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特許7419291繊維強化成形体の製造方法、樹脂シート、及び樹脂シートの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-12
(45)【発行日】2024-01-22
(54)【発明の名称】繊維強化成形体の製造方法、樹脂シート、及び樹脂シートの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 43/34 20060101AFI20240115BHJP
   B29C 43/18 20060101ALI20240115BHJP
   B29C 70/16 20060101ALI20240115BHJP
   B29C 70/42 20060101ALI20240115BHJP
   C08J 5/24 20060101ALI20240115BHJP
   C08L 61/06 20060101ALI20240115BHJP
   C08L 63/00 20060101ALI20240115BHJP
   C08L 79/04 20060101ALI20240115BHJP
   B29K 101/10 20060101ALN20240115BHJP
   B29K 105/08 20060101ALN20240115BHJP
【FI】
B29C43/34
B29C43/18
B29C70/16
B29C70/42
C08J5/24 CEZ
C08J5/24 CFC
C08L61/06
C08L63/00 A
C08L79/04
B29K101:10
B29K105:08
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021076007
(22)【出願日】2021-04-28
(65)【公開番号】P2022170112
(43)【公開日】2022-11-10
【審査請求日】2022-05-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000119232
【氏名又は名称】株式会社イノアックコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110000497
【氏名又は名称】弁理士法人グランダム特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田辺 尚幸
(72)【発明者】
【氏名】原田 直弥
(72)【発明者】
【氏名】安井 達彦
【審査官】北澤 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-093175(JP,A)
【文献】特開2015-217662(JP,A)
【文献】特表2010-540293(JP,A)
【文献】国際公開第2019/044801(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/069639(WO,A1)
【文献】特開2006-071959(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第109897375(CN,A)
【文献】特開2020-012065(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104130548(CN,A)
【文献】特開2012-077365(JP,A)
【文献】国際公開第2018/124215(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/182038(WO,A1)
【文献】特開2019-119212(JP,A)
【文献】特開2019-119213(JP,A)
【文献】特開2018-024215(JP,A)
【文献】特開2017-160559(JP,A)
【文献】国際公開第2012/073775(WO,A1)
【文献】特開2010-023240(JP,A)
【文献】特開昭54-078772(JP,A)
【文献】特開昭53-075285(JP,A)
【文献】特開昭53-075284(JP,A)
【文献】特開2013-230579(JP,A)
【文献】特開2009-280669(JP,A)
【文献】特開2018-140528(JP,A)
【文献】特開昭50-030966(JP,A)
【文献】特開2005-281487(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 43/00-43/58
B29C 70/00-70/88
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維基材が、熱硬化性樹脂を含有する樹脂シートの前記熱硬化性樹脂によって一体化された、繊維強化成形体の製造方法であって、
前記繊維基材と前記樹脂シートとを重ねた状態で、金型によって加熱圧縮し、前記熱硬化性樹脂を前記繊維基材に含浸させて硬化させる、繊維強化成形体の製造方法であり、
前記熱硬化性樹脂は、硬化反応開始温度Tb℃の粘度が59Pa・s~2,000Pa・sであり、硬化反応開始温度Tb℃~190℃の範囲における最高粘度が8,768Pa・s以上であり、
以下の(1)~(4)のいずれか一つを満足する繊維強化成形体の製造方法。
(1)曲げ弾性率(JIS K7074 A法)が66.1GPa以上である
(2)前記熱硬化性樹脂は、シアネート樹脂を含む
(3)前記繊維基材は、アラミド繊維又はバサルト繊維を含む
(4)前記熱硬化性樹脂は、溶融開始温度をTa℃、硬化反応開始温度をTb℃とすると、
(Tb-Ta)の値が、30≦(Tb-Ta)≦100 を満たす
【請求項2】
繊維基材が、熱硬化性樹脂を含有する樹脂シートの前記熱硬化性樹脂によって一体化された、繊維強化成形体の製造方法であって、
前記繊維基材と前記樹脂シートとを重ねた状態で、金型によって加熱圧縮し、前記熱硬化性樹脂を前記繊維基材に含浸させて硬化させる、繊維強化成形体の製造方法であり、
前記熱硬化性樹脂は、硬化反応開始温度Tb℃の粘度が2,000Pa・s以下であり、硬化反応開始温度Tb℃~190℃の範囲における最高粘度が1,000Pa・s以上であり、
以下の(1)を満足する繊維強化成形体の製造方法。
(1)曲げ弾性率(JIS K7074 A法)が66.1GPa以上である
【請求項3】
ガラス繊維、アラミド繊維、バサルト繊維、又は炭素繊維より選択され、熱硬化性樹脂が含浸されていない繊維基材が、前記熱硬化性樹脂を含有する樹脂シートの前記熱硬化性樹脂によって一体化された、繊維強化成形体の製造方法であって、
前記樹脂シートはシート基材を備え、
前記熱硬化性樹脂は、硬化反応開始温度Tb℃の粘度が2,000Pa・s以下であり、硬化反応開始温度Tb℃~190℃の範囲における最高粘度が1,000Pa・s以上であり、
以下の(1)~(2)のいずれか一つを満足し、
(1)前記シート基材の材質はレーヨン又はポリエステルである
(2)前記シート基材は不織布である
前記繊維基材と前記樹脂シートとを重ねた状態で、金型によって加熱圧縮し、前記熱硬化性樹脂を前記繊維基材に含浸させて硬化させる、繊維強化成形体の製造方法。
【請求項4】
ガラス繊維、アラミド繊維、バサルト繊維、又は炭素繊維より選択され、熱硬化性樹脂が含浸されていない繊維基材が、前記熱硬化性樹脂を含有する樹脂シートの前記熱硬化性樹脂によって一体化された、繊維強化成形体の製造方法であって、
前記樹脂シートはシート基材を備え、
前記熱硬化性樹脂は、硬化反応開始温度Tb℃の粘度が59Pa・s~2,000Pa・sであり、硬化反応開始温度Tb℃~190℃の範囲における最高粘度が8,768Pa・s以上であり、
以下の(1)~(2)のいずれか一つを満足し、
(1)前記シート基材の材質はレーヨン、ポリエステル又は炭素繊維である
(2)前記シート基材は不織布又は繊維シートである
前記繊維基材と前記樹脂シートとを重ねた状態で、金型によって加熱圧縮し、前記熱硬化性樹脂を前記繊維基材に含浸させて硬化させる、繊維強化成形体の製造方法。
【請求項5】
繊維強化成形体の製造用の樹脂シートであって、
熱硬化性樹脂を含有し、
以下の(1)を満足する樹脂シート。
)前記熱硬化性樹脂は、硬化反応開始温度Tb℃の粘度が59Pa・s~2,000Pa・sであり、硬化反応開始温度Tb℃~190℃の範囲における最高粘度が8,768Pa・s以上であり、
前記熱硬化性樹脂は、溶融開始温度をTa℃、硬化反応開始温度をTb℃とすると、
(Tb-Ta)の値が、30≦(Tb-Ta)≦100 を満たす
【請求項6】
繊維強化成形体の製造用の、熱硬化性樹脂を含有する樹脂シートの製造方法であって、
材質がレーヨン、又はポリエステルであるシート基材に、粉体の前記熱硬化性樹脂を溶融して担持させる工程、を含む製造方法。
【請求項7】
繊維強化成形体の製造用の、熱硬化性樹脂を含有する樹脂シートの製造方法であって、
材質がレーヨン、ポリエステル又は炭素繊維であるシート基材に、粉体の前記熱硬化性樹脂を溶融して担持させる工程、を含み、
前記熱硬化性樹脂は、フェノール樹脂とエポキシ樹脂の混合樹脂、フェノール樹脂とシアネート樹脂の混合樹脂、エポキシ樹脂とシアネート樹脂の混合樹脂、及び、フェノール樹脂とエポキシ樹脂とシアネート樹脂の混合樹脂からなる群より選ばれた樹脂である製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、繊維強化成形体、繊維強化成形体の製造方法、及び樹脂シートに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、軽量化や機械強度の向上を目的として、炭素繊維やガラス繊維などの強化繊維基材と樹脂の複合材料(FRP)が、様々な分野・用途に広く利用されている。特に、自動車や鉄道、航空機などの輸送機器においては、低燃費化の要求が高く、機体の軽量化による効果が高いため、これらの用途にFRPが金属代替材料として期待されている。
FRPの成形方法としては、強化繊維基材に樹脂を含浸させ、プリプレグ化した後に、プリプレグをオートクレーブや熱プレスなどを用いて成形する方法がある。強化繊維に含浸する樹脂は、液状が一般的であるが、樹脂のポットライフの問題や、溶剤を使用する場合は、作業環境や大気汚染の問題がある。これらを解決するための方法として、粉体樹脂を含浸したプリプレグが提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2006-232915号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の特許文献において、樹脂含浸体(プリプレグ)を作製した後、最終成形体を成形している。
プリプレグを用いる成形では、プリプレグ化する工程において、大掛かりな設備が必要となること、プリプレグ化の工程の管理が煩雑であることなどから、製造コストが高くなる問題がある。
本開示は、上記実情に鑑みてなされたものであり、安価に製造可能な繊維強化成形体を提供することを目的とする。
本開示は、以下の形態として実現することが可能である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
繊維基材が、熱硬化性樹脂を含有する樹脂シートの前記熱硬化性樹脂によって一体化された、繊維強化成形体であって、
前記熱硬化性樹脂は、硬化反応開始温度Tb℃の粘度が2,000Pa・s以下であり、硬化反応開始温度Tb℃~190℃の範囲における最高粘度が1,000Pa・s以上である、繊維強化成形体。
【発明の効果】
【0006】
本開示の繊維強化成形体は、安価に製造可能である。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、本開示の一実施形態に係る繊維強化成形体の断面図である。
図2図2は、本開示の繊維強化成形体の製造方法の一実施形態における積層及び加熱圧縮を示す断面図である。
図3図3は、本開示の繊維強化成形体の製造方法の一実施形態における積層及び加熱圧縮を示す断面図である。
図4図4は、本開示の繊維強化成形体の製造方法の一実施形態における積層及び加熱圧縮を示す断面図である。
図5】実施例1,6―10と比較例1,2で使用した混合樹脂の粘度測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
ここで、本開示の望ましい例を示す。
・前記樹脂シートは、シート基材を備える、繊維強化成形体。
・前記熱硬化性樹脂は、溶融開始温度をTa℃、硬化反応開始温度をTb℃とすると、
(Tb-Ta)の値が、
30≦(Tb-Ta)≦100
を満たす、繊維強化成形体。
・前記熱硬化性樹脂は、フェノール樹脂、フェノール樹脂とエポキシ樹脂の混合樹脂、フェノール樹脂とシアネート樹脂の混合樹脂、エポキシ樹脂とシアネート樹脂の混合樹脂、及び、フェノール樹脂とエポキシ樹脂とシアネート樹脂の混合樹脂からなる群より選ばれた樹脂である、繊維強化成形体。
・繊維強化成形体の製造方法であって、
前記繊維基材と前記樹脂シートとを重ねた状態で、金型によって加熱圧縮し、前記熱硬化性樹脂を前記繊維基材に含浸させて硬化させる、繊維強化成形体の製造方法。
・加熱圧縮時の温度Tc℃は、
[Tb+(Tb-Ta)/3]-15≦Tc≦[Tb+(Tb-Ta)/3]+20である、繊維強化成形体の製造方法。
繊維強化成形体の製造用の樹脂シートであって、
熱硬化性樹脂を含有する、樹脂シート。
・繊維基材が、熱硬化性樹脂を含有する樹脂シートの前記熱硬化性樹脂によって一体化された、繊維強化成形体であって、
前記樹脂シートは、シート基材を備える、繊維強化成形体。
【0009】
以下、本開示を詳しく説明する。なお、本明細書において、数値範囲について「~」を用いた記載では、特に断りがない限り、下限値及び上限値を含むものとする。例えば、「10~20」という記載では、下限値である「10」、上限値である「20」のいずれも含むものとする。すなわち、「10~20」は、「10以上20以下」と同じ意味である。
【0010】
1.繊維強化成形体10
繊維強化成形体10は、繊維基材11が、熱硬化性樹脂を含有する樹脂シート15の熱硬化性樹脂によって一体化されている。熱硬化性樹脂は、硬化反応開始温度Tb℃の粘度が2,000Pa・s以下であり、硬化反応開始温度Tb℃~190℃の範囲における最高粘度が1,000Pa・s以上である。
【0011】
(1)繊維基材11
繊維基材11は、単層でも複数層でもよく、繊維強化成形体10の用途等に応じて層の数が決定される。図1,2の形態では、繊維基材11は4層からなるものが例示されている。繊維基材11としては、ガラス繊維、アラミド繊維、バサルト繊維、炭素繊維などによる織物や不織布などがあり、特に限定されるものではないが、炭素繊維織物が軽量及び高剛性に優れるために好ましいものである。炭素繊維織物としては、繊維が一方向のみではない織り方のものが好ましく、例えば、縦糸と横糸で構成される平織、綾織、朱子織及び3方向の糸で構成される三軸織などが好適である。また、前記炭素繊維織物は、樹脂シート15に含有された熱硬化性樹脂の含浸及び繊維強化成形体10の剛性の点から、繊維重さが50~600g/mのものが好ましい。
【0012】
(2)熱硬化性樹脂を含有する樹脂シート15
熱硬化性樹脂は、繊維強化成形体10の製造時に、常温(5℃~35℃)で固形であるものが用いられる。固形の形状は、特に限定されるものではない。固形の形状は、球状、針状、フレーク状等の粉体等が例示される。
【0013】
樹脂シート15は、シート基材を備えていることが好ましい。樹脂シート15がシート基材を備えることで、樹脂シート15の強度が強くなるから、樹脂シート15のハンドリング性が向上する。なお、樹脂シート15がシート基材を備えていない場合であっても、粉末の樹脂を用いる場合に比べて、ハンドリング性は良好である。
シート基材の構造は、特に限定されない。シート基材は、溶融樹脂が浸透可能な構造を有することが好ましい。溶融樹脂が浸透可能な構造は、特に限定されないが、連通孔を有する構造等が例示される。また、シート基材は熱硬化性樹脂の反応開始温度(Tb)で溶融しないことが好ましい。
シート基材は、発泡体、不織布、及び繊維シートからなる群より選択される1種以上であることが好ましい。シート基材がこれらの構造を有すると、シート基材内の空間に熱硬化性樹脂を十分に保持できる。
シート基材の材質は、特に限定されない。シート基材の材質は、ウレタン、レーヨン、ポリエステル、及び炭素からなる群より選択される1種以上であることが好ましい。
シート基材は、具体的には、ウレタン発泡体、レーヨンとポリエステル(PET)の不織布、PET不織布、及び炭素繊維シートからなる群より選択される1種以上であることが好ましい。
樹脂シート基材の厚みは、特に限定されない。樹脂シート基材の厚みは、接着に必要な熱硬化性樹脂を十分に保持する観点から、0.05mm以上1.0mm以下が好ましく、0.08mm以上0.7mm以下がより好ましい。
樹脂シート基材の目付は、特に限定されない。樹脂シート基材の目付は、20g/m以上50g/m以下が好ましく、30g/m以上45g/m以下がより好ましい。
【0014】
樹脂シート15は、繊維基材11と接するように配置される。繊維基材11が樹脂シート15と共に加熱圧縮されると、樹脂シート15に含有された熱硬化性樹脂が溶融して繊維基材11に含浸して硬化する。樹脂シート15が繊維基材11と接して配置される態様としては、繊維基材11が単層の場合には、樹脂シート15が単層の繊維基材11の上面又は下面の少なくとも一方の面に配置される。また、繊維基材11が複数層の場合には、少なくとも一つの面、すなわち複数層における最上面、最下面、積層面(繊維基材間)のうちの少なくとも一つの面に樹脂シート15が配置される態様が挙げられる。
【0015】
熱硬化性樹脂は、溶融開始温度Ta℃、硬化反応開始温度Tb℃とすると、30≦(Tb-Ta)≦100を満たすことが好ましい。(Tb-Ta)をこの範囲とすることにより、溶融した熱硬化性樹脂を繊維基材11に十分に含浸させることができ、均一な物性を有する繊維強化成形体10を得ることができる。
【0016】
熱硬化性樹脂は、溶融開始温度Ta℃以上の温度において、最低粘度が、2,000Pa・s以下である。この最低粘度は、1,500Pa・s以下であることが好ましい。最低粘度をこの範囲とすることにより、溶融した熱硬化性樹脂を繊維基材11に十分に含浸させることができ、均一な物性を有する繊維強化成形体10を得ることができる。最低粘度の下限値は特に限定されない。最低粘度の下限値は、0.005Pa・sが好ましい。
なお、溶融開始温度Ta℃以上の温度における最低粘度は、硬化反応開始温度Tb℃の粘度と同じである。
【0017】
また、熱硬化性樹脂は、硬化反応開始温度Tb℃~190℃の温度範囲において、最高粘度が、1,000Pa・s以上であることが好ましい。最高粘度をこの範囲とすることにより、溶融した熱硬化性樹脂を繊維基材11内に含浸させて留めることができ、繊維強化成形体10の賦形性がよく、短時間で十分な強度が得られる。最高粘度の上限値は、特に限定されないが、上限値は300,000Pa・sが好ましい。
熱硬化性樹脂は、溶融開始温度Ta℃が60~100℃にあることが好ましい。熱硬化性樹脂の溶融開始温度Ta℃をこの範囲とすることにより、繊維基材11間の少なくとも一つに樹脂シート15が配置された積層体を、加熱圧縮して熱硬化性樹脂を溶融硬化させる際に、温調を容易に行うことができる。
【0018】
前記の溶融開始温度Ta℃、硬化反応開始温度Tb℃、(Tb-Ta)の範囲、最低粘度、最高粘度を満たすことができる熱硬化性樹脂は、フェノール樹脂、フェノール樹脂とエポキシ樹脂の混合樹脂、フェノール樹脂とシアネート樹脂の混合樹脂、エポキシ樹脂とシアネート樹脂の混合樹脂、及び、フェノール樹脂とエポキシ樹脂とシアネート樹脂の混合樹脂からなる群より選ばれた樹脂であることが好ましい。フェノール樹脂は難燃性に優れるため、繊維強化成形体10に優れた強度と難燃性を付与することができる。
フェノール樹脂として、例えばノボラック型粉末フェノールレジンが好ましく用いられる。フェノール樹脂の物性は特に限定されない。例えば、以下の物性のフェノール樹脂が好適に採用される。
・融点:80℃以上100℃以下

エポキシ樹脂として、例えばビスフェノールA型固形樹脂が好ましく用いられる。エポキシ樹脂の物性は特に限定されない。例えば、以下の物性のエポキシ樹脂が好適に採用される。
・エポキシ当量:400g/eq以上1000g/eq以下
・軟化点:60℃以上100℃以下
・粘度:0.10Pa・s以上0.30Pa・s以下(25℃)

シアネート樹脂は、シアナト基をもつ熱硬化性樹脂であり、シアネートモノマーとも呼ばれている。硬化前のシアネート樹脂の物性は特に限定されない。例えば、以下の物性のシアネート樹脂が好適に採用される。
・融点:75℃以上85℃以下
・粘度:0.010Pa・s以上0.015Pa・s以下(80℃)

なお、熱硬化性樹脂には、熱硬化性樹脂の粘度、反応性に影響を与えない範囲において、顔料、抗菌剤、紫外線吸収剤などの各種粉体添加剤を添加してもよい。
【0019】
樹脂シート15における熱硬化性樹脂の目付は、特に限定されない。熱硬化性樹脂の目付は、繊維強化成形体10の強度を確保する観点及び外観を損なわないようにする観点から、200g/m以上800g/m以下が好ましく、400g/m以上600g/m以下がより好ましい。
【0020】
(3)繊維強化成形体10の物性
繊維強化成形体10の曲げ弾性率(JIS K7074 A法)は、特に限定されない。繊維強化成形体10の曲げ弾性率は、高剛性の観点から、40GPa以上が好ましく、50GPa以上がより好ましい。
繊維強化成形体10の曲げ強度(JIS K7074 A法)は、特に限定されない。繊維強化成形体10の曲げ強度は、高強度の観点から、400MPa以上が好ましく、800MPa以上がより好ましい。
繊維強化成形体10の比重は、特に限定されない。繊維強化成形体10の比重は、軽量化及び外観を損なわないようにする観点から、1.10以上1.80以下が好ましく、1.30以上1.69以下がより好ましい。
【0021】
2.繊維強化成形体10の製造方法
本開示の繊維強化成形体10の製造方法は、繊維基材11と樹脂シート15とを重ねた状態で、金型によって加熱圧縮し、熱硬化性樹脂を繊維基材11に含浸させて硬化させることにより行う。繊維基材11、樹脂シート15、及び熱硬化性樹脂は、「1.繊維強化成形体10」における記載をそのまま引用する。
【0022】
樹脂シート15を配置する態様は、前記の通り、単層の場合は、繊維基材11の上面又は下面の少なくとも一方の面に配置し、また、繊維基材11が複数層の場合には、複数層における最上面、最下面、積層面(繊維基材11間)のうちの少なくとも一つの面に配置する。
なお、樹脂シート15を、複数層の繊維基材11における積層面(繊維基材11間)に配置する場合は、一つの積層面(一つの繊維基材11間)に限られず、全ての積層面(全ての繊維基材間)、あるいは所定数おきの積層面(所定数おきの繊維基材11間)に配置してもよく、配置する面の位置及び配置する面の数は繊維基材11の積層数等に応じて適宜決定される。
また、単層の繊維基材11の上面又は下面、あるいは複数層の繊維基材11の最上面又は最下面に接して樹脂シート15を配置する場合、作業の便宜のために、樹脂シート15と金型の型面との間に離型シートを配置してもよい。
【0023】
図1に示した繊維基材11が4層からなる繊維強化成形体10の製造方法の一実施形態について、図2を用いて説明する。なお、以下の製造方法の説明では、複数の繊維基材11について、その上下位置関係を把握し易くするために「11A」等のように「11」と「アルファベット」を組み合わせた符号で複数の繊維基材11を示す。同様に、複数の樹脂シート15について、その上下位置関係を把握し易くするために「15A」等のように「15」と「アルファベット」を組み合わせた符号で複数の樹脂シート15を示す。
【0024】
図2に示す実施形態では、4枚の繊維基材11A~11Dを積層する際に、下側の2枚の繊維基材11A、11Bと、上側の2枚の繊維基材11C、11Dとの間の繊維基材11間(繊維基材11Bと繊維基材11Cの間)に、樹脂シート15A,15Bを配置する。
樹脂シート15A,15Bに含有される熱硬化性樹脂の量は、繊維強化成形体10のVF値(%)が40~70%となるように調整するのが好ましい。VF値(%)は、(繊維基材の全重量/繊維の密度)/(繊維強化成形体の体積)×100で算出される値である。
【0025】
樹脂シート15A,15Bを、繊維基材11Bと繊維基材11Cとの繊維基材11間に配置して積層した繊維基材11A~11Dの積層体を、加熱した金型30の下型31と上型32に挟んで、加熱圧縮する。金型30は、電熱ヒーター等の加熱手段によって熱硬化性樹脂が溶融、硬化可能な温度Tc℃に加熱されている。
加熱圧縮時の温度Tc℃(金型30の温度Tc℃)は、熱硬化性樹脂の溶融開始温度Ta℃、硬化反応開始温度Tb℃との関係において、
[Tb+(Tb-Ta)/3]-15≦Tc≦[Tb+(Tb-Ta)/3]+20
であることが好ましい。例えば、Ta℃=70℃、Tb℃=130℃の場合、Tc℃は135℃~170℃となる。
【0026】
金型30による加熱圧縮時における繊維基材11A~11Dの加圧(圧縮)は、繊維基材11間の樹脂シート15A,15Bに含まれる熱硬化性樹脂が溶融した後、繊維基材11A~11Dに良好に含浸できるようにするため、2MPa~20MPaが好ましい。
また、繊維基材11A~11Dの圧縮率(%)は、(下型31の型面と上型32の型面間の間隔)/(繊維基材の全層の厚みの合計)×100で算出される値であり、60~100%が好ましい。
【0027】
金型30による積層体の加熱により、繊維基材11間(繊維基材11Bと繊維基材11Cの間)の樹脂シート15A,15Bに含まれる熱硬化性樹脂が溶融し、また、溶融した熱硬化性樹脂が積層体の圧縮により、下側の繊維基材11B,11A、及び上側の繊維基材11C,11Dに含浸する。そして、繊維基材11A~11Dに含浸した熱硬化性樹脂が硬化することにより、繊維基材11A~11Dが圧縮された状態で一体化し、下型31及び上型32の型面形状に賦形された図1の繊維強化成形体10が得られる。
【0028】
図3には、4枚の繊維基材11A~11Dを積層し、繊維基材間の全てに樹脂シート15A~15Cを配置して金型30で加熱圧縮する実施形態を示す。
熱硬化性樹脂の量(全量)、金型30の加熱温度、積層体の加圧等は、図2の実施形態で説明した通りである。
【0029】
図4に示す実施形態では、10枚の繊維基材11A~11Jを積層する際に、下側の5枚の繊維基材11A~11Eと、上側の5枚の繊維基材11F~11Jとの間の繊維基材11間(繊維基材11Eと繊維基材11Fの間)に、5枚の樹脂シート15A~15Eを配置する。
【0030】
3.樹脂シート15
繊維強化成形体10の製造用の樹脂シート15は、熱硬化性樹脂を含有する。すなわち、樹脂シート15は、熱硬化性樹脂を未硬化の状態で担持している。樹脂シート15、及び熱硬化性樹脂は、「1.繊維強化成形体10」における記載をそのまま引用する。
【実施例
【0031】
表1,2に示す熱硬化性樹脂を用いて実施例1~10及び比較例1,2の繊維強化成形体を以下のようにして作製した。表4には、繊維強化成形体の作製に用いた各種のシート基材の特性をまとめて記載した。なお、熱硬化性樹脂の粘度は、株式会社ユービーエム社製のレオメーター:Rheosol-G3000を用い、次の条件で測定した。
1)試料の0.4gをペレット(直径φ18mm、厚さ0.4mm程度)に成形し、成形したペレットを直径φ18mmのパラレルプレートに挟む。
2)昇温速度5℃/min、周波数1Hz、回転角(ひずみ)0.1deg、等速昇温下、40℃~200℃間にわたって、2℃間隔で動的粘度を測定した。
【0032】
【表1】
【0033】
【表2】
【0034】
【表3】
【0035】
【表4】
【0036】
1.繊維強化成形体の作製
(1)実施例1
固形熱硬化性樹脂として、シアネート樹脂(三菱ガス化学株式会社製、品名:CYTESTER TA、平均粒径:100μm)とエポキシ樹脂(DIC株式会社製、品名:AM-020-P、平均粒径:100μm)とフェノール樹脂(住友ベークライト株式会社製、品名;PR-50235D、平均粒径:90μm)を3:1:1の重量比にて均一に混合した混合樹脂を用いた。
実施例1の混合樹脂の特性は以下の通りであり、表1,2に記載されている。実施例1の混合樹脂の粘度測定結果を、図5グラフに示す。

・溶融開始温度Ta:69℃
・反応開始温度Tb:135℃
・(Tb-Ta):66℃
・最低粘度(溶融開始温度Ta℃以上の温度における最低粘度):59Pa・s
・最高粘度(硬化反応開始温度Tb℃~190℃の温度範囲における最高粘度)
:8,768Pa・s
・(Tb-Ta)/3の値:22℃
・Tb+(Tb-Ta)/3の値:157℃

樹脂シートのシート基材として、表4に示すPET不織布(日本バイリーン株式会社製、品名:JH-1004N1、目付量:45g/m、厚み0.08mm)を200mm×250mmに裁断したものを用いた。
シート基材1枚の上に、上記の固形熱硬化性樹脂20gを配置し、成形前シート基材を作製した。
次いで、100℃に加熱された金型の下型の成形面に、成形前シート基材を1枚配置し、その後に金型を閉じて1分間、圧力1MPaで加熱圧縮し、シート基材に固形熱硬化性樹脂を溶融して担持させた。その後、冷却することで、樹脂シートを作製した。
このようにして作製した樹脂シートを2枚用意した。なお、下型と上型間には厚み1mmのSUS製スペーサ、成形前シート基材の上下には厚み0.05mmのPETフィルムを介在させて樹脂シートの厚みを調整した。
強化用の繊維基材として、炭素繊維織物(帝人株式会社製、品名:W-3101、目付量:200g/m、厚み0.22mm)を200mm×250mmに裁断したものを4枚用意した。裁断後の炭素繊維織物の1枚当りの重量は12gであった。まず、炭素繊維織物2枚を配置し、その上に樹脂シート2枚、更に2枚の炭素繊維織物を順に配置し、成形前積層体を作製した。図2において、積層の状態を模式的に示す。実施例1では、図2に示すように、中央の繊維基材(炭素繊維織物)の間に樹脂シートを2枚配置して成形前積層体としている。
次いで、160℃に加熱された金型の下型の成形面に、成形前積層体を配置し、その後に金型を閉じて10分間、圧力10MPaで加熱圧縮して、固形熱硬化性樹脂を溶融硬化させた。固形熱硬化性樹脂が溶融し、圧力が加わることで、各層の繊維基材に樹脂が含浸し、その後に固形熱硬化性樹脂の熱硬化が完了することで、樹脂シートの熱硬化性樹脂によって繊維基材が一体化された繊維強化成形体が作製された。なお、プレス成形用の下型と上型間には厚み1mmのSUS製スペーサを介在させて、下型と上型間の間隔を調整することで、繊維強化成形体の厚みを調整した。
【0037】
(2)実施例2
固形熱硬化性樹脂として、シアネート樹脂(三菱ガス化学株式会社製、品名:CYTESTER TA、平均粒径:100μm)とエポキシ樹脂(DIC株式会社製、品名:AM-030-P、平均粒径:100μm)とフェノール樹脂(住友ベークライト株式会社製、品名;PR-50235D、平均粒径:90μm)を1:1:1の重量比にて均一に混合した混合樹脂を使用し、繊維強化成形体成形時の金型温度を150℃とした以外は、実施例1と同様に繊維強化成形体を作製した。
実施例2の混合樹脂の特性は以下の通りであり、表1,2に記載されている。

・溶融開始温度Ta:95℃
・反応開始温度Tb:135℃
・(Tb-Ta):40℃
・最低粘度(溶融開始温度Ta℃以上の温度における最低粘度):1,500Pa・s
・最高粘度(硬化反応開始温度Tb℃~190℃の温度範囲における最高粘度)
:209,004Pa・s
・(Tb-Ta)/3の値:13℃
・Tb+(Tb-Ta)/3の値:148℃
【0038】
(3)実施例3
固形熱硬化性樹脂として、フェノール樹脂(住友ベークライト株式会社製、品名:PR-50252、平均粒径:30μm)とエポキシ樹脂(三菱ケミカル株式会社製、品名:jER-1001、平均粒径:100μm)を1:1の重量比にて均一に混合した混合樹脂を使用し、繊維強化成形体成形時の金型温度を150℃とした以外は、実施例1と同様に繊維強化成形体を作製した。
実施例3の混合樹脂の特性は以下の通りであり、表1,2に記載されている。

・溶融開始温度Ta:73℃
・反応開始温度Tb:140℃
・(Tb-Ta):67℃
・最低粘度(溶融開始温度Ta℃以上の温度における最低粘度):22Pa・s
・最高粘度(硬化反応開始温度Tb℃~190℃の温度範囲における最高粘度)
:5,180Pa・s
・(Tb-Ta)/3の値:22℃
・Tb+(Tb-Ta)/3の値:163℃
【0039】
(4)実施例4
固形熱硬化性樹脂として、フェノール樹脂(住友ベークライト株式会社製、品名;PR-50235D、平均粒径:90μm)とシアネート樹脂(三菱ガス化学株式会社製、品名:CYTESTER TA、平均粒径:100μm)を1:1の重量比にて均一に混合した混合樹脂を使用し、繊維強化成形体成形時の金型温度を170℃とした以外は、実施例1と同様に繊維強化成形体を作製した。
実施例4の混合樹脂の特性は以下の通りであり、表1,2に記載されている。

・溶融開始温度Ta:76℃
・反応開始温度Tb:138℃
・(Tb-Ta):62℃
・最低粘度(溶融開始温度Ta℃以上の温度における最低粘度):475Pa・s
・最高粘度(硬化反応開始温度Tb℃~190℃の温度範囲における最高粘度)
:51,895Pa・s
・(Tb-Ta)/3の値:21℃
・Tb+(Tb-Ta)/3の値:159℃
【0040】
(5)実施例5
固形熱硬化性樹脂として、エポキシ樹脂(三菱ケミカル株式会社製、品名:jER-1001、平均粒径:100μm)とシアネート樹脂(三菱ガス化学株式会社製、品名:CYTESTER TA、平均粒径:100μm)とを1:1の重量比にて均一に混合した混合樹脂を使用し、繊維強化成形体成形時の金型温度を170℃とした以外は、実施例1と同様に繊維強化成形体を作製した。
実施例5の混合樹脂の特性は以下の通りであり、表1,2に記載されている。

・溶融開始温度Ta:75℃
・反応開始温度Tb:139℃
・(Tb-Ta):64℃
・最低粘度(溶融開始温度Ta℃以上の温度における最低粘度):575Pa・s
・最高粘度(硬化反応開始温度Tb℃~190℃の温度範囲における最高粘度)
:19,025Pa・s
・(Tb-Ta)/3の値:21℃
・Tb+(Tb-Ta)/3の値:160℃
【0041】
(6)実施例6
実施例1と同様の強化用の繊維基材を4枚、実施例1と同様の樹脂シート3枚を用意し、図3に示すように、各繊維基材層間にそれぞれ1枚の樹脂シートを配置した以外は実施例1と同様に繊維強化成形体を作製した。
【0042】
(7)実施例7
実施例1と同様の強化用の繊維基材を10枚用意し、その繊維基材を5枚積層し、その上に、樹脂シート5枚を配置し、更にその上に残りの5枚の繊維基材を積層することで成形前基材を作製した以外は、実施例1と同様に繊維強化成形体を作製した。図4において、積層の状態を模式的に示す。
【0043】
(8)実施例8
シート基材として、厚み0.7mm、平面サイズ200mm×300mmに切り出したウレタン樹脂発泡体(株式会社イノアックコーポレーション製、品名:MF-50、目付量 35g/m)用いた以外は、実施例1と同様に繊維強化成形体を作製した。
【0044】
(9)実施例9
シート基材として、厚み0.22mm、平面サイズ200mm×300mmに切り出したレーヨン/ポリエステル不織布(クラレトレーディング株式会社製、品名:SF-30C、目付量 31g/m)用いた以外は、実施例1と同様に繊維強化成形体を作製した。
【0045】
(10)実施例10
シート基材として、厚み0.34mm、平面サイズ200mm×300mmに切り出した炭素繊維シート(阿波製紙株式会社製、品名:CARMIX C-2、目付量 31g/m)用意した以外は、実施例1と同様に繊維強化成形体を作製した。
【0046】
(11)比較例1
固形熱硬化性樹脂として、フェノール樹脂(住友ベークライト株式会社製、品名:PR-50699、平均粒径:30μm)を使用し、樹脂シート作製時の金型温度を80℃、繊維強化成形体の成形時の金型温度を100℃とした以外は、実施例1と同様に繊維強化成形体を作製した。樹脂の粘度が高く(反応が速い)、樹脂の含浸性が悪く、均一な繊維強化成形体を得ることができなかった。
比較例1の樹脂の特性は以下の通りであり、表1,2に記載されている。比較例1の樹脂の粘度測定結果を、図5のグラフに示す。

・溶融開始温度Ta:72℃
・反応開始温度Tb:91℃
・(Tb-Ta):19℃
・最低粘度(溶融開始温度Ta℃以上の温度における最低粘度):118,908Pa・s
・最高粘度(硬化反応開始温度Tb℃~190℃の温度範囲における最高粘度)
:164,468Pa・s
・(Tb-Ta)/3の値:6℃
・Tb+(Tb-Ta)/3の値:100℃
【0047】
(12)比較例2
固形熱硬化性樹脂として、2種類のフェノール樹脂(住友ベークライト株式会社製、品名:PR-50252、平均粒径:30μmと住友ベークライト株式会社製、品名:PR-50235D、平均粒径:90μm)の1:2混合樹脂(重量比)、を使用し、繊維強化成形体の成形時の金型温度を160℃とした以外は、実施例1と同様に繊維強化成形体を作製した。樹脂の硬化が十分では無く、脱型時に変形が生じてしまった。
比較例2の樹脂の特性は以下の通りであり、表1,2に記載されている。比較例2の樹脂の粘度測定結果を、図5のグラフに示す。

・溶融開始温度Ta:80℃
・反応開始温度Tb:140℃
・(Tb-Ta):60℃
・最低粘度(溶融開始温度Ta℃以上の温度における最低粘度):21Pa・s
・最高粘度(硬化反応開始温度Tb℃~190℃の温度範囲における最高粘度):260Pa・s
・(Tb-Ta)/3の値:20℃
・Tb+(Tb-Ta)/3の値:160℃
【0048】
2.繊維強化成形体の物性等
(1)測定方法
実施例1~10及び比較例1、2の繊維強化成形体について、厚み(mm)、曲げ強度(MPa)、曲げ弾性率(GPa)の測定及び外観を判断した。その結果を表3に示す。
曲げ強度、曲げ弾性率は繊維強化成形体から試験片を切り出し、JIS K7074 A法に基づいて測定した。
外観は目視により確認した。外観の判断は、繊維強化成形体の表面に変形や樹脂の含浸不均一等からなる不具合が存在するか否かを目視で確認し、不具合が無い場合「〇」、不具合がある場合「×」とした。
繊維強化成形体の各部分の厚みは、繊維強化成形体の断面をデジタルマイクロスコープVHX-5000(株式会社キーエンス社製)にて観察し測定した。表3における厚みは、繊維強化成形体の中央部付近の厚みである。
比重は、繊維強化成形体の重量と繊維強化成形体の体積から算出した。繊維強化成形体の体積は、繊維強化成形体の厚みと面積から算出した。
【0049】
(2)測定結果
測定結果を表3に示す。
実施例1-10の繊維強化成形体は、下記要件(a)(b)を満たしている。これに対して比較例1の繊維強化成形体は、要件(a)を満たしていない。要件(a)を満たしていない比較例1では、樹脂の粘度が高いため、樹脂の含浸性が悪く、均一な繊維強化成形体を得ることができなかった。また、比較例2の繊維強化成形体は、要件(b)を満たしていない。要件(b)を満たしていない比較例2の維強化成形体では、樹脂の硬化が十分では無く、脱型時に変形が生じてしまった。
要件(a)(b)を満たす実施例1-10の繊維強化成形体では、固形熱硬化性樹脂の溶融特性及び硬化特性をコントロールすることで、プリプレグを用いることなく、簡便な方法で、外観、強度、及び軽量化に優れた繊維強化樹脂複合体を得ることができた。また、実施例1-10の繊維強化成形体では、簡便な方法で樹脂シート(樹脂担持シート)を作製することができ、粉体の飛散を防止することができるとともに、製造過程で有機溶剤なども使用しないため、作業環境に優れ、大気汚染の問題も発生しないことが分かる。

・要件(a):硬化反応開始温度Tb℃の粘度(最低粘度)が2,000Pa・s以下である。
・要件(b):硬化反応開始温度Tb℃~190℃の範囲における最高粘度が1,000Pa・s以上である。
【0050】
また、実施例1-10の繊維強化成形体は、更に下記要件(c)も満たすことで、溶融した熱硬化性樹脂を繊維基材に十分に含浸させることができ、均一な物性を有する繊維強化成形体を得ることができた。

・要件(c):30≦(Tb-Ta)≦100 を満たす。
【0051】
上記の実施例及び比較例から、以下の発明も把握できる。以下の発明の特定事項についての説明は、上記の各説明を適宜援用する。
・繊維基材及び前記繊維基材とは異なるシート基材が積層した積層体に熱硬化性樹脂が含侵した繊維強化成形体。
【0052】
3.実施例の効果
以上の実施例によれば、外観、強度、及び軽量化に優れた繊維強化樹脂複合体を得ることができた。また、簡便な方法で樹脂シートを作製することができ、粉体の飛散を防止することができるとともに、製造過程で有機溶剤なども使用しないため、作業環境に優れ、大気汚染の問題も発生しないことが確認された。
【0053】
本開示は上記で詳述した実施例に限定されず、様々な変形又は変更が可能である。
【符号の説明】
【0054】
10…繊維強化成形体
11…繊維基材
15…樹脂シート
30…金型
31…下型
32…上型
図1
図2
図3
図4
図5