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特許7419556第四級アンモニウム塩を有する湿式摩擦材
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  • 特許-第四級アンモニウム塩を有する湿式摩擦材 図1a
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-12
(45)【発行日】2024-01-22
(54)【発明の名称】第四級アンモニウム塩を有する湿式摩擦材
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/14 20060101AFI20240115BHJP
   F16D 69/02 20060101ALI20240115BHJP
   F16H 45/02 20060101ALI20240115BHJP
【FI】
C09K3/14 520C
C09K3/14 520L
C09K3/14 520M
C09K3/14 530D
F16D69/02 B
F16H45/02 X
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2022550974
(86)(22)【出願日】2021-03-29
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-12
(86)【国際出願番号】 US2021024580
(87)【国際公開番号】W WO2021202334
(87)【国際公開日】2021-10-07
【審査請求日】2022-08-24
(31)【優先権主張番号】16/838,197
(32)【優先日】2020-04-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】515009952
【氏名又は名称】シェフラー テクノロジーズ アー・ゲー ウント コー. カー・ゲー
【氏名又は名称原語表記】Schaeffler Technologies AG & Co. KG
【住所又は居所原語表記】Industriestr. 1-3, 91074 Herzogenaurach, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ムラート バカン
(72)【発明者】
【氏名】ラシッド ファラハティ
(72)【発明者】
【氏名】マイケル ヤネッタ
【審査官】中田 光祐
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-513157(JP,A)
【文献】特開2007-045860(JP,A)
【文献】特開平11-061107(JP,A)
【文献】特表2009-518479(JP,A)
【文献】特開2001-303026(JP,A)
【文献】特開2016-176066(JP,A)
【文献】特開2015-021128(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 3/14
F16D 11/00- 23/14;
49/00- 71/04
F16H 39/00- 47/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
湿式摩擦材を製造する方法であって、
フィラー粒子と繊維とを一緒に混ぜてベースを形成することと、
前記ベースの外面を、第四級アンモニウム塩含有溶液でコーティングすることと、
前記第四級アンモニウム塩含有溶液を乾燥させて、第四級アンモニウム塩含有コーティングを前記ベースの前記外面上に形成することと、を含む方法。
【請求項2】
前記第四級アンモニウム塩含有溶液の前記乾燥後、前記ベースの内部をベースバインダで飽和させることを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第四級アンモニウム塩含有溶液は、第四級アンモニウム塩と、溶液バインダと、水と、を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記第四級アンモニウム塩含有溶液は、フィラー粒子を更に含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記第四級アンモニウム塩含有溶液は、0.5~5.0重量%の第四級アンモニウム塩と、0.5~5.0重量%の溶液バインダと、0~30重量%のフィラー粒子と、60~98重量%の水と、を含む、請求項に記載の方法。
【請求項6】
前記ベースの前記外面を前記第四級アンモニウム塩含有溶液で前記コーティングすることは、前記第四級アンモニウム塩含有溶液を前記ベースの前記外面上に噴霧、刷毛塗り、またはローラ塗布することを含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記ベースの前記外面を前記第四級アンモニウム塩含有溶液で前記コーティングすることは、前記第四級アンモニウム塩含有溶液を前記ベースの前記外面上に噴霧することを含み、前記第四級アンモニウム塩含有溶液は、0.5~2.5重量%の第四級アンモニウム塩と、0.5~2.5重量%の溶液バインダと、2.5~15重量%のフィラー粒子と、80~98重量%の水と、を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記ベースの前記外面を前記第四級アンモニウム塩含有溶液で前記コーティングすることは、前記第四級アンモニウム塩含有溶液を前記ベースの前記外面上に、ローラ塗布または刷毛塗りすることを含み、前記第四級アンモニウム塩含有溶液は、2.0~5.0重量%の第四級アンモニウム塩と、2.0~5.0重量%の溶液バインダと、10~30重量%のフィラー粒子と、60~86重量%の水と、を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記第四級アンモニウム塩含有コーティングは、10~50重量%の第四級アンモニウム塩と、10~50重量%の溶液バインダと、0~80重量%のフィラー粒子と、を含む、請求項に記載の方法。
【請求項10】
前記第四級アンモニウム塩含有コーティングは、12.5~25重量%の第四級アンモニウム塩と、12.5~25重量%の溶液バインダと、50~75重量%のフィラー粒子と、を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記溶液バインダは、ナノセルロース、グアーガム、またはアクリル系エマルションである、請求項3に記載の方法。
【請求項12】
摩擦クラッチの部品を製造する方法であって、
前記湿式摩擦材を請求項1に記載の方法によって製造することと、
前記湿式摩擦材を前記摩擦クラッチの金属部品に固定することと、前記ベースの前記外面を前記第四級アンモニウム塩含有溶液で前記コーティングすることと、前記金属部品への前記湿式摩擦材の前記固定の前または後に実施される、前記第四級アンモニウム塩含有溶液を前記乾燥させることと、を含む、方法。
【請求項13】
湿式摩擦材であって、
繊維のマトリックスと、前記繊維のマトリックスに埋め込まれたフィラー粒子と、を含むベースと、
前記ベースの内部に埋め込まれたバインダと、
前記ベースの外面上の第四級アンモニウム塩含有コーティングと、を含む、湿式摩擦材。
【請求項14】
前記第四級アンモニウム塩含有コーティングは、第四級アンモニウム塩と、溶液バインダと、を含む、請求項13に記載の湿式摩擦材。
【請求項15】
前記第四級アンモニウム塩含有コーティングは、フィラー粒子を更に含む、請求項14に記載の湿式摩擦材。
【請求項16】
前記第四級アンモニウム塩含有コーティングは、10~50重量%の第四級アンモニウム塩と、10~50重量%の溶液バインダと、0~80重量%のフィラー粒子と、を含む、請求項14に記載の湿式摩擦材。
【請求項17】
前記第四級アンモニウム塩含有コーティングは、12.5~25重量%の第四級アンモニウム塩と、12.5~25重量%の溶液バインダと、50~75重量%のフィラー粒子と、を含む、請求項16に記載の湿式摩擦材。
【請求項18】
前記溶液バインダは、ナノセルロース、グアーガム、またはアクリル系エマルションである、請求項14に記載の湿式摩擦材。
【請求項19】
前記ベースは、
単一層、または、
支持層および外層であって、前記支持層は、ある割合の第1の繊維材料およびある割合の第1のフィラー材料を含み、前記外層は、ある割合の第2の繊維材料およびある割合の第2のフィラー材料を含み、前記第2の繊維材料の前記割合は、前記第1の繊維材料の前記割合よりも小さく、前記第2のフィラー材料の前記割合は、前記第1のフィラー材料の前記割合よりも大きい、支持層および外層、を含む、請求項13に記載の湿式摩擦材。
【請求項20】
クラッチアセンブリであって、
金属部品と、
前記金属部品上に固定された請求項13に記載の前記湿式摩擦材と、を備える、クラッチアセンブリ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2020年4月2日に出願された米国特許非仮出願第16/838197号の優先権を主張するものであり、その開示内容は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
技術分野
本開示は、全般的に、トルクコンバータおよび自動車のトランスミッションにおいて使用される摩擦クラッチおよびプレートに関し、より具体的には、湿式摩擦材に関する。
【背景技術】
【0003】
湿式摩擦クラッチの摩擦材は、一般に、油中に沈められた環境で動作し、多くの場合、摩擦材料リングを形成するために使用される紙ベースの材料である。長網抄紙機を用いる抄紙工程によって、摩擦材料を形成することが知られている。
【0004】
発明の概要
湿式摩擦材を製造する方法が提供される。本方法は、フィラー粒子と繊維とを一緒に混ぜてベースを形成することと、ベースの外面を第四級アンモニウム塩含有溶液でコーティングすることと、第四級アンモニウム塩含有溶液を乾燥させて、第四級アンモニウム塩含有コーティングをベースの外面上に形成することと、を含む。
【0005】
例示的な実施形態では、本方法は、第四級アンモニウム塩含有溶液の乾燥後、ベースの内部をベースバインダで飽和させることを更に含み得る。第四級アンモニウム塩含有溶液は、第四級アンモニウム塩と、溶液バインダと、水と、を含み得る。第四級アンモニウム塩含有溶液は、フィラー粒子を更に含み得る。第四級アンモニウム塩含有溶液は、0.5~5.0重量%の第四級アンモニウム塩と、0.5~5.0重量%の溶液バインダと、0~30重量%のフィラー粒子と、60~98重量%の水と、を含み得る。第四級アンモニウム塩含有溶液でベースの外面をコーティングすることは、第四級アンモニウム塩含有溶液を、ベースの外面上に噴霧、刷毛塗り、またはローラ塗布することを含み得る。ベースの外面を第四級アンモニウム塩含有溶液でコーティングすることは、第四級アンモニウム塩含有溶液をベースの外面上に噴霧することを含み、第四級アンモニウム塩含有溶液は、0.5~2.5重量%のQASと、0.5~2.5重量%の溶液バインダと、2.5~15重量%のフィラー粒子と、80~98重量%の水と、を含み得る。ベースの外面を第四級アンモニウム塩含有溶液でコーティングすることは、第四級アンモニウム塩含有溶液を、ベースの外面上にローラ塗布または刷毛塗りすることを含み得、その第四級アンモニウム塩含有溶液は、2.0~5.0重量%のQASと、2.0~5.0重量%の溶液バインダと、10~30重量%のフィラー粒子と、60~86重量%の水と、を含み得る。第四級アンモニウム塩含有コーティングは、10~50重量%のQASと、10~50重量%の溶液バインダと、0~80重量%のフィラー粒子と、を含み得る。第四級アンモニウム塩含有コーティングは、12.5~25重量%のQASと、12.5~25重量%の溶液バインダと、50~75重量%のフィラー粒子と、を含み得る。溶液バインダは、ナノセルロース、グアーガム、またはアクリル系エマルションであり得る。
【0006】
摩擦クラッチの部品を製造する方法もまた提供され、その方法は、湿式摩擦材を製造することと、湿式摩擦材を摩擦クラッチの金属部品に固定することと、ベースの外面を第四級アンモニウム塩含有溶液でコーティングすることと、金属部品への湿式摩擦材の固定の前または後に実施される、第四級アンモニウム塩含有溶液を乾燥させることと、を含む。
【0007】
湿式摩擦材もまた提供され、その湿式摩擦材は、繊維のマトリックスおよび繊維のマトリックスに埋め込まれたフィラー粒子を含むベースと、ベースの内部に埋め込まれたバインダと、ベースの外面上の第四級アンモニウム塩含有コーティングと、を含む。
【0008】
湿式摩擦材のいくつかの例示的な実施形態では、第四級アンモニウム塩含有コーティングは、第四級アンモニウム塩と、溶液バインダと、を含み得る。第四級アンモニウム塩含有コーティングは、フィラー粒子を更に含み得る。第四級アンモニウム塩含有コーティングは、10~50重量%のQASと、10~50重量%の溶液バインダと、0~80重量%のフィラー粒子と、を含み得る。第四級アンモニウム塩含有コーティングは、12.5~25重量%のQASと、12.5~25重量%の溶液バインダと、50~75重量%のフィラー粒子と、を含み得る。溶液バインダは、ナノセルロース、グアーガム、またはアクリル系エマルションであり得る。ベースは、単一層を含み得る。ベースは、支持層および外層を含み得る。支持層は、ある割合の第1の繊維材料と、ある割合の第1のフィラー材料と、を含み得る。外層は、ある割合の第2の繊維材料と、ある割合の第2のフィラー材料と、を含み得る。第2の繊維材料の割合は、第1の繊維材料の割合よりも小さくてもよい。第2のフィラー材料の割合は、第1のフィラー材料の割合よりも大きくてもよい。
【0009】
金属部品と、金属部品上の湿式摩擦材と、を含むクラッチアセンブリもまた提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
本開示は、以下の図面を参照して以下に説明される。
図1a】一実施形態による湿式摩擦材のベースを示す概略的図である。
図1b】QAS含有コーティングを有する図1aの湿式摩擦材のベースを示す概略図である。
図2】湿式摩擦材が熱プレートを介して金属部品の上に接合されていることを示す図である。
図3】湿式摩擦材がトルクコンバータのロックアップクラッチアセンブリのクラッチプレートの両側に結合されていることを示す図である。
図4】本発明の別の一実施形態による、二層湿式摩擦材を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本開示は、摩擦材の外面上に第四級アンモニウム塩(QAS)含有コーティングを含む湿式摩擦材の形成方法を提供する。そのようなコーティングは、湿式摩擦システムにおける摩擦材の不良を発生させるメカニズムであるグレージングを防止してもよく、グレージングでは、オートマチックトランスミッションフルードの成分が、高温で熱により劣化して、摩擦材の外面上に堆積することを伴う。グレージングは、クラッチの長時間にわたる滑りまたは高エネルギーでの係合による、クラッチ面の温度上昇の結果発生し、摩擦材の多孔性の低下の結果として摩擦挙動の不良を招く。多孔性がより低くなった摩擦材は、グレージングをより起こしやすい恐れがあり、外面上のQAS含有コーティングが役立つ可能性がある。
【0012】
QASは、摩擦調整および洗浄力の両方を提供する。QASを摩擦材中に添加すると、その洗浄力により、摩擦材の表面を、劣化した添加剤の残留物から清浄に保つ一方で、所望の摩擦特性が得られる。
【0013】
一実施形態では、QASは、約16~18個の炭素原子を有するアルキル鎖を有する第四級アンモニウム塩である。例えば、QASは、ジ(水素化タロウアルキル)ジメチルアンモニウム=クロリドである、Arquad 2HT-75であってもよい。
【0014】
図1aおよび図1bは、本開示の一実施形態による湿式摩擦材を形成する方法を概略的に示す。
【0015】
湿式摩擦材12は、繊維と、フィラー材料と、ベースバインダと、からなるベース13を含む。繊維は、アラミド繊維、有機繊維、炭素繊維、および/またはガラス繊維であり得る。有機繊維は、セルロース繊維または綿繊維を含み得る。フィラー材料は、珪藻土の粒子であってもよい。ベースバインダは、フェノール樹脂であってもよい。任意選択的に、グラファイトなどの摩擦調整剤もまた、ベース12に含んでもよい。12の繊維は、45~55マイクロメートルの平均直径と、1~2ミリメートルの平均長と、を有する。
【0016】
好ましい一実施形態では、ベース13は、30~45重量%の繊維と、25~35重量%のフィラー材料と、25~40重量%のバインダと、を含み得る。より具体的には、湿式摩擦材12は、30~35重量%の繊維と、30~35重量%のフィラー材料と、30~35重量%のバインダと、を含み得る。
【0017】
図1aは、ベースバインダが添加される前、かつQAS含有溶液がベース13に塗布される前の、湿式摩擦材12を概略的に示す。湿式摩擦材12は、ベース13の第1の外面(すなわち、図面の視点で上側の外面13a)と、第2の外面13b(すなわち図面の視点で下側外面13a)との間の繊維のマトリックス16内に埋め込まれている、複数の珪藻土粒子14によって形成された材ベースを含む。
【0018】
繊維16および粒子14は、パルプ製造プロセスで一体に接合され、パルプ製造プロセスは、液体の溶液中に一緒に沈められた繊維16と粒子14との混合物を形成することと、次いで、その混合物を乾燥させて液体を除去することと、を伴う。繊維16および粒子14が液体溶液によって一体に接合された後、湿式摩擦材12は、空隙18のネットワークを画定する繊維16および珪藻土粒子14によって形成された、マトリックスを含む。
【0019】
図1bに概略的に示されるように、繊維16および粒子14が一体に接合された後、QAS含有溶液が、ベース13に塗布されて、ベース13の外面13aにおいて粒子14および繊維16上にQAS含有コーティング20を形成する。QAS含有コーティング20は、外面13a上に、噴霧、ローラ塗布、または刷毛塗りによって塗布されてもよい。QAS含有コーティング20の塗布中、QAS含有溶液はまた、ベース13内に滴下されて、外面13aと外面13bとの間に形成されるベース内部の粒子14および繊維16のうちの少なくとも一部をQAS含有溶液で覆って、空隙18のうちの少なくとも一部のサイズを減少させてもよい。このように、QAS含有コーティング20は、少なくとも外面13aを覆い、外面13aは、ベース13上に押し付けられる平坦な表面と接触する、ベース13の平面内の表面として画定される。例えば、その平坦な表面は、摩擦係合のために摩擦材12が押し付けられる部分、または摩擦係合のために摩擦材12に押し付けられる部分とみなされ得る。
【0020】
QAS含有溶液は、QASと、バインダと、任意選択的にフィラー粒子と、を含み得る。溶液中のバインダは、本明細書において、溶液バインダと呼ばれ、ベース14に添加される、本明細書においてはベースバインダと呼ばれるバインダと区別される。溶液バインダは、カルボキシメチルセルロースナトリウム、グアーガム、またはアクリル系エマルションなどの、ナノセルロースであってもよい。フィラー粒子は、珪藻土であってもよい。QAS含有溶液は、0.5~5.0重量%のQASと、0.5~5.0重量%の溶液バインダと、0~30重量%のフィラー粒子と、60~98重量%の水と、を含み得る。溶液中に用いられる水の量は、塗布方法によって変化してもよい。例えば、ローラ塗布または刷毛塗りの場合に必要な水の量は、噴霧の場合のおよそ1/6~1/4であり得る。ローラ塗布または刷毛塗りの場合、QAS含有溶液は、2.0~5.0重量%のQASと、2.0~5.0重量%の溶液バインダと、10~30重量%のフィラー粒子と、60~86重量%の水と、を含み得る。噴霧の場合、QAS含有溶液は、0.5~2.5重量%のQASと、0.5~2.5重量%の溶液バインダと、2.5~15重量%のフィラー粒子と、80~98重量%の水と、を含み得る。
【0021】
QAS含有溶液がベース13に塗布された後、QAS含有溶液を乾燥させることにより水を取り除いて、QAS含有コーティング20の形成を終了し、このQAS含有コーティング20は、湿式摩擦材12の上側外面12aを画定する。乾燥は、熱風を吹き付けることにより実施してもよいか、または加熱したプレートを介して実施してもよい。いずれの場合でも、紙の表面は、90~110℃の温度に達する。QASコーティング層20は、乾燥後、10~50重量%のQASと、10~50重量%の溶液バインダと、0~80重量%のフィラー粒子と、を含み得る。いくつかの実施形態では、QASコーティング層20は、乾燥後、12.5~25重量%のQASと、12.5~25重量%の溶液バインダと、50~75重量%のフィラー粒子と、を含み得る。
【0022】
ベースバインダは、例えば、フェノール樹脂の形態であり、ベースバインダは、QASコーティング層20がベース13に塗布された後に、湿式摩擦材12に添加される。ベースバインダは、外面13aを通り抜けて湿式摩擦材12の内部に浸透し、その結果、湿式摩擦材12内部の空隙18は、水系のフェノール樹脂20で飽和されるが、QASコーティング層20により画定される外面12aは、露出している。
【0023】
図2に示されるように、次いで、湿式摩擦材12が金属部品22の上に配置され、12と部品22とが一体に接合されて、摩擦アセンブリを形成する。12と部品22とを一体に接合することは、湿式摩擦材12を金属部品22に対して、熱プレート24を用いて押し付けて、湿式摩擦材12中のフェノール樹脂を硬化させ、湿式摩擦材12と金属部品22とを一体に固定することを含む。湿式摩擦材12の下側外面12bが金属部品22の外面22a上に載置された状態で、熱プレート24を湿式摩擦材12の外面12aに対して押し付ける力をかけることによって、フェノール樹脂を熱プレート24の熱で硬化させる。フェノール樹脂を硬化させることにより、湿式摩擦材12を固化し、かつ堅固にして、繊維16および粒子14をその場に固定することができ、それによって、湿式摩擦材12の強度が改善される。表面12bと表面22aとの間に適用された接着性フィルムは、適用される時間、温度、圧力により、金属部品22と湿式摩擦材12との間に恒久的な接続をもたらす。好ましい一実施形態では、外層の外面12aに接触するプレート24の表面24aの加熱は、375~425°Fであるものの、QASコーティング層20には影響しない。
【0024】
別の実施形態では、ベース樹脂をベース13に添加する前、かつ湿式摩擦材12を金属部品22に結合させる前に、QAS含有溶液をベース13に塗布する代わりに、ベース樹脂をベース13に添加した後、かつ湿式摩擦材12を金属部品22に結合させた後に、QAS含有溶液を湿式摩擦材12に塗布する。例示的な一用途では、ベース樹脂をベース13に添加した後、かつ湿式摩擦材12を金属部品22に結合した後に、2~10重量%のQASおよび90~98重量%の水を含むが、フィラー粒子およびバインダを含まないQAS含有溶液を、湿式摩擦材12に塗布し、次いで、水を乾燥させて除去する。より具体的には、5~10重量%のQASと、90~95重量%の水と、を含むQAS含有溶液を使用してもよい。
【0025】
図3は、トルクコンバータ44のロックアップクラッチアセンブリ42のクラッチプレート40の形態をした金属部品の両側に結合された、湿式摩擦材12を示す。ロックアップクラッチアセンブリ42のピストン46は、トルクコンバータ44のフロントカバー48の内面48aに対してクラッチプレート40を押し付ける。ピストン46は、湿式摩擦材42のリア側ピースの表面12aに接触し、湿式摩擦材12のフロント側ピースの表面12aを、フロントカバー48の内面48aに押し付ける。クラッチプレート40をピストン46によってフロントカバー48に押し付けることにより、ロックアップクラッチアセンブリ42がロックされ、その結果、トルクコンバータ44内のトランスミッション入力シャフトへのトルク経路は、トルクコンバータ44のインペラ50およびタービン52を迂回し、その代わりに、フロントカバー48からクラッチプレート40まで流れ、かつダンパアセンブリ54を介してトルクコンバータ44の出力ハブ56に接続されたトランスミッション入力シャフトまで流れる。
【0026】
図4は、本発明の別の実施形態による、二層湿式摩擦材112を示す。二層湿式摩擦材112は、支持層114および外層116から形成されるベース113を含む。ベース113は、支持層114が、上側外面114aと下側外面114bとの間の厚さT1を有するように、かつ外側層116が、上側外面116aと下側外面116bとの間の厚さT2を有するように、かつ湿式摩擦材112が、外面116aと外面114bとの間の総厚さT3を有するように、形成される。好ましい一実施形態では、外層116の厚さT2は、総厚さT3の10~30%に等しく、したがって、支持層10の厚さT1は、総厚さT3の70~90%である。
【0027】
支持層114は、繊維と、フィラー材料と、バインダと、から形成される湿式摩擦材である。好ましい一実施形態では、繊維は、60~100重量%の合成繊維、例えば、アラミド繊維を含むが、セルロース繊維、炭素繊維、および/またはガラス繊維もまた含むことができる。好ましい別の実施形態では、繊維は、75~90重量%の合成繊維を含む。セルロース繊維は、コットンリンターまたは木材パルプの形態であり得る。フィラーは、珪藻土および/または粘土であり得る。ベースバインダは、フェノール樹脂、ラテックス、またはシランであり得る。任意選択的に、グラファイトなどの摩擦調整剤もまた、ベース層10に含んでもよい。
【0028】
外層116は、繊維と、フィラー材料と、ベースバインダと、を含む。繊維は、セルロース繊維からなっていてもよい。フィラーは、円筒形状、ランダム形状、または円盤形状の珪藻土からなる。好ましい一実施形態では、珪藻土粒子は、5~40マイクロメートルの平均直径を有する。ベースバインダは、フェノール樹脂、ラテックス、またはシランであり得る。任意選択的に、グラファイトなどの摩擦調整剤もまた、外層116に含んでもよい。外層116の組成は、支持層114よりも高い比率のフィラー材料および低い比率の繊維を含み、その結果、外層116は、支持層114よりも多孔性が低く、かつ密度が高く、支持層114よりも高い摩擦係数を有し、かつ支持層114よりも高い耐摩耗性を有する。層114および116の繊維は、25~35マイクロメートルの平均直径と、1~2ミリメートルの平均長と、を有する。
【0029】
好ましい一実施形態では、支持層114は、35~60重量%の繊維と、15~40重量%のフィラー材料と、20~30重量%のベースバインダと、を含む。より具体的には、より高温になる用途の場合には、ベース層のシートは、35~55重量%のアラミド繊維と、15~40重量%のフィラー(いくつかの好ましい実施形態では、珪藻土のみからなる)と、25~35%のベースバインダと、を含んでもよい。
【0030】
外層116は、35~55%の珪藻土と、15~40%のセルロース繊維と、20~30%のベースバインダと、からなる。
【0031】
湿式摩擦材112はまた、外層116の外面116a上にQAS含有層120を含む。上に同様に説明されたように、QAS含有溶液を外層116に塗布し、ベース113の外層116の外面116aにおいて粒子および繊維上にQAS含有コーティング120を形成することができる。上に同様に説明されたように、ベース樹脂をベース113に添加する前、かつ湿式摩擦材112を金属部品に結合させる前に、QAS含有溶液を塗布することができる、または、ベース樹脂をベース113に添加した後、かつ湿式摩擦材112を金属部品に結合させた後に、QAS含有溶液を湿式摩擦材112に塗布することができる。
【0032】
前述の明細書では、本開示は、特定の例示的な実施形態およびその実施例を参照して説明されてきた。しかしながら、以下の特許請求の範囲に記載されるようなより広い趣旨および範囲の開示から逸脱することなく、様々な変更および変形を行うことができることは明らかであろう。したがって、明細書および図面は、限定的な意味ではなく例示的な様式で見なされるべきである。
【符号の説明】
【0033】
12 湿式摩擦材
12a 上側外面
12b 下側外面
13 ベース
13a 上側外面
13b 下側外面
14 粒子
16 繊維
18 空隙
20 QAS含有コーティング
22 金属部品
22a 外面
24 熱プレート
24a 表面
40 クラッチプレート
42 ロックアップクラッチアセンブリ
42 ロックアップクラッチアセンブリ
44 トルクコンバータ
46 ピストン
48 フロントカバー
48a 内面
50 インペラ
52 タービン
54 ダンパアセンブリ
56 出力ハブ
112 二層湿式摩擦材
113 ベース
114 支持層
114a 上側外面
114b 下側外面
116 外層
116a 上側外面
116b 下側外面
120 QAS含有層
T1 支持層厚さ
T2 外層厚さ
T3 総厚さ
図1a
図1b
図2
図3
図4