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特許7419370物品の凹面状表面のトポグラフィーへの適用に有用な高分子シートとそれに関連する方法
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  • 特許-物品の凹面状表面のトポグラフィーへの適用に有用な高分子シートとそれに関連する方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-12
(45)【発行日】2024-01-22
(54)【発明の名称】物品の凹面状表面のトポグラフィーへの適用に有用な高分子シートとそれに関連する方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/40 20060101AFI20240115BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20240115BHJP
   C08G 18/32 20060101ALI20240115BHJP
   C08G 18/42 20060101ALI20240115BHJP
   C09J 7/29 20180101ALI20240115BHJP
   C09J 7/38 20180101ALI20240115BHJP
【FI】
B32B27/40
B32B27/00 M
C08G18/32 003
C08G18/42
C09J7/29
C09J7/38
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2021528375
(86)(22)【出願日】2019-11-21
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-19
(86)【国際出願番号】 US2019062694
(87)【国際公開番号】W WO2020107001
(87)【国際公開日】2020-05-28
【審査請求日】2022-09-08
(31)【優先権主張番号】62/770,273
(32)【優先日】2018-11-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】523227982
【氏名又は名称】ピーピージー・アドバンスト・サーフェス・テクノロジーズ・エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【弁理士】
【氏名又は名称】堤 健郎
(74)【代理人】
【識別番号】100142608
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 由佳
(74)【代理人】
【識別番号】100155963
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】100150566
【弁理士】
【氏名又は名称】谷口 洋樹
(74)【代理人】
【識別番号】100213470
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100220489
【弁理士】
【氏名又は名称】笹沼 崇
(74)【代理人】
【識別番号】100225026
【弁理士】
【氏名又は名称】古後 亜紀
(72)【発明者】
【氏名】マクガイア・ジュニア・ジェームズ
(72)【発明者】
【氏名】キャナン・マシュー
【審査官】大村 博一
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-255163(JP,A)
【文献】特開2003-191403(JP,A)
【文献】国際公開第2017/156507(WO,A1)
【文献】特開2017-109431(JP,A)
【文献】特表2017-525803(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0218226(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
C09J 7/00- 7/50
C08G 18/00-18/87
C08G 71/00-71/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の層を備える高分子シートであって、この複数の層は、以下の順で
トップコート層と、
層の形成時において分子量が350グラム/モル以下の鎖延長剤を本質的に使用しない、ポリウレタン系キャリア層と、
接着剤層と、
を有する高分子シートであって、
前記ポリウレタン系キャリア層の形成時において使用される各ポリオールが、350グラム/モルから1000グラム/モルの間の分子量を有する、高分子シート
【請求項2】
請求項1に記載の高分子シートであって、
前記接着剤層が感圧接着剤を含む、高分子シート。
【請求項3】
請求項1に記載の高分子シートであって、
前記接着剤層の外面に剥離層をさらに備える、高分子シート。
【請求項4】
請求項1に記載の高分子シートであって、
前記トップコート層の外面にキャリアフィルムをさらに備える、高分子シート。
【請求項5】
請求項1に記載の高分子シートであって、
前記キャリア層がin-situで重合される、高分子シート。
【請求項6】
請求項1に記載の高分子シートであって、
前記ポリウレタン系キャリア層の形成時においてブタンジオールが本質的に使用されない、高分子シート。
【請求項7】
請求項1に記載の高分子シートであって、
前記ポリウレタン系キャリア層の形成時において分子量が1000グラム/モル以上のポリオールが本質的に使用されない、高分子シート。
【請求項8】
請求項1に記載の高分子シートであって、
前記ポリウレタン系キャリア層の形成時において使用される各ポリオールが、350グラム/モルから450グラム/モルの間の分子量を有する、高分子シート。
【請求項9】
請求項1に記載の高分子シートであって、
前記ポリウレタン系キャリア層の形成時において使用されるポリオールは、ポリエステルジオールのみである、高分子シート。
【請求項10】
請求項1に記載の高分子シートであって、前記ポリウレタン系キャリア層の形成時において、ポリオール成分の総重量に対して、2つよりも多くのヒドロキシル部分を有するポリオールが、10重量%未満で使用される、高分子シート。
【請求項11】
請求項1に記載の高分子シートであって、前記高分子シートはフィルムの形態の塗料を含む、高分子シート。
【請求項12】
請求項1に記載の高分子シートであって、前記高分子シートは塗料保護フィルムを備える、高分子シート。
【請求項13】
請求項1から12のいずれか一項に記載の高分子シートであって、モータ付き乗り物の表面の凹面状の部分を少なくとも覆うための高分子シート。
【請求項14】
請求項1に記載の高分子シートを少なくとも一部に含む、少なくとも1つの表面を備える、物品。
【請求項15】
請求項14に記載の物品であって、当該物品はモータ付き乗り物である、物品。
【請求項16】
請求項14または15に記載の物品であって、少なくともその一部に高分子シートを含む表面は、凹面状である、物品。
【請求項17】
請求項1に記載の高分子シートを、モータ付き乗り物の表面の凹面状の部分を少なくとも覆うために用いる方法であって、当該方法は、
請求項1に記載の高分子シートを供給するステップと、
前記高分子シートを、前記乗り物の表面の前記凹面状の部分に少なくとも適用するステップと、
を備える方法。
【請求項18】
請求項17に記載の方法であって、前記高分子シートは、前記乗り物の前記表面に適合させるために加熱され、引き伸ばされる、方法。
【請求項19】
請求項1に記載の高分子シートを形成する方法であって、
前記ポリウレタン系キャリア層をin-situで重合するステップを含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物品の凹面状表面(concave surface)のトポグラフィーへの適用に役立つ高分子シートと、それに関連する方法に関する。
【0002】
[関連出願との相互参照]
本出願は、2018年11月21日に出願された米国仮特許出願第62/770,273号の利益を主張し、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0003】
高分子フィルムは、屋内外の幅広いシーンでの適用において有用であり、例えば輸送、建築、スポーツ用品産業において役立つ。保護または装飾(例えば、塗料による)が望まれる任意の物品の表面の少なくとも一部に、高分子フィルムまたはそれと同様の構成を有する積層体が、有利に適用される。このような物品には、多数の他の用途の中でも、例えば、モータ付き乗り物およびモータ付きでない乗り物が含まれる。
【0004】
高分子フィルム又はそれと同様の構成を有する積層体が使用される表面は、例えば、塗装されていても、塗装されていなくてもよい。高分子フィルム又はそれと同様の構成を有する積層体が着色されていても、あるいは着色されていなくても、それ自体を、「フィルムの形態の塗料」(「塗料フィルムアップリケ」、「塗料代替フィルム」、「塗料フィルム」等とも称する)として使用することができる。高分子フィルム又はそれと同様の構成を有する積層体が、下地表面に存在する塗料を保護することを主とする目的で、表面に接着される場合、これをしばしば「塗料保護フィルム」等と称する。
【0005】
多くの場合、高分子フィルム又はそれと同様の構成を有する積層体は、多層高分子シートの形態をとり、つまり、多層のうちの1層は外側に露出した接着剤層であり、当該接着剤層は、物品の表面にこの高分子フィルムを接着させるために用いられる。しかしながら、このような高分子シートを、凹面形状を有する表面に接着させる場合、しばしば接着が十分ではない場合がある。高分子シートが、複雑な表面トポグラフィー(凹面形状など)に対して、最初は適合可能であったとしても、従来の高分子シートでは、時間の経過とともにそのような表面からの望ましくない浮き上がりまたは分離を起こしがちである。
【0006】
高分子シートを引き伸ばして複雑な表面トポグラフィーに適合させた後に、高分子シートに蓄積されるエネルギーは、この高分子シートを通常時の形状に戻す駆動力になると考えられている。高分子シートを含む材料が比較的高い貯蔵弾性率を有する場合、駆動力もまた比較的高いと考えられる。その力はしばしば、高分子シートが下地表面に接着している接着力に打ち勝つほどの大きさであり、望ましくない浮き上がりや剥離を引き起こす。
【0007】
ポリウレタンは、上記の物品に使用するのに有用な高分子フィルムであることが知られている。ポリウレタンは、典型的には、比較的長鎖のポリオールと、比較的短鎖のポリオール(つまり、鎖延長剤)とから形成される。比較的高い貯蔵弾性率を有するポリウレタンと比べて、比較的低い貯蔵弾性率を有するポリウレタン(すなわち、「軟質」ポリウレタン)の配合および加工は困難である可能性がある。例えば、「軟質熱可塑性ポリウレタンエストラマーおよびその製造方法」と題する特許文献1(国際公開公報第2014/195211号公報)では、軟質ポリウレタンを形成するために低量の鎖延長剤を使用すると、許容不能な特性および加工不能な材料が如何にもたらせるかについて、説明している。
【0008】
熱可塑性ポリウレタン(TPU)は、典型的には、少なくとも1種のポリオール(通常はポリエステルポリオール及び/又はポリエーテルポリオール)、少なくとも1種のポリイソシアネート(通常は有機ジイソシアネート)、及び少なくとも1種の鎖延長剤から配合される。TPUの硬度/柔軟性は、大きくは、ソフトセグメント(ポリオールと、ポリイソシアネートのジイソシアネート基と、の反応により形成される)に対するハードセグメント(鎖延長剤と、ポリイソシアネートのジイソシアネート基と、の反応により形成される)の比率によって決まる。熱成形可能なポリウレタンを製造するには、しばしば、高分子量のマクロジオールが必要になる。より柔らかいTPUを形成するために、ハードセグメントの量を減らしてTPUの硬度を80ショアAの値(a value of 80 shore A)よりも低くすると、結果として得られる生産物は、一般的に、粘着性が高く、固化が不十分で、射出成形加工中における金型からの離型性が低下し、また激しい収縮性を示す。したがって、従来技術に従ってより柔らかいTPUを使用しても、射出成形サイクル時間を経済的に許容できる範囲内に抑えることはできない。
【0009】
したがって、物品の表面(特に凹面状の表面の部分)に、高分子フィルムおよびそれと同様の構成を有する積層体を適用するための、改善された方法および装置が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】国際公開公報第2014/195211号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の改良された高分子シートは、以下の順序で、トップコート層、ポリウレタン系キャリア層、および接着剤層を備える。必要に応じて、1つ以上の追加の層を、この一連の層内に含めることができる。例えば、一実施形態では、着色層が、ポリウレタン系キャリア層と隣接するように、トップコート層とは反対側であるキャリア層の側に、あるいは接着剤層とは反対側であるキャリア層の側に設けられる。
【0012】
有利には、ポリウレタン系キャリア層は、分子量が350グラム/モル以下の鎖延長剤を本質的に使用せずに形成される。このようなキャリア層を用いることにより、比較的貯蔵弾性率の低い高分子シートが効率的に得られる。このような高分子シートは、凹面形状を有する表面への適用に特に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本明細書に記載される応力-時間(緩和)試験方法に従って試験したときの、比較例Cおよび実施例A~Bにおける応力対時間のグラフである。
図2図2は、本明細書に記載される応力-歪み試験方法に従って試験したときの、比較例Cおよび実施例A~Bにおける応力対歪みのグラフである。
図3図3は、本明細書に記載される湾曲パネル伸張試験方法に従って80℃で試験した後の、比較例Cおよび実施例A~Bのサンプルを示す白黒写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
従来の高分子シートは、それが接着されて適用される下地表面を保護する目的および/または被覆する目的で、比較的硬い層および全面的な構造を含むことが多い。いくつかの実施形態では、例えば、高分子シートは、下地表面に存在する塗料を保護してもよく、あるいは、高分子シートそれ自体が、他の実施形態における塗料に相当するほどの審美的品質を提供するとしてもよい。
【0015】
比較的硬い層は、しばしば、例えば押出加工技術を用いて層を形成することにより、得られる。押出成形層は、一般的に、比較的高い貯蔵弾性率(すなわち、比較的高いヤング率)を有する材料から形成される。このような材料の復元は、一般的に、この材料を室温を上回るように加熱することで促進される。その結果、熱が加えられると、このような層の寸法が下地表面に対して収縮することがしばしば生じる。下に広がる表面が凹面状のトポロジーを有する場合、材料の収縮は、同様に構成される裏面接着式の高分子シートの前記表面からの浮き上がりを招く。
【0016】
本発明の高分子シートでは、接着剤層とトップコート層との間にキャリア層が挿入される。好ましい実施形態では、キャリア層はポリウレタン系ポリマーで構成され、好ましくはポリウレタンである。例示的な実施形態においてキャリア層を構成する材料は、比較的低い貯蔵弾性率(すなわち、比較的低いヤング率)を有する。
【0017】
比較的低い貯蔵弾性率を実現するために、ポリウレタン系キャリア層の形成時に使用する鎖延長剤(特に350グラム/モル以下の分子量を有すると解釈される鎖延長剤)の量は、本発明に従い最小化される。好ましい実施形態では、本発明のポリウレタン系キャリア層を形成する時に、分子量が350グラム/モル以下の鎖延長剤は使用されない。例えば、一般的に使用される鎖延長剤であるブタンジオールは、このようなキャリア層の形成時には使用されない。鎖延長剤が存在しないことは、任意の適切な分析方法、例えば核磁気共鳴(NMR)などの方法を用いて、結果物としてのキャリア層を分析することにより、確認することができる。
【0018】
さらに、本発明によれば、熱成形可能なポリウレタンを製造するために通常使用される比較的高分子量のマクロジオールは、最少限の使用量に抑えられる。一実施形態においては、本発明のポリウレタン系キャリア層を形成する時に、分子量が1000グラム/モル以上のポリオールは使用されない。さらなる実施形態においては、本発明のポリウレタン系キャリア層を形成する時に使用されるポリオールは、約350グラム/モルから約1000グラム/モルの間の分子量を有する。さらに別の実施形態においては、本発明のポリウレタン系キャリア層を形成する時に使用されるポリオールは、約350グラム/モルから約450グラム/モルの分子量を有する。このようなポリオールの例には、商標名CAPA2043で販売され、Ingevity(ノースチャールストン、サウスカロナイナ州)より入手可能な、ポリエステルジオールがある。好ましい実施形態においては、本発明のポリウレタン系キャリア層を形成する時に使用される本質的に唯一のポリオールは、このようなジオールである。
【0019】
ポリウレタン系キャリア層を形成する時のトリオールの使用は、本発明により最小限に抑えられる。好ましくは、ポリオール成分の総重量のうち約10重量%未満が、2つ以上のヒドロキシル部分を有する(例えば、トリオール)。このような制限の中で使用できるポリオールの例には、商標名CAPA3091で販売され、Ingevity(ノースチャールストン、サウスカロナイナ州)より入手可能な、ポリエステルトリオールが挙げられる。
【0020】
本発明のポリウレタン系キャリア層を形成するのに用いられる重合性組成物の性質によれば、このキャリア層を含む高分子シートは、有利には、より低い貯蔵弾性率を有する。重合性組成物の性質は、核磁気共鳴(NMR)などの任意の適切な分析方法を使用して、得られたキャリア層を分析することにより、確認することができる。
【0021】
任意の適切な材料を、トップコート層の材料として用いることができる。好ましい実施形態では、トップコート層は、破断前に比較的高い伸びを示す。例示的な実施形態においてトップコート層を構成する材料は、キャリア層を構成する材料と同様に、比較的低い貯蔵弾性率(すなわち、比較的低い貯蔵弾性率)を示す。表面に高分子シートを適用するまでの間、トップコート層をキャリアフィルムで被覆してもよい。
【0022】
当業者に知られているように、接着剤層にも任意の適切な材料を用いることができる。例示的な実施形態では、接着剤層は、感圧接着剤を含む。表面に適用するまでの間、高分子シートの接着剤層を保護剥離フィルムで被覆してもよい。
【0023】
本発明に従って構成された場合、高分子シートの剛性(stiffness)は、従来の高分子シート(例えば、押出コーティングされたポリウレタン系の複数のキャリア層を用いたもの)の剛性と比べてはるかに低いため、物品の凹面状の表面にこの高分子シートを適用する際に非常に有用である。
【実施例
【0024】
[応力-時間(緩和)試験方法]
TA Instruments(ニューキャッスル、デラウェア州)から入手可能な動的機械分析装置(商品名:TA Instruments DMA Q800)が、この試験を張力モードで実行するために使用される。長さ5~12mm、幅4~8mm、厚さ0.02~0.2mmの公称サンプル寸法のものが用いられた。各サンプルは40%の伸長量にまで引き伸ばされ、40%の伸長量に保持された。図1に示すように、伸長量が40%に到達してから10分後に、この伸長量を維持するために要した力の記録が開始された
【0025】
[応力-歪み試験方法]
TA Instruments(ニューキャッスル、デラウェア州)から入手可能な動的機械分析装置(商品名:TA Instruments DMA Q800)が、この試験を張力モードで実行するために使用される。長さ5~12mm、幅4~8mm、厚さ0.02~0.2mmの公称サンプル寸法のものが用いられた。図2に示すように、試験対象のサンプルに掛ける応力を18MPa/分の速度で50MPaの値まで上昇させ、その時点でのサンプルの歪みを記録した。
【0026】
[湾曲パネル伸張試験方法]
各サンプルは、室温下で、初期の長さに対して約120%にまで予め引き伸ばされ、その後、この高分子シートは、凹状の表面トポグラフィーを有するテストパネルに接着された。テストパネルは、長さ約15.2センチメートル、幅約7.6センチメートルのパネルを湾曲させて、図3に示すような形状とすることにより、形成された。このようにして形成された湾曲パネルは、それぞれの長さが約5.1センチメートルであり平行平面上に位置する2つの端を有するとともに、これらを接続する接続部とを備えていた。接続部は、パネルを各端の近くで約60度の角度で折り曲げて、各曲げ位置で半径約1.3センチメートルの湾曲形状を形成することにより、作製される。このようにして作製されたテストパネルに、サンプルが24時間にわたって実質的に付着された状態に維持された場合に、試験に「合格」したと見なされた。サンプルがテストパネルから浮き上がった場合、試験に「不合格」であったと見なされた。サンプルとテストパネルを、室温および80℃に維持した後に、試験結果が決定された。
【0027】
[比較例C]
高分子シートは、以下の順、すなわちアクリル感圧接着剤層(厚さ25.4ミクロン)、着色層(厚さ25.4ミクロン)、押出ポリウレタン層(厚さ76.2ミクロン)、及びトップコート層(厚さ10.2ミクロン)により構成される層により形成された。アクリル感圧接着剤層は、entrotech, inc.(コロンバス、オハイオ州)により入手され、EF947Aの商品名で市販されていた。着色層は、entrotech, inc.(コロンバス、オハイオ州)により入手され、EF1369の商品名で市販されていた。押出ポリウレタン層は、Schweitzer-Mauduit International Inc.(グリーンフィールド、マサチューセッツ州)により入手され、ArgoGuard(登録商標)49510という商品名で市販されていた材料から押出成形された、ポリカプロラクトン系ポリウレタンフィルムであった。トップコート層は、約50重量%のイソシアネート(entrochem,inc.(コロンバス、オハイオ州)から別途入手可能であり、ECA-426の商品名で市販されている)と、約50重量%のアクリルポリオール(entrochem,inc.(コロンバス、オハイオ州)から別途入手可能であり、ECA-671の商品名で市販されている)との混合物を含む組成物から調製されたアクリルトップコートであった。
【0028】
同様のサンプルを、本明細書に記載の応力-時間(緩和)試験方法、応力-歪み試験方法、および湾曲パネル伸張試験方法のそれぞれに従って、試験した。比較例Cの試験に関連するデータを、データ曲線「C」として図1及び図2に示している。湾曲パネル伸張試験方法に従ってサンプルを室温下で試験したところ、当該サンプルは合格した。図3(「C」と記された上部のサンプル)に示されるように、湾曲パネル伸張試験方法に従って80℃の下で試験したところ、僅か80分後にサンプルがテストパネルから浮き上がり、サンプルは不合格であった。
【0029】
[実施例A]
高分子シートは、比較例Cに示したのと同様の接着剤層、同様の着色層、および同様のトップコート層(ただし、厚さは5.1ミクロンにまで薄くしたもの)を含むように、形成される。
【0030】
キャリア層は76.2ミクロンの厚さであり、米国特許第9,790,318号公報の実施例3に記載されたウェブ重合プロセスを使用して形成された。ただし、表1の成分Bは、以下の成分により形成された。ここで、以下で示すパーセンテージは成分Bの総重量に基づいている。すなわち、55%のポリエステルジオール(分子量:400グラム/モル商品名:CAPA2043(Ingevity、ノースチャールストン、サウスカロライナ州))、および、45%ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート末端停止ポリエーテルプレポリマー(商品名:BAYTEC WP-260(Covestro LLC、ピッツバーグ、ペンシルベニア州))で構成された。比較例Cのキャリア層と比較して、実施例Aのキャリア層はより柔らかく、より順応性のあるポリウレタン層をなしていた。
【0031】
同様のサンプルを、本明細書に記載の応力-時間(緩和)試験方法、応力-歪み試験方法、および湾曲パネル伸張試験方法のそれぞれに従って、試験した。実施例Aの試験に関連するデータを、データ曲線「A」として図1及び図2に示している。湾曲パネル伸張試験方法に従ってサンプルを室温下で試験したところ、当該サンプルは合格した。湾曲パネル伸張試験方法に従ってサンプルを80℃で試験したときも、当該サンプルは合格した。図3(「A」と記された中央部のサンプル)に示されるように、湾曲パネル伸張試験方法に従って80℃の下で試験したところ、サンプルは合格した。
【0032】
[実施例B]
高分子シートは、比較例Cに示したのと同様の接着剤層、および同様の着色層を含むように、形成される。
【0033】
キャリア層は76.2ミクロンの厚さであり、米国特許第9,790,318号公報の実施例3に記載されたウェブ重合プロセスを使用して形成された。ただし、表1の成分Bは、以下の成分により形成された。ここで、以下で示すパーセンテージは成分Bの総重量に基づいている。すなわち、50.2%のポリエステルジオール(分子量:400グラム/モル、商品名:CAPA2043(Ingevity、ノースチャールストン、サウスカロライナ州))、6.4%のポリエステルトリオール(分子量:900グラム/モル、商品名:CAPA3091(Ingevity、ノースチャールストン、サウスカロライナ州))で構成される。および、43.5%のジシクロヘキシルメタンジイソシアネート末端停止ポリエーテルプレポリマー(商品名:BAYTECWP-260(Covestro LLC、ピッツバーグ、ペンシルベニア州))で構成されている。
【0034】
トップコート層は5.1ミクロンの厚みの、アクリルトップコートであり、約50重量%のイソシアネート(entrochem, inc.(コロンバス、オハイオ州)から別途入手可能であり、ECA-426の商品名で市販されている)と、約50重量%のアクリル系ポリオール(entrochem, inc.(コロンバス、オハイオ州)から別途入手可能であり、ECA-766の商品名で市販されている)との混合物を含む組成物から調製される。
【0035】
実施例Bのキャリア層およびトップコート層のそれぞれは、比較例Cの複数の層の剛性よりも低い剛性を有していた。比較例Cのキャリア層と比べて、実施例Bのキャリア層は、より柔らかく、より順応性のあるポリウレタン層をなしていた。比較例Cのトップコート層と比べて、実施例Bのトップコート層は、破断点伸びがより大きい。
【0036】
同様のサンプルを、本明細書に記載の応力-時間(緩和)試験方法、応力-歪み試験方法、および湾曲パネル伸張試験方法のそれぞれに従って、試験した。実施例Bの試験に関連するデータを、データ曲線「B」として図1及び図2に示している。湾曲パネル伸張試験方法に従ってサンプルを室温下で試験したところ、当該サンプルは合格した。湾曲パネル伸張試験方法に従ってサンプルを室温下で試験したとき、当該サンプルは合格した。図3(「B」と記された下部のサンプル)に示されるように、湾曲パネル伸張試験方法に従って80℃の下で試験したところ、サンプルは合格した。
【0037】
本発明の様々な修正および変更は、添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の精神および範囲から逸脱することなく、当業者に明らかになるであろう。以下の方法の請求項に記載されているステップは、特に明記されていない限り、必ずしも記載されている順序で実行される必要はないことに留意されたい。当業者は、記載されている順序に基づき、ステップを実行する際のバリエーションを認識するであろう。さらに、特徴、ステップ、又は構成要素についての言及および議論の欠如は、この欠如している特徴または構成要素が、但し書きまたは同等のクレーム文言によって除外される形式をとるクレームの根拠を提供する。
【0038】
さらに、全体を通して使用されているように、数値範囲は、その範囲に含まれる各値および全ての値を示す省略表現として使用される。範囲内にある任意の数値は、範囲の終端の値として選択することができる。同様に、範囲内の任意の離散値は、発明の特徴を表現しクレームするために記載される最小値または最大値として選択することができる。
なお、本発明は、実施の態様として以下の内容を含む。
〔態様1〕
複数の層を備える高分子シートであって、この複数の層は、以下の順で
トップコート層と、
層の形成時において分子量が350グラム/モル以下の鎖延長剤を本質的に使用しない、ポリウレタン系キャリア層と、
接着剤層と、
を有する高分子シート。
〔態様2〕
態様1に記載の高分子シートであって、
前記接着剤層が感圧接着剤を含む、高分子シート。
〔態様3〕
態様1に記載の高分子シートであって、
前記接着剤層の外面に剥離層をさらに備える、高分子シート。
〔態様4〕
態様1に記載の高分子シートであって、
前記トップコート層の外面にキャリアフィルムをさらに備える、高分子シート。
〔態様5〕
態様1に記載の高分子シートであって、
前記キャリア層がin-situで重合される、高分子シート。
〔態様6〕
態様1に記載の高分子シートであって、
前記ポリウレタン系キャリア層の形成時においてブタンジオールが本質的に使用されない、高分子シート。
〔態様7〕
態様1に記載の高分子シートであって、
前記ポリウレタン系キャリア層の形成時において分子量が1000グラム/モル以上のポリオールが本質的に使用されない、高分子シート。
〔態様8〕
態様1に記載の高分子シートであって、
前記ポリウレタン系キャリア層の形成時において使用される各ポリオールが、約350グラム/モルから約1000グラム/モルの間の分子量を有する、高分子シート。
〔態様9〕
態様1に記載の高分子シートであって、
前記ポリウレタン系キャリア層の形成時において使用される各ポリオールが、約350グラム/モルから約450グラム/モルの間の分子量を有する、高分子シート。
〔態様10〕
態様1に記載の高分子シートであって、
前記ポリウレタン系キャリア層の形成時において使用されるポリオールは、ポリエステルジオールのみである、高分子シート。
〔態様11〕
態様1に記載の高分子シートであって、2つよりも多くのヒドロキシル部分を有するポリオールが、ポリオール成分の総重量に対して約10重量%未満で含まれる前記ポリウレタン系キャリア層の形成時において使用される、高分子シート。
〔態様12〕
態様1に記載の高分子シートであって、前記高分子シートはフィルムの形態の塗料を含む、高分子シート。
〔態様13〕
態様1に記載の高分子シートであって、前記高分子シートは塗料保護フィルムを備える、高分子シート。
図1
図2
図3