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特許7419466冷凍機油の耐発火性を向上させる方法及び耐発火性が向上された冷凍機油
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-12
(45)【発行日】2024-01-22
(54)【発明の名称】冷凍機油の耐発火性を向上させる方法及び耐発火性が向上された冷凍機油
(51)【国際特許分類】
   C10M 169/04 20060101AFI20240115BHJP
   C10M 107/34 20060101ALN20240115BHJP
   C10M 133/04 20060101ALN20240115BHJP
   C10N 20/04 20060101ALN20240115BHJP
   C10N 30/00 20060101ALN20240115BHJP
   C10N 40/30 20060101ALN20240115BHJP
【FI】
C10M169/04
C10M107/34
C10M133/04
C10N20:04
C10N30:00 Z
C10N40:30
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2022146957
(22)【出願日】2022-09-15
(62)【分割の表示】P 2018228224の分割
【原出願日】2018-12-05
(65)【公開番号】P2022168293
(43)【公開日】2022-11-04
【審査請求日】2022-10-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000004444
【氏名又は名称】ENEOS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100169454
【弁理士】
【氏名又は名称】平野 裕之
(74)【代理人】
【識別番号】100185591
【弁理士】
【氏名又は名称】中塚 岳
(72)【発明者】
【氏名】設楽 裕治
(72)【発明者】
【氏名】庄野 洋平
【審査官】中野 孝一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/158616(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/050137(WO,A1)
【文献】特開2011-046885(JP,A)
【文献】特開2011-046881(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M101/00-177/00
C09K5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エーテル系化合物を含有する基油、酸捕捉剤及び摩耗防止剤を含む油類組成物に、アミン系化合物を添加して冷凍機油を得る工程を備える、冷凍機油の耐発火性を向上させる方法であって、
前記エーテル系化合物がポリアルキレングリコール系化合物であり、且つ前記ポリアルキレングリコール系化合物の重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnとの比Mw/Mnが1.08以上1.15以下である、方法。
【請求項2】
前記冷凍機油が、前記アミン系化合物以外の酸化防止剤、極圧剤、油性剤、消泡剤、金属不活性化剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤、清浄分散剤からなる群より選ばれる少なくとも1種の添加剤を更に含む、請求項に記載の方法。
【請求項3】
前記冷凍機油が微燃性冷媒と共に用いられる、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
エーテル系化合物を含有する基油と、酸捕捉剤と、摩耗防止剤と、アミン系化合物と、を含む、耐発火性が向上された冷凍機油であって、
前記エーテル系化合物がポリアルキレングリコール系化合物であり、且つ前記ポリアルキレングリコール系化合物の重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnとの比Mw/Mnが1.08以上1.15以下である、冷凍機油。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷凍機油の耐発火性を向上させる方法及び耐発火性が向上された冷凍機油に関する。
【背景技術】
【0002】
冷凍機油は、冷蔵庫、冷凍空調装置等の冷凍機の冷媒圧縮機用潤滑油として用いられており、冷凍機の冷媒循環サイクル内において、高温から低温まで幅広い温度領域で使用される。そのため、冷凍機油は、潤滑油としての基本性能を備えるほか、冷媒との相溶性や低温特性等が要求特性の一つとなっている。また近年使用されている低GWP冷媒の中には、微燃性冷媒として分類される冷媒がある。かかる微燃性冷媒が用いられる冷凍機においては、耐引火性や耐発火性の観点からの難燃化による安全性の確保が重要となっている。
【0003】
低温特性と難燃性とを両立可能な冷凍機油として、特許文献1には、特定のエステル系基油を含有し、微燃性冷媒と共に用いられる冷凍機油が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2016/072284号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、耐発火性の観点から安全性を高めた冷凍機油を得るための方法及び耐発火性が向上された冷凍機油を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、エーテル系化合物を含有する基油を含む油類又は油類組成物に、アミン系化合物を添加して冷凍機油を得る工程を備える、冷凍機油の耐発火性を向上させる方法を提供する。
【0007】
エーテル系化合物は、ポリアルキレングリコール系化合物及びポリビニルエーテル系化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種であってよく、エーテル系化合物がポリアルキレングリコール系化合物の場合、その重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnとの比Mw/Mnは1.15以下であってよく、エーテル系化合物がポリビニルエーテル系化合物の場合、その重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnとの比Mw/Mnは1.25以下であってよい。
【0008】
冷凍機油は、摩耗防止剤、酸捕捉剤、上記アミン系化合物以外の酸化防止剤、極圧剤、油性剤、消泡剤、金属不活性化剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤、清浄分散剤からなる群より選ばれる少なくとも1種の添加剤を更に含んでいてもよい。
【0009】
冷凍機油は、微燃性冷媒と共に用いられてもよい。
【0010】
また本発明は、エーテル系化合物を含有する基油と、アミン系化合物と、を含む、耐発火性が向上された冷凍機油を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、耐発火性の観点から安全性を高めた冷凍機油を得るための方法及び耐発火性が向上された冷凍機油を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0013】
本発明の実施形態に係る、冷凍機油の耐発火性を向上させる方法は、エーテル系化合物を含有する基油を含む油類又は油類組成物に、アミン系化合物を添加して冷凍機油を得る工程を備える。
【0014】
エーテル系化合物としては、ポリアルキレングリコール系化合物及びポリビニルエーテル系化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0015】
ポリアルキレングリコール系化合物は、例えば、下記一般式(A)で表される。
-(OR)n-OR (A)
[式(A)中、R及びRは、互いに同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素原子、炭素数1~5のアルキル基又は炭素数2~5のアシル基を示し、Rは、炭素数2~4のアルキレン基を示し、nは6~80の整数を示す。]
【0016】
式(A)中、R及びRがそれぞれアルキル基又はアシル基を表す場合、それらは直鎖状のものであっても分枝状のものであってもよい。アルキル基としては、具体的には、メチル基、エチル基、直鎖状又は分枝状のプロピル基、直鎖状又は分枝状のブチル基、直鎖状又は分枝状のペンチル基等が挙げられる。アシル基としては、具体的には、アセチル基、直鎖状又は分枝状のプロパノイル基、直鎖状又は分枝状のブタノイル基、直鎖状又は分枝状のペンタノイル基等が挙げられる。これらのアルキル基及びアシル基の中でも、冷媒との相溶性の点から、メチル基、エチル基、直鎖状又は分枝状のプロピル基、直鎖状又は分枝状のブチル基、アセチル基、直鎖状又は分枝状のプロパノイル基及び直鎖状又は分枝状のブタノイル基からなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、メチル基、エチル基、及びアセチル基からなる群より選ばれる少なくとも1種であることがより好ましく、メチル基又はアセチル基が更に好ましい。なお、アルキル基及びアシル基の炭素数が5以下であると、冷媒に対して相溶性を示す組成範囲が広くなり、冷媒圧縮機の潤滑不良や蒸発器における熱交換の阻害を抑制できる。
【0017】
上記一般式(A)中、Rは、炭素数2~4のアルキレン基を表す。このようなアルキレン基としては、具体的には、エチレン基(-CHCH-)、プロピレン基(-CH(CH)CH-)、トリメチレン基(-CHCHCH-)、ブチレン基(-CH(CHCH)CH-)、テトラメチレン基(-CHCHCHCH-)等が挙げられる。これらのアルキレン基の中でも、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、テトラメチレン基が好ましい。また、Rで表されるアルキレン基のうち、炭素数2のアルキレン基(すなわちエチレン基)の占める割合は、好ましくは40モル%以下、より好ましくは30モル%以下、更に好ましくは25モル%以下、特に好ましくは20モル%以下である。炭素数2のアルキレン基(エチレン基)の割合が40モル%以下である場合には、冷媒との相溶性に優れるため好ましい。
【0018】
ポリアルキレングリコール系化合物の数平均分子量Mnは特に制限されないが、後述するアミン系化合物の添加による自然発火点の上昇をより効果的に発揮する観点から、通常500以上、4000以下であり、好ましくは600以上、より好ましくは1000以上であり、好ましくは3000以下、より好ましくは2500以下、更に好ましくは2000以下であり、特に好ましくは1500以下である。
【0019】
ポリアルキレングリコール系化合物の重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnとの比Mw/Mnは特に制限されないが、後述するアミン系化合物の添加による自然発火点の上昇をより効果的に発揮する観点から、通常1.0以上、3.0以下、好ましくは1.05以上、より好ましくは1.08以上であり、好ましくは2.5以下、より好ましくは2.0以下、より好ましくは1.5以下、より好ましくは1.4以下、更に好ましくは1.3以下、特に好ましくは1.15以下である。ただし、本発明に係るポリアルキレングリコール系化合物においては、Mw/Mnが1.15超、3.0以下であっても、本発明のアミン系化合物を配合することで、高い自然発火点の冷凍機油を得ることができる。
【0020】
なお、本実施形態に係るポリアルキレングリコール系化合物の重量平均分子量Mwは、Mn及びMw/Mnが上記の条件を満たすように適宜選定されてもよい。
【0021】
本実施形態に係るポリアルキレングリコール系化合物のMw、Mn、及びMw/Mnとは、GPC分析により得られるMw、Mn及びMw/Mn(ポリプロピレングリコール(標準試料)換算値)を意味する。Mw、Mn及びMw/Mnは、例えば以下のように測定することができる。
【0022】
溶剤としてクロロホルムを使用し、希釈して試料濃度を2質量%とした溶液を調製し、GPC装置(Waters社製、Alliance2695)を用いて分析を行う。溶剤の流速を1ml/分に設定し、分析可能分子量100~10000のカラムを使用し、屈折率を検出器として分析を実施する。なお、分子量が明確なポリプロピレングリコール標準を用いてカラム保持時間と分子量との関係を求め、検量線を別途作成したうえで、得られた保持時間から分子量を決定する。
【0023】
本実施形態に係るポリアルキレングリコール系化合物の引火点は、好ましくは220℃以上、より好ましくは230℃以上、更に好ましくは240℃以上である。なお、本発明における引火点は、JIS K2265-4「引火点の求め方-第4部:クリーブランド開放法」に準拠して測定した引火点を意味する。
【0024】
本実施形態に係るポリアルキレングリコール系化合物の自然発火点は、高いほど安全性を確保しやすいが、後述するアミン系化合物の添加による自然発火点の上昇をより効果的に発揮する観点から、好ましくは450℃以下、より好ましくは420℃以下、更に好ましくは400℃以下である。また、ポリアルキレングリコール系化合物の自然発火点は、好ましくは320℃以上、より好ましくは340℃以上、更に好ましくは350℃以上である。なお、本発明における自然発火点は、ASTM E659-1978に準拠した方法で測定した値を意味する。
【0025】
本実施形態に係るポリアルキレングリコール系化合物の100℃における動粘度は、好ましくは5~20mm/s、より好ましくは6~18mm/s、さらに好ましくは7~16mm/s、特に好ましくは8~15mm/s、最も好ましくは10~15mm/sである。100℃における動粘度が上記下限値以上であると、冷媒共存下での潤滑性が向上し、一方、上記上限値以下であると、冷媒に対して相溶性を示す組成範囲が広くなり、冷媒圧縮機の潤滑不良や蒸発器における熱交換の阻害を抑制できる。
【0026】
本実施形態に係るポリアルキレングリコール系化合物の40℃における動粘度は、10~200mm/sであることが好ましく、20~150mm/sであることがより好ましい。40℃における動粘度が10mm/s以上であると潤滑性や圧縮機の密閉性が向上するという傾向にあり、一方、200mm/s以下であると、低温条件下で冷媒に対して相溶性を示す組成範囲が広くなり、冷媒圧縮機の潤滑不良や蒸発器における熱交換の阻害を抑制できる。なお、本発明における動粘度は、JIS K2283-1993に規定される動粘度を意味する。
【0027】
本実施形態に係るポリアルキレングリコール系化合物の流動点は、-10℃以下であることが好ましく、-20~-50℃であることがより好ましい。流動点が-10℃以下のポリアルキレングリコール系化合物を用いると、低温時に冷媒循環システム内で冷凍機油が固化するのを抑制できる傾向にある。なお、本発明における流動点は、JIS K2269に規定される流動点を意味する。
【0028】
本実施形態に係るポリアルキレングリコール系化合物の水酸基価は特に限定されないが、好ましくは100mgKOH/g以下、より好ましくは50mgKOH/g以下、さらに好ましくは30mgKOH/g以下、最も好ましくは10mgKOH/g以下であり、その下限に特に制限はないが、1mgKOH/g未満であってよく、また、1mgKOH/g以上、であってよく、5mgKOH/g以上であってよい。
【0029】
本実施形態に係るポリアルキレングリコール系化合物は、公知の方法を用いて合成することができる(例えば、「アルキレンオキシド重合体」、柴田満太他、海文堂、平成2年11月20日発行、を参照)。例えば、アルコール(ROH;Rは上記一般式(A)中のRと同一の定義内容を表す)に所定のアルキレンオキサイドの1種以上を付加重合させ、更に末端水酸基をエーテル化若しくはエステル化することによって、上記一般式(A)で表されるポリアルキレングリコール系化合物が得られる。なお、上記の製造工程において異なる2種以上のアルキレンオキサイドを使用する場合、得られるポリアルキレングリコール系化合物は、ランダム共重合体、ブロック共重合体のいずれであってもよいが、より酸化安定性に優れる傾向にある点からはブロック共重合体であることが好ましく、より低温流動性に優れる傾向にある点からはランダム共重合体であること好ましい。
【0030】
また、本実施形態に係るポリアルキレングリコール系化合物の製造工程において、プロピレンオキサイド等のアルキレンオキサイドが副反応を起こして分子中にアリル基等の不飽和基が形成される場合がある。ポリアルキレングリコール分子中に不飽和基が形成されると、ポリアルキレングリコール系化合物自体の熱安定性の低下、重合物の生成に起因するスラッジの生成、或いは抗酸化性(酸化防止性)の低下による過酸化物の生成といった現象が起こりやすくなる。特に、過酸化物が生成すると、分解してカルボニル基を有する化合物を生成し、更にカルボニル基を有する化合物がスラッジを生成してキャピラリー詰まりが起こりやすくなる。
【0031】
したがって、本実施形態に係るポリアルキレングリコール系化合物としては、不飽和基等に由来する不飽和度が低いものが好ましく、具体的には、不飽和度は、0.04meq/g以下であることが好ましく、0.03meq/g以下であることがより好ましく、0.02meq/g以下であることが更に好ましい。また、過酸化物価は、10.0meq/kg以下であることが好ましく、5.0meq/g以下であることがより好ましく、1.0meq/g以下であることが更に好ましい。さらに、カルボニル価は、100質量ppm以下であることが好ましく、50質量ppm以下であることがより好ましく、20質量ppm以下であることが更に好ましい。
【0032】
なお、本発明における不飽和度、過酸化物価及びカルボニル価とは、それぞれ日本油化学会制定の基準油脂分析試験法により測定した値をいう。すなわち、本発明における不飽和度とは、試料にウィス液(ICI-酢酸溶液)を反応させ、暗所に放置し、その後、過剰のICIをヨウ素に還元し、ヨウ素分をチオ硫酸ナトリウムで滴定してヨウ素価を算出し、このヨウ素価をビニル当量に換算した値(meq/g)をいう。また、本発明における過酸化物価とは、試料にヨウ化カリウムを加え、生じた遊離のヨウ素をチオ硫酸ナトリウムで滴定し、この遊離のヨウ素を試料1kgに対するミリ当量数に換算した値(meq/kg)をいう。また、本発明におけるカルボニル価とは、試料に2,4-ジニトロフェニルヒドラジンを作用させ、発色性アルキノイドイオンを生ぜしめ、この試料の480nmにおける吸光度を測定し、予めシンナムアルデヒドを標準物質として求めた検量線を基に、カルボニル量に換算した値(質量ppm)をいう。
【0033】
本実施形態において、不飽和度、過酸化物価及びカルボニル価の低いポリアルキレングリコール系化合物を得るためには、アルキレンオキサイドを反応させる際の反応温度を120℃以下とすることが好ましく、110℃以下とすることがより好ましい。また、製造に際してアルカリ触媒を使用することがあれば、これを除去するために無機系の吸着剤(例えば、活性炭、活性白土、ベントナイト、ドロマイト、アルミノシリケート等)を使用すると、不飽和度を減ずることができる。また、当該ポリアルキレングリコール系化合物を製造又は使用する際に酸素との接触を極力避け、酸化防止剤を添加することによっても過酸化物価又はカルボニル価の上昇を防ぐことができる。
【0034】
ポリビニルエーテル系化合物は、例えば、下記一般式(1)で表される。
【0035】
【化1】

[式(1)中、R、R及びRは、互いに同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素原子又は炭化水素基を示し、Rは二価の炭化水素基又はエーテル結合酸素含有炭化水素基を示し、Rは炭化水素基を示し、mは0以上の整数を示す。mが2以上である場合には、複数のRは互いに同一でも異なっていてもよい。]
【0036】
なお、式(1)で表されるポリビニルエーテルにおけるR~R及びmは、それぞれポリビニルエーテルを構成する構造単位ごとに同一であっても異なっていてもよい。
【0037】
一般式(1)におけるR、R及びRで示される炭化水素基の炭素数は、好ましくは1~8、より好ましくは2~7、更に好ましくは3~6である。また、一般式(1)におけるR、R及びRは、少なくとも1つが水素原子であることが好ましく、全てが水素原子であることがより好ましい。
【0038】
一般式(1)におけるRで示される二価の炭化水素基及びエーテル結合酸素含有炭化水素基の炭素数は、好ましくは1~10、より好ましくは2~8、更に好ましくは3~6である。また、一般式(1)におけるRで示される二価のエーテル結合酸素含有炭化水素基は、例えばエーテル結合を形成する酸素を側鎖に有する炭化水素基であってもよい。
【0039】
一般式(1)におけるRは、炭素数1~20の炭化水素基であることが好ましい。この炭化水素基としては、アルキル基、シクロアルキル基、フェニル基、アリール基、アリールアルキル基などが挙げられる。これらの中でも、アルキル基が好ましく、炭素数1~5のアルキル基がより好ましい。
【0040】
一般式(1)におけるmは、0~20であることが好ましく、1~18であることがより好ましく、2~16であることが更に好ましい。また、ポリビニルエーテルを構成する全構造単位におけるmの平均値が、0~10となることが好ましい。
【0041】
本実施形態に係るポリビニルエーテル系化合物は、一般式(1)で表される構造単位から選ばれる1種で構成される単独重合体であってもよく、一般式(1)で表される構造単位から選ばれる2種以上で構成される共重合体であってもよく、一般式(1)で表される構造単位と他の構造単位とで構成される共重合体であってもよい。ポリビニルエーテルを共重合体とすることにより、冷凍機油の冷媒との相溶性を満足しつつ、潤滑性、絶縁性、吸湿性等を一層向上させることができる。この際、原料となるモノマーの種類、開始剤の種類、共重合体における構造単位の比率等を適宜選択することにより、上記の冷凍機油の諸特性を所望のものとすることが可能となる。したがって、冷凍システム又は空調システムにおけるコンプレッサーの型式、潤滑部の材質、冷凍能力、冷媒の種類等により異なる潤滑性、相溶性等の要求に応じた冷凍機油を自在に得ることができる。共重合体は、ブロック共重合体又はランダム共重合体のいずれであってもよい。
【0042】
本実施形態に係るポリビニルエーテル系化合物が共重合体である場合、当該共重合体は、上記一般式(1)で表され且つRが炭素数1~3のアルキル基である構造単位(1-1)と、上記一般式(1)で表され且つRが炭素数3~20、好ましくは3~10、更に好ましくは3~8のアルキル基である構造単位(1-2)と、を含むことが好ましい。構造単位(1-1)におけるRとしてはエチル基が特に好ましく、また、構造単位(1-2)におけるRとしてはイソブチル基が特に好ましい。さらに、本実施形態に係るポリビニルエーテル系化合物が上記の構造単位(1-1)及び(1-2)を含む共重合体である場合、構造単位(1-1)と構造単位(1-2)とのモル比は、5:95~95:5であることが好ましく、20:80~90:10であることがより好ましく、70:30~90:10であることが更に好ましい。当該モル比が上記範囲内であると、冷媒との相溶性をより向上させることができ、また、吸湿性を低くすることができる傾向にある。
【0043】
本実施形態に係るポリビニルエーテル系化合物は、上記一般式(1)で表される構造単位のみで構成されるものであってもよいが、下記一般式(2)で表される構造単位を更に含む共重合体であってもよい。この場合、共重合体はブロック共重合体又はランダム共重合体のいずれであってもよい。
【0044】
【化2】

[式中、R~Rは互いに同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素原子又は炭素数1~20の炭化水素基を示す。]
【0045】
本実施形態に係るポリビニルエーテル系化合物は、一般式(1)に対応するビニルエーテル系モノマーの重合、又は、一般式(1)に対応するビニルエーテル系モノマーと一般式(2)に対応するオレフィン性二重結合を有する炭化水素モノマーとの共重合により製造することができる。一般式(1)で表される構造単位に対応するビニルエーテル系モノマーとしては、下記一般式(3)で表されるモノマーが好適である。
【0046】
【化3】

[式中、R、R、R、R、R及びmは、それぞれ一般式(1)中のR、R、R、R、R及びmと同一の定義内容を示す。]
【0047】
本実施形態に係るポリビニルエーテル系化合物としては、以下の末端構造(A)又は(B)を有するものが好適である。
【0048】
(A)一方の末端が、一般式(4)又は(5)で表され、かつ他方の末端が一般式(6)又は(7)で表される構造を有するもの。
【0049】
【化4】

[式中、R11、R21及びR31は互いに同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素原子又は炭素数1~8の炭化水素基を示し、R41は炭素数1~10の二価の炭化水素基又は二価のエーテル結合酸素含有炭化水素基を示し、R51は炭素数1~20の炭化水素基を示し、mは一般式(1)中のmと同一の定義内容を示す。mが2以上の場合には、複数のR41は互いに同一でも異なっていてもよい。]
【0050】
【化5】

[式中、R61、R71、R81及びR91は互いに同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素原子又は炭素数1~20の炭化水素基を示す。]
【0051】
【化6】

[式中、R12、R22及びR32は互いに同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素原子又は炭素数1~8の炭化水素基を示し、R42は炭素数1~10の二価の炭化水素基又は二価のエーテル結合酸素含有炭化水素基を示し、R52は炭素数1~20の炭化水素基を示し、mは一般式(1)中のmと同一の定義内容を示す。mが2以上の場合には、複数のR41は同一でも異なっていてもよい。]
【0052】
【化7】

[式中、R62、R72、R82及びR92は互いに同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素原子又は炭素数1~20の炭化水素基を示す。]
【0053】
(B)一方の末端が上記一般式(4)又は(5)で表され、かつ他方の末端が下記一般式(8)で表される構造を有するもの。
【0054】
【化8】

[式中、R13、R23及びR33は互いに同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素原子又は炭素数1~8の炭化水素基を示す。]
【0055】
このようなポリビニルエーテル系化合物の中で、以下に挙げる(a)、(b)、(c)、(d)及び(e)のものが本実施形態に係る冷凍機油の主成分として特に好適である。
【0056】
(a)一方の末端が一般式(4)又は(5)で表され、かつ他方の末端が一般式(6)又は(7)で表される構造を有し、一般式(1)におけるR、R及びRがいずれも水素原子、mが0~4の整数、Rが炭素数2~4の二価の炭化水素基、Rが炭素数1~20の炭化水素基であるもの。
【0057】
(b)一般式(1)で表される構造単位のみを有するものであって、一方の末端が一般式(4)で表され、かつ他方の末端が一般式(6)で表される構造を有し、一般式(1)におけるR、R及びRがいずれも水素原子、mが0~4の整数、Rが炭素数2~4の二価の炭化水素基、Rが炭素数1~20の炭化水素基であるもの。
【0058】
(c)一方の末端が一般式(4)又は(5)で表され、かつ他方の末端が一般式(8)で表される構造を有し、一般式(1)におけるR、R及びRがいずれも水素原子、mが0~4の整数、Rが炭素数2~4の二価の炭化水素基、Rが炭素数1~20の炭化水素基であるもの。
【0059】
(d)一般式(1)で表される構造単位のみを有するものであって、一方の末端が一般式(5)で表され、かつ他方の末端が一般式(8)で表される構造を有し、一般式(1)におけるR、R及びRがいずれも水素原子、mが0~4の整数、Rが炭素数2~4の二価の炭化水素基、Rが炭素数1~20の炭化水素基であるもの。
【0060】
(e)上記(a)、(b)、(c)及び(d)のいずれかであって、一般式(1)におけるRが炭素数1~3の炭化水素基である構造単位と該Rが炭素数3~20の炭化水素基である構造単位とを有するもの。
【0061】
また、本実施形態にかかるポリビニルエーテル系化合物の数平均分子量Mnは、好ましくは500以上、より好ましくは600以上、さらに好ましくは1000以上であり、好ましくは4000以下、より好ましくは3000以下、さらに好ましくは2000以下、特に好ましくは1500以下である。ポリビニルエーテル系化合物の数平均分子量が上記の下限値以上である場合には、潤滑性が向上する傾向にあり、特に微燃性ハイドロフルオロカーボン冷媒共存下での潤滑性が向上する傾向にある。一方、ポリビニルエーテル系化合物の数平均分子量が上記の上限値以下である場合には、冷媒に対する相溶性が向上する傾向にあり、特に低温条件下で微燃性ハイドロフルオロカーボン冷媒に対して相溶性を示す組成範囲が広くなるとともに、冷媒圧縮機の潤滑不良や蒸発器における熱交換の阻害を抑制できる傾向にある。
【0062】
また、本実施形態にかかるポリビニルエーテル系化合物においては、重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnとの比Mw/Mnに特に制限はないが、通常1.0以上、3.0以下、好ましくは1.1以上、より好ましくは1.15以上であり、好ましくは2.5以下であり、より好ましくは2.0以下、より好ましくは1.5以下、より好ましくは1.35以下、更に好ましくは1.3以下、特に好ましくは1.25以下である。ただし、本発明に係るポリビニルエーテル系化合物においては、Mw/Mnが1.25超、3.0以下であっても、本発明のアミン系化合物を配合することで、高い自然発火点の冷凍機油を得ることができる。
【0063】
本実施形態に係るポリビニルエーテル系化合物のMw、Mn及びMw/Mnとは、GPC分析により得られるMw、Mn及びMw/Mn(ポリスチレン(標準試料)換算値)を意味する。Mw、Mn及びMw/Mnは、例えば以下のように測定することができる。
【0064】
溶剤としてクロロホルムを使用し、希釈して試料濃度を2質量%とした溶液を調製し、GPC装置(Waters社製、Alliance2695)を用いて分析を行う。溶剤の流速を1ml/分に設定し、分析可能分子量100~10000のカラムを使用し、屈折率を検出器として分析を実施する。なお、分子量が明確なポリスチレン標準を用いてカラム保持時間と分子量との関係を求め、検量線を別途作成したうえで、得られた保持時間から分子量を決定する。
【0065】
なお、本実施形態に係るポリビニルエーテル系化合物の重量平均分子量Mwは、Mn及びMw/Mnが上記の条件を満たすように適宜選定されてもよい。
【0066】
本実施形態に係るポリビニルエーテル系化合物の引火点は、好ましくは195℃以上、より好ましくは200℃以上、更に好ましくは205℃以上である。
【0067】
本実施形態に係るポリビニルエーテル系化合物の自然発火点は、高いほど安全性を確保しやすいが、後述するアミン系化合物の添加による自然発火点の上昇をより効果的に発揮する観点から、好ましくは450℃以下、より好ましくは420℃以下、更に好ましくは400℃以下である。また、ポリビニルエーテル系化合物の自然発火点は、好ましくは320℃以上、より好ましくは335℃以上、更に好ましくは340℃以上、特に好ましくは345℃以上である。
【0068】
本実施形態に係るポリビニルエーテル系化合物の100℃における動粘度は、好ましくは6.5~9.5mm/s、より好ましくは7.0~9.0mm/s、更に好ましくは7.5~8.5mm/sである。100℃における動粘度が上記下限値以上であると、冷媒共存下での潤滑性が向上する。一方、100℃における動粘度が上記上限値以下であると、冷媒に対して相溶性を示す組成範囲が広くなり、冷媒圧縮機の潤滑不良や蒸発器における熱交換の阻害を抑制できる。
【0069】
本実施形態に係るポリビニルエーテル系化合物の40℃における動粘度は、好ましくは50~80mm/s、より好ましくは55~75mm/s、更に好ましくは60~70mm/sである。40℃における動粘度が上記下限値以上であると、潤滑性や圧縮機の密閉性が向上するという傾向にある。一方、40℃における動粘度が上記上限値以下であると、低温条件下で冷媒に対して相溶性を示す組成範囲が広くなり、冷媒圧縮機の潤滑不良や蒸発器における熱交換の阻害を抑制できる。
【0070】
本実施形態に係るポリビニルエーテル系化合物の流動点は、-10℃以下であることが好ましく、-20~-50℃であることがより好ましい。流動点が-10℃以下のポリビニルエーテル系化合物を用いると、低温時に冷媒循環システム内で冷凍機油が固化するのを抑制できる傾向にある。
【0071】
本実施形態に係るポリビニルエーテル系化合物は、前記したモノマーをラジカル重合、カチオン重合、放射線重合等によって製造することができる。重合反応終了後、必要に応じて通常の分離・精製方法を施すことにより、目的とする一般式(1)で表される構造単位を有するポリビニルエーテル系化合物が得られる。
【0072】
本実施形態に係るポリビニルエーテル系化合物の製造工程において、副反応を起こして分子中にアリール基などの不飽和基が形成される場合があるが、ポリビニルエーテル自体の熱安定性の向上、重合物の生成によるスラッジの発生の抑制、抗酸化性(酸化防止性)の低下による過酸化物の生成の抑制といった観点から、本実施形態に係るポリビニルエーテル系化合物としては、不飽和基等に由来する不飽和度が低いものが好ましい。ポリビニルエーテル系化合物の不飽和度は、0.04meq/g以下であることが好ましく、0.03meq/g以下であることがより好ましく、0.02meq/g以下であることが更に好ましい。また、ポリビニルエーテル系化合物の過酸化物価は、10.0meq/kg以下であることが好ましく、5.0meq/kg以下であることがより好ましく、1.0meq/kgであることが更に好ましい。また、ポリビニルエーテル系化合物のカルボニル価は、100重量ppm以下であることが好ましく、50重量ppm以下であることがより好ましく、20重量ppm以下であることが更に好ましい。また、ポリビニルエーテル系化合物の水酸基価は、10mgKOH/g以下であることが好ましく、5mgKOH/g以下であることがより好ましく、3mgKOH/g以下であることが更に好ましい。
【0073】
本実施形態に係る油類又は油類組成物は、基油として上記エーテル系化合物を含有するものであるが、必要に応じて後述するエーテル系化合物以外の基油を含んでいてもよい。本実施形態に係るエーテル系化合物の含有量は、油類又は油類組成物全量を基準として、50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることがさらに好ましく、90質量%以上含有することが特に好ましい。上記エーテル系化合物の含有量が50質量%以上であると、後述するアミン系化合物の添加による冷凍機油の安全性をより高めることができる。
【0074】
本実施形態に係るエーテル系化合物以外の基油としては、鉱油、オレフィン重合体、ナフタレン化合物、アルキルベンゼン等の炭化水素系油、および、エステル系基油(モノエステル、ジエステル、ポリオールエステル等)、ポリグリコール、ケトン、ポリフェニルエーテル、シリコーン、ポリシロキサン、パーフルオロエーテル等の酸素を含有する合成油を用いることができる。酸素を含有する合成油としては、ポリオールエステルが好ましく用いられる。
【0075】
本実施形態に係る油類は、上述した基油を含むものであるが、冷凍機油の性能を更に高めるために、上述した基油の他に、必要に応じて後述するアミン系化合物以外の従来公知の潤滑油添加剤を含有し、油類組成物とすることができる。かかる添加剤としては、例えば、アミン系化合物以外の酸化防止剤、酸捕捉剤、摩耗防止剤、極圧剤、油性剤、消泡剤、金属不活性化剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤、清浄分散剤等が挙げられる。これらの添加剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0076】
摩耗防止剤としては、トリクレジルホスフェート、トリフェニルホスフェート等の正リン酸エステル類、亜リン酸エステル類、酸性リン酸エステル類及びそのアミン塩等のリン系摩耗防止剤、硫黄系摩耗防止剤及びリン-硫黄系摩耗防止剤から選ばれる少なくとも1種の摩耗防止剤が挙げられる。
【0077】
酸捕捉剤としては、グリシジルエステル類、グリシジルエーテル類、αオレフィンオキシド類、カルボジイミド類等から選ばれる少なくとも1種の酸捕捉剤が挙げられる。
【0078】
これらの添加剤の含有量は特に制限されないが、油類組成物全量基準で、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下である。
【0079】
本実施形態に係る油類又は油類組成物の自然発火点は、高いほど安全性を確保しやすいが、後述するアミン系化合物の添加による自然発火点の上昇をより効果的に発揮する観点から、好ましくは450℃以下、より好ましくは420℃以下、更に好ましくは400℃以下である。また、油類又は油類組成物の自然発火点は、好ましくは320℃以上、より好ましくは340℃以上、更に好ましくは350℃以上である。
【0080】
本実施形態に係る油類又は油類組成物に添加するアミン系化合物としては、以下の一般式(24)で示すフェニル-α-ナフチルアミン類、或いは一般式(25)で示すp,p’-ジアルキル化ジフェニルアミン等が挙げられる。
【0081】
【化9】
【0082】
【化10】
【0083】
一般式(24)において、R58は水素原子または炭素数1~16のアルキル基を示す。一般式(25)において、R59及びR60は、それぞれ個別に、炭素数1~16のアルキル基を示す。炭素数1~16のアルキル基としては、炭素数8~16の分枝アルキル基が好ましく、更に炭素数3又は4のオレフィンオリゴマーから誘導される炭素数8~16の分枝アルキル基がより好ましい。炭素数3又は4のオレフィンとしては、具体的には、プロピレン、1-ブテン、2-ブテン及びイソブチレンからなる群より選ばれる少なくとも1種が挙げられ、好ましくはプロピレン又はイソブチレンである。また、R58は、イソブチレンの2量体から誘導される分枝オクチル基、プロピレンの3量体から誘導される分枝ノニル基、イソブチレンの3量体から誘導される分枝ドデシル基、プロピレンの4量体から誘導される分枝ドデシル基又はプロピレンの5量体から誘導される分枝ペンタデシル基であってもよく、イソブチレンの2量体から誘導される分枝オクチル基、イソブチレンの3量体から誘導される分枝ドデシル基またはプロピレンの4量体から誘導される分枝ドデシル基であってもよく、分岐ドデシル基であってもよい。
【0084】
一般式(24)で表される化合物の中でも、R58が水素原子である場合はより優れた自然発火点向上効果が得られることから好ましい。
【0085】
一般式(25)で表されるp,p’-ジアルキルジフェニルアミンのR59及びR60は、それぞれ個別に、炭素数3~16の分枝アルキル基であってよく、更に炭素数3又は4のオレフィン、又はそのオリゴマーから誘導される炭素数3~16の分枝アルキル基であってもよい。上記炭素数3又は4のオレフィンとしては、具体的にはプロピレン、1-ブテン、2-ブテン及びイソブチレン等が挙げられるが、プロピレン又はイソブチレンであってもよい。さらに、R59又はR60は、イソブチレンから誘導されるtert-ブチル基、イソブチレンの2量体から誘導される分枝オクチル基であってもよい。
【0086】
一般式(25)で表されるp,p’-ジアルキルジフェニルアミンは市販のものを用いても良くまた合成物を用いても良い。合成物は、一般式(24)で表されるフェニル-α-ナフチルアミンと同様に、炭素数1~16のハロゲン化アルキル化合物とジフェニルアミン、或いは炭素数2~16のオレフィンまたは炭素数2~16のオレフィン又はこれらのオリゴマーとジフェニルアミンとをフリーデル・クラフツ触媒を用いて反応させることにより、容易に合成することができるが、いずれの合成方法であってもよい。
【0087】
アミン系化合物の含有量は、冷凍機油全量基準で、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.4質量%以上、さらに好ましくは0.8質量%以上であり、好ましくは10質量%以下、より好ましくは6質量%以下である。特に、自然発火点を高めることができる観点から、更に好ましくは1.2質量%以上、更に好ましくは2.5質量%以上、特に好ましくは4質量%以上とすることができる。アミン系酸化防止剤の含有量が冷凍機油全量基準で10質量%以下であれば、スラッジ発生の原因を抑えることができ、0.1質量%以上であれば、自然発火点を効果的に高めることができる。
【0088】
上述した油類又は油類組成物にアミン系化合物を添加することで、耐発火性が向上された冷凍機油を得ることができる。すなわち、本実施形態に係る冷凍機油は、エーテル系化合物を含有する基油と、アミン系化合物と、を含む。
【0089】
冷凍機油の40℃における動粘度は、特に限定されないが、好ましくは3~1000mm/s、より好ましくは4~500mm/s、さらに好ましくは5~400mm/sである。また、100℃における動粘度は、好ましくは1~100mm/s、より好ましくは2~50mm/sである。
【0090】
また、冷凍機油の水分含有量は、特に限定されないが、冷凍機油全量基準で、好ましくは500ppm以下、より好ましくは300ppm以下、さらに好ましくは200ppm以下である。特に密閉型の冷凍機用に用いる場合には、冷凍機油の熱・化学的安定性や電気絶縁性への影響の観点から、水分含有量が少ないことが求められる。
【0091】
また、本実施形態の冷凍機油の酸価は、特に限定されないが、冷凍機または配管に用いられている金属への腐食を防止するため、および本実施形態の冷凍機油の分解を防止するために、好ましくは0.1mgKOH/g以下、より好ましくは0.05mgKOH/g以下である。なお、本発明における酸価とは、JIS K2501「石油製品および潤滑油-中和価試験方法」に準拠して測定した酸価を意味する。
【0092】
また、冷凍機油の灰分は、特に限定されないが、冷凍機油の熱・化学的安定性を高めスラッジ等の発生を抑制するために、好ましくは100ppm以下、より好ましくは50ppm以下である。なお、本発明における灰分とは、JIS K2272「原油および石油製品の灰分並びに硫酸灰分試験方法」に準拠して測定した灰分の値を意味する。
【0093】
冷凍機油は、通常、冷凍機等において、冷凍機油と冷媒とが混合された冷凍機用作動流体組成物の状態で存在する。言い換えれば、冷凍機用作動流体組成物は、冷凍機油と、冷媒とを含有するものである。本実施形態に係る冷凍機油は、好ましくは微燃性冷媒と共に用いられるものであり、より好ましくは微燃性ハイドロフルオロカーボン(HFC)冷媒とともに用いられるものである。すなわち、本実施形態の冷凍機用作動流体組成物は、好ましくは微燃性冷媒、より好ましくは微燃性ハイドロフルオロカーボン(HFC)冷媒を含有するものである。ハイドロフルオロカーボン(HFC)冷媒には、飽和フッ化炭化水素冷媒(ハイドロフルオロアルカン冷媒ともいう)及び不飽和フッ化炭化水素冷媒(ハイドロフルオロアルケン冷媒、ハイドロフルオロオレフィン冷媒、又はHFO冷媒ともいう)が包含される。なお、本発明における微燃性冷媒とは、ASHRAE(TheAmericanSociety of Heating, Refrigerating and Air-conditioning Engineers)34の燃焼性区分におけるA2L区分に含まれる冷媒を意味する。
【0094】
飽和フッ化炭化水素冷媒としては、炭素数1~3、好ましくは炭素数1~2の飽和フッ化炭化水素が挙げられる。具体的には、例えば、ジフルオロメタン(HFC-32)、トリフルオロメタン(HFC-23)、ペンタフルオロエタン(HFC-125)、1,1,2,2-テトラフルオロエタン(HFC-134)、1,1,1,2-テトラフルオロエタン(HFC-134a)、1,1,1-トリフルオロエタン(HFC-143a)、1,1-ジフルオロエタン(HFC-152a)、フルオロエタン(HFC-161)、1,1,1,2,3,3,3-ヘプタフルオロプロパン(HFC-227ea)、1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパン(HFC-236ea)、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン(HFC-236fa)、1,1,1,3,3-ペンタフルオロプロパン(HFC-245fa)、1,1,1,3,3-ペンタフルオロブタン(HFC-365mfc)、およびこれらの2種以上の混合物が挙げられる。これらの冷媒は、用途や要求性能に応じて適宜選択されるが、例えばHFC-32単独;HFC-23単独;HFC-134a単独;HFC-125単独;HFC-134a/HFC-32=60~80質量%/40~20質量%の混合物;HFC-32/HFC-125=40~70質量%/60~30質量%の混合物;HFC-125/HFC-143a=40~60質量%/60~40質量%の混合物;HFC-134a/HFC-32/HFC-125=60質量%/30質量%/10質量%の混合物;HFC-134a/HFC-32/HFC-125=40~70質量%/15~35質量%/5~40質量%の混合物;HFC-125/HFC-134a/HFC-143a=35~55質量%/1~15質量%/40~60質量%の混合物などが好ましい例として挙げられる。さらに具体的には、HFC-134a/HFC-32=70/30質量%の混合物;HFC-32/HFC-125=60/40質量%の混合物;HFC-32/HFC-125=50/50質量%の混合物(R410A);HFC-32/HFC-125=45/55質量%の混合物(R410B);HFC-125/HFC-143a=50/50質量%の混合物(R507C);HFC-32/HFC-125/HFC-134a=30/10/60質量%の混合物;HFC-32/HFC-125/HFC-134a=23/25/52質量%の混合物(R407C);HFC-32/HFC-125/HFC-134a=25/15/60質量%の混合物(R407E);HFC-125/HFC-134a/HFC-143a=44/4/52質量%の混合物(R404A)などが挙げられる。
【0095】
上記の飽和フッ化炭化水素の中でも、ジフルオロメタン(HFC-32)、ペンタフルオロエタン(HFC-125)、1,1,2,2-テトラフルオロエタン(HFC-134)、1,1,1,2-テトラフルオロエタン(HFC-134a)、1,1-ジフルオロエタン(HFC-152a)、フルオロエタン(HFC-161)、1,1,1,2,3,3,3-ヘプタフルオロプロパン(HFC-227ea)、1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパン(HFC-236ea)、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン(HFC-236fa)、1,1,1,3,3-ペンタフルオロプロパン(HFC-245fa)、及び1,1,1,3,3-ペンタフルオロブタン(HFC-365mfc)からなる群より選ばれる1種又は2種以上の混合物であることが好ましく、冷媒物性の観点から、HFC-32、HFC-125、HFC-134a、HFC-152a、又はHFC-32とHFC-134aの混合物であることがより好ましい。
【0096】
不飽和フッ化炭化水素としては、フッ素数が3~5のフルオロプロペンが好ましく、1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペン(HFC-1225ye)、1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFC-1234ze)、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFC-1234yf)、1,2,3,3-テトラフルオロプロペン(HFC-1234ye)、及び3,3,3-トリフルオロプロペン(HFC-1243zf)からなる群より選ばれる1種または2種以上の混合物であることが好ましい。冷媒物性の観点からは、HFC-1225ye、HFC-1234ze及びHFC-1234yfから選ばれる1種又は2種以上であることが好ましい。
【0097】
微燃性ハイドロフルオロカーボン冷媒としては、1,3,3,3-テトラフルオロプロペン又は2,3,3,3-テトラフルオロプロペンが特に好ましい。
【0098】
本実施形態の冷凍機油とともに用いられる冷媒は、例えば微燃性ハイドロフルオロカーボン冷媒と他の冷媒との混合冷媒であってもよい。他の冷媒としては、パーフルオロエーテル類等の含フッ素エーテル系冷媒、ビス(トリフルオロメチル)サルファイド冷媒、3フッ化ヨウ化メタン冷媒、ジメチルエーテル、二酸化炭素、アンモニアおよび炭化水素等の自然系冷媒が挙げられる。
【0099】
炭化水素冷媒としては、炭素数3~5の炭化水素が好ましく、具体的には例えば、メタン、エチレン、エタン、プロピレン、プロパン、シクロプロパン、ノルマルブタン、イソブタン、シクロブタン、メチルシクロプロパン、2-メチルブタン、ノルマルペンタン又はこれらの2種以上の混合物があげられる。これらの中でも、25℃、1気圧で気体のものが好ましく用いられ、プロパン、ノルマルブタン、イソブタン、2-メチルブタン又はこれらの混合物が好ましい。
【0100】
含フッ素エーテル系冷媒としては、具体的には例えば、HFE-134p、HFE-245mc、HFE-236mf、HFE-236me、HFE-338mcf、HFE-365mcf、HFE-245mf、HFE-347mmy、HFE-347mcc、HFE-125、HFE-143m、HFE-134m、HFE-227me等が挙げられ、これらの冷媒は用途や要求性能に応じて適宜選択される。
【0101】
また、本実施形態の冷媒が混合冷媒である場合、微燃性ハイドロフルオロカーボン冷媒と他の冷媒との混合比(質量比、微燃性ハイドロフルオロカーボン冷媒:他の冷媒)は、1:99~99:1が好ましく、5:95~95:5がより好ましい。
【0102】
本実施形態の冷凍機用作動流体組成物における冷凍機油と冷媒との配合割合は特に制限されないが、冷媒100質量部に対して冷凍機油が好ましくは1~500質量部、より好ましくは2~400質量部である。
【0103】
本実施形態の冷凍機油は、往復動式や回転式の密閉型圧縮機を有するエアコン、冷蔵庫、或いは開放型又は密閉型のカーエアコンに好ましく用いられる。また、本実施形態の冷凍機油及び冷凍機用作動流体組成物は、除湿機、給湯器、冷凍庫、冷凍冷蔵倉庫、自動販売機、ショーケース、化学プラント等の冷却装置等に好ましく用いられる。さらに、本実施形態の冷凍機油は、遠心式の圧縮機を有するものにも好ましく用いられる。
【実施例
【0104】
以下、実施例に基づき本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0105】
[実施例1~5]
まず、以下に示す基油1~5及び各添加剤を用いて油類組成物を調製し、得られた油類組成物について自然発火点を測定した。その後、アミン系化合物としてフェニル-α-ナフチルアミンを添加して冷凍機油を調製し、得られた冷凍機油について自然発火点を測定した。なお、自然発火点の測定は、ASTM E659-1978に準拠した方法により行った。油類組成物及び冷凍機油の組成、並びに自然発火点の測定結果を表1に示す。
【0106】
(基油)
以下、Meはメチル基、Buはブチル基、POはオキシプロピレン基をそれぞれ表す。
【0107】
基油1:
Me-O-(PO)n-Me
[数平均分子量Mn:1240、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn):1.1、40℃動粘度:50.5mm/s、引火点:218℃、水酸基価:6.8mgKOH/g、流動点:<-45℃、酸価:0.01mgKOH/g
【0108】
基油2:
Bu-O-(PO)n-Bu
[数平均分子量Mn:1290、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn):1.11、40℃動粘度:56mm/s、引火点:220℃(COC)、流動点:-42.5℃、酸価:0.01mgKOH/g
【0109】
基油3:
Bu-O-(PO)n-Bu
[数平均分子量Mn:1440、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn):1.16、40℃動粘度:68mm/s、引火点:220℃(COC)、流動点:-40℃、酸価:0.01mgKOH/g
【0110】
基油4:
Bu-O-(PO)n-Bu
[数平均分子量Mn:1640、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn):1.20、40℃動粘度:100mm/s、引火点:222℃(COC)、流動点:-35℃、酸価:0.01mgKOH/g
【0111】
基油5:
Bu-O-(PO)n-Bu
[数平均分子量Mn:2250、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn):1.28、40℃動粘度:200mm/s、引火点:222℃(COC)、流動点:-30℃、酸価:0.01mgKOH/g
【0112】
(添加剤)
添加剤1:トリクレジルホスフェート(摩耗防止剤)
添加剤2:グリシジルネオデカノエート(酸捕捉剤)
【0113】
【表1】
【0114】
[実施例6~10]
以下に示す基油6~8及び各添加剤を用いて油類組成物を調製し、得られた油類組成物について自然発火点を測定した。その後、アミン系化合物としてフェニル-α-ナフチルアミンを添加して冷凍機油を調製し、得られた冷凍機油について自然発火点を測定した。油類組成物及び冷凍機油の組成、並びに自然発火点の測定結果を表2に示す。
【0115】
(基油)
基油6:
エチルビニルエーテルとイソブチルビニルエーテルとの共重合体[エチルビニルエーテル/イソブチルビニルエーテル=8/2(モル比)、数平均分子量(Mn):500、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn):1.25、40℃動粘度:50mm/s、粘度指数91]
【0116】
基油7:
エチルビニルエーテル重合体[数平均分子量(Mn):1300、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn):1.20、40℃動粘度:68mm/s、粘度指数:90]
【0117】
基油8:
エチルビニルエーテル重合体[数平均分子量(Mn):1300、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn):1.29、40℃動粘度:71mm/s、粘度指数:89]
【0118】
(添加剤)
添加剤1:トリクレジルホスフェート(摩耗防止剤)
添加剤2:グリシジルネオデカノエート(酸捕捉剤)
【0119】
【表2】