(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-15
(45)【発行日】2024-01-23
(54)【発明の名称】融着接続装置及び融着接続方法
(51)【国際特許分類】
G02B 6/255 20060101AFI20240116BHJP
【FI】
G02B6/255
(21)【出願番号】P 2020571034
(86)(22)【出願日】2019-12-23
(86)【国際出願番号】 JP2019050417
(87)【国際公開番号】W WO2020162064
(87)【国際公開日】2020-08-13
【審査請求日】2022-07-21
(31)【優先権主張番号】P 2019018759
(32)【優先日】2019-02-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000110309
【氏名又は名称】住友電工オプティフロンティア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100136722
【氏名又は名称】▲高▼木 邦夫
(74)【代理人】
【識別番号】100174399
【氏名又は名称】寺澤 正太郎
(72)【発明者】
【氏名】明尾 亮佑
(72)【発明者】
【氏名】高柳 寛
(72)【発明者】
【氏名】中村 昌平
【審査官】野口 晃一
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-318742(JP,A)
【文献】特開2003-021744(JP,A)
【文献】特開2005-010769(JP,A)
【文献】特開2004-029228(JP,A)
【文献】特開昭56-078812(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0031098(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 6/24
6/255
6/36-6/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の第1光ファイバの各端面と複数の第2光ファイバの各端面とをアーク放電によって溶融して互いに融着接続する融着接続装置であって、
それぞれ先端を有し、第1方向に延びる中心線上に前記先端同士が対向して配置される第1電極及び第2電極であって、前記第1電極が第1電位を有し且つ前記第2電極が前記第1電位より低い第2電位を有し、前記先端間にアーク放電を発生するように構成される、第1電極及び第2電極と、
前記複数の第1光ファイバと前記複数の第2光ファイバとを収納可能であって前記第1方向と交差する第2方向に延びる複数の溝を有し、前記第1方向において前記第1電極及び前記第2電極の間に配置される光ファイバ配置部と、
前記第1方向において前記第1電極及び前記第2電極の間であって前記複数の溝から離れて設けら
れ、前記第1電位よりも低く且つ前記第2電位よりも高
い電位を有し、前記第1方向において前記第1電極及び前記第2電極の一方との最短距離よりも前記第1電極及び前記第2電極の他方との最短距離が短い位置となるように配置される
第1導電部材と、
前記第1方向において前記第1電極及び前記第2電極の間であって前記複数の溝から離れて設けられ、前記第1電位よりも低く且つ前記第2電位よりも高い電位を有し、前記第1方向において前記第1電極及び前記第2電極の一方との最短距離よりも前記第1電極及び前記第2電極の他方との最短距離が短い位置となるように配置される第2導電部材と、を備え、
前記第1導電部材及び前記第2導電部材は、前記第2方向に対向して配置され、
前記第1方向及び前記第2方向の双方と直交する第3方向から見て、前記第1導電部材及び前記第2導電部材は前記中心線の両側に配置され、
前記光ファイバ配置部は、前記第3方向において前記中心線の上方に位置し、
前記第1導電部材及び前記第2導電部材は、前記第3方向において前記中心線の下方に位置する、融着接続装置。
【請求項2】
前記第1導電部材は、前記第1方向において前記第2電極との最短距離よりも前記第1電極との最短距離が短い位置となるように、配置される、
請求項1に記載の融着接続装置。
【請求項3】
前記
第1導電部材及び前記第2導電部材の少なくとも一方が設定される前記電位は、前記第1電位と前記第2電位との平均電位である、
請求項1または請求項2に記載の融着接続装置。
【請求項4】
前
記第3方向から見て、前記複数の溝と前記第1導電部材とが少なくとも一部において互いに重なる、
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の融着接続装置。
【請求項5】
前
記第3方向に延在し、前記第1導電部材を支持する導電性の柱状の第1支持部材を更に備え、
前記第1導電部材は、前記第1方向を厚み方向とする板状を呈し、前記第1支持部材の先端部から延出しており、
前記第1支持部材の基端部は前記
第1導電部材が設定される前記電位を有する定電位線と電気的に接続されている、
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の融着接続装置。
【請求項6】
前記第1導電部材の前記第1方向における厚みは、前記第1支持部材の前記第1方向における厚みよりも薄い、
請求項5に記載の融着接続装置。
【請求項7】
前記第1導電部材の厚みは0.5mm以上4.0mm以下である、
請求項5または請求項6に記載の融着接続装置。
【請求項8】
前記第1導電部材と前記第1支持部材とは連続して形成される一体物である、
請求項5から請求項7のいずれか1項に記載の融着接続装置。
【請求項9】
前記第1電極及び前記第2電極と前記光ファイバ配置部とをその上に搭載する本体を更に備え、
前記本体には、前記第1方向において前記第1電極及び前記第2電極の間に位置する第1保持孔が設けられており、前記第1導電部材及び前記第1支持部材の少なくとも一部が前記第1保持孔に挿入されて保持される、
請求項5から請求項8のいずれか1項に記載の融着接続装置。
【請求項10】
前記第1導電部材及び前記中心線の間の距離と、前記第2導電部材及び前記中心線の間の距離とは互いに等しい、
請求項1
から請求項9のいずれか1項に記載の融着接続装置。
【請求項11】
前
記第3方向に延在し、前記第2導電部材を支持する導電性の柱状の第2支持部材を更に備え、
前記第2導電部材は、前記第1方向を厚み方向とする板状を呈し、前記第2支持部材の先端部から延出しており、
前記第2支持部材の基端部は前記
第2導電部材が設定される前記電位を有する定電位線と電気的に接続されている、
請求項
1から請求項10のいずれか1項に記載の融着接続装置。
【請求項12】
前記第3方向に延在し、前記第2導電部材を支持する導電性の柱状の第2支持部材を更に備え、
前記第2導電部材は、前記第1方向を厚み方向とする板状を呈し、前記第2支持部材の先端部から延出しており、
前記第2支持部材の基端部は前記第2導電部材が設定される前記電位を有する定電位線と電気的に接続されており、
前記第1導電部材は、前記第3方向から見た場合に、前記第1支持部材から前記第2導電部材に向かって突出するように形成されており、
前記第2導電部材は、前記第3方向から見た場合に、前記第2支持部材から前記第1導電部材に向かって突出するように形成されている、
請求項5から請求項9のいずれか1項に記載の融着接続装置。
【請求項13】
前記第1導電部材は、前記第3方向から見た場合に、前記中心線に関して前記第2導電部材と線対称な形状を有し、
前記第1導電部材は、前記第3方向から見た場合に、前記中心線に関して前記第2導電部材と線対称な位置に設けられている、
請求項1から請求項12のいずれか1項に記載の融着接続装置。
【請求項14】
前記第1導電部材及び前記第2導電部材は、前記第3方向に沿ってそれぞれ延在している、
請求項1から請求項13のいずれか1項に記載の融着接続装置。
【請求項15】
請求項1から請求項1
4のいずれか1項に記載の融着接続装置を用いて、前記複数の第1光ファイバの各端面と複数の第2光ファイバの各端面とを融着接続する融着接続方法であって、
前記複数の第1光ファイバに対応する前記複数の溝に前記複数の第1光ファイバを配置する工程と、
前記複数の第2光ファイバに対応する前記複数の溝に前記複数の第2光ファイバを配置する工程と、
前記複数の第1光ファイバの各端面と前記複数の第2光ファイバの各端面とを前記第1電極の前記先端と前記第2電極の前記先端との間の領域において対向させる工程と、
前記第1電極及び前記第2電極の間にアーク放電を生じさせて前記複数の第1光ファイバの各端面と前記複数の第2光ファイバの各端面とを溶融して互いに融着接続させる工程と、を備え、
前記融着接続させる工程において、前記第1導電部材及び前記第2導電部材の少なくとも一方には、前記第1電位よりも低く且つ前記第2電位よりも高い前
記電位が供給される、融着接続方法。
【請求項16】
前記複数の第1光ファイバを配置する工程及び前記複数の第2光ファイバを配置する工程の少なくとも一方の工程と、前記対向させる工程とが同時に行われる、
請求項1
5に記載の融着接続方法。
【請求項17】
複数の第1光ファイバの各端面と複数の第2光ファイバの各端面とを融着接続する方法であって、
それぞれ先端を有し、第1方向に延びる中心線上に前記先端同士が対向して配置される第1電極及び第2電極と、
前記複数の第1光ファイバと前記複数の第2光ファイバとを収納可能であって前記第1方向と交差する第2方向に延びる複数の溝を有し、前記第1方向において前記第1電極及び前記第2電極の間に配置される光ファイバ配置部と、
前記第1方向において前記第1電極及び前記第2電極の間であって前記複数の溝から離れて設けられる第1導電部材と、前記第1方向において前記第1電極及び前記第2電極の間であって前記複数の溝から離れて設けられる第2導電部材と、を用い、
前記
第1電
極を第1電位とし、前記
第2電
極を前記第1電位より低い第2電位として、前記
第1電極及び前記第2電極の間にアーク放電を発生させると共に、
前記
第1導電部材及び前記第2導電部材を、前記第1電位より低く前記第2電位より高
い電位とし、且つ、前記第1方向において前記
第1電極及び前記第2電極の一方との最短距離よりも前記
第1電極及び前記第2電極の他方との最短距離が短い位置に配置
し、
前記第1導電部材及び前記第2導電部材を、前記第2方向に対向して配置し、
前記第1方向及び前記第2方向の双方と直交する第3方向から見て、前記第1導電部材及び前記第2導電部材を前記中心線の両側に配置し、
前記光ファイバ配置部を、前記第3方向において前記中心線の上方に位置させ、
前記第1導電部材及び前記第2導電部材を、前記第3方向において前記中心線の下方に位置させる、融着接続方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、融着接続装置及び融着接続方法に関する。
本出願は、2019年2月5日出願の日本出願第2019-018759号に基づく優先権を主張し、前記日本出願に記載された全ての記載内容を援用する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1及び特許文献2には、多芯光ファイバの融着接続装置が開示されている。これらの装置は、多芯光ファイバを熱融着する際、全素線に与えられる熱量をほぼ均一にすることを目的としている。これらの装置は、接続しようとする多芯光ファイバの素線をV溝を有するファイバ設置台上で対峙させ、一対の放電電極により融着接続させる。そして、特許文献1に記載された装置は、一対の放電電極間に跨がって設置された導電体製のファイバクランプ兼用の電位付与手段を備え、電位付与手段による放電路の調整により、全素線に与えられる熱量をほぼ均一にすることを企図している。また、特許文献2に記載された装置は、ファイバホルダ下に導電体プレートからなる電位付与手段を備え、電位付与手段による放電路の調整制御により、全素線に与えられる熱量をほぼ均一にすることを企図している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2003-021744号公報
【文献】特開2003-029077号公報
【発明の概要】
【0004】
本開示は、融着接続装置を提供する。この融着接続装置は、複数の第1光ファイバの各端面と複数の第2光ファイバの各端面とをアーク放電によって溶融して互いに融着接続する融着接続装置である。融着接続装置は、第1電極及び第2電極と、光ファイバ配置部と、第1導電部材とを備える。第1電極及び第2電極は、それぞれ先端を有し、第1方向に延びる中心線上に先端同士が対向するように配置される。第1電極が第1電位を有し且つ第2電極が第1電位より低い第2電位を有し、第1電極及び第2電極は、先端間にアーク放電を発生するように構成される。光ファイバ配置部は、複数の第1光ファイバと複数の第2光ファイバとを収納可能であって第1方向と交差する第2方向に延びる複数の溝を有し、第1方向において第1電極及び第2電極の間に配置される。第1導電部材は、第1方向において第1電極及び第2電極の間であって複数の溝から離れて設けられる。 第1導電部材は、第1電位よりも低く且つ第2電位よりも高い第3電位を有し、第1方向において第1電極及び第2電極の一方との最短距離よりも第1電極及び第2電極の他方との最短距離が短い位置となるように配置される。
【0005】
本開示は、融着接続方法を提供する。この融着接続方法は、上述した融着接続装置を用いて、複数の第1光ファイバの各端面と複数の第2光ファイバの各端面とを融着接続する融着接続方法である。この融着接続方法は、複数の第1光ファイバに対応する複数の溝に複数の第1光ファイバを配置する工程と、複数の第2光ファイバに対応する複数の溝に複数の第2光ファイバを配置する工程と、複数の第1光ファイバの各端面と複数の第2光ファイバの各端面とを第1電極の先端と第2電極の先端との間の領域において対向させる工程と、第1電極及び第2電極の間にアーク放電を生じさせて複数の第1光ファイバの各端面と複数の第2光ファイバの各端面とを溶融して互いに融着接続させる工程と、を備える。融着接続させる工程において、第1導電部材及び第2導電部材の少なくとも一方には、第1電位よりも低く且つ第2電位よりも高い第3電位が供給される。
【0006】
本開示は、融着接続方法を更に提供する。この融着接続方法は、複数の第1光ファイバの各端面と複数の第2光ファイバの各端面とを融着接続する方法である。この融着接続方法は、アーク放電を発生させるための一対の電極と、一対の電極の先端同士を結ぶ中心線に沿った第1方向における一対の電極間の領域に配置され、該第1方向に並んでおり複数の第1光ファイバ及び複数の第2光ファイバを収容する複数の溝を有する光ファイバ配置部と、領域において複数の第1光ファイバ及び複数の第2光ファイバから離れて設けられた一又は複数の導電部材と、を用いる。一対の電極の一方を第1電位とし、一対の電極の他方を第1電位より低い第2電位として、一対の電極の間にアーク放電を発生させると共に、一又は複数の導電部材を、第1電位より低く第2電位より高い第3電位とし、且つ、第1方向において一対の電極の一方との最短距離よりも一対の電極の他方との最短距離が短い位置に配置する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、一実施形態に係る融着接続装置の外観を示す斜視図である。
【
図2】
図2は、融着接続装置が備える融着接続部を拡大して示す斜視図である。
【
図3】
図3は、一対の電極と台座とを拡大して示す斜視図である。
【
図4】
図4は、一対の電極と台座の第1配置部とを拡大して示す側断面図である。
【
図5】
図5は、
図2から台座を取り除いた様子を示す斜視図である。
【
図6】
図6は、一対の電極、一対の導電部材、及び支持部材を示す斜視図である。
【
図7】
図7は、一対の電極、一対の導電部材、及び支持部材を示す、Z方向上方から見た平面図である。
【
図8】
図8は、一対の電極、一対の導電部材、及び支持部材を示す、Y方向から見た側面図である。
【
図9】
図9は、電極、一対の導電部材、及び支持部材を示す、X方向から見た側面図である。
【
図11】
図11は、第1実施例における導電部材の配置を示す平面図である。
【
図12】
図12は、各位置A1からA3における、光ファイバ番号と光ファイバの溶け量差との関係を示すグラフである。
【
図13】
図13は、各位置A4からA6における、光ファイバ番号と光ファイバの溶け量差との関係を示すグラフである。
【
図14】
図14は、各位置A7からA9における、光ファイバ番号と光ファイバの溶け量差との関係を示すグラフである。
【
図15】
図15は、第2実施例における導電部材の配置を示す平面図である。
【
図16】
図16は、第2実施例における導電部材の配置を示す平面図である。
【
図17】
図17は、第2実施例における導電部材の配置を示す平面図である。
【
図19】
図19は、各厚さに対応する、光ファイバ番号と光ファイバの溶け量差との関係を示すグラフである。
【
図20】
図20は、各Z方向位置に対応する、光ファイバ番号と光ファイバの溶け量差との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[本開示が解決しようとする課題]
例えば特許文献1及び特許文献2に示されるように、多芯光ファイバの融着接続を行う際には、多芯光ファイバの配列方向の両端に一対の電極を配置し、該一対の電極間にアーク放電を生じさせることにより、多芯光ファイバを溶融して一括融着接続する。このような多芯光ファイバの融着接続方式では、配列方向の位置によって、光ファイバの溶融状態にばらつきが生じ得る。例えば、電極に近い光ファイバの溶融量が、電極から遠い光ファイバの溶融量よりも大きくなることがある。そこで、多芯光ファイバの配列方向位置による溶融状態のばらつきを低減することができる融着接続装置及び融着接続方法を提供することを目的とする。
【0009】
[本開示の効果]
本開示によれば、多芯光ファイバ同士の融着接続において、多芯光ファイバの配列方向位置による融着状態のばらつきを低減することができる。
【0010】
[本開示の実施形態の説明]
最初に、本開示の実施形態を列記して説明する。一実施形態に係る融着接続装置は、複数の第1光ファイバの各端面と複数の第2光ファイバの各端面とをアーク放電によって溶融して互いに融着接続する融着接続装置である。融着接続装置は、第1電極及び第2電極と、光ファイバ配置部と、第1導電部材とを備える。第1電極及び第2電極は、それぞれ先端を有し、第1方向に延びる中心線上に先端同士が対向するように配置される。第1電極が第1電位を有し且つ第2電極が第1電位より低い第2電位を有し、第1電極及び第2電極は、先端間にアーク放電を発生するように構成される。光ファイバ配置部は、複数の第1光ファイバと複数の第2光ファイバとを収納可能であって第1方向と交差する第2方向に延びる複数の溝を有し、第1方向において第1電極及び第2電極の間に配置される。第1導電部材は、第1方向において第1電極及び第2電極の間であって複数の溝から離れて設けられる。 第1導電部材は、第1電位よりも低く且つ第2電位よりも高い第3電位を有し、第1方向において第1電極及び第2電極の一方との最短距離よりも第1電極及び第2電極の他方との最短距離が短い位置となるように配置される。
【0011】
一実施形態に係る融着接続方法は、複数の第1光ファイバの各端面と複数の第2光ファイバの各端面とを融着接続する方法である。この融着接続方法は、アーク放電を発生させるための一対の電極と、一対の電極の先端同士を結ぶ中心線に沿った第1方向における一対の電極間の領域に配置され、該第1方向に並んでおり複数の第1光ファイバ及び複数の第2光ファイバを収容する複数の溝を有する光ファイバ配置部と、当該領域において複数の第1光ファイバ及び複数の第2光ファイバから離れて設けられた一又は複数の導電部材と、を用いる。一対の電極の一方を第1電位とし、一対の電極の他方を第1電位より低い第2電位として、一対の電極の間にアーク放電を発生させると共に、一又は複数の導電部材を、第1電位より低く第2電位より高い第3電位とし、且つ、第1方向において一対の電極の一方との最短距離よりも一対の電極の他方との最短距離が短い位置に配置する。
【0012】
これらの融着接続装置及び融着接続方法では、第1電位より低く第2電位より高い第3電位を有する第1導電部材が、一対の電極の先端同士を結ぶ中心線に沿った方向における一対の電極間の領域において、複数対の光ファイバから離れて設けられる。この場合、一対の電極間に発生するアーク放電のアーク(電弧)は、第1導電部材に引き寄せられる。従って、アークの形状を調整し、各光ファイバの溶融状態を均一に近づけることができる。故に、これらの融着接続装置及び融着接続方法によれば、多芯光ファイバ同士の融着接続において、多芯光ファイバの配列方向位置による融着状態のばらつきを低減することができる。
【0013】
一実施形態として、第1導電部材は、第1方向において第2電極との最短距離よりも第1電極との最短距離が短い位置となるように、配置されてもよい。この場合、一対の電極間に発生するアーク放電のアークを第1導電部材により強く引き寄せることができ、各光ファイバの溶融状態を更に均一に近づけることができる。
【0014】
一実施形態として、第3電位は、第1電位と第2電位との平均電位であってもよい。この場合、アークの形状をより適切に調整し、各光ファイバの溶融状態を更に均一に近づけることができる。
【0015】
一実施形態として、第1方向及び第2方向の双方と直交する第3方向から見て、複数の溝と第1導電部材とが少なくとも一部において互いに重なってもよい。この場合、複数の第1光ファイバ等が占める領域と第1導電部材とが互いに重なり、アークの形状をより適切に調整し、各光ファイバの溶融状態を更に均一に近づけることができる。
【0016】
一実施形態として、融着接続装置は、第1方向及び第2方向の双方と交差する第3方向に延在し、第1導電部材を支持する導電性の柱状の第1支持部材を更に備えてもよい。第1導電部材は、第1方向を厚み方向とする板状を呈し、第1支持部材の先端部から延出してもよい。第1支持部材の基端部は、第3電位を有する定電位線と電気的に接続されていてもよい。このように、第1導電部材が第1方向を厚み方向とする板状を呈することにより、アークの形状をより適切に調整し、各光ファイバの溶融状態を更に均一に近づけることができる。また、例えば上記のような支持部材が設けられることにより、板状の導電部材のみをアークに近づけることができる。この実施形態において、第1導電部材の第1方向における厚みは、第1支持部材の第1方向における厚みよりも薄くてもよい。また、第1導電部材の厚みは、0.5mm以上4.0mm以下であってもよい。第1導電部材と第1支持部材とは連続して形成される一体物であってもよい。
【0017】
一実施形態として、融着接続装置は、第1電極及び第2電極と光ファイバ配置部とをその上に搭載する本体を更に備えてもよい。本体には、第1方向において第1電極及び第2電極の間に位置する第1保持孔が設けられていてもよく、第1導電部材及び第1支持部材の少なくとも一部が第1保持孔に挿入されて保持されていてもよい。この場合、第1導電部材等の位置を長期にわたって所定の位置としておくことが可能となる。
【0018】
一実施形態として、融着接続装置は、第1方向において第1電極及び第2電極の間であって複数の溝から離れて設けられた第2導電部材を更に備えてもよい。第2導電部材は、第1電位よりも低く且つ第2電位よりも高い第3電位を有し、第1方向において第1電極及び第2電極の一方との最短距離よりも第1電極及び第2電極の他方との最短距離が短い位置となるように配置されてもよい。この場合、アークの形状をより適切に調整し、各光ファイバの溶融状態を更に均一に近づけることができる。この実施形態において、第1導電部材及び第2導電部材は、第1方向と交差する第2方向に対向して配置され、第1導電部材及び中心線の間の距離と、第2導電部材及び中心線の間の距離とは互いに等しくてもよい。
【0019】
一実施形態として、融着接続装置は、第1方向及び第2方向の双方と交差する第3方向に延在し、第2導電部材を支持する導電性の柱状の第2支持部材を更に備えてもよい。第2導電部材は、第1方向を厚み方向とする板状を呈し、第2支持部材の先端部から延出してもよい。第2支持部材の基端部は第3電位を有する定電位線と電気的に接続されていてもよい。このように、第2導電部材が第1方向を厚み方向とする板状を呈することによって、アークの形状をより適切に調整し、各光ファイバの溶融状態を更に均一に近づけることができる。また、例えば上記のような支持部材が設けられることにより、板状の導電部材のみをアークに近づけることができる。この実施形態において、第2導電部材の第1方向における厚みは、第2支持部材の第1方向における厚みよりも薄くてもよい。また、第2導電部材の厚みは、0.5mm以上4.0mm以下であってもよい。第2導電部材と第2支持部材とは連続して形成される一体物であってもよい。
【0020】
別の実施形態に係る融着接続方法は、上記何れかの実施形態に係る融着接続装置を用いて、複数の第1光ファイバの各端面と複数の第2光ファイバの各端面とを融着接続する融着接続方法である。この融着接続方法は、複数の第1光ファイバに対応する複数の溝に複数の第1光ファイバを配置する工程と、複数の第2光ファイバに対応する複数の溝に複数の第2光ファイバを配置する工程と、複数の第1光ファイバの各端面と複数の第2光ファイバの各端面とを第1電極の先端と第2電極の先端との間の領域において対向させる工程と、第1電極及び第2電極の間にアーク放電を生じさせて複数の第1光ファイバの各端面と複数の第2光ファイバの各端面とを溶融して互いに融着接続させる工程と、を備える。融着接続させる工程において、第1導電部材及び第2導電部材の少なくとも一方には、第1電位よりも低く且つ第2電位よりも高い第3電位が供給される。この融着接続方法によれば、融着接続装置の各実施形態で述べたように、多芯光ファイバ同士の融着接続において、多芯光ファイバの配列方向位置による融着状態のばらつきを低減することができる。この融着接続方法において、複数の第1光ファイバを配置する工程及び複数の第2光ファイバを配置する工程の少なくとも一方の工程と、対向させる工程とが同時に行われてもよい。
【0021】
[本開示の実施形態の詳細]
本開示の融着接続装置及び融着接続方法の具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。以下の説明では、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。説明に際しては、図面に示されたXYZ直交座標系を参照する場合がある。また、下記の説明において、X方向は本開示の第1方向に相当する。
【0022】
図1は、本実施形態に係る融着接続装置1の外観を示す斜視図である。融着接続装置1は、端面同士を突き合わせて配列される複数対の光ファイバ(ガラスファイバ)同士をアーク放電によって溶融して互いに融着接続する装置である。融着接続装置1は、例えば、多芯光ファイバケーブルを構成する複数本の光ファイバの端部と、他の多芯光ファイバケーブルを構成する複数本の光ファイバの端部とを互いに融着接続する。
【0023】
融着接続装置1は、
図1に示すように、箱状の筐体32を備えている。筐体32の上部には、光ファイバ同士を融着するための融着接続部(後述)と、加熱器34とが設けられている。加熱器34は、光ファイバの融着箇所に被せられるファイバ補強スリーブを加熱して収縮させる。融着接続装置1は、モニタ35、風防カバー36、電源スイッチ37、及び接続開始スイッチ38を更に備えている。モニタ35は、筐体32の内部に配置されたカメラ(図示せず)によって撮像された光ファイバ同士の融着接続状況を表示する。風防カバー36は、融着接続部への風の進入を防ぐ。電源スイッチ37は、使用者の操作に応じて融着接続装置1の電源のオン/オフを切り替える為のプッシュボタンである。接続開始スイッチ38は、使用者の操作に応じて光ファイバ同士を融着するための動作を開始させるためのプッシュボタンである。
【0024】
図2は、融着接続装置1が備える融着接続部1Aを拡大して示す斜視図である。
図2に示すように、融着接続部1Aは、上述した一対の電極5,6及び台座11に加えて、支持体20を更に含む。台座11は支持体20上に搭載されており、一対の電極5,6は台座11上に配置されている。
【0025】
図3は、一対の電極5,6と台座11とを拡大して示す斜視図である。
図3に示すように、一対の電極5,6は、台座11上において互いに離間して配置されている。電極5の先端5aと電極6の先端6aとは、互いに対向している。図示例では、電極5,6は、先端5a,6aに向かうにつれて径が小さくなる略円錐状の部分を含む。
【0026】
台座11は、電極配置部13と、光ファイバ配置部15とを含む。一例として、台座11の材料はジルコニアであってよい。電極配置部13は、一対の電極5,6が配置される部分である。電極配置部13は、一対の電極5,6のそれぞれに対応した当接面13a,13bを有する。当接面13a,13bは、2つの平面によって断面略V字状に形成される。電極5が当接面13aに接することによって、電極5のY方向及びZ方向の位置が定められる。電極6が当接面13bに接することによって、電極6のY方向及びZ方向の位置が定められる。電極5,6のX方向の位置は、電極5,6が当接面13a,13bに接した状態で調整され得る。位置決めされた電極5,6は、図示しない固定部材によって電極配置部13に固定され得る。更に、台座11は開口部11aを有する。開口部11aは、X方向における当接面13aと当接面13bとの間の領域において、台座11をZ方向に貫通する。一対の電極5,6の先端5a,6aは、開口部11a内において互いに対向している。
【0027】
光ファイバ配置部15は、X方向において一対の電極5,6間に位置する。光ファイバ配置部15は、第1配置部16と第2配置部17とを有する。Y方向において、第1配置部16は、一対の電極5,6の先端5a,6a同士を結ぶ中心線C1に対して一方側に位置する。第2配置部17は、中心線C1に対して他方側に位置する。すなわち、第1配置部16と第2配置部17とは、Y方向において、中心線C1を挟んで互いに離間している。第1配置部16は、複数本(図示例では12本)の一方の光ファイバをそれぞれ収容して位置決めするための複数の溝16aを有する。溝16aの延在方向に垂直な断面形状は例えばV字状である。溝16aは、X方向に等間隔で配置されており、Y方向に沿って直線状に延在している。同様に、第2配置部17は、複数本(図示例では12本)の他方の光ファイバをそれぞれ収容して位置決めするための複数の溝17aを有する。溝17aの延在方向に垂直な断面形状は例えばV字状である。溝17aは、X方向に等間隔で配置されており、Y方向に沿って直線状に延在している。第1配置部16の複数の溝16aのそれぞれと第2配置部17の複数の溝17aのそれぞれとは、共通する直線上に位置する。これにより、第1配置部16の溝16aによって位置決めされた光ファイバと、第2配置部17の溝17aによって位置決めされた光ファイバとは、第1配置部16と第2配置部17との間の領域において、互いに突き合わされる。第1配置部16と第2配置部17との間の領域は、台座11の開口部11aとなっている。
【0028】
図4は、一対の電極5,6と台座11の第1配置部16とを拡大して示す側断面図である。
図4は、中心線C1を含むXZ平面に沿って第1配置部16側を見た断面図であって、第1配置部16に設置された複数本の光ファイバ3を併せて示している。なお、第2配置部17に複数本の光ファイバが設置された構成は、第1配置部16に複数本の光ファイバ3が設置された構成と同様であるため、その説明を省略する。
【0029】
図4に示すように、複数本の光ファイバ3は、方向Xにおいて一対の電極5,6間に位置しており、それぞれ対応する溝16aに収容されている。各光ファイバ3の軸方向は、Y方向と一致する。複数本の光ファイバ3は、X方向に互いに離間して配置されている。隣り合う光ファイバ3同士のピッチは均一である。一例として、各光ファイバ3の直径は125μmであり、複数の光ファイバ3は、直径の2倍に相当する250μmのピッチでもって方向Xに並んでいる。また、光ファイバ3が配列される位置は、電極5,6の中心線C1からY方向にずれている。
【0030】
図5は、
図2から台座11を取り除いた様子を示す斜視図である。
図5に示すように、支持体20は、台座11を支持する本体21と、本体21に保持された一対の導電部材22,23と、導電部材22を支持する支持部材24と、導電部材23を支持する支持部材25とを有する。
【0031】
本体21は、例えば樹脂製の部材である。本体21は、台座11の下方に配置されており、台座11を搭載する搭載面21aを、X方向及びY方向の略中央部に有する。搭載面21aには本体21をZ方向に貫通する開口部21bが形成されており、開口部21bは前述した台座11の開口部11aとZ方向に連通している。一対の電極5,6の先端5a,6aは、開口部21bに対してZ方向上方に位置する。また、本体21は、導電部材22及び支持部材24を保持するための保持孔21cと、導電部材23及び支持部材25を保持するための保持孔21dとを更に有する。保持孔21c,21dは、Y方向において開口部21bを挟んだ両側にそれぞれ形成されており、Z方向に本体21を貫通している。
【0032】
一対の導電部材22,23は、例えば金属といった導電材料からなり、Y方向において開口部21bを挟んだ両側にそれぞれ配置されている。すなわち、Y方向において、一方の導電部材22は開口部21bに対して一方側に配置され、他方の導電部材23は開口部21bに対して他方側に配置されている。導電部材22及び支持部材24は、本体21に形成された保持孔21cと嵌合することにより、保持孔21cに保持されている。導電部材23及び支持部材25は、本体21に形成された保持孔21dと嵌合することにより、保持孔21dに保持されている。導電部材22,23の上端面、及び支持部材24,25の上端面は、搭載面21aと面一となっており、搭載面21aから露出している。従って、導電部材22,23と複数対の光ファイバ3とは、台座11のZ方向厚さによって規定される距離だけ互いに離れている。
【0033】
図6から
図9は、本体21を取り除き、一対の電極5,6、一対の導電部材22,23及び支持部材24,25を示す図である。
図6は斜視図であり、
図7はZ方向上方から見た平面図であり、
図8はY方向から見た側面図(但し、導電部材23及び支持部材25を省略)であり、
図9はX方向から見た側面図(但し、電極5を省略)である。
【0034】
図6から
図9に示すように、支持部材24,25は、中心線C1の方向(X方向)と交差する方向(例えばZ方向)に延在する柱状を呈している。支持部材24,25のXY断面は例えば長方形状である。支持部材24の内側面24aと、支持部材25の内側面25aとは、Y方向に互いに対向している。すなわち、支持部材24,25のX方向位置は互いに一致している。支持部材24の基端部24bには、配線部材26の一端部26aが固定されている。配線部材26は、例えば金属といった導電材料からなる板状の部材であり、収容箇所の形状に応じた曲げ加工が施されて支持部材24の下方に配置されている。支持部材24の基端部24bが配線部材26の一端部26aと接触することにより、支持部材24と配線部材26とは低抵抗でもって互いに電気的に接続している。これと同様に、支持部材25の基端部25bには、配線部材27の一端部27aが固定されている。配線部材27は、例えば金属といった導電材料からなる板状の部材であり、収容箇所の形状に応じた曲げ加工が施されて支持部材25の下方に配置されている。支持部材25の基端部25bが配線部材27の一端部27aと接触することにより、支持部材25と配線部材27とは低抵抗でもって互いに電気的に接続している。
【0035】
配線部材26,27それぞれの他端部26b,27bは、図示しない配線と電気的に接続されている。この配線は、電極5の電位と電極6の電位との間の電位を有する。従い、配線部材26,27は、電極5の電位と電極6の電位との間の電位を有する定電位線として機能する。この定電位は、例えば電極5の電位と電極6の電位との平均の電位である。言い換えると、電極5の電位が+A(V)、電極6の電位が-A(V)であるとき、配線部材26,27の電位は0(V)すなわちグランド電位である。
【0036】
導電部材22,23は、X方向において電極5の先端5aと電極6の先端6aとの間に位置する領域B(
図7及び
図8を参照)内に配置されている。導電部材22,23は、X方向を厚み方向とする板状を呈している。X方向における導電部材22,23の厚さは、例えば0.5mm以上4.0mm以下の範囲内である。また、X方向における導電部材22,23の厚さは、同方向における支持部材24,25の先端部の幅よりも薄い。X方向から見た導電部材22,23の形状は、例えば長方形状または正方形状である。導電部材22は支持部材24の先端部における内側面24aからY方向に沿って延出しており、導電部材23は支持部材25の先端部における内側面25aからY方向に沿って延出している。導電部材22,23は、例えば支持部材24,25と共通の金属部材を切削加工することによって形成され得る。つまり、導電部材22と支持部材24とは連続して形成される一体物であり、導電部材23と支持部材25とは連続して形成される一体物である。
【0037】
図7に示すように、導電部材22,23は、Y方向に対向して配置されている。すなわち、導電部材22,23のX方向位置は互いに一致している。また、Z方向から見て、導電部材22,23は中心線C1の両側に配置されている。導電部材22,23の中心線C1からの距離は互いに等しい。本実施形態では、
図9に示すように、Y方向における導電部材22から中心線C1までの距離Y1と、Y方向における導電部材23から中心線C1までの距離Y2とが互いに等しく、Z方向における導電部材22から中心線C1までの距離Z1と、Z方向における導電部材23から中心線C1までの距離Z2とが互いに等しい。また、Y方向から見て、導電部材22,23は中心線C1に対してZ方向下方に位置する。
図4に示されたように、複数対の光ファイバ3は中心線C1に対してZ方向上方に位置するので、Z方向において中心線C1は導電部材22,23と複数対の光ファイバ3との間に位置する。
【0038】
図10は、
図7の一部を拡大して示す平面図である。
図10に示すように、導電部材22,23は、電極5,6間の領域Bにおいて、高電位の電極5寄りに位置する。導電部材22,23が電極5寄りに位置するとは、X方向における導電部材22,23の中心と電極5の先端5aとの距離X1が、導電部材22,23の中心と電極6の先端6aとの距離X2よりも小さいことを意味する。言い換えると、X方向において、電極5の先端5aと導電部材22,23の最短距離よりも、電極6の先端6aと導電部材22,23の最短距離が短い位置に、導電部材22,23は配置される。また、
図10には、複数対の光ファイバ3が占める領域Fが示されている。本実施形態では、Z方向から見て、領域Fと導電部材22,23とが互いに重なる。一例では、Z方向から見て、導電部材22,23が領域F内に包含される。なお、この領域Fは、複数対の光ファイバ3を収納する複数の溝16a,17aに対応する。つまり、本実施形態では、Z方向から見て、複数の溝16a,17aと導電部材22,23とが少なくとも一部において互いに重なる。
【0039】
以上の構成を備える融着接続装置1を用いた、本実施形態の融着接続方法は下記のとおりである。まず、融着接続装置1の台座11の各溝16aに、接続対象である一方の光ファイバ3を配置して収容させる。また、台座11の各溝17aに、接続対象である他方の光ファイバ3を配置して収容させる。次に、溝16aに収容された光ファイバ3の端部と、溝17aに収容された光ファイバ3の端部とを開口部11aにおいて互いに突き合わせる。そして、支持部材24,25を介して導電部材22,23の電位を電極5,6の間の電位、つまり電極5の電位よりも低く且つ電極6の電位よりも高い電位、としつつ、光ファイバ3の端部同士を突き合わせた部分に対し、電極5,6によるアーク放電を行う。これにより、対になる複数の光ファイバ3同士を溶融して互いに融着接続する。
【0040】
以上に説明した本実施形態による融着接続装置1及び融着接続方法によって得られる効果について説明する。本実施形態では、電極5の電位と電極6の電位との間の電位を有する導電部材22,23が、電極5,6の先端同士を結ぶ中心線C1に沿ったX方向における電極5,6間の領域Bにおいて、複数対の光ファイバ3から離れて設けられる。この場合、電極5,6間に発生するアーク放電のアーク(電弧)は、導電部材22,23に引き寄せられる。従って、アークの形状を調整し、各光ファイバ3の溶融状態を均一に近づけることができる。故に、本実施形態によれば、多芯光ファイバの配列方向位置による溶融状態のばらつきを低減することができ、よって融着状態のばらつきを低減することができる。
【0041】
本実施形態のように、一対の導電部材22,23が複数対の光ファイバ3の軸方向(Y方向)に並んで配置され、一対の導電部材22,23の中心線C1からの距離は互いに等しくてもよい。この場合、アークの形状をより適切に調整し、各光ファイバ3の溶融状態を更に均一に近づけることができる。
【0042】
本実施形態のように、導電部材22,23の電位は、電極5,6の各電位の平均の電位であってもよい。この場合、アークの形状をより適切に調整し、各光ファイバ3の溶融状態を更に均一に近づけることができる。
【0043】
本実施形態のように、Z方向から見て、複数対の光ファイバ3が占める領域Fと導電部材22,23とが互いに重なってもよい。この場合、アークの形状をより適切に調整し、各光ファイバ3の溶融状態を更に均一に近づけることができる。
【0044】
本実施形態のように、融着接続装置1は、X方向と交差する方向に延在し、導電部材22,23を支持する導電性の柱状の支持部材24,25を備え、導電部材22,23は、X方向を厚み方向とする板状を呈し、支持部材24,25の先端部から延出しており、支持部材24,25の基端部24b,25bは定電位線(配線部材26,27)と電気的に接続されてもよい。このように、導電部材22,23がX方向を厚み方向とする板状を呈することによって、アークの形状をより適切に調整し、各光ファイバ3の溶融状態を更に均一に近づけることができる。また、例えば上記のような支持部材24,25が設けられることにより、板状の導電部材22,23のみをアークに近づけることができる。
【0045】
(第1実施例)
本発明者は、導電部材22,23と中心線C1との相対位置を様々に変更して、複数対の光ファイバ3の溶融状態を観察した。
図11は、この実験における導電部材23の配置を示す平面図である。なお、導電部材22の配置は中心線C1に関して導電部材23と対称である。
図11には、Z方向から見た台座11が示されており、併せて導電部材23の輪郭線が実線によって示されている。この実験では、導電部材22,23の平面形状を1mm四方の正方形とした。なお、図中には、12本の溝17aに付与された番号(No.1からNo.12)が示されている。この番号は、高電位側の溝17aから順に付与されている。
【0046】
この実験では、導電部材22,23の位置を、図示のとおりA1からA9の9通りに設定した。位置A1からA3は、台座11における中心線C1側の一端寄りに位置し、Y方向における中心線C1から位置A1からA3までの距離は4.0mmであった。位置A4からA6は、台座11における略中央に位置し、Y方向における中心線C1から位置A4からA6までの距離は5.5mmであった。位置A7からA9は、台座11における中心線C1とは反対側の他端寄りに位置し、Y方向における中心線C1から位置A7からA9までの距離は7.7mmであった。また、位置A1、A4及びA7はファイバ配置領域の高電位側に位置し、No.1からNo.4の溝16a,17aと重なっている。位置A2、A5及びA8はファイバ配置領域の中央に位置し、No.5からNo.8の溝16a,17aと重なっている。位置A3、A6及びA9はファイバ配置領域の低電位側に位置し、No.9からNo.12の溝16a,17aと重なっている。なお、X方向における電極5の先端5aと電極6の先端6aとの中間の位置は、No.6及びNo.7の境界位置と一致する。従い、X方向において、位置A1、A4及びA7は高電位側の電極5寄りに位置し、位置A3、A6及びA9は低電位側の電極6寄りに位置し、位置A2、A5及びA8は電極5と電極6との中間に位置する。
【0047】
図12から
図14は、各位置A1からA9における、光ファイバ番号と光ファイバの溶け量差(単位・μm)との関係を示すグラフである。
図12に示すグラフG21からG23は、それぞれ位置A1からA3における溶け量差を示す。
図13に示すグラフG24からG26は、それぞれ位置A4からA6における溶け量差を示す。
図14に示すグラフG27からG29は、それぞれ位置A7からA9における溶け量差を示す。なお、これらの
図12から
図14には、比較例として、導電部材22,23を設けない場合のファイバ溶け量差の上限平均(グラフG11)及び下限平均(グラフG12)が併せて示されている。光ファイバ番号は、
図11に示された溝17aの番号に対応する。ここで「溶け量」とは、光ファイバ端面が放電を行う前後においてどれだけ位置が変化したかを表したものである。アーク放電による加熱により光ファイバが溶融するにつれ、光ファイバの一部が蒸発し、光ファイバ端面は見かけ上、Y方向に移動したようになる。この時の光ファイバ端面のY方向初期位置からの移動量を「溶け量」とする。「溶け量差」とは、No.1からNo.12のそれぞれの光ファイバの最大溶け量と、No.1からNo.12の光ファイバの最小溶け量との差を示す。下記の表1は、グラフG11,G12およびG21からG29に対応する最大溶け量差(No.1からNo.12の最大溶け量と最小溶け量との差)を示す。
【表1】
【0048】
図12から
図14及び表1を参照すると、導電部材22,23を設けた場合(グラフG21からG29)には、導電部材22,23を設けない場合(グラフG11,G12)と比較して、ファイバ溶け量がNo.1からNo.12に亘って概ね均一化されていることがわかる。特に、位置A1、A4及びA5(グラフG21、G24及びG25)においては、溶け量差が50μmを下回っており、ファイバ溶け量がNo.1からNo.12に亘って格段に均一化されている。つまり、導電部材22,23が高電位側の電極5寄りに位置する場合には、導電部材22,23が低電位側の電極6寄りに位置する場合よりもファイバ溶け量が効果的に均一化されたといえる。このことから、上記実施形態のように、導電部材22,23が高電位側の電極5寄りに位置することにより、アークの形状をより効果的に調整し、各光ファイバ3の溶融状態をより均一に近づけることができる。故に、上記実施形態によれば、多芯光ファイバの配列方向位置による融着状態のばらつきを効果的に低減することができる。
【0049】
(第2実施例)
本発明者は、導電部材22,23の平面面積(台座11との接触面積)を様々に変更して、複数対の光ファイバ3の融着接続状態を観察した。
図15から
図17は、この実験における導電部材23の配置を示す平面図である。なお、導電部材22の位置及び形状は中心線C1に関して導電部材23と対称である。
図15から
図17には、Z方向から見た台座11が示されており、併せて導電部材23の輪郭線が実線によって示されている。この実験では、導電部材22,23の平面形状を1mm四方の正方形(
図15の形状A10)、1mm×3mmの長方形(
図16の形状A11)、及び2mm×3mmの長方形(
図17の形状A12)とした。但し、方向Yにおける導電部材22,23の中心線C1側の一端と、中心線C1との距離はそれぞれ同じ(4.0mm)とした。また、形状A10,A11はNo.1からNo.4の溝16a,17aと重なるものとし、形状A12はNo.1からNo.8の溝16a,17aと重なるものとした。
【0050】
図18は、
図15から
図17に対応する、光ファイバ番号と光ファイバの溶け量差(単位・μm)との関係を示すグラフである。グラフG31は、
図15の形状A10に対応する溶け量差を示す。グラフG32は、
図16の形状A11に対応する溶け量差を示す。グラフG33は、
図17の形状A12に対応する溶け量差を示す。また、下記の表2は、グラフG31からG33に対応する最大溶け量差を示す。グラフG31からG33及び表2を参照すると、導電部材22,23の平面面積によって、ファイバ溶け量の均一性に大きな違いはないことがわかる。第1実施例と併せて検討すると、ファイバ溶け量を均一化するためには、導電部材22,23の平面面積よりも位置が重要であるといえる。
【表2】
【0051】
(第3実施例)
本発明者は、導電部材22,23のZ方向における厚さを1mm及び4mmとして、複数対の光ファイバ3の溶融状態を観察した。
図19は、各厚さに対応する、光ファイバ番号と光ファイバの溶け量差(単位・μm)との関係を示すグラフである。グラフG41は、厚さを1mmとした場合の溶け量差を示す。グラフG42は、厚さを4mmとした場合の溶け量差を示す。グラフG43は、比較例として、導電部材22,23を設けない場合の溶け量差を示す。また、下記の表3は、グラフG41からG43に対応する最大溶け量差を示す。グラフG41からG43及び表3を参照すると、導電部材22,23の厚さによってファイバ溶け量の均一性に大きな違いはなく、導電部材22,23の厚さが本実験の範囲内であれば、ファイバ溶け量を効果的に均一化できるといえる。また、第1実施例と併せて検討すると、ファイバ溶け量をより効果的に均一化するためには、導電部材22,23の厚さよりも位置が重要であるといえる。
【表3】
【0052】
(第4実施例)
本発明者は、導電部材22,23のZ方向における位置を基準位置、基準位置+0.2mm、基準位置-0.3mm、及び基準位置-0.5mmとして、複数対の光ファイバ3の融着接続状態を観察した。なお、基準位置における導電部材22,23と中心線C1とのZ方向の距離は4.8mmであり、基準位置における導電部材22,23と光ファイバ3とのZ方向の距離は5.3mmであった。
【0053】
図20は、各Z方向位置に対応する、光ファイバ番号と光ファイバの溶け量差(単位・μm)との関係を示すグラフである。グラフG51は、基準位置-0.5mmに対応する溶け量差を示す。グラフG52は、基準位置-0.3mmに対応する溶け量差を示す。グラフG53は、基準位置に対応する溶け量差を示す。グラフG54は、基準位置+0.2mmに対応する溶け量差を示す。また、下記の表4は、グラフG51からG54に対応する最大溶け量差を示す。グラフG51からG54及び表4を参照すると、基準位置において特に顕著な効果が現れているが、導電部材22,23のZ方向位置が本実験の範囲内であれば、ファイバ溶け量を効果的に均一化できるといえる。
【表4】
【0054】
本発明による融着接続装置及び融着接続方法は、上述した実施形態に限られるものではなく、他に様々な変形が可能である。例えば、上記実施形態では融着接続装置1が一対の導電部材22,23を備えているが、導電部材の個数は任意であり、1個でもよく、3個以上であってもよい。また、上記実施形態では12本の光ファイバ3を一括して融着接続する場合の構成を例示しているが、一括して融着接続する光ファイバの本数は任意である。
【符号の説明】
【0055】
1…融着接続装置、1A…融着接続部、3…光ファイバ、5,6…電極、5a,6a…先端、11…台座、11a…開口部、13…電極配置部、13a,13b…当接面、15…光ファイバ配置部、16…第1配置部、16a…溝、17…第2配置部、17a…溝、20…支持体、21…本体、21a…搭載面、21b…開口部、21c,21d…保持孔、22,23…導電部材、24,25…支持部材、24a,25a…内側面、24b,25b…基端部、26,27…配線部材、26a,27a…一端部、26b,27b…他端部、筐体…32、加熱器…34、モニタ…35、風防カバー…36、電源スイッチ…37、接続開始スイッチ…38、A1からA9…位置、A10からA12…形状、B,F…領域、C1…中心線。