(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-12
(45)【発行日】2024-01-22
(54)【発明の名称】技術装置のシステム挙動の標準値範囲からの許容されない偏差を判定する方法
(51)【国際特許分類】
G06N 20/00 20190101AFI20240115BHJP
【FI】
G06N20/00
(21)【出願番号】P 2022523232
(86)(22)【出願日】2020-11-05
(86)【国際出願番号】 EP2020081024
(87)【国際公開番号】W WO2021089655
(87)【国際公開日】2021-05-14
【審査請求日】2022-04-18
(31)【優先権主張番号】102019217055.2
(32)【優先日】2019-11-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】591245473
【氏名又は名称】ロベルト・ボッシュ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100177839
【氏名又は名称】大場 玲児
(74)【代理人】
【識別番号】100172340
【氏名又は名称】高橋 始
(74)【代理人】
【識別番号】100182626
【氏名又は名称】八島 剛
(72)【発明者】
【氏名】ローマー,アヒム
【審査官】青木 重徳
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-091104(JP,A)
【文献】特開2018-052162(JP,A)
【文献】特開2018-169769(JP,A)
【文献】特開平11-212637(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0277913(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06N 20/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
偏差に基づいて所与の標準値範囲から技術装置(1)のシステム挙動の許容されない劣化を判定する方法において、学習段階で前記技術装置(1)の入力データ(2,M)と出力データ(3)が
未学習の監視アルゴリズムに供給され、学習段階に後続する予測段階で前記技術装置(1)の入力データ(2,M)だけが
学習済みの監視アルゴリズム(4)に供給され、前記
学習済みの監視アルゴリズム(4)で出力比較データが計算され、前記技術装置(1)の出力データ(3)
と前記
学習済みの監視アルゴリズム(4)の出力比較データ
との間の偏差が前記所与の標準値範囲外にある場合に
、前記技術装置(1)の
システム挙動の許容されない
劣化が生じていると判断され、
前記所与の標準値範囲は、システム挙動の許容されない劣化を有している技術装置(1)の出力データ(3)と前記学習済みの監視アルゴリズム(4)の出力比較データとの間の偏差が前記所与の標準値範囲外となるように決定され、
前処理ステップで前記
未学習の監視アルゴリズム(4)に供給される入力データ(2,M)が参照信号(R)のデータに合わせて正規化され
、および前処理ステップで前記学習済みの監視アルゴリズム(4)に供給される入力データ(2,M)が参照信号(R)のデータに合わせて正規化され、
前処理ステップで、入力データ(2,M)の数と参照信号(R)のデータの数が同じであるが、入力データ(2,M)が参照信号(R)のデータに対してひずんでいる場合に、入力データ(2,M)が参照信号(R)のデータにマッピングされる、方法。
【請求項2】
前処理ステップで、前記
未学習の監視アルゴリズム(4)に供給される入力データ(2,M)の数が参照信号(R)のデータの数に合わせて統一され
、および前処理ステップで、前記学習済みの監視アルゴリズム(4)に供給される入力データ(2,M)の数が参照信号(R)のデータの数に合わせて統一されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前処理ステップで、時間離散的に存在する、前記
未学習の監視アルゴリズム(4)に供給される入力データ(2,M)の正規化が3つの部分ステップで行われ、第1の部分ステップで、着目されるタイムスロット内で参照信号(R)に合わせた入力データ(2,M)の時間正規化が実行され、第2の部分ステップで、前記タイムスロットの時間区域について入力データ(2,M)が周波数領域に変換され、第3の部分ステップで、それぞれ異なる時間区域に割り当てられた入力データ(2,M)の周波数区域が前記第1の部分ステップの時間正規化に準じてまとめられ
、および前処理ステップで、時間離散的に存在する、前記学習済みの監視アルゴリズム(4)に供給される入力データ(2,M)の正規化が3つの部分ステップで行われ、第1の部分ステップで、着目されるタイムスロット内で参照信号(R)に合わせた入力データ(2,M)の時間正規化が実行され、第2の部分ステップで、前記タイムスロットの時間区域について入力データ(2,M)が周波数領域に変換され、第3の部分ステップで、それぞれ異なる時間区域に割り当てられた入力データ(2,M)の周波数区域が前記第1の部分ステップの時間正規化に準じてまとめられることを特徴とする、請求項1
または2に記載の方法。
【請求項4】
偏差に基づいて所与の標準値範囲から技術装置(1)のシステム挙動の許容されない劣化を判定する方法において、学習段階で前記技術装置(1)の入力データ(2,M)と出力データ(3)が未学習の監視アルゴリズムに供給され、学習段階に後続する予測段階で前記技術装置(1)の入力データ(2,M)だけが学習済みの監視アルゴリズム(4)に供給され、前記学習済みの監視アルゴリズム(4)で出力比較データが計算され、前記技術装置(1)の出力データ(3)と前記学習済みの監視アルゴリズム(4)の出力比較データとの間の偏差が前記所与の標準値範囲外にある場合に、前記技術装置(1)のシステム挙動の許容されない劣化が生じていると判断され、
前記所与の標準値範囲は、システム挙動の許容されない劣化を有している技術装置(1)の出力データ(3)と前記学習済みの監視アルゴリズム(4)の出力比較データとの間の偏差が前記所与の標準値範囲外となるように決定され、
前処理ステップで前記未学習の監視アルゴリズム(4)に供給される入力データ(2,M)が参照信号(R)のデータに合わせて正規化され、および前処理ステップで前記学習済みの監視アルゴリズム(4)に供給される入力データ(2,M)が参照信号(R)のデータに合わせて正規化され、
前処理ステップで、時間離散的に存在する、前記未学習の監視アルゴリズム(4)に供給される入力データ(2,M)の正規化が3つの部分ステップで行われ、第1の部分ステップで、着目されるタイムスロット内で参照信号(R)に合わせた入力データ(2,M)の時間正規化が実行され、第2の部分ステップで、前記タイムスロットの時間区域について入力データ(2,M)が周波数領域に変換され、第3の部分ステップで、それぞれ異なる時間区域に割り当てられた入力データ(2,M)の周波数区域が前記第1の部分ステップの時間正規化に準じてまとめられ、および前処理ステップで、時間離散的に存在する、前記学習済みの監視アルゴリズム(4)に供給される入力データ(2,M)の正規化が3つの部分ステップで行われ、第1の部分ステップで、着目されるタイムスロット内で参照信号(R)に合わせた入力データ(2,M)の時間正規化が実行され、第2の部分ステップで、前記タイムスロットの時間区域について入力データ(2,M)が周波数領域に変換され、第3の部分ステップで、それぞれ異なる時間区域に割り当てられた入力データ(2,M)の周波数区域が前記第1の部分ステップの時間正規化に準じてまとめられる、方法。
【請求項5】
前記第1の部分ステップで行われる、参照信号(R)に合わせた入力データ(2,M)
の時間正規化は動的時間伸縮法(dynamic time warping)の手法で行われることを特徴とする、請求項
3または4に記載の方法。
【請求項6】
前記第2の部分ステップで実行される、前記着目されるタイムスロットについての周波数領域への入力データ(2,M)の変換は短時間フーリエ変換(STFT)の手法で行われることを特徴とする、請求項
3から5までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記技術装置(1)の出力データ(3)が周波数領域に変換され、前記
学習済みの監視アルゴリズム(4)で計算された出力比較データと周波数領域で比較されることを特徴とする、請求項
3から6までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記
学習済みの監視アルゴリズム(4)で計算された出力比較データが時間領域に変換され、前記技術装置(1)の出力データ(3)と時間領域で比較されることを特徴とする、請求項
3から6までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
参照信号(R)は先行する複数の入力データ(2,M)から形成されることを特徴とする、請求項1から8までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
参照信号(R)
は定義された動作に相当することを特徴とする、請求項1から9までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記
未学習の監視アルゴリズム(4)
および前記学習済みの監視アルゴリズム(4)はニューラルネットワークとして構成されることを特徴とする、請求項1から10までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
請求項1から11までのいずれか1項に記載の方法を実施するために構成された手段を有している電子装置。
【請求項13】
請求項1から11までのいずれか1項に記載の方法を実施するために構成された手段を有している車両の制御装置。
【請求項14】
請求項1から11までのいずれか1項に記載の方法の各ステップを
コンピュータを手段として実行するために設計されたプログラムコードを有しているコンピュータプログラム製品。
【請求項15】
請求項14に記載のコンピュータプログラム製品が格納されている機械可読の記憶媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、技術装置のシステム挙動の標準値範囲からの許容されない偏差を監視アルゴリズムによって判定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、2つの機械学習システムによって物体の走行動作を予測する方法が記載されている。第1の機械学習システムは、第1の入力量に依存して、物体を特徴づける出力量を判定し、第2の機械学習システムは、第2の入力量に依存して、物体の状態を特徴づける第2の出力量を判定する。物体の将来的な運動が、これらの出力量に依存して予測される。このとき第1の機械学習システムはディープニューラルネットワークを含んでおり、第2の学習システムは確率的グラフィカルモデルを含んでいる。
【0003】
特許文献2は、ニューラルネットワークの入力レイヤに供給される入力信号を基礎として、ニューラルネットワークのレイヤのシーケンスにより出力信号のシーケンスを判定する方法を開示している。先行する入力信号がニューラルネットワークをまだ伝播している間に、定義された時点で、ニューラルネットワークに新しい入力信号がすでに供給される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】ドイツ特許第102018206805B3号明細書
【文献】ドイツ特許出願公開第102018209916A1号明細書
【発明の概要】
【0005】
本発明の方法により、技術装置のシステム挙動の標準値範囲からの許容されない偏差を判定することができる。このようにして、技術装置の全面的または部分的な故障を、実際の故障発生が起こる前に予測することが可能であり、それにより、相応の対応策を早期に講じることができる。そのようにして簡易に具体化できる方策により、技術装置の状態監視を実行することができる。システム挙動の劣化やシステム異常を早期に判断することができる。標準値範囲を設定してこれと比較することで、技術装置の状態推移を継続して監視し、技術装置の適正な機能がいつまで保証されるかという時点、および適正な機能をいつから保証できなくなるかという時点または少なくとも完全には保証できなくなる時点を判断することが可能である。
【0006】
技術装置の許容されない偏差を判定する方法は監視アルゴリズムを利用し、これに学習段階で技術装置の入力データと出力データが供給される。技術装置の入力データおよび出力データとの比較によって相応の組合せが監視アルゴリズムで作成され、監視アルゴリズムが技術装置のシステム挙動に合わせてトレーニングされる。
【0007】
学習段階に後続する予測段階で、装置のシステム挙動を監視アルゴリズムで確実に予測することができる。そのために予測段階では技術装置の入力データだけが監視アルゴリズムに供給され、出力比較データが監視アルゴリズムで計算されて、これが技術装置の出力データと比較される。この比較のとき、好ましくは測定値として検出される技術装置の出力データと、監視アルゴリズムの出力比較データとの差異が大きく相違し過ぎていて限界値を超えていることが判明したときには、技術装置のシステム挙動の標準値範囲からの許容されない偏差が生じている。これを受けて適切な方策を講じることができ、たとえば警告信号が生起または保存され、あるいは技術装置の部分機能が不作動化される(技術装置のデグレード)。場合により、許容されない偏差が生じたケースでは代替の技術装置への切り替えをすることができる。
【0008】
上述した方法により、実際の技術装置を継続して監視することができる。学習段階では、技術装置の入力側からも出力側からも十分に多くの情報が監視アルゴリズムに供給され、それにより、技術装置を十分な精度で監視アルゴリズムにマッピングしてシミュレーションすることができる。このことは、これに後続する予測段階で、技術装置を監視してシステム挙動の劣化を予測することを可能にする。このようにして、特に技術装置の残存利用期間を予測することができる。
【0009】
監視アルゴリズムとしては、特にニューラルネットワークが考慮の対象となる。ニューラルネットワークで、学習段階のときに技術装置の入力データと出力データから組合せが作成され、それにより、ニューラルネットワークが技術装置のシステム挙動を高い精度でマッピングする。それに応じて予測段階で、システム挙動の劣化の確実な予測のためにニューラルネットワークを利用することができる。
【0010】
ニューラルネットワークの代替として、これ以外の設計の監視アルゴリズムも技術装置のシステム挙動の監視のために考慮の対象となる。
【0011】
本発明による方法では、各々の学習ステップの前と各々の予測ステップの前に実行される前処理ステップで、監視アルゴリズムに供給された入力データが参照信号のデータに合わせて正規化される。このような方式は、たとえば自然なばらつきに基づく周辺条件の変動を正規化によって補正することができ、または少なくともほぼ補正することができ、それにより、ばらつきの種類に応じて学習段階および予測段階での処理が改善され、特にいっそう迅速に実行することができ、または初めて可能にすることができるという利点を有する。監視アルゴリズムの学習段階と予測段階は、それ自体としては前処理ステップによる影響を受けずに保たれる。各々の段階で入力データが正規化されるにすぎないからである。
【0012】
好ましい実施形態では、正規化は、監視アルゴリズムに供給される入力データの数を対象とする。この数が参照信号のデータの数と相違しているとき、入力データの数が参照信号のデータの数に合わせて統一されるように、正規化が行われる。それに応じて監視アルゴリズムには正規化の後、常に同じ数の入力データが供給される。
【0013】
別の好ましい実施形態は、入力データの数と参照信号のデータの数が同じであるが、入力データが参照信号に対してひずんでいるケースを対象とする。このようなケースでも、ひずんでいる入力データが参照信号のデータにマッピングされる正規化を実行することができる。このような方式は、たとえば入力データにおける変位した最大値や最小値を参照信号のデータにマッピングすることを可能にする。
【0014】
別の好ましい実施形態では、監視アルゴリズムに供給される入力データの正規化が3つの部分ステップで行われる。入力データは時間離散的に存在し、第1の部分ステップで、着目されるタイムスロット内で参照信号に合わせた時間正規化が実行される。これに後続する第2の部分ステップで、着目されるタイムスロットのそれぞれ異なる時間区域について非正規化入力データが周波数領域に変換される。それぞれ異なる時間区域に割り当てられた周波数区域が第1の部分ステップの時間正規化に準じてまとめられる第3の部分ステップが、これに後続する。結果として周波数領域で正規化された入力データが得られ、これが監視アルゴリズムに入力として供給される。予測段階のときに監視アルゴリズムで生起される出力比較データも、それに応じて同じく周波数領域にある。
【0015】
監視アルゴリズムの出力比較データと技術装置の出力データとの間の比較は、時間領域または周波数領域のいずれかで実行することができる。時間領域での比較の場合、監視アルゴリズムの出力部で印加される出力比較データが周波数領域から時間領域に逆変換され、その後に、技術装置の出力データとの比較を時間領域で実行することができる。周波数領域での比較の場合、通常はたとえば測定シリーズとして時間領域にある技術装置の出力データが、周波数領域へと変換される。その後に、監視アルゴリズムの出力比較データと技術装置の出力データとを周波数領域で互いに比較することができる。
【0016】
別の好ましい実施形態では、第1の部分ステップで実行される、参照信号に合わせた入力データの時間正規化は動的時間伸縮法(dynamic time warping)の手法で行われる。その場合には最適化の観点からして、特にコスト汎関数を考慮したうえで、入力データの各点と参照信号の各点との距離を形成するマトリクスを通る最適化された経路が形成される。最適化の観点からしてマトリクスを通る最小コストの経路は、始点から終点までを結んだ線が最小の和を形成する経路である。
【0017】
別の好ましい実施形態では、第2の部分ステップで実行される、着目されるタイムスロットについての周波数領域への入力データの変換は短時間フーリエ変換(STFT)の手法で行われる。周波数領域へのこのような変換では、多数の時間区域についてそれぞれ高速フーリエ変換(FFT)が実行される。この方式は、周波数領域への実行後にも時間情報が維持されるという利点がある。したがって、特に技術装置の出力データとの比較を時間領域で実行するために、場合により時間領域への逆変換を実行することも可能である。
【0018】
正規化が実行されるときに用いられる参照信号は、たとえば先行する複数の入力データから、たとえば複数の入力信号の平均値形成によって形成される。
【0019】
その代替として、該当する技術装置に合わせて適合化された、その技術装置について典型的である定義された動作に参照信号が従うことも可能である。たとえば自動車分野では、車両の定義された走行動作を設定し、車両で使用される技術装置に関してそこから参照信号が形成されるのが好都合であり得る。
【0020】
さらに本発明は、上述した方法を実施するための手段を装備する、たとえば車両の制御装置などの電子装置に関する。このような手段は、特に、入力データと出力データの必要な計算と保存をするための少なくとも1つの計算ユニットおよび少なくとも1つの記憶ユニットである。
【0021】
さらに本発明は、上述した方法ステップを実行するために設計されたプログラムコードを有するコンピュータプログラム製品に関する。コンピュータプログラム製品は機械可読の記憶媒体に格納することができ、上述した電子装置で進行させることができる。
【0022】
本方法は、たとえばステアリングシステムやブレーキシステムなどの車両の技術システムの状態監視に適用可能である。電子装置は、このようなケースでは、技術装置のコンポーネントを制御可能である制御装置であるのが好ましい。さらに、大規模なシステムの内部で1つのサブシステムだけを技術装置として監視し、たとえば、ブレーキシステムでESPモジュール(エレクトロニックスタビリティプログラム)を監視することも可能である。
【0023】
その他の利点や好都合な実施形態は、下記の特許請求の範囲、図面の説明、および図面から読み取ることができる。図面は次のものを示す。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】入力データが供給されて出力データを生成するESPモジュールを、並列につながれたニューラルネットワークとともに記号で表示したブロック図である。
【
図2】入力信号と参照信号の時間的推移を含む図表である。
【
図3】周波数領域に変換された入力信号をマトリクスフォームで示す図である。
【
図4】周波数領域に変換された
図2の入力信号に時間正規化を施した図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1のブロック図には、車両のブレーキシステムのためのESPモジュールの形態の技術装置1の原理図が、入力データと出力データ、および並列につながれたニューラルネットワーク4とともに示されている。例示として技術装置として利用されるESPモジュール1は、所望の変調されたブレーキ圧をブレーキシステムで生成するためのESPポンプと、ESPポンプを制御するための制御装置とを含んでいる。ESPモジュール1には、たとえば電気式に作動可能なESPモジュール1のESPポンプのための入力電流などの入力データ2が供給され、ESPモジュール1は入力データ2に対する反応として、たとえば液圧式のブレーキ圧などの出力データ3を生成する。
【0026】
技術装置1と並列に、監視アルゴリズムを形成するニューラルネットワーク4がつながれている。ニューラルネットワーク4は学習段階で技術装置1のシステム挙動に合わせてトレーニングされ、そのためにニューラルネットワーク4に学習段階で、技術装置1の入力データ2と出力データ3がいずれも供給される。
図1では、出力データ3からニューラルネットワーク4への破線の矢印がニューラルネットワークの学習段階に相当し、学習段階では入力データ2に加えて出力データ3もニューラルネットワークに供給される。
【0027】
学習段階の終了後、技術装置1のシステム挙動における劣化を早期に判断するために、予測段階でニューラルネットワーク4を利用することができる。この目的のために予測段階では、技術装置1の入力データ2がニューラルネットワーク4に入力として供給され、ニューラルネットワーク4がその学習した挙動を基礎として出力比較データを生成する(実線で図示しているニューラルネットワーク4の出力)。ニューラルネットワーク4の出力比較データを、技術装置1の出力データ3と比較することができる。ニューラルネットワーク4の出力比較データと技術装置1の出力データ3との間の偏差が所与の標準値範囲外にあるとき、技術装置1のシステム挙動の許容されない大きな劣化が生じており、そこから技術装置1の耐用寿命の短縮または部分的故障を推定することができる。これを受けて、たとえば警告信号の生成や技術装置1の機能範囲の縮減などの方策を講じることができる。
【0028】
ニューラルネットワーク4は技術装置1の制御装置にインプリメントされていてよく、そこで進行することができる。あるいは、技術装置1の制御装置とは別個に製作された別の制御装置でニューラルネットワーク4を進行させることも可能である。
【0029】
図2から
図4は、各々の学習段階ステップの前と各々の予測段階ステップの前に実行され、監視アルゴリズムに供給される入力データが参照信号のデータに合わせて正規化される前処理ステップを示している。
【0030】
図2には、参照信号Rの時間依存的な推移(下側の図表)と、測定された入力データMの信号(上側の図表)とを含む、上下に位置する2つの図表が示されている。入力データMは、
図1の入力データ2に相当する。参照信号Rは、一連の時点a,b,c,dおよびeを有している。入力データMの信号は、入力データの値が測定される一連の時点1から6を有している。参照信号Rは、たとえば技術装置の、または同一設計の他の技術装置の、先行する実際の多数の入力データから得ることができる。
【0031】
信号推移RおよびMは基本的には同じ推移を有しているものの、同一ではない。全部で6つの測定された時点1から6を含む入力信号Mの測定された信号を、全部で5つの時点aからeを含む参照信号Rに合わせて正規化するために、第1の部分ステップで、動的時間伸縮法(dynamic time warping)が実行される。その際には最適化の観点のもとで、両方の信号推移RおよびMの最初から最後までの最小コストの経路が探索される。その結果として信号推移RおよびMにおける各時点の間で、割当パターン1a,2b,3c,4c,5dおよび6eを含む破線で図示した割当てが得られる。信号推移Mにおける時点3および4での測定値は、両方とも参照信号Rにおける時点cに割り当てられる。
【0032】
図3は、周波数領域における入力データMの模式図を示している。ここでは第2の部分ステップで、入力データMが短時間フーリエ変換STFTの手法で周波数領域に変換され、それは、各々の時点t=1からt=6でそのつど高速フーリエ変換が実行されることによる。このような手法は、周波数領域へ変換されたときにも時間情報が維持されるという利点がある。
図3に示すマトリクスでは、各列は周波数領域に変換されたベクトルをそれぞれ表していて、これが時点t=1から6のうちの1つに割り当てられる。
【0033】
図4は、
図3に示す入力データMのマトリクスが
図2に示す第1の部分ステップの時間正規化に準じてまとめられる、入力データの前処理の最後の第3の部分ステップを示している。その帰結として、
図4に示すように周波数領域でも、時点3および4に割り当てられた周波数区域が共通の周波数区域にまとめられる。その結果として、6つから5つへの周波数区域の低減が得られる。周波数区域3および4をまとめることは、たとえば時点3および4に割り当てられたそれぞれのベクトルにおける情報の平均化を通じて行われる。
【0034】
前処理の終了後、周波数領域の正規化された入力データMを、ニューラルネットワークとして作成される監視アルゴリズムに予測段階で供給することができ、引き続いてニューラルネットワークが周波数領域の出力比較データを判定し、これを技術装置の対応する出力データと周波数領域で比較することができる。技術装置のシステム挙動の劣化を示唆する許容されない偏差があるケースでは、たとえば警告信号を生成することができる。
【0035】
このような方式の代替として、ニューラルネットワークで計算された出力比較データを周波数領域から時間領域へと変換し、技術装置の出力データと時間領域で比較することも可能である。こうしたケースでも、システム挙動の劣化を示唆する許容されない高い偏差があるときに警告信号を生成し、またはその他の方策を講じることができ、たとえば技術装置の機能性のデグレードを行い、あるいは代替の技術装置を作動化させることができる。
【符号の説明】
【0036】
1 技術装置
2,M 入力データ
3 出力データ
4 監視アルゴリズム
R 参照信号