(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-15
(45)【発行日】2024-01-23
(54)【発明の名称】再生高分子材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 11/16 20060101AFI20240116BHJP
B29B 17/00 20060101ALI20240116BHJP
【FI】
C08J11/16
B29B17/00
(21)【出願番号】P 2019171598
(22)【出願日】2019-09-20
【審査請求日】2022-08-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(72)【発明者】
【氏名】永井 哲
【審査官】松原 宜史
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-124530(JP,A)
【文献】特開2013-087148(JP,A)
【文献】国際公開第2012/096374(WO,A1)
【文献】特開2009-051958(JP,A)
【文献】特表平11-502868(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 11/00-11/28
B29B 17/00-17/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)アルカリイオン濃度が0.5~20.0mol/Lの範囲の第1の処理液に、常温で固体の被再生高分子材料を浸漬する第1の工程
であって、前記被再生高分子材料が主鎖にイミド結合、エステル結合、及びカーボネート結合からなる群より選択される結合を有する高分子材料である、第1の工程、
b)被再生高分子材料の加水分解が臨界分解状態に進んだ段階で、臨界分解状態の被再生高分子材料を前記第1の処理液から取り出す工程、
c)前記取出した臨界分解状態の被再生高分子材料をアルカリイオン濃度が0.0~0.5mol/Lの第2の処理液に浸漬して溶解させて被再生高分子材料の溶液を得る工程、
d)前記溶液を酸中和し、溶解物を析出させて粉体として回収する工程、
を少なくとも有する再生高分子材料の製造方法。
【請求項2】
前記被再生高分子材料が縮合系高分子であることを特徴とする請求項1に記載の再生高分子材料の製造方法。
【請求項3】
前記第2の処理液のpHが6~9である弱電解質水溶液であることを特徴とする請求項1
又は2に記載の再生高分子材料の製造方法。
【請求項4】
前記主鎖にイミド結合を有する高分子材料が、芳香族テトラカルボン酸無水物と、ベンゾオキサゾール構造を有する芳香族ジアミン類の縮合物であることを特徴とする請求項
1~3のいずれかに記載の再生高分子材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、近年大量に廃棄されている産業廃棄物における高分子材料、一般にプラスチック類と呼ばれる廃棄物類の再生方法に関し、さらに詳しくは、主には縮合系高分子材料である飽和ポリエステル樹脂、ポリイミド、ポリアミド樹脂(ナイロン)、多糖類、デンプン類、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、ポリカーボネート樹脂、不飽和ポリエステル樹脂を含む高分子材料から、再生層高分子材料を得るための製造方法である。
本発明は、好ましくは不溶不融の高分子材料から再生高分子材料を得る方法であり、このような高分子廃棄物を回収処理し、耐熱性電材部品、自動車部品などに利用することができる高分子粉末として再生利用することができる方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリイミド、不飽和ポリエステル樹脂に代表される縮合系高分子材料は高い機械的強度や耐熱性を有するが、優れた耐薬品性も有しており、溶媒に溶けず、非熱可塑性である場合が多く、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレンなどの熱可塑性プラスチックのように溶融して再利用することができなかった。
従って、多くの場合、縮合系高分子材料などの不溶不融の高分子材料を含む産業廃棄物は、再生処理や再資源化が困難であり、現状は残念ながら、大部分はそのまま埋め立てられて廃棄処分されるか又は焼却処分されている。
一部産業廃棄物等として大量に廃棄される縮合系高分子などの不溶不融高分子材料を含む廃棄物をリサイクルして有効利用するために、を機械的に粉砕して粉体を得ることが行われているが、機械の摩耗による金属不純物が含まれること、平均粒径が数十μmオーダーの粉体しか得ることができず、再利用の際に成形材料として限りがあることが重要な課題となっている。
この課題解決のために、例えばポリイミドにおいては、化学的に分解するケミカルリサイクルの手段や技術が提案されている。
【0003】
例えば、オートクレーブなどを用いて、ポリイミドを水またはアルコールと共存させて110℃以上、1MPa以上の高温高圧条件で低分子量体に分解する方法(特許文献1参照)、ポリイミド系樹脂を有する部材と水を入れたオートクレーブ中で200℃以上400℃以下、かつその温度での水の飽和水蒸気圧以上の条件で分解する方法(特許文献2参照)、ポリイミドなどの高分子含有固体を、溶解パラメータが18(MJ/m3)1/2以上を有する溶剤を含有する高分子材料に、200℃以上の温度で接触させて、前記高分子固体を分解する方法(特許文献3参照)、高分子分解材料として極性の大きい溶剤を用いるかまたは超臨界水又は亜臨界水などを用いて、200~700℃の高温、および2~100MPaの高圧状態で保持することで、ポリイミドを加水分解する方法(特許文献4参照)などが提案されている。これらの提案手段においては、極々低分子量まで分解するために金属成分からのポリイミド除去などに用いられるため、得られるポリイミド成分をそのまま成形体として再利用することができないこと、高温高圧条件であるが故に工業的には大容量の高温高圧反応容器などの特殊な設備を必要とするために、設備投資が高額となり、安全維持のためのメンテナンスが必須で高度な運転技術も必要とするなど、実用上課題が多い。
【0004】
また、ポリイミドをアルカリ加水分解して低分子量体とするとともにこの低分子量体を回収する手段において、高温高耐圧反応容器などの特殊な設備や溶媒の使用を不要とし、分解や中和に用いる薬品に起因する不純物が少ない状態で平均粒径の小さい低分子量体にし、かつこの低分子量体を粉末として回収して成形材料等として用いられる方法(例えば、特許文献5および6参照)が提案されているが、これらの手法については、得られるポリイミド粉末の耐熱性に関する明確な記述がなく、本来ポリイミドの持つ耐熱性を大きく損なっている可能性が高い。また、これらの提案手法では、分解や中和に使用する薬品をワンウエィで使用するために、酸・アルカリ使用量が莫大なものとなり、ケミカルコスト負担が非常に大きなものとなってしまうといった工業上、実用上の課題を有している。
【0005】
【文献】特開2001-163973号公報
【文献】特開2002-284924号公報
【文献】特開2002-256104号公報
【文献】特開平10-287766号公報
【文献】特開2006-124530号公報
【文献】特許第5695675号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
以上、ポリイミドを代表例として、主に縮合系高分子を含む廃棄物の再生方法について概観してきたが、いずれも高温高圧反応容器などの特殊な設備、高度な運転技術を必要とし、また得られた再生品の品質についても必ずしも保障された物とは云えないなどの多々問題を含むものであった。
本発明は、大容量の高温高圧反応容器などの特殊な設備、高度な運転技術を必要とすることなく、分解や中和に必要な薬品使用量を限りなく抑え、かつ、回収して得られた高分子材料を、成形材料に使用する事が可能となる好適な平均粒径の粉体とすることができる再生高分子材料の製造方法を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち本発明は、下記の構成によるものである。
[1]a)アルカリイオン濃度が0.5~20.0mol/Lの範囲の第1の処理液に、常温で固体の被再生高分子材料を浸漬する第1の工程、
b)被再生高分子材料の加水分解が臨界分解状態に進んだ段階で、臨界分解状態の被再生高分子材料を前記第1の処理液から取り出す工程、
c)前記取出した臨界分解状態の被再生高分子材料をアルカリイオン濃度が0.0~0.5mol/Lの第2の処理液に浸漬して溶解させて被再生高分子材料の溶液を得る工程、
d)前記溶液を酸中和し、溶解物を析出させて粉体として回収する工程、
を少なくとも有する再生高分子材料の製造方法。
[2]前記被再生高分子材料が縮合系高分子であることを特徴とする請求項1に記載の再生高分子材料の製造方法。
[3]前記被再生高分子材料が主鎖にイミド結合を有する高分子材料であることを特徴とする[1]または[2]に記載の再生高分子材料の製造方法。
[4]前記被再生高分子材料が主鎖にエステル結合を有する高分子材料であることを特徴とする[1]または[2]に記載の再生高分子材料の製造方法。
[5]前記被再生高分子材料が主鎖にカーボネート結合を有する高分子材料であることを特徴とする[1]または[2]に記載の再生高分子材料の製造方法。
[6]前記第2の処理液のpHが6~9である弱電解質水溶液であることを特徴とする[1]~[5]のいずれかに記載の再生高分子材料の製造方法。
[7]前記主鎖にイミド結合を有する高分子材料が、芳香族テトラカルボン酸無水物と、ベンゾオキサゾール構造を有する芳香族ジアミン類の縮合物であることを特徴とする[3]または[6]に記載の再生高分子材料の製造方法。
【0008】
さらに本発明は、以下の構成を含む事が好ましい。
[8]前記被再生高分子材料の比表面積が100平方cm/g以上であることを特徴とする[1]~[7]のいずれかに記載の再生高分子材料の製造方法。
[9]前記被再生高分子材料が、長径が10mm以下の破砕フィルム片であることを特徴とする[1]~[8]のいずれかに記載の再生高分子材料の製造方法。
[10]前記第1の処理液による処理温度より、前記第2の処理液による処理温度の法が5℃以上高いことを特徴とする[1]~[9]のいずれかに記載の再生高分子材料の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明のa)アルカリイオン濃度が0.5~20.0mol/Lの範囲の第1の処理液に、常温で固体の被再生高分子材料を浸漬する第1の工程、b)加水分解が臨界分解状態に進んだ段階で、被再生高分子材料を前記第1の処理液から取り出す工程、c)前記取出した被再生高分子材料をアルカリイオン濃度が0.0~0.5mol/Lの第2の処理液に溶解して溶液を得る工程を少なくとも有する再生高分子材料の製造方法によれば、以下に説明するとおり、被再生高分子材料を加水分解して低分子量体にするとともにこの低分子量体を回収する手段において、従来技術における高温高耐圧反応容器などの特殊な設備や溶媒が不要であって、さらにアルカリイオン濃度が濃い第1の処理液を複数回反復使用することが可能となるため、分解や中和に使用する薬品使用量を大幅に低減できる。
かつ、d)前記溶液を酸中和し、溶解物を析出させて粉体として回収する工程を経ることにより成形材料として好適な平均粒径や耐熱性を有する再生高分子粉体を回収することができる。
本発明は好ましくは縮合系高分子材料全般に適用する事ができ、特にポリイミド、ポリアミド。ポリエステル、ポリカーボネートに好ましく適用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明が再生処理の対象とする高分子材料は、主には縮合系高分子材料である飽和ポリエステル、ポリイミド、ポリアミド樹脂(ナイロン)、多糖類、デンプン類、フェノール樹脂類、尿素樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ポリカーボネート樹脂、不飽和ポリエステル樹脂などを例示する事ができる。
これら被再生高分子材料は、処理する際に、破砕した状態でも用いることが好ましい。破砕された状態としては、比表面積が100平方cm/g以上となるように破砕された状態が好ましい。
また、本発明では被再生高分子材料が、長径が10mm以下の破砕フィルム片、または長径が10mm以下の切断糸形状であることが好ましい。比表面積が小さすぎると、第1の処理液から第2の処理液に持ち込まれるアルカリ量が少なくなり、処理効率が低下する。
【0011】
本発明の被再生高分子材料としては、特にポリイミドに適用することが好ましい。ポリイミドとは主鎖にイミド結合を有する高分子である。
本発明におけるポリイミドは、その形態は様々であり、フィルム状態、フィルムに金属薄膜や無機薄膜やそれらの複合体が積層された状態などがその例として挙げられる。ポリイミドは、ジアミン類とテトラカルボン酸類とを重縮合して得られるポリイミドであれば特に限定されるものではないが、好ましくは芳香族ジアミン類と芳香族テトラカルボン酸類との反応によって得られるポリイミドであり、より好ましくは、下記の芳香族ジアミン類(ジアミンやイミド結合性ジアミン誘導体、以下同)と芳香族テトラカルボン酸類(酸や二無水物やイミド結合性酸誘導体、以下同)との組合せが好ましい例として挙げられるが、カルボン酸としては、ピロメリット酸が好ましいものであり、ジアミン類としてはベンゾオキサゾール骨格(構造)を有するジアミンが好ましい。
A.ベンゾオキサゾール構造を有する芳香族ジアミン類と芳香族テトラカルボン酸類との組み合わせ。
B.ジアミノジフェニルエーテル骨格を有する芳香族ジアミン類とピロメリット酸骨格を有する芳香族テトラカルボン酸類との組み合わせ。
C.フェニレンジアミン骨格を有する芳香族ジアミン類とピロメリット酸骨格を有する芳香族テトラカルボン酸類との組み合わせ。
D.フェニレンジアミン骨格を有する芳香族ジアミン類とビフェニルテトラカルボン酸骨格を有する芳香族テトラカルボン酸類との組み合わせ。
また、上記ABCDの一種以上の組み合わせが好ましい。
【0012】
また、本発明に特に好ましい被再生高分子材料としては、ポリエステルが例示できる。ポリエステルとは主鎖にエステル結合を有する高分子である。ポリエステルとしてはジカルボン酸成分とグリコールの縮合物として得られるポリエステルが好ましい。
ジカルボン酸成分には、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸、1,5-ナフタル酸などの芳香族ジカルボン酸、p-オキシ安息香酸、p-(ヒドロエトキシ)安息香酸などの芳香族オキシカルボン酸、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸等の脂肪族ジカルボン酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、ヘキサヒドロフタル酸、テトラヒドロフタル酸等の不飽和脂肪族および脂環族ジカルボン酸等がある。
必要によりトリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸等のトリおよびテトラカルボン酸を少量含んでいても良い。
グリコール成分には、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、スピログリコール、1,4-フェニレングリコール、1,4-フェニレングリコールのエチレンオキサイド付加物、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等のジオール、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物およびプロピレンオキサイド付加物、水素化ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物およびプロピレンオキサイド付加物等がある。
必要により、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエルスリトール等のトリオールおよびテトラオールを少量含んでも良い。
ポリエステルポリオールとしては、他に、ε-カプロラクトン等のラクトン類を開環重合して得られる、ラクトン系ポリエステルポリオール類があげられる。
本発明は不溶不融となる不飽和ポリエステル樹脂に適用する事が好ましい。ここに不飽和ポリエステル樹脂とは、不飽和ポリエステルをスチレンなどビニル重合ポリマーで架橋した樹脂を含む。
【0013】
また、この他に本発明に好ましい被再生高分子としては、ポリカーボネート樹脂が挙げられる。ポリカーボネート樹脂とは、主鎖にカーボネート結合を有する高分子であり、主に炭酸ジエステル成分とジヒドロキシ成分の縮合物として得られる。
炭酸ジエステル成分には、例えば、ジフェニルカーボネート、ジトリルカーボネート、ビス(クロロフェニル)カーボネーと、m-クレジルカーボネーと、ジナフチルカーボネート、ビス(ジフェニル)カーボネートなどの芳香族系カーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジブチルカーボネート及びジシクロへキシルカーボネートなどの脂肪族系カーボネートが挙げられる。
ジヒドロキシ成分には、例えば、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールAともいわれる)、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)フェニルメタンなどの芳香族系ジヒドロキシ化合物、エチレンクリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,2-シクロヘキサンジメタノールなどの脂肪族系ヒドロキシ化合物が挙げられる。
【0014】
本発明における第1の処理は、所定の温度に加温した第1の処理液に、被再生高分子材料を臨界分解状態に達するまで浸漬した後に取り出す処理工程である。
本発明における第1の処理液とは、アンモニウムないしアルカリ金属の水酸化物の水溶液であって、被再生高分子材料のアルカリ加水分解を臨界分解状態まで進行させることができるものであれば特に限定されないが、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウム、アンモニア、水酸化テトラメチルアンモニウムなどが挙げられる。尚、ここで言う臨界分解状態とは、加水分解対象の被再生高分子材料が反応により質量増加から質量減少に転じた時の状態を言う。
加水分解反応は、水分子が高分子材料の主に主鎖に係わる結合に割り込むことにより主鎖の結合を切断することによって進行するが、進行が比較的緩やかな場合には、水分子が加わることによる分子量増加と、さらに高分子材料の親水性が高まることによる膨潤により見掛けの固体部分の質量は増加する。加水分解反応がさらに進行すると、主鎖切断の進行により低分子量化した部分が処理液に溶出し、見掛け固体部分の質量が減少に転ずる。この変曲点を本発明では臨界分解状態と称する。
臨界分解状態に達する時間を知るには、被再生高分子材料を所定の条件において第一の処理液に浸漬し、被再生高分子材料を一定時間間隔で処理液から取り出して質量を計測し、その時間プロットから上記の変曲点を求めれば良い。実作業を行う観点からは、臨界分解状態に達するまでの時間が10~600分の間になるように、処理液のpHないしアルカリイオン濃度と処理液の温度を調整することが好ましい。この程度の条件であれば数分おきレベルに質量変化を計測することにより臨界分解状態に達する時間を計測することができる。
【0015】
本発明における第1の処理液のアルカリイオン濃度は0.5~20.0mol/Lの範囲であることが好ましい。第1の処理液の温度は50~100℃の範囲であることが好ましい。アルカリイオン濃度が0.5mol/Lを超える場合は、加水分解速度が遅すぎて実用上問題が生じる場合が多く、20.0mol/Lを超える場合は被再生高分子材料が分解しすぎて実用的ではない。第1の処理液の温度が50℃未満であれば加水分解速度が遅すぎて実用上問題が生じる場合が多く、100℃を超える場合には被再生高分子材料が分解しすぎること、加圧容器が必要になるなどの技術的な課題が生じる。第1の処理液のアルカリイオン濃度は、1.0~10.0mol/Lの範囲であることが好ましく、その第1の処理液の温度は70~95℃の温度であることがさらに好ましい。
【0016】
本発明の第1の処理液は反復使用することが可能である。反復使用とは、繰り返し高分子材料の再生処理に使うことができることを意味し、本発明では繰り返し5回以上の使用が可能な場合に反復使用が可能であると判断する。
【0017】
本発明における、第1の処理の浴比、すなわち被処理物の質量と処理液との質量比は好ましくは15/100以下、さらに好ましくは7/100以下、なおさらに好ましくは4/100以下である。浴比が所定範囲を超えると処理効率が著しく低下するとともに、処理液の反復利用が困難になる。
本発明における第1の処理の浴比の下限は0.5/100、好ましくは0.2/100である。浴比がこの範囲より低くなると、処理効率が低くなるだけで無く、第2の処理浴へのアルカリの持ち込み量が少なくなるため、第2処理に支障がでる場合がある。
【0018】
本発明における第2の処理液とは、第1の処理液中で加水分解が臨界分解状態まで進んだ被再生高分子材料が持ち込むアルカリ成分と、被再生高分子成分の分解物から成るものであって、加水分解が臨界分解状態まで進んだ被再生高分子材料を溶解するものであれば特に限定されない。純水ないしはイオン交換水、緩衝液といった弱電解質水溶液などが例示されるが、好ましくは純水ないしはイオン交換水である。
【0019】
本発明における第2の処理は、所定の温度に加温した第2の処理液に、第1の処理後の被再生高分子材料を所定時間浸漬して溶解させ、被再生高分子材料の溶液を得る処理工程である。なお、便宜上、被再生高分子材料の溶液としたが、化学的には被再生高分子材料の分解物ないしアルカリ変性物としてアルカリ溶液に可溶な状態になった物の溶液である。
本発明における第2の処理液のアルカリイオン濃度は0.0~0.5mol/L、pHは6~9の範囲であることが好ましく、その第2の処理液を使用しての加水分解が臨界分解状態まで進んだ被再生高分子材料の溶解処理は70~100℃の温度で行うことが好ましい。第2の処理液のpHが6未満であれば被再生高分子材料の溶解度が著しく低下してしまう場合が多く、アルカリイオン濃度が0.5mol/L以上ないしはpH9以上になると被再生高分子材料が塩析してしまう場合が多く実用的では無い。溶解処理温度も70℃未満であれば被再生高分子材料の溶解度が著しく低下してしまう場合が多く、100℃を超える場合には耐圧性や技術的な課題が多くなる。より好ましくは第2の処理液のアルカリイオン濃度は0.0~0.1mol/L、pHは7~8の範囲であり、その第2の処理液を使用しての溶解処理温度は80~95℃である。
【0020】
本発明における、第2の処理の浴比、すなわち被処理物の質量と処理液との質量比は好ましくは15/100以下、さらに好ましくは7/100以下、なおさらに好ましくは4/100以下である。浴比が所定範囲を超えると処理効率が著しく低下するとともに、処理液の反復利用が困難になる。
本発明における第2の処理の浴比の下限は0.5/100、好ましくは0.2/100である。浴比がこの範囲より低くなると、処理効率が低くなるだけで無く、第2の処理浴へのアルカリの持ち込み量が少なくなるため、第2処理に支障がでる場合がある。
【0021】
本発明においては、第2の処理液に溶解した被再生高分子材料を粉末として回収するにあたっては、未溶解物の濾過、酸性水溶液添加による沈殿分離により簡単に行うことができる。また、回収物に残存するアルカリ金属類は、回収物を水洗することで十分に除去することができる。
【0022】
本発明においてフィルム状の被再生高分子材料を処理する場合、当該フィルム状被再生高分子材料を細片化して処理することが好ましく、より好ましくは細片の平均サイズが最大辺10mm以下、さらに好ましくは7mm以下、なお好ましくは4mm以下程度に微細片化すると良い。細片サイズが大きすぎると処理装置内での撹拌や流動、輸送に支障を来す場合がある。
本発明におけるフィルム状被再生高分子材料の処理量は、処理液に対して0.1質量%以上20質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以上10質量%以下がさらに好ましく、1質量%以上5質量%以下とすることがない好ましい。処理量がこの範囲に満たないと処理効率が悪くなり、処理量がこの範囲を超えると処理中の流動性が悪く処理ムラが大きくなるうえ、第1の処理液の汚染が著しくリサイクル使用が困難になる場合がある。
本発明におけるプロセスとしては、(1)開放系の反応槽を用い、常圧下にて処理液を加熱撹拌し、場合によっては還流を行う方法、(2)高温の処理浴にベルトコンベアなどでゆっくり流通させていく方法を、それぞれ例示することができる。反応効率および処理ムラの観点からは前者が好ましいが、生産性の観点からは後者が好ましく、実用のスケールなどによって(1)、(2)を適宜選択すればよい。
【実施例】
【0023】
以下の実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例によって限定されるものではない。なお、以下の実施例における各特性の評価方法は以下の通りである。
【0024】
[熱分解温度]
乾燥した高分子粉体を試料として、下記条件で熱天秤測定(TGA)を行い、試料の質量が5%減る温度を熱分解温度とみなした。
装置名 ; TAインストルメント社製 TGA-Q50
パン ; 白金パン(非気密型)
試料質量 ; 10mg
昇温開始温度 ; 室温
昇温終了温度 ; 800℃
昇温速度 ; 10℃/min
雰囲気 ; 窒素
【0025】
[イミド化率]
ポリイミド粉体のイミド化率評価は、次に示すIR(ATR)測定手順に従って行った。
測定対象となるポリイミド粉体を2mg採取し、ATR結晶と密着させてIR測定装置にセットして下記特定波長吸光度を測定して下記(1)式によって、測定対象ポリイミド粉体のイミド化率(IMx)を得た。
IMx = λ1778/λ1478・・・(1)
λ1778は、イミド特定波長1778cm-1付近における吸光度であり、λ1478は、芳香族環特定波長1478cm-1付近における吸光度である。下記に、今回用いたIR(ATR)測定条件を示す。
<IR測定条件>
使用装置名 ; 日本分光社製 FT/IR6100
分解能 ; 4cm-1
測定波数範囲 ; 600~4000cm-1
感度 ; 1
検出時間 ; 1.05sec
【0026】
<実施例1>
被再生高分子材料(ポリイミド)としては、東洋紡株式会社製の25μm厚のポリイミドフィルム「ゼノマックス」(登録商標)を破砕機により長径が5mm以下となるように処理した破砕品を用いた。フィルムの単位体積あたりの質量から見積もられた破砕品の比表面積は530平方m/gである。
【0027】
4.0mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を第1の処理液として用いた。第1の処理液のpHは14であった。予備試験として、本第1の処理液を70℃とし、一定量の被再生高分子材料を浸漬して5分単位で固形分の質量変化を測定したところ、質量増から質量減に転じる時間(臨界分解状態に達する時間)は75分であった。
【0028】
第1の処理液100質量部に対して被再生高分子材料のポリイミド1質量部を浸漬して温度が70℃の条件でアルカリ加水分解を行った。75分間後に臨界分解状態の固体(加水分解が進んだポリイミド)を濾過して取り出した。濾液は別途保管した。
【0029】
第2の処理液として 温度90℃の イオン交換水100質量部を準備した。
前記第1の処理液から取り出した臨界分解状態の固体(加水分解の進んだポリイミド)1質量部を第2の処理液に加え、30分間撹拌することにより目視により固体が視認できなくなったことを確認し、被処理物の溶液を得た。
【0030】
次に、前記溶液に5質量%の硫酸を、pHが7に達するまで滴下することにより溶液を中和した。中和により溶液中の溶解物が固体粉末として析出した。
【0031】
析出した固体粉末を濾過して取り出し、水洗した。水洗は、固体粉末を100倍量の水に入れて常温で5分間撹拌したのちに濾過して固体粉末として取り出す工程を3回繰り返した。水洗後の固体粉末を減圧脱水し、温度80℃で12時間以上乾燥することによって、含水率1.0%以下の固体粉末を得た。
【0032】
前記固体粉末を加熱炉において1℃/minの昇温速度で昇温し、450℃で7分間加熱することにより、再生高分子材料として、イミド化率が85%以上のポリイミド粉体を得た。
同じ第1の処理液を用いて、同様の操作を5回繰り返した。5回目についても十分な処理が可能であった。
【0033】
<実施例2~6><比較例1、2>
以下同様に表1に示す材料と条件を用いて再生高分子材料を得た。得られた再生高分子材料を評価した。結果を表1に示す。
なお、表1中
ポリイミド1 はXenomax(登録商標)25μm厚[東洋紡社製]の破砕品、
ポリイミド2 はKapton(登録商標)12.5μm厚[東レ・デュポン社製]の破砕品、
ポリエステル は東洋紡エステルフィルム(登録商標)50μm厚[東洋紡社製]の破砕品、
ポリカーボネートは、ユーピロン(登録商標)100μm厚[三菱ガス化学社製]の破砕品
である。
【0034】
【産業上の利用可能性】
【0035】
以上述べてきたように、本発明によれば、主には縮合系高分子材料である飽和ポリエステル樹脂、ポリイミド、ポリアミド樹脂(ナイロン)、多糖類、デンプン類、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、ポリカーボネート樹脂、不飽和ポリエステル樹脂を含む、好ましくは不溶不融の高分子材料から再生高分子材料を効率よく得ることができ、さらに再生工程に於ける処理液を再利用することも可能である。本発明で得られる再生高分子材料は、たとえば成形原料として広範囲に使用することも可能であり、廃棄物の低減だけで無く、工業的に有用な材料の提供に貢献するものである。