(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-15
(45)【発行日】2024-01-23
(54)【発明の名称】埋設物検出装置および埋設物検出装置の補正方法
(51)【国際特許分類】
G01S 7/40 20060101AFI20240116BHJP
G01S 13/88 20060101ALI20240116BHJP
G01V 3/12 20060101ALI20240116BHJP
【FI】
G01S7/40 121
G01S13/88 200
G01V3/12 B
(21)【出願番号】P 2019127789
(22)【出願日】2019-07-09
【審査請求日】2022-05-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000002945
【氏名又は名称】オムロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129012
【氏名又は名称】元山 雅史
(72)【発明者】
【氏名】藤尾 康平
(72)【発明者】
【氏名】清水 良治
(72)【発明者】
【氏名】岡村 慎一郎
(72)【発明者】
【氏名】鶴巣 哲朗
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 充典
【審査官】佐藤 宙子
(56)【参考文献】
【文献】特表2004-500550(JP,A)
【文献】特開平08-015420(JP,A)
【文献】特開昭57-111479(JP,A)
【文献】特開2010-025949(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00- 7/42
G01S 13/00-13/95
G01V 3/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物に向かって放射した電磁波の反射波を用いて前記対象物内の埋設物を検出するための埋設物検出装置であって、
パルス信号を生成するパルス生成部と、
前記パルス信号に基づいてパルス状の電磁波を放射する送信アンテナと、
両端が前記パルス生成部と前記送信アンテナに接続され、前記パルス信号が伝送される伝送路と、
前記送信アンテナから放射された電磁波を受信する受信アンテナと、
前記送信アンテナからの電磁波の放射タイミングから、前記受信アンテナを介した前記電磁波の取得タイミングまでの遅延時間を設定する遅延時間設定部と、
前記伝送路の両端における反射回数の異なる第1パルス信号および第2パルス信号に基づいて異なる放射タイミングで前記送信アンテナから放射され前記受信アンテナに直接受信される第1電磁波および第2電磁波を用いて、前記遅延時間設定部の前記遅延時間の補正を行う制御部と、を備えた、
埋設物検出装置。
【請求項2】
前記第1パルス信号は、反射回数がゼロであり、前記伝送路の両端において反射されずに前記送信アンテナに伝送され、
前記第2パルス信号は、前記伝送路の両端で反射されてから前記送信アンテナに送信される、
請求項1に記載の埋設物検出装置。
【請求項3】
前記第1パルス信号は、前記伝送路の両端で反射されてから前記送信アンテナに送信され、
前記第2パルス信号は、前記第1パルス信号よりも多く前記伝送路の両端で反射されてから前記送信アンテナに送信される、
請求項1に記載の埋設物検出装置。
【請求項4】
前記制御部は、
前記受信アンテナを介して前記第1電磁波を取得した第1取得タイミングと、前記受信アンテナを介して前記第2電磁波を取得した第2取得タイミングに基づいて、前記遅延時間設定部の前記遅延時間を補正する、
請求項1~3のいずれかに記載の埋設物検出装置。
【請求項5】
前記遅延時間設定部は、所定時間を1ステップとして前記放射タイミング毎に前記所定時間ずつ前記遅延時間を増加させることによって、前記取得タイミングを変更し、
前記伝送路における前記パルス信号の速度と前記伝送路の長さから算出される前記第1取得タイミングと前記第2取得タイミングの時間差が予め設定されており、
前記制御部は、前記第1取得タイミングと前記第2取得タイミングの間の前記ステップの数と前記時間差から前記所
定時間を算出する、
請求項4に記載の埋設物検出装置。
【請求項6】
前記伝送路の長さは、前記パルス信号が前記伝送路を往復する時間が、前記送信アンテナから放射された電磁波が予め設定されている前記対象物の最大深さで反射し前記受信アンテナで受信するまでの時間よりも長くなるように設定されている、
請求項1~5のいずれかに記載の埋設物検出装置。
【請求項7】
前記伝送路は、前記パルス生成部に設けられた信号出力素子と前記送信アンテナの給電点の間を接続する、
請求項1~6のいずれか1項に記載の埋設物検出装置。
【請求項8】
前記送信アンテナと前記受信アンテナは隣接して配置されている、
請求項1~7のいずれか1項に記載の埋設物検出装置。
【請求項9】
対象物に向かって放射した電磁波の反射波に関するデータを用いて前記対象物内の埋設物を検出するための埋設物検出装置の補正方法であって、
前記埋設物検出装置は、
パルス信号を生成するパルス生成部と、
前記パルス信号に基づいてパルス状の電磁波を放射する送信アンテナと、
両端が前記パルス生成部と前記送信アンテナに接続され、前記パルス信号が伝送される伝送路と、
前記送信アンテナから放射された電磁波を受信する受信アンテナと、
前記送信アンテナからの電磁波の放射タイミングから、前記受信アンテナを介した前記電磁波の取得タイミングまでの遅延時間を設定する遅延時間設定部と、を有し、
前記伝送路の両端における反射回数の異なる第1パルス信号および第2パルス信号に基づいて異なる放射タイミングで前記送信アンテナから放射された第1電磁波および第2電磁波を前記受信アンテナで直接受信する受信ステップと、
受信した前記第1電磁波および前記第2電磁波を用いて、前記遅延時間設定部の前記遅延時間の補正を行う補正ステップと、を備えた、
埋設物検出装置の補正方法。
【請求項10】
前記第1パルス信号は、反射回数がゼロであり、前記伝送路の両端において反射されずに前記送信アンテナに伝送され、
前記第2パルス信号は、前記伝送路の両端で反射されてから前記送信アンテナに送信される、
請求項9に記載の埋設物検出装置の補正方法。
【請求項11】
前記第1パルス信号は、前記伝送路の両端で反射されてから前記送信アンテナに送信され、
前記第2パルス信号は、前記第1パルス信号よりも多く前記伝送路の両端で反射されてから前記送信アンテナに送信される、
請求項9に記載の埋設物検出装置の補正方法。
【請求項12】
前記補正ステップは、
前記受信アンテナを介して前記第1電磁波を取得した第1取得タイミングと、前記受信アンテナを介して前記第2電磁波を取得した第2取得タイミングに基づいて、前記遅延時間設定部の前記遅延時間を補正する、
請求項9~11のいずれか1項に記載の埋設物検出装置の補正方法。
【請求項13】
前記遅延時間設定部は、所定時間を1ステップとして前記放射タイミング毎に前記所定時間ずつ前記遅延時間を増加させることによって、前記取得タイミングを変更し、
前記伝送路における前記パルス信号の速度と前記伝送路の長さから算出される前記第1取得タイミングと前記第2取得タイミングの時間差が予め設定されており、
前記補正ステップは、前記第1取得タイミングと前記第2取得タイミングの間の前記ステップの数と前記時間差から前記所
定時間を算出する、
請求項12に記載の埋設物検出装置の補正方法。
【請求項14】
前記伝送路の長さは、前記パルス信号が前記伝送路を往復する時間が、前記送信アンテナから放射された電磁波が予め設定されている前記対象物の最大深さで反射し前記受信アンテナで受信するまでの時間よりも長くなるように設定されている、
請求項9~13のいずれか1項に記載の埋設物検出装置の補正方法。
【請求項15】
前記伝送路は、前記パルス生成部に設けられた信号出力素子と前記送信アンテナの給電点の間を接続する、
請求項9~14のいずれか1項に記載の埋設物検出装置の補正方法。
【請求項16】
前記送信アンテナと前記受信アンテナは隣接して配置されている、
請求項9~15のいずれか1項に記載の埋設物検出装置の補正方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、埋設物検出装置および埋設物検出装置の補正方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート内の埋設物を探索する装置として、コンクリートの表面を移動させながら、コンクリートに向かって放射した電磁波の反射波から埋設物を検出する埋設物検出装置が用いられている(例えば、特許文献1参照)。
特許文献1に示す埋設物検出装置には、使用環境温度による影響を補正するために、通常の測定に用いるアンテナ系とは別にキャリブレーション系が設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来の埋設物検出装置では、別途キャリブレーション系を設けているためキャリブレーション系への切換スイッチ等も必要なり、構成が複雑であった。
本発明は、簡易な構成で個体によるバラツキや、使用環境温度による影響を補正することが可能な埋設物検出装置および埋設物検出装置の補正方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
第1の発明にかかる埋設物検出装置は、対象物に向かって放射した電磁波の反射波に関するデータを用いて対象物内の埋設物を検出するための埋設物検出装置であって、パルス生成部と、送信アンテナと、伝送路と、受信アンテナと、遅延時間設定部と、制御部と、を備える。パルス生成部は、パルス信号を生成する。送信アンテナは、パルス信号に基づいて、パルス状の電磁波を放射する。伝送路は、両端がパルス生成部と送信アンテナに接続され、パルス信号が伝送される。受信アンテナは、送信アンテナから放射された電磁波を受信する。遅延時間設定部は、送信アンテナからの電磁波の放射タイミングから、受信アンテナを介した電磁波の取得タイミングまでの遅延時間を設定する。制御部は、伝送路の両端における反射回数の異なる第1パルス信号および第2パルス信号に基づいて異なる放射タイミングで送信アンテナから放射され受信アンテナに直接受信される第1電磁波および第2電磁波を用いて、遅延時間設定部の遅延時間の補正を行う。
【0006】
なお、本明細書では、反射回数とは0(ゼロ)も含む。また、直接受信されるとは、送信アンテナから放射された電磁波が物体で反射せずに受信アンテナに受信されることをいう。
遅延時間設定部によって設定される遅延時間は、装置の個体差や温度によって影響を受け誤差が生じることがある。
【0007】
一方、伝送路におけるパルス信号の速度は温度影響や個体差がほとんど存在しない。そのため、反射回数の異なるパルス信号に基づいて送信アンテナから異なる放射タイミングで放射された第1電磁波と第2電磁波の放射タイミングの間隔は一定となる。
そのため、2つの放射タイミングの間の時間を用いることによって、遅延時間設定部に設定される遅延時間の補正を行うことができる。
【0008】
第2の発明にかかる埋設物検出装置は、第1の発明にかかる埋設物検出装置であって、第1パルス信号は、反射回数がゼロであり、伝送路の両端において反射されずに送信アンテナに伝送される。第2パルス信号は、伝送路の両端で反射されてから送信アンテナに送信される。
これにより、反射せずに送信アンテナに送信されたパルス信号に基づいて放射された電磁波と、伝送路の両端で反射して送信アンテナに送信されたパルス信号に基づいて放射された電磁波との放射タイミングの間隔を用いることによって、遅延時間設定部によって設定される遅延時間の補正を行うことができる。
【0009】
第3の発明にかかる埋設物検出装置は、第1の発明にかかる埋設物検出装置であって、第1パルス信号は、伝送路の両端で反射されてから送信アンテナに送信される。第2パルス信号は、第1パルス信号よりも多く伝送路の両端で反射されてから送信アンテナに送信される。
これにより、伝送路の両端で反射して送信アンテナに送信されたパルス信号に基づいて放射された電磁波と、より多く伝送路の両端で反射して送信アンテナに送信されたパルス信号に基づいて放射された電磁波との放射タイミングの間隔を用いることによって、遅延時間設定部によって設定される遅延時間の補正を行うことができる。
【0010】
第4の発明にかかる埋設物検出装置は、第2または第3の発明にかかる埋設物検出装置であって、制御部は、受信アンテナを介して第1電磁波を取得した第1取得タイミングと、受信アンテナを介して第2電磁波を取得した第2取得タイミングに基づいて、遅延時間設定部の遅延時間を補正する。
第1電磁波の放射タイミングから第2電磁波の放射タイミングまでの時間は一定となるため、第1取得タイミングから第2取得タイミングまでの時間も一定となり、その時間は伝送路の長さおよび材料に基づいて算出できる。そのため、2つの取得タイミングの間の時間を用いることによって、遅延時間設定部に設定される遅延時間の補正を行うことができる。
【0011】
第5の発明にかかる埋設物検出装置は、第4の発明にかかる埋設物検出装置であって、遅延時間設定部は、所定時間を1ステップとして放射タイミング毎に所定時間ずつ遅延時間を増加させることによって、データの取得タイミングを変更する。伝送路におけるパルス信号の速度と伝送路の長さから算出される第1取得タイミングと第2取得タイミングの時間差が予め設定されている。制御部は、第1取得タイミングと第2取得タイミングの間のステップの数と時間差から所定時間を算出する。
これにより、所定時間、即ち、1ステップあたりの実時間を求めることができるため、対象物内における埋設物の深さを精度良く求めることができる。
【0012】
第6の発明にかかる埋設物検出装置は、第2または第3の発明にかかる埋設物検出装置であって、伝送路の長さは、パルス信号が伝送路を往復する時間が、送信アンテナから放射された電磁波が予め設定されている対象物の最大深さで反射した受信アンテナで受信するまでの時間よりも長くなるように設定されている。
これによって、電磁波が対象物内で反射した反射波に関するデータを、第1取得タイミングと第2取得タイミングの間で取得することができるため、送信アンテナから受信アンテナに直接受信される電磁波による影響を低減して、埋設物を検出することができる。
【0013】
第7の発明にかかる埋設物検出装置は、第1~6のいずれかの発明にかかる埋設物検出装置であって、伝送路は、パルス生成部に設けられた信号出力素子と送信アンテナの給電点の間を接続する。
これにより、信号出力素子と給電点で反射した反射パルス信号に基づいたパルス状の電磁波を送信アンテナから放射することができる。
【0014】
第8の発明にかかる埋設物検出装置は、第1~7のいずれかの発明にかかる埋設物検出装置であって、送信アンテナと受信アンテナは隣接して配置されている。
これにより、送信アンテナから放射された電磁波が対象物を介さず直接受信アンテナで受信することができる。また、精度良く埋設物を検出することができる。
【0015】
第9の発明にかかる埋設物検出装置の補正方法は、対象物に向かって放射した電磁波の反射波に関するデータを用いて対象物内の埋設物を検出するための埋設物検出装置の補正方法であって、受信ステップと、補正ステップと、を備える。埋設物検出装置は、パルス生成部と、送信アンテナと、伝送路と、受信アンテナと、遅延時間設定部と、を備える。パルス生成部は、パルス信号を生成する。送信アンテナは、パルス信号に基づいて、パルス状の電磁波を放射する。伝送路は、両端がパルス生成部と送信アンテナに接続され、パルス信号が伝送される。受信アンテナは、送信アンテナから放射された電磁波を受信する。遅延時間設定部は、送信アンテナからの電磁波の放射タイミングから、受信アンテナを介した電磁波の取得タイミングまでの遅延時間を設定する。受信ステップは、伝送路の両端における反射回数の異なる第1パルス信号および第2パルス信号に基づいて異なる放射タイミングで送信アンテナから放射された第1電磁波および第2電磁波を受信アンテナで直接受信する。補正ステップは、受信した第1電磁波および第2電磁波を用いて、遅延時間設定部の遅延時間の補正を行う。
【0016】
遅延時間設定部によって設定される遅延時間は、装置の個体差や温度によって影響を受け誤差が生じることがある。
一方、伝送路におけるパルス信号の速度は温度影響や個体差がほとんど存在しない。そのため、反射回数の異なるパルス信号に基づいて送信アンテナから異なる放射タイミングで放射された第1電磁波と第2電磁波の放射タイミングの間隔は一定となる。
そのため、2つの放射タイミングの間の時間を用いることによって、遅延時間設定部に設定される遅延時間の補正を行うことができる。
【0017】
第10の発明にかかる埋設物検出装置の補正方法は、第9の発明にかかる埋設物検出装置の補正方法であって、第1パルス信号は、反射回数がゼロであり、伝送路の両端において反射されずに送信アンテナに伝送される。第2パルス信号は、伝送路の両端で反射されてから送信アンテナに送信される。
これにより、反射せずに送信アンテナに送信されたパルス信号に基づいて放射された電磁波と、伝送路の両端で反射して送信アンテナに送信されたパルス信号に基づいて放射された電磁波との放射タイミングの間隔を用いることによって、遅延時間設定部によって設定される遅延時間の補正を行うことができる。
【0018】
第11の発明にかかる埋設物検出装置の補正方法は、第9の発明にかかる埋設物検出装置の補正方法であって、第1パルス信号は、伝送路の両端で反射されてから送信アンテナに送信される。第2パルス信号は、第1パルス信号よりも多く伝送路の両端で反射されてから送信アンテナに送信される。
これにより、伝送路の両端で反射して送信アンテナに送信されたパルス信号に基づいて放射された電磁波と、より多く伝送路の両端で反射して送信アンテナに送信されたパルス信号に基づいて放射された電磁波との放射タイミングの間隔を用いることによって、遅延時間設定部によって設定される遅延時間の補正を行うことができる。
【0019】
第12の発明にかかる埋設物検出装置の補正方法は、第9~11の発明にかかる埋設物検出装置の補正方法であって、補正ステップは、受信アンテナを介して第1電磁波を取得した第1取得タイミングと、受信アンテナを介して第2電磁波を取得した第2取得タイミングに基づいて、遅延時間設定部の遅延時間を補正する。
【0020】
第1電磁波の放射タイミングから第2電磁波の放射タイミングまでの時間は一定となるため、第1取得タイミングから第2取得タイミングまでの時間も一定となり、その時間は伝送路の長さおよび材料に基づいて算出できる。そのため、2つの取得タイミングの間の時間を用いることによって、遅延時間設定部に設定される遅延時間の補正を行うことができる。
【0021】
第13の発明にかかる埋設物検出装置の補正方法は、第12の発明にかかる埋設物検出装置の補正方法であって、遅延時間設定部は、所定時間を1ステップとして放射タイミング毎に所定時間ずつ遅延時間を増加させることによって、データの取得タイミングを変更する。伝送路におけるパルス信号の速度と伝送路の長さから算出される第1取得タイミングと第2取得タイミングの時間差が予め設定されている。補正ステップは、第1取得タイミングと第2取得タイミングの間のステップの数と時間差から所定時間を算出する。
【0022】
第14の発明にかかる埋設物検出装置の補正方法は、第9~13のいずれかの発明にかかる埋設物検出装置の補正方法であって、伝送路の長さは、パルス信号が伝送路を往復する時間が、送信アンテナから放射された電磁波が予め設定されている対象物の最大深さで反射し受信アンテナで受信するまでの時間よりも長くなるように設定されている。
これによって、電磁波が対象物内で反射した反射波に関するデータを、第1取得タイミングと第2取得タイミングの間で取得することができるため、送信アンテナから受信アンテナに直接受信される電磁波による影響を低減して、埋設物を検出することができる。
【0023】
第15の発明にかかる埋設物検出装置の補正方法は、第9~14のいずれかの発明にかかる埋設物検出装置の補正方法であって、伝送路は、パルス生成部に設けられた信号出力素子と送信アンテナの給電点の間を接続する。
これにより、信号出力素子と給電点で反射した反射パルス信号に基づいたパルス状の電磁波を送信アンテナから放射することができる。
【0024】
第16の発明にかかる埋設物検出装置の補正方法は、第9~15のいずれかの発明にかかる埋設物検出装置の補正方法であって、送信アンテナと受信アンテナは隣接して配置されている。
これにより、送信アンテナから放射された電磁波が対象物を介さず直接受信アンテナで受信することができる。また、精度良く埋設物を検出することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、簡易な構成で個体によるバラツキや、使用環境温度による影響を補正することが可能な埋設物検出装置および埋設物検出装置の補正方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明にかかる実施の形態における埋設物検出装置の構成を示す斜視図。
【
図2】
図1の埋設物検出装置の構成を示すブロック図。
【
図3】
図2のインパルス制御モジュールの構成を示すブロック図。
【
図4】
図3のMPUが取得する反射波のデータを示す図。
【
図6】
図2のメイン制御モジュールの構成を示すブロック図。
【
図7】(a)、(b)ディレイICにおける1ステップの時間が異なる受信波を示す図。
【
図8】(a)インパルス生成回路と送信アンテナ間での反射を示す模式図、(b)物体からの反射波を受信していない場合における受信アンテナ12で受信される受信波を示す図。
【
図9】一次波と二次波の間に鉄筋からの反射波が観測される受信波を示す図。
【
図10】一次波、二次波、三次波、および四次波が観測される受信波を示す図。
【
図11】(a)、(b)ディレイICにおける1ステップの実時間の算出を説明するための図。
【
図12】(a)本発明にかかる実施の形態の埋設物検出装置の補正方法を示すフロー図、(b)受信波の一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下に、本発明の実施の形態に係る埋設物検出装置について図面に基づいて説明する。
<構成>
(埋設物検出装置1の概要)
図1は、本発明に係る実施の形態における埋設物検出装置1をコンクリート100上に配置した状態を示す斜視図である。
図2は、本実施の形態における埋設物検出装置1の概略構成を示すブロック図である。
【0028】
本実施の形態の埋設物検出装置1は、コンクリート100等の対象物の表面100aを移動しながら電磁波をコンクリート100に放射し、その反射波を受信して解析することによって、コンクリート100内の埋設物101a、101b、101c、101dの位置を検出する。
図1では、埋設物101a、101b、101c、101dは、例えば、鉄筋であり、それぞれの埋設物は、表面100aから順に20cm、15cm、10cm、5cmの深さ位置に埋設されている。深さ方向が矢印Bで示されており、表面方向が矢印Cで示されている。深さ方向は、表面方向の反対方向である。
【0029】
埋設物検出装置1は、
図2に示すように、本体部2と、把手3と、車輪4と、インパルス制御モジュール5と、メイン制御モジュール6と、エンコーダ7と、表示部8と、を有する。
本体部2の上面に把手3が設けられている。本体部2の下部に4つの車輪が回転自在に取り付けられている。作業者は、コンクリート100内部の埋設物を検出する際には、把手3を把持して車輪4を回転させながら埋設物検出装置1をコンクリート100の表面100a上で移動させる。
【0030】
インパルス制御モジュール5は、コンクリート100の表面100aに向けてパルス状の電磁波(電磁波)を放射する放射タイミング、および放射した電磁波の反射波を取得する取得タイミング等の制御を行う。
エンコーダ7は、車輪4に接続されており、車輪4の回転を検出し、検出された車輪4の回転に基づいて、インパルス制御モジュール5にパルス状の電磁波を放射する放射タイミングおよび電磁波の反射波の取得タイミングを制御するための信号を送信する。
【0031】
メイン制御モジュール6は、インパルス制御モジュール5で受信された反射波に関するデータを受け取り、埋設物の検出を行う。
表示部8は、本体部2の上面に設けられており、埋設物101a、101b、101c、101dの位置を示す画像を表示する。
【0032】
(インパルス制御モジュール5)
図3は、インパルス制御モジュール5の構成を示すブロック図である。
インパルス制御モジュール5は、制御部10と、送信アンテナ11と、受信アンテナ12と、インパルス生成回路13(パルス生成部の一例)と、ディレイIC14(遅延時間設定部の一例)と、サンプリングパルス生成回路15と、高速サンプル・ホールド回路16と、A/Dコンバータ17と、伝送路18と、を有している。
本実施の形態のインパルス制御モジュール5は、等価サンプリングを用いて、送信アンテナ11から放射されたパルス状の電磁波の反射波を受信アンテナ12で受信する。
【0033】
等価サンプリングは、エンコーダ7による入力のタイミングをトリガとして、パルス状の電磁波を同じ地点で複数回(例えば500)送信して1セットとする。1回目の電磁波の放射時には、電磁波の放射タイミングから1ステップ(例えば10ps後)の受信波の電圧のみを取得する。2回目の電磁波の放射時には、電磁波の放射タイミングから2ステップ(たとえば20ps)後の受信波の電圧を取得する。3回目の電磁波の放射時には、電磁波の放射タイミングから3ステップ(たとえば30ps)後の受信波の電圧を取得する。
【0034】
これを1セット分繰り返すことによって、パルス状の電磁波(インパルス波)の送信から所定期間(5ns間)の受信波を1ステップ(10ps)単位で取得することができる。そして、埋設物検出装置1の移動に伴ったエンコーダ7からの入力のたびに上記1セットが行われる。なお、1ステップは、ディレイIC14によって設定される。
上記では、1回目の電磁波の放射時には、電磁波の放射タイミングから1ステップ(例えば、10ps後)の受信波の電圧を取得すると述べたが、これに限らなくても良く、例えば、1回目の電磁波の放射時には、電磁波の放射タイミングと同時の0ステップの受信波の電圧を取得してもよい。この場合、2回目の電磁波の放射時には、電磁波の放射タイミングから1ステップ(例えば、10ps後)の受信波の電圧を取得してもよい。
【0035】
制御部10は、MPU(Micro Processing Unit)等によって構成されており、エンコーダ入力をトリガとして、インパルス生成回路13にインパルス信号(パルス信号の一例)の発生を指令する。制御部10は、送信アンテナ11からパルス状の電磁波を射出する射出タイミングから、受信アンテナ12を介して反射波を取得する取得タイミングまでの遅延時間を設定するディレイIC14を制御する。
【0036】
送信アンテナ11は、本体部2の底面側に配置されている。送信アンテナ11は、インパルス生成回路13から伝送されてくる所定の周期のインパルス信号を、パルス状の電磁波として一定周期で放射する。
受信アンテナ12は、本体部2の底面側に配置されている。送信アンテナ11は受信アンテナ12と隣接して配置されている。本実施の形態では、例えば送信アンテナ11および受信アンテナ12は同一基板上に銅箔パターンとして隣接して形成してもよい。また、送信アンテナ11と受信アンテナ12は、それぞれアルミケースで覆われていても良い。
【0037】
受信アンテナ12は、送信アンテナ11から放射されたパルス状の電磁波および電磁波の反射波を受信する。すなわち、受信アンテナ12は、送信アンテナ11から放射されたパルス状の電磁波がコンクリート100等の対象物で反射した電磁波を受信するとともに、送信アンテナ11から放射されたパルス状の電磁波を直接受信する。
コンクリート100等の対象物で反射した電磁波を受信アンテナ12によって受信することによって、コンクリート100内の埋設物を検知することができる。例えば、30cmのコンクリートを電磁波が往復する時間は5ns(ナノ秒)であるため、送信アンテナ11からパルス状の電磁波が放射されてから5ns間に受信される反射波を等価サンプリングで受信することによって、
図4に示すような受信波形を得ることができる。
【0038】
また、上記直接受信するとは、送信アンテナ11から放射されたパルス状の電磁波が物体等に反射されず、直接受信アンテナ12によって受信されることをいう。
インパルス生成回路13は、制御部10と接続されており、制御部10によって制御される。インパルス生成回路13は、制御部10を介したエンコーダ7からの入力をトリガとして、所定の時間間隔で所定の回数(例えば、500回)、インパルス信号を発生させて送信アンテナ11に出力する。
【0039】
伝送路18は、インパルス生成回路13と送信アンテナ11の間を接続する。インパルス生成回路13で生成されたインパルス信号は、伝送路18を介して送信アンテナ11に伝送され、送信アンテナ11から放射される。また、インパルス生成回路13で生成されたインパルス信号は、伝送路18の両端において反射し、その反射波が送信アンテナ11から放射される。なお、反射および伝送路18の詳細について後述する。
【0040】
ディレイIC14は、制御部10に接続されており、制御部10によって制御される。ディレイIC14は、サンプリングパルス生成回路15によるサンプリングパルスの発生タイミングを制御する。ディレイIC14は、送信アンテナ11からパルス状の電磁波を射出する射出タイミングから、受信アンテナ12を介して反射波を取得する取得タイミングまでの遅延時間を設定する。
【0041】
ディレイIC14は、デジタル信号によって内部の複数の遅延ラインを切り替えることで、最小遅延時間から最大遅延時間まで1ステップ単位で任意の遅延時間を設定することができる。この設定した遅延時間によってサンプリングパルス生成回路15にサンプリングパルスを生成させるタイミングを変更する。
例えば、エンコーダ入力後のh回目(例えば1回目)の電磁波の放射タイミングからiステップ(例えば1ステップ)後にサンプリングパルス生成回路15にパルス発生指令信号を送信しサンプリングパルスを発生させた場合、h+1回目(例えば2回目)の電磁波の放射では放射タイミングからi+1ステップ(例えば2ステップ)後にサンプリングパルスを発生させ、h+2回目(例えば3回目)の電磁波の放射では放射タイミングからi+2ステップ(例えば3ステップ)後にサンプリングパルスを発生させ、順次ステップ数を増加させる。なお、hとiは一致していても一致していなくてもよい。
【0042】
これによって、1ステップずつ遅延させてサンプリングパルス生成回路15にサンプリングパルスを発生させることができる。例えば、ステップ間が10psのディレイIC14は、放射タイミングから取得タイミングまでの遅延時間を10psずつ増加させてサンプリングパルス生成回路15がサンプリングパルスを生成するように、制御部10によって制御される。
【0043】
そして、ディレイIC14は、遅延時間が設定時間(例えば5ns)に達すると、それ以上遅延時間を設定せず、次のエンコーダ入力があると再度はじめから遅延時間を設定していく。
サンプリングパルス生成回路15は、ディレイIC14から送信されるパルス発生指令信号に基づいて、サンプリングパルスを発生する。サンプリングパルス生成回路15は、パルス状の電磁波の放射タイミングからディレイIC14によって設定された遅延時間(例えば、10ps、20ps、30ps、・・・)に基づいて、受信アンテナ12を介して取得した受信波の電圧を取得するように高速サンプル・ホールド回路16にサンプリングパルスを送信する。
【0044】
高速サンプル・ホールド回路16は、サンプリングパルス生成回路15から送信されたサンプリングパルスを受信すると、受信アンテナ12を介して受信した受信波を取得する。高速サンプル・ホールド回路16は、超高速スイッチおよびコンデンサを有しており、サンプリングパルスを受信すると超高速スイッチを短時間オン状態とし、そのオン状態の間にコンデンサに電圧を貯め、その電圧を取得し、A/Dコンバータ17に送信する。
【0045】
A/Dコンバータ17は、高速サンプル・ホールド回路16から受信した電圧をA/D(Analog/Digital)変換して制御部10に送信する。
このようにインパルス制御モジュール5は、ディレイIC14を用いて電磁波の照射タイミングごとに取得タイミングを除々に遅らせることで受信アンテナ12との距離ごとの受信データを取得することができる。
【0046】
図4は、MPUが取得する反射波のデータを示す図である。なお、縦軸の階調は、受信した反射波を2の12乗の分解能でAD変換すると、0-4095の階調で、ディジタルデータで表現してもよく、軸Oは、2048に設定されている。横軸は、受信アンテナ12との距離を示し、矢印方向(深さ方向Bに対応)が受信アンテナ12からの距離が長いことを示す。また、距離が長いとは、深さが深いことに相当する。
【0047】
また、
図4に示すデータは、エンコーダ7の入力があった後からエンコーダ7の入力が次にあるときまでのデータである。受信タイミングを除々に遅らせることによって、受信アンテナ12からの距離が長い位置からの反射波を受信するが、エンコーダ7からの入力があると、受信タイミングの遅延が元に戻され、再び受信タイミングを除々に遅らせる。すなわち、移動方向A1、A2における所定の計測位置(エンコーダ7からの入力があった位置)における深さ方向Bの反射波を受信することになる。このような
図4に示すエンコーダ7の入力があった後から次のエンコーダの入力があるまでの反射波のデータを1ライン分のデータという。制御部10は、1ライン分のデータが貯まるごとに、その1ライン分のRF(Radio Frequency)データをメイン制御モジュール6へ送信する。
【0048】
なお、埋設物検出装置1は動かされているため、計測位置は厳密に同じ位置ではなく、深さ方向Bもコンクリート100の表面100aに対して厳密に垂直な方向ではない。
図5は、伝送路18について示す模式図である。
図5に示すように、上述したインパルス生成回路13は、送信基板70に設けられている。インパルス生成回路13は、トランジスタ素子13aを有している。トランジスタ素子13aは、インパルス信号を発信する。なお、トランジスタ素子に限らなくてもよく、信号を発信できる素子であればよい。また、送信アンテナ11は、アンテナ基板71に設けられている。
【0049】
伝送路18は、同軸ケーブル81と、送信基板コネクタ82と、アンテナ基板コネクタ83と、送信基板接続回路84と、アンテナ基板接続回路85と、を有している。伝送路18は、インパルス生成回路13のトランジスタ素子13aと、送信アンテナ11のアンテナ給電点11aの間を接続する。
送信基板コネクタ82および送信基板接続回路84は、送信基板70に設けられている。送信基板接続回路84は送信基板コネクタ82とトランジスタ素子13aの間を接続している。アンテナ基板コネクタ83およびアンテナ基板接続回路85は、アンテナ基板71に設けられている。アンテナ基板接続回路85は、アンテナ基板コネクタ83とアンテナ給電点11aの間を接続している。同軸ケーブル81は、その両端が送信基板コネクタ82とアンテナ基板コネクタ83に接続されている。
【0050】
なお、伝送路18の一方の端18aは、トランジスタ素子13aとの接続端であり、伝送路18の他方の端18bは、アンテナ給電点11aとの接続端である。
インパルス生成回路13のトランジスタ素子13aから送信されたインパルス信号は、送信基板接続回路84および送信基板コネクタ82を介して同軸ケーブル81に送信され、同軸ケーブル81で伝達されて、アンテナ基板コネクタ83およびアンテナ基板接続回路85を介してアンテナ給電点11aに送信され、送信アンテナ11より外部にパルス状の電磁波として放射される。
なお、トランジスタ素子13aとアンテナ給電点11aで発生するインパルス信号の反射については後述する。
【0051】
(メイン制御モジュール6)
図6は、メイン制御モジュール6の構成を示すブロック図である。
メイン制御モジュール6は、受信部21と、RFデータ管理部22と、埋設物判定部24と、判定結果登録部25と、表示制御部26と、を有している。
【0052】
受信部21は、インパルス制御モジュール5の制御部10から送信される1ライン分のRFデータを受信する。
RFデータ管理部22は、受信部21が受信した1ライン分のRFデータを記憶する。
埋設物判定部24は、RFデータ管理部22において記憶された1ライン分のRFデータを用いて、埋設物101の有無を判定するとともに、埋設物101の位置を検出する。
【0053】
なお、埋設物判定部24における埋設物101の検出処理については、受信アンテナ12において受信した複数の1ライン分のRFデータに基づいて、既知の方法を用いて実施すればよい。具体的には、例えば、埋設物101が鉄筋等の金属である場合には、送信アンテナ11から放射されたインパルス波は、その表面において反射される。このため、受信アンテナ12において、このような埋設物101の表面で反射された反射波の速度(強度)と、反射波を受信するまでの時間とを検出することで、コンクリート100内の埋設物101の有無およびその位置を検出することができる。
【0054】
判定結果登録部25は、埋設物判定部24によって検出された埋設物101の位置をRFデータ管理部22に登録する。
表示制御部26は、移動方向Aと深さ方向Bの平面において信号強度を色で階調処理した画像、および埋設物101の位置を表示するように、表示部8の制御を行う。
【0055】
<ディレイICの遅延時間の補正>
次に、ディレイIC14が設定する遅延時間の補正について説明する。
上述したようにディレイIC14は、ステップ数に基づいてサンプリングパルス生成回路15にサンプリングパルスを生成させる指令を送信しているが、温度および個体差等によって、ステップの実時間が変化する場合がある。
図7(a)および
図7(b)は、ディレイICにおける1ステップの時間が異なる場合を説明するための受信波を示す図である。図
7(a)の受信波R1および図
7(b)の受信波R2における鉄筋からの反射波をr1、r2とする。なお、受信波R1と受信波R2は、同じ構造の鉄筋が埋設された対象物に対して電磁波を照射しているとする。受信波R1、R2に示す矢印は、ステップを示し、電磁波の取得タイミング(サンプリングタイミング)を示す。また、例えばエンコーダ入力後のはじめのステップを1ステップ(1サン
プリング目)とする。
【0056】
図7(a)に示す受信波R1では、鉄筋からの反射波r1は、17サンプリング目で観測されている。一方、
図7(b)に示す受信波R2では、鉄筋からの反射波r2は、14サンプリング目で観測されている。
ステップ1~ステップ17までの実際の時間は、受信波R1および受信波R2で同じはずであるが、観測されるサンプリング数が異なることがある。これは、1ステップの時間が
図7(a)において観測される反射波と
図7(b)において観測される反射波では異なるためである。これは、温度やディレイIC14の個体差によって発生する。
【0057】
このように、1ステップの時間が異なっている場合、例えば、ディレイIC14は、1ステップを10psとすると、
図7(a)では170ps後に反射波r1が観測され、
図7(b)では140ps後に反射波r2が観測されることになり、観測されるタイミングが異なる。そのため、鉄筋の深さ(距離)を正確に算出することができない。
そこで、本実施の形態の埋設物検出装置1では、送信アンテナ11と受信アンテナ12を隣接して配置することによって、受信アンテナ12に反射波だけでなく送信アンテナ11から放射された電磁波の少なくとも一部が受信アンテナ12によって直接受信可能な構成とされている。
【0058】
また、インパルス生成回路13と送信アンテナ11の間でインパルス信号が反射するように、インパルス生成回路13と送信アンテナ11の間の伝送路18が一定の長さ(例えば50cm)に設定されている。
図8(a)は、インパルス生成回路13と送信アンテナ11間での反射を示す模式図である。
図8(a)に示すように、インパルス生成回路13で生成されたインパルス信号は伝送路18の両端18a、18bで反射する。詳細には、インパルス信号は、送信アンテナ11のアンテナ給電点11a(
図4参照)とトランジスタ素子13a(
図4参照)の間で反射する。アンテナ給電点11aで反射したインパルス信号は、トランジスタ素子13aで反射して再び伝送路18を介して送信アンテナ11に送信される。
【0059】
インパルス生成回路13で生成されたインパルス信号のうち伝送路18を一回だけ通って送信アンテナ11に伝送されるインパルス信号s1(第1パルス信号の一例)に基づいて放射される電磁波を一次波p1(第1電磁波の一例)とする。インパルス生成回路13で生成されたインパルス信号のうちアンテナ給電点11aで反射して伝送路18を通ってトランジスタ素子13aで反射し、再び伝送路18を通って送信アンテナ11に伝送されるインパルス信号s2(第2パルス信号の一例)に基づいて放射される電磁波を二次波p2(第2電磁波の一例)とする。一次波p1は、伝送路18の両端における反射回数がゼロといえる。また、インパルス信号s1とインパルス信号s2は、インパルス生成回路13において同じタイミングで生成されたインパルス信号の一部である。
【0060】
図8(b)は、物体からの反射波を受信していない場合において受信アンテナ12で受信される受信波を示す図である。受信アンテナ12で受信した受信波では、一次波p1と二次波p2が観測される。一次波p1が観測されるタイミングと二次波p2が観測されるタイミングの間の時間t1は、伝送路18を往復する時間に相当する。この時間t1は、伝送路18の特性と長さによって決まり、予め所定の時間になるように設定することができる。
【0061】
また、伝送路18の長さは、(インパルス信号が伝送路18を往復する時間)>(探査対象物を探査する際の最大深さ)を満たすように設定される。具体的には、探索対象物がコンクリートの場合であって、探索する最大深さを30cmとすると、最大深さ30cmからの反射波を受信するタイミングよりも後のタイミングで二次波p2が観測されるように、伝送路18の長さが設定されている。例えば、コンクリート中の30cmの往復時間を5nsとすると、一次波p1から二次波p2の間は、約6nsになるように伝送路18の長さ(例えば50cm)が設定される。
【0062】
これにより、30cmの深さに鉄筋が埋設されている場合に、図9に示すように一次波p1と二次波p2の間に、30cmの深さの鉄筋からの反射波r5を観測することができる。これは、二次波p2の観測タイミングが探索範囲からの反射波の観測タイミングと重なると探索対象からの反射波を正確に取得できないためである。
このため、反射物が存在する場合、一次波p1から所定範囲D1の間に波形として現れることになる。
【0063】
また、図10に示すように、伝送路18においてインパルス信号が反射して送信アンテナ11から放射されるパルス状の電磁波は、アンテナ給電点11aでインパルス信号が1回反射して送信アンテナ11から放射される二次波p2だけでなく、アンテナ給電点11aでインパルス信号が2回反射してから送信アンテナ11から放射される三次波p3、アンテナ給電点11aでインパルス信号が3回反射してから送信アンテナ11から放射される四次波p4、アンテナ給電点11aでインパルス信号がe回反射してから送信アンテナ11から放射されるe+1次波peも存在する。
【0064】
eが増えるに従って振幅が小さくなるため、四次波p4より後のインパルス信号の反射による電磁波の、観測対象での反射波に対する影響は小さくなる。そのため、
図10に示すように、インパルス生成回路13で生成し伝送路18の両端で反射しないインパルス信号を送信アンテナ11から一次波(p1´と示す)として放射する放射タイミングは、前回のインパルス信号生成時の四次波(p4と示す)が放射された放射タイミングよりも後が好ましい。これにより、伝送路18の両端において反射したインパルス信号による電磁波の、対象物の反射波に与える影響を低減することができる。
【0065】
次に、具体例を挙げてディレイIC14における1ステップの実時間の算出について説明する。
図11(a)および
図11(b)は、ディレイIC14における1ステップの実時間の算出を説明するための図である。伝送路18の材質及び長さによって一次波p1~二次波p2までの時間t1を5nsに設定する。この時間t1は、伝送路18によって決定するため温度差および個体差が無く変化しない。
【0066】
一方、ディレイIC14の1ステップの遅延時間は標準357psとする。この1ステップの遅延時間は、温度および個体差によって変化する。また、
図11(a)に示す1ステップの遅延時間は標準357psであるとする。
一次波p1の軸Oより上側のピークにおけるステップを0とすると、
図11(a)に示す受信波R3では、検知対象物からの反射波r3が6ステップのときに観測されるため、1ステップの標準時間である357psを用いると、反射波r3の観測時間は357ps×6=2142psとなる。すなわち、送信アンテナ11から検知対象物で反射し、受信アンテナ12に入るまでの時間が2142psとなり、片道の時間が1071psとなる。コンクリート中の電磁波の速度は、コンクリートの誘電率が7であるため、(光速度/√7)(m/s)となり、片道の1071psで電磁波が進む距離は1071ps×(光速度/√7)=0.121mとなる。これにより、コンクリートの表面から12.1cmの位置に埋設物が埋まっていると計算される。
【0067】
図11(b)は、ディレイIC14の1ステップの時間が変化した場合の受信波R4を示す図である。
図11(a)の受信波R3と
図11(b)の受信波R4は、同じ構造の対象物に対して電磁波を放射した際の反射波を示す。
図11(b)に示すように、例えば、5ステップ目に反射波r4を観測した場合、観測時間は、357ps×5=1785psとなる。例えば、
図11(a)に示す1ステップが357psで真の値としているため、本来は2142nsであるにもかかわらず、ディレイIC14の標準ステップ357psを信用して計算すると1785psとなる。1785psで埋設物の深さを計算すると、10.1cmとなり、真の値が12.1cmであるところ深さに誤差が生じる。このように、ディレイIC14の1ステップの遅延時間が長くなると、検知対象の埋設物の推定距離が短くなる。一方、ディレイIC14の1ステップの遅延時間が短くなると、検知対象の埋設物の推定距離が長くなる。
【0068】
そこで、一次波p1からの間隔t1を5nsに設定した二次波p2が何ステップ目に観測されるかが確認される。
図11(a)の受信波R3では、二次波p2(軸Oよりも上側のピーク)は14ステップ目に観測され、
図11(b)の受信波R4では二次波p2(軸Oよりも上側のピーク)は11ステップ目に観測される。この値より、受信波R3と受信波R4の各々の受信時のディレイIC14における1ステップの遅延時間が算出される。受信波R3では、5ns/14ステップ=357psとなり、受信波R4では、5ns/11ステップ=454psとなる。
【0069】
受信波R3では、埋設物からの反射波r3は6ステップ目に観測されるため、6×357ps=2142psとなり、送信アンテナ11から埋設物までの片道にかかる時間は1071psとなる。これにより、深さは、1071ps×光速/√7=0.121mと算出される。
一方、受信波R4では、埋設物からの反射波r4は、5ステップ目に観測されるため、5×454ps=2270psとなり、送信アンテナ11から埋設物までの片道にかかる時間は1135psとなる。これより、深さは、1135ps×光速/√7=0.129mと算出される。
【0070】
このように、誤差を低減することができる。また、本実施の形態のディレイIC14は例えば1ステップを10psに設定するため、1mm以下の精度まで誤差を補正することができる。なお、一次波p1と二次波p2の観測タイミングは軸Oより上側のピークに限られるものではなく、例えば、軸Oよりも下側にピークであっても良い。
すなわち、一次波p1の観測タイミングをvステップ目(第1取得タイミングの一例)とし、二次波p2の観測タイミングをwステップ目(第2取得タイミングの一例)とすると、一次波p1から二次波p2までの時間t1(時間差の一例)でのディレイIC14のステップ数nはn=w-vで算出され、t1/nで1ステップ(所定間隔の一例)の実時間を求めることができる。また、埋設物からの反射波がmステップ目に観測された場合には、(t1/n)×mで反射波が観測された時間を求めることができ、{(t1/n)×m}/2で送信アンテナ11から埋設物までの片道にかかる時間が算出される。そして、埋設物を探査する対象物の誘電率をEとすると、[{(t1/n)×m}/2]×光速/√Eによって、観測された反射波の深さを求めることができる。
【0071】
伝送路18には、電子部品などがなく、単純な伝送路および同軸ケーブルによって構成されている。そのため、反射波の伝達時間は伝送路18の長さのみに依存し、温度特性や個体差によるばらつきが非常に少なく、t1が一定となる。
このように、一次波p1と二次波p2の放射間隔t1は伝送路18によって予め定めておくことができるので、送信アンテナ11から受信アンテナ12に直接受信される一次波p1および二次波p2を用いることにより、ディレイICの1ステップの実時間を算出することができる。
【0072】
<補正値取得処理>
次に、本発明にかかる実施の形態の埋設物検出装置1の補正値取得処理(埋設物検出装置の補正方法の一例)について説明する。
図12(a)は、本実施の形態の埋設物検出装置の補正値取得処理を示すフロー図である。
図12(b)は、受信波の一例を示す図である。
【0073】
ディレイIC14の1ステップの実時間を取得する補正値取得処理が開始されると、ステップS10(受信ステップの一例)において、制御部10は、受信波を取得する。この受信波の取得は、例えばエンコーダ7の初回の入力の際に行ってもよいし、埋設物の検出のためにコンクリート100等の表面100aに埋設物検出装置1を載置した際に行ってもよい。受信波の取得は、上述したように等価サンプリングを用いて行われる。なお、ステップS10における受信波の取得は、埋設物などが存在せず埋設物による反射波が出来るだけ観測されない場所で行うほうが好ましい。
【0074】
次に、ステップS20において、制御部10は、送信アンテナ11から受信アンテナ12に直接受信される一次波p1のピークのステップ数を取得し、変数aに代入する。
図12(b)の例では、一次波p1のピークは、120ステップ目に取得される。
次に、ステップS30において、制御部10は、ステップS20の一次波p1のパルス信号が伝送路18の両端で反射して送信アンテナ11から放射された二次波p2のピークのステップ数を取得し、変数bに代入する。
図12(b)の例では、二次波p2のピークは600ステップ目に取得される。
【0075】
次に、ステップS40において、制御部10は、1ステップあたりの実際の時間cを式(c=t1/(b-a))を用いて求める。
図12(b)に示す例では、一次波p1のピークと二次波p2のピークの間の時間t1は、5nsに設定されている。そのため、時間cは、5000/(600-120)=10.4167psとなる。
これによって、取得時点における1ステップあたりの実際の時間を求めることができる。ステップS20、S30、S40が、補正ステップの一例に相当する。
【0076】
ディレイIC14の1ステップあたりの実時間が、インパルス制御モジュール5からメイン制御モジュール6に送信される。
続いて、実際の埋設物の検出が行われると、インパルス制御モジュール5からメイン制御モジュール6に送られたデータの演算の際に上述の補正値取得処理で取得された実時間を用いることで、埋設物の深さを正確に演算することができる。
【0077】
[他の実施形態]
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
(A)
上記実施の形態では、図面を用いて埋設物検出装置1および埋設物検出装置の制御方法を実施する例を挙げて説明したが、これに限定されるものではない。
【0078】
例えば、
図12(a)に示すフローチャートに従って実施される埋設物検出装置の補正方法をコンピュータに実行させるプログラムとして、本発明を実現しても良い。
また、プログラムの一つの利用形態は、コンピュータにより読取可能な、ROM等の記録媒体に記録され、コンピュータと協働して動作する態様であってもよい。
またプログラムの一つの利用形態は、インターネット等の伝送媒体、光・電波・音波などの伝送媒体中を伝送し、コンピュータにより読みとられ、コンピュータと協働して動作する態様であってもよい。
【0079】
また、上述したコンピュータは、プロセッサ、CPU(Central Processing Unit)等のハードウェアに限らずファームウェアや、OS、更に周辺機器を含むものであってもよい。
なお、以上説明したように、電力消費体の制御方法はソフトウェア的に実現してもよいし、ハードウェア的に実現しても良い。
【0080】
(B)
上記実施の形態では、埋設物の一例として鉄筋を例に挙げて説明したが、鉄筋にかぎらなくてもよく、ガス管、水道管、木材等であってもよく、また、埋設物が設けられた対象物としてもコンクリートに限られるものではない。
(C)
上記実施の形態では、一次波p1と二次波p2を用いて1ステップの実時間を求めたが、これに限らなくても良く、一次波p1と二次波p2以外(三次波p3、四次波p4等)を用いても良いし、一次波p1以外の2つの電磁波(二次波p2と三次波p3、二次波p2と四次波p4、三次波p3と四次波p4等)を用いても良い。このように、送信アンテナ11から放射され受信アンテナ12に直接受信される電磁波を用いればよい。例えば、二次波p2と三次波p3を用いる場合、二次波p2が第1電磁波に相当し、三次波p3が第2電磁波に相当する。
【0081】
(D)
上記実施の形態では、ディレイ1ステップの実時間を算出するために、送信アンテナ11から受信アンテナ12に直接受信される2つ電磁波(一次波p1と二次波p2)を用いているが、2つの限られるものではなく、3つ以上の電磁波を用いても良い。
(E)
上記実施の形態では、送信アンテナ11と受信アンテナ12を隣接して配置されていると述べたが、送信アンテナ11から放射された電磁波の少なくとも一部が受信アンテナ12に直接受信可能であれば、送信アンテナ11と受信アンテナ12の配置は限定されるものではない。
【0082】
(F)
上記実施の形態では、埋設物検出装置1の本体部2内にメイン制御モジュール6が設けられているが、メイン制御モジュール6が本体部2と別に設けられていてもよい。この場合、タブレットなどにメイン制御モジュール6と表示部8を設けてもよい。本体部2とタブレットの間は無線または有線によって通信が行われてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明の埋設物検出装置および埋設物検出装置の補正方法は、簡易な構成で個体によるバラツキや、使用環境温度による影響を補正することが可能な効果を有し、コンクリート内の埋設物の検出を行ううえで有用である。
【符号の説明】
【0084】
1 埋設物検出装置
10 制御部
11 送信アンテナ
13 インパルス生成回路
14 ディレイIC
18 伝送路