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特許7419600ポリヘキサメチレンビグアナイドまたはその塩を含有する水性点眼液
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-12
(45)【発行日】2024-01-22
(54)【発明の名称】ポリヘキサメチレンビグアナイドまたはその塩を含有する水性点眼液
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/7084 20060101AFI20240115BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20240115BHJP
   A61K 47/18 20170101ALI20240115BHJP
   A61K 47/30 20060101ALI20240115BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20240115BHJP
   A61P 27/04 20060101ALI20240115BHJP
【FI】
A61K31/7084
A61K9/08
A61K47/18
A61K47/30
A61P27/02
A61P27/04
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2023177307
(22)【出願日】2023-10-13
(62)【分割の表示】P 2023004875の分割
【原出願日】2021-11-17
(65)【公開番号】P2023171646
(43)【公開日】2023-12-01
【審査請求日】2023-10-13
(31)【優先権主張番号】P 2020191944
(32)【優先日】2020-11-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000177634
【氏名又は名称】参天製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】桃川 雄介
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 洋子
【審査官】篭島 福太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-70053(JP,A)
【文献】特開2020-73484(JP,A)
【文献】特開2019-202166(JP,A)
【文献】国際公開第2016/140242(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/013494(WO,A1)
【文献】特開2011-63104(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/7084
A61K 9/08
A61K 47/18
A61K 47/30
A61P 27/02
A61P 27/04
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3%(w/v)の濃度のジクアホソルまたはその塩および0.0002%(w/v)超0.0016%(w/v)未満の濃度のポリヘキサメチレンビグアナイドまたはその塩を含有する水性点眼液であって、ポリソルベートを含有しない水性点眼液。
【請求項2】
ポリヘキサメチレンビグアナイドまたはその塩の濃度が0.0004%(w/v)以上0.0016%(w/v)未満である、請求項1に記載の水性点眼液。
【請求項3】
ポリヘキサメチレンビグアナイドまたはその塩の濃度が0.0004~0.0008%(w/v)である、請求項1に記載の水性点眼液。
【請求項4】
ポリヘキサメチレンビグアナイドまたはその塩が、ポリヘキサメチレンビグアナイド塩酸塩である、請求項1~3のいずれか一項に記載の水性点眼液。
【請求項5】
水性点眼液のpHが6~8の範囲である、請求項1~4のいずれか一項に記載の水性点眼液。
【請求項6】
ジクアホソルまたはその塩が、ジクアホソルナトリウムである、請求項1~5のいずれか一項に記載の水性点眼液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジクアホソルまたはその塩を有効成分として含有する水性点眼液(以下、ジクアホソル点眼液ともいう)であって、ポリヘキサメチレンビグアナイドまたはその塩を含有する水性点眼液に関する。
【背景技術】
【0002】
ジクアホソルはP,P-ジ(ウリジン-5’)四リン酸またはUpUとも呼ばれるプリン受容体アゴニストであり、特許第3652707号公報(特許文献1)に開示されているように、涙液分泌促進作用を有することが知られている。また、Cornea,23(8),784-792(2004)(非特許文献1)には、ジクアホソル四ナトリウム塩を含有する点眼液を点眼投与することにより、ドライアイ患者の角膜上皮障害が改善したことが記載されている。実際、我が国においては、3%(w/v)の濃度のジクアホソル四ナトリウム塩を含有する点眼液がドライアイ治療薬として使用されている(製品名:ジクアス(登録商標)点眼液3%)。
【0003】
他方、一般に、点眼液には、開封後一定期間にわたり何回も使用するタイプ(マルチドーズ型点眼液)と1回使い切りタイプ(ユニットドーズ型点眼液)がある。特に、マルチドーズ型点眼液には、使用時の微生物汚染等による製品の腐敗を防止し、点眼液の保存安定性を確保するために、防腐剤が含まれることが一般的である。
【0004】
しかしながら、いかなる防腐剤であっても点眼液に好適に使用できるわけではなく、例えば、主薬と防腐剤との組み合わせによっては、配合変化(沈殿・懸濁)を起こしてしまい取扱いが困難になることがある。例えば、特許文献2には、ジクアホソル点眼液に、防腐剤として汎用されている塩化ベンザルコニウム(以下、BAKともいう)を配合すると容易に配合変化を起こして白濁を生じてしまうことが記載されている。
【0005】
特許文献2では、通常用いられる塩化ベンザルコニウム(化学式[CCHN(CHR]Cl中のアルキル基RがC~C18の混合物である)に代えて、アルキル基Rの炭素数が12の塩化ベンザルコニウム(BAK-C12)を特に選択して使用することで、上記配合変化を回避している。しかしながら、BAKを含有する点眼液は、角膜に障害がある人やドライアイ症状等を示す涙液の動態が正常でない人が点眼すると、角膜に障害をきたすことが知られていることから、点眼液の防腐剤として、BAK以外の化合物の利用も望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第3652707号公報
【文献】特開2003-160491号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】Cornea,23(8),784-792(2004)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、十分な保存効力を有し、かつ澄明なジクアホソル点眼液を調製することのできる、さらなるジクアホソルと防腐剤との組合せを探索することは興味深い課題である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、ジクアホソル点眼液に、防腐剤としてポリヘキサメチレンビグアナイドまたはその塩を用いた場合、適量の配合により、点眼液は澄明なまま十分な保存効力を付与できることを見出した。すなわち、本発明者らは、ジクアホソル点眼液を調製するにあたり、防腐剤としてポリヘキサメチレンビグアナイドまたはその塩を用いることで、十分な保存効力を有し、かつ澄明な点眼液を得ることができることを見出して、本発明を完成させた。
【0010】
すなわち、本発明は、以下を提供する。
(1)ジクアホソルまたはその塩を有効成分として含有し、およびポリヘキサメチレンビグアナイドまたはその塩を含有する水性点眼液。
(2)ポリヘキサメチレンビグアナイドまたはその塩の濃度が0.0002%(w/v)超である、(1)に記載の水性点眼液。
(3)ポリヘキサメチレンビグアナイドまたはその塩の濃度が0.0016%(w/v)未満である、(1)または(2)に記載の水性点眼液。
(4)ポリヘキサメチレンビグアナイドまたはその塩の濃度が0.0002%(w/v)超0.0016%(w/v)未満である、(1)~(3)のいずれかに記載の水性点眼液。
(5)ポリヘキサメチレンビグアナイドまたはその塩の濃度が0.0004~0.0008%(w/v)である、(1)~(3)のいずれかに記載の水性点眼液。
(6)ポリヘキサメチレンビグアナイドまたはその塩が、ポリヘキサメチレンビグアナイド塩酸塩である、(1)~(5)のいずれかに記載の水性点眼液。
(7)ジクアホソルまたはその塩の濃度が1~10%(w/v)である、(1)~(6)のいずれかに記載の水性点眼液。
(8)ジクアホソルまたはその塩の濃度が3%(w/v)である、(1)~(6)のいずれかに記載の水性点眼液。
(9)水性点眼液のpHが6~8の範囲である、(1)~(8)のいずれかに記載の水性点眼液。
(10)ジクアホソルまたはその塩が、ジクアホソルナトリウムである、(1)~(9)のいずれかに記載の水性点眼液。
(11)ジクアホソルまたはその塩を有効成分として含有する水性点眼液に保存効力を付与する方法であって、防腐剤としてポリヘキサメチレンビグアナイドまたはその塩を配合することを特徴とする、方法。
(12)防腐剤としてポリヘキサメチレンビグアナイドまたはその塩を配合することを特徴とする、ジクアホソルまたはその塩を有効成分として含有する澄明な水性点眼液の製造方法。
【0011】
なお、前記(1)~(12)の各構成は、任意に2つ以上を選択して組み合わせることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、十分な保存効力を有し、かつ澄明なジクアホソル点眼液を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明に関してさらに詳しく説明する。
【0014】
本発明において、「水性点眼液」とは水を溶媒(基剤)とする点眼液を意味する。
【0015】
本明細書において、「%(w/v)」は、本発明の水性点眼液100mL中に含まれる対象成分の質量(g)を意味する。
【0016】
ジクアホソルは、下記化学構造式で示される化合物である。
【0017】
【化1】
【0018】
「ジクアホソルの塩」としては、医薬として許容される塩であれば特に制限はなく、リチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、亜鉛などとの金属塩;塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硝酸、硫酸、リン酸などの無機酸との塩;酢酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、クエン酸、酒石酸、アジピン酸、グルコン酸、グルコヘプト酸、グルクロン酸、テレフタル酸、メタンスルホン酸、乳酸、馬尿酸、1,2-エタンジスルホン酸、イセチオン酸、ラクトビオン酸、オレイン酸、パモ酸、ポリガラクツロン酸、ステアリン酸、タンニン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、硫酸ラウリルエステル、硫酸メチル、ナフタレンスルホン酸、スルホサリチル酸などの有機酸との塩;臭化メチル、ヨウ化メチルなどとの四級アンモニウム塩;臭素イオン、塩素イオン、ヨウ素イオンなどのハロゲンイオンとの塩;アンモニアとの塩;トリエチレンジアミン、2-アミノエタノール、2,2-イミノビス(エタノール)、1-デオキシ-1-(メチルアミノ)-2-D-ソルビトール、2-アミノ-2-(ヒドロキシメチル)-1,3-プロパンジオール、プロカイン、N,N-ビス(フェニルメチル)-1,2-エタンジアミンなどの有機アミンとの塩などが挙げられる。
【0019】
本発明において、「ジクアホソルまたはその塩」には、ジクアホソル(フリー体)またはその塩の水和物および有機溶媒和物も含まれる。
【0020】
ジクアホソルまたはその塩に、結晶多形および結晶多形群(結晶多形システム)が存在する場合には、それらの結晶多形体および結晶多形群(結晶多形システム)も本発明の範囲に含まれる。ここで、結晶多形群(結晶多形システム)とは、それらの結晶の製造、晶出、保存などの条件および状態により、結晶形が変化する場合の各段階における個々の結晶形およびその過程全体を意味する。
【0021】
本発明の「ジクアホソルまたはその塩」として好ましいのはジクアホソルのナトリウム塩であり、下記化学構造式で示されるジクアホソル四ナトリウム塩(以下、単に「ジクアホソルナトリウム」ともいう)が特に好ましい。
【0022】
【化2】
【0023】
ジクアホソルまたはその塩については、特表2001-510484号公報に開示された方法などにより製造することができる。
【0024】
本点眼液はジクアホソルまたはその塩以外の有効成分を含有することもできるが、好ましくは、ジクアホソルまたはその塩を唯一の有効成分として含有する。
【0025】
本点眼液中のジクアホソルまたはその塩の濃度は、例えば、0.1~10%(w/v)であり、1~10%(w/v)であることが好ましく、1~5%(w/v)であることがより好ましく、3%(w/v)であることが特に好ましい。
【0026】
本発明の水性点眼液は、防腐剤としてポリヘキサメチレンビグアナイドまたはその塩が配合される。ポリヘキサメチレンビグアナイドは、ポリヘキサニドやポリヘキサメチレンビグアニジンとも称されるグアニジン誘導体であり、PHMBとも略される。ポリヘキサメチレンビグアナイドは、ヘキサメチレンビグアナイドのポリマーとして公知の化合物であるが、本発明において使用されるポリヘキサメチレンビグアナイドにおけるポリマーの平均重合度および末端基に特に制限はなく、水性点眼液に一般に使用されるポリヘキサメチレンビグアナイドを使用できる。ここで、具体的なポリマーの重合度としては、例えば、2~50、好ましくは5~20のものが例示され、具体的なポリマーの末端基としては、例えば、式:-NHで表される基、式:-(CH-NHで表される基、式:-(CH-NHで表される基、式:-NH-C(=NH)-NH-CNで表される基、式:-(CH-NH-C(=NH)-NH-CNで表される基、式:-(CH-NH-C(=NH)-NH-CNで表される基、式:-NH-CR(=O)で表される基、式:-(CH-NH-CR(=O)で表される基、式:-(CH-NH-CR(=O)で表される基等が例示される(なお、上記式中、Rは直鎖若しくは分岐アルキル基、又はポリエチレンオキシド基を示す。また、Rとしてのアルキル基の炭素数は、特に制限されるものではないが、一例として1~100、好ましくは1~50が挙げられる。また、Rとしてのポリエチレンオキシド基の分子量は、特に制限されるものではないが、一例として50~10000、好ましくは100~2000が挙げられる)。
【0027】
ポリヘキサメチレンビグアナイドの塩としては、医薬として許容される塩であれば特に制限はなく、具体的には、有機酸塩[例えば、モノカルボン酸塩(酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、酪酸塩、パルミチン酸塩、ステアリン酸塩等)、多価カルボン酸塩(フマル酸塩、マレイン酸塩、コハク酸塩、マロン酸塩等)、オキシカルボン酸塩(乳酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩等)、有機スルホン酸塩(メタンスルホン酸塩、トルエンスルホン酸塩、トシル酸塩等)]、無機酸塩(例えば、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、臭化水素酸塩、リン酸塩)、有機塩基との塩(例えば、メチルアミン、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、モルホリン、ピペラジン、ピロリジン、トリピリジン、ピコリン等の有機アミンとの塩)、無機塩基との塩[例えば、アンモニウム塩;アルカリ金属(ナトリウム、カリウム等)、アルカリ土類金属(カルシウム、マグネシウム等)、アルミニウム等の金属との塩]等の各種の塩が挙げられる。これらの塩の中でも、好ましくは無機酸塩および/または有機酸塩、より好ましくは無機酸塩、更に好ましくは塩酸塩が挙げられる。これらのポリヘキサメチレンビグアナイドの塩は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0028】
ポリヘキサメチレンビグアナイドまたはその塩は、公知の方法により合成してもよく、市販品として入手することもできる。
【0029】
本発明の水性点眼液において、ポリヘキサメチレンビグアナイドまたはその塩の濃度は、例えば、0.0016%(w/v)未満で使用でき、好ましくは、0.0008%(w/v)以下、0.0008%(w/v)未満で使用でき、より好ましくは、0.0007%(w/v)以下、0.0007%(w/v)未満、0.0006%(w/v)以下、0.0006%(w/v)未満、0.0005%(w/v)以下、0.0005%(w/v)未満で使用できる。また、ポリヘキサメチレンビグアナイドまたはその塩の濃度の下限は、例えば0.0002%(w/v)超で使用でき、好ましくは0.0003%(w/v)以上、0.0003%(w/v)超で使用できる。0.0004%(w/v)以上でも好ましく使用できる。また、上記いずれの上限および下限をそれぞれ独立に選択し組み合わせて範囲とすることができる。具体的に、ポリヘキサメチレンビグアナイドまたはその塩の濃度の範囲としては、例えば、0.0002%(w/v)超0.0016%(w/v)未満が好ましく、0.0002%(w/v)超0.0008%(w/v)以下がより好ましく、0.0004~0.0008%(w/v)がさらに好ましい。
【0030】
本点眼液には、汎用されている技術を用い、必要に応じて製薬学的に許容される添加剤を添加することができ、例えば、リン酸ナトリウム、リン酸水素ナトリウム、リン酸水素ナトリウム水和物、リン酸二水素ナトリウム、酢酸ナトリウム、イプシロン-アミノカプロン酸などの緩衝化剤;塩化ナトリウム、塩化カリウム、濃グリセリン、マンニトールなどの等張化剤;クエン酸ナトリウム、エデト酸ナトリウム、エデト酸ナトリウム水和物などの安定化剤などを必要に応じて選択し、添加することができる。
【0031】
なお、界面活性剤も、上記添加剤と同様、点眼液に添加することもできる。しかしながら、本発明の点眼液に界面活性剤を添加すると保存効力が低下することから、本発明の点眼液は、界面活性剤を含有しないことが好ましい。このような界面活性剤としては、例えばカチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤を例示することができる。具体的に、非イオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレン脂肪酸エステルとしては、ステアリン酸ポリオキシル40等を例示でき、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルとしては、ポリソルベート80、ポリソルベート60、ポリソルベート40、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタントリオレート、ポリソルベート65等を例示でき、ポリオキシエチレンヒマシ油誘導体としては、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油10、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油40、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油50、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、ポリオキシル5ヒマシ油、ポリオキシル9ヒマシ油、ポリオキシル15ヒマシ油、ポリオキシル35ヒマシ油、ポリオキシル40ヒマシ油等を例示でき、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールとしては、ポリオキシエチレン(160)ポリオキシプロピレン(30)グリコール、ポリオキシエチレン(42)ポリオキシプロピレン(67)グリコール、ポリオキシエチレン(54)ポリオキシプロピレン(39)グリコール、ポリオキシエチレン(196)ポリオキシプロピレン(67)グリコール、ポリオキシエチレン(20)ポリオキシプロピレン(20)グリコール等を例示することができる。これらの中でも、ポリソルベート80は本点眼液に添加しないことが好ましい。
【0032】
本点眼液のpHは眼科製剤に許容される範囲内にあればよいが、通常pH4~8の範囲内が好ましく、pH6~8の範囲がより好ましく、pH7付近が特に好ましい。本点眼液には、適宜、塩酸や水酸化ナトリウムなどのpH調節剤を添加することができる。
【0033】
本点眼液は、ジクアホソルまたはその塩を有効成分として含有し、「ドライアイの予防および/または治療」に使用することができる。
【0034】
ドライアイは「様々な要因による涙液および角結膜上皮の慢性疾患であり、眼不快感や視覚異常を伴う疾患」と定義づけられ、乾性角結膜炎(KCS)はドライアイに含まれる。また、本発明においては、ソフトコンタクトレンズ装用を原因とするドライアイ症状の発生もドライアイに含まれるものとする。
【0035】
ドライアイ症状には、眼乾燥感、眼不快感、眼疲労感、鈍重感、羞明感、眼痛、霧視(かすみ目)などの自覚症状の他、充血、角結膜上皮障害などの他覚所見も含まれる。
【0036】
ドライアイの病因については不明点も多いが、シェーグレン症候群;先天性無涙腺症;サルコイドーシス;骨髄移植による移植片対宿主病(GVHD:Graft Versus Host Disease);眼類天疱瘡;スティーブンス・ジョンソン症候群;トラコーマなどを原因とする涙器閉塞;糖尿病;角膜屈折矯正手術(LASIK:Laser(-assisted) in Situ Keratomileusis)などを原因とする反射性分泌の低下;meibom腺機能不全;眼瞼炎などを原因とする油層減少;眼球突出、兎眼などを原因とする瞬目不全または閉瞼不全;胚細胞からのムチン分泌低下;VDT作業などがその原因であると報告されている。
【0037】
本発明において、「ドライアイの予防および/または治療」とは、ドライアイに伴う病的症状および/または所見を予防および/または治療もしくは改善することと定義づけられ、ドライアイに伴う眼乾燥感、眼不快感、眼疲労感、鈍重感、羞明感、眼痛、霧視(かすみ目)などの自覚症状の予防および/または治療もしくは改善を意味するだけでなく、ドライアイに伴う充血、角結膜上皮障害などの予防および/または治療もしくは改善も含まれる。また、「ドライアイの予防および/または治療」には、ソフトコンタクトレンズ装用眼における涙液層の安定性の向上によってドライアイ症状を予防および/または治療もしくは改善せしめることも含まれる。なお、ドライアイ症状の予防および/または治療もしくは改善には、ドライアイ患者がソフトコンタクトレンズ装用することで悪化するに至ったドライアイ症状の予防および/または治療もしくは改善、ソフトコンタクトレンズ装用そのものにより発生するに至ったドライアイ症状の予防および/または治療もしくは改善をも意味する。
【0038】
本点眼液の用法は、剤形、投与すべき患者の症状の軽重、年令、体重、医師の判断などに応じて適宜変えることができるが、例えば、剤形として点眼剤を選択した場合には、1日1~10回、好ましくは1日2~8回、より好ましくは1日3~6回に分けて眼局所に投与することができる。
【0039】
本点眼液は、ソフトコンタクトレンズ用として、ソフトコンタクトレンズ装着時にも使用することができる。ソフトコンタクトレンズとしては、例えば、ヒドロキシエチルメタクリレートを主成分とするコンタクトレンズまたはシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズなどが挙げられる。
【0040】
本点眼液の適用対象となるソフトコンタクトレンズの種類については特に制限されるものでなく、また、イオン性または非イオン性、含水性または非含水性の別を問わない。例えば、繰り返し使用されるレンズの他、1日使い捨て用レンズ、1週間使い捨て用レンズ、2週間使い捨て用レンズなどの現在市販されているまたは将来市販されるすべてのソフトコンタクトレンズに適用可能である。
【0041】
本発明の一態様は、ジクアホソルまたはその塩を有効成分として含有する水性点眼液に保存効力を付与する方法であって、防腐剤としてポリヘキサメチレンビグアナイドまたはその塩を配合することを特徴とする、方法である。本発明の方法は、ジクアホソルまたはその塩を有効成分として含有する水性点眼液に保存効力を付与するにあたり、防腐剤としてポリヘキサメチレンビグアナイドまたはその塩を配合することを特徴とする。なお、上記本発明の水性点眼液の詳細な説明は、本発明の水性点眼液に保存効力を付与する方法にも適用される。
【0042】
本発明の一態様は、防腐剤としてポリヘキサメチレンビグアナイドまたはその塩を配合することを特徴とする、ジクアホソルまたはその塩を有効成分として含有する澄明な水性点眼液の製造方法である。本発明の製造方法は、ジクアホソルまたはその塩を有効成分として含有する澄明な水性点眼液の製造にあたり、防腐剤としてポリヘキサメチレンビグアナイドまたはその塩を配合することを特徴とする。なお、上記本発明の水性点眼液の詳細な説明は、本発明の水性点眼液の製造方法にも適用される。
【実施例
【0043】
以下に、試験例および製剤例を挙げて本発明を詳細に説明するが、これらの例は本発明をよりよく理解するためのものであり、本発明の範囲を何ら限定するものではない。
【0044】
[試験例1]
表1に示す処方のジクアホソル点眼液を調製し、各点眼液について保存効力試験を行った。また、調製直後の各点眼液の外観について、目視による確認および吸光度の測定によって評価した。
【0045】
(試料調製)
当該技術分野における通常の方法に従って、表1に示す処方の点眼液1を調製した。すなわち、ジクアホソルナトリウム3g、リン酸水素ナトリウム水和物0.2g、エデト酸ナトリウム水和物0.01g、塩化ナトリウム0.39g、塩化カリウム0.15g、ポリヘキサメチレンビグアナイド塩酸塩0.0001gを滅菌精製水に溶解して全量100mLとし、pH調節剤を適宜添加して点眼液1を調製した。点眼液2~5も同様に調製した。表1において各成分の値の単位は、「%(w/v)」である。なお、ポリヘキサメチレンビグアナイド塩酸塩は、Matrix Scientific社の市販品を使用した。
【0046】
【表1】
【0047】
(試験方法)
保存効力試験は、第十七改正日本薬局方の保存効力試験法に準拠して行なった。本試験では、試験菌として、Esherichia Coli(E.coli)、Pseudomonas aeruginosa(P.aeruginosa)、Staphylococcus aureus(S.aureus)、Candida albicans(C.albicans)およびAspergillus brasiliensis(A.brasiliensis)を用いた。各製剤からなる試験試料中の菌液濃度が10~10cfu/mL(5菌種共)となるように、接種菌液を試験試料に接種した。具体的には、10~10cfu/mLとなるように接種菌液を調製し、この接種菌液を10~10cfu/mLとなるように、点眼液1~5の製剤からなる試験試料に各接種菌液を接種し、均一に混合し試料とした。これらの試料を遮光下20~25℃に保存し、各サンプリングポイント(7日後、14日後、又は28日後)において、各試料からマイクロピペットで1mLを採取し、生菌数を測定した。各サンプリングポイントでは、試料溶液の蓋を空けてサンプリングを実施し、蓋を閉める操作を行った。
【0048】
吸光度測定は、紫外可視分光光度計を用い、各種点眼液の660nmの波長における吸光度(OD660)を測定することで行った。
【0049】
(試験結果)
試験の合否判定は、生菌数を測定したときの菌数(A)に対する接種時の菌数(B)の比(B/A)の常用対数値を算出し、その値が細菌種(E.coli、P.aeruginosa、S.aureus)に対しては、播種7日後に1.0以上、かつ14日後または28日後に3.0以上であること、および真菌種(C.albicans、A.brasiliensis)に対しては、播種7日後と比較して播種14日後または28日後の数値が減少していないこと、をいずれも満たすときに適合とした。なお、常用対数値が、例えば、「1」の場合には、検査時の生菌数が接種菌数の10%に減少したことを意味する。
【0050】
保存効力試験の合否判定結果及び660nmの波長における吸光度(OD660)を表2に示す。
【0051】
【表2】
【0052】
表2に示されるとおり、点眼液3、4および5は、保存効力試験基準に適合した。また、点眼液1~4は、吸光度が約0.03以下であり、外観も無色澄明であった。一方で、点眼液5は、吸光度が0.0776と増大しており、わずかに白濁が認められた。以上より、十分な保存効力を有するためにはポリヘキサメチレンビグアナイドまたはその塩の濃度は0.0002%(w/v)超であり、澄明なジクアホソル点眼液を得るためには、ポリヘキサメチレンビグアナイドまたはその塩の濃度は0.0016%(w/v)未満であることが好ましいことが示された。
【0053】
[試験例2]
表3に示す処方のジクアホソル点眼液を調製し、各点眼液について、試験例1と同様にして保存効力試験を行った。また、調製直後の各点眼液の外観について、目視による確認および吸光度の測定によって評価した。
【0054】
(試料調製)
試験例1と同様にして、表3に示す処方の点眼液6および7を調製した。なお、点眼液6および7の処方は、さらに界面活性剤であるポリソルベート80を含有する以外は、それぞれ点眼液4および5と同様である。
【0055】
【表3】
【0056】
(試験結果)
試験例1と同様にして保存効力試験および吸光度測定を行った。試験結果を表4に示す。
【0057】
【表4】
【0058】
表4に示されるとおり、点眼液6および7は、ポリヘキサメチレンビグアナイド塩酸塩をそれぞれ点眼液4および5と同じ濃度で含有するにもかかわらず、日本薬局方の保存効力試験基準に適合しなかった。また、点眼液6は、吸光度が約0.03以下であり、外観も無色澄明であった。一方で、点眼液7は、吸光度が0.0731と増大しており、わずかに白濁が認められた。試験例1および2の結果を比較すると、界面活性剤であるポリソルベート80を添加しても吸光度に変化が認められなかったことからポリソルベート80は白濁の発生抑制に影響しないことが示された。さらに、点眼液6および7が保存効力試験基準に適合しなかったことから保存効力の観点からはポリソルベートを含まないことが好ましいことが示された。
【0059】
[製剤例]
以下に製剤例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの製剤例にのみ限定されるものではない。なお、下記製剤例において各成分の配合量は製剤100mL中の含量である。
【0060】
(製剤例1:点眼剤(3%(w/v)))
100mL中
ジクアホソルナトリウム 3g
リン酸水素ナトリウム水和物 0.1~0.5g
塩化ナトリウム 0.01~1g
塩化カリウム 0.01~1g
エデト酸ナトリウム水和物 0.0001~0.1g
ポリヘキサメチレンビグアナイド塩酸塩 0.00001~0.01g
pH調節剤 適量
滅菌精製水 適量
滅菌精製水に上記成分を加え、これらを十分に撹拌し、pH調節することで上記点眼剤を調製できる。
【0061】
(製剤例2:点眼剤(3%(w/v)))
100mL中
ジクアホソルナトリウム 3g
リン酸水素ナトリウム水和物 0.1~0.5g
塩化ナトリウム 0.01~1g
塩化カリウム 0.01~1g
ポリヘキサメチレンビグアナイド塩酸塩 0.00001~0.01g
pH調節剤 適量
滅菌精製水 適量
滅菌精製水に上記成分を加え、これらを十分に撹拌し、pH調節することで上記点眼剤を調製できる。
【0062】
(製剤例3:点眼剤(3%(w/v)))
100mL中
ジクアホソルナトリウム 3g
リン酸水素ナトリウム水和物 0.1~0.5g
塩化ナトリウム 0.01~1g
ポリヘキサメチレンビグアナイド塩酸塩 0.00001~0.01g
pH調節剤 適量
滅菌精製水 適量
滅菌精製水に上記成分を加え、これらを十分に撹拌し、pH調節することで上記点眼剤を調製できる。
【0063】
(製剤例4:点眼剤(3%(w/v)))
100mL中
ジクアホソルナトリウム 3g
リン酸水素ナトリウム水和物 0.1~0.5g
塩化カリウム 0.01~1g
ポリヘキサメチレンビグアナイド塩酸塩 0.00001~0.01g
pH調節剤 適量
滅菌精製水 適量
滅菌精製水に上記成分を加え、これらを十分に撹拌し、pH調節することで上記点眼剤を調製できる。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明は、十分な保存効力を有し、かつ澄明なジクアホソル点眼液を得ることができて有用である。