(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-12
(45)【発行日】2024-01-22
(54)【発明の名称】免震構造用すべり支承
(51)【国際特許分類】
F16F 15/02 20060101AFI20240115BHJP
E04H 9/02 20060101ALI20240115BHJP
【FI】
F16F15/02 L
E04H9/02 331E
F16F15/02 E
(21)【出願番号】P 2022004692
(22)【出願日】2022-01-14
【審査請求日】2023-06-30
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】596129352
【氏名又は名称】株式会社ダイナミックデザイン
(73)【特許権者】
【識別番号】596129363
【氏名又は名称】宮崎 光生
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 光生
【審査官】正木 裕也
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-044312(JP,A)
【文献】特開2011-112220(JP,A)
【文献】特表2020-507725(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 15/02
E04H 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部構造体に固定される上部すべり板と、
下部構造体に固定される下部スライダーで構成されるすべり支承であり、
前記上部すべり板は平板であり、
前記下部スライダーは、上側凸部材と下側凹部材の2部材を組み合わせて構成されており、
前記上側凸部材の上端には、前記上部すべり板に接触するすべり材が配置されており、
前記すべり材の最小平面寸法Dは、前記上側凸部材の下端から前記すべり材の上面までの高さHの1.5倍以上であり、
前記上側凸部材の少なくとも下半分以上が逆円錐形状となっており、
前記上側凸部材の下端には、曲率半径rの凸球面が備えられ、
前記下側凹部材は、平面中央に凹型窪みを備えたすり鉢形状となっており、
前記凹型窪みの底部には、曲率半径Rの凹球面が備えられ、
前記凸球面の曲率半径rよりも前記凹球面の曲率半径Rが大きく、
前記上側凸部材が、前記凹型窪み内に上から挿入されており、
前記上側凸部材の周囲には前記凹型窪みの側壁間に隙間空間Vが設けられ、
前記下側凹部材には、前記凹型窪みの側壁底部付近の内径を縮めて
前記上側凸部材の水平方向の移動を制限する鉛直方向に凸型に湾曲した膨らみ部が設けられ、
前記凸球面の中心部が前記凹球面の中心部に対して安定状態で点接触しており、
且つ前記上側凸部材と前記下側凹部材の接触点付近の表面硬度が、いずれもそれ以外の部分の母材硬度よりも高められていることを特徴とするすべり支承。
【請求項2】
請求項1に記載のすべり支承において、
前記上側凸部材および前記下側凹部材で構成される前記下部スライダーが、鋳鉄もしくは鋳鋼により鋳造されていることを特徴とするすべり支承。
【請求項3】
前記すべり支承を採用している構造物の耐用期間中において、前記上側凸部材の凸球面と前記下側凹部材の凹球面の接触点に作用し得る最大許容荷重以上の荷重を用いて、前記上側凸部材および前記下側凹部材
の接触点付近を製造時に予め事前圧縮プレス
により締め固める方法か、
もしくは前記上側凸部材および前記下側凹部材の鋳造製造時において、前記上側凸部材および前記下側凹部材の鋳造母材よりも硬度の高い材料で予め製造された高硬度球面部材を砂型内に事前配置することにより、前記上側凸部材または前記下側凹部材がそれぞれの接触球面部位に前記高硬度球面部材を取り込んで一体に鋳造成型
する方法か、
もしくは上面側が前記上側凸部材の凸球面と同じ曲率半径rの凹球面となっており、下面側が前記下側凹部材の凹球面と同じ曲率半径Rの凸球面となっている上下両球面を有する高硬度部材を、前記上側凸部材と前記下側凹部材の接触球面間に介在させて、前記最大許容荷重以上の荷重
を用いて、前記上側凸部材および前記下側凹部材
の接触球面を製造時に予め事前圧縮プレス
により締め固める方法のうちの、いずれかの方法を用いて、
前記上側凸部材および前記下側凹部材の接触球面の表面硬度を高めることを特徴とする
請求項1または2に記載のすべり支承の製造方法。
【請求項4】
請求項1または2のいずれかに記載のすべり支承において、
前記下部スライダーの上側凸部材上面のすべり材は、均一な厚さtの平板形状であり、且つ前記上側凸部材の上面に設けられた深さdの彫込部内に挿入配置されており、
前記すべり材が前記彫込部周囲の上面より突出している高さが、前記すべり材の全体厚さtの1/5以上、且つ1/2以下であることを特徴とするすべり支承。
【請求項5】
請求項1、2または4のいずれかに記載のすべり支承において、
前記下部スライダーを構成する前記下側凹部材および前記上側凸部材の接触点付近の接触球面の曲率半径の比率γ=R/rが、1.5≦γ であることを特徴とするすべり支承。
【請求項6】
請求項1、2、4または5のいずれかに記載のすべり支承において、
前記上側凸部材と前記下側凹部材の間の前記隙間空間V内に、圧縮変形し且つ徐荷後には元の形状に復元する物質を充填していることを特徴とするすべり支承。
【請求項7】
請求項6に記載のすべり支承において、
前記隙間空間V内に充填されている物質が、連続気泡を構成する発泡材料、もしくは独立気泡を構成する発泡材料であることを特徴とするすべり支承。
【請求項8】
請求項1、2、4、5、6または7のいずれかに記載のすべり支承において、
前記上部すべり板が矩形の平板であり、そのすべり面側を構成するステンレス製表面すべり板と、その裏側に配置される普通鋼板裏板の2重構造となっており、
前記ステンレス製表面すべり板と前記普通鋼板裏板を皿ボルトにより締結して、前記ステンレス製表面すべり板のすべり面上にボルト頭部を突出させない構造を有していることを特徴とするすべり支承。
【請求項9】
請求項8に記載のすべり支承において、
前記ステンレス製表面すべり板と前記普通鋼板裏板を締結しているボルトの内、前記すべり板表面の隅角部に近い位置のボルトのみ頭付きボルトを使用して、前記ステンレス製表面すべり板のすべり面上にボルト頭部が突出している構造を有していることを特徴とするすべり支承。
【請求項10】
請求項8または9のいずれかに記載のすべり支承において、
前記上部すべり板の普通鋼板裏板に、前記普通鋼板裏板よりも小面積の平面形状の裏板補強板を配置し一体化していることを特徴とするすべり支承。
【請求項11】
請求項10に記載のすべり支承において、
前記上部すべり板を構成する前記普通鋼板裏板および前記裏板補強板の両者もしくは片方にスタッドボルトを打設して前記上部構造体の上部基礎コンクリート躯体と前記上部すべり板とを一体化しており、
且つ前記上部基礎コンクリート躯体が、上面からみたときには、前記上部すべり板の外周を囲んでおり、高さ方向の断面からみたときには、前記上部基礎コンクリート躯体の底面が前記ステンレス製表面すべり板のすべり面と同一レベルの面一仕上げとなっている上部すべり板を有していることを特徴とするすべり支承。
【請求項12】
請求項11に記載のすべり支承において、
前記上部すべり板を構成する前記普通鋼板裏板および前記裏板補強板の両者もしくは片方に打設するスタッドボルトを、溶接により固定している溶接固定式スタッドボルト、もしくは前記
普通鋼板裏板および前記裏板補強板にスタッドボルト軸径とほぼ同径の孔を開けてその孔内にスタッドボルト軸体を打込み固定している打込み固定式スタッドボルトとしていることを特徴とするすべり支承。
【請求項13】
請求項1、2、4、5、6または7のいずれかに記載のすべり支承において、
前記上部すべり板の構成を、母材を普通鋼板、合わせ材をステンレス製薄板としたクラッド鋼板を採用し、前記ステンレス製薄板側を前記上部すべり板のすべり面側としていることを特徴とするすべり支承。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免震構造用すべり支承に関する。
【背景技術】
【0002】
地震に対する安全性を高める建物の構造方式として、免震構造がある。免震構造建物は、基礎等の下部構造体、目的建物である上部構造体、下部構造体と上部構造体の間に設けられる免震層の3部分より構成される。
【0003】
免震層には、上部構造体の重量を支えるアイソレータ(免震支承)と重量は支持しないが地震時の振動エネルギー吸収を目的とするダンパーで構成される。アイソレータには、
天然ゴム系・鉛プラグ入り・錫プラグ入り・高減衰ゴム系等の各種の積層ゴム支承、すべり支承、転がり支承等が知られており、ダンパーには、鉛ダンパー、鋼製ダンパー、オイルダンパー等が知られている。
【0004】
免震構造建物は、積層ゴム系免震支承が実用化されたことで実現・普及するに至ったが、積層ゴム系免震支承だけでは、免震層の周期伸張に限界があることが分かり、積層ゴム系支承と共に、すべり支承や転がり支承を併用することで、周期伸張や周期調整を自在に行うことが可能となっている。
【0005】
免震構造としての周期設定を自在に調整できる免震工法として、復元装置としての積層ゴム系支承と復元力を持たないすべり支承もしくは転がり支承を組み合わせる免震構造方法をここではハイブリッド免震構造と呼ぶことにする。この復元装置としての積層ゴムと弾性すべり支承を併用するハイブリッド方式の免震方法は特許文献1等で既に一般化している。
【0006】
転がり支承は、荷重支持に球体を用いる方法である為、原理上、構造物の荷重支持が点接触となるため、高価な免震装置にならざるを得ない。ハイブリッド免震構造建物を経済性を踏まえて実現しようとする場合、免震装置の荷重支持の原理から判断すると、すべり材の面接触で荷重を支持するすべり支承が有利であり、現実的であることが分かる。
【0007】
すべり支承には、すべり材を固定する支持部材(これを「スライダー本体」と呼ぶ)に比較的薄い積層ゴム体を利用する「弾性すべり支承」(特許文献2)や積層ゴム体を使用しない「剛すべり支承」が知られており、またすべり摩擦係数のレベルにより、一般にA:高摩擦すべり、B:中摩擦すべり、C:低摩擦すべりの3タイプに分類される。高摩擦タイプは摩擦係数が10%前後(0.08~0.14)、中摩擦タイプは3%~6%(0.03~0.06)程度、低摩擦タイプは1%(0.01)前後のものが実用化されている。
【0008】
摩擦係数としてどのレベルものを採用するか、どのタイプが適切であるかは、免震構造建物の設計条件や設計者の好み、判断によって異なってくるが、一般論としては、高摩擦タイプは抵抗力が高く、すべり時の発熱も大きいため、長周期・長時間地震動には向いていない。また、低摩擦タイプは抵抗力が低いので、エネルギー吸収性能が乏しく、別途何らかのダンパーを付加する必要があるため、免震システム全体としては高価、コストアップに繋がる。従って、高過ぎでも低過ぎでもない適切なレベルのエネルギー吸収性能を有しており、急激な発熱に起因する装置の耐久性能への問題もなく、免震システム全体としての経済性等を踏まえた総合的な観点としては、摩擦係数3%~6%程度の中摩擦タイプが望ましく、現実的であると判断される。
【0009】
すべり支承において、安定したすべり性能を発揮する為には、すべり材とすべり板が全面接触し、且つ均一な接触面圧を維持することが重要である。その為に、弾性すべり支承では積層ゴム体の面外変形によるなじみ接触効果を利用しており、積層ゴム体を使用しない剛すべり支承や簡易型の弾性すべり支承(特許文献3)の提案等においても、スライダー本体もしくは取付部とすべり材との間にゴムシート等を介在させている。
【0010】
しかし、その薄い積層ゴム体やゴムシートによるなじみ接触は、平常時の接触対応は可能としても、平常時以外の条件変化に対する対応には問題を有している場合が多い。特に杭支持建物では地震時の地盤の水平変形により杭体も水平変形を強制されるため、それによって杭頭傾斜が発生する。また、すべり支承自体にもある程度の高さがあるために、水平すべり力によってモーメントが発生し、それによってすべり支承の積層ゴム体に傾斜変形が発生する。
【0011】
地震時に、すべり支承の支持点、即ちすべり支承直下の杭頭部に傾斜が発生すると、均一な接触面圧は崩れ、接触面圧に偏りが生じて、接触部が部分的に高面圧となることによりすべり摩擦係数が低下する。更に杭頭傾斜が大きくなると、接触面に浮き上がりが生じるようになって接触面積が小さくなる結果、すべり材の摩耗が激しくなり、すべり材の破損に繋がる、という深刻な問題が生じる。
【0012】
この杭頭部の支持点傾斜問題を避ける方法としては、杭頭の地震時傾斜を抑制する必要があり、そのためには、杭頭を繋ぐ地中梁を配置して杭頭傾斜を地中梁によって曲げ戻す必要がある。
一般に杭材は大きな建物荷重を支持する為に、大断面であり、曲げ剛性も高い部材であるので、その杭頭の曲げ戻しを行う地中梁も大きな断面が必要となる。建物全体に剛強な地中梁を配置することは、大きなコスト負担となる。特に近年では、物流倉庫等においては平面寸法が何百メートル、スパン数20~30にも及ぶ大型平面の構造物が少なくなく、このような大型平面の免震ピット耐圧盤の全平面に剛強な地中梁を配置する費用は膨大なものになる。
【0013】
しかも、地中梁と杭の一体化により、地震時には杭頭および地中梁の両方に大きな地震時応力を発生させることになるので、杭基礎の耐震安全性能上も好ましくない。
このように、免震構造建物では、免震装置に費用がかかるだけでなく、免震層ピットや耐圧盤を構築するために大きな費用負担が必要となり、これが免震構造建物の採用、普及を阻害する大きな要因となっている。
杭基礎の杭頭を曲げ拘束することによる地震時安全性に対する問題点は、兵庫県南部地震(1995.Mj7.3)における杭基礎被害で大きく認識されることになり、杭頭の耐震安全性の解決方法に対するいくつかの提案がなされている。
特許文献4は、杭頭ピンを実現する杭頭接合装置の提案であり、杭頭に固定される凹型部材と建物基礎に固定される凸型部材で構成されており、両者が点接触することにより杭頭ピンが実現されるとする杭頭回転性能の改善を行う杭頭接合部材である。
特許文献5は、杭頭部に回転可能なピン支点を設け、その上部に接合体を配置しその上部にすべり材を配置する。構造物の底面にすべり板を配置して、構造物を支持する構造物の支持基礎構造が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】特開2011-122404号公報
【文献】特開平11-210823号公報
【文献】特開2003-056203号公報
【文献】特開2003-253688号公報
【文献】特開2004-44312号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、免震構造建物の普及促進を図るために、免震装置以外の構造体部分、特に免震層ピット耐圧盤および杭基礎等の構築費用を大きく低減することができる免震装置を実現することを目的とする。
具体的課題としては、地震時に杭頭部に回転・傾斜等が生じた場合、即ち装置の支持点に傾斜が生じた場合にもその影響を受けず、常にすべり面の全面接触条件を維持できる免震すべり支承を実現すること、それによって免震層ピットの杭頭地中梁を不要とする免震構造建物を実現可能とすること、それと同時に免震装置自体の合理化・低コスト化も合わせて実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、以下の構成は上記の課題を解決し、目的を達成するための手段である。
〈構成1〉
上部構造体に固定される上部すべり板と、
下部構造体に固定される下部スライダーで構成されるすべり支承であり、
前記上部すべり板は平板であり、
前記下部スライダーは、上側凸部材と下側凹部材の2部材を組み合わせて構成されており、
前記上側凸部材の上端には、前記上部すべり板に接触するすべり材が配置されており、
前記すべり材の最小平面寸法Dは、前記上側凸部材の下端から前期すべり材の上面までの高さHの1.5倍以上であり、
前記上側凸部材の少なくとも下半分以上が逆円錐形状となっており、
前記上側凸部材の下端には、曲率半径rの凸球面が備えられ、
前記下側凹部材は、平面中央に凹型窪みを備えたすり鉢形状となっており、
前記凹型窪みの底部には、曲率半径Rの凹球面が備えられ、
前記凸球面の曲率半径rよりも前記凹球面の曲率半径Rが大きく、
前記上側凸部材が、前記凹型窪み内に上から挿入されており、
前記上側凸部材の周囲には前記凹型窪みの側壁間に隙間空間Vが設けられ、
前記下側凹部材には、前記凹型窪みの側壁底部付近の内径を縮めて前記凸部材の水平方向の移動を制限する鉛直方向に凸型に湾曲した膨らみ部が設けられ、
前記凸球面の中心部が前記凹球面の中心部に対して安定状態で点接触しており、
且つ前記上側凸部材と前記下側凹部材の接触点付近の表面硬度が、いずれもそれ以外の部分の母材硬度よりも高められていることを特徴とするすべり支承。
【0017】
〈構成2〉
構成1に記載のすべり支承において、
前記上側凸部材および前記下側凹部材で構成される前記下部スライダーが、鋳鉄もしくは鋳鋼により鋳造されていることを特徴とするすべり支承。
【0018】
〈構成3〉
構成1又は2に記載のすべり支承において、
前記すべり支承を採用している構造物の耐用期間中において、前記上側凸部材の凸球面と前記下側凹部材の凹球面の接触点に作用し得る最大許容荷重以上の荷重を用いて、前記上側凸部材および前記下側凹部材が製造時に予め事前圧縮プレスされて、前記接触点付近が締め固められていること、
もしくは前記上側凸部材および前記下側凹部材の鋳造製造時において、前記上側凸部材および前記下側凹部材の鋳造母材よりも硬度の高い材料で予め製造された高硬度球面部材を砂型内に事前配置することにより、前記上側凸部材または前記下側凹部材がそれぞれの接触球面部位に前記高硬度球面部材を取り込んで一体に鋳造成型されていること、
もしくは上面側が前記上側凸部材の凸球面と同じ曲率半径rの凹球面となっており、下面側が前記下側凹部材の凹球面と同じ曲率半径Rの凸球面となっている上下両球面を有する高硬度部材を、前記上側凸部材と前記下側凹部材の接触球面間に介在させて、前記最大許容荷重以上の荷重で、前記上側凸部材および前記下側凹部材が製造時に予め事前圧縮プレスされて締め固められていること、のいずれかの方法を用いて接触球面の表面硬度を高めた前記上側凸部材および前記下側凹部材を備えたことを特徴とするすべり支承。
【0019】
〈構成4〉
構成1乃至3のいずれかに記載のすべり支承において、
前記下部スライダーの上側凸部材上面のすべり材は、均一な厚さtの平板形状であり、且つ前記上側凸部材の上面に設けられた深さdの彫込部内に挿入配置されており、
前記すべり材が前記彫込部周囲の上面より突出している高さが、前記すべり材の全体厚さtの1/5以上、且つ1/2以下であることを特徴とするすべり支承。
【0020】
〈構成5〉
構成1乃至4のいずれかに記載のすべり支承において、
前記下部スライダーを構成する前記下側凹部材および前記上側凸部材の接触点付近の接触球面の曲率半径の比率γ=R/rが、1.5≦γ であることを特徴とするすべり支承。
【0021】
〈構成6〉
構成1乃至5のいずれかに記載のすべり支承において、
前記上側凸部材と前記下側凹部材の間の前記隙間空間V内に、圧縮変形し且つ徐荷後には元の形状に復元する物質を充填していることを特徴とするすべり支承。
【0022】
〈構成7〉
構成6に記載のすべり支承において、
前記隙間空間V内に充填されている物質が、連続気泡を構成する発泡材料、もしくは独立気泡を構成する発泡材料であることを特徴とするすべり支承。
【0023】
〈構成8〉
構成1乃至7のいずれかに記載のすべり支承において、
前記上部すべり板が矩形の平板であり、そのすべり面側を構成するステンレス製表面すべり板と、その裏側に配置される普通鋼板裏板の2重構造となっており、
前記ステンレス製表面すべり板と前記普通鋼板裏板を皿ボルトにより締結して、前記ステンレス製表面すべり板のすべり面上にボルト頭部を突出させない構造を有していることを特徴とするすべり支承。
【0024】
〈構成9〉
構成8に記載のすべり支承において、
前記ステンレス製表面すべり板と前記普通鋼板裏板を締結しているボルトの内、前記すべり板表面の隅角部に近い位置のボルトのみ頭付きボルトを使用して、前記ステンレス製表面すべり板のすべり面上にボルト頭部が突出している構造を有していることを特徴とするすべり支承。
【0025】
〈構成10〉
構成8または9のいずれかに記載のすべり支承において、
前記上部すべり板の普通鋼板裏板に、前記普通鋼板裏板よりも小面積の平面形状の裏板補強板を配置し一体化していることを特徴とするすべり支承。
【0026】
〈構成11〉
構成8乃至10のいずれかに記載のすべり支承において、
前記上部すべり板を構成する前記普通鋼板裏板および前記裏板補強板の両者もしくは片方にスタッドボルトを打設して前記上部構造体の上部基礎コンクリート躯体と前記上部すべり板とを一体化しており、
且つ前記上部基礎コンクリート躯体が、上面からみたときには、前記上部すべり板の外周を囲んでおり、高さ方向の断面からみたときには、前記上部基礎コンクリート躯体の底面が前記ステンレス製表面すべり板のすべり面と同一レベルの面一仕上げとなっている上部すべり板を有していることを特徴とするすべり支承。
【0027】
〈構成12〉
構成11に記載のすべり支承において、
前記上部すべり板を構成する前記普通鋼板裏板および前記裏板補強板の両者もしくは片方に打設するスタッドボルトを、溶接により固定している溶接固定式スタッドボルト、もしくは前記裏板および前記裏板補強板にスタッドボルト軸径とほぼ同径の孔を開けてその孔内にスタッドボルト軸体を打込み固定している打込み固定式スタッドボルトとしていることを特徴とするすべり支承。
【0028】
〈構成13〉
構成1乃至7および構成10乃至12のいずれかに記載のすべり支承において、
前記上部すべり板の構成を、母材を普通鋼板、合わせ材をステンレス製薄板としたクラッド鋼板を採用し、前記ステンレス製薄板側を前記上部すべり板のすべり面側としていることを特徴とするすべり支承。
【発明の効果】
【0029】
本発明では、下部構造体に固定されているスライダーが上側凸部材と下側凹部材の2部材に分割されており、両者は接触球面の中心で点接触している。また両球面の曲率半径がr≪Rと大きく異なっており、上側凸部材の先端がピン支点として下側凹部材に点接触しているので、下部構造体に固定されている下側凹部材が杭頭傾斜によって傾斜した場合でも、上側凸部材の鉛直軸角度は不変である。この時、本発明装置の球面接触部では、凹凸両部材の接触点が僅かに移動するだけであり、上側凸部材の鉛直軸は不変であり、その鉛直軸に対して下側凹部材に生じた傾斜角分だけ上側凸部材と下側凹部材の両者の相対的角度が変わるだけである。
【0030】
即ち、下側凹部材の傾斜角を両者の接触部において吸収することができるので、上側凸部材は下側凹部材の傾斜の影響を受けず、傾斜が生じない。その結果、上側凸部材の上面にあるすべり面は支持点傾斜の影響を受けず、すべり材のすべり面は常に全面接触条件且つ均一な接触圧力分布を維持することができる。
【0031】
要約すると、本装置の支持点である杭頭部に傾斜が発生した場合でも、本すべり支承ではすべり材の接触条件、即ち接触面圧の分布に変化が生じないので、すべり摩擦係数は変化せず、安定したすべり性能を発揮することができる。
少なくとも支持点傾斜角1/20(rad)までは、この支持点傾斜によってすべり性能が変化しないことが、実物性能実験によって確認されている。
【0032】
大地震時に杭頭に発生する傾斜角は、地盤条件や杭材の設計条件等によって異なるが、これまでに行われた多くの解析や検討により、最大でも1/50(rad)を超えることはないことが分かっている。この大地震時の最大杭頭傾斜角を更に余裕をみて1/40(rad)と見做しても、本すべり支承の許容傾斜角1/20(rad)は2倍の安全余裕を確保していることになり、地震時に発生すると予想される杭頭傾斜に対して充分な余裕を持って許容できることを意味している。
【0033】
従って、本発明のすべり支承を配置する杭頭部に対しては、地震時の杭頭傾斜を曲げ戻すための杭頭地中梁を必要としない。杭頭に地中梁を設けない場合、杭頭の地震時傾斜を拘束しないので、従来は杭頭部の杭頭回転を拘束・固定することによって生じていた杭頭曲げ応力が発生せず、杭体自体の地震時安全性能が大きく向上する。
【0034】
杭頭を繋ぐ地中梁が不要となるため、免震層ピットの耐圧盤構成が簡略化・合理化され、ピット基礎躯体の構造体部材量が大幅に削減される。
【0035】
更に、地中梁不要により免震ピットの耐圧盤レベルを浅くできる結果、杭頭地中梁および免震層ピットを構築するために必要であった掘削土量も大きく削減されること、免震層ピット外周部の擁壁断面も削減可能であること、等によって免震ピット基礎躯体の建設コストを大きく削減することが可能となる。
【0036】
更に、杭体の地震時応力が低減されるので、杭体自体の経済設計も可能となり、免震構造建物における免震層以下の基礎構造体全体の合理化、コスト削減が実現されるという大きな経済効果を有している。
また、構成8は、上部すべり板の全平面をすべり領域として有効にしたものであり、これによってすべり変位領域が上昇し、免震建物の耐震安全性能が向上する。この高性能化の実現と共に、構成9~13は、上部すべり板製作上の省力化・合理化を実現できる各種の方法を示したものであり、本発明のすべり支承自体の低コスト化を実現している。
【0037】
尚、上部すべり板を下方に配置し、下部スライダーを上方に配置して図の実施例の上下を反転させた構造のものの、同様の作用を有する。
上記の構成で上部や下部、上側・下側と表現したのはすべり支承の内部での相対的な方向を示すものであり、地面や建物に対する上下関係を限定して示したものではない。このすべり支承を地面や建物に対して、縦横斜めのどの方向に向けて使用しても構わない。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【
図1】本発明のすべり支承の全体構成を示す図面で、(1)は、スライダーを上面から見下ろした平面図、(2)は、上部すべり板、すべり材、スライダーの全体構成を示す断面図、(3)は、下部スライダーを下から見上げた平面図である。
【
図2】本発明のすべり支承の中枢部を構成するスライダーの構成を示す装置断面図である。
【
図3】上側凸部材および下側凹部材の接触点付近の表面硬度を高めることの効果を示す実物性能実験データの一例であり、(1)は、事前プレスなしの場合の鉛直剛性、(2)は、事前プレスありの場合の鉛直剛性を示している。
【
図4】本発明のスライダーにおける上側凸部材の凸球面および下側凹部材の凹球面の両者の接触点付近の表面硬度を高める位置およびその方法を説明する断面図である。
【
図5】本発明のスライダーの原理を示す力学モデル図である。
【
図6】本発明のスライダーの力学モデルにおいて、支持点に傾斜が生じた場合における支持点傾斜を吸収する原理を示す力学モデル図である。
【
図7】本発明のすべり支承を杭頭部および上部構造体下部に設置した場合の作動原理説明図であり、(1)は、本発明支承と構造体との位置関係を示す免震層の断面構成図、(2)は、下から順に、杭頭部、本装置、上部基礎の構成機構を示す断面構成図、(3)は、地震時に杭頭傾斜が生じた場合の変形状態・すべり状態を示す説明図である。
【
図8】地震時杭頭傾斜が生じた場合の本発明装置の変形状態説明図および曲率半径rおよびRの2球面接触における回転剛性の算定式の誘導と説明図である。
【
図9】2球面の曲率半径比γと回転剛性係数Crの関係を示すグラフおよび本発明における曲率半径比γの有効ゾーンを示す説明図である。
【
図10】本発明装置と上部構造体および下部構造体との位置関係を示す説明図で、(1)は、上部すべり板を上から見下げた平面図(水平断面図)、(2)は、上部構造体基礎~上部すべり板~本発明スライダー~下部基礎を示す断面図である。
【
図11】本発明装置の上部すべり板の端部付近の断面詳細図であり、(1)は、すべり板を表面側のSUS板と普通鋼材の裏板の組合せとした場合、(2)は、すべり板にクラッド鋼板を採用した場合である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
図1(2)の全体構成断面図に示すとおり、本発明装置は、上部構造体側の上部基礎10と下部構造体側の下部基礎20との間に設置されるすべり支承である。
上部基礎10の下端部に取付られている上部すべり板1は、平面形状は正方形を基本とし、断面形状は図示のとおり「水平方向に直線形状であり、面外方向に高さの相違がない平板」である。この上部すべり板が「平板である」ことにより、すべり材2も平板形状である。即ち上部すべり板が上下方向に高さが異なる曲面板等でないことにより、本すべり支承が水平変位しても各支点の高さが変化しないため、一建物内において本すべり支承と復元装置としての積層ゴム系支承等との併用が可能であり、本すべり支承と復元用積層ゴムの組合せによるハイブリッド免震工法を可能としている。
これに対して、曲面すべり板を使用する曲面すべり支承では、水平変位に伴って建物の高さが変化するため他の積層ゴム支承やすべり支承・転がり支承等と併用することは不可能である。
【0040】
図1(1)は、本発明装置のスライダー5を上面から見下ろした平面図であり、上側凸部材3の上面中央に円形平面のすべり材2が配置されている。このすべり材2は、スライダ-の上側凸部材3の上面に彫り込まれた窪み内に上から挿入されており、その厚さの半分以上が窪み内に埋まり、半分以下が周囲上面32から突出している。尚、スライダー5は、すべり材2、上側凸部材3、下側凹部材4およびクリアランス充填材6を含めた全体に対する総称である。
【0041】
スライダーの上側凸部材3の上面にある彫込み部深さdとすべり材2の厚さtの関係は重要である。すべり材2には、圧縮歪度20%ですべり材の限界強度以上を有する材料を使用しており、すべり材厚さtの20%以上を彫込部周囲のスライダー上端面32から突出させている。これにより、万一限界強度レベル(使用面圧の5倍)の荷重が作用した場合でも、すべり材の圧縮変形によってすべり材外周のスライダー上端面32が上部すべり板のすべり面11に接触しないことが担保されている。
【0042】
また本すべり材は、スライダー上面の彫込部に入っているだけなので、この彫込部内に確実に収容されている必要がある。すべり材の裏面(下側面)とスライダー彫込面31との摩擦係数は、すべり材上面側の摩擦係数よりはるかに高いため、すべり材は彫込み部内ではすべらないが、すべり材厚さtの半分(1/2)以上が凸部材上面の彫込部(ホルダー機能)内に埋まっており、すべり材は凸部材上面の彫込部内にホールドされている構成としている。このすべり材厚さtと彫込部深さdの関係が、構成4の規定である。
尚、すべり材2がスライダー上面の彫込部に入っているだけという構成は、将来すべり材に何らかの問題があった万一の場合に、すべり材を容易に交換できるという効果を有している。
【0043】
また
図1(2)には、上側凸部材の高さH(2球面の接触点34からすべり材2の上面までの高さ)とすべり材2の最小平面寸法Dが示されている。すべり材の最小平面寸法Dは、すべり材の平面寸法における最小値であり、すべり材の平面形状が円形の場合は直径Dとなり、正方形の場合は辺長Dとなる。このすべり材の最小平面寸法Dは、上側凸部材の高さHの1.5倍以上が必要である。
【0044】
本発明におけるすべり材の最小寸法Dと凸部材高さHの関係D/Hは、すべり面における接触面圧の安定性を規定する重要な条件である。D/Hの規定値は1.5以上であるが、一般的にはD/H=2~3程度を標準としている。
今、すべり材の作用面圧(平均値)をσ、すべり摩擦係数をμ、すべり材の平面形状を直径Dの円形とすると、摩擦係数μでのすべり力FはF=πD2σμ/4であり、すべり時にすべり面に作用するモーメントMはM=FHであるから、このモ-メントによるすべり面の端部最大変動面圧Δσは、Δσ=M/Z=8σμH/Dとなり、これは、Δσ=σ(8μ)/(D/H)と表記できる。(Z:断面係数、Z=πD3/32)
ここで、μ=0.03、D/Hを限界最小値の1.5とすると、Δσ=0.16σとなり、D/Hを標準的な値、D/H=2~3とすると、Δσ=(0.08~0.12)σとなる。
【0045】
即ち、本発明で規定している上側凸部材の高さHに対するすべり材寸法Dの制限条件は、本発明すべり支承におけるすべり運動時のすべり面の接触面圧の変動値を接触面圧の平均値σに対して、すべり材の最外端位置における最大変動値で平均面圧の±16%以下に、標準形状では平均面圧の±1割程度に制限していることを意味しており、極めて安定したすべり面の接触面圧の均一化を実現している。
尚、すべり材の平面形状が正方形など円形以外の場合には、上記のすべり材端部の最大変動面圧Δσは更に小さな値となり、接触面圧は更に均一な値に近づくことになる。
【0046】
以上のとおり、本発明のすべり支承では、先ず上側凸部材の高さHに対するすべり材の最小寸法DをD/H≧1.5とすることにより、上側凸部材の断面形状のプロポーションを、上面の幅D、高さH、先端に凸球面を有する底辺(上面寸法)の大きな逆三角形型の断面形状、立体的に言えば底面(上面)が大きく高さが低い「逆円錐形状」に規定している。この上側凸部材の基本形状によって、すべり運動時のすべり面の接触面圧分布を均一化・安定化させているのである。
尚、「逆円錐形状」とは、円錐形状であって、下に向かうほど外径が小さくなる円錐形状のことである。上側凸部材において、支持荷重による鉛直応力度が最大となる凹凸両部材の接触点から上方に向かっての応力度変化に着目すれば、上側凸部材の最下端が接触応力度が最大となる曲率半径rの凸球面となっており、これより上方に向かうほど外径寸法が大きくなる逆円錐形状を構成しているため鉛直応力度は上方に行くほど小さくなり、最上端の前記すべり材位置で最小の応力度となり、高分子材料で構成されるすべり材の圧縮応力度を適切なレベルに抑制・制御することを可能としている。
先行特許文献4および5には、凹部材および凸部材の構成によって杭頭傾斜の影響を回避する機構までは提示されているが、同文献の図面を見ても明らかなとおり、上側凸部材の断面形状・プロポーションに関する制限・規定は無く、すべり材の応力度制限・制御への配慮、すべり面の接触面圧の均一化・安定化に対する考察や配慮は行われておらず、その対策も含まれていない。
【0047】
図1(3)は、本発明装置のスライダーを下側底面47の下方から見上げた平面図である。下側凹部材の外周には、底面47から外周フランジ41まで外側リブ42が放射状に配置されている。
本発明装置では、上部構造体の上部基礎10の鉛直荷重は、上から順にすべり板1、すべり材2、上側凸部材3を介して、下側凹部材4との接触点34に伝達される。接触点34を介して下側凹部材4に伝達された鉛直荷重は、下側凹部材の外周側壁44および外周側壁44の外側に放射状に配置されている外側リブ42により下側凹部材上端のフランジ41に伝達され、この下側凹部材のフランジ41の全面により、基礎コンクリート躯体20に伝達される。即ち、本装置から下側の基礎コンクリート躯体への鉛直荷重伝達においては、下側凹部材の全平面が有効となっている。
【0048】
先行特許文献4および5には、この下側凹部材から基礎構造体への均一かつ円滑な荷重伝達を行う為の放射状リブの配置等の対策が考慮されておらず、特許文献の
図4,
図8等に示されているとおり、下側凹部材の上端フランジにのみに過大な荷重伝達機能を負担させる構成となっている。即ち、先行文献4,5においては鉛直荷重伝達の概念の段階に留まっていたものが、本発明では荷重伝達に対する定量的な安全性能への配慮と具体的な解決方策が確立されている。
【0049】
次に、
図2を用いて、本発明装置の中枢部であるスライダーの上側凸部材3および下側凹部材4についてより詳細に説明する。
先ず、本発明のスライダーは凹凸2部材に分離されており、両者が接触球面の中央位置34で点接触しており、両者が鉛直軸周り360度どの方向にも容易に相対的に傾斜変形できることが最も重要な機能である。そのために、本発明では、上側凸部材側の凸球面の曲率半径をr、下側凹部材側の凹球面の曲率半径をRとしたとき、r≪Rと両者の曲率半径を大きく異なるように設定している。これによって、凹凸両部材は、接触点においてすべりを生じる必要がなく、凹部材が固定されている下部構造体(基礎側杭頭)の地震時傾斜角に応じて、両者の相対的角度が変化する。この時接触点34が僅かに移動するだけで基礎側の傾きに容易に追従し、凹凸両部材間の接触角の変化によって支持点傾斜を吸収することができる。
【0050】
両者が自由に傾斜できるための条件として、本発明は次の2条件を採用している。即ち、第一条件は、接触両球面の曲率半径を大きく相違させることであり、両者の曲率半径の比率をγ=R/r≧1.5とすること。
第二条件は、地震時傾斜が発生した場合に凹凸両部材の側面同志が接触することがないように、凹部材と凸部材間に隙間空間6を確保していることである。
第一条件が構成5の規定であり、第二条件は構成1の本装置の基本構成で規定している。
【0051】
この傾斜変形ができることが本発明装置の命であるから、本発明では、現実の厳しい地震動遭遇時に対しても、上記の第二条件の機能が喪失しないように更なる配慮をしている。
即ち、現実の地震動は3次元の震動であり、水平地震動のみでなく鉛直地震動の同時作用を考える必要がある。過酷な鉛直地震動と水平地震動の同時作用に対して、先ず上側凸部材は下側凹部材内から抜け出すことがないように下側凹部材内に充分深く挿入した上で、更に水平方向に対しては上側凸部材が下側凹部材内において側壁面いっぱいに移動して、両者の側壁面同志が接触してそれ以上の傾斜変形が不可能になる事態が発生しない対策として、凹部材の底面外周の側面に膨らみ部46を設けている。凸部材3はこの膨らみ部46への接触によって、それ以上の横移動が制限されるので、この膨らみ部46の上方には凸部材の側面が傾斜変形できる空間が残され、過酷な鉛直地震動と水平地震動の同時作用に対しても必ず傾斜変形が可能になっている。
尚、この膨らみ部の形状は、鉛直方向に凸型に湾曲した形状としているので、この膨らみ部に上側凸部材の側面が接触した場合にも面接触にはならず、上側凸部材の傾斜が阻害されないようになっている。
【0052】
本発明の中枢機能は、凹凸両球面がその中心位置で点接触していることである。本発明の凹凸両部材をマクロな観点でみると点接触に近い条件が成立していると言えるが、現実の荷重を支える為にはある面積を有する面接触になっていることは言うまでもない。
ヘルツの接触応力理論から分かるとおり、この接触部分には極めて高い応力が発生する。
凹凸両部材は、その特殊形状の故に鋳鉄もしくは鋳鋼を用いて鋳造している。現実の使用材料の代表例は、球状黒鉛鋳鉄であり、その強度レベルとしてはFCD500(引張強度500N/mm2以上)程度を標準としている。
【0053】
本発明装置は、その形状・使用条件から装置に発生する応力は圧縮応力が主体であるので、強度は高いほど望ましいと言えるが、部材重量が1トン前後乃至それ以上となり、最小部材厚が100mmを大きく超えて200mm~300mmを超える大型断面且つ極厚部材においては、鋼材や鋳鉄材料いずれにおいても高強度、高硬度の確保は難しい課題となる。極厚部材の鋳鉄材料断面において、具体的な強度レベルとしてFCD500乃至FCD600を超える高強度、高硬度を確保することは相当に難しい課題である。
【0054】
FCD500の引張強度は500N/mm2以上、降伏点に相当する0.2%耐力は320N/mm2以上、ブリネル硬度HBWは150~230程度である。本装置の経済性を考慮すると、上側凸部材のすべり材に対する使用面圧を長期荷重で20~25N/mm2程度、地震時短期許容荷重はその2倍の40~50N/mm2程度で使用する必要があり、この使用荷重に対する凹凸両球面の接触部におけるヘルツの接触応力は降伏点レベルを超え、接触部は塑性変形領域に入ることが確実である。実物性能試験においても塑性変形領域に入っていることが確認されている。この点に関しては
図3において後述する。
【0055】
凹凸両部材の接触点が塑性領域に入ると、接触球面が塑性変形を起こして接触球面の曲率半径の相違が失われて、円滑な回転機能が損なわれる恐れがある。この接触球面の円滑な回転機能を保持するためには、接触部が弾性領域に留まり、凹凸両部材の所定の球面形状を保持できることが必要である。
その為には接触球面の高強度化および高硬度化が必要であり、この「接触球面の高強度化・高硬度化」という重要な要求性能に対して、本発明は、3通りの解決方法を実現している。
第一の解決方法は、接触球面に対して、実際に作用する可能性のある荷重、即ち本発明装置の短期最大許容荷重以上の荷重を装置製造時点において予め載荷し、接触球面を圧縮プレスし、予め接触球面に塑性変形を発生させ、接触球面を締め固めておく方法である。構造物の使用期間中にはこの事前プレス荷重以上の荷重は作用しないので、構造物の使用期間中に新たな塑性変形は発生せず、事前プレスによって成型された接触面形状が保持されることになる。
【0056】
この事前プレスによる接触球面の締め固め効果を示す実物試験結果の一例が
図3である。
図3(1)は、凹凸両部材をFCD500で鋳造した状態のままで鉛直荷重を作用させ、基準荷重を中心として鉛直荷重を±30%変動させて鉛直剛性を確認したものである。荷重ゼロから鉛直荷重を増加させて行くと、基準荷重付近から曲線の勾配が変化して鉛直変位の増加が大きくなっており、その後鉛直荷重±30%の繰り返しによって高い鉛直剛性を示しているが、鉛直荷重を徐荷した後には大きな残留変位が残っており、接触面が塑性化したことを示している。即ち、鉛直荷重載荷時の荷重上昇曲線と徐荷時の履歴曲線が相違していることは、両曲面の接触部が塑性変形を起こして接触球面の条件が崩れていることを意味している。
これに対して
図3(2)は、同サイズの装置に対して、基準荷重の2倍の鉛直荷重を作用させて事前プレスを行った後に、
図3(1)と同じ条件で鉛直剛性試験を実施した結果である。鉛直荷重を載荷し、基準荷重を±30%変動させた後、荷重を徐荷した履歴曲線であるが、載荷時と徐荷時がほぼ同じ履歴曲線を示しており、荷重徐荷後には残留変位を残さず原点に復帰している。事前プレスによって接触球面は完全に締め固められており、接触面を含めて装置全体が弾性的挙動を示していることが確認できる。
事前プレスによる締め固めにより、非常に高い接触応力度が発生する凹凸両球面の接触部においても弾性挙動、弾性接触条件が成立しており、接触球面の硬度を高めることが本発明すべり支承の性能発現、所要の回転性能を実現する上で極めて重要な条件であり、本すべり支承の性能実現および効果発現上必須の条件であることを示している。
【0057】
接触球面の高強度化に関する本発明の第二の方法は、製造時において超高強度の接触球面を製造する方法である。
鋳鉄品の材質としては、球状黒鉛鋳鉄品のJIS(G5502)に規定されているとおり、FCD700,FCD800という高強度の鋳鉄品が存在する。更に高強度の鋳鉄品としてオ-ステンパ処理を行ったオ-ステンパ球状黒鉛鋳鉄品(JIS G5503)も存在し、その強度は、FCAD900,FCAD1000,FCAD1200,FCAD1400という超高強度の鋳鉄が存在する。
【0058】
しかし、段落[0053]に記したとおり、極厚の大型断面部材において引張強度500~600N/mm2を大きく超える上記の高強度部材を鋳造することは極めて困難であるが、小断面部材もしくは薄肉部材であれば、上記のような高強度部材を鋳造することが可能である。
図2にハッチで示した接触球面近傍の上側凸部材の35および下側凹部材の45に示す薄肉断面の高強度部材を予め鋳造しておき、これを上側凸部材3及び下側凹部材4の鋳造用砂型の所定位置に仕込んでおき、上側凸部材3及び下側凹部材4と一体に鋳造成型する方法である。これにより、凹凸両部材の接触球面が高強度・高硬度を持つ上側凸部材および下側凹部材を製造することができる。この事前製作した高強度・高硬度の接触球面部材は、極厚部材鋳造時における冷し金としても作用するので、大断面の凹部材、凸部材の冷却時における高強度化にも有効である。
【0059】
本発明における接触球面を高強度化・高硬度化する第三の方法は、上記の第一及び第二の方法を融合した方法であり、
図4に示す方法である。
先ず
図4に破線ハッチで示した上側凸部材の35,下側凹部材の45は、第二の方法による高強度部材を仕込む位置を示している。第三の方法は、
図4における両部材の接触球面33および43を第一の方法と同じ事前プレスにより締め固める方法であるが、以下の点が相違している。
先ず、
図4に示す特殊部材534を高強度鋳鉄品で製造する。この上面側は上側凸部材の先端凸球面と同じ曲率半径rの凹型球面を持ち、下面側は下側凹部材の凹球面と同じ曲率半径Rの凸球面を有している。この凹凸両部材と同じ曲率半径(但し凹凸球面は逆)を持つ高強度部材534を下側凹部材と上側凸部材の接触球面間に挟んだ状態で方法1と同じ最大許容荷重以上の荷重で事前圧縮プレスを行う。
この方法では、凹部材、凸部材の接触球面が共に高強度部材534の曲面と同じであるので、大きなプレス荷重を受けても球面の曲率が変化しないまま、接触球面の表面締め固めを行うことができる。このプレス作業完了後に高強度部材534を取り出して、凹凸両部材の組立を行えば、設計通りの曲率球面を持ち、且つ最大許容荷重以上で予め締め固められた接触球面を持つ凹凸両部材を製造することができる。
【0060】
図5は、本発明のすべり支承の力学的特徴を示すモデル図である。下側凹部材4の上面に曲率半径Rの曲面43が存在し、その上に曲率半径rの凸部材が存在する。上側凸部材の曲率半径rは下側凹部材の曲率半径Rよりも遙かに小さい(r≪R)ので、上側凸部材の接触点は下側凹球面に対してピン支点として機能する。
また上側凸部材はピン支点である下端の接触点から上端のすべり材面までの全体を見上げれば、上側凸部材全体は強度の高い鋳鉄鋳造品であり、且つ接触点から上に上がるほど軸断面積が大きくなり、鉛直荷重の応力度レベルが低下していく逆三角形型の塊であるので、鉛直方向の剛性は充分に高く、且つ上面のすべり材の受皿部分(ホルダー)も含めて全体が一塊の剛体を形成している。これが上側凸部材と下側凹部材の組合せによって実現している下部スライダーの力学モデルの本質であり、本発明すべり支承の力学的構成である。
【0061】
図5の平常時状態に対して、地震時に本装置の支持点である下部構造体(杭頭)側に傾斜が発生した場合の本装置の変形状態を示したものが
図6である。下側凹部材4に傾斜が生じると、下側凹部材4の上面の凹球面43にも傾斜が生じるが、この凹球面に対して上側凸部材はピン支点として接触しているので、上側凸部材3は凹球面の傾斜の影響を受けず、直立状態を維持することができる。従って、本発明のすべり支承では、下部構造体側(杭頭)に傾斜が発生しても、その影響を受けず、上側凸部材の上面に配置されているすべり材2は、常に全面接触条件を維持し、且つその接触面圧分布も変化しない。その結果、本すべり支承では、支持点傾斜を受けてもすべり摩擦係数は変化せず、また装置の鉛直剛性も変化しない。これは実大装置を用いた接触面圧確認実験によって確認されている。
【0062】
図7は、本発明のすべり支承を杭頭部および上部構造体の間に設置した場合の説明図である。
図7(1)は、本発明すべり支承と構造体との位置関係を示す免震層の断面構成図である。この図から分かるとおり、上側凸部材の先端凸球面の中心位置は上側凸部材の塊よりも上方に位置している。即ち、上側凸部材の重心位置よりも先端球面の中心位置が高い位置にあるため、この上側凸部材は常に安定である。換言すれば、上側凸部材は先端凸球面の中心位置から凸部材の重心位置を吊り下げた「振り子」と同じ幾何学的条件を実現しており、上側凸部材はこの幾何学的条件によりポテンシャルエネルギーによる元位置に復帰する正の復元力を有している。すべり摩擦力による水平力が作用しても、地震時において支持点傾斜が発生しても、この幾何学的条件は不変であり、崩れないので、常に正の復元力を有しており、転倒しない。これが上側凸部材は下側凹部材に対して平常時も地震時の攪乱状態下においても、常に「安定状態で点接触している」という意味である。
【0063】
図7(2)は、下から順に、杭頭部、本装置、上部基礎の構成機構を示す断面構成図であり、本装置の下側凹部材の凹球面は杭頭部に凹球面が設けられたと同じであり、この上に上側凸部材の球体が存在し、その上面にすべり機構(すべり材+すべり板面)が存在する構成の概念を示している。
図7(3)は、地震時に杭頭に傾斜が生じた場合の変形状態およびすべり状態を示す説明図であり、杭頭の傾斜の影響を受けずに正常にすべり移動可能であることを示している。
【0064】
図8は、
図7(3)の模式図における支持点(杭頭)傾斜状態を現実の装置形状として表現したものであり、地震時杭頭傾斜が生じた場合の本発明装置の変形状態を説明した図である。
この支持点傾斜時において、曲率半径rの上側凸部材と曲率半径Rの下側凹部材の2曲面の接触による回転剛性KRの理論式の誘導を
図8の下半分に示している。その結論は、
図8に示すとおり、KR=(R・r/(R-r))・Pv(Pv:鉛直荷重)である。
【0065】
この回転剛性を表す式は、KR=Cr・R・Pv と表現できる。Crは回転剛性係数(回転剛性の比例係数)であり、Cr=1/(γ-1)。γは曲率半径比γ=R/rである。
回転剛性係数Crを縦軸に、曲率半径比γを横軸として図化したものが
図9である。
図9は、上側凸球面と下側凹球面の両者の曲率半径比γ(=R/r)によって、回転剛性がどう変化するかを示しており、両者の曲率半径が接近し、γ=1に近づくに伴い急速に回転剛性が上昇する(回転しにくくなる)ことを示している。
本発明装置では、支持点の傾斜=回転角に容易に追従できることが使命であるので、回転剛性が高いことは本発明装置の主旨に反することになる。
図9より、構成5に示した本発明支承の適用領域の条件:曲率半径比γ=R/r≧1.5 という領域制限が妥当であることが明確に示されている。
【0066】
尚、従来より橋梁用の支承等に使用されている鋼製の球座が知られており、この従来式球座と本発明との相違について補足しておく。
従来式の球座は曲率半径がほぼ等しい(γ≒1)凹凸2球面で構成されている。両者の曲率半径が近い場合には、球面直角方向の鉛直荷重の負担に対しては有利であるが、
図9に示すとおり、曲率半径がほぼ等しい球座の回転剛性は極めて高く、実際に傾斜・回転を吸収するためには、接触球面に沿って両者の接触面が相対的にすべり運動をする必要がある。高荷重下における鋼材同志の接触面の摩擦係数を小さく制御することは相当に難しく、この摩擦に打ち勝ってすべり回転するためには大きな摩擦抵抗力が発生するので、従来の球座が円滑に回転することは現実には極めて困難である。これに対して、本発明のすべり支承では、接触球面間でのすべりは必要でなく、接触点が僅かに回転移動すればよいだけであるので、確実に容易に支持点傾斜を吸収することができる。
【0067】
図10、
図11は、本発明装置における上部すべり板の構成に関する説明図である。
図10(1)は、上部基礎に取り付けられている上部すべり板を上から見下げた水平断面図であり、
図10(2)は、上部構造体基礎10~下部基礎20にかけての縦断面図である。
本発明の上部すべり板1は、上部構造体10の底面に一体化して打ち込むことを原則としており、すべり板の上部及び周囲をコンクリート構造体で囲うことを原則としている。且つ
図10(2)に示すとおり、すべり板端部におけるすべり板面11とその外側のコンクリート基礎底面102はすべり面が同一面(つらいち:面一)となるように仕上げる。
【0068】
このすべり板の上部基礎に対する取付方法は、次の2つの効果を有している。
第1の効果は、上部すべり板1の上面と側面の全体をコンクリート躯体で囲うことにより、すべり板の発錆防止を図り、耐久性を向上させることにある。
第2の効果は、すべり板面11と周囲コンクリート底面102を面一(同一面)に仕上げることである。これは、耐震設計思想上重要な意味を有している。即ち、免震建物の設計上、大地震時に発生するすべり変位はすべり板の水平寸法内で収まる設計になっているが、現実の地震動は設計で想定した以上の強さとなる可能性があり、すべり変位がすべり板寸法を上回る事態が発生するかもしれない。これに対して一般的な設計の免震建物では設計想定外としてそこまでは考慮していないのが一般的であるが、本発明では、この設計条件を超える事象に対して、すべり材がすべり板寸法を超えて、すべり板外側のコンクリート面に乗り込んでいけるように配慮している。すべり材がコンクリート面へ乗り込んでいくと、すべり摩擦係数は上昇していくが、設計想定を超える厳しい地震動に対しては摩擦係数が上昇し、すべり変位を抑制するブレーキとして作用することは好ましい条件であると判断できる。本発明のすべり板の上部構造体への取付方法は、設計想定を超える厳しい地震動遭遇に対する対応策までを考慮した免震建物としての設計思想、対応策を反映したものである。
【0069】
図11は、本発明装置の上部すべり板1の端部付近の断面詳細図を示したものである。
図11(1)は、すべり板を表面側のSUS板11と普通鋼材の裏板12の組合せの2重構造とした場合を示している。SUSすべり板11は、14aに示すSUS皿ボルトで裏板12に一体化されている。これにより、SUSすべり板11の表面にはボルト頭が突出しないので、すべり板上のどの位置に対しても、すべり材は自由にすべり移動することができ、SUSすべり板11の全平面がすべり領域として有効となっている。
【0070】
但し、断面詳細
図14aに示すとおり、この皿ボルトを使用する為には、SUSすべり板11および裏板12の一部に円錐状のザグリを設ける必要がある。このザグリ作業にはかなりの作業工程と時間が必要であり、皿ボルト本数は、1枚のすべり板についても装置サイズにより20本~30本以上が必要となるので、すべり板数量が多くなると、この作業工程が製作上の大きな負担となる。
【0071】
一方、地震動の作動方向は現在の地震学のレベルでは特定できないため、現在の設計技術レベルでは、すべり変位量はX・Y2方向に同一寸法を確保して、すべり板の平面形状は正方形とするのが設計上の基本である。但し、正方形すべり板の対角線方向の寸法は正方形辺長の1.4倍あるため、隅角部付近のボルトまではすべり材が到達する可能性が低い。従って、この隅角部付近のボルトに対しては皿ボルトの適用を除外して頭付きボルトの採用を許したものが14bである。これによって、SUSすべり板および裏板のザグリ作業を削減できるので、上部すべり板の製作コストと製作手間をかなり低減することが可能となる。
【0072】
また
図11(1)には、すべり板裏板12に対するスタッドボルトの固定方法が2タイプ示されている。15aは、裏板に対してスタッドボルトを溶接で固定する方法である。この溶接固定方法が一般的な方法であるが、溶接時の熱により、すべり板裏板に面外方向の熱変形が生じる可能性が高い。すべり支承におけるすべり板は、平坦であることが重要条件であり、面外方向の平坦度は並行定規を当てた場合の面外方向の不陸・隙間が辺長の1/1000以下に収まる平坦度が要求されるのが一般的である。すべり板裏板にこの規定以上の面外変形が生じた場合には、これをプレス等によって矯正する必要があるが、裏板にはスタッドボルトや裏板補強板が付いていることもあり、この面外変形の矯正作業は極めて大きな労力と時間を要する作業となる。
【0073】
この問題を解決した方法が
図11(1)および(2)に示している打込み方式のスタッドボルト15bである。これは裏板にスタッドボルト軸径(呼径)と同一寸法の孔、例えばスタッドボルトφ19であれば、径19mmφの孔を開けておき、この孔にスタッドボルトを裏板全厚さに渡って打ち込み、挿入する。スタッド軸径の呼び径と同一寸法の孔に対して、実際のスタッド径は僅かに小さく製造されているのが通常であるので、殆どの場合、丁度よく打込み・挿入し、固定することができる。万一、スタッドボルトが孔径に対して緩い場合には、挿入根元位置にスタック溶接を行えばよい。
この打込方式のスタッドボルト固定方法では、裏板に対して熱を与えないので、熱変形が全く発生しないため面外変形の矯正作業が不要となり、すべり板の製作工程を大幅に省力化できる。
尚、スタッドボルトは水平せん断力の伝達が主目的であるので、従来からスタッドボルトを15度まで曲げる打撃試験により溶接固定部に問題がないことを確認することが要求されているが、この打込方式のスタッドボルト固定方法でもこの打撃試験で全く問題がないことが確認されている。
【0074】
図11(2)は、
図11(1)に示す表面側のSUSすべり板11と裏板12の組合せではなく、すべり板に表面側の合わせ材として薄いSUS鋼板を採用した「クラッド鋼板」121を採用した適用例である。
クラッド鋼板は、表面側のSUS板(あわせ材)と裏板母材がロール成型時において当初から一体成型されているため、
図11(1)に示したような表面SUS板および裏板の両者への孔開け作業、ざぐり作業、ボルト締結作業が全て不要となり、上部すべり板1の製作工程の大幅な省力化・合理化を達成可能としたものである。
【符号の説明】
【0075】
1 :上部構造体側の上部基礎にとりつく上部すべり板
11:上部すべり板の下面に位置するすべり面板
12:上部すべり板の裏板
13:裏板の上部に位置する裏板補強板
14:すべり板と裏板を連結接合するボルト
14a:すべり面板と裏板を接合する皿ボルト
14b:すべり面板と裏板を接合する頭付きボルト
15:スタッドボルト
15a:溶接固定式スタッドボルト
15b:打込式スタッドボルト
121:クラッド鋼板による上部すべり板
2 :すべり材
3 :スライダーの上側凸部材
31:上側凸部材の上面彫込部の上底面
32:上側凸部材の上面彫込部周囲の上端面
33:上側凸部材の下側先端の凸球面
34:上側凸部材と下側凹部材の球面中央の接触点
35:上側凸部材の下側先端の凸球面において中心接触点付近の表面硬度を高めている部分
4 :スライダーの下側凹部材
41:下側凹部材の上端外周フランジ
42:下側凹部材の外側リブ
43:下側凹部材のすり鉢形状底部上面の凹球面
44:下側凹部材の外周側壁
45:下側凹部材のすり鉢形状底部上面の凹球面において中心接触点付近の表面硬度を高めている部分
46:下側凹部材のすり鉢形状底部の周囲の側面における膨らみ部分
47:下側凹部材の外側底面
5 :スライダー(すべり材+上側凸部材+下側凹部材で構成される)
534:上部凸部材の凸球面および下部凹部材の凹球面の表面硬度をプレス締め固めを行う為の高硬度球面部材
6 :スライダーの上側凸部材と下側凹部材間における隙間空間Vであり、発泡材の充填エリアおよ充填発泡材
10:本発明装置の上部に位置する上部構造体側の上部基礎
101:上部構造体側の上部基礎においてすべり板外周部を囲う部分
102:すべり板外周部の上部コンクリート基礎の底面
20:本発明装置の下部に位置する下部構造体側の下部基礎