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特許7419487ヘッドチップ、液体噴射ヘッド及び液体噴射記録装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-12
(45)【発行日】2024-01-22
(54)【発明の名称】ヘッドチップ、液体噴射ヘッド及び液体噴射記録装置
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/14 20060101AFI20240115BHJP
【FI】
B41J2/14 611
B41J2/14 303
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022201242
(22)【出願日】2022-12-16
【審査請求日】2022-12-16
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】501167725
【氏名又は名称】エスアイアイ・プリンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】中山 仁
【審査官】長田 守夫
(56)【参考文献】
【文献】特開平7-76083(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0046672(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0268525(US,A1)
【文献】米国特許第5828394(US,A)
【文献】特開2007-55194(JP,A)
【文献】特開2017-87533(JP,A)
【文献】特開2015-71259(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体が収容される圧力室が形成されたアクチュエータプレートと、
前記圧力室に連通する噴射孔を有し、前記アクチュエータプレートに対して前記アクチュエータプレートの厚さ方向に重ね合わされた噴射孔プレートと、
前記アクチュエータプレートに電界を生じさせることで、前記厚さ方向及び前記厚さ方向に交差する交差方向に前記アクチュエータプレートを変形させ、前記圧力室の容積を拡大又は縮小させる駆動電極と、を備え、
前記駆動電極は、
前記圧力室の内面に形成された第1電極と、
前記アクチュエータプレートのうち前記噴射孔プレート側を向く第1面において、前記第1電極に対して前記交差方向で隣り合うとともに、前記第1電極との間で電位差を発生させる第2電極と、
前記アクチュエータプレートのうち前記噴射孔プレート側と反対側を向く第2面において、前記厚さ方向で前記第1電極に向かい合って設けられるとともに、前記第1電極との間で電位差を発生させる第1対向電極と、を備えているヘッドチップ。
【請求項2】
前記駆動電極は、前記第2面において前記第1対向電極と隣り合い、前記厚さ方向で前記第2電極に向かい合って設けられた第2対向電極を備え、
前記第2対向電極は、前記第2電極との間で前記厚さ方向に電位差を生じさせるとともに、前記第1対向電極との間で前記交差方向に電位差を生じさせる請求項に記載のヘッドチップ。
【請求項3】
前記アクチュエータプレートのうち、前記圧力室に対して前記交差方向の外側に位置する部分には、前記第2面に対して前記厚さ方向に窪む溝部が形成されている請求項に記載のヘッドチップ。
【請求項4】
前記溝部は、前記アクチュエータプレートを前記厚さ方向に貫通している請求項に記載のヘッドチップ。
【請求項5】
前記駆動電極は、前記溝部の内面に形成されるとともに、前記第1電極との間で電位差を発生させる溝内電極を備えている請求項に記載のヘッドチップ。
【請求項6】
前記アクチュエータプレートの分極方向は、前記圧力室における前記厚さ方向の中央部に対して前記噴射孔プレート側と、前記厚さ方向の中央部に対して前記噴射孔プレートとは反対側とで異なる向きに設定され、
前記駆動電極は、前記圧力室における前記厚さ方向の全体に亘って形成されている請求項に記載のヘッドチップ。
【請求項7】
液体が収容される圧力室が形成されたアクチュエータプレートと、
前記圧力室に連通する噴射孔を有し、前記アクチュエータプレートに対して前記アクチュエータプレートの厚さ方向に重ね合わされた噴射孔プレートと、
前記アクチュエータプレートに電界を生じさせることで、前記厚さ方向及び前記厚さ方向に交差する交差方向に前記アクチュエータプレートを変形させ、前記圧力室の容積を拡大又は縮小させる駆動電極と、を備え、
前記アクチュエータプレートの分極方向は、前記厚さ方向の全体に亘って一方向に設定されているヘッドチップ。
【請求項8】
請求項1から請求項の何れか1項に記載のヘッドチップを備えている液体噴射ヘッド。
【請求項9】
請求項に記載の液体噴射ヘッドを備えている液体噴射記録装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ヘッドチップ、液体噴射ヘッド及び液体噴射記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェットプリンタに搭載されるヘッドチップは、圧力室が形成された流路部材と、圧力室の一面を閉塞する圧電材料からなるアクチュエータプレートと、を備えている(例えば、下記特許文献1参照)。この種のヘッドチップでは、アクチュエータプレートに発生させた電界によってアクチュエータプレートを変形させることで、圧力室の容積を拡大又は縮小させる。これにより、圧力室内に圧力変動が生じることで、圧力室内のインクが、ノズル孔を通じて吐出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平10-58674号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近時では、ノズル密度の向上等を目的として、キャビティプレートのうち隣り合う圧力室間を仕切る部分(仕切壁)の幅が狭くなる傾向にある。仕切壁の幅が狭くなると、仕切壁の剛性が低下する。この場合、インク吐出時において、アクチュエータプレートの変形により発生する弾性エネルギーが、仕切壁の変形によって吸収されるおそれがあった。すなわち、従来のヘッドチップにあっては、圧力室内のインクに対して効果的に弾性エネルギーを伝えることが難しく、圧力室の発生圧力を向上させる点で改善の余地があった。
【0005】
本開示は、圧力室内のインクに対して効果的に弾性エネルギーを伝え、圧力室の発生圧力を向上させるヘッドチップ、液体噴射ヘッド及び液体噴射記録装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本開示は以下の態様を採用した。
(1)本開示の一態様に係るヘッドチップは、液体が収容される圧力室が形成されたアクチュエータプレートと、前記圧力室に連通する噴射孔を有し、前記アクチュエータプレートに対して前記アクチュエータプレートの厚さ方向に重ね合わされた噴射孔プレートと、前記アクチュエータプレートに電界を生じさせることで、前記厚さ方向及び前記厚さ方向に交差する交差方向に前記アクチュエータプレートを変形させ、前記圧力室の容積を拡大又は縮小させる駆動電極と、を備え、前記圧力室は、前記厚さ方向で前記噴射孔と向かい合うとともに、前記アクチュエータプレートによって形成された底面を有し、前記圧力室は、前記底面が残るように前記アクチュエータプレートに対して前記厚さ方向に切削加工を行うことによって形成されたものであり、前記アクチュエータプレートに電界を生じさせることで、前記底面が前記厚さ方向に変形する。
(2)上記(1)の態様に係るヘッドチップにおいて、前記駆動電極は、前記厚さ方向及び前記交差方向に前記アクチュエータプレートを変形させ、前記圧力室の容積を拡大又は縮小させることによって、前記液体を噴射するための弾性エネルギーを前記圧力室内の前記液体に伝えることが好ましい。
【0007】
本態様によれば、アクチュエータプレートによって圧力室を形成することで、例えばアクチュエータプレートとは別部材に圧力室を形成する場合に比べ、アクチュエータプレートの変形に伴う圧力室内の圧力変動時において、別部材の変形によって弾性エネルギーが吸収されることを抑制できる。これにより、圧力室内のインクに対して効果的に弾性エネルギーを伝え、圧力室の発生圧力を向上させることができる。また、別部材に圧力室を形成する場合に比べて、製造効率の向上や低コスト化を図ることができる。
その上で、本態様では、アクチュエータプレートが駆動電極によって厚さ方向及び交差方向に変形させられることで、例えばアクチュエータプレートが厚さ方向及び交差方向の何れかの方向のみに変形させられる構成に比べ、発生圧力を確保できる。
【0008】
(3)本開示の一態様に係るヘッドチップは、液体が収容される圧力室が形成されたアクチュエータプレートと、前記圧力室に連通する噴射孔を有し、前記アクチュエータプレートに対して前記アクチュエータプレートの厚さ方向に重ね合わされた噴射孔プレートと、前記アクチュエータプレートに電界を生じさせることで、前記厚さ方向及び前記厚さ方向に交差する交差方向に前記アクチュエータプレートを変形させ、前記圧力室の容積を拡大又は縮小させる駆動電極と、を備え、前記駆動電極は、前記圧力室の内面に形成された第1電極と、前記アクチュエータプレートのうち前記噴射孔プレート側を向く第1面において、前記第1電極に対して前記交差方向で隣り合うとともに、前記第1電極との間で電位差を発生させる第2電極と、前記アクチュエータプレートのうち前記噴射孔プレート側と反対側を向く第2面において、前記厚さ方向で前記第1電極に向かい合って設けられるとともに、前記第1電極との間で電位差を発生させる第1対向電極と、を備えていることが好ましい。
本態様によれば、第1電極及び第2電極間に電位差を発生させることで、アクチュエータプレートの分極方向に交差する方向に電界を発生させることができる。これにより、アクチュエータプレートをシェアモード(ルーフシュート型)で交差方向に変形させることで、圧力室の容積を変化させることができる。また、第1電極及び第1対向電極間に電位差を発生させることで、アクチュエータプレートの分極方向にも電界を発生させることができる。これにより、アクチュエータプレートをベンドモード(バイモルフ型)で厚さ方向に変形させることで、圧力室の容積を変化させることができる。すなわち、シェアモード及びベンドモードの双方でアクチュエータプレートを厚さ方向及び交差方向に変形させることで、液体噴射時における圧力室内の発生圧力を向上させることができる。
【0009】
)上記()の態様に係るヘッドチップにおいて、前記駆動電極は、前記第2面において前記第1対向電極と隣り合い、前記厚さ方向で前記第2電極に向かい合って設けられた第2対向電極を備え、前記第2対向電極は、前記第2電極との間で前記厚さ方向に電位差を生じさせるとともに、前記第1対向電極との間で前記交差方向に電位差を生じさせることが好ましい。
本態様によれば、アクチュエータプレートの第2面において、第1対向電極及び第2対向電極が隣り合って形成されるので、第1対向電極及び第2対向電極間に発生する電位差によってアクチュエータプレートをシェアモードにより変形させることができる。
また、第2電極及び第2対向電極間に発生する電位差によってアクチュエータプレートをベンドモードにより変形させることができる。その結果、発生圧力の更なる向上及び、省電力化を図ることができる。
【0010】
)上記()又は()の態様に係るヘッドチップにおいて、前記アクチュエータプレートのうち、前記圧力室に対して前記交差方向の外側に位置する部分には、前記第2面に対して前記厚さ方向に窪む溝部が形成されていることが好ましい。
本態様によれば、駆動電極への電圧印加時において、溝部の容積が拡大又は縮小するようにアクチュエータプレートが変形するので、アクチュエータプレートの変形が阻害されることを抑制できる。これにより、アクチュエータプレートの変形量を確保し易くなり、圧力室の発生圧力を向上させることができる。
【0011】
)上記()の態様に係るヘッドチップにおいて、前記溝部は、前記アクチュエータプレートを前記厚さ方向に貫通していることが好ましい。
本態様によれば、溝部がアクチュエータプレートを貫通しているので、液体噴射時における仕切壁の変形を許容し易い。そのため、圧力室の発生圧力を向上させることができる。
【0012】
)上記()又は()の態様に係るヘッドチップにおいて、前記駆動電極は、前記溝部の内面に形成されるとともに、前記第1電極との間で電位差を発生させる溝内電極を備えていることが好ましい。
本態様によれば、第1電極と溝内電極との間に生じる電位差によって、アクチュエータプレートには分極方向に交差する方向に電界が生じる。その結果、仕切壁は、シェアモードにより厚さ方向の第2側に向かうに従い交差方向の外側に倒れ込むように厚み滑り変形する。これにより、液体噴射時において、溝部の容積が拡大又は縮小するように仕切壁が変形する。すなわち、溝部が仕切壁の変形を許容する逃げ部として機能することから、アクチュエータプレートの変形量を確保し易くなり、圧力室の発生圧力を向上させることができる。
【0013】
)上記()から()の何れかの態様に係るヘッドチップにおいて、前記アクチュエータプレートの分極方向は、前記圧力室における前記厚さ方向の中央部に対して前記噴射孔プレート側と、前記厚さ方向の中央部に対して前記噴射孔プレートとは反対側とで異なる向きに設定され、前記駆動電極は、前記圧力室における前記厚さ方向の全体に亘って形成されていることが好ましい。
本態様によれば、第1電極と溝内電極との間に生じる電位差により、アクチュエータプレート(各圧電プレート)には分極方向(厚さ方向)に直交する方向に電界が生じる。その結果、アクチュエータプレートを構成する各圧電プレートが、シェアモードにより交差方向に厚み滑り変形することで、圧力室の厚さ方向の中央部を起点にして、仕切壁がV字状に屈曲変形する。すなわち、仕切壁は圧力室の容積が拡大するように変形する。これにより、電圧印加時における仕切壁の交差方向での変形量を確保し易くなり、アクチュエータプレートの弾性エネルギーを確保し易い。
【0014】
(9)本開示の一態様に係るヘッドチップは、液体が収容される圧力室が形成されたアクチュエータプレートと、前記圧力室に連通する噴射孔を有し、前記アクチュエータプレートに対して前記アクチュエータプレートの厚さ方向に重ね合わされた噴射孔プレートと、前記アクチュエータプレートに電界を生じさせることで、前記厚さ方向及び前記厚さ方向に交差する交差方向に前記アクチュエータプレートを変形させ、前記圧力室の容積を拡大又は縮小させる駆動電極と、を備え、前記アクチュエータプレートの分極方向は、前記厚さ方向の全体に亘って一方向に設定されていることが好ましい。
本態様によれば、構成の簡素化や低コスト化を図ることができる。
【0015】
10)本開示に係る液体噴射ヘッドは、上記(1)から()の何れかの態様に係るヘッドチップを備えている。
本態様によれば、上記態様に係るヘッドチップを備えているので、所望の噴射性能が発揮できる高品質な液体噴射ヘッドを提供できる。
【0016】
(1)本開示の一態様に係る液体噴射記録装置は、上記(10)の態様に係る液体噴射ヘッドを備えている。
本態様によれば、上記態様に係る液体噴射ヘッドを備えているので、所望の噴射性能が発揮できる高品質な液体噴射記録装置を提供できる。
【発明の効果】
【0017】
本開示の一態様によれば、圧力室内の液体に対して効果的に弾性エネルギーを伝え、圧力室の発生圧力を向上させる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】第1実施形態に係るインクジェットプリンタの概略構成図である。
図2】第1実施形態に係るインクジェットヘッド及びインク循環機構の概略構成図である。
図3】第1実施形態に係るヘッドチップの断面図である。
図4】第1実施形態に係るアクチュエータプレートの底面図である。
図5】第1実施形態に係るアクチュエータプレートの平面図である。
図6】第1実施形態に係るカバープレートの平面図である。
図7】第1実施形態に係るヘッドチップについて、インク吐出時における変形の挙動を説明するための説明図である。
図8】第2実施形態に係るヘッドチップの断面図である。
図9】第3実施形態に係るヘッドチップの断面図である。
図10】第4実施形態に係るヘッドチップの断面図である。
図11】第4実施形態の変形例に係るヘッドチップの断面図である。
図12】第4実施形態の変形例に係るヘッドチップの断面図である。
図13】第5実施形態に係るヘッドチップの断面図である。
図14】第6実施形態に係るヘッドチップの断面図である。
図15】第6実施形態の変形例に係るヘッドチップの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本開示に係る実施形態について図面を参照して説明する。以下で説明する実施形態や変形例において、対応する構成については同一の符号を付して説明を省略する場合がある。以下の説明において、例えば「平行」や「直交」、「中心」、「同軸」等の相対的又は絶対的な配置を示す表現は、厳密にそのような配置を表すのみならず、公差や同じ機能が得られる程度の角度や距離をもって相対的に変位している状態も表すものとする。以下の実施形態では、インク(液体)を利用して被記録媒体に記録を行うインクジェットプリンタ(以下、単にプリンタという)を例に挙げて説明する。以下の説明に用いる図面では、各部材を認識可能な大きさとするため、各部材の縮尺を適宜変更している。
【0020】
(第1実施形態)
[プリンタ1]
図1はプリンタ1の概略構成図である。
図1に示すプリンタ(液体噴射記録装置)1は、一対の搬送機構2,3と、インクタンク4と、インクジェットヘッド(液体噴射ヘッド)5と、インク循環機構6と、走査機構7と、を備えている。
【0021】
以下の説明では、必要に応じてX,Y,Zの直交座標系を用いて説明する。この場合、X方向は被記録媒体P(例えば、紙等)の搬送方向(副走査方向)に一致している。Y方向は走査機構7の走査方向(主走査方向)に一致している。Z方向は、X方向及びY方向に直交する高さ方向(重力方向)を示している。以下の説明では、X方向、Y方向及びZ方向のうち、図中矢印側をプラス(+)側とし、矢印とは反対側をマイナス(-)側として説明する。本明細書において、+Z側は重力方向の上方に相当し、-Z側は重力方向の下方に相当する。
【0022】
搬送機構2,3は、被記録媒体Pを+X側に搬送する。搬送機構2,3は、例えばY方向に延びる一対のローラ11,12をそれぞれ含んでいる。
インクタンク4には、例えばイエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの4色のインクが各別に収容されている。各インクジェットヘッド5は、接続されたインクタンク4に応じてイエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの4色のインクをそれぞれ吐出可能に構成されている。
【0023】
図2は、インクジェットヘッド5及びインク循環機構6の概略構成図である。
図1図2に示すように、インク循環機構6は、インクタンク4とインクジェットヘッド5との間でインクを循環させる。具体的に、インク循環機構6は、インク供給管21及びインク排出管22を有する循環流路23と、インク供給管21に接続された加圧ポンプ24と、インク排出管22に接続された吸引ポンプ25と、を備えている。
【0024】
加圧ポンプ24は、インク供給管21内を加圧し、インク供給管21を通してインクジェットヘッド5にインクを送り出している。これにより、インクジェットヘッド5に対してインク供給管21側は正圧となっている。
吸引ポンプ25は、インク排出管22内を減圧し、インク排出管22内を通してインクジェットヘッド5からインクを吸引している。これにより、インクジェットヘッド5に対してインク排出管22側は負圧となっている。インクは、加圧ポンプ24及び吸引ポンプ25の駆動により、インクジェットヘッド5とインクタンク4との間を、循環流路23を通して循環可能となっている。
【0025】
図1に示すように、走査機構7は、インクジェットヘッド5をY方向に往復走査させる。走査機構7は、Y方向に延びるガイドレール28と、ガイドレール28に移動可能に支持されたキャリッジ29と、を備えている。
【0026】
<インクジェットヘッド5>
インクジェットヘッド5は、キャリッジ29に搭載されている。図示の例では、複数のインクジェットヘッド5が、一つのキャリッジ29にY方向に並んで搭載されている。インクジェットヘッド5は、ヘッドチップ50(図3参照)と、インク循環機構6及びヘッドチップ50間を接続するインク供給部(不図示)と、ヘッドチップ50に駆動電圧を印加する制御部(不図示)と、を備えている。
【0027】
<ヘッドチップ50>
図3は、ヘッドチップ50の断面図である。
図3に示すヘッドチップ50は、インクタンク4との間でインクを循環させるとともに、後述する圧力室61における延在方向(Y方向)の中央部からインクを吐出する、いわゆる循環式サイドシュートタイプのヘッドチップ50である。ヘッドチップ50は、ノズルプレート51と、第1フィルム52と、アクチュエータプレート53と、第2フィルム54と、カバープレート55と、を備えている。以下の説明では、Z方向のうち、ノズルプレート51からカバープレート55に向かう方向(+Z側)を上側とし、カバープレート55からノズルプレート51に向かう方向(-Z側)を下側として説明する場合がある。
【0028】
アクチュエータプレート53は、Z方向を厚さ方向として配置されている。アクチュエータプレート53は、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)等の圧電材料で形成されている。アクチュエータプレート53は、分極方向が+Z側の一方向を向くように設定されている(いわゆる、モノポールタイプ)。アクチュエータプレート53の両面には、駆動配線75が形成されている。アクチュエータプレート53は、駆動配線75により印加される電圧によって電界が発生することで変形可能に構成されている。なお、駆動配線75の構成については後述する。
【0029】
アクチュエータプレート53には、共通流路60と、共通流路60に連通する複数の圧力室61と、が形成されている。共通流路60や圧力室61は、アクチュエータプレート53に対してダイサー加工やサンドブラスト等を行うことで形成される。
【0030】
各圧力室61は、X方向に間隔をあけて並んでいる。各圧力室61は、アクチュエータプレート53の下面で開口するとともに、Y方向に直線状に延びる溝状に形成されている。圧力室61は、Y方向から見て矩形状に形成されている。アクチュエータプレート53のうち、隣り合う圧力室61同士の間に位置する部分は、仕切壁64a,64bとして機能する。なお、圧力室61は、Y方向から見て台形状や三角形状、半円形状等であってもよい。また、第1実施形態では、圧力室61の延在方向がY方向に一致する構成について説明するが、圧力室61の延在方向がY方向に交差していてもよい。
【0031】
共通流路60は、入口側共通流路60aと、出口側共通流路60bと、を含んでいる。
入口側共通流路60aは、アクチュエータプレート53のうち各圧力室61に対して+Y側に位置する部分をX方向に延びている。入口側共通流路60aは、アクチュエータプレート53をZ方向に貫通している。入口側共通流路60aには、各圧力室61の+Y側端部が接続されている。これにより、入口側共通流路60aを流れるインクが各圧力室61に分配される。入口側共通流路60aにおける-X側端部は、入口ポート(不図示)に接続される。インクタンク4内のインクは、入口ポートを通じて入口側共通流路60aに供給される。
【0032】
出口側共通流路60bは、アクチュエータプレート53のうち、圧力室61に対して-Y側に位置する部分をX方向に延びている。出口側共通流路60bは、アクチュエータプレート53をZ方向に貫通している。出口側共通流路60bには、各圧力室61の-Y側端部が接続されている。これにより、各圧力室61を通過したインクが出口側共通流路60bに戻される。出口側共通流路60bにおける+X側端部は、出口ポート(不図示)に接続される。出口側共通流路60bを流れるインクは、出口ポートを通じてインクタンク4内に戻される。
【0033】
第1フィルム52は、アクチュエータプレート53に接着等によって固定されている。第1フィルム52は、アクチュエータプレート53の下面及び圧力室61の内面に倣って配置されている。第1フィルム53は、絶縁性及びインク耐性を有し、弾性変形可能な材料により形成されている。このような材料として、第1フィルム53は、例えば樹脂材料(ポリイミド系やエポキシ系、ポリプロピレン系等)により形成されている。
【0034】
ノズルプレート51は、第1フィルム52の下面に接着等によって固定されている。ノズルプレート51は、流路60や圧力室61を下方から閉塞している。第1実施形態において、ノズルプレート51は、SUSやNi-Pd等の金属材料により形成されている。但し、ノズルプレート51は、金属材料の他、樹脂材料(例えば、ポリイミド等)、ガラス、シリコン等による単層構造、又は積層構造であってもよい。
【0035】
ノズルプレート51には、ノズルプレート51をZ方向に貫通する複数のノズル孔71が形成されている。各ノズル孔71は、X方向に間隔をあけて配置されている。各ノズル孔71は、対応する圧力室61それぞれに対し、X方向及びY方向の中央部で連通している。第1実施形態において、各ノズル孔71は、例えば上方から下方に向かうに従い内径が漸次縮小するテーパ状に形成されている。
【0036】
第2フィルム54は、アクチュエータプレート53の上面に接着等によって固定されている。第1実施形態において、第2フィルム54は、アクチュエータプレート53の上面全域を覆っている。第2フィルム54は、絶縁性を有し、弾性変形可能な材料により形成されている。このような材料として、第1フィルム53と同様の材料を採用することができる。なお、第2フィルム54は、必須の構成ではない。例えばエポキシ系接着剤やアクリル系接着剤を含む接着剤層を介してアクチュエータプレート53とカバープレート55とが接合されていてもよい。
【0037】
カバープレート55は、Z方向を厚さ方向として、第2フィルム54の上面に接着等により固定されている。カバープレート55におけるZ方向の厚さは、アクチュエータプレート53や各フィルム52,54よりも厚い。第1実施形態において、カバープレート55は、絶縁性を有する材料(例えば、金属酸化物、ガラス、樹脂、セラミックス等)により形成されている。
【0038】
続いて、駆動配線75の構造について説明する。図4は、アクチュエータプレート53の底面図である。図5は、アクチュエータプレート53の平面図である。図6は、カバープレート55の平面図である。駆動配線75は、各圧力室61に対応して設けられている。隣り合う圧力室61に対応する駆動配線75同士は、互いに同様の構成になっている。以下の説明では、複数の圧力室61のうち一の圧力室61に対応して設けられた駆動配線75を例にして説明し、他の圧力室61に対応する駆動配線75については説明を適宜省略する。なお、駆動配線75は、アクチュエータプレート53の上下両側から電極材料を蒸着等することで形成される。
【0039】
図3図6に示すように、駆動配線75は、共通配線81と、個別電極82と、を備えている。
共通配線81は、第1共通電極81aと、第2共通電極81bと、引き回し配線81cと、共通パッド81dと、貫通配線81eと、を備えている。を備えている。
図3図4に示すように、第1共通電極81aは、アクチュエータプレート53の下面において、Z方向から見て仕切壁64と重なり合う位置にそれぞれ形成されている。具体的に、各第1共通電極81aのうち、+X側に位置する第1共通電極81a(以下、+X側共通電極81a1という。)は、仕切壁64aと重なり合っている。一方、各第1共通電極81aのうち-X側に位置する第1共通電極81a(以下、-X側共通電極81a2という。)は、仕切壁64bと重なり合っている。各第1共通電極81aは、圧力室61に沿ってY方向に直線状に延びている。本実施形態において、一の圧力室61に対応する+X側共通電極81a1は、一の圧力室61に対して+X側に隣り合う他の圧力室61の-X側共通電極81a2と共用している。一方、一の圧力室61に対応する-X側共通電極81a2は、一の圧力室61に対して-X側に隣り合う他の圧力室61の+X側共通電極81a1と共用している。
【0040】
図3図5に示すように、第2共通電極81bは、アクチュエータプレート53の上面において、対応する圧力室61とZ方向から見て重なり合い、かつZ方向から見て第1共通電極81aと重なり合わない位置に配置されている。図示の例において、第2共通電極81bは、圧力室61におけるX方向の中央部を含む領域に形成されている。第2共通電極81bは、圧力室61に沿ってY方向に直線状に延びている。なお、第2共通電極81bは、圧力室61とZ方向から見て重なり合う位置に形成されていれば、X方向の幅等について適宜変更が可能である。
【0041】
引き回し配線81cは、アクチュエータプレート53の上面において、第2共通電極81bに接続されている。引き回し配線81cは、第2共通電極81bにおける-Y側端部に接続された状態でX方向に延びている。第1実施形態において、引き回し配線81cは、各駆動配線75の第2共通電極81bを一括して接続している。但し、引き回し配線81cは、各駆動配線75の第2共通電極81b同士を個別に接続していてもよい。
【0042】
図6に示すように、共通パッド81dは、カバープレート55の上面に形成されている。共通パッド81dは、カバープレート55の上面のうち、Z方向から見て圧力室61と重なり合う部分をY方向に延びている。
【0043】
図4図6に示すように、貫通配線81eは、第1共通電極81a、第2共通電極81b、引き回し配線81c及び共通パッド81d間を接続している。貫通配線81eは、アクチュエータプレート53、第2フィルム54及びカバープレート55をZ方向に貫通して設けられている。具体的に、アクチュエータプレート53、第2フィルム54及びカバープレート55のうち共通電極81a,81bに対して-Y側に位置する部分には、共通配線用孔91が形成されている。共通配線用孔91は、各圧力室61に応じて個別に形成されている。第1共通電極81a、引き回し配線81c及び共通パッド81dにおける-Y側端縁は、共通配線用孔91の開口縁において、貫通配線81eに接続されている。なお、貫通配線81e及び共通配線用孔91は、各圧力室61に対して一括で設けられていてもよい。この場合、共通配線用孔91は、各圧力室61を跨る長さでX方向に延びる。
【0044】
図3図6に示すように、個別電極82は、第1個別電極82aと、第2個別電極82bと、引き回し配線82cと、個別パッド82dと、貫通配線82eと、を備えている。を備えている。
【0045】
図3図4に示すように、第1個別電極82aは、第1共通電極81aとの間で電位差を生じさせるとともに、第2共通電極81bとの間で電位差を生じさせる。第1個別電極82aは、圧力室61の内面に形成されている。第1個別電極82aの少なくとも一部は、第2共通電極81bとZ方向から見て重なり合っている。第1個別電極82aは、各第1共通電極81aに対してX方向に間隔をあけた状態でY方向に延びている。
【0046】
第1個別電極82aは、底面電極82a1と、側面電極82a2と、を備えている。
底面電極82a1は、圧力室61の底面61a(下方を向く面)の全域に亘って形成されている。
側面電極82a2は、圧力室61の内面のうちX方向で向かい合う一対の内側面61bそれぞれに、全域に亘って形成されている。側面電極82a2の上端縁は、底面電極82a1に接続されている。なお、第1個別電極82aは、圧力室61の内面のうち少なくとも一部に形成されていればよい。また、第1個別電極82aは、圧力室61の内面に加え、アクチュエータプレート53(仕切壁64)の下面のうち圧力室61の周囲に位置する部分に連なっていてもよい。
【0047】
図3図5に示すように、第2個別電極82bは、第2共通電極81bとの間で電位差を生じさせるとともに、第1共通電極81aとの間で電位差を生じさせる。第2個別電極82bは、アクチュエータプレート53の上面において、第2共通電極81bに対してX方向の両側に位置する部分にそれぞれ形成されている。各第2個別電極82bは、第2共通電極81bに対してX方向に間隔をあけた状態でY方向に延びている。第2個別電極82bにおけるX方向の幅は、第1共通電極81aにおけるX方向の幅よりも狭い。
【0048】
各第2個別電極82bのうち+X側に位置する第2個別電極82b(以下、+X側個別電極82b1という。)は、+X側共通電極81a1との間で電位差を生じさせる。+X側個別電極82b1の一部は、Z方向から見て仕切壁64aと重なり合っている。+X側個別電極82b1は、仕切壁64a上において+X側共通電極81a1とZ方向で向かい合っている。
【0049】
各第2個別電極82bのうち-X側に位置する第2個別電極82b(以下、-X側個別電極82b2という。)は、-X側共通電極81a2との間で電位差を生じさせる。-X側個別電極82b1の一部は、Z方向から見て仕切壁64bと重なり合っている。-X側個別電極82b2は、仕切壁64b上において-X側共通電極81a2とZ方向で向かい合っている。なお、隣り合う圧力室61間において、一の圧力室61における+X側個別電極82b1と、他の圧力室61における-X側個別電極82b2と、は側壁62a,62b上においてX方向に離間している。
【0050】
図5に示すように、引き回し配線82cは、アクチュエータプレート53の上面において、各圧力室61において対応する第2個別電極82bの+Y側端部同士を接続している。
【0051】
図6に示すように、個別パッド82dは、カバープレート55の上面に形成されている。個別パッド82dは、カバープレート55の上面のうち、Z方向から見て圧力室61と重なり合う部分をY方向に延びている。
【0052】
図4図6に示すように、貫通配線82eは、対応する第1個別電極82a、第2個別電極82b、引き回し配線82c及び個別パッド82d間を接続している。貫通配線82eは、アクチュエータプレート53をZ方向に貫通して設けられている。具体的に、アクチュエータプレート53、第2フィルム54及びカバープレート55のうち第1個別電極82aに対して+Y側に位置する部分には、個別配線用孔93が形成されている。個別配線用孔93は、各圧力室61に応じて個別に形成されている。対応する第1共通電極81a、引き回し配線82c及び個別パッド82dにおける+Y側端縁は、個別配線用孔93の開口縁において、貫通配線82eに接続されている。なお、個別配線用孔93は、各圧力室61に対して一括で設けられていてもよい。
【0053】
図3に示すように、駆動配線75のうち下方を向く部分は、第1フィルム52に覆われている。具体的に、駆動配線75のうち、第1共通電極81a、第1個別電極82a、引き回し配線81c,82c及び貫通配線81e,82eは、第1フィルム52に覆われている。第1フィルム52は、共通配線用孔91及び個別配線用孔93の下端開口部を下方から閉塞している。これにより、圧力室61内と各配線用孔91,93との連通が遮断されている。一方、駆動配線75のうち上方を向く部分は、第2フィルム54に覆われている。具体的に、駆動配線75のうち、第2共通電極81b、第2個別電極82b及び貫通配線81e,82eは、第2フィルム54に覆われている。
【0054】
カバープレート55の上面には、フレキシブルプリント基板(不図示)が圧着されている。フレキシブルプリント基板は、カバープレート55の上面において、共通パッド81d及び個別パッド82dに実装されている。
【0055】
[プリンタ1の動作方法]
次に、上述したように構成されたプリンタ1を利用して、被記録媒体Pに文字や図形等を記録する場合について以下に説明する。
なお、初期状態として、図1に示す4つのインクタンク4にはそれぞれ異なる色のインクが十分に封入されているものとする。また、インクタンク4内のインクがインク循環機構6を介してインクジェットヘッド5内に充填された状態となっている。
【0056】
このような初期状態のもと、プリンタ1を作動させると、被記録媒体Pが搬送機構2,3のローラ11,12に挟み込まれながら+X側に搬送される。また、これと同時にキャリッジ29がY方向に移動することで、キャリッジ29に搭載されたインクジェットヘッド5がY方向に往復移動する。
インクジェットヘッド5が往復移動する間に、各インクジェットヘッド5よりインクを被記録媒体Pに適宜吐出させる。これにより、被記録媒体Pに対して文字や画像等の記録を行うことができる。
【0057】
ここで、各インクジェットヘッド5の動きについて、以下に詳細に説明する。
第1実施形態のような循環式サイドシュートタイプのインクジェットヘッド5では、まず図2に示す加圧ポンプ24及び吸引ポンプ25を作動させることで、循環流路23内にインクを流通させる。この場合、インク供給管21を流通するインクは、入口側共通流路60aを通して各圧力室61内に供給される。各圧力室61内に供給されたインクは、各圧力室61をY方向に流通する。その後、インクは、出口側共通流路60bに排出された後、インク排出管22を通してインクタンク4に戻される。これにより、インクジェットヘッド5とインクタンク4との間でインクを循環させることができる。
【0058】
そして、キャリッジ29(図1参照)の移動によってインクジェットヘッド5の往復移動が開始されると、フレキシブルプリント基板を介して共通電極81a,81b及び個別電極82a,82b間に駆動電圧が印加される。この際、共通電極81a,81bを基準電位GNDとし、個別電極82a,82bを駆動電位Vddとして駆動電圧を印加する。
【0059】
図7は、ヘッドチップ50について、インク吐出時における変形の挙動を説明するための説明図である。
図7に示すように、駆動電圧の印加により、第1共通電極81a及び第1個別電極82a間、並びに第2共通電極81b及び第2個別電極82b間には、X方向で電位差が生じる。X方向に生じた電位差により、アクチュエータプレート53は、シェアモードによりZ方向に厚み滑り変形する。具体的に、第1共通電極81a及び第1個別電極82a間には、X方向で互いに離れる向きに電界が生じる(矢印E1参照)。また、アクチュエータプレート53の上面において、第2共通電極81b及び第2個別電極82b間には、X方向で互いに接近する向きに電界が生じる(矢印E2参照)。その結果、アクチュエータプレート53のうち、各圧力室61に対応する部分は、X方向の両端部から中央部に向かうに従い上方に向けてせん断変形する。特に、本実施形態では、圧力室61の内側面61bに側面電極82a2が形成されているため、側面電極82a2と第1共通電極81aとの間に発生する電位差によってX方向の外側に向かうに従い下方に向いた状態で電界が発生する。そのため、仕切壁64a,64bにX方向の外側かつ上方に変形し易い。
【0060】
一方、第1共通電極81a及び第2個別電極82b間、並びに第1個別電極82a及び第2共通電極81b間には、Z方向で電位差が生じる。Z方向に生じた電位差により、アクチュエータプレート53には分極方向(Z方向)に平行な方向に電界が生じる(矢印E0参照)。その結果、アクチュエータプレート53は、ベンドモードによりZ方向に伸縮変形する。すなわち、第1実施形態のヘッドチップ50では、アクチュエータプレート53のシェアモード及びベンドモードに起因する変形が、何れもZ方向に及ぶことになる。具体的に、駆動電圧の印加により、アクチュエータプレート53は、圧力室61から離間する向きに変形する。これにより、圧力室61内の容積が拡大する。その後、駆動電圧をゼロにすると、アクチュエータプレート53が復元することで、圧力室61内の容積が元に戻ろうとする。アクチュエータプレート53が復元する過程で、圧力室61内の圧力が増加し、圧力室61内のインクがノズル孔71を通じて外部に吐出される。外部に吐出されたインクが被記録媒体Pに着弾することで、被記録媒体Pに印刷情報が記録される。
【0061】
ここで、第1実施形態のヘッドチップ50は、アクチュエータプレート53に電界を生じさせることで、Z方向(厚さ方向)及びX(交差方向)にアクチュエータプレート53を変形させ、圧力室61の容積を拡大又は縮小させる駆動電極(共通電極81a,81b及び個別電極82a,82b)を備える構成とした。
この構成によれば、アクチュエータプレート53によって圧力室61を形成することで、例えばアクチュエータプレート53とは別部材に圧力室を形成する場合に比べ、アクチュエータプレート53の変形に伴う圧力室61内の圧力変動時において、別部材の変形によって弾性エネルギーが吸収されることを抑制できる。これにより、圧力室61内のインクに対して効果的に弾性エネルギーを伝え、圧力室61の発生圧力を向上させることができる。また、別部材に圧力室を形成する場合に比べて、製造効率の向上や低コスト化を図ることができる。
その上で、第1実施形態では、アクチュエータプレート53が駆動電極によってZ方向及びX方向に変形させられることで、例えばアクチュエータプレート53がZ方向及びX方向の何れかの方向のみに変形させられる構成に比べ、発生圧力を確保できる。
【0062】
第1実施形態のヘッドチップ50において、駆動電極は、圧力室61の内面に形成された第1個別電極(第1電極)87aと、アクチュエータプレート53の下面(第1面)に形成された第1共通電極(第2電極)81aと、アクチュエータプレート53の上面(第2面)において第1個別電極82aと向かい合って設けられた第2共通電極(第2電極)81bと、を備える構成とした。
この構成によれば、第1個別電極87a及び第1共通電極81a間に電位差を発生させることで、アクチュエータプレート53の分極方向に交差する方向に電界を発生させることができる。これにより、アクチュエータプレート53をシェアモード(ルーフシュート型)でX方向に変形させることで、圧力室61の容積を変化させることができる。また、第1個別電極87a及び第2共通電極81b間に電位差を発生させることで、アクチュエータプレート53の分極方向にも電界を発生させることができる。これにより、アクチュエータプレート53をベンドモード(バイモルフ型)でZ方向に変形させることで、圧力室61の容積を変化させることができる。すなわち、シェアモード及びベンドモードの双方でアクチュエータプレート53をZ方向及びX方向に変形させることで、インク吐出時における圧力室61内の発生圧力を向上させることができる。
【0063】
第1実施形態のヘッドチップ50において、駆動電極は、アクチュエータプレート53の上面において第1共通電極81aに向かい合って設けられた第2個別電極(第2対向電極)82bを備える構成とした。
この構成によれば、アクチュエータプレート53の上面において、第2共通電極81b及び第2個別電極82bが隣り合って形成されるので、第2共通電極81b及び第2個別電極82b間に発生する電位差によってアクチュエータプレート53をシェアモードにより変形させることができる。
また、第1共通電極81a及び第2個別電極82b間に発生する電位差によってアクチュエータプレート53をベンドモードにより変形させることができる。その結果、発生圧力の更なる向上及び、省電力化を図ることができる。
【0064】
第1実施形態のヘッドチップ50において、アクチュエータプレート53の分極方向は、Z方向の全体に亘って一方向に設定されている構成とした。
この構成によれば、構成の簡素化や低コスト化を図ることができる。
【0065】
第1実施形態のインクジェットヘッド5及びプリンタ1では、上述したヘッドチップ50を備えているので、所望の吐出性能が発揮できる高品質なインクジェットヘッド5及びプリンタ1を提供できる。
【0066】
(第2実施形態)
図8は、第2実施形態に係るヘッドチップ50の断面図である。
図8に示すように、第2実施形態に係るヘッドチップ50は、第1実施形態に係るヘッドチップ50に対し、第2個別電極82b(図3参照)を除いた構成である。したがって、アクチュエータプレート53の上面には、第2共通電極81bのみしか形成されていない。
【0067】
第2実施形態によれば、第2個別電極82bを除くことで、電極の面積を削減でき、アクチュエータプレート53の静電容量を小さくすることができる。そのため、アクチュエータプレート53の応答性を向上させることができるとともに、アクチュエータプレート53での発熱も抑制できる。
【0068】
(第3実施形態)
図9は、第3実施形態に係るヘッドチップ50の断面図である。
図9に示すヘッドチップ50において、アクチュエータプレート53の上面のうち、第1共通電極81aと向かい合う位置には、第3共通電極300が形成されている。第3共通電極300は、第2共通電極81bに対してX方向の両側に位置する部分にそれぞれ形成されている。第3共通電極300は、第2共通電極81bに対してX方向に間隔をあけた状態でY方向に延びている。
【0069】
各第3共通電極300のうち+X側に位置する第3共通電極300aの一部は、Z方向から見て仕切壁64aと重なり合っている。第3共通電極300aは、側壁62a上において+X側共通電極81a1とZ方向で向かい合っている。
【0070】
各第3共通電極300のうち-X側に位置する第3共通電極300bの一部は、Z方向から見て側壁62bと重なり合っている。第3共通電極300bは、仕切壁64b上において-X側共通電極81a2とZ方向で向かい合っている。なお、隣り合う圧力室61間において、一の圧力室61における第3共通電極300aと、他の圧力室61における第3共通電極300bと、は仕切壁64a,64b上においてX方向に離間している。
【0071】
第3実施形態のヘッドチップ50では、アクチュエータプレート53の上面に共通電極(第2共通電極81b及び第3共通電極300)のみが配置されるので、アクチュエータプレート53の上面での短絡のリスクを抑制できる。なお、第2共通電極81b及び第3共通電極300を一体化してもよい。
【0072】
(第4実施形態)
図10は、第4実施形態に係るヘッドチップ50の断面図である。
図10に示すヘッドチップ50において、アクチュエータプレート53には、溝部400が形成されている。溝部400は、アクチュエータプレート53の上面のうち、圧力室61に対してX方向の両側に位置する部分が下方に窪んで形成されている。図示の例において、溝部400は、アクチュエータプレート53のうち、第2共通電極81bに対してX方向の両側にそれぞれ設けられている。
【0073】
溝部400におけるZ方向の深さは、圧力室61におけるZ方向の深さよりも深い。溝部400におけるX方向の幅は、圧力室61におけるX方向の幅よりも狭い。なお、溝部400におけるY方向の長さは、圧力室61におけるY方向の長さと同等になっている。但し、溝部400の各種寸法は、適宜変更が可能である。
【0074】
溝部400の内面には、第3共通電極(溝内電極)401が形成されている。本実施形態において、第3共通電極401は、溝部400の内面全域に亘って形成されている。但し、第3共通電極401は、溝部400の内面のうち、少なくとも一部に形成されていればよい。
【0075】
第4実施形態のヘッドチップ50では、第1個別電極82aと第3共通電極401との間に生じる電位差によって、アクチュエータプレート53には分極方向に交差する方向に電界が生じる。その結果、仕切壁64a,64bは、シェアモードにより上方に向かうに従いX方向の外側に倒れ込むように厚み滑り変形する。これにより、インク吐出時において、溝部400の容積が拡大又は縮小するように仕切壁64a,64bが変形する。すなわち、溝部400が仕切壁64a,64bの変形を許容する逃げ部として機能することから、アクチュエータプレート53の変形量を確保し易くなり、圧力室61の発生圧力を向上させることができる。
【0076】
なお、第4実施形態では、アクチュエータプレート53がモノポールタイプである構成について説明したが、この構成に限られない。図11に示すように、アクチュエータプレート53は、Z方向における分極方向が異なる(向かい合う)2枚の圧電プレートが積層された構成(いわゆる、シェブロンタイプ)であってもよい。図示の例において、アクチュエータプレート53は、圧力室61におけるZ方向の中央部を起点に分極方向が異なっている。
【0077】
この構成によれば、第1個別電極82aと第3共通電極401との間に生じる電位差により、アクチュエータプレート53(各圧電プレート)には分極方向(Z方向)に直交する方向に電界が生じる。その結果、各圧電プレートが、シェアモードによりX方向に厚み滑り変形することで、圧力室61のZ方向の中央部を起点にして、仕切壁64a,64bがV字状に屈曲変形する。すなわち、仕切壁64a,64bは圧力室61の容積が拡大するように変形する。これにより、電圧印加時における仕切壁64a,64bのX方向での変形量を確保し易くなり、アクチュエータプレート53の弾性エネルギーを確保し易い。
【0078】
また、第4実施形態では、溝部400に第3共通電極401が形成された構成について説明したが、この構成に限られない。例えば図12に示すように、アクチュエータプレート53のうち圧力室61に対してX方向の両側に溝部400のみが設けられていてもよい。このような構成においても、仕切壁64a,64bが変形する際に、溝部400が仕切壁64a,64bの変形を許容する逃げ部として機能する。これにより、アクチュエータプレート53の変形量を確保し易くなる。
【0079】
(第5実施形態)
図13に示すヘッドチップ50において、アクチュエータプレート53の上面のうち、溝部400に対してX方向の内側に位置する部分には、第2個別電極82bが設けられている。第2個別電極82bは、第2共通電極81bと第3共通電極401との間に間隔をあけた状態でY方向に延びている。
【0080】
第5実施形態において、インク吐出時には、第2共通電極81b及び第2個別電極82b間に生じた電位差により、アクチュエータプレート53をシェアモードによってZ方向に厚み滑り変形させることができる。これにより、圧力室61内の発生圧力を向上させることができる。
【0081】
(第6実施形態)
図14に示すヘッドチップ50において、溝部400はアクチュエータプレート53を貫通している。図示の例において、第3共通電極401と第1共通電極81aとは一体に連なっている。但し、第3共通電極401と第1共通電極81aとは、離間していてもよい。
【0082】
第6実施形態では、溝部400がアクチュエータプレート53を貫通しているので、インク吐出時における仕切壁64a,64bの変形を許容し易い。そのため、圧力室61の発生圧力を向上させることができる。なお、第6実施形態のヘッドチップ50についても、図15に示すようにアクチュエータプレート53にシェブロンタイプを用いてもよい。
【0083】
(その他の変形例)
なお、本開示の技術範囲は上述した実施形態に限定されるものではなく、本開示の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、上述した実施形態では、液体噴射記録装置の一例として、インクジェットプリンタ1を例に挙げて説明したが、プリンタに限られるものではない。例えば、ファックスやオンデマンド印刷機等であってもよい。
上述した実施形態では、印刷時にインクジェットヘッドが被記録媒体に対して移動する構成(いわゆる、シャトル機)を例にして説明をしたが、この構成に限られない。本開示に係る構成は、インクジェットヘッドを固定した状態で、インクジェットヘッドに対して被記録媒体を移動させる構成(いわゆる、固定ヘッド機)に採用してもよい。
上述した実施形態では、被記録媒体Pが紙の場合について説明したが、この構成に限られない。被記録媒体Pは、紙に限らず、金属材料や樹脂材料であってもよく、食品等であってもよい。
上述した実施形態では、液体噴射ヘッドが液体噴射記録装置に搭載された構成について説明したが、この構成に限られない。すなわち、液体噴射ヘッドから噴射される液体は、被記録媒体に着弾させるものに限らず、例えば調剤中に配合する薬液や、食品に添加する調味料や香料等の食品添加物、空気中に噴射する芳香剤等であってもよい。
【0084】
上述した実施形態では、Z方向が重力方向に一致する構成について説明したが、この構成のみに限らず、Z方向を水平方向に沿わせてもよい。
【0085】
上述した実施形態では、電圧の印加によって圧力室の容積が拡大する方向にアクチュエータプレートを変形させた後、アクチュエータプレートを復元させることで、インクを吐出させる構成(いわゆる、引き打ち)について説明したが、この構成に限られない。本開示に係るヘッドチップは、電圧の印加によって圧力室の容積が縮小する方向にアクチュエータプレートを変形させることで、インクを吐出させる構成(いわゆる、押し打ち)であってもよい。押し打ちを行う場合、駆動電圧の印加により、アクチュエータプレートは、圧力室内に向けて膨出するように変形する。これにより、圧力室内の容積が減少することで、圧力室内の圧力が増加し、圧力室内のインクがノズル孔を通じて外部に吐出される。駆動電圧をゼロにすると、アクチュエータプレートが復元する。その結果、圧力室内の容積が元に戻る。
【0086】
上述した実施形態では、シェアモード及びベンドモードの双方の変形モードに起因してアクチュエータプレートを厚さ方向及び交差方向に変形させる構成について説明したが、この構成に限られない。本開示のヘッドチップは、アクチュエータプレートを厚さ方向及び交差方向に変形させる構成であれば、何れの変形モードで変形させてもよい。
上述した実施形態では、ノズルプレートがアクチュエータプレートに直接接合されている構成について説明したが、この構成に限られない。ノズルプレートは、中間プレート等を介してアクチュエータプレートに接合されていてもよい。
【0087】
その他、本開示の趣旨を逸脱しない範囲で、上述した実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、上述した各変形例を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0088】
1:プリンタ(液体噴射記録装置)
5:インクジェットヘッド(液体噴射ヘッド)
50:ヘッドチップ
51:ノズルプレート(噴射孔プレート)
53:アクチュエータプレート
61:圧力室
71:ノズル孔(噴射孔)
81a:第1共通電極(駆動電極、第2電極)
81b:第2共通電極(駆動電極、第1対向電極)
82a:第1個別電極(駆動電極、第1電極)
82b:第2個別電極(駆動電極、第2対向電極)
400:溝部
401:第3共通電極(溝内電極)
751:アクチュエータプレート
753:ノズルプレート(噴射孔プレート)
761:吐出チャネル(圧力室)
775:ノズル孔(噴射孔)
【要約】
【課題】圧力室内のインクに対して効果的に弾性エネルギーを伝え、圧力室の発生圧力を向上させるヘッドチップ、液体噴射ヘッド及び液体噴射記録装置を提供する。
【解決手段】本開示の一態様に係るヘッドチップは、液体が収容される圧力室が形成されたアクチュエータプレートと、圧力室に連通する噴射孔を有し、アクチュエータプレートに対してアクチュエータプレートの厚さ方向に重ね合わされた噴射孔プレートと、アクチュエータプレートに電界を生じさせることで、厚さ方向及び厚さ方向に交差する交差方向にアクチュエータプレートを変形させ、圧力室の容積を拡大又は縮小させる駆動電極と、を備えている。
【選択図】図4
図1
図2
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