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特許7419381正極材料、その製造方法及びリチウム二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-12
(45)【発行日】2024-01-22
(54)【発明の名称】正極材料、その製造方法及びリチウム二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/525 20100101AFI20240115BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20240115BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20240115BHJP
   C01G 53/00 20060101ALI20240115BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/505
H01M4/36 C
C01G53/00 A
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021538216
(86)(22)【出願日】2021-03-24
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-06-24
(86)【国際出願番号】 CN2021082711
(87)【国際公開番号】W WO2021190559
(87)【国際公開日】2021-09-30
【審査請求日】2021-06-29
(31)【優先権主張番号】202010229098.3
(32)【優先日】2020-03-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】521125006
【氏名又は名称】深▲セン▼市貝特瑞納米科技有限公司
(73)【特許権者】
【識別番号】322003798
【氏名又は名称】パナソニックエナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】黄 友元
(72)【発明者】
【氏名】楊 順毅
(72)【発明者】
【氏名】宋 雄
(72)【発明者】
【氏名】張 弘旭
(72)【発明者】
【氏名】羅 亮
(72)【発明者】
【氏名】野村 峻
(72)【発明者】
【氏名】守田 昂輝
(72)【発明者】
【氏名】四宮 拓也
【審査官】上野 文城
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-211925(JP,A)
【文献】国際公開第2019/143047(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/021806(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0260965(US,A1)
【文献】特開2016-197611(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第108493435(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第108232182(CN,A)
【文献】特表2018-503238(JP,A)
【文献】特開2011-070789(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/525
H01M 4/505
H01M 4/36
C01G 53/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式:LiNi1-x-yCoAl(式中、0.95≦b≦1.10、0≦x≦0.15、0.01≦y≦0.1、0<z≦0.05、Mは、Mn、Mg、Sr、Ca及びNbから選ばれる少なくとも1種の金属元素である。)で示される正極材料であって、
前記元素Mは、前記正極材料の内部及び表層に分布し、前記正極材料の内部に分布する元素Mは、ドーピングの形態で存在し、前記正極材料の表層に分布する元素Mは、M酸化物及び/又はリチウムM複合酸化物から形成された被覆層の形態で存在し、
前記元素Mの前記表層に占める原子比率に対する前記元素Mの前記内部に占める原子比率の比は、0.5より大きく、
ただし、前記正極材料の前記内部および前記表層は、イオンビームカッターで切断された正極材料の粒子の断面における粒子の略直径の方向に沿って高精度電子分光装置で元素の線分析を行う際に、線分析の直径の中心点箇所と末端箇所をそれぞれ指すことを特徴とする正極材料。
【請求項2】
以下の条件a~cのうち少なくとも1つを満たす、請求項1に記載の正極材料。
(a.前記正極材料における前記元素Mの合計含有量は、500ppm~5000ppmである。
b.前記正極材料の表層におけるリチウム含有量は、前記正極材料の全質量に対して0.02wt%~0.12wt%である。
c.前記正極材料の表層における炭素含有量は、前記正極材料の全質量に対して0.01wt%~0.035wt%である。)
【請求項3】
以下の条件a~fのうち少なくとも1つを満たす、請求項1又は2に記載の正極材料。
(a.前記正極材料は、一次粒子からなる二次粒子である。
b.前記正極材料の粒子は、球形を呈する。
c.前記正極材料の平均粒径は、3μm~20μmである。
d.前記正極材料は、D95>20μmである。
e.前記正極材料の比表面積は、0.5m/g~2.0m/gである。
f.前記正極材料は、2032ボタン電池に用いられる際の初期放電容量≧200mAh/gである。)
【請求項4】
Ni1-x-yCoAl酸化物及び/又は水酸化物(ただし、0≦x≦0.15、0.01≦y≦0.1)、M化合物(ただし、Mは、Mn、Mg、Sr、Ca及びNbから選ばれる少なくとも1種の金属元素である。)及びリチウム化合物を含む混合物を焼結して焼成物を得る工程と、
前記焼成物を溶媒で洗浄して乾燥し、一般式:LiNi1-x-yCoAl(式中、0.95≦b≦1.10、0≦x≦0.15、0.01≦y≦0.1、0<z≦0.05、Mは、前記と同義である。)で示される正極材料を得る工程とを含む、正極材料の製造方法であって、
前記元素Mは、前記正極材料の内部及び表層に分布し、前記正極材料の内部に分布する元素Mは、ドーピングの形態で存在し、前記正極材料の表層に分布する元素Mは、M酸化物及び/又はリチウムM複合酸化物から形成された被覆層の形態で存在し、前記元素Mの前記表層に占める原子比率に対する前記元素Mの前記内部に占める原子比率の比は0.5より大きく、
ただし、前記正極材料の前記内部および前記表層は、イオンビームカッターで切断された正極材料の粒子の断面における粒子の略直径の方向に沿って高精度電子分光装置で元素の線分析を行う際に、線分析の直径の中心点箇所と末端箇所をそれぞれ指すことを特徴とする正極材料の製造方法。
【請求項5】
以下の条件a~eのうち少なくとも1つを満たす、請求項4に記載の製造方法。
(a.前記正極材料の表層におけるリチウム含有量は、前記正極材料の全質量に対して0.02wt%~0.12wt%である。
b.前記正極材料の表層における炭素含有量は、前記正極材料の全質量に対して0.01wt%~0.035wt%である。
c.前記正極材料の平均粒径は、3μm~20μmである。
d.前記正極材料の比表面積は、0.5m/g~2.0m/gである。
e.前記正極材料は、2032ボタン電池に用いられる際の初期放電容量≧200mAh/gである。)
【請求項6】
以下の条件a~gのうち少なくとも1つを満たす、請求項4又は5に記載の製造方法。
(a.前記M化合物は、Mの水酸化物及び/又はMの酸化物である。
b.前記リチウム化合物は、炭酸リチウム、水酸化リチウム、酢酸リチウム、硝酸リチウム及びシュウ酸リチウムのうちの少なくとも1つを含む。
c.前記リチウム化合物におけるリチウムのモル含有量と、前記混合物におけるNi、Co、Al及びMのモル含有量の合計との比は、(0.97~1.15):1である。
d.前記正極材料における前記元素Mの合計含有量は、500ppm~5000ppmである。
e.前記M化合物の平均粒径は、5μm未満である。
f.前記M化合物は、平均粒径が1μm~5μmのMの水酸化物である。
g.前記M化合物は、平均粒径が200nm未満のMの酸化物である。)
【請求項7】
以下の条件a~cのうち少なくとも1つを満たす、請求項4~6のいずれか1項に記載の製造方法。
(a.前記焼結は、酸素含有量≧90%の雰囲気下で行われる。
b.前記焼結の温度は、650℃~900℃である。
c.前記焼結の時間は、6h~30hである。)
【請求項8】
前記溶媒は、非水物質と水を混合してなるものであり、前記非水物質は、酸、有機溶媒、リン酸塩及びアンモニウム塩のうちの少なくとも1つを含む、請求項4~7のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項9】
以下の条件a~dのうち少なくとも1つを満たす、請求項8に記載の製造方法。
(a.前記酸は、HPO、H、HBO及びHClのうちの少なくとも1つを含む。
b.前記有機溶媒は、COH及びCOのうちの少なくとも1つを含む。
c.前記リン酸塩は、NHPO、(NHHPO、(NHPO、NaHPO、NaHPO及びNaPOのうちの少なくとも1つを含む。
d.前記アンモニウム塩は、NHCl及びNHNOのうちの少なくとも1つを含む。)
【請求項10】
前記焼成物を溶媒で洗浄する際に形成される、前記焼成物と前記溶媒からなるスラリーは、濃度(焼成物(g)/溶媒(L))が500g/L~2000g/Lである、請求項4~9のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項11】
請求項1~3のいずれか1項に記載の正極材料を含むことを特徴とするリチウム二次電池。
【請求項12】
請求項4~10のいずれか1項に記載の製造方法により正極材料を製造すること、及び
前記正極材料を用いてリチウム二次電池を製造することを含む、リチウム二次電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2020年03月27日付で中国特許庁に出願された、出願番号が2020102290983であり、発明の名称が「正極材料、その製造方法及びリチウム二次電池」である中国特許出願に基づく優先権を主張し、その全ての内容は援用により本願に組み込まれる。
【0002】
本願は、リチウム二次電池の分野に関し、具体的には、正極材料、その製造方法及びリチウム二次電池に関し、特に高ニッケル三元系正極材料、その製造方法及びリチウム二次電池に関する。
【背景技術】
【0003】
環境汚染及びエネルギー危機は今の世界発展の2つの難題となっており、伝統的な化石エネルギーの過剰消費及びそれによって引き起こされた環境問題を解決することは急務であり、新エネルギーの開発と利用はますます世界各国から重要視されている。新エネルギー電気自動車の発展は、中国の自動車産業の競争力を高め、エネルギー安全保障及び低炭素経済発展のための重要な道であり、そして電気自動車の発展のカギは、動力電池の発展にある。しかしながら、新エネルギー電気自動車は人々に広く受け入れられておらず、その原因は、主に、従来のガソリン車と比較して、電気自動車には価格、航続距離及び安全性等の面で大きな差があるためである。リチウムイオン動力電池は、電気自動車の重要部材及び発展のボトルネックとして、決定的な役割を果たす。正極材料はリチウムイオン電池のコスト、エネルギー密度及び安全性に影響を与える重要な要素である。コバルト酸リチウム、リン酸鉄リチウム、マンガン酸リチウムのエネルギー密度はいずれも180mAh/gより低いため、リチウムイオン電池の応用分野におけるエネルギー密度への需要の高まりを満たすことができず、高ニッケル三元系材料は、新型の正極材料として、エネルギー密度が高く、作動電圧が高く、タップ密度が高いという総合的な優位性を有し、3C及び動力電池の分野で広く応用されている。
【0004】
高ニッケル三元系材料のニッケル含有量の継続的な増加につれて、材料のハイレート性能及び熱安定性の実現は大きな課題となっている。現在、材料のレート性能及び熱安定性を向上させる方法については、主にドーピング法及び被覆法が挙げられる。通常の被覆改質は、被覆補助材料のコストを追加する必要があるだけでなく、混合及び熱処理等の工程を追加する必要もあり、プロセスの複雑さが増加し、プロセスの安定性の制御要求がより高くなり、加工コストがより高くなる。ドーピング改質は、前駆体製造及びリチウム混合焼結の2つの過程中に実施でき、前駆体製造過程中にドーピングを行う場合の最大の問題は、前駆体製造プロセスの複雑さを増すことである。
【0005】
従って、プロセスが簡単で、コストが低く、且つドーピング改質と被覆改質の利点を両立できる、ハイレート性能及び高熱安定性を有する高ニッケル三元系正極材料を開発する必要がある。
【発明の概要】
【0006】
従来の技術に存在している上記課題を解決するために、本願は、正極材料、その製造方法及びリチウム二次電池を提供することを目的とする。本願に係る正極材料は、正極材料のレート性能及び熱安定性を両立させることができる。
【0007】
上記目的を達成するために、本願は、以下の技術案を提供する。
【0008】
本発明の第1態様では、一般式:LiNi1-x-yCoAl(式中、0.95≦b≦1.10、0≦x≦0.15、0.01≦y≦0.1、0<z≦0.05、Mは金属元素である。)で示される正極材料であって、
前記元素Mは、前記正極材料の内部及び表層に分布し、前記正極材料の内部に分布する元素Mは、ドーピングの形態で存在し、前記正極材料の表層に分布する元素Mは、Mの酸化物及び/又はリチウムとMの複合酸化物(以下、「リチウムM複合酸化物」とも称する。)から形成された被覆層の形態で存在し、
前記内部における元素Mと前記表層における元素Mとのモル比は0.5より大きいことを特徴とする正極材料を提供する。
【0009】
前記第1態様において、好ましくは、前記正極材料は、以下の条件a~dのうち少なくとも1つを満たす。
a.前記元素Mは、Al、Mn、Mg、Sr、Ca、Zr、Ti、La、W、Nb、Y及びGdから選ばれる少なくとも1つである。
b.前記正極材料における前記元素Mの合計含有量は、500ppm~5000ppmである。
c.前記正極材料の表層中のリチウム含有量は、前記正極材料の全質量に対して0.02wt%~0.12wt%である。
d.前記正極材料の表層中の炭素含有量は、前記正極材料の全質量に対して0.01wt%~0.035wt%である。
【0010】
前記第1態様において、好ましくは、前記正極材料は、以下の条件a~fのうち少なくとも1つを満たす。
a.前記正極材料は、一次粒子からなる二次粒子であり、且つ前記二次粒子は内部に密な構造である。
b.前記正極材料の粒子は、球形又は略球形を呈する。
c.前記正極材料の平均粒径は、3μm~20μmである。
d.前記正極材料は、D95>20μmである。
e.前記正極材料の比表面積は、0.5m/g~2.0m/gである。
f.前記正極材料は、2032ボタン電池に用いられる際の初期放電容量≧200mAh/gである。
【0011】
本発明の第2態様では、
Ni1-x-yCoAl酸化物及び/又は水酸化物(ただし、0≦x≦0.15、0.01≦y≦0.1。)、M化合物(ただし、Mは金属元素である。)及びリチウム化合物を含む混合物を焼結して、焼成物を得る工程と、
前記焼成物を溶媒で洗浄し、乾燥させて、前記正極材料を得る工程と、
を含む正極材料の製造方法であって、
前記正極材料は、一般式:LiNi1-x-yCoAl(式中、0.95≦b≦1.10、0≦x≦0.15、0.01≦y≦0.1、0<z≦0.05、Mは、前記と同義である。)で示され、
前記元素Mは、前記正極材料の内部及び表層に分布し、前記正極材料の内部に分布する元素Mは、ドーピングの形態で存在し、前記正極材料の表層に分布する元素Mは、Mの酸化物及び/又はリチウムM複合酸化物から形成された被覆層の形態で存在し、
前記内部における元素Mと前記表層における元素Mとのモル比は0.5より大きいことを特徴とする正極材料の製造方法を提供する。
【0012】
前記第2態様において、好ましくは、前記正極材料は、以下の条件a~eのうち少なくとも1つを満たす。
a.前記正極材料の表層中のリチウム含有量は、前記正極材料の全質量に対して0.02wt%~0.12wt%である。
b.前記正極材料の表層中の炭素含有量は、前記正極材料の全質量に対して0.01wt%~0.035wt%である。
c.前記正極材料の平均粒径は、3μm~20μmである。
d.前記正極材料の比表面積は、0.5m/g~2.0m/gである。
e.前記正極材料は、2032ボタン電池に用いられる際の初期放電容量≧200mAh/gである。
【0013】
前記第2態様において、好ましくは、前記方法は、以下の条件a~hのうち少なくとも1つを満たす。
a.前記M化合物は、Mの水酸化物及び/又はMの酸化物である。
b.前記元素Mは、Al、Mn、Mg、Sr、Ca、Zr、Ti、La、W、Nb、Y及びGdから選ばれる少なくとも1つである。
c.前記リチウム化合物は、炭酸リチウム、水酸化リチウム、酢酸リチウム、硝酸リチウム及びシュウ酸リチウムのうちの少なくとも1つを含む。
d.前記リチウム化合物におけるリチウムのモル含有量と、前記混合物におけるNi、Co、Al及びMのモル含有量の合計との比は(0.97~1.15):1である。
e.前記正極材料における前記元素Mの合計含有量は、500ppm~5000ppmである。
f.前記M化合物の平均粒径は、5μm未満であり、
g.前記M化合物は、平均粒径が1μm~5μmのMの水酸化物である。
h.前記M化合物は、平均粒径が200nm未満のMの酸化物である。
【0014】
前記第2態様において、好ましくは、前記方法は、以下の条件a~cのうち少なくとも1つを満たす。
a.前記焼結は、酸素含有量≧90%の雰囲気下で行われる。
b.前記焼結の温度は、650℃~900℃である。
c.前記焼結の時間は、6h~30hである。
【0015】
前記第2態様において、好ましくは、前記方法は、前記焼成物を溶媒で洗浄し、乾燥させて、前記正極材料を得る前記工程の前に、
非水物質と水を混合して、前記溶媒を得る工程をさらに含み、
前記非水物質は、酸、有機溶媒、リン酸塩及びアンモニウム塩のうちの少なくとも1つを含む。
【0016】
前記第2態様において、好ましくは、前記方法は、以下の条件a~dのうち少なくとも1つを満たす。
a.前記酸は、HPO、H、HBO及びHClのうちの少なくとも1つを含む。
b.前記有機溶媒は、COH及びCOのうちの少なくとも1つを含む。
c.前記リン酸塩は、NHPO、(NHHPO、(NHPO、NaHPO、NaHPO及びNaPOのうちの少なくとも1つを含む。
d.前記アンモニウム塩、はNHCl及びNHNOのうちの少なくとも1つを含む。
前記第2態様において、好ましくは、前記焼成物と前記溶媒からなるスラリーは、濃度(焼成物(g)/溶媒(L))が500g/L~2000g/Lである。
【0017】
本発明の第3態様では、前記第1態様の正極材料、又は前記第2態様の製造方法で製造された正極材料を含むリチウム二次電池を提供する。
【0018】
従来技術と比較して、本願は以下の有益な効果を有する。
【0019】
(1)本発明に係る正極材料において、元素Mは正極材料の粒子の内部及び表層に分布し、且つ正極材料の内部における元素Mと表層内における元素Mとのモル比は0.5より大きい。正極材料の内部における元素Mは、主にドーピングの形態で存在する。元素Mをドーピングすることによって、材料の層状構造を最適化し、材料の相変化を抑制し、材料の構造安定性を向上させることができ、これにより、正極材料の熱安定性を向上させることができる。表層における元素Mは、M酸化物及び/又はリチウムM複合酸化物の形態で存在し、LiMO/MO構造被覆層を形成し、正極材料と電解液の反応を抑制する。これにより、電解液による腐食から正極材料の表面を保護し、熱安定性を向上させることができるだけでなく、正極材料のリチウムイオン導電率を向上させ、リチウムイオンの拡散速度を上げることができ、その結果、得られた正極材料にハイレート性能及び熱安定性を両立させることができる。正極材料の粒子の内部と表層内における元素Mのモル比が0.5未満である場合、正極材料中のLi/Niカチオンミキシングが深刻になるとともに、正極材料のサイクルの過程中での構造安定性及び熱安定性がいずれも低下することになる。表層内におけるM酸化物及び/又はリチウムM複合酸化物が多すぎる場合、正極材料の表面インピーダンスが向上し、リチウムイオンの拡散係数が低下し、その結果、正極材料のレート性能が低下することになる。従って、正極材料の内部における元素Mと表層における元素Mとのモル比を制御することによって、正極材料のレート性能及び熱安定性を両立させることができる。
【0020】
(2)本発明は、正極材料の大規模な工業化生産を容易にする簡単・安定・安全な製造方法を提供する。当該製造方法は、ドーピング改質と被覆改質をワンステップで実現し、簡単なプロセス及び低いコストで2つの改質手段の利点を兼ねるだけでなく、非水系物質を導入して洗浄することによって、正極材料粒子の表面構造及び表層におけるリチウム含有量を効果的に制御し、粒子の表面耐食能力及びリチウムイオン導電率を向上し、ガス発生を低下することができるため、優れた放電容量、レート性能、安全性能及びサイクル性能を兼ねることを効果的に実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】は、本願の実施例に係る正極材料の製造方法のフローチャートである。
図2a】及び
図2b】は、実施例1の正極材料の異なる倍率での走査型電子顕微鏡写真である。
図3a】及び
図3b】は、比較例1の正極材料の異なる倍率での走査型電子顕微鏡写真である。
図4】は、本願の実施例1及び比較例1のレート性能を示すものである。
図5】は、本願の実施例1及び比較例1の示差走査熱曲線(DSC)である。
図6】は、本願の実施例1の正極材料の切断面の走査型電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明を説明して本発明の技術案を理解しやすくするために、以下、本発明をさらに詳細に説明する。なお、下記の実施例は、本発明の簡単化された例に過ぎず、本願の保護範囲を示す又は制限するものではない。なお、本願の保護範囲は、特許請求の範囲に準じるべきである。
【0023】
以下は本発明の典型的な実施例であるが、これらに限られない。
【0024】
現在、高ニッケル三元系材料のニッケル含有量の継続的な増加につれて、材料のハイレート性能及び熱安定性の実現は大きな課題となっている。従って、本願は、プロセスが簡単で、コストが低く、且つドーピング改質と被覆改質の利点を両立できる、ハイレート及び高熱安定性を有する高ニッケル三元系正極材料とその製造方法を提案する。
【0025】
本発明の第1態様では、一般式:LiNi1-x-yCoAl(式中、0.95≦b≦1.10、0≦x≦0.15、0.01≦y≦0.1、0<z≦0.05、Mは金属元素である。)で示される正極材料であって、
前記元素Mは、前記正極材料の内部及び表層に分布し、前記正極材料の内部に分布する元素Mはドーピングの形態で存在し、前記正極材料の表層に分布する元素MはM酸化物及び/又はリチウムM複合酸化物から形成された被覆層の形態で存在し、
前記内部における元素Mと前記表層における元素Mとのモル比は0.5より大きいことを特徴とする正極材料を提供する。
【0026】
本発明に係る正極材料において、元素Mは正極材料の粒子の内部及び表層に分布し、且つ正極材料の内部における元素Mと表層内における元素Mとのモル比は0.5より大きい。正極材料の内部における元素Mは、主にドーピングの形態で存在する。元素Mをドーピングすることによって、材料の層状構造を最適化し、材料の相変化を抑制し、材料の構造安定性を向上させることができ、これにより、正極材料の熱安定性を向上させることができる。表層における元素Mは、M酸化物及び/又はリチウムM複合酸化物の形態で存在し、LiMO/MO構造被覆層を形成し、正極材料と電解液の反応を抑制することができる。これにより、電解液による腐食から正極材料の表面を保護し、熱安定性を向上することができるだけでなく、正極材料のリチウムイオン導電率を向上し、リチウムイオンの拡散速度を上げることができ、その結果、得られた正極材料にハイレート性能及び熱安定性を両立させることができる。正極材料の粒子の内部と表層内における元素Mのモル比が0.5未満である場合、正極材料中のLi/Niカチオンミキシングが深刻になるとともに、正極材料のサイクルの過程中での構造安定性及び熱安定性がいずれも低下することになる。表層内におけるM酸化物及び/又はリチウムM複合酸化物が多すぎる場合、正極材料の表面インピーダンスが向上し、リチウムイオンの拡散係数が低下し、その結果、正極材料のレート性能が低下することになる。従って、正極材料の内部における元素Mと表層における元素Mとのモル比を制御することによって、正極材料のレート性能及び熱安定性を両立させることができる。
【0027】
具体的には、bの値は、具体的に0.95、1.0、1.05又は1.10等であってもよく、xの値は、具体的に、0、0.01、0.02、0.03、0.05、0.08、0.10、0.12又は0.15等であってもよく、yは、0.01、0.02、0.03、0.04、0.05、0.06、0.07、0.08、0.09又は0.1等であってもよく、zは、0.001、0.005、0.010、0.015、0.020、0.025、0.030、0.035、0.040、0.045又は0.050等であってもよいが、これらの値に限られない。
【0028】
本発明の一実施形態において、LiNi1-x-yCoAlの元素MはAl、Mn、Mg、Sr、Ca、Zr、Ti、La、W、Nb、Y及びGdから選ばれる少なくとも1つであってもよい。他のいくつかの実施形態では、前記元素Mは上記以外の金属元素であってもよい。
【0029】
なお、LiとNiの半径が近いため、リチウム脱離過程中で、Li脱離により空孔が形成し、NiがLiサイトに移動しやすく、リチウムの析出を引き起こし、連続的に繰り返すサイクルの過程中で、ミキシング比率が増加し、正極材料の階層構造が崩壊しやすく、性能が大幅に低下することになり、サイクル性能に影響を与える。従って、元素Mをドーピングすることによって、リチウム脱離過程中で正極材料の階層構造の変化を緩衝し得、材料のハイレート性能及び熱安定性を改善することができる。
【0030】
本発明の一実施形態において、前記正極材料の粒子の内部における元素Mと前記表層内における元素Mとのモル比は0.5より大きく、具体的に0.55、0.6、0.7、1.0、1.5又は2.0等であってもよい。前記正極材料の粒子の内部における元素Mと表層における元素Mとのモル比が0.5未満である場合、正極材料構造のLi/Niカチオンミキシングが深刻になり、正極材料のサイクル過程での構造安定性及び熱安定性がいずれも低下することになる。表層内に分布するM酸化物及び/又はリチウムM複合酸化物が多すぎる場合、正極材料の表面インピーダンスが増加し、リチウムイオン拡散係数が低下し、その結果、レート性能が低下することになる。従って、前記正極材料の粒子の内部における元素Mと前記表層内における元素Mとのモル比を0.5以上に制御することで、正極材料のハイレート性能及び高熱安定性を両立させることができる。
【0031】
本発明の一実施形態において、前記元素Mは、平均粒径が5μm未満のM化合物に由来し、且つM化合物とリチウム化合物は650℃以下の温度で反応して前記リチウムM複合酸化物を生成することができる。これにより、元素Mを正極材料の粒子の内部にドーピングして粒子の内部におけるM含有量を向上し、正極材料の粒子の内部における元素Mと前記表層内における元素Mとのモル比が0.5より大きいことを確保することができる。
【0032】
本発明の一実施形態において、前記正極材料における前記元素Mの合計含有量は、500ppm~5000ppmであり、具体的には、500ppm、700ppm、900ppm、1000ppm、1200ppm、2000ppm、2500ppm、3000ppm、4000ppm又は5000ppm等であってもよい。正極材料における元素Mの合計含有量が500ppm未満である場合、材料の構造安定性の向上効果が不十分であり、正極材料はサイクル過程中で相変化が発生しやすい。一方、正極材料における元素Mの合計含有量が5000ppmを超える場合、材料の容量が低下するとともに、材料のインピーダンスが増加することがある。元素Mの含有量を上記範囲内に制御することで、良好なドーピング及び被覆効果を得ることができるだけでなく、高容量を得ることもできる。好ましくは、前記正極材料における前記元素Mの合計含有量は、700ppm~2000ppmである。
【0033】
本発明の一実施形態において、前記正極材料は、一次粒子からなる二次粒子であり、且つ内部に密な構造を有する。なお、一次粒子は単一の微細結晶粒であり、二次粒子は一次粒子が凝集して形成した粒子である。好ましくは、前記二次粒子は一次粒子の凝集体であり、二次粒子の内部が密であり、二次粒子は球形又は略球形を呈し、即ち、正極材料は、球形又は略球形であってもよい。
【0034】
多孔質構造と比較して、一次粒子は緊密に結合して内部構造が密な二次粒子を形成し、正極材料のタップ密度及び粒子の圧縮強さを向上するのに有利であるだけでなく、電解液が粒子の内部に浸入して正極材料を腐食するのを効果的に防止することができる。球形構造は、不規則形状構造よりも高いタップ密度及びリチウムイオン拡散効率を有する。密な球形構造であれば、リチウム二次電池の体積エネルギー密度、レート性能及び熱安定性を向上することにも有利である。
【0035】
本発明の一実施形態において、前記正極材料の平均粒径は3μm~20μmであり、具体的には、3μm、4μm、5μm、7μm、9μm、12μm、15μm、18μm又は20μm等であってもよく、好ましくは10μm~13μmである。複数回の試験により、正極材料の平均粒径を3μm~20μmの範囲内に制御する場合、正極材料がサイクルの過程中でクラッキングするという問題を回避でき、正極材料の構造安定性、熱安定性及び長期サイクル安定性を向上するのに有利であることが分かっている。
【0036】
好ましくは、前記正極材料は、D95>20μmであり、例えば20.5μm、21.5μm、22μm又は25μm等である。
【0037】
本発明の一実施形態において、前記正極材料の比表面積は、0.5m/g~2.0m/gであり、具体的には、0.5m/g、0.7m/g、0.9m/g、1.1m/g、1.3m/g、1.5m/g、1.8m/g又は2.0m/g等であってもよく、正極材料の比表面積を0.5m/g~2.0m/gの範囲内に制御する場合、当該正極材料で製造されたリチウム電池のサイクル性能を向上するのに有利である。好ましくは、前記正極材料の比表面積は、0.7m/g~1.5m/gである。
【0038】
本発明の一実施形態において、前記正極材料の表層におけるリチウム含有量は、前記正極材料の全質量に対して0.02wt%~0.12wt%であり、具体的には、0.02wt%、0.05wt%、0.10wt%又は0.12wt%等であってもよく、好ましくは、0.05wt%~0.10wt%である。前記正極材料の表層におけるリチウム含有量を一定の範囲内に制御することで、電池のサイクルの過程中で、表面上の残留リチウムが電解液と反応してガスを発生し、電池の安全性に影響を与えるのを回避することができる。
【0039】
本発明の一実施形態において、前記正極材料の表層における炭素含有量は、前記正極材料の全質量に対して0.01wt%~0.035wt%であり、具体的には、0.01wt%、0.015wt%、0.02wt%、0.025wt%、0.03wt%又は0.035wt%等であってもよい。前記正極材料の表層における炭素は、炭酸リチウムの形で存在する。前記正極材料の表層における炭素含有量を一定の範囲内に制御することで、材料のサイクルの過程中でのガス発生による安全上の問題を抑制することができる。
【0040】
本発明の一実施形態において、前記正極材料は、2032ボタン電池に用いられる際の初期放電容量≧200mAh/gである。
【0041】
本発明の第2態様では、図1に示すように、以下の工程S100~S200を含む、正極材料の製造方法をさらに提供する。
【0042】
<工程S100>
該工程S100において、Ni1-x-yCoAl酸化物及び/又は水酸化物(ただし、0≦x≦0.15、0.01≦y≦0.1。)、M化合物(Mは金属元素である。)及びリチウム化合物を含む混合物を焼結して、焼成物を得る。
【0043】
<工程S200>
該工程S200において、前記焼成物を溶媒で洗浄、乾燥して、一般式:LiNi1-x-yCoAl(式中、0.95≦b≦1.10、0≦x≦0.15、0.01≦y≦0.1、0<z≦0.05であり、Mは前記と同義である。)で示される前記正極材料を得る。前記元素Mは、前記正極材料の内部及び表層に分布し、前記正極材料の内部に分布する元素Mは、ドーピングの形態で存在し、前記正極材料の表層に分布する元素Mは、M酸化物及び/又はリチウムM複合酸化物から形成された被覆層の形態で存在し、前記内部における元素Mと前記表層における元素Mとのモル比は0.5より大きい。
【0044】
本発明に係る製造方法は、ドーピング改質と被覆改質をワンステップで実現でき、簡単なプロセス及び低いコストで2つの改質手段の利点を両立させることができる。そして、非水系物質を導入して洗浄することによって、正極材料粒子の表面構造及び表層におけるリチウム含有量を効果的に制御することができ、粒子の表面耐食能力及びリチウムイオン導電率を向上し、ガス発生を低減し、それにより、放電容量、レート性能、安全性能及びサイクル性能を効果的に兼ねることができる。
【0045】
以下、具体的に上記技術案を説明する。
【0046】
工程S100において、Ni1-x-yCoAl酸化物及び/又は水酸化物、M化合物及びリチウム化合物を含む混合物を焼結して、焼成物を得る。
【0047】
本発明の一実施形態において、M化合物を添加することで、焼結過程中で正極材料内部へのドーピングと表層被覆をワンステップで実現し、2つの改質手段の優位性を兼ねるとともに、被覆工程を省き、プロセスの複雑さを低減させ、制造コストを節約する。
【0048】
好ましくは、元素Mは、Al、Mn、Mg、Sr、Ca、Zr、Ti、La、W、Nb、Y及びGdから選ばれる少なくとも1つであってもよい。他のいくつかの実施形態では、前記元素Mは、上記以外の金属元素であってもよい。
【0049】
本発明の一実施形態において、前記M化合物は、Mの水酸化物及び/又はMの酸化物である。他のいくつかの実施形態では、前記M化合物は、650℃以下の温度下でリチウム化合物と反応して前記リチウムM複合酸化物を生成できる他の物質であってもよく、Mの水酸化物又は酸化物に限られない。M化合物の粒子の平均粒径は5μm未満である。
【0050】
本発明の一実施形態において、前記Mの水酸化物の平均粒径(D50)は1μm~5μmであり、具体的には、1μm、1.5μm、2μm、2.5μm、3μm、3.5μm、4μm、4.5μm又は5μm等であってもよく、勿論、上記範囲内の他の値であってもよく、ここで限定しない。
【0051】
本発明の一実施形態において、前記Mの酸化物の平均粒径(D50)は、200nm未満であり、具体的には、199nm、190nm、180nm、170nm、160nm、150nm、140nm等であってもよく、勿論、上記範囲内の他の値であってもよく、ここで限定しない。
【0052】
本発明の実施形態は、固相反応の速度論及び界面反応理論に基づいて、適宜なM化合物の種類及び粒径を選択することによって、前記正極材料の内部における元素Mと前記表層における元素Mとのモル比を制御することができる。
【0053】
具体的には、M化合物の粒径は5μm未満であり、M化合物の粒径が小さいほど、比表面積が大きくなり、M化合物とNi1-x-yCoAl酸化物及び/又は水酸化物との表面接触がより十分になり、焼結中で二者の反応活性が向上し、それにより、元素Mが正極材料の内部に拡散するとともに、表層に均一に分布する傾向が強くなり、正極材料の内部での均一なドーピング及び正極材料の表層での均一な被覆を実現し、且つ正極材料の内部及び表層にそれぞれ分布する元素Mのモル比が大きくなる。M化合物の粒径が5μmより大きい場合、焼結過程において、M化合物は、正極材料の表面に大粒子の形態で存在する傾向があり、正極材料の内部における元素Mと前記表層における元素Mとのモル比が小さくなり、即ち、正極材料内に拡散した元素Mが少なくなる。また、M化合物の粒径が大きすぎるため、正極材料の表面との結合が不安定になり、被覆が不均一になりやすく、電池のサイクル過程中で脱落する現象が発生しやすく、理想的な被覆効果を達成することができない。
【0054】
本発明の一実施形態において、前記リチウム化合物は、炭酸リチウム、水酸化リチウム、酢酸リチウム、硝酸リチウム及びシュウ酸リチウムのうちの少なくとも1つを含み、水酸化リチウムが好ましい。
【0055】
本発明の一実施形態において、前記リチウム化合物の平均粒径は3μm~20μmであり、具体的には、3μm、5μm、6μm、10μm、13μm、15μm、18μm又は20μmであってもよく、ここで限定しない。
【0056】
本発明の一実施形態において、前記リチウム化合物におけるリチウムのモル含有量と、前記混合物におけるNi、Co、Al及びMのモル含有量の合計との比は(0.97~1.15):1である。該モル比を前記範囲内に制御することで、Li/Niカチオンミキシング度を効果的に低減することができ、焼成物の表面に残されたリチウムが多すぎると加工性能及び安全性能に影響を与えるのを、防止することができる。
【0057】
本発明の一実施形態において 、前記元素Mの前記正極材料における合計含有量は、500ppm~5000ppmであり、具体的には、500ppm、700ppm、900ppm、1000ppm、1200ppm、2000ppm、2500ppm、3000ppm、4000ppm又は5000ppm等であってもよい。元素Mの正極材料における合計含有量が500ppm未満である場合、材料の構造安定性に対する向上効果が限られ、正極材料がサイクル過程中で相変化しやすい。元素Mの正極材料における合計含有量が5000ppmを超える場合、材料の容量が低下するとともに、材料のインピーダンスが増加する。元素Mの含有量を上記範囲内に制御することで、良好なドーピング効果及び被覆効果を得ることができるだけでなく、高い容量を得ることもできる。好ましくは、前記元素Mの前記正極材料における合計含有量は、700ppm~2000ppmである。
【0058】
本発明の一実施形態において、前記焼結は、酸素含有量≧90%の雰囲気下で行われる。具体的には、該雰囲気は、体積計で90%以上の酸素と、残量の不活性気体とからなり、前記不活性気体として、窒素や、ヘリウム、ネオン、アルゴンなどの希ガスが挙げられる。また、酸素の含有量が上記範囲であれば、該雰囲気は酸素と空気の混合ガスであってもよい。
【0059】
本発明の一実施形態において、前記焼結の温度は、650~900℃である。上記範囲内であれば、十分な酸素が2価ニッケルの3価ニッケルへの酸化を促進し、Li/Niカチオンミキシングを低減し、正極材料の容量を向上することができる。また、この温度範囲は、層状構造の形成に利し、材料の分解を引き起こさない。好ましくは、700℃~770℃であり、例えば、700℃、710℃、720℃、730℃、740℃、750℃、760℃又は770℃等が挙げられるが、これらの数値に限られず、上記数値範囲内であれば、挙げられていない他の数値も同様に適用できる。
【0060】
本発明の一実施形態において、焼結の時間は6h~30hであり、例えば、6h、8h、10h、12h、15h、18h、21h、24h、27h又は30h等が挙げられるが、これらの数値に限られず、上記数値範囲内であれば、挙げられていない他の数値も同様に適用できる。焼結の時間を上記範囲内に制御することで、元素Mが熱拡散の作用下でNi1-x-yCoAl酸化物及び/又は水酸化物に均一にドーピングするのを実現することに利し、さらに正極材料の各性能指標を最適化することができる。好ましくは、前記焼結の時間は、6~20hである。
【0061】
さらに、工程S200前に、前記方法は、非水物質と水を混合して溶媒を得る工程を含む。前記非水物質は、酸、有機溶媒、リン酸塩及びアンモニウム塩のうちの少なくとも1つを含む。
【0062】
本発明の一実施形態において、前記酸は、HPO、H、HBO及びHClのうちの少なくとも1つを含む。
本発明の一実施形態において、前記有機溶媒は、COH及びCOのうちの少なくとも1つを含む。
本発明の一実施形態において、前記リン酸塩は、NHPO、(NHHPO、(NHPO、NaHPO、NaHPO及びNaPOのうちの少なくとも1つを含む。
本発明の一実施形態において、前記アンモニウム塩は、NHCl及びNHNOのうちの少なくとも1つを含む。
【0063】
なお、溶媒に非水物質を添加する場合、純水溶媒と比較して、非水物質は、洗浄緩衝剤として、前記正極材料の表層におけるリチウム含有量を制御するとともに、結晶格子内部に存在するリチウムイオン(以下、「格子リチウム」とも称する。)の損失を低減することができ、これにより、正極材料の表面構造をよりよく保護する。
【0064】
工程S200において、前記焼成物を溶媒で洗浄して乾燥し、前記正極材料を得る。
【0065】
本技術案では、溶媒による洗浄の過程中で、溶媒の非水物質が焼成物の表面に残されたリチウムと反応して1層の高リチウムイオン導電率被覆層、例えばLiPOを形成でき、材料のレート性能を向上することができるだけでなく、正極材料の表面が電解液により腐食される腐食度を効果的に低下させることができ、正極材料のサイクル性能を改善することに利する。
【0066】
本発明の一実施形態において、前記焼成物と前記溶媒からなるスラリーの濃度(焼成物(g)/溶媒(L))は、500g/L~2000g/Lである。スラリーの濃度が高すぎる場合、溶媒の用量が不足し、材料表層におけるリチウム含有量の除去に不利である。正極材料の表層におけるリチウム含有量が多すぎると、大量のガス発生及び表面インピーダンスの向上を引き起こしやすい。逆に、スラリーの濃度が低すぎる又は洗浄の時間が長すぎる場合、材料内部の一次粒子間の構造損傷、一次粒子からなる二次粒子の表面上における一次粒子中の格子リチウムの損失、及び、表面におけるM酸化物又はリチウムM複合化合物の損失を引き起こしやすい。
【0067】
本発明の実施形態では、前記焼成物を溶媒で洗浄し、ろ過、乾燥して正極材料の粉末を得る。洗浄条件を制御することで正極材料の表層におけるリチウム含有量を制御することは、正極材料の性能に非常に重要な影響を与えることができる。正極材料の表層におけるリチウム含有量を制御することによって、正極材料の加工性能、レート性能及び安全性能を兼ねることに有利である。
【0068】
本発明の第3態様では、本発明の第1態様に係る正極材料又は第2態様に係る製造方法で得られた正極材料を用いるリチウム二次電池をさらに提供する。
【0069】
本発明は、以下の具体的な実施例に限定されない。本発明の主旨を変えない範囲内で、上記の実施形態に対して適宜に変更や組み合わせを行って実施することができる。
【0070】
以下、図面を参照しながら、複数の実施例により本発明をさらに説明する。
【0071】
本願の各実施例及び比較例に記載の「ppm」添加量は、いずれも正極材料全体に対する質量濃度である。
【0072】
実施例1
本実施例は、以下の方法で正極材料を製造した。
【0073】
(1)まず、酸化物Ni0.88Co0.09Al0.03、水酸化リチウム及びD50が2.5μmのMg(OH)を高速ミキサーで均一に混合し(Li/(Ni+Co+Al+Mg)=1.08、Mgが3000ppmである。)、最後に、得られた混合物を760℃、95%酸素+5%窒素の雰囲気下で10h焼結し、破砕してふるいにかけ、Mgにより改質された焼成物Li1.08Ni0.88Co0.09Al0.03Mg0.013を得た。
【0074】
(2)上記焼成物Li1.08Ni0.88Co0.09Al0.03Mg0.013と、1.5wt%HPOを含む水溶液とを混合して濃度(焼成物(g)/HPO水溶液(L))が1000g/Lのスラリーを得、次に、洗浄、ろ過し、乾燥して前記正極材料としてLiNi0.88Co0.09Al0.03Mg0.013を得た。該正極材料は、平均粒径が12.5μm、D95が21.3μm、比表面積が1.13m/gである。
【0075】
本実施例で製造された正極材料の走査型電子顕微鏡写真は、図2a及び図2bに示される。図2bから分かるように、正極材料の粒子が球形又は略球形を呈する。また、本実施例で製造された正極材料の切断面の走査型電子顕微鏡写真は、図6に示される。本実施例で製造された正極材料に対して性能試験を行い、その結果を、表1に示す。
【0076】
実施例2
本実施例は、以下の方法で正極材料を製造した。
【0077】
(1)まず、予備焼成された水酸化物Ni0.76Co0.15Al0.09(OH)、水酸化リチウム及びD50が2.5μmのMg(OH)を高速ミキサーで均一に混合し(Li/(Ni+Co+Al+Mg)=1.10、Mgが1000ppmである。)、最後に、得られた混合物を850℃、90%酸素+10%窒素の雰囲気下で26h焼結し、破砕してふるいにかけ、Mgにより改質された焼成物Li1.10Ni0.76Co0.15Al0.09Mg0.004を得た。
【0078】
(2)上記の焼成物Li1.10Ni0.76Co0.15Al0.09Mg0.004と、1.0wt%HPOを含む水溶液とを混合して濃度(焼成物(g)/HPO水溶液(L))が500g/Lのスラリーを得、次に、洗浄、ろ過し、乾燥して前記正極材料としてLiNi0.76Co0.15Al0.09Mg0.004を得た。該正極材料は、平均粒径が15.3μm、D95が24.6μm、比表面積が0.76m/gである。
【0079】
本実施例で製造された正極材料に対して性能試験を行い、その結果を、表1に示す。
【0080】
実施例3
本実施例は、以下の方法で正極材料を製造した。
【0081】
(1)まず、水酸化物Ni0.98Co0.01Al0.01(OH)、水酸化リチウム及びD50が30nmのAlを高速ミキサーで均一に混合し(Li/(Ni+Co+Al)=1.02、Alが10000ppmである。)、最後に、得られた混合物を670℃、98%酸素+2%窒素の雰囲気下で9h焼結し、破砕してふるいにかけ、Alにより改質された焼成物Li1.02Ni0.98Co0.01Al0.01Al0.04を得た。
【0082】
(2)上記焼成物Li1.02Ni0.98Co0.01Al0.01Al0.04と、1.0wt%(NHHPOを含む水溶液とを混合して濃度(焼成物(g)/(NHHPO水溶液(L))が2000g/Lのスラリーを得、次に、洗浄、ろ過し、乾燥して前記正極材料としてLiNi0.98Co0.01Al0.01Al0.04を得た。該正極材料は、平均粒径が8.2μm、D95が20.1μm、比表面積が1.33m/gである。
【0083】
本実施例で製造された正極材料に対して性能試験を行い、その結果を表1に示す。
【0084】
実施例4
本実施例は、以下の方法で正極材料を製造した。
【0085】
(1)まず、酸化物Ni0.88Co0.09Al0.03、水酸化リチウム及びD50が50nmのNbを高速ミキサーで均一に混合し(Li/(Ni+Co+Al+Nb)=0.98、Nbが2000ppmである。)、最後に、得られた混合物を770℃、95%酸素+5%窒素の雰囲気下で10h焼結し、破砕してふるいにかけ、Nbにより改質された焼成物Li0.98Ni0.88Co0.09Al0.03Nb0.002を得た。
【0086】
(2)上記焼成物Li0.98Ni0.88Co0.09Al0.03Nb0.002と、1.5wt%(NHHPOを含む水溶液とを混合して濃度(焼成物(g)/(NHHPO水溶液(L))が1500g/Lのスラリーを得、次に、洗浄、ろ過し、乾燥して前記正極材料としてLiNi0.88Co0.09Al0.03Nb0.002を得た。該正極材料は、平均粒径が10.7μm、D95が22.1μm、比表面積が0.96m/gである。
【0087】
本実施例で製造された正極材料に対して性能試験を行い、その結果を表1に示す。
【0088】
実施例5
本実施例は、以下の方法で正極材料を製造した。
【0089】
(1)まず、水酸化物Ni0.88Co0.09Al0.03(OH)、水酸化リチウム及びD50が2.0μmのAl(OH)を高速ミキサーで均一に混合し(Li/(Ni+Co+Al)=1.08、Alが8000ppmである。)、最後に、得られた混合物を750℃、95%酸素+5%窒素の雰囲気下で10h焼結し、破砕してふるいにかけ、Alにより改質された焼成物Li1.08Ni0.88Co0.09Al0.03Al0.03を得た。
【0090】
(2)上記焼成物Li1.08Ni0.88Co0.09Al0.03Al0.03と、1.5wt%NHNOを含む水溶液とを混合して濃度(焼成物(g)/NHNO水溶液(L))が900g/Lのスラリーを得、次に、洗浄、ろ過し、乾燥して前記正極材料としてLiNi0.88Co0.09Al0.03Al0.03を得た。該正極材料は、平均粒径が11.4μm、D95が21.5μm、比表面積が1.28m/gである。
【0091】
本実施例で製造された正極材料に対して性能試験を行い、その結果を表1に示す。
【0092】
実施例6
本実施例は、以下の方法で正極材料を製造した。
【0093】
(1)まず、酸化物Ni0.91Co0.04Al0.05、水酸化リチウム及びD50が2.5μmのMg(OH)を高速ミキサーで均一に混合し(Li/(Ni+Co+Al+Mg)=1.08、Mgが5000ppmである。)、最後に、得られた混合物を750℃、95%酸素+5%窒素の雰囲気下で12h焼結し、破砕してふるいにかけ、Mgにより改質された焼成物Li1.08Ni0.91Co0.04Al0.05Mg0.02を得た。
【0094】
(2)上記焼成物Li1.08Ni0.91Co0.04Al0.05Mg0.02と、1.5wt%HPOを含む水溶液とを混合して濃度(焼成物(g)/HPO水溶液(L))が1000g/Lのスラリーを得、次に、洗浄、ろ過し、乾燥して前記正極材料としてLiNi0.91Co0.04Al0.05Mg0.02を得た。該正極材料は、平均粒径が13.3μm、D95が23.4μm、比表面積が1.02m/gである。
【0095】
本実施例で製造された正極材料に対して性能試験を行い、その結果を表1に示す。
【0096】
実施例7
本実施例は、以下の方法で正極材料を製造した。
【0097】
(1)まず、酸化物Ni0.82Co0.10Al0.08、水酸化物Ni0.82Co0.10Al0.08(OH)、水酸化リチウム及びD50が30nmのMnOを高速ミキサーで均一に混合し(Li/(Ni+Co+Al+Mn)=1.08、Mnが6000ppmである。)、最後に、得られた混合物を780℃、92%酸素+8%窒素の雰囲気下で15h焼結し、破砕してふるいにかけ、Mnにより改質された焼成物Li1.08Ni0.82Co0.10Al0.08Mn0.01を得た。
【0098】
(2)上記焼成物Li1.08Ni0.82Co0.10Al0.08Mn0.01と、1.5wt%HPOを含む水溶液とを混合して濃度(焼成物(g)/HPO水溶液(L))が650g/Lのスラリーを得、次に、洗浄、ろ過し、乾燥して前記正極材料としてLiNi0.82Co0.10Al0.08Mn0.01を得た。該正極材料は、平均粒径が11.2μm、D95が22.7μm、比表面積が0.83m/gである。
【0099】
本実施例で製造された正極材料に対して性能試験を行い、その結果を表1に示す。
【0100】
実施例8
本実施例は、以下の方法で正極材料を製造した。
【0101】
(1)まず、酸化物Ni0.85Co0.08Al0.07、水酸化物Ni0.85Co0.08Al0.07(OH)、水酸化リチウム及びD50が2.5μmのSr(OH)・8HOを高速ミキサーで均一に混合し(Li/(Ni+Co+Al+Sr)=1.08、Srが3500ppmである。)、最後に、得られた混合物を760℃、93%酸素+7%窒素の雰囲気下で15h焼結し、破砕してふるいにかけ、Srにより改質された焼成物Li1.08Ni0.85Co0.08Al0.07Sr0.004を得た。
【0102】
(2)上記焼成物Li1.08Ni0.85Co0.08Al0.07Sr0.004と、1.5wt%HPOを含む水溶液とを混合して濃度(焼成物(g)/HPO水溶液(L))が700g/Lのスラリーを得、次に、洗浄、ろ過し、乾燥して前記正極材料としてLiNi0.85Co0.08Al0.07Sr0.004を得た。該正極材料は、平均粒径が11.9μm、D95が21.2μm、比表面積が1.05m/gである。
【0103】
本実施例で製造された正極材料に対して性能試験を行い、その結果を表1に示す。
【0104】
比較例1
本比較例では、工程(1)でMg(OH)を添加しないことを除き、全ての操作及び原料の配合割合は実施例1と同じであった。
【0105】
本比較例で製造された正極材料に対して性能試験を行い、その結果を表1に示す。
【0106】
本比較例で製造された正極材料の走査型電子顕微鏡写真は、図3a及び図3bに示される。
【0107】
比較例2
本比較例では、工程(1)でMgの含有量を24000ppmに増加することを除き、全ての操作及び原料の配合割合は実施例1と同じであった。
【0108】
本比較例で製造された正極材料に対して性能試験を行い、その結果を表1に示す。
【0109】
比較例3
本比較例では、工程(2)で純水を用いて洗浄する(非水物質を添加しない)ことを除き、全ての操作及び原料の配合割合は実施例1と同じであった。
【0110】
本比較例で製造された正極材料に対して性能試験を行い、その結果を表1に示す。
【0111】
<試験方法>
マルバーン「マスターサイザー2000」レーザー回折式粒度分布測定装置を用いて正極材料に対して粒度分析を行い、その粒径分布及び平均粒径(D50)、D95を測定した。
Micromeritics TriStar II 3020自動比表面積/細孔分布測定装置を用いて正極材料の比表面積を測定した。具体的には、一定重量の正極材料の粉末を秤量し、真空中で加熱して脱ガス処理を完全に行い、表面に吸着されたものを除去した後、窒素ガス吸着法により、吸着された窒素の量から粒子の比表面積を算出した。
走査型電子顕微鏡を用いて、正極材料に対してモフォロジー分析を行い、その走査型電子顕微鏡写真を得た。
【0112】
ボタン半電池を用い、製造された正極材料に対して電気化学的性能の評価を行い、具体的な方法は以下のとおりであった。正極材料、導電性カーボンブラックSuper P及びポリフッ化ビニリデン(PVDF)を96:2:2の質量比で秤取し、固形分50%になるようにN-メチル-2-ピロリドン(NMP)を加え、高速分散機で粘稠状のスラリーに調製し、ブレードでアルミ箔に均一に塗布し、80℃のオーブンで乾燥した後、ロールプレスを行い、直径が14mmの正極シートに切断した。直径が16mmのリチウムシートを負極シートとし、Celgardポリプロピレン(PP)膜をセパレータとし、濃度が1mol/LのLiPFの炭酸エステル(ジエチルカーボネート(DEC)/エチレンカーボネート(EC)体積比1:1)溶液を電解液とし、アルゴンで置換されたグローブボックス内でボタン半電池を組み立てた。
【0113】
LAND電池試験システムを用い、25℃、3.0V~4.3Vの下で容量、初回効率及びレート性能試験を行い、参照容量を200mA/gに設定し、1Cに対応する電流密度を200mA/gとした。
【0114】
電位差滴定装置を用いて正極材料の表面におけるリチウム化合物の合計量を測定した。具体的には、塩酸にて滴定してから、消費された塩酸の量によってリチウム化合物の量に換算した。
【0115】
イオンビームカッターを用いて正極材料の粒子を切断し、次に高精度電子分光装置を利用して、切断された粒子の断面に対して元素の線分析を行い、線分析により得られた元素分布曲線に基づいて、粒子の内部と表層にそれぞれ分布するMのモル比を算出した。
【0116】
ネッチ示差走査熱量計を用い、5℃/min、窒素雰囲気下で、密閉した高圧坩堝中で電極材料に対して熱安定性試験を行い、示差走査熱曲線を得た。上記電極材料は、前記ボタン半電池が0.1Cで2.5サイクルを経過した後、満充電された状態で電極シートから掻き取られた活性物質であった。上記性能試験の結果は以下のとおりであった。
【0117】
【表1】
【0118】
図2a及び図2bから、実施例1で得られた正極材料は、その粒子の表面に明らかな大粒子がないことが分かる。これは、Mg又は/及びMg化合物と高ニッケル三元系正極材料とが効果的に融合したこと、即ち、Mgが粒子の内部へのドーピング及び表層の均一な被覆に成功したことを証明した。
【0119】
図4で示されるレート性能から、実施例1で得られた正極材料のレート性能が比較例1よりも優れることが分かる。これは、M化合物を添加せずに製造した正極材料のレート性能が明らかに悪くなることを証明した。
【0120】
図5で示される示差走査熱曲線から、実施例1に対応する正極材料の分解温度及び放熱量が比較例1よりも優れることが分かる。これは、M化合物を添加せずに製造した正極材料の熱安定性が明らかに悪くなることを証明した。
【0121】
表1から、本発明の実施例で製造された正極材料の電気化学的性能がいずれも優れ、0.1C放電容量が200mAh/g以上であり、初回効率が90%程度に達し、レート性能が良好であり、表層におけるリチウム含有量が低いことが分かる。
【0122】
表1で示される実施例1と比較例1とのデータの比較から、Mg(OH)を添加せずに製造した正極材料のレート性能が明らかに悪くなることが分かる。
【0123】
表1で示される実施例1と比較例2とのデータの比較から、Mgの含有量を24000ppmに増やした場合、即ち、Mの含有量が高すぎる場合、内部と表層にそれぞれ分布するMのモル比が0.5よりもはるかに小さく、正極材料の内部抵抗が増加し、材料の容量とレート性能とが低下することが分かる。
【0124】
表1の実施例1と比較例3のデータの比較から、洗浄の過程中で非水物質を添加しない場合、洗浄過程において多すぎる格子リチウムが損失し、表面構造が破壊され、しかも、洗浄過程において高リチウムイオン導体被覆層が形成しないことが分かる。上記の2つの理由から、得られた正極材料のレート性能が低下したとともに、表層中のリチウム含有量も増加した。
【0125】
以上で、上記実施例によって本発明の詳細なプロセス設備及びプロセスフローを説明したが、本発明が上記の詳細なプロセス設備及びプロセスフローに制限されず、即ち、本発明の実施が上記の詳細なプロセス設備及びプロセスフローに依存しなければならないということを意味しない。当業者は、本発明のあらゆる改良、本発明の製品の各原料の等価置換及び補助成分の添加、具体的な方式の選択等は、本願の保護範囲及び開示範囲内に属すると理解すべきである。
図1
図2a
図2b
図3a
図3b
図4
図5
図6