(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-15
(45)【発行日】2024-01-23
(54)【発明の名称】電流制御回路及び電力増幅回路
(51)【国際特許分類】
H03F 1/52 20060101AFI20240116BHJP
H03F 3/21 20060101ALN20240116BHJP
【FI】
H03F1/52
H03F3/21
(21)【出願番号】P 2019019170
(22)【出願日】2019-02-05
【審査請求日】2021-11-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】深澤 美紀子
(72)【発明者】
【氏名】石本 一彦
【審査官】及川 尚人
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第107196613(CN,A)
【文献】特開2007-306543(JP,A)
【文献】特開2006-093906(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0052481(US,A1)
【文献】再公表特許第2012/111274(JP,A1)
【文献】特開2004-040769(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0292554(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03F 1/00-3/72
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力増幅器にバイアス電流を出力するバイアス回路内の第1トランジスタのベース・コレクタの電位をモニターして、前記第1トランジスタの
コレクタ電位が、前記第1トランジスタのベース電位よりも低くなった場合に
、前記第1トランジスタのベースと基準電位との間を
、導通回路を介して、電気的に導通する
状態に
切り替える、
電流制御回路。
【請求項2】
請求項1に記載の電流制御回路であって、
前記第1トランジスタのベース-コレクタ間の電圧に応じた信号を出力する第1回路
を含み、
前記導通回路は、前記信号が前記第1トランジスタ
のコレク
タ電位が
、前記第1トランジスタのベース電位よりも低くなったことを示した場合に、前記第1トランジスタのベースと基準電位との間を電気的に導通す
る、
を含む、
電流制御回路。
【請求項3】
請求項2に記載の電流制御回路であって、
前記第1回路は、
非反転入力端子に前記第1トランジスタのベース電位が入力され、反転入力端子に前記第1トランジスタのコレクタ電位が入力されるオペアンプであり、
前記
導通回路は、
ドレインが前記第1トランジスタのベースに電気的に接続され、ゲートに前記オペアンプの出力信号が入力され、ソースが基準電位に電気的に接続された第2トランジスタであり、
前記第1トランジスタ
のコレク
タ電位が
、前記第1トランジスタのベース電位よりも低くなった場合に、前記第2トランジスタのドレイン-ソース経路が電気的に導通することにより、前記第2トランジスタのコレクタに電流を供給する定電流回路が短絡される、
電流制御回路。
【請求項4】
請求項2に記載の電流制御回路であって、
前記第1回路は、
非反転入力端子に前記第1トランジスタのベース電位が入力され、反転入力端子に前記第1トランジスタのコレクタ電位が入力されるオペアンプであり、
前記
導通回路は、
ドレインが、入力される基準電圧に応じたバイアス電圧を前記第1トランジスタのベースに出力する電圧供給回路の入力端子に電気的に接続され、ゲートに前記オペアンプの出力信号が入力され、ソースが基準電位に電気的に接続された第2トランジスタであ
り、
前記電圧供給回路に入力される前記基準電圧は、前記第2トランジスタのオン抵抗で分圧した電圧である、
電流制御回路。
【請求項5】
高周波信号を増幅する電力増幅器と、
前記電力増幅器にバイアス電流を出力する第1トランジスタを含む、バイアス回路と、
前記第1トランジスタのベース
・コレクタの電位をモニターして、前記第1トランジスタ
のコレク
タ電位が
、前記第1トランジスタのベース電位よりも低くなった場合に
、前記第1トランジスタと基準電位との間が
、導通回路を介して、電気的に導通するように制御する、電流制御回路と、
を含む、
電力増幅回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電流制御回路及び電力増幅回路に関する。
【背景技術】
【0002】
電力増幅器の動作電流(コレクタ電流)を抑制することにより、電力増幅器の保護を図る技術が知られている。
【0003】
下記の特許文献1に記載の高周波電力増幅器では、最終段の入力端子及び出力端子に、第1検出回路及び第2検出回路がそれぞれ接続されている。各検出回路で検出された検出信号は、差動増幅器へ入力される。比較器は、差動増幅器の出力信号と基準電圧とを比較する。ベースバイアス回路は、比較器の出力信号に応じて、最終段にバイアス電流を出力する。これにより、特許文献1の高周波電力増幅器は、負荷インピーダンスの変動に応じて、最終段の動作電流を抑制することで、最終段のダメージを防止する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1記載の高周波電力増幅器は、入出力の電圧振幅をモニターし、電圧振幅に対するダメージを抑制している。従って、特許文献1の高周波電力増幅器は、入出力の電圧振幅だけをモニターしており、電流をモニターしていないので、電流に対する精度が低い。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、電力増幅器の動作電流を高い精度で制御することができることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面の電流制御回路は、電力増幅器にバイアス電流を出力するバイアス回路内の第1トランジスタのベース-コレクタ間の電圧に応じて、第1トランジスタのベース電流を制御する。
【0008】
本発明の一側面の電力増幅回路は、高周波信号を増幅する電力増幅器と、電力増幅器にバイアス電流を出力する第1トランジスタを含む、バイアス回路と、第1トランジスタのベース-コレクタ間の電圧に応じて、第1トランジスタのベース電流を制御する、電流制御回路と、を含む。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、電力増幅器の動作電流を高い精度で制御することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】比較例の電力増幅回路の構成を示す図である。
【
図2】比較例の電力増幅回路の回路シミュレーション結果を示す図である。
【
図3】第1の実施の形態の電力増幅回路の構成を示す図である。
【
図4】第1の実施の形態の電力増幅回路の回路シミュレーション結果を示す図である。
【
図5】第2の実施の形態の電力増幅回路の構成を示す図である。
【
図6】第3の実施の形態の電力増幅回路の構成を示す図である。
【
図7】第4の実施の形態の電力増幅回路の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明の電流制御回路及び電力増幅回路の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態により本発明が限定されるものではない。各実施の形態は例示であり、異なる実施の形態で示した構成の部分的な置換又は組み合わせが可能であることは言うまでもない。第2の実施の形態以降では第1の実施形態と共通の事柄についての記述を省略し、異なる点についてのみ説明する。特に、同様の構成による同様の作用効果については実施形態毎には逐次言及しない。
【0012】
<第1の実施の形態>
以下、第1の実施の形態について説明するが、第1の実施の形態の理解を容易にするため、先に比較例について説明する。
【0013】
(比較例)
図1は、比較例の電力増幅回路の構成を示す図である。電力増幅回路100は、電力増幅器10と、バイアス回路20と、制御IC(Integrated Circuit:集積回路)110と、を含む。
【0014】
電力増幅器10は、トランジスタ11を含む。本開示において、トランジスタは、ヘテロ接合バイポーラトランジスタ(Heterojunction Bipolar Transistor:HBT)が例示されるが、本開示はこれに限定されない。例えば、電界効果トランジスタ(Field Effect Transistor:FET)であってもよい。トランジスタは、複数の単位トランジスタ(フィンガーとも言う)を電気的に並列接続した、マルチフィンガートランジスタであっても良い。単位トランジスタとは、トランジスタが構成される最小限の構成を言う。
【0015】
トランジスタ11のエミッタは、基準電位に電気的に接続されている。基準電位は、接地電位が例示されるが、本開示はこれに限定されない。トランジスタ11のベースは、キャパシタCの一端に電気的に接続されている。キャパシタCの他端には、高周波入力信号RFinが入力される。キャパシタCは、交流信号だけを通過させて、直流信号をカットする、DCカットコンデンサである。
【0016】
トランジスタ11のベースには、バイアス回路20からバイアス電流Ib1が入力される。トランジスタ11のコレクタは、チョークインダクタLを介して、電源電位Vccに電気的に接続されている。トランジスタ11のコレクタには、動作電流であるコレクタ電流Iccが流れる。
【0017】
チョークインダクタLは、交流電力を通さない機能を担っている。チョークインダクタLは、高周波入力信号RFin及び高周波出力信号RFoutの周波数帯域に対して、十分に高いインピーダンスを有するものとする。つまり、チョークインダクタLのインピーダンスは、高周波入力信号RFin及び高周波出力信号RFoutの周波数帯域を考慮するに際して、無視できるものとする。また、チョークインダクタLは、高周波入力信号RFin及び高周波出力信号RFoutの電源回路への漏洩を抑制する。
【0018】
トランジスタ11は、増幅後の高周波出力信号RFoutを、コレクタから出力する。
【0019】
バイアス回路20は、抵抗21及び25と、ダイオード22及び23と、トランジスタ24と、を含む。
【0020】
抵抗21の一端には、バイアス電流Ibiasが制御IC110から入力される。なお、抵抗21の一端には、バイアス電流Ibiasに代えて定電圧が供給されても良い。
【0021】
抵抗21の他端には、ダイオード22のアノードに電気的に接続されている。なお、本開示において、ダイオードは、コレクタ及びベースが電気的に接続された(ダイオード接続された)トランジスタであっても良い。
【0022】
ダイオード22のカソードには、ダイオード23のアノードが電気的に接続されている。ダイオード23のカソードは、基準電位に電気的に接続されている。
【0023】
ダイオード22のアノードの電位は、ダイオード22及び23の電圧降下分に相当する。つまり、ダイオード2個分の電圧降下に相当する。
【0024】
トランジスタ24のベースは、抵抗21の他端及びダイオード22のアノードに電気的に接続されている。トランジスタ24のベースには、抵抗21を介して、ベース電流Ibが供給される。ベース電流Ibの電流値は、バイアス電流Ibiasの電流値から、ダイオード22及び23に流れる電流の電流値を引いた値である。トランジスタ24のベース電位は、ダイオード22のアノードの電位と同じになる。
【0025】
トランジスタ24のコレクタには、コレクタ電流IeCが制御IC110から入力される。
【0026】
トランジスタ24のエミッタは、抵抗25を介して、トランジスタ11のベースに、電気的に接続されている。従って、トランジスタ24は、エミッタ出力のエミッタフォロワ回路として動作する。従って、トランジスタ11のベースの電位は、一定に保たれる。トランジスタ24は、バイアス電流Ib1を、エミッタからトランジスタ11のベースに出力する。
【0027】
制御IC110は、制御部111と、定電流源112及び113を含む。制御部111は、設定テーブル111aを含む。設定テーブル111aには、トランジスタ11のコレクタ電流Iccの電流値を所望の電流値以下に抑制するための、コレクタ電流IeC及びバイアス電流Ibiasの設定値が設定されている。
【0028】
制御部111は、入力される制御信号Sに応じて、設定テーブル111aの中から設定値を読み出す。そして、制御部111は、設定値に応じて、制御信号S1を定電流源112に出力し、制御信号S2を定電流源113に出力する。
【0029】
定電流源112は、電源電位Vbattとトランジスタ24のコレクタとの間に電気的に接続されている。そして、定電流源112は、制御信号S1に応じたコレクタ電流IeCをトランジスタ24のコレクタに出力する。
【0030】
定電流源113は、電源電位Vbattと抵抗21の一端との間に電気的に接続されている。そして、定電流源113は、制御信号S2に応じたバイアス電流Ibiasを抵抗21の一端に出力する。
【0031】
トランジスタ11のコレクタ電流Iccは、トランジスタ11の電流増幅率をβ(=hFE)とすると、次の式(1)で表される。
【0032】
Icc
=β・Ib1
=β(IeC+Ib) ・・・(1)
【0033】
制御IC110は、制御信号Sに応じたコレクタ電流IeC及びバイアス電流Ibias(≒Ib)を出力することにより、トランジスタ11のコレクタ電流Iccの電流値を所望の電流値以下に抑制することができる。これにより、トランジスタ11及び電源の過電流を抑制し、トランジスタ11及び電源がダメージを受けることを抑制できる。
【0034】
図2は、比較例の電力増幅回路の回路シミュレーション結果を示す図である。詳しくは、
図2は、高周波入力信号RFin(dBm)と、トランジスタ11のコレクタ電流Icc(アンペア(A))と、の関係を示す図である。
【0035】
線151は、コレクタ電流Iccを何ら抑制しない場合の、高周波入力信号RFinと、トランジスタ11のコレクタ電流Iccと、の関係を示す線である。線152は、コレクタ電流Iccを1.6アンペア以下に抑制する場合の、高周波入力信号RFinと、トランジスタ11のコレクタ電流Iccと、の関係を示す線である。
【0036】
線153は、コレクタ電流Iccを1.4アンペア以下に抑制する場合の、高周波入力信号RFinと、トランジスタ11のコレクタ電流Iccと、の関係を示す線である。線154は、コレクタ電流Iccを1.2アンペア以下に抑制する場合の、高周波入力信号RFinと、トランジスタ11のコレクタ電流Iccと、の関係を示す線である。線155は、コレクタ電流Iccを1.0アンペア以下に抑制する場合の、高周波入力信号RFinと、トランジスタ11のコレクタ電流Iccと、の関係を示す線である。
【0037】
以下、コレクタ電流Iccを1.4アンペア以下に抑制する場合(線153の場合)を例にとって、説明する。
【0038】
コレクタ電流Iccを1.4アンペア以下に抑制する場合、理想的には、コレクタ電流Iccは、次の軌跡を辿ることが好ましい。即ち、コレクタ電流Iccは、点161(RFin≒-15dBm、Icc≒0.6アンペア)から、線151と1.4アンペアを表す線165とが交差する点163までは、線151を辿り、点163以降は、線165(1.4アンペア)を辿ることが、好ましい。
【0039】
しかしながら、実際には、コレクタ電流Iccは、点161から点162(RFin≒-1.3dBm、Icc≒1.02アンペア)までは、線151を辿るが、点162以降は、点164までなだらかに上昇する。その理由は、次の通りである。
【0040】
トランジスタ24のコレクタ電位は、バイアス電流Ib1が増加してコレクタ電流IeCに近くなると、低下する。そして、トランジスタ24のコレクタ電位は、Ib1≒IeCになると、トランジスタ24のベース電位と同じになる。バイアス電流Ib1が更に増加すると、トランジスタ24のコレクタ電位は、トランジスタ24のベース電位よりも低くなる。そうすると、トランジスタ24のベース-コレクタ間のpn接合に、順方向の電圧が掛かることになる。従って、トランジスタ24のベース電流Ibの一部が、ベースからエミッタに流れると共に、トランジスタ24のベース電流Ibの他の一部が、ベースからコレクタを経由してエミッタに流れることになる。
【0041】
つまり、
図2において、線153上の点162から点164までの、トランジスタ11のコレクタ電流Iccの増加分は、トランジスタ24のコレクタ電流IeCに起因するのではなく、トランジスタ24のベース電流Ibに起因する。
【0042】
トランジスタ11のコレクタ電流Iccの理想的な軌跡(点162→点163→点164)と、実際の軌跡(線153上の点162→点164)と、の間の差分を、本開示では、「バラツキ」と称する。
【0043】
トランジスタ24のベース電流Ibに起因する原理は、次の通りである。
【0044】
(1)高周波入力信号RFinの電力が増加し、トランジスタ11のコレクタ電流Iccが増加すると、トランジスタ11のバイアス電流Ib1が増加する。
(2)トランジスタ24のコレクタ電流IeCの電流値は固定値であるので、トランジスタ24のコレクタ電位が低下する。トランジスタ24のコレクタ電位が低下すると、トランジスタ24の電流増幅率βが低下する。
(3)電流増幅率βの低下により、点162において、トランジスタ11のバイアス電流Ib1に制限がかかり始める。但し、「バラツキ」に対応する部分で、トランジスタ11のバイアス電流Ib1には、急激な制限はかからない。
(4)バイアス電流Ibiasの内の、トランジスタ24のベース電流Ibの割合が増加する。換言すると、バイアス電流Ibiasの内の、ダイオード22及び23に流れる電流の割合が減少する。つまり、ダイオード22及び23に流れる電流が減少するとともに、トランジスタ24のベース電流Ibが増加する。バイアス電流Ibiasの内の多くはダイオード22及び23に流れているが、トランジスタ11のバイアス電流Ib1に制限がかかった時は、ダイオード22及び23に流れる電流が減少し、トランジスタ24のベース電流Ibが増加する。
(5)ダイオード22及び23に流れる電流が減少すると、ダイオード22及び23での電圧が減少する。すると、トランジスタ24はバイアス電流Ibiasだけで動作し、トランジスタ11のバイアス電流Ib1に緩やかに制限がかかる。
【0045】
上記のことを考慮して、トランジスタ11のコレクタ電流Iccの最終的な上限値を1.4アンペアに抑制する場合には、トランジスタ24のコレクタ電流IeCの設定値を1.4アンペアよりも相当程度低くする(例えば、点162の1.02アンペア程度にする)必要がある。
【0046】
このように、電力増幅回路100では、トランジスタ11のコレクタ電流Iccの制御は、トランジスタ24のコレクタ電流IeCの制御よりも、トランジスタ24のベース電流Ibの制御に大きく依存する。なぜならば、式(1)により、トランジスタ11のコレクタ電流Iccを高い精度で制御するためには、トランジスタ24のコレクタ電流IeCと、トランジスタ24のベース電流Ibと、を制御する必要がある。トランジスタ24のコレクタ電流IeCの全部は、トランジスタ24のエミッタに流れる。従って、トランジスタ24のコレクタ電流IeCは、制御し易い。一方、バイアス電流Ibiasの多くは、ダイオード22及び23に流れ、一部がトランジスタ24のベースを経由してトランジスタ24のエミッタに流れる。従って、バイアス電流Ibiasの一部である、トランジスタ24のベース電流Ibを制御するのは、容易ではない。これにより、電力増幅回路100では、「バラツキ」が大きい。従って、電力増幅回路100は、トランジスタ11のコレクタ電流Iccを高い精度で制御することが出来ない。
【0047】
(第1の実施の形態)
図3は、第1の実施の形態の電力増幅回路の構成を示す図である。電力増幅回路1は、比較例の電力増幅回路100(
図1参照)と比較して、制御IC110に代えて、制御IC30を含む。
【0048】
電力増幅器10及びバイアス回路20の回路構成は、比較例と同様であるので、説明を省略する。バイアス回路20内のトランジスタ24が、本開示の「第1トランジスタ」に対応する。
【0049】
電力増幅器10、バイアス回路20及び制御IC30は、1個のモジュールであっても良いし、別々のモジュールであっても良い。
【0050】
電力増幅器10は、前段の回路から入力される、無線周波数の高周波入力信号RFinを増幅する。そして、電力増幅器10は、増幅後の高周波出力信号RFoutを後段の回路に出力する。前段の回路は、変調信号の電力を調整する送信電力制御回路が例示されるが、本開示はこれに限定されない。後段の回路は、高周波出力信号RFoutに対するフィルタリング等を行ってアンテナに送信するフロントエンド回路が例示されるが、本開示はこれに限定されない。
【0051】
高周波入力信号RFin及び高周波出力信号RFoutの周波数は、数百MHz(メガヘルツ)から数十GHz(ギガヘルツ)程度が例示されるが、本開示はこれに限定されない。
【0052】
本開示では、電力増幅器の段数を1段とするが、これに限定されない。電力増幅器は複数段でも良い。電力増幅器が複数段の場合、最終段の電力が一番大きい。従って、電力増幅器10は、最終段(パワー段)であることとすると、好ましい。
【0053】
制御IC30は、ディジタル制御部31と、定電流回路32と、バイアス供給回路33と、電流制御回路40と、を含む。
【0054】
ディジタル制御部31は、設定テーブル31aを含む。設定テーブル31aには、トランジスタ11のコレクタ電流Iccの電流値を所望の電流値以下に抑制するための設定値が設定されている。
【0055】
ディジタル制御部31は、入力される制御信号Sに応じて、設定テーブル31aの中から設定値を読み出す。そして、ディジタル制御部31は、設定値に応じて、制御信号S1を定電流回路32に出力し、制御信号S2をバイアス供給回路33に出力する。
【0056】
定電流回路32は、制御信号S1に応じたコレクタ電流IeCをトランジスタ24のコレクタに出力する。
【0057】
バイアス供給回路33は、基準電圧出力部33aと、電流供給部33bと、を含む。
【0058】
基準電圧出力部33aは、基準電圧Vrefを、電流供給部33bに出力する。電流供給部33bは、制御信号S2に応じて、基準電圧Vrefに基づき、バイアス電流Ibiasを、抵抗21の一端に出力する。
【0059】
電流制御回路40は、オペアンプ41と、Nチャネル型のトランジスタ42と、を含む。電流制御回路40は、トランジスタ24のベース-コレクタ間の電圧に応じて、トランジスタ24のベース電流を抑制する。なお、Nチャネル型のトランジスタ42をPチャネル型トランジスタに置き換えた場合、オペアンプ41の非反転入力と反転入力の接続関係をひっくり返すことで実現することが可能である。
【0060】
オペアンプ41の反転入力端子は、トランジスタ24のコレクタに電気的に接続されている。オペアンプ41の非反転入力端子は、抵抗21の一端に電気的に接続されている。オペアンプ41の出力端子は、トランジスタ42のゲートに電気的に接続されている。つまり、オペアンプ41は、トランジスタ24のベース-コレクタ間電圧に応じた信号を、トランジスタ42のゲートに出力する。つまり、オペアンプ41の反転入力端子は、トランジスタ24のコレクタと接続され、オペアンプ41の反転入力端子はトランジスタ24のベースと接続され、反転入力端子と非反転入力端子がバーチャルショートであることから、ベース・コレクタの電位をモニターした形となる。もし、ベース・コレクタの電位がある場合、オペアンプ41のゲートに電圧が供給され、トランジスタ24がONすることで、定電流回路32は、短絡されて、トランジスタ24のコレクタに電流が供給されないため、電流制限が行われる。
【0061】
オペアンプ41が、本開示の「第1回路」に対応する。第1回路は、オペアンプに限定されず、差動増幅器であれば良い。但し、オペアンプは、入力インピーダンスが非常に大きいので、トランジスタ24のベース電位及びコレクタ電位に影響を与えずにベース-コレクタ間電圧を検出するのに適している。従って、第1回路は、オペアンプとすると好ましい。
【0062】
トランジスタ42のソースは、基準電位に電気的に接続されている。トランジスタ42のドレインは、抵抗21の一端に電気的に接続されている。
【0063】
トランジスタ42が、本開示の「第2回路」及び「第2トランジスタ」に対応する。
【0064】
図4は、第1の実施の形態の電力増幅回路の回路シミュレーション結果を示す図である。詳しくは、
図4は、高周波入力信号RFin(dBm)と、トランジスタ11のコレクタ電流Icc(アンペア)と、の関係を示す図である。
【0065】
線172は、コレクタ電流Iccを1.6アンペア以下に抑制する場合の、高周波入力信号RFinと、トランジスタ11のコレクタ電流Iccと、の関係を示す線である。線173は、コレクタ電流Iccを1.4アンペア以下に抑制する場合の、高周波入力信号RFinと、トランジスタ11のコレクタ電流Iccと、の関係を示す線である。
【0066】
線174は、コレクタ電流Iccを1.2アンペア以下に抑制する場合の、高周波入力信号RFinと、トランジスタ11のコレクタ電流Iccと、の関係を示す線である。線175は、コレクタ電流Iccを1.0アンペア以下に抑制する場合の、高周波入力信号RFinと、トランジスタ11のコレクタ電流Iccと、の関係を示す線である。
【0067】
以下、コレクタ電流Iccを1.4アンペア以下に抑制する場合(線173の場合)を例にとって、説明する。
【0068】
第1の実施の形態では、コレクタ電流Iccは、点161から点182(RFin≒2dBm、Icc≒1.36アンペア)まで、線151を辿り、点182以降は、線165に略沿って、点164まで至る。その理由は、次の通りである。
【0069】
トランジスタ24のコレクタ電位は、バイアス電流Ib1が増加してコレクタ電流IeCに近くなると、低下する。そして、トランジスタ24のコレクタ電位は、Ib1≒IeCになると、トランジスタ24のベース電位と同じになる。バイアス電流Ib1が更に増加すると、トランジスタ24のコレクタ電位は、トランジスタ24のベース電位よりも低くなる。そうすると、オペアンプ41が正電位の信号をトランジスタ42のゲートに出力する。これにより、トランジスタ42のドレイン-ソース経路が電気的に導通する。つまり、トランジスタ42のオン抵抗を介して、抵抗21の一端と基準電位との間が電気的に導通する。従って、バイアス電流Ibiasの一部は、トランジスタ42のオン抵抗を経由して、基準電位に流れる。これにより、電流制御回路40は、バイアス電流Ibiasの増加を抑制し、トランジスタ24のベース電流Ibの増加を抑制し、トランジスタ11のバイアス電流Ib1を制御することにより、トランジスタ11のコレクタ電流Iccを制御することができる。
【0070】
また、電位の観点から、トランジスタ24のベース電位が、トランジスタ42のオン抵抗を介して基準電位に電気的に接続されることによって、抑制されると見ることもできる。つまり、電流制御回路40は、トランジスタ24のベース電位をコレクタ電位以下に抑制すると、捉えることもできる。これにより、電流制御回路40は、トランジスタ24のベース電流Ibの一部がベースからコレクタを経由してエミッタに流れることを、抑制することができる。
【0071】
上記のことを考慮して、トランジスタ11のコレクタ電流Iccの最終的な上限値を1.4アンペアに抑制する場合には、トランジスタ24のコレクタ電流IeCの設定値(設定テーブル31a内に設定される)を1.4アンペアに近い値にする(例えば、点182の1.36アンペア程度にする)ことが可能になる。
【0072】
このように、電力増幅回路1は、トランジスタ11のコレクタ電流Iccの、トランジスタ24のベース電流Ibへの依存を抑制することができる。これにより、電力増幅回路1は、「バラツキ」を抑制することができる。従って、電力増幅回路1は、トランジスタ11のコレクタ電流Iccを、高い精度で制御することができる。
【0073】
<第2の実施の形態>
図5は、第2の実施の形態の電力増幅回路の構成を示す図である。電力増幅回路1Aは、第1の実施の形態の電力増幅回路1(
図3参照)と比較して、制御IC30に代えて、制御IC30Aを含む。
【0074】
電力増幅器10及びバイアス回路20の回路構成は、第1の実施の形態と同様であるので、説明を省略する。
【0075】
制御IC30Aは、第1の実施の形態の制御IC30と比較して、バイアス供給回路33に代えて、バイアス供給回路33Aを含む。
【0076】
バイアス供給回路33Aは、基準電圧出力部33aと、抵抗33cと、電圧供給部33dと、を含む。なお、抵抗33Cの代わりに抵抗成分を有した素子であってもよい。
【0077】
電圧供給部33dが、本開示の「電圧供給回路」に対応する。
【0078】
基準電圧出力部33aは、制御信号S2に応じた基準電圧Vrefを、抵抗33cの一端に出力する。抵抗33cの他端は、電圧供給部33dに電気的に接続されている。電圧供給部33dは、基準電圧Vrefに応じたバイアス電圧Vbiasを、抵抗21の一端に出力する。
【0079】
トランジスタ42のドレインは、抵抗33cの他端に電気的に接続されている。
【0080】
電流制御回路40の動作について、説明する。トランジスタ24のコレクタ電位は、バイアス電流Ib1が増加してコレクタ電流IeCに近くなると、低下する。バイアス電流Ib1が更に増加すると、トランジスタ24のコレクタ電位がバイアス電圧Vbiasよりも低くなる。そうすると、オペアンプ41が正電位の信号をトランジスタ42のゲートに出力する。これにより、トランジスタ42はオン状態になり、トランジスタ42のドレイン-ソース経路が電気的に導通する。つまり、トランジスタ42のオン抵抗を介して、抵抗33cの他端と基準電位との間が電気的に導通する。従って、電圧供給部33dに入力される電圧は、基準電圧Vrefを抵抗33c及びトランジスタ42のオン抵抗で分圧した電圧となる。これにより、電圧供給部33dから出力されるバイアス電圧Vbiasが、低下する。従って、電流制御回路40は、バイアス電圧Vbiasを抑制することで、トランジスタ24のベースに印加される電圧を抑制し、トランジスタ24のベース電流Ibを抑制することにより、トランジスタ11のコレクタ電流Iccを制御することができる。
【0081】
電力増幅回路1Aは、電力増幅回路1と同様の効果を奏する。
【0082】
<第3の実施の形態>
図6は、第3の実施の形態の電力増幅回路の構成を示す図である。電力増幅回路1Bは、第1の実施の形態の電力増幅回路1(
図3参照)と比較して、制御IC30に代えて、制御IC30Bを含む。
【0083】
電力増幅器10及びバイアス回路20の回路構成は、第1の実施の形態と同様であるので、説明を省略する。
【0084】
制御IC30Bは、第1の実施の形態の制御IC30と比較して、定電圧源34を更に含む。
【0085】
定電圧源34は、定電圧V1を、オペアンプ41の非反転入力端子に出力する。従って、オペアンプ41は、定電圧V1とトランジスタ24のコレクタとの間の電圧に応じた信号を、トランジスタ42のゲートに出力する。
【0086】
電流制御回路40の動作について、説明する。トランジスタ24のコレクタ電位は、バイアス電流Ib1が増加してコレクタ電流IeCに近くなると、低下する。バイアス電流Ib1が更に増加すると、トランジスタ24のコレクタ電位が定電圧V1よりも低くなる。そうすると、オペアンプ41が正電位の信号をトランジスタ42のゲートに出力する。これにより、トランジスタ42のドレイン-ソース経路が電気的に導通する。つまり、トランジスタ42のオン抵抗を介して、抵抗21の一端と基準電位との間が電気的に導通する。従って、バイアス電流Ibiasの一部は、トランジスタ42のオン抵抗を経由して、基準電位に流れる。これにより、電流制御回路40は、トランジスタ24のベース電流Ibの増加を抑制することができる。
【0087】
また、電位の観点から、トランジスタ24のベース電位が、トランジスタ42のオン抵抗を介して基準電位に電気的に接続されることによって、抑制されると見ることもできる。つまり、電流制御回路40は、トランジスタ24のベース電位をコレクタ電位以下に抑制すると、捉えることもできる。これにより、電流制御回路40は、トランジスタ24のベース電流Ibの一部がベースからコレクタを経由してエミッタに流れることを、抑制することができる。
【0088】
電力増幅回路1Bは、電力増幅回路1と同様の効果を奏する。
【0089】
エミッタフォロワ回路であるバイアス回路20の特性などによって、設計者が任意の定電圧V1を設定する事ができる。効果や精度に大きな差はなく、定電圧V1がばらついても効果への影響は少ない。
【0090】
定電流回路32の出力端子(コレクタ電流IeCを出力する端子)や、電流供給部33bの出力端子(バイアス電流Ibiasを出力する端子)には、電力増幅器10が動作している時、高周波信号などが伝搬してくる。また、定電流回路32の出力端子及び電流供給部33bの出力端子をオペアンプ41に電気的に接続する際、定電流回路32及び電流供給部33bと、オペアンプ41とは、近い場所にレイアウトされる。従って、第1の実施の形態の電力増幅回路1では、オペアンプ41の非反転入力端子と抵抗21の一端との間には、電気的ノイズが乗った長い配線が引かれる可能性がある。しかし、第2の実施の形態の電力増幅回路1Bでは、オペアンプ41の非反転入力端子には、定電圧源34が電気的に接続される。従って、第2の実施の形態の電力増幅回路1Bは、ノイズの影響を少なくする効果を有する。
【0091】
<第4の実施の形態>
図7は、第4の実施の形態の電力増幅回路の構成を示す図である。電力増幅回路1Cは、第1の実施の形態の電力増幅回路1(
図3参照)と比較して、制御IC30に代えて、制御IC30Cを含む。
【0092】
電力増幅器10及びバイアス回路20の回路構成は、第1の実施の形態と同様であるので、説明を省略する。
【0093】
制御IC30Cは、第1の実施の形態の制御IC30と比較して、電流制御回路40に代えて、電流制御回路40Cを含む。
【0094】
電流制御回路40Cは、Pチャネル型のトランジスタ43と、抵抗44と、を含む。
【0095】
トランジスタ43のソースは、抵抗21の一端に電気的に接続されている。トランジスタ43のゲートは、トランジスタ24のコレクタに電気的に接続されている。トランジスタ43のドレインは、抵抗44の一端に電気的に接続されている。抵抗44の他端は、基準電位に電気的に接続されている。抵抗44は、トランジスタ43のゲート電位を、基準電位よりも正電位側にオフセットさせる役割を果たす。
【0096】
電流制御回路40Cの動作について、説明する。トランジスタ24のコレクタ電位は、バイアス電流Ib1が増加してコレクタ電流IeCに近くなると、低下する。そして、トランジスタ24のコレクタ電位は、Ib1≒IeCになると、トランジスタ24のベース電位と同じになる。バイアス電流Ib1が更に増加すると、トランジスタ24のコレクタ電位は、トランジスタ24のベース電位よりも低くなる。そうすると、トランジスタ43のゲート電位がソース電位よりも低くなるので、トランジスタ43のソース-ドレイン経路が電気的に導通する。つまり、トランジスタ42のオン抵抗を介して、抵抗21の一端と抵抗44の一端との間が電気的に導通する。従って、バイアス電流Ibiasの一部は、トランジスタ43のオン抵抗及び抵抗44を経由して、基準電位に流れる。これにより、電流制御回路40Cは、バイアス電流Ibiasの増加を抑制し、トランジスタ24のベース電流Ibの増加を抑制し、トランジスタ11のバイアス電流Ib1を制御することにより、トランジスタ11のコレクタ電流Iccを制御することができる。なお、抵抗44は抵抗成分を有した素子に置き換えてもよい。
【0097】
また、電位の観点から、トランジスタ24のベース電位が、トランジスタ43のオン抵抗及び抵抗44によって、抑制されると見ることもできる。つまり、電流制御回路40Cは、トランジスタ24のベース電位をコレクタ電位以下に抑制すると、捉えることもできる。これにより、電流制御回路40Cは、トランジスタ24のベース電流Ibの一部がベースからコレクタを経由してエミッタに流れることを、抑制することができる。
【0098】
電力増幅回路1Cは、電力増幅回路1と同様の効果を奏する。
【0099】
なお、上記した実施の形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更/改良され得るとともに、本発明にはその等価物も含まれる。
【符号の説明】
【0100】
1、1A、1B、1C、100 電力増幅回路
10 電力増幅器
11、24、42、43 トランジスタ
20 バイアス回路
21、25、33c、44 抵抗
22、23 ダイオード
30、30A、30B、30C、110 制御IC
31 ディジタル制御部
31a 設定テーブル
32 定電流回路
33、33A バイアス供給回路
33a 基準電圧出力部
33b 電流供給部
33d 電圧供給部
34 定電圧源
40、40C 電流制御回路
41 オペアンプ