(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-12
(45)【発行日】2024-01-22
(54)【発明の名称】容量制御弁
(51)【国際特許分類】
F04B 27/18 20060101AFI20240115BHJP
【FI】
F04B27/18 B
(21)【出願番号】P 2021512304
(86)(22)【出願日】2020-04-02
(86)【国際出願番号】 JP2020015179
(87)【国際公開番号】W WO2020204134
(87)【国際公開日】2020-10-08
【審査請求日】2022-10-20
(31)【優先権主張番号】P 2019071633
(32)【優先日】2019-04-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000101879
【氏名又は名称】イーグル工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098729
【氏名又は名称】重信 和男
(74)【代理人】
【識別番号】100206911
【氏名又は名称】大久保 岳彦
(74)【代理人】
【識別番号】100204467
【氏名又は名称】石川 好文
(74)【代理人】
【識別番号】100148161
【氏名又は名称】秋庭 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100195833
【氏名又は名称】林 道広
(72)【発明者】
【氏名】葉山 真弘
(72)【発明者】
【氏名】福留 康平
(72)【発明者】
【氏名】神崎 敏智
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 渉
(72)【発明者】
【氏名】白藤 啓吾
【審査官】山崎 孔徳
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-003884(JP,A)
【文献】国際公開第2017/057160(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04B 27/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸入圧力の吸入流体が常時供給される吸入流体供給室および制御圧力の制御流体が常時供給される制御流体供給室が形成されたバルブハウジングと、
ソレノイドにより軸方向に駆動されるCS弁体および前記制御流体供給室と前記吸入流体供給室との連通路に設けられ前記CS弁体が接離可能なCS弁座により構成されるCS弁と、
前記制御流体供給室内に密封状に配置され、前記CS弁体を前記ソレノイドによる駆動方向とは反対方向に付勢する圧力駆動部と、を備え、
前記圧力駆動部は、軸方向に伸縮可能な感圧体からなり、
前記感圧体の内周面には吸入流体の吸入圧力が常時作用し、該感圧体の外周面には前
記制御流体の制御圧力が常時作用
し、前記制御圧力と吸入圧力との差圧により前記CS弁の開度を調整する容量制御弁。
【請求項2】
前記圧力駆動部の有効受圧面積が前記CS弁座の弁口の面積よりも大きい請求項1に記載の容量制御弁。
【請求項3】
前記感圧体を保持する保持部材を備え、前記保持部材には、前記感圧体の内部に連通する前記吸入流体の供給ポートが軸方向を向いて形成されている請求項1または2に記載の容量制御弁。
【請求項4】
前記CS弁体を前記ソレノイドの駆動方向とは反対方向に付勢する復帰バネを前記感圧体とは別に備え、前記ソレノイドの非駆動時には、前記CS弁体と前記感圧体とが非接触状態となっている請求項1または2に記載の容量制御弁。
【請求項5】
前記感圧体は、前記CS弁体を前記ソレノイドの駆動方向とは反対方向に付勢するバネを備え、前記バネは前記復帰バネよりもバネ定数が高い請求項4に記載の容量制御弁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作動流体の容量を可変制御する容量制御弁に関し、例えば、自動車の空調システムに用いられる容量可変型圧縮機の吐出量を圧力に応じて制御する容量制御弁に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の空調システムに用いられる容量可変型圧縮機は、エンジンにより回転駆動される回転軸、回転軸に対して傾斜角度を可変に連結された斜板、斜板に連結された圧縮用のピストン等を備え、斜板の傾斜角度を変化させることにより、ピストンのストローク量を変化させて流体の吐出量を制御するものである。この斜板の傾斜角度は、電磁力により開閉駆動される容量制御弁を用いて、流体を吸入する吸入室の吸入圧力Ps、ピストンにより加圧された流体を吐出する吐出室の吐出圧力Pd、斜板を収容した制御室の制御圧力Pcを利用しつつ、制御室内の圧力を適宜制御することで連続的に変化させ得るようになっている。
【0003】
容量可変型圧縮機の連続駆動時において、容量制御弁は、制御コンピュータにより通電制御され、ソレノイドで発生する電磁力により弁体を軸方向に移動させ、制御圧力Pcの制御流体が通過する制御ポートと吸入圧力Psの吸入流体が通過する吸入ポートとの間に設けられるCS弁を開閉して容量可変型圧縮機の制御室の制御圧力Pcを調整する通常制御を行っている。
【0004】
例えば、特許文献1に示される容量制御弁は、制御流体が供給される制御流体供給室、吸入流体が供給される吸入流体供給室を備えるバルブハウジングと、制御流体供給室と吸入流体供給室との間の連通路を開閉可能なCS弁と、から主に構成されており、CS弁により連通路を開閉することにより制御流体供給室の制御圧力Pcを調整する。この容量制御弁は、吸入圧力Psに応じて伸縮可能な感圧体が吸入流体供給室に配置されており、感圧体は、閉弁方向に移動するCS弁のCS弁体を開弁方向に付勢するようになっている。これによれば、ソレノイド駆動時に吸入圧力Psが高い場合には感圧体が収縮し、一方、吸入圧力Psが低い場合には感圧体が伸長するようになっているため、吸入圧力Psに応じてCS弁の開度を変更して制御圧力Pcを細かく調整できるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5983539号公報(第8頁、第3図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のような空調システムにあっては、空調システムの出力を変動させる操作が行われると、膨張弁の出力が増減し、容量可変型圧縮機の吸入室に供給される吸入流体の流量や吸入流体圧力も変動する。しかしながら、特許文献1の容量制御弁にあっては、感圧体が吸入圧力Psのみに応じて伸縮可能となっているため、空調システムの急激な出力変動操作が行われたときに、容量可変型圧縮機を目標の制御圧力Pcに調整するまでに時間がかかってしまう虞があった。
【0007】
本発明は、このような問題点に着目してなされたもので、急激な出力変動に対しても応答性の高い容量制御弁を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、本発明の容量制御弁は、
吸入圧力の吸入流体が供給される吸入流体供給室および制御圧力の制御流体が供給される制御流体供給室が形成されたバルブハウジングと、
ソレノイドにより軸方向に駆動されるCS弁体および前記制御流体供給室と前記吸入流体供給室との連通路に設けられ前記CS弁体が接離可能なCS弁座により構成されるCS弁と、
前記制御流体供給室内に密封状に配置され、前記CS弁体を前記ソレノイドによる駆動方向とは反対方向に付勢する圧力駆動部と、を備え、
前記圧力駆動部の一方側には前記制御流体が導入されており他方側には前記吸入流体が導入されている。
これによれば、圧力駆動部の一方側である外側に制御流体が作用し、他方側である内側に吸入圧力が作用する構造であるため、吸入流体の吸入圧力と制御流体の制御圧力との差圧によりCS弁の開度を調整することができるので、目標の制御圧力Pcに高い精度で調整でき、急激な出力変動に対しても応答性が高く、容量可変型圧縮器を迅速に目標の制御圧力Pcに制御できる。
【0009】
前記圧力駆動部の有効受圧面積が前記CS弁座の弁口の面積よりも大きくてもよい。
これによれば、ソレノイドの駆動時において、制御圧力が圧力駆動部をその駆動方向に抗する方向に作用するので、例えば圧縮型の圧力駆動部にあっては収縮させる方向に作用するので、制御圧力により吸入圧力を確実に緩和できる。
【0010】
前記圧力駆動部を保持する保持部材を備え、前記保持部材には、前記圧力駆動部の他方側の空間に連通する前記吸入流体の供給ポートが軸方向を向いて形成されていてもよい。
これによれば、供給ポートから吸入流体が軸方向に供給されるので、圧力駆動部に対して吸入流体の吸入圧力を伝えやすい。
【0011】
前記CS弁体を前記ソレノイドの駆動方向とは反対方向に付勢する復帰バネを前記圧力駆動部とは別に備え、前記ソレノイドの非駆動時には、前記CS弁体と前記圧力駆動部とが非接触状態となっていてもよい。
これによれば、ソレノイドの非駆動時に弁体と圧力駆動部とが非接触状態であるため、ソレノイド駆動時には弁体をスムーズに動作させることができるとともに、弁体と圧力駆動部とが非接触状態時には復帰バネにより制振性を確保できる。
【0012】
前記圧力駆動部は、前記CS弁体を前記ソレノイドの駆動方向とは反対方向に付勢するバネを備え、前記バネは前記復帰バネよりもバネ定数が高くてもよい。
これによれば、圧力駆動部にCS弁体が接触した状態では、復帰バネよりもバネ定数の高いバネの付勢力がCS弁体に支配的に作用するので、ソレノイドへの印加電流の制御幅を大きくしてCS弁の開度調整を細かに行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明に係る実施例1の容量制御弁の構造を示す断面図である。
【
図2】本発明の実施例1の容量制御弁の非通電状態においてCS弁が開放された様子を示す断面図である。
【
図3】本発明の実施例1の容量制御弁の通電状態において駆動ロッドが感圧体に接触した様子を示す断面図である。
【
図4】本発明の実施例1のCS弁の開閉時において、駆動ロッドにかかる付勢力の説明図である。
【
図5】本発明の実施例1の容量制御弁において吸入圧力と制御圧力との差圧が大きい場合を示す説明図である。
【
図6】本発明の実施例1の容量制御弁において吸入圧力と制御圧力との差圧が小さい場合を示す説明図である。
【
図7】(a)は本発明の実施例2の容量制御弁において吸入圧力と制御圧力との差圧が大きい場合を示す説明図、(b)は同じく吸入圧力と制御圧力との差圧が小さい場合を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に係る容量制御弁を実施するための形態を実施例に基づいて以下に説明する。
【実施例1】
【0015】
実施例1に係る容量制御弁につき、
図1から
図6を参照して説明する。以下、
図1の正面側から見て左右側を容量制御弁の左右側として説明する。
【0016】
本発明の容量制御弁Vは、自動車等の空調システムに用いられる図示しない容量可変型圧縮機に組み込まれ、冷媒である作動流体(以下、単に「流体」と表記する)の圧力を可変制御することにより、容量可変型圧縮機の吐出量を制御し空調システムを目標の冷却能力となるように調整している。
【0017】
先ず、容量可変型圧縮機について説明する。容量可変型圧縮機は、吐出室と、吸入室と、制御室と、複数のシリンダと、を備えるケーシングを有している。尚、容量可変型圧縮機には、吐出室と制御室とを直接連通する連通路が設けられており、この連通路には固定オリフィス9が設けられている(
図1参照)。
【0018】
また、容量可変型圧縮機は、ケーシングの外部に設置される図示しないエンジンにより回転駆動される回転軸と、制御室内において回転軸に対してヒンジ機構により偏心状態で連結される斜板と、斜板に連結され各々のシリンダ内において往復動自在に嵌合された複数のピストンと、を備え、電磁力により開閉駆動される容量制御弁Vを用いて、流体を吸入する吸入室の吸入圧力Ps、ピストンにより加圧された流体を吐出する吐出室の吐出圧力Pd、斜板を収容した制御室の制御圧力Pcを利用しつつ、制御室内の圧力を適宜制御することで斜板の傾斜角度を連続的に変化させることにより、ピストンのストローク量を変化させて流体の吐出量を制御している。
【0019】
図1に示されるように、容量可変型圧縮機に組み込まれる容量制御弁Vは、ソレノイド80を構成するコイル86に通電する電流を調整し、容量制御弁VにおけるCS弁50、すなわち制御ポートと吸入ポートとの連通を開閉する弁の開閉制御を行うとともに、圧力駆動部としての感圧体61を動作させ、制御室から吸入室に流出する流体を制御することで制御室内の制御圧力Pcを可変制御している。なお、吐出室の吐出圧力Pdの吐出流体が固定オリフィス9を介して制御室に常時供給されており、容量制御弁VにおけるCS弁50を閉塞させることにより制御室内の制御圧力Pcを上昇させられるようになっている。
【0020】
次いで、容量制御弁Vの構造について説明する。
図1に示されるように、容量制御弁Vは、金属材料または樹脂材料により形成されたバルブハウジング10と、軸方向に往復動自在に配置されたCS弁体51と、バルブハウジング10に設けられた制御流体供給室17に配置され、CS弁体51に軸方向への付勢力を付与する感圧体61と、バルブハウジング10に接続されCS弁体51に駆動力を及ぼすソレノイド80と、から主に構成されている。
【0021】
バルブハウジング10には、容量可変型圧縮機の吸入室と連通する吸入ポートとしてのPsポート13と、Psポート13から吸入流体が供給される吸入流体供給室16と、容量可変型圧縮機の制御室と連通する制御ポートとしてのPcポート15と、Pcポート15から制御流体が供給される制御流体供給室17と、吸入流体供給室16と制御流体供給室17とを連通する連通路14と、が形成されている。
【0022】
また、バルブハウジング10の軸方向左方端部には、軸方向に貫通する孔部10cが形成されており、該孔部10cは蓋部材11により閉塞されている。このバルブハウジング10と蓋部材11との間には、感圧体61が狭持されて保持されている。すなわち、蓋部材11は、感圧体61を保持する保持部材として機能している。また、蓋部材11には軸方向に貫通する供給ポート11aが形成されており、供給ポート11aは吸入室と連通している。尚、感圧体61は、蓋部材11またはバルブハウジング10に接着や溶接により固定されていてもよい。
【0023】
また、バルブハウジング10の軸方向右方端部には、軸方向に貫通するガイド孔10bが形成されており、後述する駆動ロッド83の軸方向左方端部が挿通され、該駆動ロッド83が軸方向に駆動するときのガイドとして機能している。
【0024】
ソレノイド80は、軸方向左方に開放する開口部81aを有するケーシング81と、ケーシング81の開口部81aに対して軸方向左方から挿入されケーシング81の内径側に固定される略円筒形状のセンタポスト82と、センタポスト82の挿通孔82cに挿通され軸方向に往復動自在な駆動ロッド83と、駆動ロッド83の軸方向右端部83cが挿嵌・固定される可動鉄心84と、センタポスト82と可動鉄心84との間に設けられ可動鉄心84をCS弁50の開弁方向である軸方向右方に付勢する復帰バネとしてのコイルスプリング85と、センタポスト82の外側にボビンを介して巻き付けられた励磁用のコイル86と、から主に構成されている。
【0025】
駆動ロッド83は、段付き円柱状に形成され、CS弁体51を兼ねており、軸方向左方から小径の軸部である軸方向左端部83a、軸方向左端部83aよりも大径の大径部83b、大径部83bよりも小径の軸方向右端部83cが形成されている。大径部83bの軸方向左端外径部53はCS弁座10aに接離可能となっている。すなわち、CS弁体51の軸方向左端外径部53とCS弁座10aとによりCS弁50を構成しており、CS弁体51がCS弁座10aに接離することで、CS弁50が開閉するようになっている。尚、ソレノイド80がOFFの状態にあっては、コイルスプリング85によりCS弁体51はCS弁50の開弁方向に付勢されている。
【0026】
感圧体61は、可撓性を有する金属材料または樹脂材料により形成され軸方向に伸縮可能な膜体62と、膜体62の内側に配置されるバネ63と、から主に構成されている。膜体62は、軸方向に直交する受圧部62aと、受圧部62aの周縁から軸方向左側に延びる側壁部62bと、側壁部62bの軸方向左端から外径方向に延びるフランジ部62cと、を備え断面ハット形に形成されており、フランジ部62cと蓋部材11との間にOリングが配置されバルブハウジング10に略密封状に取り付けられている。この膜体62の他方側の空間としての内部62sには、蓋部材11の供給ポート11aが連通して、供給ポート11aから吸入流体が流入可能となっている。すなわち、膜体62の内部S1には吸入流体が存在し、膜体62の一方側の空間としての外部には制御流体供給室17内の制御流体が存在している。また、バネ63は、コイルスプリング85のバネ定数K85よりもバネ定数K63が高いバネ(K63>K85)であり、膜体62の受圧部62aを軸方向右側に押圧するように付勢している。
【0027】
また、
図2に示されるように、感圧体61の有効受圧面積Aは、CS弁座10aの弁口としての連通路14の断面積Bよりも大きく形成されている(A>B)。
【0028】
次いで、容量制御弁Vの動作、主にCS弁50の開閉動作について説明する。
【0029】
先ず、容量制御弁Vの非通電状態について説明する。
図1および
図2に示されるように、容量制御弁Vは、非通電状態において、可動鉄心84がコイルスプリング85の付勢力により軸方向右方へと押圧されることで、CS弁体51がCS弁座10aから離間し、CS弁50が開放されている。
【0030】
このとき、CS弁体51には、軸方向右方に向けてコイルスプリング85の付勢力(Fsp1)と、CS弁体51の軸方向左端面に対する流体の圧力による力(FP1)が作用し、軸方向左方に向けてCS弁体51の軸方向右端面に対する流体の圧力による力(FP2)が作用している。すなわち、右向きを正として、CS弁体51には、力Frod=Fsp1+FP1-FP2が作用している。尚、CS弁50の開放時には、CS弁体51の軸方向左端面に対する流体の圧力による力(FP1)は、吸入流体供給室16内の流体の圧力による力であり、CS弁体51の軸方向右端面に対する流体の圧力による力(FP2)は、吸入流体供給室16からバルブハウジング10のガイド孔10bの内周面とCS弁体51の外周面との間の隙間を介して駆動ロッド83の背面側に回り込んだ流体の圧力による力である。吸入流体供給室16内の圧力は、吐出圧力Pdに比較して圧力が相対的に低い制御圧力Pcと吸入圧力Psに基づくものであるため、CS弁体51に対する圧力による力(FP1,FP2)の影響は小さい。
【0031】
次に、容量制御弁Vの通電状態について説明する。
図1および
図3に示されるように、容量制御弁Vは、通電状態、すなわち通常制御時、いわゆるデューティ制御時において、ソレノイド80に電流が印加されることにより発生する電磁力(F
sol)が力F
rodを上回る(F
sol>F
rod)と、可動鉄心84がセンタポスト82側、すなわち軸方向左側に引き寄せられ、可動鉄心84に固定されたCS弁体51が軸方向左方へ共に移動することにより軸方向左端部83aが感圧体61に接触する。
【0032】
軸方向左端部83aが感圧体61に接触するまでは、CS弁体51には、軸方向左方に電磁力(Fsol)、軸方向右方に力Frodが作用している。すなわち、右向きを正として、CS弁体51には、力Frod-Fsolが作用している。また、軸方向左端部83aが感圧体61に接触した以降は、感圧体61から軸方向右方に力(Fbel)がさらに加わることとなる。ここで、感圧体61から作用する力Fbelはバネ63の付勢力Fsp2から制御圧力Pcと吸入圧力Psとの差圧に基づく力FPc-Psを減じた力、すなわち右向きを正としてFbel=Fsp2-FPc-Psが作用している。尚、膜体62自体の付勢力を考慮する際には、バネ63自体の付勢力に膜体62自体の付勢力を加算すればよい。
【0033】
図4を参照して、CS弁体51には、容量制御弁Vの非通電状態において、軸方向右方に向けてコイルスプリング85の付勢力(F
sp1)が作用し駆動ロッド83は右側に押し付けられているので、駆動ロッド83の制振性が確保されている。また、容量制御弁Vの通電状態において、駆動ロッド83の軸方向左端部83aが感圧体61に接触するまでは、駆動ロッド83をスムーズに動作させることができる。また、駆動ロッド83の軸方向左端部83aが感圧体61に接触した後は、コイルスプリング85よりもバネ定数の高い感圧体61のバネ63の付勢力(F
sp2)が駆動ロッド83に支配的に作用するので、ソレノイド80への印加電流の制御幅が大きくなり、CS弁50の開度調整を細かに行うことができる。
【0034】
具体的には、駆動ロッド83の軸方向左端部83aと感圧体61とが接触状態のときには、高いスプリング荷重が作用しているため、単位印加電流当たりの駆動ロッド83のストロークは短くなり、CS弁50の開度を細かく調整しやすくなっている。
【0035】
次いで、ソレノイド80に所定の電流が印加された状態、つまりソレノイド80に所定の電磁力(Fsol1)が発生した状態における制御圧力と吸入圧力の変動について説明する。尚、ここでは、空調システムの出力を上昇させる操作が行われ、空調システムの膨張弁の出力が増加し、容量可変型圧縮機の吸入室に供給される吸入流体の流量や吸入圧力Psが増加したときの形態を例示する。
【0036】
図5に示されるように、ソレノイド80に所定の電磁力(F
sol1)が発生しCS弁50が閉塞された状態において、吸入圧力Psの増加が小さい場合には、感圧体61内の吸入圧力Psと制御流体供給室17内の制御圧力Pcとの差圧が大きい状態となる。したがって、感圧体61は、制御流体供給室17内の制御圧力Pcにより収縮しやすくなっており、CS弁体51がバルブハウジング10のCS弁座10aに着座し、CS弁50の閉塞状態が維持される。なお、CS弁50の閉塞時には、CS弁体51の軸方向左端面に対する流体の圧力による力(F
P1)は、Pcポート15の制御流体の制御圧力Pcによる力である。
【0037】
一方、
図6に示されるように、ソレノイド80に所定の電磁力(F
sol1)が発生しCS弁50が閉塞された状態において、吸入圧力Psの増加が大きい場合には、感圧体61内の吸入圧力Psと制御流体供給室17内の制御圧力Pcとの差圧が小さい状態となる。したがって、感圧体61は、
図5の状態よりも制御流体供給室17内の制御圧力Pcにより収縮し難くなっており、CS弁体51がバルブハウジング10のCS弁座10aから離間し、CS弁50が若干開放される。
【0038】
このように、感圧体61の内側に吸入圧力Psが作用し、感圧体61の外側に制御圧力Pcが作用する構造であるため、空調システムの膨張弁の出力が増加し、容量可変型圧縮機の吸入室に供給される吸入流体の吸入圧力Psが急激に高くなっても、感圧体61は制御流体の制御圧力Pcと吸入流体の吸入圧力Psとの差圧を利用し、CS弁50の開度を調整することができるので、急激な出力変動に対しても応答性が高く、容量可変型圧縮器を迅速に目標の制御圧力Pcに制御できる。
【0039】
また、感圧体61の有効受圧面積Aは、連通路14の断面積Bよりも大きく形成されているので、ソレノイド80の駆動時において、制御圧力Pcが感圧体61を収縮させる方向に作用し、制御圧力Pcにより吸入圧力Psを確実に緩和できる。
【0040】
また、蓋部材11には軸方向に貫通する供給ポート11aが形成されており、供給ポート11aから吸入流体が軸方向を向いて感圧体61内に供給されるので、感圧体61の受圧部62aに対して吸入流体の吸入圧力Psを即座に伝えることができる。
【0041】
また、バルブハウジング10にCS弁座10aとガイド孔10bとが一体に形成されているので、CS弁体51の動作の精度を高めることができる。
【実施例2】
【0042】
実施例2に係る容量制御弁につき、
図7を参照して説明する。尚、前記実施例1と同一構成で重複する構成の説明を省略する。
【0043】
図7に示されるように、本実施例において、CS弁150は、駆動ロッド831の軸方向左端部831a近傍から外径方向に張り出す張り出し部153と、バルブハウジング10の連通路14の軸方向左側の開口部における内径部に形成されるCS弁座110aと、により構成されている。すなわち、駆動ロッド831はCS弁体151を兼ねており、CS弁体151の張り出し部153とCS弁座110aとによりCS弁150を構成している。また、CS弁体151の張り出し部153は、制御流体供給室17内に配置されており、張り出し部153の軸方向右側面がCS弁座110aに接離することで、CS弁150が開閉するようになっている。また、駆動ロッド831は、ソレノイドを駆動させることで軸方向右側に移動するようになっており、駆動ロッド831の軸方向左端部831aは、感圧体611に接続されている。
【0044】
また、本実施例の復帰バネとしてのコイルスプリングは、図示しないが、駆動ロッド831をCS弁150の開弁方向である軸方向左方に付勢するように配置されている。すなわち、実施例1、2の容量制御弁Vはいずれも構造は異なるが常開型である。したがって、容量制御弁Vの非通電状態にあっては、可動鉄心84がコイルスプリングの付勢力により軸方向左方へと押圧されることで、CS弁体151の張り出し部153がCS弁座110aから離間し、CS弁150が開放される。尚、このとき、駆動ロッド831は、感圧体611の吸入圧力Psと制御流体供給室17内の制御圧力Pcとの差圧が大きい場合には、感圧体611の付勢力が駆動ロッド831にほとんど作用しないようになっている。
【0045】
図7(a)に示されるように、容量制御弁Vの通電状態において、感圧体611の吸入圧力Psと制御流体供給室17内の制御圧力Pcとの差圧が大きい場合には、感圧体611が収縮するので、駆動ロッド831を軸方向左方に引っ張る方向に感圧体611の付勢力が作用し、CS弁体151の張り出し部153がCS弁座110aから離間し、CS弁150が若干開放される。
【0046】
一方、
図7(b)に示されるように、容量制御弁Vの通電状態において、感圧体611の吸入圧力Psと制御流体供給室17内の制御圧力Pcとの差圧が小さい場合には、感圧体611が伸長するので、駆動ロッド831を軸方向右方に押し出す方向に感圧体611の付勢力が作用し、CS弁体151の張り出し部153がCS弁座110aに着座し、CS弁150が閉塞される。
【0047】
このような形式とすることで、制御室内の制御圧力Pcが高圧であるほど、ピストンのストローク量が増加し、制御室内の制御圧力Pcが低圧であるほど、ピストンのストローク量が減少する容量可変型圧縮機に対して有効とすることができる。
【0048】
以上、本発明の実施例を図面により説明してきたが、具体的な構成はこれら実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更や追加があっても本発明に含まれる。
【0049】
例えば、前記実施例では、CS弁体はソレノイド80のコイル86に貫通配置される駆動ロッドを兼ねる形態を説明したが、これに限らず、CS弁体が駆動ロットと別体に構成され駆動ロッドと軸方向に共に往復動自在となるように構成されていてもよい。
【0050】
また、前記実施例では、バルブハウジングの内周面にCS弁座とガイド孔とが一体に形成されるものとして説明したが、これに限らず、CS弁座を有するバルブハウジングとガイド孔を有するバルブハウジングとが別体に設けられていてもよい。
【0051】
また、ガイド部は、バルブハウジングに形成されるものに限らず、例えばセンタポスト82の挿通孔82cの一部に形成されていてもよい。
【符号の説明】
【0052】
10 バルブハウジング
10a CS弁座
11 蓋部材
11a 供給ポート
13 Psポート
14 連通路(弁口)
15 Pcポート
16 吸入流体供給室
17 制御流体供給室
50 CS弁
51 CS弁体
61 感圧体(圧力駆動部)
62s 内部(他方側の空間)
63 バネ
80 ソレノイド
83 駆動ロッド
85 コイルスプリング(復帰バネ)
110a CS弁座
150 CS弁
151 CS弁体
611 感圧体
831 駆動ロッド
Pc 制御圧力
Pd 吐出圧力
Ps 吸入圧力
V 容量制御弁