(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-15
(45)【発行日】2024-01-23
(54)【発明の名称】積層体
(51)【国際特許分類】
B32B 27/30 20060101AFI20240116BHJP
B32B 9/04 20060101ALI20240116BHJP
C14C 11/00 20060101ALI20240116BHJP
D06N 3/14 20060101ALI20240116BHJP
C08G 18/62 20060101ALI20240116BHJP
B32B 27/40 20060101ALI20240116BHJP
【FI】
B32B27/30 A
B32B9/04
C14C11/00
D06N3/14 101
C08G18/62 016
B32B27/40
(21)【出願番号】P 2019239181
(22)【出願日】2019-12-27
【審査請求日】2022-11-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000005496
【氏名又は名称】富士フイルムビジネスイノベーション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小林 孝子
(72)【発明者】
【氏名】山下 嘉郎
(72)【発明者】
【氏名】大木 正啓
(72)【発明者】
【氏名】岩永 猛
(72)【発明者】
【氏名】吉田 和世
(72)【発明者】
【氏名】田口 哲也
【審査官】長谷川 大輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-015852(JP,A)
【文献】特開2011-186433(JP,A)
【文献】特開2013-060586(JP,A)
【文献】特開2000-044794(JP,A)
【文献】特開2003-336179(JP,A)
【文献】特開平02-300389(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B1/00-43/00
B68F1/00-3/04
C14B1/00-99/00
C14C1/00-99/00
D06N1/00-7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮革からなる支持基材と、
前記支持基材に接して配置される表面樹脂層であって、水酸基価40mgKOH/g以上280mgKOH/g以下であり、フッ素原子を含むアクリル樹脂と、複数のヒドロキシル基を有し且つ前記ヒドロキシル基が炭素数6以上の炭素鎖を介するポリオールと、多官能イソシアネートと、を含む樹脂組成物の硬化物であるポリアクリルウレタン樹脂を含有する表面樹脂層と、
を有する積層体。
【請求項2】
前記表面樹脂層における最外表面でのフッ素原子量[F
S]と、前記最外表面の2mm四方の範囲を出力5kVのアルゴンガスクラスターイオン銃で20分間エッチングした後の表面でのフッ素原子量[F
I-20]と、の比率[(F
I-20/F
S)×100(%)]が2%以上50%以下である請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記表面樹脂層における最外表面でのフッ素原子量[F
S]が5atm%以上22atm%以下である請求項1又は請求項2に記載の積層体。
【請求項4】
前記最外表面でのフッ素原子量[F
S]が15atm%以上22atm%以下である請求項3に記載の積層体。
【請求項5】
前記ポリアクリルウレタン樹脂における前記フッ素原子の含有量が1.5質量%以上8.0質量%以下である請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項6】
前記樹脂組成物は、前記アクリル樹脂中の全水酸基の量[OH
A]と、前記ポリオール中の全水酸基の量[OH
P]と、のモル比[OH
A/OH
P]が0.1以上4以下である請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項7】
前記表面樹脂層は、平均厚さが10μm以上100μm以下である請求項1~請求項6のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項8】
前記皮革が、ポリウレタン系合成皮革、塩化ビニル系合成皮革、天然皮革からなる群より選択される少なくとも一種である請求項1~請求項7のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項9】
前記樹脂組成物が、イソシアネート基に対して反応性を示す複数の官能基を有するシリコーン樹脂を含み、
前記表面樹脂層における最外表面でのフッ素原子量[F
S]が22atm%以下で、かつ前記最外表面でのケイ素原子量[S
S]が2atm%以上6atm%以下であり、前記最外表面の2mm四方の範囲を出力5kVのアルゴンガスクラスターイオン銃で1分間エッチングした後の表面でのフッ素原子量[F
I-1]と前記[F
S]との比率[(F
I-1/F
S)×100(%)]が0%以上70%以下で、かつ前記最外表面の2mm四方の範囲を出力5kVのアルゴンガスクラスターイオン銃で1分間エッチングした後の表面でのケイ素原子量[S
I-1]と前記[S
S]との比率[(S
I-1/S
S)×100(%)]が20%以上70%以下である請求項1~請求項8のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項10】
前記シリコーン樹脂は、前記官能基を1つの分子構造中に2つ有するシリコーン樹脂である請求項9に記載の積層体。
【請求項11】
前記シリコーン樹脂は、前記官能基として、アミノ基、ヒドロキシアルキル基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、シラノール基及びエポキシ基からなる群から選択される少なくとも1種の基を有する請求項9又は請求項10に記載の積層体。
【請求項12】
前記硬化物の前記比率[(F
I-1/F
S)×100(%)]が10%以上50%以下で、前記比率[(S
I-1/S
S)×100(%)]が30%以上60%以下である請求項9~請求項11のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項13】
前記比率[(F
I-20/F
S)×100(%)]が40%以下で、かつ前記最外表面の2mm四方の範囲を出力5kVのアルゴンガスクラスターイオン銃で20分間エッチングした後の表面でのケイ素原子量[S
I-20]と前記[S
S]との比率[(S
I-20/S
S)×100(%)]が0%以上40%以下である請求項9~請求項12のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項14】
前記シリコーン樹脂の含有量が前記硬化物に対して、0.1質量%以上1質量%以下である請求項9~請求項13のいずれか1項に記載の積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、様々な分野において、表面での傷付きを抑制する観点から表面保護膜等の表面保護樹脂部材を設けることが行われている。そして、近年では耐傷性のために表面を保護する部材としてウレタン樹脂等の樹脂層が多く用いられている。
【0003】
例えば、特許文献1には、繊維基材シートの表面に、銀面層を積層した皮革様シートであって、前記銀面層は、形状記憶性ポリウレタンエラストマーを含有する層を有することを特徴とする皮革様シートが開示されている。
【0004】
また特許文献2には、基材の少なくとも片面に熱可塑性ポリウレタンエラストマーを主成分とする樹脂層を積層した合成樹脂レザーであって、前記樹脂層の樹脂成分は、ポリカプロラクトン系熱可塑性ポリウレタンエラストマーが80~95重量%であり、アクリル系軟質樹脂が5~20重量%であることを特徴とする合成樹脂レザーが開示されている。
【0005】
また特許文献3には、繊維質基材の一方の面に、ポリウレタン樹脂からなる表皮層と、防汚層と、を順次積層してなる合成皮革であって、前記防汚層が乾燥固形分としてフッ素系樹脂25~45質量%、シリコーン系化合物1~30質量%、ポリウレタン樹脂3~20質量%を含んでなることを特徴とする合成皮革が開示されている。
【0006】
また特許文献4には、高い可撓性や良好な強度に加えて、繰り返し受ける擦れ現象に対しての耐摩耗性と、人体の接触に対しての耐薬品性を有する合成樹脂レザーを提供することを目的として、ポリカーボネートウレタンとエステルウレタンの混合物をカルボジイミドで架橋させた表面処理剤を、塩化ビニル樹脂を主成分とする皮膜1の表面側に塗布することで、屈曲性及び耐摩耗性と耐オレイン酸性に優れた表面処理層1aが形成される皮革が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2016-211129号公報
【文献】特開2012-193481号公報
【文献】特開2015-214773号公報
【文献】国際公開第2014/109177号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
皮革表面は表面が軟らかいことから、研磨粒子が含有されたスポンジやブラシ等で強くこすると、擦り傷が生じて、美観を損ねることがあった。また、このような擦り傷からの保護を目的として、皮革部材にウレタン層からなる表面コート部材を積層したものが使用されているが、そのような積層体では、皮革部材が透湿性を有することからウレタン層の表面側だけでなく裏側(皮革側)からも水分が到達することがある。ウレタン層の皮革側からウレタン層に水分が到達すると、ウレタン層の加水分解が促進され、経時でコート部材が剥がれてしまうことがあった。
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、皮革からなる支持基材と、前記支持基材に接して配置される表面樹脂層とを有する積層体であって、表面樹脂層に含有されるポリアクリルウレタン樹脂が、水酸基価40mgKOH/g以上280mgKOH/g以下であり、フッ素原子を含まないアクリル樹脂と、複数の反応性基を有し且つ前記反応性基が炭素数6以上の炭素鎖を介するポリオールと、多官能イソシアネートと、からなる樹脂組成物の硬化物である場合に比べ、支持基材と表面樹脂層との経時的な密着性に優れる積層体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題は、以下の手段により解決される。
<1>
皮革からなる支持基材と、前記支持基材に接して配置される表面樹脂層であって、水酸基価40mgKOH/g以上280mgKOH/g以下であり、フッ素原子を含むアクリル樹脂と、複数のヒドロキシル基を有し且つ前記ヒドロキシル基が炭素数6以上の炭素鎖を介するポリオールと、多官能イソシアネートと、を含む樹脂組成物の硬化物であるポリアクリルウレタン樹脂を含有する表面樹脂層と、を有する積層体。
<2>
前記表面樹脂層における最外表面でのフッ素原子量[FS]と、前記最外表面の2mm四方の範囲を出力5kVのアルゴンガスクラスターイオン銃で20分間エッチングした後の表面でのフッ素原子量[FI-20]と、の比率[(FI-20/FS)×100(%)]が2%以上50%以下である<1>に記載の積層体。
<3>
前記表面樹脂層における最外表面でのフッ素原子量[FS]が5atm%以上22atm%以下である<1>又は<2>に記載の積層体。
<4>
前記最外表面でのフッ素原子量[FS]が15atm%以上22atm%以下である<3>に記載の積層体。
<5>
前記ポリアクリルウレタン樹脂における前記フッ素原子の含有量が1.5質量%以上8.0質量%以下である<1>~<4>のいずれか1つに記載の積層体。
<6>
前記樹脂組成物は、前記アクリル樹脂中の全水酸基の量[OHA]と、前記ポリオール中の全水酸基の量[OHP]と、のモル比[OHA/OHP]が0.1以上4以下である<1>~<5>のいずれか1つに記載の積層体。
<7>
前記表面樹脂層は、平均厚さが10μm以上100μm以下である<1>~<6>のいずれか1つに記載の積層体。
<8>
前記皮革が、ポリウレタン系合成皮革、塩化ビニル系合成皮革、天然皮革からなる群より選択される少なくとも一種である<1>~<7>のいずれか1つに記載の積層体。
<9>
前記樹脂組成物が、イソシアネート基に対して反応性を示す複数の官能基を有するシリコーン樹脂を含み、
前記表面樹脂層における最外表面でのフッ素原子量[FS]が22atm%以下で、かつ前記最外表面でのケイ素原子量[SS]が2atm%以上6atm%以下であり、前記最外表面の2mm四方の範囲を出力5kVのアルゴンガスクラスターイオン銃で1分間エッチングした後の表面でのフッ素原子量[FI-1]と前記[FS]との比率[(FI-1/FS)×100(%)]が0%以上70%以下で、かつ前記最外表面の2mm四方の範囲を出力5kVのアルゴンガスクラスターイオン銃で1分間エッチングした後の表面でのケイ素原子量[SI-1]と前記[SS]との比率[(SI-1/SS)×100(%)]が20%以上70%以下である<1>~<8>のいずれか1つに記載の積層体。
<10>
前記シリコーン樹脂は、前記官能基を1つの分子構造中に2つ有するシリコーン樹脂である<9>に記載の積層体。
<11>
前記シリコーン樹脂は、前記官能基として、アミノ基、ヒドロキシアルキル基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、シラノール基及びエポキシ基からなる群から選択される少なくとも1種の基を有する<9>又は<10>に記載の積層体。
<12>
前記硬化物の前記比率[(FI-1/FS)×100(%)]が10%以上50%以下で、前記比率[(SI-1/SS)×100(%)]が30%以上60%以下である<9>~<11>のいずれか1つに記載の積層体。
<13>
前記比率[(FI-20/FS)×100(%)]が40%以下で、かつ前記最外表面の2mm四方の範囲を出力5kVのアルゴンガスクラスターイオン銃で20分間エッチングした後の表面でのケイ素原子量[SI-20]と前記[SS]との比率[(SI-20/SS)×100(%)]が0%以上40%以下である<9>~<12>のいずれか1つに記載の積層体。
<14>
前記シリコーン樹脂の含有量が前記硬化物に対して、0.1質量%以上1質量%以下である<9>~<13>のいずれか1つに記載の積層体。
【発明の効果】
【0011】
<1>、<7>、又は<8>に係る発明によれば、
皮革からなる支持基材と、前記支持基材に接して配置される表面樹脂層とを有する積層体であって、表面樹脂層に含有されるポリアクリルウレタン樹脂が、水酸基価40mgKOH/g以上280mgKOH/g以下であり、フッ素原子を含まないアクリル樹脂と、複数の反応性基を有し且つ前記反応性基が炭素数6以上の炭素鎖を介するポリオールと、多官能イソシアネートと、からなる樹脂組成物の硬化物である場合に比べ、支持基材と表面樹脂層との経時的な密着性に優れる積層体が提供される。
<2>に係る発明によれば、
表面樹脂層における最外表面でのフッ素原子量[FS]と、前記最外表面の2mm四方の範囲を出力5kVのアルゴンガスクラスターイオン銃で20分間エッチングした後の表面でのフッ素原子量[FI-20]と、の比率[(FI-20/FS)×100(%)]が2%未満又は50%超えである場合に比べ、支持基材と表面樹脂層との経時的な密着性に優れる積層体が提供される。
<3>に係る発明によれば、
最外表面でのフッ素原子量[FS]が5atm%未満又は22atm%超えである場合に比べ、支持基材と表面樹脂層との経時的な密着性に優れる積層体が提供される。
<4>に係る発明によれば、
最外表面でのフッ素原子量[FS]が15atm%未満又は22atm%超えである場合に比べ、支持基材と表面樹脂層との経時的な密着性に優れる積層体が提供される。
<5>に係る発明によれば、
ポリアクリルウレタン樹脂における前記フッ素原子の含有量が1.5質量%未満又は8.0質量%超えである場合に比べ、支持基材と表面樹脂層との経時的な密着性に優れる積層体が提供される。
<6>に係る発明によれば、
樹脂組成物が、前記アクリル樹脂中の全水酸基の量[OHA]と、前記ポリオール中の全水酸基の量[OHP]と、のモル比[OHA/OHP]が0.1未満又は4超えである場合に比べ、支持基材と表面樹脂層との経時的な密着性に優れる積層体が提供される。
<9>、に係る発明によれば、
表面樹脂層が、
水酸基価40mgKOH/g以上280mgKOH/g以下であり、フッ素原子を含むアクリル樹脂と、複数のヒドロキシル基を有し且つ前記ヒドロキシル基が炭素数6以上の炭素鎖を介するポリオールと、多官能イソシアネートと、からなる樹脂組成物の硬化物である場合、
水酸基価40mgKOH/g以上280mgKOH/g以下であり、フッ素原子を含まないアクリル樹脂と、複数のヒドロキシル基を有し且つ前記ヒドロキシル基が炭素数6以上の炭素鎖を介するポリオールと、イソシアネート基に対して反応性を示す複数の官能基を有するシリコーン樹脂と、多官能イソシアネートと、からなる樹脂組成物の硬化物である場合、又は、
水酸基価40mgKOH/g以上280mgKOH/g以下であり、フッ素原子を含むアクリル樹脂と、複数のヒドロキシル基を有し且つ前記ヒドロキシル基が炭素数6以上の炭素鎖を介するポリオールと、イソシアネート基に対して反応性を示す官能基を1つのみ有するシリコーン樹脂と、多官能イソシアネートと、からなる樹脂組成物の硬化物である場合に比べて、形状変化に対する表面層の基材への追従性(以下、単に「形状追従性」ともいう。)に優れる積層体が提供される。
<10>に係る発明によれば、
シリコーン樹脂が、1つの分子構造中に前記官能基を1つ有するシリコーン樹脂である場合に比べて、形状追従性に優れる積層体が提供される。
<11>に係る発明によれば、
シリコーン樹脂が、前記官能基として、アルキル基、又はアリール基を有するシリコーン樹脂である場合に比べて、形状追従性に優れる積層体が提供される。
<12>に係る発明によれば、
硬化物の前記比率[(FI-1/FS)×100(%)]が10%未満又は50%超えである場合、あるいは前記比率[(SI-1/SS)×100(%)]が30%未満又は60%超えである場合に比べて、形状追従性に優れる積層体が提供される。
<13>に係る発明によれば、
最外表面の2mm四方の範囲を出力5kVのアルゴンガスクラスターイオン銃で20分間エッチングした後の表面でのフッ素原子量[FI-20]と前記[FS]との比率[(FI-20/FS)×100(%)]が40%超えである場合、又は最外表面の2mm四方の範囲を出力5kVのアルゴンガスクラスターイオン銃で20分間エッチングした後の表面でのケイ素原子量[SI-20]と前記[SS]との比率[(SI-20/SS)×100(%)]が40%超えである場合に比べて、形状追従性に優れる積層体が提供される。
<14>に係る発明によれば、
シリコーン樹脂の含有量が前記硬化物に対して、0.1質量%未満又は1質量%超えである場合に比べて形状追従性に優れる積層体が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施形態について以下説明する。なお、本実施形態は本発明を実施する一例であって、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0013】
<積層体>
本実施形態に係る積層体は、皮革からなる支持基材(以下単に「基材」とも称す)と、前記支持基材に接して配置される表面樹脂層(以下単に「表面層」とも称す)と、を有する。
表面樹脂層は、水酸基価40mgKOH/g以上280mgKOH/g以下であり、フッ素原子を含むアクリル樹脂(以下単に「特定アクリル樹脂」とも称す。)と、複数のヒドロキシル基を有し且つ前記ヒドロキシル基が炭素数6以上の炭素鎖を介するポリオール(以下単に「長鎖ポリオール」とも称す。)と、多官能イソシアネートと、を含む樹脂組成物の硬化物であるポリアクリルウレタン樹脂を含む。
【0014】
本実施形態に係る積層体は、上記の構成を満たすことにより、支持基材と表面樹脂層との経時的な密着性に優れる。
その理由は、以下のように推察される。
【0015】
まず、本実施形態における表面層は、特定アクリル樹脂(a)、長鎖ポリオール(b)、及び多官能イソシアネート(c)を含む樹脂組成物の重合物であるポリアクリルウレタン樹脂を含む。なお、この重合物は、特定アクリル樹脂(a)中のOH基及び長鎖ポリオール(b)中のOH基と多官能イソシアネート(c)中のイソシアネート基とが反応して形成されたウレタン結合(-NHCOO-)を有している。つまり、特定アクリル樹脂(a)が長鎖ポリオール(b)と多官能イソシアネート(c)を介して架橋構造を形成している。この構造を備えるポリアクリルウレタン樹脂を有することにより、本実施形態に係る積層体には自己修復性が付与されるものと考えられる。なお、自己修復性とは、他の物質との接触(例えば擦り)等によって表面に傷が生じた場合であっても、その傷が修復されて元の状態又はそれに近い状態に復元される性質を指す。
そして、本実施形態における表面層は、上記のポリアクリルウレタン樹脂を有しており、このポリアクリルウレタン樹脂は、フッ素原子を構造中に有しているため、表面層の疎水性が高く、表面層と基材との経時的な密着性の劣化の原因となる水分を浸透させにくい。更に、フッ素原子は、ポリアクリルウレタン樹脂を構成するアクリル鎖に結合しており、フッ素原子が遊離しにくいため、長期間にわたって水分の浸透を抑制する効果が持続されるものと考えられる。
【0016】
(フッ素原子量の比率)
本実施形態では、表面層において、最外表面でのフッ素原子量[FS]と、前記最外表面の2mm四方の範囲を出力5kVのアルゴンガスクラスターイオン銃で20分間エッチングした後の表面でのフッ素原子量[FI-20]と、の比率[(FI-20/FS)×100(%)]が2%以上50%以下であることが好ましい。
【0017】
上記比率[FI-20/FS×100(%)]が2%以上50%以下であることは、フッ素原子が表面層の最外表面側に高密度で存在し、一方表面層の内部ではフッ素原子が低密度になっていることを示す。従って、上記範囲とすることにより、基材との界面におけるフッ素原子の影響が抑制され、表面層と基材との密着性が高まりやすくなる。
更に、本実施形態における表面層では、上記のようにフッ素原子が最外表面側に高密度で存在していると、表面エネルギーが低減され、これによって防汚性も高められる。
【0018】
なお、上記比率[(FI-20/FS)×100(%)]は、基材と表面層との経時的な密着性の向上の観点から、40%以下であることがより好ましく、30%以下であることが更に好ましく、又、防汚性、及び上記密着性の観点から、1%以上であることがより好ましく、2%以上であることが更に好ましい。
【0019】
また、本実施形態では、表面層において、最外表面でのフッ素原子量[FS]と、前記最外表面の2mm四方の範囲を出力5kVのアルゴンガスクラスターイオン銃で40分間エッチングした後の表面でのフッ素原子量[FI-40]と、の比率[(FI-40/FS)×100(%)]が2%以上50%以下であることが好ましく、2%以上40%以下であることがより好ましい。
【0020】
(ケイ素原子量の比率及びフッ素原子量の比率)
本実施形態では、形状追従性を向上させる観点から、表面樹脂層における最外表面でのフッ素原子量[FS]が22atm%以下(より好ましくは12atm%以上22atm%以下)で、かつ前記最外表面でのケイ素原子量[SS]が2atm%以上6atm%以下であり、前記最外表面の2mm四方の範囲を出力5kVのアルゴンガスクラスターイオン銃で1分間エッチングした後の表面でのフッ素原子量[FI-1]と前記[FS]との比率[(FI-1/FS)×100(%)]が0%以上70%以下で、かつ前記最外表面の2mm四方の範囲を出力5kVのアルゴンガスクラスターイオン銃で1分間エッチングした後の表面でのケイ素原子量[SI-1]と前記[SS]との比率[(SI-1/SS)×100(%)]が20%以上70%以下であることが好ましい。
【0021】
また、硬化物における前記比率[(FI-1/FS)×100(%)]は、形状追従性を向上させる観点から、10%以上50%以下であることが好ましく、10%以上40%以下であることがより好ましい。同様の観点から、前記比率[(SI-1/SS)×100(%)]は30%以上60%以下であることが好ましく、10%以上50%以下であることがより好ましい。
【0022】
本実施形態では、表面層において、形状追従性の観点から、前記比率[(FI-20/FS)×100(%)]が40%以下(より好ましくは0%以上40%以下)で、かつ前記最外表面の2mm四方の範囲を出力5kVのアルゴンガスクラスターイオン銃で20分間エッチングした後の表面でのケイ素原子量[SI-20]と前記[SS]との比率[(SI-20/SS)×100(%)]が0%以上40%以下であることが好ましい。
同様の観点から、前記比率[(FI-20/FS)×100(%)]が10%以上40%以下で、かつ前記最外表面の2mm四方の範囲を出力5kVのアルゴンガスクラスターイオン銃で20分間エッチングした後の表面でのケイ素原子量[SI-20]と前記[SS]との比率[(SI-20/SS)×100(%)]が10%以上50%以下であることが好ましい。
【0023】
なお、比率[(FI-1/FS)×100(%)]及び比率[(SI-1/SS)×100(%)]を上記の数値範囲に制御するには、例えば上記樹脂組成物の硬化物に対して、イソシアネート基に対して反応性を示す複数の官能基を有するシリコーン樹脂を0.1質量%以上1質量%以下となるように、樹脂組成物に配合させることで達成することができる。
比率[(SI-20/SS)×100(%)]及び比率[(FI-20/FS)×100(%)]を上記の数値範囲に制御する方法も同様である。
【0024】
ここで、フッ素原子量及びケイ素原子量の測定方法について説明する。
フッ素原子量はXPS(X線光電子分光法)によって測定する。具体的には、アルバック・ファイ株式会社製のXPS分析装置(型式:PHI5000 Versa Probe II)を用いて、以下の条件にてXPSにより、炭素原子量、酸素原子量、窒素原子量、フッ素原子量及びケイ素原子量をそれぞれ測定し、これら5元素の合計原子量に対するフッ素原子分率(atm%)およびケイ素原子分率(atm%)をそれぞれ算出する。
【0025】
-測定条件-
X線源:単色化AlKa
出力:25W、15kV
検出面積:100μmφ
入射角:90度
取り出し角:45度
帯電中和:中和銃条件1.0V/イオン銃10V
【0026】
また、表面層に対するエッチング方法について説明する。
具体的には、表面層における最外表面の2mm四方の範囲を出力5kVのアルゴンガスクラスターイオン銃でエッチングする。
-エッチング条件-
エッチング銃:アルゴンガスクラスターイオン銃
加速電圧:5kV
掃引領域:2mm×2mm
レート:5nm/min(ポリエステル換算)
【0027】
本実施形態では、表面層において、高い防汚性を得る観点から、最外表面でのフッ素原子量[FS]が、5atm%以上22atm%以下であることが好ましく、15atm%以上22atm%以下であることがより好ましい。
【0028】
本実施形態における表面層において、フッ素原子量[FS]を上記範囲とするには、例えば表面層に含まれるポリアクリルウレタン樹脂の全量に対して、フッ素原子が1.5質量%以上8.0質量%以下となるように配合させることで達成し得る。
ポリアクリルウレタン樹脂中のフッ素原子量が、8.0質量%を超えると疎水性が高くなりすぎるため、表面層が不均一になるため好ましくない。フッ素原子量が1.5質量%より小さくなると、フッ素量が少なすぎることから、十分な疎水性が得られず、加水分解が発生し易くなる。
【0029】
さらに、基材と表面層との経時的な密着性を得る観点から、表面層において、最外表面でのフッ素原子量[FS]と、基材との界面でのフッ素原子量[FB]と、の比率[FB/FS×100(%)]は、1%以上40%以下であることが好ましい。また、より好ましくは1%以上35%以下であり、さらに好ましくは2%以上35%以下である。
【0030】
ここで、表面層の基材との界面でのフッ素原子量[FB]の測定方法について説明する。界面でのフッ素原子量[FB]の測定は、傾斜を有する切片を作製してその断面について測定することで行う。
まず、基材と表面層とを有する積層体から、ミクロトームで角度θの傾斜を有する切片を作製する。なお、切片の作製には、特開2004-219261号に記載の方法を用い得る。この切片における傾斜において、基材と表面層との界面におけるフッ素原子量を、前述の方法により測定する。なお、前記θは0.5°以上2°以下の間の角度とする。
【0031】
(フッ素原子量の比率の達成方法)
次いで、比率[FI-20/FS×100(%)]を前記範囲に制御する方法について説明する。なお、比率[FI-40/FS×100(%)]、[FI-1/FS×100(%)]及び比率[FB/FS×100(%)]も、下記の方法によって制御する事が出来る。
上記達成方法については、特に限定されるものではないが、例えば以下の方法が挙げられる。
【0032】
達成方法(1)
表面層を構成するポリアクリルウレタン樹脂は、特定アクリル樹脂(a)と長鎖ポリオール(b)と多官能イソシアネート(c)との硬化物である。なお、フッ素原子は、長鎖ポリオール(b)及び多官能イソシアネート(c)との相溶性が低いことから、特定アクリル樹脂(a)が表面層の最外表面側に配向し易く、一方長鎖ポリオール(b)及び多官能イソシアネート(c)が基材との界面側に配向し易い。これにより、比率[FI-20/FS×100(%)]が前記範囲に制御され易くなると考えられる。
【0033】
達成方法(2)
また、比率[FI-20/FS×100(%)]を前記範囲に制御する観点から、基材に含まれる樹脂のSP値(溶解度パラメータ)が8.1以上であることが好ましい。基材中の樹脂のSP値が8.1以上であることで、比率[FI/FS×100(%)]が前記範囲に制御され易くなる理由は、以下のように推察される。
樹脂のSP値が高くなると、樹脂の分子構造内における極性成分が大きくなる。この極性成分の存在により、長鎖ポリオール(b)及び多官能イソシアネート(c)を基材との界面側に配向させ易くし、一方特定アクリル樹脂(a)を表面層の最外表面側に配向させ易くするものと考えられる。
また、基材中に上記極性成分が存在することで、ポリアクリルウレタン樹脂が有する水酸基等の官能基と結合し、表面層と基材との密着性が、より向上するものと考えられる。
【0034】
以上の観点から、基材に含まれる樹脂のSP値(溶解度パラメータ)は8.1以上であることが好ましく、より好ましくは8.15以上であり、さらに好ましくは8.2以上である。一方、基材の安定性との観点から、上記SP値の上限値は、20以下であることが好ましく、より好ましくは18以下であり、さらに好ましくは16以下である。
【0035】
なお、SP値が8.1以上である樹脂、つまり分子構造内に極性成分を多く含む樹脂としては、例えばポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアクリレート樹脂等が挙げられる。これらの樹脂の少なくとも一種を基材中に含むことで、表面層中における長鎖ポリオール(b)及び多官能イソシアネート(c)が基材との界面側に配向し易くなると考えられる。
【0036】
ここで、樹脂のSP値の算出方法について説明する。
樹脂のモノマー組成を公知の方法で解析した上で、Fedor法(具体的には、Polym.Eng.Sci.,14[2](1974)に記載の方法)により、下記式を用いて計算される。
SP値=(ΣΔei/ΣΔvi)1/2
Δei:原子または原子団の蒸発エネルギー
Δvi:原子または原子団のモル体積
【0037】
達成方法(3)
また、達成方法として、特定アクリル樹脂(a)として、樹脂の分子構造における側鎖にフッ素原子を含むアクリル樹脂を用いる方法が挙げられる。
特定アクリル樹脂(a)の側鎖に存在するフッ素原子は、表面層中でも柔軟に動き得るものと考えられ、つまりフッ素原子を有する側鎖の部分が表面層の最外表面に表出する可動性を備えるものと考えられる。そのため、特定アクリル樹脂(a)を表面層の最外表面側に配向させ易くし、一方長鎖ポリオール(b)及び多官能イソシアネート(c)を基材との界面側に配向させ易くするものと考えられる。
【0038】
次いで、本実施形態に係る積層体を構成する各部材について詳述する。
【0039】
[支持基材]
本実施形態に係る積層体は、皮革からなる支持基材を有する。
【0040】
皮革としては、合成皮革、及び天然皮革のいずれであってもよく、種々の表面処理加工がされていてもよい。皮革として、例えばポリウレタン系合成皮革、塩化ビニル系合成皮革、天然皮革からなる群より選択される少なくとも一種であることが挙げられる。
【0041】
(支持基材の物性)
基材の厚さ(平均厚さ)は、特に限定されるものではないが、積層体の強度の観点から、例えば30μm以上が好ましく、50μm以上がより好ましく、75mm以上がさらに好ましい。
なお、基材の平均厚さは、基材について無作為に選んだ10箇所での厚さの算術平均とする。
【0042】
[表面樹脂層]
本実施形態に係る積層体は、基材に接して配置される表面樹脂層(表面層)を有する。
【0043】
表面層は、ポリアクリルウレタン樹脂を主成分として含んでいることが好ましく、具体的には表面層の全量に対するポリアクリルウレタン樹脂の含有量が20%以上であることが好ましく、30%以上であることがより好ましく、50%以上であることがさらに好ましく、100%であってもよい。
【0044】
本実施形態に係る表面層に含有されるポリアクリルウレタン樹脂は、特定アクリル樹脂(a)、長鎖ポリオール(b)、及び多官能イソシアネート(c)を少なくとも含む樹脂組成物が重合されてなる。
また、本実施形態では、形状追従性の観点から、前記樹脂組成物に、更に、イソシアネート基に対して反応性を示す複数の官能基を有するシリコーン樹脂(以下、「イソシアネート基反応性シリコーン樹脂」ともいう。)を含むことが好ましい。
【0045】
(a)特定アクリル樹脂
本実施形態では、アクリル樹脂としてヒドロキシル基(-OH)を有する特定アクリル樹脂が用いられる。この特定アクリル樹脂の水酸基価は40mgKOH/g以上280mgKOH/g以下である。
ヒドロキシル基を有する特定アクリル樹脂としては、分子構造中にヒドロキシル基を有するものに加えて、カルボキシ基を有するものも含まれる。
【0046】
ヒドロキシル基は、例えば特定アクリル樹脂の原料となるモノマーとしてヒドロキシル基を有するモノマーを用いることで導入される。ヒドロキシル基を有するモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸ヒドロキシメチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシブチル、及びN-メチロールアクリルアミン等の、(1)ヒドロキシル基を有するエチレン性モノマー等が挙げられる。
また、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、フマル酸、及びマレイン酸等の、(2)カルボキシ基を有するエチレン性モノマーを用いてもよい。
【0047】
また、特定アクリル樹脂の原料となるモノマーには、ヒドロキシル基を有しないモノマーを併用してもよい。ヒドロキシル基を有しないモノマーとしては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸n-オクチル、及び(メタ)アクリル酸n-ドデシル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステルなど、前記モノマー(1)及び(2)と共重合し得るエチレン性モノマーが挙げられる。
【0048】
なお、本明細書において「(メタ)アクリル酸」とは、アクリル酸及びメタクリル酸の両者を含むことを意味する。
【0049】
・フッ素原子
特定アクリル樹脂は、分子構造中にフッ素原子を有する。
フッ素原子は、例えば特定アクリル樹脂の原料となるモノマーとしてフッ素原子を有するモノマーを用いることで導入される。フッ素原子を有するモノマーとしては、2-(パーフルオロブチル)エチルアクリレート、2-(パーフルオロブチル)エチルメタクリレート、2-(パーフルオロヘキシル)エチルアクリレート、2-(パーフルオロヘキシル)エチルメタクリレート、パーフルオロヘキシルエチレン、ヘキサフルオロプロペン、ヘキサフルオロプロペンエポキサイド、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)等が挙げられる。
【0050】
フッ素原子は、特定アクリル樹脂の側鎖に含まれることが好ましい。なお、フッ素原子を含む側鎖の炭素数としては、例えば2以上20以下のものが挙げられる。またフッ素原子を含む側鎖における炭素鎖は、直鎖状であっても分岐状であってもよい。
フッ素原子を有するモノマー1分子に含まれるフッ素原子数は特に限定されないが、例えば1以上25以下が好ましく、3以上17以下がより好ましい。
【0051】
特定アクリル樹脂全体に対する、フッ素原子の割合としては、0.1質量%以上50質量%以下が好ましく、1質量%以上20質量%以下が更に好ましい。
【0052】
・水酸基価
特定アクリル樹脂の水酸基価は40mgKOH/g以上280mgKOH/g以下である。前記水酸基価は、70mgKOH/g以上250mgKOH/g以下がより好ましい。
水酸基価が40mgKOH/g以上であることにより架橋密度が高いポリアクリルウレタン樹脂が重合され、表面層内部への汚染物質の浸透が抑制され、優れた防汚性が得られる。一方、280mgKOH/g以下であることにより適度な柔軟性をもつポリアクリルウレタン樹脂が得られ、また特定アクリル樹脂を溶解させた溶液の粘度が低減され、表面層の形成性に優れる。
特定アクリル樹脂の水酸基価は、特定アクリル樹脂を合成する全モノマー中における、ヒドロキシル基を有するモノマーの割合等によって調整される。
【0053】
なお、水酸基価とは、試料1g中の水酸基(ヒドロキシル基)をアセチル化するために要する水酸化カリウムのmg数を表す。本実施形態における水酸基価の測定は、JIS K0070(1992年)に定められた方法(電位差滴定法)に準じて測定される。但しサンプルが溶解しない場合は溶媒にジオキサン、テトラヒドロフラン(THF)等の溶媒が用いられる。
【0054】
特定アクリル樹脂の合成は、例えば、前述のモノマーを混合し通常のラジカル重合やイオン重合等を行った後、精製することによって行なわれる。
【0055】
(b)長鎖ポリオール
長鎖ポリオールは、複数のヒドロキシル基(-OH)を有し、且つ前記ヒドロキシル基が炭素数(ヒドロキシル基同士を結ぶ直鎖の部分における炭素数)が6以上の炭素鎖を介するポリオールである。つまり、長鎖ポリオールは全てのヒドロキシル基同士が炭素数(ヒドロキシル基同士を結ぶ直鎖の部分における炭素数)が6以上の炭素鎖によって連結されるポリオールである。
【0056】
長鎖ポリオールは、官能基数(すなわち、長鎖ポリオール1分子中に含まれるヒドロキシル基の数)が、例えば2以上5以下の範囲が挙げられ、2以上3以下であってもよい。
【0057】
長鎖ポリオールにおける炭素数が6以上の炭素鎖とは、ヒドロキシル基同士を結ぶ直鎖の部分における炭素数が6以上である鎖を表す。炭素数が6以上の炭素鎖としては、アルキレン基、又は1種以上のアルキレン基と-O-、-C(=O)-、及び-C(=O)-O-から選択される1つ以上の基とを組み合わせてなる2価の基が挙げられる。ヒドロキシル基が炭素数6以上の炭素鎖を介する長鎖ポリオールは、-[CO(CH2)n1O]n2-H(ここで、n1は1以上10以下(好ましくは3以上6以下、より好ましくは5)を表し、n2は1以上50以下(好ましくは1以上35以下、より好ましくは1以上10以下、さらに好ましくは2以上6以下)を表す。)の構造を有することが好ましい。
【0058】
長鎖ポリオールとしては、例えば、2官能ポリカプロラクトンジオール、3官能ポリカプロラクトントリオール、4官能以上のポリカプロラクトンポリオール等が挙げられる。
【0059】
2官能ポリカプロラクトンジオールとしては、例えば-[CO(CH2)n11O]n12-H(ここで、n11は1以上10以下(好ましくは3以上6以下、より好ましくは5)を表し、n12は1以上50以下(好ましくは3以上35以下)を表す。)で表される、末端にヒドロキシル基を有する基を2つ有する化合物が挙げられる。中でも、下記一般式(1)で表される化合物が好ましい。
【0060】
【0061】
(一般式(1)中、Rはアルキレン基、又はアルキレン基と、-O-及び-C(=O)-から選択される1つ以上の基とを組み合わせてなる2価の基を表し、m及びnはそれぞれ独立に1以上35以下の整数を表す。)
【0062】
一般式(1)中、Rで表される2価の基に含まれるアルキレン基は、直鎖状であっても分枝鎖状であってもよい。該アルキレン基としては、例えば炭素数1以上10以下のアルキレン基が好ましく、炭素数1以上5以下のアルキレン基がより好ましい。
Rで表される2価の基としては、炭素数1以上10以下(好ましくは炭素数2以上5以下)の直鎖状もしくは分枝鎖状のアルキレン基が好ましく、また炭素数1以上5以下(好ましくは炭素数1以上3以下)の直鎖状もしくは分枝鎖状のアルキレン基2つが-O-もしくは-C(=O)-(好ましくは-O-)で連結されてなる基が好ましい。これらの中でも、*-C2H4-*、*-C2H4OC2H4-*、又は*-C(CH3)2-(CH2)2-*で表される2価の基がより好ましい。なお、上記に列挙した2価の基は、それぞれ「*」部分で結合する。
m及びnは、それぞれ独立に1以上35以下の整数を表し、2以上10以下であることが好ましく、2以上5以下であることがより好ましい。
【0063】
3官能ポリカプロラクトントリオールとしては、例えば-[CO(CH2)n21O]n22-H(ここで、n21は1以上10以下(好ましくは3以上6以下、より好ましくは5)を表し、n22は1以上50以下(好ましくは1以上28以下)を表す。)で表される、末端にヒドロキシル基を有する基を3つ有する化合物が挙げられる。中でも、下記一般式(2)で表される化合物が好ましい。
【0064】
【0065】
(一般式(2)中、Rはアルキレン基から水素原子を1つ除いた3価の基、又はアルキレン基から水素原子を1つ除いた3価の基と、アルキレン基、-O-、及び-C(=O)-から選択される1つ以上の基とを組み合わせてなる3価の基を表す。l、m、及びnはそれぞれ独立に1以上28以下の整数を表し、l+m+nは3以上30以下である。)
【0066】
一般式(2)中、Rがアルキレン基から水素原子を1つ除いた3価の基を表す場合、その基は直鎖状であっても分枝鎖状であってもよい。このアルキレン基から水素原子を1つ除いた3価の基としては、例えば炭素数1以上10以下のアルキレン基が好ましく、炭素数1以上6以下のアルキレン基がより好ましい。
また上記Rは、上記に示すアルキレン基から水素原子を1つ除いた3価の基と、アルキレン基(例えば炭素数1以上10以下のアルキレン基)、-O-、及び-C(=O)-から選択される1つ以上の基と、を組み合わせてなる3価の基であってもよい。
Rで表される3価の基としては、炭素数1以上10以下(好ましくは炭素数3以上6以下)の直鎖状もしくは分枝鎖状のアルキレン基から水素原子を1つ除いた3価の基が好ましい。これらの中でも、*-CH2-CH(-*)-CH2-*、CH3-C(-*)(-*)-(CH2)2-*、CH3CH2C(-*)(-*)(CH2)3-*で表される3価の基がより好ましい。なお、上記に列挙した3価の基は、それぞれ「*」部分で結合する。
l、m、及びnは、それぞれ独立に1以上28以下の整数を表し、2以上10以下であることが好ましく、2以上5以下であることがより好ましい。l+m+nは3以上30以下であり、6以上30以下であることが好ましく、6以上20以下であることがより好ましい。
【0067】
なお、長鎖ポリオールは1種のみを用いても、2種以上を併用してもよい。
【0068】
特定アクリル樹脂(a)に含まれる全水酸基の量[OHA]と、長鎖ポリオール(b)に含まれる全水酸基の量[OHP]と、のモル比[OHA/OHP]が0.1以上4以下であることが好ましく、0.15以上3以下であることがより好ましく、0.25以上2以下であることがさらに好ましい。
モル比[OHA/OHP]が0.1以上4以下であることで、ハードセグメントである特定アクリル樹脂(a)の量とソフトセグメントである長鎖ポリオール(b)の量との調和が高められ、表面層の自己修復性が高め易くなる。
【0069】
なお、長鎖ポリオールとしては、水酸基価が30mgKOH/g以上300mgKOH/g以下のものを用いることが好ましく、50mgKOH/g以上250mgKOH/g以下であることがより好ましい。水酸基価が30mgKOH/g以上であることにより、架橋密度が高いウレタン樹脂が重合され、一方300mgKOH/g以下であることにより、適度な柔軟性をもつウレタン樹脂が得易くなる。
【0070】
尚、上記水酸基価とは、試料1g中の水酸基(ヒドロキシル基)をアセチル化するために要する水酸化カリウムのmg数を表す。本実施形態における上記水酸基価の測定は、JIS K0070(1992年)に定められた方法(電位差滴定法)に準じて測定される。但しサンプルが溶解しない場合は溶媒にジオキサン、THF等の溶媒が用いられる。
【0071】
(c)多官能イソシアネート
多官能イソシアネート(c)はイソシアネート基(-NCO)を複数有する化合物であり、例えば特定アクリル樹脂(a)が有するヒドロキシル基、長鎖ポリオール(b)が有するヒドロキシル基等と反応してウレタン結合(-NHCOO-)を形成する。そして、特定アクリル樹脂(a)同士、特定アクリル樹脂(a)と長鎖ポリオール(b)、長鎖ポリオール(b)同士を架橋する架橋剤として機能する。
【0072】
多官能イソシアネートとしては、特に制限されるものではないが、例えばメチレンジイソシアネート、トルエンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等の、2官能のジイソシアネートが挙げられる。また、ヘキサメチレンポリイソシアネートの多量体でビュレット構造、イソシアヌレート構造、アダクト構造、弾性型構造などをもつ多官能イソシアネート等も好ましく用いられる。
なお、多官能イソシアネートとして市販品を用いてもよく、例えば旭化成(株)製のポリイソシアネート(デュラネート)等が挙げられる。
多官能イソシアネートは1種のみを用いても、2種以上を混ぜて用いてもよい。
【0073】
多官能イソシアネートの量としては、特定アクリル樹脂(a)及び長鎖ポリオール(b)中のヒドロキシル基(-OH)の総量に対して、イソシアネート基(-NCO)の割合がモル比で0.8以上1.6以下となる量に調整することが好ましく、さらにはモル比で1以上1.3以下が好ましい。
多官能イソシアネートの量が上記モル比で0.8以上であることで、架橋密度が高いウレタン樹脂が重合され、形成される表面層の自己修復性を高め易くなる。一方、多官能イソシアネートの量が上記モル比で1.6以下であることで、適度な弾性をもつウレタン樹脂が得易くなる。
【0074】
(d)イソシアネート基反応性シリコーン樹脂
本実施形態では、イソシアネート基に対して反応性を示す複数の官能基を有するシリコーン樹脂(イソシアネート基反応性シリコーン樹脂)が用いられる。
なお、特定アクリル樹脂(a)に多官能イソシアネート(c)を介してイソシアネート基反応性シリコーン樹脂(d)を反応させることで、特定アクリル樹脂(a)の側鎖にシロキサン結合が導入され、形成された表面層の摩擦係数が低減される。
【0075】
イソシアネート基反応性シリコーン樹脂が有する、イソシアネート基に対して反応性を示す官能基としては、例えばアミノ基(-N(-R11)(-R12)/なおR11及びR12はそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1以上3以下のアルキル基を表す)、ヒドロキシアルキル基(-R21-OH/なおR21は炭素数1以上10以下のアルキレン基を表す)、ヒドロキシル基(-OH)、カルボキシル基(-COOH)、シラノール基(-SiOH)、エポキシ基等が挙げられる。
これらの中でも、ヒドロキシアルキル基、又はヒドロキシル基が好ましい。
なお、イソシアネート基反応性シリコーン樹脂は、前記官能基を1つの分子構造中に2種以上有していてもよい。
【0076】
イソシアネート基反応性シリコーン樹脂が1つの分子構造中に有する前記官能基の数は、2種以上有していれば特に制限されるものではない。ただし、1つの分子構造中に前記官能基を2つ有するシリコーン樹脂であることがより好ましい。1つの分子構造中に有する前記官能基の数が2つであることで、イソシアネート基反応性シリコーン樹脂が特定アクリル樹脂と結合して固定される箇所が2箇所となる。そのため、シロキサン結合を有する鎖の動き易さがより向上して、ケイ素原子を有する部分が表面層において表面により表出し易くなり、表面層の摩擦係数がより低減され易くなる。
1つの分子構造中に前記官能基を2つ有する場合、表面層の摩擦係数をより低減し易くする観点から、前記官能基を有する位置はシリコーン樹脂の主鎖の末端(両末端)であることがより好ましい。
【0077】
イソシアネート基反応性シリコーン樹脂としては、例えば前記官能基をシリコーン樹脂の主鎖の少なくとも両末端に有する化合物が挙げられ、具体的には下記一般式(P1)で表される構造を有する化合物が挙げられる。
なお、イソシアネート基反応性シリコーン樹脂としては下記一般式(P1)で表される構造を有する化合物がより好ましい。
【0078】
【0079】
一般式(P1)中、X11及びX12はそれぞれ独立にイソシアネート基に対して反応性を示す官能基を、R31は水素原子、アルキル基、アリール基、アルキルアリール基、アリールアルキル基又はイソシアネート基に対して反応性を示す官能基を、m1は1以上の整数を、表す。なお、一般式(P1)中に複数存在するR31はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。
【0080】
一般式(P1)中、R31で表されるアルキル基は、直鎖状、分枝鎖状、又は環状のいずれであってもよい。アルキル基の炭素数は1以上8以下が好ましく、1以上3以下がより好ましい。該アルキル基としては、メチル基、エチル基、ブチル基等が挙げられ、中でもメチル基が好ましい。
【0081】
R31で表されるアリール基は、その炭素数は4以上20以下が好ましい。該アリール基としては、フェニル基、トルイル基、ナフチル基等が挙げられ、中でもフェニル基が好ましい。
【0082】
R31としては、それぞれ独立に、水素原子、メチル基、エチル基、又はフェニル基であることが好ましく、メチル基であることがより好ましい。一般式(P1)中に複数存在するR31はそれぞれ同一であっても異なっていてもよいが、全て同一であることが好ましい。
【0083】
m1は、特に限定されるものではないが、例えば3以上1000以下が挙げられる。
【0084】
一般式(P1)で表される構造を有する化合物は、前記官能基をX1及びR32のみに有している構造であることが好ましい。
【0085】
イソシアネート基反応性シリコーン樹脂の重量平均分子量としては、例えば250以上50000以下が挙げられ、500以上20000以下であってもよい。
【0086】
-他の添加剤-
本実施形態に係る表面層には、さらに他の添加剤が含まれていてもよい。例えば、他の添加剤としては帯電防止剤、特定アクリル樹脂(a)及び長鎖ポリオール(b)におけるヒドロキシル基(-OH)と多官能イソシアネート(c)におけるイソシアネート基(-NCO)との反応を促進させる反応促進剤等が挙げられる。
【0087】
・帯電防止剤
帯電防止剤の具体例としては、カチオン系の界面活性化合物(例えばテトラアルキルアンモニウム塩、トリアルキルベンジルアンモニウム塩、アルキルアミンの塩酸塩、イミダゾリウム塩等)、アニオン系の界面活性化合物(例えばアルキルスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルフォスフェート等)、非イオン系の界面活性化合物(例えばグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレンエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、N,N-ビス-2-ヒドロキシエチルアルキルアミン、ヒドロキシアルキルモノエタノールアミン、ポリオキシエチレンアルキルアミン、脂肪酸ジエタノールアミド、ポリオキシエチレンアルキルアミン脂肪酸エステル等)、両性の界面活性化合物(例えばアルキルベタイン、アルキルイミダゾリウムベタイン等)等が挙げられる。
【0088】
また、帯電防止剤として、4級アンモニウムを含有する物が挙げられる。
具体的には、トリ-n-ブチルメチルアンモニウムビストリフルオロメタンスルホンイミド、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、オクチルジメチルエチルアンモニウムエチルサルフェート、ジデシルジメチルアンモニウムクロライド、ラウリルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、ステアリルジメチルヒドロキシエチルアンモニウムパラトルエンスルフォネート、トリブチルベンジルアンモニウムクロライド、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ラウリン酸アミドプロピルベタイン、オクタン酸アミドプロピルベタイン、ポリオキシエチレンステアリルアミンの塩酸塩等が挙げられる。これらの中でも、トリ-n-ブチルメチルアンモニウムビストリフルオロメタンスルホンイミドが好ましい。
【0089】
また、高分子量の帯電防止剤を用いてもよい。
高分子量の帯電防止剤としては、例えば、4級アンモニウム塩基含有アクリレートを重合した高分子化合物、ポリスチレンスルホン酸型高分子化合物、ポリカルボン酸型高分子化合物、ポリエーテルエステル型高分子化合物、エチレンオキシド-エピクロルヒドリン型高分子化合物、ポリエーテルエステルアミド型高分子化合物等が挙げられる。
【0090】
4級アンモニウム塩基含有アクリレートを重合した高分子化合物としては、例えば下記の構成単位(A)を少なくとも有する高分子化合物などが挙げられる。
【0091】
【0092】
(構成単位(A)中、R1は水素原子又はメチル基を、R2、R3及びR4はそれぞれ独立にアルキル基を、X-はアニオンを、表す。)
【0093】
なお、高分子量の帯電防止剤の重合は公知の方法により行い得る。
高分子量の帯電防止剤は、同じ重合性単量体からなる高分子化合物のみを用いても、異なる重合性単量体からなる2種以上の高分子化合物を併用してもよい。
【0094】
なお、本実施形態では形成される表面層の表面抵抗が、1×109Ω/□以上1×1014Ω/□以下の範囲となるよう調整することが好ましく、また体積抵抗は1×108Ωcm以上1×1013Ωcm以下の範囲となるよう調整することが好ましい。
表面抵抗及び体積抵抗は、(株)ダイヤインスツルメント製ハイレスタUPMCP-450型URプローブを用いて、22℃、55%RHの環境下で、JIS-K6911に従い測定される。
なお、表面層の表面抵抗及び体積抵抗は、帯電防止剤を含有させる場合であれば、その種類や含有量等の調整によって制御される。
【0095】
帯電防止剤は、1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0096】
・反応促進剤
特定アクリル樹脂(a)及び長鎖ポリオール(b)におけるヒドロキシル基(-OH)と多官能イソシアネート(c)におけるイソシアネート基(-NCO)との反応を促進させる反応促進剤としては、例えばスズやビスマスの金属触媒がある。たとえば、日東化成株式会社のネオスタンU-28、U-50、U-600、ステアリン酸スズ(II)がある。また、楠本化成株式会社のXC-C277、XK-640等が挙げられる。
【0097】
-表面樹脂層の形成-
本実施形態に係る積層体における表面層の形成方法は、特に限定されるものではない。例えば、特定アクリル樹脂(a)と、長鎖ポリオール(b)と、多官能イソシアネート(c)と、を含む表面層形成用の樹脂組成物を重合させて硬化させることで形成することができる。
【0098】
なお、表面層の形成方法の一例を挙げると、例えば特定アクリル樹脂(a)と、長鎖ポリオール(b)と、を含む第1溶液、及び多官能イソシアネート(c)を含む第2溶液を有する表面層形成用の溶液セットが用いられる。第1溶液と第2溶液とを混合し、基材上に塗布して塗膜を形成する。次いで、加熱して硬化させることで表面層を形成することができる。
【0099】
-表面層の物性-
・厚さ
表面層の厚さ(平均厚さ)としては、特に限定されるものではないが、例えば10μm以上100μm以下であることが好ましく、12.5μm以上80μm以下がより好ましく、15μm以上75μm以下がさらに好ましい。
表面層の厚さが10μm以上であることで、基材が表面に有する粗さに由来する高低差を表面層によって十分に埋められ、積層体における表面(つまり表面層側における最外表面)の平滑性を高められる。一方、表面層の厚さが100μm以下であることで、表面層の形成性に優れる。
【0100】
[粘着層]
本実施形態に係る積層体は、基材及び表面層以外の他の層を備えていてもよい。例えば、基材の表面層を有しない側の面に配置された粘着層を有していてもよい。
粘着層は、例えば、積層体を他の部材の表面に貼り付けることを目的として設けられる層である。粘着層は、特に限定されず、公知の粘着テープ、粘着フィルム等を用いることができる。
【0101】
〔用途〕
本実施形態の積層体は、上記構成としたため、自己修復性を有し、かつ基材と表面層との経時的な密着性に優れる。このため、本実施形態の積層体は、種々の用途、例えば、自動車内装部品、鉄道車輌内装部品、航空機内装部品、自動二輪車の座面、自転車の座面、家具(例えばソファー等)、鞄(例えばバッグ、ランドセル等)、履物、靴、革製品小物(財布、コインケース、キーケース、パスケース、キーホルダー等)、建装用内外装部材、衣類表装材及び裏地、壁装材、床材、タイル等に好適に使用することができる。
また、この他にもポータブル機器(例えば携帯電話、ポータブルゲーム機等)における画面以外のボディ、建材、収納容器(例えばスーツケース等)、化粧品の容器、メガネ(例えばフレーム等)、スポーツ用品(例えばゴルフクラブ、ラケット等)、筆記用具(例えば万年筆等)、文房具(筆箱等)、衣類収納道具(例えばハンガー等)、皮革製修飾品および修飾部材などが挙げられる
【実施例】
【0102】
以下、実施例及び比較例を挙げ、本発明をより具体的に詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。尚、以下において「部」は特に断りのない限り質量基準である。
【0103】
〔実施例1〕
<アクリル樹脂プレポリマーA1の合成>
n-ブチルメタクリレート(nBMA)と、ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)と、フッ素原子を含むアクリルモノマー(パーフルオロヘキシル基を有する。FAMAC6、ユニマテック株式会社製)と、の各重合性単量体を、2.5:3.0:0.5のモル比で混合した。さらに、対重合性単量体比2質量%の重合開始剤(アゾビスイソブチロニトリル(AIBN))、及び対重合性単量体比40質量%のメチルエチルケトン(MEK)を添加して重合性単量体溶液を調製した。
この重合性単量体溶液を滴下ロートに入れ、窒素還流下で80℃に昇温した対重合性単量体比50質量%のMEK中に、攪拌下3時間かけて滴下し重合した。さらに対重合性単量体比10質量%のMEKと対重合性単量体比0.5質量%のAIBNとからなる液を1時間かけて滴下し、反応を完結させた。尚、反応中は80℃に保持して攪拌し続けた。こうしてアクリル樹脂プレポリマーA1を合成した。
得られたアクリル樹脂プレポリマーA1の水酸基価を、JIS K0070-1992に定められた方法(電位差滴定法)に準じて測定したところ、水酸基価175mgKOH/gであった。
また、アクリル樹脂プレポリマーA1の重量平均分子量を、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)を用いた前述の方法により測定したところ、重量平均分子量17000であった。
【0104】
<表面層形成液(ポリマー1)の調製>
下記成分を混合撹拌した後、第1溶液を調製した。
・アクリル樹脂プレポリマーA1液(固形分50質量%):42部
・長鎖ポリオール(ポリカプロラクトントリオール、プラクセル308、(株)ダイセル社製、分子量850、水酸基価190~200mgKOH/g):38部
・メチルエチルケトン:20部
なお、アクリル樹脂プレポリマーA1と長鎖ポリオールとの全水酸基の量の比率(モル比[OHA/OHP])は0.5であった。
【0105】
また、下記第2溶液を準備した。
・第2溶液(多官能イソシアネート、デュラネートTPA100、旭化成ケミカルズ社製、化合物名:ヘキサメチレンジイソシアネートのポリイソシアヌレート体):40部
【0106】
前記第1溶液に前記第2溶液を加え10分間減圧下で脱泡した。さらに反応触媒(無機ビスマス)を添加して、表面層形成液(ポリマー1)とした。
【0107】
<積層体(1)の形成>
基材1として、厚さ1mmの牛革ブラッククロム鞣し皮(トーケン社製)を準備した。
前記表面層形成液(ポリマー1)を、ワイヤーバーにて基材上に塗布したのち、80℃で1時間硬化し、表面層を形成した。表面層の厚さは30μmであった。こうして積層体(1)を得た。
【0108】
〔実施例2〕
実施例1における表面層形成液(ポリマー1)の調製の際の第1溶液の調製において、アクリル樹脂プレポリマーA1液(固形分50質量%)と長鎖ポリオール(ポリカプロラクトントリオール、プラクセル308、(株)ダイセル社製)とについて、総量を変えずに両者の質量比を変えて、両者の全水酸基の量の比率(モル比[OHA/OHP])が1.0となるよう調整したこと以外は、実施例1と同様にして表面層形成液(ポリマー2)を調製し、さらに積層体(2)を得た。
【0109】
〔実施例3〕
実施例1において用いたアクリル樹脂プレポリマーA1を、アクリル樹脂プレポリマーA1と、下記のフッ素原子を有しないアクリル樹脂プレポリマーA2との混合物に変更し、さらに下記組成の表面層形成液(ポリマー3)を調製したこと以外、実施例1と同様にして積層体(3)を得た。
【0110】
<アクリル樹脂プレポリマーA2の合成>
実施例1のアクリル樹脂プレポリマーA1の合成において、フッ素原子を含むアクリルモノマー(FAMAC6、ユニマテック株式会社製)を用いず、且つn-ブチルメタクリレート(nBMA)と、ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)との各重合性単量体を3.4:2.6モル比で混合してプレポリマーを合成したこと以外、アクリル樹脂プレポリマーA1と同様にして、アクリル樹脂プレポリマーA2を合成した。
得られたアクリル樹脂プレポリマーA2の水酸基価は、水酸基価175mgKOH/gであった。また、アクリル樹脂プレポリマーA1の重量平均分子量は、重量平均分子量16000であった
【0111】
<表面層形成液(ポリマー3)の調製>
下記成分を混合撹拌した後、第1溶液を調製した。
・アクリル樹脂プレポリマーA1液(固形分50質量%):28部
・アクリル樹脂プレポリマーA2液(固形分50質量%):12部
・長鎖ポリオール(ポリカプロラクトントリオール、プラクセル308、(株)ダイセル社製、分子量850、水酸基価190~200mgKOH/g):41部
・メチルエチルケトン:20部
なお、アクリル樹脂プレポリマーA1と長鎖ポリオールとの全水酸基の量の比率(モル比[OHA/OHP])は0.4であった。
【0112】
〔実施例4〕
実施例1における表面層形成液(ポリマー1)の調製の際の第1溶液の調製において、アクリル樹脂プレポリマーA1液(固形分50質量%)と長鎖ポリオール(ポリカプロラクトントリオール、プラクセル308、(株)ダイセル社製)とについて、総量を変えずに両者の質量比を変えて、両者の全水酸基の量の比率(モル比[OHA/OHP])が2.0となるよう調整したこと以外は、実施例1と同様にして表面層形成液(ポリマー4)を調製し、さらに積層体(4)を得た。
【0113】
〔実施例5〕
<アクリル樹脂プレポリマーA3の合成>
n-ブチルメタクリレート(nBMA)と、ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)と、フッ素原子を含むアクリルモノマー(パーフルオロヘキシル基を有する。FAMAC6、ユニマテック株式会社製)と、の各重合性単量体を、4.1:1.0:1.0のモル比以外は、アクリル樹脂プレポリマーA1と同様にして、アクリル樹脂プレポリマーA3を合成した。
また、得られたアクリル樹脂プレポリマーA3の水酸基価を、JIS K0070-1992に定められた方法(電位差滴定法)に準じて測定したところ、水酸基価44mgKOH/gであった。
【0114】
<表面保護部材形成液(ポリマー5)の調製>
下記成分を混合撹拌した後、第1溶液を調製した。
・アクリル樹脂プレポリマーA2液(固形分50質量%):80部
・長鎖ポリオール(ポリカプロラクトントリオール、プラクセル308、(株)ダイセル社製、分子量850、水酸基価190~200mgKOH/g):40部
・メチルエチルケトン:20部
なお、アクリル樹脂プレポリマーA11と長鎖ポリオールとの全水酸基の量の比率(モル比[OHA/OHP])は1.0であった。
【0115】
また、下記第2溶液を準備した。
・第2溶液(多官能イソシアネート、デュラネートTPA100、旭化成ケミカルズ社製、化合物名:ヘキサメチレンジイソシアネートのポリイソシアヌレート体):40部
【0116】
前記第1溶液に前記第2溶液を加え10分間減圧下で脱泡した。さらに反応触媒(無機ビスマス)を添加して、表面保護部材形成液(ポリマー5)とした。
【0117】
<積層フィルム(5)の形成>
表面保護部材形成液(ポリマー1)に代えて、表面保護部材形成液(ポリマー5)を使用した以外は、積層フィルム(1)の形成と同様にして積層フィルム(5)を得た。
【0118】
〔実施例6〕
<アクリル樹脂プレポリマーA4の合成>
n-ブチルメタクリレート(nBMA)と、ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)と、フッ素原子を含むアクリルモノマー(パーフルオロヘキシル基を有する。FAMAC6、ユニマテック株式会社製)と、の各重合性単量体を、1.6:4.2:0.2のモル比以外は、アクリル樹脂プレポリマーA1と同様にして、アクリル樹脂プレポリマーA4を合成した。
また、得られたアクリル樹脂プレポリマーA11の水酸基価を、JIS K0070-1992に定められた方法(電位差滴定法)に準じて測定したところ、水酸基価268mgKOH/gであった。
【0119】
<表面保護部材形成液(ポリマー6)の調製>
下記成分を混合撹拌した後、第1溶液を調製した。
・アクリル樹脂プレポリマーA4液(固形分50質量%):52部
・長鎖ポリオール(ポリカプロラクトントリオール、プラクセル308、(株)ダイセル社製、分子量850、水酸基価190~200mgKOH/g):40部
・メチルエチルケトン:20部
なお、アクリル樹脂プレポリマーA11と長鎖ポリオールとの全水酸基の量の比率(モル比[OHA/OHP])は1.0であった。
【0120】
また、下記第2溶液を準備した。
・第2溶液(多官能イソシアネート、デュラネートTPA100、旭化成ケミカルズ社製、化合物名:ヘキサメチレンジイソシアネートのポリイソシアヌレート体):40部
【0121】
前記第1溶液に前記第2溶液を加え10分間減圧下で脱泡した。さらに反応触媒(無機ビスマス)を添加して、表面保護部材形成液(ポリマー6)とした。
【0122】
<積層フィルム(6)の形成>
表面保護部材形成液(ポリマー1)に代えて、表面保護部材形成液(ポリマー6)を使用した以外は、積層フィルム(1)の形成と同様にして積層フィルム(6)を得た。
【0123】
〔実施例7〕
<アクリル樹脂プレポリマーA5の合成>
n-ブチルメタクリレート(nBMA)と、ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)と、フッ素原子を含むアクリルモノマー(パーフルオロヘキシル基を有する。FAMAC6、ユニマテック株式会社製)と、の各重合性単量体を、2.8:3.0:0.2のモル比以外は、アクリル樹脂プレポリマーA1と同様にして、アクリル樹脂プレポリマーA5を合成した。
また、得られたアクリル樹脂プレポリマーA5の水酸基価を、JIS K0070-1992に定められた方法(電位差滴定法)に準じて測定したところ、水酸基価190mgKOH/gであった。
【0124】
<表面保護部材形成液(ポリマー7)の調製>
下記成分を混合撹拌した後、第1溶液を調製した。
・アクリル樹脂プレポリマーA5液(固形分50質量%):42部
・長鎖ポリオール(ポリカプロラクトントリオール、プラクセル308、(株)ダイセル社製、分子量850、水酸基価190~200mgKOH/g):38部
・メチルエチルケトン:20部
なお、アクリル樹脂プレポリマーA11と長鎖ポリオールとの全水酸基の量の比率(モル比[OHA/OHP])は0.5であった。
【0125】
また、下記第2溶液を準備した。
・第2溶液(多官能イソシアネート、デュラネートTPA100、旭化成ケミカルズ社製、化合物名:ヘキサメチレンジイソシアネートのポリイソシアヌレート体):40部
【0126】
前記第1溶液に前記第2溶液を加え10分間減圧下で脱泡した。さらに反応触媒(無機ビスマス)を添加して、表面保護部材形成液(ポリマー7)とした。
【0127】
<積層フィルム(7)の形成>
表面保護部材形成液(ポリマー1)に代えて、表面保護部材形成液(ポリマー7)を使用した以外は、積層フィルム(1)の形成と同様にして積層フィルム(7)を得た。
【0128】
〔比較例1〕
実施例1において、基材1(牛革ブラッククロム鞣し皮)上に表面層を形成せず、つまり基材1のままの部材(C1)を得た。
【0129】
〔比較例2〕
実施例1において用いたアクリル樹脂プレポリマーA1に代えて、上記のフッ素原子を有しないアクリル樹脂プレポリマーA2に変更し、さらに下記組成の表面層形成液(ポリマー8)を調製したこと以外、実施例1と同様にして積層体(C2)を得た。
【0130】
<表面層形成液(ポリマー8)の調製>
下記成分を混合撹拌した後、第1溶液を調製した。
・アクリル樹脂プレポリマーA2液(固形分50質量%):40部
・長鎖ポリオール(ポリカプロラクトントリオール、プラクセル308、(株)ダイセル社製、分子量850、水酸基価190~200mgKOH/g):41部
・メチルエチルケトン:20部
なお、アクリル樹脂プレポリマーA1と長鎖ポリオールとの全水酸基の量の比率(モル比[OHA/OHP])は0.5であった。
【0131】
[物性の測定]
表面層の最外表面でのフッ素原子量[FS]、最外表面の2mm四方の範囲を出力5kVのアルゴンガスクラスターイオン銃で20分間エッチングした後の表面でのフッ素原子量[FI-20]、最外表面の2mm四方の範囲を出力5kVのアルゴンガスクラスターイオン銃で40分間エッチングした後の表面でのフッ素原子量[FI-40]を、それぞれ前述の方法により測定した。
結果を表1に示す。
【0132】
[評価]
各例で得られた積層体、又は部材について、以下の評価を行った。結果を表1に示す。
【0133】
-3ヶ月放置後の密着性の評価-
各例で得られた積層体、又は部材を50℃98RH%の環境に3ヶ月放置した。JISK5600-5-6(1999年)に従ってクロスカット試験を行い、以下の評価基準により基材と表面層との経時的な密着性を評価した。
A(○):セロハンテープをはがした時に、表面の変化がなかったもの
B(△):セロハンテープをはがした時に、部分的に表面が剥がれたもの
C(×):セロハンテープをはがした時に、表面が完全に剥離したもの
【0134】
-耐擦傷性の評価-
表面(ただし、表面層が形成されたものは表面層が形成されている側の表面とする)を、たわし(スコッチブライト、株式会社3M製)で荷重100g/cm2かけて10回こすった後、24時間室温で保管したのち、表面傷の有無を目視観察し、下記の評価基準で評価した。
・評価基準
A(○):傷がなかったもの
B(△):角度によっては軽微な傷が確認されるもの
C(×):傷がついたもの
【0135】
-加水分解性の評価-
1%水酸化ナトリウム溶液を脱脂綿に含ませ、各例で得られた積層体、又は部材の表面上に密着させ、55℃24時間静置した。脱脂綿を取り除き、純水で洗浄し、乾燥させたのち、表面状態を目視で観察、下記の評価基準で評価した。
・評価基準
A(○):変化がなかったもの
B(△):変色したもの
C(×):表面が剥離したもの
【0136】
【0137】
表1に示す通り、各実施例で得られた積層体は、比較例のものと比べると、3ヶ月放置後の密着性及び加水分解性が共に優れているため、支持基材と表面樹脂層との経時的な密着性に優れるものが得られているといえる。
【0138】
〔実施例B1〕
<表面層形成液(ポリマーB1)の調製>
下記成分を混合撹拌した後、第1溶液を調製した。
・アクリル樹脂プレポリマーA1液(固形分50質量%):30部
・長鎖ポリオール(ポリカプロラクトントリオール、プラクセル308、(株)ダイセル社製、分子量850、水酸基価190~200mgKOH/g):29部
・ヒドロキシル基を有する両末端変性シリコーン樹脂(KF-9701、信越化学工業社製、官能基当量1500g/mol):0.5部
なお、アクリル樹脂プレポリマーA1と長鎖ポリオールとの全水酸基の量の比率(モル比[OHA/OHP])は1.0であった。
【0139】
また、下記第2溶液を準備した。
・第2溶液(多官能イソシアネート、デュラネートTPA100、旭化成ケミカルズ社製、化合物名:ヘキサメチレンジイソシアネートのポリイソシアヌレート体):41部
【0140】
前記第1溶液に前記第2溶液を加え10分間減圧下で脱泡した。さらに反応触媒(無機ビスマス)を添加して、表面層形成液(ポリマーB1)とした。
【0141】
<積層体(B1)の形成>
基材2として厚さ0.8mmの自動車用PVCレザー(共和レザー社製)を準備した。
前記、表面層形成液(ポリマーB1)を、ワイヤーバーにて基材上に塗布したのち、85℃で1時間硬化し、基材上に膜厚30μmの表面層(B1)を形成した。こうして積層体(B1)を得た。
【0142】
〔実施例B2〕
<表面層形成液(ポリマーB2)の調製>
第1溶液の調製において、ヒドロキシル基を有する両末端変性シリコーン樹脂(KF-9701、信越化学工業社製、官能基当量1500g/mol)に代えて、ヒドロキシル基を有する両末端変性シリコーン樹脂(KF-6002、信越化学工業社製、官能基当量35g/mol)を1.0部を添加した以外は、上記の表面層形成液(ポリマーB1)の調製と同様にして、表面層形成液(ポリマーB2)を得た。
【0143】
<積層体(B2)の形成>
表面層形成液(ポリマーB1)に代えて、表面層形成液(ポリマーB2)を使用した以外は、積層体(B1)の形成と同様にして積層体(B2)を得た。
【0144】
〔実施例B3〕
<表面層形成液(ポリマーB3)の調製>
第1溶液の調製において、ヒドロキシル基を有する両末端変性シリコーン樹脂(KF-9701、信越化学工業社製、官能基当量1500g/mol)に代えて、ヒドロキシル基を有する両末端変性シリコーン樹脂(KF-6003、信越化学工業社製、官能基当量22g/mol)を0.2部を添加した以外は、上記の表面層形成液(ポリマーB1)の調製と同様にして、表面層形成液(ポリマーB3)を得た。
【0145】
<積層体(B3)の形成>
表面層形成液(ポリマーB1)に代えて、表面層形成液(ポリマーB3)を使用した以外は、積層体(B1)の形成と同様にして積層体(B3)を得た。
【0146】
〔実施例B4〕
<表面層形成液(ポリマーB4)の調製>
第1溶液の調製において、ヒドロキシル基を有する両末端変性シリコーン樹脂(KF-9701、信越化学工業社製、官能基当量1500g/mol)に代えて、ヒドロキシル基を有する両末端変性シリコーン樹脂(KF-6002、信越化学工業社製、官能基当量35g/mol)を1.5部を添加した以外は、上記の表面層形成液(ポリマーB1)の調製と同様にして、表面層形成液(ポリマーB4)を得た。
【0147】
<積層体(B4)の形成>
表面層形成液(ポリマーB1)に代えて、表面層形成液(ポリマーB4)を使用した以外は、積層体(B1)の形成と同様にして積層体(B4)を得た。
【0148】
〔参考例B1〕
<表面層形成液(ポリマーBC1)の調製>
下記成分を混合撹拌した後、第1溶液を調製した。
・アクリル樹脂プレポリマーA1液(固形分50質量%):30部
・長鎖ポリオール(ポリカプロラクトントリオール、プラクセル308、(株)ダイセル社製、分子量850、水酸基価190~200mgKOH/g):29部
【0149】
また、下記第2溶液を準備した。
・第2溶液(多官能イソシアネート、デュラネートTPA100、旭化成ケミカルズ社製、化合物名:ヘキサメチレンジイソシアネートのポリイソシアヌレート体):40部
【0150】
前記第1溶液に前記第2溶液を加え10分間減圧下で脱泡した。さらに反応触媒(無機ビスマス)を添加して、表面層形成液(ポリマーBC1)とした。
【0151】
<積層体(BC1)の形成>
表面層形成液(ポリマーB1)に代えて、表面層形成液(ポリマーBC1)を使用した以外は、積層体(B1)の形成と同様にして積層体(BC1)を得た。
【0152】
〔参考例B2〕
<アクリル樹脂プレポリマーA6の合成>
フッ素原子を含むアクリルモノマー(パーフルオロヘキシル基を有する。FAMAC6、ユニマテック株式会社製)に代えてn-ブチルメタクリレート(nBMA)を使用した以外は、アクリル樹脂プレポリマーA1と同様にして、アクリル樹脂プレポリマーA6を合成した。
また、得られたアクリル樹脂プレポリマーA6の水酸基価を、JIS K0070-1992に定められた方法(電位差滴定法)に準じて測定したところ、水酸基価206mgKOH/gであった。
【0153】
<表面層形成液(ポリマーBC2)の調製>
下記成分を混合撹拌した後、第1溶液を調製した。
・アクリル樹脂プレポリマーA6液(固形分50質量%):64部
・長鎖ポリオール(ポリカプロラクトントリオール、プラクセル308、(株)ダイセル社製、分子量850、水酸基価190~200mgKOH/g):28部
・ヒドロキシル基を有する両末端変性シリコーン樹脂(KF-9701、信越化学工業社製、官能基当量1500g/mol):0.2部
なお、アクリル樹脂プレポリマーBA11と長鎖ポリオールとの全水酸基の量の比率(モル比[OHA/OHP])は1.0であった。
【0154】
また、下記第2溶液を準備した。
・第2溶液(多官能イソシアネート、デュラネートTPA100、旭化成ケミカルズ社製、化合物名:ヘキサメチレンジイソシアネートのポリイソシアヌレート体):34部
【0155】
前記第1溶液に前記第2溶液を加え10分間減圧下で脱泡した。さらに反応触媒(無機ビスマス)を添加して、表面層形成液(ポリマーBC2)とした。
【0156】
<積層フィルム(BC2)の形成>
表面層形成液(ポリマーB1)に代えて、表面層形成液(ポリマーBC2)を使用した以外は、積層体(B1)の形成と同様にして積層体(BC2)を得た。
【0157】
〔参考例B3〕
<表面層形成液(ポリマーBC3)の調製>
第1溶液の調製において、ヒドロキシル基を有する両末端変性シリコーン樹脂(KF-9701、信越化学工業社製、官能基当量1500g/mol)に代えて、ヒドロキシル基を有する片末端変性シリコーン樹脂(X-22-170DX、信越化学工業社製、官能基当量12g/mol)を1部を添加した以外は、上記の表面層形成液(ポリマーB1)の調製と同様にして、表面層形成液(ポリマーBC3)を得た。
【0158】
<積層フィルム(BC3)の形成>
表面層形成液(ポリマーB1)に代えて、表面層形成液(ポリマーB3)を使用した以外は、積層体(B1)の形成と同様にして積層体(B3)を得た。
【0159】
[物性の測定、及び評価]
各例で得られた表面層を有する積層体について、以下の手法で物性の測定、及び評価を行った。結果を表2に示す。
【0160】
(物性の測定)
-表面のフッ素原子量-
表面保護部材の最外表面でのフッ素原子量[FS]、最外表面の2mm四方の範囲を出力5kVのアルゴンガスクラスターイオン銃で1分間エッチングした後の表面でのフッ素原子量[FI-1]、及び最外表面の2mm四方の範囲を出力5kVのアルゴンガスクラスターイオン銃で20分間エッチングした後の表面でのフッ素原子量[FI-20]を、それぞれ前述の方法により測定した。
【0161】
-表面のケイ素原子量-
表面保護部材の最外表面でのフッ素原子量[SS]、最外表面の2mm四方の範囲を出力5kVのアルゴンガスクラスターイオン銃で1分間エッチングした後の表面でのケイ素原子量[SI-1]、及び最外表面の2mm四方の範囲を出力5kVのアルゴンガスクラスターイオン銃で20分間エッチングした後の表面でのケイ素原子量[SI-20]を、それぞれ前述の方法により測定した。
【0162】
(形状追従性の評価)
各例で得られた積層フィルムを幅25mm、長さ150mmに切り出した。切り出した積層フィルムの両長端25mmの位置に標線をつけ、積層フィルムを標線位置で治具で挟み、引っ張り試験機(ストログラフV1-C型 東洋精機社製)を用いて速度50mm/minで標線距離が110mmになるまで引張試験を行った。試験後の塗工面の表面状態を目視で観察し、下記の評価基準で評価した。
【0163】
・評価基準
A(○):変化がなかったもの
B(△):塗膜が部分的に変形したもの
C(×):表面が破断、剥離したもの
【0164】
【0165】
表2に示す通り、イソシアネート基に対して反応性を示す複数の官能基を有するシリコーン樹脂を含む各実施例で得られた積層体は、支持基材と表面樹脂層との経時的な密着性に優れ、かつ追従性に優れている。