(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-15
(45)【発行日】2024-01-23
(54)【発明の名称】睡眠ステージ推定装置、睡眠ステージ推定方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
A61B 5/16 20060101AFI20240116BHJP
A61B 5/11 20060101ALI20240116BHJP
A61B 5/02 20060101ALI20240116BHJP
A61B 5/024 20060101ALI20240116BHJP
【FI】
A61B5/16 130
A61B5/11 200
A61B5/02 C
A61B5/024
(21)【出願番号】P 2019173326
(22)【出願日】2019-09-24
【審査請求日】2022-09-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000001443
【氏名又は名称】カシオ計算機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】前野 泰士
(72)【発明者】
【氏名】上田 将司
(72)【発明者】
【氏名】浜田 玲
(72)【発明者】
【氏名】中込 浩一
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 光康
(72)【発明者】
【氏名】山谷 崇史
【審査官】藤原 伸二
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-048150(JP,A)
【文献】特開2017-221413(JP,A)
【文献】特開2017-169884(JP,A)
【文献】特開2004-089267(JP,A)
【文献】特開2004-254827(JP,A)
【文献】特開2016-067811(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/16-5/18
A61B 5/02-5/03
A61B 5/11-5/113
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検者の拍動データ及び体動データを取得する被検者データ取得部と、
前記拍動データから特徴量系列を算出し、学習済み睡眠ステージ確率推定モデルを利用して、前記算出した特徴量系列から前記被検者の睡眠ステージ確率系列を推定する睡眠ステージ確率推定部と、
前記体動データから体動量系列を算出し、学習済み睡眠ステージ遷移確率推定モデルを利用して、前記算出した体動量系列から前記被検者の睡眠ステージ遷移確率系列を推定する睡眠ステージ遷移確率推定部と、
前記睡眠ステージ確率系列を観測素性とし、前記睡眠ステージ遷移確率系列を遷移素性とする素性関数から構成される学習済み条件付き確率場モデルを利用して、前記睡眠ステージ確率系列及び前記睡眠ステージ遷移確率系列から前記被検者の睡眠ステージ系列を推定する睡眠ステージ推定部と、
を有し、
前記学習済み条件付き確率場モデルは、前記睡眠ステージ確率系列または前記睡眠ステージ遷移確率系列の学習系列データと正解ラベル列の確率の交差エントロピーを最小化するパラメータを求めることにより学習される、
睡眠ステージ推定装置。
【請求項2】
前記特徴量系列は、所定時間毎の心拍間隔の平均、標準偏差及びLF/HF比の1つ以上の時系列データを含む、請求項1記載の睡眠ステージ推定装置。
【請求項3】
前記学習済み睡眠ステージ確率推定モデルは、前記特徴量系列の特徴量から各睡眠ステージの確率を推定するロジスティック回帰モデルから構成される、請求項1又は2記載の睡眠ステージ推定装置。
【請求項4】
前記学習済み睡眠ステージ確率推定モデルは、前記拍動データの特徴量と、対応する正解の睡眠ステージとのペアから構成される訓練データを利用した教師有り学習によって取得される、請求項1乃至3何れか一項記載の睡眠ステージ推定装置。
【請求項5】
前記体動量系列は、角速度の時系列データを含む、請求項1乃至4何れか一項記載の睡眠ステージ推定装置。
【請求項6】
前記学習済み睡眠ステージ遷移確率推定モデルは、前記体動量系列の体動量から睡眠ステージ間の遷移確率を推定するシグモイド関数から構成される、請求項1乃至5何れか一項記載の睡眠ステージ推定装置。
【請求項7】
前記学習済み条件付き確率場モデルは、
前記交差エントロピーを前記パラメータで偏微分した値を用いて、確率的勾配降下法または動的計画法によって前記パラメータを繰り返し更新することにより、前記最小化するパラメータを求める、請求項1乃至6何れか一項記載の睡眠ステージ推定装置。
【請求項8】
睡眠ステージ推定装置における睡眠ステージ推定方法であって、
被検者の拍動データ及び体動データを取得するステップと、
プロセッサが、前記拍動データから特徴量系列を算出し、学習済み睡眠ステージ確率推定モデルを利用して、前記算出した特徴量系列から前記被検者の睡眠ステージ確率系列を推定するステップと、
前記プロセッサが、前記体動データから体動量系列を算出し、学習済み睡眠ステージ遷移確率推定モデルを利用して、前記算出した体動量系列から前記被検者の睡眠ステージ遷移確率系列を推定するステップと、
前記プロセッサが、
前記睡眠ステージ確率系列を観測素性とし、前記睡眠ステージ遷移確率系列を遷移素性とする素性関数から構成される学習済み条件付き確率場モデルを利用して、前記睡眠ステージ確率系列及び前記睡眠ステージ遷移確率系列から前記被検者の睡眠ステージ系列を推定するステップと、
を有し、
前記学習済み条件付き確率場モデルは、前記睡眠ステージ確率系列または前記睡眠ステージ遷移確率系列の学習系列データと正解ラベル列の確率の交差エントロピーを最小化するパラメータを求めることにより学習される、
睡眠ステージ推定方法。
【請求項9】
睡眠ステージ推定装置のコンピュータが実行するプログラムであって、前記コンピュータに、
被検者の拍動データ及び体動データを取得する処理と、
前記拍動データから特徴量系列を算出し、学習済み睡眠ステージ確率推定モデルを利用して、前記算出した特徴量系列から前記被検者の睡眠ステージ確率系列を推定する処理と、
前記体動データから体動量系列を算出し、学習済み睡眠ステージ遷移確率推定モデルを利用して、前記算出した体動量系列から前記被検者の睡眠ステージ遷移確率系列を推定する処理と、
前記睡眠ステージ確率系列を観測素性とし、前記睡眠ステージ遷移確率系列を遷移素性とする素性関数から構成される学習済み条件付き確率場モデルを利用して、前記睡眠ステージ確率系列及び前記睡眠ステージ遷移確率系列から前記被検者の睡眠ステージ系列を推定する処理と
して実行させ、
前記学習済み条件付き確率場モデルは、前記睡眠ステージ確率系列または前記睡眠ステージ遷移確率系列の学習系列データと正解ラベル列の確率の交差エントロピーを最小化するパラメータを求めることにより学習される、
プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、睡眠状態モニタリング技術に関する。
【背景技術】
【0002】
睡眠状態を判定する睡眠状態モニタリングシステムとして、脳波による睡眠ステージ(浅い睡眠、深い睡眠、レム睡眠、ノンレム睡眠等)の判定が広範に利用されている(例えば、特許文献1)。また、脳波に比較して取得が容易な体動や脈波を利用した睡眠モニタリングシステムもまた提案されている(例えば、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2011-83393号公報
【文献】特開2018-161432号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1及び特許文献2においては、ある時点の睡眠ステージを判定する際に、時系列的に遷移する睡眠ステージ遷移の発生確率が考慮されていない、即ち、睡眠ステージの判定に際し、時系列が考慮されていないという課題があった。
【0005】
本発明は上記課題に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、時系列を考慮した睡眠ステージ推定技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本開示の一態様は、被検者の拍動データ及び体動データを取得する被検者データ取得部と、前記拍動データから特徴量系列を算出し、学習済み睡眠ステージ確率推定モデルを利用して、前記算出した特徴量系列から前記被検者の睡眠ステージ確率系列を推定する睡眠ステージ確率推定部と、前記体動データから体動量系列を算出し、学習済み睡眠ステージ遷移確率推定モデルを利用して、前記算出した体動量系列から前記被検者の睡眠ステージ遷移確率系列を推定する睡眠ステージ遷移確率推定部と、前記睡眠ステージ確率系列を観測素性とし、前記睡眠ステージ遷移確率系列を遷移素性とする素性関数から構成される学習済み条件付き確率場モデルを利用して、前記睡眠ステージ確率系列及び前記睡眠ステージ遷移確率系列から前記被検者の睡眠ステージ系列を推定する睡眠ステージ推定部と、を有し、前記学習済み条件付き確率場モデルは、前記睡眠ステージ確率系列または前記睡眠ステージ遷移確率系列の学習系列データと正解ラベル列の確率の交差エントロピーを最小化するパラメータを求めることにより学習される睡眠ステージ推定装置に関する。
【発明の効果】
【0007】
本開示によると、時系列を考慮した睡眠ステージ推定技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本開示の一実施例による睡眠ステージ推定装置を示す概略図である。
【
図2】本開示の一実施例による睡眠ステージ推定装置のハードウェア構成を示すブロック図である。
【
図3】本開示の一実施例による睡眠ステージ推定装置の機能構成を示すブロック図である。
【
図4】本開示の一実施例による睡眠ステージ推定処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下の実施例では、被検者の睡眠中の時系列データから睡眠ステージ系列を推定する睡眠ステージ推定装置が開示される。
【0010】
[本開示の概要]
後述される実施例を概略すると、
図1に示されるように、睡眠ステージ推定装置100は、被検者の睡眠中の脈波や心拍等の拍動データ及び加速度や角速度等の体動データを取得すると、拍動データから一定時間毎の特徴量(例えば、心拍間隔の平均、標準偏差、LF/HF比など)を算出し、時系列に得られた特徴量から特徴量系列を生成する。そして、睡眠ステージ推定装置100は、学習済み睡眠ステージ確率推定モデルを利用して、各時刻における特徴量から、被検者が各睡眠ステージにいると推定される確率を示す睡眠ステージ確率を推定する。例えば、睡眠ステージ確率推定モデルは、ロジスティック回帰モデルによって実現されてもよく、3つ以上の睡眠ステージ(例えば、浅い睡眠、深い睡眠、レム睡眠、ノンレム睡眠等)に分類する場合、多クラスロジスティック回帰モデルによって実現されてもよい。
【0011】
他方、睡眠ステージ推定装置100は、各時刻における体動データから各時刻の回転の角速度を算出して体動の情報を算出する。そして、睡眠ステージ確率と体動の情報から、学習済み睡眠ステージ遷移確率推定モデルを利用して、被検者がある睡眠ステージから他の睡眠ステージに遷移したと推定される確率を示す時系列を考慮した睡眠ステージ遷移確率を推定する。例えば、睡眠ステージ遷移確率推定モデルは、シグモイド関数によって実現されてもよい。
【0012】
そして、睡眠ステージ推定装置100は、学習済み条件付き確率場(Conditional Random Field:CRF)モデルを利用して、推定された各時刻の睡眠ステージ確率と睡眠ステージ遷移確率とから睡眠ステージ系列を推定する。例えば、条件付き確率場モデルは、睡眠ステージ確率を観測素性とし、睡眠ステージ遷移確率を遷移素性とする素性関数によって実現される。
【0013】
このようにして、睡眠ステージ推定装置100は、被検者に装着されたセンサによって睡眠中の被検者から時系列に収集された拍動データ及び体動データから、被検者の睡眠ステージ系列を推定することができる。
【0014】
[ハードウェア構成]
ここで、睡眠ステージ推定装置100は、例えば、サーバなどの計算装置であってもよく、
図2に示されるようなハードウェア構成を有してもよい。すなわち、睡眠ステージ推定装置100は、バスBを介し相互接続されるドライブ装置101、補助記憶装置102、メモリ装置103、CPU(Central Processing Unit)104、インタフェース装置105及び通信装置106を有する。
【0015】
睡眠ステージ推定装置100における後述される各種機能及び処理を実現するプログラム又は命令を含む各種コンピュータプログラムは、CD-ROM(Compact Disk-Read Only Memory)などの記録媒体107によって提供されてもよい。プログラムを記憶した記録媒体107がドライブ装置101にセットされると、プログラムが記録媒体107からドライブ装置101を介して補助記憶装置102にインストールされる。但し、プログラムのインストールは必ずしも記録媒体107により行う必要はなく、ネットワークなどを介し何れかの外部装置からダウンロードするようにしてもよい。補助記憶装置102は、インストールされたプログラムを格納すると共に、必要なファイルやデータなどを格納する。メモリ装置103は、プログラムの起動指示があった場合に、補助記憶装置102からプログラムやデータを読み出して格納する。補助記憶装置102及びメモリ装置103は、プログラム又は命令を格納する非一時的なコンピュータ可読記憶媒体として実現される。プロセッサとして機能するCPU104は、メモリ装置103に格納されたプログラムやプログラムを実行するのに必要なパラメータなどの各種データに従って、睡眠ステージ推定装置100の各種機能及び処理を実行する。インタフェース装置105は、ネットワーク又は外部装置に接続するための通信インタフェースとして用いられる。通信装置106は、外部装置と通信するための各種通信処理を実行する。
【0016】
しかしながら、睡眠ステージ推定装置100は、上述したハードウェア構成に限定されるものでなく、例えば、睡眠ステージ推定装置100による機能及び処理の1つ以上を実現する1つ以上の回路などの他の何れか適切なハードウェア構成により実現されてもよく、例えば、被験者の腕に装着される腕時計型のウェアラブルタイプや、被験者の耳に挿入するイヤホン型のヒアラブルタイプの装置として実現されてもよい。
【0017】
[睡眠ステージ推定装置]
次に、
図3を参照して、本開示の一実施例による睡眠ステージ推定装置100を説明する。
図3は、本開示の一実施例による睡眠ステージ推定装置100の機能構成を示すブロック図である。
【0018】
図3に示されるように、睡眠ステージ推定装置100は、被検者データ取得部110、睡眠ステージ確率推定部120、睡眠ステージ遷移確率推定部130及び睡眠ステージ推定部140を有する。
【0019】
被検者データ取得部110は、被検者の拍動データ及び体動データを取得する。例えば、拍動データは、睡眠中の被検者の腕や耳などに装着された脈波センサ又は心拍センサによって収集されてもよく、体動データは、拍動データと同じく、睡眠中の被検者の腕や耳などに装着された体動を検知する加速度センサ又は体動センサなどによって収集されてもよい。
【0020】
睡眠ステージ推定装置100は、センサに有線又は無線接続され、被検者データ取得部110は、収集された拍動データ及び体動データを通信回線を介し取得してもよい。あるいは、収集された拍動データ及び体動データは、センサに有線又は無線接続された計算装置(図示せず)に送信及び格納され、被検者データ取得部110は、当該計算装置から拍動データ及び体動データを取得してもよい。被検者データ取得部110は、取得した拍動データ及び/又は体動データを睡眠ステージ確率推定部120及び睡眠ステージ遷移確率推定部130に提供する。
【0021】
睡眠ステージ確率推定部120は、拍動データから特徴量系列を算出し、学習済み睡眠ステージ確率推定モデルを利用して、算出した特徴量系列から被検者の睡眠ステージ確率系列を推定する。具体的には、被検者データ取得部110から拍動データを取得すると、睡眠ステージ確率推定部120は、拍動データの心拍間隔系列から所定時間毎(例えば、30秒毎、1分毎、5分毎など)に心拍間隔の平均、標準偏差、LF/HF比などの何れかを示す特徴量fti(i=0,1,・・・,n)を算出し、算出した各特徴量ftiから特徴量系列ft0,ft1,・・・,ftnを生成する。そして、睡眠ステージ確率推定部120は、各特徴量ftiを学習済み睡眠ステージ確率推定モデルに入力し、時刻tiの特徴量ftiに対する各睡眠ステージの睡眠ステージ確率Pstage_tiを推定し、時刻tiの特徴量ftiに対する確率Pstage_tiが最大となる睡眠ステージ確率Pmax_stage_tiの睡眠ステージ確率系列Pmax_stage_t0,Pmax_stage_t1,・・・,Pmax_stage_tnを睡眠ステージ推定部140に提供する。
【0022】
一実施例では、学習済み睡眠ステージ確率推定モデルは、特徴量系列の特徴量から各睡眠ステージの確率を推定するロジスティック回帰モデルから構成されてもよい。ロジスティック回帰モデルは、例えば、睡眠ステージ集合Sが{s0(=浅い睡眠),s1(=深い睡眠),s2(=レム睡眠),s3(=ノンレム睡眠)}である場合、多クラスロジスティック回帰モデルが利用されてもよい。すなわち、各時刻の心拍間隔の平均、標準偏差、LF/HF比などの特徴量と、当該時刻の脳波データから決定された正解の睡眠ステージとのペアから構成される訓練データが予め用意される。何れか適切なロジスティック曲線などの多クラスロジスティック回帰モデルに対して訓練データを利用した教師有り学習が実行される。多クラスロジスティック回帰モデルは、多クラスロジスティック回帰モデルの学習に関する何れか周知の学習手法に従って学習可能であり、訓練データの特徴量に対して正解の睡眠ステージが正しく予測できるように、多クラスロジスティック回帰モデルの重みベクトルなどのパラメータが更新される。例えば、訓練データと正解データの確率の交差エントロピーを求め、その値が最小となるパラメータを求めてもよい。具体的には、確率的勾配降下法などの手法を用いて、交差エントロピーの各パラメータの偏微分値を使ってパラメータを繰り返し更新し、交差エントロピーが最小となるパラメータを求めてもよい。なお、実際上は、何れか適切なライブラリの関数を利用して学習可能である。
【0023】
睡眠ステージ遷移確率推定部130は、体動データから体動量系列を算出し、学習済み睡眠ステージ遷移確率推定モデルを利用して、算出した体動量系列から被検者の睡眠ステージ遷移確率系列を推定する。具体的には、被検者データ取得部110から体動データを取得すると、睡眠ステージ遷移確率推定部130は、体動データから所定時間毎(例えば、30秒毎、1分毎、5分毎など)の角速度などの体動量mti(i=0,1,・・・,n)を算出し、算出した各体動量mtiから体動量系列mt0,mt1,・・・,mtnを生成する。そして、睡眠ステージ遷移確率推定部130は、各体動量mtiを学習済み睡眠ステージ遷移確率推定モデルに入力し、時刻tiの体動量mtiに対する睡眠ステージ遷移確率Ptransition_tiを推定し、推定した睡眠ステージ遷移確率系列Ptransition_t0,Ptransition_t1,・・・,Ptransition_tnを睡眠ステージ推定部140に提供する。
【0024】
一実施例では、学習済み睡眠ステージ遷移確率推定モデルは、体動量系列の体動量から睡眠ステージ間の遷移確率を推定するシグモイド関数から構成されてもよい。例えば、シグモイド関数は、
Pr(mti)=1/(1+exp(-ax+b))
として定式化されてもよい。なお、パラメータa,bは、後述される条件付き確率場(CRF)モデルの学習時に決定されてもよい。なお、睡眠ステージ遷移確率推定モデルのパラメータは、以下の条件付き確率場(CRF)の学習と同時に行ってもよく、条件付き確率場(CRF)のパラメータの一部として学習してもよい。
【0025】
睡眠ステージ推定部140は、学習済み条件付き確率場モデルを利用して、睡眠ステージ確率系列及び睡眠ステージ遷移確率系列から被検者の睡眠ステージ系列を推定する。具体的には、睡眠ステージ確率推定部120及び睡眠ステージ遷移確率推定部130から睡眠ステージ確率系列Pmax_stage_t0,Pmax_stage_t1,・・・,Pmax_stage_tn及び睡眠ステージ遷移確率系列Ptransition_t0,Ptransition_t1,・・・,Ptransition_tnをそれぞれ取得すると、睡眠ステージ推定部140は、各時点の睡眠ステージ確率Pmax_stage_ti及び睡眠ステージ遷移確率Ptransition_tiをそれぞれ観測素性及び遷移素性として学習済み条件付き確率場(CRF)モデルに入力し、各時点の睡眠ステージStiを推定し、睡眠ステージ系列St0,St1,・・・,Stnを生成する。
【0026】
一実施例では、学習済み条件付き確率場モデルは、睡眠ステージ確率を観測素性とし、睡眠ステージ遷移確率を遷移素性とする素性関数から構成されてもよい。睡眠ステージ推定部140は、当該素性関数を利用して、各時点の睡眠ステージ確率Pmax_stage_ti及び睡眠ステージ遷移確率Ptransition_tiから睡眠ステージStiを推定する。例えば、学習系列データと正解ラベル列の確率の交差エントロピーを求め、その値が最小となるパラメータを求めてもよい。具体的には、確率的勾配降下法や動的計画法などの手法を用いて、交差エントロピーの各パラメータの偏微分値を使ってパラメータを繰り返し更新し、交差エントロピーが最小となるパラメータを求めてもよい。なお、実際上は、何れか適切なライブラリの関数を利用して学習可能である。
【0027】
具体的には、λを条件付き確率場のパラメータとし、a,bを睡眠ステージ遷移確率のパラメータとした場合、交差エントロピーE(λ,a,b)を最小化するパラメータλ,a,bが同時に学習される。すなわち、交差エントロピーEを各パラメータλ,a,bで偏微分した値を用いて、確率的勾配降下法などの手法によってパラメータを繰り返し更新し、交差エントロピーEが最小となるパラメータλ,a,bを求める。
【0028】
例えば、N個の学習データ
【0029】
【0030】
【数2】
である。ただし、対数尤度l(x,y)は、時系列の長さをMとして、
【0031】
【0032】
【0033】
ここで、素性関数
【0034】
【数5】
は、例えば、睡眠ステージ確率(K個)、定数1、睡眠ステージ遷移確率p
rで構成され、
【0035】
【数6】
である。ただし、体動量qの睡眠ステージ遷移確率p
rは、
【0036】
【数7】
である。
素性関数の例として、x
m=[p
1,p
2,p
3,p
4,q],y
m-1=3,y
m=2である場合、
【0037】
【0038】
[睡眠ステージ推定処理]
次に、
図4を参照して、本開示の一実施例による睡眠ステージ推定処理を説明する。当該睡眠ステージ推定処理は、上述した睡眠ステージ推定装置100によって実現され、例えば、睡眠ステージ推定装置100のプロセッサがプログラム又は命令を実行することによって実現されてもよい。
図4は、本開示の一実施例による睡眠ステージ推定処理を示すフローチャートである。
【0039】
図4に示されるように、ステップS101において、睡眠ステージ推定装置100は、拍動データ及び体動データを取得する。拍動データ及び体動データは上述した脈波センサ又は心拍センサ、及び加速度センサ又は体動センサにより収集される。
【0040】
ステップS102において、睡眠ステージ推定装置100は、特徴量系列から睡眠ステージ確率系列を推定する。具体的には、睡眠ステージ推定装置100は、所定時間毎の心拍間隔の平均、標準偏差、LF/HF比などの特徴量を算出し、算出した特徴量を学習済み睡眠ステージ確率推定モデルに入力する。睡眠ステージ推定装置100は、各時刻について学習済み睡眠ステージ確率推定モデルから睡眠ステージ確率を取得し、睡眠ステージ確率系列を生成する。
【0041】
ステップS103において、睡眠ステージ推定装置100は、体動量系列から睡眠ステージ遷移確率系列を推定する。具体的には、睡眠ステージ推定装置100は、所定時間毎の角速度などの体動量を算出し、算出した体動量を学習済み睡眠ステージ遷移確率推定モデルに入力する。睡眠ステージ推定装置100は、各時刻について学習済み睡眠ステージ遷移確率推定モデルから睡眠ステージ遷移確率を取得し、睡眠ステージ遷移確率系列を生成する。
【0042】
ステップS104において、睡眠ステージ推定装置100は、睡眠ステージ系列を推定する。具体的には、睡眠ステージ推定装置100は、ステップS102において生成された睡眠ステージ確率系列と、ステップS103において生成された睡眠ステージ遷移確率系列とから、各時刻における睡眠ステージ確率及び睡眠ステージ遷移確率をそれぞれ観測素性及び遷移素性として学習済み睡眠ステージ推定モデルに入力し、各時刻における睡眠ステージを推定する。全ての時刻について睡眠ステージを推定すると、睡眠ステージ推定装置100は、睡眠ステージ系列を生成する。
【0043】
本願発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で種々に変形することが可能である。また、各実施形態は可能な限り適宜組み合わせて実施してもよく、その場合組み合わせた効果が得られる。さらに、上記実施形態には種々の段階の発明が含まれており、開示される複数の構成要件における適当な組み合わせにより種々の発明が抽出され得る。例えば、実施形態に示される全構成要件からいくつかの構成要件が削除されても、発明が解決しようとする課題の欄で述べた課題が解決でき、発明の効果の欄で述べられている効果が得られる場合には、この構成要件が削除された構成が発明として抽出され得る。
【0044】
以下に、本願出願の当初の特許請求の範囲に記載された発明を付記する。
[付記]
本開示の一態様では、被検者の拍動データ及び体動データを取得する被検者データ取得部と、
前記拍動データから特徴量系列を算出し、学習済み睡眠ステージ確率推定モデルを利用して、前記算出した特徴量系列から前記被検者の睡眠ステージ確率系列を推定する睡眠ステージ確率推定部と、
前記体動データから体動量系列を算出し、学習済み睡眠ステージ遷移確率推定モデルを利用して、前記算出した体動量系列から前記被検者の睡眠ステージ遷移確率系列を推定する睡眠ステージ遷移確率推定部と、
学習済み条件付き確率場モデルを利用して、前記睡眠ステージ確率系列及び前記睡眠ステージ遷移確率系列から前記被検者の睡眠ステージ系列を推定する睡眠ステージ推定部と、
を有する睡眠ステージ推定装置が提供される。
【0045】
一実施例では、前記特徴量系列は、所定時間毎の心拍間隔の平均、標準偏差及びLF/HF比の1つ以上の時系列データを含んでもよい。
【0046】
一実施例では、前記学習済み睡眠ステージ確率推定モデルは、前記特徴量系列の特徴量から各睡眠ステージの確率を推定するロジスティック回帰モデルから構成されてもよい。
【0047】
一実施例では、前記学習済み睡眠ステージ確率推定モデルは、前記拍動データの特徴量と、対応する正解の睡眠ステージとのペアから構成される訓練データを利用した教師有り学習によって取得されてもよい。
【0048】
一実施例では、前記体動量系列は、角速度の時系列データを含んでもよい。
【0049】
一実施例では、前記学習済み睡眠ステージ遷移確率推定モデルは、前記体動量系列の体動量から睡眠ステージ間の遷移確率を推定するシグモイド関数から構成されてもよい。
【0050】
一実施例では、前記学習済み条件付き確率場モデルは、睡眠ステージ確率を観測素性とし、睡眠ステージ遷移確率を遷移素性とする素性関数から構成されてもよい。
【0051】
本開示の他の態様では、
被検者の拍動データ及び体動データを取得するステップと、
前記拍動データから特徴量系列を算出し、学習済み睡眠ステージ確率推定モデルを利用して、前記算出した特徴量系列から前記被検者の睡眠ステージ確率系列を推定するステップと、
前記体動データから体動量系列を算出し、学習済み睡眠ステージ遷移確率推定モデルを利用して、前記算出した体動量系列から前記被検者の睡眠ステージ遷移確率系列を推定するステップと、
学習済み条件付き確率場モデルを利用して、前記睡眠ステージ確率系列及び前記睡眠ステージ遷移確率系列から前記被検者の睡眠ステージ系列を推定するステップと、
を有する睡眠ステージ推定方法が提供される。
【0052】
本開示の他の態様では、
睡眠ステージ推定装置のコンピュータが実行するプログラムであって、前記コンピュータに、
被検者の拍動データ及び体動データを取得する処理と、
前記拍動データから特徴量系列を算出し、学習済み睡眠ステージ確率推定モデルを利用して、前記算出した特徴量系列から前記被検者の睡眠ステージ確率系列を推定する処理と、
前記体動データから体動量系列を算出し、学習済み睡眠ステージ遷移確率推定モデルを利用して、前記算出した体動量系列から前記被検者の睡眠ステージ遷移確率系列を推定する処理と、
学習済み条件付き確率場モデルを利用して、前記睡眠ステージ確率系列及び前記睡眠ステージ遷移確率系列から前記被検者の睡眠ステージ系列を推定する処理と、
を実行させるプログラムが提供される。
【符号の説明】
【0053】
100 睡眠ステージ推定装置
110 被検者データ取得部
120 睡眠ステージ確率推定部
130 睡眠ステージ遷移確率推定部
140 睡眠ステージ推定部