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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-15
(45)【発行日】2024-01-23
(54)【発明の名称】電力変換装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/48 20070101AFI20240116BHJP
【FI】
H02M7/48 M
H02M7/48 A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020023576
(22)【出願日】2020-02-14
(65)【公開番号】P2021129452
(43)【公開日】2021-09-02
【審査請求日】2023-01-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104433
【弁理士】
【氏名又は名称】宮園 博一
(74)【代理人】
【識別番号】100202728
【弁理士】
【氏名又は名称】三森 智裕
(72)【発明者】
【氏名】松永 和久
(72)【発明者】
【氏名】金子 悟
【審査官】麻生 哲朗
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-251440(JP,A)
【文献】特開昭63-268467(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0029397(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電源から供給された交流電力を直流電力に整流する整流部と、
前記整流部の出力側に設けられ、前記整流部に整流された直流電力を平滑する平滑部と、
前記平滑部により平滑された直流電力を交流電力に変換するインバータ部と、
前記インバータ部のスイッチング素子のオンオフを制御する制御部とを備え、
前記制御部は、前記インバータ部から所望の波形の電流を出力するための波形指令と前記インバータ部から負荷に出力される出力電流との差に基づく値から、前記出力電流が過電流である場合の過電流の大きさに応じた値または前記過電流の大きさに応じた値に所定の定数を乗算した値を減算することにより、前記スイッチング素子をオンオフするためのゲート信号を調整するように構成されている、電力変換装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記出力電流が所定の閾値を超えた場合、前記出力電流と前記所定の閾値との差の分を、前記波形指令と前記出力電流との差に基づく値から減算することにより、前記ゲート信号を調整するように構成されている、請求項に記載の電力変換装置。
【請求項3】
前記波形指令は、前記ゲート信号の周波数と、前記インバータ部の前記出力電流の位相と、前記インバータ部から所望の電流を出力するための電流指令の実効値とに基づいて算出される、前記インバータ部の前記出力電流のゼロクロスの位相を起点とする正弦波指令を含む、請求項1または2に記載の電力変換装置。
【請求項4】
前記インバータ部の前記出力電流に対して所望の周波数成分を減衰させるための第1フィルタをさらに備え、
前記制御部は、前記第1フィルタを介して取得された前記インバータ部の前記出力電流に基づいて、前記出力電流のゼロクロスの位相を取得するように構成されている、請求項に記載の電力変換装置。
【請求項5】
前記波形指令と前記出力電流との差に対して所望の周波数成分を減衰させるための第2フィルタをさらに備え、
前記第1フィルタと前記第2フィルタとは、略同一の周波数成分を減衰させるように構成されている、請求項に記載の電力変換装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記波形指令と前記出力電流との差と、前記出力電流が過電流である場合の過電流の大きさに応じた値とに基づいて、前記ゲート信号の周波数を調整するように構成されている、請求項1~のいずれか1項に記載の電力変換装置。
【請求項7】
前記負荷は、前記インバータ部の出力側に設けられ、被加熱物を加熱する加熱コイルを含む、請求項1~のいずれか1項に記載の電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電力変換装置に関し、特に、インバータ部を制御する制御部を備える電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、インバータ部を制御する制御部を備える電力変換装置が知られている(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
上記特許文献1には、スイッチング素子を含む電力変換部(インバータ部)と、電力変換部を制御する制御回路(制御部)と、電力変換部の出力側に設けられる加熱コイルとを備える誘導溶解炉が開示されている。この誘導溶解炉では、電力変換部と加熱コイルとの間には電流検出器が設けられており、電力変換部から加熱コイルに供給される電流が電流検出器によって検出される。また、制御回路には、電流一定制御回路(Automatic Current Regulator:ACR)が設けられている。ACRは、電流検出器で検出された電流に基づいて、比例積分フィードバック制御を行う。そして、ACRからの出力に基づいて、電力変換部のスイッチング素子のオンオフを制御するためのゲート信号が生成される。そして、生成されたゲート信号に基づいて、電力変換部のスイッチング素子が駆動される。これにより、電力変換部から加熱コイルに供給される電流が一定になるように制御されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-194993号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、上記特許文献1に記載されるような誘導溶解炉では、加熱コイルの負荷インピーダンスが急激に変化した場合、加熱コイルに流れる電流が急激に変化する場合がある。つまり、加熱コイルに流れる電流が過電流となる場合がある。しかしながら、一般的に、ACRの応答速度は比較的遅い。このため、ACRを用いた制御(比例積分フィードバック制御)では、加熱コイルに流れる電流が過電流となった場合、加熱コイル(負荷)に供給される電流を迅速に一定にする(所定の範囲内に収める)ことが困難であるという問題点がある。
【0006】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、この発明の1つの目的は、負荷に流れる電流が過電流となった場合でも、負荷に供給される電流を迅速に所定の範囲内に収めることが可能な電力変換装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、この発明の一の局面による電力変換装置は、電源から供給された交流電力を直流電力に整流する整流部と、整流部の出力側に設けられ、整流部に整流された直流電力を平滑する平滑部と、平滑部により平滑された直流電力を交流電力に変換するインバータ部と、インバータ部のスイッチング素子のオンオフを制御する制御部とを備え、制御部は、インバータ部から所望の波形の電流を出力するための波形指令とインバータ部から負荷に出力される出力電流との差に基づく値から、出力電流が過電流である場合の過電流の大きさに応じた値または過電流の大きさに応じた値に所定の定数を乗算した値を減算することにより、スイッチング素子をオンオフするためのゲート信号を調整するように構成されている。
【0008】
この発明の一の局面による電力変換装置では、上記のように、制御部は、インバータ部から所望の波形の電流を出力するための波形指令とインバータ部から負荷に出力される出力電流との差と、出力電流が過電流である場合の過電流の大きさに応じた値とに基づいて、スイッチング素子をオンオフするためのゲート信号を調整するように構成されている。これにより、波形指令とフィードバックされた出力電流との差(偏差)によるフィードバック制御を行う場合と異なり、偏差に加えて、過電流の大きさに応じた値も考慮してゲート信号が調整される。すなわち、フィードバック制御に用いられる偏差を過電流の大きさに応じた値を用いて調整することができる。その結果、負荷に流れる電流が過電流となった場合でも、負荷に供給される電流を迅速に所定の範囲内に収めることができる。
【0009】
また、制御部は、波形指令と出力電流との差に基づく値から、過電流の大きさに応じた値を減算することにより、ゲート信号を調整するように構成されている。これにより、波形指令と出力電流との差(フィードバック制御に用いられる偏差)に基づく値から、過電流の大きさに応じた値が減算されるので、フィードバック制御に用いられる偏差が直ちに減少される。これにより、負荷に流れる電流が過電流となった場合でも、負荷に供給される電流をより迅速に所定の範囲内に収めることができる。
【0010】
上記一の局面による電力変換装置において、好ましくは、制御部は、出力電流が所定の閾値を超えた場合、出力電流と所定の閾値との差の分を、波形指令と出力電流との差に基づく値から減算することにより、ゲート信号を調整するように構成されている。このように構成すれば、出力電流の大きさ(過電流の大きさ)に応じた値が、波形指令と出力電流との差(フィードバック制御に用いられる偏差)に基づく値から減算される。その結果、過電流の大きさに応じて、負荷に供給される電流を迅速に所定の範囲内に収めることができる。
【0011】
上記一の局面による電力変換装置において、好ましくは、波形指令は、ゲート信号の周波数と、インバータ部の出力電流の位相と、インバータ部から所望の電流を出力するための電流指令の実効値とに基づいて算出される、インバータ部の出力電流のゼロクロスの位相を起点とする正弦波指令を含む。ここで、負荷の変動に伴って適切なゲート信号の周波数(キャリア周波数)が変化する。そこで、上記のように、ゲート信号の周波数と、出力電流の位相と、電流指令の実効値とに基づいて、出力電流のゼロクロスの位相を起点として正弦波指令を構成することによって、キャリア周波数に合わせて正弦波指令を設定することができる。
【0012】
この場合、好ましくは、インバータ部の出力電流に対して所望の周波数成分を減衰させるための第1フィルタをさらに備え、制御部は、第1フィルタを介して取得されたインバータ部の出力電流に基づいて、出力電流のゼロクロスの位相を取得するように構成されている。ここで、出力電流のゼロクロスの近傍においてチャタリング(出力電流の振動)が発生する場合がある。そこで、第1フィルタによって、インバータ部の出力電流に対して所望の周波数成分を減衰させることによって、出力電流のゼロクロスの位相を適切に取得することができる。
【0013】
上記第1フィルタを備える電力変換装置において、好ましくは、波形指令と出力電流との差に対して所望の周波数成分を減衰させるための第2フィルタをさらに備え、第1フィルタと第2フィルタとは、略同一の周波数成分を減衰させるように構成されている。このように構成すれば、ゼロクロスの位相を取得するための第1フィルタと、波形指令と出力電流との差(フィードバック制御に用いられる偏差)に対する第2フィルタとが、略同一の特性を有するので、負荷に供給される電流を所定の範囲内に収めるための制御を精度よく行うことができる。
【0014】
上記一の局面による電力変換装置において、好ましくは、制御部は、波形指令と出力電流との差と、出力電流が過電流である場合の過電流の大きさに応じた値とに基づいて、ゲート信号の周波数を調整するように構成されている。このように構成すれば、ゲート信号の周波数を変化させることによりスイッチング素子のオンオフを制御するパルス周波数変調(Pulse Frequency Modulation:PFM)制御において、負荷に流れる電流が過電流となった場合でも、負荷に供給される電流を迅速に所定の範囲内に収めることができる。
【0015】
上記一の局面による電力変換装置において、好ましくは、負荷は、インバータ部の出力側に設けられ、被加熱物を加熱する加熱コイルを含む。ここで、被加熱物を加熱する加熱コイルは、加熱され溶解する被加熱物の形状の変化に起因して、加熱コイルの負荷インピーダンスが急激に変化しやすい。このため、加熱コイルに流れる電流が過電流となりやすい。そこで、上記一の局面による電力変換装置のように構成することによって、負荷に供給される電流を迅速に所定の範囲内に収めることは、被加熱物を加熱する加熱コイルに電力を供給する電力変換装置において、特に有効である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、上記のように、負荷に流れる電流が過電流となった場合でも、負荷に供給される電流を迅速に所定の範囲内に収めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】一実施形態による誘導加熱装置(電力変換装置)の回路図である。
図2】一実施形態による電力変換装置の基準波形の生成を説明するためのブロック図である。
図3】一実施形態による電力変換装置の制御部の制御ブロック図である。
図4】ゲート信号の周波数と出力電流との関係を示す図である。
図5】周波数と出力電流との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を具体化した実施形態を図面に基づいて説明する。
【0019】
図1図5を参照して、本実施形態による誘導加熱装置1の構成について説明する。
【0020】
図1に示すように、誘導加熱装置1は、電力変換装置100と、電流検出器2と、共振コンデンサCおよびCと、誘導加熱コイル3と、抵抗4とを備えている。なお、誘導加熱コイル3は、特許請求の範囲の「負荷」および「加熱コイル」の一例である。
【0021】
電力変換装置100は、整流部10を備えている。整流部10は、三相の商用電源200から供給された交流電力を直流電力に整流するように構成されている。具体的には、整流部10は、三相全波整流回路を構成する複数のダイオードを含む。なお、商用電源200は、特許請求の範囲の「電源」の一例である。
【0022】
また、電力変換装置100は、平滑コンデンサ20を備えている。平滑コンデンサ20は、整流部10の出力側に設けられている。平滑コンデンサ20は、整流部10に整流された直流電力を平滑するように構成されている。なお、平滑コンデンサ20は、特許請求の範囲の「平滑部」の一例である。
【0023】
また、電力変換装置100は、インバータ部30(高周波インバータ回路)を備えている。インバータ部30は、平滑コンデンサ20により平滑された直流電力を交流電力に変換するように構成されている。インバータ部30は、複数のスイッチング素子S(半導体スイッチング素子)を含む。複数のスイッチング素子Sは、上アームを構成するスイッチング素子Sおよびスイッチング素子Sと、下アームを構成するスイッチング素子Sおよびスイッチング素子Sとを含む。
【0024】
また、電力変換装置100は、制御部40を備えている。制御部40は、インバータ部30のスイッチング素子S~Sのオンオフを制御するように構成されている。なお、制御部40の詳細な構成は後述する。
【0025】
また、誘導加熱装置1では、整流部10およびインバータ部30の組は、互いに並列に複数(本実施形態では2つ)設けられている。
【0026】
電流検出器2は、インバータ部30の交流出力側から共振コンデンサCに流れる電流を検出するように構成されている。
【0027】
共振コンデンサCおよびCは、インバータ部30の交流出力側に設けられている。共振コンデンサCおよびCと、誘導加熱コイル3と、被加熱物としての金属とによって共振回路が構成されている。
【0028】
本実施形態では、誘導加熱コイル3は、インバータ部30の出力側に設けられており、被加熱物(金属)を加熱して溶解するように構成されている。たとえば、金属は、アルミニウムのインゴットである。また、インバータ部30の交流出力側と共振コンデンサC(共振コンデンサC)の一方電極が接続されている。また、共振コンデンサC(共振コンデンサC)の他方電極は、誘導加熱コイル3に接続されている。
【0029】
また、誘導加熱コイル3には、抵抗4が接続されている。抵抗4は、誘導加熱コイル3と共振コンデンサCとの間に配置されている。
【0030】
(制御部の詳細な構成)
次に、制御部40の詳細な構成について説明する。
【0031】
まず、図2を参照して、制御部40による基準波形の生成について説明する。基準波形は、正規化された波形(正弦波)である。また、基準波形に、誘導加熱コイル3に流す電流指令の実行値を積算することにより、正弦波指令が生成される。正弦波指令は、インバータ部30に含まれるスイッチング素子Sのオンオフを制御するためのゲート信号を生成するために用いられる。また、基準波形は、ゲート信号の周波数(キャリア周波数)が変化した際に、変化したゲート信号の周波数に対応するように変化させる必要がある。以下、具体的に説明する。
【0032】
制御部40には、電流検出器2によって検出されたインバータ部30の出力電流の電流値が入力される。また、電流検出器2によって検出された電流値は、アナログデジタル変換された後、制御部40に入力される。なお、アナログデジタル変換は、比較的高速に行われる。また、電流検出器2によるインバータ部30の出力電流の検出は、所定のサンプリング周期毎に行われている。
【0033】
ここで、出力電流(少なくとも、出力電流のゼロクロスの近傍)には、チャタリング(振動)が発生する場合がある。そこで、電流検出器2と制御部40との間には、フィルタ41が設けられている。フィルタ41は、インバータ部30の出力電流に対して所望の周波数成分を減衰させるように構成されている。たとえば、フィルタ41は、LPF(Low-pass filter)から構成されている。そして、制御部40には、フィルタ41を介した電流値が入力される。なお、フィルタ41は、特許請求の範囲の「第1フィルタ」の一例である。
【0034】
そして、本実施形態では、制御部40は、フィルタ41を介して取得されたインバータ部30の出力電流に基づいて、出力電流のゼロクロスの位相を取得するように構成されている。具体的には、フィルタ41を介して取得された出力電流の電流値からゼロクロスの位相を取得する。
【0035】
そして、本実施形態では、制御部40は、インバータ部30の出力電流のゼロクロスの位相を起点として、ゲート信号の周波数と、インバータ部30の出力電流の位相(出力電流のゼロクロスの位相)と、インバータ部30から所望の電流を出力するための電流指令の実効値とに基づいて、正弦波指令を算出する。具体的には、ゲート信号の周波数と、インバータ部30の出力電流の検出周期(サンプリング周期)と、出力電流のゼロクロスの位相とが、制御部40の基準波形生成部42に入力される。ここで、ゲート信号の周波数は、スイッチング素子Sを駆動しているゲート信号の現時点の周波数である。このゲート信号の現時点の周波数は、生成される基準信号の周波数とされる。また、取得された出力電流のゼロクロスの位相を起点として、インバータ部30の出力電流の検出周期(サンプリング周期)ごとに、図示しないカウンタによってカウントが行われる。基準波形生成部42は、カウンタによってカウントされるカウント値から、基準波形の位相位置を算出する。そして、基準波形生成部42は、出力電流のゼロクロスの位相を起点として、基準波形(sinθ)を生成する。
【0036】
そして、図3に示すように、生成された基準波形と、インバータ部30から所望の電流を出力するための電流指令の実効値(目標値、A)とが乗算器43によって乗算される。なお、電流指令の実効値(A)は、図示しないARP(交流電力調整器)から制御部40に入力される。そして、基準波形(sinθ)と出力電力の指令値(A)とが乗算されることにより、正弦波指令(A×sinθ)が生成される。上記のように正弦波指令が生成されることによって、ゲート信号の周波数(キャリア周波数)の変化に応じた正弦波指令が生成される。
【0037】
そして、生成された正弦波指令と、電流検出器2によって検出された電流値(フィードバックされた電流値)との差(偏差)が、減算器44により演算される。なお、電流検出器2によって検出された電流値は、アナログデジタル変換された後、フィルタ41によって所望の周波数成分が減衰されている。
【0038】
また、本実施形態では、正弦波指令と出力電流との差(偏差)に対して所望の周波数成分を減衰させるためのフィルタ45が設けられている。また、フィルタ41とフィルタ45とは、略同一の周波数成分を減衰させるように構成されている。そして、減算器44の出力(偏差)は、フィルタ45によって所望の周波数成分が減衰される。そして、フィルタ45によって所望の周波数成分が減衰された偏差に対して、ゲインが乗算される。なお、フィルタ45は、特許請求の範囲の「第2フィルタ」の一例である。
【0039】
ここで、本実施形態では、制御部40は、インバータ部30から所望の波形の電流を出力するための正弦波指令とインバータ部30から誘導加熱コイル3に出力される出力電流(I)との差(偏差、I)と、出力電流が過電流である場合の過電流の大きさに応じた値とに基づいて、スイッチング素子Sをオンオフするためのゲート信号を調整するように構成されている。具体的には、制御部40は、正弦波指令と出力電流との差に基づく値から、過電流の大きさに応じた値を減算する。詳細には、制御部40は、出力電流が所定の閾値(ITH)を超えた場合、出力電流と所定の閾値との差の分(I-ITH)を、正弦波指令と出力電流との差に基づく値から減算する。なお、図示していないが、出力電流と所定の閾値との差の分(I-ITH)に対して、ゲインを乗算した値を減算しても良いし、フィルタ45によって所望の周波数成分が減衰された偏差に対して、出力電流と所定の閾値との差の分(I-ITH)を減算して、ゲインを乗算しても良い。
【0040】
すなわち、減算器46によって、電流検出器2によって検出された出力電流の電流値から所定の閾値が減算される。そして、減算器47によって、フィルタ45によって所望の周波数成分が減衰されるとともに(偏差I’とする)、ゲインkが乗算された偏差(kI’)から、減算器46の出力(出力電流と所定の閾値との差の分I-ITH)が減算される。なお、減算器47には、減算器46によって減算された値のうち、0以上の値のみが入力される。これにより、インバータ部30から出力される電流が過電流の場合、過電流に応じた値(減算器46の出力値)が直ちに、ゲインが乗算された偏差から減算される。なお、所定の閾値は、たとえば、電力変換装置100の定格電流の1.1倍の値である。また、フィルタ45によって所望の周波数成分が減衰されるとともにゲインkが乗算された偏差(kI’)は、特許請求の範囲の「正弦波指令と出力電流との差に基づく値」の一例である。
【0041】
そして、減算器47の出力(kI’-(I-ITH))が、PI調整器48に入力される。すなわち、PI調整器48には、インバータ部30から出力される電流が過電流の場合でも、上記の偏差から過電流に応じた値(減算器46の出力値)が減算された値が入力される。
【0042】
そして、PI調整器48の出力が、周波数変換器49に入力される。すなわち、本実施形態では、制御部40は、正弦波形指令と出力電流との差Iと、出力電流が過電流である場合の過電流の大きさに応じた値(I-ITH)とに基づいて、ゲート信号の周波数を調整するように構成されている。すなわち、電力変換装置100では、ゲート信号の周波数を変化させることによって、スイッチング素子Sのオンオフを制御するパルス周波数変調(Pulse Frequency Modulation:PFM)制御が行われる。
【0043】
そして、周波数変換器49によって、スイッチング素子Sのオンオフを制御するためのゲート信号が生成される。上記のように、PI調整器48には、インバータ部30から出力される電流が過電流の場合でも、過電流に応じた値(減算器46からの出力値(I-ITH))が減算された値が入力されるので、周波数変換器49によって生成されるゲート信号は、過電流に応じた値が考慮されている。これにより、インバータ部30の出力電流が過電流になることを迅速に抑制することが可能になる。
【0044】
次に、図4および図5を参照して、ゲート信号の周波数とインバータ部30の出力電流との関係について説明する。
【0045】
インバータ部30の出力電流は、ゲート信号の周波数が小さくなるにしたがって、大きさ(振幅)が大きくなる。また、誘導加熱装置1では、誘導加熱コイル3と共振コンデンサCおよびCとにより共振が発生する。図5に示すように、共振周波数fにおいて、インバータ部30の出力電流が最大になる。そして、誘導加熱装置1では、ゲート信号は、共振周波数fよりも大きな周波数f~fの範囲内で制御される。このように、ゲート信号が共振周波数fよりも大きな周波数を有することにより、スイッチング素子Sに貫通電流が流れることに起因してスイッチング素子Sが破壊することを抑制することが可能になる。
【0046】
[本実施形態の効果]
本実施形態では、以下のような効果を得ることができる。
【0047】
本実施形態では、上記のように、制御部40は、インバータ部30から所望の波形の電流を出力するための正弦波指令とインバータ部30から誘導加熱コイル3に出力される出力電流との差と、出力電流が過電流である場合の過電流の大きさに応じた値とに基づいて、スイッチング素子Sをオンオフするためのゲート信号を調整するように構成されている。これにより、正弦波指令とフィードバックされた出力電流との差(偏差)によるフィードバック制御を行う場合と異なり、偏差に加えて、過電流の大きさに応じた値も考慮してゲート信号が調整される。すなわち、フィードバック制御に用いられる偏差を過電流の大きさに応じた値を用いて調整することができる。その結果、誘導加熱コイル3に流れる電流が過電流となった場合でも、誘導加熱コイル3に供給される電流を迅速に所定の範囲内に収めることができる。
【0048】
また、本実施形態では、上記のように、制御部40は、正弦波指令と出力電流との差に基づく値から、過電流の大きさに応じた値を減算することにより、ゲート信号を調整するように構成されている。これにより、正弦波指令と出力電流との差(フィードバック制御に用いられる偏差)に基づく値から、過電流の大きさに応じた値が減算されるので、フィードバック制御に用いられる偏差が直ちに減少される。これにより、誘導加熱コイル3に流れる電流が過電流となった場合でも、誘導加熱コイル3に供給される電流をより迅速に所定の範囲内に収めることができる。
【0049】
また、本実施形態では、上記のように、制御部40は、出力電流が所定の閾値を超えた場合、出力電流と所定の閾値との差の分を、正弦波指令と出力電流との差に基づく値から減算することにより、ゲート信号を調整するように構成されている。これにより、出力電流の大きさ(過電流の大きさ)に応じた値が、正弦波指令と出力電流との差(フィードバック制御に用いられる偏差)に基づく値から減算される。その結果、過電流の大きさに応じて、誘導加熱コイル3に供給される電流を迅速に所定の範囲内に収めることができる。
【0050】
また、本実施形態では、上記のように、正弦波指令は、ゲート信号の周波数と、インバータ部30の出力電流の位相と、インバータ部30から所望の電流を出力するための電流指令の実効値とに基づいて算出される、インバータ部30の出力電流のゼロクロスの位相を起点とする正弦波指令を含む。ここで、負荷(誘導加熱コイル3の負荷インピーダンス)の変動に伴って適切なゲート信号の周波数(キャリア周波数)が変化する。そこで、上記のように、ゲート信号の周波数と、出力電流の位相と、電流指令の実効値とに基づいて、出力電流のゼロクロスの位相を起点として正弦波指令を構成することによって、キャリア周波数に合わせて正弦波指令を設定することができる。
【0051】
また、本実施形態では、上記のように、制御部40は、フィルタ41を介して取得されたインバータ部30の出力電流に基づいて、出力電流のゼロクロスの位相を取得するように構成されている。ここで、出力電流のゼロクロスの近傍においてチャタリング(出力電流の振動)が発生する場合がある。そこで、フィルタ41によって、インバータ部30の出力電流に対して所望の周波数成分を減衰させることによって、出力電流のゼロクロスの位相を適切に取得することができる。
【0052】
また、本実施形態では、上記のように、フィルタ41とフィルタ45とは、略同一の周波数成分を減衰させるように構成されている。これにより、ゼロクロスの位相を取得するためのフィルタ41と、正弦波指令と出力電流との差(フィードバック制御に用いられる偏差)に対するフィルタ45とが、略同一の特性を有するので、誘導加熱コイル3に供給される電流を所定の範囲内に収めるための制御を精度よく行うことができる。
【0053】
また、本実施形態では、上記のように、制御部40は、正弦波指令と出力電流との差と、出力電流が過電流である場合の過電流の大きさに応じた値とに基づいて、ゲート信号の周波数を調整するように構成されている。これにより、ゲート信号の周波数を変化させることによりスイッチング素子Sのオンオフを制御するパルス周波数変調(PFM)制御において、誘導加熱コイル3に流れる電流が過電流となった場合でも、誘導加熱コイル3に供給される電流を迅速に所定の範囲内に収めることができる。
【0054】
また、本実施形態では、上記のように、インバータ部30の出力側に、被加熱物を加熱する誘導加熱コイル3が設けられている。ここで、被加熱物を加熱する誘導加熱コイル3は、加熱され溶解する被加熱物の形状の変化に起因して、誘導加熱コイル3の負荷インピーダンスが急激に変化しやすい。このため、誘導加熱コイル3に流れる電流が過電流となりやすい。そこで、本実施形態の電力変換装置100のように構成することによって、誘導加熱コイル3に供給される電流を迅速に所定の範囲内に収めることは、被加熱物を加熱する誘導加熱コイル3に電力を供給する電力変換装置100において、特に有効である。
【0055】
[変形例]
なお、今回開示された実施形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更(変形例)が含まれる。
【0056】
たとえば、上記実施形態では、誘導加熱装置1に用いられる電力変換装置100に本発明を適用する例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明は、誘導加熱装置1以外の装置に用いられる電力変換装置100に対しても適用することが可能である。
【0057】
また、上記実施形態では、正弦波指令と出力電流との差に基づく値から、過電流の大きさに応じた値(正弦波指令と所定の閾値との差分)を減算することにより、ゲート信号を調整するように構成されている例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、減算以外の方法によって、過電流の大きさに応じた値に基づいて、ゲート信号を調整してもよい。たとえば、正弦波指令と所定の閾値との差分に対して、所定の定数を乗算した値を、正弦波指令と出力電流との差から減算してもよい。
【0058】
また、上記実施形態では、ゲート信号の周波数と、インバータ部30の出力電流の位相と、電流指令の実効値とに基づいて、インバータ部30の出力電流のゼロクロスの位相を起点として、正弦波指令が生成される例を示したが、正弦波指令の生成方法は、この方法に限られない。また、インバータ部30から所望の波形の電流を出力するための指令として、正弦波指令以外の指令を用いてもよい。
【0059】
また、上記実施形態では、フィルタ41およびフィルタ45がLPFから構成されている例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、フィルタ41およびフィルタ45をLPF以外のフィルタによって構成してもよい。
【0060】
また、上記実施形態では、スイッチング素子Sのオンオフの制御として、パルス周波数変調(PFM)制御が用いられる例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、スイッチング素子Sのオンオフの制御として、パルス幅変調(Pulse Width Modulation:PWM)制御を用いてもよい。
【0061】
また、上記実施形態では、本発明の「負荷」として誘導加熱コイル3を用いる例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明は、誘導加熱コイル3以外の負荷に電力を供給する電力変換装置に対しても適用することが可能である。また、誘導加熱コイル3以外の加熱コイルを用いてもよい。
【符号の説明】
【0062】
3 誘導加熱コイル(負荷、加熱コイル)
10 整流部
20 平滑コンデンサ(平滑部)
30 インバータ部
40 制御部
41 フィルタ(第1フィルタ)
45 フィルタ(第2フィルタ)
100 電力変換装置
200 商用電源(電源)
S、S~S スイッチング素子
図1
図2
図3
図4
図5