(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-12
(45)【発行日】2024-01-22
(54)【発明の名称】金属空気電池用カソード触媒及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/88 20060101AFI20240115BHJP
H01M 4/90 20060101ALI20240115BHJP
H01M 12/06 20060101ALI20240115BHJP
H01M 12/08 20060101ALI20240115BHJP
B01J 27/24 20060101ALI20240115BHJP
B01J 37/08 20060101ALI20240115BHJP
B01J 37/10 20060101ALI20240115BHJP
【FI】
H01M4/88 K
H01M4/90 X
H01M12/06 F
H01M12/08 K
B01J27/24 M
B01J37/08
B01J37/10
(21)【出願番号】P 2021205757
(22)【出願日】2021-12-20
【審査請求日】2022-08-09
(32)【優先日】2021-10-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TW
(73)【特許権者】
【識別番号】520160901
【氏名又は名称】國立高雄科技大學
【氏名又は名称原語表記】National Kaohsiung University of Science and Technology
【住所又は居所原語表記】No.415 Chien-Kung Road,SanMing District,Kaohsiung,Taiwan
(74)【代理人】
【識別番号】100079577
【氏名又は名称】岡田 全啓
(74)【代理人】
【識別番号】100167966
【氏名又は名称】扇谷 一
(72)【発明者】
【氏名】李 純怡
(72)【発明者】
【氏名】潘 俊仁
(72)【発明者】
【氏名】郭 ▲ユィ▼嗣
【審査官】守安 太郎
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第107195878(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第102930992(CN,A)
【文献】特開2019-189495(JP,A)
【文献】特開2016-037404(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103480406(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第110890551(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第112563517(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第107910201(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/88
H01M 4/86
H01M 4/90
H01M 12/08
H01M 12/06
B01J 37/10
B01J 37/08
B01J 27/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a.無機炭素源を含んでいる炭素源懸濁液と、可溶性のイオン化合物により形成された金属源を含んでいてpH値が6.5~10.5の範囲内にある金属源溶液と、窒素含有の有機化合物により形成された窒素源を含んでいる窒素源溶液とを作成するステップと、
b.前記炭素源懸濁液を前記金属源溶液と共に、反応温度が70℃~85℃の範囲内にあり且つ反応時間が少なくとも20時間である低温水熱反応により反応させ、前記金属源を前記無機炭素源の表面にドーピングさせて第1の前駆物質を形成し、該第1の前駆物質を含んでいる第1の生成物を作成するステップと、
c.前記第1の生成物を前記窒素源溶液と共に、反応温度が180℃であり且つ反応時間が少なくとも12時間である高温水熱反応により反応させ、前記窒素源を分解して窒素原子を放出させ、該窒素原子が前記第1の前駆物質中の金属源と結合して第2の前駆物質を形成するステップと、
d.前記第2の前駆物質を、保護雰囲気で温度が200℃~900℃の範囲内である熱処理により熱処理させ、前記第2の前駆物質を相転移させて金属空気電池用カソード触媒を製造するステップと、を備えることを特徴とする金属空気電池用カソード触媒の製造方法。
【請求項2】
前記ステップaにおいて、前記金属源溶液における前記金属源の体積モル濃度と、前記窒素源溶液における前記窒素源の体積モル濃度との比の値は、0.06~0.5の範囲内にあることを特徴とする請求項1に記載の金属空気電池用カソード触媒の製造方法。
【請求項3】
前記ステップaにおいて、前記無機炭素源を分散媒に分散することにより前記炭素源懸濁液を作成し、
且つ、前記無機炭素源は、表面積が50m
2/g以上であり且つ導電性カーボンブラック、グラフェン、活性炭、炭素繊維、カーボンナノチューブ及びそれらの組み合わせからなる群より選択されることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の金属空気電池用カソード触媒の製造方法。
【請求項4】
前記炭素源懸濁液の総量を100wt%として、前記無機炭素源の含有量を、0.20wt%~0.45wt%の範囲内にあるようにすることを特徴とする請求項3に記載の金属空気電池用カソード触媒の製造方法。
【請求項5】
前記ステップaにおいて、前記可溶性のイオン化合物を第1の溶媒に溶解して、イオン化合物溶液を作成した後、pH値を調整することにより前記金属源溶液を作成し、
且つ、前記金属源は、コバルト源、マンガン源、鉄源、ニッケル源、クロム源及びそれらの組み合わせからなる群より選択され、
前記可溶性のイオン化合物は、酢酸コバルト、酢酸マンガン、酢酸鉄、酢酸ニッケル、酢酸クロム及びそれらの組み合わせからなる群より選択されることを特徴とする請求項1~請求項4のいずれか一項に記載の金属空気電池用カソード触媒の製造方法。
【請求項6】
前記金属源溶液を、前記金属源の体積モル濃度が、0.2mol/L~0.6mol/Lの範囲内にあるようにすることを特徴とする請求項5に記載の金属空気電池用カソード触媒の製造方法。
【請求項7】
前記ステップaにおいて、前記窒素含有の有機化合物を第2の溶媒に溶解して、前記窒素源を形成することにより前記窒素源溶液を作成し、
且つ、前記窒素含有の有機化合物は、尿素、N-メチル尿素、N-エチル尿素、アセトアミド、ホルムアミド、N-メチルホルムアミド、アクリルアミド及びそれらの組み合わせからなる群より選択されることを特徴とする請求項1~請求項6のいずれか一項に記載の金属空気電池用カソード触媒の製造方法。
【請求項8】
前記窒素源溶液を、前記窒素源の体積モル濃度が、0.8mol/L~6.7mol/Lの範囲内にあるようにすることを特徴とする請求項7に記載の金属空気電池用カソード触媒の製造方法。
【請求項9】
前記ステップdにおける前記保護雰囲気は、水素ガス、アルゴンガス、窒素ガス、アンモニアガス及びそれらの組み合わせからなる群より選択されることを特徴とする請求項1~請求項8のいずれか一項に記載の金属空気電池用カソード触媒の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池用電極触媒及びその製造方法に関し、特に金属空気電池用カソード触媒及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、一酸化マンガン/窒素ドープ還元酸化グラフェン複合電極材料の製造方法が開示されている。該方法は、酢酸マンガン四水和物と尿素とを水に添加して均一に混合させて混合溶液を調製するステップと、酸化グラフェンを該混合溶液に添加して撹拌して、超音波で均一に分散することにより混合物を調製するステップと、該混合物を、120℃~180℃で4時間~12時間の水熱反応(hydrothermal reaction)により反応させるステップと、水熱反応による生成物を濾過、洗浄、乾燥した後、イナートガス雰囲気で400℃~600℃且つ2時間~5時間の熱処理を行い、一酸化マンガン/窒素ドープ還元酸化グラフェン複合電極材料を得るステップとを含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】中国特許出願公開第107195878号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、本願発明者らは、特許文献1のように、「先ず高温の水熱反応を行った後、熱処理を行う」という製造方法により得た電極材料を使用した金属空気電池の使用寿命が優れないことを発見した。そこで、金属空気電池の使用寿命を延ばすために、本発明は、新しい金属空気電池用カソード触媒の製造方法及び金属空気電池用カソード触媒を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を実現するために、本発明は、
a.無機炭素源を含んでいる炭素源懸濁液と、可溶性のイオン化合物により形成された金属源を含んでいてpH値が6.5~10.5の範囲内にある金属源溶液と、窒素含有の有機化合物により形成された窒素源を含んでいる窒素源溶液とを作成するステップと、
b.前記炭素源懸濁液を前記金属源溶液と共に、反応温度が70℃~85℃の範囲内にあり且つ反応時間が少なくとも20時間である低温水熱反応により反応させ、前記金属源を前記無機炭素源の表面にドーピングさせて第1の前駆物質を形成し、該第1の前駆物質を含んでいる第1の生成物を作成するステップと、
c.前記第1の生成物を前記窒素源溶液と共に、反応温度が180℃であり且つ反応時間が少なくとも12時間である高温水熱反応により反応させ、前記窒素源を分解して窒素原子を放出させ、該窒素原子が前記第1の前駆物質中の金属源と結合して第2の前駆物質を形成するステップと、
d.前記第2の前駆物質を、保護雰囲気で温度が200℃~900℃の範囲内である熱処理により熱処理させ、前記第2の前駆物質を相転移させて金属空気電池用カソード触媒を製造するステップと、を備えることを特徴とする金属空気電池用カソード触媒の製造方法を提供する。
【0006】
また、本発明は、上記の製造方法により製造されたことを特徴とする金属空気電池用カソード触媒を提供する。
【発明の効果】
【0007】
上記のように、先ず低温水熱反応を行った後、高温水熱反応を行い、そして熱処理を行うことにより、金属空気電池用カソード触媒を製造するという本発明の製造方法によって製造された金属空気電池用カソード触媒を使用した金属空気電池は、より長い充放電サイクル寿命を有するようになる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施例1、実施例5及び比較例1の金属空気電池用カソード触媒のX線回折図である。
【
図2】実施例1の金属空気電池用カソード触媒を使用した空気亜鉛二次電池の電池性能のデータ図である。充放電サイクルのテスト条件は、環境温度が室温で、毎回の充電の電流密度が5mA/cm
2で且つ充電時間が1時間で、毎回の放電の電流密度が5mA/cm
2で且つ放電時間が1時間である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の金属空気電池用カソード触媒の製造方法は、以下のステップを含む。
a.無機炭素源を含んでいる炭素源懸濁液と、可溶性のイオン化合物により形成された金属源を含んでいてpH値が6.5~10.5の範囲内にある金属源溶液と、窒素含有の有機化合物により形成された窒素源を含んでいる窒素源溶液とを作成するステップ。
b.前記炭素源懸濁液を前記金属源溶液と共に、反応温度が70℃~85℃の範囲内にあり且つ反応時間が少なくとも20時間である低温水熱反応により反応させ、前記金属源を前記無機炭素源の表面にドーピングさせて第1の前駆物質を形成し、該第1の前駆物質を含んでいる第1の生成物を作成するステップ。
c.前記第1の生成物を前記窒素源溶液と共に、反応温度が180℃であり且つ反応時間が少なくとも12時間である高温水熱反応により反応させ、前記窒素源を分解して窒素を放出させ、該窒素が前記第1の前駆物質中の金属源と結合して(bonding)第2の前駆物質を形成するステップ。
d.前記第2の前駆物質を、保護雰囲気で温度が200℃~900℃の範囲内である熱処理により熱処理させ、前記第2の前駆物質を相転移(phase transition)させて金属空気電池用カソード触媒を製造するステップ。
【0010】
ステップaにおいて、前記無機炭素源を分散媒(dispersion medium)に分散することにより前記炭素源懸濁液を作成する。高い表面積を有する無機炭素源であれば、本発明に適用でき、具体的には表面積が50m2/g以上である無機炭素源が好ましく、表面積が50m2/g以上である無機炭素源により製造された金属空気電池用カソード触媒は、金属空気電池により優れた電池性能をもたらすことができる。
【0011】
前記無機炭素源の種類は、導電性カーボンブラック、グラフェン、活性炭、炭素繊維、カーボンナノチューブ及びそれらの組み合わせからなる群より選択されることが好ましく、導電性カーボンブラックであることが更に好ましい。
【0012】
前記分散媒の種類は、特に制限せず、前記無機炭素源を分散できる液体であれば、本発明に適用でき、例えば、これに限らないが、アルコールが挙げられる。
【0013】
前記無機炭素源の前記分散媒中の分散性を向上させるために、前記炭素源懸濁液の総量を100wt%として、前記無機炭素源の含有量を0.20wt%~0.45wt%の範囲内にあるようにすることが好ましく、0.25wt%~0.40wt%にすることがより好ましく、0.30wt%~0.35wt%にすることが最も好ましい。
【0014】
ステップaにおいて、前記可溶性のイオン化合物を第1の溶媒に溶解して、イオン化合物溶液を作成した後、pH値を調整することにより前記金属源溶液を作成する。
【0015】
pH値が6.5~10.5の範囲内にある前記金属源溶液により製造された金属空気電池用カソード触媒は、金属空気電池により優れた電池性能をもたらすことができる。
【0016】
3d遷移元素(3d transition metal)により形成される金属源であれば本発明に適用でき、前記金属源は、コバルト源、マンガン源、鉄源、ニッケル源、クロム源及びそれらの組み合わせからなる群より選択されることが好ましく、コバルト源であることが最も好ましい。
【0017】
前記可溶性のイオン化合物は、酢酸コバルト、酢酸マンガン、酢酸鉄、酢酸ニッケル、酢酸クロム及びそれらの組み合わせからなる群より選択されることが好ましい。
【0018】
前記第1の溶媒の種類は、特に制限せず、前記可溶性のイオン化合物が溶解できる溶媒であれば、本発明に適用でき、例えば、これに限らないが、水が挙げられる。
【0019】
前記イオン化合物溶液において、前記可溶性のイオン化合物の体積モル濃度(molar concentration)は、例えば、これに限らないが、0.2mol/L~0.6mol/Lの範囲内にあり、0.35mol/L~0.45mol/Lが好ましい。
【0020】
前記金属源溶液において、前記金属源の体積モル濃度は、例えば、これに限らないが、0.2mol/L~0.6mol/Lの範囲内にあり、0.35mol/L~0.45mol/Lが好ましい。
【0021】
前記ステップaにおいて、前記窒素含有の有機化合物を第2の溶媒に溶解して、窒素源にすることにより前記窒素源溶液を作成する。
【0022】
構造中に窒素原子を含有し且つ形成された窒素源が分解して窒素原子を放出することができる窒素含有の有機化合物であれば、本発明に適用できる。前記窒素含有の有機化合物は、尿素(urea)、N-メチル尿素(N-methylurea)、N-エチル尿素(N-ethylurea)、アセトアミド(acetamide)、ホルムアミド(formamide)、N-メチルホルムアミド(N-methylformamide)、アクリルアミド(acrylamide)及びそれらの組み合わせからなる群より選択されることが好ましく、尿素であることが更に好ましい。
【0023】
前記第2の溶媒の種類は、特に制限せず、前記窒素含有の有機化合物が溶解できる溶媒であれば、本発明に適用でき、例えば、これに限らないが、水が挙げられる。
【0024】
前記窒素源溶液において、前記窒素源の体積モル濃度は、例えば、これに限らないが、0.8mol/L~6.7mol/Lの範囲内にあり、1.67mol/L~4.5mol/Lの範囲内にあることが好ましい。
【0025】
前記金属源溶液における前記金属源の体積モル濃度と、前記窒素源溶液における前記窒素源の体積モル濃度との比の値は、0.06~0.5の範囲内にあることが好ましく、その比の値の範囲にある前記金属源溶液及び前記窒素源溶液により製造された金属空気電池用カソード触媒は、金属空気電池により優れた電池性能をもたらすことができ、また、その比の値の範囲は、0.08~0.24にあることがより好ましく、0.096~0.16にあることが最も好ましい。
【0026】
ステップbにおいて、低温水熱反応の反応時間が少なくとも20時間であるとは、70℃~85℃の反応温度において、前記第1の前駆物質を形成するためには少なくとも20時間反応させることが必要であることを指すので、反応時間は20時間を多少または大幅に越えることができる。
【0027】
ステップcにおいて、高温水熱反応の反応時間が少なくとも12時間であるとは、180℃の反応温度において、前記第2の前駆物質を形成するためには少なくとも12時間反応させることが必要であることを指すので、反応時間は12時間を多少または大幅に越えることができる。
【0028】
ステップdにおいて、前記保護雰囲気は、水素ガス、アルゴンガス、窒素ガス、アンモニアガス及びそれらの組み合わせからなる群より選択される。且つ、前記熱処理の時間範囲は特に制限されず、前記熱処理の温度が高いほど短くするように調整できる。
【0029】
本発明の金属空気電池用カソード触媒は、上記の製造方法により製造されるものである。該金属空気電池用カソード触媒は、金属空気二次電池の製造に特に適し、金属空気二次電池に優れた電池性能をもたらす上、より長い電池寿命をもたらす。
【0030】
以下、本発明の実施例について説明する。これらの実施例は、例示的かつ説明的なものであり、且つ、本発明を限定するものと解釈されるべきではないことを理解されたい。
実施例1
【0031】
a.20mgの導電性カーボンブラック(米Cabot Corporation社、型番:VXC-72R)を8mlのアルコールに添加して、超音波振動(ultrasonic oscillation)を10分間行うことにより、導電性カーボンブラックをアルコールに均一に分散して、炭素源懸濁液(該炭素源懸濁液の総量を100wt%として、該導電性カーボンブラックの含有量は0.32wt%である)を作成した。
【0032】
酢酸コバルトの体積モル濃度が0.4mol/Lのイオン化合物溶液を作成するために、酢酸コバルトを脱イオン水に溶解し、そして、0.16mlのアンモニアの水溶液を0.6mlの該イオン化合物溶液に添加してpH値を調整することにより、pH値が8.69で且つコバルト源を含む金属源溶液(該金属源溶液において、コバルト源の体積モル濃度は0.4mol/Lである)を作成した。
【0033】
2.0gの尿素を10mlの脱イオン水に溶解して窒素源を形成することにより、該窒素源の体積モル濃度が3.33mol/Lの窒素源溶液を作成した。
【0034】
b. 該炭素源懸濁液と該金属源溶液とをガラス瓶で均一に混合した後、該ガラス瓶を密封し、そして該ガラス瓶を80℃のシリコーン油(silicone oil)に置いて20時間連続加熱して低温水熱反応を行い、該金属源溶液中のコバルト源を該導電性カーボンブラックの表面にドーピングさせて第1の前駆物質を形成し、該第1の前駆物質を含んでいる第1の生成物を作成した。
【0035】
c.該第1の生成物を該窒素源溶液と混合して超音波振動を30分間行った後、水熱反応釜に入れて、該水熱反応釜を工業用オーブンに置いて180℃で12時間連続加熱して高温水熱反応を行い、該窒素源を分解させて窒素原子を放出し、該窒素原子が該第1の前駆物質中のコバルト源と結合して第2の前駆物質を形成し、該第2の前駆物質を含んでいる第2の生成物を作成した。
【0036】
該高温水熱反応が終わって、該水熱反応釜が冷却した後、外観が黒い粉末の該第2の生成物を該水熱反応釜から取り出して、該第2の生成物を無水アルコールと混合した後、遠心分離を2回(いずれも回転速度:4200rpm、時間:5分)行い、遠心分離した後固体部分を取り出して70℃のオーブンに置いて乾燥を行って、外観が粉末状の該第2の前駆物質を分離して得た。
【0037】
d. 該第2の前駆物質を、20%の水素ガスと80%のアルゴンガスにより構成された水素アルゴンガ混合雰囲気(保護雰囲気)で、400℃の温度で1時間の熱処理により熱処理させ、実施例1の金属空気電池用カソード触媒を製造した。
【0038】
実施例2~実施例5
実施例2~実施例5は実施例1と類似する方法で金属空気電池用カソード触媒を製造し、相違点は以下に述べる。
実施例2は、0.5gの尿素を使用して、窒素源の体積モル濃度が0.83mol/Lの窒素源溶液を作成した。
実施例3は、1.0gの尿素を使用して、窒素源の体積モル濃度が1.67mol/Lの窒素源溶液を作成した。
実施例4は、3.0gの尿素を使用して、窒素源の体積モル濃度が5mol/Lの窒素源溶液を作成した。
実施例5は、2.0gのN-メチル尿素を使用して、窒素源の体積モル濃度が2.7mol/Lの窒素源溶液を作成した。
【0039】
比較例1
1.実施例1のステップaと同じ方法で炭素源懸濁液と金属源溶液と窒素源溶液とを作成した。
2.該炭素源懸濁液と該金属源溶液と該窒素源溶液とを混合して超音波振動を30分間行った後、水熱反応釜に入れて、該水熱反応釜を工業用オーブンに置いて180℃で12時間連続加熱して高温水熱反応を行い、該窒素源を分解させて窒素原子を放出し、該窒素原子が該金属源溶液中のコバルト源と結合して前駆物質を形成し、該前駆物質を含んでいる粗生成物を作成した。
【0040】
該高温水熱反応が終わって、該水熱反応釜が冷却した後、外観が黒い粉末の該粗生成物を該水熱反応釜から取り出して、該粗生成物を無水アルコールと混合した後、遠心分離を2回(いずれも回転速度:4200rpm、時間:5分)行い、遠心分離した後固体部分を取り出して70℃のオーブンに置いて乾燥を行って、外観が粉末状の該前駆物質を分離した。
【0041】
3. 該前駆物質を、20%の水素ガスと80%のアルゴンガスにより構成された水素アルゴンガ混合雰囲気で、400℃の温度で1時間の熱処理により熱処理させ、比較例1の金属空気電池用カソード触媒を製造した。
【0042】
性質評価
X線回折(X-ray diffraction、XRD)分析
X線回折装置(米BRUKER社、型番:D8 Advance)を使用して、実施例1、実施例5及び比較例1の金属空気電池用カソード触媒に対してX線回折分析を行った。得られたX線回折図は
図1に示される。
一般的に、金属源にコバルト源を用いた場合、製造された金属空気電池用カソード触媒中のCo
4N結晶相は、金属空気電池の電池寿命の向上に役立つ。
【0043】
図1に示されるように、実施例1及び比較例1の金属空気電池用カソード触媒は、いずれもCo
4N結晶相を有する。しかし、更にシェラーの式(Scherrer equation)を使用して約44.5℃のピークの半値幅(half peak width)を分析すると、実施例1の金属空気電池用カソード触媒の半値幅は、比較例1の金属空気電池用カソード触媒の半値幅より少し小さく、これは実施例1の金属空気電池用カソード触媒の結晶相が比較例1の金属空気電池用カソード触媒より優れることを表し、よって実施例1の金属空気電池用カソード触媒は、金属空気電池の電池寿命をより向上させることができることが示された。
【0044】
空気亜鉛二次電池の性能テスト
35mgの実施例1の金属空気電池用カソード触媒を20μLの20%のPTFE(接着剤)と少量のアルコールと均一に混合して、触媒スラリー(slurry)を作成して、該触媒スラリーを面積が1cm2の発泡ニッケル(Nickel foam)の表面に均一に塗布し、そして、該発泡ニッケルを20%のPTFEに浸漬させて、該触媒スラリーを該発泡ニッケルの表面に緊密に接着させ、そして、該発泡ニッケルの表面にNiFe-LDHを均一に塗布して、空気電極を製造した。
【0045】
純亜鉛金属電極、電解液(6Mの水酸化カリウム水溶液及び0.2Mの酢酸亜鉛水溶液により構成されたもの)及び該空気電極によって、空気亜鉛二次電池を構成した。高性能電池テスター(中国NEWARE社、型番:CT4008)を使用して、該空気亜鉛二次電池が以下のテスト条件で充放電サイクルを行う際の電池性能をテストした。
【0046】
1.環境温度が室温で、毎回の充電の電流密度が5mA/cm2で且つ充電時間が1時間で、毎回の放電の電流密度が5mA/cm2で且つ放電時間が1時間である。
2.環境温度が室温で、毎回の充電の電流密度が10mA/cm2で且つ充電時間が1時間で、毎回の放電の電流密度が10mA/cm2で且つ放電時間が1時間である。
3.環境温度が室温で、毎回の充電の電流密度が20mA/cm2で且つ充電時間が1時間で、毎回の放電の電流密度が20mA/cm2で且つ放電時間が1時間である。
【0047】
そして、上記と同じ方法で、実施例2~実施例5及び比較例1の金属空気電池用カソード触媒のそれぞれにより空気亜鉛二次電池を構成して、該高性能電池テスターを使用して各空気亜鉛二次電池の以下のテスト条件における電池性能をテストした。
環境温度が室温で、毎回の充電の電流密度が5mA/cm2で且つ充電時間が1時間で、毎回の放電の電流密度が5mA/cm2で且つ放電時間が1時間である。
上記のテスト結果は表1に示される。
【0048】
【0049】
一般的に、空気亜鉛二次電池の酸素還元反応(ORR)の理論電圧値は1.23Vであるので、空気亜鉛二次電池が実際に示す酸素還元反応の電圧値が1.23Vに接近するほど、空気亜鉛二次電池の電池性能がより優れ、空気亜鉛二次電池の充放電の安定時間帯が長いほど、空気亜鉛二次電池の電池寿命がより長い。
【0050】
充放電の安定時間帯を経た後、空気亜鉛二次電池の放電電圧は、充放電のサイクル数の増加に伴って低くなって、空気亜鉛二次電池の電池性能が低下する。従って、放電電圧が同じ数値に低下(例えば表1に取り上げた1.1V、1.0V及び0.9V)する場合において、空気亜鉛二次電池の放電電圧が該数値に低下するまでの時間が長いほど、空気亜鉛二次電池の電池寿命がより長い。
【0051】
表1に示されるように、充放電の電流密度が5mA/cm2の場合の、空気亜鉛二次電池の放電電圧が1.1Vに低下するまでの時間からみると、比較例1の金属空気電池用カソード触媒に比べて、実施例1~実施例5の金属空気電池用カソード触媒は、空気亜鉛二次電池の電池寿命をより長くした。
【0052】
同じく2.0gの尿素を使用した実施例1及び比較例1を比較すると、実施例1の金属空気電池用カソード触媒を使用した空気亜鉛二次電池は、酸素還元反応の電圧値がより理論電圧値に接近し、空気亜鉛二次電池の充放電の安定時間帯がより長く、且つ、空気亜鉛二次電池の放電電圧が1.1Vに低下するまでの時間がより長いので、実施例1の金属空気電池用カソード触媒は、空気亜鉛二次電池の電池性能及び電池寿命を確かに向上させることができることが示される。即ち、高温水熱反応のみを行った比較例1に比べて、先に低温水熱反応を行った後高温水熱反応を行った実施例1~実施例5の金属空気電池用カソード触媒を使用して製造された空気亜鉛二次電池は、より優れた電池性能及びより長い電池寿命を有することを証明した。
【0053】
上記実施形態は例示的に本発明の原理及び効果を説明するものであり、本発明を制限するものではない。本技術を熟知する当業者であれば本発明の精神及び範囲から離れないという前提の下、上記の実施形態に対して若干の変更や修飾が可能である。従って、当業者が本発明の主旨から離れないという前提の下、行った全ての変更や修飾も本発明の保護範囲に含まれるものとされるべきである。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の金属空気電池用カソード触媒の製造方法は、より優れる金属空気電池用カソード触媒の製造に好適である。