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特許7419492量子波の崩壊及び干渉を利用する無磁場、非相反、固体量子デバイス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-12
(45)【発行日】2024-01-22
(54)【発明の名称】量子波の崩壊及び干渉を利用する無磁場、非相反、固体量子デバイス
(51)【国際特許分類】
   H01L 29/66 20060101AFI20240115BHJP
   G06E 3/00 20060101ALI20240115BHJP
   G02F 3/00 20060101ALN20240115BHJP
【FI】
H01L29/66 Z
G06E3/00
G02F3/00
【請求項の数】 24
(21)【出願番号】P 2022501349
(86)(22)【出願日】2020-07-03
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-09-28
(86)【国際出願番号】 EP2020068812
(87)【国際公開番号】W WO2021018515
(87)【国際公開日】2021-02-04
【審査請求日】2022-03-09
(31)【優先権主張番号】19188523.5
(32)【優先日】2019-07-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】301033396
【氏名又は名称】マックス-プランク-ゲゼルシャフト ツール フォーデルング デル ヴィッセンシャフテン エー.ヴェー.
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】マンハルト ヨッヒェン
(72)【発明者】
【氏名】ブラーク ダニエル
(72)【発明者】
【氏名】ボシュケル ヨハネス アルノルドゥス
(72)【発明者】
【氏名】ブレドール フィリップ ミハエル
【審査官】恩田 和彦
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2011/0017284(US,A1)
【文献】国際公開第2019/060589(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2008/0136454(US,A1)
【文献】J. Mannhart,Non-reciprocal Interferometers for Matter Waves,Journal of Superconductivity and Novel Magnetism,米国,Springer,2018年03月26日,31,1649-1657
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 29/66
G06E 3/00
G02F 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも第1のポートと第2のポートとの間に接続された伝送構造と、
前記伝送構造を、前記第1のポートと前記第2のポートの間に外部電圧が印加されない環境にする筐体と、
を備え、
第1の量子波は、前記第1のポート及び前記第2のポートから放射され、前記第1のポートから前記第2のポートへの順方向及び前記第2のポートから前記第1のポートへの逆方向に前記伝送構造を通過し、
前記第1のポート及び前記第2のポートと共に前記伝送構造のユニットは、前記第1のポート及び前記第2のポートを結ぶ方向に非対称であり、
前記伝送構造又は前記第1のポート及び前記第2のポートは、前記第1の量子波の波動関数が、前記伝送構造又は前記第1のポート及び前記第2のポートにおいて少なくとも部分的な崩壊又はデコヒーレンスを経験するように更に構成されるか、又は、前記第1の量子波の波動関数が、前記第1のポート及び前記第2のポートにおいて少なくとも部分的な崩壊又はデコヒーレンスによって生成されるように更に構成され、
前記第1の量子波の少なくとも部分的な崩壊又はデコヒーレンスによって生成された第2の量子波は、前記第1のポート及び前記第2のポートのいずれかに伝搬するか、又は、更なる第2の量子波を生成する、
量子デバイス。
【請求項2】
前記伝送構造は、前記伝送構造を順方向に移動する第1の量子波に対する、前記伝送構造を通過する横断時間が、前記伝送構造を逆方向に移動する第1の量子波よりも短くなるように設計され、
伝送時間差は、前記量子デバイスに実装された前記伝送構造に沿うデバイスの非対称性によって引き起こされる、
請求項1に記載の量子デバイス。
【請求項3】
前記第1のポート及び前記第2のポートは、異なる材料及び/又は異なる特性を有する材料を備える、又は、異なる材料及び/又は異なる特性を有する材料から構成される、
請求項1又は2に記載の量子デバイス。
【請求項4】
デバイスの非対称性は、前記量子デバイスに組み込まれた欠陥の非対称分布によって提供される、
請求項1から3のいずれか一項に記載の量子デバイス。
【請求項5】
前記第1の量子波及び前記第2の量子波は、電子のド・ブロイ波で与えられる、
請求項1から4のいずれか一項に記載の量子デバイス。
【請求項6】
前記伝送構造は、半導体、金属、2次元材料、1つ以上の2次元材料を含む多層膜、分子性導体、又は、導電性有機材料の電子導体から作製された構造からなる、
請求項1から5のいずれか一項に記載の量子デバイス。
【請求項7】
前記伝送構造は、磁場内又は温度勾配内で動作される、
請求項1からのいずれか一項に記載の量子デバイス。
【請求項8】
前記少なくとも部分的な崩壊は、非弾性散乱又はデコヒーレンスによって引き起こされる、
請求項1からのいずれか一項に記載の量子デバイス。
【請求項9】
前記崩壊は、前記量子デバイスに存在する又は組み込まれた構造、欠陥、準粒子又は物体によって生成される、
請求項1からのいずれか一項に記載の量子デバイス。
【請求項10】
前記第1の量子波の平均位相破壊時間は、順方向又は逆方向に移動する前記第1の量子波の間の横断時間差の10-3から10の範囲内である、
請求項1からのいずれか一項に記載の量子デバイス。
【請求項11】
前記伝送構造の幾何学的非対称性は、前記伝送構造に組み込まれた第2の伝送構造の幾何学的形状によって達成される、
請求項1から10のいずれか一項に記載の量子デバイス。
【請求項12】
前記第2の伝送構造は単一連結されている、
請求項11に記載の量子デバイス。
【請求項13】
前記第2の伝送構造は多重連結されている。
請求項11又は12に記載の量子デバイス。
【請求項14】
前方又は後方に移動する前記第1の量子波の間の横断時間差は、2つの前記第1のポート及び前記第2のポートの違いによって達成され、2つの前記第1のポート及び前記第2のポートの違いは、2つの前記第1のポート及び前記第2のポートから放射される波束によって達成され、当該波束は、当該波束の包絡関数の形状の違いによって達成される、
請求項1から13のいずれか一項に記載の量子デバイス。
【請求項15】
前記伝送構造の作用は、部品を移動もしくは回転させることによって、伝送路の伝送特性を変更することによって、又は、機械的、電気的、磁気的もしくは光学的手段により特性を変更することによって、変更される、
請求項1から14のいずれか一項に記載の量子デバイス。
【請求項16】
請求項1から15のいずれか一項に記載の量子デバイスについて、複数の前記量子デバイスの1次元、2次元、又は、3次元の配列からなり、アレイ型構造を形成する配列を含む、デバイス。
【請求項17】
前記配列は、結晶格子による固体の格子構造によって与えられる、
請求項16に記載のデバイス。
【請求項18】
前記配列は、有機分子又は2次元材料からなる、
請求項16に記載のデバイス。
【請求項19】
請求項1から15のいずれか一項に記載の量子デバイスについて、1つ以上の前記量子デバイスの使用法であって、
熱力学の第0法則又は第2法則からの逸脱を実現する1つ以上のデバイスであり、
システムを熱平衡状態から移行させ、
1つの物体内又は複数の物体間に温度差又は電圧差を発生させ、
粒子、情報、運動量、角運動量、電荷、磁気モーメント、又は、エネルギーを輸送し、
電流又は電力を発生させる、
使用法。
【請求項20】
前記デバイスは、1mK~4000Kの範囲の温度で作動する、
請求項19に記載の使用法。
【請求項21】
前記第1の量子波又は前記第2の量子波のエネルギー分布は、少なくとも部分的に熱エネルギーによって生成される、
請求項19又は20に記載の使用法。
【請求項22】
前記デバイスは、エネルギー、波動、又は、物質の貯蔵システムを満たし、前記貯蔵システムとしては、コンデンサ又はバッテリーを含む、
請求項19から21のいずれか一項に記載の使用法。
【請求項23】
前記筐体は、前記伝送構造を、磁場が印加されない環境にする、
請求項1に記載の量子デバイス。
【請求項24】
少なくとも第1のポートと第2のポートとの間に接続され、少なくとも前記第1のポート及び前記第2のポートが、欠陥の非対称分布によって提供される異なる特性を有する材料を含む、又は、当該材料からなる、伝送構造を備え、
第1の量子波は、前記第1のポート及び前記第2のポートから放射され、前記第1のポートから前記第2のポートへの順方向及び前記第2のポートから前記第1のポートへの逆方向に前記伝送構造を通過し、
前記第1のポート及び前記第2のポートと共に前記伝送構造のユニットは、前記第1のポート及び前記第2のポートを結ぶ方向に非対称であり、
少なくとも前記第1のポート及び前記第2のポートは、前記第1の量子波の波動関数が、前記伝送構造又は前記第1のポート及び前記第2のポートにおいて少なくとも部分的な崩壊又はデコヒーレンスを経験するように更に構成されるか、又は、前記第1の量子波の波動関数が、前記第1のポート及び前記第2のポートにおいて少なくとも部分的な崩壊又はデコヒーレンスによって生成されるように更に構成され、
前記第1の量子波の少なくとも部分的な崩壊又はデコヒーレンスによって生成された第2の量子波は、前記第1のポート及び前記第2のポートのいずれかに伝搬するか、又は、更なる第2の量子波を生成する、
量子デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、2つ以上の物体を新しい平衡状態に移行させるため、量子波の少なくとも部分的な崩壊又はデコヒーレンス及び量子波の干渉を利用する、第1及び第2のポート間の伝送構造を有する非相反固体量子デバイスに関する。伝送構造又はポートの非対称性により、印加された磁場がなくても、デバイスは機能することができる。本開示は、また、このような量子デバイスを動作させる方法、及び、多数の異なるデバイスにおける1つ以上のこのような量子デバイスの使用法に関する。
【背景技術】
【0002】
以下の説明においては、以下の文献を参照する。
1.非特許文献1
2.非特許文献2
3.非特許文献3
4.非特許文献4
5.特許文献1
6.特許文献2
7.特許文献3
8.非特許文献5
9.非特許文献6
10.非特許文献7
11.非特許文献8
12.非特許文献9
13.非特許文献10
14.非特許文献11
15.非特許文献12
16.非特許文献13
17.非特許文献14
18.非特許文献15
19.非特許文献16
20.非特許文献17
21.非特許文献18
22.非特許文献19
23.非特許文献20
24.非特許文献21
【0003】
文献(Mannhart, Braak, EP Application “Nonreciprocal filters for matter waves”(特許文献2); No. 18 180 759.5(特許文献3); Mannhart 2018A(非特許文献1); Mannhart 2018B(非特許文献2); Mannhart 2019(非特許文献3))において、磁場を用いて量子波を変化させることにより、熱力学の第2法則を破る非相反固体量子デバイスが開示されている。文献(Braak, 2018(非特許文献4); Braak EP Patent Application No. 18194460(特許文献1))において、更に、キラル構造に基づく光システムを用いて関連機能を実現するデバイスが開示されている。本発明は、磁場やキラル構造を適用する必要がなく、量子波の崩壊と干渉及び適切なデバイス非対称性のみを利用する、より単純な固体デバイスによって、熱力学の第0法則と第2法則の破れと同等のものを提供し、よって、その応用性を強化する方法を示す。ここに開示されたデバイスは、磁場の必要性がなくなったにもかかわらず、その使用法の多くの特徴や機能の一部において、文献(D. Braak and J. Mannhart, European Patent Application No. 18 180 759.5 “A Nonreciprocal Device Comprising Asymmetric Phase Transport of Waves”(特許文献3))に開示されたデバイスと似ている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】欧州特許出願第18194460.4号(D. Braak、J. Mannhart)
【文献】欧州特許出願第18159767.5号「Nonreciprocal Filters for Matter Waves」(J. Mannhart)
【文献】欧州特許出願第18180759.5号「A Nonreciprocal Device Comprising Asymmetric Phase Transport of Waves」(D. Braak、J. Mannhart)
【非特許文献】
【0005】
【文献】J. Mannhart, J. Supercond. Novel. Magn. 31, 1649 (2018)
【文献】J. Mannhart and D. Braak, J. Supercond. Novel. Magn. 10.1007/s10948-018-4844-(2018)
【文献】J. Mannhart, P. Bredol, and D. Braak, Physica E 109, 198-200 (2019)
【文献】“Inconsistency between Thermodynamics and Probabilistic Quantum Processes” D. Braak and J. Mannhart arXiv: 1811.02983 (2018)
【文献】C. Cohen-Tannoudji, B. Diu, F. Laloe, Quantum Mechanics, Wiley, 2005
【文献】Y. Imry, “Introduction to Mesoscopic Physics”, Oxford University Press (2002)
【文献】S. Datta, “Electronic Transport in Mesoscopic Systems”, Cambridge University Press (1995).
【文献】J. Johnson, Phys. Rev. 32, 97 (1928).
【文献】H. Nyquist, Phys. Rev. 32, 110 (1928).
【文献】J.M.R. Parrondo and B.J. de Cisneros, Appl. Phys. A 75, 179-191 (2002)
【文献】P. Hanggi, Rev. Mod. Phys. 81, 387-442 (2009)
【文献】C.A. Marlow et al., Phys. Rev. Lett. 96, 116801 (2006)
【文献】D.M. Zumbuhl et al., Phys. Rev. Lett. 96, 206802 (2006)
【文献】R. Leturcq et al., Phys. Rev. Lett. 96, 126801 (2006)
【文献】V. Krstic et al., J. Chem. Phys. 117, 11315-11319 (2002)
【文献】Th. M. Nieuwenhuizen, A.E. Allahverdyan, Phys. Rev. E, 036102 (2002).
【文献】S. Vinjanampathy and J. Anders, Contemporary Physics 57, 545 (2016).
【文献】Z. Merali, Nature 551, 20 (2017)
【文献】D.K. Ferry, S.M. Goodnick, and J. Bird, “Transport in Nanostructures”, Cambridge University Press (2009)
【文献】L.E. Reichl, “A Modern Course in Statistical Physics”, E. Arnold, 1980
【文献】V. Capek and D.P. Sheehan, “Challenges to the Second Law of Thermodynamics”, Springer 2005
【発明の概要】
【0006】
本開示の第1の態様によれば、量子デバイスは、少なくとも第1のポートと第2のポートとの間に接続された伝送構造を備え、第1の量子波は、第1及び第2のポートから放射され、第1のポートから第2のポートへの順方向及び第2のポートから第1のポートへの逆方向に伝送構造を通過し、第1及び第2のポートと共に伝送構造のユニットは、ポートを結ぶ方向に非対称であり、伝送構造又は第1及び第2のポートは、第1の量子波の波動関数が、伝送構造又は第1及び第2のポートにおいて少なくとも部分的な崩壊又はデコヒーレンスを経験するように更に構成されるか、又は、第1の量子波の波動関数が、第1及び第2のポートにおいて少なくとも部分的な崩壊又はデコヒーレンスによって生成されるように更に構成され、第1の量子波の少なくとも部分的な崩壊又はデコヒーレンスによって生成された第2の量子波は、第1及び第2のポートのいずれかに伝搬するか、又は、更なる第2の量子波を生成する。
【0007】
第1の実施の形態によれば、ポートAからポートBへ移動する波が、ポートBからポートAへ移動する量子波よりもデバイス内で短い時間となるように、第1の量子波の伝送時間の非対称性を引き起こすことができる。この伝送時間差は、磁場やキラル構造を必要とせずに引き起こされる。これにより、ポートBからポートAに移動する量子波の崩壊数は、逆方向に移動する量子波の崩壊数よりも多くなる。
【0008】
この崩壊数が多いほど、デバイス内においてランダムな移動方向で生成される第2の量子波の数が多くなる。従って、ポートA及びBが同数の量子波を放射しても、ポートAからポートBへの量子波の正味の輸送が実現する。
【0009】
第2の実施の形態によれば、第1及び第2ポートは異なる材料で製造され、これは、伝送構造を介して異なる遷移時間に直面する異なる波束の放射をもたらす。
【0010】
本開示の第2の態様によれば、第1の態様による1つ以上の量子デバイスは、量子波が電子のド・ブロイ波又は光子の電磁波によって与えられる1つ以上のデバイスに使用される。
あるデバイスにおいては、第1の波は、熱源から得られたエネルギーを有する量子、又は、Tを環境温度とすると、0<E<100kTとなるようなkTオーダーの励起エネルギーEを有する量子からなる。
あるデバイスにおいては、量子力学的な状態の重ね合わせと波動関数の少なくとも部分的な崩壊とを利用して、熱力学の第0法則又は第2法則の1つ以上からの逸脱を実現する。
あるデバイスにおいては、波動関数の少なくとも部分的な量子物理的崩壊又は量子力学的な状態の重ね合わせと波動関数の少なくとも部分的な崩壊とを利用して、構成要素の温度が等しいことを特徴とする熱平衡状態の範囲外へシステムを移行する。
あるデバイスにおいては、波動関数の少なくとも部分的な量子物理的崩壊又は量子力学的な状態の重ね合わせと波動関数の少なくとも部分的な崩壊とを利用して、1つの物体内又は複数の物体間に温度差又はエネルギー密度差を発生させる。
あるデバイスにおいては、加熱、冷却、物質輸送、エネルギー輸送、又は、発電を行う。
【0011】
本開示の第3の態様によれば、第1の態様の量子デバイスを動作させる方法は、第1の波の1つ以上のソースを提供することを含み、第1の波の少なくとも1つのソースは、環境と熱的に接触して保持される。環境は、室温である部屋のような自然環境でもよいし、又は、自由な自然の中の場所でもよい。また、デバイスを収納した空洞等の人工的な環境、又は、例えば、水浴もしくは加熱炉を備える温度浴等の人工的な環境でもよい。
【0012】
一実施の形態によれば、外部電圧がなく、後述する量子デバイスは、第1ポートAと第2ポートBとの間に外部電圧を印加する必要がない。
【0013】
一実施の形態によれば、量子デバイスは、量子力学的な状態の重ね合わせと波動関数の少なくとも部分的な崩壊又はデコヒーレンスを利用して、線形応答領域で動作するように構成される。信号理論や輸送理論では、線形応答領域は非線形応答領域と区別される。ここでは、輸送理論の例を用いて、その違いを明らかにする。本発明者等は、入力信号として電流Iでバイアスされた電線等のシステムを取り上げる。そのとき、電線は電圧V(出力信号)を発生させる。小さい電流バイアスの場合、オーミック輸送の領域では、VはIに比例して直線的に変化する。V=RI;比例定数としての抵抗値R。これが線形領域での輸送である。大きい電流バイアスの場合、電流による電線の加熱が関係してくる。また、電流によって誘導される磁場が電線の抵抗に影響を与え、そのため、それはRとは異なる値になる。この場合、Vは、Iの関数として、例えば、V=RI+aI+...のように、非線形的に変化する(=非線形領域)。
【0014】
当業者であれば、以下の詳細な説明を読み、添付の図面を考慮した上で、更なる特徴や利点を認識する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
添付の図面は、実施例の理解を深めるために含まれており、本明細書に組み込まれ、その一部を構成している。図面は、実施例を示すものであり、実施例の原理を説明するための説明と共に役立つ。他の実施例及び実施例で意図された利点の多くは、以下の詳細な説明を参照することによって、よりよく理解されるようになると、容易に理解される。
図1図1は、図1A図1B図1C及び図1Dからなり、異なる幾何学的形状の2つのY字型接合部において、接合部に左から及び右から波が到達した場合の量子波の透過と反射とを示している。
図2図2は、2つのポートA及びBを結ぶ長手方向の対称性を有する伝送構造を示している。その伝送構造は、図1に導入された2つの異なるY字型接合部で構成されている。これらのY字型接合部は直列に接続されている。
図3図3は、図3A及び図3Bからなる。図3Aは、図3Bに示す構造体を左から右へ及び逆方向に移動する電子とみなす波束の遷移時間差を示している。遷移時間は、シュレーディンガー方程式を厳密対角化法で解くことで算出する。
図4図4は、横方向の非対称性を用いて、2つのポートA及びBを結ぶ伝送構造を示している。このデバイスは、面外でデバイスに印加される磁界Hも利用している。
図5図5は、長手方向の非対称性を有する単一連結体を用いて、2つのポートA及びBを結ぶ伝送構造を示している。
図6図6は、完全な対称性と単一連結領域とを用いて、2つのポートA及びBを結ぶ伝送構造を示している。このデバイスの機能は、ポートAが放射する電子波束が、それらの包絡線の形によって、ポートBから放射される波束とは異なるように、2つの接点A及びBがそれらの電子的挙動において異なることに基づいている。
図7図7は、図7A図7B図7C及び図7Dからなる。この図は、左から(図7A)と右から(図7C)到着した電子波束が、どのように、時間t1で欠陥にトラップされるかを示している。後の時刻t2で電子は解放され(図7B図7D)、入射波としての元の移動方向とは無関係に、電子は左又は右に確率的に移動する。
図8図8は、長手方向の非対称性を有する単一連結領域を用いて、2つのポートA及びBを結ぶ伝送構造を示している。描かれた伝送構造は、製造時にデバイス構造に組み込まれた5つの非弾性散乱中心を有している。
図9図9は、図9A及び図9Bからなる。図9Bは、図9Aに示した構造体を左から右へ及び逆方向に移動する電子とみなす波束の並び替え機能を示している。並べ替えは、シュレーディンガー方程式を厳密対角化法で解き、量子崩壊を引き起こす非弾性散乱の事象をモンテカルロ法により導入して計算されている。図9Bは、その構造において、左から右に移動する電子の伝送が逆方向に移動する電子の伝送よりも高いことを示している。
図10図10は、抵抗Rでループ状に電気的に接続された長手方向の非対称性を有する伝送構造を示している。配置全部は筐体によって環境から隔離されている。デバイスが熱平衡状態で開始されると、各デバイスの構成要素は、同じ温度Tで特徴付けられる。
図11図11は、抵抗Rと負荷抵抗Rがループ状に電気的に接続された長手方向の非対称性を有する伝送構造を示している。2つの電線を除いて、配置全部は筐体によって環境から隔離されている。デバイスが熱平衡状態で開始されると、各デバイスの構成要素は、同じ温度Tで特徴付けられる。負荷抵抗Rは、荷物を上げるモーターのインダクタンスで与えられてもよい。
図12図12は、図12A及び図12Bからなる。図12Aは、伝送構造の1次元アレイを示している。伝送構造の内部は完全に対称であるが、これらはデバイス機能の鍵となる長手方向の非対称性を有する接点に接続されている。図12Bは、図12Aに示したアレイを2次元的に拡張したものを示している。
図13図13は、量子波として光子を用いる伝送構造を示しており、それは、第1ポート及び第2ポートと、2つのポートを結ぶ光投影システムと、光投影システムの左右において異なる開口幅を有する2つの開口部とを有している。
【発明を実施するための形態】
【0016】
「波」という用語は、量子物体に関連するあらゆる波を表すために用いられ、例えば、光子の波、又は、粒子もしくは準粒子のド・ブロイ波等である。考慮される波は、量子力学的に記載され、例えば、[Cohen(非特許文献5)]に詳述されているような条件下で量子力学的な崩壊を起こす基本的な相互作用プロセスで生成/変更される。それに加えて、「波」という用語は、波束、例えば、ガウス包絡関数を有する波束等も含んでいる。
【0017】
「崩壊」という用語は、量子力学的な状態の少なくとも部分的な位相破壊デコヒーレンスを引き起こすあらゆるプロセスを表すために用いられる。
【0018】
以下において、量子デバイスを説明及び請求するとき、「量子デバイス」という用語は、広くかつ広範な方法で理解されることに留意すべきである。ここで明らかにされるデバイスの機能に関して、このようなデバイスは、基本的に、物質又は電磁波、例えば、光子、粒子波、準粒子波のためのデバイスとして機能する。その構造に関して、例えば、光伝送路、電磁導波路、又は、電線等が、集積回路技術を含む異なる技術的方法によって製造される人工的又は人為的な構造と理解することができる。しかしながら、それは、例えば、分子、分子化合物、側基を有するベンゼン環のような分子環等の化学成分からなる、又は、含むものと理解することもできる。更に、それは、例えば、デバイス機能を発揮する結晶構造を有する固体化合物、又は、このような結晶構造中に、もしくは、このような結晶構造から製造された固体化合物を指すこともある。
【0019】
更に、「伝送路」という用語は、物体として理解することができるが、必ずしもそう理解する必要はない。いくつかのデバイスでは、物体、例えば、1つの電線又は導波路は、1つの伝送路を有していてもよい。いくつかの他のデバイスでは、このような物体は、2つの伝送路、即ち、物体を通って伝搬する粒子の2つの対向する方向を有していてもよい。いくつかの他のデバイスでは、この用語は、特定の材料から製造された有形体又は物体として理解されるべきではない。それは、むしろ、空間における粒子又は波の仮想的な経路として理解されるべきであり、例えば、ガス状の大気中に配置されていてもよい。
【0020】
また、ここでは、「ランダム」という用語は、完全にランダムな性質のプロセスを説明するためだけに使用されない。この用語は、例えば、位相を有する波同士の干渉事象を著しく圧迫するように不規則な位相の分布を表すためにも用いられる。
【0021】
「位相コヒーレント」という用語は、デバイス内で起こる非弾性の位相破壊散乱がないことを、必ずしも意味するものではない。実際、[Imry(非特許文献6)]に示されるように、いくつかの非弾性散乱、例えば、フォノンによるものは、散乱によって影響されない波の部分の位相コヒーレンスと両立でき、デバイスの動作に有益であるか、又は、場合によっては必要とさえされる。従って、「位相コヒーレント」という用語は、デバイス内の粒子の伝送の非弾性の位相破壊散乱がないことを含むか、又は、位相破壊散乱の事象によって影響を受けない位相を有する波の一部が残るという条件で、このような事象の存在も含むものとして理解されるべきである。
【0022】
更に、1つ以上の量子デバイス又は1つ以上の量子デバイスの使用法に関連して言及されたどのような機能、注釈又はコメントも、量子デバイスを機能させるための、又は、量子デバイスを任意の種類のより大きなデバイスもしくはシステムに実装し、このようなより大きなデバイスもしくはシステムが所望の機能を満たすように量子デバイスを駆動するための、それぞれの方法の特徴又は方法のステップも開示していると理解されるべきである。
【0023】
図1A及び図1Bは、ポートAから発信し、異なる幾何学的形状の2つのY字型接合部(10.1及び10.6)上の伝送構造において衝突する2つの波束10.2を示している。これらのY字型接合部は、ポートB及びCにつながる。外部電圧は、ポートAとポートB及びCとの間には印加されていない。Y字型接合部10.1及び10.6とポートA、B及びCとの間の線は、電子を輸送するための電線を表してもよい。波束が電子のド・ブロイ波で構成されている場合、波束の時間発展は量子力学のシュレーディンガー方程式で記述される。従って、波束は3つの部分に分かれる。波束の1つの部分(10.3)はポートAに反射して戻る。波束の残りは2つの部分(10.4、10.5)に分かれる。これらの透過波束は、ポートB及びCにそれぞれ移動する。最初に衝突する波束の振幅に対する反射波束及び透過波束の振幅の相対比は、それぞれの反射係数(R)及び透過係数(T)によって記述され、R+T=1[Imry(非特許文献6)]となる。
【0024】
シュレーディンガー方程式が必要とするように、反射係数と透過係数は、波束の形状と接合構造の両方に依存する。具体的には、多くの波束において、図1B(10.6)の接合構造の反射係数は、図1A(10.1)の接合構造の反射係数より大きい。
【0025】
同様に、図1C及び図1Dに示すように、波束がY字型接合部の他方側から到達した場合、反射係数及び透過係数は波束の形状及び接合構造の関数となる。
【0026】
図2は、2つの異なる接合部を直列に接続してループを形成する伝送構造を示している。このような2端子デバイスの場合、量子状態のユニタリ発展の法則は、完全なデバイスを通る量子波の反射及び透過を特徴付ける反射係数及び透過係数が、波束の移動方向に関して対称であることを必要とする[Datta(非特許文献7)]。しかしながら、Y字型接合部の異なる係数のため、波束の時間発展は、それらがポートAから発信されるか、又は、ポートBから発信されるかに依存して異なる。1つの違いを例として挙げると、ポートAから移動する波が左のY字型接合部(20.1)によって反射されるよりも、Bからデバイスに移動する波は高い確率で右のY字型接合部(20.2)によって反射される。このように異なる波束の有効経路により、波の平均移動時間が2つの移動方向(即ち、ポートAからポートB又はその逆)で異なることになる。特に、量子波がループ内で過ごす平均時間は、移動方向の関数となる。図2は、また、「長手方向」及び「横方向」という用語を示している。
【0027】
図3Aは、図3Bに示す伝送構造を通る電子波束の通過に対する厳密対角化法によるシュレーディンガー方程式の厳密な数値解の結果を示すことによって、この驚くべき挙動を例示している。
【0028】
より具体的には、図3Aは、シュレーディンガー方程式の解の結果として、図3Bに示されるデバイスを通過する、又は、デバイスによって反射される電子波束の透過確率及び反射確率を与える。L→Lは、左から来て左に反射される電子を指し、R→Rは、右から来て右に反射される電子を指し、L→Rは、左から来て右に透過される電子を指し、R→Lは、右から来て左に透過される電子を指す。計算は、構造を横切る電子の透過及び反射を示し、デバイスが熱平衡であるように組み立てられる時間t=0psから開始する。t=0では、デバイスの各部分は同じ温度になっている。説明されたデバイスの機能により、約80psを過ぎた時点で、電子の波動関数が透過又は反射されたポートにほぼ完全に到達するように、デバイスは、図示される時間依存性で電子の波動関数の透過及び反射を開始する。図示される構造は、同一の透過確率を有する(L→R=R→L)。しかしながら、反射確率の時間依存性は異なる。これらの計算は、散乱がない場合を示している。時間単位はpsecである。この特定の例の時間目盛りは、10nmの格子点間隔と、自由電子質量、60nmの中波長及び50nmの波束幅を有する電子の運動と共に、図3Bに示されるような構造に関連する。
【0029】
図3Bは、図3Aを計算するために使用される長手方向の非対称性を有する例示的な構造を示し、これのため、シュレーディンガー方程式は、黒点として描かれた格子点を参照して、強束縛モデルを用いた厳密対角化法によって解かれている。場合によっては、これらの格子点は、例えば、原子として視覚化されてもよい。白丸は、潜在的な非弾性散乱中心の位置である格子点を示す。
【0030】
文献(Mannhart, EP Patent Application “Nonreciprocal filters for matter waves”(特許文献2); Braak, 18 180 759.5(特許文献3); Mannhart 2018A(非特許文献1); Mannhart 2018B(非特許文献2); Mannhart 2019(非特許文献3))に開示されている量子リングは、その時間遅延の挙動が同じであることが特徴である。文献(Mannhart, EP Patent Application “Nonreciprocal filters for matter waves”(特許文献2); Braak, 18 180 759.5(特許文献3); Mannhart 2018A(非特許文献1); Mannhart 2018B(非特許文献2); Mannhart 2019(非特許文献3))で明らかにされたリングでは、図4に例示されているように、リングの横方向の対称性(即ち、軌道経路に垂直な対称性、図2参照)を壊すことによって、この挙動が誘発される。横方向の対称性の破れは、ループを貫通する適切な強さの磁場Hが存在する場合にのみ、遷移時間の違いをもたらしており、これは、横方向の非対称性を長手方向の対称性の破れに結びつけるために、磁場が必要だからである。従って、文献(Mannhart, EP Patent Application “Nonreciprocal filters for matter waves”(特許文献2); Braak, 18 180 759.5(特許文献3); Mannhart 2018A(非特許文献1); Mannhart 2018B(非特許文献2); Mannhart 2019(非特許文献3))に開示されているデバイスは、磁場の適用を必要とする。長手方向の非対称性を持つデバイス(図2)は、磁場の印加を必要としない。パラメータ制御、複雑さ、サイズ、重量、コストに関して、磁場を必要としないことは、デバイスの多くの用途にとって明らかに決定的な利点となる。
【0031】
本質的に、デバイスの長手方向の幾何学的な非対称性に、崩壊事象に固有の時間反転の非対称性を併せた組み合わせは、デバイス全体を通る量子波の輸送のための時間反転の対称性の破れを誘発するのに十分である。
【0032】
長手方向の対称性から生じる時間差効果は、複数接続された経路に限定されないことに留意することが重要であり、図2が例を提供している。同じ非対称性は、図5に例示されるような、単一連結された伝送路においても実現される。これは、デバイスの中央部分の左側及び右側にそれぞれ接触する接点50.1及び50.2が異なる形状を有するので、明らかである。図2の例とは異なり、図5の例の伝送構造は、電線だけでなく、電線によってポートA及びBと接続された1つの拡張領域も含む。拡張領域は、ポートAによって放射された電子に対する接点50.1よりも、ポートBによって放射された電子に対する接点50.2が高い反射確率を有するように、長手方向の非対称性を備える。その結果、図5のデバイスは、図2のデバイスと同じように機能することができる。
【0033】
明らかにされた時間差効果は、図6に示されるように、長手方向の非対称性が接点又はポートのみによって誘導される伝送構造においても誘導されることを理解することが更に重要である。2つのポートA及びBが異なる形状の波束60.1及び60.2を放射する場合、同じ平均運動量及びエネルギーであっても、反対方向に移動する波束について、伝送時間は異なる。このような配置は、ポートA及びBが、例えば、電子又はフォノン系の状態のスペクトル密度のような電子系の異なる特性を伴う、又は、異なる欠陥集団を伴う、2つの異なる電気伝導性の接点として、異なる材料から作製される場合に提供することができる。2つの接点は、例えば、Cu及びAl、Cu及びCu合金のような2つの異なる金属材料、又は、金属及び高ドープ半導体で作ることができる。伝送構造の中心に描かれた内側の菱形部分は、任意の種類及び形状であってもよく、特に、長手方向に対称に形成することができる。
【0034】
本発明の別の重要な態様を理解することが重要であり、伝送時間の対称性が破れたデバイスの機能は、デバイス内で量子波の少なくとも部分的な位相デコヒーレンス又は少なくとも部分的な量子力学的崩壊プロセスを引き起こす特徴を伝送路に追加することによって達成される。この崩壊は、波の位相の情報の損失を引き起こしており、これは、吸収された波のマクロな浴への散逸的結合がデコヒーレンスを誘導するからである(「量子力学的測定プロセス」と呼ばれるプロセス[Cohen(非特許文献5)])。
【0035】
電子波の非弾性散乱を引き起こし、それによって、波動関数の崩壊を引き起こす、所謂、トラッピングサイトの原理的な作用を、デバイス関数に統合された崩壊事象の特徴的な挙動を説明する例として、図7A~Dを示す。
【0036】
図7Aは、左から来て、時間t1で捕捉中心70.2に衝突する電子波70.1を示しており、捕捉中心70.2は、非弾性散乱体として作用し、入射電子波70.1のエネルギーレベルよりも低いエネルギーレベル70.3で電子を捕捉する。入射電子の運動量は、例えば、基板の結晶格子により提供されるマクロな温度浴70.4に、散乱サイトにより移動される。この移動は、電子波の位相記憶の有効的損失も引き起こす。
【0037】
図7Bに示すように、後の時刻t2で、電子波は、例えば、温度浴70.4から生じる熱励起によって、この捕捉サイトから解放される。入射電子の方向及び位相の記憶の損失のため、左右に同じ確率を有する確率過程で電子は放射される。
【0038】
対称性の理由から、元は右から到達する電子(図7C)も、同じように振る舞う(図7D)。
【0039】
この非弾性散乱は、例えば、電子-フォノン散乱によって、又は、欠陥のような、伝送路を形成する結晶格子の不規則性における電子の散乱によって、一般には誘発される。従って、電子の非弾性散乱の平均散乱時間又は平均位相損失時間によって特徴付けられる非弾性散乱事象の頻度は、温度浴70.4の温度を変化させることによるフォノン密度を調整することによって、又は、例えば、欠陥の少ない結晶に意図的に欠陥を加えることにより伝送構造の格子に存在する欠陥密度を変化させることによって、制御することができる。このようにして、図8に示すような伝送構造を得ることができる。非対称な伝送時間を有する伝送構造80.1では、電子波の崩壊や緩和を引き起こす5つの非弾性散乱中心80.2が例示されている。
【0040】
図6に示されたデバイスも同様に動作する。伝送構造の内部が非弾性散乱を引き起こさない場合、デバイスは、左又は右から到達する電子に対して非相反の伝送時間を引き起こすのみである。しかしながら、伝送構造の内部が非弾性散乱中心又は捕捉中心を含む場合、デバイスは、電子に対する選別機能を発揮する。
【0041】
この時点で、本発明の要点を容易に理解し、認識することができる。デバイスの機能を説明するために、平均非弾性散乱時間が左から及び右から移動する電子の伝送時間差のオーダーになるように、非弾性散乱中心の密度が選択された場合を考慮することから始める。
【0042】
ポートAから到着した電子は、速やかに伝送構造を通過し、そのため、崩壊事象を起こす確率が小さい。従って、ポートAを離れる電子波は、ポートBに伝送される確率がかなり高い。
【0043】
しかしながら、伝送構造の幾何学的形状によって決定されるように、ポートBから到着する電子は、伝送構造内で長い時間を過ごさなければならない。従って、この電子波は、崩壊の可能性が高く、そして、図7を用いて上述したように、崩壊によって方向転換されてポートBに戻る可能性もかなり高いことを特徴とする。
【0044】
従って、伝送構造を通る透過確率は非対称であり、ポートAからBへ移動する電子波は、ポートBからAへ移動する電子波よりも、デバイスを通る透過確率が高い。
【0045】
この理解は厳密な計算によって確認され、そこでは、シュレーディンガー方程式によって記述される量子力学的状態のユニタリ発展に、モンテカルロタイプの方法によって決定された非弾性散乱の個々の事象を加えることによって、電子軌道が決定される。図9Bは、図9Aに示されるような伝送構造内を移動する電子について、このような計算の結果を示している。
【0046】
図9Aは、長手方向の非対称性を有する図3Bの例示的な構造を再び示しており、そのため、黒点として描かれた格子点を参照し、強束縛モデルを用いた厳密対角化法によって、シュレーディンガー方程式が解かれている。これらの格子点は、例えば、原子として視覚化することができる。白丸は、潜在的な非弾性散乱中心の位置である格子点を示す。
【0047】
図9Bは、非弾性散乱を考慮した場合の図9Aのデバイスの選別特性を示しており、平均散乱時間は両方向に対する反射時間差のオーダーである。図9Bは、2304個の電子の集合に対してモンテカルロ計算を行うことによって得られた。その図は、左又は右ポートを介してデバイスを離れる電子の分数電荷(即ち、確率P)を示す。具体的な例:P=0を有する電子は、左及び右に等しい確率でデバイスを離れ、P=-1の場合、電子は、デバイスを左に離れる。P=0.5の場合、電子は、75%の確率でデバイスを右に離れる。その図が示すように、全ての電子の算術平均はPav~-0.0546である。従って、右よりも左に著しく多くの電子がデバイスを離れる。即ち、デバイスは電子に対して選別機能を発揮する。
【0048】
デバイスの機能を説明するため、図8に示されたデバイスの例を用いることにより、抵抗R(100.1)を有する閉ループでデバイスが接続される回路において、デバイスの挙動を分析する(図10参照)。装置全体は、閉鎖環境(100.2)内に配置され、均一な温度Tで開始される。
【0049】
抵抗R(100.1)は温度Tで動作するので、それは、抵抗を流れる熱雑音電流の変動を引き起こし、ジョンソン-ナイキスト方程式[Johnson, 1928(非特許文献8); Nyquist, 1928(非特許文献9)]によって、Inoise=√(4kTΔf/R)として定量化される。ここで、周波数帯域Δfは、電流が誘導される実効帯域幅を表し、kはボルツマン定数である。この変動電流は、ポートA及びBを通過する電子波束からなる。デバイス(100.3)本体は、より高い透過性を有し、これにより、AからBへ移動する波束に対する抵抗が反対方向よりも小さいので、時間平均の循環電子電流Icirc(100.4)は、図10に示すように、ループ内に誘導される。Icirc(100.4)はR(100.1)を通過するので、ポートAとBとの間に生じる電圧V=Icirc×Rを伴い、ポートBはポートAよりも負となる。
【0050】
電圧V及び循環電流Icircは、ランプやモーター(図11)等の負荷抵抗Rによって特徴付けられるデバイス110.1に、電力を供給するために使用されてもよい。そのようにされる場合、これらのデバイスに電力を供給するためのエネルギーは、Tが時間と共に減少するように、Tに関連付けられた熱エネルギーによって提供される。
【0051】
技術水準との比較
【0052】
A)提示されたデバイスは、所謂、量子ラチェット[Parrondo(非特許文献10), Hanggi(非特許文献11)]を連想させる。量子ラチェットは、デバイス構造の長手方向の非対称性のために、粒子や波動の一方向への輸送を実現する。ここに開示されたデバイスとは異なり、ラチェットが機能するためには、それらは、デバイス自体と平衡ではない電源によって励起されるか、又は、「揺さぶられる」必要がある[Parrondo(非特許文献10), Hanggi(非特許文献11)]。2つのデバイスカテゴリー間の差異の理由は、ラチェットが量子崩壊事象を適切に利用できていないという事実に基づく。
【0053】
B)非対称量子ビリヤード(例えば、[Marlow(非特許文献12)]参照)、量子ドット(例えば、[Zumbuhl(非特許文献13), Marlow(非特許文献12)]参照)、キラル構造(例えば、[Krstic(非特許文献15)]参照)、非対称アハロノフ・ボームリング(例えば、[Leturcq(非特許文献14)]参照)も整流動作を起こすことが報告されている。これらの全ての場合において、それらの機能は、デバイスの非線形作用として実現され、これは、一般社会では、「非線形応答」という用語でも知られている。例えば、キラル構造では、抵抗を変化させる電子散乱の変化を生じるキラリティーによって、デバイスに送られた電流が磁場を発生させ、それによって、電流に作用する。従って、デバイス電圧の非対称性は、電流の2乗に比例する。この非線形応答は、これらのデバイス全てを、本開示で提案されるものと区別する。本開示は、量子崩壊事象とデバイスの非対称性との独特な利用であり、それは、デバイスの機能を実現するため、現在のデバイスに非線形効果を不要とし、そのため、現在のデバイスが個々の量子波を選別することを可能とする(図11参照)。実際、本発明者らが開示したデバイスが行うような崩壊過程及び非対称性を利用しないデバイスでは、線形応答において非相反輸送が不可能であることが[Buttiker, 1988]によって示されている。
【0054】
C)[Nieuwenhuizen(非特許文献16)]では、量子物理学と熱力学の第2法則との間の不一致を示すと主張されている仮説のシステムが議論されている。しかしながら、本発明者等により指摘されるように、その不一致は、極低温にのみ存在する量子力学的なもつれ状態に限定されており、それは、これらの状態がデコヒーレンス過程によって破壊されるからである。更に、そのもつれは、多粒子型でなければならない。これらの要件により、提案されたシステムは実用的な実装例としては現実的でない。これに対して、本発明は、もつれではなく、単一粒子のコヒーレンス、崩壊過程及び干渉に依存している。
【0055】
D)量子熱力学の分野では、例えば、[Vinjanampathy(非特許文献17)]を参照すると、閉ざされた系で一方向性の粒子輸送とエントロピーの減少とを可能にする、所謂、マクスウェルの悪魔が実現されていることを指摘する。しかしながら、これらのデバイスは、悪魔に格納されている情報量を増やすことにより、前述の効果を実現している。そのため、それらの「悪魔」と一緒に考える場合、これらのデバイスは、熱力学の第2法則に適合する[Merali(非特許文献18)]。これが、情報の処理又は保存を行わず、それによって、熱力学の第2法則に違反する、本開示で提示されるデバイスとの重要な差異である。
【0056】
E)最後に、本開示で提示されるデバイスは、[Mannhart, EP Patent Application “Nonreciprocal filters for matter waves”(特許文献2); Braak, 18 180 759.5(特許文献3); Mannhart 2018A(非特許文献1); Mannhart 2018B(非特許文献2); Mannhart 2019(非特許文献3)]で提示されたデバイスを連想させることを再度指摘する。しかしながら、[Mannhart, EP Patent Application “Nonreciprocal filters for matter waves”(特許文献2); Braak, 18 180 759.5(特許文献3); Mannhart 2018A(非特許文献1); Mannhart 2018B(非特許文献2); Mannhart 2019(非特許文献3)]で提示されたデバイスは、それらの伝送路の横方向の非対称性の助けを借りてのみ、それらの機能を実現しており、それは印加された磁場の使用を必要とする。ここで提示するデバイスは、横方向の非対称性に依存していない。それらの伝送路の長手方向の非対称性は、新しいデバイスがより簡単に実装され、より容易に拡大縮小され、より安価であるように、磁場を印加する必要性をなくす。
【0057】
デバイスの実装例
【0058】
A)図8に示すデバイスの基本構造は、例えば、SiOやサファイヤ等の適切な基板上に、金、銀、銅等の金属の膜を蒸着してパターニングすることで実現できる。デバイスのサイズは、動作温度における電子の位相破壊長のオーダーになるように選択されなければならない。この要件により、4.2K以下で動作させる場合、典型的なデバイスのサイズは100nm~1μmのオーダーになる[[Imry(非特許文献6), Datta(非特許文献7)]。この場合、非弾性散乱は、結晶粒界のような、電子-フォノン散乱と結晶欠陥の混合によって提供される。明らかに、伝送構造の本体80.1は、散乱中心が導体内に存在する状態で、ループ(20.3等)として形成されもよい。
【0059】
B)デバイスの第2の好ましい実装例は、伝送構造に対する半導体の使用である。実際、大きな位相コヒーレンス長のため(GaAsの場合、低温で1.62μm[Ferry(非特許文献19)])、GaAsや関連材料等の半導体は、デバイスの実装に提供される。大きな非弾性散乱長は、デバイスがサブミクロンの長さにパターニングされる必要がない、又は、それらが高温で動作できることを意味する。GaAsのような半導体を使用することは、また、例えば、[Leturcq(非特許文献14)]で実施されているように、ゲート電極の使用を可能とし、空乏層によって構造を定義する。
【0060】
C)デバイスの第3の好ましい実装例は、伝送構造としての有機分子の使用である。長手方向の非対称性を有する導電性分子は、2つの移動方向に対する電子伝導の時間差を提供する。電子-フォノン散乱や側鎖の働きは、例えば、位相破壊散乱を誘発する。分子は接点に接続する必要がある。金接点のような金属接点の場合、これは、チオフェン結合を利用することによって実現されることが好ましい。分子のサイズの本質的な小ささ及び分子における固有の電子コヒーレンシーの高さため、分子を有するデバイスの実装は、室温以上での動作に好ましいものの1つである。この実装は、本発明のもう1つの利点を明らかにしており、この場合、分子の伝送構造は、外部から印加される磁場に位置が調整される必要はない。これは、例えば、ポートへの適切な接触が維持されることによって、3次元空間における分子の名目上のランダムな配向の自由度を提供する。
【0061】
この実装例の第1の変形例では、分子は、基板(例えば、シリコン)上に蒸着された金属電極(例えば、金)からなるヘテロ構造に組み込まれてもよい。これらの分子の1層又は数層が、通常は好ましい配向で、この金属層上に成長される。これらの分子の上には、更に別の金属層(例えば、金又は銀)が接触している。2つの金属層の電子的性質が異なる場合、上述した理由から長手方向に対称な分子を使用することができる。
【0062】
この実装例の第2の変形例では、分子の機能は、MoSやグラフェン等のナノパターン化又はマイクロパターン化された2次元材料によって実現される。いくつかの用途では、2次元材料の多層、例えば、グラフェンの2層を使用することが更に有益である。2次元材料又は多層膜は、例えば、導電線、ナノリボン、ストライプにパターン化されてもよいし、又は、穴もしくは穴の配列を構成するようにパターン化されてもよい。
【0063】
D)第4の可能なデバイスの実施の形態では、効果を高めるために、これらのデバイスをアレイに配置できる方法の例を提供する。図12Aは、伝送構造のより大きな1次元アレイの一部を示す。この例では、伝送構造の内側部分(120.1)は対称的であると見なされる。これらの構造は、2つの層120.2及び120.3で構成される非対称接点に接続される。これらの2つの層は、異なる形状の電子波束を生成し(図6を参照)、それによって、デバイスの動作を誘導する。接点の厚さよりもはるかに小さい位相破壊長を接点が持つ場合、n個の個々のデバイスを備えるアレイの出力電圧は、単一デバイスの出力電圧のn倍になる。これは、位相コヒーレンスがアレイ全体に渡って確立される必要がないためである。
【0064】
図12Bは、1次元アレイの原理をより高次のアレイに拡張することが自明であることを示す。図12Bに示す2次元アレイは、アレイ内の個々のデバイス(120.1)の数に比例した出力電力と、長手方向の個々のデバイス(120.1)の数に比例した出力電圧とを有する。
【0065】
光子を量子波として利用する本発明の実装例を図13に示す。この実装例では、筐体13.1で囲まれた転送ユニットが、レンズ等の光投影システム13.2を内蔵し、2つのポート13.3及び13.4と接続する。筐体13.1は、例えば、1に近い反射係数、故に、零になる放射係数を有する金属から形成される。従って、それは鏡として機能する。光投影像は、開口部13.6と反射リング13.5で構成されるポート13.3の入口に、1:1の比率で開口部13.7を映すように設計される。対応する光路は、13.8及び13.9で示される。この投影は明らかに逆方向でも機能する。
【0066】
以下のケース(a)では、光投影システム13.2は、完全に透明な材料から作られている。
【0067】
(a)左から転送ユニットに到着する波束13.10からなる量子波は、反射リング13.5で反射して、ポート13.3に戻るか、又は、開口部13.6、レンズ13.2及び開口部13.7の内側を通過して、ポート13.4に入り、システムを右に出る。右から転送ユニットに到着する波束13.11からなる量子波は、開口部13.7及びレンズ13.2を通過する。その後、それは、開口部13.6及びポート13.3を通過して、システムを左に出るか、又は、反射リング13.5で反射し、レンズ13.2及び開口部13.7を通過して、システムを右に出る。つまり、システムの設計は、量子波束が左(13.10)と右(13.11)から同数で到着する場合、レンズ13.2を左右に通過する光波が、波束13.10よりも波束13.11から多く発生することを保証する。この非対称性にもかかわらず、システムの全透過係数は対称的であり、量子波が左(13.10)と右(13.11)から同数で到着する場合、それらも左右に同数で出ていく。
【0068】
(b)ここで、レンズ13.2を通過する量子波の一部(例えば、10%)の非弾性散乱によって吸収とランダムな再放射を導く材料で、レンズ13.2が作られている場合を考える。この吸収と再放射は、波束13.11から発生した量子波が波束13.10から発生した波よりも大量にレンズを通過するため、波束13.11から発生した量子波のより多くに影響を与えることが明らかである。レンズ13.2による量子波の再放射はランダムな性質であるため、再放射された波は、左右に同数で放射される。反射リング13.5により開口部13.6が開口部13.7より小さいので、再放射された波のより多くは、ポート13.3を通ってシステムを左に出るよりも、ポート13.4を通ってシステムを右に出る。この効果により、右から到着する量子波束13.11は、転送システムにより、右へ大量に反射される。左から到着する量子波束13.10は、転送システムにより、左へ少量反射される。この非相反性により、転送システムは、ポート13.3及び13.4の量子波の集団の間に望ましい不均衡を引き起こす。
【0069】
図6の電子デバイスと同じ原理によって考えられる別の光デバイスを提供できることを付け加える。このような光デバイスも、反対方向に進む波束の伝送時間が異なるように、異なる形状の波束で光波を放射する異なる材料から製造された第1及び第2のポートを備える。図2又は図8に示した伝送路の幾何学的形状は、2つの単純な実施例のみを示していることにも言及する。伝送路は、3次元の空間も利用して、より複雑でもよく、そして、例えば、複数のループを備えていてもよい。また、追加の散乱体、非相反フィルター、又は、更なる黒体等の他の構成要素が含まれていてもよい。
【0070】
なお、デバイスの動作に磁場を適用する必要がないことは、多くの場合、デバイス適用を簡素化するため、提案されたデバイスの大きな利点である。しかしながら、このことは、デバイスが磁場なしで動作しなければならないことを意味するものではない。それらは、磁場内でも機能し、他に、例えば、デバイスがバックグラウンドの磁場から遮蔽されない場合、このような動作が望まれる。
【0071】
いくつかの用途では、横方向の非対称性に基づいて、[Mannhart, EP Application “Nonreciprocal filters for matter waves”(特許文献2); Braak, No. 18 180 759.5(特許文献3); Mannhart 2018A(非特許文献1); Mannhart 2018B(非特許文献2); Mannhart 2019(非特許文献3)]に提示されたデバイスのデバイス構成を、本開示に提示されたデバイスと組み合わせることが好ましいことに更に言及する。この組み合わせは、ほとんどの場合、磁場の望ましくない使用を必要とするが、全ての対称性を壊すことによって利用可能なより大きなパラメータ範囲を使用するデバイスは、いくつかの状況下で、向上された効率又は頑健性(robustness)で動作可能である。
【0072】
量子デバイスを動作させる方法は、第1の波のソースを提供することを含むと定義することができ、第1の波の少なくとも1つのソースは、環境と熱的に接触して保持される。環境は、室温である部屋のような自然環境でもよいし、又は、自由な自然の中の場所でもよい。また、デバイスを収納した空洞等の人工的な環境、又は、例えば、水浴もしくは加熱炉を備える温度浴等の人工的な環境でもよい。
【0073】
第1の態様による量子デバイスを動作させる方法は、第1の波のソースを提供することを含むと、代替的又は追加的に定義することができ、第1の波のソースは積極的に刺激されず、特に、ソースが積極的に加熱又は冷却されることが可能であるように、非熱エネルギーによって積極的に刺激されない。
【0074】
なお、デバイスの動作は、今日一般的に理解され、教科書[Reichl(非特許文献20)]に提示されている方法による熱力学の第0法則又は第2法則と一致しない。伝送構造を介して熱的に接触する2つのポートA及びBが同じ温度を維持せず、むしろ、デバイスが出力電力を生成する場合に温度差が生じるため、第0法則に反する。閉ざされた系では、均一な温度分布の状態、即ち、最大エントロピーの状態は不安定であり、系がより低エネルギーの状態に移行するため、第2法則に反する。例えば、有名な物理学者であるエンリコ・フェルミのような一部の専門家によって、第2法則との不一致は予想されていた[E. Fermi]。
【0075】
例えば、[Capek(非特許文献21)]を参照すると、実際、何十年もの間、熱力学の第2の法則に反する、その時点ではまだ仮説のデバイスが伴う利点について、夢想されてきた。
【0076】
それでも、例えば、[Merali(非特許文献18), Reichl(非特許文献20)]を参照すると、専門家や非専門家に知られているように、一般的に、第2種永久機関として知られる、熱力学の第2法則を破る実用的なデバイスは、推測されてきたに過ぎない。現在の議論は、[Nieuwenhuizen(非特許文献16)]にまとめられているように、絶対零度に近い温度で発生する量子効果、特に、量子もつれを用いるデバイスに焦点を当てている。実用的なデバイスがどのように動作するかについてのアイデアが不足しているため、これらの研究は推測から機能するデバイスへと移行していなかった。実際、科学界のほとんどのメンバーは、このような装置は原理的に絶対に作れないと確信している。
【0077】
上記の量子デバイス及びその応用は、熱浴との何らかの結合を必要としてもよいことを更に述べる。このような熱浴の媒体は、固体、液体又は気体でよい。デバイスは、熱浴の1つ又はいくつかからエネルギーを抽出し、熱エネルギーを、例えば、1つ又はいくつかの他の熱浴に伝達してもよい。
【0078】
量子崩壊によって駆動されるプロセスに対して容易な制御を確立できることは、本発明の更なる価値ある態様である。例えば、抵抗、コンデンサ、バッテリー、インダクタ、センサ、コントローラ、スイッチ等の電気部品を回路に追加することで、デバイスの機能は、影響を受け、制御することができる。システムは、プロセス制御のための入力端子を備えていてもよい。内部又は外部で作成された信号は、プロセスを制御するために使用してもよい。
【0079】
本開示は、また、デバイスの長手方向の非対称性と波動関数の少なくとも部分的な量子物理的な崩壊とを利用して、システムを熱平衡状態からシフトさせるデバイスに関する。
【0080】
本開示は、また、デバイスの長手方向の非対称性と波動関数の少なくとも部分的な量子物理的な崩壊とを利用して、1つの物体内又は複数の物体間に温度差を発生させるデバイスに関する。
【0081】
上記態様のいずれか1つのデバイスでは、物体における波動関数の少なくとも部分的な量子物理的崩壊及び少なくとも部分的な吸収に続いて、前記物体による量子波の統計的な再放射が行われる。
【0082】
上記態様のいずれか1つのデバイスでは、少なくとも部分的に量子物理的に崩壊した波は、ランダムな位相を有する別の量子波によって統計的に置き換えられる。
【0083】
上記態様のいずれか1つのデバイスでは、発生した放射密度不均一性又は発生した温度差を、電気、放射線、光エネルギー、もしくは、他の形態のエネルギーに変換することによって、又は、達成されたエントロピー減少もしくはオーダー(order)を、他の方法で使用することによって、デバイスは有用な仕事を生み出す。
【0084】
上記態様のいずれか1つのデバイスでは、デバイスは、質量、粒子、エネルギー、熱、運動量、角運動量、電荷、又は、磁気モーメントを、1つの物体内又は複数の物体間で輸送してもよい。
【0085】
上記態様のいずれか1つのデバイスでは、デバイスは、エネルギー、波動又は物質のための貯蔵システムを、例えば、コンデンサ又はバッテリーを満たす。
【0086】
上記態様のいずれか1つのデバイスでは、デバイスは物体を加熱又は冷却する。
【0087】
上記態様のいずれか1つのデバイスでは、デバイスの本体の1つ又は複数は、例えば、追加的に提供される加熱又は冷却機能を使用することによって、室温とは別の基本温度で動作される。
【0088】
第2法則の明らかな違反に寄与する重要な要素は、伝送路の長手方向の非対称性、波束の形での粒子状態の生成、波束状態の量子力学的な崩壊、及び、干渉による単一及び複数の波束状態の選別である。これらの頑健(robust)な単一粒子プロセスは、拡張可能であり、高温を含む広い温度範囲で作動することが可能であり、標準的な室内型環境と互換性があり、電磁波、粒子波及び準粒子波を含む多くの種類の量子波に作用する多種多様なデバイスで実施することができる。
【0089】
本発明は、1つ以上の実装例について例示され、説明されたが、変更及び/又は修正は、添付の請求項の趣旨及び範囲から逸脱することなく、示された例に対して行うことができる。特に、上記の構成要素又は構造(アセンブリ、デバイス、回路、システムなど)によって実行される様々な機能に関して、このような構成要素を説明するために使用されている用語(「手段」の言及を含む)は、特に示されていない限り、ここに図示された本発明の代表的な実装例における機能を実行する開示された構造と構造的に等しくなくても、説明された構成要素の指定された機能を実行する(例えば、機能的に等価である)任意の構成要素又は構造に対応することを意図する。
図1
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