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特許7419631ナノフィブリルセルロースに固定化した生物活性分子を含む医療製品、及びその調製方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-15
(45)【発行日】2024-01-23
(54)【発明の名称】ナノフィブリルセルロースに固定化した生物活性分子を含む医療製品、及びその調製方法
(51)【国際特許分類】
   A61L 15/28 20060101AFI20240116BHJP
   A61K 9/70 20060101ALI20240116BHJP
   A61K 47/38 20060101ALI20240116BHJP
   A61K 47/69 20170101ALI20240116BHJP
   A61L 15/38 20060101ALI20240116BHJP
   A61L 15/44 20060101ALI20240116BHJP
   A61L 15/60 20060101ALI20240116BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20240116BHJP
   A61P 17/02 20060101ALI20240116BHJP
【FI】
A61L15/28
A61K9/70
A61K9/70 401
A61K9/70 405
A61K47/38
A61K47/69
A61L15/28 100
A61L15/28 110
A61L15/38
A61L15/38 100
A61L15/38 110
A61L15/44
A61L15/44 100
A61L15/44 110
A61L15/60
A61L15/60 100
A61L15/60 110
A61P17/00
A61P17/00 101
A61P17/02
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2020545676
(86)(22)【出願日】2019-03-01
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-06-17
(86)【国際出願番号】 EP2019055097
(87)【国際公開番号】W WO2019166606
(87)【国際公開日】2019-09-06
【審査請求日】2021-12-20
(31)【優先権主張番号】18397510.1
(32)【優先日】2018-03-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】514158855
【氏名又は名称】ユー ピー エム キュンメネ コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(72)【発明者】
【氏名】ルーッコ、カリ
(72)【発明者】
【氏名】ヌッポネン、マルクス
(72)【発明者】
【氏名】クールツィオ、ニコロ
(72)【発明者】
【氏名】イリペルトゥラ、マルヨ
(72)【発明者】
【氏名】イリーナ、ポリーナ
(72)【発明者】
【氏名】タンメラ、ペイヴィ
【審査官】篭島 福太郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/174874(WO,A1)
【文献】特開2017-014509(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0241436(US,A1)
【文献】特表2017-530165(JP,A)
【文献】米国特許第04576817(US,A)
【文献】ACS APPLIED MATERIALS & INTERFACES,2017年,Vol.9, No.26,p.21959-21970
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 15/28
A61K 9/70
A61K 47/38
A61K 47/69
A61L 15/38
A61L 15/44
A61L 15/60
A61P 17/00
A61P 17/02
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維状セルロース原料の機械的離解により得られたフィブリル平均直径が1~200nmの範囲であるナノフィブリルセルロースを提供すること、
ガーゼを提供すること、
前記ナノフィブリルセルロースを含む1又は複数の層を調製し、前記ガーゼに組み込むこと、
タンパク質、ペプチド、核酸、ホルモン、サイトカイン、光増感分子、及び抗癌剤から選択される生物活性分子を提供すること、及び
前記生物活性分子を前記ナノフィブリルセルロースを含む前記1又は複数の層に共有結合させること
を含む、組織を覆うための医療製品を調製する方法。
【請求項2】
第一級アミン又はスルフヒドリル基を介して前記共有結合を形成することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
水性媒体中で前記共有結合を形成することを含む、請求項1又は請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記生物活性分子は、アシラーゼ、アミダーゼ、アミラーゼ、サブチリシンA、ラクトナーゼ、及びオキシドレダクターゼから選択されるクオラムクエンチングタンパク質である、請求項1~請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
0~20%(w/w)の範囲内の含水率で前記ナノフィブリルセルロースを提供すること、又は前記ナノフィブリルセルロースの含水率を前記範囲内に調整することを含む、請求項1~請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記ナノフィブリルセルロースは、水に分散された場合に、水性媒体中で0.5%(w/w)の濃度で回転レオメーターによる測定したゼロ剪断粘度が1000~100000Pa・sの範囲内であり、降伏応力が1~50Paの範囲内である、請求項1~請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記ナノフィブリルセルロースは、アニオン変性ナノフィブリルセルロース、カチオン変性ナノフィブリルセルロース、未変性ナノフィブリルセルロース、酸化ナノフィブリルセルロース、及びTEMPO酸化ナノフィブリルセルロースから選択される、請求項1~請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記医療製品を膜、パッチ、絆創膏、包帯、創傷被覆材、若しくはフィルターに形成すること、又は絆創膏、パッチ、若しくは創傷被覆材の一部に形成すること、を含む、請求項1~請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
ィブリル平均直径が1~200nmの範囲であるナノフィブリルセルロースを含む層を含むガーゼと、
前記ナノフィブリルセルロースの層に共有結合した、タンパク質、ペプチド、核酸、ホルモン、サイトカイン、光増感分子、及び抗癌剤から選択される生物活性分子と、
を含む、組織を覆うための医療製品。
【請求項10】
前記ナノフィブリルセルロースの層が80~99.9%(w/w)の範囲内の含水率を有する、請求項に記載の医療製品。
【請求項11】
前記ナノフィブリルセルロースの層が0~20%(w/w)の範囲内の含水率を有する、請求項に記載の医療製品。
【請求項12】
前記生物活性分子は、アシラーゼ、アミダーゼ、アミラーゼ、サブチリシンA、ラクトナーゼ、及びオキシドレダクターゼから選択されるクオラムクエンチングタンパク質である、請求項~請求項11のいずれか一項に記載の医療製品。
【請求項13】
前記ナノフィブリルセルロースが、90~99.8%(w/w)の範囲内の含水率を有するゲルとして存在する、請求項9又は10に記載の医療製品。
【請求項14】
前記ナノフィブリルセルロースは、水に分散された場合に、水性媒体中で0.5%(w/w)の濃度で回転レオメーターによる測定したゼロ剪断粘度が1000~100000Pa・sの範囲内であり、降伏応力が1~50Paの範囲内である、請求項~請求項13のいずれか一項に記載の医療製品。
【請求項15】
ナノフィブリルセルロースの2つ以上の層を含む、請求項9~請求項14のいずれか一項に記載の医療製品。
【請求項16】
前記ガーゼの表面にナノフィブリルセルロースの濃縮された層を含む、9~請求項15のいずれか一項に記載の医療製品。
【請求項17】
膜、ゲル、パッチ、絆創膏、包帯、創傷被覆材、若しくはフィルターとしての形態、又は絆創膏、パッチ、若しくは創傷被覆材の一部としての形態である、請求項~請求項16のいずれか一項に記載の医療製品。
【請求項18】
対象の治療に使用するための、請求項~請求項17のいずれか一項に記載の医療製品。
【請求項19】
前記生物活性分子がクオラムクエンチングタンパク質であり、前記治療が細菌性バイオフィルム形成を抑制又は防止するためのものである、請求項18に記載の医療製品。
【請求項20】
皮膚の創傷又は他の損傷若しくは傷害の治療に使用するための、請求項18に記載の医療製品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、ナノフィブリルセルロースを含む医療製品、及びその調製方法に関する。より具体的には、本出願は、固定化した生物活性分子を含む医療製品に関する。
【背景技術】
【0002】
慢性創傷は、高い確率で懸念及び死亡を引き起こし、世界中でヘルスケア産業において数百万ドルの負担となっている、深刻化しつつある医療問題である。慢性創傷の治癒は、細菌が増殖して病原性を発揮し、慢性感染症の発症を引き起こすバイオフィルムを形成する細菌感染症の存在によって妨げられる。細菌性バイオフィルムは、創傷部位の慢性炎症を刺激することにより、慢性創傷を治療に対してより不応性にし、組織修復を遅延させる。バイオフィルムに関連する皮膚疾患に対する懸念が増大しており、米国では毎年196万人がバイオフィルム関連の感染症に罹患している。さらに、死亡率については、年間患者数268000人である。
【0003】
とりわけ、そうしたリスクは創傷床内のバイオフィルム堆積の3つの主な好ましくない結果、すなわち、細菌が宿主防御から保護されること、損傷した組織の再生が抑制されること、及び抗生物質による治療効果が抑制されることによって説明される。バイオフィルムの堆積が防止されると、創傷治癒プロセスが加速され、促進されることは明白であるようだ。
【0004】
バイオフィルム関連の皮膚疾患に対する限定的解決策としての抗生物質の使用には、抗生物質耐性の発達、創傷床での非効率的な抗生物質濃度、体循環との相互作用など、いくつかの欠点がある。
【0005】
創傷又は皮膚若しくは他の組織のその他の状態を治療するための効率的な医療製品が必要とされている。それらの製品は組織と生体適合性があり、創傷など、治療が必要な領域の治癒を促進する状態をもたらすものでなくてはならない。抗生物質の使用は避けるべきである。治療対象の循環系に活性物質を放出することは望ましくない場合もある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書に開示されるアプローチは、一般的なアプローチに関連する多くの制限を解決する。一例では、クオラムクエンチング(quorum quenching)酵素は医療機器に固定化され、そこで長期的なバイオフィルム阻害を促進し、その結果、慢性バイオフィルム感染症を解消する。この原理は、他の固定化可能な物質及び用途にも同様に適用され得る。ナノフィブリルセルロースヒドロゲルは、固定化した生物活性物質の効率的なマトリックスとして機能し、そのような固定化した生物活性物質は、様々な標的に提供される。
【0007】
固定化した物質により、本明細書に記載されるような医療分野、科学分野、化粧品分野、又は他の分野で有用な製品を得ることができる。それらの物質は、例えば、酵素などのタンパク質、他のタンパク質、ペプチド、ホルモン、サイトカイン、光増感分子、抗癌剤などの生物活性分子であってもよく、生物学的活性を示すか、又は生物学的活性を示す若しくは関連する対応物(counterpart)と相互作用することが可能である分子又は物質であってもよい。
【0008】
本出願は、
ナノフィブリルセルロースを提供すること、
生物活性分子を提供すること、及び
前記生物活性分子を前記ナノフィブリルセルロースに共有結合させること、
を含む医療製品を調製する方法を提供する。
【0009】
本出願はまた、ナノフィブリルセルロースに共有結合した生物活性分子を含む、医療製品を提供する。前記医療製品は、本明細書に開示の方法で得ることができる。
【0010】
主な実施形態は、独立請求項において特徴付けられる。様々な実施形態が従属請求項に開示されている。特許請求の範囲及び明細書に記載の実施形態は、特に明記されていない限り、相互に自由に組み合わせ可能である。
【0011】
ナノフィブリルセルロースに固定化された生物活性分子、特に酵素は、長期間にわたって安定して生物活性を維持することが分かった。生物活性分子はマトリックスから放出されないので治療対象の循環に入ることがなく、生物活性は長期間利用可能に維持される。これは、特に生物活性分子がナノフィブリルセルロースに共有結合している場合に達成された。具体的には、酵素がナノフィブリルセルロースに共有結合で固定化されている場合、それらの安定性及び活性はさらに改善され得る。ナノフィブリルセルロースの他の有利な特性は、標的に対する生物活性分子の効果をサポート及び増強することである。
【0012】
ナノフィブリルセルロースは、カルボキシル基を介して行われ得る生物活性分子の共有結合に理想的なマトリックスである。ナノフィブリルセルロースは、多数のカルボキシル基を含むか、または含むように変性されてもよい。これにより、フィブリル化した材料の大きな表面積とともに、多数の生物活性分子の共有結合が可能になり、最終生成物において高い生物活性がもたらされる。
【0013】
本明細書に記載の医療製品は医療用途に有用であり、ナノフィブリルセルロースを含む材料が生体組織と接触する。ナノフィブリルセルロースは、例えば皮膚又は損傷した領域に適用されると、有利な特性をもたらすことが発見された。本明細書に記載のナノフィブリルセルロースを含有する製品は、生体組織と高度に生体適合性であり、いくつかの有利な効果をもたらす。特定の理論に拘束されることなく、ナノフィブリルセルロースを含む医療製品は、非常に親水性の表面を提供し、皮膚又は他の組織、例えば創傷に対して適用されると、組織から水分を吸収及び保持し、前記医療製品と皮膚との間に水膜を形成すると考えられ、結果として、組織は創傷の治癒を促進する状態を作り出す。医療製品はまた、効果を高めるために湿らせてもよい。この効果により、固定化生物活性分子の高含有量とともに、本明細書に記載の医療製品が組織の治療のために非常に効率的になる。
【0014】
皮膚、特に創傷又は他の損傷若しくは傷害を含む皮膚などの組織を覆うために医療製品が使用される場合、例えばゲル、絆創膏、創傷被覆材、医療パッチ、又は絆創膏、パッチ、若しくは創傷被覆材の一部などの製品において、いくつかの効果が示される。製品は破れなどのダメージを与えることなく、簡単に適用及び除去可能であるため、製品の利便性は良好である。製品はまた、その特性に影響を与えることなく、所望のサイズおよび形状に切断されてもよい。創傷を覆うために使用される場合、前記製品の材料は人工皮膚として機能し、人工皮膚は創傷を保護して創傷が治癒すると剥離する。前記医療製品は、治癒した領域を損傷することなく除去することが通常は非常に困難である、従来の材料のように不可逆的な方法で損傷した領域に付着することはない。前記医療製品と組織との間の状態により、損傷した領域の治癒が促進される。
【0015】
実施形態の医療製品は、例えば植皮片などの移植片の治療に有利である。医療製品は、移植片領域を覆うために使用することができ、保護層として機能する。移植片が治癒すると、前記製品は痂皮様の構造を形成し、治癒を促進する。
【0016】
固定化生物活性分子は、創傷又は移植片に適用されるだけでなく、治療を必要とする又は治療を受けることができる皮膚又は他の組織の任意の領域も同様に治療され得る。そのような領域は、損傷した組織、腫瘍を含む組織、皮膚障害又は疾患領域などを含み得る。固定化した生物活性はまた、健康な皮膚又は他の組織に向けられてもよい。
【0017】
クオラムクエンチング分子を含む製品は、細菌性バイオフィルム形成を抑制又は防止するために使用できる。これは、例えば、バイオフィルム形成に関連する、抗体、白血球、及び/又は抗生物質耐性を克服するために使用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】EDC及びスルホ-NHSを用いたアシラーゼの固定化スキームを示す図である。
図2】試験した様々なナノセルロース膜及びセルロース膜を示す図である。1=ロット11885、2=ロット11888、3=Growdex Tロット119671917、4=医療グレードのセルロースガーゼ(Pur-Zellin(登録商標)、Hartmann社)。
図3】119671917tナノセルロース膜上の緑膿菌(P.aeruginosa)バイオフィルムのアラマーブルー(alamarBlue)分析を示す図である。1=条件A:119671917t+pH7で固定化タンパク質(31.5%)、2=条件B:119671917t+pH6で固定化タンパク質(51%)、3=対照:119671917t+固定化アルブミン(100%)。
図4】119671917tナノセルロース上の緑膿菌バイオフィルムのアラマーブルー分析を示す図である。1=条件C:119671917t+精製アシラーゼ(40.4%)、2=条件D:119671917t+非精製アシラーゼ(52.2%)、3=対照1、119671917t+アルブミン(100%)、4=対照2:119671917t(101.3%)。
図5】緑膿菌のピオシアニン定量を示す図である。1=条件C:119671917t+精製アシラーゼ(45.63%)、2=条件D:119671917t+非精製アシラーゼ(39.55%)、3=対照1、119671917t+アルブミン(77.29%)、4=対照2:119671917t(62.37%)、5=対照3:PAO1培養物のみ(100%)。
図6A】固定化に対する異なる滅菌方法の影響、及び11885ナノセルロース膜上の固定化アシラーゼのN-アセチルメチオニンに対する活性(37℃、振とうなし)を示す図である。1=オートクレーブ処理11885(A:0.51、B:0.66)、2=エタノール滅菌11885(A:0.52、B:0.68)、3=非滅菌11885(A:0.55、B:0.58)、4=最大理論量(A:2.80、B:2.80)。
図6B】固定化に対する異なる滅菌方法の影響、及び11885ナノセルロース膜上の固定化アシラーゼのN-アセチルメチオニンに対する活性(37℃、250rpmでの振盪あり)を示す図である。1=オートクレーブ処理11885(A:0.51、B:0.66)、2=エタノール滅菌11885(A:0.52、B:0.68)、3=非滅菌11885(A:0.55、B:0.58)、4=最大理論量(A:2.80、B:2.80)。
図7】異なるように活性化した11885ナノセルロース膜のN-アセチルメチオニンに対する活性(温度37℃、250rpmで振盪)を示す図である。アシラーゼの精製並びにEDC及びスルホ-NHSによる活性化時間を試験した。1=15分活性化+精製アシラーゼ(0.164)、2=15分活性化+非精製アシラーゼ(0.094)、3=30分活性化+精製アシラーゼ(0.126)、4=30分活性化+非精製アシラーゼ(0.104)、5=試薬+精製アシラーゼ(同時)(0.021)、6=試薬+非精製アシラーゼ(同時)(0.03)、7=最大理論量(2.8)。
図8A】異なるように金属活性化した11885ナノセルロース膜に固定化したアシラーゼのN-アセチルメチオニンに対する活性(温度37℃、250rpmで振盪)を示す図である。S1(図8A)及びS2(図8B)の2つの合成方法を試験した。1=pH6における非活性化アシラーゼ(A:1.05、B:0.87)、2=pH7における非活性化アシラーゼ(A:1.43、B:1.19)、3=pH7.5における非活性化アシラーゼ(A:1.16、B:1.05)、4=pH6におけるCo2+活性化アシラーゼ(A:2.31、B:2.27)、5=pH7におけるCo2+活性化アシラーゼ(A:1.91、B:1.44)、6=pH7.5におけるCo2+活性化アシラーゼ(A:1.92、B:1.90)、7=pH6におけるMg2+活性化アシラーゼ(A:1.17、B:1.41)、8=pH7におけるMg2+活性化アシラーゼ(A:1.15、B:1.70)、9=pH7.5におけるMg2+活性化アシラーゼ(A:1.47、B:1.69)、10=最大理論量(A:2.80、B:2.80)。
図8B】異なるように金属活性化した11885ナノセルロース膜に固定化したアシラーゼのN-アセチルメチオニンに対する活性(温度37℃、250rpmで振盪)を示す図である。S1(図8A)及びS2(図8B)の2つの合成方法を試験した。1=pH6における非活性化アシラーゼ(A:1.05、B:0.87)、2=pH7における非活性化アシラーゼ(A:1.43、B:1.19)、3=pH7.5における非活性化アシラーゼ(A:1.16、B:1.05)、4=pH6におけるCo2+活性化アシラーゼ(A:2.31、B:2.27)、5=pH7におけるCo2+活性化アシラーゼ(A:1.91、B:1.44)、6=pH7.5におけるCo2+活性化アシラーゼ(A:1.92、B:1.90)、7=pH6におけるMg2+活性化アシラーゼ(A:1.17、B:1.41)、8=pH7におけるMg2+活性化アシラーゼ(A:1.15、B:1.70)、9=pH7.5におけるMg2+活性化アシラーゼ(A:1.47、B:1.69)、10=最大理論量(A:2.80、B:2.80)。
図9A】異なるように金属活性化した11885ナノセルロース膜に固定化したアシラーゼのN-アセチルメチオニンに対する2週間の活性(温度37℃、250rpmで振盪)で示す図である。S1(図9A)及びS2(図9B)の2つの合成方法を試験した。1=pH6における非活性化アシラーゼ(A:0.163、B:0.09)、2=pH7における非活性化アシラーゼ(A:0.342、B:0.35)、3=pH7.5における非活性化アシラーゼ(A:0.244、B:0.16)、4=pH6におけるCo2+活性化アシラーゼ(A:0.277、B:0.12)、5=pH7におけるCo2+活性化アシラーゼ(A:0.266、B:0.12)、6=pH7.5におけるCo2+活性化アシラーゼ(A:0.247、B:0.15)、7=pH6におけるMg2+活性化アシラーゼ(A:0.229、B:0.12)、8=pH7におけるMg2+活性化アシラーゼ(A:0.289、B:0.15)、9=pH7.5におけるMg2+活性化アシラーゼ(A:0.294、B:0.10)、10=最大理論量(A:2.80、B:2.80)。
図9B】異なるように金属活性化した11885ナノセルロース膜に固定化したアシラーゼのN-アセチルメチオニンに対する2週間の活性(温度37℃、250rpmで振盪)で示す図である。S1(図9A)及びS2(図9B)の2つの合成方法を試験した。1=pH6における非活性化アシラーゼ(A:0.163、B:0.09)、2=pH7における非活性化アシラーゼ(A:0.342、B:0.35)、3=pH7.5における非活性化アシラーゼ(A:0.244、B:0.16)、4=pH6におけるCo2+活性化アシラーゼ(A:0.277、B:0.12)、5=pH7におけるCo2+活性化アシラーゼ(A:0.266、B:0.12)、6=pH7.5におけるCo2+活性化アシラーゼ(A:0.247、B:0.15)、7=pH6におけるMg2+活性化アシラーゼ(A:0.229、B:0.12)、8=pH7におけるMg2+活性化アシラーゼ(A:0.289、B:0.15)、9=pH7.5におけるMg2+活性化アシラーゼ(A:0.294、B:0.10)、10=最大理論量(A:2.80、B:2.80)。
図10A】固定化に対する異なる滅菌方法の1か月間の活性及び11885ナノセルロース膜上の固定化アシラーゼのN-アセチルメチオニンに対する活性(37℃、振盪なし)を示す図である。1=オートクレーブ処理11885(A:0.036、B:0.071)、2=エタノール滅菌11885(A:0.184、B:0.201)、3=非滅菌11885(A:0.173、B:0.218)、4=最大理論量(A:2.80、B:2.80)。
図10B】固定化に対する異なる滅菌方法の1か月間の活性及び11885ナノセルロース膜上の固定化アシラーゼのN-アセチルメチオニンに対する活性(37℃、250rpmで振盪)で示す図である。1=オートクレーブ処理11885(A:0.036、B:0.071)、2=エタノール滅菌11885(A:0.184、B:0.201)、3=非滅菌11885(A:0.173、B:0.218)、4=最大理論量(A:2.80、B:2.80)。
図11】N-アセチルメチオニン(温度37℃、250rpmで振盪)について、11885ナノセルロース膜に固定化したアシラーゼ活性に対する異なる処理の影響を示す図である。BME=2-メルカプトエタノール。1=BMEなし、クエンチングpH8(0.127)、2=BMEあり、クエンチングpH8.6(0.079)、3=BMEなし、クエンチングpH8.6(0.092)、4=BMEあり、クエンチングpH8(0.111)、5=最大理論量(2.80)。
図12】11885膜のピオシアニン定量実験を示す図である。1=アシラーゼ、2=ゼラチン、3=ナノセルロースのみ、4=Pur-Zellin、5=PAO1、6=TSB。
図13】異なる条件でのナノセルロース11885膜上及びPur-Zellin医療グレードセルロース上の緑膿菌バイオフィルムの代謝活性のアラマーブルーによる測定を示す図である。1=アシラーゼC1、2=アシラーゼC2、3=アシラーゼC3、4=アシラーゼC4、5=ゼラチンC1、6=ゼラチンC2、7=ゼラチンC3、8=ゼラチンC4、9=ナノセルロースのみ、10=ナノセルロースのみ、11=Pur-Zellin、12=Pur-Zellin。
図14】ナノセルロース11885膜上及びPur-Zellin医療グレードセルロース上の緑膿菌バイオフィルムの代謝活性のアラマーブルーによる測定を示す図である。1=アシラーゼ、2=ゼラチン、3=ナノセルロースのみ、4=Pur-Zellin。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本明細書では、特に明記しない限り、パーセント値は重量(w/w)に基づく。数値範囲が示されている場合、その範囲には上限値及び下限値も含まれる。特に明記しない限り、濃度は乾燥重量として表示される。
【0020】
本出願は、ナノセルロースナノファイバーマトリックス又はスキャフォールドとして作用する、ナノフィブリルセルロースに固定化した1又は複数の生物活性分子を含む医療製品を開示する。ナノフィブリルセルロースは、高表面積、機械的強度、及び特有の形態などの特有の物理的特性を示すセルロースをベースにしたナノスケールの材料である。さらに、この材料は生体適合性であることが証明されている。
【0021】
本明細書に記載されている一例は、共有結合により固定化したクオラムクエンチング酵素で修飾された抗菌ナノファイバーマトリックスを含む医療製品又は医療機器に関する。一側面において、前記機器は、生体適合性及び表面特性などのナノセルロース特有の特性により、創傷治癒を促進することを目的としている。一方で、クオラムクエンチング活性は細菌のシグナル伝達分子を切断し、創傷におけるバイオフィルムの堆積を防止又は抑制する。これは、バイオフィルムの堆積が減少し、創傷床内の細菌の病原性が弱まるため、慢性創傷の完全な治癒を促進するための効率的で費用対効果の高いアプローチである。
【0022】
医療製品
本出願は、病態を有する患者又は個人、ヒト又は動物などの標的又は対象の皮膚又は他の組織に適用可能な医療製品を提供する。前記医療製品は、ゲル、パッチ、絆創膏、又は包帯などとして提供されてもよく、創傷若しくは損傷した領域上、又は治療を必要とする領域若しくは標的上に適用されてもよい。本出願はまた、前記医療製品を調製するための方法を提供する。
【0023】
「医療(用)」という用語は、製品又はその使用を指し、該製品、すなわち実施形態のナノフィブリルセルロース(NFC)を含む製品は、医療目的又は科学的目的、例えば治療又は研究に使用されるものであるか適したものである。医療製品は、例えば、温度、圧力、水分、化学物質、放射線、又はそれらの組み合わせを使用することにより、生物活性分子を固定化する前及び/又は後に、滅菌されてもよいか滅菌可能である。前記製品、好ましくは分子が付着したヒドロゲルは、例えばオートクレーブ処理されてもよく、又は高温を使用する他の方法を使用してもよく、この場合、前記製品は100℃を超える高温(例えば、121℃以上又は134℃以上)に耐え得るものでなくてはならない。一例では、前記製品は121℃で15分間オートクレーブ処理される。また、医療製品はパイロジェンフリーであり、望ましくないタンパク質残渣などを含まないことが望ましい。医療製品は、標的に対して無毒であることが好ましい。また、UV滅菌を使用してもよい。
【0024】
ナノフィブリルセルロース
調製プロセスにおける出発材料は通常、繊維状原料の分解から得られ、分解条件によって水中に均一に分布した比較的低濃度で存在するナノフィブリルセルロースである。出発物質は、0.2~10%(w/w)、例えば0.2~5%(w/w)の濃度の水性ゲルであってもよい。ナノフィブリルセルロースは、繊維状原料の離解(disintegration)から直接的に得てもよい。
【0025】
ナノフィブリルセルロースは、通常植物由来のセルロース原料から調製される。原料は、セルロースを含む任意の植物材料をベースとしてもよい。原料は、特定の細菌発酵プロセスに由来していてもよい。ナノフィブリルセルロースは、好ましくは植物材料で構成される。一例では、フィブリルは非軟組織植物材料から得られる。そのような場合、フィブリルは二次細胞壁から得られ得る。そのようなセルロースフィブリルの豊富な供給源の一つは木質繊維である。ナノフィブリルセルロースは、化学パルプであってもよい木材由来の繊維状原料を均質化することによって製造される。セルロース繊維は離解されて、わずか数ナノメートルの平均直径(200nm以下であってもよい)を有するフィブリルを生成し、水中でのフィブリルの分散をもたらす。二次細胞壁に由来するフィブリルは本質的に結晶性であり、結晶化度は55%以上である。そのようなフィブリルは、一次細胞壁に由来するフィブリルとは異なる特性を有する場合があり、例えば、二次細胞壁に由来するフィブリルの脱水は、より困難な場合がある。通常、テンサイ、ジャガイモ塊茎、及びバナナ花軸などの一次細胞壁由来のセルロース源では、ミクロフィブリルは木材からのフィブリルに比べて繊維マトリックスから遊離しやすく、離解に必要なエネルギーは少なくなる。しかしながら、これらの材料は依然としてやや不均一であり、大きなフィブリルの束で構成される。
【0026】
木材セルロースから得られたナノフィブリルセルロースは、本明細書に記載の医療製品に好ましいことが分かった。木材セルロースは大量に入手可能であり、木材セルロース用に開発された調製方法により、医療製品に適したナノフィブリル材料を製造できる。木材から得られたナノフィブリルセルロースは、医療製品に好ましい特性も示す。木材は、トウヒ、マツ、モミ、カラマツ、ベイマツ、又はアメリカツガなどの針葉樹(softwood tree)、カバノキ、アスペン、ポプラ、アルダー、ユーカリ、オーク、ブナ、又はアカシアなどの広葉樹(hardwood tree)、又は針葉樹及び広葉樹の混合物であってもよい。一実施形態では、ナノフィブリルセルロースは、木材パルプから得られる。一実施形態では、ナノフィブリルセルロースは、広葉樹パルプから得られる。一例では、広葉樹はカバノキである。一実施形態では、ナノフィブリルセルロースは針葉樹パルプから得られる。一実施形態では、前記木材パルプは化学パルプである。医療製品には化学パルプが望ましい場合があり得る。化学パルプは純物質であり、幅広い用途に使用できる。例えば、化学パルプは、機械パルプに存在するピッチ及び樹脂酸を欠いており、より無菌であるか、簡単に滅菌可能である。さらに、化学パルプはより柔軟であり、例えば医療用パッチ又は創傷被覆材及び生体組織に適用される他の材料において有利な特性をもたらす。
【0027】
本明細書で使用される場合、「ナノフィブリルセルロース」という用語は、セルロース系繊維原料から分離されたセルロースフィブリル又はセルロースフィブリル束を指す。これらのフィブリルは、高アスペクト比(長さ/直径)を特徴とする。ナノフィブリルセルロースの平均長(フィブリル又はフィブリル束などの粒子の中央値の長さ)は1μmを超える場合があり、ほとんどの場合50μm以下である。基本フィブリルが互いに完全に分離されていない場合、絡み合ったフィブリルは、例えば、1~100μm、1~50μm、又は1~20μmの範囲内の平均全長を有する場合がある。しかしながら、ナノフィブリル材料が高度にフィブリル化されている場合、基本フィブリルは完全に又はほぼ完全に分離され、平均フィブリル長は1~10μm又は1~5μmの範囲など短くなる。これは特に、例えば化学的、酵素的、又は機械的に短縮又は消化されていない天然グレードのフィブリルに当てはまる。しかしながら、強力に誘導体化されたナノフィブリルセルロースは、0.3~50μmの範囲、例えば、0.3~20μm、例えば、0.5~10μm又は1~10μmなど、より短い平均フィブリル長を有し得る。酵素的又は化学的に消化されたフィブリルなどの特に短いフィブリル、又は機械的に処理された材料は、0.1~1μm、0.2~0.8μm、又は0.4~0.6μmなど、平均フィブリル長が1μm未満になる場合がある。フィブリルの長さ及び/又は直径は、例えば、CRYO-TEM、SEM、又はAFM画像を使用して、顕微鏡的に推定されてもよい。
【0028】
ナノフィブリルセルロースの平均直径(幅)は、高度にフィブリル化した材料の場合、1μm未満、又は500nm以下、例えば、1~500nmの範囲内、典型的には200nm以下、例えば、1~200nm、2~200nm、2~100nm、又は2~50nm、さらには2~20nmの範囲内である。最も小さいフィブリルは基本フィブリルのスケールであり、平均直径は通常2~12nmの範囲内である。フィブリルの寸法及びサイズ分布は、精製の方法及び効率によって決定される。天然のナノフィブリルセルロースの場合、フィブリルの平均直径は5~100nmの範囲内、例えば10~50nmの範囲内である。ナノフィブリルセルロースは、大きな比表面積、及び水素結合を形成する強力な能力に特徴付けられる。水分散では、ナノフィブリルセルロースは、通常、薄い又は混濁したゲル状物質のように見える。繊維原料によっては、植物、特に木材から得られるナノフィブリルセルロースは、少量の他の植物成分、特に、ヘミセルロース又はリグニンなど、木材成分を含んでいる場合がある。その量は植物源によって決定される。ナノフィブリルセルロースについて使用されることが多い類似名としては、ナノフィブリル化セルロース(nanofibrillated cellulose、NFC)やナノセルロースが挙げられる。
【0029】
通常、セルロースナノ材料は、セルロースナノ材料の標準的な用語を提示するTAPPI W13021に従ってカテゴリーに分類され得る。主なカテゴリーは「ナノ物体」及び「ナノ構造化材料」の2つである。ナノ構造化材料としては、直径が10~12μmであり、長さ:直径比(L/D)<2である「セルロースマイクロクリスタル」(CMCと称されることもある)、及び直径が10~100nmであり、長さが0.5~50μmである「セルロースマイクロフィブリル」が挙げられる。ナノオブジェクトとしては「セルロースナノファイバー」があげられ、これは、直径が3~10nmであり、L/D>5である「セルロースナノクリスタル」(CNC)、及び直径が5~30nmであり、L/D>50である「セルロースナノフィブリル」(CNF又はNFC)に分類され得る。
【0030】
異なるグレードのナノフィブリルセルロースは、3つの主要な特性、すなわち、(i)サイズ分布、長さ、及び直径、(ii)化学組成、並びに(iii)レオロジー特性に基づいて分類され得る。グレードを充分に説明するために、前記特性を同時に使用してもよい。異なるグレードの例としては、天然(又は未変性)NFC、酸化NFC(高粘度)、酸化NFC(低粘度)、カルボキシメチル化NFC、及びカチオン化NFCが挙げられる。これらの主なグレードには、サブグレードも存在する。例えば、極度にフィブリル化されている場合と中程度にフィブリル化されている場合、置換度が高い場合と置換度が低い場合、粘度が低い場合と粘度が高い場合などがある。フィブリル化技術及び化学的前変性は、フィブリルのサイズ分布に影響を与える。通常、非イオングレードは平均フィブリル径が広く(例えば、10~100nm又は10~50nmの範囲内)、化学変性グレードは非常に薄い(例えば、2~20nmの範囲内)。変性グレードの場合、分布も狭くなる。特定の変性、特にTEMPO酸化により、フィブリルが短くなる。
【0031】
原料源によって、例えば、広葉樹パルプと針葉樹パルプとでは、最終的なナノフィブリルセルロース製品に含まれる多糖類の組成が異なる。一般的に、非イオングレードは漂白カバノキパルプから調製され、これによりキシレン含有量(25重量%)が高くなる。変性グレードは、広葉樹パルプ又は針葉樹パルプから調製される。これらの変性グレードでは、セルロースドメインとともにヘミセルロースも変性される。ほとんどの場合、変性は均一ではない、すなわち、一部の部分は他の部分に比べてより変性されている。したがって、変性された生成物は異なる多糖構造の複雑な混合物であるため、詳細な化学分析は通常不可能である。
【0032】
水性環境では、セルロースナノファイバーの分散物が粘弾性ヒドロゲルネットワークを形成する。ゲルは、比較的低い濃度、例えば0.05~0.2%(w/w)で、分散して水和した絡み合ったフィブリルによって予め形成されている。NFCヒドロゲルの粘弾性は、例えば動的振動レオロジー測定で特徴解析され得る。
【0033】
ナノフィブリルセルロースヒドロゲルは、特徴的なレオロジー特性を示す。例えば、それらは剪断減粘性又は擬塑性の材料であり、これは、それらの粘度が、材料が変形する速度(又は力)によって決定されることを意味する。回転レオメーターで粘度を測定する場合、剪断減粘挙動は、剪断速度の増加に伴う粘度の低下として見られる。ヒドロゲルは塑性挙動を示し、これは、材料が容易に流動し始める前に、特定の剪断応力(力)が必要となることを意味する。この臨界剪断応力は、しばしば降伏応力と称される。降伏応力は、応力制御レオメーターで測定された定常状態の流動曲線から決定され得る。適用された剪断応力の関数として粘度をプロットすると、臨界剪断応力を超えた後に粘度の劇的な低下が見られる。ゼロ剪断粘度及び降伏応力は、材料の懸濁力を説明する最も重要なレオロジーパラメーターである。これらの2つのパラメーターにより、異なるグレード群が非常に明確に分離されて、グレード群の分類が可能になる。
【0034】
フィブリル又はフィブリル束の寸法は、例えば、原料、離解方法、及び離解の実施回数によって決定される。セルロース原料の機械的離解は、精製機、グラインダー、分散機、ホモジナイザー、コロイダー、摩擦グラインダー、ピンミル、ローター・ローター型ディスパゲーター(rotor-rotor dispergator)、超音波ソニケーター、又はマイクロフルイダイザー、マクロフルイダイザー、若しくはフルイダイザー型ホモジナイザーなどのフルイダイザーなどの任意の適切な装置で実施可能である。離解処理は、繊維間の結合の形成を防ぐために水が十分に存在する条件で行われる。
【0035】
一例では、離解は、少なくとも2つのローターを有するローター・ローター型ディスパゲーターなど、少なくとも1つのローター、ブレード、又は同様の可動機械部材を有する分散機を使用することによって行われる。分散機では、複数のブレードが、回転速度と半径(回転軸までの距離)で決定される周速度とで反対方向に回転すると、ブレード又はローターのリブが反対方向から衝突することで分散している繊維材料が繰り返し衝撃を受ける。繊維材料は半径方向の外側に移動されるため、ブレードの広い表面、すなわちリブに衝突し、反対方向から高い周速度で次々と衝突する。言い換えれば、反対方向から複数の連続した衝撃を受ける。また、ブレードの広い表面、すなわちリブのエッジ(端)は、次のローターブレードの反対側のエッジとブレードギャップを形成し、剪断力が発生し、繊維の離解及びフィブリルの分離に寄与する。衝撃周波数は、ローターの回転速度、ローターの数、各ローターのブレードの数、及び装置を通過する分散の流量によって決定される。
【0036】
ローター・ローター型ディスパゲーターでは、繊維材料は逆回転ローターを介して、様々な逆回転ローターの効果によって剪断力と衝撃力を繰り返し受けるように、ローターの回転軸に対して半径方向外向きに導入され、それによって同時にフィブリル化される。ローター・ローター型ディスパゲーターの一例は、Atrex装置である。
【0037】
離解に適した装置の別の例は、マルチペリフェラル(multi-peripheral)ピンミルなどのピンミルである。米国特許公報第6202946号に記載されるように、そのようなデバイスの一例としては、衝突面を備えた第1のローターを内部に備えたハウジング;第1のローターと同心であり、衝突面を備え、第1のローターと反対方向に回転するように配置されている第2のローター;又は第1のローターと同心で衝突面を備えた固定子が挙げられる。この装置は、ハウジング内に形成され、複数のローターの中心又はローターと固定子の中心に向かって開口している供給オリフィスと、ハウジングの壁に形成され、最も外側のローター又は固定子の周囲に開口している排出オリフィスとを備える。
【0038】
一実施形態では、離解は、ホモジナイザーを使用することによって実施される。ホモジナイザーでは、繊維材料は圧力の影響により均質化される。ナノフィブリルセルロースへの繊維材料分散液の均質化は、分散液を強制的に通過させる流れによって引き起こされ、これにより材料がフィブリルへと離解する。繊維材料分散液は、狭い貫通フローギャップを所定の圧力で通過し、そこで分散液の線速度の増加により分散液に剪断力と衝撃力が発生し、結果として繊維材料からフィブリルが除去される。繊維断片は、フィブリル化工程でフィブリルへと離解される。
【0039】
本明細書で使用する場合、「フィブリル化」という用語は、通常、粒子に適用される加工(work)によって機械的に繊維材料を離解してセルロースフィブリルが繊維又は繊維断片から分離されることを指す。この加工は、粉砕、破砕、剪断、若しくはこれらの組み合わせ、又は粒子サイズを小さくする別の対応する作用など、様々な効果に基づき得る。精製加工に要するエネルギーは、通常、kWh/kg、MWh/トン、又はこれらに比例する単位で、処理された原料の量あたりのエネルギーで表される。「離解」又は「離解処理」という表現は、「フィブリル化」と互換的に使用され得る。
【0040】
フィブリル化を受ける繊維材料分散液は、本明細書では「パルプ」とも称される、繊維材料及び水の混合物である。繊維材料分散液は、一般に、繊維全体、繊維から分離された部分(断片)、フィブリル束、又は水と混合されたフィブリルを指し、通常は、水性繊維材料分散液は、そのような要素の混合物である。ここで、成分間の比率は、処理の程度又は処理段階、例えば、繊維材料の同じバッチの処理を経る実施回数又は「通過」回数によって決定される。
【0041】
ナノフィブリルセルロースを特徴付ける一つの方法は、このナノフィブリルセルロースを含む水溶液の粘度を用いることである。粘度は、例えば、ブルックフィールド粘度又はゼロ剪断粘度であり得る。本明細書に記載されるように、比粘度により、ナノフィブリルセルロースは非ナノフィブリルセルロースと区別される。
【0042】
一例では、ナノフィブリルセルロースの見かけの粘度は、ブルックフィールド粘度計(ブルックフィールド粘度)又は別の対応する装置で測定される。適切には、羽根型スピンドル(vane spindle)(73番)が使用される。見かけの粘度を測定するために利用可能な市販のブルックフィールド粘度計がいくつかあり、それらはすべて同じ原理に基づいている。適切には、RVDVスプリング(ブルックフィールド RVDV-III)が装置において使用される。ナノフィブリルセルロースのサンプルを水中で0.8重量%の濃度に希釈し、10分間混合する。希釈したサンプル塊を250mlビーカーに添加し、温度を20℃±1℃に調整し、必要に応じて加熱して混合する。低回転速度10rpmを用いる。
【0043】
この方法において出発物質として提供されるナノフィブリルセルロースは、水溶液中での粘度によって特徴付けられ得る。粘度は、例えば、ナノフィブリルセルロースのフィブリル化度を表す。一実施形態では、ナノフィブリルセルロースは、水に分散された場合に、0.8%(w/w)の濃度及び10rpmで測定したブルックフィールド粘度が、2000mPa・s以上、例えば、3000mPa・s以上である。一実施形態では、ナノフィブリルセルロースは、水に分散された場合に、0.8%(w/w)の濃度及び10rpmで測定したブルックフィールド粘度が、10000mPa・s以上である。一実施形態では、ナノフィブリルセルロースは、水に分散された場合に、0.8%(w/w)の濃度及び10rpmで測定したブルックフィールド粘度が、15000mPa・s以上である。水に分散された場合に、0.8%(w/w)の濃度及び10rpmで測定したナノフィブリルセルロースのブルックフィールド粘度の範囲の例としては、2000~20000mPa・s、3000~20000mPa・s、10000~20000mPa・s、15000~20000mPa・s、2000~25000mPa・s、3000~25000mPa・s、10000~25000mPa・s、15000~25000mPa・s、2000~30000mPa・s、3000~30000mPa・s、10000~30000mPa・s、及び15000~30000mPa・sが挙げられる。
【0044】
一実施形態では、ナノフィブリルセルロースは、非変性ナノフィブリルセルロースを含む。一実施形態では、ナノフィブリルセルロースは、非変性ナノフィブリルセルロースである。非変性ナノフィブリルセルロースの排水は、例えばアニオン性グレードよりも大幅に速い。非変性ナノフィブリルセルロースは、通常、0.8%(w/w)の濃度及び10rpmで測定したブルックフィールド粘度が、2000~10000mPa・sの範囲内である。
【0045】
離解された繊維状セルロース原料は、変性繊維状原料であってもよい。変性繊維状原料とは、セルロースナノフィブリルが繊維からより容易に分離できるように、繊維が処理によって影響を受けている原料を意味する。変性は、通常、液体中の懸濁液として存在する繊維状セルロース原料、すなわちパルプに対して行われる。
【0046】
繊維の変性処理は、化学的、酵素的、又は物理的であってもよい。化学変性では、セルロース分子の化学構造が化学反応(セルロースの「誘導体化」)によって変更され、好ましくは、これにより、セルロース分子の長さは影響を受けないが、ポリマーのβ-D-グルコピラノース単位に官能基が追加される。セルロースの化学変性は、反応物の投与量及び反応条件によって決定される特定の変換度で生じるが、一般に完全なものではないため、セルロースはフィブリルとして固体形態のままであり、水に溶解しない。物理的変性では、アニオン性物質、カチオン性物質、若しくは非イオン性物質、又はこれらの任意の組み合わせがセルロース表面に物理的に吸着される。
【0047】
繊維中のセルロースは、変性後に特にイオン的に帯電され得る。セルロースのイオン電荷により繊維の内部結合が弱められ、後にナノフィブリルセルロースへの離解が促進される。イオン電荷は、セルロースの化学的変性又は物理的変性によって達成されてもよい。繊維は、出発原料と比較して、変性後により高いアニオン性又はカチオン性電荷を有する場合がある。アニオン性電荷を生成するために最も一般的に使用される化学変性方法は、ヒドロキシル基はアルデヒド及びカルボキシル基に酸化される酸化、スルホン化、及びカルボキシメチル化である。ナノフィブリルセルロースと生物活性分子との間の共有結合の形成に関与し得る、カルボキシル基などの基を導入する化学変性が望ましい場合がある。続いて、カチオン性電荷は、第四級アンモニウム基などのカチオン基をセルロースに結合することによるカチオン化によって化学的に生成され得る。
【0048】
一実施形態では、ナノフィブリルセルロースは、アニオン変性ナノフィブリルセルロース又はカチオン変性ナノフィブリルセルロースなどの化学変性ナノフィブリルセルロースを含む。一実施形態では、ナノフィブリルセルロースは、アニオン変性ナノフィブリルセルロースである。一実施形態では、ナノフィブリルセルロースは、カチオン変性ナノフィブリルセルロースである。一実施形態では、アニオン変性ナノフィブリルセルロースは、酸化ナノフィブリルセルロースである。一実施形態では、アニオン変性ナノフィブリルセルロースは、スルホン化ナノフィブリルセルロースである。一実施形態では、アニオン変性ナノフィブリルセルロースは、カルボキシメチル化されたナノフィブリルセルロースである。アニオン性グレードは、本明細書に記載の医療製品に最も適した特性をもたらすことが分かった。天然グレードも有用である。
【0049】
セルロースは酸化されていてもよい。セルロースの酸化において、セルロースの第一ヒドロキシル基は、複素環ニトロキシル化合物によって、例えば、例えば、一般に「TEMPO」と称される、2,2,6,6-テトラメチルピペリジニル-1-オキシフリーラジカルによって、N-オキシル媒介触媒酸化などを介して触媒的に酸化されてもよい。セルロースのβ-D-グルコピラノース単位の第一級ヒドロキシル基(C6-ヒドロキシル基)は、カルボキシル基に選択的に酸化される。一部のアルデヒド基も、第一級ヒドロキシル基から形成される。低い酸化度では充分に効率的なフィブリル化が行えず、高い酸化度では機械的破壊処理後にセルロースの分解を引き起こすという知見について、セルロースは、酸化セルロース中のカルボン酸含有量が、電導度滴定により決定される1グラムのパルプ当たり0.6~1.4mmolのCOOH、又は1グラムのパルプ当たり0.8~1.2mmolのCOOH、好ましくは1グラムのパルプ当たり1.0~1.2mmolのCOOHの範囲内であるレベルに酸化され得る。そのようにして得られた酸化セルロースの繊維が水中で離解すると、それらは、例えば幅が3~5nmであってもよい、個々のセルロースフィブリルの安定した透明な分散液を与える。開始媒体として酸化パルプを使用すると、0.8%(w/w)の濃度で測定したブルックフィールド粘度が10000mPa・s以上、例えば10000~30000mPa・sの範囲内であるナノフィブリルセルロースを得ることができる。
【0050】
本開示で触媒「TEMPO」が言及されている場合は常に、「TEMPO」が関与する全ての測定及び操作は、TEMPOの任意の誘導体、又はセルロース中のC6炭素のヒドロキシル基の酸化を選択的に触媒することが可能な任意の複素環ニトロキシルラジカルに等しく及び類似して適用されることは明らかである。
【0051】
一実施形態では、そのような化学変性ナノフィブリルセルロースは、水に分散された場合に、0.8%(w/w)の濃度及び10rpmで測定したブルックフィールド粘度が、10000mPa・s以上である。一実施形態では、そのような化学変性ナノフィブリルセルロースは、水に分散された場合に、0.8%(w/w)の濃度及び10rpmで測定したブルックフィールド粘度が、15000mPa・s以上である。一実施形態では、そのような化学変性ナノフィブリルセルロースは、水に分散された場合に、0.8%(w/w)の濃度及び10rpmで測定したブルックフィールド粘度が、18000mPa・s以上である。使用されるアニオン性ナノフィブリルセルロースの例は、フィブリル化の程度に応じて、13000~15000mPa・s若しくは18000~20000mPa・sの範囲内、又はさらには25000mPa・s以下のブルックフィールド粘度を有する。
【0052】
一実施形態では、ナノフィブリルセルロースは、TEMPO酸化ナノフィブリルセルロースである。この場合、例えば、0.8%(w/w)の濃度及び10rpmで測定したブルックフィールド粘度は、20000mPa・s以上、さらには25000mPa・sなど、低濃度で高い粘度を示す。一例では、TEMPO酸化ナノフィブリルセルロースは、0.8%(w/w)の濃度及び10rpmで測定したブルックフィールド粘度が、20000~30000mPa・sの範囲内、例えば25000~30000mPa・sなどである。
【0053】
一実施形態では、ナノフィブリルセルロースは、非化学変性ナノフィブリルセルロースを含む。一実施形態では、そのような非化学変性ナノフィブリルセルロースは、水に分散された場合に、0.8%(w/w)の濃度及び10rpmで測定したブルックフィールド粘度が、2000mPa・s以上又は3000mPa・s以上である。
【0054】
ナノフィブリルセルロースは、平均直径(又は幅)によって、又はブルックフィールド粘度若しくはゼロ剪断粘度などの粘度と共に平均直径によっても特徴付けられ得る。一例では、本明細書に記載の医療製品での使用に適したナノフィブリルセルロースは、フィブリル平均直径が1~200nm又は1~100nmの範囲内である。一例では、前記ナノフィブリルセルロースは、フィブリル平均直径が1~50mの範囲内、例えば5~30mである。一例では、前記ナノフィブリルセルロースは、TEMPO酸化ナノフィブリルセルロースの場合のように、フィブリル平均直径が2~15mの範囲内である。
【0055】
フィブリルの直径は、顕微鏡法などのいくつかの手法で決定してもよい。フィブリルの厚さ及び幅の分布は、電界放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM)、クライオ透過型電子顕微鏡(cryo-TEM)などの透過型電子顕微鏡(TEM)、又は原子間力顕微鏡(AFM)による画像の画像分析によって測定され得る。通常、AFM及びTEMは、フィブリル径分布が狭いナノフィブリルセルロースグレードに最適である。
【0056】
一例では、ナノフィブリルセルロース分散液のレオメーター粘度は、直径30mmの円筒状サンプルカップ内の狭いギャップの羽根形状(直径28mm、長さ42mm)を備えた応力制御回転レオメーター(AR-G2、TA Instruments社、英国)を用いて22℃で測定される。レオメーターにサンプルをロードした後、測定を開始する前に5分間静止させる。定常状態の粘度は、剪断応力(適用されるトルクに比例)を徐々に増加させて測定され、剪断速度(角速度に比例)が測定される。一定の剪断応力で報告された粘度(=剪断応力/剪断速度)は、一定の剪断速度に達した後、又は最大2分後に記録される。1000s-1の剪断速度を超えると測定が停止する。この方法は、ゼロ剪断粘度を決定するために用いられ得る。
【0057】
一例では、水中に分散された場合、ナノフィブリルセルロースは、水性媒体中で0.5%(w/w)の濃度で回転レオメーターによる測定したゼロ剪断粘度(小さな剪断応力で一定の粘度の「プラトー」)が1000~100000Pa・sの範囲内(5000~50000Pa・sなど)であり、降伏応力(剪断減粘が始まる剪断応力)が1~50Paの範囲内(3~15Paなど)である。
【0058】
濁度とは、通常肉眼では見えない個々の粒子(完全に懸濁又は溶解した固体)によって引き起こされる液体の曇り又はかすんだ状態である。濁度を測定する実際的な方法はいくつかあるが、最も直接的ものは、光が水のサンプルカラムを通過するときの光の減衰(すなわち、強度の低下)の測定である。代替的に使用されるジャクソンキャンドル(Jackson Candle)法(単位:ジャクソン濁度単位(Jackson Turbidity Unit)又はJTU)は、本質的に、ろうそくの炎を完全に見えなくするのに必要な水の柱の長さの逆測度である。
【0059】
濁度は、光学式濁度測定装置を使用して定量的に測定してもよい。濁度を定量的に測定可能な市販の濁度計がいくつかある。この場合、比濁法に基づく方法が使用される。較正された比濁計からの濁度の単位は、比濁濁度単位(Nephelometric Turbidity Unit、NTU)と称される。測定装置(濁度計)は、標準の校正サンプルで校正及び制御され、その後、希釈されたNFCサンプルの濁度が測定される。
【0060】
ある濁度測定法では、ナノフィブリルセルロースサンプルを水で希釈して、このナノフィブリルセルロースのゲル化点未満の濃度にし、希釈されたサンプルの濁度を測定する。ナノフィブリルセルロースサンプルの濁度が測定される濃度は、0.1%である。濁度測定には、50mlの測定容器を備えたHACH P2100濁度計を使用する。ナノフィブリルセルロースサンプルの乾燥物質を測定し、乾燥物質として計算されたサンプル0.5gを測定容器にロードする。この測定容器に水道水を500gまで満たし、約30秒間激しく振盪して混合する。水性混合物は遅滞なく5つの測定容器に分けられ、濁度計に挿入される。各容器で3回測定を実施する。得られた結果から平均値及び標準偏差を計算し、最終結果をNTU単位として得る。
【0061】
ナノフィブリルセルロースを特徴付ける1つの方法は、粘度及び濁度の両方を定義することである。小さなフィブリルは光をほとんど散乱させないため、低濁度は、小さな直径など、フィブリルのサイズが小さいことを意味する。通常、フィブリル化度が増加すると、粘度が増加し、同時に濁度が減少する。但し、これは特定の時点まで起こる。さらにフィブリル化が続くと、最終的にフィブリルが崩壊し始め、強固なネットワークを形成できなくなる。したがって、この時点以降、濁度及び粘度の両方が低下し始める。
【0062】
一例では、水性媒体中で0.1%(w/w)の濃度で比濁法により測定したアニオン性ナノフィブリルセルロースの濁度は、90NTU未満、例えば、3~90NTU(5~60NTUなど)、例えば、8~40NTUである。一例では、水性媒体中で0.1%(w/w)の濃度で比濁法により測定した天然ナノフィブリルの濁度は、200NTU以上、例えば、10~220NTU(20~200NTUなど)、例えば、50~200NTUである。ナノフィブリルセルロースを特徴付けるには、これらの範囲を、水中に分散された場合に、0.8%(w/w)の濃度及び10rpmで測定したブルックフィールド粘度が、2000mPa・s以上、3000mPa・s以上、5000mPa・s以上、例えば10000mPa・s以上、例えば15000mPa・s以上であるナノフィブリルセルロースなどのナノフィブリルセルロースの粘度範囲と組み合わせてもよい。
【0063】
前述のナノフィブリルセルロースのいずれも、本明細書で検討される医療製品を調製するために使用され得る。ナノフィブリルセルロースは、所望の水分又は乾燥含量に脱水することができる。
【0064】
医療製品を調製するための出発材料として使用される、通常は水性分散液であるナノフィブリルセルロース分散液の初期濃度は、0.1~10%の範囲内であってもよい。しかしながら、通常、5%以下(0.3~5.0%の範囲内など)、例えば、0.8~1.2%の範囲内である。これは通常、繊維状原料を離解することによって製造される製造プロセスの出口でのナノフィブリルセルロースの初期濃度である。しかし、ナノフィブリルセルロース分散液を液体で初期濃度(製造プロセスからの生成物の濃度)から適切な初期濃度に希釈して、ガーゼに確実にコーティング又は分散させることが可能である。ナノフィブリルセルロースグレードの特徴的な粘度に応じて、初期濃度はより低くても、又はより高くてもよく、0.1~10%の範囲内であってもよい。低粘度グレードには、より高い濃度を用いてもよく、高濃度であっても、濾布に均一に広がり得る。ナノフィブリルセルロースは、水に懸濁された繊維状出発材料が離解される製造プロセスからの水性ナノフィブリルセルロースとして生じる。ナノフィブリルセルロース分散液からの液体の排出は、水又は水溶液の場合、「脱水」と称する場合がある。
【0065】
ナノフィブリルセルロース分散液には、製造プロセスを強化するため、又は製品の特性を改善若しくは調整するための補助剤を含めることができる。そのような補助剤は、分散液の液相に可溶であってもよく、エマルジョンを形成してもよく、又は固体であってもよく。補助剤は、ナノフィブリルセルロース分散液の製造中にすでに原料に添加されていてもよく、又は形成されたナノフィブリルセルロース分散液に添加されていてもよい。補助剤はまた、例えば、含浸、噴霧、又は浸漬などの方法によって、最終生成物に添加されてもよい。補助剤は通常、ナノフィブリルセルロースに共有結合されていないため、ナノセルロースマトリックスから放出可能であり得る。そのような薬剤の制御及び/又は持続放出は、NFCをマトリックスとして使用する場合に得られ得る。補助剤の例には、治療剤(医薬品)及び化粧品、並びに製品の特性又は活性薬剤の特性に影響を与える他の薬剤、例えば界面活性剤、可塑剤、又は乳化剤などが含まれる。一実施形態では、分散液は、最終生成物の特性を向上させるために、又は製造プロセスにおける製品からの水の除去を容易にするために添加可能な1又は複数の塩を含有する。塩の一例は塩化ナトリウムである。塩は、分散液中の乾燥物質の0.01~1.0%(w/w)の範囲内の量で含まれていてもよい。最終生成物はまた、塩化ナトリウムの溶液、例えば、約0.9%の塩化ナトリウムの水溶液にディップ又は浸漬されてもよい。最終生成物中の望ましい塩化ナトリウム含有量は、湿潤状態の生成物の体積の約0.5~1%の範囲内(例えば約0.9%)であってもよい。
【0066】
補助剤の一例としては、補因子、又はそのような補因子の前駆体が挙げられ、これらは、酵素補因子などの生物活性分子の活性に影響を与える。補因子は、有機分子などの非タンパク質化学化合物、金属イオンなどの無機イオン、又はその塩であってもよい。有機補因子は補酵素と補欠分子族とに分けられる。ある定義によれば、補因子は、タンパク質及び基質以外の、酵素活性に必要な追加の物質であり、補欠分子族は、単一の酵素分子に不随するその全触媒サイクルを経る物質である。有機補因子又はその前駆体の例としては、ビタミンB、ビタミンB、ビタミンB、ビタミンB12、ナイアシン、葉酸、ビタミンK、及びビタミンCなどのビタミン類、並びにアデノシン三リン酸、S-アデノシルメチオニン、コエンザイムB、コエンザイムM、コエンザイムQ、シチジン三リン酸、グルタチオン、ヘム、リポアミド、メタノフラン、モリブドプテリン、ヌクレオチド糖、2’-ホスホアデノシン-5’-ホスホ硫酸、ピロロキノリンキノン、テトラヒドロビオプテリン、及びテトラヒドロメタノプテリンなどの非ビタミン類が挙げられる。無機イオンは、例えば、金属補因子、例えば、Fe、Co、Ni、Mg、Cu、Mn、又は鉄-硫黄クラスターなどの、一価又は二価の金属イオンであってもよい。金属イオン又はその塩、例えば塩化コバルト又は塩化マグネシウムは、生物活性分子としての金属酵素に必要とされる場合がある。特にマトリックスが標的組織上に配置された場合、補因子はNFCマトリックスから放出され得る。したがって、1又は複数の固定化生物活性分子及び1又は複数の放出可能な補助剤を含む医療製品を得ることが可能である。これは、生物活性及び/又はNFCと組織との間の最適な状態を維持するのに役立つ。
【0067】
ヒドロゲル
前記医療製品では、ナノフィブリルセルロースが完全に脱水されていない場合、80~99.9%(w/w)の範囲内、又は50~99.8%(w/w)の範囲内の含水率となり得る。一実施形態では、ナノフィブリルセルロースがゲルとして存在し、好ましくは90~99.8%(w/w)の範囲内の含水率を有する。
【0068】
一実施形態では、ナノフィブリルセルロースをゲル形態で、より具体的には医療用ヒドロゲルとして提供する。ゲルは成形可能であってもよく、治療を必要とする領域に適用されてもよく、そこにゲルを付着させる。
【0069】
ヒドロゲルは、2500~9000Pa・sの範囲内の粘度及び30~100g/gの範囲内の水分保持値を有し得る。一例において、ヒドロゲルは、3000~8000Pa・sの範囲内の粘度を有する。一例では、ヒドロゲルの粘度は4000~7000Pa・sの範囲である。これらの粘度は、提供されるヒドロゲルの濃度、すなわち「それ自体の濃度」で測定され、4~8%(w/w)の範囲内、例えば4.1~8%(w/w)、4.5~8%(w/w)、5~8%(w/w)、5~7%(w/w)、又は6~7%(w/w)であってもよい。このような固形分は、ナノフィブリル材料では比較的高く、通常非常に低い濃度でゲルを形成する。しかしながら、高固形分は、医療用途について有利な特性を示すことが見出された。ゲル自体の濃度での粘度は、任意の適切な粘度計で測定可能であり、ブルックフィールド粘度とは異なる。試験では、粘度は、温度制御のためのペルチェ(Peltier)システムを備えたHAAKE Viscotester iQレオメーター(Thermo Fisher Scientific社、カールスルーエ、ドイツ)で測定された。
【0070】
一例では、ヒドロゲルは、30~60g/gの範囲内の水分保持値を有する。一例では、ヒドロゲルは、40~50g/gの範囲内の水分保持値を有する。「g/g」は、1グラムのヒドロゲルに対する水のグラム数を指す。したがって、ナノフィブリルヒドロゲルは、乾燥ヒドロゲル1グラムあたり100グラム以下の水を含んでいてもよく、これは、通常、従来のゲル形成材料では不可能である。試験したゲルは、40~50g/gの範囲内の水分保持値を示し、意図した目的に有利な特性を提供することが分かった。特に、ゲルの高い含水量は、ゲルを破壊することなく、扱い、成形し、例えば創傷から剥離することが可能な程度の強さをゲルに付与した。保水力は、ナノフィブリルセルロースに有用なコーティング色静的保水方法である、ÅAGWR保水方法(ÅboAkademi Gravitometric Water Retention)で測定した。通常、従来の保水性測定方法は、そのような高い含水量を有するナノフィブリルセルロースには使用できない。
【0071】
一例では、ヒドロゲルは、3000~8000Pa・sの範囲内の粘度及び30~100g/gの範囲内の水分保持値を有する。一例では、ヒドロゲルは、4000~7000Pa・sの範囲内の粘度及び30~100g/gの範囲内の水分保持値を有する。一例では、ヒドロゲルは、2500~9000Pa・sの範囲内の粘度及び30~60g/gの範囲内の水分保持値を有する。一例では、ヒドロゲルは、3000~8000Pa・sの範囲内の粘度及び30~60g/gの範囲内の水分保持値を有する。一例では、ヒドロゲルは、4000~7000Pa・sの範囲内の粘度及び30~60g/gの範囲内の水分保持値を有する。一例では、ヒドロゲルは、2500~9000Pa・sの範囲内の粘度及び40~50g/gの範囲内の水分保持値を有する。一例では、ヒドロゲルは、3000~8000Pa・sの範囲内の粘度及び40~50g/gの範囲内の水分保持値を有する。一例では、ヒドロゲルは、4000~7000Pa・sの範囲内の粘度及び40~50g/gの範囲内の水分保持値を有する。
【0072】
一例では、ヒドロゲルは、15~60J/mの範囲内の圧縮仕事量を有する。このような圧縮仕事量により、取り扱い時に欠けたり破損したりしにくい丈夫なヒドロゲルがもたらされることが分かった。ヒドロゲルは、実質的に無傷であるように創傷又は皮膚から剥離可能であった。一実施形態では、ヒドロゲルは、20~55J/mの範囲内の圧縮仕事量を有する。一実施形態では、ヒドロゲルは、25~55J/mの範囲内の圧縮仕事量を有する。一実施形態では、ヒドロゲルは、25~40J/mの範囲内の圧縮仕事量を有する。圧縮仕事量は、テクスチャアナライザーで行われた測定から計算し得る。
【0073】
一例は、そのような医療用ヒドロゲルを調製する方法が提供され、この方法は、
パルプを提供すること、
ナノフィブリルセルロースが得られるまで前記パルプを離解すること、及び
前記ナノフィブリルセルロースをヒドロゲルに形成すること、を含み、
前記ヒドロゲルは、2500~9000Pa・sの範囲内(3000~8000Pa・sなど)、例えば4000~7000Pa・sの粘度、及び30~100g/gの範囲内(30~60g/gなど)、好ましくは40~50g/gの水分保持値を有する。この方法は、最終的なナノフィブリルセルロースヒドロゲルの形成後に、該ナノフィブリルセルロースヒドロゲルに生物活性分子を共有結合などで固定化することを含み得る。
【0074】
ナノフィブリルセルロースは、所望のフィブリル化度にフィブリル化することができ、本明細書に記載の所望の特性を有するゲルを形成する。一例では、医療用ヒドロゲル中のナノフィブリルセルロースは、アニオン変性ナノフィブリルセルロースである。
【0075】
医療用ハイドロゲルとして使用されるハイドロゲルは均質である必要がある。したがって、医療用ヒドロゲルを調製する方法は、ナノフィブリルセルロースを含むヒドロゲルを、好ましくは本明細書に記載されているものなどの均質化装置で均質化することを含んでいてもよい。この好ましくは非フィブリル化均質化工程により、不連続領域をゲルから除去することが可能である。医療用途のためにより良い特性を有する均質なゲルが得られる。ヒドロゲルは、例えば、熱及び/又は放射線を使用することによって、及び/又は抗菌剤などの滅菌剤を添加することによって、さらに滅菌されていてもよい。
【0076】
ナノフィブリルセルロースを含むヒドロゲルの特定の有利な特性には、柔軟性、弾性、及び再成形性が含まれる。ヒドロゲルには多くの水が含まれているため、分子の拡散及び放出特性にも優れる。これらの特性は、例えば、ヒドロゲルが創傷を治癒するための被覆材として使用される場合、又は治療剤若しくは化粧剤を送達するためなどの他の医療用途において有用である。
【0077】
固さは、ヒドロゲルに破壊又は欠損に抵抗する能力を与える特性を指す。固さは、例えば、靭性(toughness)とも呼ばれ得るゲルの圧縮仕事量によって評価され得る。
【0078】
靭性は、ヒドロゲルの他の特性、例えば除去可能性にも影響を与える特徴である。圧縮仕事量は、ゲルの靭性と相関している。高圧縮仕事量では、ヒドロゲルは、取り扱い時、例えば傷や皮膚から可能な限り完全な状態で剥離する際、欠けたり壊れたりする傾向を示さない。除去可能性や剥離可能性に影響を与えるもう一つの特徴は、高い水分保持値である。多量の水を含むヒドロゲルは、安定かつ成形可能である。
【0079】
ヒドロゲルの粘着性は低く、特に4%(w/w)以上の高濃度のゲルでは低い。ゲルを標的に適用した際にゲルがユーザーの皮膚に付着しないように、粘着性が低いことが望ましい。粘着性が低いことと相関し得る特徴の1つは、水分保持値である。一般に、水分保持値が高いほど、ゲルの粘着性は低くなる。このような場合、水分子とナノファイバーと間の凝集力が高いため、高い水分保持性が望ましい。
【0080】
また、ヒドロゲルの粘度は、すなわち、それ自体の濃度で提供される場合、製品の成形性、除去可能性、及び粘着性に影響を与えることが分かった。粘度が低すぎると、ヒドロゲルは粘着性になる傾向がある。一方、粘度が高すぎると、ゲルが欠けたり壊れたりする傾向がある。
【0081】
層状生成物
一実施形態では、ナノフィブリルセルロース及び所望の他の成分、例えば非ナノフィブリルパルプ、治療剤、化粧剤、又は他の補助剤を含む、少なくとも1つの層が提供される。ナノフィブリルセルロースを含むセルロース層は、本明細書では、例えば、「層」、「膜の層」、「膜」、「ナノフィブリルセルロースを含む層」、又は「ナノフィブリルセルロースを含む膜」とも称することもできる。
【0082】
通常、このような層又は膜は、ナノフィブリルセルロースを含む分散液を提供し、支持体上で前記分散液を乾燥又は脱水することによって調製され得る。支持体はフィルターを含んでいてもよく、又は支持体に加えてフィルターが提供されてもよく、脱水は、ナノフィブリルセルロースを保持するが水は通過させる前記フィルターを通して行われる。結果として、0~20%(w/w)の範囲内、例えば1~10%(w/w)の含水率を有するナノフィブリルセルロースを含む乾燥層が得られる。通常、含水率は周囲の大気の影響を受ける可能性があるため、多くの場合5~7%(w/w)の範囲内である。
【0083】
脱水は、フィルターを通して真空を適用することによって、層に片面若しくは両面(反対側)から圧力を適用することによって、熱を適用することによって、又はそれらの組み合わせによって実施可能である。
【0084】
一実施形態では、ナノフィブリルセルロースは、層として存在し、好ましくは、0~10%(w/w)の範囲内(1~10%(w/w)の範囲内など)、例えば5~7%(w/w)の範囲内の含水率を有する。ナノフィブリルセルロースのそのような層の坪量は、50~110g/mの範囲内(60~100g/mなど)であり得る。これらの値は、特にアニオン性グレードに適している。層は、90~100%、95~100%、98~100%、99~100%、又は95~99%、98~99%、若しくは99~99.9%(w/w)、さらに約100%など、実質的にナノフィブリル化セルロースのみで構成されていてもよく、少量又は微量のその他の物質のみが存在し得る。しかしながら、実質的にナノフィブリルセルロースのみを含む層は、本明細書に記載されるように、1又は複数の補助剤を含み得る。ナノフィブリルセルロースは、このような場合、層中の唯一のセルロース系又はフィブリル状物質であり得る。
【0085】
前記医療製品は、ナノフィブリルセルロースの1つの層のみを含んでいてもよく、又はナノフィブリルセルロース層及び/又は他の層であってもよい1又は複数の追加の層を含んでいてもよい。ナノフィブリルセルロースは、不織布などのガーゼに組み込まれていてもよい。一実施形態では、前記医療製品は、不織布などのガーゼを含む。ガーゼは、本明細書に記載される任意の適切な方法で製品に含まれるか、または組み込まれていてもよい。前記組み合わせにおける含水率は、前述の記載と同じ範囲内にあってもよい。一例において、層中のナノフィブリルセルロースは、特にガーゼに組み込まれる場合、80~99.9%(w/w)又は50~99.8%(w/w)の範囲内、例えば90~99.8%(w/w)の範囲内の含水率を有していてもよい。
【0086】
ナノフィブリルセルロースを含む層又は膜は、多層医療製品で使用することができる。一例では、多層医療製品は、ナノフィブリルセルロースを含む少なくとも1つの層、及び少なくとも1つのガーゼの層を含む。一例では、前記多層製品は、ナノフィブリルセルロースを含む少なくとも2つの層、及び所望により少なくとも1つのガーゼの層を含む。一例では、前記多層製品は、ナノフィブリルセルロースで部分的又は完全にコーティングされた少なくとも1つのガーゼを含む。前記層はまた、互いに積層されていてもよい。
【0087】
一実施形態は、
ナノフィブリルセルロースを含む層であって、好ましくは0~20%(w/w)の範囲内の含水率を有し、ナノフィブリルセルロースに共有結合した生物活性分子を含む層、及び
ガーゼの層
を含む、医療製品を提供する。
【0088】
一実施形態では、前記医療製品は、ナノフィブリルセルロースを含む第2の層をさらに含み、例えば、前記ガーゼの層は、ナノフィブリルセルロースを含む第1の層とナノフィブリルセルロースを含む第2の層との間にある。
【0089】
一実施形態では、前記方法は、ガーゼを提供すること、及びナノフィブリルセルロースを前記ガーゼに組み込むことを含む。組み込みは、例えば、コーティング、層化及び/又は積層など、ナノフィブリルセルロースとガーゼとを組み合わせる任意の適切な方法を指す。ガーゼを含む医療製品が得られる。
【0090】
一例は、医療製品を調製する方法を提供し、前記方法は、
ナノフィブリルセルロースの水性分散液を提供すること、
ガーゼの層を提供すること、
前記ナノフィブリルセルロースの水性分散液で前記ガーゼの層を処理すること、及び
処理されたガーゼを脱水し、前記医療製品を得ることを含む。
この方法は、脱水の前又は後のいずれかに、生物活性分子をナノフィブリルセルロースに、共有結合などで固定化することを含む。
【0091】
この方法は、前記ガーゼの層を前記ナノフィブリルセルロースの水性分散液で処理すること、例えばコーティングすることを含む。これは、洗面器などに分散体を提供し、ガーゼを分散体に浸漬又はディップすることによって実施され得る。ガーゼは、分散液にガーゼを少なくとも部分的に処理又はコーティングさせるのに適した期間、分散液中に保持され、その後、ガーゼが分散液から除去される。処理は、ガーゼがナノフィブリルセルロースを含む分散液に浸されるプロセスを指す場合がある。実際には、通常、ナノフィブリルセルロースは均一にガーゼに浸透しないが、最終製品のガーゼの表面にナノフィブリルセルロースのより濃縮された層が形成される。このプロセスはコーティングと称される場合がある。ナノフィブリルセルロースはガーゼの繊維をしっかりと結合し、その特性を高める。より長い、特に短くされていないナノフィブリルが、結合を増強するために好ましい場合がある。ガーゼの表面にあるナノフィブリルセルロースの濃縮領域又は濃縮層により、特に製品の表面で、組織を治療するための最適な条件を維持することが可能になる。生物活性分子が製品内で結合することが少ないため、生物活性分子は組織と直接相互作用できる領域に集中する。すなわち、生物活性は主に医療製品の表面に付与される。製品の内部は、例えば製品の透過性に役立ち得る異なる条件を提供し得る。
【0092】
次に、湿ったガーゼをプレスして、過剰な分散液及び液体を除去し、ガーゼの構造中への分散液の浸透を促進する。これにより、ガーゼ内のナノフィブリルセルロースの均一な分布が促進される。しかしながら、ガーゼの特性は、例えばガーゼの構造又は材料が異なる面で異なっている場合に、ガーゼへのナノフィブリルセルロースの浸透に影響を及ぼし得る。したがって、一例では、前記方法は、医療製品を得るために、処理されたガーゼをプレスすることを含み、これは、任意の適切なプレス方法及び/又は装置で実施され得る。
【0093】
一例では、プレスはニップ(nip)で、又は「より具体的にはニップロールで実施される。ニップとは、プレスやカレンダーなど、2つの対向するロールが接触する接触領域を指す。ニップロール又はピンチロールは動力式ロールであってもよく、それらは通常、積層生成物を形成するために2枚以上のシートを一緒にプレスするために使用される。一例では、一方のロールに電力が供給され、もう一方のロールは自由に動くことが可能である。しかしながら、実施例では、それらは、処理されたガーゼをプレスするために使用され得、その結果、得られる生成物は、積層生成物ではない。ニップポイントで発生する高圧により、処理されたガーゼが密接に接触され、気泡や水泡が絞り出される。ニップローラーユニットは、ロールから引き出されるか、又は操作の合間に供給される材料のプーラー(puller)としても使用できる。ニップロールは、スクイーズロール、ピンチロール、又は絞り器と称されることもある。ニップロールは、ポンドサイズプレスやサイズプレスなど、いくつかの配置で使用され得る。ニップロールは重なり合っている場合があり、そのため、上部の自由に移動可能なロールが、ニップ点に供給されるガーゼに対する圧力を生じる。ニップロールは、例えば、鋼のロールであってもよく、これは、微細な溝を有し得る。ニップロールを使用すると、ガーゼへの分散液の浸透を促進し、同時にガーゼから過剰な分散液を除去するのに非常に効果的であることが分かった。ニップロールは工業規模のプロセスにおいて非常に有用であり、長いガーゼシートが処理からニップロールに直ちに供給され、さらに脱水ステップなどの次のステップへ供給される。
【0094】
一例では、プレスは、ポンドプレス、より具体的にはポンドサイズプレスで実施される。一例では、プレスはサイズプレスで実施される。
【0095】
処理されたガーゼは最終的に脱水される。一例では、前記方法は、プレスしたガーゼを脱水することを含む。これは、プレス工程の後に、又はいくつかの処理及びプレス工程がある場合は、最後のプレス工程の後に行われる。
【0096】
脱水は、赤外線乾燥機、浮遊乾燥機、若しくは衝突乾燥機などの非接触乾燥によって、又はプレス乾燥機、シリンダー乾燥機、若しくはベルト乾燥機などの接触乾燥によって実施してもよい。空気衝突乾燥は、湿ったシートに対して高速でガスバーナーで熱風(300℃など)を吹き付けることを含む。ベルト乾燥では、生成物は、蒸気又は高温ガスのいずれかによって加熱される連続高温鋼バンドと接触することにより、乾燥チャンバー内で乾燥される。バンドからの熱により、バンドから水が蒸発する。
【0097】
乾燥シリンダーを使用する場合、生成物の表面が滑らかになり、乾燥のコスト効率が向上する。一例では、生成物はプレス乾燥機で脱水され、前記生成物はテフロン(登録商標)板と布又は布地との間に置かれ、さらに熱が加えられる。
【0098】
ガーゼ内の分散の飽和及び/又はさらには分散を最大化する必要がある場合は、コーティングなどの処理及び脱水を一度行うか、又は工程を繰り返してもよい。処理及び脱水の工程は、所望により工程間にプレス工程を伴い、例えば、処理ランと呼ばれ得る。生成物の坪量などの特定の特性が必要な場合がある。そのような場合、医療製品が所望の坪量に到達するまで、処理ランが繰り返される。これは、他の任意の処理においても適用可能である。したがって、一実施形態では、処理及び脱水は少なくとも1回繰り返される、すなわち、処理及び脱水は少なくとも2回行われる。一実施形態では、処理及び脱水は、数回、例えば2~6回、例えば2、3、4、5、若しくは6回又はそれ以上行われる。一実施形態では、医療製品の坪量が25~80g/m(30~70g/mなど)、例えば35~65g/mの範囲内、又は本明細書に開示の他の任意の坪量に達するまで、処理および脱水が繰り返される。一例では、そのような医療製品の坪量は45~63g/mの範囲内である。試験では、前記方法で4~5回の処理を行って得られた医療製品の坪量は47~55g/mの範囲内であった。坪量は平方質量とも称される。
【0099】
本明細書で使用されるガーゼは、繊維を含む布地又は布などの材料などの任意の適切なガーゼを指す。ガーゼは、織布若しくは不織布、無菌若しくは非無菌、無地若しくはコーティング、有窓(穴あき若しくはスリット付き)、又はそれらの組み合わせであってもよい。ガーゼは、ガーゼシート又は布地などとして提供されてもよい。
【0100】
一例では、ガーゼは織布である。ある定義では、織布ガーゼは、糸目の粗い織りの薄い半透明の生地である。技術的には、織布ガーゼは、横糸が対で配置され、横糸をしっかりと保持する各縦糸の前後に交差する織り構造である。ガーゼは、天然繊維、半合成繊維、又はビスコース、レーヨン、ポリプロピレン、及びポリエステルなどの合成繊維、又はそれらの組み合わせ、例えば、ビスコース-ポリエステル混合物、又はセルロース(パルプ)とポリプロピレン及び/又はポリエステルとの混合物を含んでいてもよい。医療用創傷被覆材として使用する場合、ガーゼは綿からなっていてもよい。ガーゼはパッチのパッドとしても機能し得る。一例では、ガーゼはビスコースポリエステルガーゼ、例えば不織布である。このような不織布ガーゼは、非常に多孔性で透過性があり、適度に弾性があり、一方向に不可逆的な伸展を示す。
【0101】
好ましくは、ガーゼは不織布である。不織布ガーゼは、織りに似るように互いにプレスされ繊維で構成されており、ウィッキング(wicking)が改善され、吸収能力が向上する。織布ガーゼと比較して、このタイプのガーゼは糸くずが少なく、取り除いたときに創傷に残る繊維が少ないという利点がある。不織布ガーゼ創傷被覆材布の例には、ポリエステル、ビスコース、又はこれらの繊維のブレンドで作られたガーゼが含まれ、これらは織布パッドよりも強く、嵩高く、柔軟性がある。
【0102】
ガーゼは、例えば、医療製品が滲出液を吸収することを可能にし、創傷から滲出した血液、血漿、及び他の体液を吸収し、それらを一箇所に含むことを可能にする吸収材料を含み得る。ガーゼはまた、出血を抑え、創傷の閉鎖を促し得る。ガーゼはまた、治療剤又は他の薬剤を吸収し得る。
【0103】
一例では、ガーゼは、綿、セルロース、リネン、又はシルクなどの天然繊維又は天然繊維に基づいた材料を含む。天然繊維は遊離ヒドロキシル基を提供し、水素結合を介してガーゼをナノフィブリルセルロースに付着させるのに役立つ。また、半合成繊維は、ビスコースなどの遊離ヒドロキシル基を提供し得る。
【0104】
一例では、ガーゼは、セルロース又は綿ガーゼなどの天然ガーゼ、合成ガーゼ、半合成ガーゼ、又はそれらの混合物を含む。一例では、ガーゼは、ポリプロピレン及びセルロースの混合物を含む。一例では、ガーゼは、ポリプロピレン、ポリエステル、及びセルロースの混合物を含む。一例では、ガーゼはビスコース及びポリプロピレンの混合物を含む。一例では、ガーゼはビスコース及びポリエステルの混合物を含む。セルロース繊維をこれらの材料と混合してもよい。これらのガーゼは不織布であってもよい。
【0105】
ガーゼは、液体が通過できるように透過性が高くなければならない。ガーゼはフィルターではなく、ほとんどの高分子の通過を制限しない。ガーゼは、ナノフィブリルセルロースを含む分散液を脱水するためのフィルターとして使用されなくてもよい。ガーゼは多孔性であってもよく、及び/又は穿孔やスリットなどを有する有窓であってもよい。紙又はボール紙はガーゼではない。より具体的には、紙は、多層生成物に望ましいものであり得るそのような坪量又は厚さにおいて十分に高い引裂強度を示さないため、適切ではない場合がある。紙は一般的にガーゼより繊維長が短い。同様のことがボール紙や他の類似のセルロース系製品にも当てはまる。しかしながら、紙又はボール紙などのセルロース系材料は、いくつかの特定の用途に適している場合がある。一例では、ガーゼは非セルロース系である。ガーゼは、5mm以上、7mm以上、又は10mm以上の平均繊維長を有する長繊維を、例えば、総ガーゼの15%(w/w)以上、20%(w/w)以上、又は25%(w/w)以上の量で含んでいてもよい。
【0106】
一例では、ガーゼは弾力性がある。多くの天然、半合成、又は合成繊維は弾性がある。しかしながら、一例では、例えば、綿を含む場合、ガーゼは剛性があり、非弾性特性を示す。ガーゼは、例えば、多層生成物の引裂強度を高めるために、補強特性を示してもよい。
【0107】
引裂強度(引裂抵抗)は、材料が引裂の影響にどれだけ耐えられるかを示す尺度である。より具体的には、材料が伸長されている時、切れ目の成長にどれだけ抵抗するかを測定する。引裂抵抗は、ASTM D 412法によって測定することができる(この方法を使用して、引張強度、弾性率、及び伸長を測定してもよい)。また、引裂指数を提示してもよく、引裂指数=引裂強度/坪量であり、それは通常、mNm/gで測定される。
【0108】
ガーゼは、800~2000mNの範囲内の引裂強度を有していてもよい。引裂指数は、ISO 1974で測定可能である。ガーゼの引張強度は、例えば、0.6~1.5kN/mの範囲内(0.7~1.2kN/mなど)であってもよい。引張強度は、ISO 1924-3で測定可能である。ガーゼは、20~60g/mの範囲内、例えば30~55g/mの範囲内の坪量を有していてもよい。坪量はISO 536で測定可能である。ガーゼは、例えば、100~400g/cmの範囲内(160~330g/cmなど)の密度を有し得る。また、ISO 534で測定される嵩は「cm/g」で表示してもよい。
【0109】
乾燥ガーゼなどのガーゼの層の厚さは、100~1000μmの範囲内、例えば、100~200μm、150~200μm、200~300μm、300~400μm、400~500μm、500~600μm、600~700μm、700~800μm、800~900μm、又は900~1000μmの厚さであってもよい。但し、例えば、2000μm以下又は3000μm以下の厚みのあるガーゼを使用することも可能である。一例では、ガーゼの厚みは、100~200μmの範囲内、例えば100~120μm、120~140μm、140~160μm、又は160~190μmなどである。
【0110】
前記医療製品の厚さは、50~500μmの範囲内であってもよい。一例では、前記医療製品の厚さは、50~250μmの範囲内、例えば80~200μm、100~150μm、又は110~140μmの厚さを有する。厚さは、ISO 534で嵩厚さとして測定可能である。
【0111】
補強ガーゼを使用すると、医学的構造における引裂強度がガーゼを有さない製品よりも著しく高くなる。一実施形態では、前記医療製品は、10~100mNm/gの範囲内の引裂指数を有する。一例では、前記医療製品は、15~70mNm/gの範囲内の引裂指数を有する。引裂強度は、一方向と垂直方向とで異なる場合があり、ガーゼの特性によって影響を受ける場合がある。例えば、ガーゼは垂直方向とは異なる特性を持つ場合があり、縦方向(md)及び横方向(cd)と称される。
【0112】
一例では、前記ガーゼを含む医療製品は、25~80g/mの範囲の坪量を有する。一例では、前記医療製品は、30~70g/mの範囲内の坪量を有する。一例では、前記医療製品は、35~65g/mの範囲内の坪量を有する。一例では、前記医療製品は、45~63g/mの範囲内の坪量を有する。そのような製品は、有効量のナノフィブリルセルロースを含んでいたが、所望の通気性及び/又は液体透過性、引裂強度、及び/又は本明細書で検討した医療製品に望ましい他の特性など、他の望ましい特性も示した。
【0113】
前記ガーゼを含む医療製品におけるナノフィブリルセルロースの坪量は、当該製品の乾燥重量として測定される場合、1~50g/mの範囲内、例えば、1~20g/m(2~20g/m、2~12g/m、又は5~15g/mなど)であってもよい。
【0114】
一例では、前記ガーゼを含む医療製品は、300~700g/cmの範囲内(350~530g/cmなど)の密度を有する。密度は、ISO 534によって見かけの嵩密度として測定可能である。
【0115】
ガーゼを含む、好ましくはオートクレーブ処理された医療製品の、通気性とも称される透気度は、120ml/分未満、300ml/分未満、又は600ml/分未満(1000ml/分又は2000ml/分未満など)であってもよい。透気度は、通常、ナノフィブリルセルロースの量と相関する。ナノフィブリルセルロースの量が多いほど、透気度は低くなる。例示的な透気度率が600ml/分未満又は500ml/分未満の場合、ナノセルロースの量は、多くの用途に適したレベルである。通気性は、ISO 5636-3で測定可能である。
【0116】
本明細書に記載の医療製品は、ガーゼあり又はなしで、いくつかの用途で使用されてもよい。特定の分野の1つは医療用途で、皮膚などの生体組織に材料が適用される。構造物は、パッチ、創傷被覆材、包帯、フィルターなどの医療製品で使用してもよい。前記医療製品は、医薬品を含む治療用パッチなどの治療用製品であってもよい。通常、ナノフィブリルセルロースを含む製品の表面は、使用中に皮膚と接触し得る。ナノフィブリルセルロースの表面は、皮膚に直接接触している場合に有利な効果を示し得る。例えば、創傷や皮膚の他の損傷の治癒を促進し、同時に前記医療製品から皮膚に生物活性物質を提供する。
【0117】
前記ガーゼを含む医療製品は、特に湿潤状態で、機械的強度及び高い引裂強度(引裂抵抗)などの他の特性を向上させる。創傷被覆材生地、すなわち、ガーゼなどの支持及び強化構造をナノフィブリルセルロースと組み合わせることにより、被覆製品及び/又は層状製品が形成される。前記生地は継続的に支持するネットワークを作成し、ネットワークの強度は湿潤状態の影響をあまり受けない。
【0118】
前記ガーゼを含む医療製品の特定の有利な特性としては、柔軟性、弾性、及び再成形性が挙げられる。ナノフィブリルセルロースに水分が含まれている場合は、適切な透過性を示し得る。これらの特性は、例えば、前記製品が創傷を治癒するための創傷被覆材として使用される場合、又は治療剤若しくは化粧剤を送達するためなどの他の医療用途において有用である。
【0119】
柔軟性は、医療用途など多くの用途で望まれる特徴である。ナノフィブリルセルロースを含む柔軟なパッチ及び創傷被覆材は、皮膚に適用するため、例えば、創傷、及び火傷などの他の損傷や傷害を覆うために有用である。
【0120】
製品中のナノフィブリルセルロースが比較的少量で均一に分布していると、柔軟性、弾性、再成形性、剛性に影響を与える。製品の剛性は比較的低く、製品は適切な通気性及び/又は液体透過性を示す開放構造を有する。
【0121】
前記ガーゼを含む製品の柔軟性又は弾性(伸長)も、ガーゼの選択によって影響を受け得る。ナノフィブリルセルロース自体は、特に乾燥した状態では、柔軟性及び弾性に限界がある。このため、ガーゼ及びナノフィブリルセルロースネットワークの弾性特性のバランスをとるために、ガーゼ及びナノフィブリルセルロースネットワークを一致させることが重要である。
【0122】
前記ガーゼを含む医療製品はまた、高い吸収能力及び吸収速度を示し、これらの特性は、創傷治癒などの医療用途で望まれる。広い領域をカバーするために使用できる大きなシートを作成してもよい。
【0123】
生物活性分子の固定化
本明細書に記載のナノフィブリルセルロース及び/又は層状製品又はゲルなどの医療製品に異なる種類の物質を固定化することが可能である。
【0124】
表面に化合物をロードするための2つの戦略は、不可逆的な固定化及び可逆的な固定化である。最も有望なアプローチは、適用時に望ましくない化合物が放出されないため、不可逆的な固定化である。生物活性タンパク質と酵素とをナノセルロースに不可逆的に固定化すると、生体適合性や環境への影響が極めて少ないなど、無機ナノ粒子に関して多くの利点がある。さらに、酵素は無機化合物が示すことができない活性を有し、これはいくつかの生物医学的応用にとって重要である。不可逆的な方法の例には、第一級アミンやカルボジイミドを使用した架橋などによる共有結合、及び封入(entrapment)が含まれる。
【0125】
通常、医療製品を調整する方法は、
ナノフィブリルセルロースを提供すること、
1又は複数の生物活性分子を提供すること、及び
前記生物活性分子を前記ナノフィブリルセルロースに固定化すること、を含む。
【0126】
一実施形態では、固定化は共有結合を含む。共有結合は、生物活性分子とナノフィブリルセルロースとの間に共有結合を形成する任意の適切な方法を使用することによって実施可能である。共有結合には、共有結合架橋が含まれる。ヌクレオチドリンカー又はペプチドリンカー、アンカー基又はカンチレバーなど、これら2つの間のリンカー分子を使用することも可能である。
【0127】
固定化は、共有結合架橋又は非共有結合架橋などの架橋を含み得る。共有結合架橋が好ましい。ある定義によれば、架橋は、あるポリマー鎖を別のポリマー鎖に結合する結合である。共有結合架橋を得るために1又は複数の架橋剤が提供されてもよく、又は架橋はUV照射によって得られてもよい。カルボジイミドを用いて架橋を行ってもよい。
【0128】
固定化はまた、封入を含み得る。封入は、ビーズ若しくはブレス(bres)上で、又はマイクロカプセル化によって実施可能である。
【0129】
一実施形態は、医療製品を調製する方法を提供し、前記方法は、
ナノフィブリルセルロースを提供すること、
1又は複数の生物活性分子を提供すること、及び
前記生物活性分子を前記ナノフィブリルセルロースに共有結合させること、を含む。
【0130】
一実施形態は、医療製品を調製する方法を提供し、前記方法は、
ナノフィブリルセルロースを提供すること、
1又は複数の生物活性分子を提供すること、及び
前記生物活性分子を前記ナノフィブリルセルロースに架橋すること、を含む。
【0131】
ナノフィブリルセルロースは、本明細書に記載の任意のナノフィブリルセルロースであってもよく、任意の適切な乾燥物質含量及び/又は形態で提供されてもよい。一例では、ナノフィブリルセルロースは、共有結合の前に、例えば、ブレード型ホモジナイザーなどで1~5分間、10000~20000rpmなどで均質化され、共有結合に対する材料の反応性を高める。
【0132】
特定の薬剤を使用して、生物活性分子とナノフィブリルセルロースとの間の共有結合を得られる。そのような薬剤の一例としては、カルボジイミドが挙げられる。
【0133】
EDC又はEDAC(1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩)(N-(3-ジメチルアミノプロピル)-N’-エチルカルボジイミド塩酸塩)は、カルボン酸基又はカルボン酸塩及びアミンを含む生体物質の結合に適したカルボジイミドである。
【0134】
EDCの主な利点は、水溶性であるため、反応に直接添加することができ、有機溶媒に溶解する必要がない。反応に主に由来する生成物は、水溶性化合物であるため、簡単な複数回の洗浄、ゲルろ過、又は透析によって除去され得る。
【0135】
スルホ-NHSは、アミン反応性スルホ-NHSエステルの導入により、より安定した反応経路を提供する。EDCだけでは、第一級アミンと反応するのに十分な時間にわたって安定な複合体を形成するには不十分である。O-アシルイソ尿素中間体の安定性は数秒間の長さであると報告された。図1は、EDC及びスルホ-NHSによるアシラーゼの固定化スキームを示した図である。
【0136】
ナノセルロースには、EDC及びスルホ-NHS活性化を使用してNHSエステルに変換され得る反応性カルボキシル基が含まれている。反応基はタンパク質の第一級アミンと優先的に相互作用でき、複合体は活性化反応後2時間で形成される。この化学反応は、カルボキシル基を担持するナノセルロース膜上にタンパク質、例えばアシラーゼタンパク質を固定化するために使用されてもよい。形成されるアミド結合は安定しており、分子の1方がアミン基を含み、もう一方の分子がカルボキシル基を含む場合、EDCを使用して様々な化学的複合体を形成可能である。
【0137】
他の求核試薬も反応性があり、この点に特に注意を払う必要がある。スルフヒドリル基は活性種を攻撃し、不安定なチオールエステル結合を形成する場合がある。酸素原子は、水分子中の酸素原子のように、求核試薬として作用し得る。エステル中間体は、通常水中で不安定であり、その結果、EDC及びスルホ-NHSで活性化された表面は、イソ尿素を排除することで最初のカルボキシル基に回復し得る。
【0138】
EDCはカルボン酸基と反応して、反応混合物中の第一級アミノ基からの求核攻撃により容易に置換される活性O-アシルイソ尿素中間体を形成する。第一級アミンは元のカルボキシル基とアミド結合を形成し、EDC副産物は可溶性尿素誘導体として放出される。EDC架橋は、酸性条件で(pH3~6などで)、例えば約pH4.5で最も効率的である。好ましくは、架橋は、MES緩衝液(4-モルホリノエタンスルホン酸)など、外来性のカルボキシル及び/又はアミンを含まない緩衝液中で行われる。反応は、リン酸緩衝液及び7.2以下の中性pHで行われてもよい。そのような反応の効率は低くなるが、反応条件は反応化学と互換性がある。EDCの量を増やして、効率の低下を補うことができる。
【0139】
EDCは、イミダゾールの存在下でリン酸基を活性化し、第一級アミンと結合させるためにも使用できる。5’リン酸基を介してオリゴヌクレオチドを架橋又は固定化するために使用してもよい。
【0140】
別のカルボジイミド架橋剤は、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)であり、EDCと同じ方法でカルボン酸を第一級アミンに架橋することができる。但し、DCCは水溶性ではないため、全てのタイプの生成物に適しているわけではない。
【0141】
一実施形態では、共有結合などの固定化は、水性媒体中で行われる。また、他の製造工程が水性媒体中で行われてもよい。これは、損傷を受け得るか、又は活性、構造、及び/又は特性が有機溶媒中で変更され得る生物活性分子及びナノフィブリルセルロースの両方にとって有利である。例えば、NFCが凝集して繊維又はフィブリルの束が形成されると、均質なナノ構造が乱され、材料がその有利な特性を失うこともあるであろう。これは、例えば顕微鏡的に最終生成物から検出可能である。反応が有機溶媒中で行われる場合、溶媒を水性溶媒に戻す必要がある。
【0142】
タンパク質は、カルボキシル基を介するよりも、むしろ第一級アミン又はスルフヒドリル基を介して固定化又は架橋され得る。一方、ペプチド及びその他の小さなカルボキシル含有分子は、EDCを使用して固定化し、それらを重合してアミン誘導体化表面材料に共役させることができる。
【0143】
一実施形態では、共有結合は、第一級アミンを介して行われる。一実施形態では、共有結合は、チオールとも称されるスルフヒドリル基を介して行われる。第一級アミン又はスルフヒドリル基は生物活性分子内にあってもよい。ナノフィブリルセルロースへの共有結合は、ナノフィブリルセルロース中の、又はフィブリル化材料に含まれるヘミセルロース中のカルボキシル基を介する場合がある。
【0144】
スルフヒドリルは、システインアミノ酸の側鎖のタンパク質に存在する。システインスルフヒドリル基の対は、天然の三次又は四次タンパク質構造の基礎として、ポリペプチド鎖内又はポリペプチド鎖間のジスルフィド結合(-S-S-)によって結合されることがよくある。一般に、チオール反応性化合物との反応に利用できるのは、遊離又は還元スルフヒドリル基(-SH)のみである。
【0145】
スルフヒドリルはほとんどのタンパク質に存在するが、第一級アミンほど多くはない。したがって、スルフヒドリル基による架橋は、より選択的かつ正確である。タンパク質のスルフヒドリル基はジスルフィド結合に関与することが多いため、これらの部位での架橋は通常、基になるタンパク質構造を大幅に変更すること、又は結合部位をブロックすることはない。利用可能なスルフヒドリル基の数は、簡単に制御又は変更することができる。例えば、それらは、天然のジスルフィド結合の還元によって生成できる。あるいは、2-イミノチオラン(Traut試薬)、SATA、SATP、又はSAT(PEG)4などのスルフヒドリル付加試薬を使用して、第一級アミンとの反応によって分子に導入できる。最後に、スルフヒドリル反応性基とアミン反応性基を組み合わせてヘテロ二官能性架橋剤を作成すると、架橋手順の柔軟性及び制御が向上する。
【0146】
スルフヒドリル反応性化学基としては、ハロアセチル、マレイミド、アジリジン、アクリロイル、アリール化剤、ビニルスルホン、ピリジルジスルフィド、TNB-チオール、及びジスルフィド還元剤が挙げられる。これらの基のほとんどは、アルキル化(通常はチオエーテル結合の形成)又はジスルフィド交換(ジスルフィド結合の形成)のいずれかによってスルフヒドリルに共役する。
【0147】
本明細書で検討される「生物活性分子」は、1又は複数の異なる生物活性分子を含んでいてもよい。生物活性分子は、酵素、タンパク質、核酸、ホルモン、サイトカイン、光増感分子、及び抗癌剤などから選択され得る。20~30残基未満のポリペプチドを含むタンパク質としては、酵素などの様々な生物活性分子、及び細胞シグナル伝達、免疫応答、細胞接着、細胞周期、又はリガンド結合などの機能を有するタンパク質が挙げられる。タンパク質は、1又は複数のドメインを含んでいてもよく、それらは同じであっても異なっていてもよい。
【0148】
一実施形態では、生物活性分子は、タンパク質酵素などの酵素である。タンパク質酵素は、好ましくは水性環境において、本明細書に記載の方法で共有結合的に固定化されてもよい。ナノフィブリルセルロースに共有結合したタンパク質は、それらの活性と安定性を維持することがあり、固定化によってさらに改善され得る。
【0149】
一実施形態では、生物活性分子は、クオラムクエンチングタンパク質であり、これは、アシラーゼ、アミダーゼ、アミラーゼ、サブチリシンA、ラクトナーゼ、又はオキシドレダクターゼなどの酵素である。これらは、化学結合の加水分解を触媒する酵素である加水分解酵素に属する。よって、一例では、生物活性分子は加水分解酵素であり、エステル結合、糖、エーテル結合、ペプチド結合、炭素-窒素結合、酸無水物、炭素-炭素結合、ハロゲン化物結合、リン-窒素結合、硫黄-窒素結合、炭素-リン結合、硫黄-硫黄結合、又は炭素-硫黄結合のいずれかを加水分解し得る。加水分解酵素の例としては、アシラーゼ、アミダーゼ、アミラーゼ、エステラーゼ、ヌクレアーゼ、ホスホジエステラーゼ、リパーゼ、ホスファターゼ、DNAグリコシラーゼ、グリコシド加水分解酵素、プロテアーゼ、ペプチダーゼ、及び酸無水物加水分解酵素が挙げられる。
【0150】
アシラーゼの1つの例は、アスペルギルス・メレウス(Aspergillus melleus)由来のアシラーゼIで、アミノアシラーゼIとも称される。アミノアシラーゼ(EC 3.5.1.14)は、N-アシル-L-アミノ酸+HO⇔カルボン酸塩+L-アミノ酸の化学反応を触媒する酵素である。アシラーゼIは、特に直鎖状アミドにおいて、ペプチド結合以外の炭素-窒素結合に作用する加水分解酵素のファミリーに属する。アシラーゼIは、尿素サイクル及びアミノ基の代謝に関与する。
【0151】
アミダーゼの一例は、大腸菌(Escherichia coli)由来のものなどのペニシリンアミダーゼである。ペニシリンアミダーゼ(EC 3.5.1.11)は、ペニシリン+HO⇔カルボン酸塩+6-アミノペニシラン酸塩の化学反応を触媒する酵素である。ペニシリンアミダーゼは、特に直鎖状アミドにおいて、ペプチド結合以外の炭素-窒素結合に作用する加水分解酵素のファミリーに属する。この酵素クラスの体系的な名称は、ペニシリンアミドヒドロラーゼである。
【0152】
アミラーゼはデンプンの糖への加水分解を触媒する酵素である。特定のアミラーゼタンパク質は、α、β、及びγで示される。全てのアミラーゼはグリコシドヒドロラーゼであり、α-1,4-グリコシド結合に作用する。
【0153】
サブチリシンは、元々はバチルス・サブティリス(Bacillus subtilis)から得られた非特異的プロテアーゼである。サブチリシンAは、セリンS8エンドプロテイナーゼファミリーのメンバーである。サブチリシンAは、P1位置にある大きな非荷電残基を優先する幅広い特異性を有する。サブチリシンAは、天然タンパク質及び変性タンパク質を加水分解し、アルカリ条件下で活性を示す。
【0154】
光増感剤とも称される光増感分子は、光線力学的治療法(PDT)で使用され得る分子である。PDTは、細胞死(光毒性)を誘発するための分子酸素と組み合わせて使用される、光と光増感化学物質とが関与する光線治療法の一種である。PDTの用途には、光増感剤、光源、及び組織酸素が関与する。光源の波長は、光増感剤を励起してラジカル及び/又は活性酸素種を生成するのに適切である必要がある。PDTは、細菌、真菌、及びウイルスなどの微生物細胞を死滅させるために使用でき、癌の治療にも使用してもよい。そのような癌の一例は黒色腫であり、これはさらに3つのタイプの癌(基底細胞、扁平上皮細胞、及び黒色腫)に分類される。基底細胞癌と扁平上皮癌は最も一般的な種類の皮膚癌であるが、黒色腫よりも致死率が低く、治療が容易である。
【0155】
PDTは、他の多くの健康関連状態の治療に使用され得る。例えば、PDTは免疫学的効果(新しい抗生物質)、炎症、細菌感染の治療に使用され得る。PDTは、光線治療法の後に生じる効果の組み合わせにより、免疫系を活性化及び抑制する。癌治療において、治療特性は照射された癌細胞の死から生じる。一重項酸素による原形質膜及び細胞小器官の膜への損傷は、他の事象を引き起こし、広範囲に影響を及ぼす。PDTはまた、歯の感染症、鼻の感染症、創傷、潰瘍などを治療するために使用され得る。
【0156】
別のPDT誘発による影響は炎症である。PDT後に観察される血管破壊は、組織損傷又は細菌感染後の炎症反応に類似している。このプロセスの典型的なものは、血管作用物質、凝固カスケードの構成要素、プロテイナーゼ、ペルオキシダーゼ、ラジカル、白血球、化学誘引物質、サイトカイン、成長因子、及びその他の免疫調節物質を含む幅広い強力なメディエーターの放出である。
【0157】
補助剤が医療製品に組み込まれる場合、それらは生物活性分子を固定化する前又は後に含まれ得る。しかし、特に補因子などの有機分子、又はナノセルロースマトリックスから放出されることが意図される他の物質は、特に共有結合によって、生物活性分子を固定化した後に組み込むことが好ましい。
【0158】
一実施形態では、前記方法は、ナノフィブリルセルロースの含水率を0~20%(w/w)の範囲内、又は0~10%(w/w)の範囲内、例えば1~10%の範囲内など、例えば5~7%(w/w)の範囲内に調整することを含む。これは、固定化の前又は後に行ってもよい。このようなナノフィブリルセルロースは、実際には実質的に乾燥しており、製品の保存安定性を高め得る。しかしながら、標的に適用されると製品は水分を吸収し、含水率が上昇することになる。
【0159】
一実施形態では、前記方法は、ナノフィブリルセルロースの含水率を、50~99.8%(w/w)の範囲内、例えば90~99.8%(w/w)の範囲内などに調整することを含む。これは、固定化の前又は後に行ってもよい。このようなナノフィブリルセルロースは、成形可能であってもよく、又はゲル形態であってもよい。
【0160】
本出願は、ナノフィブリルセルロースに固定化した生物活性分子を含む医療製品を提供する。固定化は、共有結合固定化又は結合、架橋、封入などの可逆的若しくは不可逆的な固定化など、本明細書に開示の固定化のいずれであってもよい。
【0161】
一実施形態は、ナノフィブリルセルロースに共有結合した生物活性分子を含む医療製品を提供する。一実施形態は、ナノフィブリルセルロースに架橋された生物活性分子を含む医療製品を提供する。一実施形態は、本明細書に記載の方法で得られる医療製品を提供する。
【0162】
一実施形態は、別個の包装に包装された、本明細書に記載の医療製品を提供する。個別の包装は、一連の包装として提供されてもよい。通常、そのような包装された製品は滅菌された状態で提供される。層状生成物又はゲルなどの医療製品は、単位用量として提供されてもよい。層状生成物の単位用量の例は条片である。層状生成物はまた、所望のサイズを有する小片を得るために切断され得るシートとして提供されてもよい。単位用量のゲルの例は、単位パッケージに詰められた一片のゲルである。ゲルはまた、チューブ、缶、又はジャーなどの容器から提供されてもよい。製品の単位用量又は他の形態は、好ましくは無菌として、密封されたプラスチックパッケージなどの密封されたパッケージに詰められて提供されてもよい。
【0163】
一実施形態は、本明細書に記載の医療製品、例えば、包装された製品を含むキットを提供し、前記キットは、1又は複数の包装された製品を含み得る。前記キットはまた、使用前に製品を前処理するための生理食塩水などを含む容器などの他の材料又は機器を含んでいてもよい。
【0164】
本明細書に記載の医療製品は、本明細書に記載の医療製品を提供し、前記製品を対象の組織に適用することにより、ヒト対象などの対象を治療する方法などの治療方法で使用することができる。治療は、本明細書に記載の1又は複数の補助剤、例えば、生物活性分子の機能を促進し、及び/又は治療部位の状態を制御することができる、補因子、無機イオン、又は塩などの薬剤を含む、水溶液、例えば、水又は緩衝液及び/又は溶液で医療製品を湿らせることをさらに含み得るものである。治療される状態は、本明細書に記載の任意の状態、又は医療製品に固定化された生物活性分子で治療され得る他の状態であり得る。
【0165】
一例は、細菌性バイオフィルム形成を抑制及び/又は防止するための方法を提供し、この方法は、本明細書に記載の医療製品を、細菌性バイオフィルム形成を有している又は患っていると疑われる対象に適用することを含む。
【0166】
一例は、皮膚の創傷又は他の損傷や傷害を治療する方法を提供し、この方法は、本明細書に記載の医療製品を創傷、損傷、又は傷害に適用することを含む。本明細書で使用される「創傷」という用語は、創傷の治癒が望まれ、本明細書に記載の製品で促進され得る、開放性又は閉鎖性の創傷を含む、皮膚などの組織上の任意の損傷、傷害、疾患、又は傷害などを指す。創傷は清潔であるか、汚染されているか、感染しているか、又はコロニーが形成されている場合があり、バイオフィルムの形成を伴う場合がある。開放性創傷の例としては、擦過創、剥皮創、切創、裂創、刺創、及び貫通創が挙げられる。閉鎖性創傷の例としては、血腫、挫傷、縫合創、移植片、及び任意の皮膚の状態、疾患、又は障害が挙げられる。創傷は慢性的なものであってもよい。皮膚の状態、疾患、又は障害の例としては、座瘡、感染症、小水疱水疱性疾患、口唇ヘルペス、皮膚カンジダ症、蜂巣炎、皮膚炎及び湿疹、ヘルペス、蕁麻疹、狼瘡、丘疹、蕁麻疹及び紅斑、乾癬、酒さ、放射線関連障害、色素沈着、ムチン症、角化症、潰瘍、萎縮及び壊死、血管炎、白斑、疣贅、好中球性及び好酸球性疾患、表皮又は真皮の黒色腫及び腫瘍などの先天性新生物及び癌、又は表皮及び真皮の他の疾患又は傷害が挙げられる。
【0167】
1つの特定の例は、本明細書に記載の医療製品を移植片に適用することを含む、植皮片、例えばメッシュ植皮片又は全層植皮片などの移植片で覆われた皮膚創傷を治療する方法を提供する。
【0168】
移植とは、自身の血液供給を伴わずに、組織を身体のある場所から別の場所に、又は別の人から移動する外科的処置を指す。代わりに、新しい血液供給が移植後に生じる。自家移植片及び同系移植片は、通常、異物とは見なされないため、拒絶されない。同種移植片及び異種移植片は、レシピエントによって異物として認識され、拒絶される。
【0169】
皮膚移植は、創傷、火傷、感染症、又は手術による皮膚の喪失の治療によく使用される。損傷した皮膚の場合、損傷が取り除かれ、新しい皮膚がその場所に移植される。皮膚移植は、必要な治療及び入院の経過を短縮し、機能及び外観を改善することも可能である。植皮片には、分層植皮片(表皮+真皮の一部)及び全層植皮片(表皮+真皮全体の厚さ)の2つのタイプがある。
【0170】
メッシュ植皮片は、全層又は分層のシートであり、ドレナージ及び拡大を可能にするために有窓となっている。メッシュ植皮片は、不均一な表面に適合するため、身体の多くの場所で有用である。それらは、基礎となる創傷床に縫合できるため、過度の動きのある場所に配置可能である。さらに、有窓であるため、植皮片の下に蓄積し得る体液の出口を提供し、伸長及び感染のリスクを軽減し、植皮片の血管新生を改善するのに役立つ。
【0171】
臨床試験において、前記医療製品が移植片領域に付着し、保護層として機能することが分かっている。移植片が治癒すると、前記製品は移植片と共に痂皮様の構造を形成する。前記ナノフィブリルセルロースを含む製品の特性は治癒を促進し、形成された乾燥痂皮を伴う医療製品は、通常の痂皮が正常な創傷治癒過程で作用するのと同様に剥離すると考えられる。
【0172】
前記医療製品を皮膚に適用する前に、当該製品を前処理、すなわち、通常は水溶液で保湿又は湿潤してもよい。保湿又は湿潤は、例えば、水又は、浸透圧が約308mOsm/lであり、通常は0.90%(w/w)の塩化ナトリウム(NaCl)溶液である一般的な生理食塩水を使用することにより実施できる。異なる濃度の生理食塩水など、他のタイプの水溶液も使用できる。材料を保湿又は湿潤させると、皮膚との接触及び材料シートの成形性が向上する。
【0173】
次に、クオラムクエンチングメカニズムによる細菌性バイオフィルム形成の防止のための前記医療製品の特定の用途を詳細に説明し、実施例によって実証する。
【0174】
細菌性バイオフィルム
前記医療製品の特定の用途の1つは、細菌性バイオフィルム形成の防止又は抑制である。
【0175】
臨床現場では、慢性感染症の場合、バイオフィルムが重要な役割を果たすと考えられている。高い病原性を達成して宿主に感染するために主にバイオフィルム堆積に依存する細菌が存在しており、黄色ブドウ球菌(S.aureus)、表皮ブドウ球菌(S.epidermidis)、及び緑膿菌の場合、医療において主要な関心事となっている。細菌は、医療機器、細胞、及び組織の不活性な表面に付着性の群落を構築することができる。
【0176】
バイオフィルムの存在は、環境への適応の一形態であり、宿主の防御からの障壁でもある。バイオフィルム内の細菌は、抗体、白血球、及び抗生物質に対して保護されることが報告されている。さらに、バイオフィルムは、浮遊性細菌の脱落により全身性感染を引き起こし、播種、菌血症、敗血症、及び死に至るであろう。
【0177】
バイオフィルムの1つの基本的な定義は、「自己生成ポリマーマトリックスに囲まれ、不活性表面又は生体表面に付着する細菌細胞の構造化された群落」である。マトリックス成分は、タンパク質、核酸、及び菌体外多糖類を含み、これらは、浮遊性細胞と比較して、細胞に一連の利点を提供すると考えられている。これは、全ての微生物感染の約60%が細菌性バイオフィルムに関与していると推定されている事実の背後にある理由となり得る。
【0178】
EPSマトリックスに散在する細胞のパッチを構成することから、バイオフィルム層間の異なる密度は、バイオフィルム自体の高度に不均一な性質に対応する。これにより、水チャネルが形成される開放エリアが作られ、栄養素がバイオフィルムの下層に入ることができ、さらに、老廃物を取り除くことができる。バイオフィルムに見られる細菌は、1種類の細胞である場合と、環境に応じて複数種類で構成される場合がある。
【0179】
バイオフィルムは、最初に創傷表面に遊離する浮遊性微生物が付着して形成される。この付着力は弱く可逆的であると報告されており、平衡が確立されている。細菌が組織又は表面から除去されない場合、より強力な付着を促進するための異なるメカニズムが関与する。細胞接着構造、材料の疎水性、及び細菌の運動性は、付着のための重要なパラメーターである。例えば、緑膿菌などの一部の細菌は、線毛を利用して固定する。微生物は、細胞外マトリックス(ECM)と菌体外多糖類(EPS)を堆積させて、表面の疎水性を調整し、凝集の可能性を高める。EPSには、ミネラルや血液成分など、環境から代謝された追加の分子が含まれている場合もある。結果として生じるEPS及びECMの堆積の増加、細菌のさらなる動員、及びより高度な細胞分裂により、バイオフィルムの達成及び成熟が決定される。
【0180】
バイオフィルムは最初の弱い付着から始まり、最終的には細菌の剥離及び宿主のコロニー形成が起こる。成熟したバイオフィルムは、従来の方法では根絶することが困難である。成熟したバイオフィルムは、化学療法剤としての小分子を通過させることが困難な追加の薬物動態学的障壁を構成するため、抗生物質治療による影響は弱い。
【0181】
実際のところ、バイオフィルム内の細菌は、対応する遊離する浮遊性コロニーよりも抗生物質に対して1000倍の耐性を有する。バイオフィルムの堆積の最終段階が完了すると、バイオフィルム自体が表面に強く付着する。
【0182】
ハイドロセラピーと称される水治療など、バイオフィルムの破片を除去できる方法は、成熟したバイオフィルムに作用し、表面(例えば、創傷)からの細菌の物理的な分離を促進する。ハイドロセラピーは、バイオフィルムの除去のための唯一の治療法ではない。衝撃波療法、超音波治療、カデキソマーヨウ素の使用、溶解剤としてのラクトフェリンの利用は、バイオフィルム剥離を促進し得る。抗生物質治療は通常、創傷床の完全な治癒を促進することに関連する。
【0183】
現在の治療ガイドラインは、コロニー形成が生じた創傷の最初の治療として、創傷が自立するまで繰り返される外科的創面切除を推奨している。植皮片の交換などの創傷に対する追加の治療は、創傷床が完全に治癒し、バイオフィルムが剥離した後で行う必要がある。しかしながら、バイオフィルムを組織から完全に除去することは依然として困難である。さらに、完全な創傷治癒は32~67%に達すると報告されている。
【0184】
前述のように、バイオフィルムの存在は、緑膿菌の抗生物質抵抗性に貢献している。細菌は、外膜の透過性の低下、及び細胞から多くの異なる化合物を迅速にシャトルする排出ポンプによって付与される固有の耐性を持っているようである。
【0185】
緑膿菌では5種類の異なる排出系が確認されている。相同性の高い排出ポンプタンパク質は、細胞質-膜関連薬物プロトンアンチポートメカニズム、膜チャネル形成タンパク質、及びペリプラズム融合タンパク質からなる。これらのポンプは、広い特異性を有し、色素、界面活性剤、抗生物質、有機溶媒、二次代謝産物、及びN-アシルホモセリンラクトン(AHL)などのシグナル伝達分子を含む様々な分子を輸送する。さらに、緑膿菌は染色体上にコードされたβラクタマーゼを産生し、βラクタム抗生物質に対する抵抗性を高める。ポンプの作用によって影響を受ける他の化合物には、重金属が含まれる。
【0186】
通常、薬物又は重金属に対する抵抗性は、細菌がその特定の薬物又は重金属の存在下で増殖し、培養物又はコロニーを形成できることを意味する。一方で、耐性は、細菌培養物がその特定の薬物による治療によって根絶されない状況を指す。抵抗性であっても耐性であっても、両方とも、バイオフィルムの増殖様式が、細菌がそれらの増殖する対応物と比較して1000倍高い濃度の抗生物質への曝露に対して生存可能にするという事実に寄与し得る。換言すれば、バイオフィルム抵抗性の原因となる根本的な経路は多因子的であり、プロセスの背後にある分子メカニズムが不明であるため、通常、抵抗性と耐性とを区別することは困難である。バイオフィルムへの抗菌化合物の限定的な浸透は、抵抗性の一部を説明するものである。限定的な浸透は、おそらくEPSマトリックスへの分子の結合に基づいているため、ある時点でマトリックスが飽和し、最終的に浸透が遅延なく発生すると考えられる。一方、EPSはおそらく絶えず産生されており、抗菌結合のための新たなスポットを生成している。
【0187】
バイオフィルム耐性を大幅に高める別の要因は、バイオフィルム細胞の非常に不均一な代謝活性である。バイオフィルムには、栄養素及び酸素の勾配があり、ほとんどの細胞(フィルム表面の細胞を除く)の増殖速度を制限する。抗菌剤は主に代謝的に活性な細胞を標的とするため、バイオフィルムの増殖が遅い広範囲の部分を標的にすることは非常に困難である。抗生物質には、酸素欠乏環境での活性を低下させるものもあり、これは、バイオフィルムのより深いレベルで酸素の利用可能性が低下するため、バイオフィルム抵抗性にも寄与する。別のオプションは、バイオフィルムにおける特定の遺伝子の発現であり、抗生物質に対する抵抗性の強化をもたらす。これらの遺伝子の正確な性質は未だ解明されていない。
【0188】
抗生物質抵抗性とバイオフィルムの存在との関係には、いくつかの要因が関係している。第一に、上記のように、バイオフィルム中の細菌細胞は、多糖類のマトリックスを生成し、これは、抗菌剤が細胞に到達するのを遅延又は阻止することができる。さらに、バイオフィルム細胞の細胞壁タンパク質の40%が浮遊性細胞のものとは異なることがわかった。したがって、細胞膜の透過性が変化し得るため、抗菌剤や免疫因子がその標的に到達するのが困難になる。
【0189】
ほとんどの抗菌剤は、タンパク質、DNA、及び細胞壁の合成などの増殖関連の細胞活動を阻害する。したがって、抗菌剤は増殖が遅いか全く増殖しないバイオフィルム細胞に対しては効果的ではない。さらに、バイオフィルムにおける細胞間の密接な接触は、遺伝子水平伝播のための好ましい環境を提供し、その結果、抗菌剤抵抗性が広がりやすくなる。
【0190】
いくつかの要因がバイオフィルムの抗菌剤耐性の原因であるが、それらは全て、バイオフィルム細胞が再懸濁及び浮遊増殖後に急速に抵抗性を失うことが示されているため、バイオフィルム群落の多細胞性に関連している。
【0191】
緑膿菌は、バイオフィルム関連の皮膚疾患に関連する最も関連性のある病原菌のひとつである。緑膿菌は、創傷にコロニーを形成することができるグラム陰性菌であり、抗生物質ベースの治療に対する抵抗性を急速に発達させることが知られている。このため、抗生物質抵抗性の危険性に対する認識が高まっているが、創傷の細菌コロニー形成に対抗することができる革新的な解決策の開発が非常に重要になってきている。
【0192】
緑膿菌によるin vitroバイオフィルム形成が研究されている。緑膿菌の表面への最初の付着後、微小コロニーが形成され、次にコロニーが増殖して、異なる形状を有するより大きな構造になり得る。これまでに、緑膿菌バイオフィルムなどのトランスクリプトーム研究では、バイオフィルムマトリックスを破壊するために毎回発現される具体的かつ特有の遺伝子セットは存在しない。この知見は、バイオフィルムを構築できる複数の経路が存在することを強く示唆している。いずれにせよ、明らかになっていることは、バイオフィルムの形成の成功には細菌細胞間コミュニケーションがin vivoで形成される必要があるということである。
【0193】
緑膿菌としての病原菌におけるバイオフィルムの堆積は、クオラムセンシングと称される、厳密に調節され、広く分布する細菌情報伝達系によって制御されていると考えられている。環境における細菌数の応答としてのシグナル伝達小分子(自己誘導物質)の産生は、バイオフィルムの構築及び毒素産生などの細菌コロニーの病原性に強く影響する。この伝達経路の中断は、クオラムクエンチングと称される。このアプローチは、自己誘導物質分子を中和することを目的としている。
【0194】
クオラムセンシング
細菌種は、バイオフィルム形成を含む病原性因子の産生に重要な遺伝子発現を調節及び調整するために、クオラムセンシング(QS)として知られるメカニズムを介して伝達を行う。クオラムセンシングシグナル分子の例としては、N-アシルホモセリンラクトン(AHL)、N-(3-ヒドロキシアシル)ホモセリンラクトン(3-ヒドロキシ-AHL)、N-(3-オキソアシル)-L-ホモセリンラクトン(3-オキソ-AHL)、ビブリオ・ハーベイ(V.harveyi)自己誘導物質-2(AI-2)、フラノシルホウ酸エステル型、シュードモナスキノロンシグナル(PQS)、2-ヘプチル-3-ヒドロキシ-4(1H)-キノロン、拡散性シグナル伝達因子(DSF)、メチルドデセン酸、ヒドロキシルパルミチン酸メチルエステル(PAME)、及び黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)由来の自己誘導ペプチド1(AIP-1)が挙げられる。
【0195】
細菌は、クオラムセンシングによって周囲の細菌集団の密度を感知することができる。細菌は、代謝中間体に由来するシグナル分子の濃度を測定し、それに応答することができる。
【0196】
グラム陰性菌及びグラム陽性菌は、環境から情報を収集するために異なるシグナル分子を使用すると考えられているが、一部の一般的な分子がより広く使用されることが想定される場合もある。シグナル伝達分子産生の理由は、生存のために単一の細菌コロニー又は複数のコロニーが協力する必要があるという事実によるものである。例えば、細菌は、宿主に感染するための病原性を制御する方法としてクオラムセンシングを使用することが報告されており、細菌の数が多いほど、成功の可能性が高くなると予想される。
【0197】
細菌は一定量のシグナル伝達分子濃度に達するまで増殖し、協調して作用し、特定の作用を決定する。充分な濃度のQS分子を構築するには、拡散バリアが必要である。高密度の成熟したバイオフィルムは、環境から完全に独立しているわけではないが、拡散は、浮遊培養の状況と比較して確実に低下する。
【0198】
グラム陰性菌は、膜を通過可能であり、リガンド結合時にQS制御遺伝子の転写活性化因子として機能するLuxRタイプのタンパク質によって検出されるN-アシルホモセリンラクトン(AHL)を使用する。グラム陽性菌のQSシグナル伝達は、主に環状又は直鎖状の小ペプチドに依存する。これらのペプチドは、膜結合センサーキナーゼによって検出されるか、遺伝子発現を伴うより複雑なメカニズムの結果として直接的に移入される。シグナル伝達分子である自己誘導物質-2(AI-2)は、種間及び種内の伝達に役割を果たす、より一般的なシグナルであると考えられている。
【0199】
さらに、複数のQSシステムを緑膿菌のような1つの細菌種に組み込むことができる。これには、N-3-オキソドデカノイルホモセリンラクトン(3OC12-HSL)依存性QS回路、N-ブタノイルホモセリンラクトン(C4-HSL)依存性QS回路、及び2-アルキル-4(1H)-キノロン依存性QS回路(las系、rhl系、及びpqs系)を組み込んだネットワークが使用される。pqs系は、2-ヘプチル-3-ヒドロキシ-4(1H)-キノロン(「シュードモナスキノロンシグナル」、PQS)をシグナル分子として使用する。las系は、チアゾールシグナルIQSの合成を制御する。緑膿菌はさらに、ピオベルジン及びDSF様の不飽和脂肪酸シグナルを使用して、遺伝子発現を調整する。
【0200】
病原性因子としては、バイオフィルム堆積、毒素分泌、及びプロテアーゼ産生などが挙げられる。上記の病原性因子は、宿主の免疫系と負の相互作用を有し、免疫複合体及び食作用性酵素を放出させ、広範囲の組織破壊及び炎症を引き起こす効果がある。
【0201】
細菌コロニー内のクオラムセンシングの存在は、細菌感染と密接な関係があると思われる。
【0202】
抗生物質とクオラムセンシング阻害剤との間には根本的な違いがある。細菌抵抗性の発生は、小分子である化学療法剤を克服するために細菌が迅速に組織化できるという事実に基づく。クオラムセンシングの阻害剤の場合、異なるシグナル伝達分子に基づく追加の伝達系の発達は複雑で時間のかかるプロセスであり、治療を効果的に行うのに十分な時間を与えることになる。クオラムセンシング変異体によって形成されたバイオフィルム又はクオラムセンシングの阻害剤で処理されたバイオフィルムは、抗生物質の作用に対してはるかに影響を受けやすいことが分かった。これにより、病原性因子のクオラムセンシング制御と組み合わせて、バイオフィルム慢性感染症に対する化学療法についての非常に魅力的な標的としてクオラムセンシングが注目される。
【0203】
クオラムクエンチング
本明細書で検討する戦略は、伝達を中断し、さらに細菌の病原性を低減するために、クオラムセンシング分子を標的とすることを目的としている。クオラムクエンチング(QQ)は、特定の化合物がクオラムセンシングにある程度干渉する能力を指す。
【0204】
クオラムクエンチング酵素は、クオラムセンシング伝達の分子を特定の方法で切断する。クオラムセンシング伝達分子の産生と競合することにより、組織の修復を誘発すると共に、バイオフィルムの形成及び炎症を低減させることができる。クオラムクエンチングに関する抗バイオフィルムの研究は、主に、クオラムセンシング阻害剤である細菌伝達を干渉することができる小分子の活性に焦点が当てられている。創傷治療のための小分子の利用には、いくつかの周知の欠点があり、それらには、体循環に入った後の身体区画との相互作用、かなり長い薬物開発期間、及びこのタイプの薬物は、非常に優れた酵素阻害剤、受容体リガンド、又はアロステリックモジュレーターであり得る事実が含まれる。
【0205】
小分子は、細胞内標的を標的とすることができ、転写レベル、又はクオラムセンシングに関与する受容体との相互作用に影響を与える。クオラムセンシングを制御する酵素の利用は、細胞外シグナル伝達分子を切断するためにそれらを標的化することを目的としており、クオラムセンシングを制御及び阻害する効果がある。
【0206】
クオラムセンシングの干渉は、通常は直接的に増殖に影響を与えないため、殺菌的戦略又は静菌的戦略と比較して、抵抗性を選択する可能性は低くなる。自然は、クオラムセンシングを妨害する様々なツールを進化させてきた。クオラムクエンチングは、原核生物又は真核生物の種がそれらの微生物群落の挙動を調整することを可能にし、自然発生的な現象から成る。大型紅藻類であるDelisea pulchraの場合、AHLと構造的類似性を示し、クオラムセンシング阻害剤として作用するハロゲン化フラノンを生成する。また、真核生物の宿主はクオラムセンシングを妨害することができる。実際、酵素触媒QQ戦略は広く使用され得る。
【0207】
クオラムセンシングペプチドを使用するグラム陽性黄色ブドウ球菌の場合、クオラムセンシング分子を標的にしない酵素は、クオラムセンシングに影響を与える。いくつかの酵素は、ペプチドを不活性化してQSに関連する病原性の減少を促進する効果によって、活性酸素及び窒素種を生成することができる。
【0208】
アスペルギルス・メレウスのアシラーゼは、細菌のシグナル伝達を効率的に中断することが示されているクオラムクエンチングタンパク質の一例である。したがって、病原菌によるバイオフィルムの堆積を制御、遅延、及び妨害する能力がある。アシラーゼは、スケールアップが可能な費用対効果の高いEDC/SNHSカップリング合成により、NFCに共有結合で固定化された。酵素への共有結合は、それらの安定性を改善し、経時的に酵素活性を維持する。
【0209】
バイオフィルムの堆積を制御するために、緑膿菌のバイオフィルム形成メカニズムを考慮することができる。緑膿菌のバイオフィルムの発達は、N-アシルホモセリンラクトンシグナル伝達分子の産生を通じて制御される。アシラーゼは、N-アシルホモセリンラクトン分子(自己誘導物質)を不可逆的に不活性化する、非常に費用対効果の高いタンパク質である。アシラーゼは、カテーテル及びその他の医療グレードの材料への緑膿菌バイオフィルムの堆積を積極的に制御するために極めて重要な役割を果たす。本明細書において、アシラーゼをナノセルロース膜に固定化し、慢性創傷から分離された細菌株である緑膿菌PAO1について材料の活性を試験した。
【0210】
クオラムクエンチングナノセルロース膜と緑膿菌の相互作用をさらに調べた。ナノファイバーマトリックス上のバイオフィルム堆積は、アラマーブルー(Alamar Blue)代謝活性アッセイによって推定した。細菌の代謝活性は、堆積したバイオフィルムの量に正比例すると考えられている。さらに、クオラムセンシング調節分子であるピオシアニンの量をモニターした。緑膿菌PAO1によるピオシアニン産生の減少は、クオラムセンシング伝達の効率が低下し、病原性因子の発現が低下した証拠である。
【0211】
結果は、クオラムクエンチングナノセルロース膜が緑膿菌堆積バイオフィルム及び病原性因子の発現の減少を促進することを示している。本明細書で調製された医療材料は、生理学的に適切な温度条件(3rC)及び生理学的pH値における材料上での24時間以上の細菌増殖後に有効であることが示された。本発明の材料は、創傷治癒目的に有利なバイオフィルム堆積を妨害することが可能であった。
【0212】
創傷治癒におけるクオラムセンシング
慢性創傷の最も重要な問題の1つは、バイオフィルムの存在及び病原性因子の発現である。したがって、抗生物質などの従来の抗菌化合物は、細菌抵抗性のためにその活性を失う。創傷の細菌コロニー形成を制御するために、細菌耐性から独立した新しいアプローチが必要である。細菌は、他で広く説明されているクオラムセンシングと称される複雑な伝達経路の結果として、アシル-ホモセリン-ラクトン(AHL)及び他の化合物などのシグナル分子を発現することができる。クオラムセンシングシグナル伝達は、バイオフィルム形成に影響を与えることが知られている。
【0213】
酵素機能化抗病原性デバイス及び作用機序の原理は、簡潔には以下の通りである。A)共生細菌は健康な皮膚に自然に存在し、病原性を持たずにシグナル分子を使用して伝達を行う。B)創傷の場合、前記細菌は増殖に有利な培地を有し、コロニー形成工程を開始する。C)細菌濃度が特定の閾値を超えると、前記細菌はその挙動を適応させ、運動性が低下し、バイオフィルムを合成し、病原性因子を分泌することにより、病原性を持ち始める。D)酵素含有デバイスはシグナル分子として加水分解し、病原性因子の分泌、バイオフィルムの合成、及び運動性を低下させることにより感染を防ぐ。
【0214】
したがって、多くの分子及び酵素が試験され、クオラムセンシングシグナル伝達に対して活性であることが判明し、クオラムクエンチング化合物と称されている。
【0215】
グラム陰性菌のクオラムセンシングシステムの簡略化された一般的なスキーム、及びQSを妨害する標的及び戦略としては、シグナル合成酵素(I)、又は拡散若しくは輸送によって細胞外環境に到達する化学シグナル分子を産生する一連の生合成酵素群が挙げられる。高シグナル分子濃度では、シグナル受容体(R)がシグナルと複合体を形成する。複合体はシグナルシンターゼ遺伝子(群)の発現を活性化し、一連の標的遺伝子群の転写を直接的又は間接的に調節する。
【0216】
フラノン誘導体などのいくつかのハロゲン化分子を試験したところ、クオラムセンシングシグナル伝達を誘発できる細菌構造に対して活性であることが判明したが、これらの化合物に対する細菌の抵抗性が報告されている。
【0217】
このため、クオラムクエンチング酵素は、有害なシグナル分子を不活性な化合物に変換することにより、バイオフィルムの形成及び病原性因子の発現を制御できるという点で、創傷内の細菌集団を制御するための有望なツールであることを示している。クオラムクエンチング酵素の3つの例示的なタイプとしては、AHLアシラーゼ、AHLラクトナーゼ、及びAHLに対して活性なオキシドレダクターゼが挙げられる。
【0218】
AHLラクトナーゼは、AHLをN-アシルホモセリン誘導体に変換する反応を触媒し、N-アシルホモセリン誘導体は酸性pHでAHLに再循環することができる。逆に、アシラーゼ反応生成物は機能的なQSシグナルを自発的に再生することができず、アシラーゼによって生成された脂肪酸は通常、容易に代謝される。上記の理由により、AHLアシラーゼは最も有望なクオラムクエンチング酵素群である。
【実施例
【0219】
材料及び方法
細菌株の取り扱い
緑膿菌PAO1 DSM 22644はDSMZ GmbH(ドイツ)から購入した。この菌株は感染した創傷から分離され、様々な条件下でのバイオフィルムの発達の試験に使用される。
【0220】
大腸菌MG1655はATCCから購入した。この菌株はピオシアニン色素を産生しておらず、対照として使用される。使用したバイオセーフティクラスII層流:KojairバイオセーフティキャビネットクラスIIシルバーライン。
【0221】
長期保存のためのグリセロールストックの調製
標準ストックから再構成した培養物は、再構成後できるだけ早く長期保存用のグリセロールストックを調製するために使用する必要がある。
【0222】
緑膿菌PAO1 DSM 22644標準ストックを5mlのTSB液体培地で増殖させ、+35~37℃で16~20時間インキュベートした。一定量の懸濁液(1ml)をバイアルあたり225μlの滅菌80%グリセロール(最終グリセロール濃度15%)を含む滅菌クライオバイアルに分注し、激しく混合した。バイアルは、グリセロールを添加した直後に-20℃の冷蔵ボックスに保管し、最後に-80℃へ移した。ストックの生存率は適切に試験した。
【0223】
グリセロールストックからの月次試験用培養株の調製
グリセロールストックからの月次試験用(MW)培養の開始
任意の有用な用具を層流キャビネットに入れた後、グリセロールストックを-80℃の冷凍庫から移動し、氷上に置く。種菌をループで前記ストックの表面から掻き取り、TSAスラントに画線する。前記ストックは、-80℃の冷凍庫に直ちに移動する必要がある。MWは、種データ、菌株番号、MWマーク、日付、イニシャルで標識した。前記スラントを+37℃でインキュベートし、24時間後に+2~8℃に移す。この手順を毎月繰り返す必要がある。
【0224】
グリセロールストックからの週次試験用培養株の調製
MW培養株からの月次試験用培養(WW)の開始
任意の有用な用具を層流キャビネットに入れた後、MW培養株を+2℃の冷蔵庫から移動する。種菌をループで前記ストックの表面から掻き取り、TSAスラントに画線する。WWは、種データ、菌株番号、WWマーク、日付、イニシャルで標識した。前記スラントを+37℃でインキュベートし、24時間後に+2~8℃に移す。この手順を毎週繰り返す必要がある。このWW培養株は、抗菌アッセイの種菌の調製に使用される。
【0225】
抗菌試験のための種菌の調製
WW培養物からの種菌の開始
アッセイの前日、WW培養物のコロニーを5mlのトリプシン大豆ブロスに接種し、軌道インキュベーター内において200rpmで振盪しながら+37℃で最低16時間、最大24時間インキュベートした。緑膿菌培養の場合、バイアルの周囲にアルミホイルを配置して、光が時間経過と共に色素の生成を妨げないようにすることが有用であることが分かった。
【0226】
固定化反応
アスペルギルス・メレウスからのアシラーゼ(P.コード01818)(>0.5U/mg)は、クオラムクエンチングタンパク質としてSigma-Aldrich社(フィンランド)から購入した。
【0227】
N-(3-ジメチルアミノプロピル)-N’-エチルカルボジイミド塩酸塩(EDC)及びN-ヒドロキシスルホスクシンイミドナトリウム塩(SNHS)は、Sigma-Aldrich社(フィンランド)から共役試薬として購入した。
【0228】
MES緩衝液は、Sigma-Aldrich社から購入したMES一水和物及びMESナトリウム塩を使用して調製した。MES緩衝生理食塩水は、MESバッファーと同じアプローチで調製し、塩化ナトリウムを最終濃度150mMで添加した。
【0229】
HEPES緩衝生理食塩水は、Sigma-Aldrich社から購入した4-(2-ヒドロキシエチル)ピペラジン-1-エタンスルホン酸(HEPES)を使用して調製した。
【0230】
木材から得られたナノフィブリルセルロースを試験に使用した。ナノフィブリルセルロースのロット119671917t、ロット11888、及びロット11885は、UPM-Kymmene社(フィンランド)から提供された。ロット11888及びロット11885は、アニオン性ナノフィブリルセルロースである。ロット119671917tは、Growdex(登録商標)として市販されている天然ナノフィブリルセルロースである。ロット11885及び11888は、表1で特徴付けられる通りである。
【0231】
【表1】
【0232】
レオロジー測定は37℃で、温度制御のためのペルチェ(Peltier)方式を備えたHAAKE Viscotester iQレオメーター(Thermo Fisher Scientific社、カールスルーエ、ドイツ)で実施した。結果はHAAKE RheoWin 4.0ソフトウェア(Thermo Fisher Scientific社)で分析した。全ての測定で、直径35mmの平行鋼板間の間隙が1mmの形状を使用した。各測定の前に、サンプルを37℃で5分間休ませた。制御された応力振幅掃引を実行して、様々なNFCヒドロゲル製剤の線形粘弾性領域を決定した。全ての振幅掃引で、一定の角周波数ω=1Hz及び0.0001~500Paの振動応力を使用した。周波数掃引に対して選択した振動応力は、τ=50Pa(3%NFCヒドロゲル)、τ=80Pa(5.7%NFCヒドロゲル)、及びτ=100Pa(6.5%NFCヒドロゲル)であり、角周波数範囲は0.6~125.7rad-1であった。剪断粘度は、剪断速度を0.1~1000(1/s)に増加させることにより測定した。
【0233】
レオロジー測定で使用した設定は以下の通りであった。
振幅:CSモード→線形粘弾性領域
・剪断応力振幅掃引、37℃、t=300秒ホールド→OSC振幅掃引、τ=0.0001~500Pa、f=1Hz(6.2832rad/s)
・log、16工程
周波数:CSモード
・剪断応力が一定の周波数掃引、37℃、t=300秒保持、
・τ=50Pa(3.2%)、τ=80Pa(5.7%)、及びτ=100Pa(6.8%)
・f=0.1~20Hz(すなわち、ω=0.6283rad/s~125.7rad/s)
・log、16工程
粘度:CRモード
・剪断速度(1/s)=0.1~1000
【0234】
ナノセルロース膜の調製
ナノセルロースストックゲルをMQ水で1%の濃度に希釈した。ナノセルロースの均質化プロセスは、Kinematica AG(スイス)のポリトロン(Polytron)PT3000ブレード型ホモジナイザーを使用して実施した。均質化の設定は、ゲル30mlごとに15000rpm及び3分間である。ゲルを穏やかに3分間振盪し、次に適切なガラス容器に一晩放置した。この単純なプロセスにより、均質化プロセス中に生じた気泡のほとんどが排除された。ポリトロンホモジナイザーによる均質化プロセスは、ナノフィブリルを化学変性に対してより反応性にし得る。
【0235】
次に、選択された量のアニオン性ナノセルロース1%ゲル(例えば、48ml)をパラフィルム表面上に分布させ、面積は6cm×10cmであった。アニオン性ナノセルロースの理想的な濃度は8mg/cmを選択した。値が高いほど、より濃縮された強い膜が提供される。ゲルは一晩乾燥する必要があり、ナノセルロースの不透明で剛性のフィルムが形成される。ナノセルロース膜は、金属の穴あけ器を使用して得られる。膜の直径は6mmであり、使用前にドライオートクレーブで滅菌される。
【0236】
ナノセルロース膜の変性
EDCは-20℃で保存し、SNHSは+4℃で保存した。EDC及びSNHSは、水と容易に反応する不安定な化合物であるため、不要な副反応の発生を回避するためにアルゴン雰囲気下で分子篩により適切な容器に保管した。EDC及びSNHSは、使用前に室温で完全に平衡化した。試薬の経時的な安定性を高めるために、EDCのストックを作成し、-20℃で保存した。ストックは、分子篩で1週間乾燥させた複数のバイアルで構成され、バイアルの重量を測定し、EDCを添加した。このアプローチでは、全てのEDCが解凍されるわけではなく、1回の使用で1つのバイアルが解凍され、その後簡単に廃棄できる。
【0237】
固定化反応を開始するために、EDCとSNHSとの濃縮溶液の必要量を試験管に追加することにより作成した。試験管へのMilli-Q(MQ)水の追加は、必要なすべての用具と材料が層流及び滅菌条件下で調製されるまで延期する必要がある。EDCとSNHSとの濃縮溶液を得るために、MQ水を適宜追加した。試験管を、PVDFフィルターで別のラベル付きの試験管に入れて迅速に滅菌し、使用前にボルテックスした。ストックから選択した量のEDCとSNHSとを、変性される材料(例えば、アニオン性ナノセルロース膜)及び最初の反応の間のpHを維持するための適切な量のMES緩衝液(pH6)を含む48ウェルプレートの各ウェルにピペッティングした。変性される材料のカルボン酸部分は、アミン反応性NHSエステルを得るためにEDC及びSNHSと反応することが可能である。このエステルは、pH6で最大6時間の水環境で一般に安定していると報告されている。活性化時間は、マルチウェルシェーカーにより500rpmで15分である。48ウェルプレートの膜を、pH6の500μlの滅菌MES緩衝液で3回リンスした。
【0238】
あらかじめタンパク質溶液を調製し、生理食塩水に一定量のアシラーゼを溶解した。緩衝液は固定化反応を妨害する必要はない。固定化反応を妨害する可能性のある反応基を含まないため、MES緩衝液を選択した。タンパク質を溶解する緩衝液を選択する場合は、さらに注意が必要である。緩衝液は、SHやNHなどの反応性化学基の存在を回避する必要があるだけでなく、金属結合を妨害する必要もなく、pH8のHEPES及びpH8の重炭酸塩が適している。例えば、リン酸緩衝生理食塩水は、金属酵素(例えば、アシラーゼ)の活性と広く相互作用し得るため実験には適しておらず、固定化反応には使用しなかった。タンパク質粉末用の的確な緩衝液担体を調合した後、洗浄プロセス後に、活性化物質を含む48ウェルプレートに一定量のタンパク質溶液を加えた。材料へのタンパク質の固定化には、少なくとも2時間必要である。固定化反応後、ウェルをpH8の500μlのHEPES緩衝液で3回リンスする。
【0239】
固定化膜の活性試験
固定化タンパク質の活性は、20mM N-アセチルメチオニン溶液で試験する。N-アセチルメチオニンはSigma-Aldrich社から購入した。HEPES緩衝生理食塩水は、20mM HEPES、20mM N-アセチルメチオニン、150mMの濃度のNaClを含んでいた。N-アセチルメチオニンの添加により低いpH値が決定されるため、N-アセチルメチオニンをpH8のHEPES緩衝生理食塩水に溶解し、pHメーターを用いて溶液のpHを8に調整する。調製したN-アセチルメチオニン溶液を、タンパク質を固定化した試験膜を含む96ウェルプレートに加えた。加熱機能を備えたマルチウェルシェーカーを使用して、250rpmで振盪しながら37℃で24時間にわたって活性をモニターした。緑膿菌培養物とインキュベートしたときにタンパク質を含む膜が経験する条件と同じになるように条件を維持した。24時間後、一定量のN-アセチルメチオニン溶液を試験管に移し、リン酸緩衝液(pH2)で1:40に希釈した。前記溶液をUPLC装置で分析し、変換されたメチオニンの量を計算する。タンパク質が結合し活性がある場合、N-アセチルメチオニンはメチオニンに変換される。使用した実験条件では、溶液中のN-アセチルメチオニンとDL-メチオニンとを区別することができた。
【0240】
方法の概要:流量0.5ml/分。注入量:2μl 移動相A:pH2の15mM KHPO。移動相B:アセトニトリル。アイソクラチィック分析:90%A/10%B。カラム温度:30℃。サンプルあたりの分析時間:2分。
【0241】
用具及び機器
Millex(登録商標)シリンジフィルター、直径33mm、PVDFメンブレン、孔径0.22μmは、Merck KGaA(ダルムシュタット、ドイツ)から購入した。
【0242】
滅菌Nunc未処理マルチディッシュ、製品コード150787、48ウェルプレート。
無菌処理マルチディッシュ、96ウェルプレート。
【0243】
透明な底部を備えた滅菌ブラックマルチディッシュ、96ウェルプレート。
【0244】
Varioskan LUX、Thermo Scientific社、マルチモードマイクロプレートリーダー。96ウェルプレート形式でサンプルの吸光度及び蛍光を測定するために使用。
種菌調製のための軌道インキュベーター:SI500。製造元:Stuart社(英国)。
【0245】
マルチウェルプレート用のサーモシェーカー:PST-60HL-4。製造元:bioSan社(ラトビア)。
【0246】
UPLC装置。名称:Acquity。製造元:Waters社(米国)。
【0247】
UPLC装置内で使用されるカラム。名称:Primesep100。粒径:5μm。ID:2.1×50mm。製造元:SieIc Tech社(米国)。
【0248】
バイオフィルム定量アッセイ
アラマーブルー(alamarBlue(商標))Cell Viability Reagent溶液はInvitrogen社から購入した。アラマーブルーは、確立された広く使用されている細胞代謝活性指標で、1993年から利用されている。本試験では、試験された材料の表面に堆積したバイオフィルム内の生菌の量を評価するために使用した。アラマーブルーの溶液は、細胞透過性、非毒性、及びレザズリンと呼ばれる弱い蛍光を示す青色のインジケーター色素を含む細胞生存率アッセイ試薬である。レザズリンは、細胞の代謝低下に応答してレゾルフィンに変換される。この酸化還元インジケーターは、酸化された状態では青色であり、還元された状態ではピンク色である。さらに、還元型は非常に蛍光性が高く、560nmの励起波長及び590nmの発光波長で検出される。
【0249】
生成される蛍光の強度は、生細胞の数に正比例し、細胞生存率及び細胞毒性パラメーターを定量的に反映する。
【0250】
表面(バイオフィルム)に付着した細菌細胞は、リン酸緩衝生理食塩水にアラマーブルー溶液を添加し、37℃で2~4時間インキュベートした後で調べた。
【0251】
仮説は、上記の蛍光の値が低いことは、試験した材料へのバイオフィルム堆積が低いことを反映するというものであった。
【0252】
試験膜は以下を含むものであった。
1.アシラーゼ変性アニオン性ナノセルロース膜
2.ナノセルロース膜に固定化した非クオラムクエンチング分子(ウシ皮膚のアルブミン又はゼラチン)
3.未変性アニオン性ナノセルロース膜
4.Pur-Zellinセルロース膜(一部の実験で示す)。
【0253】
これらの膜を無菌ピンセットで無菌NUNC48ウェルプレートに挿入し、緑膿菌PAO1(上記のように調製)の液体培養物と37℃で、異なる振盪値(rpm)で24時間インキュベートした。
【0254】
前記膜をBlack96ウェルプレートに注意深く移し、滅菌リン酸緩衝生理食塩水で3回リンスした。アラマーブルーの溶液は、10倍のストックを使用し、滅菌PBSで1倍に希釈し、溶液と光の相互作用を防ぐために必要に応じてアルミホイルを使用して調製した。アラマーブルー1倍溶液(200μl)を各ウェルに添加し、37℃、250rpmで2~4時間インキュベートし、膜をウェルから除去し、蛍光を液体溶液から測定した。
【0255】
ピオシアニン測定アッセイ
緑膿菌は、リポ多糖、プロテアーゼ、外毒素、ピオシアニン、菌体外多糖類などの様々な病原性因子を産生可能な日和見病原体である。細胞外病原性因子の多くは、クオラムセンシングシグナルによって調節されることが示されている。
【0256】
その結果、上記の病原性因子の1つの定量化は、緑膿菌のクオラムセンシングプロセスを研究するための有用な方法である。
【0257】
ピオシアニンは緑の疎水性分子で、指数増殖期に達した後、緑膿菌株によってイン・ビトロで産生される。ピオシアニンはジクロロメタンを使用して培地から抽出され、388nmでの吸光度測定を使用して検出可能とするように、0.2NのHClでピンク色の生成物に変換される。
【0258】
前記試験膜を24時間インキュベートした後、450μlのジクロロメタンを含む試験管に150μlの各培養物を3連で加えた。選択した方法を使用してピオシアニンを確実に検出できるように、サンプルの種類ごとに合計450μlを1本の試験管に加えた。
【0259】
この段階では、下部にジクロロメタンがあり、培地が上部にある。各エッペンドルフチューブを10秒間激しくボルテックスし、6000rpmで5分間遠心分離した。次に、各試験管内の300μlのジクロロメタン溶液を、300μlの0.2NのHClを含む別の試験管に移した。正確なピペッティングを確実にするために、チップからのジクロロメタンの漏出を防ぐために、チップをジクロロメタンであらかじめ調整する必要があった。ボルテックス及び遠心分離工程を再度繰り返した。
【0260】
次に、100μlの0.2NのHCl溶液のそれぞれを96ウェルプレートに移し、388nmでの吸光度をモニターした。
【0261】
結果
ロット119171917tナノセルロース膜(UPM)の検討
119671917t膜上への緑膿菌バイオフィルムの堆積を、アラマーブルー代謝活性アッセイ及び前述の方法を使用したピオシアニン定量を使用して検討した。ロット119671917tナノセルロースの量は10mlであり、緑膿菌に対する変性物質の活性全体を試験するために使用した。
【0262】
検討したパラメーターは、タンパク質溶液のpH値の影響及びアシラーゼの精製であった。
【0263】
図3に報告されているように、膜に結合した緑膿菌バイオフィルムの代謝活性に対して、MES緩衝液中のアシラーゼ溶液の種々のpH値を試験した。
【0264】
各ウェルのEDC溶液の濃度は20mMであったが、スルホ-NHSの濃度は30mMであった。活性化時間は700rpmで30分であった。ナノセルロース膜の活性化後、各ウェルを600μlの20mMMES緩衝液(pH6)でリンスし、この工程を2回繰り返した。アシラーゼの溶液をリンスした各ウェルに250μl添加した。固定化時間は、500rpmの振盪で3時間であった。固定化反応後、各ウェルを800μlの20mMグリシン緩衝液(pH6.5)でリンスした。アルブミンはクオラムクエンチングタンパク質ではないため、対照として使用し、アシラーゼと同じアプローチを使用して固定化した。
【0265】
図4は、緑膿菌バイオフィルムの代謝活性を示す。パラメーターはアシラーゼの精製レベルであった。精製アシラーゼ溶液は、カットオフが10kDaのSnake Skin(Thermo Fisher社)透析チューブを使用した透析によって得られた。20mlのタンパク質溶液を透析バッグに挿入し、20℃で攪拌しながら2リットルのグラスに入れた。使用した緩衝液は、MES(pH7)であった。緩衝液を加えた後、タンパク質溶液からの不要な分子の除去を1週間行った。緩衝液を毎日除去した。
【0266】
図5で報告されているように、病原性因子の産生及びナノセルロース膜の効果的なクオラムクエンチングを試験した。
【0267】
緑膿菌培養物及び試験した膜を含む各ウェルに対して、150μlを取り、450μlのジクロロメタンを含む試験管に挿入した。産生したピオシアニンのレベルが非常に低く、各3連(すなわち、150μl×3)が1つの試験管に再統合されたため、試験は3連で実施しなかった。残りの工程は、材料及び方法の章で利用可能である。
【0268】
データの正規化は、ピオシアニンの最大量がウェル内に膜のない緑膿菌培養物によって生成されるという事実に従って実施した。
【0269】
11888ナノセルロース膜(UPM)の検討
ナノセルロースロット11888を使用して、11888ナノセルロース膜上の固定化アシラーゼの活性、緑膿菌バイオフィルムの代謝活性、及びピオシアニン定量を検討した。残念ながら、UPLC DL-メチオニン定量では活性は測定されず、アラマーブルー及びピオシアニン定量では有望な結果は得られなかった。結果は示していないが、こういった理由でロット11885を検討した。
【0270】
11885ナノセルロース膜(UPM)の検討
ナノセルロースロット11885を使用して、11885ナノセルロース膜上の固定化アシラーゼの活性、緑膿菌バイオフィルムの代謝活性、及びピオシアニン定量を検討した。11885の固定化アシラーゼの活性をUPLCで検討し、いくつかのパラメーターを分析した。N-アセチルメチオニン、緩衝液、及びタンパク質を含まない試薬を含む対照を使用し、データは示していない。ピオシアニンの定量結果を図12に示す。
【0271】
滅菌方法の効果(図6)、EDC及びスルホ-NHSの活性化時間(図7)、様々なアシラーゼ活性化金属の役割(図8)、+4℃での経時的安定性(図9及び図10)、及びタンパク質固定化前後の溶液をクエンチングする効果(図11)。
【0272】
図4は、固定化アシラーゼの活性に対する様々な滅菌方法の効果を示した図である。N-アセチルメチオニン変換の時点は24時間である。
【0273】
各ウェルのEDCの濃度は65mMであり、スルホ-NHSは18mMであった。固定化反応は500rpmで4時間行った。反応後、各ウェルをHEPES緩衝液(pH8)でクエンチングした。N-アセチルメチオニン変換の時点は24時間である。
【0274】
図7は、ナノセルロース誘導体化時間の様々な影響を示した図である。EDC及びスルホ-NHSは、それぞれ66mM及び13mMの濃度であった。固定化反応は4時間で行った。必要に応じて、アシラーゼを150mM NaClを含むMES緩衝液(pH6)に溶解し、150mM NaClを含むMES(pH6)を使用してタンパク質を透析した。
【0275】
タンパク質溶液、EDC、及びスルホ-NHSの添加後15分間、30分間、添加後即時、試薬をナノセルロースと反応させ試験した。N-アセチルメチオニン変換の時点は4時間である。
【0276】
金属イオンが金属酵素に及ぼす影響は広く知られており、アシラーゼ酵素についても同様である。図8に示すように、塩化コバルト六水和物の効果、塩化マグネシウムの効果、及び活性化金属を含まない場合の効果を試験した。
【0277】
塩化コバルト六水和物の濃度は0.5mMであり、塩化マグネシウムの濃度は1mMであった。濃度は、タンパク質の提供元(Sigma-Aldrich社)の指示に従って選択した。
【0278】
さらに、様々なpH値を試験したが、タンパク質は精製されなかった。異なるpH値ではプロトン化レベルが異なるため、異なるpH値はタンパク質分子のN末端アミンの反応性を制御すると考えられる。EDC及びスルホ-NHSの濃度は、合成方法1(S1、図8A)及び合成方法2(S2、図8B)とは異なっていた。S1は、40mMの濃度のEDC及び10mMの濃度のスルホ-NHSの利用を示す。条件S2は、10mMの濃度のEDC及び40mMの濃度のスルホ-NHSを有していた。
【0279】
タンパク質粉末を添加した後、各タンパク質溶液のpH値を確認した。塩化コバルトを150mMの濃度でMQ水に溶解し、次にアリコートをタンパク質溶液バイアルに移した。塩化マグネシウムを200mMの濃度でMQ水に溶解し、次にアリコートをタンパク質溶液バイアルに移した。
【0280】
固定化タンパク質の安定性を調べた。さらに、タンパク質の安定性に対するS1及びS2のパラメーターの影響を検討した。
【0281】
図9は、2週間後の活性の定量化を示した図である。アシラーゼを11885膜に固定化し、さらに+4℃で2週間、20mM HEPES(pH8)、150mM NaClに保存した。実験前に、膜を20mM HEPES(pH8)、150mM NaClで3回リンスした。
【0282】
図10で報告されているように、固定化アシラーゼを有する滅菌膜及び未滅菌膜を、HEPES緩衝液(pH8)中で1カ月後に試験した。使用した緩衝液は、150mM NaCl(pH6)を含む20mM MES(pH6)、150mM NaCl(pH7)を含むpH7の20mM HEPES、及び150mM NaCl(pH7.5)を含む20mM HEPES(pH7.5)であった。
【0283】
適切にクエンチングされない場合、反応種がアシラーゼ活性を妨害する可能性があることを考慮して、2-メルカプトエタノール(BME)を使用して、EDC及びスルホ-NHSによるナノセルロースの活性化及び誘導体化の後、ウェル内の任意の反応性EDCをクエンチングした(図11)。さらに、2つの異なるpH緩衝液を使用して、アシラーゼの固定化後に膜をリンスする際に使用されるわずかに異なるpH値の影響を確認した。
【0284】
pHを8よりも高くすると、形成されたNHSエステルが加水分解されることが報告されている。BMEは60mMの濃度で使用した。pH8の緩衝液は、20mM HEPES緩衝生理食塩水、150mM NaClであった。pH8.6の緩衝液は、150mM NaClを含む20mM 重炭酸塩緩衝液であった。アシラーゼによる固定化反応は2時間行った。BMEによるクエンチングは10分間行った。緩衝液でのクエンチングは一晩(約14時間)行う。
【0285】
緑膿菌の代謝活性の測定は、図13に示すように、アラマーブルー代謝活性インジケーターを使用して行った。
【0286】
試験した条件は以下の4つである。
C1:BMEによる過剰なEDCの不活性化なし、pH8のHEPESによる一晩の最終的なクエンチング。
C2:60mM BMEによる10分間の過剰なEDCの非活性化、20mM HEPES、150mM NaClによるpH8での一晩の最終的なクエンチング。
C3:BMEによる過剰なEDCの不活性化なし、20mM 重炭酸緩衝液、150mM NaClによるpH8.6での一晩の最終的なクエンチング。
C4:60mM BMEによる10分間の過剰なEDCの非活性化、20mM 重炭酸緩衝液、150mM NaClによるpH8.6での一晩の最終的なクエンチング。
【0287】
EDC濃度は40mMであり、スルホ-NHS濃度は10mMであった。非特異的相互作用を低減するために、アルブミンの代わりにゼラチンを使用した。ウシ皮膚由来のゼラチン(タイプB)は、Sigma-Aldrich社から購入した。ゼラチン溶液は、20mM MES緩衝液(pH6)中に1mg/mlの濃度でゼラチンを溶解して得られた。緑膿菌バイオフィルムの代謝活性の測定は、様々なパラメーターを用いて実施した。結果は図14に示す通りである。
【0288】
アシラーゼを20mM MES緩衝液(pH6)中に10mg/mlの濃度で溶解し、精製は行わなかった。塩化コバルトを0.5mMの濃度で添加した。添加したEDC及びスルホ-NHSは、それぞれ40mM及び10mMの濃度であった。EDC及びスルホ-NHSによる活性化時間は15分間であり、アシラーゼ固定化時間は3時間であった。
【0289】
考察
前章で示したデータに基づいて、異なるナノセルロースのロットにより、固定化収量及びクオラムクエンチング活性が異なることが明らかになった。
【0290】
ロット119671917tは、細菌性バイオフィルムの発達にロット11885とは異なる影響を与えた。
【0291】
ロット119671917tへのアシラーゼの固定化により、タンパク質溶液がpH7の場合(図3)にバイオフィルムが69%減少し、精製タンパク質溶液を使用した場合(図4)に59.6%減少し、非精製タンパク質溶液を使用した場合に47.8%減少した(図4)。さらに、ピオシアニンレベルは最大55%減少した(図5)。
【0292】
さらに得られた結果はロット11885に基づくものであったが、有望なデータが得られなかったため、ロット11888は破棄した。
【0293】
11885ナノセルロース及びアシラーゼに基づくクオラムクエンチングデバイスを得るために、アシラーゼの固定化により良い条件を達成し、さらにナノセルロース膜表面に結合した後もその活性を維持するために、活性試験を行った。
【0294】
ナノセルロース膜上の固定化アシラーゼの活性に関する最初の成功を示すデータは、図7に記載の通りである。限られた時間で、変換されたDL-メチオニンの存在をモニターすることが可能であった。
【0295】
さらに、滅菌プロセスは、良好な創傷治癒に関連する材料の開発に重要な役割を果たす。N-アセチルメチオニンに対する活性に関して、オートクレーブ処理、エタノール滅菌、滅菌なしの間に違いは認められなかった。
【0296】
反応から生成される可能性のある変性分子のクエンチングプロセスは、固定化アシラーゼの活性の増大には効果的でないことが示された(図11)。
【0297】
金属で活性化された膜を+4℃で2週間保存して、保存及び金属イオンが安定性に及ぼす影響をモニターした。パーセンテージの中央値に基づいて、非活性化膜は2週間後に20.4%の活性を維持したが、コバルトは13%活性化し、マグネシウムは22%活性化した(図8A及び図9A)。遊離タンパク質は通常、いくつかの化学的及び物理的分解プロセスを受ける一方、固定化酵素は通常、完全に活性を失うことなく、その活性を維持する。
【0298】
新たに調製された膜を考慮すると、滅菌プロセスは固定化アシラーゼの活性に重要な役割を果たしていないと思われ、反応部位は固定化反応のために維持されているようである。
【0299】
長期安定性に関しては、この傾向は変化していると思われる。膜をHEPES緩衝液中で+4℃で1か月間保存した。アシラーゼを固定化したオートクレーブ処理した膜は、その活性の93%を失った(図10A)。アシラーゼで変性されたエタノール滅菌膜では、65%の活性が低下した(図10A)。アシラーゼで変性された非滅菌膜を考慮すると、同様の傾向が維持され、それらの活性は69%減少する(図10A)。
【0300】
緑膿菌に対する11885ナノセルロースに固定化されたアシラーゼの活性に関して、結果はロット119671917から得られたものと同等ではなかった。ピオシアニンの定量化により、病原性発現低下が低減した。
【0301】
アラマーブルー代謝活性テストは、高pHのクエンチング緩衝液(pH8.6の重炭酸塩バッファー)が固定化アシラーゼの活性に影響を与え、バイオフィルムの堆積が条件3で87%減少し、条件4を考慮すると75%減少することを示唆している(図13)。前章で述べた条件で追加の試験を実施した場合、その結果を繰り返すことができなかった。
【0302】
結論
本明細書では、創傷治癒の目的で、緑膿菌のクオラムセンシングを効果的にクエンチングする固定化アシラーゼの能力を検討した。細菌の付着を効率的に抑制し、抗生物質抵抗性の高い発生率を低減する材料及びコーティングの完全な開発は、困難な課題である。
【0303】
全体として、固定化反応を理解し、プロジェクトをさらに発展させるための確かなプロトコルの開発につながる最良の条件を得るために、様々な手法を使用した。
【0304】
クオラムクエンチングナノセルロース材料の特性は、3つの異なるナノセルロースロットを使用して検討した。1196719171tロットを試験する際に、有望な活性を認めた。同じ結果は、11888ロットによっても、部分的にはロット11885によっても達成されなかった。試験したロット間の化学的差異により、異なる結果を説明することができた。
【0305】
UPLCを用いたN-アセチルメチオニンによる活性アッセイから、タンパク質がナノセルロース11885に固定化されており、安定していることを確認できた。また、1カ月後に活性を回復することも可能であった。
【0306】
考えられる全てのタンパク質の中で、アシラーゼは非常に低コストであり、安定性が報告されているため選択した。EDC及びスルホ-NHSに基づく化学変性は、材料に対して選択的かつ効率的で毒性がないと考えられる。
【0307】
材料上のバイオフィルムの測定には多くの困難があるため、アラマーブルーアッセイは、膜上の緑膿菌の代謝活性を検討する迅速な方法として確認された。時間経過と共に分泌された病原性因子ピオシアニンの量を決定することも可能であった。
本開示に係る態様は以下の態様も含む。
<1>
ナノフィブリルセルロースを提供すること、
生物活性分子を提供すること、及び
前記生物活性分子を前記ナノフィブリルセルロースに共有結合させること
を含む、皮膚などの組織を覆うための医療製品を調製する方法。
<2>
前記ナノフィブリルセルロースを含む少なくとも1つの層を調製することを含む、<1>に記載の方法。
<3>
第一級アミン又はスルフヒドリル基を介して前記共有結合を形成することを含む、<1>又は<2>に記載の方法。
<4>
水性媒体中で前記共有結合を形成することを含む、<1>~<3>のいずれか一項に記載の方法。
<5>
前記生物活性分子は、酵素などのタンパク質、ペプチド、核酸、ホルモン、サイトカイン、光増感分子、及び抗癌剤から選択される、<1>~<4>のいずれか一項に記載の方法。
<6>
前記生物活性分子は、アシラーゼ、アミダーゼ、アミラーゼ、サブチリシンA、ラクトナーゼ、又はオキシドレダクターゼなどのクオラムクエンチングタンパク質である、<1>~<5>のいずれか一項に記載の方法。
<7>
0~20%(w/w)の範囲内の含水率、例えば1~10%(w/w)の範囲内の含水率、例えば5~7%(w/w)の範囲内の含水率などで前記ナノフィブリルセルロースを提供すること、又は前記ナノフィブリルセルロースの含水率を前記範囲内に調整することを含む、<1>~<6>のいずれか一項に記載の方法。
<8>
ガーゼを提供すること、及び前記ナノフィブリルセルロースを前記ガーゼに組み込むことを含む、<1>~<7>のいずれか一項に記載の方法。
<9>
前記ナノフィブリルセルロースは、水に分散された場合に、20℃±1℃の温度、0.8%(w/w)の濃度、及び10rpmで測定したブルックフィールド粘度が、2000mPa・s以上(3000mPa・s以上など)、例えば10000mPa・s以上である、<1>~<8>のいずれか一項に記載の方法。
<10>
前記ナノフィブリルセルロースは、フィブリル平均直径が1~200nmの範囲内である、<1>~<9>のいずれか一項に記載の方法。
<11>
前記ナノフィブリルセルロースは、アニオン変性ナノフィブリルセルロース、カチオン変性ナノフィブリルセルロース、未変性ナノフィブリルセルロース、及びTEMPO酸化ナノフィブリルセルロースなどの酸化ナノフィブリルセルロースから選択される、<1>~<10>のいずれか一項に記載の方法。
<12>
前記医療製品を膜、パッチ、絆創膏、包帯、創傷被覆材、若しくはフィルターに形成すること、又は絆創膏、パッチ、若しくは創傷被覆材の一部に形成すること、を含む、<1>~<11>のいずれか一項に記載の方法。
<13>
ナノフィブリルセルロースに共有結合した生物活性分子を含む、皮膚などの組織を覆うための医療製品。
<14>
前記ナノフィブリルセルロースは層として存在する、<13>に記載の医療製品。
<15>
80~99.9%(w/w)の範囲内又は50~99.8%(w/w)の範囲内、例えば90~99.8%(w/w)の範囲内の含水率を有する、<14>に記載の医療製品。
<16>
0~20%(w/w)の範囲内(1~10%(w/w)の範囲内など)の含水率、例えば5~7%(w/w)の範囲内の含水率を有する、<14>に記載の医療製品。
<17>
前記生物活性分子は、酵素などのタンパク質、ペプチド、核酸、ホルモン、サイトカイン、光増感分子、及び抗癌剤から選択される、<13>~<16>のいずれか一項に記載の医療製品。
<18>
前記生物活性分子は、アシラーゼ、アミダーゼ、アミラーゼ、サブチリシンA、ラクトナーゼ、又はオキシドレダクターゼなどのクオラムクエンチングタンパク質である、<13>~<17>のいずれか一項に記載の医療製品。
<19>
前記ナノフィブリルセルロースがゲルとして存在し、好ましくは90~99.8%(w/w)の範囲内の含水率を有する、<13>~<15>又は<17>~<18>のいずれか一項に記載の医療製品。
<20>
前記ナノフィブリルセルロースは、水に分散された場合に、20℃±1℃の温度、0.8%(w/w)の濃度、及び10rpmで測定したブルックフィールド粘度が、2000mPa・s以上(3000mPa・s以上など)、例えば10000mPa・s以上である、<13>~<19>のいずれか一項に記載の医療製品。
<21>
前記ナノフィブリルセルロースは、フィブリル平均直径が1~200nmの範囲内である、<13>~<20>のいずれか一項に記載の医療製品。
<22>
不織布ガーゼなどのガーゼを含み、好ましくはナノフィブリルセルロースの2つ以上の層を含む、<13>~<21>のいずれか一項に記載の医療製品。
<23>
<1>~<12>のいずれか一項に記載の方法で得られる<13~22のいずれか一項に記載の医療製品。
<24>
膜、ゲル、パッチ、絆創膏、包帯、創傷被覆材、若しくはフィルターとしての形態、又は絆創膏、パッチ、若しくは創傷被覆材の一部としての形態である、<13>~<23>のいずれか一項に記載の医療製品。
<25>
ヒト対象などの対象の治療に使用するための、<13>~<24>のいずれか一項に記載の医療製品。
<26>
前記生物活性分子がクオラムクエンチングタンパク質であり、前記治療が細菌性バイオフィルム形成を抑制又は防止するためのものである、<25>に記載の医療製品。
<27>
皮膚の創傷又は他の損傷若しくは傷害の治療に使用するための、<25>に記載の医療製品。
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7
図8A
図8B
図9A
図9B
図10A
図10B
図11
図12
図13
図14