(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-12
(45)【発行日】2024-01-22
(54)【発明の名称】摺動部品
(51)【国際特許分類】
F16J 15/34 20060101AFI20240115BHJP
F16C 17/04 20060101ALI20240115BHJP
【FI】
F16J15/34 G
F16J15/34 H
F16C17/04 A
(21)【出願番号】P 2021509249
(86)(22)【出願日】2020-03-18
(86)【国際出願番号】 JP2020011926
(87)【国際公開番号】W WO2020196145
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2022-09-20
(31)【優先権主張番号】P 2019054193
(32)【優先日】2019-03-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000101879
【氏名又は名称】イーグル工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098729
【氏名又は名称】重信 和男
(74)【代理人】
【識別番号】100206911
【氏名又は名称】大久保 岳彦
(74)【代理人】
【識別番号】100204467
【氏名又は名称】石川 好文
(74)【代理人】
【識別番号】100148161
【氏名又は名称】秋庭 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100195833
【氏名又は名称】林 道広
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 紗和花
(72)【発明者】
【氏名】井上 裕貴
(72)【発明者】
【氏名】根岸 雄大
(72)【発明者】
【氏名】前谷 優貴
【審査官】羽鳥 公一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/061406(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/174725(WO,A1)
【文献】実開昭52-143571(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 17/00-17/26
F16C 33/00-33/28
F16J 15/34-15/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転機械の相対回転する箇所に配置される環状の摺動部品であって、前記摺動部品の摺動面には、開口部を通じて被密封流体側に連通する導入溝部と、該導入溝部に連通して前記摺動部品が相対回転する周方向に延設される動圧発生溝部と、から構成される動圧発生機構が、周方向に複数並設されており、
前記導入溝部の前記動圧発生溝部との境界側に位置する境界壁は、該境界壁の少なくとも前記開口部側が
前記摺動部品の径方向において前記動圧発生溝部側に傾斜して被密封流体側に延設された傾斜面を有している摺動部品。
【請求項2】
前記傾斜面は、前記動圧発生溝部側から前記被密封流体側に向けて平坦状の面から成る請求項1に記載の摺動部品。
【請求項3】
前記境界壁は、前記傾斜面よりも前記動圧発生溝部側に、径方向に延設された放射面を有している請求項1に記載の摺動部品。
【請求項4】
前記導入溝部は、前記被密封流体側に連通する開口部側が前記動圧発生溝部側よりも幅狭に形成されている請求項1ないし3のいずれかに記載の摺動部品。
【請求項5】
周方向に沿って複数並設された前記導入溝部は、無端状に延設された環状溝を介し互いに連通している請求項1ないし4のいずれかに記載の摺動部品。
【請求項6】
前記導入溝部は、前記被密封流体側且つ外径側に連通している請求項1ないし5のいずれかに記載の摺動部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、相対回転する摺動部品に関し、例えば自動車、一般産業機械、あるいはその他のシール分野の回転機械の回転軸を軸封する軸封装置に用いられる摺動部品、または自動車、一般産業機械、あるいはその他の軸受分野の機械の軸受に用いられる摺動部品に関する。
【背景技術】
【0002】
被密封液体の漏れを防止する軸封装置として例えばメカニカルシールは相対回転し摺動面同士が摺動する一対の環状の摺動部品を備えている。このようなメカニカルシールにおいて、近年においては環境対策等のために摺動により失われるエネルギーの低減が望まれており、摺動部品の摺動面に高圧の被密封液体側に連通するとともに摺動面において一端が閉塞する正圧発生溝を設けているものがある。
【0003】
例えば、特許文献1に示されるメカニカルシールは、一方の摺動部品の摺動面において、径方向に延び被密封液体側に連通する導入溝部と、該導入溝部に連通して相対回転方向に延設される動圧発生溝部とから構成される動圧発生機構が、周方向に沿って複数並設されている。これによれば、摺動部品の相対回転時には、被密封液体が導入溝部を経て動圧発生溝部に導入され、動圧発生溝部の相対回転方向の端部の壁部に被密封液体が集中して正圧が発生して摺動面同士が離間するとともに、摺動面に被密封液体の液膜が形成されることで潤滑性が向上し、低摩擦化を実現している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平5-60247号公報(第3頁、第2図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように、特許文献1にあっては、被密封流体を動圧発生溝の終点から摺動部品間に供給することで、摺動部品間を低摩擦化することができる一方で、被密封流体にコンタミが含まれていると、このコンタミが導入溝部内に滞留して、更に導入溝部を経て動圧発生溝部内に進入し、動圧発生溝部の特に閉塞された終点近傍に停滞・堆積されるまたは摩耗を発生させる虞がある。そのため、この摺動面間に存在するコンタミにより、摺動面が損傷し、回転機械の性能に悪影響を及ぼす虞があった。尚、本願において、「コンタミ」とはコンタミネーション(contamination)の略称であり、多細粒子状の導電性異物などの「粒子状異物」を意味する。
【0006】
本発明は、このような問題点に着目してなされたもので、導入溝部内に混入するコンタミの滞留を抑制し、当該コンタミの動圧発生溝部への進入を防止することで、摺動面の潤滑性能及びシール機能を良好に保つことができる摺動部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、本発明の摺動部品は、
回転機械の相対回転する箇所に配置される環状の摺動部品であって、前記摺動部品の摺動面には、開口部を通じて被密封流体側に連通する導入溝部と、該導入溝部に連通して前記摺動部品が相対回転する周方向に延設される動圧発生溝部と、から構成される動圧発生機構が、周方向に複数並設されており、
前記導入溝部の前記動圧発生溝部との境界側に位置する境界壁は、該境界壁の少なくとも開口部側が径方向を基準として前記動圧発生溝部側に傾斜して被密封流体側に延設された傾斜面を有している。
これによれば、摺動部品の相対回転時に、被密封流体に伴い導入溝部内に混入したコンタミが境界壁の傾斜面を伝って被密封流体側に排出し易くなるため、コンタミが導入溝部を経由して動圧発生溝部に進入する虞を防止し、摺動面の潤滑性能及びシール機能を良好に保つことができる。
【0008】
前記傾斜面は、前記動圧発生溝部側から前記被密封流体側に向けて平坦状の面から成っていてもよい。
これによれば、傾斜面は平坦状であるので、導入溝部内に混入したコンタミは傾斜面を伝って外部により排出され易い。
【0009】
前記境界壁は、前記傾斜面よりも前記動圧発生溝部側に、径方向に延設された放射面を有していてもよい。
これによれば、被密封流体が径方向に延設された放射面を経て動圧発生溝部に進行するため、動圧発生溝部の機能を阻害しない。
【0010】
前記導入溝部は、前記被密封流体側に連通する開口部側が前記動圧発生溝部側よりも幅狭に形成されていてもよい。
これによれば、開口部が幅狭に形成されていることで、回転に伴い流動するコンタミは流入し難い。
【0011】
周方向に沿って複数並設された前記導入溝部は、無端状に延設された環状溝を介し互いに連通していてもよい。
これによれば、導入溝部内に混入したコンタミの流動性を更に高め、周方向に複数並設されたいずれかの導入溝部を排出溝部として排出しやすくなる。
【0012】
前記導入溝部は、前記被密封流体側且つ外径側に連通していてもよい。
これによれば、遠心力が外径方向に働くため、混入したコンタミを除去しやすい。
【0013】
前記導入溝部に連通するとともに前記被密封流体側に連通する排出溝部が延設されていてもよい。
これによれば、被密封流体に伴い導入溝部内に混入するコンタミの流動性を高め、排出溝部からもコンタミを被密封流体側に排出できる。
【0014】
前記導入溝部に連通する前記排出溝部は、該導入溝部よりも下流側に並設された動圧発生機構の排出機能を備えた導入溝部であってもよい。
これによれば、導入溝部に連通する排出溝部を、その下流側の導入溝部として兼用させることで、構造をコンパクトにできる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施例1におけるメカニカルシールを示す縦断面図である。
【
図2】静止密封環の摺動面を軸方向から見た図である。
【
図4】静止密封環の摺動面における要部拡大図である。
【
図5】導入溝部内に混入したコンタミを排出する状況を示した斜視図である。
【
図8】本発明の実施例2における静止密封環の摺動面を軸方向から見た図である。
【
図9】本発明の実施例3における静止密封環の摺動面を軸方向から見た図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明に係る摺動部品を実施するための形態を実施例に基づいて以下に説明する。
【実施例1】
【0017】
実施例1に係る摺動部品につき、
図1から
図5を参照して説明する。尚、本実施例においては、摺動部品がメカニカルシールである形態を例に挙げ説明する。また、メカニカルシールを構成する摺動部品の外径側を被密封液体側(高圧側)、内径側を大気側(漏れ側、低圧側)として説明する。尚、これに限らず、被密封液体側が低圧側で、漏れ側が高圧側であってもよいし、また被密封流体は、液体に限らず気体でもよく、例えば大気であっても構わない。また、説明の便宜上、図面において、摺動面に形成される溝等にドットを付すことがある。
【0018】
図1に示される一般産業機械用のメカニカルシールは、摺動面11,21の被密封液体側から大気側に向かって漏れようとする被密封液体Fを密封するインサイド形のものであって、回転軸1にスリーブ2を介して回転軸1と共に回転可能な状態で設けられた円環状の摺動部品である回転密封環20と、被取付機器のハウジング4に固定されたシールカバー5に非回転状態且つ軸方向移動可能な状態で設けられた摺動部品としての円環状の静止密封環10と、から主に構成され、ベローズ7によって静止密封環10が軸方向に付勢されることにより、静止密封環10の摺動面11と回転密封環20の摺動面21とが互いに密接摺動するようになっている。尚、回転密封環20の摺動面21は平坦面を成すものでも、凹み部が設けられているものでもよい。
【0019】
静止密封環10及び回転密封環20は、代表的にはSiC(硬質材料)同士またはSiC(硬質材料)とカーボン(軟質材料)の組み合わせで形成されるが、これに限らず、摺動材料はメカニカルシール用摺動材料として使用されているものであれば適用可能である。尚、SiCとしては、ボロン、アルミニウム、カーボン等を焼結助剤とした焼結体をはじめ、成分、組成の異なる2種類以上の相からなる材料、例えば、黒鉛粒子の分散したSiC、SiCとSiからなる反応焼結SiC、SiC-TiC、SiC-TiN等があり、カーボンとしては、炭素質と黒鉛質の混合したカーボンをはじめ、樹脂成形カーボン、焼結カーボン等が利用できる。また、上記摺動材料以外では、金属材料、樹脂材料、表面改質材料(コーティング材料)、複合材料等も適用可能である。
【0020】
図2に示されるように、静止密封環10に対して回転密封環20が矢印で示すように相対摺動するようになっており、静止密封環10の摺動面11には複数の動圧発生機構14が静止密封環10の周方向に均等に配設されている。摺動面11の動圧発生機構14以外の部分、より詳しくは動圧発生機構14よりも大気側の部分、及び周方向に隣接する動圧発生機構14の間の部分等は、平端面を成すランド12となっている。
【0021】
次に、動圧発生機構14の概略について
図2~
図4に基づいて説明する。尚、以下、静止密封環10及び回転密封環20が相対的に回転したときに、
図4の紙面左側を後述するレイリーステップ9A内を流れる被密封液体Fの下流側とし、
図4の紙面右側をレイリーステップ9A内を流れる被密封液体Fの上流側として説明する。
【0022】
動圧発生機構14は、被密封液体F側に連通する開口部15aを備え大気側に延びる導入溝部15と、導入溝部15の大気側端部から下流側に向けて静止密封環10と同心状に周方向に延びる動圧発生溝部としてのレイリーステップ9Aと、を備えている。また、導入溝部15は大気側の端部が閉塞しており、その大気側端面がレイリーステップ9Aの大気側端面と連続している。すなわち、動圧発生機構14は、導入溝部15、レイリーステップ9Aにより、摺動面11を直交する方向から見て略L字形状を成している。
【0023】
また、本実施例1の導入溝部15は、静止密封環10の径方向を基準としてレイリーステップ9Aに向けて傾斜するように外径方向に延設されている。また、導入溝部15を構成し、レイリーステップ9Aとの境界側に位置する境界壁18は、その全面に亘り平坦状に延設され、且つレイリーステップ9A側から開口部15a側に向けて、径方向を基準としてレイリーステップ9A側に傾斜する傾斜面18a、言い換えると内径側から外径側にいくにつれ外径側が内径側よりも下流側に位置する傾斜面18aから成り、該傾斜面18aは、導入溝部15とレイリーステップ9Aとの連通部分に形成される深さ方向の段差18bを備えている。更に、導入溝部15において、境界壁18に上流側で平行に対向する対向壁13が備えられている。尚、傾斜面18aは、平坦状に限らず凹状若しくは凸状に湾曲した曲面状であってもよい。
【0024】
また、レイリーステップ9Aは、上述の通り傾斜する導入溝部15に対応して、下流側の端部に回転方向に対して傾斜する壁部9aが形成されている。尚、壁部9aは、回転方向に傾斜することに限られるものではなく、例えば回転方向に対して直交していてもよいし、階段状に形成されていてもよい。
【0025】
また、導入溝部15の深さ寸法L10は、レイリーステップ9Aの深さ寸法L20よりも深くなっている(L10>L20)。具体的には、本実施例1における導入溝部15の深さ寸法L10は、100μmに形成されており、レイリーステップ9Aの深さ寸法L20は、5μmに形成されている。すなわち、導入溝部15とレイリーステップ9Aとの間には、導入溝部15における下流側の側面とレイリーステップ9Aの底面とにより深さ方向の段差18bが形成されている。尚、導入溝部15の深さ寸法がレイリーステップ9Aの深さ寸法よりも深く形成されていれば、導入溝部15及びレイリーステップ9Aの深さ寸法は自由に変更でき、好ましくは寸法L10は寸法L20の5倍以上である。
【0026】
尚、レイリーステップ9Aの底面は平坦面をなしランド12に平行に形成されているが、平坦面に微細凹部を設けることやランド12に対して傾斜するように形成することを妨げない。更に、レイリーステップ9Aの周方向に延びる2つの円弧状の面はそれぞれレイリーステップ9Aの底面に直交している。また、導入溝部15の底面は一様深さの平坦面をなしランド12に平行に形成されているが、平坦面に微細凹部を設けることやランド12に対して傾斜するように形成することを妨げない。例えば、導入溝部15の底面は、被密封液体側である開口部15aから大気側であるレイリーステップ9Aに向けて浅くなるようにテーパ状若しくは段差状に構成されてもよい。更に、導入溝部15の開口部15aに延びる2つの平面はそれぞれ導入溝部15の底面に直交している。
【0027】
次いで、静止密封環10と回転密封環20との相対回転時の動作について説明する。まず、回転密封環20が回転していない一般産業機械の非稼動時には、摺動面11,21間には摺動面11,21よりも被密封液体側の被密封液体Fが毛細管現象によって僅かに進入しているとともに、動圧発生機構14には導入溝部15の開口部15aで被密封液体側から流入した被密封液体Fによって満たされている。尚、被密封液体Fは気体と比べ粘度が高いため、一般産業機械の停止時に動圧発生機構14から大気側に漏れ出す量は少ない。
【0028】
一般産業機械の停止時した状態から、回転密封環20が静止密封環10に対して相対回転(
図2の黒矢印参照)すると、
図4に示されるように、被密封液体側の被密封液体Fが矢印H1に示すように導入溝部15から導入されるとともに、レイリーステップ9Aによって被密封液体Fが回転密封環20の回転方向に矢印H2に示すように追随移動するため、レイリーステップ9A内に動圧が発生するようになる。尚、レイリーステップ9Aの上流側に向かうにつれて漸次圧力が低くなっている。
【0029】
レイリーステップ9Aの下流側端部である壁部9a近傍が最も圧力が高くなり、摺動面11,21同士が離間するとともに、摺動面11に被密封液体Fの液膜が形成され、被密封液体Fは矢印H3に示すように壁部9a近傍からその周辺に流出する。これによれば、複数のレイリーステップ9A,9A,…の壁部9a,9a,…近傍で被密封液体Fの液膜が形成されるため、摺動面11,21間においていわゆる流体潤滑を成し、潤滑性が向上し、低摩擦化を実現している。このとき、上述したように特にレイリーステップ9Aの下流側で高圧となっているため、矢印H4に示すようにレイリーステップ9A近傍の被密封液体Fは、レイリーステップ9A内に略侵入しない。
【0030】
次いで、導入溝部15に混入したコンタミCが排出される動作を説明する。
図5に示されるように、動圧発生機構14に被密封液体Fが満たされている状態で回転密封環20が静止密封環10に対して相対回転すると、動圧発生機構14内の被密封液体Fは周方向の下流側に移動する。このとき、回転密封環20に対向する表面側の被密封液体Fは矢印H6に示すようにレイリーステップ9Aへと進入する流れが生じる一方、レイリーステップ9Aの底面より凹み量の大きい導入溝部15の底面側の被密封液体Fは矢印H7に示すように段差18bによりレイリーステップ9Aへの浸入を阻まれながら、傾斜している境界壁18に沿って被密封液体側へ移動する流れが生じる。この矢印H7で示す流れに乗じて、導入溝部15の開口部15a近傍に混入したコンタミCは、導入溝部15から静止密封環10の外部の被密封液体側に排出される。上記したように大部分のコンタミCは、レイリーステップ9Aに混入することなく、導入溝部15の外部に排出される。なお、極一部のコンタミCがレイリーステップ9Aに混入する場合があっても、壁部9aよりランド12を乗り越えて、該レイリーステップ9Aよりも下流側に並設された導入溝部15に形成された境界壁18に沿って外部に排出される。
【0031】
以上のように、導入溝部15のレイリーステップ9Aとの境界側に位置する境界壁18は、該境界壁18の少なくとも開口部15a側が径方向を基準にレイリーステップ9A側に傾斜して被密封液体側に延設された傾斜面18aを有している。このことから、静止密封環10及び回転密封環20の相対回転時に、被密封液体Fに伴い導入溝部15内に混入したコンタミCが境界壁18の傾斜面18aを伝って被密封液体側に排出し易くなるため、コンタミCが導入溝部15を経由してレイリーステップ9Aに進入する虞を防止し、摺動面11,21の潤滑性能及びシール機能を良好に保つことができる。
【0032】
また、傾斜面18aは、レイリーステップ9A側から被密封液体側に向けて平坦状の面から成るため、導入溝部15内に混入したコンタミCが平坦状の傾斜面18aを伝って外部により排出し易い。
【0033】
また、本実施例では、摺動面の被密封液体側に高圧の被密封液体Fが存在するインサイド形であり、導入溝部15は、被密封液体側且つ外径側に連通していることで、遠心力が外径方向に働くため、混入したコンタミCを除去しやすい。
【0034】
次いで、変形例を説明する。
図6に示されるように、変形例1の周方向に沿って複数並設された導入溝部15,15,…は、無端状に延設された環状溝19を介し互いに連通している。これによれば、導入溝部15内に混入したコンタミCの流動性を更に高め、周方向に複数並設されたいずれかの導入溝部15からコンタミCを排出することができる。尚、環状溝19の深さ寸法は導入溝部15の深さ寸法と略同一である。更に、環状溝19は無端状に限らず、少なくとも並設する2つの導入溝部15,15を連通するように配設されていてもよい。
【0035】
また、
図7に示されるように、変形例2の環状溝19より大気側の摺動面11には、逆レイリーステップ17Bを有する動圧発生機構16が備えられている。これによれば、回転密封環20が静止密封環10に対して相対回転し逆レイリーステップ17Bの上流側で負圧が発生すると、大気側に流出する被密封液体Fを逆レイリーステップ17Bが吸い込むことにより、被密封液体Fの大気への漏れを低減できる。尚、
図7に示されるような構造に限らず、静止密封環10の相対回転時に環状溝19より大気側にて負圧が発生可能な負圧発生機構が構成されていればよい。
【0036】
このように、変形例1,2において、導入溝部15に連通するとともに被密封液体側に連通する排出機能を備えた導入溝部が延設されているため、被密封液体Fに伴い導入溝部15内に混入するコンタミCの流動性を高め、排出溝部からもコンタミCを出せる。
【0037】
また、導入溝部15に連通する排出機能を備えた導入溝部は、該導入溝部15よりも下流側に並設された導入溝部15であるため、当該排出機能を備えた導入溝部を、その下流側の導入溝部15として兼用させることで、構造をコンパクトにできる。
【0038】
また、周方向に沿って複数並設された導入溝部15は、無端状に延設された環状溝19を介し互いに連通しているため、導入溝部15内に混入したコンタミCの流動性を更に高め、周方向に複数並設されたいずれかの導入溝部15を排出溝部として排出しやすくなる。
【実施例2】
【0039】
次に、実施例2に係る摺動部品につき、
図8を参照して説明する。尚、前記実施例1と同一構成で重複する構成の説明を省略する。
【0040】
図8に示されるように、静止密封環101に設けられる動圧発生機構141は、導入溝部151と、レイリーステップ91Aと、を備える。また、導入溝部151は大気側の端部が閉塞しており、その大気側端面はレイリーステップ91Aの大気側端面よりも大気側に位置している。導入溝部151を構成し、レイリーステップ91Aとの境界側に位置する境界壁181は、レイリーステップ91Aの被密封液体側端部から静止密封環101の径方向を基準としてレイリーステップ91Aに向けて傾斜するように外径方向に延設されている傾斜面181aと、該傾斜面181aよりもレイリーステップ91A側に径方向に延設された放射面としての段差181bと、を備えている。同様に、対向壁131についても、境界壁181の傾斜面181aに平行する傾斜面131aと、段差181bに平行する放射面131bとが備えられている。
【0041】
また、レイリーステップ91Aは、導入溝部151の段差181b及び放射面131bに関連づいて、下流側の端部に回転方向に対して直交する壁部91aが形成されている。尚、壁部91aは、回転方向に直交することに限られるものではなく、例えば回転方向に対して傾斜していてもよいし、階段状に形成されていてもよい。
【0042】
尚、周方向に沿って複数並設された導入溝部151,151,…は、無端状に延設された環状溝を介し互いに連通させることで、導入溝部151内に混入したコンタミCの流動性を更に高め、周方向に複数並設されたいずれかの導入溝部151を排出溝部として排出しやすくしてもよい。
【0043】
以上のように、境界壁181は、傾斜面181aよりもレイリーステップ91A側に、径方向に延設された放射面としての段差181bを有していることから、被密封液体Fが径方向に延設された段差181bを経てレイリーステップ91Aに進行するため、レイリーステップ91A溝部の機能を阻害しない。
【0044】
次いで、導入溝部151に混入したコンタミCが排出される動作を説明する。
図8拡大図に示されるように、動圧発生機構141に被密封液体Fが満たされている状態で回転密封環20が静止密封環101に対して相対回転すると、動圧発生機構141内の被密封液体Fは周方向の下流側に移動する。このとき、回転密封環20に対向する表面側の被密封液体Fは矢印H8に示すようにレイリーステップ91Aへと浸入する流れが生じる一方、レイリーステップ91Aの底面より底面側の被密封液体Fは矢印H9に示すように段差181bによりレイリーステップ91Aへの浸入を阻まれながら、径方向を基準としてレイリーステップ91A側に傾斜している傾斜面181aに沿って被密封液体側へ移動する矢印H9で示す流れが生じる。この矢印H9で示す流れに乗じて、導入溝部151の開口部15a近傍に混入したコンタミCは、導入溝部151の被密封液体側に排出される。上記したように大部分のコンタミCは、レイリーステップ91Aに混入することなく、導入溝部151の外部に排出されるが、極一部のコンタミCがレイリーステップ91Aに混入する場合があっても、壁部91aよりランド12を乗り越えて、該レイリーステップ91Aよりも下流側に並設された導入溝部151に形成された傾斜面181aに沿って排出される。
【実施例3】
【0045】
次に、実施例3に係る摺動部品につき、
図9を参照して説明する。尚、前記実施例2と同一構成で重複する構成の説明を省略する。
【0046】
図9に示されるように、静止密封環102に設けられる動圧発生機構142は、導入溝部152と、レイリーステップ9Aと、を備え、導入溝部152は大気側端部が環状溝19に連通している。導入溝部152は、境界壁18及び対向壁132によって構成され、境界壁18は段差18bを備える傾斜面18aを有し、対向壁132は境界壁18よりもレイリーステップ9A側に傾斜して被密封液体側に延設されている。
【0047】
また、レイリーステップ9Aは、上述の通り傾斜する導入溝部152に関連づいて、下流側の端部に回転方向に対して傾斜する壁部9aが形成されている。尚、壁部9aは、回転方向に傾斜することに限られるものではなく、例えば回転方向に対して直交していてもよいし、階段状に形成されていてもよい。
【0048】
尚、周方向に沿って複数併設された導入溝部152,152,…は、無端状に延設された環状溝19を介し互いに連通させることで、導入溝部151内に混入したコンタミCの流動性を更に高め、周方向に複数並設されたいずれかの導入溝部151を排出溝部として排出しやすくしているが、これに限らず環状溝19がなくてもよい。
【0049】
以上のように、導入溝部152は、被密封液体側に連通する開口部152a側がレイリーステップ9A側よりも幅狭に形成されていることから、開口部15aが幅狭に形成されていることで、被密封液体Fは静圧で流入し易く、且つ回転による動圧で流動するコンタミCは流入し難い。
【0050】
次いで、導入溝部152に混入したコンタミCが排出される動作を説明する。
図9の拡大図に示されるように、動圧発生機構142に被密封液体Fが満たされている状態で回転密封環20が静止密封環102に対して相対回転すると、動圧発生機構142内の被密封液体Fは周方向の下流側に移動する。このとき、回転密封環20に対向する表面側の被密封液体Fは矢印H10に示すようにレイリーステップ9Aへと浸入する流れが生じる一方、レイリーステップ9Aの底面より底面側の被密封液体Fは矢印H11に示すように段差18bによりレイリーステップ9Aへの浸入を阻まれながら、径方向を基準としてレイリーステップ9A側に傾斜している境界壁18に沿って被密封液体側へ移動する矢印H11で示す流れが生じる。この矢印H11で示す流れに乗じて、導入溝部152の開口部152a近傍に混入したコンタミCは、導入溝部152の被密封液体側に排出される。上記したように大部分のコンタミCは、レイリーステップ9Aに混入することなく、導入溝部152の外部に排出されるが、極一部のコンタミCがレイリーステップ9Aに混入する場合があっても、壁部9aよりランド12を乗り越えて、該レイリーステップ9Aよりも下流側に並設された導入溝部152に形成された境界壁18に沿って排出される。
【0051】
以上、本発明の実施例を図面により説明してきたが、具体的な構成はこれら実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更や追加があっても本発明に含まれる。
【0052】
例えば、前記実施例では、摺動部品として、一般産業機械用のメカニカルシールを例に説明したが、自動車やウォータポンプ用等の他のメカニカルシールであってもよい。また、メカニカルシールに限られず、すべり軸受などメカニカルシール以外の摺動部品であってもよい。
【0053】
また、前記実施例では、動圧発生機構を静止密封環にのみ設ける例について説明したが、動圧発生機構を回転密封環20にのみ設けてもよく、静止密封環と回転密封環の両方に設けてもよい。
【0054】
また、前記実施例では、摺動部品に同一形状の動圧発生機構が複数設けられる形態を例示したが、形状の異なる動圧発生機構が複数設けられていてもよい。また、動圧発生機構の間隔や数量などは適宜変更できる。
【符号の説明】
【0055】
1 回転軸
2 スリーブ
4 ハウジング
5 シールカバー
7 ベローズ
9A レイリーステップ(動圧発生溝部)
10 静止密封環(摺動部品)
11 摺動面
12 ランド
14 動圧発生機構
15 導入溝部
15a 開口部
18 境界壁
18a 傾斜面
19 環状溝
20 回転密封環
21 摺動面
91A レイリーステップ(動圧発生溝部)
181 境界壁
181a 傾斜面
181b 段差(放射面)