(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-12
(45)【発行日】2024-01-22
(54)【発明の名称】無人航空機を用いた構造物の点検・補修方法
(51)【国際特許分類】
B64U 10/60 20230101AFI20240115BHJP
B64U 20/80 20230101ALI20240115BHJP
B64U 50/19 20230101ALI20240115BHJP
B64U 50/23 20230101ALI20240115BHJP
B64U 50/30 20230101ALI20240115BHJP
B64U 101/26 20230101ALN20240115BHJP
【FI】
B64U10/60
B64U20/80
B64U50/19
B64U50/23
B64U50/30
B64U101:26
(21)【出願番号】P 2023121996
(22)【出願日】2023-07-26
【審査請求日】2023-07-26
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000103769
【氏名又は名称】オリエンタル白石株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120868
【氏名又は名称】安彦 元
(74)【代理人】
【識別番号】100198214
【氏名又は名称】眞榮城 繁樹
(72)【発明者】
【氏名】正司 明夫
(72)【発明者】
【氏名】渡瀬 博
(72)【発明者】
【氏名】東 洋輔
【審査官】塚本 英隆
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/016942(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/094842(WO,A1)
【文献】特開2015-189321(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B64U 10/60
B64U 20/80
B64U 50/19
B64U 50/23
B64U 50/30
B64U 101/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無人航空機を用いた構造物の点検・補修方法であって、
構造物に吸着可能な真空吸着装置を有し、発電機に
電源ケーブルで接続され
て、電力を前記無人航空機にワイヤレス給電方式で供給するか、又は前記無人航空機のバッテリーに接続するための接続端子を有し、前記無人航空機から切り離し可能な複数の給電部材をそれぞれ複数の
前記無人航空機で
前記給電部材の前記電源ケーブルを伸ばした状態で運搬して
前記電源ケーブルで給電部材同士を接続し
た後、前記無人航空機から給電部材を切り離して延設していくことで給電施設を延伸し、設置した給電部材から電力の供給を受けつつ
前記無人航空機とは異なる点検・補修作業の作業用の無人航空機で前記構造物の点検・補修を行うこと
を特徴とする無人航空機を用いた構造物の点検・補修方法。
【請求項2】
前記給電施設の先端部は、有線で複数の給電部材に分岐されていること
を特徴とする請求項1に記載の無人航空機を用いた構造物の点検・補修方法。
【請求項3】
前記給電部材とともに、前記無人航空機と通信する通信ケーブルも延伸すること
を特徴とする請求項1に記載の無人航空機を用いた構造物の点検・補修方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無人航空機を用いた構造物の点検・補修方法に関し、詳しくは、給電中継手段と真空吸着装置を有する無人航空機を用いた構造物の点検・補修方法に関する。
【背景技術】
【0002】
構造物の維持管理においては、有人で構造物を点検して仮設足場等を設置しつつ補修を行っているのが現状である。このため、点検・補修に費用が嵩むだけでなく、点検・補修すべき構造物の膨大なストックがあるため、耐用年数が経過するまでに人員不足により構造物の点検・補修を行うことができないという問題が発生している。また、点検・補修時には、仮設足場の設置や橋梁点検車の使用が必要なことから、車線規制も必要になるという問題もある。
【0003】
このような問題を解決するべく、簡易的に維持管理を行うための一手法として、飛行ロボットによる点検補修も提案されている。例えば、特許文献1には、複数のドローン1を有線ケーブル2によって直列に連結してドローン群を形成し、有線ケーブル2は、各ドローン1への給電及び/又は各ドローン1との通信を行う機能を有し、ドローン群の一端側のドローン1に、ドローン群の移動を制御する制御装置3を接続した有線式ドローン群が開示されている(特許文献1の特許請求の範囲の請求項1、明細書の段落[0024]~[0026]、図面の
図4,
図5等参照)。
【0004】
また、特許文献2には、複数のプロペラ2を有し三次元移動可能なドローン1であって、ドローン1の機体上部にメカナムホイール9が配置され、プロペラ2の揚力によって構造物にメカナムホイール9が接触した状態で、メカナムホイール9の推進力によって水平移動可能とするドローン1が開示されている(特許文献2の特許請求の範囲の請求項1、明細書の段落[0025]~[0044]、図面の
図1~
図6等参照)。また、特許文献2には、ドローン1に対して有線給電装置により地上から有線給電しながらトンネル内壁面を点検することが開示されている(特許文献2の特許請求の範囲の請求項6、明細書の段落[0043]、図面の
図6等参照)。
【0005】
また、特許文献3には、本体部と、ローターを備えたドローンであって、建造物の鉄部に磁気吸着して走行する磁石車輪を本体部の上部に装着した懸垂型ドローンが開示されている(特許文献3の特許請求の範囲の請求項1、明細書の段落[0011]~[0021]、図面の
図1,
図2等参照)。また、特許文献3には、「高架や橋梁下面の点検では、高さが数十メートルよりも低いので、有線操作が適している。」こと、及び「有線とした場合、操縦用ラインと電力ライン及び計測機器の制御、計測データ用のラインをまとめて一体としたケーブルを、懸垂型ドローンの本体部に繋げることができる。これによって、懸垂型ドローンバッテリーを積む必要がなく、懸垂型ドローンの重量を軽量化できる。」ことも記載されている(特許文献3の特許請求の範囲の請求項1、明細書の段落[0027]、図面の
図9等参照)。
【0006】
このような特許文献1~3に記載の無人航空機(ドローン)は、有線により給電を行うのでバッテリーの容量を小さくしたり、無くしたりすることができるというメリットがある。しかし、給電用の電源ケーブル等は、それ自体重量が重く、ローターに接触すると落下するおそれもあり、無人航空機の飛行の安定を阻害するという問題がある。
【0007】
また、特許文献3に記載の無人航空機(ドローン)は、磁気吸着するものであるため、コンクリート構造物には吸着できないという問題もあった。
【0008】
一方、特許文献4には、多関節ロボットアーム40の先端に吸着部と吸引ファンとを備える真空吸着装置50を有するドローン飛行体1Dが開示されている(特許文献4の特許請求の範囲の請求項6、明細書の段落[0051]~[0056]、図面の
図6等参照)。
【0009】
特許文献4に記載のドローン飛行体1Dは、真空吸着装置50を有するため、真空吸着装置50によって構造物に吸着し、ドローン飛行体1Dを安定静止したうえで固定すれば、被点検構造物の微細な傷などの拡大撮影や打音点検などの精緻な点検作業などを行うことが可能とされている。
【0010】
しかし、特許文献4に記載のドローン飛行体1Dは、加速度センサーの検出値から、真空吸着装置50の移動速度、基準位置からの移動量及び移動方向を算出して、この値に基づき外乱方向に対して逆位相で真空吸着装置50を動かし、真空吸着装置50の位置及び姿勢を外乱前に補正して安定飛行姿勢を維持するものであり、飛行や吸着時にロボットアームを点検や補修に使用できるものではないという問題がある。また、特許文献4に記載のドローン飛行体1Dは、有線で給電する構成ではないため、飛行体に搭載可能なバッテリーでは十分な電力がなく、作業時間や使える機器に制約がでるという問題が発生する。その上、バッテリー容量を大きくすると、無人航空機も大きくなり、狭い場所に進入できなくなるという問題も発生する。
【0011】
また、特許文献5には、空中を飛行するための推力発生部12を有する本体10と、吸着部21を有し本体10に取り付けられた真空吸着装置20と、推力発生部12及び真空吸着装置20の作動を制御する制御装置とを備え、吸着部21の真空吸着により本体10を壁面に固定することができる無人飛行体1が開示されている(特許文献5の特許請求の範囲の請求項6、明細書の段落[0015]~[0025]、図面の
図3~
図7等参照)。
【0012】
特許文献5に記載の無人飛行体1は、無人飛行体1を壁面Wに吸着させて、巻上機70が紐状体71の巻き上げまたは巻き下ろしを行うことにより、被移動体72を移動させて各種作業(例えば、壁面Wの検査や塗装など)を行うことができるとされている。しかし、特許文献5に記載の無人飛行体1は、特許文献4に記載のドローン飛行体1Dと同様に、有線で給電する構成ではないため、飛行体に搭載可能なバッテリーでは十分な電力がなく、作業時間や使える機器に制約がでるという問題が発生する。バッテリー容量を大きくすると、無人航空機も大きくなり、狭い場所に進入できなくなるという問題が発生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】特開2018-75869号公報
【文献】特開2018-108818号公報
【文献】特開2019-84868号公報
【文献】特許第6844097号公報
【文献】特許第6906264号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
そこで、本発明は、前述した問題に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、大きなバッテリーを搭載しなくても作業時間や使用できる機器の制限が少なく、且つ、給電用の電源ケーブルが安定飛行の阻害要因になり難い無人航空機を用いた構造物の点検・補修方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
請求項1に係る無人航空機を用いた構造物の点検・補修方法は、無人航空機を用いた構造物の点検・補修方法であって、構造物に吸着可能な真空吸着装置を有し、発電機に電源ケーブルで接続されて、電力を前記無人航空機にワイヤレス給電方式で供給するか、又は前記無人航空機のバッテリーに接続するための接続端子を有し、前記無人航空機から切り離し可能な複数の給電部材をそれぞれ複数の前記無人航空機で前記給電部材の前記電源ケーブルを伸ばした状態で運搬して前記電源ケーブルで給電部材同士を接続した後、前記無人航空機から給電部材を切り離して延設していくことで給電施設を延伸し、設置した給電部材から電力の供給を受けつつ前記無人航空機とは異なる点検・補修作業の作業用の無人航空機で前記構造物の点検・補修を行うことを特徴とする。
【0017】
請求項2に係る無人航空機を用いた構造物の点検・補修方法は、請求項1に係る無人航空機を用いた構造物の点検・補修方法において、前記給電施設の先端部は、有線で複数の給電部材に分岐されていることを特徴とする。
【0018】
請求項3に係る無人航空機を用いた構造物の点検・補修方法は、請求項1に係る無人航空機を用いた構造物の点検・補修方法において、前記給電部材とともに、前記無人航空機と通信する通信ケーブルも延伸することを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
請求項1~3に係る発明によれば、無人航空機で構造物に吸着可能な給電部材を運搬して給電施設を構造物の点検・補修箇所まで延伸しつつ無人航空機で点検・補修を行うので、無人航空機に大きなバッテリーを搭載しなくても作業時間や使用できる機器の制限が少ないものとすることができる。
【0020】
また、請求項1~3に係る発明によれば、構造物に吸着可能な給電部材を用いて給電施設を延伸するとともに、電源ケーブルの一端と給電部材を複数の無人航空機でそれぞれ接続して電源ケーブルを伸ばした状態で運搬するので、給電用の電源ケーブルが無人航空機の安定飛行の阻害要因になり難い。
さらに、請求項1~3に係る発明によれば、給電部材は、無人航空機に脱着可能に構成されているので、無人航空機で給電部材を運搬して給電施設を順次延伸していくことが容易である。
【0022】
特に、請求項2に係る発明によれば、給電施設を分岐し、点検・補修箇所である先端部給電部材を複数設置するので、使用電力の制限なく同時に異なる作業を別々の無人航空機で行うことができる。
【0023】
特に、請求項3に係る発明によれば、給電施設と併用して通信ケーブルも延伸してコントローラーからの指示通信を中継するので、操縦者から構造物の陰に無人航空機1が隠れてしまう場合など無線通信が困難な箇所でも、無人航空機1にコントローラーからの指示通信を確実に伝達することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】
図1は、無人航空機の概略構成を示す模式平面図である。
【
図2】
図2は、給電部材の概略構成を示す模式図である。
【
図3】
図3は、本実施形態に係る構造物の点検・補修方法の給電施設延伸工程を示す工程説明図であり、(a)~(c)の順番で進行する。
【
図4】
図4は、同上の構造物の点検・補修方法の給電施設先端部設置工程を示す工程説明図であり、(a),(b)の順番で進行する。
【
図5】
図5は、同上の構造物の点検・補修方法の点検・補修工程を示す工程説明図である。
【
図6】
図6は、同上の構造物の点検・補修方法の給電部材を無人航空機から切り離さない場合を示す図である。
【
図7】
図7は、同上の構造物の点検・補修方法の給電施設を分岐させる場合を示す図である。
【
図8】
図8は、同上の構造物の点検・補修方法のホバリングした無人航空機で給電施設を中継する場合を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明に係る無人航空機を用いた構造物の点検・補修方法について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0026】
<無人航空機>
先ず、
図1を用いて、本発明の実施形態に係る無人航空機を用いた構造物の点検・補修方法に用いる本発明の実施形態に係る無人航空機1(以下、単に無人航空機1ともいう。)について簡単に説明する。
図1は、無人航空機1の概略構成を示す模式平面図である。
【0027】
図示形態に係る無人航空機1は、4つのアームを有する航空機本体10と、この航空機本体10の4つのアームの先端に設けられた4つの(複数の)電動モーター11と、これらの電動モーター11でそれぞれ回転駆動されるローター12(回転翼)を備える、いわゆるクアッドコプターと呼ばれるマルチコプター(ドローン)である。
【0028】
(航空機本体)
航空機本体10は、機体の姿勢や速度などを制御するフライトコントローラーと、送信機から送られてくる指示電波を受信してフライトコントローラーへ指示する受信機と、フライトコントローラーからの指示をモーターへ伝送して後述のモーターの回転数をコントロールするESC(アンプ)と、受信機やESCなどに電源を供給するバッテリーなど、を備えている。
【0029】
また、航空機本体10には、対象物との距離を測る超音波センサ(Ultrasound Sensor)、気圧を計測することで地表からの高さを計測する圧力センサ(Pressure Sensor)、加速度と角速度を検出することで機体の加速度や傾きを検出する慣性計測装置(IMU:Inertial Measurement Unit)などの必要なセンサ類も搭載されている。
【0030】
<無人航空機を用いた構造物の点検・補修方法>
次に、
図2~
図8を用いて、本発明の実施形態に係る無人航空機1を用いた構造物の点検・補修方法(以下、単に構造物の点検・補修方法ともいう。)について説明する。点検・補修する構造物としてコンクリート構造物である橋梁B1を例示し、橋梁B1の橋脚P1などの下部構造物上方の狭隘な支承S1付近を点検・補修する場合を例示して説明する。なお、符号B2は、橋梁B1のコンクリート床版を示している。
【0031】
(給電施設延伸工程)
先ず、本実施形態に係る構造物の点検・補修方法では、
図2,
図3に示すように、給電部材2を有線である電源ケーブルL1で接続して延伸していく給電施設延伸工程を行う。
【0032】
図2は、給電部材2の概略構成を示す模式図である。
図2に示すように、給電部材2は、延長コードリール4を経由して発電機3(発電施設)からの電力を中継する給電中継手段であり、発電機3(発電施設)からの電力を中継して無人航空機へ供給する給電部材本体20と、構造物である橋梁B1に吸着するための真空吸着装置21と、給電部材本体20の端部に設けられ、電力を無人航空機1のバッテリーに接続するための接続端子22と、を備えている。
【0033】
真空吸着装置21は、図示しない真空吸着ポンプと、構造物に当接する吸引パッドを有し、吸引パッド内の空気を吸引して真空状態の低圧にすることで構造物に吸着して固定する機能を有している。
【0034】
但し、前述の接続端子22は、コンセント方式の接続端子であるがマグネット式としても構わないし、ワイヤレス給電として接続端子自体を省略することもできる。ワイヤレス給電は、電磁誘導方式(従来型)、電磁誘導方式(磁界共鳴型)、電界結合方式、電磁波方式(マイクロ波)、電磁波方式(レーザ)など、既知のワイヤレス給電方式を採用することができる。
【0035】
図3は、本実施形態に係る構造物の点検・補修方法の給電施設延伸工程を示す工程説明図であり、(a)~(c)の順番で進行する。本工程では、
図3に示すように、電源ケーブルL1の一端と給電部材2を複数の無人航空機1でそれぞれ接続して電源ケーブルL1を伸ばした状態で運搬して発電機3から延びる給電施設を延設して行く。このため、電源ケーブルL1が無人航空機1のローター12に接触して無人航空機1が墜落するおそれや、電源ケーブルL1が構造物である橋梁B1の隙間に挟まって取れなくなるおそれを払拭でき、無人航空機1の安定飛行を実現することができる。なお、無人航空機1と電源ケーブルL1や給電部材2との接続は、磁力での磁着やマジックハンドでの把持等が例示されるが、脱着自在に接続できる手段であればどのような手段でも構わない。
【0036】
なお、本給電施設延伸工程では、給電部材2から電力を利用して無人航空機1をコントロールするコントローラーと通信する通信ケーブル(図示せず)も延伸することが好ましい。無線通信システムで通信可能なエリアは、使用する周波数帯で限られているし、構造物の陰に隠れる場合など無線通信が困難な箇所が出てくるからである。例えば、無人航空機1に近傍の給電部材2までは、給電施設と併用して通信ケーブルも延伸してコントローラーからの指示通信を中継し、無人航空機1近傍の給電部材2から無線通信で無人航空機1にコントローラーからの指示通信を伝達することができる。
【0037】
(給電施設先端部設置工程)
次に、
図4に示すように、本実施形態に係る構造物の点検・補修方法では、点検や補修を行う箇所となる給電施設の先端部にまで延伸して到達するように先端部給電部材2’を設置する給電施設先端部設置工程を行う。
図4は、本実施形態に係る構造物の点検・補修方法の給電施設先端部設置工程を示す工程説明図であり、(a),(b)の順番で進行する。
【0038】
給電施設先端部設置工程でも、給電施設延伸工程と同様に、電源ケーブルL1の一端と給電部材2を複数の無人航空機1でそれぞれ接続して電源ケーブルL1を伸ばした状態で運搬して先端部の給電施設を設置する。
【0039】
本工程が、給電施設延伸工程と相違する点は、点検や補修を行う箇所となる給電施設の先端部に先端部給電部材2’を設置するため、無人航空機1の少なくとも1機が、前述の無人航空機1の構成に加え、点検・補修用のロボットアームが取り付けられた作業用の無人航空機1’となっている点である。本工程で設置した先端部給電部材2’から電力の供給を受けつつ先端部給電部材2’を運搬した無人航空機1’でそのまま次工程で点検・補修作業を行うためである。但し、無人航空機1で先端部給電部材2’を運搬して、次工程で作業用の無人航空機1’に取り替えても構わない。
【0040】
(点検・補修工程)
次に、
図5に示すように、本実施形態に係る構造物の点検・補修方法では、点検や補修を行う箇所で先端部給電部材2’から電力の供給を受けつつ構造物を点検し、又は点検及び補修する点検・補修工程を行う。
図5は、本実施形態に係る構造物の点検・補修方法の点検・補修工程を示す工程説明図である。
【0041】
図5に示すように、本工程では、点検や補修を行う箇所で先端部給電部材2’から電力の供給を受けつつロボットアームの先端に動画や静止画を撮像可能なカメラが取り付けられた作業用の無人航空機1’でカメラを用いて点検や補修を行う箇所で点検を行う。このとき、本工程では、構造物に吸着した先端部給電部材2’から電力の供給を受けつつ無人航空機1’で点検作業を行うので、大きなバッテリーを搭載しなくても作業時間や使用できる機器の制限が少なく、しかも風などの影響をあまり受けずに、構造物である橋梁B1の狭隘な支承S1付近でも効率的に無人航空機で点検作業を行うことができる。
【0042】
そして、無人航空機1’を介した動画や静止画での点検の結果、補修が必要と判断した場合は、
図5に示すように、先端部給電部材2’から電力の供給を受ける無人航空機を、カメラが取り付けられた作業用の無人航空機1’から、斫り機等が取り付けられた作業用の無人航空機1”に取り替えて、必要な補修作業を行う。このため、必要な作業を異なる無人航空機で行うので、1機あたりの重量を低減することができ、さらに大きなバッテリーを搭載しなくても作業時間や使用できる機器の制限が少ないものとすることができる。
【0043】
以上のように、カメラが取り付けられた作業用の無人航空機1’、斫り機等が取り付けられた作業用の無人航空機1”を例示して説明したが、無人航空機には、種々の物を把持可能なロボットハンド、補修するための噴霧器、点検するための打音装置等、点検用、補修用の種々の機器を取り付けることができる。
【0044】
なお、給電部材2や先端部給電部材2’を無人航空機1,1’から切り離して給電施設として利用する場合を例示して説明したが、
図6に示すように、給電部材2や先端部給電部材2’を無人航空機1,1’から切り離すことなく使用しても構わない。給電部材2と無人航空機1等の脱着時の失敗等を防ぐためである。
図6は、本実施形態に係る構造物の点検・補修方法の給電部材を無人航空機から切り離さない場合を示す図である。
【0045】
また、
図7に示すように、給電施設を分岐し、先端部給電部材2’を複数設置し、それぞれ異なる先端部給電部材2’から無人航空機1’,1”に給電し、異なる作業を別々の無人航空機1’,1”で行えるようにしても構わない。補修する内容によっては、同時に異なる作業を行う必要がある場合があり得るからである。
図7は、本実施形態に係る構造物の点検・補修方法の給電施設を分岐させる場合を示す図である。
【0046】
さらに、
図8に示すように、構造物に吸着可能な給電部材2の代わりにホバリングした無人航空機1で給電施設を中継しても構わない。構造物の構造や部位によっては、真空吸着装置21で吸着できない場合もあり得るからである。
図8は、本実施形態に係る構造物の点検・補修方法のホバリングした無人航空機で給電施設を中継する場合を示す図である。
【0047】
以上説明した本実施形態に係る無人航空機を用いた構造物の点検・補修方法によれば、無人航空機1,1’で構造物に吸着可能な給電部材2を運搬して給電施設を構造物の点検・補修箇所まで延伸しつつ無人航空機1,1’で点検・補修を行うので、無人航空機1に大きなバッテリーを搭載しなくても作業時間や使用できる機器の制限が少ないものとすることができる。
【0048】
しかも、本実施形態に係る無人航空機を用いた構造物の点検・補修方法によれば、構造物に吸着可能な給電部材2を用いて給電施設を延伸するとともに、電源ケーブルL1の一端と給電部材2を複数の無人航空機1でそれぞれ接続して電源ケーブルL1を伸ばした状態で運搬するので、給電用の電源ケーブルL1が無人航空機1の安定飛行の阻害要因になり難い。
【0049】
その上、本実施形態に係る無人航空機を用いた構造物の点検・補修方法によれば、給電施設を分岐し、先端部給電部材2’を複数設置するので、使用電力の制限なく同時に異なる作業を別々の無人航空機1’,1”で行うことができる。
【0050】
以上、本発明の実施形態に係る無人航空機を用いた構造物の点検・補修方法について詳細に説明した。しかし、前述した又は図示した実施形態は、いずれも本発明を実施するにあたって具体化した一実施形態を示したものに過ぎない。よって、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。
【符号の説明】
【0051】
1,1’,1”:無人航空機
10:航空機本体
11:電動モーター
12:ローター(回転翼)
2:給電部材(給電施設)
2’:先端部給電部材(給電施設)
20:給電部材本体
21:真空吸引装置
22:接続端子
3:発電機(発電施設)
4:延長コードリール
L1:電源ケーブル(有線)
B1:橋梁(構造物)
B2:コンクリート床版
P1:橋脚(下部構造物:構造物)
S1:支承(構造物)
【要約】
【課題】大きなバッテリーを搭載しなくても作業時間や使用できる機器の制限が少なく、且つ、給電用の電源ケーブルが安定飛行の阻害要因になり難い無人航空機を用いた構造物の点検・補修方法を提供する。
【解決手段】無人航空機1を用いた構造物の点検・補修方法において、構造物に吸着可能な真空吸着装置を有し、発電機に有線で接続された複数の給電部材をそれぞれ複数の無人航空機で運搬して有線で給電部材同士を接続して給電施設を延伸し、設置した給電部材から電力の供給を受けつつ無人航空機で前記構造物の点検・補修を行う。
【選択図】
図1