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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-15
(45)【発行日】2024-01-23
(54)【発明の名称】積層体、包装体及び包装物品
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/00 20060101AFI20240116BHJP
   B01D 53/14 20060101ALI20240116BHJP
   B01J 20/22 20060101ALI20240116BHJP
   B65D 81/24 20060101ALN20240116BHJP
【FI】
B32B27/00 B
B32B27/00 H
B01D53/14 311
B01J20/22 A
B65D81/24 F
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019184539
(22)【出願日】2019-10-07
(65)【公開番号】P2021059060
(43)【公開日】2021-04-15
【審査請求日】2022-09-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001276
【氏名又は名称】弁理士法人小笠原特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹内 礼
(72)【発明者】
【氏名】小出 洋子
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 大
(72)【発明者】
【氏名】塩川 俊一
【審査官】松岡 美和
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/179864(WO,A1)
【文献】特開昭56-159166(JP,A)
【文献】国際公開第2017/209014(WO,A1)
【文献】特開平03-010663(JP,A)
【文献】特開平8-207420(JP,A)
【文献】国際公開第2011/125739(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2006/0172048(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 27/00
B32B 27/18
B01D 53/14
B01J 20/22
B65D 51/30
B65D 81/24-81/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも最外層、酸素吸収層、最内層をこの順序で備える積層体であって、前記酸素吸収層が酸素吸収物質であるフェノール化合物を含む酸素吸収物質含有層と、酸素吸収助剤であるアルカリ物質を含有するアルカリ層との2層構成であり、前アルカリ層が、樹脂及び当該樹脂とは異なる親水性化合物が架橋されたマトリックス中に前記アルカリ物質を含有する層であることを特徴とする積層体。
【請求項2】
前記親水性化合物が有機化合物であることを特徴とする請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記有機化合物が、少なくとも分子中にエーテル結合、水酸基、カルボキシ基、もしくはアミノ基のいずれかを含む水溶性化合物であることを特徴とする請求項2に記載の積層体。
【請求項4】
前記エーテル結合を含む水溶性化合物が、分子中にエーテル結合以外の同種の極性官能基を2以上含むことを特徴とする請求項3に記載の積層体。
【請求項5】
前記エーテル結合を含む水溶性化合物がポリエチレングリコールもしくはポリプロピレングリコールであることを特徴とする請求項4に記載の積層体。
【請求項6】
前記酸素吸収層の前記樹脂組成物に含まれる前記樹脂が少なくとも水酸基、カルボン酸もしくはアミノ基のいずれかを含有することを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項7】
前記酸素吸収物質としてピロガロール基を有するフェノール化合物を少なくとも含有することを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項8】
前記酸素吸収物質として、没食子酸及び没食子酸エステルの少なくとも1種を含有することを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項9】
前記最内層はシーラント層を含むことを特徴とする請求項1から請求項のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項10】
前記最外層が酸素と水蒸気のバリア性を有することを特徴とする請求項1から請求項のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項11】
請求項1から請求項10のいずれか1項に記載の積層体を含む包装体。
【請求項12】
請求項1から請求項10のいずれか1項に記載の積層体を含む包装体と、これに収容された内容物とを含んだ包装物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体、包装体及び包装物品に関する。
【背景技術】
【0002】
食品の包装において包装体内に酸素が存在することにより、内容物である食品等が酸化して、劣化したり変色したりすることがある。包装された内容物の酸化劣化を防ぐには、包装体内の酸素を除去すること、及び外部の酸素が包装体内部に侵入しないよう遮断することで無酸素状態を作ることが有効である。
【0003】
ところが、一般的には包装作業は大気中で行うため、包装時は包装体内に酸素が残存した状態になる。この問題を解決するために、酸素が包装体内に残らないように包装する手段として、脱気包装、真空包装、ガス置換包装などの手段を用いることがある。
【0004】
しかし、このような特別な包装手段を用いると、特別な充填包装設備を別途用意する必要があり、高額な設備費用がかかったり、充填包装速度が上がらず生産効率が低下したりと、不利益が発生する。また、上記のような手段で包装時に酸素が残らないように包装したとしても、包装後に包装材を通して外部の酸素が経時で侵入してくるため、包装体内を無酸素状態に維持することは難しい。
【0005】
そこで、包装体内の残存酸素及び包装後に経時で外部から浸入してくる酸素を除去する手段として、酸素吸収物質を充填した小袋からなる脱酸素剤を、内容物が収容された包装体内に充填する方法が用いられている。この方法では、一定期間、すなわち酸素吸収物質の酸素吸収能力が維持している期間は、酸素吸収物質が酸素を吸収することで酸素を除去することができる。そのため、包装時に包装体内に残った酸素や外部から経時で進入した酸素も除去することが可能であり、包装体内を無酸素状態に維持するのに非常に有効である。しかし、脱酸素剤を用いる場合、小袋に酸素吸収物質を充填する際の手間やコストが発生する。また、消費者の誤飲の可能性やゴミの発生等の問題がある。
【0006】
このような欠点を解消し、一定期間包装体内の酸素を除去及び遮断する手段として、包装材を構成するフィルムなどの一部に酸素吸収機能を設けた酸素吸収フィルムや、それを用いた酸素吸収包装材が考案され、一部実用化されている。
【0007】
上記のような酸素吸収包装材は、現状では食品包装分野で用いられるケースが多く、特にレトルト食品(高温高圧殺菌食品)などの長期保存食品や、カビが発生しやすい高水分食品の包装に用いられる。
【0008】
特に、長期保存食品の包装については、近年、輸送コストや容器の廃棄処理の観点から、缶や瓶の使用は減少し、一方で、包装材の一部に酸素吸収フィルムを設けたレトルトパウチ包装材の形態が主流となっている。
【0009】
容器が缶や瓶の場合は、外部からの酸素の侵入がなく、包装時に残存した酸素のみ除去すれば良いため、真空包装や窒素ガス置換包装などの方法が用いられてきた。缶や瓶に替えて酸素吸収包装材を用いた場合、上述したような真空包装や窒素ガス置換包装などの特別な包装手段を用いることによる設備費用や生産効率の問題はない。しかしながら、従来の酸素吸収フィルムは、瓶・缶に比べると酸素を透過し易いため、缶・瓶と同等の消費期限をレトルトパウチ包装材に付与することは困難であった。そこで、レトルトパウチ包装材としても好適に使用することができる様々な酸素吸収フィルムやそれを用いた酸素吸収包装材が開発されている。
【0010】
現在実用化されている酸素吸収包装材には、酸素吸収物質として鉄や酸素欠損酸化物を樹脂に添加したものや、樹脂組成物の構造の一部に不飽和結合を設けたものがある。
【0011】
しかし、鉄系の酸素吸収物質を用いると金属探知機の使用に制限が生じる、また、酸素欠損酸化物や不飽和結合の構造を持つ樹脂組成物は材料そのものの価格が高いという問題がある。
【0012】
一方で、アスコルビン酸類、グルコース等の還元糖類、グリセリン等の多価アルコール類、カテコールなどのフェノール類、ヒドロキシ安息香酸などのフェノールカルボン酸類などの有機系の物質は、脱酸素剤の酸素吸収物質として長い間検討されてきた物質であり、コストも安価で安全である。
【0013】
フェノールカルボン酸類の没食子酸は塩基性の水溶液中で酸素と反応し酸化することが知られている。従って、没食子酸を酸素吸収物質として利用する場合は水分と塩基性材料が必要となり、水分については包装材中に何かしらの手段で含有させる、もしくは包装体に収容される内容物中の水分を利用することも考えられる。
【0014】
塩基性材料は、包装材中に含有させることで、上記の水分により溶解し没食子酸と接触させることで、没食子酸の酸化反応を可能にすることが考えられる。
【0015】
例えば、酸素吸収物質として没食子酸(3,4,5-トリヒドロキシ安息香酸)を使用した酸素吸収包装材として、特許文献1には、熱可塑性樹脂中に没食子酸、アルカリ物質、酸化反応触媒を添加してなる樹脂組成物から形成された酸素吸収フィルムが開示されている。また、特許文献2には、基材、没食子酸含有層、アルカリ層及びシーラント層がこの順で積層されてなる酸素吸収フィルムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【文献】特開2011-92921号公報
【文献】特開平10-138410号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明者らは、没食子酸等の酸素吸収物質を含有する酸素吸収層を備え、助剤としてアルカリ物質を含有してなる酸素吸収フィルムについて鋭意研究を重ねた。その結果、酸素吸収層の酸素吸収が進むにつれて、フィルムの白化により透明性が低下し内容物の視認が困難になることが判明した。
【0018】
透明性の低下は以下に示す機構により発生すると考えられる。酸素吸収層に侵入した水蒸気は助剤であるアルカリ物質と水和し、アルカリ物質の水溶液もしくはアルカリ物質の一部が膨潤した含水物質を形成する。この水溶液や含水物質が酸素吸収層に使用する樹脂成分との相溶性がある場合は、酸素吸収層に溶け込むためフィルムは白化しない。しかし、この水溶液や含水物質が酸素吸収層に使用する樹脂成分との相溶性がない場合、酸素吸収層中に粒状に分散した状態となる。この分散状態はフィルム中への吸水量の増加に伴い酸素吸収層全体で発生するようになる。その結果、可視光散乱が発生しフィルムが白化する。
【0019】
それ故に、本発明は、高い酸素吸収性能を持ち、内容物の視認性に優れた積層体、さらにはそれを含む包装体及び包装物品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明は、少なくとも最外層、酸素吸収層、最内層を含む積層体であって、酸素吸収層が酸素吸収物質であるフェノール化合物を含む酸素吸収物質含有層と、酸素吸収助剤であるアルカリ物質を含有するアルカリ層との2層構成でありアルカリ層が、樹脂及び当該樹脂とは異なる親水性化合物が架橋されたマトリックス中に前記アルカリ物質を含有する層であることを特徴とするものである。
【0021】
上述の親水性化合物が有機化合物であることが好ましい。この有機化合物は、少なくとも分子中にエーテル結合、水酸基、カルボキシ基、もしくはアミノ基のいずれかを含む水溶性化合物であることが好ましい。
【0022】
エーテル結合を含む水溶性化合物は、分子中にエーテル結合以外の同種極性官能基を2以上含むことが好ましい。
【0023】
上述のエーテル結合を含む水溶性化合物がポリエチレングリコールもしくはポリプロピレングリコールであることが好ましい。
【0024】
酸素吸収層の樹脂組成物に含まれる樹脂が、少なくとも水酸基、カルボキシ基、アミノ基のいずれかを含有することが好ましい。
【0025】
酸素吸収物質が、ピロガロール基を有するフェノール化合物を少なくとも含有することが好ましい。
【0026】
また、酸素吸収物質が、没食子酸及び没食子酸エステルの少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0028】
上記最内層はシーラント層を含んでもよく、上記最外層は酸素と水蒸気のバリア性を有していてもよい。
【0029】
また、本発明に係る包装体は、上記積層体を含むものであり、本発明に係る包装物品は、上記積層体を含む包装体と、これに収容された内容物とを含んだものである。
【発明の効果】
【0030】
本発明によると、高い酸素吸収性能を持ち、内容物の視認性に優れた積層体、さらにはそれを含む包装体及び包装物品が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】本発明の実施形態に係る積層体を概略的に示す断面図。
図2】本発明の他の実施形態に係る積層体を概略的に示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本実施形態に係る積層体は、酸素吸収フィルムとしてシート状で使用してもよいし、包装材として例えば袋状体にして使用してもよく、例えば、食品、薬剤、医薬品、化粧品、電子部品等に好適に用いられる。
【0033】
<積層体>
以下に、本実施形態に係る積層体について、図面を参照しながら説明する。なお、同様又は類似した機能を有する要素については、同一の参照符号を付し、重複する説明は省略する。
【0034】
本実施形態に係る積層体について、代表的な構成例を図1図2に示す。
【0035】
図1は、一実施形態に係る積層体1を概略的に示す断面図である。この積層体1は、最外層10と、酸素吸収物質含有層11aと、アルカリ層11bと、最内層12とをこの順に備えている。図2は、他の実施形態に係る積層体を概略的に示す断面図であり、図2に示す積層体1は、最外層10と、アルカリ層11bと、酸素吸収物質含有層11aと、最内層12とをこの順に備えている。図1及び図2に示す積層体1においては、酸素吸収物質含有層11a及びアルカリ層11bが酸素吸収層11を構成している。
【0036】
なお、図1及び図2に示す積層体1では、何れの層間においても接着層(図示せず)が設けられていてもよい。
【0037】
以下に、各層の材料や機能等について説明する。
【0038】
(最外層)
最外層は、本発明の積層体を形成するための基材として機能すれば特に限定されないが、最外層からの酸素の侵入を抑制するため最外層は酸素バリア性に優れることが好ましい。
【0039】
最外層10としては、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン等)、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等)、ポリアミド(ナイロン(登録商標))、ポリエチレンナフタレートなど、あるいはこれら高分子の共重合体など通常包装材料として用いられるものが使用できる。最外層10は、上述の材料を含め多層構成でもよく、酸素や水蒸気などのガスバリア性が必要な場合は、アルミニウムを主成分とする金属膜や、シリカやアルミニウムなどの金属酸化物の蒸着膜などのバリア層を基材上に形成したバリアフィルムを用いてもよい。
【0040】
最外層10は、必要に応じて、可塑剤、酸化防止剤、着色剤、充填材、紫外線吸収剤、帯電防止剤、アンチブロッキング剤などの公知の添加剤を含有してもよい。
【0041】
最外層10の膜厚は適宜設定することができるが、10μm以上100μm以下の膜厚のものが好適に使用できる。良好な加工性、取り扱い性の観点からは、10μm以上50μm以下の膜厚とすることが好ましい。
【0042】
以下において、最外層10を「基材層」又は「基材フィルム」ということがある。
【0043】
(酸素吸収物質含有層)
酸素吸収物質含有層11aは、少なくとも酸素吸収物質と樹脂組成物を主成分とし、樹脂組成物は少なくとも樹脂、親水性化合物、硬化剤を含有する。
【0044】
酸素吸収物質含有層11aに含有される酸素吸収物質は、例えば、フェノール化合物、グルコース等の還元糖類、グリセリン等の多価アルコールであってよく、一形態においてフェノール化合物が好ましい。フェノール化合物としては、没食子酸、アスコルビン酸、カテコール、ヒドロキシ安息香酸等が挙げられる。その中でも、特にピロガロール基を有するフェノール化合物は、酸素吸収に使われる水酸基の数を多く持つ点で好ましい。ピロガロール基を有するフェノール化合物は、例えば、没食子酸(3,4,5-トリヒドロキシ安息香酸)、及び没食子酸エステル(例えば、没食子酸プロピル、没食子酸エチル、没食子酸オクチル等)であってよい。酸素吸収物質含有層11aは、一形態において、酸素吸収物質として、没食子酸及び没食子酸エステル(以下において、「没食子酸類」ともいう。)から選択される少なくとも一種を含有してよく、没食子酸及び没食子酸プロピルの少なくとも一方を含有してよい。これらは食品添加物で、比較的コストも安いため、安全かつ安価で、優れた酸素吸収性能を持つ包装材料を提供することができる。
【0045】
酸素吸収物質含有層11aに使用する樹脂組成物は、少なくとも樹脂、親水性化合物、硬化剤を含有する。樹脂は酸素吸収物質やアルカリ物質を固定するマトリックスとして機能すれば特に限定されないが、汎用性の点から樹脂が好ましい。樹脂としては、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリエーテル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリビニルアセタール系樹脂、エポキシ系樹脂、エチレン-酢酸ビニル系樹脂、塩化ビニル系樹脂、シリコーン系樹脂、ゴム系樹脂等が挙げられる。本発明においては、後述する親水性化合物との架橋を可能とするために、上記樹脂は、水酸基、カルボキシ基、アミノ基のいずれかの極性官能基を含有していることが好ましい。これらの極性官能基とイソシアネート系やエポキシ系などの硬化剤によって樹脂と後述する親水性化合物が互いに強固に結合しあったマトリックスを形成することが可能となる。各樹脂は、特に酸素透過性と水蒸気透過性がある方が、酸素吸収物質と酸素が反応し易くなる点で好ましい。これらの樹脂の中から1種類を単独で使用してもいいし、2種類以上を混合して用いることもできる。また、共重合体樹脂として使用してもよい。
【0046】
酸素吸収物質含有層11aに含有される親水性化合物としては、フィルム中に侵入する水や酸素吸収助剤であるアルカリ物質の水溶液等、含水物質によるフィルムの白化が解消されれば特に限定されない。例えばシリカゲルなど水の吸着性に優れた微粒子を使用してもよい。特にエアロゲルなどナノオーダの孔径を有し空隙率85%以上を示す多孔質体からなる微粒子は少量の添加により含水物質に対する十分な吸着性が得られかつ透明性が高いので好適である。また、酸素吸収物質含有層11aに含まれる樹脂や各種溶剤との相溶性もしくは分散性を制御しやすい親水性の有機化合物を適宜選定して使用することが好ましい。特に、親水性を付与するエーテル結合、水酸基、カルボキシ基、アミノ基などの極性官能基を多く含んだ水溶性を示す化合物であることが好ましい。本発明において限定しないが、水溶性を示す親水性化合物の具体例を以下に示す。エーテル結合を含む化合物としてはエチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、それらの共重合体や一部を変性した化合物を使用してもよい。水酸基を含有する化合物としては、グリセリン、ペンタエリスリトール、ソルビトール、マンニトールなどの多価アルコール、カルボキシルメチルセルロース、グアーガム、キサンタンガムなどの多糖類、ポリビニルアルコールなどが挙げられる。カルボキシ基を含む化合物としては、アクリル酸もしくはメタクリル酸を含むアクリル/メタアクリル系の化合物もしくは共重合体などが上げられる、アミノ基を含む化合物としてはエチレンジアミン、ポリエチレンアミン、ポリエチレンイミンなどが挙げられる。これらの親水性化合物を組み込んだ共重合体や変性体を使用してもよく、分子量を大きくした樹脂として酸素吸収物質含有層の樹脂として使用してもよい。一方、樹脂粒子やシリカ、アルミナなどの無機系の微粒子の表面に対して親水性化合物を化学的もしくは物理的に被覆処理したものを使用してもよい。
【0047】
これらの親水性化合物を含んだ樹脂組成物を用いることによって、水、アルカリ物質の水溶液もしくは膨潤体、及び酸素吸収物質の酸化反応物などの含水物質が酸素吸収物質含有層のマトリックス中に均一に相溶もしくは分散することができるので含水物質同士の凝集が抑制され、フィルムの白化を抑制することができる。前述の樹脂/親水性化合物の質量比は、99/1~10/90であることが好ましく、95/5~40/60であることがより好ましい。樹脂/親水性化合物の質量比が99/1より少ない場合、透明性低下を抑制しにくくなり、10/90より多い場合、樹脂を含む樹脂組成物の水溶性が顕著となり、酸素吸収の進行と共に酸素吸収物質含有層が溶解して、積層体から酸素吸収物質含有層の成分が流れ出す可能性がある。
【0048】
上述の親水性化合物と酸素吸収物質含有層に用いる樹脂は、イソシアネート化合物などの硬化剤などによって樹脂と親水性化合物が一体となった構造をとるのが好ましい。硬化剤は、樹脂と親水性化合物の極性官能基と架橋反応できれば特に限定されないが、プロセス適性など汎用性の観点で、イソシアネートを反応部位とした硬化剤が好ましい。硬化剤の含有量は、親水性化合物が水やアルカリ物質の水溶物等の含水物質と相溶して酸素吸収物質含有層中を流動しないような含有量とすればよい。但し、親水性を付与する極性官能基が水酸基、カルボキシ基、アミノ基の場合は、これらの極性官能基が硬化剤との反応部位として作用することから、親水性が損なわれない程度の添加量に調整することが望ましい。そのような観点から親水性化合物は、分子中に極性官能基を少なくとも2つ以上含むことが好ましく、エーテル結合を含む親水性化合物においては、架橋反応が可能な極性官能基を2つ以上含むことが好ましい。具体的にはポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールもしくはそれらの共重合体が挙げられる。理由として、エチレングリコールなどの単量体に比べると毒性が低いこと、揮発による含有量のバラつきが少ないことが挙げられる。
【0049】
さらに酸素吸収物質含有層11aは、必要に応じて、可塑剤、酸化防止剤、着色剤、充填材、紫外線吸収剤などの任意の添加剤を含有してもよい。
【0050】
酸素吸収物質含有層11aにおける酸素吸収性物質の含有率は、酸素吸収性能の観点から適宜設定することができ、例えば、酸素吸収物質含有層11aの全質量に対して20質量%~70質量%であってよく、30質量%~60質量%であってよい。
【0051】
酸素吸収物質含有層11aの塗工の際に用いられるコーター及び印刷機の種類、並びにそれらの塗工方式としては特に限定されない。代表的なものとしては、ダイレクトグラビア方式、リバースグラビア方式、キスリバースグラビア方式、オフセットグラビア方式等のグラビアコーター、リバースロールコーター、マイクログラビアコーター、チャンバードクター併用コーター、エアナイフコーター、ディップコーター、バーコーター、コンマコーター、ダイコーター等を挙げることができる。
【0052】
(アルカリ層)
図1及び図2に示す第一の実施形態に係る積層体1は、酸素吸収物質含有層11aと最内層12との間もしくは最外層10aと酸素吸収物質含有層11aとの間にアルカリ層11bを備える。後述するように、酸素吸収物質含有層11aがアルカリ物質を含有する場合には、積層体1はアルカリ層12bを備えなくてもよい。
【0053】
アルカリ層11bは、少なくともアルカリ物質と樹脂組成物を含み、樹脂組成物は前述した樹脂、親水性化合物及び硬化剤を少なくとも含有する。アルカリ層11bの樹脂組成物は、最外層10、酸素吸収物質含有層11a、最内層12、図示しない接着剤層との密着性も考慮して、選択すればよく、最外層10、酸素吸収物質含有層11a、最内層12、図示しない接着剤層に使用されるものと同一又は類似の材料でもよいし、異なる材料でもよい。
【0054】
アルカリ層11bに含有されるアルカリ物質は、酸素吸収物質による酸素吸収を促進する助剤として機能する。例えば、没食子酸類は、アルカリ物質と水が存在する環境下で酸素と反応することで、優れた酸素吸収機能を発現することが知られている。没食子酸類の反応は、pH8以上で十分に進行する。アルカリ物質としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化ルビジウム、水酸化ベリリウム、水酸化マグネシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウム、炭酸リチウム、炭酸マグネシウム、炭酸カリウム、炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸ナトリウムカリウム、炭酸ナトリウム、炭酸マグネシウムカリウム、リン酸カリウム、リン酸水素カリウム、クエン酸ナトリウム等が挙げられる。安全面の観点からは、食品添加物であることが好ましく、更に熱可塑性樹脂に練りこめる程度の耐熱性があるものが好ましい。
【0055】
特に、単体でpH8以上を示す炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化ナトリウム、クエン酸三カリウム、クエン酸ナトリウム、クエン酸カルシウム、炭酸水素カリウム、ピロリン酸カリウム、焼成カルシウム、リン酸カリウム、酒石酸ナトリウムを用いると、含有させるアルカリ物質を少なくしてコストを下げられる点で、より好ましい。
【0056】
アルカリ層11bに含有されるアルカリ物質の添加量は、酸素吸収物質含有層11aに含有される酸素吸収物質100質量部に対し、20質量部~100質量部であってよく、50質量部~100質量部であってよい。アルカリ物質の添加量が20質量部未満では、没食子酸等の酸素吸収物質における酸素吸収反応を進行させるにはpHが必ずしも十分でなく、酸素吸収量が少なくなる場合がある。一方で、アルカリ物質の添加量が100質量部を超えpHが増加しても、酸素吸収量の増加は期待できない。
【0057】
アルカリ層11bは、必要に応じて、接着促進剤、可塑剤、酸化防止剤、着色剤、充填材、紫外線吸収剤などの当該技術において知られている任意の添加剤を含有してもよい。
【0058】
なお、図1及び図2に示した例では、酸素吸収層11が酸素吸収物質含有層11aとアルカリ層11bとの2層構成であるが、酸素吸収物質含有層11aにアルカリ物質を含有させることにより、アルカリ層11bを省略して酸素吸収層11を酸素吸収物質含有層11aの単層で構成することも可能である。この場合、酸素吸収物質含有層11に含まれる親水性化合物の効果は、アルカリ物質の存在により顕著となる。
【0059】
酸素吸収物質含有層11aがアルカリ物質を含有する場合、アルカリ物質は、酸素吸収物質含有層11a中に含有される酸素吸収物質100質量部に対し、20質量部~100質量部であってよく、50質量部~100質量部であってよい。
【0060】
ただし、酸素吸収物質含有層中に酸素吸収物質とアルカリ物質とが混在する場合、酸素吸収性能は発揮されるが、塗液の作製段階で酸素吸収物質による酸素吸収が始まる。このため、図1及び図2に示す積層体1のように、酸素吸収物質含有層11aとアルカリ層11bが別の層として存在する場合と比較して、積層体の作製後における酸素吸収性能が低下するという問題がある。このため、積層体1は、図1及び図2に示すように酸素吸収物質含有層11aとアルカリ層11bとを別の層として備えることが好ましい。
【0061】
(最内層)
図1及び図2に示す積層体1は、最内層12を備える。最内層12は、積層体1において、基材としての最外層10とは反対側の表面を構成する層である。
【0062】
積層体1の用途が包装材であり、袋状体等にして使用される場合には、最内層12はシーラント層を含むことが好ましい。シーラント層は積層体1にヒートシール性を付与する。この場合、例えば積層体1を、最内層12であるシートラント層を内側にして重ね合わせ、周縁部等をヒートシールすることによって容易に袋状に加工することができる。
【0063】
シーラント層としては、熱可塑性樹脂のうちポリオレフィン系樹脂が一般的に使用され、具体的には、低密度ポリエチレン樹脂(LDPE)、中密度ポリエチレン樹脂(MDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン樹脂(LLDPE)、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン-αオレフィン共重合体、エチレン-メタクリル酸樹脂共重合体などのエチレン系樹脂や、ポリエチレンとポリブテンのブレンド樹脂や、ホモポリプロピレン樹脂(PP)、プロピレン-エチレンランダム共重合体、プロピレン-エチレンブロック共重合体、プロピレン-αオレフィン共重合体などのポリプロピレン系樹脂等を使用することができる。
【0064】
図1及び図2示す積層体1においては、最内層から酸素と水蒸気が積層体中に供給され、酸素吸収物質含有層11aとアルカリ層11b中に拡散する。この結果、酸素を吸収することが可能となる。
【0065】
<包装体>
本実施形態に係る包装体は、上記の積層体を含む。具体的には、包装体の少なくとも一部が、上記の積層体で形成される。なお、本実施形態に係る包装体には、印刷層、バリア層、表面保護層などの機能層を更に設けてもよい。
【0066】
本実施形態の包装体の応用例は、たとえば袋、MA包材、蓋材(トップ材)、シート、チャック付き袋、カバーフィルムを含む。また、袋状体の包装体は、2枚の上述した積層体を、最内層12としてのシーラント層が内側となるよう配置した状態で周縁部を加熱して貼り合わせることによって形成してもよい。さらに、貼り合わせを行う周縁部に第3のフィルムを介在させて、いわゆる「マチ」付きの袋を形成してもよい。
【0067】
袋状体の包装体は、矩形、円形、三角形を含む任意の形状を有してもよい。またチャック付き袋として、機械加工によって、袋状体の包装体の開口部に開閉自在の嵌合部を設けたものでもよい。
【0068】
<包装物品>
本実施形態に係る包装物品は、上記の包装体と、これに収容された内容物とを含む。上記の包装体に収容される内容物の例は、特に限定しないが、例えば食品、飲料、化粧品、医薬品、産業資材、医療器具、電子機器、文化財を含む。
【実施例
【0069】
以下、本発明の具体例を以下の実施例によって具体的に述べるが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0070】
<実施例1>
以下の方法により、基材層と酸素吸収物質含有層とアルカリ層とシーラント層とを備えた積層体を製造した。
【0071】
まず、最外層として、酸素と水蒸気バリア性を有したバリアフィルム(品名 GL-AE 12μm厚み 凸版印刷製)とPETフィルム(12μm厚み)を接着剤で張り合わせたフィルムを使用した。
【0072】
次いで、ポリビニルアセタール系の樹脂(水酸基 20wt%)とイソシアネート化合物(3官能、NCO 12wt%)を質量比で82/18とした樹脂組成物に酸素吸収物質である没食子酸を添加して作製した塗液を、フィルム上にワイヤーバーで塗工し、厚さ10μmの酸素吸収物質含有層を形成した。酸素吸収物質含有層の全質量に対する没食子酸の含有率は30質量%とした。
【0073】
ポリビニルアセタール系樹脂(水酸基 20wt%)と水溶性の親水性化合物としてポリエチレングリコール(分子量6000)を質量比で70/30とし、且つ樹脂とポリエチレングリコールを併せて100重量部としたときに、イソシアネート系化合物(3官能、NCO 12wt%)を22重量部とした樹脂組成物にアルカリ物質である炭酸ナトリウムを添加して作製した塗液を、上記酸素吸収物質含有層上にワイヤーバーで塗工し、厚さ3μmのアルカリ層を形成した。アルカリ層の全質量に対する炭酸ナトリウムの含有率は30質量%とした。
【0074】
次いで、上記アルカリ層上に、ワイヤーバーで厚さ3μmのウレタン系接着剤を塗工し、これに最内層としてポリエチレンフィルム(膜厚30μm)を貼り合せることにより、酸素吸収積層体を作製した。
【0075】
<実施例2>
実施例1における水溶性の親水性化合物をポリプロピレングリコール(分子量700)に変更した樹脂組成物を使用した酸素吸収積層体を作製した。
<実施例3>
実施例2における水溶性の親水性化合物をトリオール型のポリプロピレングリコール(分子量1500)とした以外は実施例2と同様の酸素吸収積層体を作製した。
【0076】
<比較例1>
実施例1におけるアルカリ層においてポリエチレングリコールを使用せずに、ポリビニルアセタール系樹100重量部に対して、イソシアネート系化合物(3官能、NCO 12wt%)を11重量部とした樹脂組成物にアルカリ物質である炭酸ナトリウムを添加して作製した塗液を、酸素吸収物質含有層上にワイヤーバーで塗工し、厚さ6μmのアルカリ層を形成した酸素吸収積層体を作製した。アルカリ層の全質量に対する炭酸ナトリウムの含有率は30質量%とした。
【0077】
<評価方法>
(酸素吸収性能)
上記で作製した積層体を用い、25℃20%Rhの環境下で、全体寸法が横15cm×縦15cmの包装袋を作製した。包装袋には1.5gのイオン交換水を湿らせたウェスを内包させている。次に袋内に400ccの空気を注入した。40℃20%Rhの恒温槽で1週間保管後、酸素濃度を測定し、初期酸素濃度との差から、それぞれの酸素吸収量を確認した。
(フィルムの透明性)
上記酸素吸収性能の評価において、40℃20%Rhの恒温槽で1週間保管を行った包装袋を使用して透明性を評価した。透明性は内容物の視認性として内包したウェスの見え方を目視で観察した後に、包装袋を5cm×5cmのフィルム片に切り出してヘイズを測定した。
【0078】
【表1】
【0079】
表1に示すように、実施例1~3においては、十分な酸素吸収性能を示しつつ、低いヘイズを示しており、かつ十分な視認性が得られている。
【0080】
これらの結果から、樹脂組成物に水溶性を示す親水性化合物を使用した酸素吸収層によって酸素吸収後の積層体の透明性が向上した。
【0081】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で種々に変形することが可能である。また、各実施形態は適宜組み合わせて実施してもよく、その場合組み合わせた効果が得られる。更に、上記実施形態には種々の発明が含まれており、開示される複数の構成要件から選択された組み合わせにより種々の発明が抽出され得る。例えば、実施形態に示される全構成要件からいくつかの構成要件が削除されても、課題が解決でき、効果が得られる場合には、この構成要件が削除された構成が発明として抽出され得る。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明は、食品、薬剤、医薬品、化粧品、電子部品等の包装材として利用できる。
【符号の説明】
【0083】
1 積層体
10 最外層
11 酸素吸収層
11a 酸素吸収物質含有層
11b アルカリ層
12 最内層
図1
図2