(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-15
(45)【発行日】2024-01-23
(54)【発明の名称】防水材組成物、防水工法及び防水皮膜
(51)【国際特許分類】
C09D 133/04 20060101AFI20240116BHJP
C09D 201/02 20060101ALI20240116BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20240116BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20240116BHJP
C09D 7/65 20180101ALI20240116BHJP
E04B 1/66 20060101ALI20240116BHJP
【FI】
C09D133/04
C09D201/02
C09D7/61
C09D7/63
C09D7/65
E04B1/66 A
(21)【出願番号】P 2020007765
(22)【出願日】2020-01-21
【審査請求日】2022-10-04
(31)【優先権主張番号】P 2019008824
(32)【優先日】2019-01-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003034
【氏名又は名称】東亞合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094190
【氏名又は名称】小島 清路
(74)【代理人】
【識別番号】100151644
【氏名又は名称】平岩 康幸
(74)【代理人】
【識別番号】100151127
【氏名又は名称】鈴木 勝雅
(72)【発明者】
【氏名】武田 晋治
(72)【発明者】
【氏名】阿知波 政史
【審査官】井上 明子
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-350570(JP,A)
【文献】特開2016-132734(JP,A)
【文献】特開平11-100552(JP,A)
【文献】特開2008-031453(JP,A)
【文献】特開2004-168998(JP,A)
【文献】特開2000-109727(JP,A)
【文献】特開2013-037007(JP,A)
【文献】特開2007-146062(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D
E04B 1/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)界面活性剤により安定化されたアニオン性ビニル重合体と、(B)カチオン性重合体と、(C)揮発性塩基と
、(D)ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによる重量平均分子量が500~100000である他のアニオン性ビニル重合体とを含有する防水材組成物において、
前記成分(B)は、アリルアミン及びその塩、N-アルキルアリルアミン及びその塩、N,N-ジアルキルアリルアミン及びその塩、ジアリルアミン及びその塩、並びに、N-アルキルジアリルアミン及びその塩又は4級化物から選ばれた少なくとも1種に由来する構造単位を含む
重合体であり、前記成分(D)は、(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来する構造単位と、不飽和酸又はその塩に由来する構造単位とを含む重合体であることを特徴とする防水材組成物。
【請求項2】
前記アニオン性ビニル重合体(A)が、(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来する構造単位と、不飽和酸に由来する構造単位とを含む請求項1に記載の防水材組成物。
【請求項3】
前記カチオン性重合体(B)の含有割合は、前記アニオン性ビニル重合体(A)の含有量を100質量部とした場合に、0.1~10質量部である請求項1又は2に記載の防水材組成物。
【請求項4】
前記揮発性塩基(C)の含有割合は、前記アニオン性ビニル重合体(A)の含有量を100質量部とした場合に、0.01~10質量部である請求項1から3のいずれか一項に記載の防水材組成物。
【請求項5】
更に、(E)金属架橋剤を含有する請求項1から
4のいずれか一項に記載の防水材組成物。
【請求項6】
更に、(F)充填材を含有する請求項1から
5のいずれか一項に記載の防水材組成物。
【請求項7】
請求項1から
6のいずれか一項に記載の防水材組成物を被塗物に塗工する塗工工程と、前記塗工工程により得られた塗膜を皮膜化させる皮膜形成工程とを備えることを特徴とする防水工法。
【請求項8】
前記被塗物が構造物であることを特徴とする請求項
7に記載の防水工法。
【請求項9】
請求項1から
6のいずれか一項に記載の防水材組成物を用いて得られた塗膜が皮膜化されてなることを特徴とする防水皮膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防水材組成物、それを用いた防水工法及び防水皮膜に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境保護、労働衛生上の観点から、溶剤系塗料からの揮発性有機化合物(VOC)の大気中への放出が問題となっており、水系塗料への移行が進んでいる。しかしながら、水系塗料の乾燥成膜性は、主に水の蒸発速度に依存しているため、溶剤系塗料に比べて乾燥成膜が遅く、特に低温下や高湿下では大幅に遅延する傾向があり、乾燥成膜性の向上が求められている。
従来、コンクリートからなる建築・土木構造物の表面に、水の浸入による躯体の劣化や、内部への漏水を防止する目的で、防水膜を形成させる防水工法が広く知られている。
例えば、特許文献1には、炭素数4~10のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート単位55~98質量%、(メタ)アクリル酸単位0.1~3質量%およびグリシジル(メタ)アクリレート単位0.1~5質量%を構成単位として含み、ガラス転移温度が-20℃以下であるビニル重合体(A)、(メタ)アクリル酸単位を構成単位として含み、重量平均分子量が2000~100000であり、酸価が50~200mgKOH/gであり、ガラス転移温度が0℃以上であるビニル重合体(B)、無機質水硬性物質(C)および水性媒体を含有し、ビニル重合体(A)100質量部を基準としてビニル重合体(B)の割合は0.3~8質量部であり、ビニル重合体(A)100質量部を基準として無機質水硬性物質(C)の割合は10~200質量部である、水性の防水材組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の防水材組成物は、引張強さに優れた塗膜を形成することができるものの、その乾燥成膜性が問題となる事があった。具体的には、低温及び/又は高湿度の環境下で塗布すると乾燥成膜が遅くなるため、成膜の途中で夜露や降雨に濡れると再乳化して流されたり、成膜時間が大幅に遅れることで、工期が遅れることがあった。
本発明は、低温及び/又は高湿度の環境下において、乾燥前の塗膜が水に濡れても再乳化しなくなるまでの時間(以下、「不再乳化時間」という)と、塗膜が乾燥成膜するまでの時間を短縮することができ、かつ、引張強さに優れた塗膜を形成する防水材組成物、それを用いた防水工法及び防水皮膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、特定のアニオン性ビニル重合体と、特定のカチオン性重合体とを組み合わせることにより、上記課題が解決されたことを見い出し、本発明を完成させた。
【0006】
本発明は、以下に示される。
1.(A)界面活性剤により安定化されたアニオン性ビニル重合体と、(B)カチオン性重合体と、(C)揮発性塩基とを含有する防水材組成物において、
上記成分(B)は、アリルアミン及びその塩、N-アルキルアリルアミン及びその塩、N,N-ジアルキルアリルアミン及びその塩、ジアリルアミン及びその塩、並びに、N-アルキルジアリルアミン及びその塩又は4級化物から選ばれた少なくとも1種に由来する構造単位を含むことを特徴とする防水材組成物。
2.上記アニオン性ビニル重合体(A)が、(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来する構造単位と、不飽和酸に由来する構造単位とを含む上記項1に記載の防水材組成物。
3.上記カチオン性重合体(B)の含有割合は、上記アニオン性ビニル重合体(A)の含有量を100質量部とした場合に、0.1~10質量部である上記項1又は2に記載の防水材組成物。
4.上記揮発性塩基(C)の含有割合は、上記アニオン性ビニル重合体(A)の含有量を100質量部とした場合に、0.01~10質量部である上記項1から3のいずれか一項に記載の防水材組成物。
5.更に、(D)ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによる重量平均分子量が500~100000である、他のアニオン性ビニル重合体を含有する上記項1から4のいずれか一項に記載の防水材組成物。
6.上記アニオン性ビニル重合体(D)が、(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来する構造単位と、不飽和酸又はその塩に由来する構造単位とを含む上記項5に記載の防水材組成物。
7.更に、(E)金属架橋剤を含有する上記項1から6のいずれか一項に記載の防水材組成物。
8.更に、(F)充填材を含有する上記項1から7のいずれか一項に記載の防水材組成物。
9.上記項1から8のいずれか一項に記載の防水材組成物を被塗物に塗工する塗工工程と、上記塗工工程により得られた塗膜を皮膜化させる皮膜形成工程とを備えることを特徴とする防水工法。
10.上記被塗物が構造物である上記項9に記載の防水工法。
11.上記項1から8のいずれか一項に記載の防水材組成物を用いて得られた塗膜が皮膜化されてなることを特徴とする防水皮膜。
【発明の効果】
【0007】
本発明の防水材組成物によれば、例えば、5℃以下の低温、及び/又は、相対湿度が80%以上の高湿度の環境下において、乾燥前の塗膜に水に濡れても再乳化しなくなるまでの時間(不再乳化時間)と塗膜が乾燥するまでの時間を短縮することができ、かつ、塗膜を乾燥して得られる皮膜(防水皮膜)の引張強さに優れる。また、組成物の製造方法によることなく、例えば、原料を分割混合して得られたもの、あるいは、長期間貯蔵されたものであっても、上記効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】〔実施例〕における下地ひび割れ追従性の評価に用いた防水皮膜付き複合体を示す概略断面図である。
【
図2】〔実施例〕における下地ひび割れ追従性を説明する概略断面図である。
【
図3】〔実施例〕における下地ひび割れ追従性を説明する概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明に係る実施形態の防水材組成物は、界面活性剤により安定化されたアニオン性ビニル重合体(A)と、カチオン性重合体(B)と、揮発性塩基(C)とを含有し、必要に応じて、他の成分(後述)を含有することができる。尚、この防水材組成物は、通常、水、有機溶剤等の媒体を含有し、好ましい媒体は水である。
【0010】
上記アニオン性ビニル重合体(A)は、重合性不飽和結合を有するビニル単量体に由来する構造単位を1種又は2種以上含むものであれば、特に限定されない。上記アニオン性ビニル重合体(A)としては、(メタ)アクリル系重合体、オレフィン系重合体等が挙げられるが、これらのうち、(メタ)アクリル系重合体が好ましい。
【0011】
上記(メタ)アクリル系重合体は、好ましくは、(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来する構造単位と、不飽和酸又はその塩に由来する構造単位とを含む共重合体(以下、「(メタ)アクリル系重合体(A1)」という)である。この(メタ)アクリル系重合体(A1)は、更に、他の単量体に由来する構造単位を含んでもよい。
【0012】
上記(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸tert-ブチル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸ヘプチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸n-オクチル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ドデシル等が挙げられる。上記(メタ)アクリル系重合体(A1)に含まれる、これらの化合物に由来する構造単位は、1種のみ又は2種以上とすることができる。この(メタ)アクリル系重合体(A1)を形成する主たる化合物は、好ましくは、エステル部のアルキル基の炭素原子数が4以上の(メタ)アクリル酸アルキルエステルである。特に好ましい化合物は、アクリル酸n-ブチル及びアクリル酸2-エチルヘキシルである。尚、上記(メタ)アクリル酸アルキルエステルの好ましい態様は、エステル部のアルキル基の炭素原子数が4以上の化合物が、上記(メタ)アクリル酸アルキルエステルの全体に対して、好ましくは20質量%以上、より好ましくは30質量%以上用いられたものである。
【0013】
上記(メタ)アクリル系重合体(A1)を構成する、(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来する構造単位の含有割合は、全ての構造単位の合計を100質量%とした場合に、好ましくは10~99.9質量%、より好ましくは30~99.5質量%、更に好ましくは50~98質量%である。
【0014】
上記不飽和酸としては、カルボン酸系単量体、スルホン酸系単量体、ホスホン酸系単量体、リン酸系単量体等が挙げられる。
カルボン酸系単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、エタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、クロトン酸、桂皮酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸等が挙げられる。
スルホン酸系単量体としては、ビニルスルホン酸、ハロゲン化ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、アクリルアミドメチルプロパンスルホン酸等が挙げられる。
ホスホン酸系単量体としては、ビニルリン酸等が挙げられる。
上記不飽和酸としては、カルボン酸系単量体が好ましい。
また、上記不飽和酸の塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩等が挙げられる。
【0015】
上記(メタ)アクリル系重合体(A1)に含まれる、不飽和酸又はその塩に由来する構造単位は、それぞれ、1種のみ又は2種以上とすることができる。
上記(メタ)アクリル系重合体(A1)は、不飽和酸に由来する構造単位、及び、不飽和酸の塩に由来する構造単位の両方を含んでもよい。
【0016】
上記(メタ)アクリル系重合体(A1)を構成する、不飽和酸又はその塩に由来する構造単位の含有割合(不飽和酸に由来する構造単位、及び、不飽和酸の塩に由来する構造単位の両方を含む場合、その合計量の割合)は、全ての構造単位の合計を100質量%とした場合に、好ましくは0.1~20質量%、より好ましくは0.2~10質量%、更に好ましくは0.5~5質量%である。
【0017】
上記(メタ)アクリル系重合体(A1)が、更に、他の単量体に由来する他の構造単位を含む場合、他の構造単位は、(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステル、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物、ヒドロキシ基含有不飽和化合物、アミノ基含有不飽和化合物、アミド基含有不飽和化合物や、重合性不飽和結合を2つ以上有する多官能化合物等に由来する構造単位とすることができる。
【0018】
上記(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステルとしては、(メタ)アクリル酸メトキシメチル、(メタ)アクリル酸エトキシメチル、(メタ)アクリル酸2-メトキシエチル、(メタ)アクリル酸2-エトキシエチル、(メタ)アクリル酸2-プロポキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ブトキシエチル、(メタ)アクリル酸3-メトキシプロピル、(メタ)アクリル酸4-メトキシブチル等が挙げられる。
上記芳香族ビニル化合物としては、スチレン、α-メチルスチレン、o-メチルスチレン、p-メチルスチレン、β-メチルスチレン、p-エチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、ビニルトルエン、ビニルキシレン、ビニルナフタレン等が挙げられる。
上記シアン化ビニル化合物としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、α-エチルアクリロニトリル、α-イソプロピルアクリロニトリル等が挙げられる。
【0019】
上記ヒドロキシ基含有不飽和化合物としては、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチル、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、o-ヒドロキシスチレン、m-ヒドロキシスチレン、p-ヒドロキシスチレン、o-ヒドロキシ-α-メチルスチレン、m-ヒドロキシ-α-メチルスチレン、p-ヒドロキシ-α-メチルスチレン、2-ヒドロキシメチル-α-メチルスチレン、3-ヒドロキシメチル-α-メチルスチレン、4-ヒドロキシメチル-α-メチルスチレン、4-ヒドロキシメチル-1-ビニルナフタレン、7-ヒドロキシメチル-1-ビニルナフタレン、8-ヒドロキシメチル-1-ビニルナフタレン、4-ヒドロキシメチル-1-イソプロペニルナフタレン、7-ヒドロキシメチル-1-イソプロペニルナフタレン、8-ヒドロキシメチル-1-イソプロペニルナフタレン、p-ビニルベンジルアルコール、3-ヒドロキシ-1-プロペン、4-ヒドロキシ-1-ブテン、シス-4-ヒドロキシ-2-ブテン、トランス-4-ヒドロキシ-2-ブテン、3-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロペン等が挙げられる。
【0020】
上記アミノ基含有不飽和化合物としては、(メタ)アクリル酸アミノエチル、(メタ)アクリル酸プロピルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノメチル、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノメチル、(メタ)アクリル酸フェニルアミノエチル、p-アミノスチレン、N-ビニルジエチルアミン、N-アセチルビニルアミン、(メタ)アクリルアミン、N-メチルアクリルアミン等が挙げられる。
上記アミド基含有不飽和化合物としては、アクリルアミド、N-メチルアクリルアミド、メタクリルアミド、N-メチルメタクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド、ダイアセトンアクリルアミド等が挙げられる。
【0021】
上記多官能化合物としては、ジビニルベンゼン、ジビニルトルエン、(メタ)アクリル酸アリル、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジアリルフタレート、ジアリルマレート、ジアリルフマレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート等が挙げられる。
【0022】
他の構造単位は、好ましくは、芳香族ビニル化合物に由来する構造単位、及び、シアン化ビニル化合物に由来する構造単位である。
【0023】
上記(メタ)アクリル系重合体(A1)が、更に、他の単量体に由来する他の構造単位を含む場合、その含有割合の上限は、全ての構造単位の合計を100質量%とした場合に、好ましくは60質量%、より好ましくは50質量%、更に好ましくは30質量%である。
【0024】
本発明において、上記(メタ)アクリル系重合体(A1)は、アニオン性ビニル重合体(A)の主成分であることが好ましく、アニオン性ビニル重合体(A)の全体に対する含有割合は、好ましくは40質量%以上、より好ましくは50質量%以上、更に好ましくは70質量%以上である。
また、本発明に係る実施形態の防水材組成物に含有されるアニオン性ビニル重合体(A)は、1種のみでも2種以上でもよい。即ち、上記アニオン性ビニル重合体(A)は、(メタ)アクリル系重合体(A1)の1種又は2種以上からなるものであってよいし、(メタ)アクリル系重合体(A1)と他のアニオン性ビニル重合体(以下、「他の重合体(A2)」という)とからなるものであってもよい。他の重合体(A2)としては、エチレン・酢酸ビニル共重合体等が挙げられる。
【0025】
上記アニオン性ビニル重合体(A)のゲルパーミエーションクロマトグラフィーによるポリスチレン換算重量平均分子量(以下、「重量平均分子量」という)は、好ましくは10万超である。この点において、組成物が含有することができる、後述する、他のアニオン性ビニル重合体(D)と異なる。
また、上記アニオン性ビニル重合体(A)のガラス転移温度は、通常20℃以下であり、好ましくは0℃以下、より好ましくは-10℃以下、更に好ましくは-20℃以下、特に好ましくは-30℃以下である。このガラス転移温度は、重合体を構成する構造単位を形成する単量体の種類により、いわゆるFоxの式から算出することができる。
本発明に係る実施形態の防水材組成物は、重量平均分子量及び/又はガラス転移温度が互いに異なる複数のアニオン性ビニル重合体(A)を含有してもよい。
【0026】
上記アニオン性ビニル重合体(A)は、特定の形状を有することが好ましく、粒子状であることがより好ましく、媒体中でエマルションの状態であることが更に好ましく、水性媒体中でエマルションの状態であることが特に好ましい。
【0027】
本発明に係る実施形態の防水材組成物において、上記アニオン性ビニル重合体(A)は、界面活性剤により媒体中で分散安定化されている。
上記界面活性剤は、特に限定されず、ノニオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤及び両性界面活性剤から選ばれた少なくとも1種とすることができる。これらのうち、ノニオン性界面活性剤が好ましく、ノニオン性界面活性剤及びアニオン性界面活性剤の併用も好ましい態様である。
本発明に係る実施形態の防水材組成物において、好ましい界面活性剤であるノニオン性界面活性剤の少なくとも一部は主に、好ましい態様である粒状のアニオン性ビニル重合体(A)を被覆しており、このアニオン性ビニル重合体(A)を媒体中で分散安定化させている。
【0028】
上記ノニオン性界面活性剤としては、脂肪族アルコールへのアルキレンオキシド付加物であるポリオキシアルキレンアルキルエーテル;芳香族アルコールへのアルキレンオキシド付加物であるポリオキシアルキレンフェニルエーテル又はポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル(ポリオキシアルキレンアリールエーテル);グリセリン脂肪酸エステル;グリセリン脂肪酸エステルへのアルキレンオキシド付加物であるポリオキシアルキレングリセリン脂肪酸エステル;ペンタエリスリトール脂肪酸エステルへのアルキレンオキシド付加物であるポリオキシアルキレンペンタエリスリトール脂肪酸エステル;脂肪酸へのアルキレンオキシド付加物であるポリオキシアルキレン脂肪酸エステル;ソルビタン脂肪酸エステル;ソルビタン脂肪酸エステルへのアルキレンオキシド付加物であるポリオキシアルキレンソルビタン脂肪酸エステル;ソルビタン脂肪酸エステル;ショ糖脂肪酸エステル;ペンタエリスリトール脂肪酸エステル;脂肪族アミンへのアルキレンオキシド付加物であるポリオキシアルキレンアルキルアミン;脂肪酸アミドへのアルキレンオキシド付加物であるポリオキシアルキレン脂肪酸アミド;ポリオキシアルキレン(硬化)ヒマシ油;ポリオキシアルキレン変性ジオルガノポリシロキサン;ポリグリセリル変性シリコーン;グリセリル変性シリコーン;糖変性シリコーン;パーフルオロポリエーテル系界面活性剤;ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンブロックコポリマー;アルキルポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンブロックコポリマーエーテル等が挙げられる。これらのうち、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル及びポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテルが好ましい。尚、上記界面活性剤に含まれるノニオン性界面活性剤は、1種のみでも2種以上でもよい。
【0029】
上記アニオン性界面活性剤としては、スルホン酸系アニオン界面活性剤、カルボン酸系アニオン界面活性剤、硫酸系アニオン界面活性剤、リン酸系アニオン界面活性剤等が挙げられる。これらのうち、スルホン酸系アニオン界面活性剤が好ましい。尚、上記界面活性剤に含まれるアニオン性界面活性剤は、1種のみでも2種以上でもよい。
【0030】
上記界面活性剤の含有割合は、本発明の効果が十分に得られることから、アニオン性ビニル重合体(A)の含有量を100質量部とした場合に、好ましくは0.1~10質量部、より好ましくは0.2~5質量部である。
上記アニオン性ビニル重合体(A)を媒体中で分散安定化させる界面活性剤として、ノニオン性界面活性剤及びアニオン性界面活性剤が併用されている場合、これらの含有割合は限定されないが、両者の合計を100質量%とした場合に、それぞれ、好ましくは50~99.9質量%及び0.1~50質量%、更に好ましくは70~99.9質量%及び0.1~30質量%である。
【0031】
本発明に係る実施形態の防水材組成物に含有されるアニオン性ビニル重合体(A)の含有割合は、本発明の効果が十分に得られることから、上記成分(A)~(C)の合計量を100質量%としたとき、好ましくは20~99質量%、より好ましくは40~99質量%、更に好ましくは60~95質量%である。
【0032】
上記カチオン性重合体(B)は、好ましくは、防水材組成物において溶解しており、塗工及び乾燥させて得られた皮膜に強靭性等を付与する重合体である。
【0033】
上記カチオン性重合体(B)は、アリルアミン及びその塩、N-アルキルアリルアミン及びその塩、N、N-ジアルキルアリルアミン及びその塩、ジアリルアミン及びその塩、並びに、N-アルキルジアリルアミン及びその塩又は4級化物から選ばれた少なくとも1種に由来する構造単位を含む重合体であり、この重合体は、単独重合体及び共重合体のいずれでもよい。尚、上記重合体の塩としては、塩酸、硝酸、硫酸等の無機酸、又は、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、クエン酸、乳酸、リンゴ酸等の有機酸による中和物が挙げられる。また、4級化物としては、塩化メチル、塩化エチル、臭化メチル、臭化エチル、ヨウ化メチル、ベンジルクロリド等のハロゲン化アルキルによる4級化物が挙げられる。
上記カチオン性重合体(B)に含まれる上記化合物に由来する構造単位の合計量の下限は、成膜性の確保の観点から、重合体を構成する構造単位の全量に対して、好ましくは20質量%、より好ましくは50質量%、更に好ましくは70質量%である。
【0034】
上記ジアリルアミンに由来する構造単位は、下記一般式(1)で例示される。
【化1】
(式中、R
1は、水素原子又はアルキル基である。)
【0035】
上記N-アルキルアリルアミンとしては、N-メチルアリルアミン、N-エチルアリルアミン等が挙げられ、N,N-ジアルキルアリルアミンとしては、N,N-ジメチルアリルアミン、N,N-ジエチルアリルアミン等が挙げられる。
上記N-アルキルジアリルアミンとしては、N-メチルジアリルアミン、N-エチルジアリルアミン、N-プロピルジアリルアミン等が挙げられる。また、その4級化物としては、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド、ジアリルジエチルアンモニウムクロリド、ジアリルメチルエチルアンモニウムクロリド、ジアリルジプロピルアンモニウムクロリド等が挙げられる。
【0036】
上記カチオン性重合体(B)は、アリルアミン及びその塩、並びに、ジアリルアミン及びその塩から選ばれた少なくとも1種に由来する構造単位を含むことが特に好ましい。
【0037】
上記カチオン性重合体(B)は、他の構造単位を含んでもよく、例えば、二酸化硫黄;N,N-ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート及びその塩又は4級化物;N,N-ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリルアミド及びその塩又は4級化物;ビニルイミダゾール及びその塩又は4級化物、ビニルピリジン及びその塩又は4級化物;(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル等のヒドロキシ基を有する不飽和化合物;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のカルボン酸ビニル;不飽和酸、(メタ)アクリルアミド等に由来する構造単位とすることができる。
【0038】
上記カチオン性重合体(B)は、アリルアミン及びその塩、並びに、ジアリルアミン及びその塩から選ばれた少なくとも1種に由来する構造単位を含むことが特に好ましい。後者のジアリルアミンに由来する構造単位は、上記一般式(1)において、R1が、水素原子、又は、炭素原子数が1~2のアルキル基である構造単位が好ましい。
【0039】
上記カチオン性重合体(B)の重量平均分子量は、本発明の効果が十分に得られることから、好ましくは500~200000、より好ましくは1000~50000である。
【0040】
本発明に係る実施態様の防水材組成物に含有されるカチオン性重合体(B)は、1種のみであってよいし、2種以上であってもよい。
上記カチオン性重合体(B)は、本発明において好ましい媒体である水に溶解する重合体であることが好ましい。
【0041】
本発明に係る実施形態の防水材組成物に含有されるカチオン性重合体(B)の含有割合は、本発明の効果が十分に得られることから、アニオン性ビニル重合体(A)の含有量を100質量部とした場合に、好ましくは0.1~10質量部、より好ましくは0.2~5質量部である。
【0042】
上記揮発性塩基(C)は、防水材組成物においてカチオン性重合体(B)を媒体中で分散安定化させる成分である。この防水材組成物を塗布すると、この揮発性塩基(C)は塗膜から揮発し、アニオン性ビニル重合体(A)と、カチオン性重合体(B)とのゲル化(凝集硬化)を促進する。
上記揮発性塩基(C)としては、アンモニア、モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、モノイソプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、トリイソプロピルアミン、モノブチルアミン、ジブチルアミン、トリブチルアミン等のアルキルアミン、ジエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン等のアルカノールアミン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン等のアルキレンポリアミン、エチレンイミン、ピロリジン、ピぺリジン、ピペラジン、モルホリン等が挙げられる。これらのうち、塗膜の速乾性の観点から、アンモニアが好ましい。
【0043】
本発明に係る実施形態の防水材組成物に含有される揮発性塩基(C)の含有割合は、本発明の効果が十分に得られることから、アニオン性ビニル重合体(A)の含有量を100質量部とした場合に、好ましくは0.01~10質量部、より好ましくは0.1~5質量部である。
【0044】
本発明に係る実施形態の防水材組成物は、目的、用途等に応じて、他の重合体、添加剤等を含有することができる。
他の重合体は、好ましくは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによる重量平均分子量が500~100000であるアニオン性ビニル重合体(以下、「アニオン性ビニル重合体(D)」という)である。このアニオン性ビニル重合体(D)は、重合性不飽和結合を有するビニル単量体に由来する構造単位を含むものであれば、単独重合体及び共重合体のいずれでもよい。また、重量平均分子量は、本発明の効果が更に向上することから、好ましくは1000~100000、より好ましくは3000~60000である。
【0045】
上記アニオン性ビニル重合体(D)としては、(メタ)アクリル系重合体、オレフィン系重合体等が挙げられるが、これらのうち、(メタ)アクリル系重合体が好ましい。
【0046】
上記(メタ)アクリル系重合体は、好ましくは、(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来する構造単位と、不飽和酸又はその塩に由来する構造単位とを含む共重合体(以下、「(メタ)アクリル系重合体(D1)」という)である。この(メタ)アクリル系重合体(D1)は、更に、他の単量体に由来する構造単位を含んでもよい。これらの構造単位は、上記アニオン性ビニル重合体(A)を構成する構造単位の形成に用いられる、上記例示した各種単量体によるものとすることができる。
【0047】
上記(メタ)アクリル系重合体(D1)に含まれる、(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来する構造単位は、1種のみ又は2種以上とすることができる。
【0048】
上記(メタ)アクリル系重合体(D1)を構成する、(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来する構造単位の含有割合は、全ての構造単位の合計を100質量%とした場合に、好ましくは10~95質量%、より好ましくは20~95質量%、更に好ましくは40~90質量%である。
【0049】
上記(メタ)アクリル系重合体(D1)に含まれる、不飽和酸又はその塩に由来する構造単位は、それぞれ、1種のみ又は2種以上とすることができる。
上記(メタ)アクリル系重合体(D1)は、不飽和酸に由来する構造単位、及び、不飽和酸の塩に由来する構造単位の両方を含んでもよいが、不飽和酸の塩(ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩等)に由来する構造単位を含むことが好ましい。
【0050】
上記(メタ)アクリル系重合体(D1)を構成する、不飽和酸又はその塩に由来する構造単位の含有割合(不飽和酸に由来する構造単位、及び、不飽和酸の塩に由来する構造単位の両方を含む場合、その合計量の割合)は、全ての構造単位の合計を100質量%とした場合に、好ましくは5~40質量%、より好ましくは10~30質量%である。一定量以上の不飽和酸又はその塩に由来する構造単位を含み、これを塩にしておくことで、アニオン性ビニル重合体(D)に水に溶解又は乳化状態となって分散する性質を付与することができる。
【0051】
上記(メタ)アクリル系重合体(D1)が、更に、他の単量体に由来する他の構造単位を含む場合、他の構造単位は、CH2=C(R)-CO-O-X(式中、Rは水素原子又はメチル基であり、Xはポリアルキル(メタ)アクリレート基である)で示される末端(メタ)アクリロイル基含有マクロモノマー、(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステル、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物、ヒドロキシ基含有不飽和化合物、アミノ基含有不飽和化合物、アミド基含有不飽和化合物や、重合性不飽和結合を2つ以上有する多官能化合物等に由来する構造単位とすることができる。
【0052】
他の構造単位は、好ましくは、末端(メタ)アクリロイル基含有マクロモノマーに由来する構造単位であり、特に好ましくは、重量平均分子量が100000以下の末端(メタ)アクリロイル基含有マクロモノマーに由来する構造単位である。
【0053】
上記(メタ)アクリル系重合体(D1)が、更に、他の単量体に由来する他の構造単位を含む場合、その含有割合の上限は、全ての構造単位の合計を100質量%とした場合に、好ましくは60質量%、より好ましくは50質量%、更に好ましくは30質量%である。
【0054】
本発明に係る実施形態の防水材組成物に含有されるアニオン性ビニル重合体(D)は、上記性質を有する限りにおいて、1種のみであってよいし、2種以上であってもよい。即ち、上記アニオン性ビニル重合体(D)は、(メタ)アクリル系重合体(D1)の1種又は2種以上からなるものであってよいし、(メタ)アクリル系重合体(D1)と他のアニオン性ビニル重合体(以下、「他の重合体(D2)」という)とからなるものであってもよい。他の重合体(D2)としては、エチレン・酢酸ビニル共重合体等が挙げられる。
【0055】
本発明において、上記(メタ)アクリル系重合体(D1)は、アニオン性ビニル重合体(D)の主成分であることが好ましく、アニオン性ビニル重合体(D)の全体に対する含有割合は、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上である。
【0056】
本発明に係る実施形態の防水材組成物に含有されるアニオン性ビニル重合体(D)の含有割合は、本発明の効果が更に十分に得られることから、アニオン性ビニル重合体(A)の含有量を100質量部とした場合に、好ましくは0.1~20質量部、より好ましくは0.2~10質量部である。
本発明に係る実施形態の防水材組成物において、アニオン性ビニル重合体(A)は、界面活性剤により媒体中で分散安定化されており、このアニオン性ビニル重合体(D)が含まれる場合には、組成物を塗工した後、含まれる揮発性塩基が蒸発することにより、カチオン性重合体(B)とのポリイオンコンプレックスの形成によりゲル化が促進され、本発明の効果が更に十分に得られるものと考えられる。特に、アニオン性ビニル重合体(A)の分散安定化に寄与する界面活性剤がノニオン性界面活性剤を主とする場合には、カチオン性重合体(B)により電荷が中和されても凝集しにくいという不具合が、アニオン性ビニル重合体(D)の存在により解消されて、凝集硬化が促進されるものと推測している。
【0057】
本発明に係る実施形態の防水材組成物に好適な添加剤としては、金属架橋剤(以下、「金属架橋剤(E)」という)、充填材(以下、「充填材(F)」という)、増粘剤、顔料分散剤、レベリング剤、消泡剤、着色顔料、セメント、架橋剤、可塑剤、抗菌剤、防腐剤、防カビ剤、防藻剤、成膜助剤、凍結防止剤、溶剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤等の塗料、防水材等に一般的に使用されるものを含有することができる。
【0058】
上記金属架橋剤(E)は、塗膜が皮膜化する際にアニオン性ビニル重合体(A)(アニオン性ビニル重合体(D)を含有する場合には、アニオン性ビニル重合体(A)及びアニオン性ビニル重合体(D)の両方)を架橋させる成分であり、好ましくは、カルシウム、アルミニウム、マグネシウム、亜鉛、バリウム、ストロンチウム、チタン、ジルコニウム、スズ、マンガン等のイオン、塩(無機塩、有機酸塩等)、酸化物、水酸化物又は錯体である。具体的には、硫酸アルミニウム、酢酸アルミニウム、酢酸亜鉛、酸化亜鉛、アセチルアセトン亜鉛、亜鉛アンモニウム錯体、酢酸カルシウム、水酸化カルシウム、アセチルアセトンカルシウム等が挙げられ、特に好ましい金属架橋剤(E)は、水酸化カルシウムである。
【0059】
本発明に係る実施形態の防水材組成物が金属架橋剤(E)を含有する場合、その含有割合は、塗膜を乾燥して得られる皮膜の引張強さに優れることから、アニオン性ビニル重合体(A)の含有量を100質量部とした場合に、好ましくは0.1~10質量部、より好ましくは0.2~5質量部である。
【0060】
上記充填材(F)としては、中実体及び中空体のいずれでもよく、これらの組み合わせでもよい。中実体としては、珪砂、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化珪素、酸化チタン、タルク、マイカ、カオリン、クレー、フェライト、石膏、珪藻土等の無機材料からなる充填剤(無機充填材)が挙げられる。また、中空体としては、シラスバルーン、パーライト、ガラス(シリカ)バルーン、フライアッシュバルーン、アルミナバルーン、ジルコニアバルーン、カーボンバルーン等の無機中空体、及び、フェノールバルーン、エポキシバルーン、尿素バルーン、サランバルーン、ポリスチレンバルーン、ポリメタクリレートバルーン、ポリビニルアルコールバルーン、スチレン・アクリル系バルーン等の有機中空体が挙げられる。
これらの中でも、上記充填材(F)としては、塗膜の引張強さを向上できる点で、無機充填材が好ましい。
【0061】
上記充填材(F)の形状は、特に限定されず、球状、扁平状、線状、不定形等のいずれであってもよく、形状も、均一及び不均一のいずれでもよい。
【0062】
本発明に係る実施形態の防水材組成物が充填材(F)を含有する場合、その含有割合は、塗膜を乾燥して得られる皮膜の引張強さに優れることから、アニオン性ビニル重合体(A)の含有量を100質量部とした場合に、好ましくは0.1~1000質量部、より好ましくは0.5~500質量部、更に好ましくは1~300質量部である。
【0063】
増粘剤としては、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシセルロース、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリエチレンオキサイド、アルギン酸、天然の多糖類やその誘導体、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルエーテルマレイン酸等の有機物、ベントナイト、シリカヒューム、アエロジル、セピオライト、アタパルジャイト等の無機繊維等が挙げられる。これらの増粘剤は1種のみを用いてもよく、2種以上を併用することもできる。
顔料分散剤としては、高級脂肪酸塩、ポリカルボン酸、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリエチレングリコール等が挙げられる。これらの増粘剤は1種のみを用いてもよく、2種以上を併用することもできる。
消泡剤としては、シリコーン化合物、油脂、脂肪酸、脂肪酸エステル、リン酸エステル等の消泡剤およびこれらの一部が変性されたものが挙げられる。これらの増粘剤は1種のみを用いてもよく、2種以上を併用することもできる。
着色顔料としては、有機顔料及び無機顔料のいずれを用いてもよい。有機顔料としては、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、アゾレーキ、キレートアゾ顔料等のアゾ顔料、フタロシアニン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクドリン顔料、ジオキサジン顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフタロン顔料等の多環式顔料、染料レーキ、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラック、蛍光顔料等が挙げられる。また、無機顔料としては、酸化チタン、カーボンブラック、べんがら、カドミウムレッド、モリブデンオレンジ、黄色酸化鉄、黄鉛、チタンイエロー、クロムグリーン、酸化クロム、コバルトブルー、マンガンバイオレット等が挙げられる。これらの顔料は1種のみを用いてもよく、2種以上を併用することもできる。
セメントとしては、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、フライアッシュセメント、高炉セメント、コロイドセメント、アルミナセメント等が挙げられる。
【0064】
本発明に係る実施形態の防水材組成物を製造する方法は、特に限定されず、上記の成分からなる原料を、一括混合又は分割混合する方法等とすることができる。また、必要に応じて、得られた組成物を、貯蔵しておいてもよい。組成物を貯蔵する場合、密封条件下、0℃~40℃で載置することが好ましい。
【0065】
本発明に係る実施形態の防水材組成物は、全ての成分を含む1材の形態であってよいし、例えば、カチオン性重合体(B)又は充填材(F)を分ける等、2材以上からなる形態とし、使用時に全てを混合するものであってもよい。防水材組成物中の固形分含有量は、30~85%が好ましく、40~80%が特に好ましい。
【0066】
本発明に係る実施形態の防水材組成物の粘度は、被塗物の性状等により、適宜、選択されるが、B型粘度計により温度25℃、回転数12rpmで測定した場合、好ましくは100~100000mPa・s、より好ましくは1000~100000mPa・sである。
【0067】
本発明に係る実施形態の防水材組成物を用いることにより、被塗物に塗布して乾燥する前の塗膜が水に濡れても再乳化しなくなるまでの時間(不再乳化時間)と塗膜が乾燥成膜するまでの時間を短縮することができる。
例えば、防水材組成物を、平面の被塗物に、気温5℃及び相対湿度80%の条件下で、塗布量が2kg/m2(乾燥厚さとして約1000μm)となるように塗布し、不再乳化時間と成膜時間を測定した場合、不再乳化時間は好ましくは8時間以内、より好ましくは5時間以内、成膜時間を好ましくは20時間以内、より好ましくは16時間以内とすることができる。
【0068】
また、本発明に係る実施形態の防水材組成物を用いて得られた皮膜(防水皮膜)は、優れた引張強さを有し、厚さ1000μmの皮膜試料を用いて、JIS A6021に準ずる方法により測定される引張強さを、好ましくは1.3N/mm2以上とすることができる。
【0069】
本発明に係る実施形態の防水工法は、上記防水材組成物を被塗物の表面に塗布する塗工工程と、得られた塗膜を皮膜化させる皮膜形成工程とを備える。
被塗物の表面に塗布される塗料としては、上記防水材組成物のみであってもよいし、上記防水材組成物、並びに、下地調整材、下塗材(プライマー)、中塗材及び上塗材として用いられる公知の塗料組成物のうち少なくとも1種を組み合わせてもよい。
また、本発明の防水材組成物を施工した上に、モルタルやコンクリートを施工したり、シート、パネル等の成型物を敷設することもできる。
【0070】
上記被塗物は、例えば、セメントコンクリート、アスファルトコンクリート、繊維補強コンクリート、軽量気泡コンクリート(ALC)、フレキシブルボード等の現場打設又は工場成形されたもの、プラスチック(FRPを含む)、断熱材、木質材料、金属、ガラス等の建築・土木分野等で使用される全ての材料が挙げられる。また、仕上げ塗料、単層弾性塗材、微弾性塗材、吹付けタイル、弾性タイル、リシン、スタッコ、漆喰、表面被覆材、タイル張り等の仕上げが施された前記材料、撥水材が塗布された前記材料、並びに、アスファルト防水、シート防水、塗膜防水等の防水材が施された前記材料を被塗物(これらをまとめて「被塗物M」という。)とすることもできる。更に、前記被塗物Mの表面にアクリル樹脂、アクリルウレタン樹脂、アクリルシリコン樹脂、フッ素樹脂、無機系等の塗料が塗布された前記材料を被塗物とすることもできる。
好ましい被塗物は、建築物の屋根、屋上の床面、開放廊下の床面又は壁面、ベランダの床面又は壁面、外壁、地下外壁、水槽の内壁等、鋼製及びコンクリート製の橋梁、橋脚、桟橋、堤防、トンネル内壁、貯水タンク、水槽、ダム、鉄塔、道路の路面等の土木構造物等の構造物である。
【0071】
防水工法の具体的な例として、防水材組成物の塗膜の被塗物に対する密着性を確保するためのプライマー、防水材組成物、塗膜を紫外線から保護し意匠性を付与するための保護仕上材の順に積層する工法等が挙げられる。必要に応じて、ポリエステル繊維、ガラス繊維等からなる織布や不織布等の補強布を張り付ける工程を挿入して塗膜を補強したり、水分の多い下地に対して通気層を有する不織布を張り付けたり、下地に張ることで絶縁又は通気層を形成するシート等を張り、下地水分の影響で塗膜が膨れることを防止することもできる。
【0072】
上記塗工工程では、刷毛、ローラー刷毛、レーキ、コテ、スプレー等を利用した手段を適用することができる。被塗物に対する塗工回数は、特に限定されず、1回(1層塗り)でも、2回以上(多層塗り)でもよい。また、形成する塗膜の厚さも、特に限定されず、用途に応じて適宜設定することができる。
【0073】
上記皮膜形成工程では、被塗物の表面に形成された塗膜を放置(養生)することにより、短時間で成膜させ、防水皮膜を形成することができる。皮膜化条件は、特に限定されないが、例えば、5℃以下の低温、及び/又は、相対湿度80%以上の高湿度の環境下においても、防水皮膜を形成することができる。皮膜化は、形成された塗膜から揮発性塩基(C)が蒸発され、塗膜に含まれたアニオン性ビニル重合体(A)及び/又はアニオン性ビニル重合体(D)のアニオン性官能基と、陽イオン状態となったカチオン性重合体(B)とのゲル化(凝集硬化)が促進してなされる。
塗膜が乾燥する前にゲル化することで水に濡れても塗料成分が再乳化しなくなり、不再乳化時間を短縮することができる。また、含水状態での皮膜化が速くなり、成膜時間を短縮することができる。
【0074】
本発明に係る実施形態の防水皮膜は、好ましくはその厚さが少なくとも500μmである場合に、特に、下地ひび割れ追従性に優れる。例えば、防水材組成物を施工したコンクリート構造物等に、コンクリートの硬化収縮等に起因する下地のひび割れが発生した場合、これに起因する防水皮膜の伸びに対して皮膜が破断せず柔軟に追従する性能が発揮される。従って、コンクリート構造物の屋根、外壁等に防水皮膜を形成して、構造物自体の劣化を抑制したり、内部への雨水の漏水を防止することができる。
【実施例】
【0075】
以下、実施例により、本発明の実施形態を更に具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。尚、下記において、「部」及び「%」は、特に断らない限り、質量基準である。
【0076】
1.防水材組成物の製造原料
防水材組成物の製造原料は、界面活性剤により媒体中で分散安定化されたアニオン性ビニル重合体を含むエマルション、カチオン性重合体の水溶液、他のアニオン性ビニル重合体の分散液、揮発性塩基の水溶液、金属架橋剤及び充填材である。
【0077】
1-1.エマルション
界面活性剤により媒体中で分散安定化されたアニオン性ビニル重合体を含むエマルションとして、下記の(AX-1)~(AX-4)を用いた。
【0078】
1-1-1.エマルション(AX-1)
フラスコにイオン交換水68部を入れ、内温を80℃とした。その後、フラスコ内に窒素ガスを流しながら、2-エチルヘキシルアクリレート77部、メタクリル酸メチル12部、アクリロニトリル10部、メタクリル酸1部、ポリオキシエチレンアルケニル硫酸アンモニウム(アニオン性界面活性剤)2部及びアルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム(アニオン性界面活性剤)0.5部からなる混合液を、撹拌下連続的に滴下した。他方、過硫酸アンモニウム0.6部を連続的に滴下した。5時間の重合反応を実施し、これらのアニオン性界面活性剤により分散安定化されたアニオン性ビニル重合体(A-1)を含む固形分濃度60%のエマルション(AX-1)を得た。このエマルション(AX-1)における固形分の全体量を100%としたとき、2-エチルヘキシルアクリレート単位、メタクリル酸メチル単位、アクリロニトリル単位及びメタクリル酸単位からなるアニオン性ビニル重合体(A-1)の濃度は97.6%であり、アニオン性界面活性剤の合計濃度は2.4%である。また、アニオン性ビニル重合体(A-1)の計算Tgは-73℃である。
【0079】
1-1-2.エマルション(AX-2)
フラスコにイオン交換水68部を入れ、内温を80℃とした。その後、フラスコ内に窒素ガスを流しながら、2-エチルヘキシルアクリレート77部、スチレン12部、アクリロニトリル10部、メタクリル酸1部及びポリオキシエチレン高級アルコールエーテル(ノニオン性界面活性剤)2部からなる混合液を、撹拌下連続的に滴下した。他方、過硫酸アンモニウム0.2部を連続的に滴下した。5時間の重合反応を実施し、ノニオン性界面活性剤により分散安定化されたアニオン性ビニル重合体(A-2)を含む固形分濃度60%のエマルション(AX-2)を得た。このエマルション(AX-2)における固形分の全体量を100%としたとき、2-エチルヘキシルアクリレート単位、スチレン単位、アクリロニトリル単位及びメタクリル酸単位からなるアニオン性ビニル重合体(A-2)の濃度は98.0%であり、ノニオン性界面活性剤の濃度は2.0%である。また、アニオン性ビニル重合体(A-2)の計算Tgは-73℃である。
【0080】
1-1-3.エマルション(AX-3)
フラスコにイオン交換水68部を入れ、内温を80℃とした。その後、フラスコ内に窒素ガスを流しながら、2-エチルヘキシルアクリレート77部、スチレン12部、アクリロニトリル10部、メタクリル酸1部、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル(ノニオン性界面活性剤)2部及びアルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム(アニオン性界面活性剤)0.5部からなる混合液を、撹拌下連続的に滴下した。他方、過硫酸アンモニウム0.2部を連続的に滴下した。5時間の重合反応を実施し、これらの界面活性剤により分散安定化されたアニオン性ビニル重合体(A-3)を含む固形分濃度60%のエマルション(AX-3)を得た。このエマルション(AX-3)における固形分の全体量を100%としたとき、2-エチルヘキシルアクリレート単位、スチレン単位、アクリロニトリル単位及びメタクリル酸単位からなるアニオン性ビニル重合体(A-3)の濃度は97.6%であり、ノニオン性界面活性剤及びアニオン性界面活性剤の濃度は、それぞれ、1.95%及び0.49%である。また、アニオン性ビニル重合体(A-3)の計算Tgは-73℃である。
【0081】
1-1-4.エマルション(AX-4)
フラスコにイオン交換水68部を入れ、内温を80℃とした。その後、フラスコ内に窒素ガスを流しながら、2-エチルヘキシルアクリレート45部、スチレン44部、アクリロニトリル10部、メタクリル酸1部及びポリオキシエチレン高級アルコールエーテル(ノニオン性界面活性剤)2部からなる混合液を、撹拌下連続的に滴下した。他方、過硫酸アンモニウム0.2部を連続的に滴下した。5時間の重合反応を実施し、ノニオン性界面活性剤により分散安定化されたアニオン性ビニル重合体(A-4)を含む固形分濃度60%のエマルション(AX-4)を得た。このエマルション(AX-4)における固形分の全体量を100%としたとき、2-エチルヘキシルアクリレート単位、スチレン単位、アクリロニトリル単位及びメタクリル酸単位からなるアニオン性ビニル重合体(A-4)の濃度は98.0%であり、ノニオン性界面活性剤の濃度は2.0%である。また、アニオン性ビニル重合体(A-4)の計算Tgは-14℃である。
【0082】
1-2.カチオン性重合体
いずれもカチオン性重合体の固形分濃度が20%の水溶液からなる市販品を用いた。
1-2-1.ポリアリルアミンの水溶液
固形分濃度が20%の水溶液である、ニットーボーメディカル社製「PAA-03」(商品名)を用いた。この重合体の重量平均分子量は3,000である。
1-2-2.ジアリルアミン塩酸塩・二酸化硫黄共重合体の水溶液
固形分濃度が20%の水溶液である、ニットーボーメディカル社製「PAS-92」(商品名)を用いた。この重合体の重量平均分子量は5,000である。
1-2-3.ジメチルアミノエチルメタクリレート硫酸塩重合物の水溶液
固形分濃度が27%の水溶液である、センカ社製「ユニセンスKPV100LU」(商品名)を用いた。この重合体の重量平均分子量は20,000~100,000である。
【0083】
1-3.揮発性塩基の水溶液
25%アンモニア水を用いた。
【0084】
1-4.他のアニオン性ビニル重合体を含む分散液
下記の(DX-1)及び(DX-2)を用いた。
【0085】
1-4-1.分散液(DX-1)
フラスコにメチルエチルケトン118部を入れ、内温を80℃とした。その後、フラスコ内に窒素ガスを流しながら、メタクリル酸メチル50部、アクリル酸エチル32部及びメタクリル酸18部並びにメルカプトエタノール1.3部の混合液を、撹拌下連続的に滴下した。他方、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)5.7部を撹拌下連続的に滴下した。重合反応を5時間行った。その後、脱溶を行い、固体の重合体と、水235部と、25%アンモニア水15部とを混合し、メタクリル酸メチル単位、アクリル酸エチル単位、及び、メタクリル酸アンモニウム単位を有するアニオン性ビニル重合体(D-1)を含む分散液(DX-1)を得た。アニオン性ビニル重合体(D-1)の濃度は30%である。また、アニオン性ビニル重合体(D-1)のGPC(ポリスチレン換算)による重量平均分子量は8,700であり、計算Tgは56℃である。
【0086】
1-4-2.分散液(DX-2)
フラスコにメチルエチルケトン118部を入れ、内温を80℃とした。その後、フラスコ内に窒素ガスを流しながら、メタクリル酸メチル32部、アクリル酸エチル21部、メタクリル酸18部、及び、片末端にメタクリロイル基を有する重量平均分子量5,500のポリブチルアクリレート29部並びにメルカプトエタノール1.3部からなる混合液を、撹拌下連続的に滴下した。他方、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)5.7部を撹拌下連続的に滴下した。重合反応を5時間行った。その後、脱溶を行い、固体の重合体と、水235部と、25%アンモニア水15部とを混合し、メタクリル酸メチル単位、アクリル酸エチル単位、メタクリル酸アンモニウム単位、及び、上記ポリブチルアクリレートに由来する構造単位を有するアニオン性ビニル重合体(D-2)を含む分散液(DX-2)を得た。アニオン性ビニル重合体(D-2)の濃度は30%である。また、アニオン性ビニル重合体(D-2)の重量平均分子量は8,800であり、計算Tgは16℃である。
【0087】
1-5.金属架橋剤
水酸化カルシウム粉末を用いた。
1-6.充填材
炭酸カルシウム58%、クレー25%及び珪砂17%からなる混合粉体(以下、「無機粉体」という)を用いた。
【0088】
2.防水材組成物の製造及び評価
実施例1
エマルション(AX-1)と、ポリアリルアミン水溶液と、25%アンモニア水と、水酸化カルシウム粉末と、無機粉体とを用いてこれらを一括混合し、表1に記載の構成を有する防水材組成物を得た。尚、表1記載の数字は、(C)成分及び水については有効成分を意味し、(C)成分及び水以外の成分については固形分を意味する。
【0089】
次いで、調製直後の防水材組成物を、ポリ塩化ビニル板の表面に、表1に示すように、乾燥後の膜厚が1000μmとなるように塗布した。そして、以下の方法により、塗膜に対して、温度5℃及び相対湿度80%の条件下で、不再乳化時間及び成膜時間の測定を行い、成膜性を評価した(表1参照)。尚、乾燥膜の比重は1.4である(他の実施例及び比較例も同じ)。
(1)不再乳化時間
塗膜の表面に、スポイトを使用して水を1滴垂らし、その上に鉛筆を鉛直に立て、この鉛筆に対して、20gfの荷重で連続10回押圧した。その後、鉛筆を取り除いて、水の白濁化を目視観察した。10回目の押圧直後から水が白濁しなくなるまでの時間を計測した。
(2)成膜時間
塗膜の表面に、鉛筆を鉛直に立て、この鉛筆に対して、1kgの荷重を10秒間掛けた。その後、鉛筆を取り除いて、塗膜の表面に鉛筆の跡が残らなくなるまでの時間を計測した。
【0090】
また、防水材組成物により形成される皮膜物性を確認するため、以下の評価を行った。
(3)引張強さ及び破断時の伸び率
防水材組成物を、ポリ塩化ビニル板(300mm×300mm×5mm)の表面に、表1に示すように、乾燥後の膜厚が1000μmとなるように塗布した。そして、JIS A6021の「建築用塗膜防水材」に準拠して養生し、防水皮膜を得た後、その引張試験を実施した(表1参照)。
(4)下地ひび割れ追従性
図1に示すスレート板10(150mm×75mm×5mm、裏面側に、その長手方向中央に割りやすくするためのVカット(溝部12)が施されたもの)の表面に、東亞合成社製「アロン水性プライマー」を0.1kg/m
2で塗布し、温度23℃及び湿度50%の条件下、24時間養生させ、プライマー層を形成させた。その後、このプライマー層の表面に、防水材組成物を、乾燥後の膜厚が1000μmとなるように塗布し、温度23℃及び湿度50%で7日間養生させ、防水皮膜20を形成させ、複合体100を得た。
次いで、防水皮膜20を損傷させないように、複合体100を構成するスレート板10における溝部12に沿って、スレート板10を半分に割り、
図2に示す防水皮膜付き複合体評価試料102を得た。この防水皮膜付き複合体評価試料102は、75mm×75mmの大きさに2分された防水皮膜付きスレート板(10X、10Y)が防水皮膜でつながった構造を有する。
その後、
図3(A)及び(B)に示すように、2分されたスレート板を、温度23℃及び湿度50%の条件下、5mm/分の速度で長手方向に引っ張り、防水皮膜にピンホール、破断等の欠陥が発生した時点の引っ張りの幅(下地ひび割れ追従幅)を測定した(表1参照)。表1において、下地ひび割れ追従幅が5mm以上の場合は「○」、3mm以上5mm未満の場合は「△」、3mm未満の場合は「×」と、それぞれ、記載した。
【0091】
実施例2~11
エマルション(AX-2)、(AX-3)又は(AX-4)と、ポリアリルアミン水溶液又はジアリルアミン塩酸塩・二酸化硫黄共重合体水溶液と、25%アンモニア水と、分散液(DX-1)又は(DX-2)と、水酸化カルシウム粉末と、無機粉体とを用いてこれらを一括混合し、表1に記載の構成を有する防水材組成物を得た。
その後、実施例1と同様にして、評価を行い、その結果を表1に併記した。
【0092】
比較例1及び2
エマルション(AX-2)又は(AX-3)と、ジエチルアミノエチルメタクリレート硫酸塩重合物水溶液と、25%アンモニア水と、分散液(DX-2)と、無機粉体とを用いてこれらを一括混合し、表1に記載の構成を有する防水材組成物を得た。
その後、実施例1と同様にして、評価を行い、その結果を表1に併記した。
【0093】
【0094】
表1から以下のことが明らかである。
比較例1及び2は、カチオン性重合体として、本発明に含まれないジエチルアミノエチルメタクリレート硫酸塩重合物を用いた例であり、不再乳化時間、成膜時間が長く、皮膜の引張強さも十分ではなかった。一方、実施例1~11は、本願発明の防水材組成物の例であり、不再乳化時間が8時間以内、成膜時間が18時間以内に短縮され、かつ比較例1及び2の2倍以上の引張強さが得られたことが分かる。
【0095】
実施例12及び13
実施例11の組成物を、異なる製造方法により調製し、実施例1と同様にして、評価を行い、その結果を表2に併記した。
例えば、実施例12の防水材組成物は、所定量の、エマルション(AX-3)と、25%アンモニア水と、分散液(DX-2)と、水酸化カルシウム粉末と、水とを混合した後、この混合物を、密封条件下、40℃で貯蔵した。そして、180日経過後、この混合物に、所定量のポリアリルアミン水溶液と、無機粉体とを添加して混合することにより防水材組成物を得た。
【0096】
実施例14
実施例11の組成物を、密封条件下、40℃で、180日間貯蔵した後、実施例1と同様にして、評価を行い、その結果を表2に併記した。
【0097】
【0098】
表2から以下のことが明らかである。
実施例12~14では、実施例1~11と同様に、不再乳化時間が8時間以内、成膜時間が18時間以内に短縮され、かつ比較例1及び2の2倍以上の引張強さが得られた。以上より、原料を混合して長期間置いても成膜性及び皮膜物性が変化しないことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明の防水材組成物は、低温下や高湿下での不再乳化時間が短いため、このような条件下でも、塗膜が夜露や降雨に濡れて再乳化することを懸念して施工を回避する必要がなく、成膜時間が短いため、次工程を予定通りに施工でき、工期を遅らせずに施工できる。 また、コンクリート、モルタル、スレート、金属、ガラス、樹脂等の建築土木分野で使用されるすべての材料およびこの上に各種塗材や防水材等を施した下地に適用することができ、引張強さに優れ、下地ひび割れ追従性を有する防水皮膜を形成することができる。
【符号の説明】
【0100】
10:スレート板
10X,10Y:分割されたスレート板
12:溝部
20:防水皮膜
100:防水皮膜付き複合体
102:防水皮膜付き複合体評価試料