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  • 特許-誘電体組成物および電子部品 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-15
(45)【発行日】2024-01-23
(54)【発明の名称】誘電体組成物および電子部品
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/495 20060101AFI20240116BHJP
   H01B 3/12 20060101ALI20240116BHJP
   H01G 4/30 20060101ALI20240116BHJP
【FI】
C04B35/495
H01B3/12 313L
H01G4/30 515
H01G4/30 201L
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019154777
(22)【出願日】2019-08-27
(65)【公開番号】P2021031346
(43)【公開日】2021-03-01
【審査請求日】2022-03-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】井口 俊宏
【審査官】今井 淳一
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-271142(JP,A)
【文献】国際公開第2007/139060(WO,A1)
【文献】国際公開第2008/102608(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/495
H01B 3/12
H01G 4/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(SrxBa1-xyNb25+yで表される組成式を有する誘電体組成物であって、
前記誘電体組成物は複合酸化物を含み、
前記複合酸化物の結晶系が正方晶であり、前記組成式中の前記yが1未満である誘電体組成物。
【請求項2】
前記複合酸化物の空間群がP4bmである請求項1に記載の誘電体組成物。
【請求項3】
前記組成式中の前記xが0.2~0.7である請求項1または2に記載の誘電体組成物。
【請求項4】
(SrxBa1-xyNb25+yで表される複合酸化物を含み、
前記組成式中の前記xが0.2~0.7であり、前記組成式中の前記yが1未満である誘電体組成物。
【請求項5】
前記組成式中の前記yが0.95以下である請求項1~4のいずれかに記載の誘電体組成物。
【請求項6】
前記誘電体組成物が第1副成分元素を含み、
前記第1副成分元素は、銅、亜鉛、パラジウム、タンタルおよびスズからなる群から選ばれる少なくともいずれか1つである請求項1~5のいずれかに記載の誘電体組成物。
【請求項7】
前記複合酸化物中のニオブ100モル部に対して、前記第1副成分元素が10モル部以下含まれる請求項6に記載の誘電体組成物。
【請求項8】
前記誘電体組成物が第2副成分元素を含み、
前記第2副成分元素は、ガリウム、カリウム、モリブデン、ホウ素、ニッケルおよびジルコニウムからなる群から選ばれる少なくともいずれか1つである請求項1~7のいずれかに記載の誘電体組成物。
【請求項9】
前記複合酸化物中のニオブ100モル部に対して、前記第2副成分元素が10モル部以下含まれる請求項8に記載の誘電体組成物。
【請求項10】
請求項1~9のいずれかに記載の誘電体組成物を含む誘電体層を備える電子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電体組成物、および、当該誘電体組成物から構成される誘電体層を備える電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器に組み込まれる電子回路あるいは電源回路には、誘電体が発現する誘電特性を利用する積層セラミックコンデンサのような電子部品が多数搭載される。このような電子部品の誘電体を構成する材料(誘電体材料)として、非特許文献1には、一般式SrBa1-xNbで表される強誘電体材料が開示されている。
【0003】
内部電極が卑金属で構成されている積層セラミックコンデンサは、空気中よりも酸素分圧の低い雰囲気下で還元焼成された後にアニールを施して作製される。本発明者は、非特許文献1に記載の誘電体組成物は、低酸素分圧下で焼成して作製した場合に、抵抗率が低いという問題を見出した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】Acta Cryst.(2006).B62,960-965,Sergey Podlozhenov,Heribert A.Graetsch,Julius Schneider,Michael Ulex,Manfred Wohlecke,Klaus Betzler
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、高い比誘電率を示しつつ、還元雰囲気下で焼成しても高い抵抗率を示す誘電体組成物と、その誘電体組成物から構成される誘電体層を備える電子部品と、を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の第1の観点に係る誘電体組成物は、
(SrBa1-xNb5+yで表される組成式を有する複合酸化物を含み、
前記複合酸化物の結晶系が正方晶であり、前記yが1未満である。
【0007】
本発明者は、本発明の第1の観点に係る誘電体組成物が、上記の構成であることにより、高い比誘電率を示しつつ、高い抵抗率を示すことができることを見出した。このような効果が得られる理由としては下記の理由が考えられる。
【0008】
一般式(SrBa1-xNbで表される酸化物を還元雰囲気下で焼成すると、上記の酸化物から酸素が奪われ、酸素欠陥と自由電子とが対で生成する。その結果、生成した自由電子の移動による導電性が生じ、上記の酸化物の抵抗率が低下すると考えられる。
【0009】
これに対して、上記の複合酸化物のように、組成式中のyが1未満であることにより、陽イオン欠陥が生じると同時に酸素欠陥も生じる。その結果、複合酸化物において、酸素欠陥がある程度存在するので、還元焼成に伴う酸素欠陥および自由電子を生成する反応が進行しにくくなる。すなわち、還元雰囲気下であっても、複合酸化物から酸素が奪われ,自由電子が生じる反応が生じにくくなる。したがって、自由電子が生成しにくくなるので、抵抗率の低下が抑制されると考えられる。
【0010】
また、複合酸化物の結晶系が正方晶であることにより、比誘電率が向上する傾向となると考えられる。
【0011】
以上の理由から、本発明の第1の観点に係る誘電体組成物は、上記の構成であることにより、高い比誘電率を示しつつ、高い抵抗率を示すことができると考えられる。
【0012】
本発明の第1の観点に係る誘電体組成物は、前記複合酸化物の空間群がP4bmであってもよい。
【0013】
これにより、本発明の第1の観点に係る誘電体組成物は、高い比誘電率を示しつつ、高い抵抗率を示すことができる。
【0014】
本発明の第1の観点に係る誘電体組成物は、前記組成式中の前記xが0.2~0.7であってもよい。
【0015】
これにより、本発明の第1の観点に係る誘電体組成物は、高い比誘電率を示しつつ、高い抵抗率を示すことができる。また、組成式中のxが上記の範囲内に含まれることにより、結晶系が正方晶である複合酸化物が得られ易くなり、比誘電率が向上する傾向となる。
【0016】
上記目的を達成するため、本発明の第2の観点に係る誘電体組成物は、(SrBa1-xNb5+yで表される組成式を有する複合酸化物を含み、
前記組成式中の前記xが0.2~0.7であり、前記組成式中の前記yが1未満である。
【0017】
本発明者は、本発明の第2の観点に係る誘電体組成物が、上記の構成であることで、高い比誘電率を示しつつ、高い抵抗率を示すことができることを見出した。このような効果が得られる理由としては下記の理由が考えられる。
【0018】
まず、本発明の第2の観点に係る誘電体組成物は、本発明の第1の観点に係る誘電体組成物と同様に、(SrBa1-xNb5+yで表される組成式を有する複合酸化物を含み、組成式中のyが1未満である。このため、本発明の第1の観点に係る誘電体組成物と同様に、組成式中のyが1未満であることにより、陽イオン欠陥の状態となると共に、酸素欠陥の状態となる。その結果、複合酸化物において、酸素欠陥がある程度存在するので、還元焼成に伴う酸素欠陥および自由電子を生成する反応が進行しにくくなる。すなわち、還元雰囲気下であっても、複合酸化物から酸素が奪われて自由電子が生じる反応が抑制される。したがって、自由電子が生成しにくくなるので、抵抗率の低下が抑制されると考えられる。
【0019】
また、組成式中のxが上記の範囲内に含まれることにより、結晶系が正方晶である複合酸化物が得られ易くなり、比誘電率が向上する傾向となると考えられる。
【0020】
以上の理由から、本発明の第2の観点に係る誘電体組成物は、上記の構成であることにより、高い比誘電率を示しつつ、高い抵抗率を示すことができると考えられる。
【0021】
本発明の第1の観点に係る誘電体組成物および第2の観点に係る誘電体組成物は、前記組成式中の前記yが0.95以下であってもよい。
【0022】
これにより、本発明の第1の観点に係る誘電体組成物および第2の観点に係る誘電体組成物は、より高い抵抗率を示すことができる。
【0023】
本発明の第1の観点に係る誘電体組成物および第2の観点に係る誘電体組成物は、前記誘電体組成物が第1副成分元素を含んでもよく、
前記第1副成分元素は、銅、亜鉛、パラジウム、タンタルおよびスズからなる群から選ばれる少なくともいずれか1つであってもよい。
【0024】
これにより、本発明の第1の観点に係る誘電体組成物および第2の観点に係る誘電体組成物は、高い比誘電率を維持しつつ、抵抗率をより向上させることができる。
【0025】
本発明の第1の観点に係る誘電体組成物および第2の観点に係る誘電体組成物は、前記複合酸化物中のニオブ100モル部に対して、前記第1副成分元素が10モル部以下含まれてもよい。
【0026】
これにより、本発明の第1の観点に係る誘電体組成物および第2の観点に係る誘電体組成物は、高い比誘電率を維持しつつ、抵抗率をさらに向上させることができる。
【0027】
本発明の第1の観点に係る誘電体組成物および第2の観点に係る誘電体組成物は、前記誘電体組成物が第2副成分元素を含んでもよく、
前記第2副成分元素は、ガリウム、カリウム、モリブデン、ホウ素、ニッケルおよびジルコニウムからなる群から選ばれる少なくともいずれか1つであってもよい。
【0028】
これにより、本発明の第1の観点に係る誘電体組成物および第2の観点に係る誘電体組成物は、高い比誘電率を維持しつつ、抵抗率をより向上させることができる。
【0029】
本発明の第1の観点に係る誘電体組成物および第2の観点に係る誘電体組成物は、前記複合酸化物中のニオブ100モル部に対して、前記第2副成分元素が10モル部以下含まれてもよい。
【0030】
これにより、本発明の第1の観点に係る誘電体組成物および第2の観点に係る誘電体組成物は、高い比誘電率を維持しつつ、抵抗率をさらに向上させることができる。
【0031】
本発明の電子部品は、第1の観点に係る誘電体組成物または第2の観点に係る誘電体組成物を含む誘電体層を備える。
【0032】
これにより、本発明の電子部品は、たとえば、卑金属を主成分として含む電極層と共に、還元雰囲気下で焼成しても、高い比誘電率を示しつつ、高い抵抗率を示すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る積層セラミックコンデンサの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
(1.積層セラミックコンデンサ)
(1.1 積層セラミックコンデンサの全体構成)
本実施形態に係る電子部品の一例としての積層セラミックコンデンサ1が図1に示される。積層セラミックコンデンサ1は、誘電体層2と、内部電極層3と、が交互に積層された構成の素子本体10を有する。この素子本体10の両端部には、素子本体10の内部で交互に配置された内部電極層3と各々導通する一対の外部電極4が形成してある。素子本体10の形状に特に制限はないが、通常、直方体状とされる。また、素子本体10の寸法にも特に制限はなく、用途に応じて適当な寸法とすればよい。
【0035】
(1.2 誘電体層)
誘電体層2は、後述する本実施形態に係る誘電体組成物から構成されている。
【0036】
誘電体層2の1層あたりの厚み(層間厚み)は特に限定されず、所望の特性や用途等に応じて任意に設定することができる。通常は、層間厚みは30μm以下であることが好ましく、より好ましくは20μm以下であり、さらに好ましくは10μm以下である。また、誘電体層2の積層数は特に限定されないが、本実施形態では、たとえば20以上であることが好ましい。
【0037】
(1.3 内部電極層)
本実施形態では、内部電極層3は、各端部が素子本体10の対向する2端面の表面に交互に露出するように積層してある。
【0038】
内部電極層3に含有される導電材の主成分は卑金属である。ここで、主成分とは、内部電極層3に含有される導電材のうち、80質量%以上を占める成分である。卑金属としては特に限定されず、たとえばNi、Ni系合金、Cu、Cu系合金等、卑金属として公知の導電材を用いればよい。なお、Ni、Ni系合金、CuまたはCu系合金中には、PやS等の各種微量成分が0.1質量%程度以下含まれていてもよい。また、内部電極層3は、市販の電極用ペーストを使用して形成してもよい。内部電極層3の厚さは用途等に応じて適宜決定すればよい。
【0039】
(1.4 外部電極)
外部電極4に含有される導電材は特に限定されない。たとえばNi、Cu、Sn、Ag、Pd、Pt、Auあるいはこれらの合金、導電性樹脂等公知の導電材を用いればよい。外部電極4の厚さは用途等に応じて適宜決定すればよい。
【0040】
(2.誘電体組成物)
本実施形態に係る誘電体層2を構成する誘電体組成物は、(SrBa1-xNb5+yで表される組成式を有する複合酸化物を含有し、必要に応じて、第1副成分元素、第2副成分元素およびその他の成分元素を含有していてもよい。
【0041】
(2.1 複合酸化物)
本実施形態の複合酸化物は(SrBa1-xNb5+yで表される組成式を有し、上記の組成式中のyは1未満である。本実施形態では、上記の組成式中のyは0.95以下であることが好ましい。
【0042】
上記の組成式中のyの下限は、本発明の効果が得られる範囲において制限されないが、たとえば、0.8以上であることが好ましい。
【0043】
本発明者は、上記の組成式中のyが1未満であることにより、上記の複合酸化物は、還元雰囲気下で焼成しても、高い抵抗率を示すことができることを見出した。すなわち、還元雰囲気下において、上記の複合酸化物を含む誘電体組成物を、卑金属から構成される電極と同時に焼成して得られる積層セラミックコンデンサ1は、高い比誘電率を示しつつ、高い抵抗率を示すことができる。
【0044】
本実施形態に係る誘電体組成物を還元雰囲気下で焼成しても、高い抵抗率を得ることができる要因としては、たとえば、以下のように推測することができる。
【0045】
一般式(SrBa1-xNbで表される酸化物を還元雰囲気下で焼成すると、上記の酸化物から酸素が奪われ、酸素欠陥と自由電子とが対で生成する。その結果、生成した自由電子の移動による導電性が生じ、上記の酸化物の抵抗率が低下すると考えられる。
【0046】
これに対して、上記の複合酸化物のように、組成式中のyが1未満であることにより、陽イオン欠陥の状態となると共に、酸素欠陥の状態となる。その結果、複合酸化物において、酸素欠陥がある程度存在するので、還元焼成に伴う酸素欠陥および自由電子を生成する反応が進行しにくくなる。すなわち、還元雰囲気下であっても、複合酸化物から酸素が奪われて自由電子が生成する反応が生じにくくなる。したがって、自由電子が生成しにくくなるので、抵抗率の低下が抑制されると考えられる。
【0047】
また、本実施形態の複合酸化物の結晶系は正方晶である。これにより、高い比誘電率を示すことができると考えられる。
【0048】
(SrBa1-xNb5+yで表される組成式を有する上記の複合酸化物であり、なおかつ結晶構造が正方晶の場合は、結晶構造が立方晶、斜方晶、六方晶または単斜晶の場合と比較して、結晶中のNb5+イオンの変位する範囲が大きくなるため、電場を加えたときに分極しやすくなる。このため、上記の複合酸化物の結晶系が正方晶の場合は結晶系が立方晶、斜方晶、六方晶または単斜晶の場合に比べて比誘電率が高くなる傾向となると考えられる。
【0049】
また、本実施形態の複合酸化物の空間群はP4bmである。これにより、高い比誘電率を示しつつ、高い抵抗率を示すことができる。その理由としては、結晶中のNb5+イオンの変位する範囲が大きくなるためであると考えられる。
【0050】
本実施形態では、上記の組成式中のxは0.2~0.7であることが好ましい。上記の組成式中のxが上記の範囲内に含まれることにより、高い比誘電率を示しつつ、高い抵抗率を示すことができる。また、上記の組成式中のxが上記の範囲内に含まれることにより、結晶系が正方晶である複合酸化物が得られ易くなり、比誘電率が向上する傾向となる。本実施形態では、上記の組成式中のxは0.2~0.6であることがより好ましい。
【0051】
(2.2 第1副成分元素)
本実施形態に係る誘電体組成物は、第1副成分元素を含んでもよい。誘電体組成物が第1副成分元素を含むことにより、高い比誘電率を維持しつつ、抵抗率をより向上させることができる。
【0052】
本実施形態における第1副成分元素は、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、パラジウム(Pd)、タンタル(Ta)およびスズ(Sn)からなる群から選ばれる少なくともいずれか1つであり、好ましくは銅(Cu)、亜鉛(Zn)およびパラジウム(Pd)である。第1副成分元素として1種類の元素のみを用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0053】
本実施形態における第1副成分元素は、(SrBa1-xNb5+yの式で表される複合酸化物中のニオブ(Nb)100モル部に対して10モル部以下含まれることが好ましい。これにより、高い比誘電率を維持しつつ、抵抗率をさらに向上させることができる。本実施形態における第1副成分元素は、(SrBa1-xNb5+yの式で表される複合酸化物中のニオブ(Nb)100モル部に対して1~10モル部含まれることがより好ましく、3~10モル部含まれることがさらに好ましい。
【0054】
(2.3 第2副成分元素)
本実施形態に係る誘電体組成物は、第2副成分元素を含んでもよい。誘電体組成物が第2副成分元素を含むことにより、高い比誘電率を維持しつつ、抵抗率をより向上させることができる。
【0055】
前記第2副成分元素は、ガリウム(Ga)、カリウム(K)、モリブデン(Mo)、ホウ素(B)、ニッケル(Ni)およびジルコニウム(Zr)からなる群から選ばれる少なくともいずれか1つであり、好ましくはガリウム(Ga)、カリウム(K)およびモリブデン(Mo)である。第2副成分元素として1種類の元素のみを用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0056】
本実施形態における第2副成分元素は、(SrBa1-xNb5+yの式で表される複合酸化物中のニオブ(Nb)100モル部に対して10モル部以下含まれることが好ましい。これにより、高い比誘電率を維持しつつ、抵抗率をさらに向上させることができる。本実施形態における第2副成分元素は、(SrBa1-xNb5+yの式で表される複合酸化物中のニオブ(Nb)100モル部に対して1~10モル部含まれることがより好ましく、3~10モル部含まれることがさらに好ましい。
【0057】
(3.積層セラミックコンデンサの製造方法)
次に、図1に示す積層セラミックコンデンサ1の製造方法の一例について以下に説明する。
【0058】
まず、誘電体組成物の出発原料を準備する。出発原料としては、上記の誘電体組成物を構成する複合酸化物を用いることができる。また、複合酸化物に含まれる各金属の酸化物を用いることができる。また、焼成により当該複合酸化物を構成する成分となる各種化合物を用いることができる。各種化合物としては、たとえば炭酸塩、シュウ酸塩、硝酸塩、水酸化物、有機金属化合物等が例示される。本実施形態では、上記の出発原料は粉末であることが好ましい。
【0059】
誘電体組成物が第1副成分元素を含む場合には、第1副成分元素を含む原料を準備する。また、誘電体組成物が第2副成分元素を含む場合には、第2副成分元素を含む原料を準備する。第1副成分元素を含む原料または第2副成分元素を含む原料としては、複合酸化物の原料と同様に、酸化物等の各種化合物等を用いることができる。
【0060】
準備した出発原料のうち、複合酸化物の原料を所定の割合に秤量した後、ボールミル等を用いて所定の時間、湿式混合を行う。混合粉を乾燥後、大気中において700~1300℃の範囲で熱処理を行い、複合酸化物の仮焼き粉末を得る。また、仮焼き粉末はボールミル等を用いて所定の時間、粉砕を行ってもよい。
【0061】
続いて、グリーンチップを作製するためのペーストを調製する。得られた仮焼き粉末と、バインダと、溶剤と、を混練し塗料化して誘電体層用ペーストを調製する。バインダおよび溶剤は、公知のものを用いればよい。
【0062】
なお、誘電体組成物が第1副成分元素を含む場合には、上記の仮焼き粉末と、第1副成分元素を含む原料粉末と、バインダと、溶剤と、を混練し塗料化して誘電体層用ペーストを調製する。
【0063】
また、誘電体組成物が第2副成分元素を含む場合には、上記の仮焼き粉末と、第2副成分元素を含む原料粉末と、バインダと、溶剤と、を混練し塗料化して誘電体層用ペーストを調製する。
【0064】
誘電体層用ペーストは、必要に応じて、可塑剤や分散剤等の添加物を含んでもよい。
【0065】
内部電極層用ペーストは、上述した導電材の原料と、バインダと、溶剤と、を混練して得られる。バインダおよび溶剤は、公知のものを用いればよい。内部電極層用ペーストは、必要に応じて、共材や可塑剤等の添加物を含んでもよい。
【0066】
外部電極用ペーストは、内部電極層用ペーストと同様にして調製することができる。
【0067】
得られた各ペーストを用いて、グリーンシートおよび内部電極パターンを形成し、これらを積層してグリーンチップを得る。
【0068】
得られたグリーンチップに対し、必要に応じて、脱バインダ処理を行う。脱バインダ処理条件は、たとえば、保持温度を好ましくは200~350℃とする。
【0069】
脱バインダ処理後、グリーンチップの焼成を行い、素子本体10を得る。本実施形態では、還元雰囲気下での焼成(還元焼成)を行うことができる。本実施形態では、好ましくは焼成時の保持温度を1200~1350℃とする。このように焼成時の保持温度を比較的低くしても、本実施形態の誘電体組成物が得られ易い。
【0070】
焼成後、得られた素子本体10に対し、必要に応じて、再酸化処理(アニール)を行う。アニール条件は、公知の条件とすればよく、たとえば、アニール時の酸素分圧を焼成時の酸素分圧よりも高い酸素分圧とし、保持温度を1150℃以下とすることが好ましい。
【0071】
上記のようにして得られた素子本体10の誘電体層2を構成する誘電体組成物は、上述した誘電体組成物である。この素子本体10に端面研磨を施し、外部電極用ペーストを塗布して焼き付けし、外部電極4を形成する。そして、必要に応じて、外部電極4の表面に、めっき等により被覆層を形成する。
【0072】
このようにして、本実施形態に係る積層セラミックコンデンサ1が製造される。
【0073】
(3.変形例)
上述した実施形態では、本発明に係る電子部品が積層セラミックコンデンサである場合について説明したが、本発明に係る電子部品は、積層セラミックコンデンサに限定されず、上述した誘電体組成物を有する電子部品であれば何でもよい。
【0074】
たとえば、上述した誘電体組成物に一対の電極が形成された単板型のセラミックコンデンサであってもよい。
【0075】
また、誘電体組成物が第1副成分元素および第2副成分元素を含んでいなくてもよい。さらに、誘電体組成物が、第1副成分元素および第2副成分元素のうち少なくともいずれか一方を含んでいてもよい。
【0076】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明は上記の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の範囲内において種々の態様で改変してもよい。
【実施例
【0077】
以下、実施例および比較例を用いて、本発明をさらに詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0078】
(実験1)
誘電体組成物に含まれる複合酸化物の出発原料として、炭酸バリウム(BaCO)、炭酸ストロンチウム(SrCO)および酸化ニオブ(Nb)の粉末を準備した。焼成後の誘電体組成物に含まれる複合酸化物が表1に示すxおよびyとなるように、準備した出発原料を秤量した。
【0079】
次に、秤量した各粉末を、分散媒としてのイオン交換水を用いてボールミルにより16時間湿式混合し、混合物を乾燥して混合原料粉末を得た。その後、得られた混合原料粉末を、大気中において保持温度900℃、保持時間2時間の条件で熱処理を行い、複合酸化物の仮焼き粉末を得た。
【0080】
得られた仮焼き粉末を、分散媒としてのイオン交換水を用いてボールミルにより16時間湿式粉砕し、粉砕物を乾燥した。
【0081】
粉砕した仮焼き粉末100質量%に対して、バインダとしてのポリビニルアルコール樹脂を6質量%含む水溶液を10質量%加えて造粒し、造粒粉を得た。
【0082】
得られた造粒粉をφ12mmの金型に投入し、0.6ton/cmの圧力で仮プレス成形し、さらに、1.2ton/cmの圧力で本プレス成形して、円盤状のグリーン成形体を得た。
【0083】
得られたグリーン成形体を還元雰囲気下で焼成し、さらにアニール処理を行い、還元雰囲気下で焼成した焼結体(誘電体組成物)を得た。焼成条件は、昇温速度を200℃/h、保持温度を1300℃、保持時間を2時間とした。雰囲気ガスは、露点20℃に加湿した窒素と水素との混合ガス(水素濃度3%)とした。また、アニール処理条件は、保持温度を1050℃、保持時間を2時間とした。雰囲気ガスは、露点20℃に加湿した窒素ガスとした。
【0084】
得られた焼結体の両主面にIn-Ga合金を塗布して、一対の電極を形成することにより、円盤状のセラミックコンデンサの試料を得た。
【0085】
得られた誘電体組成物に含まれる複合酸化物の結晶系および空間群をX線構造解析装置を用いて解析した。結果を表1に示す。
【0086】
コンデンサ試料の密度は以下のようにして測定した。焼成後の円盤状のコンデンサ試料の直径を3か所測定して直径Rを得た。次に円盤状のコンデンサ試料の厚みを3か所測定して厚みhを得た。得られたRとhを使用し、円盤状のコンデンサ試料の体積V(=1/4・π・R・h)を算出した。ここでのπは円周率を示す。続いて、円盤状のコンデンサ試料の質量mを測定し、m/Vを計算することで円盤状のコンデンサ試料の密度を得た。3個の試料について評価した密度の結果の平均値を表1に示す。
【0087】
コンデンサ試料に対し、基準温度(25℃)において、デジタル抵抗メータ(ADVANTEST社製R8340)を用いて絶縁抵抗を測定した。得られた絶縁抵抗と、有効電極面積と、誘電体層の厚みとから抵抗率を算出した。抵抗率は高い方が好ましい。結果を表1に示す。
【0088】
抵抗率が1.0×10(Ω・m)以上である試料に対して、室温(20℃)において、デジタルLCRメータ(YHP社製4284A)にて、周波数1kHz、入力信号レベル(測定電圧)1Vrmsの信号を入力し、静電容量を測定した。そして、比誘電率(単位なし)を、誘電体層の厚みと、有効電極面積と、測定により得られた静電容量とに基づき算出した。比誘電率は高い方が好ましい。結果を表1に示す。
【0089】
なお、抵抗率が1.0×10(Ω・m)以上1.0×10(Ω・m)未満である試料の比誘電率は、周波数1MHzで測定した静電容量に基づき算出した。周波数1kHzで測定したこれらの試料の静電容量の測定値は、試料の低抵抗の影響を強く受けて信頼性に欠けるからである。
【0090】
【表1】
【0091】
表1より、結晶系が正方晶であり、yが1未満である複合酸化物を用いた場合(試料番号2~4、4aおよび8~10)は、還元雰囲気下で焼成しても、高い比誘電率を示しつつ、高い抵抗率を示すことが確認できた。
【0092】
(実験2)
表2~表6に示す第1副成分元素または第2副成分元素の出発原料として、第1副成分元素または第2副成分元素の各酸化物の粉末を準備した。また、焼成後の誘電体組成物中の第1副成分元素または第2副成分元素の含有量が表2~表6に示す値になるように、準備した出発原料を秤量した。なお、表2~表6に記載の第1副成分元素または第2副成分元素の「含有量」とは、複合酸化物中のニオブ(Nb)100モル部に対する含有量である。
【0093】
実験1に示した方法により得られた粉砕した複合酸化物の仮焼き粉末および、上記の第1副成分元素の酸化物または第2副成分元素の酸化物の混合物100質量%に対して、バインダとしてのポリビニルアルコール樹脂を6質量%含む水溶液を10質量%加えて造粒し、造粒粉を得た。上記以外は実験1の試料番号3と同様にして円盤状のセラミックコンデンサの試料を得た。
【0094】
また、実験1と同様にして、得られた焼結体の結晶系および空間群を解析したところ、表2~表6の各試料は全て結晶系が正方晶であり、空間群がP4bmであることが確認できた。
【0095】
さらに、実験1と同様にして、密度、抵抗率および比誘電率を測定した。表3~表5の各試料は全て比誘電率が300以上であった。密度および抵抗率の結果を表2~表6に示す。
【0096】
【表2】
【0097】
【表3】
【0098】
【表4】
【0099】
【表5】
【0100】
【表6】
【0101】
表2および表4より、第1副成分元素を含有する場合(試料番号21~25、41~45)は、第1副成分元素を含有しない場合(試料番号3)よりも抵抗率が高くなることが確認できた。また、第1副成分元素の含有量が10モル部の場合(試料番号41~45)は、第1副成分元素の含有量が5モル部の場合(試料番号21~25)に比べて抵抗率が高くなることが確認できた。
【0102】
表3および表5より、第2副成分元素を含有する場合(試料番号31~36、51~56)は、第2副成分元素を含有しない場合(試料番号3)よりも抵抗率が高くなることが確認できた。また、第2副成分元素の含有量が10モル部の場合(試料番号51~56)は、第2副成分元素の含有量が5モル部の場合(試料番号31~36)に比べて抵抗率が高くなることが確認できた。
【0103】
表6より、第1副成分元素である銅(Cu)の含有量が1~10モル部の場合(試料番号21、41および61~64)は、第1副成分元素を含まない場合(試料番号3)に比べて、抵抗率が高くなることが確認できた。
【符号の説明】
【0104】
1… 積層セラミックコンデンサ
10… 素子本体
2… 誘電体層
3… 内部電極層
4… 外部電極
図1