IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ テイカ株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-酸化チタン粉体及びその製造方法 図1
  • 特許-酸化チタン粉体及びその製造方法 図2
  • 特許-酸化チタン粉体及びその製造方法 図3
  • 特許-酸化チタン粉体及びその製造方法 図4
  • 特許-酸化チタン粉体及びその製造方法 図5
  • 特許-酸化チタン粉体及びその製造方法 図6
  • 特許-酸化チタン粉体及びその製造方法 図7
  • 特許-酸化チタン粉体及びその製造方法 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-12
(45)【発行日】2024-01-22
(54)【発明の名称】酸化チタン粉体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 23/047 20060101AFI20240115BHJP
   A61K 8/29 20060101ALI20240115BHJP
   A61Q 1/00 20060101ALI20240115BHJP
   C09C 1/36 20060101ALI20240115BHJP
   C09C 3/06 20060101ALI20240115BHJP
   C09C 3/08 20060101ALI20240115BHJP
   C09D 201/00 20060101ALI20240115BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20240115BHJP
   C09D 7/62 20180101ALI20240115BHJP
   C09D 11/037 20140101ALI20240115BHJP
【FI】
C01G23/047
A61K8/29
A61Q1/00
C09C1/36
C09C3/06
C09C3/08
C09D201/00
C09D7/61
C09D7/62
C09D11/037
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2021519455
(86)(22)【出願日】2020-05-13
(86)【国際出願番号】 JP2020019093
(87)【国際公開番号】W WO2020230812
(87)【国際公開日】2020-11-19
【審査請求日】2023-04-11
(31)【優先権主張番号】P 2019091248
(32)【優先日】2019-05-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000215800
【氏名又は名称】テイカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002206
【氏名又は名称】弁理士法人せとうち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】江尻 和正
(72)【発明者】
【氏名】柴田 和也
(72)【発明者】
【氏名】橋爪 裕香
【審査官】廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2005/087372(WO,A1)
【文献】特開2006-089343(JP,A)
【文献】特開2011-120998(JP,A)
【文献】特表2018-535177(JP,A)
【文献】特開2016-108267(JP,A)
【文献】国際公開第2005/092797(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 1/00-23/08
A61K 8/00,8/29
A61Q 1/00
C09C 1/36、3/06,3/08、3/12
C09D 201/00
C09D 7/61、7/62、11/037
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2価の硫黄原子(S2-)がドープされてなり、かつX線回折測定におけるルチル型結晶のピーク強度(I)に対するアナタース型結晶のピーク強度(I)の比(I/I)が0.1以下である、酸化チタン粉体。
【請求項2】
前記X線回折測定においてアナタース型結晶のピークが観察されない請求項1に記載の酸化チタン粉体。
【請求項3】
硫黄の含有量が500~6000ppmである請求項1又は2に記載の酸化チタン粉体。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載の酸化チタン粉体であって、前記粉体に含まれる粒子の、平均短軸長さが4~13nmであり、かつ平均アスペクト比が2~7である酸化チタン粉体。
【請求項5】
比表面積が110~300m/gである、請求項1~4のいずれかに記載の酸化チタン粉体。
【請求項6】
表色系におけるL値が94~99であり、a値が-2~1であり、b値が2~10である、請求項1~5のいずれかに記載の酸化チタン粉体。
【請求項7】
請求項1~6のいずれかに記載の酸化チタン粉体であって、前記粉体に含まれる粒子の表面を、無機化合物又は有機化合物の層で被覆してなる酸化チタン粉体。
【請求項8】
前記粒子の表面を無機化合物の層で被覆してなる酸化チタン粉体であって、該無機化合物が、アルミニウム、マグネシウム、カルシウム、ケイ素、亜鉛、チタニウム、ジルコニウム、鉄、セリウム及び錫からなる群から選択される少なくとも一種の元素を含む、請求項7に記載の酸化チタン粉体。
【請求項9】
前記粒子の表面を有機化合物の層で被覆してなる酸化チタン粉体であって、該有機化合物が、脂肪酸又は該脂肪酸の塩、シリコーン系化合物、カップリング剤及びフッ素化合物からなる群から選択される少なくとも一種である、請求項7に記載の酸化チタン粉体。
【請求項10】
請求項1~9のいずれかに記載の酸化チタン粉体を分散媒に分散させてなる分散体。
【請求項11】
請求項1~9のいずれかに記載の酸化チタン粉体を含有する化粧料。
【請求項12】
請求項1~9のいずれかに記載の酸化チタン粉体を含有する塗料。
【請求項13】
請求項1~9のいずれかに記載の酸化チタン粉体を含有するインキ。
【請求項14】
請求項1~9のいずれかに記載の酸化チタン粉体を外添剤として含有するトナー。
【請求項15】
アナタース型結晶を含有する含水酸化チタンの水分散液に、該含水酸化チタン中のチタン元素のモル数の2~20倍の水酸化ナトリウムを加えて60~120℃に加熱してチタン酸ナトリウムを得るアルカリ化工程、
チタン酸ナトリウムの水分散液に、該水分散液中の過剰のアルカリを中和しさらに該水分散液を酸性にできる量の塩酸を加えてから50~105℃に加熱し、ルチル型結晶を含む酸化チタンを得る酸性化工程、及び
該ルチル型結晶を含む酸化チタンを加熱して70~300℃で乾燥する乾燥工程を有する、酸化チタン粉体の製造方法であって;
前記アルカリ化工程の後かつ前記酸性化工程の前のタイミングで、酸化チタン(TiO )の量に対して質量比で0.005~0.1の量の、亜硫酸、二亜硫酸塩又は硫酸を添加することを特徴とする、請求項1~6のいずれかに記載の酸化チタン粉体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化チタン粉体、その用途及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
紫外線による日焼けが肌に対し悪影響を及ぼすことから、日焼け止め化粧料が広く用いられている。また、日焼け止め化粧料のみならず、メークアップ化粧料においても紫外線遮蔽効果が求められることが多くなっている。これに対し、酸化チタンや酸化亜鉛のような無機粒子や、有機系紫外線吸収剤を配合した化粧料が開発されている。中でも酸化チタンは紫外線の遮蔽効果が高い上に有機系紫外線吸収剤のような皮膚トラブルを起こしにくいので、広く用いられている。特に、粒子サイズが数十nm以下であるような酸化チタン微粒子は、寸法が光の波長よりも小さいために可視光の透過性に優れていて、これを含有する化粧料は、酸化チタン由来の白っぽさが低減され、使用時の透明感に優れている(特許文献1~3を参照)。
【0003】
しかしながら、透明性を向上させるためにより微細化、高分散化するほど、レイリー散乱の影響を受けやすくなる。レイリー散乱の強度は粒子が小さくなるほど強く、青い光が赤い光よりも散乱されやすいので、微粒子酸化チタンを含む化粧料を肌に塗布した際に青みが感じられることになる。青白い色彩では、肌の色が不健康そうに見えるので化粧料としては好ましくない。
【0004】
これに対し、微量の酸化鉄(Fe)を含有させることによって、青みを打ち消す方策がある。しかしながら酸化鉄は青の補色である黄色だけではなく、赤色も呈するために、化粧料がくすんだ色合いになることが避けられず、より優れた方策が望まれている。
【0005】
一方、非特許文献1には、硫黄をドープした酸化チタンの光触媒が記載されている。そこでは、チオ尿素を硫黄源として酸化チタンが合成されている。合成当初のアナタース型結晶のみを含む酸化チタン粒子においては、ESCAで2価の硫黄原子(S2-)がドープされていることが確認されている。これを500℃で焼成した際には、結晶形態がアナタース型結晶のままで、2価の硫黄原子(S2-)が消失し、代わりに4価の硫黄原子(S4+)がドープされた酸化チタン粒子が得られた。またこれを600~700℃で焼成することによって、ルチル型結晶を含み、4価の硫黄原子(S4+)がドープされた酸化チタン粒子が得られた。そして4価の硫黄原子(S4+)をドープすることによって、可視光を吸収することができるようになり、可視光応答性の光触媒粒子として有用であると記載されている。しかしながら、ルチル型結晶を主成分として含み、2価の硫黄原子(S2-)がドープされた酸化チタン粒子については記載されていない。
【0006】
非特許文献2には、硫化チタン(TiS)を加熱酸化することによって、2価の硫黄原子(S2-)がドープされた酸化チタンが得られることが記載されている。2価の硫黄原子(S2-)がドープされることによって、吸収端が長波長側にシフトし、可視光応答性の光触媒粒子として有用であると記載されている。600℃で加熱した例が記載されているが、酸化チタンに含まれる結晶はほとんどアナタース型であり、ルチル型結晶は無視できる量しか形成されていない。したがって、非特許文献2には、ルチル型結晶を主成分として含み、2価の硫黄原子(S2-)がドープされた酸化チタン粒子については記載されていない。非特許文献1も非特許文献2も、光触媒の可視光応答性を向上させることを目指した文献であり、光触媒活性の低いルチル型結晶を含む酸化チタン粒子をターゲットとしたものではない。
【0007】
また、特許文献4には、ルチル型酸化チタンとチオ尿素との混合物を焼成処理することにより、ルチル型酸化チタンに炭素原子がC4+としてドープされているとともに、硫黄原子がS4+としてドープされているルチル型酸化チタンが記載されている。この酸化チタンは、可視光応答性の光触媒粒子として有用であると記載されている。しかしながら、特許文献4には、2価の硫黄原子(S2-)がドープされた酸化チタン粒子については記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2010-173863号公報
【文献】特開2011-001199号公報
【文献】特開2014-084251号公報
【文献】特開2006-089343号公報
【非特許文献】
【0009】
【文献】T. Ohnoら、Applied Catalysis、A: General、265、(2004)、p115-121
【文献】T. Umebayashiら、Applied Physics Letters、vol.81、no.3、(2002)、p454-456
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、ルチル型結晶を主成分とし、2価の硫黄原子(S2-)がドープされてなる酸化チタン粉体を提供することを目的とするものである。これにより、レイリー散乱に由来する青みを打ち消し、透明性が良好で色調の良好な分散体、特に化粧料を提供することを目的とする。さらに、このような酸化チタン粒子の好適な製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題は、2価の硫黄原子(S2-)がドープされてなり、かつX線回折測定におけるルチル型結晶のピーク強度(I)に対するアナタース型結晶のピーク強度(I)の比(I/I)が0.1以下である、酸化チタン粉体を提供することによって解決される。
【0012】
このとき、前記X線回折測定においてアナタース型結晶のピークが観察されないことが好ましい。硫黄の含有量が500~6000ppmであることも好ましい。前記粉体に含まれる粒子の、平均短軸長さが4~13nmであり、かつ平均アスペクト比が2~7であることも好ましい。比表面積が110~300m/gであることも好ましい。また、L表色系におけるL値が94~99であり、a値が-2~1であり、b値が2~10であることも好ましい。
【0013】
好適な実施態様では、前記粉体に含まれる粒子の表面を、無機化合物又は有機化合物の層で被覆してなる。このとき、前記粒子の表面を無機化合物の層で被覆してなる酸化チタン粉体であって、該無機化合物が、アルミニウム、マグネシウム、カルシウム、ケイ素、亜鉛、チタニウム、ジルコニウム、鉄、セリウム及び錫からなる群から選択される少なくとも一種の元素を含むことが好ましい。また、前記粒子の表面を有機化合物の層で被覆してなる酸化チタン粉体であって、該有機化合物が、脂肪酸又はその塩、シリコーン系化合物、カップリング剤及びフッ素化合物からなる群から選択される少なくとも一種であることも好ましい。
【0014】
前記酸化チタン粉体を分散媒に分散させてなる分散体が、好適な実施態様である。前記酸化チタン粉体を含有する、化粧料、塗料、インキも、好適な実施態様である。また、前記酸化チタン粉体を外添剤として含有するトナーも好適な実施態様である。
【0015】
上記課題は、含水酸化チタンの水分散液にアルカリ金属水酸化物を加えて、アルカリ金属チタン酸塩を得るアルカリ化工程、該アルカリ金属チタン酸塩の水分散液に塩酸を加えてルチル型結晶を含む酸化チタンを得る酸性化工程、及び該ルチル型結晶を含む酸化チタンを加熱して乾燥する乾燥工程を有する、酸化チタン粉体の製造方法であって;前記アルカリ化工程の後かつ前記乾燥工程の前のタイミングで、亜硫酸、二亜硫酸、硫酸又はそれらの塩を添加することを特徴とする、前記酸化チタン粉体の製造方法を提供することによっても解決される。
【0016】
このとき、添加される亜硫酸、二亜硫酸、硫酸又はそれらの塩の量が、酸化チタン(TiO)の量に対して質量比で0.005~0.1であることが好ましい。また、前記製造方法で得られた酸化チタン粉体を、無機化合物又は有機化合物の層で被覆することも好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明の酸化チタン粉体は、ルチル型結晶を主成分とし、2価の硫黄原子(S2-)がドープされてなるものである。これにより、レイリー散乱に由来する青みを打ち消すことができ、透明性が良好で色調の良好な分散体、特に化粧料を提供することができる。また、本発明の製造方法によれば、そのような酸化チタン粉体を簡便に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施例1で得られた酸化チタン粉体のX線回折測定のチャートである。
図2】実施例3で得られた酸化チタン粉体のX線回折測定のチャートである。
図3】実施例1で得られた酸化チタン粉体のESCA測定のチャートである。
図4】実施例5で得られた酸化チタン粉体のESCA測定のチャートである。
図5】比較例1で得られた酸化チタン粉体のESCA測定のチャートである。
図6】比較例3で得られた酸化チタン粉体のESCA測定のチャートである。
図7】実施例1で得られた酸化チタン粉体の透過型電子顕微鏡(TEM)写真である。
図8】実施例1、比較例1及び比較例8で得られた酸化チタン粉体の吸光度のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の酸化チタン粉体は、2価の硫黄原子(S2-)がドープされてなり、かつX線回折測定におけるルチル型結晶のピーク強度(I)に対するアナタース型結晶のピーク強度(I)の比(I/I)が0.1以下であるものである。このような酸化チタン粉体は、本発明者らが鋭意検討することによって初めて製造することができたものである。以下、詳細に説明する。
【0020】
本発明の酸化チタン粉体においては、X線回折測定におけるルチル型結晶のピーク強度(I)に対するアナタース型結晶のピーク強度(I)の比(I/I)が0.1以下である。アナタース型結晶の含有率が高いと、光触媒活性が高くなるので、紫外線や可視光に晒される用途に用いられた場合に、酸化チタン粒子と接触する有機物を劣化させやすい。特に、酸化チタンを化粧料に配合する場合には、肌を刺激してトラブルを生じさせやすいので望ましくない。
【0021】
ここで、ルチル型結晶のピーク強度(I)は、X線回折測定における2θ=27.5°付近にある、ルチル型酸化チタン(110面)のピーク強度(I)である。また、アナタース型結晶のピーク強度(I)は、2θ=25.3°付近にある、アナタース型酸化チタン(101面)のピーク強度(I)である。これらのピーク強度は、本願明細書の実施例に記載のX線回折装置又はそれと同等の装置を用い、本願明細書の実施例に記載の測定条件又はそれと同等の測定条件によって得ることができる。X線回折測定チャートに現れる各ピークは独立したピークである必要はなく、ルチル型結晶のピークのショルダーピークとしてアナタース型結晶のピークが観察されていてもよい。装置に付属の解析ソフトウェアによってピーク分離されて、それぞれのピークの強度が算出される。
【0022】
比(I/I)は、0.05以下であることが好ましく、前記X線回折測定においてアナタース型結晶のピークが観察されないことがより好ましい。ここで、アナタース型結晶のピークが観察されないとは、本願実施例に記載されている条件で測定した時にアナタース型結晶のピークが検出されないということである。本実施例の条件においては、比(I/I)が0.03未満である。
【0023】
本発明の酸化チタン粉体は、2価の硫黄原子(S2-)がドープされていることが大きな特徴である。二酸化チタン(TiO)中にドープされている硫黄の価数については、非特許文献1や非特許文献2に説明されている。それらの文献によれば、S2-がドープされている場合には、二酸化チタン(TiO)の結晶中において、酸素原子(O)が硫黄原子(S)に置き換わっていると推測される。また、4価の硫黄原子(S4+)がドープされている場合には、二酸化チタンの結晶中において、チタン原子(Ti)が硫黄原子(S)に置き換わっていると推測される。また、二酸化チタン粒子の表面付近には、6価の硫黄原子(S6+)が存在することもある。硫黄原子の価数は、ESCA(Electron Spectroscopy for Chemical Analysis)測定によって確認することができる。具体的には、2価の硫黄原子(S2-)の2p軌道の結合エネルギーのピークは161eV付近に観察される。一方、S4+及びS6+の2p軌道の結合エネルギーのピークは167~168eVに観察される。
【0024】
2価の硫黄原子(S2-)がドープされていることは、ESCA測定において、結合エネルギー161eV付近にピークが観察されることによって裏付けられる。具体的には、本願明細書の実施例と同様の条件で測定した場合に、結合エネルギー161eV付近にピークの存在が明らかに認められればよい。本発明の酸化チタン粉体では、酸化チタン粒子の表面をエッチングした後の粒子内部にS2-由来のピークが観察される。図3図4で示されるように、本発明の酸化チタン粉体は、表面にはS4+やS6+が存在して、内部にはS2-が存在することが多い。この理由は定かではないが、最表面では2価の硫黄原子(S2-)が酸化されてS4+やS6+に変化しているのかもしれない。
【0025】
2価の硫黄原子(S2-)がドープされることによって、ドープされていない酸化チタンに比べて、長波長の光を吸収するようになり、紫外線だけでなく青色の可視光も吸収するようになる。そのため、本発明の酸化チタン粉末は黄色を呈する。
【0026】
紫外線を遮蔽するための化粧料が、可視光の波長よりも小さい寸法の酸化チタン微粒子を含む場合には、酸化チタン由来の白っぽさが低減され、使用時の透明感に優れている。しかしながら、粒子が小さいためにレイリー散乱が生じて青い光が散乱し、化粧料を肌に塗布した際に青みが感じられるという課題があった。これに対し、本発明の酸化チタン粉体は、黄色を呈しているために青色を打ち消すことができ、色調のよい、透明感に優れた化粧料を提供することができる。この色調は、化粧料以外の塗料、インキ、トナーなどでも有用である。
【0027】
本発明の酸化チタン粉体の、L表色系におけるL値が94~99であり、a値が-2~1であり、b値が2~10であることが好ましい。L値が94以上であることにより、くすみのない白度の高い粉体とすることができる。L値は、より好適には95以上であり、さらに好適には96以上であり、特に好適には97以上である。また、a値が1以下であることによって赤みが抑制される。a値は、より好適には0以下である。さらに、b値が2以上であることによって効果的に青みを打ち消すことができる。b値は、より好適には3以上であり、さらに好適には4以上である。一方、b値が10を超えると黄色が濃すぎる場合がある。b値は、より好適には8以下であり、さらに好適には6以下である。
【0028】
本発明の酸化チタン粉体の硫黄含有量が500~6000ppmであることが好ましい。この硫黄含有量(ppm)は、粉体の質量に対する硫黄元素の質量であり、S2-、S4+、S6+など全ての価数の硫黄原子を含む。硫黄含有量が500ppm以上であることによって、効果的に青みを打ち消すことができる。硫黄含有量はより好適には1000ppm以上であり、さらに好適には1500ppm以上である。一方、硫黄含有量はより好適には5000ppm以下である。
【0029】
また、本発明の酸化チタン粉体の鉄含有量が300ppm以下であることが好ましい。この鉄含有量(ppm)は、粉体の質量に対する鉄元素の質量である。鉄含有量が300ppm以下であることによって、くすみのない透明感に優れた分散体、特に化粧料を得ることができる。鉄含有量はより好適には200ppm以下であり、さらに好適には150ppm以下である。鉄含有量が多すぎると、酸化チタン粒子の凝集を引き起こし、透明感が悪化するおそれがある。
【0030】
本発明の酸化チタン粒子の、平均短軸長さが4~13nmであり、かつ平均アスペクト比が2~7であることが好ましい。ここで、平均アスペクト比は(平均長軸長さ/平均短軸長さ)で求められる値である。TEM写真を撮影し、粒子を200個以上計測することによって、平均短軸長さ(nm)と平均アスペクト比を求めることができる。平均短軸長さが13nm以下であることによって、白っぽさが低減され、透明感に優れた分散体、特に化粧料を得ることができる。平均短軸長さは、より好適には12nm以下であり、さらに好適には11nm以下である。一方、平均短軸長さが4nm以下の酸化チタン粒子は合成が困難であり、より好適には5nm以上である。
【0031】
本発明の酸化チタン粉体の比表面積が110~300m/gであることが好ましい。比表面積が110m/g以上であることによって、白っぽさが低減され、透明感に優れた分散体、特に化粧料を得ることができる。比表面積は、より好適には130m/g以上である。
【0032】
以下、本発明の酸化チタン粉体の製造方法について説明する。好適な製造方法は、含水酸化チタン(TiO・nHO)の水分散液にアルカリ金属水酸化物を加えて、アルカリ金属チタン酸塩を得るアルカリ化工程、該アルカリ金属チタン酸塩の水分散液に塩酸を加えてルチル型結晶を含む酸化チタン(TiO)を得る酸性化工程、及び該ルチル型結晶を含む酸化チタンを加熱して乾燥する乾燥工程を有する、酸化チタン粉体の製造方法であって;前記アルカリ化工程の後かつ前記乾燥工程の前のタイミングで、亜硫酸、二亜硫酸、硫酸又はそれらの塩を添加することを特徴とするものである。
【0033】
前記アルカリ化工程では、含水酸化チタン(二酸化チタン水和物:TiO・nHO)の水分散液にアルカリ金属水酸化物を加えて、アルカリ金属チタン酸塩を得る。このとき用いられる含水酸化チタンの製造方法は特に限定されないが、硫酸チタニル(TiOSO)水溶液を加熱して加水分解することによって製造されたものなどを用いることができる。こうして得られる含水酸化チタンは通常アナタース型結晶を含有する。
【0034】
前記含水酸化チタンの水分散液に加えるアルカリ金属水酸化物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム及び水酸化リチウムが挙げられるが、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムが好ましく、水酸化ナトリウムが特に好ましい。この時加えられるアルカリ金属水酸化物のモル数は、含水酸化チタン中のチタン元素のモル数の2~20倍であることが好ましい。またこの時の加熱温度は60~120℃であることが好ましい。これにより、アルカリ金属チタン酸塩の水分散液が得られる。アルカリ金属チタン酸塩としては、チタン酸ナトリウム(NaTi)、チタン酸カリウム、チタン酸リチウムが挙げられる。
【0035】
アルカリ化工程の後の酸性化工程では、前記アルカリ金属チタン酸塩の水分散液に塩酸を加えてルチル型結晶を含む酸化チタン(TiO)を得る。塩酸を加えて水分散液を酸性にすることによって、ルチル型結晶を含む酸化チタン粒子が分散した水分散体を得ることができる。塩酸を加えてから加熱することが好ましく、好適な加熱温度は50~105℃である。また、塩酸の添加量は、水分散液中の過剰のアルカリを中和し、さらに水分散液を酸性にできる量である。
【0036】
酸性化工程の後の乾燥工程では、酸性化工程で生成した酸化チタン粒子を加熱して水分を除き、乾燥させる。好適な乾燥温度は70~300℃である。
【0037】
本発明の酸化チタン粉体の製造方法においては、アルカリ化工程の後かつ乾燥工程の前のタイミングで、亜硫酸、二亜硫酸、硫酸又はそれらの塩を添加することが大きな特徴である。これらの含硫黄化合物を添加することによって、2価の硫黄原子(S2-)がドープされた酸化チタン粉体を得ることができる。本願明細書の比較例に示されるように、チオ尿素やメタンスルホン酸などの含硫黄化合物を添加しても、2価の硫黄原子(S2-)がドープされた酸化チタン粉体を得ることはできなかった。亜硫酸、二亜硫酸、硫酸又はそれらの塩を添加することによって、得られる酸化チタンに2価の硫黄原子(S2-)がドープされる理由は明らかではない。亜硫酸と二亜硫酸が4価の硫黄原子(S4+)を含み、硫酸が6価の硫黄原子(S6+)を含むにもかかわらず、酸化チタン結晶の中に2価の硫黄原子(S2-)として取りこまれることは驚きである。
【0038】
これらの含硫黄化合物をスラリーに添加するタイミングは、アルカリ化工程の直後であってもよいし、乾燥工程の直前であってもよいし、その間の任意のタイミングであってもよい。これらのいずれのタイミングで含硫黄化合物を添加しても、2価の硫黄原子(S2-)がドープされた酸化チタン粉体が得られることを、本願の発明者らは確認している。中でも、アルカリ化工程の後に含硫黄化合物を添加し、その後塩酸を加えて酸性化する方法や、アルカリ化工程の後の酸性化工程において、塩酸の一部を添加してから含硫黄化合物を添加し、その後残りの塩酸を添加する方法を採用することが好ましい。
【0039】
添加される化合物は、亜硫酸、二亜硫酸、硫酸又はそれらの塩である。ここで、アルカリ金属チタン酸塩の粒子が含まれる水分散体に、塩を形成していない亜硫酸や硫酸を添加した場合には、両者が急激に反応してアナタース型結晶を生じるおそれがあるので、亜硫酸塩、二亜硫酸塩、又は硫酸塩として添加することが好ましい。分散体の青みを効果的に抑制できる観点からは、亜硫酸塩又は二亜硫酸塩が好ましく、亜硫酸塩がより好ましい。このときの塩のカチオン種としては、アルカリ金属イオンであることが好ましく、ナトリウムイオンであることがより好ましい。具体的には、亜硫酸ナトリウム(NaSO)、二亜硫酸ナトリウム(Na)、硫酸ナトリウム(NaSO)が挙げられる。
【0040】
添加される亜硫酸、二亜硫酸、硫酸又はそれらの塩の量が、酸化チタン(TiO)の量に対して質量比で0.005~0.1であることが好ましい。ここでの酸化チタン(TiO)の量は、これらの含硫黄化合物が添加されるスラリー中のチタン元素のモル数にTiOの式量を掛けたものであり、アルカリ金属チタン酸塩や酸化チタンに含まれるチタン元素の合計量に基づくものである。上記質量比が0.005以上であることによって、青みを効果的に打ち消すことができる。質量比はより好適には0.01以上である。一方、上記質量比が0.1を超えるとアナタース型結晶が含まれるおそれがあり、質量比はより好適には0.07以下である。
【0041】
前記乾燥工程の後、必要に応じて粉砕することにより、本発明の酸化チタン粉体が得られる。本発明の酸化チタン粉体は、このまま各種の用途に用いることができるが、表面を被覆することが好ましい。すなわち、本発明の好適な実施態様は、前記粉体に含まれる酸化チタン粒子の表面を、無機化合物又は有機化合物の層で被覆してなる酸化チタン粉体である。
【0042】
酸化チタン粒子を被覆する無機化合物としては、アルミニウム、マグネシウム、カルシウム、ケイ素、亜鉛、チタニウム、ジルコニウム、鉄、セリウム及び錫からなる群から選択される少なくとも一種の元素を含むものであることが好ましい。これらの元素を含む化合物で被覆することによって、酸化チタン粒子の耐久性と分散安定性を改善することができる。特に好適なものがアルミニウム化合物であり、水酸化アルミニウムの形で被覆することが好ましく、これにより、分散安定性が改善されるとともに、酸化チタン特有の光触媒活性を抑制することができる。水酸化アルミニウムで被覆する方法としては、酸化チタン粒子を含むスラリーに対して、塩化アルミニウムなどの塩を添加し、加水分解させて水酸化アルミニウムを酸化チタン粒子表面に析出させる方法などが挙げられる。酸化チタン粉体中のアルミニウムの好適な含有量は、TiO100質量部に対してAl換算で2~30質量部である。
【0043】
酸化チタン粒子を被覆する有機化合物としては、脂肪酸又はその塩、シリコーン系化合物、カップリング剤及びフッ素化合物からなる群から選択される少なくとも一種が挙げられる。これらの中でも、脂肪酸又はその塩が好ましく、これにより、酸化チタン粒子の表面に親油性を付与することができ、油相中で分散することが容易になる。特に、化粧料などとして用いる際に、肌に塗布された化粧料が汗や雨で流れにくくなり、耐久性が改善される。ここで用いられる脂肪酸としては、炭素数が12~30の高級脂肪酸が好ましく用いられ、その塩としてはアルミニウム塩が好ましく用いられる。脂肪酸又はその塩で被覆する方法としては、酸化チタン粒子を含むスラリーに対して、アルカリ金属の脂肪酸塩を添加し、その後、硫酸などの強酸を加えることによって遊離した脂肪酸を酸化チタン粒子表面に析出させる方法などが挙げられる。酸化チタン粉体中の脂肪酸又はその塩の好適な含有量はTiO100質量部に対して2~50質量部である。この含有量は、遊離した脂肪酸に換算した量である。
【0044】
酸化チタン粒子の表面を覆う無機化合物の層は、均一な層である必要はなく、表面を部分的に覆うものであっても構わない。この点は、有機化合物の層についても同様である。無機化合物の層と有機化合物の層が別の層として形成されていてもよいし、一つの層の中に無機化合物と有機化合部の両方が含まれていても構わない。好適な実施態様では、酸化チタン粒子の表面が、水酸化アルミニウムと、炭素数が12~30の高級脂肪酸又はそのアルミニウム塩とを含む層で覆われている。
【0045】
こうして得られた本発明の酸化チタン粉体を分散媒に分散させてなる分散体が好適な実施態様である。この時の分散媒は、水でもよく、有機溶媒でもよい。また、水と有機溶媒の混合溶媒でもよいし、水と有機溶媒とから形成されるエマルションであってもよい。
【0046】
好適な用途は、本発明の酸化チタン粉末を含む、化粧料、塗料、インキ、トナーなどである。
【0047】
これらのうちでも特に好適な用途が化粧料であり、紫外線遮蔽効果を有する化粧料として好適に用いられる。本発明の化粧料には、本発明の酸化チタン粉体以外の無機顔料や有機顔料を配合することができる。使用できる無機顔料には、酸化チタン、酸化亜鉛、ベンガラ、黄酸化鉄、黒酸化鉄、群青、紺青、酸化セリウム、タルク、白雲母、合成雲母、金雲母、黒雲母、合成フッ素金雲母、雲母チタン、雲母状酸化鉄、セリサイト、ゼオライト、カオリン、ベントナイト、クレー、ケイ酸、無水ケイ酸、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸カルシウム、硫酸バリウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、チッ化ホウ素、オキシ塩化ビスマス、アルミナ、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム、酸化クロム、カラミン、カーボンブラック、ヒドロキシアパタイトおよびこれらの複合体等を用いることができる。また、使用できる有機顔料には、シリコーン粉末、ポリウレタン粉末、セルロース粉末、ナイロン粉末、シルク粉末、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)粉末、スターチ、ポリエチレン粉末、ポリスチレン粉末、タール色素、天然色素、およびこれらの複合体等を用いることができる。
【0048】
本発明の化粧料には、目的に応じて他の成分を配合することができる。例えば、pH調整剤、保湿剤、増粘剤、界面活性剤、分散安定剤、防腐剤、酸化防止剤、金属封鎖剤、収斂剤、消炎剤、紫外線吸収剤、香料等を適宜配合することができる。
【0049】
本発明の化粧料の形態としては、乳液、ローション、オイル、クリーム、ペースト等が挙げられる。また、その具体的用途としては、日焼け止め化粧料、メークアップベース、ファンデーション、コンシーラー、コントロールカラー、口紅、リップクリーム、アイシャドー、アイライナー、マスカラ、チークカラー、マニキュア等のメークアップ化粧料、スキンケア化粧料、ヘアケア化粧料が例示される。
【0050】
本発明の酸化チタン粉体を塗料やインキに用いる場合には、ベースポリマーが溶解した溶液に酸化チタン粒子を分散させてもよいし、ベースポリマーの粒子が分散している水性エマルジョン中に酸化チタン粒子を分散させてもよい。その他、顔料、艶消し剤、界面活性剤、分散安定剤、レベリング剤、増粘剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤など、塗料やインキに通常添加される添加剤を配合することができる。また、微粒子酸化チタンを配合した塗料には、見る角度によって色調が変化する、いわゆる「フリップ・フロップ」効果を奏するものがあるが、本発明の酸化チタンを用いることによって、青みの少ない「フリップ・フロップ」塗膜を形成することができる。
【0051】
本発明の酸化チタン粉体をトナーの外添剤に用いる場合には、顔料を含んだトナー粒子と混合して用いられる。微粒子酸化チタンを用いることによって、多様な環境下において帯電性能の安定性に優れたトナーを提供することができる。このとき、トナーには、通常添加される各種の添加剤を配合することができる。
【実施例
【0052】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。実施例中の分析方法及び評価方法は、以下の方法に従った。
【0053】
(1)X線回折測定
ガラス板で試料ホルダーに平面状に押し付けられた酸化チタン粉末をX線回折装置(フィリップス社製)で測定した。測定条件は以下の通りである。
・Diffractometer system:XPERT-PRO
・線源:CuKα
・走査サイズ:2θ=0.008°
・電圧:45kV
・電流:20mA
・測定範囲:2θ=5~100°
・解析用付属ソフトウェア:HighScore Plus
【0054】
2θ=27.5°付近にある、ルチル型酸化チタン(110面)のピーク強度(I)と、2θ=25.3°付近にある、アナタース型酸化チタン(101面)のピーク強度(I)を測定し、それらの比(I/I)を算出した。このとき、上記付属ソフトウェアのピークサーチ機能を利用し、以下の条件でピークサーチを行った。この条件でピークサーチをした場合、アナタース型結晶のピークの検出限界における比(I/I)は0.03である。従って、アナタース型結晶のピークが検出されない時の比(I/I)は0.03未満である。
・最小有意度:0.50
・最小ピークチップ:0.10°
・最大ピークチップ:1.00°
・ピークベース幅:2.00°
・方法:2次微分の最小値
【0055】
(2)硫黄元素及び鉄元素の含有量
株式会社リガク製走査型蛍光X線分析装置「ZSX PrimusII」を用いて測定した。サンプルの酸化チタン粉体をプレス成形してペレットを作製し、ファンダメンタルパラメータ法(FP法)により測定試料の硫黄元素及び鉄元素の含有量(ppm)を測定した。
【0056】
(3)ESCA測定
ESCA(Electron Spectroscopy for Chemical Analysis)測定は、株式会社島津製作所製X線光電子分光分析装置「ESCA3400」を用いて行った。試料の粉体を薄膜状に押し固めてからカーボンテープで固定して測定した。15秒間のアルゴンスパッタリングによる表面のエッチングを繰り返し行うことによって試料の深さ方向に対する硫黄元素の分布を測定した。C1sの結合エネルギー284.6eVで補正した。2価の硫黄原子(S2-)の2p軌道の結合エネルギーのピークは161eV付近に現れる。測定条件及びエッチング条件は以下の通りである。
【0057】
(測定条件)
・X線源:Mg-Kα線
・フィラメント電圧-電流:12kV-15mA
・真空度:1.0×10-6Pa未満
・測定範囲:150~180eV
・測定ステップ:0.1eV
・積算回数:30回
(アルゴンエッチング条件)
・フィラメント電圧-電流:2kV-20mA
・イオン源:アルゴンガス
・アルゴンエッチング中の真空度:1.0×10-4Pa
・エッチング時間:15秒/回
【0058】
(4)粒子の形状及び寸法
透過型電子顕微鏡(TEM)写真を撮影し、粒子を画像処理することによって、それぞれの粒子の長軸長さ(nm)と短軸長さ(nm)を求めた。アスペクト比は(長軸長さ/短軸長さ)で求められる値である。粒子を200個以上計測し、平均短軸長さ(nm)と平均アスペクト比を求めた。
【0059】
(5)比表面積
株式会社マウンテック製全自動比表面積測定装置「Macsorb HM model-1208」を用いて、BET法によって比表面積を測定した。測定に際しては、窒素ガス雰囲気下、150℃で20分間脱気してから測定した。
【0060】
(6)色彩
コニカミノルタ株式会社製色彩色差計「CR-400」を用いて測定した。酸化チタン粉体をアルミリングに充填し、プレス機で加圧、成型した試料を用いた。色彩色差計の白色校正を行ってから、L表色系におけるL値、a値及びb値を測定した。
【0061】
(7)吸光度
酸化チタン粉体をプレス成形して、株式会社日立製作所製分光光度計「U-4100」を用いて拡散反射法によって吸光度を得た。測定条件は以下の通りである。
・スキャンスピード:300nm/分
・サンプリング間隔:2nm
・測定波長:250~700nm
【0062】
(8)青み
日光の下で乳化製剤を前腕部の肌に塗布し、見る角度を変えながら目視で青みを評価した。特に、静脈が青く透けて見える部分での青みを観察した。15人のパネラーが、下記基準に従って評価し、最も多い評価を採用した。
A:乳液製剤の塗布直後から青みがなく、塗り伸ばしても青みが感じられなかった。
B:乳液製剤の塗布直後は青みがあったが、塗り伸ばすと青みが感じられなくなった。
C:乳液製剤の塗布直後は青みがあり、しっかりと塗り伸ばしてもやや青みが感じられた。
D:乳液製剤の塗布直後から青みがあり、しっかりと塗り伸ばしてもはっきりと青みが感じられた。
【0063】
(9)透明感
日光の下で乳化製剤を前腕部の肌に塗布し、見る角度を変えながら目視で透明感を評価した。15人のパネラーが、下記基準に従って評価し、最も多い評価を採用した。
A:乳液製剤の塗布直後から透明感があり、塗り伸ばすと透明に感じられた。
B:乳液製剤の塗布直後には透明感はなかったが、しっかりと塗り伸ばすと透明に感じられた。
C:乳液製剤の塗布直後には透明感はなく、しっかりと塗り伸ばしてもやや不透明に感じられた。
D:乳液製剤の塗布直後から不透明さが際立ち、しっかりと塗り伸ばしても明らかに不透明であり、肌になじまなかった。
【0064】
実施例1
硫酸チタニル(TiOSO)の水溶液を100℃に加熱して加水分解し、含水酸化チタン(二酸化チタン水和物)(TiO・nHO)を析出させてスラリーを得た。このスラリーをろ過して得られたケーキを水で洗浄して、含水酸化チタンのケーキ35kg(TiO換算で10kg)を得た。得られた含水酸化チタンは、アナタース型結晶を含むものである。このケーキに、48質量%水酸化ナトリウム水溶液70kgを撹拌しながら加えた後に加熱し、95~105℃の温度範囲で2時間撹拌してチタン酸ナトリウム(NaTi)のスラリーを得た。このスラリーをろ過して得られたケーキを十分に水で洗浄し、チタン酸ナトリウムのケーキを得た。得られたケーキに水を加えて、TiO換算で170g/Lのチタン酸ナトリウムを含むスラリー(a)を得た。
【0065】
前記チタン酸ナトリウムを含むスラリー(a)に、亜硫酸ナトリウムを添加した。亜硫酸ナトリウムの添加量は、TiO1kgに対して22.2gであった。このスラリーに35質量%塩酸14.0kgを加えて加熱し、95~105℃の範囲で2時間熟成した。熟成後のスラリーを水で希釈して、TiO換算で70g/Lの酸化チタンを含むスラリーを得た。得られた酸化チタンは、ルチル型結晶を含むものである。この酸化チタンスラリーを80℃に昇温し、アンモニア水でpH7.0に調整してから、30分間熟成した。熟成完了後、アンモニア水又は塩酸でpH7.0に再調整したスラリーをろ過、洗浄して、酸化チタンのケーキを得た。このケーキを110℃で乾燥してから、衝撃式粉砕機で粉砕し、0.3mmのふるいを通して酸化チタン粉体を得た。
【0066】
こうして得られた酸化チタン粉体を用いて、上記方法に従って分析及び評価を行った。X線回折測定のチャートを図1に示す。アナタース型結晶のピークは検出されず、ルチル型結晶のピーク強度(I)に対するアナタース型結晶のピーク強度(I)の比(I/I)は0.03未満であった。蛍光X線分析したところ、硫黄元素の含有量(全体の質量に対する硫黄元素の質量)は1720ppmであり、鉄元素の含有量(全体の質量に対する鉄元素の質量)は70ppm未満であった。
【0067】
ESCA測定のチャートを図3に示す。エッチング前の観察(Ar-0秒)では、結合エネルギー167~168eVでS4+及びS6+に由来するピークが観察されたが、S2-に由来するピークは観察されなかった。一方、30秒及び60秒のエッチング後の観察(Ar-30秒、Ar-60秒)では、結合エネルギー161eV付近でS2-に由来するピークが観察されたが、S4+及びS6+に由来するピークは観察されなかった。
【0068】
透過型電子顕微鏡(TEM)写真を図7に示す。TEM写真に基づいて画像処理して算出した平均短軸長さは10.3nmであり、平均アスペクト比は4.5であった。BET法によって測定した比表面積は149m/gであった。また、色彩色差計で測定したL値は97.63、a値は-0.73、b値は4.43であった。また、分光光度計で測定した吸光度のグラフを、比較例1と比較例8で得られた酸化チタン粉体の吸光度とともに図8に示す。本実施例の酸化チタン粉体の吸光度は、亜硫酸ナトリウムを添加しなかった比較例1よりも長波長側に吸収があり、明るい黄色を呈したが、酸化鉄を加えた比較例8とは異なり、500nm付近ではほとんど吸収がなかった。
【0069】
前記チタン酸ナトリウムを含むスラリー(a)に、亜硫酸ナトリウムを添加した。亜硫酸ナトリウムの添加量は、TiO1kgに対して22.2gであった。このスラリーに35質量%塩酸14.0kgを加えて加熱し、95~105℃の範囲で2時間熟成した。熟成後のスラリーを水で希釈して、TiO換算で70g/Lの酸化チタンスラリーを得た。得られた酸化チタンは、ルチル型結晶を含むものである。この酸化チタンスラリーを85℃まで昇温し、ポリ塩化アルミニウム(PAC:[Al(OH)Cl6-n)の10質量%水溶液を添加してから10分間熟成した。PACの添加量は、TiO100質量部に対してAlとして13質量部となる量であった。48%水酸化ナトリウム水溶液を用いてpHを6.0に調整してから30分間熟成し、ステアリン酸ナトリウムを添加した。ステアリン酸ナトリウムの添加量は、TiO100質量部に対して30質量部となる量であった。ステアリン酸ナトリウムを添加して60分間熟成した後50質量%硫酸でpHを6.0に調整し、さらに30分間熟成して得られたスラリーを濾過し、水で洗浄して、水酸化アルミニウムとステアリン酸(又はステアリン酸アルミニウム)の層で被覆された酸化チタンのケーキを得た。このケーキを110℃で乾燥してから、衝撃式粉砕機で粉砕し、0.3mmのふるいを通して、表面が被覆された酸化チタン粉体を得た。得られた粉体中の酸化チタン粒子は、水酸化アルミニウムとステアリン酸(又はステアリン酸アルミニウム)の層で被覆されたものであった。得られた酸化チタン粉体のL値は97.81、a値は-0.57、b値は3.69であった。
【0070】
こうして得られた、表面が被覆された酸化チタン粉体を用いて、化粧料を想定した乳化製剤を調製した。以下に示す油相原料の混合物32.9gを100mLのポリプロピレン製カップに入れ、プライミクス株式会社製高速乳化・分散機「T.K.ロボミックス」を用いて、1400rpmで撹拌しながら、前記酸化チタン粉体4.9gを加えた。続いて、撹拌速度を3000rpmに上げて、10分間撹拌した。その後撹拌を続けながら、以下に示す水相原料の混合物32.2gを添加し、3000rpmで5分間撹拌して、乳化製剤を作製した。
【0071】
(油相原料)
・シクロペンタシロキサン25.9g:信越化学工業株式会社製「KF-995」
・流動パラフィン3.5g:株式会社MORESCO製「モレスコホワイト P-70」
・PEG-9-ジメチコン3.5g:信越化学工業株式会社製「KF-6019」
(水相原料)
・イオン交換水22.4g
・1,3-ブチレングリコール9.8g
【0072】
こうして得られた乳化製剤の青みと透明性を、上記方法に従って評価した。その結果、青みの評価はAであり、透明性の評価もAであった。以上の分析及び評価の結果を表1及び表2にまとめて示す。
【0073】
実施例2
亜硫酸ナトリウムの添加量をTiO1kgに対して50gとした以外は実施例1と同様にして、酸化チタン粉末を製造し、分析及び評価した。評価結果をまとめて表1及び表2に示す。
【0074】
実施例3
亜硫酸ナトリウムの添加量をTiO1kgに対して75gとした以外は実施例1と同様にして、酸化チタン粉末を製造し、分析及び評価した。評価結果をまとめて表1及び表2に示す。X線回折測定のチャートを図2に示す。アナタース型結晶のピークがルチル型結晶のピークの肩部に検出され、ルチル型結晶のピーク強度(I)に対するアナタース型結晶のピーク強度(I)の比(I/I)は0.04であった。
【0075】
実施例4
亜硫酸ナトリウムの代わりに、二亜硫酸ナトリウム(Na)をTiO1kgに対して16.7g添加した以外は実施例1と同様にして、酸化チタン粉末を製造し、分析及び評価した。評価結果をまとめて表1及び表2に示す。
【0076】
実施例5
亜硫酸ナトリウムの代わりに、硫酸ナトリウム(NaSO)をTiO1kgに対して25g添加した以外は実施例1と同様にして、酸化チタン粉末を製造し、分析及び評価した。評価結果をまとめて表1及び表2に示す。ESCA測定のチャートを図4に示す。エッチング前の観察(Ar-0秒)では、結合エネルギー167~168eVでS4+及びS6+に由来するピークが観察されたが、S2-に由来するピークは観察されなかった。一方、30秒及び60秒のエッチング後の観察(Ar-30秒、Ar-60秒)では、結合エネルギー161eV付近でS2-に由来するピークが観察されたが、S4+及びS6+に由来するピークは観察されなかった。
【0077】
比較例1
亜硫酸ナトリウムを添加しなかった以外は実施例1と同様にして、酸化チタン粉末を製造し、分析及び評価した。評価結果をまとめて表1及び表2に示す。ESCA測定のチャートを図5に示す。エッチング前後ともに、S2-、S4+又はS6+に由来するピークは観察されなかった。分光光度計で測定した吸光度のグラフを、実施例1と比較例8で得られた吸光度とともに図8に示す。亜硫酸ナトリウムを添加した実施例1よりも吸収末端が短波長側にあり、白色を呈した。
【0078】
比較例2
硫酸チタニル(TiOSO)の水溶液を100℃に加熱して加水分解し、含水酸化チタン(二酸化チタン水和物)(TiO・nHO)を析出させてスラリーを得た。このスラリーをろ過して得られたケーキを水で洗浄して、含水酸化チタンのケーキ35kg(TiO換算で10kg)を得た。得られた含水酸化チタンは、アナタース型結晶を含むものである。このケーキに、48質量%水酸化ナトリウム水溶液30kgを撹拌しながら加えた後に加熱し、95~105℃の温度範囲で2時間撹拌してチタン酸ナトリウム(NaTi)のスラリーを得た。このスラリーをろ過して得られたケーキを十分に水で洗浄し、チタン酸ナトリウムのケーキを得た。このケーキに水を加えて、TiO換算で160g/Lのチタン酸ナトリウムを含むスラリー(b)を得た。
【0079】
チタン酸ナトリウムを含むスラリーの製造条件を上記のように変更してスラリー(b)を製造し、このスラリー(b)に加える35質量%塩酸の量を8.0kgに変更した以外は、比較例1と同様にして酸化チタン粉末を製造し、分析及び評価した。評価結果をまとめて表1及び表2に示す。本比較例によって、比較例1よりも粒子寸法の大きい酸化チタン粉体を得ることができた。
【0080】
比較例3
亜硫酸ナトリウムの代わりに、チオ尿素((NHCS)をTiO1kgに対して25g添加した以外は実施例1と同様にして、酸化チタン粉末を製造し、分析及び評価した。評価結果をまとめて表1及び表2に示す。ESCA測定のチャートを図6に示す。エッチング前後ともに、S2-、S4+又はS6+に由来するピークは観察されなかった。
【0081】
比較例4
亜硫酸ナトリウムの代わりに、メタンスルホン酸(CHSOH)の70質量%水溶液100gを添加した以外は実施例1と同様にして、酸化チタン粉末を製造し、分析及び評価した。TiO1kgに対するメタンスルホン酸の添加量は70gである。評価結果をまとめて表1及び表2に示す。
【0082】
比較例5
亜硫酸ナトリウムの代わりに、硝酸ナトリウム(NaNO)をTiO1kgに対して25g添加した以外は実施例1と同様にして、酸化チタン粉末を製造し、分析及び評価した。評価結果をまとめて表1及び表2に示す。
【0083】
比較例6
亜硫酸ナトリウムの代わりに、リン酸水素二ナトリウム(NaHPO)をTiO1kgに対して50g添加した以外は実施例1と同様にして、酸化チタン粉末を製造し、分析及び評価した。評価結果をまとめて表1及び表2に示す。
【0084】
比較例7
前記チタン酸ナトリウムを含むスラリー(a)に35質量%塩酸14.0kgを加えて加熱し、95~105℃の範囲で2時間熟成した。熟成後のスラリーを水で希釈して、TiO換算で70g/Lの酸化チタンスラリーを得た。得られた酸化チタンは、ルチル型結晶を含むものである。この酸化チタンスラリーを80℃に昇温し、アンモニア水でpH7.0に調整してから、ポリ硫酸第二鉄(Fe(OH)(SO(3-n)/2)を添加した。ポリ硫酸第二鉄の添加量は、TiO1kgに対してFe換算で1gであった。このスラリーをアンモニア水又は塩酸でpH7.0に調整した後30分間熟成し、再度アンモニア水又は塩酸でpH7.0に調整した。このスラリーをろ過して酸化チタンのケーキを得た。このケーキを110℃で乾燥してから、衝撃式粉砕機で粉砕し、0.3mmのふるいを通して酸化チタン粉体を得た。
【0085】
また、前記チタン酸ナトリウムを含むスラリー(a)に35質量%塩酸14.0kgを加えて加熱し、95~105℃の範囲で2時間熟成した。熟成後のスラリーを水で希釈して、TiO換算で70g/Lの酸化チタンスラリーを得た。得られた酸化チタンは、ルチル型結晶を含むものである。この酸化チタンスラリーを85℃まで昇温し、ポリ塩化アルミニウム(PAC)の10質量%水溶液を添加してから10分間熟成した。PACの添加量は、TiO100質量部に対してAlとして13質量部となる量であった。48%水酸化ナトリウム水溶液を用いてpHを6.0に調整してから30分間熟成し、ポリ硫酸第二鉄(Fe(OH)(SO(3-n)/2)を添加した。ポリ硫酸第二鉄の添加量は、TiO1kgに対してFe換算で1gであった。この酸化チタンスラリーを48%水酸化ナトリウム水溶液を用いてpHを6.0に調整してからステアリン酸ナトリウムを添加した。ステアリン酸ナトリウムの添加量は、TiO100質量部に対して30質量部となる量であった。ステアリン酸ナトリウムを添加して60分間熟成した後50質量%硫酸でpH6.0に調整し、さらに30分間熟成して得られたスラリーを濾過し、水で洗浄して、水酸化アルミニウムとステアリン酸(又はステアリン酸アルミニウム)の層で被覆された酸化チタンのケーキを得た。このケーキを110℃で乾燥してから、衝撃式粉砕機で粉砕し、0.3mmのふるいを通して、表面が被覆された酸化チタン粉体を得た。得られた粉体中の酸化チタン粒子は、水酸化アルミニウムとステアリン酸(又はステアリン酸アルミニウム)の層で被覆されたものであった。
【0086】
このようにして製造された、表面が被覆されていない酸化チタン粉体と、表面が被覆された酸化チタン粉体とを、実施例1と同様にして、分析及び評価した。評価結果をまとめて表1及び表2に示す。
【0087】
比較例8
ポリ硫酸第二鉄の添加量を、TiO1kgに対してFe換算で2.5gとした以外は比較例7と同様にして、酸化チタン粉末を製造し、分析及び評価した。評価結果をまとめて表1及び表2に示す。分光光度計で測定した吸光度のグラフを、実施例1と比較例1で得られた吸光度とともに図8に示す。亜硫酸ナトリウムを添加した実施例1よりも更に長波長側の500nm付近の光も吸収し、少し赤みを帯びた暗い色調を呈した。
【0088】
比較例9
ポリ硫酸第二鉄の添加量を、TiO1kgに対してFe換算で5gとした以外は比較例7と同様にして、酸化チタン粉末を製造し、分析及び評価した。評価結果をまとめて表1及び表2に示す。
【0089】
【表1】
【0090】
【表2】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8