(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-15
(45)【発行日】2024-01-23
(54)【発明の名称】異常検出装置及びモーター駆動装置
(51)【国際特許分類】
H02P 8/36 20060101AFI20240116BHJP
【FI】
H02P8/36
(21)【出願番号】P 2019203266
(22)【出願日】2019-11-08
【審査請求日】2022-10-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】弁理士法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉田 一充
(72)【発明者】
【氏名】橘 優太
(72)【発明者】
【氏名】吉川 博之
(72)【発明者】
【氏名】宮島 聡司
(72)【発明者】
【氏名】張 光栄
【審査官】安池 一貴
(56)【参考文献】
【文献】実開昭55-053983(JP,U)
【文献】特開2000-339025(JP,A)
【文献】特開平03-230795(JP,A)
【文献】特開平06-113593(JP,A)
【文献】特開2011-158335(JP,A)
【文献】特開平02-303398(JP,A)
【文献】特開平02-026297(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 8/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モーターコイルを有するステッピングモーターを駆動するモーター駆動装置の異常検出装置であって、
前記モーターコイルを通る電流の前記モーター駆動装置における電流経路となる配線部と、前記モーターコイルとの接続部における電圧を計測する計測部と、
前記接続部で計測された電圧に基づいて、前記電流経路の開放状態の有無を判定する判定部と、
を備え
、
前記配線部は、
前記モーターコイルの両端に係る2か所の前記接続部のうち一方の接続部が一端をなす第1配線と、
前記第1配線の通電可否を切り替える第1切替素子と、
当該一方とは異なる接続部が一端をなす第2配線と、
前記第2配線の通電可否を切り替える第2切替素子と、
を有し、
当該異常検出装置は、
接地された第1抵抗素子と、
前記第1抵抗素子の前記接地された側とは反対側の計測端及び前記第1配線の間に位置する第2抵抗素子と、
前記計測端及び前記第2配線との間に位置する第3抵抗素子と、
を有する検出部を備え、
前記計測部は、前記計測端の電圧を計測し、
前記判定部は、前記2か所の前記接続部の所定の重み付け平均に基づいて供給電圧を測定することで前記開放状態の有無を判定する
ことを特徴とする異常検出装置。
【請求項2】
前記判定部は、前記接続部における前記電圧と所定の基準値との比較により、開放状態の有無を判定することを特徴とする請求項1記載の異常検出装置。
【請求項3】
前記配線部は、複数の前記モーターコイルの各々に係る前記電流経路をなし、
前記判定部は、前記複数のモーターコイルのうち第1のモーターコイルの前記接続部における電圧と、前記複数のモーターコイルのうち第2のモーターコイルの前記接続部における電圧との比に基づいて開放状態の有無を判定することを特徴とする請求項1記載の異常検出装置。
【請求項4】
前記配線部は、複数の前記モーターコイルの各々に係る前記電流経路をなし、
前記判定部は、前記複数のモーターコイルのうち第1のモーターコイルの前記接続部における電圧値と、前記複数のモーターコイルのうち第2のモーターコイルの前記接続部における電圧値とが、いずれも所定の下限電圧未満の場合に、前記第1のモーターコイル及び前記第2のモーターコイルに係る前記電流経路の両方が開放状態であると判定することを特徴とする請求項1又は3記載の異常検出装置。
【請求項5】
前記ステッピングモーターはユニポーラー型であ
ることを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の異常検出装置。
【請求項6】
請求項1~
5のいずれか一項に記載の異常検出装置と、
前記モーターコイルを通る電流の電流経路の一部となる配線部と、
前記判定部により開放状態であると判定された場合に、前記配線部の通電を禁止する制御部と、
を備えることを特徴とするモーター駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、異常検出装置及びモーター駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ステッピングモーターを駆動する駆動装置がある。適切な位置関係で配置された複数のモーターコイルのそれぞれに対して電流を流して磁場を生じさせ、永久磁石の磁場との間で働く力に応じてローターを回転させることで、所定量の運動量に変換される。
【0003】
このとき、一方のモーターコイルを含む電流経路上に開放箇所があると、当該一方のモーターコイルに適切に電流が流れず、他方のモーターコイルに係る経路上の電流オンオフ時に電磁誘導などに応じて過大な負荷がかかり、このモーターコイルや駆動装置の各素子を劣化させたり破損させたりする場合があるという問題がある。特許文献1には、意図的に両方のモーターコイルに同時に電流を流して短絡させることで、開放箇所があるか否かを判断する技術について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記技術では、意図的に短絡を生じさせる必要があり、常時監視が困難であるという課題がある。
【0006】
この発明の目的は、容易に電流経路の開放を継続的に監視することのできる異常検出装置及びモーター駆動装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、請求項1記載の発明は、
モーターコイルを有するステッピングモーターを駆動するモーター駆動装置の異常検出装置であって、
前記モーターコイルを通る電流の前記モーター駆動装置における電流経路となる配線部と、前記モーターコイルとの接続部における電圧を計測する計測部と、
前記接続部で計測された電圧に基づいて、前記電流経路の開放状態の有無を判定する判定部と、
を備え、
前記配線部は、
前記モーターコイルの両端に係る2か所の前記接続部のうち一方の接続部が一端をなす第1配線と、
前記第1配線の通電可否を切り替える第1切替素子と、
当該一方とは異なる接続部が一端をなす第2配線と、
前記第2配線の通電可否を切り替える第2切替素子と、
を有し、
当該異常検出装置は、
接地された第1抵抗素子と、
前記第1抵抗素子の前記接地された側とは反対側の計測端及び前記第1配線の間に位置する第2抵抗素子と、
前記計測端及び前記第2配線との間に位置する第3抵抗素子と、
を有する検出部を備え、
前記計測部は、前記計測端の電圧を計測し、
前記判定部は、前記2か所の前記接続部の所定の重み付け平均に基づいて供給電圧を測定することで前記開放状態の有無を判定する
ことを特徴とする。
【0008】
また、請求項2記載の発明は、請求項1記載の異常検出装置において、
前記判定部は、前記接続部における前記電圧と所定の基準値との比較により、開放状態の有無を判定することを特徴とする。
【0009】
また、請求項3記載の発明は、請求項1記載の異常検出装置において、
前記配線部は、複数の前記モーターコイルの各々に係る前記電流経路をなし、
前記判定部は、前記複数のモーターコイルのうち第1のモーターコイルの前記接続部における電圧と、前記複数のモーターコイルのうち第2のモーターコイルの前記接続部における電圧との比に基づいて開放状態の有無を判定することを特徴とする。
【0010】
また、請求項4記載の発明は、請求項1又は3記載の異常検出装置において、
前記配線部は、複数の前記モーターコイルの各々に係る前記電流経路をなし、
前記判定部は、前記複数のモーターコイルのうち第1のモーターコイルの前記接続部における電圧値と、前記複数のモーターコイルのうち第2のモーターコイルの前記接続部における電圧値とが、いずれも所定の下限電圧未満の場合に、前記第1のモーターコイル及び前記第2のモーターコイルに係る前記電流経路の両方が開放状態であると判定することを特徴とする。
【0011】
また、請求項5記載の発明は、請求項1~4のいずれか一項に記載の異常検出装置において、
前記ステッピングモーターはユニポーラー型である
ことを特徴とする。
【0014】
また、請求項6記載の発明は、
請求項1~5のいずれか一項に記載の異常検出装置と、
前記モーターコイルを通る電流の電流経路の一部となる配線部と、
前記判定部により開放状態であると判定された場合に、前記配線部の通電を禁止する制御部と、
を備えることを特徴とするモーター駆動装置である。
【発明の効果】
【0015】
本発明に従うと、容易にモーター駆動装置における電流経路の開放を継続的に監視することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本実施形態の駆動回路の構成を説明する図である。
【
図2】切替素子の状態に応じた電流の流れ及び検出部について説明する図である。
【
図3】PWM動作時における電流及び電圧の変化状況とを模式的に示す図である。
【
図4】駆動回路の電流経路が途切れている場合の例を示す。
【
図6】開放異常判定部による開放判定処理の制御手順を示すフローチャートである。
【
図7】開放判定処理の変形例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1は、本実施形態のモーター駆動装置1の構成を説明する図である。
【0018】
本実施形態の異常検出装置を含むモーター駆動装置1は、ステッピングモーターMを駆動する。ステッピングモーターMは、ここでは、二相ユニポーラー型であり、ローターに対して90度異なる向きに位置する2つ(複数)のコイルMA(第1のモーターコイル)、MB(第2のモーターコイル)を有する。コイルMAにおけるA相及びAB相の中点と、コイルMBにおけるB相及びBB相の中点とは、いずれもヒューズFを介して供給電圧Vpに接続されている。モーター駆動装置1は、コイルMA、MBに対する駆動電圧の印加可否を各々定める。
【0019】
モーター駆動装置1は、一端がコイルMAのA相の端に接続されて(A相との接続部をなして)他端が接地され、当該A相への電流経路となる第1の第1配線401と、第1の第1配線401を介した駆動電圧供給(印加)有無を切り替える切替素子S1と、一端がAB相の端に接続されて(接続部をなして)他端が接地され、当該AB相への電流経路となる第1の第2配線402と、第1の第2配線402を介した駆動電圧供給有無を切り替える切替素子S2と、一端がコイルMBのB相の端に接続されて(接続部をなして)他端が接地され、当該B相への電流経路となる第2の第1配線403と、第2の第1配線403を介した駆動電圧供給有無を切り替える切替素子S3と、一端がBB相の端に接続されて(接続部をなして)他端が接地され、当該BB相への駆動電圧供給有無を切り替える切替素子S4と、第1の第1配線401の切替素子S1及び接地面の間、並びに第1の第2配線402の切替素子S2及び接地面の間に共通に位置するシャント抵抗RS1と、第2の第1配線403の切替素子S3及び接地面の間、並びに第2の第2配線404及び接地面の間に共通に位置するシャント抵抗RS2と、増幅部A1、A2と、制御基板10と、検出部20と、計測部30などを備える。切替素子S1、S3が本実施形態の異常検出装置において第1切替素子を構成し、切替素子S2、S4が第2切替素子を構成する。また、第1の第1配線401、第1の第2配線402、第2の第1配線403、第2の第2配線404、切替素子S1~S4及びシャント抵抗RS1、RS2が、本実施形態の異常検出装置において複数のコイルMA、MBの電流経路をなす配線部を構成する。
【0020】
切替素子S1~S4は、例えば、それぞれFET(パワーMOSFET)であり、切替部11からの駆動信号(ゲート端子への入力)に応じてそれぞれ通電可否が切り替わる。供給電圧Vpと接地面との間で各相部分を介して電流が流れることでコイルMA、MBに磁場が生じる。通常動作では、切替素子S1、S2が同時にオン(閉止、通電状態)とはならず、また、切替素子S3、S4が同時にオンとはならない。
【0021】
切替素子S1、S2とシャント抵抗RS1との間の電圧は、増幅部A1により増幅されたのち、制御基板10に入力される。切替素子S3、S4とシャント抵抗RS2との間の電圧は、増幅部A2により増幅された後、制御基板10に入力される。
【0022】
検出部20は、コイルMAのA相及びAB相のそれぞれにおける供給電圧Vpとの接続側とは反対側の電圧、すなわち、モーター駆動装置1のコイルMAとの2つの接続部における電圧の所定の重み付け平均を検出し、第1監視電圧Vs1として出力する第1検出部201と、コイルMBのB相及びBB相のそれぞれにおける供給電圧Vpとの接続側とは反対側の電圧、すなわち、モーター駆動装置1のコイルMBとの2つの接続部における電圧の所定の重み付け平均を検出し、第2監視電圧Vs2として出力する第2検出部202と、を有する。検出部20の具体的な構成については後述する。
【0023】
計測部30は、検出部20から出力される2つの上記接続部の監視電圧Vs1、Vs2を計測して、計測結果に応じた信号を制御基板10に出力する。計測部30は、A/D(アナログ/デジタル)変換部を有し、適宜な時間間隔で入力された監視電圧Vs1、Vs2の電圧値をデジタルデータに変換して取得する。
【0024】
制御基板10は、切替素子S1~S4の駆動信号を出力する。制御基板10は、切替部11と、切替設定部12と、タイミング設定部13と、比較器Cp1、Cp2などを有する。
【0025】
切替設定部12は、切替部11による切替素子S1~S4の切り替えタイミングに係る設定を行い、また、設定に応じた信号を出力する。切替設定部12には、動作モード信号MOD、回転方向指定信号DIR及び切替部11が電圧異常を検出するための判定電圧の設定に係る基準信号REFが入力され、ステッピングモーターMの励磁方式の設定(ここでは、2相型)や回転方向などの情報が取得される。切替設定部12は、これらの情報に応じて各コイルMA、MBの各相への電圧印加順(電流を流す順)を定め、回転速度に応じたタイミングごとに制御信号を切替部11に出力する。
【0026】
また、切替設定部12は、ステッピングモーターMの回転動作に必要な磁場(励磁)の大きさに応じた所定の出力電流を得るために、供給電圧の印加有無を細かく切り替えるタイミングに係る設定として、図示略のD/A(デジタル/アナログ)変換器によりアナログ信号に変化された基準電圧を比較器Cp1、Cp2に出力する。比較器Cp1、Cp2では、それぞれコイルMA、MBとつながっているシャント抵抗RS1、RS2の接地側とは反対側の電圧と上記基準電圧とが比較されて、比較結果が切替部11にそれぞれ出力される。
【0027】
タイミング設定部13は、所定の時間間隔のタイミング信号を生成し、切替部11と制御基板10外の計測部30とにタイミング信号を出力する。このタイミング信号に基づいて、切替部11の動作タイミング(ここでは、切替素子をオンするタイミング)が設定される。なお、タイミング信号の周波数は、モーター駆動装置1の動作状況に応じて切り替えられてもよい。例えば、ステッピングモーターMの回転動作が停止して所定時間経過した場合などには、通常よりもタイミング信号の出力周波数が低下してもよい。
【0028】
切替部11は、例えば、CPU111(制御部、ハードウェアプロセッサー)を備え、切替素子S1~S4への駆動信号を設定して出力し、コイルMA、MB(第1配線401、403及び第2配線402、404)への通電の可否を切り替える。切替部11には、上述の計測部30による計測結果、比較器Cp1、Cp2による比較結果、タイミング設定部13によるタイミング信号に加えて、外部から切替許可信号ENAが入力され、これらに基づいて通電の可否が判定される。切替許可信号ENAは、回転動作の待機中や回転動作を中止する必要がある状況(例えば、ステッピングモーターMやその動作対象などを収納する筐体のメンテナンス用扉が動作中に異常開放された場合など)などにおいて、オフ(切替素子S1~S4のオン禁止、励磁禁止)に定められる信号である。切替許可信号ENAがオフの場合には、その他の信号にかかわらず切替素子S1~S4をオンするのが禁止されて、オフ状態が保たれる。切替許可信号ENAがオンの場合には、切替素子S1~S4のオンが許可(励磁許可)される。
【0029】
上記のモーター駆動装置1の各部の動作は、図示略の制御系電源から入力された動作電圧でなされる。この動作電圧は、例えば、3.3Vなどであり、供給電圧Vp、例えば、24Vや36Vなどよりも低い。
【0030】
次に、励磁動作及び検出部20について説明する。
ユニポーラー型のステッピングモーターMでは、A相、B相、AB相、BB相の順に電圧を印加して電流を流すことで、ローターを回転させていくことができる。また、コイルMAとコイルMBとには同時に電圧が印加されてよく、例えば、ここではA相+B相、B相+AB相、AB相+BB相、BB相+A相の順で電圧が印加されて(通電のパターンを切り替えて)ローターを回転させる。各相への電圧印加有無は、上述のように切替素子S1~S4により行われる。
【0031】
図2は、切替素子の状態に応じた電流の流れ及び検出部20について説明する図である。ここでは、コイルMAについて説明する。選択された切替素子S1、S2のうち1つをオンさせる動作を行うと(例えば、切替素子S1)、オンされた切替素子及びこれに対応する相のコイル(A相)を経由して供給電圧Vp(他方のコイルMBへの電力供給路と分岐する点n4)と接地面の間に電流が流れる(経路R1)。オン状態が継続すると、経路R1の電流が漸増していく。この間、A相の供給電圧Vpとの接続側(点n4)とは反対側の点n1の電圧は、ほぼ0Vまで低下する。これに対し、A相と逆結合のAB相は低下分の電圧の上昇が生じて、点n2において電圧が2Vpに上昇する。
【0032】
経路R1の電流が基準値を超えると、切替許可信号ENAがオンのまま切替素子S1がオフに切り替わる。これにより経路R1の電流が遮断され、AB相側で切替素子S2のボディダイオードS2Dを介して接地面と供給電圧Vp(点n4)とをつなぐ経路R2では、経路R1がオンの間に流れていた電流値と同程度の大きさの回生電流が生じる。これにより、AB相側の点n2の電圧は、0V付近(<0)に低下し、反対にA相側の点n1の電圧が2Vpに上昇する。この時の回生電流の大きさ(絶対値)は漸減する(供給電圧Vpから接地面への向きの電流を正とする符号付き電流値としては漸増)。その後、切替素子S1のオフが解除されてオンに戻される。すなわち、経路R1の電流と経路R2の電流とが合流する点n5の電流は、切替素子S1のオンオフに応じて切替素子S1をオフに切り替える基準電流値Ith(
図3参照)程度の大きさ(絶対値)で交互に正負反転する。なお、切替素子S1をオフした期間にボディダイオードS2Dを介して電流を流す代わりに、切替素子S2をオンして(同期整流)電流を流すこととしてもよい。
【0033】
切替素子S2の動作時には、上記切替素子S1の動作時と電圧及び電流が反転する。すなわち、コイルMAに所望の磁場(上記切替素子S1の動作時と逆向き)を生じさせる期間のうち一部でのみ切替素子S2がオンされ、当該切替素子S2及びボディダイオードS1Dに電流が流れて、所望の磁場が得られることになる。コイルMBについても同様に、切替素子S3、切替素子S4を動作させことができる。また、切替素子S1、S2のいずれもオフの待機時には、経路R1、R2ともに電流が流れず、点n1、n2はいずれも供給電圧Vpとなる。
【0034】
このように、コイルMA、MBに対する切替素子S1~S4は、通常の通電のパターンに係る切り替え動作に加えて短い時間間隔で断続的にオンされるPWM動作(Pulse Width Modulation)を伴い、点n1及び点n2の電圧、すなわち、A相及びAB相の接続部の電圧、並びにB相及びBB相の接続部の電圧は、それぞれ交互に相補的に変化する。コイルMA又はMBの両端に係る2か所の接続部である点n1、n2の電圧の平均値は、常にほぼ供給電圧と等しくなるので(実際には、若干の差があってよい)、この平均電圧を計測することで、動作状況によらず供給電圧を計測することができる。
【0035】
検出部20は、点n1(第1の第1配線401)に一端が接続された第2抵抗素子R22と、点n2(第1の第2配線402)に一端が接続された第3抵抗素子R23とを有し、これらのそれぞれ他端同士が接続されて、当該接続点(後述の計測端)の電圧が監視電圧として計測部30に出力されている。第2抵抗素子R22の抵抗値と第3抵抗素子R23の抵抗値が等しく定められることで、上記のように監視電圧は点n1、n2の電圧の平均値となる。実際にはこれらの抵抗値の間に多少のずれがあり得るので、抵抗値に応じた(所定の)重み付きの平均値が出力される。
【0036】
ここで、供給電圧Vpは、制御基板10の動作電圧よりもはるかに高いので、一端(計測端)が点n3(第2抵抗素子R22の他端及び第3抵抗素子R23の他端)に接続され、他端が接地された第1抵抗素子R21を更に設けることにより、第2抵抗素子R22及び第3抵抗素子R23の合成抵抗と、第1抵抗素子R21の抵抗値との比(分圧比)に応じた分圧を計測部30に出力する。合成抵抗を第1抵抗素子R21の抵抗値よりも十分に大きく定めることで、監視電圧は、供給電圧が所定の係数a倍(a<1)されて、制御基板10の動作電圧以下に低減される。また、第2抵抗素子R22及び第3抵抗素子R23の抵抗値がシャント抵抗RS1の抵抗値よりも十分に大きいので、点n1、n2と点n3との間を流れる電流は微小となる。
【0037】
また、検出部20は、キャパシターC24と、ダイオードD25とを有する。キャパシターC24は、一端が接地され、他端が計測端(点n3)に接続されて、第1抵抗素子R21と並列に位置する。これにより、キャパシターC24は、点n3における監視電圧の変動のうち高周波数成分を吸収する。ダイオードD25は、カソードが電圧Vcの定電圧源に接続され、アノードが計測端(点n3)に接続されている。電圧Vcは、例えば、計測部30の計測に係る所定の基準値であり、これは、モーター駆動装置1(制御基板10)の動作電圧(3.3Vなど)と同一か若干低い値であってよい。基準値は、例えば、計測部30の計測上限電圧や、入力電圧をA/D変換するADC(アナログデジタル変換器)の基準電圧などである。これにより、点n3に電圧Vcよりも高い電圧がかかった場合にこの電圧に応じた電流が定電圧源に吸収されることで、計測部30に過剰な電圧がかかってこれを破損させたり誤動作などのトラブルを生じさせたりするのを防ぐ。
【0038】
図3は、PWM動作時における電流及び電圧の変化状況を模式的に示す図である。
図3(a)に示すように切替素子S2がオフされ、切替素子S1のオンオフ(開閉)が短い周期で切り替えられている(PWM制御)期間では、
図3(b)に示すように、点n1、n2の電圧は、交互かつ相反して0V程度と2Vpの間で変化する。これに伴って、
図3(c)に示すように、点n3の電圧は、供給電圧Vpに対応する値aVp(係数aは上述の係数)程度の値が保たれる。なお、実際には、点n1と点n2の電圧の若干の差異、第2抵抗素子R22と第3抵抗素子R23の抵抗値のずれ、及び切替素子S1、S2のオフ動作に伴う逆起電力の影響などで、多少の変動が生じる。このときの点n5の電流は、切替素子S1のオンオフが交互に切り替えられる間に、それぞれ電流値±Ithに漸近するように流れる(
図3(d))。ここでは、タイミング設定部13から出力されるタイミング信号の取得に同期してオフ状態の切替素子がオンされる。
【0039】
ここで、ステッピングモーターMとモーター駆動装置1との接続部分である、コイルMA、MBの両端と点n1、n2との間は、他の部分と比較して物理的に配線が切断されやすい。例えば、コイルMA、MBの各相A、AB、B、BBに配線を接続するピンが確実に固定されていないなどにより、ピンが浮いたり外れたりする場合がある。この場合、コイルMA、MBとモーター駆動装置1との間で電流が流れない部分が生じる。
【0040】
図4には、モーター駆動装置1の電流経路が途切れている場合の例を示す。
ここでは、
図2に示した経路R1において、コイルMAのA相と点n1との間で間隙Opが生じて回路が開放されていることで、経路R1での電流が流れない。これにより、点n1の電圧は、0V程度からほぼ変動しないことになる。点n2では、切替素子S2のオンオフ動作時には、通常と同じように約0Vと約48Vとの間で変動する。したがって、点n3の電圧は、約0Vと、約0V及び約48Vの平均である約24Vを分圧したものとの間で変動する。また、点n3の電圧をPWM動作に比して長い時間で平均すると、約12Vを分圧した値で安定する。なお、この場合、切替素子S2がオフとなると、逆結合に応じた電流が流れないので、切替素子S1には、FETの耐電圧を超えるような更に高い電圧、例えば、100V以上が瞬間的に印加される。この動作が繰り返されるとアヴァランシェ動作によって熱破壊などが生じ得る。
【0041】
また、切替素子S1のオンオフ動作時には、オンの間、供給電圧Vp、点n2、抵抗素子R23、R22、切替素子S1、シャント抵抗RS1の経路では、抵抗素子R22、R23の抵抗値がAB相のコイル部分のインダクタンスよりも十分に大きく、これらの抵抗素子R22、R23にほぼすべての電圧が印加され、電流がほとんど流れないので、点n2の電圧が24V程度、点n1の電圧が0V程度となる。また、切替素子S1がオフの間は、供給電圧Vp、点n2、抵抗素子R23、R21の経路でもやはりほぼ電流が流れないので、点n2、点n1の電圧がほぼ変化しない。すなわち、点n3の電圧は、これら24V及び0Vの電圧の平均である12Vを分圧したものとなる。
【0042】
AB相の側で間隙が生じている場合には、A相の側に間隙Opがある場合と点n1、n2の電圧変化が反対になり、点n3の電圧は、やはり12Vを分圧した値となる。したがって、一方の経路が開放されている場合には、監視電圧は、通常の半分程度となる。また、いずれの経路も開放されている場合には、供給電圧Vpと駆動回路とが完全に分離されるので、点n1、n2とも電圧が変化せずに0Vとのままとなる。すなわち、開放状態が生じている場合には、点n3の平均電圧が正常に動作している場合よりも低くなる。
【0043】
図5は、切替部11の処理内容と手順を示す図である。
切替部11は、励磁可否判定部101と、励磁切替駆動部102と、開放異常判定部103(判定部)などを有する。これらの各部の処理は、CPU111が全て実行してよいが、別個のプロセッサーが実行してもよい。ここでいうプロセッサーは、ソフトウェア制御を行うCPUに限らず、専用の論理回路、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)などを含んでよい。
【0044】
励磁可否判定部101は、切替許可信号ENA及び開放異常判定部103から得られた判定結果に基づいて、切替素子S1~S4をオンさせてよい(励磁してよい)か否かを判定する。切替許可信号ENAがオフの場合には、切替素子S1~S4のオンを禁止する信号が励磁切替駆動部102に出力される。また、開放異常判定部103が上述のような電流経路の開放状態があると判定した場合にも、切替素子S1~S4のオンを禁止する信号が励磁切替駆動部102に出力される。切替許可信号ENAがオンかつ異常な開放状態ではない場合には、切替素子S1~S4のオンを許可する信号が励磁切替駆動部102に出力される。励磁可否判定部101の処理は、CPU111などによりソフトウェア的に行われるのではなく、専用の論理回路などにより行われてもよい。
【0045】
励磁切替駆動部102では、励磁可否判定部101から許可信号が入力されている場合に、切替設定部12の切替タイミング信号と、比較器Cp1、Cp2の入力信号に基づいて、切替素子S1~S4のいずれをオンさせるかを判定して、切替素子S1~S4にオン信号又はオフ信号を出力する。切替タイミング信号は、ステッピングモーターMのローターを回転させるために、回転速度に応じて所定の時間間隔で順次オンさせる切替素子S1~S4を切り替えるための信号である。
【0046】
比較器Cp1、Cp2の信号は、それぞれ、コイルMA、MBに流れる電流が基準電流値Ithを超えているか否かを判別する。上述のように、切替素子S1~S4のうち上記励磁可否判定部101及び切替設定部12の信号に基づいてオンが許可されているものについて、電流が基準電流値Ithを超えた場合(点n1、n2における電圧が基準値を超えた場合)に一時的にオフに切り替え、その後、タイミング設定部13のタイミング信号に応じてオンに戻されるようにPWM制御が行われる。比較器Cp1、Cp2の信号は独立に処理されて、切替素子S1、S2のオンオフ動作と、切替素子S3、S4のオンオフ動作とが各々別個になされる。
【0047】
開放異常判定部103は、コイルMAとモーター駆動装置1との接続及びコイルMBとモーター駆動装置1との接続に開放部分があるか否か(開放状態の有無)を判定する。開放異常判定部103は、上述のように、第1検出部201の点n3から監視電圧Vs1を取得し、また、第2検出部202の点n3から監視電圧Vs2を取得して、それぞれ正常電圧からの逸脱を検出する。検出した結果は、励磁可否判定部101に出力される。また、検出結果は、図示略の異常判別部又はモーター駆動装置1の外部に異常検出信号として出力されてもよい。なお、上述のように監視電圧Vs1及び監視電圧Vs2の両方が低下した場合には、電流経路の開放状態だけでなく、供給電圧がVpから異常低下した可能性もあるので、例えば、他の異常検出信号と統合して異常判別部が正確な原因の判別を行ってもよい。
【0048】
開放異常の検出では、例えば、供給電圧Vp及び抵抗素子R21~R23の抵抗値に基づいて正常時に得られるはずの監視電圧の大きさの所定数倍k(0.5<k<1、例えば、k~0.7)を基準電圧(所定の基準値)として、当該基準電圧と各監視電圧Vs1、Vs2との大小関係を比較する。監視電圧Vs1、Vs2がいずれも基準電圧以上の場合には、開放異常がないと判断され、監視電圧Vs1、Vs2のうち少なくともいずれかが基準電圧未満の場合には、開放異常があると判断される。監視電圧Vs1、Vs2のうちいずれが基準電圧未満であるかに応じて開放異常が生じているコイルMA、MBが特定される。基準電圧のデータは、予め切替部11内の記憶部(フラッシュメモリやROMなど)に保持されていてもよいし、外部から取得可能であってもよい。また、記憶部のデータは、製造後の工場検査などにおける最初の開放検査時などの結果に基づいて(例えば、下記変形例のように正常値の2/3の値など)設定されてもよい。
計測部30と開放異常判定部103が本実施形態の異常検出装置を構成する。
【0049】
図6は、開放異常判定部103による開放判定処理の制御手順を示すフローチャートである。この開放判定処理は、制御基板10の動作中継続的に実行される。
【0050】
開放判定処理が開始されると、開放異常判定部103(CPU111などの制御部)は、計測部30から監視電圧Vs1、Vs2を取得する(ステップS101)。開放異常判定部103は、上述のように監視電圧Vs1、Vs2をそれぞれPWM動作の周期に比して長い時間で平均してよい。開放異常判定部103は、監視電圧Vs1が判定電圧Vj以上であるか否かを判別する(ステップS102)。判定電圧Vj以上ではないと判別された場合には(ステップS102で“NO”)、開放異常判定部103は、開放異常ありと判定して判定結果を出力する(ステップS111)。それから、開放異常判定部103の処理は、ステップS101に戻る。
【0051】
監視電圧Vs1が判定電圧Vj以上であると判別された場合には(ステップS102で“YES”)、開放異常判定部103は、監視電圧Vs2が判定電圧Vj以上であるか否かを判別する(ステップS103)。判定電圧Vj以上ではないと判別された場合には(ステップS103で“NO”)、開放異常判定部103の処理は、ステップS101に移行する。
【0052】
監視電圧Vs2が判定電圧Vj以上であると判別された場合には(ステップS103で“YES”)、開放異常判定部103は、開放異常なしと判定して判定結果を出力する(ステップS104)。それから、開放異常判定部103の処理は、ステップS101に戻る。
なお、第1配線401と第2配線402に同時に開放異常が発生して監視電圧Vs1、Vs2がともに低下することはまれである。そこで、監視電圧Vs1、Vs2を個々に判定電圧Vjと比較するのではなく、監視電圧Vs1と監視電圧Vs2の差分を算出し、この差分値を所定の判定電圧と比較して、大小関係を考慮していずれに開放異常が発生したかを判定してもよい。
【0053】
図7は、開放判定処理の変形例を示すフローチャートである。
この変形例の開放判定処理では、
図6に示した実施形態の開放判定処理に対してステップS121~S123の処理が追加され、また、ステップS102、S103の処理がステップS102a、S103aの処理に置き換えられている。その他の処理は同一であり、同一の処理内容には同一の符号を付して詳しい説明を省略する。
【0054】
ステップS101の処理ののち、開放異常判定部103は、第1判定電圧Vj1として第2監視電圧Vs2に所定の係数、例えばここでは0.67(2/3でもよい)を乗じた値を設定する(ステップS121)。開放異常判定部103は、第2判定電圧Vj2として、第1監視電圧Vs1に上記所定の係数を乗じた値を設定する(ステップS122)。
【0055】
開放異常判定部103は、第1監視電圧Vs1が第1判定電圧Vj1以上であるか否かを判別する(ステップS102a)。第1判定電圧Vj1以上ではない(未満である)と判別された場合には(ステップS102aで“NO”)、開放異常判定部103の処理は、ステップS111に移行する。
【0056】
第1監視電圧Vs1が第1判定電圧Vj1以上であると判別された場合には(ステップS102aで“YES”)、開放異常判定部103は、第2監視電圧Vs2が第2判定電圧Vj2以上であるか否かを判別する(ステップS103a)。第2判定電圧Vj2以上ではない(未満である)と判別された場合には(ステップS103aで“NO”)、開放異常判定部103の処理は、ステップS111に移行する。
【0057】
第2監視電圧Vs2が第2判定電圧Vj2以上であると判別された場合には(ステップS103aで“YES”)、開放異常判定部103は、第1監視電圧Vs1及び第2監視電圧Vs2がいずれも下限電圧Vl未満であるか否かを判別する(ステップS123)。下限電圧Vlは、コイルMA、MBのいずれもにおいて第1経路及び第2経路のいずれもが切断されている場合を少なくとも検出可能な値であり、0Vよりわずかに高い程度であってもよい。あるいは、下限電圧Vlは、これに加えてステッピングモーターMの動作が正常に行われない程度に供給電圧が低下している状況を併せて検出可能な値であってもよい。第1監視電圧Vs1及び第2監視電圧Vs2のうち少なくともいずれかが下限電圧Vl未満ではないと判別された場合には(ステップS123で“NO”)、開放異常判定部103の処理は、ステップS104に移行する。いずれも下限電圧Vl未満であると判別された場合には(ステップS123で“YES”)、開放異常判定部103の処理は、ステップS111に移行する。
【0058】
すなわち、この変形例のモーター駆動装置1では、固定値の基準電圧を予め設定しておく必要がなく、2つのコイルMA、MBに係る各計測値の比(点n3の電圧の比)に基づいて、コイルMA、MBのいずれかに開放状態が生じているか否かを判定する。また、この場合には、両方同時に開放状態であることが検出できないこともあり得るので、それぞれの点n3の計測値がいずれも所定の下限電圧Vl未満の場合には、両方が開放状態であると判定する。
【0059】
以上のように、コイルMA、MBを有するステッピングモーターMを駆動するモーター駆動装置1の本実施形態の異常検出装置は、コイルMA、MBを通る電流のモーター駆動装置1における電流経路となる配線部40と、コイルMA、MBとの接続部における電圧(接続部の電圧が計測できればよいので、第1配線401、403及び第2配線402、404の厳密に末端から検出部201、202へ配線が延びる必要はなく、点n1、n2のように、末端と切替素子S1~S4との間であればよい)を計測する計測部30と、接続部(点n1、n2)で計測された電圧に基づいて、電流経路の開放状態の有無を判定する開放異常判定部103と、を備える。
電流が流れない開放状態では、コイルMA、MBのインダクタンスによる誘導電流も生じないのでその一端である接続部の電圧も正常な状態と異なる。したがって、この接続部における電圧状態を利用して開放状態を検出することが可能になる。これにより、意図的に過剰な負荷をかけることがないので、不必要に各部を劣化させたり損傷させたりすることがなく、劣化による交換などに伴うコストの増大を抑制することができる。その一方で、通常の動作中にほぼリアルタイムで開放状態の発生を検出することができるので、異常に伴う高電圧や高電流の発生を最小限に抑えることができ、安全性を向上させることができる。よって、この異常検出装置では、容易に電流経路の開放を継続的に監視することができる。
【0060】
また、開放異常判定部103は、接続部(点n1、n2)における電圧と所定の基準電圧との比較により、開放状態の有無を判定する。上記回路では、開放状態ではコイルMA、MBの下流部分に電圧がかからなくなって、計測値が低下するので、基準電圧と比較してこの低下を検出することで、容易に開放異常を検出することができる。
【0061】
また、配線部40は、複数のコイルMA、MBの各々に係る電流経路(第1の第1配線401及び第1の第2配線402、並びに第2の第1配線403及び第2の第2配線404)をなし、開放異常判定部103は、複数のコイルMA、MBのうち第1のモーターコイル(コイルMA)の接続部における電圧と、複数のモーターコイルのうち第2のモーターコイル(コイルMB)の接続部における電圧との比に基づいて開放状態の有無を判定する。一般的に第1配線401、403と第2配線402、404とが同時に開放状態にはなりづらいので、一方を基準として他方を判断することで、別途基準電圧値を定めずに容易に開放状態の検出が可能になる。また、供給電圧Vpが異なる値の駆動回路に共通して利用されても問題が生じないので、製造管理なども容易である。
【0062】
また、開放異常判定部103は、第1のコイルMAの接続部における電圧値と、第2のコイルMBの接続部における電圧値とが、いずれも所定の下限電圧Vl未満の場合に、コイルMAに係る第1の第1配線401及び/又は第1の第2配線402と、コイルMBに係る第2の第1配線403及び/又は第2の第2配線404との両方が開放状態であると判定する。上記のように電圧の比で開放異常を検出する場合、万一両方同時に開放異常が生じた場合には判別できないので、この場合には別途下限電圧Vlに基づいて低電圧の検出を行う必要がある。このような状況では、一方のみ開放状態の場合とは別に、PWM動作が正常に行われないなどの問題が生じ得るので、速やかに検出することで駆動回路の損傷や劣化などを抑制することができる。
【0063】
また、ステッピングモーターMはユニポーラー型であり、開放異常判定部103は、コイルMA(MB)の両端に係る2か所の接続部(点n1、n2)の電圧に基づいて開放状態の有無を判定する。ユニポーラー型では、切替素子S1、S2の動作時にはPWM動作に応じて両端電圧が交互に相補的に上下するので、これらを適切に取得することで、異常開放により電圧が上昇していない場合を容易に判定することができる。
【0064】
特に、開放異常判定部103は、2か所の接続部の所定の重み付け平均(通常では1:1)の電圧値により開放状態の有無を判定する。すなわち、点n1、n2の電圧を単純に平均すれば、正常であれば通常の供給電圧Vp程度の値となり、異常開放がいずれかにあれば電圧がその半分に程度になるので、複雑な処理やPWMに応じた高速処理を行わなくとも容易に異常開放の有無を判定することができる。
【0065】
具体的に、配線部40は、2か所の接続部のうち一方の接続部が一端をなす第1配線401、403と、第1配線401、403の通電可否を切り替える切替素子S1、S3と、当該一方とは異なる接続部が一端をなす第2配線402、404と、第2配線402、404の通電可否を切り替える切替素子S2、S4と、を有する。また、異常検出装置は、接地された第1抵抗素子R21と、第1抵抗素子R21の接地された側とは反対側の計測端(点n3)及び第1配線401、403の間に位置する第2抵抗素子R22と、計測端(点n3)及び第2配線402、404との間に位置する第3抵抗素子R23と、を有する検出部20を備える。計測部30は、上記計測端(点n3)の電圧を計測する。
この構成では、上記重み付けは第2抵抗素子R22と第3抵抗素子R23の抵抗値の比で定まり、定2抵抗素子R22及び第3抵抗素子R23の合成抵抗と第1抵抗素子R21とにより分圧された電圧が計測される。このような容易な構成で簡便に必要な電圧を取得、計測することができる。
【0066】
また、本実施形態のモーター駆動装置1は、上記の異常検出装置に係る構成と、コイルMA、MBを通る電流の電流経路の一部となる配線部40と、開放異常判定部103により開放状態であると判定された場合に、配線部40の通電を禁止するCPU111(励磁可否判定部101など)と、を備える。
このモーター駆動装置1では、上記のように開放異常を容易かつ速やかに判定し、異常な状態での通電を中止させてステッピングモーターMの動作を停止させるので、回路に異常な電圧や電流が流れて駆動回路の各素子を損傷、劣化させたり、ステッピングモーターMに不正な動作をさせたりするのを抑制することができる。また、駆動回路内に検出に係る構成を一体形成させやすいので、コンパクトかつ低コストとすることができる。また特に、モーター駆動装置1内に供給電圧を直接入力させなくても供給電圧に応じた値を計測することができるので、特にユニポーラー型の場合に、供給電圧の監視と併せて効率よく異常検出を行うことができる。
【0067】
なお、本発明は、上記実施の形態に限られるものではなく、様々な変更が可能である。
例えば、上記実施の形態では、開放異常判定部103(CPU111)によりPWM動作の切り替え周期よりも長い平均電圧を求めてよいものとして説明したが、その他の部分、例えば、計測部30が低域通過フィルターなどにより平均電圧を出力するものとしてもよい。また、平均をとらずに各電圧の変化傾向に基づいて判断してもよい。
【0068】
また、上記実施の形態では、コイルMAの電圧とコイルMBの電圧とを比較したが、コイルMAのA相及びAB相の電圧の時間平均値同士を比較するなどでも差分や比率に基づく開放異常の判定が可能である。
【0069】
また、上記実施の形態では、抵抗素子R22、R23の抵抗値を誤差の範囲内で等しく設定したが、抵抗素子R22、R23の抵抗値を多少異ならせることにより、点n3の電圧に対する点n1の側と点n2の側の重み付けを1:1からずらすと、いずれかに開放状態が生じた場合にいずれが開放状態であるかを即座に識別することができる。
【0070】
また、電圧の計測に係る構成は、上記実施の形態で示した3つの抵抗素子R21~R23によるものに限られない。電圧の計測が適切に可能であれば、他の構成を有していてもよい。
【0071】
また、上記実施形態では、ユニポーラー2相型のステッピングモーターMの駆動装置を例に挙げて説明したが、これに限られない。例えば、3相以上のものであってもよい。この場合に2相分の電圧を比較する組み合わせは、任意であってよく、基準となる1相と他の相とをそれぞれ組み合わせるなどのように重複して用いられる部分があってもよい。
【0072】
また、上記実施の形態では、開放異常判定部103が切替部11の一部であるものとして説明したが、制御基板10上の別個のモジュールであってもよいし、制御基板10上に位置していなくてもよい。
【0073】
また、上記構成では、検出部20にキャパシターC24及びダイオードD25を含めたが、これらがなくても開放異常の検出動作自体は可能である。また、キャパシターC24の動作は、時間平均値の算出で実質的に同等な動作が行われているので、誤判定などは生じにくい。
その他、上記実施の形態で示した構成、配置、開放異常の判別方法やその手順などの具体的な細部は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0074】
1 モーター駆動装置
10 制御基板
11 切替部
12 切替設定部
13 タイミング設定部
20 検出部
30 計測部
40 配線部
101 励磁可否判定部
102 励磁切替駆動部
103 開放異常判定部
111 CPU
201、202 検出部
401 第1の第1配線
402 第1の第2配線
403 第2の第1配線
404 第2の第2配線
A1、A2 増幅部
C24 キャパシター
Cp1、Cp2 比較器
D25 ダイオード
F ヒューズ
M ステッピングモーター
MA、MB コイル
R21~R23 抵抗素子
RS1、RS2 シャント抵抗
S1~S4 切替素子
S2 切替素子
S2、S4 切替素子
Vj 判定電圧
Vj1 第1判定電圧
Vj2 第2判定電圧
Vl 下限電圧
Vs1、Vs2 監視電圧