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特許7419422多孔質リン酸三カルシウム材料、それを含む骨治癒用医薬組成物及びその製造方法
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  • 特許-多孔質リン酸三カルシウム材料、それを含む骨治癒用医薬組成物及びその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-12
(45)【発行日】2024-01-22
(54)【発明の名称】多孔質リン酸三カルシウム材料、それを含む骨治癒用医薬組成物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61L 27/38 20060101AFI20240115BHJP
   A61K 33/42 20060101ALI20240115BHJP
   A61L 27/12 20060101ALI20240115BHJP
   A61P 19/08 20060101ALI20240115BHJP
【FI】
A61L27/38 111
A61K33/42
A61L27/12
A61P19/08
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022053318
(22)【出願日】2022-03-29
(65)【公開番号】P2023072636
(43)【公開日】2023-05-24
【審査請求日】2022-03-29
(31)【優先権主張番号】110142116
(32)【優先日】2021-11-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TW
(73)【特許権者】
【識別番号】522125205
【氏名又は名称】▲フ▼派海洋生技股▲分▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100166372
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 博明
(72)【発明者】
【氏名】沈 儀仁
(72)【発明者】
【氏名】▲チャン▼ 育豪
(72)【発明者】
【氏名】彭 裕詮
【審査官】松浦 安紀子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2010/0094419(US,A1)
【文献】特開2009-084147(JP,A)
【文献】特開昭63-005008(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0091547(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0172487(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第111388754(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第101856514(CN,A)
【文献】人工臓器,2014年,Vol. 43, No. 3,pp. 185-188
【文献】窯業協会誌,1986年,Vol. 94, No. 9,pp. 78-82 (1004-1008)
【文献】窯業協会誌,1987年,Vol. 95, No. 7,pp. 79-83 (741-745)
【文献】化学と教育,2016年,Vol. 64, No. 10,pp. 500-501
【文献】日口腔インプラント誌,2011年,Vol. 24, No. 3,pp. 8-18 (378-388)
【文献】比較生理生化学,1992年,Vol. 9, No. 2,pp. 73-87
【文献】日本機械学会〔No. 07-35〕第18回バイオフロンティア講演会講演論文集,2007年,pp. 13-14
【文献】日本機械学会〔No. 04-39〕第15回バイオフロンティア講演会講演論文集,2004年,pp. 51-52
【文献】Materials,2021年12月01日,14, 7374,pp. 1-13,https://doi.org/10.3390/ma14237374
【文献】沖工試業務報告第17号,1989年,pp. 37-49
【文献】Journal of the Society of Inorganic Materials, Japan,2000年,Vol. 7,pp. 472-479
【文献】窯業協会誌,1984年,Vol. 92, No. 4,pp. 11-17 (157-163)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 27/38
A61L 27/12
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
A61K 33/42
A61P 19/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンゴ骨を材料として用いる、複数の細孔を有する多孔質リン酸三カルシウム材料であって、
前記多孔質リン酸三カルシウム材料が、ISO 13175-3(2012)規格に準拠する直径13mmの直円柱である場合の平均最大荷重が4重量kg~9重量kgであり、
前記多孔質リン酸三カルシウム材料はβ-リン酸三カルシウムであり、
前記多孔質リン酸三カルシウム材料の平均弾性率が0.19Gpa~0.65Gpaであり、
前記多孔質リン酸三カルシウム材料の平均総細孔容積は0.35mL/g~0.51mL/gであり、
前記多孔質リン酸三カルシウム材料の平均孔径は1.3μm~1.4μmであり、
前記多孔質リン酸三カルシウム材料の結晶化度は79.4%~81%であり、その非晶質は19.0%~20.6%であり、
前記多孔質リン酸三カルシウム材料の密度は1.8g/mL~2.0g/mLであり、
前記多孔質リン酸三カルシウム材料のリンに対するカルシウムの重量比は1.5~1.6である多孔質リン酸三カルシウム材料
【請求項2】
前記サンゴ骨が、小さなポリプのイシサンゴ(small polyp stony coral)から得られる、請求項1に記載の多孔質リン酸三カルシウム材料。
【請求項3】
前記小さなポリプのイシサンゴが、スギノキミドリイシ(Acropora formosa)、トゲスギミドリイシ(Acropora nobilis)、コイボミドリイシ(Acropora austera)、エダミドリイシ(Acropora valenciennesi)、オトメミドリイシ(Acropora pulchra)、クシハダミドリイシ(Acropora microphtha)、トゲスギミドリイシ(Acropora intermedia)、及びサボテンミドリイシ(Acropora florida)からなる群から選択される、請求項に記載の多孔質リン酸三カルシウム材料。
【請求項4】
請求項1からのいずれか一項に記載の多孔質リン酸三カルシウム材料を含む、骨治癒用の医薬組成物。
【請求項5】
(1)サンゴ骨を粉末に粉砕してサンゴの炭酸カルシウムを得て、
(2)前記サンゴの炭酸カルシウムとリン酸二カルシウムと水とを重量比0.8~1.2:2.5~3.5:5.4~6.6で混合して第1の混合物を得て、
(3)前記第1の混合物を400rpm~500rpmの速度で7時間~11時間撹拌してから50℃~60℃で7時間~10時間乾燥して第2の混合物を得て、
(4)前記第2の混合物を500℃~600℃で2時間~3時間加熱してから1000℃~1100℃で2時間~4時間加熱して多孔質リン酸三カルシウム材料を得る、
請求項1からのいずれか一項に記載の多孔質リン酸三カルシウム材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質リン酸三カルシウム材料に関し、特に、医療用多孔質リン酸三カルシウム材料、それを含む骨治癒用医薬組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
人骨の成長速度は遅い。骨が損傷を受けた場合、一般的に、骨治癒には骨移植医療機器が必要である。一般的な種類の骨移植医療機器は、(1)患者自身から採取した、免疫学的拒絶反応を引き起こさない自家骨(ただし、追加の手術が必要であり、骨量及び骨のタイプの選択は限定的である。)、(2)献体から採取した、人骨である脱灰骨(ただし、同種移植前に更なる治療が必要であり、骨量及び骨のタイプの選択は限定的である。)、(3)人骨と同様の構造を有する、異種骨代替物である焼結生物学的骨(ただし、免疫学的拒絶反応のリスクを伴う。)、(4)合成人工骨及び骨セメント(骨量及びその骨のタイプの選択は限定的でなく、それらは現在、骨移植医療装置の最も一般的なタイプである)、を含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】中国特許公開公報第105770996号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
合成人工骨及び骨セメントは、入手性、便利性、保管簡易性の利点があり、また、病気の伝染リスクがないという利点があり、医療現場での幅広い応用が保証されているため、量産可能な新規の骨移植医療機器として開発する必要性がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
より良い骨移植医療機器を提供するために、本発明は、サンゴ骨から改変され、複数の細孔を有しており、平均最大荷重が、4重量kg~9重量kgである、多孔質リン酸三カルシウム材料を提供する。
【0006】
サンゴ骨の成分は、炭酸カルシウムである。本発明によれば、改変のために、一般的な炭酸カルシウム材料に代替してサンゴ骨を採用するので、本発明の骨移植医療機器は、市販の骨移植医療機器のリン酸三カルシウムに比して、非常に高い平均圧縮強度を奏することができる。患者は、骨治癒期間中にも日常的な生活をする必要があるため、骨は体重を支えなければならない。平均圧縮強度が高い多孔質リン酸三カルシウム材料は、患者の体重からのストレスによって、骨材料の加速的な劣化のリスクを低減することができるから、骨治癒により適している。その上、本発明は、抜歯後又は骨切断後の下顎の歯槽骨を充填又は再建するなどの歯科用途も有する。本発明は、生体適合性があり、人体への吸収性もあるため、徐々に新しい骨が形成される回復期間中に、新しい骨のために確保された空間を一時的に満たし、これにより、治癒効果を強化するだけでなく、回復部位の正常な構造及び機能を維持するので、回復期間中の歯槽骨の咬合力が改善する。
【0007】
また、本発明における圧縮強度とは、多孔質リン酸三カルシウム材料が破壊に耐えられる最大荷重をその断面積で除したものを意味する
【0008】
用語「サンゴ骨から改変され」とは、サンゴ骨が、炭酸カルシウムの原料として機能し、リン酸二カルシウムを添加することによって反応させてリン酸三カルシウムを得ることを意味する。好ましくは、本発明に係るリン酸三カルシウムは、まず、サンゴの炭酸カルシウムとリン酸二カルシウムと水とを混合して第1の混合物を得て、第1の混合物を50℃~60℃で7時間~10時間乾燥して第2の混合物を得て、500℃~600℃で2時間~3時間加熱してから1000℃~1100℃で2時間から4時間加熱したものである。
【0009】
多孔質リン酸三カルシウム材料の「平均最大荷重」は、例えば、4重量kg、4.5重量kg、5.0重量kg、5.5重量kg、6.0重量kg、6.5重量kg、7.0重量kg、7.5重量kg、8.0重量kg、8.5重量kg又は9.0重量kgとすることができる。好ましくは、多孔質リン酸三カルシウム材料の平均最大荷重は、5.0重量kg~7.0重量kgである。より好ましくは、多孔質リン酸三カルシウム材料の平均最大荷重は、5.8重量kg~6.6重量kgである。実施形態では、「平均最大荷重」は、圧縮剤の形態で得られる多孔質リン酸三カルシウム材料の平均最大荷重である。より好ましくは、「平均最大荷重」は、ISO13175-3(2012)規格に準拠して得られる平均圧縮強度である。さらに好ましくは、「平均最大荷重」は、ISO13175-3(2012)規格の4.6.2.4章に準拠して得られる平均圧縮強度である。
【0010】
一実施形態では、前述の圧縮剤は、厚さが5mmであり、直径が13mmである。好ましくは、この圧縮剤は、液圧によって、平均直径が0.1mm~5.0mm、例えば、0.1mm、0.25mm、0.5mm、1.0mm、1.5mm、2.0mm、2.5mm、3.0mm、3.5mm、4.0mm、4.5mm又は5.0mmの多孔質リン酸三カルシウム材料から調製される。より好ましくは、この圧縮剤は、0.5mm/分の試験速度でテストされる。
【0011】
リン酸三カルシウムは、人骨の主成分であり、骨治癒に用いることができる。好ましくは、本発明の多孔質リン酸三カルシウム材料は、純リン酸三カルシウムである。本発明に係る純リン酸三カルシウムは、それが実質的なリン酸三カルシウムからなることを意味する。本発明に係る純リン酸三カルシウムの化学式は、Ca(POである。
【0012】
一実施形態では、多孔質リン酸三カルシウム材料は、粉末状であり、複数のリン酸三カルシウム粒子を含む。別の実施形態では、多孔質リン酸三カルシウム材料は、使用しやすいように、コロイド懸濁液の形態に調製してもよい。好ましくは、多孔質リン酸三カルシウム材料の粒子径は、0.1mm~5.0mm、例えば、0.1mm、0.2mm、0.25mm、0.5mm、1.0mm、2.0mm、3.0mm、4.0mm又は5.0mmである。より好ましくは、多孔質リン酸三カルシウム材料の粒子径は、0.25mm~0.5mm、0.5mm~1.0mm、1.0mm~2.0mm又は2.0mm~3.0mmである。
【0013】
好ましくは、多孔質リン酸三カルシウム材料は、β-リン酸三カルシウム(β-TCP)である。より好ましくは、多孔質リン酸三カルシウム材料は、純β-リン酸三カルシウムである。
【0014】
好ましくは、多孔質リン酸三カルシウム材料のリンに対するカルシウムの重量比は、1.5~1.6である。より好ましくは、多孔質リン酸三カルシウム材料のリンに対するカルシウムの重量比は、1.54~1.56である。
【0015】
本発明は、複数の細孔を有しており、人骨に類似しているので、骨細胞接着及び骨細胞増殖に有益である。本発明の多孔質リン酸三カルシウム材料は、例えば細孔の内側又はスタックの内側に向かう骨細胞の成長を促進し、多孔質リン酸三カルシウム材料は例えば粒子形状をしているので、骨細胞はそれらの粒子表面に沿ってスタックの中心に向かって成長する。好ましくは、多孔質リン酸三カルシウム材料の平均総細孔容積は、0.35mL/g~0.51mL/gである。より好ましくは、その平均総細孔容積は、0.4mL/g~0.46mL/gである。さらに好ましくは、その平均総細孔容積は、0.425mL/g~0.445mL/gである。
【0016】
好ましくは、多孔質リン酸三カルシウム材料の平均孔径は、1.3μm~1.4μmである。より好ましくは、多孔質リン酸三カルシウム材料の平均孔径は、1.33μm~1.37μmである。
【0017】
一実施形態では、多孔質リン酸三カルシウム材料の平均総多孔度は、εp=Vt×ρs/(Vt×ρs+1)×100%によって計算され、ここで、εpは総多孔度、Vtは総細孔容積、及びρsは密度である。εp、Vt、及びρsの単位は、それぞれ%、mL/g、及びg/mLである。
【0018】
好ましくは、多孔質リン酸三カルシウム材料の平均総多孔度は、43%~47%である。より好ましくは、多孔質リン酸三カルシウム材料の平均総多孔度は、44.5%~45.5%である。総多孔度の分母は体積であり、これは総細孔容積の分母である重量とは異なる。
【0019】
好ましくは、多孔質リン酸三カルシウム材料の密度は、1.8g/mL~2.0g/mLである。より好ましくは、多孔質リン酸三カルシウム材料の密度は、1.85g/mL~1.89g/mLである。一般的なリン酸三カルシウムは細孔を有しておらず、その密度は3.14g/mLである。本発明の多孔質リン酸三カルシウム材料は多くの細孔を有するので、その密度は非常に低い。
【0020】
好ましくは、平均総細孔容積、平均細孔サイズ、平均総多孔度及び密度は、ISO13175-3(2012)規格に準拠して得られる。より好ましくは、平均総細孔容積、平均細孔サイズ、平均総多孔度及び密度は、ISO13175-3(2012)規格の4.4.2.1章に準拠して得られる。
【0021】
好ましくは、多孔質リン酸三カルシウム材料の結晶化度は79.4%~81.0%であり、その非晶質は19.0%~20.6%である。より好ましくは、多孔質リン酸三カルシウム材料の結晶化度は80.2%であり、その非晶質は19.8%である。したがって、本発明の多孔質リン酸三カルシウム材料は、結晶割合が高い。
【0022】
好ましくは、結晶化度及び非晶質はISO13175-3(2012)規格に準拠して得られる。より好ましくは、結晶化度及び非晶質はISO13175-3(2012)規格の4.2章に準拠して得られる。
【0023】
リン酸三カルシウムは人骨の主成分であるため、本発明の多孔質リン酸三カルシウム材料は、免疫学的拒絶反応のリスクを低下させるように良好な生体適合性を有し、溶解度が極めて低く、生分解性も有するので、骨治癒を促進するための新しい骨形成のための空間を、長期間で徐々に提供することができる。
【0024】
本発明の多孔質リン酸三カルシウム材料は、平均弾性率が市販品のものよりも非常に高く、力がかかることに起因する割れリスクを低下させるので、骨治癒により適している。好ましくは、多孔質リン酸三カルシウム材料の平均弾性率は、0.19Gpa~0.65Gpa、例えば、0.19Gpa、0.22Gpa、0.25Gpa、0.28Gpa、0.31Gpa、0.34Gpa、0.37Gpa、0.40Gpa、0.43Gpa、0.46Gpa、0.49Gpa、0.51Gpa、0.54Gpa、0.57Gpa、0.60Gpa、0.63Gpa又は0.65Gpaである。より好ましくは、その平均弾性率は、0.25Gpa~0.40Gpaである。さらに好ましくは、その平均弾性率は0.3Gpa~0.35Gpaである。
【0025】
一実施形態では、「平均弾性率」は、ISO13175-3(2012)規格に準拠して得られる平均弾性率である。
【0026】
一実施形態では、平均弾性率は、圧縮剤の形態で得られる多孔質リン酸三カルシウム材料の平均弾性率である。好ましくは、平均弾性率の上記値を得るための圧縮剤は、平均圧縮強度を得るためのものと同じである。
【0027】
本発明のサンゴ骨は、重金属汚染の心配がない屋内養殖によって繁殖されたサンゴから得られる。一実施形態では、本発明の多孔質リン酸三カルシウム材料から、鉛、カドミウム、水銀、及びヒ素は検出されない。
【0028】
好ましくは、サンゴは、
カルシウムイオン及びマグネシウムイオンを含む海水が入れられた水タンクを提供し、
水タンクに配置されるベースにサンゴを配置することを含む植付ステップと、
海水を、pHが7.8~8.8、塩分が29ppt~37ppt、アルカリ度が7dKH~10dKH、温度が20℃~26℃、カルシウムイオン濃度が430ppm~500ppm、マグネシウムイオン濃度が1290ppm~1500ppmに維持することを含む培養ステップと、
サンゴに餌を与えることを含む給餌ステップと、
サンゴに少なくとも1日に6時間の光を照明することを含む照明ステップと、
水タンク内の海水の総体積に基づいて毎分少なくとも2.6体積パーセントの量で海水をろ過して海水の浮遊泡を除去することを含む浄化ステップと、
を含むサンゴ養殖法によって繁殖される。
【0029】
一実施形態では、海水の監視頻度は、1日に5回~12回である。好ましくは、海水の監視頻度は、1日に8回~12回(例えば1日に10回)である。
【0030】
一実施形態では、給餌ステップの頻度は、1日に8回~15回である。好ましくは、給餌ステップの頻度は、週に1回~3回である。
【0031】
好ましくは、海水は、更に、リン酸塩、硝酸塩及び亜硝酸塩を含み、リン酸塩の濃度は0.03ppm未満であり、硝酸塩の濃度は0.5ppm未満であり、亜硝酸塩の濃度は0.1ppm未満である。
【0032】
好ましくは、餌はワムシ又はゾウリムシ又はそれらの組み合わせを含む。
【0033】
好ましくは、サンゴは、小さなポリプのイシサンゴ(small polyp stony coral)を含む。
【0034】
より好ましくは、小さなポリプのイシサンゴは、スギノキミドリイシ(Acropora formosa)、トゲスギミドリイシ(Acropora nobilis)、コイボミドリイシ(Acropora austera)、エダミドリイシ(Acropora valenciennesi)、オトメミドリイシ(Acropora pulchra)、クシハダミドリイシ(Acropora microphtha)、トゲスギミドリイシ(Acropora intermedia)、及びサボテンミドリイシ(Acropora florida)からなる群から選択される。
【0035】
小さなポリプのイシサンゴは、大量の炭酸カルシウムを分泌してサンゴ骨を形成することができ、サンゴ骨の成長率が高く、生産コストを下げることができる。また、サンゴ骨の成分は、一般的な炭酸カルシウム素材のものと同じ炭酸カルシウムである。しかし、サンゴ骨の原料の炭酸カルシウムから改変された多孔質リン酸三カルシウム材料は、一般的な炭酸カルシウム材料と比較して、非常に優れた平均圧縮強度及び平均弾性率を有する。したがって、そのような利点は、サンゴ骨を粉砕することによって得られる炭酸カルシウム粉末が、市販の骨移植医療機器で用いられる炭酸カルシウム原料とは異なることに起因している可能性がある。
【0036】
好ましくは、前述のサンゴ養殖方法は、サンゴの成長速度を更に促進することができる。
【0037】
さらに、本発明は、骨治癒に用いる多孔質リン酸三カルシウム材料を提供する。多孔質リン酸三カルシウム材料は医薬品として機能し、医療製品は医薬品又は医療機器である。医療製品は、それを必要とする対象に投与するために用いられる。
【0038】
さらに、本発明は、多孔質リン酸三カルシウム材料を含む、骨治癒の医薬組成物を提供する。医薬組成物は医療製品として機能し、医療製品は薬又は医療機器である。医療製品は、それを必要とする対象に投与するために用いられる。
【0039】
さらに、本発明は、多孔質リン酸三カルシウム材料を含む、骨治癒に用いる医薬組成物を提供する。医薬組成物は医療製品として機能し、医療製品は薬又は医療機器である。医療製品は、それを必要とする対象に投与するために用いられる。
【0040】
さらに、本発明は、骨治癒用薬剤として用いられる多孔質リン酸三カルシウム材料を提供する。薬剤は医療製品として機能し、医療製品は薬又は医療機器である。医療製品は、それを必要とする対象に投与するために用いられる。
【0041】
骨治癒には、新しい骨の成長速度を増加させること又は骨細胞接着のための空間を増加させることが含まれる。好ましくは、本発明の多孔質リン酸三カルシウム材料は、骨細胞接着のための表面積をさらに増加させるように粒子形状をしている。
【0042】
また、本発明における骨治癒とは、骨損傷の治療を意味する。
【0043】
本発明の目的とする限定的な製品に主張する多孔質リン酸三カルシウム材料又は医薬組成物は、本発明の特許請求の範囲の対象として開示されたものと同じである。本発明によれば、本発明の多孔質リン酸三カルシウム材料は、市販の骨移植医療機器のリン酸三カルシウムに比して、非常に優れた骨治癒効果を有する。
【0044】
本発明の多孔質リン酸三カルシウム材料及び市販の骨移植医療機器のそれは、リン酸三カルシウムであるが、本発明の多孔質リン酸三カルシウム材料は、非常に優れた、平均圧縮強度、平均弾性率及び骨治癒効果といった3つの利点を有する。そのような利点は、サンゴ骨を粉砕することによって得られる炭酸カルシウム粉末が、市販の骨移植医療機器で用いられる炭酸カルシウム原料とは異なることに起因している可能性があり、さらに、そのような原因には、改変後の本発明の多孔質リン酸三カルシウム材料の機械的特性及び生化学的特性の差異が貢献している可能性がある。
【0045】
さらに、本発明は、
(1)サンゴ骨を粉砕してサンゴの炭酸カルシウムの粉末を得て、
(2)前記サンゴの炭酸カルシウムとリン酸二カルシウムと水とを重量比0.8~1.2:2.5~3.5:5.4~6.6で混合して第1の混合物を得て、
(3)前記第1の混合物を400rpm~500rpmの速度で7時間~11時間撹拌してから50℃~60℃で7時間~10時間乾燥して第2の混合物を得て、
(4)前記第2の混合物を500℃~600℃で2時間~3時間加熱してから1000℃~1100℃で2時間~4時間加熱して多孔質リン酸三カルシウム材料を得る、
多孔質リン酸三カルシウム材料の製造方法を提供する。
【0046】
一実施形態では、本発明の製造方法における多孔質リン酸三カルシウム材料は、本発明の特許請求の範囲の対象として開示されているものと同じであり、本発明の製造方法におけるサンゴ骨は、本発明の特許請求の範囲の対象として開示されているものと同じである。
【0047】
要するに、バイオセラミクスとして機能する本発明の多孔質リン酸三カルシウム材料は、金属材料及びプラスチック材料よりも非常に優れている。さらに、本発明の多孔質リン酸三カルシウム材料は、平均圧縮強度及び平均弾性率といった非常に優れた機械的特性、生体適合性、及び、より良い骨治癒効果を有するので、患者の医療ニーズをよく満たし、大きな市場可能性を示している。
【図面の簡単な説明】
【0048】
図1】本発明の実施例1の多孔質リン酸三カルシウム材料の拡大写真である。
図2】市販品である比較例1の多孔質リン酸三カルシウム材料の拡大写真である。
図3】本発明の実施例1の多孔質リン酸三カルシウム材料のエネルギー分散型スペクトル(EDS)の結果を示すグラフである。
図4】実施例1のフーリエ変換赤外分光法(FTIR)のスペクトログラムの結果及び市販製品である比較例1のフーリエ変換赤外分光法(FTIR)のスペクトログラムの結果を示す図である。
図5】得られた骨切片を示す遠位大腿骨の概略図及びそのスライス方向の概略図である。
図6】実施例1及び比較例1の代表的な第4週(W4)群・第12週(W12)群・第26週(W26)群の骨切片写真である。
【発明の実施の形態】
【0049】
本発明は、以下の実施形態を通じてさらに説明される。当業者は、本発明によって達成される利点及び有効性を容易に理解することができる。本発明は、実施形態の内容に限定されるべきではない。当業者は、本発明の内容を実施又は適用するために、本発明の精神及び範囲から逸脱しないいくつかの改善又は修正を行うことができる。
【0050】
配合例1:サンゴ骨
サンゴは、海水が循環する閉鎖系の建物内のガラス培養槽で繁殖させた。これは、ガラス培養槽と外洋とを連通させて海水が直接流出入することがなかったことを意味する。本発明に係る海水は、普通の海から得たので、まず、沈降及び浄水を必要とし、つぎに、後述するように、海水のパラメータは所定の範囲内に調整した。サンゴは、スギノキミドリイシ(Acropora formosa)、トゲスギミドリイシ(Acropora nobilis)、コイボミドリイシ(Acropora austera)で構成され、それぞれを別々のガラス培養タンクで繁殖した。本発明に係る全てのサンゴは、天然サンゴではなく人工繁殖によって得られたサンゴである。
【0051】
まず、繁殖した母サンゴから、点状のサンゴ片を採取した。点状のサンゴ片は、炭酸カルシウム粒子及びサンゴのポリプからなり、炭酸カルシウム粒子の粒子径は約0.2cm~約0.5cmであった。点状のサンゴ片を円筒形のセラミックベース板又はセメント板に植付して固定し、サンゴ片の成長を促進した。点状のサンゴ片の密度は、平方メートルあたり50~60であった。植付中に、点状のサンゴ片だけがすぐに海水から離れた。さらに、サンゴのポリプは共生藻類で構成されていた。
【0052】
サンゴ片の植付完了後には、ワムシを餌として提供し、サンゴの餌給を週に1回~3回行った。循環海水の水質及び養水槽の水質パラメータの監視は、1日に8回~12回の頻度で継続的に実行した。自動補充及び浄水モジュールは、循環海水を、pHが7.8~8.8、塩分が29ppt~37ppt、アルカリ度が7dKH~10dKH、温度が20℃~26℃、リン酸塩濃度が0.03ppm未満、硝酸塩濃度が0.1ppm未満、亜硝酸塩濃度が0.1ppm未満、カルシウムイオン濃度が430ppm~500ppm、マグネシウムイオン濃度が1290ppm~1500ppmに維持されるように設定した。
【0053】
ろ過したきれいな海水を貯水するために、ガラス培養槽の下に貯水槽を設置し、貯水槽には浄水モジュールを設置した。
【0054】
浄水モジュールは、孔径が0.10mmの生化学綿、孔径が0.30mmの生化学綿、孔径が0.01mm~0.05mmのセラミックリング、孔径が0.10mm~0.30mmのフィルター綿で構成した。サンゴ骨石及びサンゴ礁のライブロックにより、循環海水の水質は迅速に処理及び制御された。また、循環海水の表面の浮遊泡を泡沫分離装置によって除去し、サンゴが生成するたんぱく質やアミノ酸などの有機物を減少させた。
【0055】
発光ダイオード(LED)は、2800K~3800Kの白色LED、5000K~6500Kの白色LED、425nm~435nmの青色LED、及び445nm~470nmの青色LEDを含むLEDを用いた。光は、間隔を空けて照明し、照明時間は1日あたり合計12時間とし、共生藻類の光合成を促進させた。サンゴ片は、550日間養殖し、その後に収穫し、全体として縦高が12cm~20cm、枝長が5cm~15cmのサンゴを得た。サンゴのポリプを除去し、サンゴ全体をきれいにしてサンゴ骨を得た。
【0056】
配合例2:多孔質リン酸三カルシウム材料
配合例1のサンゴ骨を粉砕して、サンゴの炭酸カルシウムの粉末を得た。サンゴの炭酸カルシウムと市販のリン酸二カルシウムと殺菌水とを混合バケットで1:3:6の重量比で混合し、第1の混合物を得た。殺菌水自体は、媒体として機能し、リン酸三カルシウムの形成反応には関与しなかった。
【0057】
ブラシレス撹拌機を混合バケットに入れた。サンゴの炭酸カルシウム及びリン酸二カルシウムは、その比重がいずれも殺菌水の比重よりも高く、混合バケットの底に沈殿したので、攪拌棒の頭を混合バケットの底に到達させ、400rpm~500rpmの速度で7時間~11時間攪拌した。その後、撹拌した第1の混合物を50℃~60℃で7時間~10時間加熱乾燥させて乾燥粉末を得た。
【0058】
乾燥粉末をアルミナるつぼに注ぎ、そのるつぼを加熱炉の中央に配し、通常雰囲気で一定温度に加熱した。ここで、加熱ステップは2段階に分け、第1段階での温度上昇速度は毎分5℃以下の範囲に制御し、室温から500℃~600℃に上昇させ、500℃~600℃で2時間~3時間維持した。第2段階での温度上昇速度は、毎分5℃以下の範囲に制御し、第1段階の最終温度から1000℃~1100℃に上昇させ、1000℃~1100℃で2時間~4時間維持した。その後、加熱ステップを終了し、加熱炉を徐々に冷却して、熱処理後の粉末の温度を下げていった。
【0059】
熱処理後の粉末をろ過した。ろ過方法は、熱処理後の粉末をNo.5Bのろ紙上に置き、熱処理後の粉末を殺菌水で洗浄して水溶性不純物を除去する方法とした。空気吸引フィルターを用いてろ過液の排出を加速し、ろ過液のpHが7~8に到達するまでろ過ステップを行い、ろ過した粉末を得た。
【0060】
ろ過した粉末を50℃~60℃で7時間~10時間加熱乾燥し、各層の細孔径が異なる多層ステンレス鋼の篩を用いて粒径を分類して、様々な範囲の直径のリン酸三カルシウム粒子を得た。更なる試験を行うために、本発明の多孔質リン酸三カルシウム材料として、平均粒子径が3mmのものを選択した。
【0061】
テスト1:圧縮強度
本発明の実施例1(E1)の多孔質リン酸三カルシウム材料は、配合例2で得られた平均粒度が3mmの多孔質リン酸三カルシウム材料である。比較例1(CE1)は、市販の骨移植医療機器のリン酸三カルシウム(以下、「市販のリン酸三カルシウム」という)である。ここで、市販のリン酸三カルシウムの製品名は、NuROsという殺菌済の骨補填材「BGD50」であり、保健所の医療機器製造番号は003611、平均粒子径は3mmである。市販のリン酸三カルシウムの成分は、純リン酸三カルシウム(β-TCP)である。実施例1及び比較例1では、それぞれ10個のサンプル粉末をテスト用に準備した。このテストは、ISO13175-3(2012)規格の4.6.2.4章に準拠して実行し、環境温度は23℃±2℃、相対湿度は50%±10%であった。実施例1及び比較例1のものはいずれも、厚さが5mm、直径が13mmの圧縮剤の形態で液圧によって調製し、MTS社の万能試験機Criterion(登録商標)のモデルC43によって、0.5mm/分のテスト速度でテストした。そのテスト結果を表1に示す。
【0062】
(表1) 最大荷重(単位:重量kg)
【0063】
表1によれば、実施例1に係る平均最大荷重は、サンプルの準備方法及びテスト条件を同じとした比較例1に係る平均圧縮強度の2.38倍であった。また、実施例1に係る平均最大荷重の最大値は9.0重量Kgに到達する可能性があるが、比較例1に係る最大値は僅かに5.9重量Kgしかなく、実施例1に係る平均最大荷重である6.2重量kgよりもさらに低い。したがって、本発明の多孔質リン酸三カルシウム材料の平均最大荷重は、市販のリン酸三カルシウムのそれよりも非常に優れており、患者の体重からのストレスに起因する代替骨材料の加速的な劣化のリスクが減少し、これは本発明が患者の骨治癒により適していることを意味する。
【0064】
テスト2:弾性率
テスト2における実施例1及び比較例1のものは、テスト1の場合と同じものとし、実施例1及び比較例1では、それぞれ10個のサンプル粉末をテスト用に準備した。このテストは、ISO13175-3(2012)規格に準拠して実行し、環境温度、相対湿度、サンプルの準備方法、サンプルのテスト装置及びテスト速度は、テスト1の場合と同じ条件とした。そのテスト結果を表2に示す。
【0065】
(表2) 弾性率(単位:Gpa)
【0066】
表2によれば、実施例1に係る平均弾性率は、サンプルの準備方法及びテスト条件を同じとした比較例1に係る平均弾性率の2.64倍であった。したがって、本発明の多孔質リン酸三カルシウム材料の平均弾性率は、市販のリン酸三カルシウムのそれよりも非常に優れており、割れリスクが減少し、これは本発明が患者の骨治癒により適していることを意味する。
【0067】
テスト3:溶解度
テスト3における実施例1及び比較例1のものは、テスト1の場合と同じものとし、実施例1及び比較例1では、それぞれ10個のサンプル粉末をテスト用に準備した。このテストは、ISO13175-3(2012)規格に準拠して実行し、100mLの水をそれぞれ実施例1及び比較例1のものに加え、溶解しなくなるまで20℃で攪拌した。そのテスト結果を表3に示す。
【0068】
(表3) 溶解度(20℃)
【0069】
表3によれば、実施例1及び比較例1に係る溶解度は類似しており、実施例1に係る溶解度は比較例1に係る溶解度よりも僅かに低かった。本発明の多孔質リン酸三カルシウム材料及び市販のリン酸三カルシウムは、水にほぼ溶解しなかったので、人体への移植後に即時溶解するリスクを回避でき、これはこれらのいずれもが患者の骨治癒に適していることを意味する。
【0070】
テスト4:細孔分析
テスト4における実施例1及び比較例1のものは、テスト1の場合と同じものとした。実施例1の拡大写真を図1に示す。ここでは細孔1がマークされている。比較例1の拡大写真を図2に示す。このテストは、ISO13175-3(2012)規格の4.4.2.1章に準拠して実行した。このテストには、水銀ポロシメータ及び走査電子顕微鏡(SEM、日立ハイテク社のSU3500)を用いた。その結果を表3に示す。ここで、総多孔度の計算式は、εp=Vt×ρs/(Vt×ρs+1)×100%である。
【0071】
(表4) 総細孔容積、密度、平均細孔サイズ及び総多孔度
【0072】
表4によれば、1グラムあたりの実施例1のリン酸三カルシウムは、総細孔容積が0.4361mL/g、平均細孔サイズ(直径)が1.35527μm、総多孔度が44.9784%であり、実施例1のものが実際に多孔質材料であることを示している。
【0073】
それに対し、第1に、1グラムあたりの実施例1のリン酸三カルシウムの総細孔容積は、比較例1のそれの約83%である(83%は(0.4361/0.5233)×100の計算式によって得られる)。第2に、実施例1における総多孔度は比較例1の約93.7%である。第3に、実施例1における平均細孔径(直径)は比較例1の約93.6%である。第4に、実施例1における密度は比較例1の密度の約106.3%である。したがって、実施例1及び比較例1における細孔及び密度に関する測定結果の差異は6%~17%であり、これは主張する多孔質材料の細孔構造が市販のリン酸三カルシウムのそれとは異なることを示しており、このような差異は、本発明で採用される、原料が異なるサンゴ骨から生じた可能性がある。
【0074】
テスト5:カルシウム/リン比率
このテストは、実施例1のものに対してISO13175-3(2012)規格に準拠して実行し、走査電子顕微鏡及びエネルギー分散型分光計(日立ハイテクのS-3400N)をテストに用いた。その結果を表5及び図3に示す。
【0075】
(表5) カルシウム/リン比率
【0076】
表5によれば、本発明の多孔質リン酸三カルシウム材料のリンに対するカルシウムの重量比は、29.96/19.34=1.55であった。
【0077】
テスト6:重金属テスト
このテストは、実施例1のものに対してISO13175-3(2012)規格に準拠して実行した。このテストには、誘導結合プラズマ発光分析(ICP-OES)を用いた。その結果を表6に示す。
【0078】
(表6) 重金属テスト
【0079】
表6によれば、鉛、カドミウム、水銀及びヒ素は、実施例1のものから検出されなかった。これは、本発明の多孔質リン酸三カルシウム材料が重金属を含まず、患者の体に悪影響を及ぼさず、患者にとって有益であることを示している。
【0080】
テスト7:フーリエ変換赤外分光分析
テスト7における実施例1及び比較例1のものは、テスト1の場合と同じものとした。このテストは、ISO13175-3(2012)規格に準拠して実行し、フーリエ変換赤外分光法(FTIR)をテストに用いた。実施例1及び比較例1の測定結果を図4A及び図4Aに示す。
【0081】
図4A図4Bとを対比すると、実施例1と比較例1とではスペクトル分析結果は類似しており、それらの主成分は純リン酸三カルシウムであるリン酸カルシウム塩であった。さらに、比較例1の添付文書は、成分が純リン酸三カルシウム(β-TCP)であることを明らかにしている。したがって、本発明の多孔質リン酸三カルシウム材料も、純リン酸三カルシウム(β-TCP)であり、骨治癒に用いることができる。
【0082】
テスト8:骨治癒効果テスト
骨治癒効果テストは、医療機器の生物学的評価のパート6:移植後の局所効果テストISO10993(2016))に準拠して実行した。実験動物は、その骨格の成熟を保障するために、体重が2.8kg以上であり、手術時の年齢が8ヶ月以上である、オスのニュージーランドホワイトウサギとした。このテスト中には、1匹のウサギを1つのケージで飼育し、環境温度は19℃±3℃、湿度は50%±20%、照明周期は12時間明るくし、12時間暗くした。餌は、米国のPMI Nutrition International社から購入したProlab Rabbit Dietとし、餌の供給方法は自由とした。飲料水は、RO水とし、その供給方法も自由とした。
【0083】
テスト8における実施例1及び比較例1のものは、テスト1の場合と同じものとした。このテスト前に、実験動物の大腿の毛皮を電気かみそりで刈り、麻酔のために10mg/kgの用量のゾレチル(登録商標)及びキシラジンをウサギの筋肉に別々に注射し、手術中にはイソフルランを麻酔として与え続けた。この手術は、実験動物の左右両方の大腿の遠位大腿骨頭に、ドリルで直径6mm、深さ10mmの欠損を作り、実施例1の粉末を移植物として右大腿の欠損に押し込み、比較例1の粉末を移植物として左大腿部の欠損に押し込んだ。手術後、抗生物質を1日1回、7日間投与した。
【0084】
実施例1及び比較例1の双方の粉末を移植した実験動物を3つの群に分け、4週間(W4群)、12週間(W12群)、26週間(W26群)、それぞれ飼育し、その後に殺処分した。各群には8匹のウサギがいて、合計で24匹のウサギを実験に用いた。テスト中には、実験動物の体重、異常行動の有無及び創傷状態を観察した。
【0085】
殺処分後の実験動物の移植部位の周囲の組織を調べて、血腫、浮腫、及び、被包などを肉眼観察した。
【0086】
周囲の組織を除去した後、左右両方の大腿の遠位大腿骨の切片の準備及び染色を実行し、次の各ステップを行った。隣接する筋肉及び軟組織を注意深く除去して標本を得た後、標本を10%緩衝中性ホルマリン溶液で24時間固定し、それから、エタノールで脱水し、メタクリル酸メチルで包埋した。重合後に、ダイヤモンド板を備えるミクロトームを用いて、包埋した標本を横方向に切断し(図5Aに示す)、脱灰されていない薄片(~500μm)(図5Bに示す)を得て、マッソンのトリクローム染色でさらに染色して、骨切片を得た。最後に、新しい骨形成、残存する骨代替物、及び、骨切片の空間のそれぞれの面積比率を、Media Cybernetics社のImage Pro Plus(IPP)プログラムのソフトウェアによって分析及び定量化し、実施例1と比較例1との比較結果を、JMP統計ソフトウェアの一元配置分散分析及びスチューデントのt検定によって得た。
【0087】
(1)実験動物の体重、異常行動の有無及び創傷状態
W4群では、実験動物の体重は、2730g~2833gの範囲から、手術後に2862g~3101gの範囲に増加した。W12群では、実験動物の体重は、2705g~2841gの範囲から、手術後に3965g~4103gの範囲に増加した。W26群では、実験動物の体重は、2681g~2811gの範囲から、手術後に4031g~4120gの範囲に増加した。したがって、各群の実験動物の体重は、着実にすなわち正常に増加した。また、テスト中に異常な行動や創傷の感染は見られず、創傷は優れた治癒をみせた。換言すれば、実験動物の健康状態は良好であり、免疫学的な拒絶反応を示さなかった。
【0088】
(2)実験動物の血腫、浮腫、及び、被包などの観察
W4群、W12群及びW26群では、実施例1及び比較例1のものを移植した全ての実験動物に、移植部位周辺の組織での血腫、浮腫、及び被包は観察されなかった。したがって、実施例1及び比較例1のものが移植された全ての実験動物は優れた治癒がみられた。
【0089】
(3)新しい骨形成、残存する骨代替物、及び、骨切片の空間のそれぞれの面積比率
骨切片の組織形態計測の統計データを表7に示す。ここでは、新しい骨形成、残存する骨代替物、及び、骨切片の空間のそれぞれの面積比率を合計すると、合計100%となる。
【0090】
(表7)新しい骨形成、残存する骨代替物、及び、骨切片の空間のそれぞれの面積比率
【0091】
W4群では、比較例1の新骨形成の面積比率は12.56%であり、これは実施例1(6.31%)の約2倍であり、統計的に大きな差異が見られた。しかし、W26群では、比較例1の新骨形成の面積比率は11.71%であり、これは実施例1のもの(19.46%)の約半分であり、統計的に大きな差異が見られた。したがって、比較例1は、短期での非常に優れた骨治癒効果を提供し、実施例1は長期での非常に優れた骨治癒効果を提供することがわかった。
【0092】
第2に、W4群、W12群及びW26群における新骨形成の面積比率の変化に応じて、実施例1における新骨形成の面積比率は6.31%から19.46%に継続的に増加したが、比較例1における面積比率は12.56%から11.71%に減少した。骨治癒は一般に長期間を必要とするので、本発明の多孔質リン酸三カルシウム材料は、患者の骨治癒により適している。
【0093】
第3に、W26群における新しい骨形成と残存する骨代替物との面積比率によれば、比較例1における残存する骨代替物の面積比率は僅か2.65%である。これは、比較例1における移植物が、おそらくインビトロで非常に速く分解して新しい骨形成が支持され、その結果、新しい骨の成長速度が新しい骨の分解速度よりも遅くなっていると思われる。比較すると、本発明の多孔質リン酸三カルシウム材料は、分解速度が比較例1のものよりも遅いだけでなく、テスト中に徐々に遅くなって新しい骨接着のためにより長い期間を提供するので、患者の治癒骨により適している。
【0094】
最後に、前述のように、このテストでは24匹の実験動物を用い、実施例1の粉末を移植物として右大腿の欠損に押し込み、比較例1の粉末を移植物として左大腿の欠損に押し込んだので、合計48データある。多くのデータがあるため、表7にリストされているデータに近いデータを代表的な群として選択して、表8に示している。また、図6Aから図6Rは、対応する代表的な群の骨切片の写真を示し、灰色領域は新しい骨形成を示し、黒色領域は残存する骨代替物を示し、白色領域は空間を示している。グレースケール写真では、領域の相違をほとんど区別できないため、表8に示す領域比率データを次のデモンストレーションに用いている。
【0095】
(表8) W4群、W12群及びW26群の実施例1及び比較例1の代表的な群、並びに、それらの新しい骨形成、残存する骨代替物及び骨部分の空間のそれぞれの面積比率
【0096】
表8によれば、実施例1の代表的な群の残存する骨代替物(黒色領域)の面積比率は、テスト期間の週が長くなるにつれて徐々に減少し、W4群の65.0%からW26群の16.3%に減少した。一方、実施例1の代表的な群の新しい骨形成の面積比率(灰色領域)は、テスト期間の週が長くなるにつれて徐々に増加し、W4群の7.1%からW26群の19.0%に増加した。このことは、本発明が実際に骨を治癒するための新しい骨形成の面積比率を継続的に増加させたことを示している。それに対し、W4群及びW26群における比較例1の代表的な群の新しい骨形成の面積比率は類似しており、これは灰色の面積比率に大きな変化がなかったことを意味する。そして、W4群、W12群及びW26群における新しい骨形成(灰色領域)のそれぞれの面積比率は、14.2%、13.7%及び12.1%であり、これは新しい骨形成の面積比率が継続的に減少していることを示している。したがって、本発明は、骨治癒効果を提供している。
【0097】
テスト9:相純度分析
実施例1の相純度は、ISO13175-3(2012)規格の4.2章に準拠して検査され、D8 DISCOVER SSSの多機能高出力X線回折計装置が用いられ、角度範囲は20°~80°の2θとした。
【0098】
相純度のテスト結果は、結晶化度が80.2%、非晶質が19.8%である。したがって、リン酸三カルシウムの結晶の割合が高い。
【0099】
要するに、本発明の多孔質リン酸三カルシウム材料は、生体適合性があるという利点及び免疫学的拒絶反応の発生がないという利点を有するだけでなく、患者のニーズである、非常に優れた平均圧縮強度、平均弾性率及び骨治癒効果も有する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6