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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-15
(45)【発行日】2024-01-23
(54)【発明の名称】光受信用回路および光受信器
(51)【国際特許分類】
   H03F 3/08 20060101AFI20240116BHJP
   H03F 1/32 20060101ALI20240116BHJP
   H03G 3/30 20060101ALI20240116BHJP
   H04B 10/61 20130101ALI20240116BHJP
【FI】
H03F3/08
H03F1/32
H03G3/30
H04B10/61
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019217136
(22)【出願日】2019-11-29
(65)【公開番号】P2021087189
(43)【公開日】2021-06-03
【審査請求日】2022-10-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100136722
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼木 邦夫
(74)【代理人】
【識別番号】100174399
【弁理士】
【氏名又は名称】寺澤 正太郎
(72)【発明者】
【氏名】杉本 良之
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 誠司
【審査官】▲高▼橋 徳浩
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-122158(JP,A)
【文献】特開平11-008522(JP,A)
【文献】特開2004-273109(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03F1/00-H03F3/72
H03G1/00-H03G3/34
H04B10/00-H04B10/90
H04J14/00-H04J14/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対の電流信号を一対の電圧信号に変換する光受信用回路であって、
前記一対の電流信号の一方を受ける第1入力端子と、
前記一対の電流信号の他方を受ける第2入力端子と、
前記第1入力端子と電気的に接続される第1電流端子と、前記第2入力端子と電気的に接続される第2電流端子と、第1制御信号を受ける第1制御端子と、を有し、前記第1制御信号に応じて前記第1電流端子と前記第2電流端子との間の抵抗値を変化させる第1FETと、
前記第1FETの前記第1電流端子と電気的に接続され、前記一対の電流信号の一方のうち前記第1FETへ分流した一部を除く残部を受けて、前記一対の電圧信号の一方を生成する第1TIAと、
前記第1FETの第2電流端子と電気的に接続され、前記一対の電流信号の他方のうち前記第1FETへ分流した一部を除く残部を受けて、前記一対の電圧信号の他方を生成する第2TIAと、
前記一対の電圧信号の一方と前記一対の電圧信号の他方との電圧差を検出し、前記電圧差の振幅が所定の値より大きくなったときに前記第1制御信号を変化させて前記第1FETの前記抵抗値を小さくする制御回路と、
前記第1FETの前記第1電流端子及び前記第1TIAと前記第1入力端子との間に電気的に接続された第1インダクタと、
前記第1FETの前記第2電流端子及び前記第2TIAと前記第2入力端子との間に電気的に接続された第2インダクタと、
前記第1入力端子と前記第1インダクタとの間に電気的に接続される第3電流端子と、前記第2入力端子と前記第2インダクタとの間に電気的に接続される第4電流端子と、第2制御信号を受ける第2制御端子と、を有し、前記第2制御信号に応じて前記第3電流端子と前記第4電流端子との間の抵抗値を変化させる第2FETと、
を備え
前記制御回路は、前記電圧差の振幅が前記所定の値より大きくなったときに前記第2制御信号を変化させて前記第2FETの前記抵抗値を小さくする、光受信用回路。
【請求項2】
前記第1TIAは、前記第2TIAの電気的特性と同じ電気的特性を有する、請求項1に記載の光受信用回路。
【請求項3】
前記第1FETのゲート幅Wg1と、前記第2FETのゲート幅Wg2との比(Wg1/Wg2)が5以下に設定され、
前記第1FETの前記ゲート幅Wg1以外のトランジスタ構造が前記第2FETの前記ゲート幅Wg2以外のトランジスタ構造と同一となっている、請求項1または請求項2に記載の光受信用回路。
【請求項4】
請求項1から請求項のいずれか1項に記載の光受信用回路と、
前記一対の電流信号を出力する一対の光検出素子と、
を備える、光受信器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光受信用回路および光受信器に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1~5には、光受信器において受光素子からの電流信号を電圧信号に変換するための回路が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-103636号公報
【文献】特開平11-8522号公報
【文献】特開昭61-161008号公報
【文献】特開2010-213128号公報
【文献】特開昭57-46544号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
光受信器において、一対の受光素子に一対の光信号が差動信号として入力される場合がある。例えば、近年の光通信の高容量化に伴い、長距離通信ではデジタルコヒーレント光伝送方式が多く用いられる。デジタルコヒーレント光伝送方式では、光受信器において受信した信号光とローカル光とを干渉させた後、生成された差動信号光の一方を第1の受光素子に入力し、差動信号光の他方を第2の受光素子に入力する。そして、第1の受光素子から出力された電流信号をトランスインピーダンスアンプ(TIA)において電圧信号に変換し、第2の受光素子から出力された電流信号を別のTIAにおいて電圧信号に変換する。これらの電圧信号の差は、受信信号として光受信器から出力される。
【0005】
光受信器から出力された受信信号は、高速のA/Dコンバータを用いてデジタル信号に変換され、データ処理が施されることにより、伝送中に発生した各種の歪などが補償される。その際、受信信号には、信号光の広い強度範囲において高い線形性が要求される。しかし、一般的に大きな光強度域においてはTIA回路において歪が発生するので、受信信号の線形性が劣化する。本開示は、受信信号の線形性を高めることができる光受信用回路および光受信器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一実施形態に係る光受信用回路は、一対の光検出素子から供給される一対の電流信号を一対の電圧信号に変換する光受信用回路であって、一対の電流信号の一方を受ける第1入力端子と、一対の電流信号の他方を受ける第2入力端子と、第1入力端子と電気的に接続される第1電流端子と、第2入力端子と電気的に接続される第2電流端子と、第1制御信号を受ける第1制御端子と、を有し、第1制御信号に応じて第1電流端子と第2電流端子との間の抵抗値を変化させる第1FETと、第1FETの第1電流端子と電気的に接続され、一対の電流信号の一方のうち第1FETへ分流した一部を除く残部を受けて、一対の電圧信号の一方を生成する第1TIAと、第1FETの第2電流端子と電気的に接続され、一対の電流信号の他方のうち第1FETへ分流した一部を除く残部を受けて、一対の電圧信号の他方を生成する第2TIAと、一対の電圧信号の一方と一対の電圧信号の他方との電圧差を検出し、電圧差の振幅が所定の値より大きくなったときに第1制御信号を変化させて第1FETの抵抗値を小さくする制御回路とを備える。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、受信信号の線形性を高めることができる光受信用回路および光受信器を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る光受信器1Aの内部構成を示す回路図である。
図2図2は、TIA14,15の構成例として、TIA30を示す回路図である。
図3図3は、光受信用回路10Aによる効果を示すシミュレーション結果であって、信号光強度と電圧信号S1,S2の差電圧の振幅(出力振幅)との関係を示している。
図4図4は、光受信用回路10Aによる効果を示すシミュレーション結果であって、信号光強度と受信信号の全高調波歪みとの関係を示している。
図5図5は、一変形例に係る光受信用回路10Bの構成を示す回路図である。
図6図6は、制御回路17の具体的な内部構成の例を示す図である。
図7図7は、光受信用回路10Bの周波数特性を示すグラフである。
図8図8は、更なる変形例として光受信用回路10Cの構成を示す回路図である。
図9図9は、特許文献3に記載された回路構成を示す図である。
図10図10は、図9に示す回路において、キャパシタ104に代えてバイアス回路105を設けた場合を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[本開示の実施形態の説明]
最初に、本開示の実施形態を列記して説明する。一実施形態に係る光受信用回路は、一対の光検出素子から供給される一対の電流信号を一対の電圧信号に変換する光受信用回路であって、一対の電流信号の一方を受ける第1入力端子と、一対の電流信号の他方を受ける第2入力端子と、第1入力端子と電気的に接続される第1電流端子と、第2入力端子と電気的に接続される第2電流端子と、第1制御信号を受ける第1制御端子と、を有し、第1制御信号に応じて第1電流端子と第2電流端子との間の抵抗値を変化させる第1FETと、第1FETの第1電流端子と電気的に接続され、一対の電流信号の一方のうち第1FETへ分流した一部を除く残部を受けて、一対の電圧信号の一方を生成する第1TIAと、第1FETの第2電流端子と電気的に接続され、一対の電流信号の他方のうち第1FETへ分流した一部を除く残部を受けて、一対の電圧信号の他方を生成する第2TIAと、一対の電圧信号の一方と一対の電圧信号の他方との電圧差を検出し、電圧差の振幅が所定の値より大きくなったときに第1制御信号を変化させて第1FETの抵抗値を小さくする制御回路とを備える。
【0010】
この光受信用回路では、第1FETが、第1入力端子と第2入力端子との間に接続される。第1入力端子から入力される一方の電流信号と、第2入力端子から入力される他方の電流信号とが互いに逆相(相補的)である場合、第1FETの制御端子の電圧が上昇すると、第1FETの2つの電流端子の間に、該電圧に応じた大きさの電流が流れる。すなわち、第1FETの制御端子の電圧が大きくなるほど、第1入力端子から第1TIAへ流れる一方の電流信号の残部、及び第2入力端子から第2TIAへ流れる他方の電流信号の残部は小さくなる。
【0011】
第1FETの制御端子へは、制御回路が第1制御信号を提供する。第1制御信号は、第1TIAから出力される一方の電圧信号と、第2TIAから出力される他方の電圧信号との電圧差の振幅を抑制するように決定される。つまり、電圧差の振幅が大きくなる場合、制御回路が第1制御信号を変化させて、第1TIA,第2TIAに入力される電流振幅の増大を抑制する。従って、上記の光受信用回路によれば、各TIAにおける歪を低減し、受信信号の線形性を高めることができる。
【0012】
上記の光受信用回路において、第1TIAは、第2TIAの電気的特性と同じ電気的特性を有してもよい。この場合、第1TIA及び第2TIAに対して共通に設けられる第1FETを用いて、第1TIAに入力される電流振幅と第2TIAに入力される電流振幅とを均等に抑制することができる。
【0013】
上記の光受信用回路は、第1FETの第1電流端子及び第1TIAと第1入力端子との間に電気的に接続された第1インダクタと、第1FETの第2電流端子及び第2TIAと第2入力端子との間に電気的に接続された第2インダクタと、第1入力端子と第1インダクタとの間に電気的に接続される第3電流端子と、第2入力端子と第2インダクタとの間に電気的に接続される第4電流端子と、第2制御信号を受ける第2制御端子と、を有し、第2制御信号に応じて第3電流端子と第4電流端子との間の抵抗値を変化させる第2FETと、を更に備え、制御回路は、電圧差の振幅が所定の値より大きくなったときに第2制御信号を変化させて第2FETの抵抗値を小さくしてもよい。このような構成によれば、第1インダクタ及び第2インダクタの作用により、光受信用回路の周波数特性を改善するとともに雑音を低減できる。また、第2FETを更に設けることにより、第1FETがオンする際の周波数特性の変動(特にピーキング)を抑制することができる。
【0014】
上記の光受信用回路において、第1FETのゲート幅Wg1と、第2FETのゲート幅Wg2との比(Wg1/Wg2)が5以下に設定され、第1FETのゲート幅Wg1以外のトランジスタ構造が第2FETのゲート幅Wg2以外のトランジスタ構造と同一となっていてもよい。これにより、第1FETがオンする際の周波数特性の変動(特にピーキング)をより効果的に抑制することができる。
【0015】
一実施形態に係る光受信器は、上記いずれかの光受信用回路と、一対の光検出素子と、を備える。この光受信器によれば、受信信号の線形性を高めることができる。
【0016】
[本開示の実施形態の詳細]
本開示の光受信用回路および光受信器の具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。以下の説明では、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0017】
図1は、本発明の一実施形態に係る光受信器1Aの内部構成を示す回路図である。この光受信器1Aは、一対の光検出素子(受光素子)3a,3bと、光受信用回路10Aとを備える。デジタルコヒーレント受信器では、位相変調された信号光と局部発振光とを光90度ハイブリッドにおいて干渉させ、強度変調信号を得る。その際、差動信号光L1,L2が得られるので、光受信器1Aでは、一方の差動信号光L1を光検出素子3aが受け、他方の差動信号光L2を光検出素子3bが受ける。光検出素子3a,3bは例えばフォトダイオードである。光検出素子3a,3bは、ともに同一の光学的特性および電気的特性を有することが好ましい。
【0018】
光受信用回路10Aは、一対の光検出素子3a,3bから出力される一対の電流信号Ipd1,Ipd2を受け、その差動電流信号Ipd1,Ipd2を一対の電圧信号S1,S2に変換する。光検出素子3a,3bに入力される信号光L1,L2は相補的なので、電流信号Ipd1,Ipd2もまた相補信号となる。ここでいう相補信号とは、例えば、電流信号Ipd1が増加するときに電流信号Ipd2が減少し、電流信号Ipd1が減少するときに電流信号Ipd2が増加することを表す。また、例えば、電流信号Ipd1が最大値(ピーク値)となるときに電流信号Ipd2は最小値(ボトム値)となり、電流信号Ipd1が最小値となるときに電流信号Ipd2は最大値となる関係を有する。一般に、電流信号Ipd1の強度(振幅)は、電流信号Ipd2の強度(振幅)と等しいことが好ましい。すなわち、一対の電流信号は、例えば、差動電流信号である。相補信号の意味は、電圧信号についても同様である。すなわち、一対の電圧信号は、例えば、差動電圧信号である。光受信用回路10Aは、第1入力端子11、第2入力端子12、FET13、TIA14、TIA15、バッファアンプ16、及び制御回路17を備える。なお、光受信用回路10Aは、光検出素子3a,3bに対して独立したパッケージを有してもよい。また、光受信用回路10Aは、単一の半導体チップ上に形成されていてもよい。
【0019】
第1入力端子11及び第2入力端子12は、例えば光受信用回路10Aのパッケージから突出したリード端子である。第1入力端子11は、パッケージの外部に設けられる配線を介して、光検出素子3aのアノードと電気的に接続される。光検出素子3aのカソードは、電源電位線21と電気的に接続され、電源電位線21からバイアス電圧の供給を受ける。電源電位線21の電圧は例えば5Vである。光検出素子3aには、差動信号光L1,L2のうち一方の信号光L1が入射する。光検出素子3aは、信号光L1を電流信号(フォトカレント)に変換して、差動電流信号を構成する相補的な一対の電流信号Ipd1,Ipd2のうち一方(電流信号Ipd1)を出力する。第1入力端子11は、この電流信号Ipd1を光検出素子3aから受ける。
【0020】
第2入力端子12は、パッケージの外部に設けられる配線を介して、光検出素子3bのアノードと電気的に接続される。光検出素子3bのカソードは、電源電位線21と電気的に接続され、電源電位線21からバイアス電圧の供給を受ける。この電源電位線21は、光検出素子3aのカソードに接続された電源電位線21と共通の電位を有してもよい。光検出素子3bには、差動信号光L1,L2のうち他方の信号光L2が入射する。光検出素子3bは、信号光L2を電流信号(フォトカレント)に変換して、差動電流信号を構成する一対の電流信号Ipd1,Ipd2のうち他方(電流信号Ipd2)を出力する。第2入力端子12は、この電流信号Ipd2を光検出素子3bから受ける。なお、光受信用回路10Aが単一の半導体チップ上に形成される場合は、第1入力端子11及び第2入力端子12は、例えば、半導体チップ上の周縁部にてそれぞれ単一のボンディングパッドとして形成される。その際、第1入力端子11及び第2入力端子12は、光検出素子3a,3bとボンディングワイヤによってそれぞれ電気的に接続される。
【0021】
FET13は、本実施形態における第1FETである。FET13は、2つの電流端子(ソース及びドレイン)と、1つの制御端子(ゲート)とを有する電界効果トランジスタ(FET)である。以下、2つの電流端子をそれぞれ区別するために第1電流端子及び第2電流端子と呼ぶことがある。FET13は、後述するように可変抵抗素子として用いられる。そのため、第1電流端子と第2電流端子との区別は説明上の便宜的な名称であって、例えば、第1電流端子がソースであって第2電流端子がドレインであってもよく、反対に、第1電流端子がドレインであって第2電流端子がソースであってもよい。FET13は、2つの電流端子を入れ替えても同様に動作し、同様の電気的特性を有することが好ましい。
【0022】
FET13は、第1入力端子11と第2入力端子12との間に交流電流を流すために設けられる。一対の電流信号Ipd1、Ipd2は、それぞれ交流成分(交流電流)と直流成分(直流電流)とを含んでおり、交流成分が交流的に変化する信号成分に相当する。FET13の一方の電流端子(第1電流端子)は、光受信用回路10A内の配線を介して第1入力端子11と電気的に接続される。FET13の他方の電流端子(第2電流端子)は、光受信用回路10A内の配線を介して第2入力端子12と電気的に接続される。FET13の2つの電流端子間の抵抗値は、FET13の制御端子に印加される制御電圧(第1制御電圧)に応じて変化する。例えば、FET13がNチャネルの場合、制御端子に印加する電圧を2つの電流端子の電圧に対して所定の値より大きくすることにより、FET13の2つの電流端子間が電気的に導通(オン)し、2つの電流端子間の抵抗(オン抵抗)の値が減少する。後述するように、FET13のオン抵抗の値に応じてFET13の一方の電流端子とFET13の他方の電流端子との間に流れる交流電流の大きさは変化する。例えば、オン抵抗の値をTIA14、TIA15の入力インピーダンスに対して小さくすると、FET13の2つの電流端子間を流れる交流電流は大きくなる。このように、FET13は、可変抵抗素子として機能する。本実施形態では、FET13と第1入力端子11及び第2入力端子12との間には有意の抵抗成分やインダクタンスを有する素子等は設けられず、これらは極めて低いインピーダンスにて接続される。
【0023】
TIA14は、本実施形態における第1TIAである。TIA14は、反転増幅器14a及び帰還抵抗14bを含んで構成されている。具体的には、反転増幅器14aの入力端子及び出力端子が帰還抵抗14bを介して互いに接続される。TIA14の入力端子は、光受信用回路10A内の配線を介して、FET13の一方の電流端子と第1入力端子11との間のノードN1と電気的に接続される。TIA14は、電流信号Ipd1のうちFET13へ分流した交流成分の一部を除く残部Ipd3を第1入力端子11から受けて、該残部Ipd3の大きさに応じた電圧値を有する電圧信号S1を生成する。電流信号Ipd3の交流成分の大きさ(振幅)は、FET13への分流によって電流信号Ipd1の交流成分の大きさ(振幅)より小さくなる。反転増幅器14aは、反転増幅を行うので、例えば、TIA14の入力端子の電圧が増加する(高電圧側に上昇する)と、電圧信号S1は減少し(低電圧側に下降し)、反対にTIA14の入力端子の電圧が減少する(低電圧側に下降する)と、電圧信号S1は増加する(高電圧側に上昇する)。電圧信号S1は、差動電圧信号を構成する相補的な一対の電圧信号S1,S2のうち一方である。
【0024】
TIA15は、本実施形態における第2TIAである。TIA15は、TIA14と同様に、反転増幅器15a及び帰還抵抗15bを含んで構成されている。具体的には、反転増幅器15aの入力端子及び出力端子が帰還抵抗15bを介して互いに接続される。TIA15の入力端子は、光受信用回路10A内の配線を介して、FET13の他方の電流端子と第2入力端子12との間のノードN2と電気的に接続される。TIA15は、電流信号Ipd2のうちFET13へ分流した交流成分の一部を除く残部Ipd4を第2入力端子12から受けて、該残部Ipd4の大きさに応じた電圧値を有する電圧信号S2を生成する。電流信号Ipd4の交流成分の大きさ(振幅)は、FET13への分流によって電流信号Ipd2の交流成分の大きさ(振幅)より小さくなる。反転増幅器15aは、反転増幅を行うので、例えば、TIA15の入力端子の電圧が増加すると、電圧信号S2は減少し、反対にTIA15の入力端子の電圧が減少すると、電圧信号S2は増加する。電圧信号S2は、差動電圧信号を構成する相補的な一対の電圧信号S1,S2のうち他方である。
【0025】
TIA14の電気的特性とTIA15の電気的特性とは、互いに同じである。ここで、回路の電気的特性が互いに同じとは、例えばその回路を構成する素子およびそのサイズが同じで、素子間の接続関係(回路構成)も同じであることをいう。なお、TIA14,15の構成は上記のものに限られず、電流を電圧に変換する機能を有するものであれば他に様々な構成を採用することができる。
【0026】
バッファアンプ16は、一対の電圧信号S1,S2を入力し、これらを増幅して出力する。具体的には、バッファアンプ16は一対の入力端を有し、一方の入力端はTIA14の出力端と電気的に接続され、他方の入力端はTIA15の出力端と電気的に接続される。また、バッファアンプ16は一対の出力端を有し、これらの出力端から増幅後の電圧信号S1,S2を出力する。バッファアンプ16の一対の出力端は、光受信用回路10A内の配線を介して、光受信用回路10Aの一対の出力端子18,19と電気的に接続される。バッファアンプ16から出力された電圧信号S1,S2は、出力端子18,19を介して光受信用回路10Aの外部に提供される。例えば、バッファアンプ16は、一対の入力端における電圧信号S1と電圧信号S2との電圧差を利得(差動電圧利得)の分だけ増幅して、出力端子18と出力端子19との間にその増幅された電圧差が生じるように増幅後の電圧信号S1,S2を出力する。バッファアンプ16は、反転増幅器及び帰還抵抗により構成されるTIA14,15の利得のみでは必要な利得に足りない場合(差動信号光L1,L2が微弱である場合)に設けられるが、TIA14,15の利得のみで十分である場合には省かれてもよい。その場合は、一対の電圧信号S1,S2は、一対の出力端子18,19を介して外部に出力される。
【0027】
制御回路17は、例えば、一対の入力端17a,17bと、1つの出力端17cとを有する。入力端17aは、光受信用回路10A内の配線を介して、TIA14とバッファアンプ16との間のノードN3と電気的に接続される。入力端17bは、光受信用回路10A内の配線を介して、TIA15とバッファアンプ16との間のノードN4と電気的に接続される。制御回路17は、バッファアンプ16に入力される前の電圧信号S1を入力端17aから入力し、バッファアンプ16に入力される前の電圧信号S2を入力端17bから入力する。そして、制御回路17は、電圧信号S1と電圧信号S2との電圧差を検出する。この電圧差は、電圧信号S1の時間平均値(直流成分)と電圧信号S2の時間平均値(直流成分)との差であってもよい。その場合、一対の入力端17a,17bの入力インピーダンスは、例えば、数十kΩ以上に設定されてもよい。この電圧差の検出は、アナログ回路によるアナログ演算によって行われてもよく、A/D変換後のディジタル回路によるディジタル演算によって行われてもよい。制御回路17は、この電圧差に基づいて電圧信号である制御信号SCを生成し、該制御信号SCを出力端17cから出力する。電圧差に基づいて制御信号SCを生成するとは、例えば、電圧信号S1,S2の差電圧のピーク、及び/または差電圧の平均に基づいて制御信号SCを生成することをいう。出力端17cはFET13の制御端子と電気的に接続されており、制御信号SCは、FET13の制御端子に提供される。制御回路17は、例えばA/D変換機能及びD/A変換機能を有するディジタル演算装置であってもよく、CPU及びメモリを有するコンピュータであってもよい。
【0028】
図2は、TIA14,15の構成例として、TIA30を示す回路図である。TIA30は、入力端子30aと、出力端子30bとを有する。入力端子30aには、電流信号Iaが入力される。電流信号Iaは、TIA14においては電流信号Ipd1の残部Ipd3であり、TIA15においては電流信号Ipd2の残部Ipd4である。また、出力端子30bからは、電圧信号Saが出力される。電圧信号Saは、TIA14においては電圧信号S1であり、TIA15においては電圧信号S2である。一対の電流信号Ipd3、Ipd4が差動信号のとき、一対の電圧信号S1、S2はそれに応じた差動信号となる。
【0029】
TIA30は、2つのNPN型トランジスタ31及び32を有する。トランジスタ31のベースは入力端子30aに接続されており、トランジスタ31のエミッタは基準電位線23に接続されており(エミッタ接地)、トランジスタ31のコレクタは抵抗素子33を介して電源電位線22に接続される。また、トランジスタ32のベースは抵抗素子33とトランジスタ31との間のノードN5に接続されており、トランジスタ32のエミッタは抵抗素子35を介して基準電位線23に接続されており、トランジスタ32のコレクタは電源電位線22に接続される。更に、トランジスタ32のエミッタと抵抗素子35との間のノードN6は、帰還抵抗34を介して入力端子30aに接続される。なお、帰還抵抗34は、TIA14においては帰還抵抗14bに相当し、TIA15においては帰還抵抗15bに相当する。
【0030】
図2に示す回路において、TIA30の入力電圧は、トランジスタ31のベース・エミッタ間電圧となる。帰還抵抗34に電流が流れていないと仮定すると、抵抗33には、電圧Vcc-Vbe1-Vbe2(但し、Vccは電源電位線22の電圧値、Vbe1はトランジスタ31のベース・エミッタ間電圧、Vbe2はトランジスタ32のベース・エミッタ間電圧)が両端に印加される。従って、トランジスタ31のコレクタに流れる電流は、(Vcc-Vbe1-Vbe2)/RLとなる(RLは抵抗素子33の抵抗値)。トランジスタ31のコレクタ電流が決まると、トランジスタ31のベース・エミッタ電圧も定まる。すなわち、トランジスタ31のベース・エミッタ電圧Vbe1は下記の数式を満足する値となる。
Ic=Is・{exp(Vbe1/nVt)-1}
但し、上式において、Icはトランジスタ31のコレクタ電流である。Isは飽和電流であり、デバイスの種類によって定まる正の実数である。nは結合係数である。理論的にはn=1となるが、デバイスの種類によって定まり、一般には1<n<2を満たす実数である。Vtは熱電圧であり、Vt=k・T/qと定義される。kはボルツマン定数であり、qは素電荷であり、Tは絶対温度である。
【0031】
なお、図1に示す回路では、TIA14,15の入力電圧はそれぞれ独立に定まる。従って、ばらつきを考慮すると厳密には同じ電圧にはならないが、その差は僅かであり、光受信器1Aの動作には殆ど影響しない。TIA14の入力電圧が、TIA15の入力電圧と同じになっているとき、FET13がオンすることによって2つの電流端子間には交流電流が流れ得るが、直流電流は流れない。
【0032】
以上の構成を備える本実施形態の光受信用回路10Aの作用効果について説明する。この光受信用回路10Aでは、差動信号光L1,L2が入力すると、信号光L1は光検出素子3aにおいて電流信号Ipd1に変換され、信号光L2は光検出素子3bにおいて電流信号Ipd2に変換される。電流信号Ipd1はTIA14において電圧信号S1に変換され、電流信号Ipd2はTIA15において電圧信号S2に変換される。電圧信号S1と電圧信号S2との電圧差は、電流信号Ipd1と電流信号Ipd2との電流差、ひいては信号光L1と信号光L2との光強度差を表す。電圧信号S1,S2は、バッファアンプ16において増幅されて光受信用回路10Aの外部へ出力される。
【0033】
ここで、本実施形態では、第1入力端子11と第2入力端子12との間にFET13が接続される。第1入力端子11から入力される一方の電流信号Ipd1と、第2入力端子12から入力される他方の電流信号Ipd2とは互いに逆相(相補的)であるから、FET13のゲート電圧が上昇すると、FET13の2つの電流端子の間に、該ゲート電圧に応じた大きさの電流Ipd5が流れる。すなわち、FET13のゲート電圧が大きくなるほど、第1入力端子11からTIA14へ流れる一方の電流信号Ipd1の残部Ipd3、及び第2入力端子12からTIA15へ流れる他方の電流信号Ipd2の残部Ipd4は小さくなる。すなわち、FET13に電流Ipd5が流れると、信号光L1,L2の振幅に対して、TIA14,TIA15に入力される電流振幅は減少する。そして、電圧信号S1,S2の電圧差の振幅もまたこれに応じて低下する。
【0034】
FET13のゲートへは、制御回路17が制御信号SCを提供する。制御信号SCは、TIA14から出力される一方の電圧信号S1と、TIA15から出力される他方の電圧信号S2との電圧差の振幅を抑制するように決定される。つまり、電流信号Ipd1,Ipd2の振幅が小さく電圧信号S1,S2の電圧差の振幅が所定の値(閾値)より小さい場合には、制御回路17から出力される制御信号SCの電圧値(すなわちFET13のゲート電圧)は小さく、FET13はオフ状態となっている。これに対し、電圧信号S1,S2の電圧差の振幅が閾値以上に大きくなると、制御回路17が制御信号SCの電圧値を大きくして、FET13をオン状態とし、TIA14,15に入力される電流振幅の増大を抑制する。このとき、例えば電圧信号S1,S2の電圧差の振幅が一定となるように制御信号SCが調整されてもよい。
【0035】
上記の動作を詳細に説明すると、次のとおりである。いま、YINをTIA14,15の入力アドミッタンスとし、YM1をFET13の2つの電流端子のそれぞれから見た入力アドミッタンスとする。FET13がオン状態になると、FET13の入力インピーダンスが低くなり、入力アドミッタンスYM1は大きくなる。電流信号Ipd1,Ipd2の信号成分の大きさをIpd、TIA14,15への入力電流Ipd3,Ipd4の信号成分の大きさをIinとすると、Iin=YIN/(YIN+YM1)・Ipdであるから、FET13がオン状態となってYM1が高くなると、Iinは小さくなる。従って、制御信号SCの電圧値を大きくすることで、FET13のオン抵抗が減少して入力アドミッタンスYM1が大きくなり、TIA14,15に入力される入力電流Ipd3,Ipd4の信号成分の振幅を減少させることができる。
【0036】
以上のことから、本実施形態の光受信用回路10Aによれば、信号光L1,L2の振幅が大きくなった場合でもTIA14,15に入力される電流振幅の増大を抑制するので、差動電流信号Ipd1,Ipd2の振幅を小さくすることで差動電圧信号S1,S2の振幅が飽和するのを防いで各TIA14,15における歪を低減し、受信信号の線形性を高めることができる。
【0037】
本実施形態のように、TIA14の電気的特性と、TIA15の電気的特性とは互いに同じであってもよい。例えば、TIA14は、TIA15の回路構成と同じ回路構成を有し、ぞれぞれの回路を構成するトランジスタや抵抗素子等の回路素子は、TIA14とTIA15とで同じ電気的特性あるいは回路定数を有する。この場合、TIA14,15に対して共通に設けられるFET13を用いて、TIA14に入力される電流振幅とTIA15に入力される電流振幅とを均等に抑制することができる。
【0038】
図3及び図4は、本実施形態の光受信用回路10Aによる上記効果を示すシミュレーション結果である。図3は、信号光強度(光パワー)と電圧信号S1,S2の差電圧の振幅(出力振幅)との関係を示している。図3において、横軸は光パワー(単位:dBm)を示し、縦軸は出力振幅(単位:mVppd)を示す。図4は、信号光強度(光パワー)と受信信号の全高調波歪みとの関係を示している。図4において、横軸は光パワー(単位:dBm)を示し、縦軸は全高調波歪み(単位:%)を示す。なお、このシミュレーションでは、差動信号光L1,L2の信号周波数を1GHzとした。また、各図中のグラフG1,G3はFET13及び制御回路17を動作させた場合を示し、グラフG2,G4は比較のためFET13及び制御回路17を動作させなかった場合を示す。
【0039】
図3及び図4を参照すると、FET13及び制御回路17を動作させない場合(グラフG2,G4)では、-10dBm以上の光パワー範囲において全高調波歪みが顕著に増大している。これに対し、FET13及び制御回路17を動作させた場合(グラフG1,G3)では、-10dBm以上の光パワー範囲においても全高調波歪みが効果的に抑制されていることがわかる。
【0040】
ここで、特許文献3に記載された回路と本実施形態の光受信用回路10Aとを比較する。図9は、特許文献3に記載された回路構成を示す図である。この回路100は、光信号を受ける受光素子101と、受光素子101から出力される光電流を電圧信号に変換するTIA102とを備える。そして、低インピーダンスの(キャパシタ104を介して基準電位線110に接続された)ノードNaと、TIA102の入力端との間には、NMOS型のFET103が接続される。コントローラ106は、TIA102から出力される電圧信号の大きさに基づいてFET103のゲート電圧を制御する。この回路100は、FET103を通じて基準電位線110に流れる電流量を、電圧信号の大きさに応じて変化させる。
【0041】
しかしながら図9に示された回路100では、ノードNaを低インピーダンスとするためにキャパシタ104を用いている。広帯域にわたって低インピーダンスとするためには大きな容量のキャパシタ104が必要となり、光受信器の小型化を妨げてしまう。
【0042】
図10は、ノードNaを低インピーダンスとするために、キャパシタ104に代えてバイアス回路105を設けた場合を示す。しかしながらこの回路では、バイアス回路105による消費電力量の増大が懸念される。
【0043】
本実施形態の光受信用回路10Aは、光受信器の小型化を妨げることなく、また消費電力の増大を抑制しつつ、高い信号光パワーにおける受信信号の線形性を向上するものである。
【0044】
(変形例)
図5は、上記実施形態の一変形例に係る光受信用回路10Bの構成を示す回路図である。本変形例の光受信用回路10Bは、上記実施形態の光受信用回路10Aの構成に加えて、インダクタ41及び42、並びにFET43を更に備える。
【0045】
インダクタ41は、本変形例における第1インダクタである。インダクタ41は、FET13及びTIA14と第1入力端子11との間(すなわち、ノードN1と第1入力端子11との間)に電気的に接続される。具体的には、インダクタ41の一端はノードN1に接続され、他端は第1入力端子11に接続される。インダクタ42は、本変形例における第2インダクタである。インダクタ42は、FET13及びTIA15と第2入力端子12との間(すなわち、ノードN2と第2入力端子12との間)に電気的に接続される。具体的には、インダクタ42の一端はノードN2に接続され、他端は第2入力端子12に接続される。
【0046】
インダクタ41,42は、光受信用回路10Bの周波数応答の改善、及び雑音の低減のために設けられる。インダクタ41,42は、FET13及びTIA14,15と共通の基板(例えば半導体基板あるいは半導体基板が分割されて生じる半導体チップ)上に形成された配線パターンによって構成され、一例では渦巻き状の配線パターンからなるスパイラルインダクタである。インダクタ41,42のインダクタンスは、例えば200~300pHである。インダクタ41は、インダクタ42のインダクタの値と同じインダクタの値を有することが好ましい。
【0047】
なお、光検出素子3a,3bと光受信用回路10Bの入力端子11,12とを電気的に接続する際、フリップチップ実装であれば、光検出素子3aと入力端子11との間の42の寄生インダクタンス、及び光検出素子3bと入力端子12との間に生じる寄生インダクタンスは数十pH程度であり、インダクタ41,42のインダクタンスと比較して無視できる程度に十分に小さい。また、光検出素子3a,3b及び光受信用回路10Bをフェイスアップ実装してこれらをワイヤボンディングにより接続する場合には、上記の寄生インダクタンスは200~400pH程度となり、光受信用回路10Bの周波数特性に影響を及ぼすと考えられる。しかし、その場合でも、後述するようにFET13,43のサイズ(ゲート幅など)を調整することにより、所望の周波数特性を得ることは可能である。
【0048】
FET43は、本変形例における第2FETである。FET43は、2つの電流端子(ソース及びドレイン)と、1つの制御端子(ゲート)とを有する。以下、2つの電流端子をそれぞれ区別するために第3電流端子及び第4電流端子と呼ぶことがある。FET43は、FET13と同様に可変抵抗素子として用いられる。そのため、第3電流端子と第4電流端子との区別は説明上の便宜的な名称であって、例えば、第3電流端子がソースであって第4電流端子がドレインであってもよく、反対に、第3電流端子がドレインであって第4電流端子がソースであってもよい。FET43は、2つの電流端子を入れ替えても同様に動作し、同様の電気的特性を有することが好ましい。
【0049】
FET43は、第1入力端子11と第2入力端子12との間に接続され、第1入力端子11と第2入力端子12との間に交流電流を流すために設けられる。すなわち、第2FET43の一方の電流端子は、光受信用回路10B内の配線を介して、第1入力端子11側のインダクタ41の一端と第1入力端子11との間のノードN5と電気的に接続される。第2FET43の他方の電流端子は、光受信用回路10B内の配線を介して、第2入力端子12側のインダクタ42の一端と第2入力端子12との間のノードN6と電気的に接続される。本実施形態では、FET43と第1入力端子11及び第2入力端子12との間には有意の抵抗成分やインダクタンスを有する素子等は設けられず、これらは極めて低いインピーダンスにて接続される。
【0050】
本変形例の制御回路17は、上記実施形態の入力端17a,17b及び出力端17cに加えて、出力端17dを更に有する。制御回路17は、電圧信号S1と電圧信号S2との電圧差に基づいて、電圧信号である制御信号(第1制御信号、第2制御信号)SC1,SC2を生成する。制御回路17は、生成した制御信号SC1を出力端17cから出力し、生成した制御信号SC2を出力端17dから出力する。出力端17cはFET13の制御端子と電気的に接続されており、制御信号SC1はFET13の制御端子に提供される。出力端17dはFET43の制御端子と電気的に接続されており、制御信号SC2はFET43の制御端子に提供される。制御信号SC1,SC2は、電圧信号S1と電圧信号S2との電圧差の振幅を抑制するための信号であって、互いに同じ信号であってもよく、或いは、互いに異なる信号であってもよい。制御信号SC1,SC2が互いに同じ信号である場合、制御回路17は出力端17dを有していなくてもよく、その場合、出力端17cから出力された制御信号SC1を、FET13の制御端子、及びFET43の制御端子の双方に提供してもよい。
【0051】
制御信号S2の電圧値を所定の値より大きくすると、FET43がオン状態となり、FET43の2つの電流端子間に交流電流が流れ得る。FET13と同様に、FET43に交流電流が流れ込むことで、FET43の後段での電流信号Ipd1,Ipd2の信号成分の大きさは、FET43の前段よりも小さくなる。従って、TIA14は、電流信号Ipd1のうちFET43へ分流した交流成分の一部(Ipd6)を除く残部のうちさらにFET13へ分流した交流成分の一部(Ipd5)を除く残部として電流信号Ipd3を受けて、該残部Ipd3の大きさに応じた電圧値を有する電圧信号S1を生成する。また、TIA15は、電流信号Ipd2のうちFET43へ分流した交流成分の一部(Ipd6)を除く残部のうちさらにFET13へ分流した交流成分の一部(Ipd5)を除く残部として電流信号Ipd4を受けて、該残部Ipd4の大きさに応じた電圧値を有する電圧信号S2を生成する。このように、FET43もFET13と同様に一対の電流信号Ipd1,Ipd2の信号成分の振幅を小さくすることができる。
【0052】
本変形例のように、上記実施形態の構成に更にインダクタ41,42を設ける場合、インダクタ41,42の後段側のみにFET(FET13)を設けると、FETがオン状態であるときの光受信用回路の周波数応答において高周波で過度にピーキングを生じさせる場合がある。本変形例のように、インダクタ41,42の前段側にもFET(FET43)を設けることにより、高い信号光パワーにおける受信信号の線形性を向上するとともにFETがオン状態であるときの周波数応答の変動(特にピーキング)を抑制することが可能となる。
【0053】
図6は、制御回路17の具体的な内部構成の例を示す図である。この制御回路17は、ピーク検出回路51と、平均値検出回路52と、増幅回路(アンプ)53と、バッファ54,55とを有する。ピーク検出回路51は、入力端17a,17bと電気的に接続されており、電圧信号S1,S2を入力し、これらの差電圧のピーク電圧(最大値)を検出する。平均値検出回路52は、入力端17a,17bと電気的に接続されており、電圧信号S1,S2を入力し、これらの差電圧の平均値を検出する。アンプ53は、ピーク検出回路51及び平均値検出回路52と電気的に接続され、ピーク検出回路51からの出力電圧と、平均値検出回路52からの出力電圧との差を増幅して出力する。アンプ53は、例えば、差動増幅回路やオペアンプである。アンプ53から出力された電圧信号は、二分岐後にバッファ54,55において増強され、制御信号SC1,SC2として出力端17c,17dに提供される。バッファ54,55は、例えば、制御信号SC1,SC2をFETを駆動するのに適した信号とするために増幅や信号レベルの変換等を行う。
【0054】
ここで、FET13,43のサイズ変更に伴う、光受信用回路10Bの周波数特性の変化について説明する。図7は、光受信用回路10Bの周波数応答を示すグラフであって、横軸は周波数(単位:GHz)を表し、縦軸は利得(単位:dB)を表す。グラフG11~G13はFET13,43がオフ状態(2つの電流端子が非導通状態)であるときの周波数応答を示し、グラフG21~G23はFET13,43がオン状態であるときの周波数応答を示す。グラフG11,G21は、FET13のゲート幅Wg1とFET43のゲート幅Wg2との比(Wg1/Wg2)が50である場合を示す。グラフG12,G22は、比(Wg1/Wg2)が5である場合を示す。グラフG13,G23は、比(Wg1/Wg2)が2.5である場合を示す。なお、FET43のゲート幅Wg2以外のトランジスタ構造は、FET13のゲート幅Wg1以外のトランジスタ構造と同一となっている。
【0055】
図7を参照すると、比(Wg1/Wg2)が50である場合(グラフG11,G21)、FET13,43がオン状態であるとき(グラフG21)の30GHz付近でピーキングが大きくなり、利得が大きい場合(グラフG11)と利得が小さい場合(グラフG21)での周波数応答の相違が顕著である。なお、この周波数応答は、FET43が存在しない場合と同等の特性である。これに対し、比(Wg1/Wg2)が5である場合(グラフG12,G22)、FET13,43がオン状態であるとき(グラフG22)のピーキングの発生が顕著には認められないほどピーキングが抑えられており、利得が大きい場合と小さい場合での特性差が小さい。比(Wg1/Wg2)が2.5である場合(グラフG13,G23)も同様である。このことから、比(Wg1/Wg2)は5以下であることが好ましいといえる。但し、比(Wg1/Wg2)が2.5である場合には、比(Wg1/Wg2)が5である場合と比べて、FET13,43がオン状態であるときの20GHz以上での利得の低下が大きく、利得が大きい場合(グラフG13)と小さい場合(グラフG23)の利得の差が大きい。その結果、比(Wg1/Wg2)が5である場合(グラフG22)と比較すると、比(Wg1/Wg2)が2.5である場合は帯域が5GHz以上低下している。従って、利得の低下による帯域の低下を考慮すると、比(Wg1/Wg2)は2.5より大きければ尚好ましい。
【0056】
上記のように、光受信用回路10Bの周波数応答は、FET13,43のゲート幅の比により変動する。従って、所望の周波数特性が得られるようにFET13,43のゲート幅の比を調整するとよい。なお、上記の説明ではFET13,43のサイズの関係をゲート幅の比により表しているが、インピーダンスの比で考えてもよい。インピーダンスはゲート幅の逆数であるため、FET13のインピーダンスZ1とFET43のインピーダンスZ2との比(Z1/Z2)は、1/5以上であることが好ましく、2/5未満であれば尚好ましい。
【0057】
図8は、更なる変形例として光受信用回路10Cの構成を示す回路図である。本変形例の光受信用回路10Cと上記の光受信用回路10B(図5を参照)との相違点は、バッファアンプ16に代えて利得可変増幅器(VGA)24を備える点、及び制御回路17の接続位置が異なる点である。
【0058】
VGA24は、差動電圧信号を構成する電圧信号S1,S2を入力し、これらを増幅して出力する。具体的には、VGA24は一対の入力端を有し、一方の入力端はTIA14の出力端と電気的に接続され、他方の入力端はTIA15の出力端と電気的に接続される。また、VGA24は一対の出力端を有し、これらの出力端から増幅後の電圧信号S1,S2を出力する。VGA24の一対の出力端は、光受信用回路10C内の配線を介して、光受信用回路10Cの一対の出力端子18,19と電気的に接続される。VGA24から出力された電圧信号S1,S2は、出力端子18,19を介して光受信用回路10Cの外部に提供される。電圧信号S1,S2を増幅する際の利得は可変となっており、制御回路17からの信号SC3に応じてVGA24の利得が変化する。
【0059】
制御回路17の入力端17aは、VGA24と出力端子18との間のノードN7と電気的に接続されている。入力端17aには、VGA24によって増幅された電圧信号S1が入力される。制御回路17の入力端17bは、VGA24と出力端子19との間のノードN8と電気的に接続されている。入力端17bには、VGA24によって増幅された電圧信号S2が入力される。制御回路17は、出力端子18,19から出力される電圧信号S1,S2の差電圧の振幅を一定に保つために、電圧信号S1,S2の差電圧の振幅を検出し、検出結果に応じてVGA24の利得を制御する(AGC:Auto Gain Control)。なお、その他の制御回路17の構成及び動作は上記変形例と同様なので、詳細な説明を省略する。
【0060】
このように、光受信用回路10CがVGA24を備えることにより、差動信号光L1,L2が微弱である場合の利得を大きくし、広いダイナミックレンジで線形性の良好な光受信用回路を構成することができる。なお、図8の構成では、制御回路17が、VGA24からの出力振幅を、VGA24及びFET13,43の制御信号SC1~SC3にフィードバックする。VGA24の出力振幅からはVGA24およびFET13,43に対して制御信号SC1~SC3が一意に生成されるので、ダブルループとはならずに安定的に制御可能である。また、VGA24とFET13,43とのそれぞれに対して個別に制御回路を設ける必要がないので、回路面積や消費電力の増大を抑制することが可能である。一例では、VGA24における利得可変量は25dB以上であり、TIA14,15での利得可変量は7dB程度である。従って、合計で30dB以上の利得可変量が得られる。
【0061】
本発明による光受信用回路および光受信器は、上述した実施形態に限られるものではなく、他に様々な変形が可能である。例えば、上記実施形態では光検出素子3a,3bと光受信用回路10A(10Bまたは10C)とが個別のチップとして設けられているが、これらは一つのパッケージ内に内蔵されてもよい。
【符号の説明】
【0062】
1A…光受信器、3a,3b…光検出素子、10A,10B,10C…光受信用回路、11…第1入力端子、12…第2入力端子、13…第1FET、14…第1TIA、14a…反転増幅器、14b…帰還抵抗、15…第2TIA、15a…反転増幅器、15b…帰還抵抗、16…バッファアンプ、17…制御回路、17a,17b…入力端、17c,17d…出力端、18,19…出力端子、21,22…電源電位線、23…基準電位線(グランド線)、30…TIA、30a…入力端子、30b…出力端子、31,32…トランジスタ、33,35…抵抗、34…帰還抵抗、41,42…インダクタ、43…第2FET、51…ピーク検出回路、52…平均値検出回路、53…アンプ、54,55…バッファ、Ia…電流信号、Ipd1,Ipd2…差動電流信号、Ipd5、Ipd6…交流電流、L1,L2…差動信号光、N1~N8,Na…ノード、S1,S2…差動電圧信号、Sa…電圧信号、SC,SC1,SC2,SC3…制御信号。
図1
図2
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図10