(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-12
(45)【発行日】2024-01-22
(54)【発明の名称】過酸化水素水溶液の精製方法
(51)【国際特許分類】
C01B 15/013 20060101AFI20240115BHJP
C01B 15/037 20060101ALI20240115BHJP
【FI】
C01B15/013
C01B15/037 Z
(21)【出願番号】P 2022107203
(22)【出願日】2022-07-01
【審査請求日】2022-07-01
(32)【優先日】2021-10-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】591001248
【氏名又は名称】ソルヴェイ(ソシエテ アノニム)
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ボッセ, ユルゲン
(72)【発明者】
【氏名】ダブルンツ, マティアス
(72)【発明者】
【氏名】モールマン, レナート
(72)【発明者】
【氏名】ロスト, ヨセフィネ
【審査官】若土 雅之
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第113371683(CN,A)
【文献】特開2012-188318(JP,A)
【文献】特開2018-065726(JP,A)
【文献】韓国公開特許第2015-0089465(KR,A)
【文献】米国特許出願公開第2021/0307332(US,A1)
【文献】特開2002-080207(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 15/013
C01B 15/037
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも以下のステップ:
(a)少なくとも1つの第1の逆浸透系による、過酸化水素水溶液の処理、
(b)少なくとも1つの第1の安定剤による、前記得られた過酸化水素溶液の処理、
(c)少なくとも1つの吸着樹脂による、前記得られた過酸化水素溶液の処理
を含
み、前記少なくとも1つの第1の安定剤が、ホスフェート、ピロホスフェート、リン酸及びその組合せから選択される、過酸化水素水溶液の精製方法。
【請求項2】
前記得られた過酸化水素溶液が少なくとも1つのイオン交換樹脂によって処理される、さらなるステップ(d)を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ステップ(d)が、カチオン交換樹脂、それに続いて、アニオン交換樹脂、それに続いて、カチオン交換樹脂による、前記得られた過酸化水素溶液の処理からなる、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記第1の逆浸透系が少なくとも2つの平行逆浸透膜を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
ステップ(b)の後、及びステップ(c)の前に、ステップ(b)から得られる前記過酸化水素溶液が、少なくとも1つの第2の逆浸透系によってさらに処理される処理ステップ(b’)を含む、請求項1
又は2に記載の方法。
【請求項6】
ステップ(b’)の後、及びステップ(c)の前に、ステップ(b’)から得られる前記過酸化水素溶液が、少なくとも1つの第2の安定剤によってさらに処理される処理ステップ(b’’)を含む、請求項
5に記載の方法。
【請求項7】
前記少なくとも1つの第2の安定剤が、ホスフェート、ピロホスフェート、リン酸及びその組合せから選択され、好ましくは前記少なくとも1つの第1の安定剤と同一である、請求項
6に記載の方法。
【請求項8】
前記第1及び/又は前記少なくとも1つの第2の逆浸透系がステンレス鋼を含む、請求項1
又は2に記載の方法。
【請求項9】
前記第1及び/又は前記少なくとも1つの第2の逆浸透系、並びに/或いは前記吸着樹脂及び/又は任意選択的に前記イオン交換樹脂、より特に前記アニオン性交換樹脂が窒素含有ポリマーを含む、請求項1
又は2に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2021年10月06日出願の欧州特許出願第21201296.7号の優先権を主張するものである。上記出願の全内容は、全ての目的のために参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、過酸化水素水溶液を精製するためのプロセス、そのようなプロセスによって入手可能な過酸化水素水溶液、並びにマイクロエレクトロニクス部品及び半導体の製造におけるその使用に関する。
【背景技術】
【0003】
過酸化水素水溶液は、自動酸化技術によって一般に調製される。典型例として、アルキル置換アントラキノンは、循環的に水素による還元、空気中での酸化、及び水による過酸化水素の抽出が行われる。この製造技術の様々な変形が知られている。形成後、過酸化水素水は蒸留技術によってある程度は精製可能であり、そして様々な安定剤の添加によって安定化させることができる。製造技術はそれらの操作において明らかに異なるが、それらは、そのように形成した過酸化水素の溶液が、有意量のイオン性及び非イオン性の残留不純物を含有するという一般的な結果を共有する。典型的なカチオン性不純物としては、鉄、アルミニウム、ナトリウム、カルシウム、亜鉛、マグネシウム及びニッケルが含まれる(が、それらに限定されない)。典型的なアニオン性不純物としては、ニトレート、ホスフェート及びピロホスフェートが含まれる。加えて、自動酸化プロセスの性質は、得られた過酸化水素溶液が、典型的に50mg/kg超、場合によっては600mg/kgほどの高さの濃度で有意な有機不純物を含有するようなものである。
【0004】
過酸化水素水は、半導体及びマイクロエレクトロニクス工業の重要な原材料である。それは、完成した半導体又は部品が得られる多くの加工ステップにおいて使用される。本工業は、過酸化水素溶液に高レベルの純度を要求する。半導体プロセスのカチオン性及びアニオン性汚染は、製造収量の低下、したがって、より高い費用をもたらす。加えて、痕跡レベルの有機汚染が半導体製造プロセスに影響する可能性があることが知られている。したがって、自動酸化プロセスから生じる過酸化水素水中に存在する汚染物質レベルは容認できないほど高く、半導体グレードの材料を製造するためにはさらなる精製が必要とされる。しかしながら、特に自動酸化プロセスによって過酸化水素を製造した場合、過酸化水素水溶液中で1mg/kg未満にTOCレベルを低下させることは特に困難である。
【0005】
長年かけて、逆浸透は、電子工学用途で使用されることが意図される過酸化水素溶液を精製するための優勢な技術となった。
【0006】
(特許文献1)は、特に、逆浸透膜、吸着樹脂カラム、カチオン交換樹脂及びアニオン交換樹脂を通過させることによって、最初に65ppmのTOC(全有機炭素)を含有する過酸化水素の水溶液が精製されて、TOC値が0.49ppmまで減少する精製プロセスを開示する。
【0007】
しかしながら、逆浸透をベースとした精製プロセスは、経時的に非常に高純度の過酸化水素水の送達に失敗する。すなわち、逆浸透膜を出る過酸化水素溶液透過物中に金属成分(主に鉄)の収集が現れることが特に観察された。金属不純物が、通常、ステンレス鋼から部分的に製造される逆浸透系自体に由来することが見出された。
【0008】
逆浸透系が高い作業圧力を必要とし、そしてそのような圧力ではステンレス鋼が特に過酸化水素抵抗性であるため、今日、異なる材料から製造された逆浸透系を用いてこの不純物生成を抑制することは容易に可能ではない。
【0009】
それにもかかわらず、これらの新たに発生する金属不純物の存在は重大な問題である。すなわち、それらは過酸化水素を還元して、高度に反応性のラジカル種を形成し、それらは精製プロセスに潜在的に含まれるその後の精製手段の寿命を低下させ、それによって、最終精製ステップにおいて、好ましくない汚染物質が発生し、そして特に、そのような金属不純物の存在は安全性のリスクを暗示する。
【0010】
今や、本発明は、電子工学用途での使用のために適切である高度に純粋な過酸化水素水溶液、特に上記欠点を回避しながら、1mg/kg未満のTOCレベル及び/又は0.05mg/kg(50ppb)未満のTN(全窒素)レベルを有するものを提供する、過酸化水素水溶液を精製するための新規方法を提供する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】国際公開第2005/033005号パンフレット
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の1つの対象は、少なくとも以下:
(a)少なくとも1つの第1の逆浸透系による、過酸化水素水溶液の処理、
(b)少なくとも1つの第1の安定剤による、得られた過酸化水素溶液の処理、
(c)少なくとも1つの吸着樹脂による、得られた過酸化水素溶液の処理、
(d)任意選択的に、少なくとも1つのイオン交換樹脂による、得られた過酸化水素溶液の処理
のステップを含む、過酸化水素水溶液の精製のためのプロセスである。
【0013】
また本発明は、本発明によるプロセスによって得られるか、又は得ることができ、1mg/kg未満の全有機炭素(TOC)、0.05mg/kg未満の全窒素(TN)を含有し、且つ0.00001mg/kg未満の鉄を含有する過酸化水素水溶液に関する。ステップ(d)が実行されるいくつかの実施形態における鉄の量は、過酸化水素水溶液の0.000001mg/kg未満である。
【0014】
最後に、本発明は、マイクロエレクトロニクス部品及び半導体の製造における、そのような過酸化水素水溶液の使用に関する。
【0015】
本発明によるプロセスは、以下の利点の1つ又はそれ以上を有する:
- 逆浸透系の下流の精製手段の寿命を保存することが可能となる;
- 精製プロセスの安全性が改善される;
- 高純度の過酸化水素溶液、特に非常に低いレベルのTOC、TN及び鉄を有する過酸化水素溶液を送達することが可能となる;
- TNレベルを監視することが、過酸化水素品質及び製造の安定性を確実にするために有利であることが見出された。
- 安定剤を実質的に含まない過酸化水素溶液が提供される。
【0016】
本発明の過酸化水素水溶液は、0.001mg/kg未満のPO4
3-及び/又は最大1mg/kgの105℃における乾燥残渣として表される最大リン含有量を有利に示す。
【0017】
そのような仕様によって、電子工学用途における使用に特に適切となる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本開示では、「...から...までを含んだ」という表現は、両端値を含むものとして理解されるべきである。
【0019】
本発明は、第1に、少なくとも以下のステップを含む過酸化水素水溶液の精製のためのプロセスに関する:
(a)少なくとも1つの第1の逆浸透系による、過酸化水素水溶液の処理、
(b)少なくとも1つの第1の安定剤による、得られた過酸化水素溶液の処理、
(c)少なくとも1つの吸着樹脂による、得られた過酸化水素溶液の処理、
(d)任意選択的に、少なくとも1つのイオン交換樹脂による、得られた過酸化水素溶液の処理。
【0020】
本発明のプロセスにおいて出発材料として使用される過酸化水素水溶液は、工業用又は商業用グレードであってよい。自動酸化プロセスによって、又は酸素及び水素からの直接合成によって製造された過酸化水素を処理することは特に可能である。本発明のプロセスは、自動酸化プロセスによって調製された過酸化水素溶液を処理するために特に有用である。この場合、過酸化水素溶液は、好ましくは本発明のプロセスが行われる前に蒸留処理が行われる。本発明のプロセスで使用される過酸化水素溶液は、安定剤及び/又は添加剤、例えば、ニトレート、ホスフェート、ピロホスフェート、リン酸、硝酸若しくはそのいずれかの組合せを含有することも可能である。必要に応じて、過酸化水素溶液は、精製プロセスが行われる前に希釈又は濃縮されてもよい。例えば、初期の過酸化水素水溶液の濃度は、5~70重量%、特に30~70重量%、より特に50~70重量%の範囲であり得、例えば約60重量%であり得る。
【0021】
本発明によるプロセスには、以後、第1の逆浸透系と呼ばれるステップ(a)における逆浸透系の使用が関与する。第1の逆浸透系は、少なくとも1つの逆浸透膜を含む。それは、平行に、又は直列に配列されたいくつかの逆浸透膜を含み得る。一実施形態によると、第1の逆浸透系は、少なくとも2つの平行逆浸透膜を含む。逆浸透を実行するために使用される膜は、例えば、ポリアミド、ポリピペラジンアミド、ポリアクリロニトリル及び/又はポリスルホンから製造可能である。
【0022】
逆浸透系は、ステンレス鋼製のハウジングを一般に含む。ステンレス鋼は、逆浸透が適切に作業するために必要な、系に適用される高圧に耐えることができるため、今日最良の材料である。したがって、第1の逆浸透系はステンレス鋼を含み得る。第1の逆浸透系に適用される圧力は、適切には10~50バール、特に20~40バールの範囲であり得る。第1の逆浸透系に供給される過酸化水素水溶液の流速は、0.1~5m3/時間、特に0.4~1m3/時間の範囲であり得る。第1の逆浸透系に供給される過酸化水素水溶液の温度は、例えば0~25℃の範囲であり得る。
【0023】
本発明のプロセスは、得られた過酸化水素溶液(透過物)が少なくとも1つの安定剤(以後、第1の安定剤と呼ばれる)によってさらに処理されるその後の処理ステップ(b)を含む。処理ステップ(b)は、プロセスの下流に位置する前記少なくとも1つの吸着樹脂によって、過酸化水素分解を抑制し、そして金属不純物、特に過酸化水素溶液中に存在する鉄を除去するために有利である。ステップ(b)を実行しない場合、金属不純物、特に鉄が吸着樹脂によって十分に保持されず、次いで、吸着樹脂後に位置する可能のある他の精製装置を悪化させる可能性があり、特にアニオン性交換樹脂が吸着樹脂の後に存在する場合、その上への金属不純物、特に鉄の装填が、不安定性、したがって、安全性の問題を引き起こし、その寿命を低下させる。さらに、最終生成物のTOCの安定性を確実にすることが可能であり、そしてTNの量を望ましく低レベルに制御することができる。追加的な材料それら自体が汚染を導くという懸念があるため、超高純度の過酸化水素溶液を目標とする精製プロセスに補助材料を添加することを当業者は好まないという点に留意されたい。予想外であることに、本発明のプロセスによる安定剤による処理の利点が、そのような懸念よりも価値があることが見出された。
【0024】
第1の安定剤は、特にホスフェート、ピロホスフェート、リン酸及びその組合せ、より特にピロホスフェートから、さらにより特にピロリン酸から選択され得る。目標の安定化効果を得るために使用される安定剤の量は、安定剤の性質、及び上流で検出される透過物過酸化水素水流中の金属不純物の量次第で調整可能である。例えば、過酸化水素水溶液に添加される第1の安定剤の量は、0.1~1mg/kgの範囲であり得る。処理を実行するために、いずれの適切な技術的手段も使用され得る。安定剤は、過酸化水素水の流れに、手動で、又は自動的に添加されてよい。これに関連して、薬品注入ポンプシステムが使用されてもよい。
【0025】
ステップ(b)の後及びステップ(c)の前、ステップ(b)から得られる過酸化水素溶液が少なくとも1つの逆浸透系でさらに処理される任意選択的な処理ステップ(b’)が実行されてもよい。これは、以後、第2の逆浸透系と呼ばれる。この追加的な処理ステップ(b’)は本発明のプロセスによって製造された最終過酸化水素水溶液の純度を増加させるために有利であり、要求の厳しい電子工学用途に関して特に都合がよい。上流の処理ステップ(b)が、フェントン(Fenton)反応などの金属触媒反応によるステップ(b’)の第2の逆浸透系の酸化分解を回避するため、そしてそれによって第2の逆浸透系の寿命が改善されるためにも有利であるという点に留意されたい。第2の逆浸透系は、少なくとも1つの逆浸透膜を含む。それは、平行に、又は直列に配列されたいくつかの逆浸透膜を含み得る。一実施形態によると、第2の逆浸透系は、1つのみの逆浸透膜を含む。逆浸透を実行するために使用される膜は、ポリアミド、ポリピペラジンアミド、ポリアクリロニトリル及び/又はポリスルホンから製造可能である。第1の逆浸透系と同様に、第2の逆浸透系はステンレス鋼を含み得る。したがって、第1及び/又は少なくとも1つの第2の逆浸透系は、ステンレス鋼を含むことが可能である。
【0026】
第2の逆浸透系に適用される圧力は、適切に10~50バール、特に20~40の範囲であり得る。第2の逆浸透系に供給される過酸化水素水溶液の流速は、0.1~5m3/時間、特に0.5~1.3m3/時間の範囲であり得る。第2の逆浸透系に供給される過酸化水素水溶液の温度は、例えば、0~25℃の範囲であり得る。
【0027】
ステップ(b’)の後及びステップ(c)の前、ステップ(b’)から得られる過酸化水素溶液が少なくとも1つの安定剤でさらに処理される任意選択的な処理ステップ(b’’)が実行されてもよい。これは、以後、第2の安定剤と呼ばれる。第2の安定剤は第1の安定剤と同一であっても、又は異なってもよい。第2の安定剤は、好ましくは第1の安定剤と同一である。したがって、第2の安定剤は、特にホスフェート、ピロホスフェート、リン酸及びその組合せから選択され得る。上流の金属不純物の量及び安定剤の性質次第で、当業者は、目標の安定化効果を得るためにどの程度の量が使用されるかを知っている。例えば、過酸化水素水溶液に添加される第2の安定剤の量は、過酸化水素溶液1kgあたり0.1~1mgの範囲であり得る。処理を実行するために、いずれの適切な技術手段も使用され得る。安定剤は、過酸化水素水の流れに、手動で、又は自動的に添加されてよい。これに関連して、薬品注入ポンプシステムが使用されてもよい。
【0028】
得られた過酸化水素水溶液は、安定化された過酸化水素溶液である。言い換えると、それはその中に特定の量の安定剤を含有する。添加された安定剤がホスフェートをベースとする安定剤である場合、過酸化水素水溶液は、特に精製プロセスのこの段階において0.1mg/kgのPO4
3-として表される最小リン含有量を示し得る。ホスフェートをベースとする安定剤は、特におそらく上流の逆浸透系によって放出される錯体金属不純物、特に鉄に適切である。しかしながら、本発明の精製プロセス終了時に供給される最終過酸化水素水溶液は、電子工学用途で使用可能となるために、不純物及び安定剤を実質的に含んではならない。
【0029】
したがって、本発明のプロセスは、得られた過酸化水素溶液が少なくとも1つの吸着樹脂によって処理される処理ステップ(c)を含む。
【0030】
可能な限り高い表面を有する吸着樹脂を使用することが推奨される。この目的は、接触装置を出る過酸化水素溶液が、吸着された汚染物質をもはや含有しないように、過酸化水素溶液と接触している樹脂の表面上で過酸化水素溶液中に存在する汚染物質を吸着することである。適切な装置は、例えば、吸着樹脂粒子の層で装填されたカラムであることが可能である。吸着樹脂は、例えば、スチレンジビニルベンゼンコポリマーをベースとする、いずれのポリマー製品からも選択され得る。Dupont社によって販売される吸着樹脂AMBERLITE(登録商標)XAD4は、良好な結果を与える。過酸化水素溶液が吸着樹脂と接触する時間は、一般に少なくとも10分、特に少なくとも40分である。多くの場合、最大60分、特に最大50分である。吸着樹脂との接触は、通常、0~25℃、特に5~20℃の温度で実行され、約15℃の温度が都合がよい。
【0031】
本発明のプロセスは、得られた過酸化水素溶液が少なくとも1つのイオン交換樹脂で処理される、さらなる処理ステップ(d)を含み得る。
【0032】
本発明のプロセスにおいてイオン交換樹脂が使用される場合、過酸化水素溶液中に存在するイオン不純物は、樹脂中に存在するH+又はHCO3
-などの対イオンによって置換される。適切な装置は、例えば、イオン交換樹脂粒子の層が装填されたカラム、又は膜を形成するためにマトリックス内に保持された同一樹脂であることが可能である。様々な種類からイオン交換樹脂を選択することができる。除去される不純物次第で、それはカチオン交換樹脂、アニオン交換樹脂又はその組合せから選択され得る。
【0033】
カチオン交換樹脂は、カチオンを可逆的に結合することができるいずれのポリマー製品からも選択することができる。例えばカチオン交換樹脂は、ポリスチレン及びジビニルベンゼンコポリマーをベースとすることができる。ナトリウム、カルシウムなどのカチオン成分の最適除去のために、硫酸基を有するポリスチレン及びジビニルベンゼンコポリマー型のカチオン交換樹脂が特に適切である。Dupont社によって販売されるカチオン交換樹脂AmberSep(商標)200は、良好な結果を与える。
【0034】
過酸化水素溶液がカチオン交換樹脂と接触する時間は、10~60分、特に15~30分の範囲であり得る。イオン交換樹脂との接触は、通常、0~25℃、特に0~15℃の温度で実行され、約5℃の温度が都合がよい。
【0035】
アニオン交換樹脂は、特にアニオンを可逆的に結合することができるいずれのポリマー製品からも選択することができる。それは、例えば、ポリスチレン及びジビニルベンゼンコポリマーをベースとすることができる。好ましくは、四級アンモニウムカチオン基を含むアニオン樹脂が使用され得る。アニオン性TOC成分の最適除去のために、重炭酸塩型のアニオン交換樹脂が安全性理由のため特に適切である。
【0036】
過酸化水素溶液がアニオン交換樹脂と接触する時間は、1~60分、特に3~20分の範囲であり得る。アニオン性樹脂との接触は、通常、0~25℃、特に0~10℃の温度で実行され、約5℃の温度が都合がよい。
【0037】
一実施形態によると、任意選択的なステップ(d)は、少なくとも1つのカチオン交換樹脂、それに続く少なくとも1つのアニオン交換樹脂、それに続く少なくとも1つのカチオン交換樹脂による処理からなる。鉄の一部及びほとんどのカチオン不純物を捕獲するために第1のカチオン交換樹脂が適切であるため、この配列は有利である。アニオン樹脂はカチオン不純物を浸出させ得るため、その後の第2のカチオン樹脂の存在は有利である。
【0038】
別の実施形態において、第1の及び/又は少なくとも1つの第2の逆浸透系、並びに/或いは吸着樹脂及び/又は任意選択的にイオン交換樹脂は窒素含有ポリマーを含む。特に、アニオン交換樹脂は、窒素含有ポリマーを含み得る。その場合、本発明によるプロセスは、樹脂の分解及び最終製品中での好ましくない窒素含有、並びに安全面での懸念を予防するために特に効率的である。
【0039】
本発明のプロセスは、少なくとも1つの希釈ステップを含有することも可能である。そのようなステップにおいて、過酸化水素の濃度を低下させるために、過酸化水素水溶液に水、好ましくは超高純度の水が添加される。通常、過酸化水素の濃度は、30~40重量%の値まで、例えば約31重量%の値まで低下される。希釈ステップはプロセスのいずれの段階においても実行されてよいが、特にステップ(b)又は(b’)又は(b’’)、好ましくはステップ(c)を実行する前に実行され得る。
【0040】
本発明のプロセスは、非常に高純度の過酸化水素水溶液の製造を可能にする。したがって、本発明は、本発明によるプロセスによって得られるか、又は得ることができ、特に1mg/kg未満の全有機炭素(TOC)、0.05mg/kg未満の全窒素(TN)を含有し、且つ好ましくは0.000001mg/kg未満の鉄を含有する過酸化水素水溶液に関する。TOCは、非分散赤外線分光学による検出と組み合わせた有機種の触媒酸化によって測定される。全窒素(TN)は、例えば、Shimadzu TOC-L TOC/TN分析器によって測定することができる。鉄は、誘導結合プラズマ質量分光測定法(ICP-MS)によって測定される。
【0041】
有利には、本発明の過酸化水素水溶液は、安定剤を実質的に含まない。特に、本発明の過酸化水素水溶液は、有利には、イオンクロマトグラフィーによって測定可能である場合、0.001mg/kg未満のPO4
3-として表されるリン含有量を示す。
【0042】
好ましい態様において、本発明の過酸化水素水溶液は、0.05mg/kg未満のTNとして表される窒素含有量を示す。これはShimadzu TOC-L TOC/TN又は類似のものによって測定可能である。
【0043】
本発明の過酸化水素水溶液は、一般に1mg/kg未満の105℃における乾燥残渣を有する。乾燥残渣は、揮発性成分の完全蒸発の後に重量を測定することによって決定することができる。
【0044】
過酸化水素水溶液は、特に、例えば31重量%のH2O2濃度に関して、以下の不純物プロファイルを示し得る:
痕跡金属:
A1 <0.000001mg/kg
Cr <0.000001mg/kg
Fe <0.000001mg/kg
Ni <0.000001mg/kg
Cl <0.002mg/kg
SO4
2-<0.002mg/kg
PO4
3-としてのP <0.001mg/kg
TOC:<1mg/kg
乾燥残渣:<1mg/kg
TN:<0.05mg/kg
【0045】
最後に、本発明は、マイクロエレクトロニクス部品及び半導体の製造における、本発明の過酸化水素水溶液の使用に関する。また、本発明の過酸化水素水溶液の使用を含むマイクロエレクトロニクス部品又は半導体の製造のためのプロセスにも関する。典型的に、過酸化水素は半導体チップ及びプリント回路基板の製作において使用可能である。半導体製造において、それは、鉱酸などの他の化学物質がしばしば適用されるクリーニング及びエッチングステップのために頻繁に使用される。
【0046】
参照により本明細書に組み込まれるいずれの特許、特許出願及び刊行物の開示も、それが用語を不明確にし得る程度まで本出願の記載と矛盾する場合、本記載が優先するものとする。
【0047】
本発明を実施例においてさらに詳しく説明するが、本発明を限定することは意図されていない。
【実施例】
【0048】
実施例1-H2O2の精製
上記の説明において記載された方法を使用して、材料の分析を実行した。
【0049】
膜精製
60重量%の濃度を有する過酸化水素の水溶液をポリアミド逆浸透膜に通した。28bargの供給圧力及び5℃の温度において。供給物のTOC値は110mg/kgであった。(0.005mg/kg未満のTOCレベルを有する)超高純度水を使用して、得られた透過物を31%の濃度まで希釈した。安定剤SAPP(0.5mg/kg)を添加し、そして溶液を均質化し、分析した。
吸着樹脂
上記で製造された安定化された過酸化水素水溶液を、20℃の温度において2.5BV/時間の流速でAMBERLITE(登録商標)XAD4吸着樹脂のカラムに通した。
イオン交換
得られた過酸化水素水溶液を、10BV/時間の流速でカチオン交換樹脂、及び20℃の温度において重炭酸塩型のアニオン交換樹脂に連続して通した。得られた過酸化水素溶液は、0.6mg/kgのTOCレベル、検出限界未満のPO4濃度及び0.05mg/kg未満のTN濃度を有した。
【0050】
反例1:
膜精製
60重量%の濃度を有する過酸化水素の水溶液をポリアミド逆浸透膜に通した。28bargの供給圧力及び5℃の温度において。供給物のTC値は110mg/kgであった。(0.005mg/kg未満のTOCレベルを有する)超高純度水を使用して、得られた透過物を31%の濃度まで希釈した。
吸着樹脂
上記で製造された過酸化水素水溶液を、20℃の温度において2.5BV/時間の流速でAMBERLITE(登録商標)XAD4吸着樹脂のカラムに通した。
イオン交換
得られた過酸化水素水溶液を、10BV/時間の流速でカチオン交換樹脂、及び20℃の温度において重炭酸塩型のアニオン交換樹脂に連続して通した。得られた過酸化水素溶液は、0.6mg/kgのTOCレベル、検出限界未満のPO4濃度及び0.065mg/kgのTN濃度を有した。
【0051】
実施例2
H2O2の精製は、実施例1と実質的に類似の方法で実行され、そして膜精製後の鉄含有量は0.001mg/kg未満であることが決定され、そして吸着ステップ後の鉄含有量は0.000005mg/kg未満であった。イオン交換ステップ後の鉄含有量は0.000001mg/kg未満であった。イオン交換ステップ後のPO4、TN及びTOC値は実施例1と類似であった。