝送路用溝は、減衰素子(31)が装着され、前記信号入力端子から入力される前記高周波信号を該減衰素子により減衰させる減衰経路(25)と、前記減衰素子を通さないスルー経路(26)と、が複数組設けられ、
前記組ごとに前記減衰経路または前記スルー経路を選択し、選択された全ての前記減衰経路内の前記減衰素子に応じた減衰レベルを設定可能な可変減衰器(2)であって、
前記ベース基板の前記伝送路用溝の所要の位置ごとに配置され、前記伝送路用溝の幅よりも大きな幅を有し、中央部を中心導体(33b)が貫通する樹脂製の複数の誘電体ブロック(33)をさらに有し、
前記誘電体ブロックは、それぞれの配置位置で、前記ベース基板の上面から突出しない状態で前記伝送路用溝内に圧入されていることを特徴とする可変減衰器。
【請求項2】
前記伝送路用溝は、前記誘電体ブロックの配置位置に対応して形成され、前記誘電体ブロックを受け入れ可能な形状を有する堀込部(201)を有し、
前記誘電体ブロックは、前記堀込部に受け入れられた状態で前記伝送路用溝内に圧入されていることを特徴とする請求項1記載の可変減衰器。
【請求項3】
前記誘電体ブロックは、前記堀込部に対して接着剤で接着されていることを特徴とする請求項2に記載の可変減衰器。
【請求項4】
前記伝送路用溝は、前記ベース基板の前記面全体が前記アース板で覆われる積層状態で同軸型伝送路を構成し、
前記同軸型伝送路は、ストリップライン(Stripline)構造を有することを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の可変減衰器。
【請求項5】
前記高周波信号は、5G NR規格の信号であり、
前記伝送路用溝は、前記信号入力端子と前記信号出力端子間のインピーダンスが、全ての前記誘電体ブロックが前記伝送路用溝に圧入された状態で所定の値となるように設計されていることを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の可変減衰器。
【請求項6】
減衰レベルを可変設定可能であり、被試験対象(50)から出力された高周波信号を、設定された減衰レベルで減衰させる可変減衰器(2)と、
減衰された前記高周波信号を中間周波数信号に変換する周波数変換部(3)と、
前記中間周波数信号をサンプリングして得られるディジタルデータに対して解析処理を行う信号解析部(5)と、を備え、
前記可変減衰器は、
信号入力端子(21)と信号出力端子(22)間に前記高周波信号の伝送路を構成するための伝送路用溝(23)が形成される金属製のベース基板(20)と、前記ベース基板の前記伝送路用溝が形成される側の面全体を覆うアース板(20a)と、を有し、
前記伝送路用溝は、減衰素子(31)が装着され、前記信号入力端子から入力される前記高周波信号を該減衰素子により減衰させる減衰経路(25)と、前記減衰素子を通さないスルー経路(26)と、が複数組設けられ、
前記組ごとに前記減衰経路または前記スルー経路を選択し、選択された全ての前記減衰経路内の前記減衰素子に応じた減衰レベルを設定可能であって、
前記ベース基板の前記伝送路用溝の所要の位置ごとに配置され、前記伝送路用溝の幅よりも大きな幅を有し、中央部を中心導体(33b)が貫通する樹脂製の複数の誘電体ブロック(33)をさらに有し、
前記誘電体ブロックは、それぞれの配置位置で、前記ベース基板の上面から突出しない状態で前記伝送路用溝内に圧入されていることを特徴とする信号解析装置。
【請求項7】
請求項6に記載の信号解析装置における
前記可変減衰器の前記伝送路用溝内に前記誘電体ブロックを固定する誘電体ブロックの固定方法であって、
前記減衰経路、及び前記スルー経路が形成された前記伝送路用溝を有する金属製の前記ベース基板を用意するステップ(S1)と、
前記伝送路用溝の所要の位置に、該伝送路用溝の幅よりも大きな幅を有する樹脂製の複数の前記誘電体ブロックを配置するステップ(S2)と、
前記誘電体ブロックを、それぞれの配置位置で、前記ベース基板の上面から突出しない状態で前記伝送路用溝内に圧入するステップ(S3)と、
を含み、圧入された状態で前記伝送路用溝の両側面から加わる圧力により前記誘電体ブロックを固定することを特徴とする誘電体ブロックの固定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可変減衰器、信号解析装置、及び誘電体ブロックの固定方法に関し、特に、シグナルアナライザやスペクトラムアナライザなどの信号解析装置に用いられる可変減衰器、及び可変減衰器における誘電体ブロックの固定方法の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、新規に開発された携帯端末等の移動体通信端末(以下、移動端末)を被試験対象(Device Under Test:DUT)とし、該DUTから出力される無線信号を被測定信号として受信して解析処理を行うシグナルアナライザやスペクトラムアナライザなどの信号解析装置が知られている。
【0003】
近年、この種の信号解析装置においても、例えば、5G NR規格に則り通信を行う、いわゆる、5G端末の開発の進展に合わせて、より高周波帯(例えば、26.5GHz以上)の信号を被測定信号として受信し、解析する能力が求められている。
【0004】
この種の信号解析装置では、過入力による測定結果への悪影響を回避するために、減衰量を可変設定し、DUTからの入力信号(変調信号)のレベルを設定されたレベルで減衰させて出力する可変減衰器を備えたものがある。可変減衰器の一例として、伝送路を選択的に切り替えて減衰量を可変設定する、いわゆるメカニカルアッテネータ(メカニカルATT)が知られている。
【0005】
高周波信号の伝送路の構造については、例えば、アース筐体の外導体溝の側端部に傾斜面を有する皿状ねじを取り付け、該皿状ねじ(以下、皿状ねじを皿ねじという)の傾斜面により、アース筐体内で上支持体の段部と下支持体の段部との間で中心導体を挟持する方向に押圧し、接点バネまたは共通接点を確実に外導体溝内に支持することを可能とする同軸伝送路の中心導体支持構造が従来から知られている(特許文献1等。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、5G NR規格の高周波信号(例えば、26.5GHz以上)の解析処理を想定した場合、特許文献1に記載された知見に基づき実現し得る従来のメカニカルATTの構造では測定精度を維持したままでの当該解析処理への対応は困難であった。
【0008】
その要因としては、以下に述べるように、設計時における理想とするインピーダンスの実現の困難性、コスト増、及び製造性の低下等が挙げられる。
【0009】
メカニカルATTは、例えば抵抗体のような高周波の減衰素子を複数用意しておき、これらを選択的に組み合わせることにより任意の減衰量を実現する構造であり、組み合わせの選択を行うための高周波スイッチにより減衰素子を通さないスルー経路と減衰素子を通すことにより減衰させる減衰経路を切り替える機構が複数用意されている。
【0010】
スルー経路と減衰経路を切り替える機構においては、例えば、
図12に示すように、金属ケース(符号70)に形成した伝送路用溝(同、71)内に、中心導体(同、73)を有する樹脂製の誘電体ブロック(同、72)を配置し、該誘電体ブロックをねじ穴77にねじ締めされる皿ねじ(同、75)のねじ頭の傾斜面(同、76)を金属ケースに押し付けて固定する構造が従来から採用されている。ここで金属ケースは、その一面(例えば、伝送路用溝が形成された面)全体がアース板(同、70a)で覆われることによりスルー経路及び減衰経路を含む導波路(伝送路)が形成され、メカニカルATTとして機能するようになっている。
【0011】
かかる従来のメカニカルATTにおいては、金属ケースに対して誘電体ブロックを皿ねじで固定するようになっていたため、皿ねじに対応するねじ穴を金属ケースに設ける必要があった。この場合、伝送路の一部分を皿ねじのねじ頭を受け易い形(
図12における皿ねじ75の傾斜面76に対向する箇所の形状)に加工する必要があり、伝送路の形状として、理想とするインピーダンス、つまり、設計値を実現し得る好適な矩形形状を実現できないことがあった。好適な矩形形状を実現できない場合には、理想とするインピーダンス(設計値)の実現が困難となり、メカニカルATTとしての特性が悪化につながることにもなった。
【0012】
また、従来のメカニカルATTでは、設計時、理想とするインピーダンス(設計値)を実現するために、金属ケースを覆うアース板に対してエンボス加工を施すようになっていた。この構成によれば、製造コストが高くなり、製造性も低下することとなった。
【0013】
また、従来のメカニカルATTでは、ばね性(材料)を持った誘電体ブロックが動作したときに応力集中などが生じて破壊しないように傾斜の形状になっており、伝送路の特性インピーダンスが変動するため、これを防ぐべく、グラウンド電位の金属(アース板)のエンボスを誘電体ブロック近傍に設けるようにしている。このため、エンボスの製造にあたって位置合わせやエンボス個々の個体差が生じ、インピーダンスが設計値から外れ、メカニカルATTとしての特性が悪化することがあった。上述した各種要因による特性の悪化によって、従来のメカニカルATTでは、例えば、5G NR規格の周波数帯の信号等、より高周波帯の信号を対象とする信号解析への対応が困難であった。
【0014】
以上のように、従来のメカニカルATTは、誘電体ブロックを皿ねじにより固定していたため、金属ケースにねじ穴を設ける必要性から、設計時、理想のインピーダンス(設計値)を実現できる好適な矩形形状の伝送路の実現が困難であった。
【0015】
また、設計時、インピーダンスを設計値となるようにするには、アース板に対するエンボス加工を施す必要があり、製造コストが高くなり、製造性も低下するという問題があった。また、理想とするインピーダンスを得ることが困難であることからメカニカルATTとしての性能低下を避けられず、より高周波帯の信号の信号解析への対応が困難であるという問題もあった。
【0016】
本発明は、このような従来の課題を解決するためになされたものであって、伝送路を設計値に相当するインピーダンスを実現するために好適な矩形形状とすることができ、コスト増、製造性低下を招来することなく、より高周波帯の信号の信号解析に対応可能な可変減衰器、信号解析装置、及び誘電体ブロックの固定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するために、本発明の請求項1に係る可変減衰器は、信号入力端子(21)と信号出力端子(22)間に高周波信号の伝送路を構成するための伝送路用溝(23)が形成される金属製のベース基板(20)と、前記ベース基板の前記伝送路用溝が形成される側の面全体を覆うアース板(20a)と、を有し、前記伝送路用溝は、減衰素子(31)が装着され、前記信号入力端子から入力される前記高周波信号を該減衰素子により減衰させる減衰経路(25)と、前記減衰素子を通さないスルー経路(26)と、が複数組設けられ、前記組ごとに前記減衰経路または前記スルー経路を選択し、選択された全ての前記減衰経路内の前記減衰素子に応じた減衰レベルを設定可能な可変減衰器(2)であって、前記ベース基板の前記伝送路用溝の所要の位置ごとに配置され、前記伝送路用溝の幅よりも大きな幅を有し、中央部を中心導体(33b)が貫通する樹脂製の複数の誘電体ブロック(33)をさらに有し、前記誘電体ブロックは、それぞれの配置位置で、前記ベース基板の上面から突出しない状態で前記伝送路用溝内に圧入されている構成を有する。
【0018】
この構成により、本発明の請求項1に係る可変減衰器は、金属製のベース基板に設けられた硬い伝送路用溝内に、金属より柔らかい樹脂製の複数の誘電体ブロックを圧入しているため、皿ねじを用いる場合に必要であった、伝送路を削っていた皿ねじ用のねじ穴を無くすことができ、インピーダンスを設計値にするための好適な矩形形状で伝送路用溝を形成することができる。また、エンボス加工等の特別な加工を施す必要がなく、製造コストの高騰、製造性低下を来すことなく設計値に相当するインピーダンスを容易に実現でき、メカニカルATTとしての性能向上により、より高周波帯の信号の信号解析にも対応可能となる。
【0019】
また、本発明の請求項2に係る可変減衰器において、前記伝送路用溝は、前記誘電体ブロックの配置位置に対応して形成され、前記誘電体ブロックを受け入れ可能な形状を有する堀込部(201)を有し、前記誘電体ブロックは、前記堀込部に受け入れられた状態で前記伝送路用溝内に圧入されている構成としてもよい。
【0020】
この構成により、本発明の請求項2に係る可変減衰器は、誘電体ブロックを堀込部(201)に埋め込んだ状態で圧入でき、圧入作業が容易になるとともに、作業性を向上させることができる。
【0021】
また、本発明の請求項3に係る可変減衰器において、前記誘電体ブロックは、前記堀込部に対して接着剤で接着されている構成であってもよい。この構成により、本発明の請求項3に係る可変減衰器は、誘電体ブロックを圧入と接着により堀込部に埋め込むことで誘電体ブロックの固定をより確実に行うことが可能となる。
【0022】
また、本発明の請求項4に係る可変減衰器において、前記伝送路用溝は、前記ベース基板の前記面全体が前記アース板で覆われる積層状態で同軸型伝送路を構成し、前記同軸型伝送路は、ストリップライン(Stripline)構造を有する構成としてもよい。この構成により、本発明の請求項4に係る可変減衰器は、ストリップライン構造の同軸型伝送路をモデルとして、所望のインピーダンスを有する伝送路の設計が容易に行える。
【0023】
また、本発明の請求項5に係る可変減衰器においては、前記高周波信号は、5G NR規格の信号であり、前記伝送路用溝は、前記信号入力端子と前記信号出力端子間のインピーダンスが、全ての前記誘電体ブロックが前記伝送路用溝に圧入された状態で所定の値となるように設計されている構成であってもよい。この構成により、本発明の請求項5に係る可変減衰器は、5G NR規格の高周波信号の信号解析にも対応可能となる。
【0024】
上記課題を解決するために、本発明の請求項6に係る信号解析装置は、減衰レベルを可変設定可能であり、被試験対象(50)から出力された高周波信号を、設定された減衰レベルで減衰させる可変減衰器(2)と、減衰された前記高周波信号を中間周波数信号に変換する周波数変換部(3)と、前記中間周波数信号をサンプリングして得られるディジタルデータに対して解析処理を行う信号解析部(5)と、を備え、前記可変減衰器は、信号入力端子(21)と信号出力端子(22)間に前記高周波信号の伝送路を構成するための伝送路用溝(23)が形成される金属製のベース基板(20)と、前記ベース基板の前記伝送路用溝が形成される側の面全体を覆うアース板(20a)と、を有し、前記伝送路用溝は、減衰素子(31)が装着され、前記信号入力端子から入力される前記高周波信号を該減衰素子により減衰させる減衰経路(25)と、前記減衰素子を通さないスルー経路(26)と、が複数組設けられ、前記組ごとに前記減衰経路または前記スルー経路を選択し、選択された全ての前記減衰経路内の前記減衰素子に応じた減衰レベルを設定可能であって、前記ベース基板の前記伝送路用溝の所要の位置ごとに配置され、前記伝送路用溝の幅よりも大きな幅を有し、中央部を中心導体(33b)が貫通する樹脂製の複数の誘電体ブロック(33)をさらに有し、前記誘電体ブロックは、それぞれの配置位置で、前記ベース基板の上面から突出しない状態で前記伝送路用溝内に圧入されている構成を有する。
【0025】
この構成により、本発明の請求項6に係る信号解析装置は、可変減衰器が、金属製のベース基板に設けられた硬い伝送路用溝内に、それより柔らかい樹脂製の複数の誘電体ブロックを圧入しているため、皿ねじを用いる場合に必要であった、伝送路を削っていた皿ねじ用のねじ穴を無くすことができ、インピーダンスを設計値にするための好適な矩形形状で伝送路用溝を形成することができる。また、エンボス加工等の特別な加工を施す必要がなく、製造コストの高騰、製造性低下を来すことなく設計値に相当するインピーダンスを容易に実現でき、メカニカルATTとしての性能向上により、より高周波帯の信号の信号解析にも対応可能となる。したがって、かかる可変減衰器を採用する信号解析装置においても、設計時、伝送路用溝の形状を設計されたインピーダンスを実現するために好適な矩形形状とすることができ、コスト増、製造性低下を招来することなく、より高周波帯の信号の信号解析に対応可能な構成を実現できる。
【0026】
上記課題を解決するために、本発明の請求項7に係る誘電体ブロックの固定方法は、請求項6に記載の信号解析装置における前記可変減衰器の前記伝送路用溝内に前記誘電体ブロックを固定する誘電体ブロックの固定方法であって、前記減衰経路、及び前記スルー経路が形成された前記伝送路用溝を有する金属製の前記ベース基板を用意するステップ(S1)と、前記伝送路用溝の所要の位置に、該伝送路用溝の幅よりも大きな幅を有する樹脂製の複数の前記誘電体ブロックを配置するステップ(S2)と、前記誘電体ブロックを、それぞれの配置位置で、前記ベース基板の上面から突出しない状態で前記伝送路用溝内に圧入するステップ(S3)と、を含み、圧入された状態で前記伝送路用溝の両側面から加わる圧力により前記誘電体ブロックを固定する構成を有する。
【0027】
この構成により、本発明の請求項7に係る誘電体ブロックの固定方法は、金属製のベース基板に設けられた硬い伝送路用溝内に、金属より柔らかい樹脂製の複数の誘電体ブロックを圧入しているため、皿ねじを用いる場合に必要であった、伝送路を削っていた皿ねじ用のねじ穴を無くすことができ、インピーダンスを設計値にするための好適な矩形形状で伝送路用溝を形成することができる。また、エンボス加工等の特別な加工を施す必要がなく、製造コストの高騰、製造性低下を来すことなく設計値に相当するインピーダンスを容易に実現でき、メカニカルATTとしての性能向上により、より高周波帯の信号の信号解析にも対応可能となる。
【発明の効果】
【0028】
本発明は、伝送路を設計値に相当するインピーダンスを実現するために好適な矩形形状とすることができ、コスト増、製造性低下を招来することなく、より高周波帯の信号の信号解析に対応可能な可変減衰器、信号解析装置、及び誘電体ブロックの固定方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】本発明の一実施形態に係る信号解析装置の構成を示すブロック図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る信号解析装置の可変減衰器の外観構造を示す図であり、(a)は上面図を示し、(b)は側面図を示している。
【
図3】本発明の一実施形態に係る信号解析装置の可変減衰器の内部構造を示す平面図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係る信号解析装置の可変減衰器における減衰経路とスルー経路の切替機構の構成を示す概念図であり、(a)は無選択時の切り替え態様を示し、(b)は減衰経路選択時の切り替え態様を示し、(c)はスルー経路選択時の切り替え態様を示している。
【
図5】本発明の一実施形態に係る信号解析装置の可変減衰器における誘電体ブロックの取り付け態様を示すベース基板の要部斜視図である。
【
図6】
図5における平面Cによる要部断面構造を示す図である。
【
図7】本発明の一実施形態に係る信号解析装置の可変減衰器における誘電体ブロックの固定方法を示すフローチャートである。
【
図8】本発明の一実施形態に係る信号解析装置の可変減衰器での誘電体ブロックの第1の固定方法に基づく圧入作業イメージを示す模式図である。
【
図9】本発明の一実施形態に係る信号解析装置の可変減衰器での誘電体ブロックの第2の固定方法に基づく圧入作業に用いる堀込部の構造を示すベース基板上面図である。
【
図10】
図9に示した堀込部を有する伝送路用溝に対する誘電体ブロックの取り付け態様を示す斜視図である。
【
図11】
図10における平面Dによる要部断面構造を示す図である。
【
図12】従来の信号解析装置の可変減衰器における誘電体ブロック及び皿ねじの取り付け態様を示すベース基板の要部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明に係る可変減衰器、信号解析装置、及び誘電体ブロックの固定方法について図面を用いて説明する。
【0031】
本発明の一実施形態においては、本発明の信号解析装置を、DUTから出力される無線信号を被測定信号として受信し、当該被測定信号に対して解析処理を行うシグナルアナライザやスペクトラムアナライザなどの信号解析装置に適用した例を挙げて説明する。まず、本実施形態における信号解析装置の構成について説明する。
【0032】
図1に示すように、本発明の一実施形態に係る信号解析装置1は、可変減衰器(可変ATT)2と、周波数変換部3と、A/D変換器(ADC)4と、信号解析部5と、操作部6と、表示部7と、制御部8と、を備え、DUT50から出力された変調信号Smの解析処理を行うものである。
【0033】
DUT50と信号解析装置1とは同軸ケーブルで接続されていてもよく、あるいは、無線通信で接続されていてもよい。
【0034】
DUT50は、例えば無線通信アンテナとRF回路を有する無線端末機器や基地局などである。DUT50の通信規格としては、5G NR、セルラ(LTE、LTE-A、W-CDMA(登録商標)、GSM(登録商標)、CDMA2000、1xEV-DO、TD-SCDMA等)、無線LAN(IEEE802.11b/g/a/n/ac/ad等)、Bluetooth(登録商標)、GNSS(GPS、Galileo、GLONASS、BeiDou等)、FM、及びディジタル放送(DVB-H、ISDB-T等)が挙げられる。また、DUT50から出力される変調信号Smの変調方式としては、例えばBPSK、QPSK、QAM、OFDM等が挙げられる。
【0035】
可変ATT2は、内部に抵抗(後述する減衰素子31に相当)を有し、DUT50から出力された高周波の変調信号Smを信号解析部5において処理可能な信号レベルに減衰させるためのもので、インピーダンスを設計値に極力近くなるように調整する機構を有している。本実施形態において、可変ATT2は、メカニカルATTによって実現されるものである。可変ATT2の構成については、後で詳述する。
【0036】
周波数変換部3は、可変ATT2により減衰された変調信号Smを中間周波数信号に変換するものであり、局部発振器3aと、周波数混合器3bと、IFフィルタ3cと、IF増幅器3dと、を有する。
【0037】
局部発振器3aは、ローカル信号として、元の変調信号Smの周波数の値よりも変換先の周波数の値の分だけ高い周波数あるいは低い周波数の正弦波を発生させるものである。局部発振器3aから発振されるローカル信号の周波数は、所望の解析帯域に応じて制御部8により設定される。
【0038】
周波数混合器3bは、可変ATT2で減衰された周波数fSの変調信号Smと、局部発振器3aから出力された周波数fLのローカル信号とを混合し、2つの信号の和及び差の周波数成分を含む出力信号を生成するものである。
【0039】
IFフィルタ3cは、アナログのバンドパス・フィルタなどで構成され、周波数混合器3bからの出力信号をフィルタリングするようになっている。IFフィルタ3cは、周波数混合器3bによって変調信号Smとローカル信号とを混合させた中間周波数|fL-fS|又はfL+fSが所定の周波数範囲内にあるときに、当該中間周波数の中間周波数信号を出力する。
【0040】
IF増幅器3dは、IFフィルタ3cから出力される中間周波数信号を増幅する固定利得の増幅器である。
【0041】
ADC4は、IF増幅器3dにより増幅された中間周波数信号を所定のサンプリングレートでサンプリングして、ディジタルデータに変換する。ADC4は、このディジタルデータを信号解析部5に出力するようになっている。
【0042】
信号解析部5は、ADC4から出力されたディジタルデータに対して解析処理を実行するようになっている。
【0043】
操作部6は、ユーザによる操作入力を行うためのものであり、例えば表示部7の表示画面の表面に設けられたタッチパネルで構成される。あるいは、操作部6は、キーボード又はマウスのような入力デバイスを含んで構成されてもよい。
【0044】
表示部7は、例えばLCDやCRTなどの表示機器で構成され、制御部8から出力される制御信号に応じて、信号解析部5による解析結果などを表示するようになっている。
【0045】
制御部8は、例えばCPU、ROM、RAM、HDDなどを含むマイクロコンピュータ又はパーソナルコンピュータ等で構成され、信号解析装置1を構成する上記各部の動作を制御する。
【0046】
なお、制御部8は、例えば、ROMに記憶された所定のプログラムを実行することにより、経路切替制御部8aをソフトウェア的に実現することが可能である。経路切替制御部8aは、後述する経路切替機構(
図4参照)を構成する駆動部40a、40bを駆動制御することにより、可変ATT2における減衰経路またはスルー経路の切り替え制御を行う。
【0047】
次に、可変ATT2の構成について
図2~
図6を参照して説明する。
図2に示すように、可変ATT2は、上面両端部にコネクタ12、13が設けられ、該コネクタ12、13間に渡る部分を覆うように金属製のカバー筐体11が取り付けられたベース基板20と、カバー筐体11の反対側から当該ベース基板20の一面全体を覆う、例えば、金属板からなるアース板20aとの積層構造によって構成されている。
【0048】
ベース基板20の構成を
図3に示している。ベース基板20は、例えば、アルミニウム製の板状部材に、銅下地及び金メッキを施して形成されたものである。
図3に示すように、ベース基板20は矩形の平面形状を有し、一端にはコネクタ12に連結される信号入力端子21が設けられ、他端にはコネクタ13に連結される信号出力端子22が設けられている。ベース基板20は、信号入力端子21と信号出力端子22間に渡り、所定の深さを有する断面形状が例えば矩形の伝送路用溝23が形成されている。
【0049】
伝送路用溝23は、一本の溝24から2本の溝25、26に分岐し再び一本の溝24として合流する分岐合流型溝を一組として、複数組の分岐合流型溝が直列に連結された構造を有している。各組の分岐合流型溝は、分岐した2本の溝25、26のうちの一方の溝、例えば溝25が所定のレベルの信号減衰機能を有する減衰素子31が配置されて、そこを通る高周波信号を減衰させる減衰経路を形成している。また、分岐した2本の溝25、26のうちの他方の溝、例えば溝26は信号減衰器機能を有しない(減衰素子31を通さない)スルー経路を形成している。
【0050】
また、伝送路用溝23内には、信号入力端子21と信号出力端子22間の複数の所要の位置ごとにそれぞれ誘電体ブロック33が配置されている。誘電体ブロック33は、例えば、ポリフェニレンオキシド(PPO)を素材とする立体形状部材からなり、中心を、例えば、帯状導体箔が中心導体33bとして貫いた構造(
図4~
図6参照)を有する。中心導体33bとして誘電体ブロック33を貫いた帯状導体箔は、誘電体ブロック33の両端側から伝送路用溝23をその長さ方向に沿って延設されている。
【0051】
上述した内部構造を有する可変ATT2は、ベース基板20の一面、すなわち伝送路用溝23が形成される側の面全体を覆うようにアース板20aを積層状態で取り付ける(
図2(b)参照)ことにより、ベース基板20の伝送路用溝23に沿った高周波信号の同軸型伝送路が実現されるようになっている。同軸型伝送路は、例えば、ストリップライン(Stripline)構造により実現可能である。
【0052】
上述した同軸型伝送路を有する可変ATT2では、ベース基板20の一面にアース板20aが積層された積層状態において、コネクタ12から信号入力端子21に入力される高周波信号が、同軸型伝送路である伝送路用溝23内を、各組の分岐合流型溝ごとに減衰経路またはスルー経路のいずれかの経路を経て信号出力端子22まで伝搬し、コネクタ13から出力されるようになっている。
【0053】
次に、可変ATT2における減衰経路またはスルー経路への経路切替機構について
図4を参照して説明する。
図4は、
図3におけるA-A線による要部断面の構造を示す概念図である。ここで、
図4(a)は減衰経路及びスルー経路のいずれも選択されていない無選択時の切り替え態様を示し、
図4(b)は減衰経路への切り替え態様を示し、
図4(c)はスルー経路への切り替え態様を示している。
【0054】
図4(a)に示すように、伝送路用溝23を構成する溝24、25、26のうち、溝24内に配置される誘電体ブロック33(以下の説明における中央の誘電体ブロック)からは中心部を貫いて中心導体33bが導出されている。中央の誘電体ブロック33の紙面に向かって左側からは、溝25内に配置される減衰素子31(ここでは図示せず)から延びる中心導体33b(便宜的に、中心導体33b1という)が中央の誘電体ブロック33から導出される中心導体33bの真下まで延びている。さらには、中央の誘電体ブロック33の紙面に向かって右側からは、溝26内に配置される誘電体ブロック33(ここでは図示せず)を貫いて延びる中心導体33b(便宜的に、中心導体33b2という)が中央の誘電体ブロック33から導出される中心導体33bの真下まで延びている。中心導体33b1、33b2の下方には、例えば電磁石により上方または下方に選択的に移動させることが可能な駆動部40a、40bが設けられている。かかる構造を有する経路切替機構は、溝24、25、26が三叉的に交わる箇所(分岐合流型溝)ごとに設けられている。
【0055】
上述した構造を有する経路切替機構において、例えば、
図4(b)に示すように、駆動部40bにより中心導体33b2を中心導体33bから離れるように駆動した状態で、駆動部40aにより中心導体33b1を中心導体33bに当接するまで上方に押し上げるように駆動することにより、溝25内に配置される減衰素子31を通る減衰経路を選択することができる。これに対し、
図4(c)に示すように、駆動部40aにより中心導体33b1を中心導体33bから離れるように駆動した状態で、駆動部40bにより中心導体33b2を中心導体33bに当接するまで上方に押し上げるように駆動することにより、溝26内に配置される誘電体ブロック33を通るスルー経路を選択することができる。制御部8に設けられる経路切替制御部8aは、上述した経路切替機構における経路切り替えに係る駆動部40a、40bの駆動手段(例えば、電磁石)の駆動制御を実行するものである。
【0056】
次に、ベース基板20に対する誘電体ブロック33の取り付け態様について
図5、
図6を参照して説明する。
図5は、
図3におけるベース基板20上の領域B近傍の要部構造を示す斜視図であり、
図6は、
図5における平面Cによる要部断面構造を示す図である。
【0057】
図3に示すように、ベース基板20において、伝送路用溝23内の所要位置には複数の誘電体ブロック33が配置されている。
図5、
図6に示すように、誘電体ブロック33は、中心部を中心導体33bが貫いており、ベース基板20の上面から突出しない状態で取り付けられている。
【0058】
ベース基板20において、伝送路用溝23内に誘電体ブロック33を取り付けるに当たっては圧入の技術が採用されている。周知のように、圧入とは、穴側部材に対して、該穴側部材よりも硬度が小さい差込み側部材を加圧して挿入することで、穴側部材と差込み側部材の両者が反発し合うように圧力を生じ、強く接合される技術である。
【0059】
本実施形態において、ベース基板20は、上述したようにアルミニウムの板材をベースとする金属製部材であり、その一部を溝状に削って伝送路用溝23が形成されている。他方、誘電体ブロック33は、上述したように樹脂(例えば、PPO)製の部材であり、その硬度は金属よりも小さい。
【0060】
本実施形態においては、ベース基板20に形成される、圧入技術における穴側部材である伝送路用溝23と、同じく差込み側部材である誘電体ブロック33とは、前者の幅が後者の幅よりもわずかに小さいサイズとなっている。つまり、誘電体ブロック33は、伝送路用溝23の幅よりもわずかに大きな幅を有している。圧入に際しては、例えば、誘電体ブロック33を伝送路用溝23の上側の位置にセットし、治具を用いて、該誘電体ブロック33に下方側に向けて圧力をかけていく。これにより、誘電体ブロック33の底面が伝送路用溝23の底部まで達したときには、両者の反発力によって強く接合された圧入状態となる。圧入に用いる治具としては、例えば、万力を挙げることができる。
【0061】
図5、
図6に示す圧入状態(後述する第1固定方法により、伝送路用溝23の壁(側面)が全体的に狭まっている構造下で誘電体ブロック33を圧入した状態:
図8参照)において、誘電体ブロック33は、伝送路用溝23の両側面から加わる圧力により、圧入する前の状態に比べて幅が縮んだ状態に変形する。圧入状態における誘電体ブロック33の当該変形は、例えば、
図6に示すように、当該誘電体ブロック33の上面若しくは下面と中心導体33bとの距離の変化をもたらし、当該誘電体ブロック33を含む伝送路用溝23全体でのインピーダンスを変動させるように働くようになっている。
【0062】
ここで誘電体ブロック33と伝送路用溝23のサイズの差がどの程度であれば、圧入時にはインピーダンスの値がどの程度変動するかは事前の試験結果によって把握可能である。本実施形態において、伝送路用溝23は、例えば、5G NR規格の高周波信号の信号解析を実現すべく、信号入力端子21と信号出力端子22間のインピーダンスが、全ての誘電体ブロック33が伝送路用溝23内に圧入された状態で所定の目標値、例えば、50Ωとなるように設計されている。
【0063】
次に、本実施形態に係る信号解析装置1における可変ATT2の伝送路用溝23内に誘電体ブロック33を固定する方法について、
図7に示すフローチャートを参照して説明する。この固定方法に基づく誘電体ブロック33の固定作業は、可変ATT2の製造時に行われる。
【0064】
図7に示す誘電体ブロック33の固定方法においてはまず、溝25からなる減衰経路、及び溝26からなるスルー経路が形成された伝送路用溝23を有する金属製のベース基板20を用意する(ステップS1)。
【0065】
次に、ベース基板20の伝送路用溝23のそれぞれ所要の位置(
図3参照)に、該伝送路用溝23の幅よりも大きな幅を有する樹脂製の複数の誘電体ブロック33をそれぞれ配置する(ステップS2)。
【0066】
引き続き、配置された各誘電体ブロック33を、それぞれの配置位置で、治具を用いて、ベース基板20の上面から突出しない状態となるように伝送路用溝23内に圧入する作業を行う(ステップS3)。上記ステップS2における誘電体ブロック33の配置、及び上記ステップS3における圧入作業は、一つの誘電体ブロック33ごとに行っても、何個かをまとめて同時に行うようにしてもよい。
【0067】
ステップS3において、ベース基板20の伝送路用溝23内の全ての配置位置に各誘電体ブロック33が圧入された後、該ベース基板20の伝送路用溝23が形成された側の面全体をアース板20aにより覆って積層構造とし(ステップS4)、当該固定作業を終了する。
【0068】
ステップS3における圧入作業について、
図8~
図11を参照してさらに詳しく説明する。
【0069】
(第1固定方法)
誘電体ブロック33を固定するための第1の固定方法に基づく、誘電体ブロック33の圧入作業イメージを
図8に示している。
図8に示すように、第1の固定方法においては、ベース基板20に形成される伝送路用溝23は、該伝送路用溝23内に圧入前の誘電体ブロック33の幅W1よりもわずかに小さい幅W0を有している。
【0070】
ステップS3の圧入作業においては、伝送路用溝23の所要の位置で該伝送路用溝23上に誘電体ブロック33を載置し、この状態から誘電体ブロック33を下方に押し込むことにより、当該誘電体ブロック33の下部が伝送路用溝23の開口部上部にわずかに押し込まれた状態とする。
【0071】
次いで、この状態から伝送路用溝23が形成されているベース基板20の底部と誘電体ブロック33の上部間を、例えば、万力の作業機によって挟み、そこから作業機を当該作業機間の距離が短くなる方向に操作していく。この操作により、幅W1の誘電体ブロック33が伝送路用溝23の幅W0に見合う幅となるように変形しつつ伝送路用溝23内をその底面に達する位置まで下方に押し進められ、
図8に示すような圧入状態となる。
【0072】
全ての誘電体ブロック33は、上述した手順によって、伝送路用溝23の所要の位置にそれぞれ圧入することができる。ベース基板20に形成された伝送路用溝23は、前述したように、信号入力端子21と信号出力端子22間のインピーダンスが、全ての誘電体ブロック33が伝送路用溝23に圧入された状態で所定の値(例えば、50Ω)となるように設計されている。
【0073】
(第2の固定方法)
図9~
図11は、第2の固定方法を示している。第2の固定方法を実現するためには、ベース基板20として、伝送路用溝23の誘電体ブロック33を配置する所要の位置ごとに、例えば、
図9に示すように、誘電体ブロック33a(
図10参照)を受け入れ可能な形状を有する堀込部201が形成されたものが用意される。第2の固定方法に基づいて伝送路用溝23に圧入される誘電体ブロック33aは、例えば、
図10に示すように、長さ方向の中央部分の幅が両端部の幅に比べて幅が小さい直方体形状の部材で構成されている。
【0074】
図9において、伝送路用溝23の所要の位置ごと形成される堀込部201は、伝送路用溝23の両側壁において、当該伝送路用溝23の長さ方向中央部分の幅が当該長さ方向両端部の幅より小さい形状に掘り込まれたものである。ここで堀込部201における伝送路用溝23の長さ方向中央部分の幅、同、長さ方向両端部の幅は、それぞれ、誘電体ブロック33aにおける長さ方向の中央部分の幅、同、長さ方向両端部の幅にそれぞれ対応し、かつ、当該誘電体ブロック33aにおける長さ方向の中央部分の幅、同、長さ方向両端部の幅よりもわずかに小さい幅である。
【0075】
また、誘電体ブロック33aの平面形状は堀込部201の平面形状に沿った形状を有する。堀込部201は、例えば、
図11に示すように、伝送路用溝23の底面において誘電体ブロック33aの平面形状に対応する平面形状で所定の深さに掘り込まれた部分をさらに含んでいる。
【0076】
伝送路用溝23に上記形状の堀込部201が形成されたベース基板20と、上記形状を有する誘電体ブロック33a間では、例えば、上述した治具(万力)を用いた圧入作業(
図8参照)により、誘電体ブロック33aを、該誘電体ブロック33aが堀込部201に受け入れられた形態で伝送路用溝23内に圧入することができる。
【0077】
その圧入工程において、誘電体ブロック33aは、その底面が、例えば、
図11に示すように、堀込部201として伝送路用溝23の底面に掘り込まれた部分に達するまで下方に向けて押し込まれるようになっている。これにより、圧入工程の終了後、誘電体ブロック33は、幅方向の両側端と下端面が堀込部201によって受け入れた状態で、伝送路用溝23内に確実に圧入されることとなる。
【0078】
なお、
図8~
図11においては、誘電体ブロック33(または33a)の固定方法として、誘電体ブロック33aを伝送路用溝23内に圧入する場合について述べたが、これに限らず、誘電体ブロック33(または33a)を堀込部201に対して接着剤で接着するようにしてもよく、さらには上述した圧入と接着を併用して固定するようにしてもよい。
【0079】
次に、作用について説明する。
本実施形態に係る可変ATT2は、誘電体ブロック33をそれぞれの配置位置で伝送路用溝23内に圧入した構成を有するため、予め圧入による誘電体ブロック33の変形を考慮してインピーダンスを設計することにより、望ましいインピーダンスを実現できる。
【0080】
また、従来の可変ATTでは、発明が解決しようとする課題の欄でも述べたように、主に26.5GHz以下で用いるメカニカルATTとしての性能維持が限界であったが、本実施形態に係る可変ATT2では、例えば、5G NR規格の通信に用いられるミリ波(30GHz帯から300GHz帯の周波数帯)のようなより高周波帯での信号解析においてもメカニカルATTとしての性能を維持することができる。
【0081】
また、本実施形態に係る可変ATT2は、誘電体ブロック11を固定するために皿ねじを用いていないため、従来の可変ATTのように、皿ねじを用いる場合に必要であった、伝送路を削っていた皿ねじ用のねじ穴(
図12に符号77で示す)は勿論、伝送路溝の一部分を皿ねじのねじ頭を受け易い形(
図12における皿ねじ75の傾斜面76に対向する箇所の形状)にする加工も無くすことができ、インピーダンスを設計値にするための好適な矩形形状で伝送路用溝を形成することができる。また、エンボス加工等の特別な加工を施す必要がなく、製造コストの高騰、製造性低下を来すことなく設計値に相当するインピーダンスを容易に実現できる。さらには、メカニカルATTとしての性能向上により、より高周波帯の信号の信号解析にも対応可能となる。
【0082】
以上説明したように、本実施形態に係る可変ATT2は、信号入力端子21と信号出力端子22間に高周波信号の伝送路を構成するための伝送路用溝23が形成される金属製のベース基板20と、ベース基板20の伝送路用溝23が形成される側の面全体を覆うアース板20aと、を有し、伝送路用溝23は、減衰素子31が装着され、信号入力端子21から入力される高周波信号を該減衰素子31により減衰させる減衰経路(溝25)と、減衰素子31を通さないスルー経路(溝26)と、が複数組設けられ、組ごとに減衰経路またはスルー経路を選択し、選択された全ての減衰経路内の減衰素子31に応じた減衰レベルを設定可能な構成を前提としている。この可変ATT2は、ベース基板20の伝送路用溝23の所要の位置ごとに配置され、伝送路用溝23の幅よりもわずかに大きな幅を有し、中央部を中心導体33bが貫通する樹脂製の複数の誘電体ブロック33をさらに有し、誘電体ブロック33は、それぞれの配置位置で、ベース基板20の上面から突出しない状態で伝送路用溝23内に圧入されている構成である。
【0083】
この構成により、本実施形態に係る可変ATT2は、金属製のベース基板20に設けられた硬い伝送路用溝23内に、金属より柔らかい樹脂製の複数の誘電体ブロック33を圧入しているため、皿ねじを用いる場合に必要であった、伝送路を削っていた皿ねじ用のねじ穴を無くすことができ、インピーダンスを設計値にするための好適な矩形形状で伝送路用溝23を形成することができる。また、エンボス加工等の特別な加工を施す必要がなく、製造コストの高騰、製造性低下を来すことなく設計値に相当するインピーダンスを容易に実現でき、メカニカルATTとしての性能向上により、より高周波帯の信号の信号解析にも対応可能となる。
【0084】
また、本実施形態に係る可変ATT2において、伝送路用溝23は、誘電体ブロック33の配置位置に対応して形成され、誘電体ブロック33を受け入れ可能な形状を有する堀込部201を有し、誘電体ブロック33は、堀込部201に受け入れられた状態で伝送路用溝23内に圧入されている構成を有している。この構成により、本実施形態に係る可変ATT2は、誘電体ブロック33を堀込部201に埋め込んだ状態で圧入でき、圧入作業が容易になるとともに、作業性が向上する。
【0085】
また、本実施形態に係る可変ATT2において、誘電体ブロック33は、堀込部201に対して接着剤で接着されている構造である。この構成により、本実施形態に係る可変ATT2は、誘電体ブロック33を圧入と接着により堀込部201に埋め込むことで、誘電体ブロック33の固定をより確実に行うことが可能となる。
【0086】
また、本実施形態に係る可変ATT2において、伝送路用溝23は、ベース基板20の伝送路用溝23が形成される側の面全体がアース板20aで覆われる積層状態で同軸型伝送路を構成し、同軸型伝送路は、ストリップライン(Stripline)構造を有する構成である。この構成により、本実施形態に係る可変ATT2は、ストリップライン構造の同軸型伝送路をモデルとして、所望のインピーダンスを有する伝送路の設計が容易に行える。
【0087】
また、本実施形態に係る可変ATT2において、高周波信号は、5G NR規格の信号であり、伝送路用溝23は、信号入力端子21と信号出力端子22間のインピースが、全ての誘電体ブロック33が伝送路用溝23に圧入された状態で所定の値となるように設計されている構成である。この構成により、本実施形態に係る可変ATT2は、5G NR規格の高周波信号の信号解析にも対応可能となる。
【0088】
また、本実施形態に係る信号解析装置1は、減衰レベルを可変設定可能であり、DUT50から出力された変調された高周波信号を、設定された減衰レベルで減衰させる可変ATT2と、減衰された高周波信号を中間周波数信号に変換する周波数変換部3と、中間周波数信号をサンプリングして得られるディジタルデータに対して解析処理を行う信号解析部5と、を備え、可変ATT2は、信号入力端子21と信号出力端子22間に高周波信号の伝送路を構成するための伝送路用溝23が形成される金属製のベース基板20と、ベース基板20の伝送路用溝23が形成される側の面全体を覆うアース板20aと、を有し、伝送路用溝23は、減衰素子31が装着され、信号入力端子21から入力される高周波信号を該減衰素子31により減衰させる溝25である減衰経路と、減衰素子31が装着されない(減衰素子31を通さない)溝26であるスルー経路と、が複数組設けられ、組ごとに減衰経路またはスルー経路を選択し、選択された全ての減衰経路内の減衰素子31に応じた減衰レベルを設定可能であって、ベース基板20の伝送路用溝23の所要の位置ごとに配置され、伝送路用溝23の幅よりもわずかに大きな幅を有し、中央部を中心導体33bが貫通する樹脂製の複数の誘電体ブロック33をさらに有し、誘電体ブロック33は、それぞれの配置位置で、ベース基板20の上面から突出しない状態で伝送路用溝23内に圧入されている構成である。
【0089】
この構成により、本実施形態に係る信号解析装置1は、可変ATT2が、金属製のベース基板20に設けられた硬い伝送路用溝23内に、それより柔らかい樹脂製の複数の誘電体ブロック33を圧入しているため、皿ねじを用いる場合に必要であった、伝送路を削っていた皿ねじ用のねじ穴を無くすことができ、インピーダンスを設計値にするための好適な矩形形状で伝送路用溝23を形成することができる。また、エンボス加工等の特別な加工を施す必要がなく、製造コストの高騰、製造性低下を来すことなく設計値に相当するインピーダンスを容易に実現でき、メカニカルATTとしての性能向上により、より高周波帯の信号の信号解析にも対応可能となる。したがって、かかる可変ATT2を採用する信号解析装置1においても、設計時、伝送路用溝23の形状を設計されたインピーダンスを実現するために好適な矩形形状とすることができ、コスト増、製造性低下を招来することなく、より高周波帯の信号の信号解析に対応可能な構成を実現できる。
【0090】
また、本実施形態に係る誘電体ブロックの固定方法は、本実施形態に係る信号解析装置1における可変ATT2の伝送路用溝23内に誘電体ブロック33を固定する誘電体ブロックの固定方法であって、溝25である減衰経路、及び溝26であるスルー経路が形成された伝送路用溝23を有する金属製のベース基板20を用意するステップ(S1)と、伝送路用溝23の所要の位置に、伝送路用溝23の幅よりもわずかに大きな幅を有する樹脂製の複数の誘電体ブロック33を配置するステップ(S2)と、誘電体ブロック33を、それぞれの配置位置で、ベース基板20の上面から突出しない状態で伝送路用溝23内に圧入するステップ(S3)と、を含み、圧入された状態で伝送路用溝23の両側面から加わる圧力により誘電体ブロック23を固定する構成である。
【0091】
この構成により、本実施形態に係る誘電体ブロックの固定方法は、ベース基板20に形成された伝送路用溝23内に、金属より柔らかい樹脂製の複数の誘電体ブロック33を圧入した可変ATT2の構造を実現でき、皿ねじを用いる場合に必要であった、伝送路を削っていた皿ねじ用のねじ穴を無くすことができ、インピーダンスを設計値にするための好適な矩形形状で伝送路用溝23を形成することができる。また、エンボス加工等の特別な加工を施す必要がなく、製造コストの高騰、製造性低下を来すことなく設計値に相当するインピーダンスを容易に実現でき、メカニカルATTとしての性能向上により、より高周波帯の信号の信号解析にも対応可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0092】
以上のように、本発明に係る可変減衰器、信号解析装置、及び誘電体ブロックの固定方法は、伝送路を設計値に相当するインピーダンスを実現するために好適な矩形形状とすることができ、コスト増、製造性低下を招来することなく、より高周波帯の信号の信号解析に対応可能であるという効果を奏し、シグナルアナライザやスペクトラムアナライザなどの信号解析装置、これに用いる可変減衰器、並びに誘電体ブロックの固定方法全般に有用である。
【符号の説明】
【0093】
1 信号解析装置
2 可変ATT(可変減衰器)
3 周波数変換部
5 信号解析部
20 ベース基板
20a アース板
21 信号入力端子
22 信号出力端子
23 伝送路用溝
25 溝(減衰経路)
26 溝(スルー経路)
31 減衰素子
33、33a 誘電体ブロック
33b 中心導体
50 DUT(被試験対象)
201 堀込部